説明

防振ゴム用伸縮性織編物

【課題】
防振ゴムが変形した際のゴム弾性体との追随性に優れ、かつ摺動性に優れた、防振ゴム用伸縮性織編物を提供する。
【解決手段】
多層からなり、一方の層が摺動面、他方の層がゴムとの固着面となる防振ゴム用織編物であって、摺動面となる層がフッ素系繊維およびポリウレタン弾性糸から構成されることを特徴とする防振ゴム用伸縮性織編物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防振ゴム用の伸縮性織編物およびそれを用いた防振ゴムに関する。特に、摩擦に対する摺動性と織編物が固着するゴム弾性体との固着性に優れた織編物に関するものである。例えば自動車など車両の走行時あるいは旋回時に発生するロール(車体の傾き)を抑制するスタビライザー(別名アンチロールバー)に装着される車両用防振ゴム材に好適に用いられ、摩擦や砂などの異物混入を抑制することで異音発生や摩滅を防ぐことができ、ゴムとの固着性が良好な防振ゴム用伸縮性織編物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、振動及び振動に伴って生じる異音を防止するための各種用途において、ゴム弾性体や樹脂組成物にフィラーを充填させた制振材などが使用されている。しかし、高荷重下での振動や摩擦による異音への対策としては前述のゴム弾性体などでは限界があった。
例えば、車体のロール(車体の傾き)を抑制するスタビライザー(別名「アンチロールバー」)には一般的にゴム弾性体からなる防振ゴムブッシュが使用されてきた。前記スタビライザーとは、船、飛行機、自動車、自転車などの車両に取り付けられ、操縦時の不規則なゆれや転倒、転覆を防ぐために取り付けられるものである。そのなかでも、自動車用のスタビライザーは、左右のサスペンションアームをコの字型をしたバネ鋼からなるバーで連結し、左右のサスペンションの沈み込みに差異が生じた時に、連結したバーにねじれが生じてバネ反力が発生し、そのバネ反力が左右のサスペンションの動きを制御して車体の傾きを減少させる構造をしている。そして、タイヤが路面から受ける振動やスタビライザーのねじれから生じる摩擦や異音を防止、抑制するため、前記バネ鋼からなるバーが車体に固定される部分に、ゴム弾性体などからなる防振ゴムブッシュが使用される。
【0003】
かかる防振ゴムブッシュには、スタビライザーバーのねじれによる摩擦力がかかると同時に、自動車の自重、すなわち高荷重がかかるため、ゴムとの固着性と摩擦による異音防止と合わせて耐摩耗性が要求されている。さらに、スタビライザーバー表面は防錆性の観点から塗装を施されていることが多く、平滑な面となっているため、スタビライザーバーにねじれが生じて防振ゴムブッシュと、摩擦や擦れが生じた場合、スティックスリップが起こり異音を発生させてしまうという問題があった。この防振ゴムブッシュとスタビライザーバーによる異音は、自動車の重量が重いほど大きくなり易く、また、遮音性能が求められる車両ほど問題視され易く、改善の要求が高まってきている。
【0004】
前記のスタビライザーブッシュとしては、特許文献1に、ゴム弾性体から成り、スタビライザーバーと車体側との間で振動吸収する車両用スタビライザーブッシュであって、スタビライザーバーを挿通させる挿通孔周りに、例えば「テフロン」(登録商標)からなる布をゴム弾性体から剥離しないように強固に結合したものが開示されている。確かに、この文献に記載のスタビライザーブッシュによれば、スタビライザーバーとゴムとの直接接触による異音の発生が抑えられ、接着剤を布の両面に塗布することによりゴム弾性体からの剥離も抑えられる。しかしながら、布の両面に接着剤を塗布することにより、低摩擦特性が阻害されるという問題がある。また、接着剤をゴムとの接着面のみに塗布した場合、ゴムとの強固な結合が不十分となってゴム弾性体から布が剥離しやすくなり、さらには、布の反対面にも接着剤が染みだして、布の低摩擦特性が阻害されるという懸念があった。
【0005】
さらに、一般的にこれまで開示された布には伸縮特性がないため、ゴム弾性体との追随性が悪く、車両走行時の衝撃によって、スタビライザーバーとの間に隙間が生じ易くなり、該隙間に砂等の異物が入り込むことで、布の表層部が摩滅、スタビライザーバー表面の塗料が剥がれ、異音発生を引き起こすことが懸念されていた。
【0006】
また、特許文献2にはナイロン繊維からなる筒状編成物に摺動性と接着性向上を目的として樹脂加工を施した自動車のスタビライザーブッシュ用ライナーが開示されている。確かに、この文献に記載のスタビライザーブッシュ用ライナーは、樹脂加工により摺動性やゴムとの接着性が向上され、振動や騒音の防止性という点でも向上されたものとなる。しかしながら、接着性や摺動性を改善するために施される樹脂加工は、特許文献1と同様に剥離することによる問題が懸念されるとともに、筒状編成物自体が硬くなるため伸縮特性がさらに阻害され、特許文献1と同様に異物が入り込むことで、異音発生を引き起こすことが懸念されている。さらに、樹脂加工の工程数が増加するため高コスト化の問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−221284号公報
【特許文献2】特開2005−88828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる従来技術の問題点を解消し、高荷重下における摺動性およびゴムとの固着性に加え、防振ゴムが変形した際のゴム弾性体との追随性に優れた、防振ゴム用伸縮性織編物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる課題を解決するため本発明は、次の構成を有する。
1.多層からなり、一方の層が摺動面、他方の層がゴムとの固着面となる防振ゴム用織編物であって、摺動面となる層がフッ素系繊維およびポリウレタン弾性糸から構成されることを特徴とする防振ゴム用伸縮性織編物、
2.ポリウレタン弾性糸をフッ素系繊維が巻き付いている構造であることを特徴とする前記防振ゴム用伸縮性織編物、
3.固着面側が、ポリエステル、ナイロンおよびポリウレタンから選ばれる繊維を含有することを特徴とする前記いずれかの防振ゴム用伸縮性織編物、
4.固着面側が、ポリトリメチレンテレフタレート繊維またはポリウレタン弾性糸を含有することを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の防振ゴム用伸縮性織編物、
5.多層からなり、一方の層が摺動面、他方の層がゴムとの固着面となる防振ゴム用織編物であって、摺動面となる層がフッ素系繊維を含有し、固着面となる面がポリトリメチレンテレフタレート繊維またはポリウレタン弾性糸を含有することを特徴とする防振ゴム用伸縮性織編物、
6.前記いずれかの防振ゴム用伸縮性織編物がゴムに固着していることを特徴とする防振ゴム。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高荷重下における摺動性、ゴムとの固着性に優れる防振ゴム用伸縮性織編物および防振ゴムが提供されるる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の防振ゴム用伸縮性織編物の一実施態様の概略を表す断面図。
【図2】本発明の防振ゴム用伸縮性織物を組み込んだ、自動車のスタビライザー用防振ゴム材の概略模式図。
【図3】図2のスタビライザー用防振ゴム材4のA−A´矢視断面図の一例である。
【図4】図2のスタビライザー用防振ゴム材4のA−A´矢視断面図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0013】
本発明の防振ゴム用伸縮性織編物は、一方の表面を含む層がフッ素系繊維を含み、他方の表面を含む層がゴムとの固着性に優れる繊維、例えばナイロン繊維やポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略する)繊維などのポリエステル繊維、ポリウレタン繊維等を含んで構成した多層構造を有する伸縮性織編物であって、一方の表面側がフッ素系繊維の低摩擦特性によって達成される摺動面と、他方の表面側がゴムとの固着性に優れた繊維で構成することでゴム弾性体との強固な固着を可能としている。前記摺動面を摩擦対象物との摩擦を生じる部分に配置させることで、接触時の摩擦力を低減させ、高荷重下でのねじれや擦れによる異音発生を抑制することができる。本発明の防振ゴム用伸縮性織編物は、フッ素系繊維自体で構成することによって、繰返し長時間の使用にも耐えうる耐久性を得ることができる。
【0014】
本発明に使用されるフッ素系繊維は、主鎖または側鎖にフッ素原子を1個以上含む繰り返し構造単位を有する重合体からなり、フッ素原子数の多い繰り返し構造単位で構成されたものほど好ましい。例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン共重合体(FEP)、4フッ化エチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン−4フッ化エチレン共重合体(ETFE)などを挙げることができ、中でも、表面低摩擦特性に優れるPTFE繊維を用いることがさらに好ましい。また、上記のような単重合体あるいは他の成分を繰り返し構造の個数の10%以下程度共重合した共重合体でもよい。
【0015】
フッ素系繊維の形態としては、1本のフィラメントで構成されるモノフィラメント、複数本のフィラメントで構成されるマルチフィラメントのいずれも採用することができる。前述のマルチフィラメントは、単重合体と共重合体からなる繊維を複合して構成することも可能であるが、表面低摩擦特性に優れるPTFE繊維のみで構成すると、より摺動性が優れ摩擦時の異音発生が抑制されるので好ましい。
【0016】
本発明の防振ゴム用伸縮性織編物は、織編物に伸縮機能を付与するため、摺動面側の繊維にはフッ素系繊維とポリウレタン弾性糸とで構成した低摩擦被覆弾性糸を用いることが好ましい。かかる低摩擦被覆弾性糸は、芯鞘構造からなる繊維形態を有するものであり、芯部をポリウレタン弾性糸、鞘部をフッ素系繊維で構成したものである。この繊維では、鞘部となるフッ素系繊維を用いて芯部となるポリウレタン弾性糸を被覆し、摺動面側へ露出する繊維成分をフッ素系繊維とすることで、織編物の伸縮性と摺動面の低摩擦特性を達成することができる。
【0017】
また、ゴム弾性体との固着面を構成する繊維に関しては、特にフッ素系繊維を含有する必要はない。
【0018】
本発明の固着性面に使用される繊維としては、当然ながらゴムとの固着性に優れることが望まれ、窒素、酸素、または硫黄原子を分子中に有する有機ポリマーからなる繊維を用いることが好ましく、ナイロン、PET・PTTなどのポリエステル、アラミド、ポリフェニレンサルファイド繊維などが好ましい。これらのポリマーは極性原子を有するため、ゴム弾性体との固着性に優れている。また、綿、ウールなどの天然繊維など、ゴム弾性体との接着性が良好なものであれば、これも適宜選択して使用することができる。上記のような合成樹脂には、原糸の製造工程や加工工程での生産性あるいは特性改善のために各種添加剤を含ませてもよい。たとえば、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、平滑剤、帯電防止剤、可塑剤、増粘剤、顔料、難燃剤などを含有せしめることができる。そして、前記ポリマーの中でも、熱安定性が良く、織物や編物などの高次加工性に優れ、ゴム資材との接着性やコストが安いなどの点ではナイロンやPET繊維などを用いることが好ましく、特に接着性の面からナイロン繊維を用いることが好ましい。
【0019】
前記ナイロンやポリエステル繊維などの繊維の形態としては、前述のフッ素系繊維と同様にモノフィラメントやマルチフィラメントで構成することによって、ゴム弾性体など他素材に貼り合わせた際の接着性や固着性がフッ素系繊維より良好となる点で優れる。さらに優れた接着性を得るため、本発明においては紡績糸を採用することも可能である。なぜなら該紡績糸の表層部には、マルチフィラメント等にはない複数本の毛羽を有しているので、ゴム弾性体など他素材と貼り合わせた際、マルチフィラメントよりも見かけ上の表面積が大きいため接着性が向上するとともに、毛羽によるアンカー効果が発現するため、より優れた接着性を有する防振ゴム用伸縮性織物を得ることが可能となる。該紡績糸は、適宜異なる繊維を所望の割合で均一に混合して所望の特性の繊維を得てもよいし、該紡績糸の中に熱融着繊維を含むことも可能である。該熱融着繊維を含むことによって、加熱された際に熱融着性繊維の低融点成分が部分的に溶融し、ゴムとの固着力がさらに強固となり、織編物をカットした際の端部のホツレを防止することが可能となる。
【0020】
本発明の織編物では伸縮性機能があることが好ましい。好ましい伸縮性としては以下のとおりである。
かかる防振ゴム用伸縮性織編物の、タテまたはヨコ方向に対して、9N/cmの荷重を負荷させたときの伸び率は5〜40%の範囲であることが好ましい。さらにタテ/ヨコいずれもこの範囲にあることが好ましい。なお、測定条件はJIS L 1096:2010 8.16.1 A法に準じたものである。タテまたはヨコ方向の伸び率を一定以上とすることで、防振ゴム成型時に使用する成型金型の表面に伸縮性織編物全体が沿い易くなり、防振ゴムの挿通孔に対して、少なくとも直径方向に伸びる防振ゴム用伸縮性織編物とすることで、加硫ゴム成型後のゴム弾性体の変形に対する追随性に優れた防振ゴム材を得ることができる。また伸び率を一定以下とすることで、織編目が拡がり過ぎず、ゴム成型途中のゴムの摺動部側への浸み出しが抑制でき、またゴムの射出圧力によって織編物に生じる皺の発生が抑えられるので好ましい。
【0021】
この伸縮性を付与するために該ゴム弾性体との固着面にはポリトリメチレンテレフタレート(以下、PTTと略する)繊維、または、ポリウレタン弾性糸などの弾性糸を用いることが好ましい。かかるPTT繊維には、PTTとPETを複合させたバイメタル複合糸を用いることがさらに好ましい。収縮率の異なる2種類のポリマー成分により伸縮機能を実現した繊維であり、2種類のポリエステル系重合体を、繊維長さに沿ってサイドバイサイド型に貼り合わせた複合繊維のマルチフィラメントを用いることができる。サイドバイサイド型の複合繊維は、固有粘度や共重合成分、共重合率等が異なる重合体を貼り合わせ、それらの弾性回復特性や収縮特性の差によって、クリンプ(捲縮)を発現するものである。固有粘度差を有するサイドバイサイド型複合の場合、紡糸、延伸時に高固有粘度側に応力が集中するため、2成分間で内部歪みが異なる。そのため、延伸後の弾性回復率差および織編物の熱処理工程での熱収縮率差により高粘度側が大きく収縮し、単繊維内で歪みが生じて3次元コイル捲縮の形態をとる。この3次元コイルの径および単位繊維長当たりのコイル数は、高収縮成分と低収縮成分との収縮差(弾性回復率差を含む)によって決まると言ってもよく、収縮差が大きいほどコイル径が小さく、単位繊維長当たりのコイル数が多くなる。PTT複合繊維の構成としては、トリメチレングリコール(1,3−プロパンジオール)とテレフタル酸から得られる高収縮成分のPTTと、低収縮成分には、高収縮成分であるPTTとの界面接着性が良好で、製糸性が安定している繊維形成性ポリエステルであれば特に限定されるものではない。特に、力学的特性、化学的特性および原料価格を考慮すると、エチレングリコール(1,2−エチレンジオール)とテレフタル酸から得られるPETが好ましい。
また固着面に使用される糸としてのポリウレタン繊維としては、織編物に伸縮性機能を付与するため、ポリウレタン弾性糸をナイロン繊維、またはPETおよびPTT繊維などのポリエステル繊維など、ゴムとの固着性に優れた繊維で被覆した被覆弾性糸を用いることが好ましい。かかる覆弾性糸は、芯鞘構造からなる繊維形態を有するものであり、芯部をポリウレタン弾性糸、鞘部をナイロン、PET繊維またはPTT繊維などのゴム弾性体との固着性に優れた繊維で構成するものである。例えば鞘部となる繊維で芯部となるポリウレタン弾性糸を被覆し、ゴムとの固着面側へ露出する繊維の主な成分をポリウレタン以外の繊維とすることで、織編物の伸縮性とゴム弾性体との固着性が達成できる。
上述のとおり、ポリウレタン弾性糸を摺動面側又は固着面側に使用することがあり、その場合、被覆された状態とする。被覆弾性糸における鞘糸の巻き付けの形態としては、芯糸に対して鞘糸を片方向に巻くシングルカバーリング(「SCY」と略す)と、片方巻きの上からさらに逆方向に巻きつけるダブルカバーリング(「DCY」と略す)とがある。なかでも、DCYはSCYに比べて被覆性に優れているため、伸張時の芯糸の露出をさらに防止するのに適しており、またトルクが無く織編加工性にも優れており、伸縮性のバラツキを抑制する点でも好ましい。
本発明で使用される防振ゴムとして好適なものは、ゴム弾性体の中央部に摺動部となる挿通孔を備えた形状を有するものである。一般的には防振ゴムを成型する金型内にゴムを高温、高圧下で射出して成型する。この場合、未加硫の状態であったものが、加硫された状態となる。また、防振ゴムの挿通孔の形状としては、ストレートの貫通孔で構成されたタイプが主流であるが、中にはテーパー型の形状、すなわち一方の挿通孔と他方の挿通孔の外径が異なる防振ゴムも存在する。これらの防振ゴムの挿通孔を形成する手法は、防振ゴム成型金型の中央部に、所要の挿通孔と同サイズの中実型の鉄芯をセットした状態で、防振ゴム成型を行うことで得ることができる。その際、本発明の防振ゴム用伸縮性織編物の摺動面側と鉄芯の表面側を接触させた態で金型内にセットすることで、挿通孔の表面側は低摩擦被覆弾性糸による低摩擦特性と、ゴムとの固着は固着面用の層を有する繊維で構成したものにて達成できる。前記テーパー型の挿通孔を有する防振ゴムは、自動車など車両の走行時あるいは旋回時に発生するロール(車体の傾き)により、スタビライザーと防振ゴムとの間に生じる隙間に異物が侵入するのを抑制することが狙いであり、挿通孔の一方の外径をスタビライザーバーの直径よりも小さくすることで、スタビライザーバーとの隙間の発生を抑え、砂などの異物侵入による異音発生防止を目的としている。かかるテーパー型の挿通孔を持つ防振ゴムを成型する方法としては、前述の防振ゴム成型金型にセットする鉄芯の形状をストレート型のタイプからテーパー型のタイプに変更することで、容易に得ることができ、本発明の伸縮性織編物を用いることで、直径の大きさが異なる鉄芯表面に伸縮織編物全体が沿い易くなり、ゴムとの追随性に優れた防振ゴムを得ることができるのである。
【0022】
また、本発明の防振ゴム用伸縮性織編物は、防振ゴム成型時の加熱温度によって、鉄芯装着後の状態から織編物が伸びてしまうと、防振ゴム成型時のゴムの射出圧によって織編物に皺が発生するため、30%伸張させた状態で、170℃×10分間加熱した時の伸縮織編物の応力緩和率(JIS L 1096:2010 8.16.4 A法(1回荷重法)に準じ、JISに規定の自己記録装置付定速伸張形引張試験機で求めた値)は30%以下とすることが好ましい。かかる防振ゴムの成型時の加熱温度は170℃前後で、金型内に未加硫ゴムを射出して加硫成型を行うため、金型内部の鉄芯に装着した摺動材用の布帛には高温、高圧の負荷がかかることから、熱に対する該摺動材用布帛の寸法安定性が悪い場合は、織編み目が拡がることで布帛表面からの加硫ゴムの浸み出しや、また熱によって布帛が伸びてしまうとゴムの射出圧などで布帛表面が弛んで皺が入るなどの問題が発生するケースがある。前記加熱時の伸縮性織編物の応力緩和率を低くすることで、加熱時の寸法変化、即ち、伸縮織編物の伸びが小さく、ゴムの射出圧によって伸縮織編物が弛まず、皺の発生を抑えることができ、さらに、織編み目の拡がりが少なくなり、加硫ゴムの浸み出しを抑制できるため、応力緩和率は低いほうが好ましいのである。
【0023】
前記の応力緩和率を達成する手法は、本発明の防振ゴム用伸縮性織編物を構成する被覆弾性糸のカバーリング条件において、芯部のポリウレタン弾性糸のドラフト率すなわち芯糸の伸び倍率を調整することで、被覆弾性糸の伸び率を変更する手法や、織物では経糸の供給(送り)速度、編物では密度調整(コース/吋)をコントロールすることで、目的とする防振ゴム用伸縮性織編物を得ることができる。該設定条件等は使用する弾性糸の特性や鞘糸の被覆率によって異なるため、適宜調整することが好ましく、例えば、被覆弾性糸を作製する場合においては、ドラフト率を下げることで糸自身の伸びが少なくなる傾向となり、製織時の経糸供給(送り)速度の低速化や、製編時の密度(コース/吋)を下げることで低伸度な織編物とすることができる。
【0024】
本発明では摺動面側の層にフッ素系繊維を含有する。織編みの設計によっては摺動面側の繊維部分に固着面側の繊維が露出する場合がある。被覆弾性糸を固着面側の層に使用する場合、少なくとも一方の面側に露出して観察される固着面側用の被覆弾性糸の露出量が他方の面に露出している固着面側用の被覆弾性糸の露出量よりも多いことが好ましく、該露出量が表裏それぞれで観察される低摩擦被覆弾性糸の面積の和に対する割合が60%以上であることが好ましい。該伸縮性織編物の一方の面側が低摩擦被覆弾性糸の露出比率を60%以上、さらに好ましくは65%以上とすることで、フッ素系繊維の低摩擦特性が有効に発現し、スタビライザーバーとの擦れや捩れに対する摩擦低減や異音発生防止効果に優れるので好ましい。もう一方の面側での低摩擦被覆弾性糸の比率を少なくすると、ゴム弾性体との固着性を高めることができるので好ましい。
【0025】
本発明の防振ゴム用伸縮性織編物を構成する繊維の繊度としては、5〜2000dtexが好ましく、さらには40〜1500dtexの範囲内であることが好ましい。織編物を構成する繊維の繊度が5dtex以上であると繊維の強力が強く、織編み加工時の糸切れを低減できるので工程通過性が向上する。2000dtex以下であれば織編物表面の凹凸が少ないので、摺動性等への影響がなく、かつ、織編物の剛性が高くなり過ぎず、柔軟性が損なわれないので、ゴム部品やゴム成型金型の鉄芯にも沿い易い防振ゴム用伸縮性織編物が得られる。
【0026】
前記伸縮性織編物は、二重織または二重タテ編み(ダブルラッセル編み)の多層構造とすることで、摺動面側を低摩擦被覆弾性糸で構成し、ゴムとの固着面側を易接着被覆弾性糸で構成することが可能である。なかでも、多層構造の布帛を編み立てながら同時に筒状に加工することが可能な、ラッセル編み機で編む2重タテ編み(ダブルラッセル編み)は、内面の摺動面側を低摩擦被覆弾性糸、外周面側のゴムとの固着面を易接着被覆弾性糸で構成することが可能であることから、本発明の防振ゴム用伸縮性織編物として低摩擦性能とゴム弾性体との固着性を両立できるので好ましい。
【0027】
本発明に示す車両用防振ゴムに使用されるゴム弾性体は、例えば、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)などの単品またはこれらを組合せてなる複合物も使用することができる。なかでもNRやSBRが使用されるケースが多く、本発明の防振ゴム用伸縮性織編物と組合せての使用が可能である。前記防振ゴム成型金型の鉄芯には、筒状で構成した伸縮性織編物を装着させることで防振ゴム成型工程での作業性が良く、鉄芯の表面に伸縮性織編物全体が沿い易い点で優れている。また、鉄芯の表層部には摺動面を構成する低摩擦被覆弾性糸の層と接触するように挿入することで、ゴムとの固着面を構成する易接着被覆弾性糸の層側と加硫ゴムが強固に固着した防振ゴムが得られるのである。
【0028】
以上のように本発明の防振ゴム用伸縮性織編物は、スタビライザーバーとの擦れや捩れに対する摩擦低減や異音発生防止効果に優れ、他方の表面を含む層がフッ素系繊維を含まないゴムとの固着性に優れた繊維で構成することでゴム弾性体との固着性に優れ、長時間の使用にも耐えうるので、自動車など車両用の防振、防音対策品として用いられる防振ゴム材(スタビライザー用ゴムブッシュ)として好適に用いることが可能である。この車両用の防振ゴムは、自動車など車両の走行時あるいは旋回時に発生するロール(車体の傾き)を抑制するスタビライザーに装着される車両用防振ゴム材のスタビライザーバーとの摺動部に本発明の伸縮性織編物を設けることで、高荷重下での摩擦による異音や摩滅を防止することができると同時に、該伸縮性織編物は防振ゴムが変形した際のゴム弾性体との追随性に優れているため、防振ゴムが変形した際に生じるスタビライザーバーとの隙間の発生が抑制でき、砂などの異物混入による異音発生防止に好適な防振ゴム用伸縮性織編物を提供できる。具体的には、防振ゴム材は、たとえば中央部にスタビライザーバーの挿通孔を備えた筒状のゴム弾性体を有し、その挿通孔の内周面全面に、本発明の伸縮性織編物のゴムとの固着性に優れた繊維を含む層がゴム弾性体と接するように固着される。このような構成により、スタビライザーを通して伝わってきた衝撃や歪みを吸収し、摩擦やねじれから生じる異音を長期に亘って防止することができる。
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。なお、図に示すものは一実施例であり、これに限定されるものではない。
図1は、本発明の一実施形態を示す防振ゴム用伸縮性織編物の概略模式図である。この伸縮性織編物1は多層構造からなる筒状の伸縮性織編物からなり、摺動面となる低摩擦被覆弾性糸で構成された面側2と、ゴムとの固着面となる繊維からなる層で構成された面側3とを有している。
図2は、本発明の防振ゴム用伸縮性織編物を組み込んだ、自動車のスタビライザー用防振ゴム材の概略模式図である。図2において、スタビライザー用防振ゴム材4は、中央部に挿通孔を備えたゴム弾性樹脂からなるゴム弾性体5と、ゴム弾性体の挿通孔内周面全面に設けられた本発明の防振ゴム用伸縮性織編物1とからなり、該伸縮性織編物1は、ゴムとの固着面となるフッ素系繊維を含まないゴムとの固着性に優れた繊維からなる易接着被覆弾性糸で構成された面側3とゴム弾性体5に固着されている。
【0029】
図3は、図2のスタビライザー用防振ゴム材4のA−A´矢視断面図の一例である。
【0030】
図4は、図2のスタビライザー用防振ゴム材4のA−A´矢視断面図の一例である。
【実施例】
【0031】
以下、本発明について実施例を挙げて説明するが、本発明は必ずしもこれに限定されるものではない。なお以下において1吋(インチ)は2.54cmである。また(R)は登録商標を意味する。
【0032】
[測定・評価方法]
1.繊度
JIS L 1013:1999 8.3.1 A法に基づき、112.5m分の小かせをサンプル数5セット採取し、室温20℃、湿度60%の環境下で4時間放置後、その質量(g)を測定し、下記するように繊度(dtex)を求め平均値を算出した。
繊度(dtex)=(小かせのサンプル重量(g))×(10000/112.5) 。
【0033】
2.伸び率
幅30mm×長さ300mmの細幅の筒織物または筒編物を3枚採取し、JIS L 1096:2010 8.16.1 A法(定速伸張法)に準じて、定速伸張型の試験機にて、つかみ間隔200mm、引張速度200mm/minで引張試験を行い、荷重−伸び曲線を描く。この曲線から9N/cm荷重時の伸び率を求め、3回平均値を算出した。
【0034】
3.応力緩和率
幅30mm×長さ300mmの細幅の筒織物または筒編物を3枚採取し、JIS L 1096:2010 8.16.4 A法(1回荷重法)に準じて、つかみ間隔200mmで試験片をセットし、伸び率30%(つかみ間隔の200×30%=60mm)まで試験片を伸ばした後、170℃の恒温槽内に10分間保持して荷重−伸び曲線を描く。次の式によって、伸縮性織編物自体が熱によって伸びが生じることで率を示す指標として応力緩和率を求め、3枚の平均値を算出した。
30%まで伸ばした時の荷重:T0 (N)
10分間保持後の荷重 :T1 (N)
応力緩和率(%)=((T0−T1)/T0)×100 。
応力緩和率が15%以下のものを○(熱に対する寸法安定性が良好)、15%以上のものを×(熱に対する寸法安定性が悪い)と判定した。
【0035】
4.繊維露出量
スガ試験機(株)製SMカラーコンピューター(MODEL SM−4)を用い、防振ゴム用伸縮性織物の摺動面(低摩擦被覆弾性糸の割合が見た目で多い面)側を(あ)ともう一方の面(い)の明度(V)を反射モード、サンプリング径φ30mmで3箇所計測、平均値を算出し、標準片(白、黒)の明度から下記の計算式で低摩擦被覆弾性糸と易接着被覆弾性糸の露出量(あ)(い)を算出した。
標準片白の明度 :W
標準片黒の明度 :B
試験片の平均明度:X
繊維露出量(%)=100−(((X−B)×50)/((W−B)/2)) 。
【0036】
5.表面摩擦係数(摺動性)
新東化学(株)製表面性測定機 トライボギア(TYPE:HEIDON−14DR)を用い、移動速度100mm/min、荷重9.8Nで、平面圧子(面積63×63mm)に布帛をビス固定し低摩擦被覆弾性糸を含む側の表面とステンレス板(鏡面仕上げ)との摩擦係数を求めた。測定は恒温恒湿環境下(20±2℃、60±5%RH)にて行った。
【0037】
6.固着性
幅5cm×長さ5cm×厚さ5mmのSBRの未加硫ゴムの両面側に、幅5cm×長さ15cmの防振ゴム用伸縮性織編物の易接着被覆弾性糸で構成された表面側が、未加硫ゴムと防振ゴム用伸縮性織編物が長さ10cm接しない部分が残るように重ね合わせ、加硫モールドに入れ、170℃×10分間の加硫プレス成型を行い、放冷し、試験片を得た。得られた試験片を幅2.5cmにスリットして、JIS L 1096:1999 8.12.1 A法(ストリップ法)のラベルドストリップ法に準じて、破断強力を測定し、固着性の評価指標とした。
定速緊張型の試験機にて、つかみ間隔100mm、引張速度100mm/minで試験したときの固着性(破断強力)を測定し、平均値を算出した。
【0038】
7.ゴム弾性体と伸縮織編物との追随性
幅5cm×長さ10cm×厚さ5mmのSBRの未加硫ゴムの片面側に、幅5cm×長さ10cmの伸縮性織編物のフッ素系以外の繊維で構成された表面側を重ね合わせ、加硫モールドに入れ、170℃×10分間の加硫プレス成型を行い、放冷し、試験片を得た。得られた試験片を幅2.5cmにスリットして、JIS L 1096:2010 8.16.4 B法(繰り返し荷重法)に準じて、つかみ間隔200mmで試験片をセットし、伸びの120%まで試験片を伸ばした後1分間保持し、次に元の位置まで戻して3分間保持する。これを10回繰り返し、10回目は120%まで伸ばした後、3分間保持して荷重−伸び曲線を描く。次の式によって、ゴム弾性体と伸縮性織編物との追随性を示す指標として、繰返し荷重法による応力緩和率を求め、3枚の平均値を算出した。この繰返し荷重法による応力緩和率は、ゴム弾性体と伸縮性織編物の伸縮特性が同レベルで伸縮性織編物がゴム弾性体との追随性に優れる場合は、前記応力緩和率は低い傾向を示し、逆に伸縮性織編物とゴム弾性体との追随性が悪い場合は試験途中で伸縮性織編物が破断、または、ゴム弾性体から伸縮性織編み物が剥がれることで前記応力緩和率は高い傾向を示す。
1回目に伸ばした時の荷重 :T2 (N)
10回目に伸ばした時の荷重 :T10(N)
繰返し荷重法による応力緩和率(%)=((T2−T10)/T2)×100 。
さらに、120%伸長動作を連続で10回繰り返した後の試験後片の状態(伸縮織編物の破断や剥がれの有無)を観察した。
繰返し荷重法による応力緩和率(ゴム弾性体と伸縮織編物との追随性)が30%以下のものを○(追随性良好)、30%以上のものを×(追随性不良/布帛剥がれ発生)と判定した。
8.総合判定
前記ゴム弾性体と防振ゴム用伸縮織編物との追随性、ゴム加硫成型時の熱による伸縮性織編物の寸法安定性の判定が両方とも『○』の場合は『◎』、いずれかに『×』がある場合は『×』と判定した。
【0039】
[実施例1]
(低摩擦被覆弾性糸1)
芯糸のポリウレタン弾性糸(オペロンテックス(株)“ライクラ”(R)310T−127C)に鞘糸のフッ素系繊維(東レ(株)製“トヨフロン”(R)440T−60F−S290−M190)をカバーリング機(片岡機械(株)製SSD−230)を用いて、ポリウレタン弾性糸のドラフト率を3倍に設定、シングルカバーリング加工(1103T/M)を行い、伸び率が3倍となる低摩擦被覆弾性糸1を製造した。この繊維が摺動面側の層を構成する。
【0040】
(低摩擦被覆弾性糸2)
芯糸のポリウレタン弾性糸(オペロンテックス(株)“ライクラ”(R)117T−127C)に鞘糸のフッ素系繊維(東レ(株)製“トヨフロン”(R)440T−60F−S290−M190)をカバーリング機(片岡機械(株)製SSD−230)を用いて、ポリウレタン弾性糸のドラフト率を3倍に設定、シングルカバーリング加工(1100T/M)を行い、伸び率が3倍となる低摩擦被覆弾性糸2を製造した。この繊維が摺動面側の層を構成する。
【0041】
(易接着被覆弾性糸)
芯糸のポリウレタン弾性糸(オペロンテックス(株)“ライクラ”(R)310T−127C)に鞘糸のフッ素系以外の繊維としてウーリーナイロン糸(東レ(株)製“プロミラン”(R)110T−34)をカバーリング機(片岡機械(株)製SSD−230)を用いて、ポリウレタン弾性糸のドラフト率を3倍に設定、ダブルカバーリング加工(1005T/M)を行い、伸び率が3倍となる易接着被覆弾性糸を製造した。この繊維が固着面側の層を構成する。
(製織)
タテ糸に上記低摩擦被覆弾性糸1、易接着被覆弾性糸を1本毎に交互に整経、ヨコ糸に低摩擦被覆弾性糸1、絡糸に熱可塑性ポリウレタン繊維(日清紡テキスタイル(株)“モビロン”(R)44T)を使用、経密度134本/吋(低摩擦被覆弾性糸1、易接着被覆弾性糸を1とも67本/吋)、緯密度46本/吋、幅35mmの3/3綾の二重筒織物を製織した。
【0042】
(仕上げ加工)
得られた筒織物を、水道水の中に3秒間浸漬させ、150℃×3分間の熱セット処理を施した。
このようにして得られた防振ゴム用伸縮性織物の特性を表1に示した。この防振ゴム用伸縮性織物は、熱に対する寸法安定性の指標とした応力緩和率が低く、ゴム弾性体と防振ゴム用伸縮性織編物との追随性の指標とした繰り返し荷重法による応力緩和率が低く優れており、防振ゴム成型時の伸縮性織物の弛みによる皺やゴム染み出しの発生がなく、ゴム弾性体と伸縮性織物との追随性に優れていた。
【0043】
[実施例2]
(製織、仕上げ加工)
実施例1と同じ糸仕様で、製織加工時のタテ糸の送り速度を実施例1よりも15%遅くすることで、伸び率の異なる二重筒織物を作製、仕上げ加工を施した。
このようにして得られた防振ゴム用伸縮性織物の特性を表1に示した。この防振ゴム用伸縮性織物は、熱に対する寸法安定性の指標とした応力緩和率が低く、ゴム弾性体と防振ゴム用伸縮性織編物との追随性の指標とした繰り返し荷重法による応力緩和率が低く優れており、防振ゴム成型時の伸縮性織物の弛みによる皺やゴム染み出しの発生がなく、ゴム弾性体と伸縮性織物との追随性に優れていた。
【0044】
[実施例3]
(製織、仕上げ加工)
実施例1と同じ糸仕様で、製織加工時のタテ糸の送り速度を実施例1よりも25%遅くすることで、伸び率の異なる2重筒織物を作製、仕上げ加工を施した。
このようにして得られた防振ゴム用伸縮性織物の特性を表1に示した。この防振ゴム用伸縮性織物は、熱に対する寸法安定性の指標とした応力緩和率が低く、ゴム弾性体と防振ゴム用伸縮性織編物との追随性の指標とした繰り返し荷重法による応力緩和率が低く優れており、防振ゴム成型時の伸縮性織物の弛みによる皺やゴム染み出しの発生がなく、ゴム弾性体と伸縮性織物との追随性に優れていた。
【0045】
[実施例4]
(製編)
上記被覆弾性糸2と、PTT/PET複合繊維(オペロンテックス(株)“ライクラ”(R)330T−T400)を用い、ダブルラッセル編機にて交編率を低摩擦被覆弾性糸:PTT繊維=60:40、コース数20コース/吋、ウェル数18ウェル/吋、幅35mmの筒編物を作製した。PTT/PET複合繊維がゴム弾性体との固着する層になる。
【0046】
このようにして得られた防振ゴム用伸縮性編織物の特性を表1に示した。この防振ゴム用伸縮性編物は、熱に対する寸法安定性の指標とした応力緩和率が低く、ゴム弾性体と防振ゴム用伸縮性織編物との追随性の指標とした繰り返し荷重法による応力緩和率が低く優れており、防振ゴム成型時の伸縮性編物の弛みによる皺やゴム染み出しの発生がなく、ゴム弾性体と伸縮性編織物との追随性に優れていた。
【0047】
[比較例1]
PTFE繊維(東レ(株)製“トヨフロン”(R)440T−60−290)と、PET繊維(東レ(株)製“テトロン”(R)560T/96F)を用い、ダブルラッセル編機にて交編率をPTFE繊維:PET繊維=60:40、コース数29コース/25.4mm、ウェル数19ウェル/25.4mm、幅35mmの筒編物を作製した。
【0048】
このようにして得られた筒編物の特性を表1に示した。この筒編物は、熱に対する寸法安定性の指標とした応力緩和率が低く優れていたが、ゴム弾性体と防振ゴム用伸縮性織編物との追随性の指標とした繰り返し荷重法による応力緩和率が高く、ゴム変形時に編物が破断、ゴム弾性体との追随性に劣っていた。
【0049】
[比較例2]
実施例1と同じ糸仕様で、製織加工時のタテ糸の送り速度を実施例1よりも35%遅くすることで、伸び率の異なる2重筒織物を作製、仕上げ加工を施した。
このようにして得られた伸縮性織物の特性を表1に示した。この伸縮性織物はゴム弾性体と防振ゴム用伸縮性織編物との追随性の指標とした繰り返し荷重法による応力緩和率が低く優れていたが、熱に対する寸法安定性の指標とした応力緩和率が高く、熱に対する寸法安定性に劣っていた。
【0050】
【表1】

【0051】
表1の評価結果から明らかなように、実施例1〜4の防振ゴム用伸縮性織編物は比較例1、2と比べ、熱に対する寸法安定性の指標とした応力緩和率、および、ゴム弾性体と防振ゴム用伸縮性織編物との追随性の指標とした繰り返し荷重法による応力緩和率の両特性が低く優れている。この結果、防振ゴム成型時の伸縮性編物の弛みによる皺や織編目からのゴム染み出しがなく、ゴム弾性体と伸縮性編織物との追随性に優れる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、自動車など車両の走行時あるいは旋回時に発生するロール(車体の傾き)を抑制するスタビライザー(別名アンチロールバー)に装着される車両用防振ゴム材に好適に用いられ、摩擦や砂などの異物混入を抑制することで異音発生や摩滅を防ぐことができ、ゴムとの固着性が良好な防振ゴム用伸縮性織編物として好適に用いられる。
【符号の説明】
【0053】
1 防振ゴム用伸縮性筒織編物
2 フッ素系繊維で構成した表面(摺動面)
3 フッ素系繊維を含まないゴムとの固着性に優れる繊維で構成した表面(ゴムとの固着面)
4 防振ゴム
5 ゴム弾性体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層からなり、一方の層が摺動面、他方の層がゴムとの固着面となる防振ゴム用織編物であって、摺動面となる層がフッ素系繊維およびポリウレタン弾性糸から構成されることを特徴とする防振ゴム用伸縮性織編物。
【請求項2】
ポリウレタン弾性糸をフッ素系繊維が巻き付いている構造であることを特徴とする請求項1記載の防振ゴム用伸縮性織編物。
【請求項3】
固着面側が、ポリエステル、ナイロンおよびポリウレタンから選ばれる繊維を含有することを特徴とする請求項1または2記載の防振ゴム用伸縮性織編物。
【請求項4】
固着面側が、ポリトリメチレンテレフタレート繊維またはポリウレタン弾性糸を含有することを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の防振ゴム用伸縮性織編物。
【請求項5】
多層からなり、一方の層が摺動面、他方の層がゴムとの固着面となる防振ゴム用織編物であって、摺動面となる層がフッ素系繊維を含有し、固着面となる面がポリトリメチレンテレフタレート繊維またはポリウレタン弾性糸を含有することを特徴とする防振ゴム用伸縮性織編物。
【請求項6】
請求項1〜5いずれかの防振ゴム用伸縮性織編物がゴムに固着していることを特徴とする防振ゴム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−83022(P2013−83022A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−224512(P2011−224512)
【出願日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】