説明

防カビ性繊維加工物

【課題】従来品に比して優れた防カビ性及び洗濯耐久性とを備える繊維加工品を提供することを目的とする。
【解決手段】微孔110を有する除放性のカプセル本体111に、PHMB及びジヨードメチルーpートリルスルホンを主成分として含む有機・既存化学物質系の複合合成剤からなる防カビ剤14を内包させてマイクロカプセル11を構成する。そして、当該マイクロカプセル11を天然繊維(綿)10の表面に被着させて、防カビ性おしぼり1を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、おしぼり、手拭、布巾、タオル等の繊維加工物の品質向上技術に関し、特に、おしぼりにおける防カビ性の長期維持と洗濯耐久性の向上を両立させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
おしぼり(ハンドウェットタオル)は、繊維加工物である矩形布片を適度に湿潤させ、これを飲食店などで来店した客に提供される。おしぼりは、一般には湿潤状態で折りたたみ又は丸められた状態で、必要に応じて個別にラッピング加工され、使用時まで所定期間にわたり保管される。
繊維が湿潤状態にあると、大気中から繊維に付着したカビが繁殖しやすい。冬場など、湿潤且つ加温状態で一定期間保管されるおしぼりについては、特にこの問題が顕著である。カビが繁殖したおしぼりは悪臭を発生し、使用時に不快な印象を客に与えるほか、衛生上の問題もある。また、一般におしぼりは使用後専門業者により回収され、脱色(塩素)処理・洗濯処理、整形処理等を順次施された後、再び使用される。しかしカビが繁殖すると繊維が侵食されて劣化し、洗濯耐久性が低下するため、再使用の回数が減るという経済上の問題もある。
【0003】
これに対し従来では、繊維表面に防カビ剤を付着させ、カビの繁殖を防止する対策がなされている。防カビ剤には無機系・有機系の各種材料が用いられる。具体的に、無機系材料には銀材料や第四級アンモニウム塩(特許文献4)、有機系材料例にはPHMB(塩酸ポリヘキサニド、ポリヘキサメチレンビグアナイド)材料が用いられている(特許文献1、2、3)。
【0004】
ここで、PHMB系材料は他の防カビ剤に比べて性能が高く、人体への安全性に優れるなどのメリットが多く、且つ、繊維への防カビ剤の固着性も比較的良好である。
【特許文献1】特開平8-226077号公報
【特許文献2】特開2003-286115号公報
【特許文献3】特開平3-39310号公報
【特許文献4】特開2006-149989号公報
【特許文献5】特開2004-300638号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の防カビ性おしぼりでは、以下の課題がある。
市販される繊維加工物の使用・洗濯の頻度に比べ、おしぼりの業界では、一般に製品の納入と使用後の回収サイクルが比較的短期間で繰り返され、回収後には比較的高強度で脱色(塩素)処理及び洗濯処理が施される。このような使用環境では、繊維と防カビ剤との固着性が十分でなく、数度のサイクルで防カビ剤が脱落してしまう可能性があり、十分な防カビ性を維持しにくい。また、防カビ剤が洗濯時に大量の水や塩素溶液に曝されるため、過度に溶出してしまう問題もある。前述のように、防カビ剤にPHMBを利用する場合には他の防カビ剤に比べて溶出程度は低いものの、それでも理想的な期間にわたる防カビ性の維持は困難である。
【0006】
以上の防カビ性おしぼりの問題は、使い捨ての紙製おしぼり等を利用する場合には無関係である。しかし、昨今の環境問題への配慮から、おしぼり業界でもリサイクル使用が望まれており、依然として早急に解決すべき問題である。また、使い捨ておしぼりであっても、使用に際するまで十分な防カビ対策が望まれている点では共通する問題である。
さらに、上記と同様の各問題は、おしぼり以外の衣類や手袋等、一般的な防カビ製繊維加工物についても存在するので、解決すべき余地がある。
【0007】
本発明は以上の課題に鑑みてなされたものであって、従来品に比して優れた防カビ性及び洗濯耐久性とを備える繊維加工品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、中空内部と連通する複数の微孔が表面に形成されたマイクロカプセル本体中に防カビ剤が含まれたマイクロカプセルを備え、当該マイクロカプセルが繊維に付着されてなる防カビ性繊維加工物とした。
ここで防カビ剤には、PHMB、ジヨードメチル−p−トリルスルホン、メチル(ベンズイミダゾール−2イル)カルバメートの中から選ばれた1以上の成分組成を含むものを用いることができる。
【0009】
また、マイクロカプセル中には前記防カビ剤の成分組成として、PHMBを10ppm以上50000ppm以下の濃度範囲で含めることもできる。
さらに、前記マイクロカプセルは非水溶性材料(例えばシリカ材料)で構成することができ、前記繊維は綿から構成できる。
前記マイクロカプセルは、バインダーを用いて繊維に付着できる。
【0010】
前記バインダーは、塩化ビニル、酢酸ビニル、アクリル、アルギン酸ナトリウム、ウレタン、シリコーン、フェノール、天然ゴム樹脂、デンプン類、糖類、タンパク質類の中から選ばれた1以上の成分組成を含むように構成することができる。
前記繊維加工物はおしぼりの形態とすることができる。
【発明の効果】
【0011】
以上の構成を有する本発明の防カビ性繊維加工物では、マイクロカプセルに導入された防カビ剤が、当該マイクロカプセルの無数の微孔を通じて外部に除放され、防カビ性が発揮される。このため、防カビ剤が一度に周囲に飛散・揮発しにくい構成になってる。
よって、従来に比べて長期間にわたり防カビ性が発揮され、繊維でのカビの繁殖を防止できるので、悪臭や繊維の変色を抑制することができる。なお、カビ菌の胞子を吸引すると、人体において肺を痛める原因にもなりうるが、上記構成でカビの増殖を効果的に防止することで、この問題の低減も期待できるものである。
【0012】
このような諸効果は、特に使用前に湿潤状態で一定期間保管されるおしぼりにおいて有用性が高い。具体的には、加湿且つ加温状態で保管されるおしぼり等、カビの繁殖環境が高い場合に非常に有効と考えられる。
なお通常、使用前にカビを生じたおしぼりは、業者に回収され、再生処理または廃棄処理がなされているため、事業コストの増大や信用低下を招くおそれがある。本発明によれば、このようなおしぼりの問題を飛躍的に低減でき、低コスト且つ安定した品質の提供に大きな効果が期待できる。
【0013】
さらに本発明では、防カビ剤を内包するマイクロカプセルを繊維表面に付着させた構成を持つため、防カビ剤を直接繊維表面に付着させる従来構成より洗濯耐久性に優れている。すなわち、繊維加工物がおしぼりの場合、使用後にある程度の強度で脱色(塩素)処理及び洗濯処理を行っても、これによって防カビ剤が早期に失われることはない。
ここで、防カビ剤にPHMB及びジヨードメチル−p−トリルスルホンなどの低溶出性薬剤を利用することによって、より高度な防カビ性の発揮と、早期の溶出の低減を両立させることができる。これにより、おしぼり本体の通常寿命(一般に30〜40サイクルの使用回数)期間にわたり、優れた防カビ性が期待できるものである。
【0014】
なお、マイクロカプセルをシリカ材料等、非水溶性の高い材料で構成すると、カプセル本体の洗濯耐久性を向上でき、前述の防カビ性の長期保持にさらに有効となる。
また、シリカ材料は天然繊維に対する付着性に優れるため、当該材料でマイクロカプセルを構成すれば、当該マイクロカプセルを強力に繊維に固着させることができ、洗濯耐久性向上が期待できる。
【0015】
また、カプセルをバインダーで繊維に付着させる場合において、バインダー材料に塩化ビニル、酢酸ビニル、アクリル、アルギン酸ナトリウム、ウレタン、シリコーン、フェノール、天然ゴム樹脂、デンプン類、糖類、タンパク質類)の中から選ばれた1以上の成分組成を含む材料を用いると、繊維とカプセルとの親和性に関わらず、マイクロカプセルが天然繊維(綿など)に対して強力に付着させることができ、洗濯耐久性の強化に有利である。
【0016】
なお、繊維に対して香料等を付加するためにマイクロカプセルを利用する技術自体は公知である(例えば特許文献5)。しかし、本発明はおしぼりの用途に最適な防カビ剤の成分を鋭意検討して見出し、且つ、洗濯耐久性の向上を両立させた点で、特有の効果を奏するものであって、このような従来技術と明確な違いを有するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明の実施の形態を説明するが、当然ながら本発明はこれらの形式限定されるものでなく、本発明の技術的範囲を逸脱しない範囲で適宜変更して実施することができる。
(防カビ性おしぼり1の構成)
図1は、本発明の防カビ性繊維加工物の一例として、実施の形態1の防カビ性おしぼり1(以下、単に「おしぼり1」と言う。)を示す外観模式図である。図2は、当該おしぼり1の部分拡大図であり、図3は、さらに当該おしぼり1の繊維の部分拡大図である。
【0018】
図1に示されるおしぼり1は、一辺約40cmの方形状布片を丸めて整形したものであって、主として天然繊維(綿)10を編成しておしぼり本体1Xとし(図2を参照)、これを適度に湿潤させて構成される。
前記おしぼり本体1Xに利用できる繊維10は、綿に限るものではなく、その他の天然繊維でもよい。さらにビスコース・レーヨン等の再生繊維、アセテート・レーヨン等の半合成繊維、ポリエステル、ナイロン、アクリル等の合成繊維を用いてもよく、これらのいずれかを混紡、合糸、混繊、又は交編織等することで、複合繊維として用いても良い。紙おしぼりの材料など、使い捨てのおしぼりの繊維を用いることもできる。この場合、洗濯耐久性は要求されないが、後述の経時的な防カビ性の性能については、その他の繊維を用いる場合と同様の効果が期待できる。
【0019】
当該繊維材料は、後述のマイクロカプセル材料(付着性)との親和性を考慮して最適な組み合わせを選ぶことが好適である。
(マイクロカプセル11の構成)
おしぼり1の繊維10の表面には図2に示すように、直径約10μmのマイクロカプセル11が分散して被着されている。マイクロカプセル11は、図3に示すように、内部が中空球状のカプセル本体111と、その内部に防カビ剤14(図6(d)を参照)が含まれた積層構造からなる。カプセル本体11はシリカ(例えば二酸化珪素を含む)材料で構成され、その表面に内部と連通する約5万個の微孔110が個々に形成される。カプセル本体11とこれに内包される防カビ剤14との重量比は、例えば同順に6:4である。
【0020】
この構成により、防カビ剤14は当該微孔110を通じて外部に溶出される。マイクロカプセル11は、バインダー(結着剤)13を用いて各繊維10の周面に被着されている。
このような構成によれば、バインダー13の被着面積に比例して、強力な接着力が得られる利点がある。但し、バインダー13によりカプセル本体111の表面の微孔110が埋設して、防カビ剤14が周囲に溶出されず、防カビ効果が失われるおそれがある。このため、バインダー13の厚み調節及び材料選択に留意すべきである。バインダー材料としては、塩化ビニル、酢酸ビニル、アクリル、アルギン酸ナトリウム、ウレタン、シリコーン、フェノール系の各有機系材料のほか、アラビアゴム等の天然ゴム樹脂、デンプン類、糖類、タンパク質類等の材料を用いることもできる。
【0021】
なお、マイクロカプセル11のサイズは上記に限らず、例えば数μm以上数千μm以下の範囲で設定できる。またマイクロカプセル11の素材は、使用後の当該おしぼり1の脱色(塩素)処理、洗濯処理時の過剰溶出を考慮して、シリカ材料の他、非水溶性材料(例えばウレタン樹脂、アクリル樹脂、ビニル樹脂、セルロース樹脂等の有機系材料)を用いることができる。
【0022】
また、図3に示す構成では、マイクロカプセル11はすべて同サイズのものを使用しているが、本発明はこれに限定されない。例えば図4に示すように、互いにサイズの異なるマイクロカプセル11a〜11cを用いてもよい。
このような構成においても、図2の構成と同様の効果が期待できる。小さいサイズのマイクロカプセル11cを利用すれば、繊維密度が比較的高い繊維加工物でも、入り組んだ繊維10の表面にマイクロカプセル11cを分散して付着させられるので好適である。
【0023】
ここで、マイクロカプセル11は繊維10にバインダー13で被着させる方法に限定されず、カプセル本体111と繊維10との親和性を利用して、直接付着させても良い。
図5は、公知の浸漬法を用い、マイクロカプセル11を各繊維10の周面に被着部12において直接被着させた構成を示す。また図6は、互いにサイズの異なるマイクロカプセル11a〜11cを、各カプセルに応じた被着部12a〜12cで繊維10に被着させた構成を示す。
【0024】
シリカ材料からなるカプセル本体111は、他のマイクロカプセル材料に比べて多孔質であることから、天然繊維(綿)である繊維10と物理的に絡みやすく、当該繊維10との親和性(結合性)が高い性質を持っている。従って図5、6のように、浸漬法によりマイクロカプセル11が繊維10に一旦付着された後は、塩素処理や洗濯処理程度では簡単に脱落しない。このため、一定期間にわたり、良好な防カビ特性の発揮が期待できるものである。
(防カビ剤14の組成)
本発明に利用する防カビ剤14は、従来品の各種材料を用いることができるが、有機系複合合成剤で構成することができる。この場合、ビグアナイド系(例えばPHMB)、トリルスルホン系(例えばジヨードメチル−p−トリルスルホン)、ベンズイミダゾール系(例えばメチル(ベンズイミダゾール−2イル)カルバメート(Methyl(benzimidazol-2yl)carbamate))、の中から選ばれた1以上の成分を組成に含めると、防カビ特性を持続させる上で好適である。この組成では薬剤安定温度をー40℃以上400℃以下の範囲で設定できるほか、他の有機、農薬系防カビ剤と同様に、細菌(バクテリア)や真菌(カビ)の細胞壁を破壊し、これらの構成要素であるタンパク質、DNA、SH基等の生合成を阻害する能力が発揮される。
【0025】
当該効果は、MIC値が25ppm以下の少量で発揮される。この添加量は一般的な有機、農薬系に比べて1/5程度、無機系に比べると1/50程度で十分効果が得られることを意味する。当該防カビ剤14で生合成を阻害された菌は、同種菌に危険情報を伝達するが、これにより菌が防カビ剤14周辺に近寄らなくなり(忌避効果)、付着している菌は最終的に栄養素が欠乏して死滅する。
【0026】
なお、マイクロカプセル中の防カビ剤14の濃度としては、いずれの濃度であってもそれなりの効果は望めるが、本願発明者の検討によれば、PHMBが10ppm以上50000ppm以下の濃度範囲が適当であり、一例として500ppm又は600ppmとなるように調整するのが好適である。
なお防カビ剤14の成分としては、上記した有機系複合合成剤の他、公知の有機系抗菌防カビ剤を単体若しくは相互の組み合わせで利用できる。すなわち、チアベンダゾール、カルベンダジン、キャプタン、フルオロフォルペット、クロルキシレノール、クロルクレゾール、クロロタロニル、1、2-ジブロモ-2、4-ジシアノブタン、ソディウムピリチオン、ジンクピリチオン、IPBC、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン及び5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンの混合溶液等が例示できる(「抗菌・抗カビの最新技術とDDSの実際」、2005年4月7日発刊、NTS出版 を参照)。
(効果特性)
以上の構成を有するおしぼり1においては、以下の各効果が相乗して発揮される。
【0027】
第一に、マイクロカプセル11に導入された防カビ剤14が、当該カプセル本体111の無数の微孔110を通じて外部に除放されることで防カビ性が発揮される。従って、防カビ剤14を直接繊維10の表面に付着させた構成に比べ、防カビ剤14が一度に周囲に飛散・揮発することがない。
よって、従来構成に対して比較的長期間にわたり防カビ性が発揮され、繊維10の表面にカビが繁殖したり、カビが原因で発生する悪臭・変色を防止できる。カビが一旦発生すると、微風でも胞子が周囲に舞い、これを人が吸引することで肺を痛める可能性があるが、本発明では上記のようにカビの増殖を防ぐことで、これらの問題を低減できる。
【0028】
上記防カビ効果は、おしぼり1において、カプセル本体111表面に配された無数の微孔111を通じて防カビ剤14を外部に除放させることで得られる。この効果は特に、おしぼりを湿潤状態で一定期間(場合によってはさらに樹脂フィルムでラッピングされた状態で一定期間)、使用前に保管される場合など、カビの繁殖条件が高い場合に有用である。
【0029】
さらに冬場など、おしぼり1が加湿且つ加温状態で保管される場合には、カビの繁殖環境がさらに高くなるが、この場合においても非常に効果的に防カビ性が発揮される。
なお、カビが発生したおしぼりは、通常は使用に至ることなく契約者が業者に連絡し、当該業者により速やかに回収され、カビ除去のため脱色(塩素)処理・洗濯処理や廃棄処理等の対象とされる。しかし、このようなサービスは本来望ましいものではなく、おしぼりの品質低下や、顧客への信頼性を損なう原因となり、事業コストの増加にもなりうる。そこで本発明の防カビ性おしぼり1を用いれば、このような無用なおしぼりの回収に伴う各手間を飛躍的に低減できるので、安定した品質のおしぼりの提供と事業コストの低減が両立が実現され、高い信頼性のもと、事業活動に大きな効果を期待できるものである。
【0030】
また、カビはおしぼりの繊維に付着した汚れの他、繊維自体を栄養分として侵食し、使用後脱色(塩素)処理を行う前まで繁殖し続ける。しかし本発明では、このようなカビの繁殖も防カビ剤14により防止できるため、繊維10の侵食劣化を効果的に抑制し、回収後のおしぼりの廃棄率を低減させることができる。
第二に、本発明のおしぼり1では、マイクロカプセル11に防カビ剤14を内包しており、当該防カビ剤14の大部分がカプセル本体111に被覆されている。よって、脱色処理及び洗濯処理中においても、塩素溶液や洗浄液に触れる量が少なく、溶出しにくい。これにより、防カビ剤を繊維に直接付着させる従来構成に比べ、外界からの影響を受けにくいため、洗濯耐久性に優れる特性を持つ。
【0031】
また、使用後の おしぼり1を使用後回収して各再生処理を施しても、これによって防カビ性が過度に失われず、当該おしぼり本体1Xの有する通常の寿命(一般に使用後の回収が30〜40サイクル繰り返されるまで)に至るまで、優れた防カビ性の維持が期待できるものである。
なお、カプセル本体111をシリカ材料等、非水溶性の高い材料で構成した場合には、脱色・洗濯処理時のカプセル11の耐久性を向上させることができ、且つ、繊維10に対する親和性が高いことから強力な付着性を確保できる。よって、おしぼり1における長期間の防カビ性の維持に有益である。
【0032】
おしぼりの悪臭は、上記カビの繁殖の他、回収後の塩素・洗濯処理のムラ(殺菌処理の不足を含む)による雑菌の繁殖が原因となる場合もある。しかし本発明では、防カビ・殺菌性ともに優れた性能を有する防カビ剤14として、上記有機系複合合成剤を用いることで、このような雑菌由来の悪臭も効果的に低減でき、好適である。
従って本発明では、従来のように、防カビ性とともに殺菌効果を高める目的で使用後のおしぼりを高濃度の塩素で処理する必要がなく、当該処理にかかるコストの低減が図れるほか、繊維の早期損傷を低減でき、繊維10のサイクル寿命の改善も期待できる。
【0033】
また、上記マイクロカプセル11に防カビ剤14を内包させ、防カビ剤14を長期保持させることで、雑菌類(各種大腸菌、サルモネラ菌、黄色ブドウ菌種等)に対する経時的な衛生管理も可能となり、使用者の感染症予防等の効果も十分期待できる。
従って、上記衛生管理は、本発明によればオゾン殺菌、高温スチーム、特殊洗剤を用いた処理等、特別な機械設備や対策を行わなくても実施でき、低コストで実現性に優れる点において非常に有利である。
【0034】
またマイクロカプセル11を繊維10に対してバインダー13で付着させると、繊維及びマイクロカプセルの親和性に関わらず、マイクロカプセルを強力に付着させることができる。従って、脱色・洗濯処理時に繊維同士の摩擦や、物理的振動等が加わっても、マイクロカプセル11をより効果的に脱落防止できるメリットが奏される。
(マイクロカプセル11の製造方法)
以下、図7を用いて、界面重合法に基づくマイクロカプセル11の製造プロセスを説明する。当該製造プロセスは大別して(a)〜(d)の4段階で行う。なお、説明の都合上、形成中のマイクロカプセル11は模式的な断面図で表しているが、実際は当然ながら、前述したように積層構造をなす球体である。
【0035】
まず、カプセル本体111に導入する防カビ剤14を含む溶液を調整する。本発明では洗濯耐久性を考慮して、比較的水溶性が低い防カビ剤を用いることが望ましく、これを満たす成分例としてPHMB及びジヨードメチル−p−トリルスルホンを使用する。PHMBは常温で液体であり、ジヨードメチル−p−トリルスルホンは粉末状であるので、PHMBにジヨードメチル−p−トリルスルホンを溶解させて両者の混合物を作製する。これに必要に応じて溶媒を少量ずつ添加する。
【0036】
調整した防カビ剤液を、油系溶媒に投入する(図7(a))。
次に、上記油系溶媒をスターラーで攪拌させ、防カビ剤液の液滴を油系溶媒中に拡散させて、溶液全体をエマルジョン(乳濁液)化させる。これにより油中水滴(W/O型)分散系溶液を形成する(図7(b))。
続いて、上記攪拌状態を保ちつつ、当該溶液に、非水溶性のシリカ材料を含み溶液全体で水溶性に調整されたマイクロカプセル材料を投入する(図7(c))。
【0037】
これにより、防カビ溶液の液滴周囲をマイクロカプセル材料が取り囲み、マイクロカプセル構造が形成される。
その後、防カビ溶液からカプセルを取り出す。そして余分な水分・溶媒を揮発させて乾燥させるとマイクロカプセル11が完成する(図7(d))。
なお、図7では油中水滴(W/O型)分散系溶液を形成する例を示したが、防カビ液及びマイクロカプセル材料の特性が油系であれば、これに合わせて、水中油滴(O/W型)分散系溶液を形成してもよい。
【0038】
また、図7(a)において、防カビ剤液を投入する代わりにダミーの水溶液を使用し、マイクロカプセル本体のみを先に形成することもできる。この場合、ダミーの水溶液は図7(c)のステップ後、カプセル本体から除去する。その後、カプセル本体を取り出し、これを防カビ剤液に投入する。溶液を攪拌すると、カプセル本体の微孔から内部に防カビ剤が浸透する。これにより、図7(d)と同様のマイクロカプセル11が得られる。
(おしぼり本体へのマイクロカプセルの被着方法)
本発明では、繊維10にマイクロカプセル11を接合する方法として、公知のいずれの方法も適用できる。例えば、吸尽法(浸漬吸収法)、プリント法、パッド法、スプレー法、グラビア法、ナイフ法等の公知のコーティング方法が挙げられ、これらの何れか又は併用により、マイクロカプセル11を繊維10の表面に固着できる。
【0039】
図8は、このうち吸尽法に基づいて繊維10にマイクロカプセル11を接合させる方法を図示している。
当図に示す方法では、まず、裁断されていない帯状のおしぼり本体1X、ローラ101〜105、バットに投入したマイクロカプセル分散液(マイクロカプセル11及びバインダー13を組成に含む)を用意する。ローラ101は繰り出しローラ、ローラ102〜104は加熱ローラであり、各周面が所定の加熱温度(例えば90℃)に加熱されている。ローラ105は巻き取りローラである。
【0040】
接合処理の実施時には、まず図8に示すように、上流側から下流側に向かって、おしぼり本体1Xを各ローラ101〜105に懸架させつつ、ローラ101と102の間で分散液中に浸漬させるようにする。この状態で各ローラ101〜105を回動駆動させると、繰り出しローラ101で繰り出されたおしぼり本体1Xは、順次、分散液中に浸漬される。そして当該分散液中でおいて、マイクロカプセル11が繊維10の表面にバインダー13とともに付着する。この状態で加熱ローラ102〜104により分散液から引き上げられた処理済みおしぼり本体1Yは、各加熱ローラ102〜104の加熱周面において加熱され、溶媒成分を揮発除去される。これにより、バインダー13が次第にマイクロカプセル11を繊維10に固着させ、乾燥される。乾燥後の処理済みおしぼり本体1Yは巻き取りローラ105において巻き取られる。その後、所定のサイズに裁断され、湿潤状態に処理されると防カビ性おしぼり1が完成されることとなる。
【0041】
(洗濯耐久性について)
上記の方法で実施例の防カビ性おしぼり(防カビ剤0.2%〜2.0%添加品)を作製し、防カビ性の洗濯耐久性について調べた。
具体的には、作製した実施例の防カビ性おしぼりについて、塩素処理(脱色処理)及び洗濯処理を順に行い、これを1セットとして、30セット繰り返した。
【0042】
次に、上記30セットの処理を終了した防カビ性おしぼりについて、カビ抵抗性試験(5年間相当の加速環境促進試験)を行い、カビの繁殖状態を確認した。
各処理条件は以下の通りとした。
次亜塩素酸ナトリウム(又はさらし粉)350ppmの水溶液に実施例の防カビ性おしぼりを3分間浸漬した。その後、100℃以上に加熱された熱湯蒸気に10分間曝露し、殺菌処理を行った。
【0043】
続いて、洗濯液として直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、メタ珪酸ナトリウムを含む洗濯液を用い、常温で1時間、洗濯処理(内洗濯機での洗濯時間は20分程度)を行った。
カビ抵抗性試験については、以下の手順で行った。
まず、無機寒天培地に対し、予め選択した試験菌45種類を約10個/mlの混合胞子懸濁液で塗布した。これに前記塩素処理・選択処理を実施した実施例の防カビ性おしぼりを配置し、室温で21日間以上載置した後のカビの繁殖の繁殖の有無を目視で調べた。なお当該試験は、JIS Z 2911以上の公的試験強度を試験菌数、培養時間、培地等の各条件において上回る評価性を担保するものである。
【0044】
上記実験結果、実施例の防カビ性おしぼりは、新品とほぼ同様の防カビ性が保持されていることが確認された。すなわち本発明によれば、通常のおしぼりと同様の長期寿命にわたり、信頼性の高い防カビ性が発揮されると考えられる。
(その他の事項)
上記実施の形態1では、おしぼり本体の繊維を編成して構成しているが、不織布を用いてもよい。
【0045】
また、本発明の繊維加工物は、おしぼりの他、タオルや手拭にも適用できるが、平たい布片に限定するものではなく、例えば衣類や手袋、靴下等の加工物としてもよい。この場合、剣道具の裏地を含むスポーツ用衣類や、作業現場用衣類、雨具等、汗や雨で湿潤した状態での継続使用が想定される場合において、特に良好な防カビ・抗菌効果を期待することができる。
【0046】
また、防カビ性繊維を予め作製しておき、当該繊維を一次加工品として、これを用いて各種繊維加工物(二次加工品)を作製してもよい。
さらに、本発明におけるマイクロカプセル11は、図2に示されるいわゆる球形単核構造に限定されるものではなく、球形多核構造でもよいし、不定形単核・多核構造であってもよい。また、カプセル本体111は中空構造に限定されるものではなく、内部に空隙を有する低密度体で構成し、当該カプセル本体111中に防カビ剤14を含ませる構成としてもよい。
【0047】
上記実施の形態1では、微孔110を有するマイクロカプセル11の構成を例示したが、本発明では微孔110を形成せず、マイクロカプセル11が経時的或いは物理的に徐々に潰れることで、防カビ剤を周囲に放出する構成としてもよい。しかしながら、洗濯耐久性と防カビ性の長期保持の両立の面からは、やはり微孔を利用し、カプセル本体111自体は潰れない構成とするのが望ましいと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の防カビ性繊維加工物は、おしぼりの他、例えば医療、寝具、建築素材(壁紙・絨毯等)への幅広い利用が考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本実施の形態1における防カビ性おしぼりの外観図である。
【図2】防カビ性おしぼりの繊維の構成を示す部分拡大図である。
【図3】マイクロカプセルの構成を示す部分拡大図である。
【図4】マイクロカプセルの別の実施形態を示す部分拡大図である。
【図5】マイクロカプセルの別の被着形態を示す部分拡大図である。
【図6】マイクロカプセルの別の被着形態を示す部分拡大図である。
【図7】マイクロカプセルの製造方法を示す図である。
【図8】おしぼり本体へのマイクロカプセルの被着方法を示す図である。
【符号の説明】
【0050】
1 防カビ性おしぼり
1X おしぼり本体
10 繊維
11、11a〜11c マイクロカプセル
12、12a〜12c 被着部
13 バインダー
14 防カビ剤
111 カプセル本体
110、110a〜110c 微孔



【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空内部と連通する複数の微孔が表面に形成されたマイクロカプセル本体中に防カビ剤が含まれたマイクロカプセルを備え、
当該マイクロカプセルが繊維に付着されてなる防カビ性繊維加工物。
【請求項2】
前記防カビ剤は、PHMB、ジヨードメチル−p−トリルスルホン、メチル(ベンズイミダゾール−2イル)カルバメートの中から選ばれた1以上の成分組成を含んでなる
ことを特徴とする請求項1に記載の防カビ性繊維加工物。
【請求項3】
マイクロカプセル中には前記防カビ剤の成分組成としてPHMBが10ppm以上50000ppm以下の濃度範囲で含まれている
ことを特徴とする請求項2に記載の防カビ性繊維加工物。
【請求項4】
前記マイクロカプセルは非水溶性材料で構成されている
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の防カビ性繊維加工物。
【請求項5】
前記非水溶性材料はシリカ材料である
ことを特徴とする請求項4に記載の防カビ性繊維加工物。
【請求項6】
前記繊維は綿である
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の防カビ性繊維加工物。
【請求項7】
前記マイクロカプセルはバインダーにより繊維に付着されている
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の防カビ性繊維加工物。
【請求項8】
前記バインダーは、塩化ビニル、酢酸ビニル、アクリル、アルギン酸ナトリウム、ウレタン、シリコーン、フェノール、天然ゴム樹脂、デンプン類、糖類、タンパク質類の中から選ばれた1以上の成分組成を含んでなる
ことを特徴とする請求項7に記載の防カビ性繊維加工物。
【請求項9】
前記繊維加工物はおしぼりである
ことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の防カビ性繊維加工物。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−274475(P2008−274475A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−118989(P2007−118989)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(507142649)
【Fターム(参考)】