説明

防曇性レンズ

【課題】防曇性能の持続性が高く、汚れが付着した場合に拭き取りやすい防曇性レンズを提供すること。
【解決手段】基材の酸化物表面にホスホリルコリン基と基材を化学結合するシラン反応性基を有する下記親水性物質と、金属アルコキシド,シラン化合物から選ばれたカップリング剤を混合した組成物を主成分とする動摩擦係数が0.5未満の低摩擦性の防曇膜を形成させた。これによって防曇性能の持続性が高く、汚れが付着した場合に拭き取りやすい防曇性レンズを提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は防曇性レンズに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来からレンズの曇りを防止するための技術がいくつか提案されてきている。曇り防止の作用の点から大きく分けてレンズ表面に吸水性樹脂を被覆することと、いわゆる濡れ現象を利用する2つのタイプが挙げられる。但し、近年では吸水性樹脂による防曇作用は吸水性樹脂を被覆すると表面硬度が低くなってしまうことと、その厚みから反射防止レンズには使用できないことからレンズについては後者の濡れ現象を利用したものが主流である。濡れ現象とは要はレンズに付着する水分の表面張力による水滴化を防止するもので、レンズ表面に界面活性剤を塗布することが最も一般的である。
しかし、界面活性剤を塗布した場合ではその防曇性能の維持が難しく、例えば水で拭けば界面活性剤が容易にレンズ表面から剥落してしまう。そのため、特許文献1に掲げるような技術が提案されている。これはレンズ表面をシランカップリング剤で処理した後、親水基を有するチオールをエン・チオール反応によって固定するというものである。
【0003】
更に、親水性官能基を高分子側鎖に配置して表面に固定化することによって、防曇性能を付与する技術についても提案がされている。これは例えば特許文献2〜4に示すように基材表面に共有結合により親水性官能基を固定化するものである。これらは基材表面に高分子側鎖の親水性官能基により親水性を付与しているが、親水性官能基は表面ポテンシャルの安定化にともない疎水的な空気表面よりも基材表面に親水性官能基を配向させようとするため、見掛けの表面親水性を低下させ、防曇性能を低下させてしまうこととなっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−104046号公報
【特許文献2】特開平11−005817号公報
【特許文献3】特開2006−306031号公報
【特許文献4】特開2009−184300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、レンズに汚れが付着した場合にはこれをふき取る必要がある。例えば曇り防止として界面活性剤を使用した場合には滑り性がよいため、汚れが拭き取りやすいのであるが、上記特許文献1のような防曇技術では必ずしもにレンズ表面の滑り性がよくなく、界面活性剤に比べて防曇性能の維持の点ではよいものの、汚れが付着した場合の拭き取り性の点で劣るという問題が生じていた。
そのため、防曇性能の持続性が高く、汚れが付着した場合に拭き取りやすい防曇性レンズが求められていた。
本発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的は、防曇性能の持続性が高く、汚れが付着した場合に拭き取りやすい防曇性レンズを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために第1の手段では、基材の酸化物表面にホスホリルコリン基と基材と化学結合するシラン反応性基を有する親水性物質と、金属アルコキシド,シラン化合物から選ばれたカップリング剤を混合した組成物を主成分とする動摩擦係数が0.5未満の低摩擦性の防曇膜を形成させたことをその要旨とする。
【0007】
第2の手段では、第1の手段の構成に加え、前記親水性分子は、下記化学式で示される化合物であることをその要旨とする。
【0008】
【化1】

【0009】
第3の手段では、第1の手段に加えて前記親水性分子は、下記化学式で示されるホスホリルコリン基及びシラン反応性基を高分子側鎖に有する化合物であることをその要旨とする。
【0010】
【化2】

【0011】
第4の手段では第1〜3のいずれかの手段に記載の発明の構成に加え、前記シラン化合物は下記化学式で示される化合物であることをその要旨とする。
【0012】
【化3】

【0013】
第5の手段では第1〜4のいずれかの手段に記載の発明の構成に加え、前記金属アルコキシドは下記化学式で示されるテトラアルコキシシランであることをその要旨とする。
【0014】
【化4】

【0015】
第6の手段では第5の手段に記載の発明の構成に加え、前記テトラアルコキシシランはテトラエトキシシランであることをその要旨とする。
第7の手段では第1〜6のいずれか手段に記載の発明の構成に加え、化学結合基を有する親水性ポリマーを含むことをその要旨とする。
第8の手段では第7の手段に記載の発明の構成に加え、前記親水性ポリマーは、ポリエチレングリコールもしくはポリシロキサンを成分として含有することをその要旨とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、防曇性能の持続性が高く、汚れが付着した場合であっても滑りがよいため拭き取りやすい防曇性レンズが提供されることとなる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明によれば、化1の化学式で示される本発明のホスホリルコリン基とシラン反応性基を有する親水性物質のうち、シラン反応性基が基材側の酸化物と共有結合する。例えば、シラン反応性基であるアルコキシシラン基が基材側の酸化物、例えばSiO2と反応することとなる。するとホスホリルコリン基側が外面側として基材上に配置されることとなる。ホスホリルコリン基はその構造中にコリン基由来のカチオンと、ホスホリル基由来のアニオンを備えていることが極めて高い親水性をもたらし、更にその両性イオンを有することが滑らかさをもたらしているものと予測される。
【0018】
基材と化学結合して表面にホスホリルコリン基を固定化する反応性基としてはホスホリルコリン基と結合するものであれば、特に限定されるものではないが、ホスホリルコリン基との合成のしやすさからアミド結合を構造中に形成することが好ましい。また、反応性基としてシラン基が好ましいのはカップリング反応によってホスホリルコリン化合物同士を連結して構造を強固にすることになるためであり、また他の反応性基に比べて安定性がよいこともある。反応性基としては、アルコキシシラン基、ハロゲン化シラン基、シラノール基、アルコキシチタン基、アルコキシアルミニウム基、アルコキシジルコニウム基、カルボキシル基、無水カルボン酸基、アミノ基、ヒドロキシル基、グリシジル基、メルカプト基、イソシアネート基、エチレン性不飽和二重結合(ビニル基、アクリロキシ基、アクリルアミド基など)、エステル結合を含む。
金属アルコキシドとしては、チタンテトラブトキシド、ジルコニウムテトラプロポキシド、アルミニウムブトキシド、トリメチルボラート等が例示できる。またシラン化合物としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、テトラメチルシリケート、テトラエチルシリケート、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシジルプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシラン、n−オクチルトリエトキシシラン、エチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、ヘキサメチルジシラザン、テトラメチルジシラザン、ジフェニルテトラメチルジシラザンなどを用いることで親水性を付与することも可能である。
【0019】
また、本発明の防曇性組成物中には金属アルコキシド,シラン化合物から選ばれたカップリング剤を混合することが必要である。金属アルコキシドとしては上記化4の化学式で示されるテトラアルコキシシランが好ましい。
ホスホリルコリン化合物と金属アルコキシド,シラン化合物から選ばれたカップリング剤を混合、分散化して防曇性組成物にする理由は、金属アルコキシド,シラン化合物から選ばれたカップリング剤を下地層としてホスホリルコリン化合物を塗布するよりもホスホリルコリン化合物が下地層中とその層表面の両方に化学修飾できるためである。そのため基材表面におけるホスホリルコリン基の修飾比率が向上されるために、より高い防曇性効果が得られると考えられる。
金属アルコキシド,シラン化合物から選ばれたカップリング剤は基材とホスホリルコリン化合物の間で一種の下地剤として機能し(ホスホリルコリン化合物が直接基材に結合している場合もある)、基材側の官能基とカップリングするとともに、自身の有機官能基とホスホリルコリン化合物との間でもカップリングをするため、より多くのホスホリルコリン化合物を固定することができる。下地剤とされる金属アルコキシド,シラン化合物から選ばれたカップリング剤のアルコキド基としては、メトキシ基よりもエトキシ基がより好ましい。エトキシ基は常温中での反応速度がメトキシ基よりも速くないため、ホスホリルコリン化合物とカップリングする機会が多くなることからメトキシ基の場合と比較するとホスホリルコリン化合物とカップリングする分子が多くなるというメリットがある。
【0020】
通常親水性表面は、水の表面張力を小さくするために表面エネルギーが大きくなる官能基、例えば水酸基、アミノ基、チオール基などによって形成されている。そのため表面における吸着エネルギーが高くなり表面が滑りにくい、つまり摩擦係数が大きくなってしまう。
一般に摩擦係数が大きい表面は、滑り性が低いために付着した汚れを取り除くための布やティッシュペーバーを用いた拭き取りが困難である。眼鏡やカメラなどの光学レンズでは人が触ったり屋外に固定したりして使用するため汚れが付着しやすい環境にある。そのため、光学レンズには付着した汚れを容易に除去できる表面が求められる。つまり拭き取りが行いやすい摩擦係数の小さなレンズ表面の方が利便性の高い表面と考えられる。
本発明によれば、親水性官能基としてホスホリルコリン分子由来のカチオンとアニオンの両方を備えた両性イオンであることから極めて高い親水性と表面のすべり性をもたらしている。親水性表面にすべり性をもたらすことで、表面に吸着した汚れを拭き取ることが可能となる。さらに親水性の長鎖ポリマーを部分的に表面修飾することで表面の親水性を阻害することなく付着した汚れの吸着し難くする。さらに長鎖ポリマーであるために表面における分子の自由度を高めるために拭き取り性を向上する効果が得られると予測される。
【0021】
吸水性の親水膜において防曇効果を得る曇り防止レンズにおいては膜厚が吸水量に比例することから5〜20μmと厚くすることで十分な曇り防止機能得ていた。しかし反射防止膜上に形成することができないため透過率及び表面硬度が低下してしまい、光学レンズに必要な光学特性と耐擦傷性能を得ることができなかった。
一方、界面活性剤を塗布する曇り防止レンズでは、反射防止膜上に水膜を作らせるための界面活性剤を塗布するためにレンズの光学特性と下地の有する表面硬度を得ることできたが、曇り防止機能は界面活性剤のメンテナンス状態、つまり界面活性剤の塗布量や拭き取り状態に影響を受けるため、持続性が十分でなかった。
本発明によれば、100nm以下の膜厚において形成できるために反射防止膜上に形成でき、また下地の硬度に依存した表面硬度を得ることができた。さらに水の表面張力小さくする界面活性効果となる官能基が表面に化学結合によって固定化されているために塗布状態や拭き取りの影響も受けない。
【0022】
基材としては無機ガラス及びプラスチックに適用可能である。無機ガラスとしてはSiO2を主成分とするものが使用出来る。また、プラスチックとしては例えばアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、エピスルフィド樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂ポリ4−メチルペンテン−1樹脂、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂等が挙げられる。
【0023】
基材の酸化物表面とは素材自体が酸化物を含有している場合及び基材の表面に形成された所定の酸化物被膜の表面のいずれをも意味する。つまり直接無機ガラスのような素材自体に成膜させてもプラスチック上の酸化物被膜に成膜させてもよい。
所定の酸化物被膜とは例えばハードコート膜、反射防止膜等が挙げられる。
ハードコート膜はコート用のハードコート液を塗布(手塗り、ディッピング法、スピンコート法)し、その後公知の方法にて溶媒を蒸発させて形成される。
ハードコート膜は、特にオルガノシロキサン系樹脂と無機酸化物微粒子から構成されることが好ましい。そのためのハードコート液は水又はアルコール系の溶媒にオルガノシロキサン系樹脂と無機酸化物微粒子ゾルを分散(混合)させて調整される。
オルガノシロキサン系樹脂はアルコキシシランを加水分解し縮合させて得られるものが好ましい。
【0024】
無機酸化物微粒子の具体的な例としては、酸化亜鉛、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化ベリリウム、酸化アンチモン、酸化タングステン、酸化セリウム等が挙げられ、各ゾルを単独で又は2種以上を混晶化して使用することが可能である。
【0025】
反射防止膜は公知の蒸着法やイオンスパッタリング法等により形成される。反射防止膜はプラスチックレンズではハードコート膜の上層に成膜される。反射防止層は、光学理論に基づいた多層構造膜が採用される。膜材料としては、SiO、SiO2、Al23、Y23、Yb23、CeO2、ZrO2、Ta25、TiO2、など一般的な無機酸化物を使用することができる。
反射防止膜は特性の異なるこれらを材料とした薄膜を周知の手段(例えば蒸着)により定石に従って順に低屈折率層と高屈折率層を蒸着して形成される。最上層には低屈折率層が配置される。
【0026】
本発明について、実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1
A[基材]
キシリレンジイソシアナート44重量部、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)56重量部の100重量部を室温で均一溶液とした。次にこの液をレンズ用モールドに注入し、脱気後に引続きオーブン中で20℃から120まで22時間をかけてゆっくりと重合硬化させ、屈折率1.6、アッベ数32の光学特性を有する度数0.00のフラットレンズを形成した。
以下、基材については各実施例及び比較例とも同様である。
B.ハードコート膜の形成(一層目)
反応容器中に、エタノール206g、メタノール分散チタニア系ゾル300g(触媒化成工業(株)製 固形分30%)、γ―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン150g、を加え、その混合液中に0.01Nの塩酸水溶液を滴下、攪拌して加水分解を行った。次にフロー調整剤0.5g(L−7604:日本ユニカ社(株)製)および触媒1.0gを加え、室温で3時間攪拌してハードコート液を形成した。このハードコート液をディッピング法で塗布し、風乾後、110℃で二時間加熱して硬化させ、膜厚2.0μmのハードコート膜を形成した。
以下、ハードコート膜については各実施例及び比較例とも同様である。
【0027】
C.反射防止膜(多層膜)の形成(二層目)
上記のハードコート膜が形成されたレンズを真空槽内にセットし、真空蒸着法によって、基板温度60℃で反射防止膜の形成を行った。膜の構成は、光学膜厚で下から二酸化珪素層がλ/4、酸化ジルコニウム層0.5λ/4、二酸化珪素層0.2λ/4、酸化ジルコニウム層がλ/4、最上層の二酸化珪素層がλ/4の5層膜とした。ここで、λは500nmに設定した。
以下、反射防止膜については各実施例及び比較例とも同様である。
D.防曇膜の形成(三層目)
反応容器中に下記化学式で示されるリン酸側の主鎖の末端にトリエトキシシランを有するホスホリルコリン化合物0.5重量%、テトラエトキシシラン0.5重量%をメタノールで希釈して(つまり、メタノール99.0重量%)防曇膜用の溶液を調整した。この溶液内に反射防止膜が形成された上記レンズを180秒浸漬し、毎分200mmの速度で引き上げ、湿度80%、温度60度の雰囲気中で1時間かけて乾燥させた。
【0028】
[評価結果]
結果を表1にまとめた。また、視感度透過率については表2に耐擦傷性については表3に示す。
【0029】
【化5】

【0030】
実施例2
A.〜C.省略
D.防曇膜の形成(三層目)
実施例2では、ポリエチレングリコール(以下、PEG)の末端にトリエトキシシランを有するPEG化合物を調製した。反応容器中に実施例1と同じホスホリルコリン化合物を0.5重量%、テトラエトキシシラン0.4重量%、新たに調製したPEG化合物0.1重量%をメタノールで希釈して(つまり、メタノール99.0重量%)防曇膜用の溶液を調整した。この溶液内に反射防止膜が形成された上記レンズを180秒浸漬し、毎分200mmの速度で引き上げ、湿度80%、温度60度の雰囲気中で1時間かけて乾燥させた。
尚、上記PEG化合物はPEGと3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン(IPTEOS)を所定の溶媒中で所定の触媒を介在させ室温で所定時間静置させて生成した。
[評価結果]
結果を表1にまとめた。
【0031】
実施例3
A.〜C.省略
D.防曇膜の形成(三層目)
反応容器中に実施例1と同じホスホリルコリン化合物を0.25重量%、テトラエトキシシラン0.5重量%、実施例2と同じPEG化合物0.25重量%をメタノールで希釈して(つまり、メタノール99.0重量%)防曇膜用の溶液を調整した。この溶液内に反射防止膜が形成された上記レンズを180秒浸漬し、毎分200mmの速度で引き上げ、湿度80%、温度60度の雰囲気中で1時間かけて乾燥させた。その後基材をメタノールで拭き上げを行い評価に使用した。
[評価結果]
結果を表1にまとめた。
【0032】
実施例4
A.〜C.省略
D.防曇膜の形成(三層目)
反応容器中に実施例1と同じホスホリルコリン化合物を0.5重量%、テトラメトキシシラン0.5重量%をメタノールで希釈して(つまり、メタノール99.0重量%)防曇膜用の溶液を調整した。この溶液内に反射防止膜が形成された上記レンズを180秒浸漬し、毎分200mmの速度で引き上げ、湿度80%、温度60度の雰囲気中で1時間かけて乾燥させた。その後基材をメタノールで拭き上げを行い評価に使用した。
[評価結果]
結果を表1にまとめた。
【0033】
実施例5
A.〜C.省略
D.防曇膜の形成(三層目)
反応容器中に実施例1と同じホスホリルコリン化合物を0.4重量%、テトラエトキシシラン0.5重量%、基材と化学結合する反応性基を有するポリシロキサン化合物0.01重量%をメタノールで希釈して(つまり、メタノール99.09重量%)防曇膜用の溶液を調整した。この溶液内に反射防止膜が形成された上記レンズを180秒浸漬し、毎分200mmの速度で引き上げ、湿度80%、温度60度の雰囲気中で1時間かけて乾燥させた。その後基材をメタノールで拭き上げを行い評価に使用した。
[評価結果]
結果を表1にまとめた。
【0034】
実施例6
A.〜C.省略
D.防曇膜の形成(三層目)
反応容器中に実施例1と同じホスホリルコリン化合物を0.5重量%、3−グリシドキプロピルトリエトキシシラン0.5重量%をメタノールで希釈して(つまり、メタノール99.0重量%)防曇膜用の溶液を調整した。この溶液内に反射防止膜が形成された上記レンズを180秒浸漬し、毎分200mmの速度で引き上げ、湿度80%、温度60度の雰囲気中で1時間かけて乾燥させた。その後基材をメタノールで拭き上げを行い評価に使用した。
[評価結果]
結果を表1にまとめた。
【0035】
実施例7
A.〜C.省略
D.防曇膜の形成(三層目)
反応容器中に実施例1と同じホスホリルコリン化合物を0.5重量%、n−オクチルトリエトキシシラン0.5重量%をメタノールで希釈して(つまり、メタノール99.0重量%)防曇膜用の溶液を調整した。この溶液内に反射防止膜が形成された上記レンズを180秒浸漬し、毎分200mmの速度で引き上げ、湿度80%、温度60度の雰囲気中で1時間かけて乾燥させた。その後基材をメタノールで拭き上げを行い評価に使用した。
[評価結果]
結果を表1にまとめた。
【0036】
比較例1
A.〜C.省略
D.防曇膜の形成(三層目)
反応容器中に実施例1と同じホスホリルコリン化合物0.5重量%をメタノールで希釈して(つまり、メタノール99.5重量%)防曇膜用の溶液を調整した。この溶液内に反射防止膜が形成された上記レンズを180秒浸漬し、毎分200mmの速度で引き上げ、湿度80%、温度60度の雰囲気中で1時間かけて乾燥させた。その後基材をメタノールで拭き上げを行い評価に使用した。
【0037】
比較例2
A.〜C.省略
D.防曇膜の形成(三層目)
反応容器中に実施例2と同じPEG化合物0.5重量%をメタノールで希釈して(つまり、メタノール99.5重量%)防曇膜用の溶液を調整した。この溶液内に反射防止膜が形成された上記レンズを180秒浸漬し、毎分200mmの速度で引き上げ、湿度80%、温度60度の雰囲気中で1時間かけて乾燥させた。その後基材をメタノールで拭き上げを行い評価に使用した。
[評価結果]
結果を表1にまとめた。
【0038】
比較例3
A.〜C.省略
D.防曇膜の形成(三層目)
比較例3では、ホスホリルコリン化合物の代わりにアミノエタノールの末端にトリエトキシシランを有するアミノエタノール化合物を調製した。反応容器中にこのアミノエタノール化合物0.5重量%をメタノールで希釈して(つまり、メタノール99.5重量%)防曇膜用の溶液を調整した。この溶液内に反射防止膜が形成された上記レンズを180秒浸漬し、毎分200mmの速度で引き上げ、湿度80%、温度60度の雰囲気中で1時間かけて乾燥させた。その後基材をメタノールで拭き上げを行い評価に使用した。
尚、上記アミノエタノール化合物はアミノエタノールとIPTEOSを所定の溶媒中で所定の触媒を介在させ室温で所定時間静置させて生成した。
[評価結果]
結果を表1にまとめた。
【0039】
比較例4
A.〜C.省略
D.防曇膜の形成(三層目)
反応容器中にホスホリルコリン化合物の代わりに実施例5と同じポリシロキサン化合物0.5重量%、テトラメトキシシラン0.5重量%をメタノールで希釈して(つまり、メタノール99.0重量%)防曇膜用の溶液を調整した。この溶液内に反射防止膜が形成された上記レンズを180秒浸漬し、毎分200mmの速度で引き上げ、湿度80%、温度60度の雰囲気中で1時間かけて乾燥させた。その後基材をメタノールで拭き上げを行い評価に使用した。
[評価結果]
結果を表1にまとめた。
【0040】
比較例5
A.〜C.省略
D.防曇膜の形成(三層目)
反応容器中にホスホリルコリン化合物の代わりに実施例2と同じPEG化合物0.5重量%、テトラメトキシシラン0.5重量%をメタノールで希釈して(つまり、メタノール99.0重量%)防曇膜用の溶液を調整した。この溶液内に反射防止膜が形成された上記レンズを180秒浸漬し、毎分200mmの速度で引き上げ、湿度80%、温度60度の雰囲気中で1時間かけて乾燥させた。その後基材をメタノールで拭き上げを行い評価に使用した。
[評価結果]
結果を表1にまとめた。
【0041】
比較例6
A.〜C.省略
D.防曇膜の形成(三層目)
反応容器中に比較例3と同じアミノエタノール化合物0.5重量%、テトラエトキシシラン0.5重量%をメタノールで希釈して(つまり、メタノール99.0重量%)防曇膜用の溶液を調整した。この溶液内に反射防止膜が形成された上記レンズを180秒浸漬し、毎分200mmの速度で引き上げ、湿度80%、温度60度の雰囲気中で1時間かけて乾燥させた。その後基材をメタノールで拭き上げを行い評価に使用した。
[評価結果]
結果を表1にまとめた。
【0042】
比較例7
A.〜C.省略
D.防曇膜の形成(三層目)
反応容器中に実施例1と同じホスホリルコリン化合物を0.4重量%、比較例3と同じアミノエタノール化合物0.1重量%、テトラエトキシシラン0.5重量%をメタノールで希釈して(つまり、メタノール99.0重量%)防曇膜用の溶液を調整した。この溶液内に反射防止膜が形成された上記レンズを180秒浸漬し、毎分200mmの速度で引き上げ、湿度80%、温度60度の雰囲気中で1時間かけて乾燥させた。その後基材をメタノールで拭き上げを行い評価に使用した。
[評価結果]
結果を表1にまとめた。
【0043】
比較例8
A.〜C.省略
比較例8は防曇膜が形成されている場合の視感度透過率を確認するために防曇膜を形成せずに基材から反射防止膜までを実施例1〜7と同じ構成とした試料である。比較例8の視感度透過率は表2に示す。
【0044】
比較例9
A.〜C.省略
比較例9は撥水性表面が形成された試料である。基材から反射防止膜までは実施例1〜8と同じ構成になっている。比較例9の耐擦傷性について表3に示す。
【0045】
性能評価方法について
(a)防曇性
防曇膜を形成した後、呼気による曇り具合を目視し、以下の基準で評価を行った。
判定基準
◎: 曇りを感じない
○: 一瞬歪みを感じるが、視界は良好である
△: 曇るが、視界が10秒以内に回復する
×: 曇りが10秒以上視界を妨げる
(b)拭き取り性
レンズ表面に指を押しつけて指紋を付着させた後、ティッシュペーパーで指紋を拭き取り、以下の基準で評価を行った。
◎: 潤滑な滑りを有し、拭き取りも良好
○: 汚れが拭き取れ、滑る
△: 汚れを拭き取れるが、滑りにくい
×: 汚れが拭き取れにくく、滑らない
【0046】
(c)純水の接触角
測定器として協和界面科学社製 FACE CA−D型接触角測定装置を用いて23℃、湿度60%RH条件下にて行った。注射筒(注射針の直径約0.7mm)を使用して5mgの重さの純水の液滴を作った。サンプル台を上昇させてレンズ表面の中央部に該液滴を触れさせ、レンズ表面に純水の液滴を移し、30秒以内に接触角を測定した。
(d)動摩擦係数
測定器として新東科学社製の表面性測定機(HEIDON−14D)を用いて26℃、湿度50%RH条件下において行った。擦傷物として不織布 リブドゥコーポレーション TRISEPTAIII リヨセル100%を使用して荷重200gにて毎分100mmの速度において擦ったときの動摩擦係数を測定した。
(e)防曇耐久性
基材表面に湿らせた人工皮革を使用して荷重500gにて毎秒10mmの速度において1000回擦った後の接触角について測定を行った。測定方法は(c)純水の接触角に準じて行った。
(f)視感度透過率
測定器として日立社製のU−4100紫外可視分光光度計を用いて波長領域350〜800nm、プロット間隔1nmで透過率を測定した。
(g)耐擦傷性
基材表面にスチールウール(ボンスター社製 #000)を使用して荷重500gにて毎秒10mmの速度において100回擦った後の表面に傷が入った本数を蛍光灯下にて目視検査した。
【0047】
評価結果によれば、実施例1〜7ではいずれも防曇性能が比較例よりも高い結果が得られた。比較例も親水性のある物質であるが、接触角が示すように実施例1〜7では極めて接触角が小さく濡れ性が高いため、このように優れた防曇性能を示すものと考えられる。またテトラエトキシランのアルコキシの一つをグリシドキシプロピル基に置換した実施例6では実施例1と比較して接触角と防曇性への違いが小さいことから、ホスホリルコリン基の化学結合性への影響は小さいと考えられる。テトラアルコキシシランの添加によりホスホリルコリンの表面修飾量が増えて防曇性が向上することが実施例1と比較例1より示されている。テトラアルコキシシランである4官能のシラン化合物から3官能のシラン化合物にするとホスホリルコリンの表面修飾量が減少するため防曇性が低下すると考えられた。しかし実施例6より、その防曇性への影響は小さかった。
理由は、ホスホリルコリン分子(MW:約400g)とシラン化合物(約200g)の分子比率を比べたとき同重量添加した場合、シラン分子の方がおよそ2倍程度多い濃度のため官能基数が4官能から3官能に減少してもホスホリルコリン分子との反応性には影響を与えなかったためと考えられる。
テトラエトキシシランを混合した調整溶液を使用した実施例1、同じくテトラメトキシシランを混合した調整溶液を使用した実施例4ではいずれも使用しない場合に比べて接触角がかなり小さくなり、濡れ性が大きく向上したことがわかる。特にテトラエトキシシランを使用した実施例1ではテトラメトキシシランを使用した実施例4よりも更に接触角は小さい。これはホスホリルコリン化合物が比較例1<実施例4<実施例1=実施例6の順で多くなっていることによるものと考えられる。
【0048】
また、拭き取り性について比較例1はホスホリルコリン化合物のみから形成された表面の動摩擦係数が0.25であり若干滑りにくさもあるが、実施例1(動摩擦係数0.19)及び実施例4(動摩擦係数0.19)はテトラエトキシランと混合したためホスホリルコリン化合物の被覆量が多くなり良好である。さらに実施例3(動摩擦係数0.17)及び実施例7(動摩擦係数0.17)における親水性ポリマーを混合して処理することにより、動摩擦係数はさらに小さくなり拭き取り性が向上した。一方拭き取り性が低い状態として、比較例3(動摩擦係数0.75)及び比較例6(動摩擦係数0.54)は、親水性分子で被覆しているが滑り性が低いために拭き取り性も低下している。さらに比較例7(動摩擦係数0.50)において親水性分子とホスホリルコリンを混合して表面に被覆して滑り性を向上させたが、拭き取り性は良好にならなかった。これらの結果から動摩擦係数0.50未満において拭き取り性があると考えられ、さらに好ましくは動摩擦係数0.20未満において拭き取り性が良好な表面が得られていると考えられる。
実施例1〜7の防曇膜を形成した場合における防曇膜のない比較例8と比較した視感度透過率はほとんど変わらず、光学物品としてレンズに使用してもその光学特性を損なうことはないといえる。
【0049】
尚、前提条件としての各実施例の防曇膜の反射膜上への定着状態は水洗を繰り返しても剥落しないことで安定的に定着していることが確認済みである。
視感度透過率は、視力矯正用の道具として眼鏡用レンズに適した透過率性能を有していることを評価するために行った。人間は380〜780nmの波長の光を感じることができ、人の目に対する光の感度は波長によって異なる。光の感度は明るい所での場合555nmの波長を最も明るく感じることが知られており、その感度と波長の分布を表わす標準比視感度曲線が得られている。つまり視感度透過率は、レンズの透過率スペクトルとこの標準比視感度曲線から求められる。人が感じる光量である視感度透過率が高いほど裸眼に近い透過像を見ることができる。実施例1と比較例8の透過率スペクトルを比較したところ視感度透過率がそれぞれ95.0%と95.7%と得られ、防曇膜形成の前後においてほとんど差が見られない。よって防曇膜の成膜前後において眼鏡レンズの明視性に影響が無いといえる。
【0050】
耐擦傷性は、眼鏡レンズに必要な表面硬度を評価するために行った。眼鏡用のレンズは汗や皮脂などの汚れが付きやすくそれを拭き取るために布などで拭き上げる。その時レンズ表面にキズが付くなどして、その視野を阻害してはならない。そのため眼鏡レンズの表面がキズ付き難いことを評価するためスチールウールにおいて500g荷重において100回擦傷した後の目視検査にてキズの付いた本数を観察した。今回の防曇膜表面は通常の眼鏡レンズと比較しても、十分な表面硬度を有しており眼鏡レンズに適応すると判断できる。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の酸化物表面にホスホリルコリン基と基材を化学結合するシラン反応性基を有する親水性物質と、金属アルコキシド,シラン化合物から選ばれたカップリング剤を混合した組成物を主成分とする動摩擦係数が0.5未満の低摩擦性の防曇膜を形成させたことを特徴とする防曇性レンズ。
【請求項2】
前記親水性分子は、下記化学式で示される化合物であることを特徴とする請求項1に記載の防曇性レンズ。
【化1】

【請求項3】
前記親水性分子は、下記化学式で示されるホスホリルコリン基及びシラン反応性基を高分子側鎖に有する化合物であることを特徴とする請求項1に記載の防曇性レンズ。
【化2】

【請求項4】
前記シラン化合物は下記化学式で示される化合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の防曇性レンズ。
【化3】

【請求項5】
前記金属アルコキシドは下記化学式で示されるテトラアルコキシシランであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の防曇性レンズ。
【化4】

【請求項6】
上記請求項5の化学式で示されるテトラアルコキシシランはテトラエトキシシランであることを特徴とする請求項5に記載の防曇性レンズ。
【請求項7】
化学結合基を有する親水性ポリマーを含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の防曇性レンズ。
【請求項8】
前記親水性ポリマーは、ポリエチレングリコールもしくはポリシロキサンを成分として含有することを特徴とする請求項7に記載の防曇性レンズ。

【公開番号】特開2011−257570(P2011−257570A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−131588(P2010−131588)
【出願日】平成22年6月9日(2010.6.9)
【出願人】(000219738)東海光学株式会社 (112)
【出願人】(000001959)株式会社 資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】