説明

防振マウント

【課題】
金属製のプレートは単一材料で済み、かつ防振用の弾性体は、プレートの一部に部分的に被覆するだけで、金属製のプレートの大きさを極力節約し、かつ弾性体の使用量も軽減し、さらに締付ネジなどの取付孔の内周に防振用の弾性体を設け、全体を肉薄く形成できるようにした防振マウントの提供。
【解決手段】
中央孔2を有し、上下に取付孔3,4を穿った一方の取付体と当接する高位の表面S1と、この表面より段差5を介して形成される低位の表面S2の左右に取付孔6,7を穿って成る硬質のプレート1にあって、前記左右の取付孔6,7の内周面12、その内周面12を含む低位の表面S2、及び該内周面12を含む反対の裏面R1に弾性体9を被着し、この弾性体9を介して他方の振動部材Aと当接して取付孔6,7に挿通した緊締部材10により固定できるようにして成ることを特徴とする防振マウント。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械的振動を防止するためのもので、ステッピングモータ等の振動体を筐体等の取付体に防振支持する防振マウントに関する。
【背景技術】
【0002】
各種のOA機器、例えばステッピングモータなどの振動体を、電子回路,電子機器を備える筐体等の支持体にビス止め等で固着接続するファクシミリ,プリンタコピー等が知られている。
【0003】
具体的には、防振材料としては、ゴム等の弾性材料を用い、骨格構造には、金属製のプレートを介在させて、一定の強度を付与させた防振マウントが知られている(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−232403号公報
【特許文献2】特開2003−232404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の先行技術にあって、特許文献1は、金属製のプレートが1枚であり、この金属プレートの取付孔を介して、一方の振動体への取付は、ビス等によるねじ止めで確実に固着できるが、他方の取付体へは、前記金属製のプレートに固着させた弾性体の突起部分の嵌め合いによって行っており、固着の安定性に問題があり、かつ弾性体の肉厚を強度確保のため肉薄構造は不可能と認めざるを得ない。
【0006】
また、特許文献2では、金属製のプレートは弾性体に対して嵌合固定方式をとっているので、半割り分割構造となっており、4分割の4枚で構成しなければならず、しかも弾性体自体も強度保持のため、肉薄く構成できないという課題がある。
【0007】
そして、弾性体を介して振動体に固着させる締付ネジに対して取付孔での締付ネジを抱持する弾性体は全く考慮されていない。
【0008】
本発明は、叙上の点に着目して成されたもので、金属製のプレートは単一材料で済み、かつ防振用の弾性体は、プレートの一部に部分的に被覆するだけで、金属製のプレートの大きさを極力節約し、かつ弾性体の使用量も軽減し、さらに締付ネジなどの取付孔の内周に防振用の弾性体を設け、全体を肉薄く形成できるようにした防振マウントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は下記の構成を備えることにより上記課題を解決できるものである。
【0010】
(1)中央孔を有し、上下に取付孔を穿った一方の取付体と当接する高位の表面と、この表面より段差を介して形成される低位の表面の左右に取付孔を穿って成る硬質のプレートにあって、前記左右の取り付け孔の内周面、その内周面を含む低位の表面、及び該内周面を含む反対の裏面に弾性体を被着し、この弾性体を介して他方の振動部材と当接して取付孔に挿通した緊締部材により固定できるようにして成ることを特徴とする防振マウント。
【0011】
(2)硬質のプレートは、上下,左右4つの取付孔を四周頂点近くに形成でき、全体が正方形であることを特徴とする前記(1)記載の防振マウント。
【0012】
(3)裏面及び表面に被着される弾性体は、取付孔を中心としてプレートの周縁に添い、かつ中央孔を中心として形成される角度が45°以上に形成することを特徴とする前記(1)又は(2)記載の防振マウント。
【0013】
(4)高位の表面と低位の表面の段差の大きさh、プレートを被着する弾性体の厚さe及び左右の取付孔に挿着される緊締部材の頭部の大きさfとした場合、
h−e≧f
であることを特徴とする前記(1)ないし(3)いずれか1項記載の防振マウント。
【0014】
(5)弾性体は、ゴム,プラスチックのいずれか一つであることを特徴とする前記(1)記載の防振マウント。
【0015】
(6)上下の取付孔を介して取付けられる取付体は、駆動部材を備えた電子機器であると共に、左右の取付孔を介して取付けられる振動部材は、ステッピングモータであり、中央孔より前記ステッピングモータの回転軸を挿通させて、前記電子機器の駆動部材の筐体の一部と接続できるようにしたことを特徴とする前記(1)ないし(5)いずれか1項記載の防振マウント。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、単一枚の金属などの硬質のプレートの高位の表面と低位の表面の段差を以って形成し、高位の表面には中央孔を挟んで上下に取付孔を設けて直接一方の取付体に固着させると共に、低位の表面には中央孔を挟んで左右に取付孔を設け、この取付孔の内周面,表面,裏面に対して各別又は連続した弾性体を被着し、取付孔に挿通させた緊締部材を介して他方の振動部材を固着させることができるので、振動部材より発生する振動作用は、当接する裏面に被覆した弾性体及び緊締部材の外周が当接する取付孔の内周面に被着される弾性体及び緊締部材の頭部が当接する弾性体の緩衝作用を受けて硬質のプレートには伝達される虞れはない。従って、プレートと連結される一方の取付体には伝達されず、併せて取付体より伝達される振動は硬質のプレートに伝えられるが、取付孔の内周面に設けられる弾性体、及びプレートの表面及び裏面に被覆される弾性体によって吸収され、振動部材への伝達も回避されてマウント双方よりの機械的振動を完全に近い状態で消失させて静的状態で運転させることができる。
【0017】
また、振動部材として用いられるステッピングモータの場合、回転軸に作用する電子機器側の駆動部材の働きによる可傾偏動作用に対しては、裏面に添接される弾性体が中央孔を中心として形成される角度が45°以上に形成してあるので、倒れ傾向が弾性体の干渉弾性力によって緩和され、著しく耐久性を高められる。
【0018】
さらに、段付の表面の高さhは、プレートの表面に被覆される弾性体の厚さeと緊締部材の頭部の大きさfとの関係が、
h−e≧f より h≧f+e
であるので、緊締部材の頭部の大きさfと弾性体の厚さeの和を配慮して構成すれば、比較的肉厚の薄い防振プレートを提供できる。
【0019】
さらに、本発明によれば、上下,左右の4箇所の取付孔がプレートの四周頂点箇所に設けてあるので、全体が正方形に近い形状となり、取扱いが簡便安易となり、さらにその上弾性体の被覆箇所も、表面及び裏面の取付孔の内周面を含んで緊締部材が、挿通する箇所周辺に限られ、かつ中央孔を中心とした角度も45°以上とすれば良いので、限定され、極限近く少量ですむので、安価量産に好適であるなどの効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る防振マウントの一実施例を示すもので、(a)は平面図、(b)は底面図、(c)は平面図のc−c線断面図、(d)は平面図のd−d線断面図、(e)は平面図のd−o−c線断面図を示す。
【図2】図1に示す防振マウントの実際の使用状態を示す図で、(a)は上面図、(b)は正面図、(c),(d),(e)は、上面図のc−c線拡大断面図の3例を示す。
【図3】本発明に係る防振マウントの「倒れこみ傾向」の大きさの実際の試験状態を示す図で、(a)は平面説明図、(b)は正面説明図を示す。
【図4】他の実施例を示すもので、(a)は平面図、(b)は底面図、(c)は平面図のc−c線断面図、(d)は平面図のd−d線断面端面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施例を図面と共に説明する。
【実施例】
【0022】
図面において、1は防振マウントMの骨格となる金属,硬質合成樹脂などの硬質材料より成る骨格材料としての硬質のプレートを示し、中央孔2を中心として一方向の上下方向の上部及び下部に取付孔3,4を穿った高位の表面S1を備え、取付体Bとの当接面とすると共に、前記中央孔2を中心として左右に高さhの段差5,5を介して左右方向に広がる低位の表面S2を備え、中央孔2を挟んで左右の取付孔6,7を設け、前記取付孔6,7の裏面R1側での振動部材Aとの当接側を構成している。そして、前記硬質のプレート1は、上下,左右の取付孔3,4,6,7を四周頂点近くに形成することにより、中央に中央孔2を備えた正方形に形成できる。なお、中央孔2の周縁には、高位の表面S1と面一の円周弧面S1a,S1aを備えており、かつ中央孔2の軸上に向う円形鍔2aを設けてある。
【0023】
符号8は、高位の表面S1及び円周弧面S1aと低位の表面S2を繋ぐ段差5,5によって形成される裏面R1に形成される凹処、9は硬質のプレート1の低位の表面S2、取付孔6,7及び裏面R1に亘って繋がる被覆された左右一対の弾性体を示す。
【0024】
具体的には、図2の(c),(d)及び(e)に示す。図2(c)では、取付孔6,7に挿通される緊締部材10の頭部11が衝接する取付孔6,7の低位の表面S2の開口面付近S2a,及び取付孔6,7の内周面12並びにプレート1の裏面R1に亘って一体的に繋がるゴムないしプラスチックなどのそれぞれ1対の弾性体9で被着する場合を示す。
【0025】
なお、弾性体9の被着箇所において、低位の表面S2側では、裏面R1と同じ大きさの構成で図示してあるが、弾性体9が緊締部材10の頭部11との当接箇所は狭いので、図示の大きさとする必要はないが、硬質のプレート1とのゴム被着加工において、裏面R1に被着されるゴムの形状と同一とした方が一体的固着性能を強力にできるという加工上の配慮から構成したものである。
【0026】
従って、硬質のプレート1の高位の表面S1,裏面R1に被着される一対の弾性体9は、取付孔6,7を中心にして左右対称に形成される。
【0027】
次に、同図(d)では、取付孔6,7の内周面12の弾性体9が不連続な切欠部9xを備えた構成であると共に、同図(e)では表面及び裏面に被着される弾性体9とは独立して不連続な筒状の弾性体9aを内周面12に独立して被着した場合を示す。
【0028】
上述の構成において、防振マウントMの使用例を図2と共に説明する。
【0029】
防振マウントMの裏面R1側を、ステッピングモータなどの振動部材Aの一側、即ち回転軸aを中央孔2内に挿通させた状態で、弾性体9と当接させ、低位の表面S2の取付孔6,7を振動部材Aの取付孔と一致させて緊締部材10のボルトを挿通し、頭部11の係止溝を用いてドライバーにより螺合緊締する。
【0030】
これにより、防振マウントMは弾性体9がステッピングモータの振動部材Aの取付面を介して当接され、かつ緊締部材10の周辺は、取付孔6,7の内周面12の弾性体9に当接し、併せて頭部11も亦、低位の表面S2の開口面付近S2aと確固に当接される。
【0031】
ステッピングモータの振動部材Aを取付けた防振マウントMの弾性体9を被着させてない硬質のプレート1の高位の表面S1を電子機器を備えた筐体の取付体Bに取付ビス13,14を用いて取付孔3,4により確固に固着できる。
【0032】
硬質プレート1の高位の表面S1及び中央孔2の周縁に形成される円周弧面S1aは同一高さの面一であるので、取付体Bの筐体と、直接一体的に固着固定される。
【0033】
斯くして、電子機器を構成する取付体Bに対してステッピングモータの振動部材Aは防振マウントMを介して確固に固着でき、ステッピングモータの回転軸15よりプーリー,ベルト等の伝達手段を介して必要な動力を取付体へ供給できる。
【0034】
ステッピングモータの振動部材Aの回転作用に伴う振動作用は、防振マウントMの弾性体9によって完全に吸収される。
【0035】
具体的には、裏面R1に被着される弾性体9による振動部材A全体より発生する振動作用の振動吸収,緊締部材10より発生する振動作用の取付孔6,7の内周面12に被着される弾性体9による振動吸収、並びに緊締部材10の頭部11より発生する振動作用の低位の表面S2の開口面付近S2aに被着される弾性体9の振動吸収が有効且つ明確に行われて、硬質のプレート1より取付体Bへ伝達されることがない。
【0036】
反対に、取付体Bの駆動作用に基づく振動は、硬質のプレート1へは伝達されるが、硬質のプレート1に被着させた弾性体9の振動吸収作用が、有効に働いて緊締部材10へ伝達されることがなく、また、ステッピングモータなどの振動部材Aへの伝達を防ぎ、完全に振動を防止できる。
【0037】
この場合、振動体Aに当接される低位の表面S2の裏面R1に被覆された弾性体9の厚さeと緊締部材10の頭部11の大きさfとする時、表面の段差5の大きさhの場合、以下の関係を備えることが必要である(図2(c)参照)。
h−e≧f
【0038】
次に、図3を参考にして防振マウントMに固着された振動部材Aとしてステッピングモータを固着して、回転軸aにプーリーなどの回転駆動体を固着して各種電子機器への取付体Bとベルトなどの伝導部材を組み込んだ状態での、矢符方向Xへの作用力が加わった際の振動部材Aの「倒れこみ傾向」の大きさについて、弾性体9の素材の相異や、弾性体9の形状の大きさの相異にどのように関連影響するかについて説明する。回転軸aには、「バネバカリ」Yを取付けてX方向の張力を加えると共に、前記回転軸aの反対方向に「ゲージ」Zを接続させて回転軸aの変位量を計測した。
【0039】
その結果、まず、素材について検討する。軟らかいゴム材料と硬いゴム材料との場合、硬い材料の弾性体9の方が倒れ難いことが分かった。
【0040】
次に、弾性体9の形状について、中央孔2を中心とした、取付孔6又は7に向う基線P−Pに対して45°の傾斜角度の大きさを基準にして、45°以下の大きさの場合と45°以上の大きさの場合とを対比した時、45°以上の大きさの方が45°以下の場合よりも「倒れこみ傾向」は小さいことが分かった。
【0041】
従って、「倒れこみ傾向」の試験によれば、弾性体9の素材は軟らかい材質よりも硬い材質の方が良く、かつ弾性体9の形状は、プレート1に対してできるだけ広い面積での被着による振動部材Aとの接触面が広い弾性体9の方が良く、防振特性も悪くすることなく倒れこみも最も小さくすることができるということが分かった。
【0042】
以下に、ゴム硬度と、ゴム傾斜角度と、倒れこみ及び防振特性を数値化した値(悪い値1,……良い値4)を表わした表1を示す。
【0043】
【表1】

【0044】
次に、図4の他の実施例について説明する。
【0045】
この実施例では、取付孔3,4を穿った上下方向の高位の表面S1に対し、段差5,5を介して左右方向に広がる低位の表面S2を繋がった同一平面とし、低位の表面S2及び裏面R1に被着され、かつ取付孔6,7の内周面に沿って被覆される弾性体9は、中央孔2の外周に一体に形成される構成を特徴とする。
【0046】
振動部材Aとの接触面の弾性体9は、裏面R1の広範囲に被着されているので、振動部材Aよりの振動作用も有効に吸収してプレート1への伝達が有効に遮断されると共に反対の取付体より伝えられる振動作用も同様に吸収して防振効果を高めることができ、併せて振動部材Aの回転軸aに働く「倒れこみ傾向」を小さくできるなどの効果を有する。
【0047】
なお、図中、同一の部分構成には、前記実施例と同一の符号を付して説明の重複を省いている。
【符号の説明】
【0048】
h 段付の表面の高さ
e 弾性体の厚さ
f 頭部の大きさ
a 回転軸
M 防振マウント
A 振動部材
B 取付体
S1 高位の表面
S2 低位の表面
S1a 円周弧面
S2a 開口面付近
R1 裏面
Y バネバカリ
Z ゲージ
1 硬質のプレート
2 中央孔
2a 円形鍔
3,4 上部及び下部の取付孔
5 段差
6,7 左右の取付孔
8 凹処
9 弾性体
9a 弾性体
9x 切欠部
10 緊締部材
11 頭部
12 内周面
13,14 取付ビス
15 回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中央孔を有し、上下に取付孔を穿った一方の取付体と当接する高位の表面と、この表面より段差を介して形成される低位の表面の左右に取付孔を穿って成る硬質のプレートにあって、前記左右の取り付け孔の内周面、その内周面を含む低位の表面、及び該内周面を含む反対の裏面に弾性体を被着し、この弾性体を介して他方の振動部材と当接して取付孔に挿通した緊締部材により固定できるようにして成ることを特徴とする防振マウント。
【請求項2】
硬質のプレートは、上下,左右4つの取付孔を四周頂点近くに形成でき、全体が正方形であることを特徴とする請求項1記載の防振マウント。
【請求項3】
裏面及び表面に被着される弾性体は、取付孔を中心としてプレートの周縁に添い、かつ中央孔を中心として形成される角度が45°以上に形成することを特徴とする請求項1又は2記載の防振マウント。
【請求項4】
高位の表面と低位の表面の段差の大きさh、プレートを被着する弾性体の厚さe及び左右の取付孔に挿着される緊締部材の頭部の大きさfとした場合、
h−e≧f
であることを特徴とする請求項1ないし3いずれか1項記載の防振マウント。
【請求項5】
弾性体は、ゴム,プラスチックのいずれか一つであることを特徴とする請求項1記載の防振マウント。
【請求項6】
上下の取付孔を介して取付けられる取付体は、駆動部材を備えた電子機器であると共に、左右の取付孔を介して取付けられる振動部材は、ステッピングモータであり、中央孔より前記ステッピングモータの回転軸を挿通させて、前記電子機器の駆動部材の筐体の一部と接続できるようにしたことを特徴とする請求項1ないし5いずれか1項記載の防振マウント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−219827(P2012−219827A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−82837(P2011−82837)
【出願日】平成23年4月4日(2011.4.4)
【出願人】(390035909)興国インテック株式会社 (18)
【出願人】(000106944)シナノケンシ株式会社 (316)
【Fターム(参考)】