防振装置
【課題】共振周波数を調節するために配されるマス部材を、装着部材に対して容易に取り付けることができる、新規な構造の防振装置を提供すること。
【解決手段】第1の取付部材14と第2の取付部材16の何れかに装着部材60が取り付けられていると共に、装着部材60には別体のマス部材74が配設されており、装着部材60とマス部材74の少なくとも一方には永久磁石が設けられて、永久磁石の磁力によってマス部材74を装着部材60に取り付ける取付手段が構成されている。
【解決手段】第1の取付部材14と第2の取付部材16の何れかに装着部材60が取り付けられていると共に、装着部材60には別体のマス部材74が配設されており、装着部材60とマス部材74の少なくとも一方には永久磁石が設けられて、永久磁石の磁力によってマス部材74を装着部材60に取り付ける取付手段が構成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車のエンジンマウント等に適用される防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば自動車のパワーユニットを車両ボデーに防振支持せしめるために、防振装置が採用されている。防振装置は、第1の取付部材と第2の取付部材が本体ゴム弾性体によって弾性連結された構造を有しており、第1の取付部材と第2の取付部材がパワーユニットと車両ボデーの各一方に取り付けられることで、それらパワーユニットと車両ボデーの間に介装されるようになっている。例えば、特許第4718500号公報(特許文献1)に示されているのが、それである。
【0003】
ところで、防振装置の共振周波数が車体の共振周波数に近いと、車体の振動が防振装置で増幅されて、振動や異音の発生が問題になる場合がある。そこで、特許文献1では、エンジン側ブラケットに切り欠き部や肉盗み部を形成して、エンジン側ブラケットの軽量化を図ることで、防振装置の共振周波数を車体の共振周波数よりも高周波数側にずらしている。また、特許第4081422号公報(特許文献2)に示された防振装置等では、予め充分に薄肉で軽量の装着部材(ブラケットやストッパ部材)が採用されており、共振周波数の調節が装着部材に別体のマス部材を取り付けることで行われている。
【0004】
しかしながら、特許文献2に示された防振装置において装着部材に対して別体のマス部材を後付けする場合には、マス部材の取付手段が問題になり易い。即ち、マス部材をボルトによって装着部材に固定する場合には、マス部材や装着部材にボルト孔を形成する必要があると共に、ボルトやナットが必要になることから部品点数の増加が問題になる。一方、マス部材を溶接によって装着部材に固定することも考えられるが、補強用のリブ等が設けられた複雑な形状の装着部材では、マス部材の溶接作業に困難を伴うおそれがあって、製造の容易さが実現し難い場合もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4718500号公報
【特許文献2】特許第4081422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、共振周波数を調節するために配されるマス部材を、装着部材に対して容易に取り付けることができる、新規な構造の防振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明の第1の態様は、第1の取付部材と第2の取付部材が本体ゴム弾性体によって弾性連結された防振装置において、前記第1の取付部材と前記第2の取付部材の何れかに装着部材が取り付けられていると共に、該装着部材には別体のマス部材が配設されており、該装着部材と該マス部材の少なくとも一方には永久磁石が設けられて、該永久磁石の磁力によって該マス部材を該装着部材に取り付ける取付手段が構成されていることを、特徴とする。
【0008】
このような本発明の第1の態様に従う構造とされた防振装置によれば、マス部材が装着部材に対して永久磁石の磁力を利用して取り付けられることから、マス部材の取付作業を極めて簡単に行うことができる。特に、マス部材を装着部材に重ね合わせるだけで固定されることから、溶接やボルトによる固定に比べて、装着部材の形状が複雑な場合であっても、容易にマス部材の取付けが実現される。
【0009】
また、マス部材が磁力を利用して装着部材に取り付けられていることによって、マス部材の着脱や移動が容易とされて、マス部材の交換や取付位置の変更および微調整等を簡単に行うことができる。
【0010】
なお、取付手段は、マス部材と装着部材の両方に永久磁石が配されて、それら永久磁石の間で磁気的な吸引力が作用するようにして構成されていても良いし、マス部材と装着部材の何れか一方に永久磁石が配されると共に、何れか他方が強磁性体で形成されて、それら永久磁石と強磁性体の間で磁気的な吸引力が作用するようにして構成されていても良い。
【0011】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載された防振装置において、前記装着部材が強磁性体で形成されていると共に、前記永久磁石が前記マス部材に設けられているものである。
【0012】
第2の態様によれば、装着部材が磁力を持たない強磁性体で形成されていることにより、防振装置の組立作業時等において、装着部材とマス部材以外の強磁性体で形成された部品とが磁力で引き合うのを防ぐことができる。しかも、マス部材側に永久磁石が設けられていることによって、組み立てられた防振装置の装着部材に対してマス部材を容易に後付けすることができる。
【0013】
本発明の第3の態様は、第2の態様に記載された防振装置において、前記マス部材の全体が前記永久磁石で形成されているものである。
【0014】
第3の態様によれば、マス部材の全体が永久磁石で形成されていることによって、マス部材の装着部材に対する固着面積を大きく確保することができて、取付強度を充分に大きく得ることができる。従って、振動の入力によるマス部材の装着部材からの脱落や位置ずれが防止される。
【0015】
本発明の第4の態様は、第1〜第3の何れか1つの態様に記載された防振装置において、前記取付手段による前記装着部材と前記マス部材の取付方向に対して直交する方向で該マス部材の該装着部材に対する相対変位を制限する規制手段が設けられているものである。
【0016】
第4の態様によれば、マス部材と装着部材の相対変位が比較的に生じ易い、磁力による吸引力の作用方向に対して直交する方向において、それらマス部材と装着部材の相対変位が規制手段によって制限されていることから、マス部材の装着部材に対する装着位置のずれが防止されて、マス部材の脱落や防振装置の共振周波数の変化が回避される。
【0017】
本発明の第5の態様は、第4の態様に記載された防振装置において、前記規制手段が、前記装着部材から突出して前記マス部材に当接する規制突部を含んで構成されているものである。
【0018】
第5の態様によれば、装着部材に突設された規制突部がマス部材に当接することで、マス部材の装着部材に対する相対変位が制限されて、マス部材の装着位置のずれに伴うマス部材の脱落等が防止される。
【0019】
本発明の第6の態様は、第4又は第5の態様に記載された防振装置において、前記規制手段が、前記装着部材に取り付けられる弾性保護体に突設されて前記マス部材に当接する弾性規制部を含んで構成されているものである。
【0020】
第6の態様によれば、装着部材のエッジを覆う等の目的で取り付けられる弾性保護体に弾性規制部を設けることにより、弾性規制部のマス部材への当接によってマス部材の変位を制限することができる。しかも、規制手段が弾性体で形成されていることにより、マス部材の当接時に発生する打音が低減される。
【0021】
本発明の第7の態様は、第1〜第6の何れか1つの態様に記載された防振装置において、前記マス部材の前記装着部材からの離隔を当接によって制限する脱落防止部が、該マス部材の該装着部材への取付面と反対側に配設されているものである。
【0022】
第7の態様によれば、大振幅振動の入力等によって、マス部材と装着部材の磁力による固着が解除された場合にも、マス部材が脱落防止部に当接することで装着部材側に押し戻されて、マス部材の装着部材に対する磁力による固着が速やかに回復されることにより、マス部材の装着部材からの脱落が回避される。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、マス部材と装着部材の少なくとも一方に永久磁石が設けられて、その永久磁石の磁力を利用してマス部材を装着部材に固定する取付手段が構成されていることから、溶接やボルトによる固定等を要することなく、マス部材を装着部材に対して簡単に取り付けることができる。しかも、マス部材を装着部材に重ね合わせるだけで磁力によって固定されることから、装着部材の形状が複雑な場合であっても、容易にマス部材の取付けが実現される。加えて、マス部材の着脱や移動が比較的に容易であることから、マス部材の交換や取付位置の変更および微調整等を簡単に行うことも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1の実施形態としてのエンジンマウントを示す斜視図。
【図2】図1に示されたエンジンマウントの平面図。
【図3】図2のIII−III断面図。
【図4】本発明の第2の実施形態としてのエンジンマウントを構成するストッパ部材を示す縦断面図。
【図5】本発明の第3の実施形態としてのエンジンマウントを構成するストッパ部材を示す斜視図。
【図6】図5に示されたストッパ部材の縦断面図。
【図7】本発明の第4の実施形態としてのエンジンマウントを構成するストッパ部材を示す斜視図。
【図8】図7に示されたストッパ部材の平面図。
【図9】図7に示されたストッパ部材を構成する保護カバーの斜視図。
【図10】本発明の第5の実施形態としてのエンジンマウントを示す斜視図。
【図11】図10に示されたエンジンマウントの正面図。
【図12】本発明の第6の実施形態としてのエンジンマウントを示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0026】
図1〜図3には、本発明に従う構造とされた防振装置の第1の実施形態として、自動車用のエンジンマウント10が示されている。エンジンマウント10はマウント本体12を備えており、そのマウント本体12は第1の取付部材14と第2の取付部材16が本体ゴム弾性体18によって弾性連結された構造を有している。そして、第1の取付部材14が図示しないエンジン側ブラケットを介して図示しないパワーユニットに取り付けられると共に、第2の取付部材16がボデー側ブラケット20を介して図示しない車両ボデーに取り付けられることによって、パワーユニットが車両ボデーに防振支持されるようになっている。なお、以下の説明において、原則として、上下方向とは図3中の上下方向を、左右方向とは図3中の左右方向を、それぞれ言う。
【0027】
より詳細には、第1の取付部材14は、全体として略円形ブロック形状とされた高剛性の部材であって、上部が略円柱形状を呈していると共に、下部が逆向きの略円錐台形状を呈しており、それら上部と下部の境界に環状の段差が形成されている。また、第1の取付部材14には、上方に突出する板状の取付片22が一体形成されており、取付片22には厚さ方向である軸直角方向に貫通するようにボルト孔24が形成されている。
【0028】
第2の取付部材16は、薄肉大径の略円筒形状を有する高剛性の部材であって、軸方向中間部分に階段状の段差部26が設けられて、上部が小径筒部28とされていると共に、下部が大径筒部30とされている。また、小径筒部28の上側開口部には、次第に拡径しながら上方に延び出すテーパ部32が一体形成されている。
【0029】
そして、第1の取付部材14が第2の取付部材16の上方に同一中心軸上で配置されて、それら第1の取付部材14と第2の取付部材16が本体ゴム弾性体18によって弾性連結されている。本体ゴム弾性体18は、厚肉大径の略円錐台形状を有しており、小径側の端部に第1の取付部材14が加硫接着されていると共に、大径側の端部に第2の取付部材16が加硫接着されている。なお、本体ゴム弾性体18は、第1の取付部材14と第2の取付部材16を備えた一体加硫成形品として形成されている。
【0030】
さらに、本体ゴム弾性体18には、大径側の端面に開口する大径凹所34が形成されている。大径凹所34は、開口側に向かって次第に拡径する逆向きの略すり鉢形状を呈する凹所とされている。
【0031】
また、第2の取付部材16には、可撓性膜36が取り付けられている。可撓性膜36は、薄肉大径の逆向き円形ドーム状を呈するゴム膜であって、軸方向に充分な緩みを有している。更に、可撓性膜36の外周端面は、環状の固定部材38に加硫接着されている。そして、可撓性膜36は、固定部材38が第2の取付部材16に下側から挿入された後、第2の取付部材16の下端部が下方に向かって縮径するテーパ形状に加工されることにより、第2の取付部材16の下側開口部を閉塞するように配設されている。
【0032】
これにより、第2の取付部材16の上側開口部が本体ゴム弾性体18によって閉塞されていると共に、第2の取付部材16の下側開口部が可撓性膜36によって閉塞されており、それら本体ゴム弾性体18と可撓性膜36の軸方向対向面間には、外部空間から隔てられて非圧縮性流体を封入された流体室40が形成されている。この流体室40に封入される非圧縮性流体は、特に限定されるものではないが、例えば、水やアルキレングリコール、ポリアルキレングリコール、シリコーン油、或いはそれらの混合液等が好適に採用される。また、後述する流体の流動作用に基づいた防振効果を効率的に発揮させるためには、非圧縮性流体として0.1Pa・s以下の低粘性流体を採用することが望ましい。
【0033】
また、流体室40には、仕切部材42が配設されている。仕切部材42は、全体として逆向きの略有底円筒形状を有しており、オリフィス部材44と隔壁部材46とを組み合わせて形成されている。
【0034】
オリフィス部材44は、厚肉大径の略円筒形状を有しており、外周面に開口して周方向に所定の長さで延びる周溝48を備えている。そして、オリフィス部材44は、第2の取付部材16の大径筒部30に挿入されており、第2の取付部材16の段差部26と可撓性膜36に固着された固定部材38との軸方向間に保持されている。また、オリフィス部材44の外周面に第2の取付部材16の大径筒部30が重ね合わされることによって、オリフィス部材44に形成された周溝48の外周側開口部が第2の取付部材16によって覆蓋されて、トンネル状の流路が形成されている。なお、第2の取付部材16の大径筒部30とオリフィス部材44の重ね合わせ面間にシールゴム層が設けられて、それら第2の取付部材16とオリフィス部材44の部材間が流体密にシールされていても良い。
【0035】
隔壁部材46は、薄肉大径の略円板形状を有しており、外周部分が全周に亘ってオリフィス部材44の上面に重ね合わされている。そして、隔壁部材46は、外周端部が第2の取付部材16の段差部26とオリフィス部材44との間で挟持されることによって、第2の取付部材16に取り付けられて支持されている。
【0036】
さらに、隔壁部材46は、流体室40内で軸直角方向に広がるように配設されており、流体室40が隔壁部材46によって仕切られて上下に二分されている。これにより、隔壁部材46を挟んだ上側には、壁部の一部が本体ゴム弾性体18で構成されて、振動入力時に圧力変動が惹起される受圧室50が形成されている。一方、隔壁部材46を挟んだ下側には、壁部の一部が可撓性膜36で構成されて、容積変化が許容される平衡室52が形成されている。なお、受圧室50と平衡室52には、流体室40の非圧縮性流体が封入されている。
【0037】
また、仕切部材42の第2の取付部材16への組付け状態において、周溝48によって形成されたトンネル状の流路は、一方の端部が図示しない連通孔を通じて受圧室50に連通されていると共に、他方の端部が図示しない連通孔を通じて平衡室52に連通されている。これにより、受圧室50と平衡室52を相互に連通するオリフィス通路54が、周溝48を利用して仕切部材42に形成されている。なお、オリフィス通路54は、受圧室50および平衡室52の壁ばね剛性を考慮しつつ、通路長(A)と通路断面積(L)の比(A/L)を調節することによって、流動流体の共振周波数であるチューニング周波数が調節されており、本実施形態ではエンジンシェイクに相当する10Hz程度の低周波数にチューニングされている。
【0038】
このような構造とされたマウント本体12には、ボデー側ブラケット20が取り付けられている。ボデー側ブラケット20は、薄肉大径の略円筒形状を有する高剛性の部材であって、上側開口部に軸直角方向一方向で両側に突出する連結片56が一体形成されていると共に、下側開口部に軸直角方向で広がる略角丸四角形状の取付板部58が一体形成されている。そして、ボデー側ブラケット20は、第2の取付部材16の大径筒部30に外嵌されて取り付けられている。
【0039】
なお、図示はされていないが、第1の取付部材14には、軸直角方向一方向で突出するエンジン側ブラケットが取り付けられている。このエンジン側ブラケットが、後述するストッパ部材60の天板部64に対して、同じく後述するストッパゴム70を介して当接することにより、第1の取付部材14と第2の取付部材16の離隔方向での相対変位量を制限するリバウンドストッパが構成される。
【0040】
第2の取付部材16に取り付けられたボデー側ブラケット20には、装着部材としてのストッパ部材60が取り付けられている。ストッパ部材60は、全体として門形を呈する高剛性の部材であって、左右一対の脚部62,62と、それら脚部62,62の上端部を連結する天板部64とを、一体的に備えている。
【0041】
一対の脚部62,62は、上方に向かって次第に接近しながら延びる板形状を有しており、下端部にはそれら一対の脚部62,62の対向方向外側に向かって突出してボルト孔66を備えた固定部68が設けられている。
【0042】
天板部64は、略一定の幅寸法を有する板形状とされており、一対の脚部62,62の上端を連結するように左右方向に延びている。また、天板部64は、鉄等の強磁性体で形成されており、永久磁石との間で磁力に基づく吸引力が作用するようになっている。更に、天板部64の下面には、平面形状が下方に向かって段階的に小さくなるストッパゴム70が加硫接着されている。
【0043】
また、一対の脚部62,62および天板部64の幅方向両端には、上方に突出する一対の補強リブ72,72が設けられており、ストッパ部材60の全体が溝状とされている。このような補強リブ72が形成されることによって、ストッパ部材60の剛性が高められて、耐荷重性の向上が図られている。
【0044】
そして、ストッパ部材60は、一対の脚部62,62の固定部68が、ボデー側ブラケット20の連結片56に上方から重ね合わされて、図示しないボルトによって固定されることにより、ボデー側ブラケット20に取り付けられている。かかる取付け状態において、ストッパ部材60は、マウント本体12の上方を跨ぐように配設されており、ストッパ部材60の天板部64がマウント本体12の第1の取付部材14に対して上方に所定距離を隔てて配置されている。
【0045】
また、ストッパ部材60には、別体のマス部材74が取り付けられている。マス部材74は、略蒲鉾形の部材であって、全体がフェライトに磁化を与えて得られる永久磁石によって形成された質量体とされており、下端面に磁極が形成されている。
【0046】
このマス部材74は、ストッパ部材60の天板部64の上面に重ね合わされて、マス部材74の磁力に基づいた吸引力によって天板部64に固定されている。このことからも明らかなように、マス部材74をストッパ部材60に取り付けるための取付手段が、永久磁石で形成されたマス部材74の磁力を利用して構成されている。なお、本実施形態では、マス部材74が天板部64の幅方向および長さ方向の中央に配置されており、ストッパ部材60のボデー側ブラケット20への取付部分から離れた位置に装着されている。
【0047】
これにより、ストッパ部材60の質量にマス部材74の質量が追加されて、エンジンマウント10全体の固有振動数が、低周波数側に変更設定される。その結果、マス部材74を装着する前のエンジンマウント10の固有振動数が車両からの入力振動の周波数と近い場合に、マス部材74の装着によってエンジンマウント10の固有振動数が入力振動の周波数に対して低周波数側に外れて、共振による振動の増幅が防止される。なお、マス部材74の質量は、マス部材74を装着されたストッパ部材60の固有振動数が、車両からの入力振動の周波数に対して充分に低周波数側にずれるように設定される。
【0048】
このような構造とされたエンジンマウント10は、図示しないエンジン側ブラケットが図示しないパワーユニットに固定されることで、第1の取付部材14がパワーユニット側に取り付けられると共に、ボデー側ブラケット20の取付板部58が図示しない車両ボデーにボルト固定されることで、第2の取付部材16が車両ボデー側に取り付けられることにより、車両に装着されている。
【0049】
かかる車両への装着状態において、第1の取付部材14と第2の取付部材16の間にエンジンシェイクに相当する低周波大振幅振動が入力されると、受圧室50と平衡室52の間で相対的な圧力差が生じて、受圧室50と平衡室52の間でオリフィス通路54を通じての流体流動が惹起される。これにより、流体の流動作用に基づいて、目的とする防振効果(高減衰効果)が発揮される。
【0050】
また、マス部材74がストッパ部材60に装着されることによって、エンジンマウント10の固有振動数が、マス部材74を装着する前のエンジンマウント10の固有振動数よりも低周波数側にシフトしている。それ故、マス部材74装着前のエンジンマウント10の固有振動数が入力振動の周波数に近い場合に、マス部材74の装着によってエンジンマウント10の固有振動数が入力振動の周波数よりも低周波数側にずらされて、エンジンマウント10の共振による振動状態の悪化が防止される。
【0051】
さらに、マス部材74が永久磁石で形成されていると共に、ストッパ部材60が強磁性体で形成されており、マス部材74が磁力によってストッパ部材60に固定されている。これにより、マス部材74をストッパ部材60に重ね合わせるだけでマス部材74がストッパ部材60に容易に取り付けられる。特に、ストッパ部材60が補強リブ72を備えた溝形とされて、溶接等の作業が行い難い場合であっても、マス部材74をストッパ部材60に容易に取り付けることができる。
【0052】
加えて、ストッパ部材60が磁力を有していないことから、エンジンマウント10の組立作業時には、マス部材74を固着するための磁力が悪影響を及ぼすことがない。しかも、ストッパ部材60が強磁性体で形成されていることから、磁力を有するマス部材74をエンジンマウント10の組立後に後付けすることが可能であり、入力振動に対するストッパ部材60の共振の回避が容易に実現される。
【0053】
また、マス部材74の全体が永久磁石で形成されており、マス部材74とストッパ部材60との磁力による取付面積が大きく確保されている。これにより、マス部材74がストッパ部材60により強固に固定されて、振動入力によるマス部材74のストッパ部材60に対する剥離や位置ずれが防止される。
【0054】
また、マス部材74がストッパ部材60に対して磁力で固定されていることから、積極的に外力を及ぼすことによってマス部材74をストッパ部材60から取り外したり、マス部材74のストッパ部材60に対する装着位置を変更したりすることができる。それ故、マス部材74の交換や装着位置の微調整等を容易に行うことができて、振動状態の経年変化等に応じてマス部材74を質量の異なるものに交換したり、重量バランス等を考慮してマス部材74のストッパ部材60上での位置を微調整したりすることができる。
【0055】
図4には、本発明に係る防振装置の第2の実施形態としてのエンジンマウントを構成するストッパ部材80が示されている。なお、以下の説明において、第1の実施形態と実質的に同一の部材および部位については、図中に同一の符号を付すことで説明を省略する。また、図中に示されていない部分(マウント本体12等)については、第1の実施形態と実質的に同一である。
【0056】
ストッパ部材80は、一対の脚部62,62と、それら脚部62,62の上端を相互に連結する天板部64とを、備えていると共に、一対の脚部62,62の上端部分には、それぞれ永久磁石82が取り付けられている。永久磁石82は、厚さ方向両面に磁極が形成された略矩形板形状とされており、一対の脚部62,62の対向方向内側の面に磁力によって固定されている。また、脚部62は強磁性体で形成されており、対向方向内側の面に永久磁石82が取り付けられることによって、対向方向外側の面に磁極が形成されている。なお、永久磁石82は、磁力によって脚部62に取り付けられていても良いし、溶接や接着、係合等の手段によって脚部62に固定されていても良い。
【0057】
また、脚部62における永久磁石82の固定側と反対側の面には、マス部材84が重ね合わされている。マス部材84は、中実ブロック状の強磁性体又は永久磁石で形成されており、脚部62に固定された永久磁石82との間で吸引力が作用するようになっている。そして、マス部材84は、永久磁石82と対応する位置に配置されて、永久磁石82によって着磁された脚部62の表面に重ね合わされることにより、脚部62の上端部分に磁力によって固定されている。なお、本実施形態では、一対のマス部材84,84が一対の永久磁石82,82によって一対の脚部62,62に固定されている。また、上記の説明からも明らかなように、本実施形態の取付手段は、永久磁石82の磁力を利用して構成されている。
【0058】
このように、マス部材84のストッパ部材80に対する磁力を利用した固定は、マス部材84側に永久磁石を設ける他に、ストッパ部材80側に永久磁石82を設けることによっても実現され得る。なお、永久磁石82がストッパ部材80の天板部64の下面に取り付けられて、マス部材84が天板部64の上面に固定されるようになっていても良いし、脚部62の中間部分や下端部に固定されるようになっていても良いことは言うまでもない。
【0059】
図5,図6には、本発明に係る防振装置の第3の実施形態としてのエンジンマウントを構成するストッパ部材90が示されている。このストッパ部材90は、天板部64上に一対の規制突部92,92を備えた構造を有している。規制突部92は、矩形板状の部材であって、一対が天板部64の長さ方向で対向して配設されて、天板部64から上方に向かって突出している。
【0060】
それら一対の規制突部92,92の対向面間には、マス部材94が配設されている。マス部材94は、全体として略蒲鉾形を呈しており、マス部96に永久磁石98を組み付けた構造とされている。マス部96は、鉄等の強磁性材料で形成されており、下面に開口する矩形の凹所100を備えている。この凹所100には、矩形の永久磁石98が嵌め込まれており、磁力或いは接着等の手段によってマス部96に固着されている。そして、マス部材94は、一対の規制突部92,92の対向面間に配置されて、下面がストッパ部材90の天板部64に重ね合わされることで、磁力によって天板部64に固定されている。なお、本実施形態の取付手段は、永久磁石98の磁力を利用して構成されている。
【0061】
また、マス部材94の左右方向の端面が、一対の規制突部92,92に対して、当接或いは所定の隙間をもって対向しており、マス部材94のストッパ部材90に対する左右方向への相対変位量が一対の規制突部92,92への当接によって制限されている。このように、本実施形態の規制手段は、規制突部92に対するマス部材94の当接によって構成されている。
【0062】
また、ストッパ部材90には、弾性保護体としての保護カバー102が取り付けられている。保護カバー102は、ストッパ部材90の幅方向(図6における紙面直交方向)両側と下面とを覆うゴム弾性体であって、一対の補強リブ72,72の対向方向外側の面に重ね合わされる一対の保護部104,104と、それら保護部104を一対の脚部62,62の対向方向内側において相互に連結する連結部105とを一体的に備えている。保護部104は、補強リブ72と同様の形状を有していると共に、全体に亘って補強リブ72よりも上方に突出して取り付けられており、補強リブ72の上端のエッジに対する他部材の当接が保護部104によって防止されている。
【0063】
さらに、保護カバー102には、脱落防止部106が一体形成されている。脱落防止部106は、一対の保護部104,104の左右方向中央部分に幅方向で跨って設けられており、マス部材94の上方を所定距離を隔てて覆っている。
【0064】
エンジンマウントにおいて、このようなストッパ部材90を採用すれば、マス部材94のストッパ部材90に対する取付方向(磁力による吸引力の作用方向)に直交する方向で、マス部材94のストッパ部材90に対する相対変位が制限される。即ち、マス部材94の前後方向での相対変位が、マス部材94の補強リブ72への当接によって制限されると共に、マス部材94の左右方向での相対変位が、マス部材94の規制突部92への当接によって制限される。これにより、マス部材94のストッパ部材90に対する位置ずれや脱落が回避されて、ストッパ部材90の共振による振動状態の悪化が安定して防止される。
【0065】
また、ストッパ部材90に取り付けられた保護カバー102に脱落防止部106が一体形成されて、マス部材94の上方が脱落防止部106によって覆われている。それ故、衝撃的な大荷重の入力等によってマス部材94がストッパ部材90から上方に離れた場合にも、マス部材94が弾性体で形成された脱落防止部106に当接することでストッパ部材90側に押し戻されて、マス部材94がストッパ部材90への装着状態に速やかに復帰する。このように、マス部材94のストッパ部材90に対する磁力による取付けが解除された場合にも、マス部材94のストッパ部材90からの離隔変位が脱落防止部106によって規制されて、マス部材94の脱落が防止されることから、入力振動に対するストッパ部材90の共振が安定して抑えられる。
【0066】
図7,図8には、本発明に係る防振装置の第4の実施形態としてのエンジンマウントを構成するストッパ部材110が示されている。ストッパ部材110は第1の実施形態のストッパ部材60と同一の構造とされており、そのストッパ部材110には図9に示されているような弾性保護体としての保護カバー112が取り付けられている。
【0067】
保護カバー112は、第3の実施形態に示された保護カバー102と同様の構造を有していると共に、4つの弾性規制部114を備えている。弾性規制部114は、矩形ブロック形状を有しており、一対の保護部104,104の対向面間距離に対して半分以下の寸法で、それら一対の保護部104,104から対向方向内側に向かって突出している。また、弾性規制部114は、脱落防止部106を挟んだ左右方向両側に、一対の保護部104,104の対向方向で配置された一対が、それぞれ形成されており、図8に示されているように4つの弾性規制部114が設けられている。更に、弾性規制部114の幅方向外側の端部には、下方に開口して左右方向に貫通する掛止溝116が形成されている。
【0068】
そして、保護カバー112は、一対の保護部104,104が一対の補強リブ72,72に対して対向方向外側から重ね合わされると共に、一対の連結部105,105が一対の脚部62,62に対して対向方向内側から重ね合わされて、ストッパ部材110に取り付けられている。また、天板部64に一体形成された補強リブ72,72が掛止溝116に挿入されることによって、保護カバー112がストッパ部材110に対してより安定して位置決め保持されている。
【0069】
また、保護カバー112のストッパ部材110への装着状態において、天板部64の上面に磁力によって固定されたマス部材94の左右方向端面には、4つの弾性規制部114が当接されている。要するに、マス部材94は、脱落防止部106の左右両側に設けられた二対の弾性規制部114の間に配置されて、それら弾性規制部114によって左右方向への変位を弾性的に制限されている。このように、本実施形態の規制手段は、弾性規制部114のマス部材94への当接によって構成されている。
【0070】
このような保護カバー112を装着されたストッパ部材110によれば、マス部材94のストッパ部材110への固着方向と直交する方向(図8の左右方向)において、マス部材94のストッパ部材110に対する相対変位が、マス部材94と保護カバー112に設けられた弾性規制部114との当接によって制限されている。これにより、マス部材94のストッパ部材110に対する位置ずれや剥離が防止されて、ストッパ部材110の共振による振動状態の悪化が回避される。
【0071】
しかも、マス部材94の変位規制が、弾性体で形成された弾性規制部114への当接によって実現されることから、マス部材94の弾性規制部114への当接時に打音が発生するのも防止される。
【0072】
図10,図11には、本発明に係る防振装置の第5の実施形態として、エンジンマウント120が示されている。エンジンマウント120は、第1の実施形態のエンジンマウント10と略同一の構造を有していると共に、装着部材としてのボデー側ブラケット20の各連結片56に対して、それぞれマス部材122が取り付けられている。
【0073】
マス部材122は、第1の実施形態のマス部材74や第3の実施形態のマス部材94と同様に、その全部或いは一部に永久磁石が設けられており、下面に磁極が形成されている。そして、マス部材122は、ボデー側ブラケット20の連結片56の上面に重ね合わされて、マス部材122に設けられた永久磁石の磁力によって構成された取付手段により、連結片56上に固定されている。また、ボデー側ブラケット20の連結片56は、マス部材122が磁力によって固定されるように、強磁性体で形成されている。
【0074】
なお、マス部材122の見易さのために図示は省略されているが、ボデー側ブラケット20の連結片56には、第1の実施形態のエンジンマウント10と同様に、ストッパ部材60が取り付けられる。このストッパ部材60には、連結片56に取り付けられたマス部材122とは別に、マス部材122が取り付けられていても良い。
【0075】
このように、マス部材は、ストッパ部材にのみ取り付けられるものではなく、ストッパ部材60やエンジン側ブラケット、ボデー側ブラケット20等といった第1の取付部材14や第2の取付部材16に装着される装着部材に対して、適当な部位に取り付けられ得る。
【0076】
図12には、本発明に係る防振装置の第6の実施形態として、エンジンマウント130が示されている。エンジンマウント130は、第1の実施形態のエンジンマウント10と略同一の構造を有していると共に、装着部材としてのボデー側ブラケット20の取付板部58に対して、一対のマス部材122,122が軸直角方向一方向で対向する位置に配設されている。
【0077】
このマス部材122は、ボデー側ブラケット20の取付板部58の上面に重ね合わされて、マス部材122に設けられた永久磁石の磁力によって構成された取付手段により、取付板部58上に固定されている。なお、このことからも明らかなように、ボデー側ブラケット20の取付板部58は、強磁性体で形成されている。
【0078】
このように、ボデー側ブラケット20にマス部材122が装着された態様においても、エンジンマウント130の固有振動数が入力振動の周波数に対して低周波数側にずらされて、エンジンマウント130の共振による車両の振動状態の悪化が防止される。
【0079】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、前記実施形態では、マス部材と装着部材の何れか一方にのみ永久磁石が設けられているが、マス部材と装着部材の両方に永久磁石が設けられて、それら永久磁石が相互に引き合うようにされていても良い。
【0080】
規制手段としては、規制突部92や弾性規制部114を設ける他に、例えばストッパ部材60の天板部64に対して上方に向かって開口する係止凹所を形成して、その係止凹所にマス部材を嵌め込むことで、マス部材が装着部材への取付方向と直交する方向において係止凹所の内周面に当接係止されて、位置決めされるようになっていても良い。
【0081】
また、規制手段として規制突部を設ける場合には、例えば装着部材の一部を切り起こす等して、規制突部が装着部材に一体で設けられていても良い。
【0082】
マス部材の装着部材からの剥離を防止する脱落防止部を設ける場合に、この脱落防止部は、必ずしも弾性保護体に一体で設けられている必要はなく、別体とされていても良いし、装着部材に対して一体或いは別体で取り付けられるようになっていても良い。また、脱落防止部は、打音を低減するために弾性体であることが望ましいが、マス部材の変位を制限することができれば硬質であっても良い。
【0083】
また、マウント本体の構造は、前記実施形態に示された具体的な構造に限定されるものではなく、公知の各種構造が採用され得る。具体的には、例えば、マウント本体は、必ずしも流体封入式の防振装置である必要はなく、第1の取付部材と第2の取付部材が本体ゴム弾性体で弾性連結された構造とされて、振動入力時に本体ゴム弾性体の内部摩擦に基づいた減衰作用が発揮されるものであっても良い。
【0084】
また、本発明の適用範囲は、エンジンマウントに限定されるものではなく、例えばトランスミッションマウントやモータマウント等にも適用され得る。また、本発明は、自動車用の防振装置にのみ適用されるものではなく、例えば自動二輪車や鉄道用車両、産業用車両等への適用も可能である。
【符号の説明】
【0085】
10,120,130:エンジンマウント(防振装置)、14:第1の取付部材、16:第2の取付部材、18:本体ゴム弾性体、60,80,90,110:ストッパ部材(装着部材)、74,84,94,122:マス部材、82:永久磁石、92:規制突部、102,112:保護カバー(弾性保護体)、106:脱落防止部、114:弾性規制部、120,130:ボデー側ブラケット(装着部材)
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車のエンジンマウント等に適用される防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば自動車のパワーユニットを車両ボデーに防振支持せしめるために、防振装置が採用されている。防振装置は、第1の取付部材と第2の取付部材が本体ゴム弾性体によって弾性連結された構造を有しており、第1の取付部材と第2の取付部材がパワーユニットと車両ボデーの各一方に取り付けられることで、それらパワーユニットと車両ボデーの間に介装されるようになっている。例えば、特許第4718500号公報(特許文献1)に示されているのが、それである。
【0003】
ところで、防振装置の共振周波数が車体の共振周波数に近いと、車体の振動が防振装置で増幅されて、振動や異音の発生が問題になる場合がある。そこで、特許文献1では、エンジン側ブラケットに切り欠き部や肉盗み部を形成して、エンジン側ブラケットの軽量化を図ることで、防振装置の共振周波数を車体の共振周波数よりも高周波数側にずらしている。また、特許第4081422号公報(特許文献2)に示された防振装置等では、予め充分に薄肉で軽量の装着部材(ブラケットやストッパ部材)が採用されており、共振周波数の調節が装着部材に別体のマス部材を取り付けることで行われている。
【0004】
しかしながら、特許文献2に示された防振装置において装着部材に対して別体のマス部材を後付けする場合には、マス部材の取付手段が問題になり易い。即ち、マス部材をボルトによって装着部材に固定する場合には、マス部材や装着部材にボルト孔を形成する必要があると共に、ボルトやナットが必要になることから部品点数の増加が問題になる。一方、マス部材を溶接によって装着部材に固定することも考えられるが、補強用のリブ等が設けられた複雑な形状の装着部材では、マス部材の溶接作業に困難を伴うおそれがあって、製造の容易さが実現し難い場合もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4718500号公報
【特許文献2】特許第4081422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、共振周波数を調節するために配されるマス部材を、装着部材に対して容易に取り付けることができる、新規な構造の防振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明の第1の態様は、第1の取付部材と第2の取付部材が本体ゴム弾性体によって弾性連結された防振装置において、前記第1の取付部材と前記第2の取付部材の何れかに装着部材が取り付けられていると共に、該装着部材には別体のマス部材が配設されており、該装着部材と該マス部材の少なくとも一方には永久磁石が設けられて、該永久磁石の磁力によって該マス部材を該装着部材に取り付ける取付手段が構成されていることを、特徴とする。
【0008】
このような本発明の第1の態様に従う構造とされた防振装置によれば、マス部材が装着部材に対して永久磁石の磁力を利用して取り付けられることから、マス部材の取付作業を極めて簡単に行うことができる。特に、マス部材を装着部材に重ね合わせるだけで固定されることから、溶接やボルトによる固定に比べて、装着部材の形状が複雑な場合であっても、容易にマス部材の取付けが実現される。
【0009】
また、マス部材が磁力を利用して装着部材に取り付けられていることによって、マス部材の着脱や移動が容易とされて、マス部材の交換や取付位置の変更および微調整等を簡単に行うことができる。
【0010】
なお、取付手段は、マス部材と装着部材の両方に永久磁石が配されて、それら永久磁石の間で磁気的な吸引力が作用するようにして構成されていても良いし、マス部材と装着部材の何れか一方に永久磁石が配されると共に、何れか他方が強磁性体で形成されて、それら永久磁石と強磁性体の間で磁気的な吸引力が作用するようにして構成されていても良い。
【0011】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載された防振装置において、前記装着部材が強磁性体で形成されていると共に、前記永久磁石が前記マス部材に設けられているものである。
【0012】
第2の態様によれば、装着部材が磁力を持たない強磁性体で形成されていることにより、防振装置の組立作業時等において、装着部材とマス部材以外の強磁性体で形成された部品とが磁力で引き合うのを防ぐことができる。しかも、マス部材側に永久磁石が設けられていることによって、組み立てられた防振装置の装着部材に対してマス部材を容易に後付けすることができる。
【0013】
本発明の第3の態様は、第2の態様に記載された防振装置において、前記マス部材の全体が前記永久磁石で形成されているものである。
【0014】
第3の態様によれば、マス部材の全体が永久磁石で形成されていることによって、マス部材の装着部材に対する固着面積を大きく確保することができて、取付強度を充分に大きく得ることができる。従って、振動の入力によるマス部材の装着部材からの脱落や位置ずれが防止される。
【0015】
本発明の第4の態様は、第1〜第3の何れか1つの態様に記載された防振装置において、前記取付手段による前記装着部材と前記マス部材の取付方向に対して直交する方向で該マス部材の該装着部材に対する相対変位を制限する規制手段が設けられているものである。
【0016】
第4の態様によれば、マス部材と装着部材の相対変位が比較的に生じ易い、磁力による吸引力の作用方向に対して直交する方向において、それらマス部材と装着部材の相対変位が規制手段によって制限されていることから、マス部材の装着部材に対する装着位置のずれが防止されて、マス部材の脱落や防振装置の共振周波数の変化が回避される。
【0017】
本発明の第5の態様は、第4の態様に記載された防振装置において、前記規制手段が、前記装着部材から突出して前記マス部材に当接する規制突部を含んで構成されているものである。
【0018】
第5の態様によれば、装着部材に突設された規制突部がマス部材に当接することで、マス部材の装着部材に対する相対変位が制限されて、マス部材の装着位置のずれに伴うマス部材の脱落等が防止される。
【0019】
本発明の第6の態様は、第4又は第5の態様に記載された防振装置において、前記規制手段が、前記装着部材に取り付けられる弾性保護体に突設されて前記マス部材に当接する弾性規制部を含んで構成されているものである。
【0020】
第6の態様によれば、装着部材のエッジを覆う等の目的で取り付けられる弾性保護体に弾性規制部を設けることにより、弾性規制部のマス部材への当接によってマス部材の変位を制限することができる。しかも、規制手段が弾性体で形成されていることにより、マス部材の当接時に発生する打音が低減される。
【0021】
本発明の第7の態様は、第1〜第6の何れか1つの態様に記載された防振装置において、前記マス部材の前記装着部材からの離隔を当接によって制限する脱落防止部が、該マス部材の該装着部材への取付面と反対側に配設されているものである。
【0022】
第7の態様によれば、大振幅振動の入力等によって、マス部材と装着部材の磁力による固着が解除された場合にも、マス部材が脱落防止部に当接することで装着部材側に押し戻されて、マス部材の装着部材に対する磁力による固着が速やかに回復されることにより、マス部材の装着部材からの脱落が回避される。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、マス部材と装着部材の少なくとも一方に永久磁石が設けられて、その永久磁石の磁力を利用してマス部材を装着部材に固定する取付手段が構成されていることから、溶接やボルトによる固定等を要することなく、マス部材を装着部材に対して簡単に取り付けることができる。しかも、マス部材を装着部材に重ね合わせるだけで磁力によって固定されることから、装着部材の形状が複雑な場合であっても、容易にマス部材の取付けが実現される。加えて、マス部材の着脱や移動が比較的に容易であることから、マス部材の交換や取付位置の変更および微調整等を簡単に行うことも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1の実施形態としてのエンジンマウントを示す斜視図。
【図2】図1に示されたエンジンマウントの平面図。
【図3】図2のIII−III断面図。
【図4】本発明の第2の実施形態としてのエンジンマウントを構成するストッパ部材を示す縦断面図。
【図5】本発明の第3の実施形態としてのエンジンマウントを構成するストッパ部材を示す斜視図。
【図6】図5に示されたストッパ部材の縦断面図。
【図7】本発明の第4の実施形態としてのエンジンマウントを構成するストッパ部材を示す斜視図。
【図8】図7に示されたストッパ部材の平面図。
【図9】図7に示されたストッパ部材を構成する保護カバーの斜視図。
【図10】本発明の第5の実施形態としてのエンジンマウントを示す斜視図。
【図11】図10に示されたエンジンマウントの正面図。
【図12】本発明の第6の実施形態としてのエンジンマウントを示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0026】
図1〜図3には、本発明に従う構造とされた防振装置の第1の実施形態として、自動車用のエンジンマウント10が示されている。エンジンマウント10はマウント本体12を備えており、そのマウント本体12は第1の取付部材14と第2の取付部材16が本体ゴム弾性体18によって弾性連結された構造を有している。そして、第1の取付部材14が図示しないエンジン側ブラケットを介して図示しないパワーユニットに取り付けられると共に、第2の取付部材16がボデー側ブラケット20を介して図示しない車両ボデーに取り付けられることによって、パワーユニットが車両ボデーに防振支持されるようになっている。なお、以下の説明において、原則として、上下方向とは図3中の上下方向を、左右方向とは図3中の左右方向を、それぞれ言う。
【0027】
より詳細には、第1の取付部材14は、全体として略円形ブロック形状とされた高剛性の部材であって、上部が略円柱形状を呈していると共に、下部が逆向きの略円錐台形状を呈しており、それら上部と下部の境界に環状の段差が形成されている。また、第1の取付部材14には、上方に突出する板状の取付片22が一体形成されており、取付片22には厚さ方向である軸直角方向に貫通するようにボルト孔24が形成されている。
【0028】
第2の取付部材16は、薄肉大径の略円筒形状を有する高剛性の部材であって、軸方向中間部分に階段状の段差部26が設けられて、上部が小径筒部28とされていると共に、下部が大径筒部30とされている。また、小径筒部28の上側開口部には、次第に拡径しながら上方に延び出すテーパ部32が一体形成されている。
【0029】
そして、第1の取付部材14が第2の取付部材16の上方に同一中心軸上で配置されて、それら第1の取付部材14と第2の取付部材16が本体ゴム弾性体18によって弾性連結されている。本体ゴム弾性体18は、厚肉大径の略円錐台形状を有しており、小径側の端部に第1の取付部材14が加硫接着されていると共に、大径側の端部に第2の取付部材16が加硫接着されている。なお、本体ゴム弾性体18は、第1の取付部材14と第2の取付部材16を備えた一体加硫成形品として形成されている。
【0030】
さらに、本体ゴム弾性体18には、大径側の端面に開口する大径凹所34が形成されている。大径凹所34は、開口側に向かって次第に拡径する逆向きの略すり鉢形状を呈する凹所とされている。
【0031】
また、第2の取付部材16には、可撓性膜36が取り付けられている。可撓性膜36は、薄肉大径の逆向き円形ドーム状を呈するゴム膜であって、軸方向に充分な緩みを有している。更に、可撓性膜36の外周端面は、環状の固定部材38に加硫接着されている。そして、可撓性膜36は、固定部材38が第2の取付部材16に下側から挿入された後、第2の取付部材16の下端部が下方に向かって縮径するテーパ形状に加工されることにより、第2の取付部材16の下側開口部を閉塞するように配設されている。
【0032】
これにより、第2の取付部材16の上側開口部が本体ゴム弾性体18によって閉塞されていると共に、第2の取付部材16の下側開口部が可撓性膜36によって閉塞されており、それら本体ゴム弾性体18と可撓性膜36の軸方向対向面間には、外部空間から隔てられて非圧縮性流体を封入された流体室40が形成されている。この流体室40に封入される非圧縮性流体は、特に限定されるものではないが、例えば、水やアルキレングリコール、ポリアルキレングリコール、シリコーン油、或いはそれらの混合液等が好適に採用される。また、後述する流体の流動作用に基づいた防振効果を効率的に発揮させるためには、非圧縮性流体として0.1Pa・s以下の低粘性流体を採用することが望ましい。
【0033】
また、流体室40には、仕切部材42が配設されている。仕切部材42は、全体として逆向きの略有底円筒形状を有しており、オリフィス部材44と隔壁部材46とを組み合わせて形成されている。
【0034】
オリフィス部材44は、厚肉大径の略円筒形状を有しており、外周面に開口して周方向に所定の長さで延びる周溝48を備えている。そして、オリフィス部材44は、第2の取付部材16の大径筒部30に挿入されており、第2の取付部材16の段差部26と可撓性膜36に固着された固定部材38との軸方向間に保持されている。また、オリフィス部材44の外周面に第2の取付部材16の大径筒部30が重ね合わされることによって、オリフィス部材44に形成された周溝48の外周側開口部が第2の取付部材16によって覆蓋されて、トンネル状の流路が形成されている。なお、第2の取付部材16の大径筒部30とオリフィス部材44の重ね合わせ面間にシールゴム層が設けられて、それら第2の取付部材16とオリフィス部材44の部材間が流体密にシールされていても良い。
【0035】
隔壁部材46は、薄肉大径の略円板形状を有しており、外周部分が全周に亘ってオリフィス部材44の上面に重ね合わされている。そして、隔壁部材46は、外周端部が第2の取付部材16の段差部26とオリフィス部材44との間で挟持されることによって、第2の取付部材16に取り付けられて支持されている。
【0036】
さらに、隔壁部材46は、流体室40内で軸直角方向に広がるように配設されており、流体室40が隔壁部材46によって仕切られて上下に二分されている。これにより、隔壁部材46を挟んだ上側には、壁部の一部が本体ゴム弾性体18で構成されて、振動入力時に圧力変動が惹起される受圧室50が形成されている。一方、隔壁部材46を挟んだ下側には、壁部の一部が可撓性膜36で構成されて、容積変化が許容される平衡室52が形成されている。なお、受圧室50と平衡室52には、流体室40の非圧縮性流体が封入されている。
【0037】
また、仕切部材42の第2の取付部材16への組付け状態において、周溝48によって形成されたトンネル状の流路は、一方の端部が図示しない連通孔を通じて受圧室50に連通されていると共に、他方の端部が図示しない連通孔を通じて平衡室52に連通されている。これにより、受圧室50と平衡室52を相互に連通するオリフィス通路54が、周溝48を利用して仕切部材42に形成されている。なお、オリフィス通路54は、受圧室50および平衡室52の壁ばね剛性を考慮しつつ、通路長(A)と通路断面積(L)の比(A/L)を調節することによって、流動流体の共振周波数であるチューニング周波数が調節されており、本実施形態ではエンジンシェイクに相当する10Hz程度の低周波数にチューニングされている。
【0038】
このような構造とされたマウント本体12には、ボデー側ブラケット20が取り付けられている。ボデー側ブラケット20は、薄肉大径の略円筒形状を有する高剛性の部材であって、上側開口部に軸直角方向一方向で両側に突出する連結片56が一体形成されていると共に、下側開口部に軸直角方向で広がる略角丸四角形状の取付板部58が一体形成されている。そして、ボデー側ブラケット20は、第2の取付部材16の大径筒部30に外嵌されて取り付けられている。
【0039】
なお、図示はされていないが、第1の取付部材14には、軸直角方向一方向で突出するエンジン側ブラケットが取り付けられている。このエンジン側ブラケットが、後述するストッパ部材60の天板部64に対して、同じく後述するストッパゴム70を介して当接することにより、第1の取付部材14と第2の取付部材16の離隔方向での相対変位量を制限するリバウンドストッパが構成される。
【0040】
第2の取付部材16に取り付けられたボデー側ブラケット20には、装着部材としてのストッパ部材60が取り付けられている。ストッパ部材60は、全体として門形を呈する高剛性の部材であって、左右一対の脚部62,62と、それら脚部62,62の上端部を連結する天板部64とを、一体的に備えている。
【0041】
一対の脚部62,62は、上方に向かって次第に接近しながら延びる板形状を有しており、下端部にはそれら一対の脚部62,62の対向方向外側に向かって突出してボルト孔66を備えた固定部68が設けられている。
【0042】
天板部64は、略一定の幅寸法を有する板形状とされており、一対の脚部62,62の上端を連結するように左右方向に延びている。また、天板部64は、鉄等の強磁性体で形成されており、永久磁石との間で磁力に基づく吸引力が作用するようになっている。更に、天板部64の下面には、平面形状が下方に向かって段階的に小さくなるストッパゴム70が加硫接着されている。
【0043】
また、一対の脚部62,62および天板部64の幅方向両端には、上方に突出する一対の補強リブ72,72が設けられており、ストッパ部材60の全体が溝状とされている。このような補強リブ72が形成されることによって、ストッパ部材60の剛性が高められて、耐荷重性の向上が図られている。
【0044】
そして、ストッパ部材60は、一対の脚部62,62の固定部68が、ボデー側ブラケット20の連結片56に上方から重ね合わされて、図示しないボルトによって固定されることにより、ボデー側ブラケット20に取り付けられている。かかる取付け状態において、ストッパ部材60は、マウント本体12の上方を跨ぐように配設されており、ストッパ部材60の天板部64がマウント本体12の第1の取付部材14に対して上方に所定距離を隔てて配置されている。
【0045】
また、ストッパ部材60には、別体のマス部材74が取り付けられている。マス部材74は、略蒲鉾形の部材であって、全体がフェライトに磁化を与えて得られる永久磁石によって形成された質量体とされており、下端面に磁極が形成されている。
【0046】
このマス部材74は、ストッパ部材60の天板部64の上面に重ね合わされて、マス部材74の磁力に基づいた吸引力によって天板部64に固定されている。このことからも明らかなように、マス部材74をストッパ部材60に取り付けるための取付手段が、永久磁石で形成されたマス部材74の磁力を利用して構成されている。なお、本実施形態では、マス部材74が天板部64の幅方向および長さ方向の中央に配置されており、ストッパ部材60のボデー側ブラケット20への取付部分から離れた位置に装着されている。
【0047】
これにより、ストッパ部材60の質量にマス部材74の質量が追加されて、エンジンマウント10全体の固有振動数が、低周波数側に変更設定される。その結果、マス部材74を装着する前のエンジンマウント10の固有振動数が車両からの入力振動の周波数と近い場合に、マス部材74の装着によってエンジンマウント10の固有振動数が入力振動の周波数に対して低周波数側に外れて、共振による振動の増幅が防止される。なお、マス部材74の質量は、マス部材74を装着されたストッパ部材60の固有振動数が、車両からの入力振動の周波数に対して充分に低周波数側にずれるように設定される。
【0048】
このような構造とされたエンジンマウント10は、図示しないエンジン側ブラケットが図示しないパワーユニットに固定されることで、第1の取付部材14がパワーユニット側に取り付けられると共に、ボデー側ブラケット20の取付板部58が図示しない車両ボデーにボルト固定されることで、第2の取付部材16が車両ボデー側に取り付けられることにより、車両に装着されている。
【0049】
かかる車両への装着状態において、第1の取付部材14と第2の取付部材16の間にエンジンシェイクに相当する低周波大振幅振動が入力されると、受圧室50と平衡室52の間で相対的な圧力差が生じて、受圧室50と平衡室52の間でオリフィス通路54を通じての流体流動が惹起される。これにより、流体の流動作用に基づいて、目的とする防振効果(高減衰効果)が発揮される。
【0050】
また、マス部材74がストッパ部材60に装着されることによって、エンジンマウント10の固有振動数が、マス部材74を装着する前のエンジンマウント10の固有振動数よりも低周波数側にシフトしている。それ故、マス部材74装着前のエンジンマウント10の固有振動数が入力振動の周波数に近い場合に、マス部材74の装着によってエンジンマウント10の固有振動数が入力振動の周波数よりも低周波数側にずらされて、エンジンマウント10の共振による振動状態の悪化が防止される。
【0051】
さらに、マス部材74が永久磁石で形成されていると共に、ストッパ部材60が強磁性体で形成されており、マス部材74が磁力によってストッパ部材60に固定されている。これにより、マス部材74をストッパ部材60に重ね合わせるだけでマス部材74がストッパ部材60に容易に取り付けられる。特に、ストッパ部材60が補強リブ72を備えた溝形とされて、溶接等の作業が行い難い場合であっても、マス部材74をストッパ部材60に容易に取り付けることができる。
【0052】
加えて、ストッパ部材60が磁力を有していないことから、エンジンマウント10の組立作業時には、マス部材74を固着するための磁力が悪影響を及ぼすことがない。しかも、ストッパ部材60が強磁性体で形成されていることから、磁力を有するマス部材74をエンジンマウント10の組立後に後付けすることが可能であり、入力振動に対するストッパ部材60の共振の回避が容易に実現される。
【0053】
また、マス部材74の全体が永久磁石で形成されており、マス部材74とストッパ部材60との磁力による取付面積が大きく確保されている。これにより、マス部材74がストッパ部材60により強固に固定されて、振動入力によるマス部材74のストッパ部材60に対する剥離や位置ずれが防止される。
【0054】
また、マス部材74がストッパ部材60に対して磁力で固定されていることから、積極的に外力を及ぼすことによってマス部材74をストッパ部材60から取り外したり、マス部材74のストッパ部材60に対する装着位置を変更したりすることができる。それ故、マス部材74の交換や装着位置の微調整等を容易に行うことができて、振動状態の経年変化等に応じてマス部材74を質量の異なるものに交換したり、重量バランス等を考慮してマス部材74のストッパ部材60上での位置を微調整したりすることができる。
【0055】
図4には、本発明に係る防振装置の第2の実施形態としてのエンジンマウントを構成するストッパ部材80が示されている。なお、以下の説明において、第1の実施形態と実質的に同一の部材および部位については、図中に同一の符号を付すことで説明を省略する。また、図中に示されていない部分(マウント本体12等)については、第1の実施形態と実質的に同一である。
【0056】
ストッパ部材80は、一対の脚部62,62と、それら脚部62,62の上端を相互に連結する天板部64とを、備えていると共に、一対の脚部62,62の上端部分には、それぞれ永久磁石82が取り付けられている。永久磁石82は、厚さ方向両面に磁極が形成された略矩形板形状とされており、一対の脚部62,62の対向方向内側の面に磁力によって固定されている。また、脚部62は強磁性体で形成されており、対向方向内側の面に永久磁石82が取り付けられることによって、対向方向外側の面に磁極が形成されている。なお、永久磁石82は、磁力によって脚部62に取り付けられていても良いし、溶接や接着、係合等の手段によって脚部62に固定されていても良い。
【0057】
また、脚部62における永久磁石82の固定側と反対側の面には、マス部材84が重ね合わされている。マス部材84は、中実ブロック状の強磁性体又は永久磁石で形成されており、脚部62に固定された永久磁石82との間で吸引力が作用するようになっている。そして、マス部材84は、永久磁石82と対応する位置に配置されて、永久磁石82によって着磁された脚部62の表面に重ね合わされることにより、脚部62の上端部分に磁力によって固定されている。なお、本実施形態では、一対のマス部材84,84が一対の永久磁石82,82によって一対の脚部62,62に固定されている。また、上記の説明からも明らかなように、本実施形態の取付手段は、永久磁石82の磁力を利用して構成されている。
【0058】
このように、マス部材84のストッパ部材80に対する磁力を利用した固定は、マス部材84側に永久磁石を設ける他に、ストッパ部材80側に永久磁石82を設けることによっても実現され得る。なお、永久磁石82がストッパ部材80の天板部64の下面に取り付けられて、マス部材84が天板部64の上面に固定されるようになっていても良いし、脚部62の中間部分や下端部に固定されるようになっていても良いことは言うまでもない。
【0059】
図5,図6には、本発明に係る防振装置の第3の実施形態としてのエンジンマウントを構成するストッパ部材90が示されている。このストッパ部材90は、天板部64上に一対の規制突部92,92を備えた構造を有している。規制突部92は、矩形板状の部材であって、一対が天板部64の長さ方向で対向して配設されて、天板部64から上方に向かって突出している。
【0060】
それら一対の規制突部92,92の対向面間には、マス部材94が配設されている。マス部材94は、全体として略蒲鉾形を呈しており、マス部96に永久磁石98を組み付けた構造とされている。マス部96は、鉄等の強磁性材料で形成されており、下面に開口する矩形の凹所100を備えている。この凹所100には、矩形の永久磁石98が嵌め込まれており、磁力或いは接着等の手段によってマス部96に固着されている。そして、マス部材94は、一対の規制突部92,92の対向面間に配置されて、下面がストッパ部材90の天板部64に重ね合わされることで、磁力によって天板部64に固定されている。なお、本実施形態の取付手段は、永久磁石98の磁力を利用して構成されている。
【0061】
また、マス部材94の左右方向の端面が、一対の規制突部92,92に対して、当接或いは所定の隙間をもって対向しており、マス部材94のストッパ部材90に対する左右方向への相対変位量が一対の規制突部92,92への当接によって制限されている。このように、本実施形態の規制手段は、規制突部92に対するマス部材94の当接によって構成されている。
【0062】
また、ストッパ部材90には、弾性保護体としての保護カバー102が取り付けられている。保護カバー102は、ストッパ部材90の幅方向(図6における紙面直交方向)両側と下面とを覆うゴム弾性体であって、一対の補強リブ72,72の対向方向外側の面に重ね合わされる一対の保護部104,104と、それら保護部104を一対の脚部62,62の対向方向内側において相互に連結する連結部105とを一体的に備えている。保護部104は、補強リブ72と同様の形状を有していると共に、全体に亘って補強リブ72よりも上方に突出して取り付けられており、補強リブ72の上端のエッジに対する他部材の当接が保護部104によって防止されている。
【0063】
さらに、保護カバー102には、脱落防止部106が一体形成されている。脱落防止部106は、一対の保護部104,104の左右方向中央部分に幅方向で跨って設けられており、マス部材94の上方を所定距離を隔てて覆っている。
【0064】
エンジンマウントにおいて、このようなストッパ部材90を採用すれば、マス部材94のストッパ部材90に対する取付方向(磁力による吸引力の作用方向)に直交する方向で、マス部材94のストッパ部材90に対する相対変位が制限される。即ち、マス部材94の前後方向での相対変位が、マス部材94の補強リブ72への当接によって制限されると共に、マス部材94の左右方向での相対変位が、マス部材94の規制突部92への当接によって制限される。これにより、マス部材94のストッパ部材90に対する位置ずれや脱落が回避されて、ストッパ部材90の共振による振動状態の悪化が安定して防止される。
【0065】
また、ストッパ部材90に取り付けられた保護カバー102に脱落防止部106が一体形成されて、マス部材94の上方が脱落防止部106によって覆われている。それ故、衝撃的な大荷重の入力等によってマス部材94がストッパ部材90から上方に離れた場合にも、マス部材94が弾性体で形成された脱落防止部106に当接することでストッパ部材90側に押し戻されて、マス部材94がストッパ部材90への装着状態に速やかに復帰する。このように、マス部材94のストッパ部材90に対する磁力による取付けが解除された場合にも、マス部材94のストッパ部材90からの離隔変位が脱落防止部106によって規制されて、マス部材94の脱落が防止されることから、入力振動に対するストッパ部材90の共振が安定して抑えられる。
【0066】
図7,図8には、本発明に係る防振装置の第4の実施形態としてのエンジンマウントを構成するストッパ部材110が示されている。ストッパ部材110は第1の実施形態のストッパ部材60と同一の構造とされており、そのストッパ部材110には図9に示されているような弾性保護体としての保護カバー112が取り付けられている。
【0067】
保護カバー112は、第3の実施形態に示された保護カバー102と同様の構造を有していると共に、4つの弾性規制部114を備えている。弾性規制部114は、矩形ブロック形状を有しており、一対の保護部104,104の対向面間距離に対して半分以下の寸法で、それら一対の保護部104,104から対向方向内側に向かって突出している。また、弾性規制部114は、脱落防止部106を挟んだ左右方向両側に、一対の保護部104,104の対向方向で配置された一対が、それぞれ形成されており、図8に示されているように4つの弾性規制部114が設けられている。更に、弾性規制部114の幅方向外側の端部には、下方に開口して左右方向に貫通する掛止溝116が形成されている。
【0068】
そして、保護カバー112は、一対の保護部104,104が一対の補強リブ72,72に対して対向方向外側から重ね合わされると共に、一対の連結部105,105が一対の脚部62,62に対して対向方向内側から重ね合わされて、ストッパ部材110に取り付けられている。また、天板部64に一体形成された補強リブ72,72が掛止溝116に挿入されることによって、保護カバー112がストッパ部材110に対してより安定して位置決め保持されている。
【0069】
また、保護カバー112のストッパ部材110への装着状態において、天板部64の上面に磁力によって固定されたマス部材94の左右方向端面には、4つの弾性規制部114が当接されている。要するに、マス部材94は、脱落防止部106の左右両側に設けられた二対の弾性規制部114の間に配置されて、それら弾性規制部114によって左右方向への変位を弾性的に制限されている。このように、本実施形態の規制手段は、弾性規制部114のマス部材94への当接によって構成されている。
【0070】
このような保護カバー112を装着されたストッパ部材110によれば、マス部材94のストッパ部材110への固着方向と直交する方向(図8の左右方向)において、マス部材94のストッパ部材110に対する相対変位が、マス部材94と保護カバー112に設けられた弾性規制部114との当接によって制限されている。これにより、マス部材94のストッパ部材110に対する位置ずれや剥離が防止されて、ストッパ部材110の共振による振動状態の悪化が回避される。
【0071】
しかも、マス部材94の変位規制が、弾性体で形成された弾性規制部114への当接によって実現されることから、マス部材94の弾性規制部114への当接時に打音が発生するのも防止される。
【0072】
図10,図11には、本発明に係る防振装置の第5の実施形態として、エンジンマウント120が示されている。エンジンマウント120は、第1の実施形態のエンジンマウント10と略同一の構造を有していると共に、装着部材としてのボデー側ブラケット20の各連結片56に対して、それぞれマス部材122が取り付けられている。
【0073】
マス部材122は、第1の実施形態のマス部材74や第3の実施形態のマス部材94と同様に、その全部或いは一部に永久磁石が設けられており、下面に磁極が形成されている。そして、マス部材122は、ボデー側ブラケット20の連結片56の上面に重ね合わされて、マス部材122に設けられた永久磁石の磁力によって構成された取付手段により、連結片56上に固定されている。また、ボデー側ブラケット20の連結片56は、マス部材122が磁力によって固定されるように、強磁性体で形成されている。
【0074】
なお、マス部材122の見易さのために図示は省略されているが、ボデー側ブラケット20の連結片56には、第1の実施形態のエンジンマウント10と同様に、ストッパ部材60が取り付けられる。このストッパ部材60には、連結片56に取り付けられたマス部材122とは別に、マス部材122が取り付けられていても良い。
【0075】
このように、マス部材は、ストッパ部材にのみ取り付けられるものではなく、ストッパ部材60やエンジン側ブラケット、ボデー側ブラケット20等といった第1の取付部材14や第2の取付部材16に装着される装着部材に対して、適当な部位に取り付けられ得る。
【0076】
図12には、本発明に係る防振装置の第6の実施形態として、エンジンマウント130が示されている。エンジンマウント130は、第1の実施形態のエンジンマウント10と略同一の構造を有していると共に、装着部材としてのボデー側ブラケット20の取付板部58に対して、一対のマス部材122,122が軸直角方向一方向で対向する位置に配設されている。
【0077】
このマス部材122は、ボデー側ブラケット20の取付板部58の上面に重ね合わされて、マス部材122に設けられた永久磁石の磁力によって構成された取付手段により、取付板部58上に固定されている。なお、このことからも明らかなように、ボデー側ブラケット20の取付板部58は、強磁性体で形成されている。
【0078】
このように、ボデー側ブラケット20にマス部材122が装着された態様においても、エンジンマウント130の固有振動数が入力振動の周波数に対して低周波数側にずらされて、エンジンマウント130の共振による車両の振動状態の悪化が防止される。
【0079】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、前記実施形態では、マス部材と装着部材の何れか一方にのみ永久磁石が設けられているが、マス部材と装着部材の両方に永久磁石が設けられて、それら永久磁石が相互に引き合うようにされていても良い。
【0080】
規制手段としては、規制突部92や弾性規制部114を設ける他に、例えばストッパ部材60の天板部64に対して上方に向かって開口する係止凹所を形成して、その係止凹所にマス部材を嵌め込むことで、マス部材が装着部材への取付方向と直交する方向において係止凹所の内周面に当接係止されて、位置決めされるようになっていても良い。
【0081】
また、規制手段として規制突部を設ける場合には、例えば装着部材の一部を切り起こす等して、規制突部が装着部材に一体で設けられていても良い。
【0082】
マス部材の装着部材からの剥離を防止する脱落防止部を設ける場合に、この脱落防止部は、必ずしも弾性保護体に一体で設けられている必要はなく、別体とされていても良いし、装着部材に対して一体或いは別体で取り付けられるようになっていても良い。また、脱落防止部は、打音を低減するために弾性体であることが望ましいが、マス部材の変位を制限することができれば硬質であっても良い。
【0083】
また、マウント本体の構造は、前記実施形態に示された具体的な構造に限定されるものではなく、公知の各種構造が採用され得る。具体的には、例えば、マウント本体は、必ずしも流体封入式の防振装置である必要はなく、第1の取付部材と第2の取付部材が本体ゴム弾性体で弾性連結された構造とされて、振動入力時に本体ゴム弾性体の内部摩擦に基づいた減衰作用が発揮されるものであっても良い。
【0084】
また、本発明の適用範囲は、エンジンマウントに限定されるものではなく、例えばトランスミッションマウントやモータマウント等にも適用され得る。また、本発明は、自動車用の防振装置にのみ適用されるものではなく、例えば自動二輪車や鉄道用車両、産業用車両等への適用も可能である。
【符号の説明】
【0085】
10,120,130:エンジンマウント(防振装置)、14:第1の取付部材、16:第2の取付部材、18:本体ゴム弾性体、60,80,90,110:ストッパ部材(装着部材)、74,84,94,122:マス部材、82:永久磁石、92:規制突部、102,112:保護カバー(弾性保護体)、106:脱落防止部、114:弾性規制部、120,130:ボデー側ブラケット(装着部材)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の取付部材と第2の取付部材が本体ゴム弾性体によって弾性連結された防振装置において、
前記第1の取付部材と前記第2の取付部材の何れかに装着部材が取り付けられていると共に、該装着部材には別体のマス部材が配設されており、該装着部材と該マス部材の少なくとも一方には永久磁石が設けられて、該永久磁石の磁力によって該マス部材を該装着部材に取り付ける取付手段が構成されていることを特徴とする防振装置。
【請求項2】
前記装着部材が強磁性体で形成されていると共に、前記永久磁石が前記マス部材に設けられている請求項1に記載の防振装置。
【請求項3】
前記マス部材の全体が前記永久磁石で形成されている請求項2に記載の防振装置。
【請求項4】
前記取付手段による前記装着部材と前記マス部材の取付方向に対して直交する方向で該マス部材の該装着部材に対する相対変位を制限する規制手段が設けられている請求項1〜3の何れか1項に記載の防振装置。
【請求項5】
前記規制手段が、前記装着部材から突出して前記マス部材に当接する規制突部を含んで構成されている請求項4に記載の防振装置。
【請求項6】
前記規制手段が、前記装着部材に取り付けられる弾性保護体に突設されて前記マス部材に当接する弾性規制部を含んで構成されている請求項4又は5に記載の防振装置。
【請求項7】
前記マス部材の前記装着部材からの離隔を当接によって制限する脱落防止部が、該マス部材の該装着部材への取付面と反対側に配設されている請求項1〜6の何れか1項に記載の防振装置。
【請求項1】
第1の取付部材と第2の取付部材が本体ゴム弾性体によって弾性連結された防振装置において、
前記第1の取付部材と前記第2の取付部材の何れかに装着部材が取り付けられていると共に、該装着部材には別体のマス部材が配設されており、該装着部材と該マス部材の少なくとも一方には永久磁石が設けられて、該永久磁石の磁力によって該マス部材を該装着部材に取り付ける取付手段が構成されていることを特徴とする防振装置。
【請求項2】
前記装着部材が強磁性体で形成されていると共に、前記永久磁石が前記マス部材に設けられている請求項1に記載の防振装置。
【請求項3】
前記マス部材の全体が前記永久磁石で形成されている請求項2に記載の防振装置。
【請求項4】
前記取付手段による前記装着部材と前記マス部材の取付方向に対して直交する方向で該マス部材の該装着部材に対する相対変位を制限する規制手段が設けられている請求項1〜3の何れか1項に記載の防振装置。
【請求項5】
前記規制手段が、前記装着部材から突出して前記マス部材に当接する規制突部を含んで構成されている請求項4に記載の防振装置。
【請求項6】
前記規制手段が、前記装着部材に取り付けられる弾性保護体に突設されて前記マス部材に当接する弾性規制部を含んで構成されている請求項4又は5に記載の防振装置。
【請求項7】
前記マス部材の前記装着部材からの離隔を当接によって制限する脱落防止部が、該マス部材の該装着部材への取付面と反対側に配設されている請求項1〜6の何れか1項に記載の防振装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−72534(P2013−72534A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−213922(P2011−213922)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】
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