説明

防振部材の減衰特性値取得システム、および減衰特性値取得方法

【課題】極めて簡易なシステム構成で、もしくは極めて簡易な方法で、防振部材に面内方向および面外方向に作用する振動、すなわち、2方向の振動に対する防振部材の振動減衰性能を定量的に特定することのできる防振部材の減衰特性値取得システム、および減衰特性値取得方法を提供する。
【解決手段】防振部材の減衰特性値取得システム10は、定盤6上の防振部材2と、防振部材2上に設置される、貫通孔14を備えたブロック材1と、ブロック材1に装着されるセンサー3と、ブロック材の設置姿勢を変化させて振動を付与する第1、第2の振動付与手段と、得られた振動波形から防振部材2の面内および面外の振動減衰特性値を算定する第1の算定手段と、からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動部材の振動を減衰もしくは抑制する防振部材の減衰特性値を取得するシステムとその方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両のディスクブレーキ機構は、ディスクローターを挟むディスクパッドと、該ディスクパッドを挟むアンチスキールシム(以下、シムという場合もある)と、がディスクブレーキシリンダ内に収容され、たとえば油圧ピストン方式にてシムおよびディスクパッドをディスクローターに押し付けて、制動力を生じさせるようになっている。なお、上記するシムは、ステンレスなどの金属材料から形成されるものである。
【0003】
このディスクブレーキ機構においては、そのスキールノイズ(「ブレーキの鳴き」ともいう)を如何に防止するかが重要な課題となっており、そのための方法が種々提案されている。たとえば、発生源からの振動伝達を低減する目的で使われる上記シムの表面に振動減衰のあるゴムを接着する方法、シムに粘弾性特性を有するグリースを塗布する方法、上記ゴムに溝を設けておいて、該溝内にグリースを充填する方法などである。さらに、付与されるせん断速度の増加によって見かけの粘性率を増加させるダイラタンシー性を有する流体(ダイラタント流体もしくはダイラタンシー組成物)をシムに塗布する方法もある。この流体は、微粒子とこれら微粒子間に保持された液体とによって構成されており、小さいせん断速度の下では見かけの粘性率が低くて高い流動性を示す一方で、大きなせん断速度の下では見かけの粘性率が高くて低い流動性を示す特性を備えている。なお、本明細書では、上記するグリースやゴム、ダイラタント流体などを総称して、「防振性組成物」と称する。
【0004】
上記するシムと、該シムの一方側もしくは両側に塗布等された防振性組成物と、から防振部材を構成し、これがディスクブレーキ機構に組み込まれた形態においては、この防振部材が上記するブレーキの鳴きをどの程度防止できるかを定量的に特定することが、防振部材開発にとって極めて重要である。
【0005】
ところで、ブレーキの鳴き周波数帯域は数百Hz〜10kHz程度であると言われており、したがって、この周波数帯域において、防振部材の減衰性能を評価することが必要となる。
【0006】
ここで、振動減衰性能の測定方法、測定装置に関する従来の公開技術として、特許文献1,2を挙げることができる。特許文献1に開示の測定装置は、圧縮荷重下で圧電素子の振動発生源が試料に振動を与え、ロードセルにて荷重方向の減衰特性を評価するものであり、特許文献2に開示の測定方法は、クラッチ摩擦板のような摩擦材の回転変動から生じる回転方向の振動を評価するものである。すなわち、双方の公開技術ともに、被評価部材の一方向の減衰特性を評価するに留まっている。
【0007】
上記するディスクブレーキ機構を構成する防振部材には、2方向の振動減衰性能、すなわち、ディスクローターの回転方向の振動減衰性能と、防振部材に作用する圧縮荷重方向(通常は、面状のシムに対して、その面に直交する方向から圧縮荷重が作用する)の振動減衰性能が求められており、したがって、これら2方向の振動減衰性能を定量的に特定する必要がある。なお、ディスクローターの回転方向の振動は、防振部材の面内に作用する振動となり、圧縮荷重方向の振動は、防振部材の面外に作用する振動となる。
【0008】
【特許文献1】特開2003−315315号公報
【特許文献2】特許第3327518号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、極めて簡易なシステム構成で、もしくは極めて簡易な方法で、防振部材の面内方向および面外方向に作用する振動、すなわち、2方向の振動に対する防振部材の振動減衰性能を定量的に特定することのできる、防振部材の減衰特性値取得システム、および減衰特性値取得方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成すべく、本発明による防振部材の減衰特性値取得システムは、定盤上に設置される、少なくとも防振性組成物を備えた防振部材と、前記防振部材上に設置される、貫通孔を備えたブロック材と、前記ブロック材に装着されるセンサーと、前記貫通孔が前記定盤の広がり方向である水平方向となるようにブロック材が防振部材上に設置された姿勢で、該ブロック材に振動を付与する第1の振動付与手段と、前記貫通孔が鉛直方向となるようにブロック材が防振部材上に設置された姿勢で、該ブロック材に振動を付与する第2の振動付与手段と、前記センサーで得られた振動波形から前記防振部材の振動減衰特性値を算定する算定手段と、を少なくとも備え、前記第1の振動付与手段により、防振部材に対してその面外の振動を作用させ、前記センサーにて該面外の振動波形が得られるようになっており、前記第2の振動付与手段により、防振部材に対してその面内の振動を作用させ、前記センサーにて該面内の振動波形が得られるようになっており、前記第1の振動付与手段と第2の振動付与手段のいずれか一方もしくは双方が選択的に適用されるようになっているものである。
【0011】
水平面を有する定盤上に、少なくとも防振性組成物を備えた防振部材をたとえば2以上設置し、この防振部材上に貫通孔を備えたブロック材が載置される。
【0012】
ここで、貫通孔を備えたブロック材とは、たとえば金属素材で、貫通孔を有する四角柱(断面は矩形であっても正方形であってもよい)を呈しており、その単位重量と全体寸法、および貫通孔の大きさによってその重量(質量)を調整することができる。この質量を調整したり、ブロック材および貫通孔双方の寸法調整によってその剛性が調整され、該ブロック材に生じる振動の固有振動数を所望の周波数帯域内の振動数に調整することができる。たとえば、ブロック材の断面寸法や長さ、貫通孔の寸法等を設定し、公知の算定方法を用いることで、ブロック材全体の固有振動数をある程度設定することができるため、この固有振動数がブレーキの鳴き周波数帯域である数百Hz〜10kHz内に入るようにして、該ブロック材が設計される。なお、このブロック材は、何等の固定手段を必要とせず、単に防振部材上に乗せられ、該ブロック材の自重のみでその安定姿勢が保持され、防振部材に対して該自重による圧縮荷重が付与されるのがよい。
【0013】
また、防振部材とは、少なくとも防振性組成物を備えた部材であるが、その一例として、ステンレス等の金属素材のシム(アンチスキールシム)と、該シムの一方側もしくは両側に塗布等された防振性組成物とから構成される。ここで、防振性組成物とは、上記するように、グリースやゴム、ダイラタント流体などを含むものである。たとえば、シムの一方側もしくは両側にゴムを接着した形態、粘弾性特性を有するグリースやダイラタント流体を塗布した形態、該ゴムに溝を設けておいて該溝内にグリースやダイラタント流体を充填した形態などを挙げることができる。
【0014】
ブロック材には、たとえば加速度計等のセンサーが装着されており、ブロック材をハンマリング等して振動を生じさせた際に、その振動の加速度波形をピックアップし、たとえば、アンプを介して加速度波形を増幅させた後に、増幅後の振動波形を利用して防振部材の振動減衰特性値が算定手段にて算定される。
【0015】
本システムでは、貫通孔を有する(中空の)ブロック材を使用することから、該ブロック材で生じる振動波形を周波数解析すると、複数の(たとえば3つの)スペクトルピークをもった波の合成波形(スペクトルピークを与える複数の振動数をもった合成波形)を得ることができる。これは、ブロック材全体の剛性からなる(スペクトルピークを与える)振動数と、該貫通孔内で生じる(スペクトルピークを与える)振動数などが合成されたものである。たとえば、一度のハンマリングで、スペクトルピークを与える1kHz,3kHz,6kHzの振動数をもった合成波形を得ることができる。なお、中実ブロック材の場合には、ブロック材の両自由端近傍で節ができ、部材中央で腹ができるような1つの固有振動数の振動波形が得られるに過ぎない。また、中実ブロック材の場合には、生じた振動が短時間で減衰してしまい、十分な時間長さの減衰振動波形が得られ難い。それに対して、貫通孔を有するブロック材を使用した場合には、減衰振動波形が収斂するまでの時間長さを比較的長くすることができる。さらには、貫通孔との関係でブロック材の設置方向を規定することで、ブロック材のたわみ方向、すなわち振動方向が決定され易く、防振部材に対して面内方向振動と面外方向振動の双方を作用させることが容易となる。
【0016】
センサーにて得られる振動波形は、ブロック材の振動(の振幅)が防振部材にて減衰された減衰振動波形を呈する。したがって、この減衰振動波形から、その(対数)減衰率、減衰比、粘性減衰係数や臨界粘性係数等の防振部材の振動減衰特性値を公知の算定方法で求めることができる。なお、この算定手段は、たとえば、コンピュータ内に読み込まれた減衰振動波形を利用して、隣接する振幅比の自然対数を求めて減衰率を算定でき、同様にコンピュータ内に格納された公知の算定式から、上記する各種振動減衰特性値を算定することができる。
【0017】
ここで、前記減衰特性値取得システムはさらに、周波数解析手段と、複数の規定周波数を設定自在なバンドパスフィルターを備えており、センサーで得られた振動波形を前記周波数解析手段に通して周波数スペクトルを取得し、該周波数スペクトルにおける複数のスペクトルピークに対応する周波数のそれぞれが、前記規定周波数もしくはその近傍にあることが確認されるようになっており、前記振動波形をそれぞれの前記規定周波数に設定された前記バンドパスフィルターに通して、それぞれの規定周波数を固有振動数とする複数の波形に分離し、それぞれの該波形に対して前記防振部材の振動減衰特性値が算定される。
【0018】
たとえば、コンピュータ内にFFT(Fast Fourier Transform : 高速フーリエ変換)プログラムと、得られた振動波形データに所望の規定周波数を設定する(設定された周波数を固有周波数とする波が得られる)バンドパスフィルターと、が内蔵されており、振動波形をFFT処理してその周波数スペクトルを取得し、その固有振動数が所望の周波数であるか否かが確認される。ここで、上記する貫通孔を有するブロック材においては、FFT処理にて複数のスペクトルピークが得られるため、それらのピーク値に対応する周波数が所望の周波数もしくはその近傍の値であるか否かが確認される。
【0019】
たとえば、規定周波数が1kHz,3kHz,6kHzの場合に、FFT処理にて3つのスペクトルピークが得られ、それぞれに対応する周波数がこれらの規定周波数近傍にあることが確認される。
【0020】
次いで、振動波形データを上記する各規定周波数に設定されたバンドパスフィルターに通すことで、各規定周波数を固有振動数とする複数の波に分離することができる。たとえば、防振部材による防振対象周波数帯域がブレーキの鳴き周波数帯域の場合には、数百Hz〜10kHzの範囲内の任意の周波数がバンドパスフィルターに設定される。
【0021】
さらに、本発明のシステムは、第1、第2の振動付与手段を備えており、これらの手段にて、防振部材に面外方向、面内方向の振動を作用させ、これらの振動に対する該防振部材の振動減衰特性値を算定できるようになっている。より具体的には、上記する面外方向および面内方向のそれぞれに対して、複数の固有振動数の波(減衰振動波形)に対する防振部材の振動減衰特性値が算定されることとなる。これはすなわち、貫通孔を備えたブロック材を使用することで、面内方向および面外方向双方の振動波形が得られ易いこと、さらには、一度のハンマリング等で複数のスペクトルピークの振動が得られること、これを各スペクトルピークに対応する振動数を固有振動数とする波に分離することで、一度で複数の固有振動数の減衰振動波形が得られること、によるものである。
【0022】
第1、第2の振動付与手段は、ブロック材に振動を作用させるための起振手段と、ブロック材の設置姿勢(もしくは、設置姿勢の調整手段)と、から構成される。この起振手段は、第1、第2の振動付与手段ともに、ブロック材を叩いて(ハンマリング)振動を起こすなどの簡易な手段、たとえばハンマーなどでよい。一方、ブロック材の設置姿勢(もしくは設置姿勢の調整手段)に関し、第1の振動付与手段は、貫通孔が定盤の広がり方向である水平方向となるようにブロック材が防振部材上に設置された姿勢(もしくは、そのような姿勢に調整する手段)であり、第2の振動付与手段は、貫通孔が鉛直方向となるようにブロック材が防振部材上に設置された姿勢である。
【0023】
たとえば、第1の振動付与手段では、上記姿勢でブロック材の水平方向に広がる上面を叩くことにより、防振部材には、その面外方向に振動するブロック材の振動波形が作用する。一方、第2の振動付与手段では、上記姿勢でブロック材の鉛直方向の長手面を叩くことにより、防振部材には、その面方向(面内方向)に振動するブロック材の振動波形が作用する。
【0024】
本システムでは、防振部材の面内方向振動および面外方向振動に対するそれぞれの振動減衰特性値を特定するべく、2つの振動付与手段にてブロック材の姿勢を変化させるものである。なお、この姿勢調整やハンマリングは、計測者による人手であってもよいし、ロボットハンド等であってもよい。
【0025】
上記システムは、貫通孔を有するブロック材、ブロック材の設置姿勢を変化させる任意の手段、得られた減衰振動波形から公知の算定方法を用いて減衰率や減衰比等の振動減衰特性値を算定する算定手段(を内蔵したコンピュータ)、を最小限の必須構成とした、極めて簡易なシステムである。したがって、該システムの構築に要するコストは極めて安価である。加えて、防振性組成物と、車両のディスクブレーキ機構を形成するアンチスキールシムとからなる防振部材のように、その面内方向と面外方向に作用する振動を減衰させる必要のある部材に対して、これら2つの方向の振動減衰特性値を連続的に特定することが可能となる。さらには、防振部材に圧縮荷重と振動の双方を作用させるブロック材が貫通孔を有していることで、上記する2方向の振動を容易に形成することができるとともに、比較的長い時間の減衰振動の時刻歴波形を形成できることで、防振部材の振動減衰特性値の算定が容易となる。
【0026】
さらに、本発明による防振部材の減衰特性値取得方法は、少なくとも防振性組成物を備えた防振部材を定盤上に設置し、該防振部材上に、貫通孔を備えたブロック材を設置する第1のステップと、前記ブロック材に振動を付与し、前記ブロック材に装着されたセンサーで得られた振動波形から前記防振部材の振動減衰特性値を算定する第2のステップと、を少なくとも備え、前記第1のステップにおいて、前記貫通孔が前記定盤の広がり方向である水平方向となるようにブロック材を防振部材上に設置した場合は、前記第2のステップにおいて該ブロック材に振動を付与し、防振部材に対してその面外の振動を作用させて、前記センサーにて該面外の振動波形が得られるようになっており、前記第1のステップにおいて、前記貫通孔が鉛直方向となるようにブロック材を防振部材上に設置した場合は、前記第2のステップにおいて該ブロック材に振動を付与し、防振部材に対してその面内の振動を作用させて、前記センサーにて該面内の振動波形が得られるようになっており、防振部材の面内および面外の減衰特性値が取得されるようになっているものである。
【0027】
また、本発明による防振部材の減衰特性値取得方法の他の実施の形態は、前記第2のステップにおいて、センサーで得られた振動波形を周波数解析手段に通して周波数スペクトルを取得し、該周波数スペクトルにおける複数のスペクトルピークに対応する周波数のそれぞれが、予め設定された規定周波数もしくはその近傍にあることが確認されるようになっており、前記振動波形をそれぞれの前記規定周波数に設定されたバンドパスフィルターに通して、それぞれの規定周波数を固有振動数とする複数の波形に分離し、それぞれの該波形に対して前記防振部材の振動減衰特性値が算定されるものである。
【発明の効果】
【0028】
以上の説明から理解できるように、本発明の防振部材の減衰特性値取得システム、および減衰特性値取得方法によれば、極めて簡易なシステム構成で、もしくは極めて簡易な方法で、防振部材に面内方向および面外方向に作用する振動、すなわち、2方向の振動に対する防振部材の振動減衰性能を定量的に特定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の減衰特性値取得システムを構成する貫通孔を有するブロック材の斜視図である。このブロック材1は、鉄製(たとえば、S45C)であり、図示のごとく、断面が横長矩形の角柱体を呈し(上面11、下面12、横長側面13)、対向する横長側面13,13間を貫通する貫通孔14を備えた構成である。なお、この全体寸法や貫通孔の寸法、全体重量などは、該ブロック材が所望範囲の固有振動数を有するような剛性、防振部材に所望の圧縮荷重が付与される重量となるように調整されている。
【0030】
図1において、横長側面13に図示された4つの領域13a,…、および下面12の4つの領域12a,…にはそれぞれ、後述する防振部材が取り付けられるようになっている。
【0031】
図2a,bはいずれも、防振部材を模式的に示したものである。図2aで示す防振部材2は、ステンレス製の板状のシム21と、その一方側に塗布されたダイラタンシー組成物22(防振性組成物)と、から形成されものであり、図2bで示す防振部材2Aは、シム21と、その両側に塗布されたダイラタンシー組成物22,22と、から形成されるものである。なお、使用される防振性組成物は、このダイラタンシー組成物以外にもグリース、ゴムなどであってよく、その減衰特性値を取得したい任意構成の防振部材が選定できる。
【0032】
ここで、ダイラタンシー組成物とは、付与されるせん断速度の増加によって見かけの粘性率を増加させるダイラタンシー性を有する流体である。たとえば、本発明者等の知見によれば、このダイラタンシー組成物を、無機粒子と、該無機粒子間に保持されたシリコーン媒体とから形成することができ、このシリコーン媒体は、ケイ素原子にメチル基及び/又はフェニル基が結合した直鎖又は環状のシリコーンオイルからなるものを適用できる。ここで、無機粒子は、真球状だけでなく、不定形の粉砕した金属酸化物でよい。シムとパッド、ピストンとの間で挟まれた時のせん断や化学的、熱的に安定した成分として最適なのはシリカであり、アルミナ、ジルコニアなどの硬質成分であればよい。また、その粒径は、平均粒径が1〜10μmが好ましい。あまり細かすぎるとダイラタンシー特性が発揮され難く、大きすぎても粒子が動き難くなって、ダイラタンシー特性が発揮されなくなり、シム等の摩耗が促進されてしまう。また、シリコーン媒体は、ブレーキから伝わる150℃以上になる熱に安定な液体であり、中でも、無機粒子との相溶性の良い物で最適なのは、シリコーンオイルである。パーフロロポリエーテル等のフッ素オイルやポリα−オレフィンオイル、ポリアルキレングリコールオイルなどが添加されてもよい。シリコーンオイルの中では、環状又は、直鎖のジメチルシリコーンオイル、または、耐熱性に優れたメチルフェニルシリコーンオイルが好ましい。媒体の粘度は、25℃において、30〜100mm/sがよい。粘度が低すぎると蒸発性が高まって、ダイラタンシー性の持続性が無くなってしまう一方、粘度が高すぎると、粒子の量を多くすることができなくなって、粘性比が下がることでダイラタンシー特性が出なくなってしまうからである。
【0033】
図3は、本発明の減衰特性値取得システムを示した模式図であり、より具体的には、防振部材2の面外方向の減衰特性値を取得する際のシステム構成を示した図である。
【0034】
図示する減衰特性値取得システム10は、水平方向に広がる定盤6と、この定盤6上に設置された4つの防振部材2,…上にその下面12が直接設置されたブロック材1、ブロック材1の上面11に装着された加速度計3、加速度計3に繋がれ、計測された振動波形データ(減衰振動波形データ)が送られた後にこれを画像処理して、防振部材2の振動減衰特性値を算定するコンピュータ5と、ブロック材1に振動を作用させるべく、その一面を打撃するハンマー4と、から大略構成されている。なお、ハンマー4による打撃は、計測員による人手であってもよいし、不図示のロボットハンドであってもよい。
【0035】
図3において、ハンマー4にてブロック材1の上面11を打撃すると、該ブロック材1には、その上下方向に振幅する振動が生じ、この上下振動により、水平方向に広がる防振部材2には面外方向の振動が作用する。
【0036】
この面外方向振動は、防振部材2にて減衰された減衰振動となり、この減衰振動波形が加速度計3を介してコンピュータ5に送信される。
【0037】
コンピュータ5内では、概略、図4で示す処理フローが実行されて、防振部材2の振動減衰特性値が算定される。
【0038】
ここで、コンピュータ5内には、入力(送信)された振動波形データ(ステップS1)を画像処理する(ステップS2)画像処理部、FFT処理を実行するFFT処理部、FFT処理にて作成された周波数スペクトルにおける複数のスペクトルピークに対応する周波数のそれぞれが、所望の周波数(予め規定された規定周波数もしくはその近傍)にあることが確認された(ステップS3)後に、振動波形に該規定周波数を設定自在なバンドパスフィルター、このバンドパスフィルターにて各ピーク周波数を固有振動数とする複数の波(減衰振動波形)に分離し(ステップS4)、各波ごとに、防振部材2の面外方向振動に対する振動減衰特性値を算定する(ステップS5)算定部、などが内蔵されている。なお、これら複数の処理部は、CPU(中央演算処理部)にて実行処理されるものである。また、所望の周波数(規定周波数)として、車両のディスクブレーキ機構における鳴き周波数帯域内にある任意の周波数が設定される。
【0039】
ここで、防振部材2の振動減衰特性値としては、(対数)減衰率、減衰比、粘性減衰係数や臨界粘性係数等が含まれる。なお、基本特性値として固有振動数があることは言うまでもない。
【0040】
上記する各種振動減衰特性値の算定方法は、公知の算定方法が適用できるものであり、特に限定されるものではない。たとえば、粘性減衰モデルに強制的に余弦波を作用させて1自由度振動をするモデル系を使用する場合には、FFT処理から求められた固有周波数:fと、ブロック材1の質量:mから、バネ定数:k(=m(2πf)、臨界粘性係数:Cc(=2(mk)1/2)、減衰比:C/Cc(C:粘性減衰係数)が求められる。さらに、減衰振動波形の隣り合う振幅の比の自然対数をとって対数減衰率を求めることができる。
【0041】
図1で示す貫通孔14を備えたブロック材1を使用することで、一度の打撃で、複数のスペクトルピークの合成振動波形を得ることができ、これを各ピークに対応する振動数を固有振動数とする振動波形に分離することで、たとえば3つの固有振動数の振動波形に対する防振部材2の振動減衰特性値を求めることができる。
【0042】
図5もまた、本発明の減衰特性値取得システムを示した模式図であるが、同図は、防振部材2の面内方向の減衰特性値を取得する際のシステム構成を示した図である。
【0043】
図示する減衰特性値取得システム10では、水平方向に広がる定盤6上に設置された4つの防振部材2,…、上にブロック材1の横長側面13が直接設置され、ブロック材1の上面11に加速度計3が装着された姿勢で、ハンマー4(図5では不図示)にて直立姿勢の上面11を打撃する。図5において、ハンマー4にてブロック材1の上面11を打撃すると、該ブロック材1には、その水平方向(定盤6および防振部材2の広がり方向)に振幅する振動が生じ、この水平振動により、水平方向に広がる防振部材2には面内方向の振動が作用する。
【0044】
図3,5より、本発明の減衰特性値取得システム10は、ブロック材1の設置姿勢を変化させ、それぞれのブロック姿勢で打撃する手段(第1、第2の振動付与手段)をもその構成要件とするものである。なお、このブロック材1の姿勢変更も、計測員による人手であってもよいし、不図示のロボットハンドであってもよい。
【0045】
図5においても、コンピュータ5内で図4で示す処理が実施され、防振部材2の面内方向振動に対する振動減衰特性値が算定される。
【0046】
図3,5からも明らかなように、本発明の減衰特性値取得システム10は、極めて簡素な構成でありながらも、2方向(面内方向および面外方向)の振動に対する振動減衰特性値の取得が容易に実施できる。したがって、このような2方向振動に対する振動減衰特性値の取得が要求される、ディスクブレーキ機構の防振部材は、その対象として好適である。
【0047】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の減衰特性値取得システムを構成する貫通孔を有するブロック材の斜視図である。
【図2】(a)、(b)ともに、本発明の減衰特性値取得システムを構成する防振部材を示した模式図である。
【図3】本発明の減衰特性値取得システムに関し、防振部材の面外方向の減衰特性値を取得する際の模式図である。
【図4】コンピュータ内における処理フローを示したフロー図である。
【図5】本発明の減衰特性値取得システムに関し、防振部材の面内方向の減衰特性値を取得する際の模式図である。
【符号の説明】
【0049】
1…ブロック材、14…貫通孔、2,2A…防振部材、4…ハンマー、5…コンピュータ、10…減衰特性値取得システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
定盤上に設置される、少なくとも防振性組成物を備えた防振部材と、
前記防振部材上に設置される、貫通孔を備えたブロック材と、
前記ブロック材に装着されるセンサーと、
前記貫通孔が前記定盤の広がり方向である水平方向となるようにブロック材が防振部材上に設置された姿勢で、該ブロック材に振動を付与する第1の振動付与手段と、
前記貫通孔が鉛直方向となるようにブロック材が防振部材上に設置された姿勢で、該ブロック材に振動を付与する第2の振動付与手段と、
前記センサーで得られた振動波形から前記防振部材の振動減衰特性値を算定する算定手段と、を少なくとも備え、
前記第1の振動付与手段により、防振部材に対してその面外の振動を作用させ、前記センサーにて該面外の振動波形が得られるようになっており、
前記第2の振動付与手段により、防振部材に対してその面内の振動を作用させ、前記センサーにて該面内の振動波形が得られるようになっており、
前記第1の振動付与手段と第2の振動付与手段のいずれか一方もしくは双方が選択的に適用されるようになっている、防振部材の減衰特性値取得システム。
【請求項2】
前記減衰特性値取得システムはさらに、周波数解析手段と、複数の規定周波数を設定自在なバンドパスフィルターを備えており、
センサーで得られた振動波形を前記周波数解析手段に通して周波数スペクトルを取得し、該周波数スペクトルにおける複数のスペクトルピークに対応する周波数のそれぞれが、前記規定周波数もしくはその近傍にあることが確認されるようになっており、
前記振動波形をそれぞれの前記規定周波数に設定された前記バンドパスフィルターに通して、それぞれの規定周波数を固有振動数とする複数の波形に分離し、それぞれの該波形に対して前記防振部材の振動減衰特性値が算定される、請求項1に記載の防振部材の減衰特性値取得システム。
【請求項3】
前記規定周波数が、車両のディスクブレーキ機構における鳴き周波数帯域内にある、請求項2に記載の防振部材の減衰特性値取得システム。
【請求項4】
前記防振性組成物が、グリース、ゴム、もしくは、せん断速度の増加に伴ってその粘性率が増加するとともに静止時にはゲル化を呈するダイラタンシー組成物、のいずれか一種からなる、請求項1〜3のいずれかに記載の防振部材の減衰特性値取得システム。
【請求項5】
前記防振部材は、前記防振性組成物と、車両のディスクブレーキ機構を形成するアンチスキールシムとからなる、請求項4に記載の防振部材の減衰特性値取得システム。
【請求項6】
少なくとも防振性組成物を備えた防振部材を定盤上に設置し、該防振部材上に、貫通孔を備えたブロック材を設置する第1のステップと、
前記ブロック材に振動を付与し、前記ブロック材に装着されたセンサーで得られた振動波形から前記防振部材の振動減衰特性値を算定する第2のステップと、を少なくとも備え、
前記第1のステップにおいて、前記貫通孔が前記定盤の広がり方向である水平方向となるようにブロック材を防振部材上に設置した場合は、前記第2のステップにおいて該ブロック材に振動を付与し、防振部材に対してその面外の振動を作用させて、前記センサーにて該面外の振動波形が得られるようになっており、
前記第1のステップにおいて、前記貫通孔が鉛直方向となるようにブロック材を防振部材上に設置した場合は、前記第2のステップにおいて該ブロック材に振動を付与し、防振部材に対してその面内の振動を作用させて、前記センサーにて該面内の振動波形が得られるようになっている、防振部材の減衰特性値取得方法。
【請求項7】
前記第2のステップにおいて、センサーで得られた振動波形を周波数解析手段に通して周波数スペクトルを取得し、該周波数スペクトルにおける複数のスペクトルピークに対応する周波数のそれぞれが、予め設定された規定周波数もしくはその近傍にあることが確認されるようになっており、
前記振動波形をそれぞれの前記規定周波数に設定されたバンドパスフィルターに通して、それぞれの規定周波数を固有振動数とする複数の波形に分離し、それぞれの該波形に対して前記防振部材の振動減衰特性値が算定される、請求項6に記載の防振部材の減衰特性値取得方法。
【請求項8】
前記規定周波数が、車両のディスクブレーキ機構における鳴き周波数帯域内にある、請求項7に記載の防振部材の減衰特性値取得方法。
【請求項9】
前記防振性組成物が、グリース、ゴム、もしくは、せん断速度の増加に伴ってその粘性率が増加するとともに静止時にはゲル化を呈するダイラタンシー組成物、のいずれか一種からなる、請求項6〜8のいずれかに記載の防振部材の減衰特性値取得方法。
【請求項10】
前記防振部材は、前記防振性組成物と、車両のディスクブレーキ機構を形成するアンチスキールシムとからなる、請求項9に記載の防振部材の減衰特性値取得方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−96628(P2010−96628A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−267552(P2008−267552)
【出願日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】