説明

防曇剤組成物および農業用樹脂フィルム

【課題】 防曇性に優れ、保存安定性を損なう架橋剤を用いることなく密着性および耐ブロッキング性が良好な塗膜を形成し得る防曇剤組成物;防曇性に優れ、かつ防曇性を長期間持続でき、耐ブロッキング性に優れる農業用樹脂フィルムを提供する。
【解決手段】 付加開裂型連鎖移動剤の存在下で1種類以上の不飽和単量体(I)を乳化重合して得られたエマルジョン中にて、1種類以上の不飽和単量体(II)を重合させて得られたビニル系重合体エマルジョン(A)と、無機質コロイドゾル(B)とを含有し、ビニル系重合体エマルジョン(A)の固形分と無機質コロイドゾル(B)の固形分との質量比((A)/(B))が、50/50〜90/10である防曇剤組成物を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防曇剤組成物および農業用樹脂フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、エチレン−酢酸ビニル共重合体等の合成樹脂からなる樹脂フィルムまたはシートは、農業用資材、食品包装用資材等として用いられている。例えば、これらの用途のうち、農業用ハウスの被覆フィルム(農業用樹脂フィルム)として用いる場合、温度、湿度等の条件によっては、ハウス内部より発生する水蒸気が、樹脂フィルムの内側に凝結して微細水滴となって付着し、透明性が低下して、いわゆる曇り現象が現れる。これにより太陽光線の透過が妨げられ、作物の生育障害の原因となる、また、樹脂フィルムの内側の微細水滴が互いに融合して水滴になり直接作物の上に落下し、病気を発生させる原因となる等の問題が起こる。したがって、光線透過性を長期間持続させ、かつ樹脂フィルムの内側から水滴落下を防止することは、実用上極めて重要である。
【0003】
このような問題を解決するために、樹脂フィルムまたはシートの表面に、防曇性を付与すればよいことが知られている。樹脂フィルムまたはシートの表面に防曇性を付与する方法としては、界面活性剤のような親水性物質をあらかじめ樹脂に練り込んでフィルムまたはシートを成形する方法がある。しかしながら、この方法では樹脂中の親水性物質が全部流出してしまうと、防曇効果が無くなるので、効果を長期間持続させるには不充分である。
【0004】
また、樹脂フィルムまたはシートの表面に防曇性を付与する方法としては、樹脂フィルムまたはシートの表面に防曇剤組成物を塗布することが知られている。
防曇剤組成物としては、シリカゾルとアルミナゾルと界面活性剤とを含む防曇剤組成物が、特許文献1に開示されている。しかしながら、シリカゾル、アルミナゾル等の無機質コロイドゾルは、合成樹脂に対する密着性に欠けるために、形成された塗膜は短時間で剥がれてしまうという欠点があり、防曇効果を長期間持続できない等の問題がある。
【0005】
また、防曇剤組成物としては、無機質コロイドゾル、架橋剤、アクリル系樹脂の水分散液の3成分からなる防曇剤組成物が、特許文献2に開示されている。この防曇剤組成物は、樹脂フィルム等の基材との密着性(防曇持続性)、耐ブロッキング性に優れる塗膜を形成し得るものの、この防曇剤組成物は密着性と耐ブロッキング性とを両立させるために活性な架橋剤を含むことから、防曇剤組成物のポットライフが充分でなく、一液化後に防曇剤組成物を長期に保存することができない問題がある。
【特許文献1】特開平7−82398号公報
【特許文献2】特開平10−25468号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
よって、本発明の目的は、防曇性に優れ、保存安定性を損なう架橋剤を用いることなく樹脂フィルム等の基材との密着性および耐ブロッキング性が良好である柔軟かつ強靭な塗膜を形成し得る防曇剤組成物;および、防曇性に優れ、かつ防曇性を長期間持続でき、耐ブロッキング性に優れる農業用樹脂フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の防曇剤組成物は、付加開裂型連鎖移動剤の存在下で1種類以上の不飽和単量体(I)を乳化重合して得られたエマルジョン中にて、1種類以上の不飽和単量体(II)を重合させて得られたビニル系重合体エマルジョン(A)と、無機質コロイドゾル(B)とを含有し、ビニル系重合体エマルジョン(A)の固形分と無機質コロイドゾル(B)の固形分との質量比((A)/(B))が、50/50〜90/10であることを特徴とする。
【0008】
前記ビニル系重合体エマルジョン(A)において、前記不飽和単量体(I)より得られる重合体のガラス転移温度は、20〜150℃であり、前記不飽和単量体(II)より得られる重合体のガラス転移温度は、−70〜10℃であることが好ましい。
また、前記付加開裂型連鎖移動剤の量は、不飽和単量体(I)100質量部に対して0.5〜2.5質量部であり、不飽和単量体(I)と不飽和単量体(II)との合計100質量%中、不飽和単量体(I)が10〜40質量%であり、不飽和単量体(II)が90〜60質量%であることが好ましい。
そして、本発明の農業用樹脂フィルムは、樹脂フィルム上に本発明の防曇剤組成物からなる塗膜を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の防曇剤組成物は、防曇性に優れ、保存安定性を損なう架橋剤を用いることなく樹脂フィルム等の基材との密着性および耐ブロッキング性が良好である柔軟かつ強靭な塗膜を形成し得るものである。
また、本発明の農業用樹脂フィルムは、防曇性に優れ、かつ防曇性を長期間持続でき、耐ブロッキング性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
<ビニル系重合体エマルジョン(A)>
ビニル系重合体エマルジョン(A)は、付加開裂型連鎖移動剤の存在下で1種類以上の不飽和単量体(I)を乳化重合して得られたエマルジョン中にて、1種類以上の不飽和単量体(II)を重合させて得られたビニル系重合体エマルジョンである。
【0011】
(不飽和単量体(I))
不飽和単量体(I)は、公知の不飽和単量体の中から選択された1種類の不飽和単量体または複数種類の不飽和単量体の混合物である。
【0012】
選択しうる不飽和単量体(I)としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン等の芳香族不飽和単量体;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル等の(メタ)アクリル酸エステル化合物;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル化合物;(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸ハーフエステル、マレイン酸ハーフエステル等のカルボキシル基含有不飽和単量体;スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸基含有不飽和単量体;ヒドロキシエチルメタクリレート等の水酸基含有不飽和単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアノ基含有不飽和単量体;(メタ)アクリル酸グリシジル、グリシジルアリルエーテル等のエポキシ基含有不飽和単量体;(メタ)アクリルアミド、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド等のアミド基含有単量体;シリコン変性不飽和単量体;(メタ)アクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル等のアミノ基含有不飽和単量体等が挙げられる。本発明において、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸および/またはメタクリル酸を意味し、(メタ)アクリルアミドは、アクリルアミドおよび/またはメタクリルアミドを意味する。
【0013】
不飽和単量体(I)より得られる重合体のTgは、20〜150℃が好ましく、50〜140℃がより好ましい。不飽和単量体(I)より得られる重合体のTgが20℃より低い場合には、ビニル系重合体が柔らかくなり過ぎ、防曇剤組成物より得られる塗膜がタックを生じる可能性がある。不飽和単量体(I)より得られる重合体のTgが150℃より高い場合には、防曇剤組成物より得られる塗膜が固くなり過ぎ、塗膜を形成できなる、または塗膜の外観が劣る可能性がある。
【0014】
本発明において、Tgは、重合体を構成する各不飽和単量体の単独重合体のTgと、各不飽和単量体の質量割合に基づいた計算法によって求められたTgを表す。具体的には、各不飽和単量体の単独重合体のTg(絶対温度)を、それぞれTg1、Tg2、Tg3、・・・とし、各不飽和単量体の質量割合(質量%)を、それぞれW1、W2、W3、・・・とした場合、重合体のTgは下記式(1)で求められる。
100/Tg=W1/Tg1+W2/Tg2+W3/Tg3+・・・ (1)
【0015】
不飽和単量体(I)の使用量は、不飽和単量体(I)と不飽和単量体(II)との合計100質量%中、10〜40質量%であることが好ましい。不飽和単量体(I)が10質量%より少ない場合、防曇剤組成物より得られる塗膜の防曇性が劣る可能性がある。不飽和単量体(I)が40質量%より多い場合、防曇剤組成物より得られる塗膜を形成できなくなる、または塗膜の外観が劣る可能性がある。
【0016】
(不飽和単量体(II))
不飽和単量体(II)は、公知の不飽和単量体の中から選択された1種類の不飽和単量体または複数種類の不飽和単量体の混合物である。
【0017】
選択しうる不飽和単量体(II)としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン等の芳香族不飽和単量体;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル等の(メタ)アクリル酸エステル化合物;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル化合物;(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸ハーフエステル、マレイン酸ハーフエステル等のカルボキシル基含有不飽和単量体;スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸基含有不飽和単量体;ヒドロキシエチルメタクリレート等の水酸基含有不飽和単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアノ基含有不飽和単量体;(メタ)アクリル酸グリシジル、グリシジルアリルエーテル等のエポキシ基含有不飽和単量体;(メタ)アクリルアミド、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド等のアミド基含有単量体;シリコン変性不飽和単量体;(メタ)アクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル等のアミノ基含有不飽和単量体等が挙げられる。
【0018】
不飽和単量体(II)より得られる重合体のTgは、−70〜10℃が好ましく、−30〜0℃がより好ましい。不飽和単量体(II)より得られる重合体のTgが−70℃より低い場合には、ビニル系重合体が柔らかくなり過ぎ、防曇剤組成物から得られる塗膜にタックがある可能性がある。不飽和単量体(II)より得られる重合体のTgが10℃より高い場合には、防曇剤組成物より得られる塗膜が固くなり過ぎ、塗膜を形成できなくなる、または塗膜の外観が劣る可能性がある。
【0019】
不飽和単量体(II)の使用量は、不飽和単量体(I)と不飽和単量体(II)との合計100質量%中、90〜60質量%であることが好ましい。不飽和単量体(II)が90質量%より多い場合、防曇剤組成物より得られる塗膜の防曇性が劣る可能性がある。不飽和単量体(II)が60質量%より少ない場合、防曇剤組成物より得られる塗膜を形成できなくなる、または塗膜の外観が劣る可能性がある。
【0020】
(付加開裂型連鎖移動剤)
付加開裂型連鎖移動剤としては、例えば、α−ブロモメチルスチレン、α−フェノキシメチルスチレン、α−アルキルチオメチルスチレン、α−t−ブチルペルオキシメチルスチレン、α−ベンジルオキシスチレン、メチル−α−フェノキシメチルアクリレート、メチル−α−アルキルチオメチルアクリレート、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのうち、臭気が少ないために取り扱いやすいこと、および比較的安価で工業的に入手しやすいことから、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテンが好ましい。
【0021】
付加開裂型連鎖移動剤の使用量は、不飽和単量体(I)100質量部に対して0.5〜2.5質量部が好ましく、0.8〜2.0質量部がより好ましい。付加開裂型連鎖移動剤が不飽和単量体(I)100質量部に対して0.5質量部より少ない場合には、防曇剤組成物より得られる塗膜の防曇性が悪くなるおそれがある。付加開裂型連鎖移動剤が不飽和単量体(I)100質量部に対して2.5質量部より多い場合には、防曇剤組成物より得られる塗膜の強度が低くなり、防曇性を持続する効果が低下するおそれがある。付加開裂型連鎖移動剤は、乳化重合反応前に反応器中に仕込んでもよく、不飽和単量体(I)と一緒に反応器中に滴下してもよい。
【0022】
(重合開始剤)
乳化重合の際には、必要に応じて重合開始剤を用いてもよい。重合開始剤は、ラジカル重合を開始させるためのラジカルを発生させる化合物である。該重合開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;過酸化水素、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類;アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)等のアゾ系化合物等が挙げられる。これら重合開始剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、過酸化物系の重合開始剤とともに、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシレート等の還元剤を併用したレドックス系も用いることができる。
重合開始剤の使用量は、通常、不飽和単量体(I)と不飽和単量体(II)との合計100質量部に対して、0.01〜5質量部である。
【0023】
(乳化剤)
乳化重合の際には、必要に応じて乳化剤を用いてもよい。乳化剤としては、アニオン性界面活性剤、親水性の非イオン性乳化剤、カチオン性乳化剤等が挙げられる。
アニオン性界面活性剤としては、ラウリル硫酸エステルナトリウム、ミリスチル硫酸エステルナトリウム等のアルキル硫酸エステル塩類;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸カリウム等のアルキルアリールスルホン酸塩類;ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジヘキシルスルホコハク酸ナトリウム等のスルホコハク酸エステル塩類;ラウリン酸アンモニウム、ステアリン酸カリウム等の脂肪酸塩類;ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩類;ポリオキシエチレンアルキルアリール硫酸エステル塩類等が挙げられる。
【0024】
親水性の非イオン性乳化剤としては、ソルビタンモノオレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート等のソルビタンエステル類;ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類;ポリオキシエチレンアルキルエステル類等が挙げられる。
カチオン性乳化剤としては、セチルピリジニウムクロリド、セチルトリメチルアンモニウムブロミド等が挙げられる。
これら乳化剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0025】
乳化剤の使用量は、不飽和単量体(I)と不飽和単量体(II)との合計100質量部に対して0.5〜5質量部が好ましい。乳化剤が5質量部より多くなると、塗膜の耐水性が悪くなるおそれがある。乳化剤が0.5質量部より少なくなると、安定に乳化重合を行うことができなくなるおそれがある。
【0026】
<無機質コロイドゾル(B)>
無機質コロイドゾル(B)は、防曇剤組成物を疎水性の基材表面に塗布した場合に、基材表面に親水性を付与するものである。無機質コロイドゾル(B)としては、例えば、シリカ、アルミナ、水不溶性リチウムシリケート、水酸化鉄、水酸化スズ等の水性ゾルが挙げられる。これらのうち、シリカゾルが好ましい。
【0027】
<防曇剤組成物>
本発明の防曇剤組成物は、ビニル系重合体エマルジョン(A)と、無機質コロイドゾル(B)とを含有するものである。
ビニル系重合体エマルジョン(A)の固形分と無機質コロイドゾル(B)の固形分との質量比((A)/(B))は、50/50〜90/10であり、60/40〜80/20が好ましい。無機質コロイドゾル(B)が少なすぎると、目的とする防曇効果が得られない。無機質コロイドゾル(B)が多すぎると、防曇剤組成物から得られる塗膜が脆くなる。本発明における「固形分」とは、エマルジョンまたは水性ゾルから水を除いた成分であり、具体的には、エマルジョンまたは水性ゾルを105℃で60分間加熱しても揮発せずに残る成分である。
【0028】
本発明の防曇剤組成物には、保存安定性を損なわない範囲で、ビニル系重合体を架橋させる架橋性化合物を添加してもよい。架橋性化合物を添加することにより、塗膜の耐水性を向上させることができる。架橋性化合物としては、イソシアネート化合物、エポキシ化合物、シラン化合物等が挙げられる。
本発明の防曇剤組成物には、必要に応じて、消泡剤、可塑剤、造膜助剤、増粘剤、顔料、顔料分散剤等の公知の添加剤を添加してもよい。
【0029】
<塗装物品>
本発明の防曇剤組成物を基材の表面に塗布し、強制乾燥または自然乾燥し、液状分散媒を揮散させて基材上に塗膜を形成することによって、本発明の防曇剤組成物からなる塗膜を有する塗装物品を得ることができる。
【0030】
塗布方法としては、ロールコート法、ディップコート法、ハケ塗り法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法等が挙げられる。防曇剤組成物の塗布量(固形分)は、乾燥後で、0.01〜10g/m2 が好ましく、0.1〜8g/m2 がより好ましい。
本発明の防曇剤組成物からなる塗膜と、基材との密着性が充分でない場合には、防曇剤組成物を塗布する前に、基材表面を、プラズマ処理、コロナ放電処理等によって改質してもよい。
強制乾燥方法としては、熱風乾燥法、赤外線輻射法等が挙げられる。
【0031】
防曇剤組成物からなる塗膜を形成することにより、防曇性の発現が認められる基材としては、プラスチック、無機ガラス、透明セラミック、金属、鏡面材料等が挙げられる。本発明の防曇剤組成物は、特に、農業用樹脂フィルムまたはシート(以下、まとめて「農業用樹脂フィルム」と記す。)への防曇性の付与に適している。
【0032】
<農業用樹脂フィルム>
本発明の農業用樹脂フィルムは、樹脂フィルムの少なくとも片面に本発明の防曇剤組成物からなる塗膜を有するものである。
樹脂フィルムとしては、例えば、塩化ビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、エチレン−酢酸ビニル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂等が挙げられる。樹脂フィルムには、必要に応じて、可塑剤、滑剤、着色剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、界面活性剤等の公知の添加剤を添加してもよい。
【0033】
以上説明した本発明の防曇剤組成物にあっては、無機質コロイドゾル(B)を含有しているため、防曇性に優れる塗膜を得ることができる。また、付加開裂型連鎖移動剤の存在下で1種類以上の不飽和単量体(I)を乳化重合して得られたエマルジョン中にて、1種類以上の不飽和単量体(II)を重合させて得られたビニル系重合体エマルジョン(A)を含有しているので、架橋剤を用いることなく樹脂フィルム等の基材との密着性および耐ブロッキング性が良好である柔軟かつ強靭な塗膜を得ることができる。また、架橋剤を用いる必要がないので、保存安定性に優れる。
【0034】
また、本発明の農業用樹脂フィルムは、初期の防曇性に優れる塗膜を有するため、初期の防曇性に優れる。また、基材との密着性が良好である塗膜を有するため、塗膜が剥がれにくく、結果、防曇性を長期間持続できる。また、耐ブロッキング性に優れる塗膜を有するため、ブロッキングが抑えられている。
【実施例】
【0035】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明がこれらに何ら限定されるものではない。また、「部」は「質量部」を示す。
【0036】
[製造例1]
攪拌機、温度計、滴下ロート、還流冷却器を取り付けた1リットルの4つ口フラスコに、脱イオン水500部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム8部、過硫酸カリウム0.5部および2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン(日本油脂(株)製、商品名:ノフマーMSD)1部を仕込み、撹拌しつつ内部温度を85℃に上げた。別容器にて、脱イオン水50部にドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム2部を溶解し、その中に不飽和単量体(I)として、メタクリル酸メチル100部を加え、撹拌して乳化物を調製し、これを1時間かけて4つ口フラスコ中へ連続滴下した。反応中は内部温度を85℃に保った。滴下終了後、1時間撹拌した。上記式(1)から計算される、不飽和単量体(I)より得られる重合体のTgは105℃である。
【0037】
ついで、4つ口フラスコの内部温度を85℃に保った状態で、さらに不飽和単量体(II)としてメタクリル酸メチル160部、アクリル酸2−エチルヘキシル240部の混合溶液を3時間かけて滴下した。上記式(1)から計算される、不飽和単量体(II)より得られる重合体のTgは−20℃である。その後、内部温度を85℃に保って2時間反応させてから冷却し、ビニル系重合体エマルジョン(A−1)を得た。エマルジョンの固形分濃度は48.0質量%であった。
【0038】
[製造例2]
不飽和単量体(II)をメタクリル酸メチル220部、アクリル酸2−エチルヘキシル180部に代えた以外は、製造例1と同様にしてビニル系重合体エマルジョン(A−2)を得た。エマルジョンの固形分濃度は、48.1質量%であった。上記式(1)から計算される、不飽和単量体(II)より得られる重合体のTgは0℃である。
【0039】
[製造例3]
不飽和単量体(I)をメタクリル酸メチル80部、アクリル酸2−エチルヘキシル20部に代えた以外は、製造例1と同様にしてビニル系重合体エマルジョン(A−3)を得た。エマルジョンの固形分濃度は、48.0質量%であった。上記式(1)から計算される、不飽和単量体(I)より得られる重合体のTgは50℃である。
【0040】
[製造例4]
不飽和単量体(I)をスチレン100部に代えた以外は、製造例1と同様にしてビニル系重合体エマルジョン(A−4)を得た。エマルジョンの固形分濃度は、47.9質量%であった。上記式(1)から計算される、不飽和単量体(I)より得られる重合体のTgは105℃である。
【0041】
[製造例5]
2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテンを0.5部とし、不飽和単量体(I)をメタクリル酸メチル25部に代え、不飽和単量体(II)をメタクリル酸メチル192部、アクリル酸2−エチルヘキシル283部に代えた以外は、製造例1と同様にしてビニル系重合体エマルジョン(A−5)を得た。エマルジョンの固形分濃度は、48.1質量%であった。上記式(1)から計算される、不飽和単量体(I)より得られる重合体のTgは105℃、不飽和単量体(II)より得られる重合体のTgは−20℃である。
【0042】
[製造例6]
不飽和単量体(I)をメタクリル酸メチル60部、アクリル酸2−エチルヘキシル40部に代えた以外は、製造例1と同様にしてビニル系重合体エマルジョン(A−6)を得た。エマルジョンの固形分濃度は、47.9質量%であった。上記式(1)から計算される、不飽和単量体(I)より得られる重合体のTgは11℃である。
【0043】
[製造例7]
不飽和単量体(II)をメタクリル酸メチル280部、アクリル酸2−エチルヘキシル120部に代えた以外は、製造例1と同様にしてビニル系重合体エマルジョン(A−7)を得た。エマルジョンの固形分濃度は、48.1質量%であった。上記式(1)から計算される、不飽和単量体(II)より得られる重合体のTgは30℃である。
【0044】
[製造例8]
2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテンを用いない以外は、製造例1と同様にしてビニル系重合体エマルジョン(A’−8)を得た。エマルジョンの固形分濃度は、47.9質量%であった。
【0045】
ビニル系重合体エマルジョン(A)の製造に用いた不飽和単量体およびと重合体のTgを表1に示す。表中、MMAはメタクリル酸メチル、2EHAはアクリル酸2−エチルヘキシル、Stはスチレンを表す。
【0046】
【表1】

【0047】
[実施例1]
ビニル系重合体エマルジョン(A−1)(固形分70部)と、無機質コロイドゾルとしてコロイダルシリカ(日産化学工業(株)製、商品名:スノーテックス20)(固形分30部)とを混合して、防曇剤組成物を調製した。
防曇剤組成物を、軟質塩化ビニルフィルムの表面に、バーコート法によって、乾燥後の塗布量(固形分)が5g/m2 となるように塗布し、70℃の熱風乾燥機中に1分間滞留させて乾燥した。得られた農業用樹脂フィルムについて、下記の評価を行った。結果を表2に示す。
【0048】
(透明性)
農業用樹脂フィルムの外観を肉眼で観察した。この評価基準は、次の通りである。
◎:防曇剤組成物を塗布しない樹脂フィルムと透明性がほぼ同等。
○:透明性の低下がやや認められるが実用上問題なし。
△:透明性の低下がかなり認められる。
×:透明性の低下が著しく、実用に耐えない。
【0049】
(密着性)
農業用樹脂フィルムの塗膜表面に、接着面積が10cm×2cm(20cm2 )となるようにセロハンテープを接着して、その全面を親指で押圧して、室温で1分間放置した。このセロハンテープの一端を把持して180度方向に剥離し、塗膜表面を肉眼で観察した。評価基準は、次の通りである。
◎:塗膜が全く剥離せず、完全に残る。
○:塗膜の2/3以上が剥離せず残った。
△:塗膜の1/3以上が剥離した。
×:塗膜が完全に剥離したもの
【0050】
(耐ブロッキング性)
農業用樹脂フィルム(縦10cm×横10cm)を2枚用意し、一方のフィルムの塗膜形成面と、他方のフィルムの塗膜非形成面とを重ね、10kgの荷重が掛かるように重石を乗せて、温度50℃、相対湿度80%の恒温恒湿室中に12時間放置した。その後、恒温恒湿室から取り出し、2枚のフィルムを剥離した。この際の剥離状況および剥離後の塗膜の状態を肉眼で観察した。評価基準は、次の通りである。
◎:剥離時にブロッキングが認められない。
○:剥離時にわずかにブロッキングが認められるが、塗膜の剥離は認められない。
△:剥離時にブロッキングが認められ、塗膜の一部の剥離が認められる。
×:剥離時にブロッキングが認められ、塗膜の剥離が認められる。
【0051】
(防曇性)
農業用樹脂フィルム(縦20cm×横20cm)の塗膜形成面を水槽内部に向けて水槽の上部に設置する。設置条件は、塗膜形成面と水槽水面との間隔:20cm、水温:50℃、外気温:20℃とした。設置開始から30分後、1時間後、2時間後、24時間後、1週間後、それぞれの時点における塗膜の表面を肉眼で観察した。評価基準は、次の通りである。
◎:水が薄膜状に付着し、水滴が認められない状態。
○:水が薄膜状に付着しているが、部分的に大粒の水滴の付着が認められる状態。
△:部分的に細かい水滴の付着が認められる状態。
×:成形品内表面全体に、細かい水滴の付着が認められる状態。
【0052】
[実施例2〜7、比較例1〜3]
ビニル系重合体エマルジョン(A)の種類、ビニル系重合体エマルジョン(A)およびコロイダルシリカの配合量を、表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして防曇剤組成物を調製した。また、実施例1と同様にして農業用樹脂フィルムを得た。得られた農業用樹脂フィルムについて、実施例1と同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0053】
[実施例8]
樹脂フィルムをエチレン−酢酸ビニル共重合体フィルムに変更した以外は、実施例1と同様にして農業用樹脂フィルムを得た。得られた農業用樹脂フィルムについて、実施例1と同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0054】
[比較例4]
樹脂フィルムをエチレン−酢酸ビニル共重合体フィルムに変更した以外は、比較例1と同様にして農業用樹脂フィルムを得た。得られた農業用樹脂フィルムについて、実施例1と同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0055】
【表2】

【0056】
表中、PVCは軟質塩化ビニルフィルムであり、EVAはエチレン−酢酸ビニル共重合体フィルムである。比較例1、4は、付加開裂型連鎖移動剤を用いずに製造されたビニル系重合体エマルジョン(A’−8)を用いた例であり、比較例2は、コロイダルシリカの量が少なすぎる例であり、比較例3は、コロイダルシリカの量が多すぎる例である。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の防曇剤組成物は、初期の防曇性に優れ、保存安定性を損なう架橋剤を用いることなく樹脂フィルム等の基材との密着性および耐ブロッキング性が良好である柔軟かつ強靭な塗膜を形成し得るものであり、農業用フィルム用の防曇剤としての利用価値は極めて大きい。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
付加開裂型連鎖移動剤の存在下で1種類以上の不飽和単量体(I)を乳化重合して得られたエマルジョン中にて、1種類以上の不飽和単量体(II)を重合させて得られたビニル系重合体エマルジョン(A)と、
無機質コロイドゾル(B)とを含有し、
ビニル系重合体エマルジョン(A)の固形分と無機質コロイドゾル(B)の固形分との質量比((A)/(B))が、50/50〜90/10である防曇剤組成物。
【請求項2】
前記不飽和単量体(I)より得られる重合体のガラス転移温度が、20〜150℃であり、
前記不飽和単量体(II)より得られる重合体のガラス転移温度が、−70〜10℃であることを特徴とする請求項1記載の防曇剤組成物。
【請求項3】
前記付加開裂型連鎖移動剤の量が、不飽和単量体(I)100質量部に対して0.5〜2.5質量部であり、
不飽和単量体(I)と不飽和単量体(II)との合計100質量%中、不飽和単量体(I)が10〜40質量%であり、不飽和単量体(II)が90〜60質量%であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の防曇剤組成物。
【請求項4】
樹脂フィルム上に請求項1ないし3のいずれか一項に記載の防曇剤組成物からなる塗膜を有する農業用樹脂フィルム。


【公開番号】特開2006−257132(P2006−257132A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−72826(P2005−72826)
【出願日】平成17年3月15日(2005.3.15)
【出願人】(000187068)昭和高分子株式会社 (224)
【Fターム(参考)】