説明

防カビ剤、カビ用洗浄剤、防カビ効果を有する樹脂、及びカビ発生抑制方法

【課題】浴室、洗面所などで発生する黒カビに対して効果を示し、生体に対して安全、かつ衣服などの生地を傷めず、安価である防カビ剤、カビ用洗浄剤、防カビ効果を有する樹脂、及びカビ発生抑制方法を提供する。
【解決手段】防カビ作用の有効成分としてシステインを用いる。システインを、防カビ剤、カビ用洗浄剤、樹脂等に配合し、カビ発生箇所に施与することでカビの繁殖を防ぎ、又は抑制することができる。このシステインの配合された防カビ剤、カビ用洗浄剤、又は樹脂等は、クラドスポリウム(Cladosporium)属、アルタナリア(Alternaria)属、又はオウレオバシディウム(Aureobasidium)属に属するカビに対して好ましく用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浴室や洗面所など湿気の多い所に発生しやすく、黒く変色することが知られている黒カビに対して特に効果を有する、防カビ剤、カビ用洗浄剤、防カビ効果を有する樹脂、及びカビ発生抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
家庭における浴室、脱衣所、洗面所や台所などのような湿気の多いところでは、黒カビが発生しやすく、黒く変色することから視覚的に認知されやすく、洗浄、防カビの対象とされている。このような黒カビは、クラドスポリウム(Cladosporium)属、アルタナリア(Alternaria)属、オウレオバシディウム(Aureobasidium)属などに属する微生物に代表される真菌であり、成育から時間が経過すると、界面活性剤を使用しても除去が困難となりうる。
【0003】
一般的に、塩素系洗剤などが黒カビの除菌に用いられているが、塩素系洗剤は人に対して毒性があり、環境的にも有害で、かつ酸と混合すると有害な塩素ガスを発生する、さらに手荒れや衣服の傷みなどの原因ともなり、強い殺菌効果を示すものの安全性は非常に低い。
【0004】
黒カビに対して洗浄、防カビ効果を示す従来技術の例を挙げると、例えば下記特許文献1には、必須の成分として式:MHSO5(但し、Mはアルカリ金属である)で表されるペルオキソ一硫酸水素塩と、上記のペルオキソ一硫酸水素塩100重量部に対し100〜600重量部の水溶性炭酸塩とを含有してなることを特徴とする洗濯機槽用洗浄剤組成物が開示されている。そして、当該組成物は、酸性洗剤と混用しても有害ガスを発生しないことが記載されている。
【0005】
また、下記特許文献2には、1,2,4−ジチアゾリジン誘導体を有効成分として含有する黒カビ防除剤が開示されている。そして、当該誘導体を有効成分とすることによって、安全かつ有効な黒カビ防除剤を提供できることが記載されている。
【0006】
また、下記特許文献3には、天然物であるため安全性が高いと考えられる海藻の抽出液を用いたカビ洗浄剤が開示されている。
【0007】
更に、下記特許文献4には、1μm以下の微細粒状の透明酸化チタンを樹脂エマルジョンに混合してなることを特徴とするコーティング剤組成物が開示されている。そして、当該組成物を黒かびの発生の防止、防臭、殺菌等に用いることが記載されている。
【特許文献1】特開平5−247496号公報
【特許文献2】特開平6−49050号公報
【特許文献3】特開平6−179895号公報
【特許文献4】特開平9−157549号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献に例示されるような従来技術では、工業的に利用するには適しなかったり、高コストであったり、安全性が低いなどの問題があり、防カビ剤やカビ発生抑制方法として必ずしも満足できるものではなかった。
【0009】
したがって本発明の目的は、浴室、洗面所などで発生する黒カビに対して効果を示し、生体に対して安全、かつ衣服などの生地を傷めず、安価である防カビ剤、カビ用洗浄剤、防カビ効果を有する樹脂、及びカビ発生抑制方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行い、人体に対して無害である物質の中から、黒カビの一種であるクラドスポリウム クラドスポリオイデス(Cladosporium cladosporioides)に対して毒性を示す物質の検索を行ったところ、アミノ酸であるシステインに強力な増殖抑制作用を見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の1つは、システイン及び/又はシステイン誘導体を有効成分として含有する防カビ剤である。
【0012】
本発明の防カビ剤によれば、有効成分であるシステイン及び/又はシステイン誘導体が、カビの発芽を抑制し、カビの菌糸分裂を抑制し、又はカビのバイオフィルム形成を抑制するので、カビ発生箇所に施与することでカビの繁殖を防ぎ、又は抑制することができる。
【0013】
本発明の防カビ剤においては、システイン換算濃度が固形分換算で0.1〜100質量%であることが好ましい。また、クラドスポリウム(Cladosporium)属、アルタナリア(Alternaria)属、又はオウレオバシディウム(Aureobasidium)属に属するカビに対して用いられることが好ましい。
【0014】
本発明のもう1つは、前記本発明の防カビ剤を含有することを特徴とするカビ用洗浄剤である。
【0015】
本発明のカビ用洗浄剤によれば、システインをカビ用洗浄剤に含有させることにより、洗浄の際に、防カビ作用の有効成分であるシステインを洗浄対象物やブラシ、スポンジ等の洗浄道具等にいきわたらせることができるので、洗浄後の洗浄対象物や洗浄道具等におけるカビの発生を抑制することができる。また、塩素系洗浄剤などと異なり有害なガスを発生することもなく、さらに手荒れや衣服の傷みなどの原因ともなりにくい。
【0016】
本発明のカビ用洗浄剤においては、システイン換算濃度が固形分換算で0.1〜100質量%であることが好ましい。
【0017】
本発明の更にもう1つは、前記本発明の防カビ剤を含有することを特徴とする防カビ効果を有する樹脂である。
【0018】
本発明の防カビ効果を有する樹脂によれば、浴室、洗面所、台所、トイレ等の水回りの目地やパッキン等、カビの生えやすい箇所に用いられる樹脂に、防カビ作用の有効成分であるシステインを含有させることにより、それらの表面又は内部にカビが発生するのを防ぐことができる。
【0019】
本発明の防カビ効果を有する樹脂においては、システイン換算濃度が10〜50質量%であることが好ましい。また、本発明の防カビ効果を有する樹脂は、シリコーン系樹脂、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、エポキシ系樹脂から選ばれた1種、又は2種以上を含有してなる樹脂組成物であることが好ましい。
【0020】
一方、本発明のカビ発生抑制方法は、前記本発明の防カビ剤を施与することを特徴とする。
【0021】
本発明のカビ発生抑制方法によれば、すでに工業的に幅広く利用されている安全かつ安価なシステインを、防カビ作用の有効成分とするので、安価に、且つ、生体に対して安全で衣服などの生地を傷めたりもせずに、カビ発生を抑制することができる。また、塩素系洗剤や酸性洗剤と混用しても有害ガスを発生することがない。
【0022】
本発明のカビ発生抑制方法は、クラドスポリウム(Cladosporium)属、アルタナリア(Alternaria)属、又はオウレオバシディウム(Aureobasidium)属に属するカビに対して好ましく適用することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、有効成分であるシステインが、カビの発芽を抑制し、カビの菌糸分裂を抑制し、又はカビのバイオフィルム形成を抑制するので、カビ発生箇所に施与することでカビの繁殖を防ぎ、又は抑制することができる。また、システインはすでに工業的に幅広く利用されている安全かつ安価な物質であるので、防カビ剤、カビ洗浄剤あるいは防カビ効果のある壁やパッキンなどへの、幅広い応用が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明で用いられるシステインは、アミノ酸の一種であるシステインであり、D体およびL体どちらであってもよく、また、ラセミ体(DL体)であってもよいが、自然に存在するL体が好ましい。システインは、食品、飼料添加物や美容、化粧品素材、医薬品などの工業原料、あるいはサプリメントとして広く使用されており、世界の年間生産量は1,500トンと推定されている。工業的には、システインは、おもに毛髪や羽毛の酸加水分解物からの抽出あるいは、例えば、ホスホセリンからシステイン合成酵素によってシステインを合成する等の化学酵素法により製造されている。本発明においては、このような工業的に製造、市販されているシステインをそのまま用いることができる。よって、入手が容易でかつ安価であるという利点がある。
【0025】
本発明においては、有効成分としてシステイン誘導体を用いることもできる。本発明に用いられるシステイン誘導体としては、システインを作用させることを企図したシステイン誘導体が好ましく用いられ、N−アセチル−システイン、システインメチルエステル、システインエチルエステル等が例示できる。これらのシステイン誘導体は、作用させるカビの脱アセチル化酵素やエステラーゼ等の分解酵素等で分解されることで、有効成分であるシステインをもたらす。
【0026】
また、本発明で用いられるシステイン又は上記システイン誘導体は、塩酸塩、硝酸塩及び酢酸塩等の無機酸塩等の酸塩、ナトリウム塩やカリウム塩などのアルカリ金属塩、又はマグネシウム塩やカルシウム塩などのアルカリ土類金属塩等、塩の形態をとっていてもよい。
【0027】
本発明において、「システイン換算濃度」とは、システインについてはシステインの濃度を意味し、上記システイン誘導体については、そのシステイン誘導体が上記分解酵素等で分解されることによって化学量論的にもたらし得る理論的なシステインの濃度を意味する。
【0028】
本発明の防カビ剤は、公知の技術に準じて、粉体、ブロック、クリーム、ジェル、溶液、ペースト、エアーゾル用懸濁・乳化液などを調製する際に、システイン、システイン誘導体、又はそれらの塩類を配合することにより、得ることができる。この場合、水、緩衝液、乳化溶媒等の溶媒に上記システインをもたらす有効成分のみが単独で配合されているような単純な組成とすることもできる。
【0029】
システインは、易水溶性であり、他の多くの化合物とも混合容易であるため、粉体、ブロック、クリーム、ジェル、溶液、ペースト、エアーゾル用懸濁・乳化液などの幅広い形態で使用することが可能である。
【0030】
本発明においては、上記防カビ剤中のシステイン濃度は、カビ増殖抑制に必要なシステインの濃度に照らして、適宜選択することができるが、好ましくはシステイン換算濃度が固形分換算で0.1〜100質量%であり、より好ましくは0.5〜100質量%であり、更により好ましくは1〜100質量%である。また、例えば、溶液状で使用する場合の使用時の配合割合は、それらの溶解性、分散性等に照らして、適宜選択することができるが、システイン、システイン誘導体、又はそれらの塩類が、システイン換算で100ml当り0.05〜10g含有していることが好ましく、1〜10g含有していることがより好ましい。
【0031】
本発明のカビ用洗浄剤は、公知の技術に準じて洗浄剤を調製する際に、システイン、システイン誘導体、又はそれらの塩類を配合することにより、得ることができる。この場合、市販の洗浄剤などへ配合することもできる。
【0032】
本発明のカビ用洗浄剤には、洗浄作用を有する成分として、界面活性剤等を配合させることができる。また、更に抗菌作用を有する抗菌成分を配合させることもできる。また、塩素系洗浄剤等、従来のカビ用洗浄剤に使用されている有効成分を併用しても良い。
【0033】
システインは、洗浄作用を有する洗浄剤や抗菌作用を有する抗菌剤などへ混合しても、それらの有効性を低減させることなくその防カビ作用を発揮することができる。また、塩素系洗浄剤などと異なり有害なガスを発生することもなく、さらに手荒れや衣服の傷みなどの原因ともなりにくい。更に、従来のカビ用洗浄剤の有効成分を併用した際にも、塩素系有効成分などの配合量を減量することができ、塩素系洗浄剤などによる上記不具合を軽減することが可能である。
【0034】
本発明においては、上記カビ用洗浄剤中のシステイン濃度は、カビ増殖抑制に必要なシステインの濃度、洗浄作用をもたらす成分等他の成分の濃度等に照らして、適宜選択することができるが、好ましくはシステイン換算濃度が固形分換算で0.1〜100質量%であり、より好ましくは0.5〜100質量%であり、更により好ましくは1〜100質量%である。また、例えば、溶液状で使用する場合の使用時の配合割合は、それらの溶解性、分散性等に照らして、適宜選択することができるが、システイン、システイン誘導体、又はそれらの塩類が、システイン換算で100ml当り0.05〜10g含有していることが好ましく、1〜10g含有していることがより好ましい。
【0035】
本発明の防カビ効果を有する樹脂は、公知の技術に準じて樹脂を調製する際に、システイン、システイン誘導体、又はそれらの塩類を配合することにより、得ることができる。
【0036】
上記樹脂としては、シリコーン系樹脂、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、エポキシ系樹脂から選ばれた1種、又は2種以上を含有してなる樹脂組成物等を好ましく例示できる。上記システインをもたらす有効成分は、その樹脂が成形、硬化される前の調製液に配合され、成形・硬化後には樹脂中に封入される。
【0037】
システインは、樹脂に配合して用いても、樹脂の硬化性、成形性等への影響が少なく、その防カビ作用を有効に発揮することができるので、浴室、洗面所、台所、トイレ等の水回りの目地や弁当箱パッキンのシリコーン等、カビの生えやすい箇所に用いられる樹脂等の様々な樹脂に配合することで、それらの表面又は内部にカビが繁殖するのを防ぐことができる。
【0038】
本発明においては、上記防カビ効果を有する樹脂中のシステイン濃度は、カビ増殖抑制に必要なシステインの濃度、及び樹脂成分、架橋剤等他の成分の濃度に照らして、適宜選択することができるが、好ましくはシステイン換算濃度が10〜50質量%であり、より好ましくは30〜50質量%である。
【0039】
一方、本発明のカビ発生抑制方法においては、その施与手段は特に制限されず、例えば、塗布、噴霧、散布、予め抗菌素材としての素材へ封入しておくなどの手段によって、カビの発生を抑制したい箇所、又は、カビが生えている箇所にシステイン、システイン誘導体、又はそれらの塩類を施与する。
【0040】
例えば、建物や浴室の壁であれば、直接散布し、あるいは塗料に混合してコーティング剤として塗装するなどの手段により行う。また、上述のとおり、システインをカビ用洗浄剤に含有させることにより、洗浄の際に、防カビ作用の有効成分であるシステインを洗浄対象物やブラシ、スポンジ等の洗浄道具等にいきわたらせることができるので、洗浄後の洗浄対象物や洗浄道具等におけるカビの発生を抑制する効果を期待できる。
【0041】
上記の施用量は、カビの種類、適用箇所の材質、表面の性状等によって適宜選択することができる、後述する試験例によれば、1m当たり1〜100,000mg程度であることが好ましく、1m当たり100〜10,000mg程度であることがより好ましい。その施用量が少なすぎると十分な防除効果が期待できず、システインには特有の匂いがあるため多すぎる場合は好ましくない。
【0042】
本発明が適用されるカビの種類には特に制限はないが、家庭における浴室、脱衣所、洗面所や台所などのような湿気の多いところに発生しやすい黒カビである、クラドスポリウム(Cladosporium)属、アルタナリア(Alternaria)属、オウレオバシディウム(Aureobasidium)属の微生物に属するカビに対して、好ましく用いることができる。
【実施例】
【0043】
以下実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0044】
以下の試験例に用いたクラドスポリウム クラドスポリオイデス(Cladosporium cladosporioides NRBC4457)(以下、C. cladosporioidesとする。)は、独立行政法人製品評価技術基盤機構より購入した。本菌をポテトデキストロース培地中で27℃静置培養し、培養液表面に形成されバイオフィルム上に発生するC. cladosporioides 胞子を回収し、以下の実験に使用した。
【0045】
また、システインはシグマ アルドリッチジャパン株式会社から購入した。
【0046】
<試験例1> 発芽抑制試験
C. cladosporioides 胞子をポテトデキストロース培地に懸濁し、4×10(cells/ml)の懸濁液を調製した。この懸濁液にシステインを最終濃度が10、1、0.1、0.01mg/mlになるように加え、27℃で静置培養を行った。培養開始24および48時間目に、濁度(OD620nm)を測定し、菌数を濁度として示した。
【0047】
その結果、図1に示すようにC. cladosporioides の増殖が濃度依存的に著しく抑制されていた。培養3日目では、目視によっても、システインによるC. cladosporioides の増殖抑制効果が確認できた(図2)。これら結果から、システインにはC. cladosporioides 発芽抑制効果があることが明らかとされた。
【0048】
<試験例2> 菌糸分裂抑制試験
C. cladosporioides 胞子をポテトデキストロース培地に懸濁し、4×10(cells/ml)の懸濁液を調製した。この懸濁液について、27℃で24時間静置培養を行い、胞子状態の菌体を全て発芽させ、菌糸分裂を誘導させた。ここにシステインを最終濃度が10、1、0.1mg/mlになるように加え、27℃で更に静置培養を行った。システイン添加24時間後に濁度(OD620nm)を測定し、菌数を濁度として示した。
【0049】
その結果、図3に示すように、システイン添加群では、C. cladosporioidesの増殖が濃度依存的に抑制されていた。この結果から、システインにはC. cladosporioides 菌糸分裂抑制効果があることが明らかとされた。
【0050】
<試験例3> バイオフィルム形成抑制試験
C. cladosporioides 胞子をポテトデキストロース培地に懸濁し、4×10(cells/ml)の懸濁液を調製した。この懸濁液1mlを24wellプラスチックプレート(ヌンク社製)に分注し、システインの最終濃度がそれぞれ5、0.5、0.05mg/mlになるように各ウェルに加え、27℃で静置培養を行った。培養開始7日目、培養液表面に形成されるバイオフィルムを回収し、湿潤重量を測定した。また、そのバイオフィルムをサブロー培地に1mlに浸し、ここに Alamar blue (生細胞測定用試薬、株式会社セロテック製)を加え、5時間培養後に色調の変化(青から赤)を吸光度値OD540nmと吸光度値OD620nmとの差として数値化した。
【0051】
その結果、図4に示すように、システインの添加によりバイオフィルムの形成量が著しく低下しており、システインの添加がバイオフィルム形成を抑制することが明らかとされた。また、Alamar blue を用い、バイオフィルムに含まれる生菌数の代謝能として測定したところ、図5で示すように、システイン添加群で色調の変化が抑制されており、システインによるC. cladosporioidesの代謝機能の低下にともなってバイオフィルム形成能が低下していることが示唆された。
【0052】
<試験例4> システイン含有寒天培地上でのC. cladosporioides 増殖確認試験
システイン(1mg/ml)を配合したポテトデキストロース寒天培地を作成し、その表面にC. cladosporioides 胞子(4×10cells)を移植して、27℃で3日間又は7日間静置培養後、増殖状態を観察した。
【0053】
その結果、図6で示すように、システイン配合寒天表面では、C. cladosporioides が増殖し難いことが明らかとなり、固相表面へのC. cladosporioides 付着・増殖防止にシステインが有効であることが示された。
【0054】
<試験例5> システイン配合シリコーン上での C. cladosporioides 増殖性試験
C. cladosporioides は、浴室・洗面所など湿気の多いところで好発する黒カビの一種であるが、システインがこの増殖を抑制できることから、浴室の壁の目地などの充てん剤として使用されるシリコーンにシステインを配合し、C. cladosporioides の増殖状態を観察した。バスコークN(セメダイン株式会社製;シリコーン系充てん剤で粘性があるが、空気中で放置すると徐々に固まる)に質量%が50、10、5%になるようにシステインを配合し、室温に24時間放置させ固まらせた。固まったシリコーンは、121℃、20分間の高圧蒸気滅菌処理を行った後、実験に使用した。
【0055】
C. cladosporioides 胞子をポテトデキストロース培地に懸濁し、4×10(cells/ml)の懸濁液を調製した。この懸濁液1mlを24wellプラスチックプレート(ヌンク社製)に分注し、各ウェルに各種システイン配合シリコーンを浸し、27℃で静置培養を行い、C. cladosporioides の増殖状態を観察した。
【0056】
その結果、図7で示すように、システイン配合シリコーンを浸した培地では、C. cladosporioides の増殖は抑制されていた。また、システインを配合していないシリコーン表面は、C. cladosporioides バイオフィルムで覆われていたが、システインを配合する事でバイオフィルムの形成も著しく抑制された(図8)。
【0057】
以上の結果から、システインは人体に対して安全な抗カビ因子として機能できると考えられ、防カビ剤、カビ洗浄剤への配合、あるいは浴室の目地や水筒・弁当箱のパッキン部分などに配合すれば、黒カビの発生が抑えられることが示された。
【0058】
<製造例1>
下記表1の配合で各原料を混合し、防カビ剤を調製した。
【0059】
【表1】

【0060】
この防カビ剤は、システインの匂いも気にならず、使用感のよいものであった。
【0061】
<製造例2>
下記表2の配合で各原料を混合し、カビ用洗浄剤を調製した。
【0062】
【表2】

【0063】
このカビ用洗浄剤は、システインの匂いも気にならず、使用感のよいものであった。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】システインによるC. cladosporioides発芽に及ぼす影響を示す図表である。
【図2】システイン含有培地で培養したC. cladosporioidesの培養3日目の発芽状態を示す写真である。
【図3】システインによるC. cladosporioides菌糸分裂に及ぼす影響を示す図表である。
【図4】システインによるC. cladosporioidesのバイオフィルム形成能に及ぼす影響を湿潤重量の比較により示す図表である。
【図5】システインによるC. cladosporioidesのバイオフィルム形成能に及ぼす影響をアラマーブルー法による測定値の比較により示す図表である。
【図6】システイン含有ポテトデキストロース寒天培地上でのC. cladosporioides増殖性を示す写真である。
【図7】システイン配合シリコーンを浸した培地中での培養7日目におけるC. cladosporioides増殖性を示す写真である。
【図8】培養25日目におけるシステイン配合シリコーン上でのC. cladosporioides増殖性を示す写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
システイン及び/又はシステイン誘導体を有効成分として含有する防カビ剤。
【請求項2】
システイン換算濃度が固形分換算で0.1〜100質量%である請求項1記載の防カビ剤。
【請求項3】
クラドスポリウム(Cladosporium)属、アルタナリア(Alternaria)属、又はオウレオバシディウム(Aureobasidium)属に属するカビに対して用いられる請求項1又は2記載の防カビ剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載の防カビ剤を含有することを特徴とするカビ用洗浄剤。
【請求項5】
システイン換算濃度が固形分換算で0.1〜100質量%である請求項4記載のカビ用洗浄剤。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1つに記載の防カビ剤を含有することを特徴とする防カビ効果を有する樹脂。
【請求項7】
システイン換算濃度が10〜50質量%である請求項6記載の防カビ効果を有する樹脂。
【請求項8】
シリコーン系樹脂、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、エポキシ系樹脂から選ばれた1種、又は2種以上を含有してなる樹脂組成物である請求項6又は7記載の防カビ効果を有する樹脂。
【請求項9】
請求項1〜3のいずれか1つに記載の防カビ剤を施与することを特徴とするカビ発生抑制方法。
【請求項10】
クラドスポリウム(Cladosporium)属、アルタナリア(Alternaria)属、又はオウレオバシディウム(Aureobasidium)属に属するカビに対して用いられる請求項9記載のカビ発生抑制方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−100971(P2008−100971A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−286859(P2006−286859)
【出願日】平成18年10月20日(2006.10.20)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年8月24〜25日 日本細菌学会主催の「第60回 日本細菌学会 東北支部総会」において文書をもって発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年8月31日 第50回 日本医真菌学会総会事務局発行の「第50回 日本医真菌学会総会プログラム・抄録集」に発表
【出願人】(390033145)焼津水産化学工業株式会社 (80)
【Fターム(参考)】