説明

関節軟骨損傷治療用組成物

【課題】これまでに開発された関節軟骨損傷の治療方法では、骨髄採取過程を必要とし、施術過程と効果面において多くの問題点を有しており、容易に得られる細胞及び生体適合高分子から構成される新しい関節軟骨損傷治療用組成物の提供。
【解決手段】臍帯血から分離、増殖又は分化された細胞成分とその培地から構成される、関節軟骨損傷治療用組成物。該細胞成分は臍帯血から分離した間葉幹細胞、又は前記間葉幹細胞から由来されて軟骨細胞又は骨細胞に分化され得る前駆細胞、又は前記間葉幹細胞から分化された軟骨細胞又は骨細胞のうちから選択された1つ以上の細胞成分であることことが好ましい。生体適合性高分子としては、フィブリン、ゼラチン、コラーゲン、ヒアルロン酸、ポリフォスファジン、ポリアクリレート、ポリグラティック酸、ポリグリコリック酸、プルロニック酸、又はアルギン酸とその塩の中から選択された1つ以上であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は関節軟骨損傷治療用組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
関節軟骨損傷は関節部位の痛みと関節運動の障害などを誘発し、生活の質を落とす一方、生産性を低下させることになる。特に関節軟骨損傷は自然治癒能力が非常に低く、一旦損傷されると進行し続けて全体の関節の損傷につながるため、完全な治療が難しい。
【0003】
関節軟骨損傷に対してこれまで開発された治療方法としては軟骨成形術(chondroplasty)、骨軟骨移植術(osteochondral transplantation)、自家由来軟骨細胞移植術(autolaugous chondrocyte transplantation)などが挙げられる。
【0004】
軟骨成形術は前記方法のうち最も一般的に使用される方法であって、その代表的方法である関節鏡視下施術は小型カメラの装着された関節鏡(arthroscopy)を1cm未満の小さい穴を通して関節腔内に挿入することによって、TVモニターを通じて関節内を拡大観察しながら診断及び手術を同時に行うことができる方法である。
【0005】
前記方法は直接的な関節切開が必要ないため患者の苦痛及び負担を減らすことができ、関節鏡を通して微細な組織損傷を観察して即時に治療を行うことができるという長所を有する。
しかし、軟骨成形術においては実際の関節に必要な硝子軟骨(hyaline cartilage)ではなく繊維軟骨(fibro-cartilage)が主に生成されるため、機能的な側面から見る時には満足に値するだけの効果を得ることができないでいる。
【0006】
一方骨軟骨移植術は患者の正常部位から既に生成されている軟骨と軟骨下骨部分を一緒に採取して、損傷した軟骨部位に適当な穴を掘り移植して硝子軟骨を生成する方法であって、一部の患者においては成功を収めた。
しかし前記方法は移植された部位と本来の組織間に隙間が残るという問題等があるため完全な治療方法とは言い難く、それさえも自家移植(autolaugous transplantation)が可能な患者のみを対象として施行できるため普遍的な方法とはなり得ない。
前記方法においては供与部位が制限されているので損傷部位が大きい場合施術を行うことができず、供与部位に合併症が発生するおそれがある。また施術過程が比較的複雑で、関節鏡視下施術が不可能な場合もしばしばある。
即ち、前記方法において正常組織の軟骨は簡単な関節鏡視下施術が技術的に困難な点が多く、正常軟骨部位を犠牲にすることになるため、このような供与部に新たな痛みが生じ得るなどの脆弱点があり、手術後に痛み、骨折、出血、瘢痕を始めとして回復が遅くなる等の合併症が発生し得る。
【0007】
最近試行され始めた自家由来軟骨細胞移植術は患者の正常部位から採取した軟骨組織から軟骨細胞を得て、体外で必要な数だけ培養し増殖した後に、これを軟骨損傷部位に骨膜(periosteum)を利用して空間を確保し培地と共に注入して、この細胞の増殖により損傷した軟骨部分を補うようにする方法である。
【0008】
前記方法は既に生成された軟骨組織を損傷部位に注入する骨軟骨移植術に比べ、移植された軟骨細胞が損傷した部位内で直接増殖しつつ損傷部位を補うことになるため、移植された部位と正常部位とが比較的うまく融合し、硝子軟骨を再生する可能性もまた高い。
しかし、軟骨細胞を採取する時、そして体外で培養された軟骨細胞を再び関節軟骨損傷部位に移植する時に夫々手術を必要とするため、結局2回にわたる手術により患者の苦痛、後遺症および経済的負担が大きく、施術過程もまた複雑でややこしい。
【0009】
また採取された軟骨細胞は大部分の場合既に全て成長が終わった成人から得たものであるので、採取された細胞の増殖及び生長が旺盛でなく、細胞の体外培養時に移植に必要なだけの細胞数を得るまでに相当な期間がかかり、細胞が分化能力を失って全く増殖しない場合には治療自体が行えず、軟骨細胞を体外で培養するため細胞の発現形が変化したりするという問題点がある。またこのように完全に成熟した細胞を再度培養して作られた軟骨の寿命は長くないというおそれがある。そして2回目の手術の場合には現在まで関節鏡視下施術法が開発されていないため大きな切開を要するので、手術後に痛みと瘢痕などの合併症が必然的に伴うことになる。
【0010】
前記方法を応用して自己由来骨髄(bone marrow)、筋肉、皮膚等の間葉組織から軟骨細胞(chondrocyte)の前駆母細胞(precursor cell)である間葉幹細胞(mesenchymal stem cell; MSC)を得て、体外で増殖させて高分子と一緒に関節軟骨損傷部位に注入する方法が報告されている。
【0011】
前記のように成熟した固体から得た間葉幹細胞を利用して軟骨損傷を治療する方法は自己由来軟骨細胞の移植術に比べて、より未分化した細胞を得て体外培養するため細胞増殖力が多少高くなるものと分かった。
しかし前記方法もまた多様な軟骨損傷を充分に治療するには依然微弱な水準の細胞増殖力を示している。また前記方法はややこしい骨髄採取過程を必要とし、骨髄保管バンク等のインフラ構築が微弱であるという限界を有している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このようにこれまでに開発された関節軟骨損傷の治療方法は施術過程と効果面において多くの問題点がある。
【0013】
本発明においては簡単な施術を通して優れた関節軟骨損傷治療効果を得ることのできる、臍帯血から分離、増殖または分化された細胞成分及び生体適合性高分子でなされた関節軟骨治療用組成物を提供しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は関節軟骨損傷治療用組成物を提供する。
本発明の関節軟骨損傷治療用組成物は臍帯血から分離、増殖または分化された細胞成分とその培地でなされることを特徴とする。
本発明のまた他の関節軟骨損傷治療用組成物は前記細胞成分とその培地及び生体適合性高分子でなされることを特徴とする。
本発明の関節軟骨損傷治療用組成物は臍帯血から分離または分化された細胞成分及び生体適合性高分子でなされることを特徴とする。
【0015】
本発明の関節軟骨損傷治療用組成物の細胞成分は、臍帯血から分離した間葉幹細胞、または前記間葉幹細胞から由来して軟骨細胞(chondrocyte)または骨細胞(osteocyte)に分化され得る前駆細胞、または前記間葉幹細胞から分化された軟骨細胞または骨細胞のうちから選択された1つ以上の細胞成分である。
【0016】
本発明の関節軟骨損傷治療用組成物において、細胞成分の起源組織である臍帯血は胎盤と胎児を連結する臍帯静脈から採取された血液と定義される。
【0017】
本発明の関節軟骨損傷治療用組成物の細胞成分のうち、臍帯血から分離した間葉幹細胞は典型的な骨髄の間質細胞(stromal cell)と異なり多能性(multipotent)であるため、適切な分化条件下において骨、軟骨、脂肪組織、筋肉、腱等のような間葉組織に分化され得る。また、臍帯血由来間葉幹細胞は自家複製(self−renewal)する能力があるため、特定の細胞や組織に分化されないながら適切な条件下において増殖が可能な細胞である。
【0018】
本発明の関節軟骨損傷治療用組成物の細胞成分のうち、前駆細胞は臍帯血間葉幹細胞から由来する細胞中で、臍帯血間葉幹細胞が軟骨細胞または骨細胞に分化される過程中に得られ得る全ての前駆細胞と軟骨芽細胞(chondroblast)及び骨芽細胞(osteoblast)などを全て含む。
【0019】
本発明の関節軟骨損傷治療用組成物の細胞成分は骨髄、筋肉、皮膚などの一般間葉組織から分離された間葉幹細胞から由来した細胞らに比べて、より若い個体から起源した細胞であるため細胞の増殖及び分化能力がはるかに優れている。
【0020】
本発明の関節軟骨損傷治療用組成物の細胞成分はその由来組織の採取及び獲得過程において、出産時に自然なこととして発生する副産物である臍帯血を利用するという点において数回の手術を必要とする骨髄等の一般間葉組織よりも遥かに採取が容易である。
【0021】
さらに臍帯血は骨髄移植に比べて保管産業が活性化しており既にインフラが構築されているため供与者を求めるのも容易である。
【0022】
本発明の関節軟骨損傷治療用組成物の細胞成分は組織や臓器移植において拒否反応を引き起こす最も重要な原因である組織適合抗原HLA−DR(class II)が発現されない細胞であるので、既存の移植手術時に問題となる拒否反応等の免疫反応を誘発しなかったり最小化することができるため、自己由来臍帯血はもちろん他家由来臍帯血もまた使用することができる。
【0023】
本発明の関節軟骨損傷治療用組成物の培地は細胞成分を懸濁するためのものであって、DMEM培地をはじめとしてMcCoys5A培地(Gibco)、Eagle’s basal培地、CMRL培地、Glasgow最小必須培地、Ham’s F-12培地、Iscove’s modified Dulbecco’s培地、Liebotivz’ L-15培地、PPMI1640培地等一般的に使用される細胞培養用培地は全て可能であり、10%FBSを含有するDMEM培地を使用するのが望ましい。
【0024】
本発明において細胞培養培地には必要に応じて1種類以上の補助成分を添加することができるが、牛の胎児、馬又は人等の血清をはじめ、微生物の汚染を防ぐためのペニシリンG(Penicillin G)、ストレプトマイシンサルフェート(streptmycin sulfate)等の抗生剤及びアムホテリシンB(amphotericin B)、ゲンタマイシン(gentamycin)、又はナイスタチン(nystatin)等の抗真菌剤(antifungal agent)のうち選択された1つ以上を使用することができる。
【0025】
本発明の関節軟骨損傷治療用組成物の生体適合性高分子は血液親和性、生分解性、抗石灰化特性、細胞の栄養成分及び細胞間基質形成能のうち1つ以上の特性を備えていることを特徴とする。
本発明の関節軟骨損傷治療用組成物の生体適合性高分子は軟膏(oint)又は歯磨き粉(paste)に似た程度の半固形性状を有し、細胞移植及び軟骨組織再生に適した程度の機械的強度及び柔軟性を併せて有する。
【0026】
従って、本発明の関節軟骨治療用組成物は軟骨損傷部位で現れ得る多様な立体構造に合うようにその形態を簡単に変形させることができるため手術の便宜を図りつつも、一旦移植された後には一定の形態を維持しながら損傷部位に持続的に位置しつつ一緒に移植された軟骨細胞の体内増殖及び分化を促進させることができる。
【0027】
本発明の関節軟骨損傷治療用組成物において使用可能な生体適合性高分子は、蛋白質と多糖類等の天然高分子、ヒドロキシ酸又はその誘導体でなされる合成高分子、化学結合により3次元格子構造を形成する有機高分子又はこれらの誘導体・変形体のうちから選択された1つ以上の成分を使用することができる。
例えば、天然高分子のうち蛋白質はフィブリン(fibrin)、ゼラチン(gelatin)及びコラーゲン(collagen)、天然高分子のうち多糖類はヒアルロン酸(hyaluronic acid)、合成高分子はポリフォスファジン(polyphosphazine)、ポリアクリレート(polyacrylate)、ポリグラクティック酸(polyglactic acid)、及びポリグリコール酸(polyglycolic acid)、そして有機高分子はプルロニック酸(pluronic acid)、アルギン酸(alginate)とその塩(salts)等がある。
【0028】
本発明の関節軟骨損傷治療用組成物においてはキトサン(chitosan)繊維を添加して機械的強度と柔軟性をより増進させることができる。
【0029】
本発明において高分子を単独で使用する際には、各高分子成分の分子量及び特性に応じてその濃度を調節することができ、プルロニック酸を単独で使用する場合細胞と混合された後のプルロニック酸の最終含量は30%であり、ヒアルロン酸を単独で使用する場合細胞と混合された後のヒアルロン酸の最終含量は3〜4%となるようにするのが望ましい。
【0030】
本発明において高分子らを混合して使用する時は、細胞と混合された後のプルロニック酸の最終含量が15〜30%、そしてヒアルロン酸の最終含量が2〜4%となるように混合して製造した高分子を使用するのが望ましい。
【0031】
本発明において前記プルロニック酸とヒアルロン酸の混合高分子にキトサン繊維を添加する場合には、前記混合高分子に同量のキトサン繊維を添加して混合することが望ましい。
【0032】
以下本発明の関節軟骨損傷治療用組成物を製造する方法及びこれを利用した関節軟骨損傷の治療方法について説明する。
【0033】
本発明の関節軟骨損傷治療用組成物を製造する方法は臍帯血採取段階、臍帯血から間葉幹細胞を分離、培養したり又は分化させる段階及び間葉幹細胞と高分子の混合段階でなされ、各段階に対する詳細な内容は次の通りである。
【0034】
臍帯血採取段階においては、普通経膣分娩の場合、赤ちゃん出産後に子宮内にまだ胎盤が残っている状態で外に娩出された臍帯静脈から採取したり、又は帝王切開の場合には赤ちゃん出産後に胎盤もまた子宮外に娩出された状態で臍帯静脈から採取する。
【0035】
本発明において出産後に子宮外に娩出された臍帯静脈から臍帯血を採取する際は、新生児が生まれた後に胎盤と胎児を連結していた臍帯静脈から無菌的操作法により採取する。この時出産後に子宮から胎盤剥離が起こる前に臍帯血を採取したり、又は胎盤剥離が起こった後に体外で臍帯血を採取する2種類の方法いずれも使用することができる。帝王切開の場合には胎盤剥離が起こった後に体外で臍帯血を採取する方法を使用する。
臍帯静脈を確保した後、採取針を利用して抗凝固剤が含有された臍帯血採取バッグ(袋)に臍帯血を採取する。
【0036】
前記のように採取された臍帯血から間葉幹細胞を分離・培養する方法は大韓民国特許出願10-2002-0008639号の方法をはじめとして既存に使用されてきた方法は全て使用することができ(Pittinger MF, Mackay AM,et al. Science 1999; 284: 143-7., Lazarus HM, Haynesworth SE, et al. Bone Marrow Transplant 1995; 16: 557-64.),そのうちの1例を挙げると次の通りである。
【0037】
採取された臍帯血を遠心分離して単核細胞を分離した後、数回洗浄して異物質を除去する。洗浄後適切な密度で単核細胞を培養容器に植えて培養すると、単一層を成しつつ細胞が増殖するがこのうち倒立顕微鏡で観察される様態が同質性(homogeneous)でありながら、紡錘形状(spindle shape)の長い形態の細胞の集落(colony)形態で増殖する細胞が間葉幹細胞である。以後細胞がコンフルエント(confluent)した程度に成長すれば継代培養を実施して、必要なだけの細胞数になるまで増殖させる。
【0038】
本発明の臍帯血由来の間葉幹細胞は直接施術に使用することもでき、分化過程を経た後に使用することもできる。
【0039】
本発明の臍帯血由来の間葉幹細胞を分化させる方法は通常的に使用される方法(Barry F, Boynton RE, et al. Exp cell Res 2001; 268: 189-200., Jaiswal N, Haynesworth SE, et al. J Cell Biochem 1997; 64: 295-312.)のうちから所望する細胞を得ることのできる適切な方法を選択して使用し、そのうちの1例を挙げると次の通りである。
【0040】
臍帯血由来の間葉幹細胞を適切な軟骨分化培地、又は骨細胞分化培地で培養しつつ、どの程度まで分化が進んだかどうかを酵素発現測定、免疫表現型分析、組織化学染色、組織免疫染色、分子生物学的検査、又は細胞培養液分析を通じて確認する。
このようにして製造された間葉幹細胞及びこれから分化された細胞はすぐに施術に使用することもでき、冷凍保管しておいて必要な時期に解凍して再び増殖させて使用することもできる。
【0041】
本発明の細胞を冷凍保管する方法は公知された方法に従って遂行される(Doyle et al.,1995)。冷凍時に使用される培地の組成は10〜20% FBS(fetal bovine serum), 10% DMSO(dimethylsulfoxide)及び5〜10%グリセロール(glycerol)で構成され、前記培地1mlに約1×10〜5×106個の細胞が存在するように細胞を懸濁する。
【0042】
前記細胞懸濁液を低温冷凍用のガラス又はプラスティック材質のアンプルに分配し、これを封をして予め温度条件が調節されたプログラム冷凍機に入れる。細胞を冷凍させる時は、−1℃/minの温度変化を提供する冷凍プログラムを利用するのが以後解凍時に細胞損傷を減らすことができるため望ましい。
一旦アンプルの温度が−180℃に到達すると、液体窒素貯蔵タンクに移動させる。冷凍保管された細胞は数年間貯蔵することができるが、周期的に少なくとも5年ごとに生存性を維持するかどうかを点検する。
冷凍保管された細胞を解凍させる時は、アンプルを液体窒素貯蔵タンクから迅速に37℃に調節された水槽に移動させる。アンプル内に解凍された内容物は滅菌状態下において10%FBS、5%ESを含む培地を有する培養容器に即刻移す。
培養培地上において細胞密度は培地1ml当たり約3×10〜6×105個の細胞が存在するようにする。細胞の増殖可否を倒立顕微鏡で毎日検査して、適正密度に到達したら新たな培地に移して継代培養する。
【0043】
前記のように培養された細胞は適切な培地に懸濁された状態で直接間接軟骨損傷部位に移植されたり、又は高分子と混合された後に関節軟骨損傷部位に移植される。
即ち、培地に懸濁された細胞を軟骨損傷部位に骨膜等の適切な生体膜で作られた空間に重合体と混合しない状態で注入し、以後この骨膜の隙間を通して細胞懸濁液が漏れ出ないように密封し、以後手術切開創を全て縫合する方法を使用することもできる。
または前記細胞を培地と共に適切な重合体と混合して軟膏又は歯磨き粉に似た状態にして使用することもできる。
全ての場合において、本発明の組成物に最終的に含有される細胞の濃度は1ml当たり1×106個〜5×107個が存在するようにすることが望ましい。
本発明の組成物の投与量は治療しようとする関節損傷部位の大きさに応じて加減することができ、一般的に約2cm2の大きさの成人膝関節の場合約2ml程度を使用するのが望ましい。
【0044】
本発明の組成物を利用した関節軟骨損傷治療方法においては、関節鏡視下施術を通じて施術する関節軟骨部位を観察し、施術が容易に成され得るように損傷部位を適切に整えた後に、本発明の組成物を損傷部位に注入し、内視鏡を利用して安定的に位置するかどうかを確認する。
この時本発明の組成物は注入前に予め損傷部位に合うように形態を作っておいたり、又は損傷部位に注入した後に形態を変形させることもできる。
【0045】
このように、本発明の組成物を利用する関節軟骨損傷治療方法は既存の細胞移植方法が数次の手術を必要としたのに比べ、関節鏡視下施術を通しても損傷した軟骨を充分に治療することができるため、手術の便利性を図る一方で患者の苦痛、後遺症及び負担を軽減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】プルロニック酸及びヒアルロン酸を混合して製造した高分子と、キトサン繊維、プルロニック酸及びヒアルロン酸を混合して製造した高分子の粘度及び強度を確認した図である。
【図2】本発明の組成物を利用してうさぎの関節軟骨損傷部位を治療した結果を示した図である。
【図3】本発明の組成物により新たに生成された軟骨部分を拡大して示した図である。
【0047】
以下実施例において本発明の組成物製造およびこれを利用した関節軟骨損傷の方法をより詳細に説明する。
下記の実施例により本発明の範囲が局限されるものではない。またその内容が動物実験の内容と結果であるため、人に適用する場合とは異なる。
【実施例】
【0048】
1)細胞成分の分離・培養
本発明の組成物製造のために、次のように細胞成分を分離・培養した。
【0049】
採取された臍帯血を遠心分離して単核細胞を分離し、異物質を除去するために数回洗浄過程を繰り返した。洗浄後に適切な密度で単核細胞を培養容器に植えて培養し、単一層を成しつつ間葉幹細胞が増殖するかどうかを観察した。以後細胞層が重なる程度に成長すると継代培養を実施し、必要なだけの細胞数になるまで増殖させた。
【0050】
前記のようにして得た臍帯血間葉幹細胞に対して、トリプシン処理後に洗浄しDMEM培地に懸濁して、以後の段階で高分子と混合され得るように準備した。
【0051】
2)高分子製造及び機械的強度確認
本発明の組成物製造のために、次のように高分子を製造しその機械的強度を確認する実験を事前に実行して重合体の機械的性質を確認した。
【0052】
高分子をなす成分の濃度又は加減に応じた機械的強度を確認するために、プルロニック酸を最終30%含有する高分子と、プルロニック酸を最終15%含有しつつ各々異なる濃度のヒアルロン酸を含有する高分子と、前記プルロニック酸及びヒアルロン酸の混合物と同量のキトサン繊維を追加で含有する高分子を夫々製造した。この時ヒアルロン酸の最終濃度は夫々0.5%、1.0%、1.5%、2.0%であった。
前記成分を15mlチューブに混合して各高分子を製造した後、前記混合体が含有されたチューブを逆さに立てて機械的強度を有しているかどうかを評価した。
【0053】
その結果図1aに示されたように、プルロニック酸を最終15%含有しつつ各々異なる濃度のヒアルロン酸を含有する高分子の場合大概良好な機械的強度を示したが、ヒアルロン酸の濃度が低くなればなるほど機械的強度が落ちることが分かった。特にヒアルロン酸が最終0.5%以下で含有された場合には機械的強度が著しく落ち、チューブを逆さまに立てた時高分子がチューブ壁に沿って流れ落ちるのが観察できた。
【0054】
反面、前記プルロニック酸及びヒアルロン酸の混合物と同量のキトサン繊維を追加で含有する高分子は、ヒアルロン酸の量に関係なく機械的形態を維持しながらも、損傷部位に適用時に様態を変形しやすい程度の柔軟性を見せた。
プルロニック酸を最終30%含有する高分子の場合にも適当な機械的強度と柔軟性を示した。
【0055】
従って、軟骨損傷部位の治療に適用するのに適した程度の優れた強度及び柔軟性を持つ重合体とその混合組成を選択することができた。
【0056】
3)本発明の組成物製造
本発明の組成物を製造するために、前記2)で製造された高分子のうちプルロニック酸を最終30%含有する高分子を選択してDMEM培地約0.9mlに高分子0.3gを混合して十分にまんべんなく混合されるようにし、以後1×107個の細胞が含まれた1)の細胞懸濁液を遠心分離で濃縮した後に上層液を捨て細胞部分のみに2)で作られたものを入れた。これに適当量の培地を添加して最終的に1mlを作った。即ち培地1mlに重合体30%(0.3g)と細胞1×107個が含まれるようにして本発明の関節軟骨損傷治療用組成物を製造し、量が多くなる場合には同じ比率で混合した。
【0057】
4)本発明の組成物を利用した関節軟骨損傷の治療
本発明の関節軟骨損傷治療用組成物を使用して関節軟骨損傷を治療した。
【0058】
関節軟骨損傷モデルを製造するために、健康なうさぎを選択して、体重による適切な量のケタミンとキシリジンを筋肉注射した。
うさぎに十分に全身麻酔がかかったのを確認し、両側下肢の膝関節部位の毛を剃った後、仰臥の姿勢を維持させながら絆創膏で固定した。
両側膝関節部位をベタジンで消毒し、膝蓋骨を触知して位置を確認した後、膝関節の上、下、膝蓋骨の内側を通過する切開線に沿って傍正中アプローチ(paramedian approach)で膝関節内に到達し、膝蓋骨を外側に反らしつつ膝関節を屈曲させて関節内部を観察した。
【0059】
特異な病的所見が無いことを確認した後、膝蓋骨溝中央顆間窩 (interchondylar notch)の上端の前端から4mm上方に尖っている錐で傷をつけた後に、これを中心としてドリルで直径3mm、深さ3mmの孔を作った。この時同一な部位に3mm直径を有したパンチを利用することもでき、ナイフのような鋭い道具を利用して軟骨全層(full thickness)に損傷を与えた。
前記のように軟骨損傷を誘発してから3〜4ヶ月後に損傷部位を観察して、軟骨損傷部位が自然治癒しなかったことを確認することができた。
【0060】
一方、作られた軟骨損傷部位に注射器を利用して前記3)で製造された本発明の組成物0.25mlをうさぎの軟骨損傷部位に注入した。前記0.25mlは組成物の量が不足していたり又は施術時に失敗する場合を考えて施術の便宜上余裕を持たせて準備したものであって、実際に必要な量はこれよりもはるかに少ない量である。
【0061】
その後、膝蓋骨を本来の位置に戻した後、膝蓋骨周囲の軟部組織を吸収性糸で縫合し、皮膚を非吸収性糸で縫合した。この時反対側の足を対照群とみなして生分解性高分子のみを注入した。
うさぎが麻酔から覚めるのを確認した後に自由に動くことができるように許容し、手術後とその翌日まで感染を防ぐために抗生剤を投与した。
11週が経過した後、各ウサギから損傷及び治療を遂行した関節軟骨部位の切片を得て新たに形成された軟骨を比較し、その結果を図2に示した。
【0062】
図2に示したように、本発明の組成物を注入した後に新たに生成された細胞層の全体的な厚さはポリマーだけを注入した場合(図2a)に比べて2倍以上であると示された(図2b)。
【0063】
新たに形成された軟骨細胞の形態及び密度を比較するために、図2を拡大して図3に示した。
図3に示されるように、本発明の組成物を注入した場合(図3b)では本来の正常軟骨細胞(右側)と殆ど同じ形態の軟骨細胞が新たに生成されており(左側)、細胞密度は本来の正常軟骨組織よりもさらに高かった。
反面、高分子のみを注入した場合(図3a)は細胞の形態が正常細胞に比べて粗雑でその密度も低かった。
【0064】
従って本発明の組成物は損傷した関節軟骨部位から軟骨細胞を優れた効率で生成し、効果的に関節軟骨損傷を治療することができることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の関節軟骨損傷治療用組成物は軟骨損傷治療後、組織学的及び機械的側面において全て優れた効果を示す。
【0066】
本発明の組成物を利用した関節軟骨損傷治療方法は関節鏡視下施術等の簡単な操作だけでも関節軟骨損傷を充分に治癒する効果があるため、既存の治療方法に比べて関節軟骨損傷の治療に所要される時間、労力及び費用を減少させることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
臍帯血から分離、増殖又は分化された細胞成分とその培地でなされることを特徴とする関節軟骨損傷治療用組成物。
【請求項2】
細胞成分は臍帯血から分離した間葉幹細胞、又は前記間葉幹細胞から由来されて軟骨細胞(chondrocyte)又は骨細胞(osteocyte)に分化され得る前駆細胞、又は前記間葉幹細胞から分化された軟骨細胞又は骨細胞のうちから選択された1つ以上の細胞成分であることを特徴とする請求項1に記載の関節軟骨損傷治療用組成物。
【請求項3】
1ml当たり1×106〜5×107個の細胞成分が最終含有されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の関節軟骨損傷治療用組成物。
【請求項4】
臍帯血から分離、増殖又は分化された細胞成分とその培地及び生体適合性高分子でなされたことを特徴とする関節軟骨損傷治療用組成物。
【請求項5】
細胞成分は臍帯血から分離した間葉幹細胞、又は前記間葉幹細胞から由来されて軟骨細胞(chondrocyte)又は骨細胞(osteocyte)に分化され得る前駆細胞、又は前記間葉幹細胞から分化された軟骨細胞又は骨細胞のうちから選択された1つ以上の細胞成分であることを特徴とする請求項4に記載の関節軟骨損傷治療用組成物。
【請求項6】
生体適合性高分子は血液親和性、生分解性、抗石灰化特性、細胞の栄養成分又は細胞間基質形成能のうちから1つ以上の特性を備えた高分子であることを特徴とする請求項5に記載の関節軟骨損傷治療用組成物。
【請求項7】
生体適合性高分子は蛋白質又は多糖類等の天然高分子、ヒドロキシ酸又はその誘導体でなされる合成高分子、化学結合により3次元格子構造を形成する有機高分子又はこれらの誘導体・変形体のうちから選択された1つ以上の成分でなされることを特徴とする請求項6に記載の関節軟骨損傷治療用組成物。
【請求項8】
生体適合性高分子はフィブリン、ゼラチン、コラーゲン、ヒアルロン酸、ポリフォスファジン、ポリアクリレート、ポリグラティック酸、ポリグリコリック酸、プルロニック酸、又はアルギン酸とその塩のうちから選択された1つ以上の成分でなされることを特徴とする請求項7に記載の関節軟骨損傷治療用組成物。
【請求項9】
生体適合性高分子はキトサン繊維を添加したことを特徴とする請求項8に記載の関節軟骨損傷治療用組成物。
【請求項10】
生体適合性高分子は細胞と混合された後のプルロニック酸最終含量が30%になるように製造されたものであることを特徴とする請求項9に記載の関節軟骨損傷治療用組成物。
【請求項11】
生体適合性高分子は細胞と混合された後のヒアルロン酸最終含量が3〜4%となるように製造されたものであることを特徴とする請求項9に記載の関節軟骨損傷治療用組成物。
【請求項12】
生体適合性高分子は細胞と混合された後のプルロニック酸の最終含量が15〜30%、そしてヒアルロン酸の最終含量が2〜4%となるように製造された混合物であることを特徴とする請求項9に記載の関節軟骨損傷治療用組成物。
【請求項13】
生体適合性高分子は前記プルロニック酸とヒアルロン酸の混合物に同量のキトサン繊維を添加して製造されたものであることを特徴とする請求項12に記載の関節軟骨損傷治療用組成物。
【請求項14】
1ml当たり1×106〜5×107個の細胞成分が最終含有されていることを特徴とする請求項4乃至13のいずれかに記載の関節軟骨損傷治療用組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−107026(P2012−107026A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−8349(P2012−8349)
【出願日】平成24年1月18日(2012.1.18)
【分割の表示】特願2003−520761(P2003−520761)の分割
【原出願日】平成14年8月14日(2002.8.14)
【出願人】(504310412)メディポスト・カンパニー・リミテッド (4)
【氏名又は名称原語表記】MEDIPOST CO., LTD.
【出願人】(504056897)
【Fターム(参考)】