説明

防振ゴム用ゴム組成物

【課題】防振ゴムとしての振動特性や耐ヘタリ性を損なうことなく、低温領域でのゴム硬度の変化量を低減した防振ゴム用ゴム組成物を提供すること。
【解決手段】ゴム成分を含有する防振ゴム用ゴム組成物であって、ゴム成分の全量を100重量部としたとき、天然ゴムを1〜60重量部およびポリイソプレンゴムを40〜99重量部含有する防振ゴム用ゴム組成物。さらに、ゴム成分100重量部に対して、ポリブタジエンゴムを10〜30重量部含有することが好ましく、さらに、前記ゴム成分100重量部に対して、硫黄系加硫剤を0.6重量部未満含有することがより好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム成分を含有する防振ゴム用ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の自動車は高出力化する一方、静粛性が求められている。また、自動車の使用環境も様々であって、東南アジアや中東諸国など外気温の高い地域で使用される場合もあれば、寒冷地にて使用される場合もある。一般に、天然ゴムを主成分として含有し、耐熱性を向上した防振ゴムを備える自動車では、外気温の高い地域で使用される場合は特に問題がないが、寒冷地で長期間放置された場合、エンジン再始動時に異常振動が発生する場合がある。これは、防振ゴムが極低温(例えば、−20℃程度)に晒された場合、ゴム硬度の変化が大きくなり、防振ゴムとしての機能が著しく低下することが原因であると考えられる。したがって、静粛性を考慮すると、特に低温時においてゴム硬度の変化量が小さい防振ゴム用ゴム組成物の開発が望まれていた。
【0003】
上記のとおり、防振ゴム用ゴム組成物のゴム成分としては、従来から天然ゴムを主成分とするゴム組成物が一般に用いられており、これらのゴム成分を含有するゴム組成物の加硫ゴムのゴム硬度の変化量を低減する技術としては、ゴム組成物中の硫黄系加硫剤を増量する技術が知られている。しかしながら、かかる技術では、防振ゴムの耐熱性が悪化する傾向があるため、低温領域でのゴム硬度の変化量の低減と耐熱性との両立は困難であった。
【0004】
下記特許文献1では、ゴム成分として、ムーニー粘度ML1+4(100℃)が20〜150の範囲内にある天然ゴム、イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴムおよびブタジエンゴムからなる群から選ばれた、少なくとも1種以上のゴムからなる高分子量成分を含有する防振ゴム組成物が記載されている。また、下記特許文献2〜3では、天然ゴムおよび/または合成ポリイソプレンゴムを主成分とする防振ゴム用ゴム組成物が記載されている。しかしながら、これらの文献では具体的に、天然ゴムとポリイソプレンゴムとが併用された例は記載されておらず、特に天然ゴムとポリイソプレンゴムとの配合比率が、低温領域でのゴム硬度の変化量に対してどのような影響を及ぼすかについて、記載や示唆がされているわけではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平07−216136号公報
【特許文献2】特公平05−1812号公報
【特許文献3】特公平07−88439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、防振ゴムとしての振動特性や耐ヘタリ性を損なうことなく、低温領域でのゴム硬度の変化量を低減した防振ゴム用ゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、以下に示す防振ゴム用ゴム組成物により上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、ゴム成分を含有する防振ゴム用ゴム組成物であって、前記ゴム成分の全量を100重量部としたとき、天然ゴムを1〜60重量部およびポリイソプレンゴムを40〜99重量部含有する防振ゴム用ゴム組成物、に関する。
【0009】
上記のとおり、天然ゴムの一部をポリイソプレンゴムで置換し、天然ゴムとポリイソプレンゴムとの配合比率を特定の範囲内に設定することにより、後述の結果が示すとおり、防振ゴムとしての振動特性や耐ヘタリ性を損なうことなく、低温領域でのゴム硬度の変化量を低減することができる。
【0010】
上記防振ゴム用ゴム組成物において、さらに、ゴム成分100重量部に対して、ポリブタジエンゴムを10〜30重量部含有することが好ましい。かかる構成によれば、動倍率を低減することができ、静寂性に優れた防振ゴムを提供できる。
【0011】
上記防振ゴム用ゴム組成物において、さらに、ゴム成分100重量部に対して、硫黄系加硫剤を0.6重量部未満含有することが好ましい。かかる構成によれば、低温領域でのゴム硬度の変化量を低減しつつ、耐熱性の悪化を防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る防振ゴム用ゴム組成物においては、防振ゴムとしての振動特性や耐ヘタリ性を損なうことなく、低温領域でのゴム硬度の変化量を低減するために、ゴム成分として天然ゴム(NR)およびポリイソプレンゴム(IR)を特定の配合比率で併用することが肝要である。具体的には、ゴム成分の全量を100重量部としたとき、天然ゴムを1〜60重量部およびポリイソプレンゴムを40〜99重量部含有する。防振ゴムとしての振動特性や耐ヘタリ性を向上し、さらには低温領域でのゴム硬度変化量の低減を図るためには、天然ゴムを20〜60重量部およびポリイソプレンゴムを40〜80重量部含有することが好ましく、天然ゴムを30〜40重量部およびポリイソプレンゴムを40〜60重量部含有することがより好ましい。
【0013】
上記天然ゴムおよびポリイソプレンゴムとしては、防振特性および低温特性を十分に確保するため、ムーニー粘度ML1+4(100℃)が60〜100であることが好ましい。同様の見地から、天然ゴムおよびポリイソプレンゴムの数平均分子量は、200000〜1500000であることが好ましい。なお、ムーニー粘度ML1+4(100℃)は、JIS K6300に準拠して(L形ロータ)、予熱1分、測定4分、温度100℃にて測定することができる。また、数平均分子量はGPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィ)を使用して以下の条件下で測定し、標準ポリスチレンにより換算することで算出できる。
GPC装置:島津製作所製、LC−10A
カラム:Polymer Laboratories社製、(PLgel、5μm、500Å)、(PLgel、5μm、100Å)、及び(PLgel、5μm、50Å)の3つのカラムを連結して使用
流量:1.0ml/min
濃度:1.0g/l
注入量:40μl
カラム温度:40℃
溶離液:テトラヒドロフラン
【0014】
本発明においては、上記範囲内で天然ゴムおよびポリイソプレンゴムを含有するのであれば、他のジエン系合成ゴム、具体的には、ポリブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブチルゴム(IIR)、およびアクリルニトリルブタジエンゴム(NBR)などを含有しても良い。これらのジエン系合成ゴムの中でも、ゴム成分の全量を100重量部としたとき、ポリブタジエンゴム(BR)を10〜30重量部含有する場合、動倍率を低減することができ、静寂性に優れた防振ゴムを提供できるため好ましい。
【0015】
本発明に係るゴム組成物においては、ゴム成分に加えてさらに硫黄系加硫剤を含有することが好ましい。硫黄系加硫剤としての硫黄は通常のゴム用硫黄であればよく、例えば粉末硫黄、沈降硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などを用いることができる。本発明に係る防振ゴム用ゴム組成物における硫黄の含有量は、耐熱性悪化を防止するために少ないことが好ましく、具体的にはゴム成分100重量部に対して0.6重量部未満であることが好ましく、0.3重量部未満であることがより好ましい。なお、硫黄系加硫剤が少なすぎると、加硫ゴムの架橋密度が不足してゴム強度などが低下することが懸念される。このため、ゴム成分100重量部に対する硫黄系加硫剤の含有量は、0.1重量部以上であることが好ましい。
【0016】
本発明の防振ゴム用ゴム組成物は、上記ゴム成分および硫黄系加硫剤と共に、加硫促進剤、カーボンブラック、シリカ、シランカップリング剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、加硫促進助剤、加硫遅延剤、老化防止剤、ワックスやオイルなどの軟化剤、加工助剤などの通常ゴム工業で使用される配合剤を、本発明の効果を損なわない範囲において適宜配合し用いることができる。
【0017】
カーボンブラックとしては、例えばSAF、ISAF、HAF、FEF、GPFなどが用いられる。カーボンブラックは、加硫後のゴムの硬度、補強性、低発熱性などのゴム特性を調整し得る範囲で使用することができる。カーボンブラックの配合量はゴム成分100重量部に対して、10〜80重量部であることが好ましく、15〜75重量部であることがより好ましい。この配合量が10重量部未満では、カーボンブラックの補強効果が充分に得られない場合があり、80重量部を超えると、発熱性、ゴム混合性および加工時の作業性などが悪化する場合がある。
【0018】
加硫促進剤としては、ゴム加硫用として通常用いられる、スルフェンアミド系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、チオウレア系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤などの加硫促進剤を単独、または適宜混合して使用しても良い。
【0019】
老化防止剤としては、ゴム用として通常用いられる、芳香族アミン系老化防止剤、アミン−ケトン系老化防止剤、モノフェノール系老化防止剤、ビスフェノール系老化防止剤、ポリフェノール系老化防止剤、ジチオカルバミン酸塩系老化防止剤、チオウレア系老化防止剤などの老化防止剤を単独、または適宜混合して使用しても良い。
【0020】
本発明の防振ゴム用ゴム組成物は、ゴム成分および硫黄系加硫剤、必要に応じて、カーボンブラック、シリカ、シランカップリング剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、加硫促進剤、老化防止剤、ワックスなどを、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールなどの通常のゴム工業において使用される混練機を用いて混練りすることにより得られる。
【0021】
また、上記各成分の配合方法は特に限定されず、硫黄系加硫剤、および加硫促進剤などの加硫系成分以外の配合成分を予め混練してマスターバッチとし、残りの成分を添加してさらに混練する方法、各成分を任意の順序で添加し混練する方法、全成分を同時に添加して混練する方法などのいずれでもよい。
【0022】
上記各成分を混練し、成形加工した後、加硫を行うことで、耐久性と耐ヘタリ性とを向上しつつ、特に優れた耐熱性を有する防振ゴムを製造することができる。かかる防振ゴムは、エンジンマウント、トーショナルダンパー、ボディマウント、キャップマウント、メンバーマウント、ストラットマウント、マフラーマウントなどの自動車用防振ゴムを始めとして、鉄道車両用防振ゴム、産業機械用防振ゴム、建築用免震ゴム、免震ゴム支承などの防振、免震ゴムに好適に用いることができ、特にエンジンマウントなどの耐熱性を必要とする自動車用防振ゴムの構成部材として有用である。
【実施例】
【0023】
以下に、この発明の実施例を記載してより具体的に説明する。
【0024】
(ゴム組成物の調製)
ゴム成分100重量部に対して、表1の配合処方に従い、実施例1、比較例1〜2のゴム組成物を配合し、通常のバンバリーミキサーを用いて混練し、ゴム組成物を調整した。表1に記載の各配合剤を以下に示す。
【0025】
a)ゴム成分
天然ゴム(NR) RSS#3((ムーニー粘度(ML1+4(100℃)))=70、シス1,4結合量=略100%、数平均分子量Mn=1000000)
ポリイソプレンゴム(IR) 合成ポリイソプレンゴム(「IR2200」、JSR社製、(ムーニー粘度(ML1+4(100℃)))=82、シス1,4結合量=98%、数平均分子量Mn=300000)
ポリブタジエンゴム(BR) (「CB22」、Lanxess社製、(ムーニー粘度(ML1+4(100℃)))=63、シス1,4結合量=96%、数平均分子量Mn=250000)
b)硫黄系加硫剤 5%オイル処理硫黄
c)カーボンブラック GPF(「シーストG」、東海カーボン社製)
d)酸化亜鉛 3号亜鉛華
e)ステアリン酸 工業用ステアリン酸
f)加工助剤 (「OZOACE−2701」、(日本精鑞)社製)
g)老化防止剤
(A)(イミダゾール系老化防止剤2−メルカプトベンズイミダゾール亜鉛塩)(「ノクラックMBZ」、(大内新興化学工業)社製)
(B)(アミン−ケトン系老化防止剤 2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン重合体)(「ノクラック224」、(大内新興化学工業)社製)
(C)(芳香族アミン系老化防止剤N−フェニル−N'−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン)(「ノクラック 6C」、(大内新興化学工業)社製)
h)加硫促進剤
(A)(チウラム系加硫促進剤 テトラメチルチウラムジスルフィド )(「ノクセラーTT−P(TT)」、(大内新興化学工業)社製)
(B)(チアゾール系加硫促進剤 ジ−2−ベンゾチアゾリルジスルフィド)(「クセラーDM−P(DM)」、(大内新興化学工業)社製)
i)架橋助剤 (「ビスマレイミド化合物 N,N’−(4,4−ジフェニルメタン)ビスマレイミド」、(「BMI−HS」、(ケイアイ化成)社製))
【0026】
(評価)
評価は、各ゴム組成物を所定の金型を使用して、160℃で20分間加熱、加硫して得られたサンプルゴムについて行った。
【0027】
<硬度>
JIS−K 6253に準拠し、タイプAデュロメーターにて−20℃でのサンプルゴムのゴム硬度(−20℃;初期ゴム硬度)を測定した。その後、サンプルゴムを−20℃で168時間放置し、放置後のゴム硬度(−20℃;168時間後ゴム硬度)を測定した。初期ゴム硬度と168時間後のゴム硬度とを比較し、ゴム硬度の変化量の大きさを測定した。結果を表1に示す。
【0028】
<動倍率>
JIS−K 6385に準拠し、動的バネ定数と静的ばね定数とを測定し、前者と後者との比から動倍率を算出した。比較例1の動倍率を100として指数評価し、指数が小さいほど動倍率が低減され、防振性能が優れることを示す。結果を表1に示す。
【0029】
<圧縮永久歪>
JIS−K 6262に準拠し、100℃環境下で500時間放置後のサンプルゴムの測定結果を用いた。評価は比較例1の圧縮永久歪率を100として指数評価し、数値が小さいほど、耐ヘタリ性に優れていることを示す。結果を表1に示す。
【0030】
<切断時伸び変化率(%)>
JIS−K 6251に準拠し、熱老化前と100℃−168時間熱老化後とのゴムサンプルの切断時伸びを測定し、前者と後者との変化割合(%)を測定した。結果を表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
表1の結果から、実施例1に係る加硫ゴムでは、比較例1に比べて、防振ゴムとしての振動特性や耐ヘタリ性に優れ、かつ低温領域でのゴム硬度の変化量が低減されていることがわかる。一方、比較例2ではポリイソプレンゴムの配合割合が低いため、低温領域でのゴム硬度の変化量が大きいことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分を含有する防振ゴム用ゴム組成物であって、
前記ゴム成分の全量を100重量部としたとき、天然ゴムを1〜60重量部およびポリイソプレンゴムを40〜99重量部含有する防振ゴム用ゴム組成物。
【請求項2】
さらに、ゴム成分100重量部に対して、ポリブタジエンゴムを10〜30重量部含有する請求項1に記載の防振ゴム用ゴム組成物。
【請求項3】
さらに、前記ゴム成分100重量部に対して、硫黄系加硫剤を0.6重量部未満含有する請求項1または2に記載の防振ゴム用ゴム組成物。