説明

防振用の二重管式鋼管杭とその施工方法

【課題】内管及び外管並びに同内管に被せるキャップの相互の嵌合構造に工夫を施すことにより、内管と外管とが形成する隙間を空隙に保持しつつ内管と外管とを同時に一度に回転圧入させることができ、工期短縮およびコスト削減に大きく寄与する防振用の二重管式鋼管杭とその施工方法を提供する。
【解決手段】下端部近傍に、外管2の下端部が嵌め込まれる有底筒形カバー4を設けた内管1と、前記有底筒形カバー4内に下端部が嵌め込まれ、前記内管1と同心円配置に位置決めされた外管2と、前記内管1と外管2とが形成する上端部の隙間に嵌め込まれ、外周面に前記外管2の天端に当接するリング6を有する筒部5を備え、前記内管1の天端に被せるキャップ3とから成り、前記内管1は前記キャップ3と回転伝達可能に嵌合され、前記外管2は前記内管1と回転伝達可能に嵌合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内管と外管とを同心円配置に設けてなる防振用の二重管式鋼管杭とその施工方法の技術分野に属し、更に云えば、、前記内管と外管とを同時に回転圧入することができる防振用の二重管式鋼管杭とその施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建物内に振動発生源があり、付近への地盤を介した振動伝達を低減したい場合、或いは建物内に振動を嫌う部位があり、外部からの地盤を介した振動伝達(受振)を低減したい場合の防振対策技術として、建物を摩擦カット杭で支持する方法がある。
前記摩擦カット杭の一例として二重管式鋼管杭がある。この二重管式鋼管杭は、支持杭の役割を果たす内管(内側鋼管)が外管(外側鋼管)の内側に挿入されたもので、内管と外管とが形成する隙間が空隙となっており、これにより内管から外管、又は外管から内管への振動伝達を低減している。
従来、前記二重管式鋼管杭とその施工方法に関する発明は、種々開示されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
前記特許文献1には、主として上部構造物の鉛直荷重を支持する内杭と、当該内杭の杭頭部の周囲に貫入され、主として当該上部構造物からの水平力に抵抗し、あるいはさらにエネルギー吸収可能とした外管杭とからなる免震杭を施工する施工方法であって、前記内杭と外管杭は、それぞれの杭本体鋼管下端部に螺旋状の羽根が固着された羽根付き回転貫入式鋼管杭であり、内外両杭の施工に当たって、まず前記内杭を回転駆動して地盤中に貫入施工し、ついで前記外管杭を内杭の杭頭部にかぶせるようにして貫入施工する発明が開示されている(同文献1の請求項1等を参照)。
【0004】
前記特許文献2には、地中に設けた穴内に、管端同士を当接して積み重ねる外鋼管と、該外鋼管内に、管端同士を当接して積み重ねる内鋼管と、外鋼管と内鋼管の隙間に充填するセメントまたはモルタルを有する二重管構造であって、一方の鋼管の管端当接位置に対峙する他方の鋼管の軸方向範囲を該範囲以外の部位より肉厚または高強度にする二重管式鋼管杭の発明が開示されている(同文献1の請求項1等を参照)。この二重管式鋼管杭の施工方法は、まず地中に挿入孔を所望深さに掘削し、ついで外鋼管と内鋼管を交互に建て込み、しかる後、外鋼管と内鋼管とで形成される間隙内にコンクリート等の充填材を充填して二重管式鋼管杭を施工している(同文献1の段落[0013]、及び図2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−61176号公報
【特許文献2】特許第3885301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記二重管式鋼管杭は、通常、地盤に多数本施工されるため、1本あたりの施工効率をいかに向上させるかが、短工期で施工する上で重要なポイントになるところ、前記特許文献1に係る発明は、まず前記内杭を貫入施工する作業を行い、ついで前記外管杭を貫入施工する作業を行うので、杭を貫入するための作業を2度に分けて行わなければならず、手間がかかり、工期とコストも嵩むという問題がある。
前記特許文献2に係る発明は、外鋼管と内鋼管を建て込む前に、まず外鋼管と内鋼管を建て込むための挿入孔を掘削するための作業を行わなければならず、やはり手間がかかり、工期とコストが嵩むという問題がある。
【0007】
本発明の目的は、内管及び外管並びに同内管に被せるキャップの相互の嵌合構造に工夫を施すことにより、内管と外管とが形成する隙間を空隙に保持しつつ内管と外管とを同時に一度に回転圧入させることができ、工期短縮およびコスト削減に大きく寄与する防振用の二重管式鋼管杭とその施工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記背景技術の課題を解決するための手段として、請求項1に記載した発明に係る防振用の二重管式鋼管杭は、下端部近傍に、外管の下端部が嵌め込まれる有底筒形カバーを設けた内管と、前記有底筒形カバー内に下端部が嵌め込まれ、前記内管と同心円配置に位置決めされた外管と、前記内管と外管とが形成する上端部の隙間に嵌め込まれ、外周面に前記外管の天端に当接するリングを有する筒部を備え、前記内管の天端に被せるキャップとから成り、前記内管は前記キャップと回転伝達可能に嵌合され、前記外管は前記内管と回転伝達可能に嵌合されていることを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した防振用の二重管式鋼管杭において、前記内管と外管の上位に内管と外管が継ぎ足される場合にあっては、継ぎ足す方の内管は前記キャップと回転伝達可能に嵌合される構成であることを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載した発明は、請求項1又は2に記載した防振用の二重管式鋼管杭において、前記内管及び継ぎ足す方の内管が前記キャップと回転伝達可能に嵌合される構成は、前記キャップの筒部に形成された切欠部が、前記内管及び継ぎ足す方の内管の上端部近傍の外周面に設けられたキャップ嵌合用突起に嵌まって嵌合される構成であること、
前記外管が前記内管と回転伝達可能に嵌合される構成は、前記外管の下端に形成された切欠部が、前記有底筒形カバーの内周面、又は前記内管の外周面に設けられた外管嵌合用突起に嵌まって嵌合される構成であることを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載した発明は、請求項1〜3のいずれか一に記載した防振用の二重管式鋼管杭において、前記有底筒形カバーの立壁部は、前記外管と内管との鉛直精度を確保するのに必要な高さとされることを特徴とする。
【0012】
請求項5に記載した発明は、請求項1〜4のいずれか一に記載した防振用の二重管式鋼管杭において、前記キャップの筒部は、前記内管と外管とが形成する上端部の隙間とほぼ一致する肉厚とされ、且つ前記内管と外管との鉛直精度を確保するのに必要な高さとされることを特徴とする。
【0013】
請求項6に記載した発明は、請求項1〜5のいずれか一に記載した防振用の二重管式鋼管杭において、前記有底筒形カバーの底部の外形は、前記内管の先端方向へ向かって漸次幅狭となるテーパー形状とされていることを特徴とする。
【0014】
請求項7に記載した発明は、請求項1〜6のいずれか一に記載した防振用の二重管式鋼管杭において、前記キャップの筒部の外周面に設けられたリングは、前記外管の外周面と面一となる肉厚とされることを特徴とする。
【0015】
請求項8に記載した発明は、請求項1〜7のいずれか一に記載した防振用の二重管式鋼管杭において、前記内管の先端部は、底板で塞がれて掘削羽根が設けられていることを特徴とする。
【0016】
請求項9に記載した発明に係る防振用の二重管式鋼管杭の施工方法は、内管と外管とを同心円配置に設けてなる防振用の二重管式鋼管杭の施工方法であって、
前記内管と外管は、前記内管の天端に被せたキャップを回転圧入施工装置により回転させると前記内管が連動して回転し、前記内管の回転により前記外管が連動して回転する構成とし、前記回転圧入施工装置を駆動して前記キャップを回転圧入させることにより、前記内管と外管を同時に回転圧入させること、
前記内管と外管の上位に内管と外管を順次継ぎ足す場合は、前記内管と外管の継ぎ足しに先行して前記キャップを取り外し、継ぎ足した内管の天端に前記キャップを被せて当該継ぎ足した内管と外管を同時に回転圧入させる工程を、継ぎ足す本数に応じて繰り返し行うことを特徴とする。
【0017】
請求項10に記載した発明に係る防振用の二重管式鋼管杭の施工方法は、前記請求項1〜8のいずれか一に記載した防振用の二重管式鋼管杭の施工方法であって、前記キャップを回転圧入させる回転圧入施工装置を駆動して前記キャップを回転圧入させることにより前記キャップと回転伝達可能に嵌合した前記内管を回転圧入させると共に、前記内管と回転伝達可能に嵌合した前記外管を、前記キャップの筒部に設けたリングでその天端を押圧しつつ回転圧入させることにより、前記内管と外管を同時に回転圧入させること、
前記内管と外管の上位に内管と外管を順次継ぎ足す場合は、前記内管と外管の継ぎ足しに先行して前記キャップを取り外し、継ぎ足した内管の天端に前記キャップを被せて当該継ぎ足した内管と外管を同時に回転圧入させる工程を、継ぎ足す本数に応じて繰り返し行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る防振用の二重管式鋼管杭とその施工方法によれば、キャップを回転圧入施工装置により回転させると前記内管が連動して回転し、前記内管の回転により前記外管が連動して回転する構成で実施することができるので、地盤へ、前記内管と外管を同時に一度に回転圧入させることができる。よって、工期短縮およびコスト削減に大きく寄与する。
また、前記外管は、その下端部が、前記内管の有底筒形カバー内に嵌め込まれ該有底筒形カバーの底壁部上面に当接し、その上端部は、前記キャップのリングに密着された状態で押圧されて回転圧入されるので、当該外管の内側へ土砂や地下水が浸入させないようにすることができる。よって、前記内管と外管とが形成する隙間を空隙に保持しつつ当該内管及び外管を同時に回転圧入させることができるので、内管から外管又は外管から内管への振動伝達を低減することができる。
さらに、前記キャップの筒部の高さ、及び前記有底筒形カバーの立壁部の高さを前記内管と外管との鉛直精度を保持するのに必要な高さで実施しているので、当該内管及び外管を高い精度で鉛直方向に回転圧入することができる。
前記内管及び外管を順次継ぎ足して実施する場合は、上記した効果に加え、支持地盤までの到達深度が深い場合、或いは高さの制約が課される既存建物内で施工する場合など、実施状況に応じたフレキシブルな施工が可能となる(実施例2参照)。
前記内管と外管の回転圧入作業を終えた後、前記外管のみを若干引き上げて内管との接触を切るように実施すると、内管から外管又は外管から内管への振動伝達を更に低減することができる(実施例3参照)。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例1に係る防振用の二重管式鋼管杭を示した分解斜視図である。
【図2】実施例1に係る防振用の二重管式鋼管杭を示した斜視図である。
【図3】内管の外周面に設けたキャップ係合用突起を示した平面図である。
【図4】Aは、内管の外周面に設けた外管係合用突起を示した平面図であり、Bは、有底筒形カバーの内周面に設けた外管係合用突起を示した平面図である。
【図5】実施例2に係る防振用の二重管式鋼管杭を示した斜視図である。
【図6】実施例3に係る防振用の二重管式鋼管杭を示した立面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明に係る防振用の二重管式鋼管杭とその施工方法の実施例を図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0021】
図1と図2は、請求項1に係る防振用の二重管式鋼管杭の実施例を示している。
この二重管式鋼管杭は、下端部近傍に、外管2の下端部が嵌め込まれる有底筒形カバー4を設けた内管1と、前記有底筒形カバー4内に下端部が嵌め込まれ、前記内管1と同心円配置に位置決めされた外管2と、前記内管1と外管2とが形成する上端部の隙間に嵌め込まれ、外周面に前記外管2の天端に当接するリング6を有する筒部5を備え、前記内管1の天端に被せるキャップ3とから成り、前記内管1は前記キャップ3と回転伝達可能に嵌合され、前記外管2は前記内管1と回転伝達可能に嵌合されている(請求項1記載の発明)。
前記内管1が前記キャップ3と回転伝達可能に嵌合される構成は、前記キャップ3の筒部5に設けられた切欠部8が、前記内管1の上端部近傍の外周面に設けられたキャップ嵌合用突起7に嵌まって嵌合される構成で実施されている。
前記外管2が前記内管1と回転伝達可能に嵌合される構成は、前記外管2の下端に設けられた切欠部10が、前記内管1の外周面(又は有底筒形カバー4の内周面)に設けられた外管嵌合用突起9に嵌まって嵌合される構成で実施されている(請求項3記載の発明)。
【0022】
具体的に、前記内管1は、前記外管2の内側に配管される鋼製の円形鋼管で実施され、建物荷重を支持する本体杭の役割を果たす。図示例では、先端部が底板で塞がれて螺旋状の掘削羽根11が設けられた内管1で実施されている(請求項8記載の発明)。
ちなみに本実施例では、外径300mm程度、肉厚10mm程度の内管1が用いられているが、勿論このサイズに限定されず、支持する建物荷重の大きさや、内管1の使用本数等に応じて適宜設計変更可能である。また、本実施例では10m程度の長さの内管1が用いられているが、勿論この長さに限定されず、支持地盤までの到達深度に応じて適宜設計変更可能であり、後述する実施例2のように、複数本の内管2を鉛直方向に順次継ぎ足して実施する場合もある。
【0023】
前記内管1に設ける有底筒形カバー4は、鋼製で、前記内管1の下端部近傍の外周面を取り囲むリング状の底壁部(底部)4aと、同底壁部4aの外周縁部から鉛直方向に立ち上がる円筒形状の立壁部4bとからなり、前記底壁部4aの内周縁部と前記内管1の外周面とを溶接等の接合手段で接合して取付けられている。
ちなみに、本実施例に係る有底筒形カバー4は、前記立壁部4bの内径が、使用する外管2の外径より若干(数mm程度)大きい程度で、肉厚が10mm程度で実施されている。ただし、杭の回転圧入時の地盤抵抗を増大させないためにも、できるだけ小径で実施することが好ましい。
また、前記立壁部4bの高さは、前記内管1と外管2との鉛直精度(角度の差、芯合わせの精度)を保持するのに必要な高さ(本実施例では300mm程度)で実施されている(請求項4記載の発明)。
【0024】
前記内管1に設ける外管嵌合用突起9は、図1と図4Aに示したように、前記内管1の外周面における前記有底筒形カバー4の底壁部4aの上面に、溶接等の接合手段により、トルク(ねじり)伝達に必要十分な剛性(強度)を保持するように取付けられている。
なお、本実施例に係る外管嵌合用突起9は、前記内管1の外周面にバランス良く2個設けて実施しているがこれに限定されず、トルク伝達に必要十分な剛性を有することを条件に1個でも実施できるし、3個以上でも実施できる。
また、前記外管嵌合用突起9は、前記内管1の外周面に設ける場合に限らず、図4Bに示したように、前記有底筒形カバー4の立壁部4bの内壁面側に設けて実施することもできる(請求項3記載の発明)。
【0025】
前記内管1に設けるキャップ嵌合用突起7は、図3に示したように、前記内管1の上端部近傍の外周面に、溶接等の接合手段により、トルク伝達に必要十分な剛性を保持するように取付けられている。
なお、本実施例に係る前記キャップ嵌合用突起7は、前記内管1の外周面に1個設けて実施しているがこれに限定されず、トルク伝達に必要十分な剛性を有することを条件に、1個でも実施できるし、3個以上でも実施できる。
【0026】
前記外管2は、前記内管1の外側に配管される鋼製の円形鋼管で実施されている。ちなみに本実施例では、外径400mm程度、肉厚10mm程度の外管2が用いられているが、勿論このサイズに限定されず、振動伝達防止に好適な内管1との間隔等を考慮して適宜設計変更可能である。また、本実施例では、9m程度の長さの外管1が用いられているが、使用する内管1の長さに応じて適宜設計変更可能である。
【0027】
前記外管2の下端部に形成された切欠部10は、前記内管1の外周面(又は有底筒形カバー4の内周面)に設けた外管嵌合用突起9へ着脱自在に嵌まり、且つ当該外管2の下端が前記有底筒形カバー4の底壁部4aの上面に当接する形状に切り欠いて実施されている。
なお、本実施例に係る切欠部10は、前記内管1の外周面にバランス良く2個設けた外管嵌合用突起9に嵌合される配置に2個設けて実施しているがこれに限定されず、実施する外管嵌合用突起9の個数、形状、及び配置に応じて適宜設計変更されるのは勿論である。ただし、前記切欠部10は、外管2の剛性に悪影響を与えない程度の大きさとする。
【0028】
前記キャップ3は、鋼製で、前記筒部5と、前記内管1の天端に当接する蓋部12とで一体形成して実施されている。前記蓋部12の上面には、一例としてロッド13が接合され当該ロッド13は、回転圧入施工装置のオーガーの下部に設けられたチャック等に把持(連結)されている。なお、前記ロッド13は必須でなく、前記キャップ3を前記チャックで直接把持する構成で実施することもできる。
前記筒部5の下端を開口するように形成された切欠部8は、本実施例では、突片部5aを残した鍵型に切り欠いて実施されている。
前記切欠部8を鍵型に形成する意義は、当該切欠部8を前記キャップ嵌合用突起7へ嵌めてキャップ3を回転させると、前記キャップ3の突片部5aと前記内管1のキャップ嵌合用突起7とが互いに掛け留められ、回転圧入施工装置により、キャップ3を介して、内管1(及び外管2)の吊り上げ、或いは吊り下げての移動を容易ならしめるためにある。よって、前記切欠部8の形状は、特に鍵型に限定されるものではなく、前記外管2の下端部に形成した切欠部10のように、単に方形状に切り欠くだけの形状で実施することもできる。
なお、前記切欠部8は、1箇所に限定されず、実施するキャップ嵌合用突起7の個数、形状、及び配置に応じて適宜設計変更される。ただし、前記切欠部8は、キャップ3の剛性に悪影響を与えない程度の大きさとする。
【0029】
前記キャップ3の筒部5は、前記内管1と外管2とが形成する上端部の隙間へ水密的に嵌め込まれるように当該隙間とほぼ一致する肉厚で、且つ前記内管1と外管2との鉛直精度を確保するのに必要な高さ(本実施例では400mm程度)で実施されている(請求項5記載の発明)。また、筒部5は、その先端部5bを、前記隙間へスムーズに挿入できるように先細のテーパー状に形成して実施されている。
【0030】
前記筒部5の外周面に設けたリング6は、鋼製で、当該筒部5を前記内管1と外管2とが形成する上端部の隙間へ挿入して前記キャップ3の蓋部12が前記内管1の天端に当接するようにキャップ3を被せた状態で、前記外管2の天端に当接する部位に設けられている。なお、本実施例に係るリング6は、前記筒部5の外周面に溶接等の接合手段で接合して取り付けているがこれに限定されず、前記筒部5と一体成形して実施してもよい。
また、本実施例に係るリング6は、前記外管2の外周面と面一となる肉厚で実施することにより、杭の回転圧入時の地盤抵抗を増大させない工夫が施されている(請求項7記載の発明)。
【0031】
上述した内管1、外管2、及びキャップ3から成る防振用の二重管式鋼管杭は、図2に示したように、前記内管1の下端部近傍に設けた有底筒形カバー4内に、前記外管2の下端部が嵌め込まれ、前記内管1に設けた外管嵌合用突起9と前記外管2に形成した切欠部10とが互いに嵌合され、当該外管2の下端が前記有底筒形カバー4の底壁部4aの上面に当接されて、前記内管1のトルクが、前記外管嵌合用突起9を介して確実に外管2へ伝達可能な構造で実施される。
また、前記キャップ3の筒部5が、前記内管1と外管2とが形成する上端部の隙間へ挿入され、前記内管1に設けたキャップ嵌合用突起7と前記キャップ3に形成した切欠部8とが互いに嵌合され、前記キャップ3の蓋部12が前記内管1の天端に当接されると共に、前記筒部5に設けたリング6が前記外管2の天端に当接されることにより、前記キャップ3のトルクが、前記キャップ嵌合用突起7を介して確実に内管1へ伝達可能な構造で実施される。
よって、この実施例に係る防振用の二重管式鋼管杭によれば、回転圧入施工装置を駆動させると、同装置に連結したロッド13を通して前記キャップ3が回転圧入され、当該キャップ3が回転圧入されると、前記内管1が、その天端を前記キャップ3の蓋部12で押圧されつつ連動して回転圧入され、当該内管1が回転圧入されると、前記外管2が、その天端を前記キャップ3のリング6で押圧されつつ連動して回転圧入され、かくして前記内管1と前記外管2とが形成する隙間を空隙に保持しつつ、内管1及び外管2が地盤へ同時に回転圧入される防振用の二重管式鋼管杭を実現することができるのである。
【0032】
次に、防振用の二重管式鋼管杭の施工方法について説明する。
この防振用の二重管式鋼管杭の施工方法は、内管1と外管2とを同心円配置に設けてなる防振用の二重管式鋼管杭の施工方法であり、前記内管1と外管2は、前記内管1の天端に被せたキャップ3を回転圧入施工装置により回転させると前記内管1が連動して回転し、前記内管1の回転により前記外管2が連動して回転する構成とし、前記回転圧入施工装置を駆動して前記キャップ3を回転圧入させることにより、前記内管1と外管2を同時に回転圧入させる(請求項9記載の発明)。
具体的には、前記キャップ3を回転圧入させる回転圧入施工装置を駆動して前記キャップ3を回転圧入させることにより前記キャップ3と回転伝達可能に嵌合した前記内管1を回転圧入させると共に、前記内管1と回転伝達可能に嵌合した前記外管2を、前記キャップ3の筒部5に設けたリング6でその天端を押圧しつつ回転圧入させることにより、前記内管1と外管2を同時に回転圧入させる(請求項10記載の発明)。
【0033】
すなわち、先ず、前記防振用の二重管式鋼管杭を回転圧入する地盤の近傍位置に、回転圧入施工装置を位置決めする。回転圧入施工装置のリーダーに沿って二重管式鋼管杭をセットする。前記二重管式鋼管杭は、前記キャップ3の突片部5aと前記内管1のキャップ嵌合用突起7との掛け留め効果により、回転圧入施工装置のチャックで容易に吊り下げ把持することができる。
次に、前記回転圧入施工装置(のオーガー)を駆動させることにより、前記ロッド13を通じて前記キャップ3を回転圧入させる。そうすると、前記キャップ3とキャップ嵌合用突起7を介して回転伝達可能に嵌合した前記内管1が、前記キャップ3の蓋部12でその天端が押圧され、先端部に設けた掘削羽根11を回転させて回転圧入される。と同時に、前記内管1と外管嵌合用突起9を介して回転伝達可能に嵌合した前記外管2が、前記キャップ3の筒部5に設けたリング6でその天端が押圧されて回転圧入される。
前記外管2は、その下端部が、前記内管1の有底筒形カバー4内に嵌め込まれ該有底筒形カバー4の底壁部4a上面に当接し、その上端部は、前記キャップ3のリング6に密着された状態で押圧されて回転圧入されるので、当該外管2の内側へ土砂や地下水が浸入させないようにすることができる。よって、前記内管1と外管2とが形成する隙間を空隙に保持しつつ前記内管1と外管2を地盤へ同時に回転圧入させることができる。
また、前記キャップ3の筒部5の高さ、及び前記有底筒形カバー4の立壁部4bの高さを前記内管1と外管2との鉛直精度を保持するのに必要な高さで実施しているので、当該内管1及び外管2を高い精度で鉛直方向に回転圧入することができる。
かくして、前記内管1及び外管2(防振用の二重管式鋼管杭)を所要の深度(通常、支持地盤)まで同時に、高い精度で鉛直方向に回転圧入させた後、前記キャップ3と前記内管1との嵌合状態を解き、当該キャップ3のみを吊り上げて1本の防振用の二重管式鋼管杭の施工を終え、前記回転圧入施工装置を次の施工場所へ移動させる工程を必要な回数繰り返して行うことにより、防振用の二重管式鋼管杭の施工作業を終了する。
【0034】
以上説明した上記実施例1に係る防振用の二重管式鋼管杭とその施工方法によれば、キャップ3を回転圧入施工装置により回転させると前記内管1が連動して回転し、前記内管1の回転により前記外管2が連動して回転する構成で実施することができるので、前記内管1と外管2を同時に回転圧入させることができる。よって、工期短縮およびコスト削減に大きく寄与する。
また、前記外管2は、その下端部は、前記内管1の有底筒形カバー4内に嵌め込まれ該有底筒形カバー4の底壁部4a上面に当接し、その上端部は、前記キャップ3のリング6に密着された状態で押圧されて回転圧入されるので、当該外管2の内側へ土砂や地下水が浸入させないようにすることができる。よって、前記内管1と外管2とが形成する隙間を空隙に保持しつつ当該内管1及び外管2を地盤へ同時に回転圧入させることができるので、内管1から外管2又は外管2から内管1への振動伝達を低減することができる。
さらに、前記キャップ3の筒部5の高さ、及び前記有底筒形カバー4の立壁部4bの高さを前記内管1と外管2との鉛直精度を保持するのに必要な高さで実施しているので、当該内管1及び外管2を高い精度で鉛直方向に回転圧入することができる。
その他、前記リング6は、前記外管2の外周面と面一となる肉厚で実施しているので、杭の回転圧入時の地盤抵抗を増大させる虞はない。
【0035】
なお、本実施例1に係る内管1は、先端部が底板で塞がれて螺旋状の掘削羽根11が設けられた内管1で実施されているが、これに限定されず、地盤性状および回転圧入施工装置の性能等に応じて掘削羽根11の代わりに掘削ビットを設けて実施することもできる。
また、前記内管1は、先端部を閉塞しない単管でも実施できる。本発明に係る二重管式鋼管杭は防振用であり、内管1内の土砂等の存否は問わず、内管1と外管2とが形成する隙間を空洞化して実施できればその目的は達成されるからである。
さらに、前記掘削羽根11を具備しない内管1等で実施する場合は、前記有底筒形カバー4の底部(底壁部)の外形を、杭の回転圧入時の地盤抵抗を低減するように、前記内管1の先端方向へ向かって漸次幅狭となるテーパー形状で実施してもよい(請求項6記載の発明)。
【実施例2】
【0036】
図5は、請求項1に係る防振用の二重管式鋼管杭とその施工方法の異なる実施例を示している。
この実施例2に係る防振用の二重管式鋼管杭は、上記実施例1が1本の内管1及び外管2で実施しているのに対し、複数本の内管1及び外管2を鉛直方向に順次継ぎ足して実施していることが相違する。この防振用の二重管式鋼管杭は、支持地盤までの到達深度が深い場合、或いは高さの制約が課される既存建物内で施工する場合などに好適に実施される。以下、防振用の二重管式鋼管杭を構成する内管1、外管2等の構成部材は上記実施例1と同様なので同一の符号を付してその説明を適宜省略する。
【0037】
この実施例2に係る防振用の二重管式鋼管杭は、上記実施例1と同様の要領で、1本の内管1及び外管2を所定の深度(通常、内管1及び外管2の上端部が地盤レベル近傍位置に到達する)まで同時に回転圧入した段階で、前記キャップ3と前記内管1との嵌合状態を解き、当該キャップ3を吊り上げて取り外す。
次に、上端部近傍の外周面に前記キャップ嵌合用突起7を備えた内管1’(請求項2記載の発明)を、前記内管1に対し、管端同士を当接して溶接等の接合手段で鉛直方向に継ぎ足すと共に、単管たる外管2’を、前記外管2に対し、管端同士を当接して溶接等の接合手段で鉛直方向に継ぎ足す。
続いて、前記継ぎ足した内管1’に対し、前記キャップ3の筒部5を、前記内管1’と外管2’とが形成する上端部の隙間へ挿入し、前記内管1’に設けたキャップ嵌合用突起7と前記キャップ3に形成した切欠部8とを互いに嵌合させ、前記キャップ3の蓋部12が前記内管1’の天端へ当接させると共に、前記筒部5に設けたリング6が前記外管2’の天端に当接させて、前記キャップ3のトルクが前記キャップ嵌合用突起7を介して確実に内管1’へ伝達可能な構造とする。
しかる後、前記回転圧入施工装置を駆動させることにより、前記ロッド13を通じて前記キャップ3を回転圧入させる。そうすると、前記キャップ3と回転伝達可能に嵌合した前記内管1’、1が、その天端を前記キャップ3の蓋部12で押圧されつつ回転圧入される。と同時に、前記内管1’、1と回転伝達可能に嵌合した前記外管2’、2が、その天端を前記キャップ3のリング6で押圧されつつ回転圧入される。
前記外管2’は、その下端が、下位の外管2の天端と接合され、その上端部は、前記キャップ3のリング6に密着された状態で押圧されて回転圧入されるので、当該外管2’の内側へ土砂や地下水が浸入させないようにすることができる。よって、前記内管1’と外管2’とが形成する隙間を空隙に保持しつつ前記内管1、1’と外管2、2’を同時に回転圧入させることができる。
上記工程を、継ぎ足す内管1’及び外管2’の使用本数に応じて繰り返し行うことにより(請求項9、10記載の発明)、1本の防振用の二重管式鋼管杭の施工を終え、前記回転圧入施工装置を次の施工場所へ移動させる工程を必要に応じて行い、防振用の二重管式鋼管杭の施工作業を終了するのである。
【0038】
かくして、この実施例2に係る防振用の二重管式鋼管杭及びその施工方法によれば、上記段落[0034]に記載した効果に加え、支持地盤までの到達深度が深い場合、或いは高さの制約が課される既存建物内で施工する場合など、実施状況に応じたフレキシブルな施工が可能となる。
【実施例3】
【0039】
図6は、請求項1に係る防振用の二重管式鋼管杭とその施工方法の異なる実施例を示している。この実施例3に係る防振用の二重管式鋼管杭は、上記実施例1及び実施例2で説明したように、防振用の二重管式鋼管杭を所要の深度(通常、支持地盤)まで回転圧入した後、地上から重機等により、外管2(及び2’)を立壁部4bの高さ範囲内(図示例では底壁部4aからHの高さ)引き上げて、外管2の下端部と前記有底筒形カバー4の底壁部4aとの接触状態を解除するように実施している。
この実施例3に係る防振用の二重管式鋼管杭によれば、前記外管2の外周面と有底筒形カバー4の立壁部4bの内周面とは数mm程度の隙間を形成している(上記段落[0023]参照)ことに加え、前記外管2の下端と有底筒形カバー4の底壁部4aとも寸法Hの隙間を形成しているので、上記実施例1及び実施例2と比して、内管1から外管2又は外管2から内管1への振動伝達を更に低減することができる。
【0040】
以上に実施例1〜実施例3を図面に基づいて説明したが、本発明は、図示例の限りではなく、その技術的思想を逸脱しない範囲において、当業者が通常に行う設計変更、応用のバリエーションの範囲を含むことを念のために言及する。
例えば、実施例1〜実施例3では、前記内管1と外管2とが形成する隙間を空隙(空洞)にして実施しているが、これに限定されず、同空隙内に地下水や弾性材など振動伝達が小さい材料で満たして実施することもできる。
【符号の説明】
【0041】
1 内管
2 外管
3 キャップ
4 有底筒形カバー
4a 底壁部
4b 立壁部
5 筒部
5a 突片部
5b 先端部
6 リング
7 キャップ嵌合用突起
8 切欠部
9 外管嵌合用突起
10 切欠部
11 掘削羽根
12 蓋部
13 ロッド
1’ 内管
2’ 外管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下端部近傍に、外管の下端部が嵌め込まれる有底筒形カバーを設けた内管と、前記有底筒形カバー内に下端部が嵌め込まれ、前記内管と同心円配置に位置決めされた外管と、前記内管と外管とが形成する上端部の隙間に嵌め込まれ、外周面に前記外管の天端に当接するリングを有する筒部を備え、前記内管の天端に被せるキャップとから成り、前記内管は前記キャップと回転伝達可能に嵌合され、前記外管は前記内管と回転伝達可能に嵌合されていることを特徴とする、防振用の二重管式鋼管杭。
【請求項2】
前記内管と外管の上位に内管と外管が継ぎ足される場合にあっては、継ぎ足す方の内管は前記キャップと回転伝達可能に嵌合される構成であることを特徴とする、請求項1に記載した防振用の二重管式鋼管杭。
【請求項3】
前記内管及び継ぎ足す方の内管が前記キャップと回転伝達可能に嵌合される構成は、前記キャップの筒部に形成された切欠部が、前記内管及び継ぎ足す方の内管の上端部近傍の外周面に設けられたキャップ嵌合用突起に嵌まって嵌合される構成であること、
前記外管が前記内管と回転伝達可能に嵌合される構成は、前記外管の下端に形成された切欠部が、前記有底筒形カバーの内周面、又は前記内管の外周面に設けられた外管嵌合用突起に嵌まって嵌合される構成であることを特徴とする、請求項1又は2に記載した防振用の二重管式鋼管杭。
【請求項4】
前記有底筒形カバーの立壁部は、前記外管と内管との鉛直精度を確保するのに必要な高さとされることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一に記載した防振用の二重管式鋼管杭。
【請求項5】
前記キャップの筒部は、前記内管と外管とが形成する上端部の隙間とほぼ一致する肉厚とされ、且つ前記内管と外管との鉛直精度を確保するのに必要な高さとされることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一に記載した防振用の二重管式鋼管杭。
【請求項6】
前記有底筒形カバーの底部の外形は、前記内管の先端方向へ向かって漸次幅狭となるテーパー形状とされていることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一に記載した防振用の二重管式鋼管杭。
【請求項7】
前記キャップの筒部の外周面に設けられたリングは、前記外管の外周面と面一となる肉厚とされることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一に記載した防振用の二重管式鋼管杭。
【請求項8】
前記内管の先端部は、底板で塞がれて掘削羽根が設けられていることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一に記載した防振用の二重管式鋼管杭。
【請求項9】
内管と外管とを同心円配置に設けてなる防振用の二重管式鋼管杭の施工方法であって、
前記内管と外管は、前記内管の天端に被せたキャップを回転圧入施工装置により回転させると前記内管が連動して回転し、前記内管の回転により前記外管が連動して回転する構成とし、前記回転圧入施工装置を駆動して前記キャップを回転圧入させることにより、前記内管と外管を同時に回転圧入させること、
前記内管と外管の上位に内管と外管を順次継ぎ足す場合は、前記内管と外管の継ぎ足しに先行して前記キャップを取り外し、継ぎ足した内管の天端に前記キャップを被せて当該継ぎ足した内管と外管を同時に回転圧入させる工程を、継ぎ足す本数に応じて繰り返し行うことを特徴とする、防振用の二重管式鋼管杭の施工方法。
【請求項10】
前記請求項1〜8のいずれか一に記載した防振用の二重管式鋼管杭の施工方法であって、前記キャップを回転圧入させる回転圧入施工装置を駆動して前記キャップを回転圧入させることにより前記キャップと回転伝達可能に嵌合した前記内管を回転圧入させると共に、前記内管と回転伝達可能に嵌合した前記外管を、前記キャップの筒部に設けたリングでその天端を押圧しつつ回転圧入させることにより、前記内管と外管を同時に回転圧入させること、
前記内管と外管の上位に内管と外管を順次継ぎ足す場合は、前記内管と外管の継ぎ足しに先行して前記キャップを取り外し、継ぎ足した内管の天端に前記キャップを被せて当該継ぎ足した内管と外管を同時に回転圧入させる工程を、継ぎ足す本数に応じて繰り返し行うことを特徴とする、防振用の二重管式鋼管杭の施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−255349(P2010−255349A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−108733(P2009−108733)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【出願人】(390018717)旭化成建材株式会社 (249)
【Fターム(参考)】