説明

防曇性熱可塑性樹脂物品の製造方法及びそれで製造された物品

防曇性熱可塑性樹脂物品の製造方法は、防曇性を与えるのに十分な水性環境に暴露することで熱可塑性樹脂物品のコンディショニングを行うことを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書には、防曇性コーティングを使用することなく、防曇性熱可塑性樹脂物品、さらに具体的には芳香族熱可塑性樹脂物品を製造するための方法が記載される。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリカーボネート系組成物をはじめとする芳香族熱可塑性ポリマーは、透明性、耐熱性及び機械的強度に関する優れた性質を有することで知られている。熱可塑性ポリマーから製造した物品の表面の曇りは、保護めがね/レンズ又は温室パネルのような多くの最終用途にとって問題を生じる。これらの場合、凝縮した水滴が表面上に形成されて透明度を低下させる。
【0003】
ポリカーボネート又は他の熱可塑性樹脂物品の表面上の曇りを低減又は排除するため、防曇性コーティングが開発されてきた。しかし、防曇性コーティングは物品の表面上に施工しなければならないので、その使用は成形したままの物品に防曇特性がある場合よりも不便であると共に高価である。
【0004】
ある種の熱可塑性樹脂に対する防曇添加剤の使用は公知であり、例えば、ポリエチレン及びポリ(塩化ビニル)用の防曇添加剤が知られている。これらの添加剤には、ソルビタンエステル、エトキシル化ソルビタンエステル、ポリオールエステル及びグリセロールエステルがある。ポリエチレン及びポリ(塩化ビニル)材料中に存在するこれらの添加剤は、かかる材料から製造される物品に防曇性を付与する。かかる添加剤は、防曇性コーティングの排除を可能にする。これらの添加剤は表面活性を有しており、ポリエチレン及びポリ(塩化ビニル)に防曇性を付与することが知られているが、ポリカーボネート及び他の芳香族熱可塑性ポリマーには不適当である。これらの添加剤は低い熱安定性又は樹脂との不相溶性を有しており、それが芳香族熱可塑性ポリマー(特にポリカーボネート)用の有効な防曇添加剤となることを妨げる。
【0005】
したがって、ポリカーボネート及び他の芳香族熱可塑性ポリマー用の防曇コーティングは存在するものの、防曇コーティングの使用なしにかかるポリマーを防曇性にするための防曇添加剤及び/又は方法に対するニーズは今なお存在している。
【特許文献1】欧州特許出願公開第1000969号明細書
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施形態では、防曇性熱可塑性樹脂物品の製造方法であって、芳香族熱可塑性ポリマー物品を防曇性芳香族熱可塑性ポリマー物品にするのに十分な水性環境に暴露することを含んでなり、防曇性芳香族熱可塑性ポリマー物品が暴露前の芳香族熱可塑性ポリマー物品に比べて高い防曇性を有する方法が提供される。
【0007】
別の実施形態では、防曇性熱可塑性樹脂物品の製造方法であって、芳香族熱可塑性ポリマー及びイオン性又は非イオン性防曇添加剤をブレンドしてブレンドを形成し、ブレンドを成形して熱可塑性樹脂物品を製造し、熱可塑性樹脂物品を、暴露前の熱可塑性樹脂物品に比べて防曇性の増加を示す防曇性熱可塑性樹脂物品を与えるのに十分な水性環境に暴露することを含んでなる方法が提供される。
【0008】
さらに別の実施形態では、防曇性熱可塑性樹脂物品の製造方法であって、熱可塑性樹脂物品を防曇性熱可塑性樹脂物品にするのに十分な水性環境に暴露することを含んでなり、防曇性熱可塑性樹脂物品が暴露前の熱可塑性樹脂物品に比べて高い防曇性を有し、熱可塑性樹脂物品がポリカーボネート、芳香族ポリカーボネート、(コ)ポリエステルカーボネート、芳香族(コ)ポリエステルカーボネート、これらのブレンド、又はこれらのポリマーの1種以上を含む組合せとイオン性又は非イオン性防曇添加剤とを含む組成物からなる方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
意外にも、芳香族熱可塑性ポリマーと防曇添加剤(イオン性又は非イオン性)とのブレンドから製造した芳香族熱可塑性樹脂物品はコンディショニング段階による活性化後に防曇性表面を得ることが見出された。かかるコンディショニング段階は、物品の表面を、物品に防曇性を付与するのに十分な水性環境に暴露することを含む。理論によって束縛されることは望まないが、コンディショニングは防曇添加剤の親水性部分を水性環境に応答して物品の表面に向けさせることで、添加剤の配向状態を添加剤の防曇性(親水性)部分が最も外側の表面に位置するように転換させるものと考えられる。添加剤の配向状態は表面を乾燥させれば逆転し得るものの、続いて(曇り発生条件を含む)水性環境に暴露することは親水性部分を再び最も外側の表面に向けさせるのであり、これが起こるための時間はコンディショニング段階での所要時間より短いと考えられる。したがって、コンディショニング後には、コンディショニング前には防曇性でなかった材料が防曇性になる。
【0010】
「防曇性の増加」とは、本明細書中に記載するようなコンディショニング段階に暴露した物品が、コンディショニング段階前の物品に比べ、曇り発生条件下で物品表面に目に見える曇りを示すまでに長い時間を要することを意味する。水性環境への暴露によるコンディショニングは、コンディショニング前の物品より高い防曇性を物品に付与する。
【0011】
物品の表面は、コンディショニングを施さない物品に比べて防曇性の増加をもたらすのに有効な水性環境に暴露される。防曇性が損なわれない限り、物品に増加した防曇性を付与する水性環境に物品の表面を暴露するための任意の手段が使用できる。過剰の水への暴露は、防曇添加剤を洗い流し、それに伴って防曇性の低下をもたらすことがある。したがって、水性環境への暴露は、所望の防曇性増加をもたらすように制御することが好ましい。水性環境への暴露の非限定的な例には、水蒸気への物品の暴露、スチームへの暴露、水性液体中への浸漬、水性液体の吹付け又は噴霧などがある。任意には、コンディショニング段階はさらに、水性環境への暴露後に物品を乾燥することを含む。
【0012】
好ましくは、水性環境は脱イオン及び/又は精製水をはじめとする水であり、或いは任意には溶剤と水の混和性ブレンドである。後者の場合、溶剤は物品の防曇性又は他の望ましい性質(例えば、透明性)に有害な影響を及ぼさないものとする。水と混和し得る好適な溶剤には、例えば、C〜Cアルキルアルコールなどがある。好ましくは、水性環境は液体の水又は水蒸気である。好ましい水には、Millipore社から入手できるMilli−Q(登録商標)脱イオン精製水がある。
【0013】
熱可塑性ポリマー物品は、一般に、防曇性の増加をもたらすのに有効な任意の時間にわたって水性環境に暴露される。水性環境への好適な暴露時間は、例えば、約1分ないし約48時間、好ましくは約5分ないし約24時間、さらに好ましくは約20分ないし約12時間、さらに一段と好ましくは約45分ないし約2時間である。
【0014】
本明細書中に開示されるすべての範囲は、包含的であると共に結合可能である。
【0015】
「ハロ」又は「ハロゲン」という用語は、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素を意味する。
【0016】
「アルキル」という用語は、直鎖、枝分れ又は環状アルキル基を意味する。
【0017】
「ハロアルキル」という用語は、過ハロゲン化置換に達するまで利用可能な水素原子を置換する1以上のハロゲン原子を含む、前述のようなアルキル基を意味する。
【0018】
数量と共に使用される「約」という用語は、その量が特定の実施形態に応じて変わり得ること、及び当業者は最適量を見出すために何らかの限られた実験を行うことが必要な場合があることを意味する。
【0019】
コンディショニング後に防曇性物品を与えるのに適した防曇添加剤は、防曇性を付与するための特性バランスを示すイオン性及び非イオン性防曇添加剤の両方を含む。好適な防曇添加剤は、好ましくは熱可塑性ポリマー(特に芳香族熱可塑性ポリマー)の加工温度に対して熱安定性を有する。かかる添加剤は、望ましくは、物品の表面に移動して防曇性を付与する能力を有する。添加剤中に存在する疎水基(例えば、長鎖アルキル又は過フッ素化アルキル)が多いほど、添加剤が物品の表面に移動する能力は増大することが知られている。添加剤は表面への移動を可能にする程度の疎水性を有する必要があるが、かかる添加剤は物品の表面に存在し得る水の表面張力を低下させるのに十分な親水性を有することも好ましい。表面張力の低下は、物品の表面での防曇性を可能にする。疎水性と親水性とのバランスはまた、添加剤の親水性部分が物品の表面に向かうように配置させることも可能にすべきである。
【0020】
帯電防止添加剤をはじめとする公知の表面探求添加剤である特定の化合物は、上述の適正な特性バランスを有することで防曇添加剤としても好適であり得る。すべての帯電防止化合物が本明細書中に記載するような防曇添加剤として機能し得るわけではない。これは、かかる化合物が過度の疎水性を有することがあり、物品の表面での水の表面張力を十分に低下させることができないからである。
【0021】
帯電防止化合物又は任意の他の化合物が本明細書中に記載するような防曇添加剤として機能し得るかどうかを迅速かつ容易に判定するための簡便な方法を開発した。最初に、化合物は熱可塑性樹脂物品の表面上でのコーティングとして試験できる。化合物が曇り発生条件下でコーティングとして良好な防曇性を与えるならば、それが熱可塑性ポリマーへの添加剤として防曇性を与え得るかどうかを判定するためさらに試験を行う。化合物をコーティングとして試験することは、配合熱可塑性ポリマーブレンドの複数の試料を調製し、次いでこれらの試料を試験片に成形する必要なしに、化合物が防曇添加剤としての能力を有するかどうかを判定するための迅速かつ容易な方法を提供する。
【0022】
好適なイオン性防曇添加剤には、例えばスルホン酸塩がある。例示的なスルホン酸塩は下記の式で表すことができる。
【0023】
【化1】

式中、Qは窒素又はリンを表し、リンが好ましく、RはC〜C40アルキル基、C〜C40ハロアルキル基、C〜C40アリール基、(C〜C12アリール)C〜C40アルキル基又は(C〜C40アルキル)C〜C12アリール基を表し、R、R、R及びRは各々独立に水素原子、C〜C20アルキル基、C〜C20ヒドロキシアルキル基及びC〜C12アリール基から選択される基を表す。ここで、アルキル基という用語は線状、枝分れ及び環状アルキル基を包含する。さらに、かかるアルキル基及びアリール基は、米国特許第6090907号(Saitoら)に記載されているような任意の基で置換できる。
【0024】
として存在し得るアルキル基の例には、例えば、ドデシル基、デシル基、ブチル基及びエチル基などがある。アリール基、(アルキル)アリール基又は(アリール)アルキル基の例には、ドデシルフェニル基、フェニル基、ベンジル基、フェニルエチル基、トリル基及びキシリル基などがある。Rは好ましくは(C〜C12アリール)C〜C40アルキル基であり、さらに好ましくは(Cアリール)C〜C18アルキル基であり、最も好ましくは(Cアリール)C〜C14アルキル基であり、硫黄はアリールに結合している。好適なスルホネートの非限定的な例には、トリフルオロメチルスルホネート、過フッ素化n−ブチルスルホネート、n−ヘプチルスルホネート、4−ドデシルベンゼンスルホネートなどがある。
【0025】
〜Rとして存在し得るアルキル基の例には、独立に、例えばメチル基、エチル基、プロピル基及びブチル基などのC〜C20アルキル基がある。アリール基、(アルキル)アリール基又は(アリール)アルキル基の例には、フェニル基、ベンジル基、フェネチル基、トリル基及びキシリル基などがある。ヒドロキシアルキル基の例には、ヒドロキシメチル、ヒドロキシエチル、ヒドロキシプロピルなどがある。好ましくは、R〜Rの1以上はC〜C20ヒドロキシアルキル基である。
【0026】
望ましいスルホン酸ホスホニウム塩の例には、テトラアルキルホスホニウム塩及びトリアルキル(ヒドロキシアルキル)ホスホニウム塩がある。その例には、ドデシルスルホン酸のテトラアルキルホスホニウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸のテトラアルキルホスホニウム塩、ヘプチルスルホン酸のテトラアルキルホスホニウム塩、これらの組合せなどがある。
【0027】
望ましいスルホン酸アンモニウム塩の例には、テトラアルキルアンモニウム塩及びトリアルキル(ヒドロキシアルキル)アンモニウム塩がある。その例には、トリフルオロメチルスルホン酸のテトラアルキルアンモニウム塩、ペルフルオロブチルスルホン酸のテトラアルキルアンモニウム塩、トリフルオロメチルスルホン酸のトリアルキル(ヒドロキシエチル)アンモニウム塩、ペルフルオロブチルスルホン酸のトリアルキル(ヒドロキシエチル)アンモニウム塩、これらの組合せなどがある。
【0028】
また、3M社が国際公開第WO01/49925号に開示しているようなビス(フルオロアルキルスルホニル)イミドからなる化合物もイオン性防曇添加剤として好適であることが想定されている。
【0029】
イオン性防曇添加剤は、組成物の全重量を基準にして約0.1〜約10重量%、好ましくは約0.5〜約8重量%、さらに好ましくは約1〜約7重量%、さらに一段と好ましくは約2〜約5重量%の量で組成物中に存在し得る。
【0030】
好適な非イオン性防曇添加剤には、ポリシロキサン−ポリエーテル(コ)ポリエーテル、特にポリカーボネートとの相溶性を有するものがある。一般に、かかるコポリマーはシロキサン主鎖に1以上のポリエーテル基が結合したものとして記述できる。ポリシロキサンは、水素、C〜Cアルキル(例えば、メチル、エチル、プロピルなど)、フェニル、ビニル及びC〜Cアルコキシ置換基の1以上で置換できる。ポリシロキサン主鎖は、水素、C〜Cアルキル、フェニル、ビニル又はC〜Cアルコキシ置換基を含む1以上の置換基を有するランダム又はブロックコポリマーであり得る。
【0031】
好適なポリシロキサン−ポリエーテルポリマーの非限定的な例には、メチル置換シロキサンのホモポリマー、フェニル置換シロキサンのホモポリマー、メチル及びフェニル置換シロキサンのランダムコポリマー、メチル及びフェニル置換シロキサンのブロックコポリマー、メチル及びフェニル置換シロキサンの枝分れポリマー、メチル及びフェニル置換シロキサンのスターポリマーなどがある。ポリエーテルは、ポリシロキサン主鎖の末端に結合するか、又はポリシロキサン上にグラフトすることができる。
【0032】
一実施形態では、ポリシロキサン−ポリエーテルは次の一般式を有する。
【0033】
【化2】

式中、nは約3〜約5000、好ましくは約3〜約100、さらに好ましくは約3〜約40であり、R10、R11、R12、R13、R14及びR15は各々独立に水素、C〜C20アルキル、C〜C12アリール、(C〜C20アルキル)C〜C12アリール、(C〜C12アリール)C〜C20アルキル、C〜C20アルコキシ又はポリエーテル基であり、R10、R11、R12、R13、R14及びR15の1以上はポリエーテル基である。nが1を超える場合、R10及びR11は各々独立に水素、C〜C20アルキル、C〜C12アリール、(C〜C20アルキル)C〜C12アリール、(C〜C12アリール)C〜C20アルキル、C〜C20アルコキシ及びポリエーテル基から選択される。R10〜R15の非限定的な例は、メチル、エチル、プロピル、ブチル、フェニル、2−フェニルプロピル、ビニル、メトキシ、エトキシ、プロポキシ又はポリエチレン/ポリオキシプロピレン基である。ポリエーテル基は、例えば、ポリエチレンオキシド又はポリプロピレンオキシド或いはこれらの組合せであり得ると共に、ヒドロキシル又はC〜C10アルキルで末端停止されたものであり得る。
【0034】
ポリシロキサン−ポリエーテル化合物は、ブロックコポリマー(即ち、R14及び/又はR15がポリエーテルである場合)又はグラフトコポリマー(即ち、R10、R11、R12及びR13のいずれか又はすべてがポリエーテルである場合)であり得る。
【0035】
ポリエーテルの分子量は、約100〜約10000グラム/モル(g/mol)、好ましくは約500〜約5000g/mol、さらに好ましくは約500〜約2500g/molであり得る。
【0036】
シロキサン主鎖は、一般に、メチル、フェニル、2−フェニルプロピル、水素及びアルコキシ基で置換されたランダム又はブロック(コ)ポリマーであり得る。
【0037】
非イオン性防曇添加剤は、組成物の全重量を基準にして約0.1〜約10重量%、好ましくは約0.5〜約8重量%、さらに好ましくは約2〜約7重量%、さらに一段と好ましくは約3〜約6重量%の量で組成物中に存在し得る。
【0038】
使用できる好適な芳香族熱可塑性ポリマーには、芳香族ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、芳香族ポリエステル、ポリフェニレンエーテル/スチレンブレンド、芳香族ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、これらのブレンド、又はこれらのポリマーの1種以上を含む組合せがある。好ましい芳香族熱可塑性ポリマーは芳香族ポリカーボネートである。
【0039】
ポリカーボネート物品は、芳香族ポリカーボネート、ポリエステル、(コ)ポリエステルカーボネート、芳香族ポリカーボネートのコポリマー、又はこれらのブレンド(他の熱可塑性樹脂とのブレンドを含む)を包含するポリカーボネートから製造できる。
【0040】
ポリカーボネートは、下記の式(III)の構造単位を有する組成物を含む。
【0041】
【化3】

式中、R’基の総数の約60%以上は芳香族有機基であり、その残部は脂肪族基又は脂環式基である。好ましくは、R’は芳香族有機基であり、さらに好ましくは下記の式(IV)の基である。
【0042】
【化4】

式中、A及びAの各々は単環式二価アリール基であり、YはAとAとを隔てる0、1つ又は2つの原子を有する橋かけ基である。例示的な実施形態では、1つの原子がAとAとを隔てている。この種の基の実例は、−O−、−S−、−S(O)−、−S(O)−、−C(O)−、メチレン、シクロヘキシルメチレン、2−[2.2.1]−ビシクロヘプチリデン、エチリデン、イソプロピリデン、ネオペンチリデン、シクロヘキシリデン、シクロペンタデシリデン、シクロドデシリデン、アダマンチリデンなどである。橋かけ基Yは、炭化水素基或いは飽和炭化水素基(例えばメチレン、シクロヘキシリデン又はイソプロピリデン)であり得る。別の実施形態では、AとAとを隔てている原子は存在せず、代わりに共有結合がAとAとを結合している。
【0043】
ポリカーボネートは、一般に、界面反応及び溶融重合をはじめとする公知方法で製造できる。例えば、ポリカーボネートは、ただ1つの原子がAとAとを隔てているジヒドロキシ化合物の界面反応で製造できる。本明細書中で使用する「ジヒドロキシ化合物」という用語は、例えば、次の一般式(V)のビスフェノール化合物を包含する。
【0044】
【化5】

式中、R及びRは各々独立に水素、ハロゲン原子(好ましくは臭素)又は一価炭化水素基を表し、p及びqは各々独立に0〜4の整数であり、Xは下記の式(VI)の基の1つを表す。
【0045】
【化6】

式中、R及びRは各々独立に水素原子又は一価線状若しくは環状炭化水素基を表し、Rは二価炭化水素基、酸素又は硫黄である。
【0046】
式(V)で表すことができる種類のビスフェノール化合物の例には、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタンや1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタンや2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(又はビスフェノールA)や2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパンや2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパンや2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタンや2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタンや1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンや1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−n−ブタンやビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタンや2,2−ビス(4−ヒドロキシ−1−メチルフェニル)プロパンや1,1−ビス(4−ヒドロキシ−t−ブチルフェニル)プロパンや2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−ブロモフェニル)プロパンや1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカンや4,4−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4−チオジフェノールや4,4−ジヒドロキシ−3,3−ジクロロジフェニルエーテルや4,4−ジヒドロキシ−2,5−ジヒドロキシジフェニルエーテルなどのビス(ヒドロキシアリール)アルカン系列、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタンや1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンや1,1−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンや1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロドデカンや1,1−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)シクロドデカンや1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンなどのビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン系列、又はこれらのビスフェノール化合物の1種以上を含む組合せがある。
【0047】
式(V)で表すことができるビスフェノール化合物の他の例には、Xが−O−、−S−、−S(O)−又は−S(O)−であるものがある。かかるビスフェノール化合物の例は、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテルや4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルフェニルエーテルなど、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィドや4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルフィドなどのビス(ヒドロキシジアリール)スルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシドや4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホキシドなどのビス(ヒドロキシジアリール)スルホキシド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホンや4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホンなどのビス(ヒドロキシジアリール)スルホン、又はこれらのビスフェノール化合物の1種以上を含む組合せである。
【0048】
ポリカーボネートの重縮合で使用できる他のジヒドロキシ化合物は、下記の式(VII)で表される。
【0049】
【化7】

式中、Rはハロゲン原子、1〜10の炭素原子を有する炭化水素基、又はハロゲン置換炭化水素基であり、nは0〜4の値である。ハロゲンは、好ましくは臭素である。nが2以上である場合、Rは同一のものでも相異なるものでもよい。式(VII)で表すことができる化合物の例は、レソルシノール、5−メチルレソルシノールや5−エチルレソルシノールや5−プロピルレソルシノールや5−ブチルレソルシノールや5−t−ブチルレソルシノールや5−フェニルレソルシノールや5−クミルレソルシノールや2,4,5,6−テトラフルオロレソルシノールや2,4,5,6−テトラブロモレソルシノールなどの置換レソルシノール化合物、カテコール、ヒドロキノン、2−メチルヒドロキノンや2−エチルヒドロキノンや2−プロピルヒドロキノンや2−ブチルヒドロキノンや2−t−ブチルヒドロキノンや2−フェニルヒドロキノンや2−クミルヒドロキノンや2,3,5,6−テトラメチルヒドロキノンや2,3,5,6−テトラ−t−ブチルヒドロキノンや2,3,5,6−テトラフルオロヒドロキノンや2,3,5,6−テトラブロモヒドロキノンなどの置換ヒドロキノン、又はこれらの化合物の1種以上を含む組合せである。
【0050】
下記の式(VIII)で表される2,2,2’,2’−テトラヒドロ−3,3,3’,3’−テトラメチル−1,1’−スピロビ−[1H−インデン]−6,6’−ジオールのようなビスフェノール化合物も、ジヒドロキシ化合物として使用できる。
【0051】
【化8】

典型的なカーボネート前駆体には、ハロゲン化カルボニル(例えば、塩化カルボニル(ホスゲン)及び臭化カルボニル)、ビス−ハロギ酸エステル(例えば、ビスフェノールAやヒドロキノンなどの二価フェノールのビス−ハロギ酸エステル、及びエチレングリコールやネオペンチルグリコールのようなグリコール類のビス−ハロギ酸エステル)、及びジフェノールカーボネートやジ(トリル)カーボネートやジ(ナフチル)カーボネートのようなジアリールカーボネートがある。界面反応用の好ましいカーボネート前駆体は塩化カルボニルである。
【0052】
枝分れポリカーボネート並びに線状ポリカーボネートと枝分れポリカーボネートのブレンドも使用できる。枝分れポリカーボネートは、重合時に枝分れ剤を添加することで製造できる。これらの枝分れ剤は、ヒドロキシル、カルボキシル、カルボン酸無水物、ハロホルミル、及び上述の枝分れ剤の1種以上を含む組合せであり得る3以上の官能基を含む多官能性有機化合物からなり得る。その具体例には、トリメリト酸、トリメリト酸無水物、トリメリト酸三塩化物、トリス−p−ヒドロキシフェニルエタン、イサチン−ビスフェノール、トリス−フェノールTC(1,3,5−トリス((p−ヒドロキシフェニル)イソプロピル)ベンゼン)、トリス−フェノールPA(4(4(1,1−ビス(p−ヒドロキシフェニル)エチル)−α,α−ジメチルベンジル)フェノール)、4−クロロホルミルフタル酸無水物、トリメシン酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸など、又はこれらの枝分れ剤の1種以上を含む組合せがある。枝分れ剤は、ポリカーボネートの全重量を基準にして約0.05〜約2.0重量%(wt%)のレベルで添加できる。枝分れ剤及び枝分れポリカーボネートの製造方法は、米国特許第3635895号及び同第4001184号に記載されている。
【0053】
あらゆる種類のポリカーボネート末端基が、ポリカーボネート組成物中で有用であると想定されている。通常のポリカーボネート末端基の若干の例は、フェノール、p−クミルフェノール(PCP)及びt−ブチルフェノールである。
【0054】
一実施形態では、ポリカーボネートはジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとの溶融重縮合反応で製造できる。ポリカーボネートを製造するために使用できる炭酸ジエステルの例は、ジフェニルカーボネート、ビス(2,4−ジクロロフェニル)カーボネート、ビス(2,4,6−トリクロロフェニル)カーボネート、ビス(2−シアノフェニル)カーボネート、ビス(o−ニトロフェニル)カーボネート、ジトリルカーボネート、m−クレジルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジシクロヘキシルカーボネート、ビス(o−メトキシフェニル)カーボネート(ビス(メチルサリチル)カーボネート又はBMSC)など、又はこれらの炭酸ジエステルの1種以上を含む組合せである。好ましい炭酸ジエステルはジフェニルカーボネート及びBMSCである。
【0055】
また、(コ)ポリエステルポリカーボネート又はポリエステルカーボネートとしても知られる(コ)ポリエステルカーボネートも好適である。これは、下記の式(IX)の繰返しポリカーボネート連鎖単位に加え、例えば下記の式(X)の繰返しカルボキシレート単位を含む樹脂である。
【0056】
【化9】

式中、Dは重合反応で使用したジヒドロキシ化合物の二価基であり、ジヒドロキシ化合物は前述した通りである。
【0057】
【化10】

式中、Dは上記に定義した通りであり、Tはフェニレンやナフチレンやビフェニレンや置換フェニレンなどの芳香族基、アルカリール基やアルカリール基のような二価脂肪族−芳香族炭化水素基、又は当技術分野で公知のかかる芳香族結合を介して結合された2以上の芳香族基である。
【0058】
コポリエステル−ポリカーボネート樹脂は、当業者にとって公知の界面重合技術(例えば、米国特許第3169121号及び同第4487896号を参照されたい)でも製造される。
【0059】
ジカルボン酸の例には、イソフタル酸、テレフタル酸、及び6〜18の炭素原子を有するα,ω−脂肪族二酸がある。好ましい(コ)ポリエステルカーボネートは、BPAを使用する場合又は使用しない場合を含め、イソフタル酸、テレフタル酸及びレソルシノールから導かれるものである。一般に、線状ポリエステルの製造で使用される任意のジカルボン酸を、ポリエステルカーボネート樹脂の製造で使用できる。一般に、使用できるジカルボン酸には、脂肪族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸及び脂肪族−芳香族ジカルボン酸がある。これらの酸は公知であり、例えば、米国特許第3169121号に開示されている。ジカルボン酸の混合物も使用できる。芳香族ジカルボン酸として好ましいのは、イソフタル酸、テレフタル酸及びこれらの混合物である。特に有用な二官能性カルボン酸はイソフタル酸とテレフタル酸の混合物からなり、テレフタル酸とイソフタル酸との重量比は約10:1〜約0.2:9.8の範囲内にある。
【0060】
ジカルボン酸自体を使用する代わりに、該酸の反応性誘導体を使用することも可能であり、時には好ましくさえある。これらの反応性誘導体の実例は酸ハロゲン化物である。好ましい酸ハロゲン化物は酸二塩化物及び酸二臭化物である。かくして、例えば、イソフタル酸、テレフタル酸又はこれらの混合物を使用する代わりに、二塩化イソフタロイル、二塩化テレフタロイル及びこれらの混合物を使用することも可能である。
【0061】
PCと他の相溶性ポリマーのブレンドも、本組成物中で使用できる。かかるポリマーの例には、ポリブチレンテレフタレート、及びMBSゴムのようなブタジエンスチレンゴムがある。他の相溶性ポリマーとPCとの比は50:50以上までであり得る。
【0062】
熱可塑性組成物は、UV吸収剤、酸化防止剤としてのリン系安定剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、エポキシ系安定剤及び硫黄系安定剤などを含む各種の任意成分も含み得る。
【0063】
樹脂組成物中に通常使用される任意の紫外線吸収剤が、上述の紫外線吸収剤として使用できる。例えば、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤又はサリチレート系紫外線吸収剤などが使用できる。ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の例には、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−アミルブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−ドデシル−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジクミルフェニル)ベンゾトリアゾール及び2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]などがある。例えば、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤はAmerican Cyanamid Co.からUV5411として市販されている。さらに、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤はAmerican Cyanamid Co.からUV531として市販されている。サリチレート系紫外線吸収剤の例には、フェニルサリチレート、p−t−ブチルフェニルサリチレート及びp−オクチルフェニルサリチレートなどがある。
【0064】
リン系安定剤の例には、トリフェニルホスファイト、ジフェニルノニルホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、ジフェニルイソオクチルホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、ジフェニルモノ(トリデシル)ホスファイト、2,2’−エチリデンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェノール)フルオロホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、フェニルジ(トリデシル)ホスファイト、トリス(2−エチルヘキシル)ホスファイト、トリス(イソデシル)ホスファイト、トリス(トリデシル)ホスファイト、ジブチルハイドロジェンホスファイト、トリラウリルトリチオホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンシホスファイト、4,4’−イソプロピリデンジフェノールアルキル(C12〜C15)ホスファイト、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニル)ジトリデシルホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリトリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリトリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリトリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリトリトールジホスファイト、フェニル−ビスフェノールAペンタエリトリトールジホスファイト、テトラフェニルジプロピレングリコールジホスファイト、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ジトリデシルホスファイト−5−t−ブチルフェニル)ブタン及び3,4,5,6−シベンゾ−1,2−オキサホスファン−2−オキシドなどがある。入手可能な市販製品には、Adekastab PEP−36、PEP−24、PEP−4C及びPEP−8(すべて商標、Asahi Denka Kogyo K.K.製)、Irgafos 168(商標、Ciba Specialty Chemicals社製)、Sandostab P−EPQ(商標、Clariant社製)、Chelex L(商標、Sakai Kagaku Kogyo K.K.製)、3P2S(商標、Ihara Chemical Kogyo K.K.製)、Mark 329K及びMark P(共に商標、Asahi Denka Kogyo K.K.製)並びにWeston 618(商標、Sanko Kagaku K.K.製)がある。
【0065】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤の例には、n−オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,6−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシメチルフェノール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)及びペンタエリトリトール−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートなどがある。
【0066】
エポキシ系安定剤の例には、エポキシ化大豆油、エポキシ化あまに油、フェニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル及び3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートなどがある。
【0067】
必要に応じ、樹脂の混合又は成形時に、物理的性質にいかなる有害な作用も及ぼさない量でその他の常用添加剤をすべての樹脂組成物に添加することができる。例えば、着色剤(顔料又は染料)、補強材(ガラス繊維、炭素繊維など)、充填材(カーボンブラック、シリカ、酸化チタンなど)、耐熱剤、酸化防止剤、耐候剤、潤滑剤、離型剤、可塑剤、難燃剤及び流動性向上剤などを添加できる。さらに、青色方向での黄色度を改善するために染料を添加することもできる。
【0068】
本組成物の製造方法については、標準的な設備を用いる通常の技術(例えば、任意に少量の溶媒を用いる溶融混合)が特に制限せずに使用できる。組成物の成分は任意の順序で混合できる。バッチ式又は連続式で運転される押出機、バンバリーミキサー、ローラー及びニーダーなどが、好適な装置の例である。押し出された材料は、成形に先立ってペレット化及び乾燥することができ、或いはペレット化又は単離なしに成形プロセスで直接使用することができる。
【0069】
本組成物は、フィルム及びシート押出し、射出成形、ガス支援射出成形、押出成形、圧縮成形並びに吹込成形のような普通の熱可塑性樹脂プロセスを用いて物品に加工できる。フィルム及びシート押出しプロセスは、特に限定されないが、メルトキャスティング、吹込フィルム押出し及びカレンダー掛けを含み得る。共押出し及びラミネーションプロセスを用いて、複合多層フィルム又はシートを形成することもできる。耐引っかき性、耐紫外線性、美的外観などの追加の性質を付与するため、単層又は多層基体に単一又は複数のコーティング層を施工することもできる。コーティングは、ロール塗り、吹付け、浸し塗り、はけ塗り又は流し塗りのような標準的な塗布技術で施工できる。本発明のフィルム及びシートは、別法として、適当な溶媒中での組成物の溶液又は懸濁液を基体、ベルト又はロール上に流延し、次いで溶媒を除去することでも製造できる。
【0070】
吹込フィルム押出しにより、又は通常の延伸技術を用いてキャストフィルム又はカレンダードフィルムを熱変形温度付近で延伸することにより、配向フィルムを製造できる。例えば、多軸同時延伸のために半径方向延伸パントグラフを使用でき、平面内x−y方向の同時又は逐次延伸のためにx−y方向延伸パントグラフを使用できる。一軸及び二軸延伸を達成するためには、逐次一軸延伸セクションを備えた装置、例えば、機械方向の延伸のための異速度ロールセクション及び横断方向の延伸のためのテンターフレームセクションを備えた機械を使用することもできる。
【0071】
本組成物は、第一の面及び第二の面を有する第一のシートと、第一の面及び第二の面を有する第二のシートとを含んでなる多層シートに加工することができる。この場合、第一のシートは熱可塑性ポリマーからなり、第一のシートの第一の面は複数のリブの第一の面上に配設されている一方、第二のシートは熱可塑性ポリマーからなり、第二のシートの第一の面は複数のリブの第二の面上に配設されており、複数のリブの第一の面は複数のリブの第二の面の反対側にある。
【0072】
上述のフィルム及びシートはさらに、特に限定されないが、熱成形、真空成形、加圧成形、射出成形及び圧縮成形をはじめとする成形及び成型プロセスで造形物品に熱可塑的に加工できる。下記のように、単層若しくは多層フィルム又はシート基体上に熱可塑性樹脂を射出成形することで、多層造形物品を形成することもできる。
【0073】
1.例えば、スクリーン印刷又は転写染料を用いて、表面上に1以上の色を任意に有する単層又は多層熱可塑性樹脂基体を用意する。
【0074】
2.例えば、基体を三次元形状に合わせて成形及びトリミングし、次いで基体の三次元形状に整合する表面をもった型の内部に基体を嵌め込むことで、基体を型形状に適合させる。
【0075】
3.基体背後の型穴に熱可塑性樹脂を射出することで、(i)一体に永久結合された三次元製品を製造するか、或いは(ii)印刷基体から注入樹脂にパターン又は美的効果を転写してから印刷基体を取り除き、かくして成形樹脂に美的効果を付与する。
【0076】
当業者には、物品の表面外観を変化させると共に物品に追加の機能性を付与するため、特に限定されないが、ヒートセット、テクスチャリング、エンボシング、コロナ処理、火炎処理、プラズマ処理及び真空蒸着をはじめとする普通の硬化及び表面改質プロセスを上記物品にさらに施し得ることも認められよう。
【0077】
したがって、本発明の別の実施形態は、上記の組成物から製造される物品、シート及びフィルムに関する。芳香族熱可塑性ポリマーのシート、フィルムなどには、上述のコンディショニング段階でコンディショニングを施すことで防曇性を付与し得る。別法として、かかるシート及びフィルムをさらに最終製品に加工し、次いでコンディショニングを施して防曇性物品を得ることもできる。熱可塑性組成物の好ましい用途は、保護めがね、レンズ、温室パネル、自動車前照灯レンズなどである。
【0078】
すべての引用された特許、特許出願及び他の参考文献の開示内容は、援用によって本明細書の内容の一部をなす。
【実施例】
【0079】
以下の非限定的な実施例で本発明をさらに例証する。
【0080】
帯電防止化合物のコーティングからの有望な防曇添加剤の初期決定
下記の帯電防止添加剤を3M社から入手し、塩を溶融して透明ポリカーボネートプラーク上に薄層を塗布することで、ポリカーボネートシート(GE Plastics社から入手できるBlendex PC175)上にこれらの物質のコーティングを作製した。液状の塩はポリカーボネート上に直接塗布した。50℃の水を入れたビーカー上に(被覆側を下にして)プラークを保持し、目に見える曇りがプラーク上に現われるまでの時間を記録することで、これらのコーティングを防曇性についてスクリーニングした。
【0081】
60℃に加熱したIKATRON−ETS温度メーター付きIKAMAG−REB油浴ヒーターを用いて防曇試験を行った。油浴内に、200mlのMilliQ(登録商標)水を入れた250mlビーカーを吊るし、50℃±1℃の一定温度に保つ。水の温度はKane−May KM330温度メーターで測定した。測定すべき試料をビーカー上に載せ、プラーク上に凝縮水の目に見えるミストが現われるまでの時間を測定する。結果は秒単位で報告する。曇りなし時間が長いほど、防曇性能が良いことを表す。
【0082】
曇りなし時間が20秒以上、好ましくは60秒超(実施例1及び2)であれば、帯電防止添加剤は防曇用として有効であると判定した。20秒以上の曇りなし時間を与えなかった添加剤は比較例(CE1〜7)として示す。参考用として、ポリカーボネートの未被覆片も測定した。これらの結果は、コーティングとして評価した場合、これらの塩の一部のみが防曇用として有効であることを明確に示している(表1)。
【0083】
【表1】


表1から、防曇添加剤はフッ素又は他の疎水性成分を含むことができ、それでも防曇用に適することが明らかである。しかし、添加剤が過度に疎水性であれば、それは防曇性物質として有効に機能し得ない。添加剤が過度に疎水性であれば、それは水滴を表面に沿って広げることができないか、或いは水滴中に溶解して水の表面張力を低下させることができにないと考えられる。かかる効果を表2に示す。この場合、(疎水性が高い)過フッ素化物質は防曇性でないのに対し、非フッ素化対応物は防曇性であることが判明している。
【0084】
【表2】


他の界面活性物質のコーティングからの有望な防曇添加剤の初期決定
これらの例に加えて、表3に示すように、ポリカーボネート用防曇添加剤としての可能性について(必ずしも帯電防止添加剤として設計されていない)他の界面活性物質をスクリーニングした。
【0085】
【表3】


表3は、何らかの界面活性機構を有しており、コーティングとしては防曇性に優れているという点でポリカーボネート用防曇添加剤の初期基準を満たす多種多様の物質を例示している。対応例はやはり、ある種の過フッ素化物質が防曇性を与えるには過度の疎水性を有するので防曇用に適しないことを示している。
【0086】
ポリカーボネートとのブレンドからの防曇添加剤の決定
次に、防曇用としての可能性を有することが判明した帯電防止添加剤又は界面活性物質をポリカーボネートと配合することで、ポリカーボネートとの相溶性、透明性、界面活性、及びコーティングではなく添加剤としての防曇性を測定した。ポリカーボネートとの配合は、添加剤を1〜5重量%の添加量で用いて行った。Ciba Specialty Chemicals社からのIrgafos 168(0.036重量%)及びCiba Specialty Chemicals社からのIrganox 1076(0.02重量%)のような典型的なポリカーボネート安定剤を配合物に添加したが、離型剤は使用しなかった。15〜35秒の射出速度を用いて、プラークを300℃で射出成形した。界面活性測定のために使用するプラークは、表面を保護するためにアルミニウム箔で包んだ。
【0087】
以下の基準、即ち界面活性、透明性、及びコンディショニング前後の曇りなし時間についてポリカーボネートブレンドを評価した。コーティングに関して記載したようにして高温曇り試験を行った。透明性は目視検査で判定した。界面活性はX線光電子分光法(XPS)で測定したが、これは試料の表面に(硫黄(S)、酸素(O)及びフッ素(F)をはじめとする)どのような原子が存在するかを測定するものである。侵入深さは、通例2〜10ナノメートルである。S、O、Fの存在は、試料の表面に界面活性化合物が存在することを表す。かかる原子の存在を示す試料は、表中では界面活性欄に「あり」と記載されている。
【0088】
表4は、防曇添加剤をポリカーボネートとブレンドした結果を示している。コーティングとしての性能から判定した場合には、すべての添加剤が防曇用として適する可能性を有していたが、すべてがポリカーボネートの透明性を保持するわけではなく、或いは十分な界面活性を有するわけではなかった。透明性及び界面活性を有する添加剤のうち、コンディショニング前に曇りなし時間の向上を示したものは皆無であった。したがって、液体の水又は高温の水蒸気に表面を暴露することによる成形ブレンドのコンディショニングで防曇性を活性化した。
【0089】
防曇性能を向上させるためのコンディショニングは、50℃の水を入れたビーカー上にプラークを45分間配置するか、或いは超純水(Millipore社から入手できるMilliQ(登録商標))の水滴をプラークの表面上に配置することで行った。いずれの場合にも、曇りなし時間を測定する前に試料を1晩乾燥させた。対照として、非改質ポリカーボネートプラークにコンディショニングを施したが、曇りなし時間の向上は全く見られなかった(比較例11、CE11)。
【0090】
【表4】


表4中の結果は、防曇性の界面活性添加剤を含む透明ポリカーボネートブレンドにおいて、コンディショニングを用いて防曇性能を活性化することの価値を示している。
【0091】
以上、好ましい実施形態に関して本発明を説明してきたが、当業者であれば、本発明の技術的範囲から逸脱せずに様々な変更及び同等物による構成要素の置換を行い得ることが理解されよう。さらに、本発明の本質的な範囲から逸脱することなく、特定の状況又は材料を本発明の教示に適合させるために多くの修正を行うことができる。したがって、本発明はこの発明を実施するために想定される最良の形態として開示された特定の実施形態に限定されず、特許請求の範囲に含まれるすべての実施形態を包含するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
防曇性熱可塑性樹脂物品の製造方法であって、
芳香族熱可塑性ポリマー物品を防曇性芳香族熱可塑性ポリマー物品にするのに十分な水性環境に暴露することを含んでなり、
防曇性芳香族熱可塑性ポリマー物品が暴露前の芳香族熱可塑性ポリマー物品に比べて高い防曇性を有する、方法。
【請求項2】
暴露することが、スチームへの暴露、水蒸気への暴露、水中への浸漬、水の吹付け、水の噴霧、又はこれらの1以上を含む組合せからなる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
芳香族熱可塑性ポリマー物品が、芳香族ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、芳香族ポリエステル、ポリフェニレンエーテル/スチレンブレンド、芳香族ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、これらのブレンド、又はこれらのポリマーの1種以上を含む組合せを含む組成物からなる、請求項1記載の方法。
【請求項4】
組成物がさらにイオン性又は非イオン性防曇添加剤を含む、請求項3記載の方法。
【請求項5】
防曇添加剤が次式のスルホン酸塩である、請求項4記載の方法。
【化1】

(式中、Qは窒素又はリンであり、RはC〜C40アルキル基、C〜C40ハロアルキル基、C〜C40アリール基、(C〜C12アリール)C〜C40アルキル基又は(C〜C40アルキル)C〜C12アリール基であり、R、R、R及びRは各々独立に水素、C〜C20アルキル基、C〜C20ヒドロキシアルキル基又はC〜C12アリール基である。)
【請求項6】
スルホン酸塩が、スルホン酸のテトラアルキルアンモニウム塩、スルホン酸のトリアルキル(ヒドロキシアルキル)アンモニウム塩、スルホン酸のテトラアルキルホスホニウム塩、スルホン酸のトリアルキル(ヒドロキシアルキル)ホスホニウム塩、又はこれらのスルホン酸塩の1種以上を含む組合せである、請求項5記載の方法。
【請求項7】
非イオン性防曇添加剤が、ポリシロキサン−ポリエーテルコポリマー、ポリ(プロピレングリコール)−ポリ(エチレングリコール)−ポリ(プロピレングリコール)又はポリ(エチレングリコール)−ポリ(プロピレングリコール)−ポリ(エチレングリコール)である、請求項4記載の方法。
【請求項8】
ポリシロキサン−ポリエーテルコポリマーが次式のものである、請求項7記載の方法。
【化2】

(式中、nは約3〜約5000であり、R10、R11、R12、R13、R14及びR15の1以上がポリエーテル基であることを条件にして、R10、R11、R12、R13、R14及びR15は各々独立に水素、C〜C20アルキル基、C〜C12アリール基、(C〜C20アルキル)C〜C12アリール基、(C〜C12アリール)C〜C20アルキル基、C〜C20アルコキシ又はポリエーテル基である。)
【請求項9】
防曇性熱可塑性樹脂物品の製造方法であって、
芳香族熱可塑性ポリマー及びイオン性又は非イオン性防曇添加剤をブレンドしてブレンドを形成し、
ブレンドを成形して熱可塑性樹脂物品を製造し、
熱可塑性樹脂物品を、暴露前の熱可塑性樹脂物品に比べて防曇性の増加を示す防曇性熱可塑性樹脂物品を与えるのに十分な水性環境に暴露する
ことを含んでなる方法。
【請求項10】
請求項1記載の方法で製造される防曇性物品。

【公表番号】特表2007−517113(P2007−517113A)
【公表日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−547205(P2006−547205)
【出願日】平成16年12月20日(2004.12.20)
【国際出願番号】PCT/US2004/042715
【国際公開番号】WO2005/066257
【国際公開日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】