説明

防曇性コーティング組成物

【課題】 高湿度環境下などにおいても塗膜が剥がれることなく、塗膜化させた際の塗膜の耐水性に優れる防曇性コーティング組成物を提供すること。
【解決手段】 吸水性樹脂を含む第1コーティング組成物と、ポリオールを含む第2コーティング組成物とから構成された防曇性コーティング組成物。この防曇性コーティング組成物では、吸水性樹脂が、ポリビニルアルコール及びポリアクリル酸類であることが好ましい。また、第1コーティング組成物及び/又は第2コーティング組成物は、金属アルコキシド、金属アルコキシドの加水分解物及び金属アルコキシドの加水分解重縮合物から選ばれる少なくとも1つを含むことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防曇性を発揮するコーティング組成物において、特に塗膜化した際の塗膜の耐水性に優れる防曇性コーティング組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス、プラスチックなどの基材が曇るのは、表面温度が露点以下に下がったときに空気中の水分が細かな水滴となって付着し、基材表面で光が乱反射するためである。従って、基材表面における水滴の生成を防止することにより、曇りを防ぐことができる。このような防曇方法においては、例えば(A)濡れの調整、(B)吸水性の付与、(C)撥水性の付与、および(D)加熱による温度の調整の4要素が考慮されてきた。
【0003】
(A)濡れの調整としては、基材と水滴との接触角を小さくするために、曇り止めスプレー剤などが市販されているが、このようなスプレー剤は界面活性剤などを利用しているため効力の持続性が低い。
【0004】
(B)吸水性の付与は、例えば親水性高分子のコーティング膜を形成することにより行われる。効力の持続性は、上記の濡れを調整するための曇り止めスプレー剤と比べて多少長いが、吸水能力以上となると曇り、さらに表面が溶解し始める。
【0005】
(C)撥水性の付与は、撥水性化合物を塗布することにより可能である。この方法によれば、特にビニールハウスなどの内側に撥水性化合物を塗布することにより、細かい水滴が相互に接触して大きな水滴となって流れ落ち、そのことによって防曇性を発揮することができる。しかし、場合によっては、かえって細かい水滴が付き、曇りを生じる。
【0006】
(D)加熱による温度調整は、コピー機のレンズ、自動車のリアウインドウ、高級鏡台などで防曇効果をあげているが、電源が必要であるため適用範囲が限定される。
【0007】
上記のような欠点を補うものとして、撥水性の優れた界面活性剤を含む有機ポリマーからなる防曇性コーティング組成物においては、界面活性剤の存在下でポリエーテルポリオールによって親水性となった膜が水分を吸収して防曇性を発揮し、この膜の吸水限界点以上の場合には、含有されている界面活性剤により、濡れが調整されて透明性を保つように設計されている。しかし、界面活性剤は水に溶けやすく、流出するため、防曇性は著しく低下してしまう。
【0008】
そこで近年、防曇性を発揮しつつ水に不溶性の防曇性塗膜が形成可能な組成物について提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−61029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述した先行技術によれば、当該塗膜は水に不溶性であるため、当該組成物が塗布されたプラスチックを光学レンズや眼鏡、車両の窓ガラス等として繰り返し使用しても、防曇性は維持されうるが、例えば高湿度環境下や、当該プラスチックが濡れた状態下において、当該プラスチック上に形成された塗膜を乾いたウエスや指等により擦ると、当該塗膜がプラスチックから剥がれてしまい、十分な耐水性が発揮されているとはいえなかった。
【0011】
そこで本発明は、上述した環境下においても塗膜が剥がれることなく、塗膜化させた際の塗膜の耐水性に優れる防曇性コーティング組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、防曇性の塗膜を二つの塗膜の積層体からなるものとし、かつ、その最外層となる塗膜が架橋密度が高いものとすることにより、高湿度環境下や濡れた状態下においても塗膜が剥がれにくくなり、耐水性に優れたものとすることができることを見出し、本発明に至ったものである。
【0013】
即ち、本発明の防曇性コーティング組成物は、吸水性樹脂を含む第1コーティング組成物と、ポリオールを含む第2コーティング組成物とから構成されてなることを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明の防曇性コーティング組成物は、吸水性樹脂が、ポリビニルアルコール及びポリアクリル酸類であることを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明の防曇性コーティング組成物は、第1コーティング組成物及び/又は第2コーティング組成物が、さらに、金属アルコキシド、金属アルコキシドの加水分解物及び金属アルコキシドの加水分解重縮合物から選ばれる少なくとも1つを含むことを特徴とするものである。
【0016】
また、本発明の防曇性コーティング組成物は、第1コーティング組成物及び/又は第2コーティング組成物が、さらに、硬化剤を含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の防曇性コーティング組成物は、吸水性樹脂を含む第1コーティング組成物と、ポリオールを含む第2コーティング組成物とから構成されてなることにより、塗膜化させた際の塗膜の防曇性を発揮しつつ、耐水性に優れたものとすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の防曇性コーティング組成物は、吸水性樹脂を含む第1コーティング組成物と、ポリオールを含む第2コーティング組成物とから構成されてなるものである。
【0019】
本発明の第1コーティング組成物には、これを塗膜化した際の吸水性・防曇性を発揮させるため、吸水性樹脂が用いられる。吸水性樹脂としては、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸類、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。これらの樹脂は、単独でまたは2種以上を混合して用いてもよいが、特に、塗膜化した際の吸水性・防曇性に優れたものとする観点から、ポリビニルアルコール及びポリアクリル酸類を混合したものを用いることが好ましい。吸水性樹脂の使用量は、好ましくは、第1コーティング組成物中0.5〜30重量%(固形分)である。
【0020】
ここで、吸水性樹脂のうちポリビニルアルコールとして好適なものは、鹸化度が65〜85モル%[即ち、水酸基のモル数×100/(アセチル基のモル数+水酸基のモル数)]の不完全鹸化物である。さらに好ましくは、鹸化度75〜82%の不完全鹸化物である。ポリビニルアルコールを用いる際の使用量としては、好ましくは、第1コーティング組成物中1〜20重量%(固形分)である。
【0021】
また、ポリアクリル酸類として好適なものは、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸およびポリアクリル酸、ポリメタクリル酸の夫々メチルエステルおよびエチルエステルなどが挙げられる。ポリアクリル酸およびポリメタクリル酸の夫々メチルエステルおよびエチルエステルは、夫々10〜30モル%鹸化物[即ち、加水分解されたエステル基のモル数×100/(加水分解されたエステル基のモル数+加水分解されていないエステル基のモル数)]が好ましい。ポリアクリル酸類を用いる際の使用量としては、好ましくは、第1コーティング組成物中0.5〜10重量%(固形分)である。
【0022】
本発明の第1コーティング組成物には、金属アルコキシド、金属アルコキシドの加水分解物及び金属アルコキシドの加水分解重縮合物から選ばれる少なくとも1つが含まれることがより好ましい。
【0023】
本発明の第1コーティング組成物に含まれる吸水性樹脂に加え、金属アルコキシド、金属アルコキシドの加水分解物及び金属アルコキシドの加水分解重縮合物から選ばれる少なくとも1つを加えることで、それを塗膜化した際に、防曇性に優れ、かつ、防曇性塗膜として要求される、不溶性、耐摩耗性および耐候性も兼ね備えたものとすることができる。つまり、ポリビニルアルコール及びポリアクリル酸類等の吸水性樹脂を用い、これに、金属アルコキシド、金属アルコキシドの加水分解物及び金属アルコキシドの加水分解重縮合物から選ばれる少なくとも1つを加えることで、金属アルコキシドの加水分解物が重縮合反応を生ずる際、共存するポリアクリル酸類およびポリビニルアルコール等の吸水性樹脂とも反応して、金属アルコキシドに由来する無機部分とポリアクリル酸類およびポリビニルアルコール等の吸水性樹脂に由来する親水性基を有する有機部を持つ複合ポリマーが生成されると考えられるからである。さらに、この複合ポリマーの親水性基が効果的に配向し、外部からの水分を多く、且つ速やかに吸収することができるものと考えられる。
【0024】
なお、金属アルコキシドの加水分解物及び金属アルコキシドの加水分解重縮合物とは、所謂、ゾル−ゲル法反応と呼ばれる反応により、金属アルコキシドを溶液中で加水分解・重縮合反応させて溶液を金属酸化物または金属水酸化物の微粒子が溶解したゾルとし、さらに反応を進めてゲルとすることで得られる加水分解物及びそれに続く加水分解重縮合物をいう。
【0025】
本発明で用いられる金属アルコキシドとしては、例えば、次式(I)で示される少なくとも1種である。
【0026】
M(OR)n(X)a-n ・・・(I)
式(I)中、Mは、Si、Al、Ti、Zr、Ca、Fe、V、Sn、Li、Be、BおよびPから選択される原子、Rはアルキル基であり、Xはアルキル基、官能基を有するアルキル基、またはハロゲン、aはMの原子価、およびnは1からaまでの整数である。
【0027】
式(I)の化合物のうち汎用されるのは、n=a、つまりMにアルコキシ基のみが結合した化合物である。
【0028】
上記MがSiの場合には、上記aは4であり、このようなアルコキシドは、Si(OR14で表される。ここでR1は、好ましくは炭素数1〜4のアルキル基(以下、低級アルキル基という)である。このようなアルコキシシランとしては、Si(OCH34、Si(OC254などが挙げられる。
【0029】
上記MがAlの場合には、上記aは3であり、このようなアルコキシドは、Al(OR23で表される。ここでR2は、好ましくは低級アルキル基である。このようなアルミニウムアルコキシドとしては、Al(OCH33、Al(OC253、Al(O−n−C373、Al(O−iso−C373、Al(OC493などが挙げられる。上記アルミニウムアルコキシドは、単独でまたは2種以上を混合して用いてもよい。このようなアルミニウムアルコキシドは、通常、上記アルコキシシランと混合して用いられ、アルミニウムアルコキシドを用いることによって、得られる防曇性塗膜の透光性や耐熱性が向上する。アルミニウムアルコキシドの使用量は、好ましくは上記アルコキシシラン100重量部に対して1〜10重量部の範囲である。
【0030】
上記MがTiの場合には、上記aは4であり、このようなアルコキシドは、Ti(OR34で表される。ここでR3は、好ましくは低級アルキル基である。このようなチタニウムアルコキシドとしては、Ti(O−CH34、Ti(O−C254、Ti(O−n−C374、Ti(O−iso−C374、Ti(O−C494などが挙げられる。上記チタニウムアルコキシドは、単独でまた2種以上を混合して用いてもよい。このようなチタニウムアルコキシドは、通常、上記アルコキシシランと混合して用いられ、チタニウムアルコキシドを用いることによって、得られる防曇性塗膜の耐紫外線性は向上し、基材の耐熱性も著しく向上する。チタニウムアルコキシドの使用量は、好ましくは上記アルコキシシラン100重量部に対して0.1〜3重量部の範囲である。
【0031】
上記MがZrの場合には、上記aは4であり、このようなアルコキシドは、Zr(OR44で表される。ここでR4は、好ましくは低級アルキル基である。このようなジルコニウムアルコキシドとしては、Zr(OCH34、Zr(OC254、Zr(O−iso−C374、Zr(O−t−C494、Zr(O−n−C494などが挙げられる。上記ジルコニウムアルコキシドは、単独でまたは2種以上を混合して用いてもよい。このようなジルコニウムアルコキシドは、通常、上記アルコキシシランと混合して用いられ、ジルコニウムアルコキシドを用いることによって、得られる防曇性塗膜の靭性や耐熱性が向上する。ジルコニウムアルコキシドの使用量は、好ましくは上記アルコキシシラン100重量部に対して0.5〜5重量部の範囲である。
【0032】
上記以外のアルコキシドとしては、例えば、Ca(OC252、Fe(OC253、V(O−iso−C374、Sn(O−t−C494、Li(OC25)、Be(OC352、B(OC253、P(OC252、P(OCH33などが挙げられる。
【0033】
式(I)で示されるアルコキシドのうちn=a−1以下の場合、つまりMにアルコキシド以外の基Xが結合している化合物としては、例えばXがCl、Brのようなハロゲンである化合物がある。Xがハロゲンである化合物には、後述のように、アルコキシ基と同様に加水分解されてOH基を生じ重縮合反応が起こる。Xはまた、アルキル基や官能基を有するアルキル基であり得、このアルキル基の炭素数は通常1〜15である。このような基は、加水分解されずに得られるポリマー中に有機部分として残留する。上記官能基としては、カルボキシル基、カルボニル基、アミノ基、ビニル基、エポキシ基などがある。このような基は、後述のように防曇性を高める上で好適である。
【0034】
Xを有する式(I)の化合物としては、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルメトキシシランなどが挙げられる。
【0035】
これら金属アルコキシド、金属アルコキシドの加水分解物及び金属アルコキシドの加水分解重縮合物から選ばれる少なくとも1つの材料の使用量は、好ましくは第1コーティング組成物中0.1〜20重量%(固形分)である。
【0036】
本発明の第1コーティング組成物で用いられるシランカップリング剤は、基材への密着の観点から用いられる。このようなものとしては、ビニルシラン、メタクリルシラン、アミノシラン、エポキシシランが挙げられ、この中でも特に、エポキシ基を有するシランカップリング剤を用いることが好ましい。エポキシ基を有するシランカップリング剤としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランが好ましく、その使用量は、好ましくは第1コーティング組成物中0.1〜5重量%(固形分)である。
【0037】
本発明には、好ましく用いることができる触媒として、酸触媒が挙げられる。酸触媒は金属アルコキシドの加水分解反応に用いられる。従って、予め金属アルコキシドがある程度加水分解されて、重縮合し、OH基を有するポリマー(比較的低分子量のオリゴマーであり得る)となる。
【0038】
上記酸触媒としては、塩酸、硫酸、硝酸などの鉱酸などが用いられる。鉱酸の無水物、例えば、塩化水素ガスも用いられ得る。この他に有機酸やその無水物も利用され得る。それには例えば、酒石酸、フタル酸、マレイン酸、ドデシルコハク酸、ヘキサヒドロフタル酸、メチルナジック酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ジクロルコハク酸、クロレンディック酸、無水フタル酸、無水マレイン酸、無水ドデシルコハク酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水メチルナジック酸、無水ピロメリット酸、無水ベンゾフェノンテトラカルボン酸、無水ジクロルコハク酸、無水クロレンディック酸などが挙げられる。これらの酸触媒は、アルコキシド100重量部に対して好ましくは0.01〜0.5重量部、さらに好ましくは0.015〜0.3重量部である。
【0039】
さらに、ポリアクリル酸エステルの鹸化部分に由来する有機酸が上記アルコキシド、好ましくはアルコキシドおよびγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランの加水分解・重縮合反応の触媒として作用する。
【0040】
本発明による第1コーティング組成物は、上述したように吸水性樹脂が含まれ、好適には金属アルコキシド、金属アルコキシドの加水分解物および該加水分解物の低分子量重合縮合物から選ばれる少なくとも1つ、さらに、該加水分解物の重縮合反応を促進させる触媒を含む反応溶液よりなる。ここで、金属アルコキシド、金属アルコキシドの加水分解物および該加水分解物の低分子量重合縮合物から選ばれる少なくとも1つを含むとは、次の4つの場合を含む。
(1)反応溶液を調合するに用いるのが、金属アルコキシドで、その加水分解反応は反応溶液の調合後に生じさせる。
(2)反応溶液を調合するに用いるのが、既に加水分解反応処理が行われた金属アルコキシドの加水分解物であるもの。
(3)反応溶液を調合するに用いるのが、金属アルコキシドの加水分解物が既に一部重縮合した低分子量重縮合物であるもの。
(4)反応溶液を調合するに用いるのが、金属アルコキシド、その加水分解物およびその加水分解物の低分子量重縮合物の2種以上であるもの。
【0041】
本発明の第1コーティング組成物には、さらに、硬化剤が含まれることがより好ましい。硬化剤としては、イソシアネート系硬化剤、エポキシ系硬化剤、カルボジイミド系硬化剤等が挙げられる。
【0042】
イソシアネート系硬化剤としては、イソシアネートモノマーを重合若しくは共重合させたポリイソシアネートが主なものとして挙げられ、特に制限されること無く使用することができる。イソシアネートモノマーとしては、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,3−若しくは1,4−ジイソシアネートシクロヘキサン、m−若しくはp−テトラメチルキシレンジイソシアネート、1,4−テトラメチレンジイソシアネート、1,12−ドデカメチレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0043】
また、常温では全く反応せずにある温度以上に加熱すると架橋反応を起こすような一液型硬化反応となるイソシアネートを用いることもできる。このようなイソシアネートとしては、触媒や官能基をブロック化した手法が用いられたブロックイソシアネート等を用いることができる。
【0044】
ここでブロックイソシアネートとは、上述したポリイソシアネートをマスク剤でマスク化したものであり、常温では全く反応せず硬化反応を進行させることはなく、マスク剤が解離する温度以上に加熱すると活性なイソシアネート基が再生されて十分な架橋反応を起こすものである。
【0045】
エポキシ系硬化剤としては、エチレングリコールグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテルが挙げられる。
【0046】
カルボジイミド系硬化剤としては、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩が挙げられる。
【0047】
このような硬化剤の使用量としては、好ましくは第1コーティング組成物中0.1〜10重量%(固形分)である。
【0048】
本発明の第1コーティング組成物に好ましく用いることができる有機溶媒としては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、N−メチルピロリドンなどの水との相溶性のある溶媒が挙げられる。さらに好ましくは、この有機溶媒は水と共に用いられる。上記有機溶媒の使用量は、好ましくは第1コーティング組成物100重量部に対し、5〜70重量部である。
【0049】
本発明による第1コーティング組成物を基材等の被着体に塗工し、乾燥後、熱処理を行うと、上記重縮合反応および架橋反応が進行し、三次元構造を有する複合ポリマーが形成される。このポリマーは無機部分と有機部分とを有するポリマーである。すなわち、このポリマーは、無機部分である不溶性骨格を有しているため、このポリマーにより形成される防曇性の塗膜は、水および有機溶剤に不溶であり、高い表面硬度を有する。さらに、このポリマーは、有機部分であるポリアクリル酸エステル、ポリビニルアルコール等の吸水性樹脂を有しているため、形成された被覆表面部分にポリアクリル酸エステルおよびポリビニルアルコール等の吸水性樹脂に由来する親水部分が存在し、その部分に水分が吸着する。さらに、上記式(I)のX基の端末にカルボキシル基、カルボニル基、アミノ基、ビニル基、エポキシ基などを有する場合には、さらにその基にも水分が吸着する。
【0050】
本発明による第1コーティング組成物の主な組成は、ポリアクリル酸類およびポリビニルアルコール等の吸水性樹脂の存在下でゾル−ゲル反応を生じさせて得られるものであるから、金属アルコキシドの加水分解物のOH基が脱プロトン化し、その結果重縮合反応が生じて得られる重縮合物、重縮合物が有するOH基にポリアクリル酸類およびポリビニルアルコール等の吸水性樹脂が架橋反応して得られる、前述の複合ポリマー、金属アルコキシドの加水分解物とポリアクリル酸類およびポリビニルアルコール等の吸水性樹脂との反応物、並びに上記重縮合物、加水分解物およびポリアクリル酸類およびポリビニルアルコール等の吸水性樹脂の三者の反応物などが考えられる。
【0051】
次いで、第2コーティング組成物について説明する。第2コーティング組成物は、ポリオールを含むものである。
【0052】
ポリオールとしては、ポリエステル、アクリル、部分アセタール化ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドンが挙げられる。このようなポリオールは、塗膜化した際に耐水性を付与しつつ、防曇性を維持させることができる。これらの中でも、防曇性の観点から、ポリエチレングリコールが好ましく用いられる。ポリオールの使用量としては、好ましくは第2コーティング組成物中5〜50重量%(固形分)である。
【0053】
本発明の第2コーティング組成物には、金属アルコキシド、金属アルコキシドの加水分解物及び金属アルコキシドの加水分解重縮合物から選ばれる少なくとも1つ、さらには、シランカップリング剤が含まれることがより好ましい。これら金属アルコキシド、金属アルコキシドの加水分解物及び金属アルコキシドの加水分解重縮合物から選ばれる少なくとも1つ並びにシランカップリング剤は、第1コーティング組成物で用いられるものと同様のものが用いられる。
【0054】
これら金属アルコキシド、金属アルコキシドの加水分解物及び金属アルコキシドの加水分解重縮合物から選ばれる少なくとも1つの使用量としては、好ましくは第2コーティング組成物中0.5〜20重量%(固形分)である。また、シランカップリング剤の使用量としては、好ましくは第2コーティング組成物中0.1〜5重量%(固形分)である。
【0055】
本発明の第2コーティング組成物には、さらに、硬化剤が含まれることがより好ましい。かかる硬化剤は、第1コーティング組成物で用いられるものと同様のものが用いられる。
【0056】
硬化剤の使用量としては、好ましくは第2コーティング組成物中5〜40重量%(固形分)である。
【0057】
本発明の第2コーティング組成物に好ましく用いることができる有機溶媒としては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、N−メチルピロリドン、ジアセトンアルコールなどの水との相溶性のある溶媒が挙げられる。上記有機溶媒の使用量は、好ましくは第2コーティング組成物100重量部に対し、5〜70重量部である。
【0058】
本発明の防曇性コーティング組成物は、第1コーティング組成物と第2コーティング組成物とから構成されてなるものであるが、当該組成物を基材等の被着体に塗布する際には、第1コーティング組成物を先に塗布した後、第2コーティング組成物を塗布する。第2コーティング組成物が第1コーティング組成物上に塗布されることにより、当該第2コーティング組成物よりなる塗膜の架橋密度が高いことから、塗膜化させた際の塗膜の防曇性を発揮しつつ、高湿度環境下や、当該被着体が濡れた状態下において、当該塗膜が乾いたウエスや指等により擦っても塗膜が剥がれることなく耐水性に優れたものとなる。
【0059】
なお、本発明の第1コーティング組成物及び/又は第2コーティング組成物には、さらにケイフッ化水素酸が含まれることが好ましい。ケイフッ化水素酸使用量は、好ましくは第1コーティング組成物及び/又は第2コーティング組成物中0.1〜5重量%である。
【0060】
また、特開平11−50009号公報において、防曇性塗膜の耐候性の向上を図るべく、紫外線吸収剤およびラジカル捕捉剤として作用するベンゾフェノン系化合物を添加することが提案されているが、このベンゾフェノン系化合物の添加も本発明において有効であることが認められた。このベンゾフェノン系化合物は次式(II)に示される。
【0061】
【化1】

(II)式中、X1〜X10は水素、ヒドロキシル基、スルホン酸基、カルボキシル基、アシル基、エステル基、エーテル基、炭化水素基、炭素数1〜6のアルコキシル基、アミノ基、ヒドロキシルアルキル基およびヒドロキシルアルコキシル基から選ばれる基であって同一でも異なるものでもよい。但し、X1〜X10の少なくとも1つはヒドロキシル基およびスルホン酸基から選ばれる基である。
【0062】
本発明の防曇性コーティング組成物を塗布する基材としては、レンズ、光学平行板、ミラー、プリズム、ガラスおよびプラスチックが挙げられる。
【0063】
本発明の防曇性コーティング組成物は、例えば、以下のようにして基材に形成される。まず、上述の第1コーティング組成物の各成分を混合して透明の塗布液を得る。次いで、この塗布液を上記基材の少なくとも片面に塗布し、これを好ましくは80℃以上の温度、さらに好ましくは80〜150℃の範囲内で加熱乾燥させることにより、本発明の第1塗膜が得られる。必要に応じて、上記塗布液を数回重ねて塗工した後、上記加熱処理を行ってもよい。
【0064】
次いで、第2コーティング組成物の各成分を混合して透明の塗布液を得る。この塗布液を上述の第1塗膜上に塗布し、これを好ましくは60℃以上の温度、さらに好ましくは60〜150℃の範囲内で加熱乾燥させることにより、本発明の第2塗膜が得られる。必要に応じて、上記塗布液を数回重ねて塗工した後、上記加熱処理を行ってもよい。
【0065】
上記第1塗膜及び第2塗膜の合計厚みは、光学レンズなどに用いる場合には、0.01〜1.0μmが好ましい。窓ガラスなどに塗工する場合には、1.0〜10.0μmが好ましい。当該塗膜の合計厚みは、上記塗布液を厚く塗布することにより、あるいは数回重ねて塗布することにより、適宜、調節され得る。このようにして得られる防曇性の物品は、基材の表面に防曇性および結露防止性を与える。形成された塗膜は、水および有機溶剤に不溶であり、且つ高い表面硬度を有する。
【0066】
本発明による防曇性コーティング組成物のうち、第1コーティング組成物を基材に塗布し、乾燥後、熱処理を行うと、上記重縮合反応および架橋反応が進行し、三次元構造を有する複合ポリマーが形成される。このポリマーは無機部分と有機部分とを有するポリマーである。すなわち、このポリマーは、無機部分である不溶性骨格を有しているため、このポリマーにより形成される防曇性の塗膜は、水および有機溶剤に不溶であり、高い表面硬度を有する。さらに、このポリマーは、有機部分であるポリアクリル酸エステル、ポリビニルアルコール等の吸水性樹脂を有しているため形成された被覆表面部分にポリアクリル酸エステルおよびポリビニルアルコール等の吸水性樹脂に由来する親水部分が存在し、その部分に水分が吸着する。さらに、上記式(I)のX基の端末にカルボキシル基、カルボニル基、アミノ基、ビニル基、エポキシ基などを有する場合には、さらにその基にも水分が吸着する。
【0067】
ただし、第1コーティング組成物からなる塗膜のみであると、塗膜を構成する有機物の硬化反応・架橋反応が不十分なため、高湿度環境下や、当該プラスチックが濡れた状態下において、当該塗膜が乾いたウエスや指等により擦られると当該有機物が容易に移動し、塗膜が剥がれてしまうことなる。しかしながら、本発明の防曇性コーティング組成物によれば、ポリオールを含む第2コーティング組成物をも備えたものであり、当該第2コーティング組成物を第1コーティング組成物よりなる塗膜上に塗布することにより、より架橋密度の高い塗膜が塗布されることになるため、塗膜化させた際の塗膜の防曇性を発揮しつつ、高湿度環境下や、当該プラスチックが濡れた状態下において、当該塗膜が乾いたウエスや指等により擦っても塗膜が剥がれることなく耐水性に優れたものとなる。
【実施例】
【0068】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。なお、「部」、「%」は特に示さない限り、重量基準とする。
[実施例1]
下記第1コーティング組成物を調製し、ガラス板へディップコート装置にて50mm/minの速度で引き上げ塗布し、150℃で10分間加熱・乾燥を行ったところ、均一且つ無色透明な第1塗膜(塗膜の厚み:3μm)が得られた。
<実施例1の第1コーティング組成物>
・メチルシリケート(MS−56:三菱化学社) 5.0部
・シランカップリング剤 0.3部
(SH6040:東レ・ダウコーニング社)
・部分鹸化ポリビニルアルコール(キシダ化学社) 5.0部
・ポリアクリル酸(AC−10H:日本純薬社) 5.0部
・メタノール 40.0部
・HO 44.5部
次いで、下記第2コーティング組成物を調製し、これを第2塗膜として、第1塗膜上にディップコート法で30mm/minの速度で引き上げ塗布し、100〜120℃の乾燥炉で15分間乾燥することにより、厚み約5μmの透明な第2塗膜が得られ、実施例1の防曇フィルムを作製した。
<実施例1の第2コーティング組成物>
・メチルシリケート(MS−56:三菱化学社) 5.0部
・シランカップリング剤 0.3部
(SH6040:東レ・ダウコーニング社)
・ポリエチレングリコール(キシダ化学社) 30.0部
・イソシアネート系硬化剤 20.0部
(MF-K60X:旭化成ケミカルズ社)
・ジアセトンアルコール 30.0部
・t−ブタノール 14.7部
[比較例1]
下記のコーティング組成物に示す成分(各々、重量部)に従って、ポリアクリル酸メチルエステル20モル%鹸化物[ポリアクリル酸(平均分子量:150,000)の25%水溶液(溶液の%は重量%、以下同じ)にメタノールを加え、常温(25℃)で30分間撹拌して得たポリアクリル酸メチルエステルを水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)にて、20%鹸化となるように加えて、さらに、30分間撹拌により鹸化して得られるポリアクリル酸メチルエステル]2.5%の水−メタノール溶液にポリビニルアルコール(平均重合度:2000、鹸化度:約82モル%)10%水溶液を加えて、常温(25℃)にて10分間撹拌の後、予め調製したγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、アルミニウムイソプロポキシド加水分解液(エタノール中、アルミニウムイソプロポキシドを酸触媒により加水分解して得られる。Al23換算で5重量%)およびケイフッ化水素酸0.47%メタノール溶液による溶液を加え、常温(25℃)で15分間撹拌し、塗布液を調製した。
<比較例1のコーティング組成物>
・ポリアクリル酸メチルエステル20モル%鹸化物
(水−メタノール溶液) 59.50部
・ポリビニルアルコール10%水溶液
(鹸化度約82モル%) 37.50部
・γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン 0.14部
・アルミニウムイソプロポキシドエタノール溶液
(Al235%含有) 0.28部
・ケイフッ化水素酸0.47%メタノール溶液 2.58部
得られた塗布液は、無色透明でこれをガラス板へディップコート装置にて50mm/minの速度で引き上げ塗布し、150℃で10分間加熱・乾燥を行ったところ均一且つ無色透明な塗膜(塗膜の厚み:3.0μm)が得られ、比較例1の防曇フィルムを作製した。
[比較例2]
実施例1の第1コーティング組成物を調製し、ガラス板へディップコート装置にて50mm/minの速度で引き上げ塗布し、150℃で10分間加熱・乾燥を行ったところ、均一且つ無色透明な第1塗膜(塗膜の厚み:3μm)が得られ、比較例2の防曇フィルムを作製した。
[比較例3]
実施例1の第2コーティング組成物を調製し、ガラス板へディップコート装置にて30mm/minの速度で引き上げ塗布し、120℃で15分間加熱・乾燥を行ったところ、均一且つ無色透明な第2塗膜(塗膜の厚み:3μm)が得られ、比較例3の防曇フィルムを作製した。
【0069】
実施例1及び比較例1〜3で得られた防曇フィルムに対して、下記の評価を行なった。
(1)防曇性の評価
実施例1及び比較例1〜3で得られた防曇フィルムを冷蔵庫(約0℃)に5分間収納し、その後、25℃、81%RHの雰囲気下に放置した。実施例1及び比較例1、2の防曇フィルムに形成された塗膜表面には、曇りがまったく発生していなかった。一方、比較例3の防曇フィルムに形成された塗膜表面には、曇りが発生していた。
(2)防曇持続性の評価
(1)の評価により曇りが発生していなかった実施例1及び比較例1、2の防曇フィルムに対し、更に、40℃、95%RHの恒温恒湿条件下で、一週間放置した。その後、実施例1及び比較例1、2の防曇フィルムに形成された塗膜表面を観察したところ、曇りは発生しておらず、防曇性は低下していなかった。
(3)防曇フィルムの耐水性の評価
実施例1及び比較例1〜3で得られた防曇フィルムの塗膜が形成された面に対し、約60℃の湯気を5分間当てた。その後、塗膜が形成された面について乾いたウエスにより3回擦り、塗膜表面を目視にて観察した。実施例1及び比較例3の防曇フィルムについては、塗膜が剥がれてはいなかった。一方、比較例1、2の防曇フィルムについては、塗膜が剥がれてしまっていた。
(4)塗膜の耐摩擦性の評価
実施例1及び比較例1〜3で得られた防曇フィルムの塗膜が形成された面に対し、スチールウールを用いて500gの荷重を掛けながら10往復擦り、表面の傷付きについて目視にて評価した。実施例1及び比較例3の防曇フィルムに形成された塗膜表面には、目視にて確認できる傷が存在しかなかった。一方、比較例1、2の防曇フィルムに形成された塗膜表面には、目視にて確認できる傷が無数に存在していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸水性樹脂を含む第1コーティング組成物と、ポリオールを含む第2コーティング組成物とから構成されてなることを特徴とする防曇性コーティング組成物。
【請求項2】
請求項1記載の防曇性コーティング組成物であって、
吸水性樹脂が、ポリビニルアルコール及びポリアクリル酸類であることを特徴とする防曇性コーティング組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載の防曇性コーティング組成物であって、
第1コーティング組成物及び/又は第2コーティング組成物が、金属アルコキシド、金属アルコキシドの加水分解物及び金属アルコキシドの加水分解重縮合物から選ばれる少なくとも1つを含むことを特徴とする防曇性コーティング組成物。
【請求項4】
請求項3記載の防曇性コーティング組成物であって、
第1コーティング組成物及び/又は第2コーティング組成物が、硬化剤を含むことを特徴とする防曇性コーティング組成物。

【公開番号】特開2011−6563(P2011−6563A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−150427(P2009−150427)
【出願日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(000150246)株式会社中戸研究所 (9)
【Fターム(参考)】