説明

防曇性物品

【課題】防曇性、基材と被膜との密着性、及び耐熱性に優れる防曇性物品を得ることを課題とする。
【解決手段】基材と、バインダー成分とポリアクリル酸類の共重合体を含有する被膜と、該基材と被膜との間にプライマー層を有することを特徴とする防曇性物品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用、建築用等の防曇窓ガラス又は防曇鏡、レンズ、ディスプレー等各種用途に用いることが可能で、防曇性、密着性、及び耐熱性に優れる防曇性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラスやプラスチック等の透明基材は、基材を挟んで内面と外面の温湿度の差により、一方の表面が露点以下になった場合、又は、基材に対して急激な温湿度変化が起こった場合(沸騰水蒸気が基材に接触した場合や、低温部から高温多湿の環境に移った場合等)に雰囲気中の水分が水滴として付着し、基材表面は結露する。その結果、結露した水滴により光の散乱が起こる、いわゆる「曇り」が発生することで、視界が妨げられる。このような「曇り」により、一般的な窓ガラス、自動車や航空機のフロントガラス、反射鏡、眼鏡、サングラス等では、安全性や視認性が著しく損なわれる。
【0003】
特許文献1には、無機アルコキシド、無機アルコキシドの加水分解物および無機アルコキシドの加水分解重縮合物から選ばれる少なくとも1つ、ポリアクリル酸類およびポリビニルアルコールを配合してなる防曇性コーティング材料、および、無機アルコキシドの加水分解物の少なくとも重縮合反応をポリアクリル酸類およびポリビニルアルコールの存在下で生じせしめて得られる組成物を主成分とする防曇性塗膜が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、アセタール化度2〜40モル%のポリビニルアセタール樹脂(ポリビニルフェニルアセトアセタール、ポリビニルベンズアセタール、ポリビニルブチラールなど)からなる防曇層が開示されている。
【0005】
特許文献3では、紫外線硬化樹脂と金属酸化物、親水性樹脂を含有する防曇膜とプライマーを用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−061029号公報
【特許文献2】特開平6−158031号公報
【特許文献3】特開2003−26960号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
防曇性物品には、長期間に亘り防曇性及び視認性が維持できることが望まれているが、上記の特許文献1、2に記載の発明において得られる防曇性物品のうち、吸水性を有する被膜では吸水時の膨潤により、基材と剥離が生じやすく、剥離後は防曇性を維持できないために視認性が低下しやすい傾向がある。また、防曇性物品には、日射などの熱に長期間に亘って晒される用途において耐熱性が要求される。しかし、上記の特許文献1〜3に記載のいずれの発明においても得られる防曇性物品は長期間にわたって加熱された場合に黄変しやすく、外観や視認性に問題が生じやすい傾向がある。そこで、本発明は、防曇性、基材と被膜との密着性、及び耐熱性に優れる防曇性物品を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の防曇性物品は、基材と、バインダー成分とポリアクリル酸類の共重合体を含有する被膜と、該基材と被膜との間にプライマー層を有することを特徴とする。
【0009】
前記被膜は、バインダー成分由来の成分の耐熱性と、ポリアクリル酸類由来の成分の吸水性と耐熱性により、優れた耐熱性と防曇性を兼ね備えた被膜であり、前記基材と前記被膜の中間にプライマー層を有することにより、前記基材と前記被膜との間に優れた密着性を付与することができる。その結果、防曇性、密着性、及び耐熱性に優れる防曇性物品を得られる。
【0010】
また、前記プライマー層は、下記一般式[1]で表されるケイ素化合物Aの加水分解生成物からなることが好ましい。
SiX4−m [1]
式[1]中、Rはアミノ基、グリシドキシ基、メルカプト基からなる群から選ばれる少なくとも1つの基を含む有機基であり、Xは、炭素数が1〜18のアルコキシ基であり、mは1〜3の整数である。
【0011】
本発明の防曇性物品は100℃以下の熱に対して耐熱性を有することが好ましい。100℃とはJIS R 3212「自動車用安全ガラス試験方法」に記載される自動車用ガラスの熱負荷を想定したものである。
【0012】
本発明において、「100℃以下の熱に対して耐熱性を有すること」とは、防曇性物品が100℃以下の熱に晒された後であっても、該物品の視認性や防曇性に不具合が生じないことを意味する。
【0013】
視認性に関しては、100℃以下の熱に晒された後であっても前記物品に、例えば着色や亀裂、異物の析出、ひずみ等の外観上の不具合が発生しないことが好ましい。
【0014】
防曇性に関しては、100℃以下の熱に晒された後であっても、例えば、車両用窓ガラスにおける実車環境を想定した防曇性試験(以下、実車想定防曇性試験と記載する)で10分以上結露が発生しないことが好ましい。ここで実車想定防曇性試験とは、図1に示すような温度湿度が制御できる二室の間にサンプルを設置した試験である。被膜側を車内想定恒温室、基板側を車外想定恒温室とし、曇りの発生しやすい梅雨時期を想定した車外想定温度を20℃、車内想定温度を25℃、車内想定湿度を95%としたものと、冬場を想定した車外想定温度を0℃、車内想定温度を25℃、車内想定湿度を60%としたものである。
【0015】
また、本発明の防曇性物品は、基材と被膜との密着性が優れたものであることが好ましい。優れた密着性とは、基材と被膜とが結合形成や水素結合などの相互作用により、物理的に容易に剥離しないことを意味する。特に吸水時の膨潤により被膜が基材から剥離しないことが好ましい。
【0016】
また、前記バインダー成分は、下記一般式[2]で表されるケイ素化合物B、前記ケイ素化合物Bが一部縮合した化合物C、または前記のBとCを混合したものであることが好ましい。
SiY4−n [2]
式[2]中、Rは炭素数が1〜18の炭化水素基、または、前記炭化水素基の一部の水素原子をエポキシ基、グリシドキシ基、アミノ基からなる群から選ばれる少なくとも1つの基で置換した有機基である。また、Yはアルコキシ基、クロロ基、イソシアネート基、ヒドロキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1つの基であり、nは0〜3の整数である。
【0017】
前記ポリアクリル酸類の分子量は、1,000〜250,000であることが好ましい。分子量が1,000未満の場合、防曇性が発現しない、または十分な防曇性が得られない傾向がある。分子量が250,000超の場合、塗布剤の粘度上昇が大きく、成膜性が低下する傾向がある。なお、本発明において分子量とは重量平均分子量である。
【0018】
前記ポリアクリル酸類は、
ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸エステル、もしくはポリメタクリル酸エステル、及び、
ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸エステル、もしくはポリメタクリル酸エステルのメチレン鎖の水素原子の一部がエポキシ基、グリシドキシ基、もしくはアミノ基と反応性を有する置換基に置換された化合物からなる群から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。吸水性の観点から、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸などが特に好ましい。
【0019】
前記のバインダー成分、及び、ポリアクリル酸類の総量に対して、ポリアクリル酸類は、5〜60質量%であることが好ましい。5質量%未満では、得られる被膜に防曇性が発現しない、または十分な防曇性が得られない傾向がある。60質量%超では、得られる被膜中でポリアクリル酸類を固定化できず、吸水時にポリアクリル酸類が溶出する傾向がある。防曇性とポリアクリル酸類の固定化の観点から、より好ましくは10〜50質量%、さらに好ましくは20〜40質量%である。
【0020】
また、前記被膜の吸水を、該被膜中に存在するポリアクリル酸類由来の成分によって行い、該被膜の吸水飽和時の単位体積の吸水量が0.05〜3mg/mmであることが好ましい。尚、本発明での吸水量とは、吸水していない状態での被膜の質量を基準としたときの被膜中に存在する水の質量を示している。
【0021】
吸水飽和時の前記被膜への単位体積の吸水量を上記範囲に設定したのは、0.05mg/mm未満では、吸水を飽和するまでの時間を長くするためには膜厚を厚くする必要があり、その結果、光学的な歪が生じやすくなることや、生産性が低下することがあるため好ましくない。3mg/mm超では、被膜のべたつき感が大きくなることや、強度の低下や耐水性が悪くなるからである。より好ましい単位体積の吸水量は0.1〜2mg/mmである。
【0022】
前記被膜中における吸水に寄与する成分が、ポリアクリル酸類由来の成分であると、該被膜自体が優れた耐熱性を有するため、得られる防曇性物品において優れた防曇性と耐熱性を両立させることができる。従来の吸水性により防曇性を発現する膜には吸水成分としてポリビニルアルコール類やポリビニルアセタール類に由来する成分を含む場合があるが、本発明で得られる被膜中で該ポリビニルアルコール類やポリビニルアセタール類に由来する成分は5質量%以下であることが好ましい。5質量%超では100℃以下の熱により被膜が着色し易いため好ましくない。被膜中のポリビニルアルコール類やポリビニルアセタール類に由来する成分のより好ましい濃度は1質量%以下であり、さらに好ましくは0.01質量%以下であり、さらに、得られる被膜中に前記ポリビニルアルコール類やポリビニルアセタール類に由来する成分が実質的に含まれないことが特に好ましい。
【0023】
また、本発明の防曇性物品は、少なくとも以下の工程を経て作製されることが好ましい。
(1)基材表面に前記ケイ素化合物Aの加水分解生成物からなるプライマー層を形成する工程
(2)バインダー成分、ポリアクリル酸類を含有する被膜形成用塗布剤を調製する工程
(3)前記被膜形成用塗布剤を塗布する工程、及び
(4)塗膜を硬化する工程
【発明の効果】
【0024】
本発明の防曇性物品は、防曇性、密着性、及び耐熱性に優れるため、長期間に亘って熱に晒される部材や用途において使用することが出来る。また、吸水時の膨潤により基材から被膜が剥離し難いため、長期間に亘って防曇性を維持できる。特に車両用の窓材に使用した場合に効果が顕著であり、安全で快適な車内環境を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】二室型環境試験機を用いた実車想定防曇性試験の模式図
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の防曇性物品は、基材と、バインダー成分とポリアクリル酸類の共重合体を含有する被膜と、該基材と被膜との間にプライマー層を有する防曇性物品である。
【0027】
本発明の防曇性物品は、少なくとも以下の工程を経て作製される。
(1)基材表面に前記一般式[1]で表されるケイ素化合物Aの加水分解生成物からなるプライマー層を形成する工程
(2)バインダー成分、ポリアクリル酸類を含有する被膜形成用塗布剤を調製する工程
(3)前記被膜形成用塗布剤を塗布する工程、及び
(4)塗膜を硬化する工程
【0028】
基材としては、光透過性、光反射性または光沢性を有し、曇りにより著しく安全性や、外観、意匠性が損なわれるものが用いられる。
【0029】
光透過性を有する代表的な基材としてはガラスが用いられる。そのガラスは自動車用ならびに建築用、産業用ガラス等に通常用いられている板ガラスであり、フロート法、デュープレックス法、ロールアウト法等による板ガラスであって、製法は特に問わない。ガラス種としては、クリアをはじめグリーン、ブロンズ等の各種着色ガラスやUV、IRカットガラス、電磁遮蔽ガラス等の各種機能性ガラス、網入りガラス、低膨張ガラス、ゼロ膨張ガラス等防火ガラスに供し得るガラス、強化ガラスやそれに類するガラス、合わせガラスのほか複層ガラス等を使用できる。また、上記板ガラス以外に、例えば、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂フィルム、ポリカーボネート、アクリル等の樹脂板等も使用することができる。
【0030】
また、光反射性を有する代表的な基材としては、銀引き法、あるいは真空成膜法により作製された鏡や金属、金属メッキされた物品等を使用できる。
【0031】
また、光沢性を有する代表的な基材としては、金属、金属メッキされた物品、セラミックス等を使用できる。
【0032】
上記の基材には、平板、曲げ板等各種の成形体を使用できる。板厚は特に制限されないが、1.0mm以上10mm以下が好ましく、例えば車両用の窓材としては1.0mm以上5.0mm以下が好ましい。
【0033】
また、上記の基材表面とプライマー層との密着強度を向上させるために、プライマー層を形成する前の基材表面に、プラズマ照射、コロナ放電、高圧水銀灯照射等の処理を施し、該基材表面に活性基(例えば、ケトン基、エーテル基、OH基等)を発生させてもよい。
【0034】
基材への前記プライマー層及び前記被膜の形成は、基材の片面だけであってもよいし、両面に行ってもよい。また、前記プライマー層及び前記被膜の形成は基材表面の全面でも一部分であってもよい。
【0035】
前記プライマー層は、下記一般式[1]で表されるケイ素化合物Aの加水分解生成物からなることが好ましい。
SiX4−m [1]
式[1]中、Rはアミノ基、グリシドキシ基、メルカプト基からなる群から選ばれる少なくとも1つの基を含む有機基であり、Xは、炭素数が1〜18のアルコキシ基であり、mは1〜3の整数である。
【0036】
前記ケイ素化合物Aの加水分解生成物のシラノール基と、基材表面の活性基(例えば、ケトン基、エーテル基、OH基等)の反応による結合形成や水素結合などの相互作用により、前記基材と前記プライマー層の間で優れた密着性が発現する。
【0037】
さらに、前記ケイ素化合物Aの加水分解生成物のアミノ基、グリシドキシ基、メルカプト基からなる群から選ばれる少なくとも1つの基を含む有機基と、硬化前の被膜のバインダー成分やポリアクリル酸類の活性基(例えば、OH基、グリシドキシ基等)の反応による結合形成や水素結合などの相互作用により、前記プライマー層と前記被膜の間で優れた密着性が発現する。
【0038】
前記ケイ素化合物Aとしては、例えば、トリメトキシ[3−(フェニルアミノ)プロピル]シラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルジメチルメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3−アミノプロピルジメチルエトキシシラン、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルジメチルメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、3−メルカプトプロピルジメチルエトキシシラン、3−メルカプトプロピル(ジメトキシ)メチルシラン、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルジメトキシメチルシランなどが挙げられる。
【0039】
前記プライマー層は、前記ケイ素化合物Aを加水分解して得られるものであり、該ケイ素化合物Aに、水、または、酸性水溶液、または、塩基性水溶液を混合して加水分解した液を基材表面に塗布し、乾燥することにより形成することができる。このとき、前記ケイ素化合物Aと水の相溶性を調整したり、塗布液の粘度を調整したり、塗布液の乾燥速度を調整するために、該ケイ素化合物Aは溶媒に溶解した溶液状態のものを用いてもよい。また、前記プライマー層は、前記ケイ素化合物Aまたはその溶液が大気中の水分により加水分解された状態で、基材表面に塗布され、乾燥されることにより形成されたものであってもよい。
【0040】
前記ケイ素化合物Aを溶解する際に用いられる溶媒としては、前記ケイ素化合物Aを溶解するものであれば特に限定されないが、例えば、水、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブタノール、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、シクロヘキサノールなどが挙げられる。価格、安全性の観点からイソプロピルアルコールが好ましい。また、複数の溶媒を用いて混合溶媒としてもよい。
【0041】
前記ケイ素化合物Aの加水分解生成物の塗布方法として、例えば、ディップコート、フローコート、スピンコート、ロールコート、スプレーコート、スクリーン印刷、フレキソ印刷、手塗り法、インクジェット法等の公知の塗布手段を用いることができる。
【0042】
前記ケイ素化合物Aの加水分解生成物の乾燥方法としては、室温で拭きあげることで十分であるが、基材とプライマー層との密着性を速やかに発現するために、前記溶液を基材に塗布後に50℃乃至100℃で焼成してもよい。
【0043】
前記被膜は、バインダー成分とポリアクリル酸類の共重合体を含有する複合膜であることが好ましい。前記被膜は、バインダー成分由来の成分の耐熱性と、ポリアクリル酸類由来の成分の吸水性と耐熱性により、優れた耐熱性と防曇性を兼ね備えた被膜である。
【0044】
本発明の防曇性物品の防曇性の発現には、ポリアクリル酸類由来の成分が吸水することが寄与する。また、前記ポリアクリル酸類由来の成分による吸水効果に加え、バインダー成分由来の成分に水酸基、カルボニル基、アミノ基、カルボキシル基、スルホ基等が含まれる場合は、それらの親水性により前記吸水効果が促進されるものであってもよい。また、前記ポリアクリル酸類、前記バインダー成分以外の成分として、水酸基、カルボニル基、アミノ基、カルボキシル基、スルホ基等を有する他の成分を添加することにより、該成分の親水性により前記吸水効果が促進されるものであってもよい。
【0045】
また、前記ポリアクリル酸類は、バインダー成分と共重合することにより、ポリアクリル酸類由来の成分、及び、バインダー成分由来の成分を含有する複合膜を形成するため、水や溶剤に対して前記ポリアクリル酸類由来の成分の溶出が防げ、長期間に亘って防曇性を発現することができる。
【0046】
前記のバインダー成分、及び、ポリアクリル酸類の総量に対して、ポリアクリル酸類は、5〜60質量%であることが好ましい。5質量%未満では、得られる被膜に防曇性が発現しない、または十分な防曇性が得られない傾向がある。60質量%超では、得られる被膜中でポリアクリル酸類を固定化できず、吸水時にポリアクリル酸類が溶出する傾向がある。防曇性とポリアクリル酸類の固定化の観点から、より好ましくは10〜50質量%、さらに好ましくは20〜40質量%である。
【0047】
前記バインダー成分としては、下記一般式[2]で表されるケイ素化合物B、前記ケイ素化合物Bが一部縮合した化合物C、または前記のBとCを混合したものを使用することができる。
SiY4−n [2]
式[2]中、Rは炭素数が1〜18の炭化水素基、または、前記炭化水素基の一部の水素原子をエポキシ基、グリシドキシ基、アミノ基からなる群から選ばれる少なくとも1つの基で置換した有機基である。また、Yはアルコキシ基、クロロ基、イソシアネート基、ヒドロキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1つの基であり、nは0〜3の整数である。
【0048】
前記ケイ素化合物Bとして、例えば、メトキシトリメチルシラン、エトキシトリエチルシラン、(クロロメチル)ジメチルイソプロポキシシラン、[ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2−イル]トリエトキシシラン、トリメチル[3−(トリエトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロリド、トリメトキシ[3−(フェニルアミノ)プロピル]シラン、トリメトキシシラン、トリメトキシフェニルシラン、トリメトキシ(プロピル)シラン、トリメトキシ(p−トリル)シラン、トリメトキシ(メチル)シラン、トリエトキシシラン、トリエトキシフェニルシラン、トリエトキシメチルシラン、トリエトキシフルオロシラン、トリエトキシエチルシラン、トリエトキシ−1H,1H,2H,2H−トリデカフルオロ−n−オクチルシラン、ペンチルトリエトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、N−[2−(N−ビニルベンジルアミノ)エチル]−3−アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩、n−オクチルトリエトキシシラン、n−ドデシルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、ビス[3−(トリメトキシシリル)プロピル]アミン、ベンジルトリエトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−トリメトキシシリルプロピル クロリド、3−−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、イソシアン酸3−(トリエトキシシリル)プロピル、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリエトキシシラン、2−シアノエチルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、1−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]尿素、1,2−ビス(トリメトキシシリル)エタン、(クロロメチル)トリエトキシシラン、(3−メルカプトプロピル)トリメトキシシラン、(3−メルカプトプロピル)トリエトキシシラン、(3−ブロモプロピル)トリメトキシシラン、オルトけい酸テトラプロピル、オルトけい酸テトラメチル、オルトけい酸テトラキス(1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロピル)、オルトけい酸テトライソプロピル、オルトけい酸テトラエチル、オルトけい酸テトラブチル、ジメトキシメチルフェニルシラン、ジメトキシジフェニルシラン、ジメトキシジメチルシラン、ジメトキシジ−p−トリルシラン、ジメトキシ(メチル)シラン、ジエトキシメチルシラン、ジエトキシジフェニルシラン、ジエトキシジメチルシラン、ジエトキシ(メチル)フェニルシラン、ジエトキシ(3−グリシジルオキシプロピル)メチルシラン、シクロヘキシル(ジメトキシ)メチルシラン、3−メルカプトプロピル(ジメトキシ)メチルシラン、3−グリシジルオキシプロピル(ジメトキシ)メチルシラン、3−クロロプロピルジメトキシメチルシラン、3−アミノプロピルジエトキシメチルシラン、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルジメトキシメチルシラン、1,5−ジクロロ−1,1,3,3,5,5−ヘキサメチルトリシロキサン、1,3−ジメトキシ−1,1,3,3−テトラフェニルジシロキサン、1,3−ジクロロ−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,3−ジクロロ−1,1,3,3−テトライソプロピルジシロキサン、1,1,3,3,5,5,5−ヘプタメチル−3−(3−グリシジルオキシプロピル)トリシロキサン、3−クロロプロピルジクロロメチルシラン、クロロメチル(ジクロロ)メチルシラン、ジ−tert−ブチルジクロロシラン、ジブチルジクロロシラン、ジクロロ(メチル)オクタデシルシラン、ジクロロ(メチル)フェニルシラン、ジクロロシクロヘキシルメチルシラン、ジクロロデシルメチルシラン、ジクロロジエチルシラン、ジクロロジヘキシルシラン、ジクロロジイソプロピルシラン、ジクロロジメチルシラン、ジクロロジペンチルシラン、ジクロロジフェニルシラン、ジクロロドデシルメチルシラン、ジクロロエチルシラン、ジクロロヘキシルメチルシラン、ジクロロメチルシラン、n−オクチルメチルジクロロシラン、テトラクロロシラン、1,2−ビス(トリクロロシリル)エタン、3−クロロプロピルトリクロロシラン、ビス(トリクロロシリル)アセチレン、ブチルトリクロロシラン、シクロヘキシルトリクロロシラン、デシルトリクロロシラン、ドデシルトリクロロシラン、エチルトリクロロシラン、ヘキサクロロジシラン、1,1,2,2−テトラクロロ−1,2−ジメチルジシラン、イソブチルトリクロロシラン、n−オクチルトリクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、テキシルトリクロロシラン、トリクロロ(メチル)シラン、トリクロロ(プロピル)シラン、トリクロロ−2−シアノエチルシラン、トリクロロヘキシルシラン、トリクロロオクタデシルシラン、トリクロロシラン、トリクロロテトラデシルシラン、(3−シアノプロピル)ジメチルクロロシラン、(ブロモメチル)クロロジメチルシラン、(クロロメチル)ジメチルクロロシラン、1,2−ジクロロテトラメチルジシラン、1,3−ジクロロ−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,5−ジクロロ−1,1,3,3,5,5−ヘキサメチルトリシロキサン、α−(クロロジメチルシリル)クメン、ベンジルクロロジメチルシラン、ブチルクロロジメチルシラン、クロロ(デシル)ジメチルシラン、クロロ(ドデシル)ジメチルシラン、クロロジイソプロピルシラン、クロロジメチルフェニルシラン、クロロジメチルプロピルシラン、クロロジメチルシラン、クロロトリエチルシラン、クロロトリメチルシラン、ジエチルイソプロピルシリル クロリド、ジメチル−n−オクチルクロロシラン、ジメチルエチルクロロシラン、ジメチルイソプロピルクロロシラン、ジフェニルメチルクロロシラン、ペンタフルオロフェニルジメチルクロロシラン、tert−ブチルジメチルクロロシラン、tert−ブチルジフェニルクロロシラン、トリイソプロピルシリルクロリド、トリフェニルクロロシランなどが挙げられる。
【0049】
ポリアクリル酸類としては、
ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸エステル、もしくはポリメタクリル酸エステル、及び、
ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸エステル、もしくはポリメタクリル酸エステルのメチレン鎖の水素原子の一部がエポキシ基、グリシドキシ基、もしくはアミノ基と反応性を有する置換基に置換された化合物からなる群から選ばれる少なくとも1つを使用することができる。
【0050】
前記の反応性を有する置換基としてはアミノ基、水酸基、エポキシ基、メルカプト基、イソシアナート基、アルコキシ基、ビニル基、アクリル基、もしくはメタクリル基などが挙げられる。また、ポリアクリル酸類として、下記一般式[3]で示すようなポリアクリル酸と反応性基Zを有する部位が共重合した化合物であってもよい。


式[3]中、反応性基Zはアミノ基、水酸基、エポキシ基、メルカプト基、イソシアナート基、アルコキシ基、ビニル基、アクリル基、もしくはメタクリル基などであり、sは10〜350、tは5〜200であることが好ましい。
【0051】
なお、一般式[3]の化合物はブロック共重合体でもよく、交互共重合体でもよく、ランダム共重合体でも良い。また、s及びtは、ブロック共重合体の場合にはそれぞれの繰り返し単位の数を表し、交互共重合体及びランダム共重合体の場合にはそれぞれの構造単位の総数を表す。
【0052】
ポリアクリル酸類として、例えば、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸メチル、ポリメタアクリル酸メチル、ポリアクリル酸ナトリウム、アクリル酸−マレイン酸共重合体塩、アクリル酸−スルホン酸共重合体塩、ポリアクリル酸中和物の架橋物、自己架橋型ポリアクリル酸中和物などが挙げられる。
【0053】
防曇性に寄与する吸水性能の観点から、アクリル酸類はポリアクリル酸が特に好ましい。
【0054】
前記被膜形成用塗布剤を調製する工程において、該塗布剤は溶媒を含有してもよい。溶媒としては前記塗布剤を溶解するものであれば特に限定されないが、水、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブタノール、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、シクロヘキサノールなどが挙げられる。相溶性、安全性の観点からエチルアルコールが好ましい。また、複数の溶媒を用いて混合溶媒としてもよい。
【0055】
また、前記被膜形成用塗布剤には、該塗布剤の硬化反応を促進する目的で、触媒が添加されてもよい。該触媒として、酸性水溶液を用いる場合、加水分解速度に応じて塩酸、硫酸、硝酸などの無機酸、酢酸、フタル酸、コハク酸などの有機酸等の酸触媒を有する水溶液が選択されることが好ましい。このとき、塗布剤中でのpH値が1乃至5となるように酸触媒が添加されることが好ましい。
【0056】
また、触媒として、スズ、アルミニウム、チタン、ジルコニウムなどの金属錯体を用いることができる。ここで、金属錯体は弗化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、酢酸塩、硝酸塩、硫酸塩、アセチルアセトナート塩などが好ましい。該触媒は、塗布液中のケイ素化合物B量に対し質量比で、0.05倍量迄加えてもよい。0.05倍量超加えても、添加量に対する触媒効果がそれ以上向上しなくなる傾向があるので、大量の触媒を添加する必要はない。他方、触媒効果を発揮させるためには、硬化触媒は処理剤中のケイ素化合物B量に質量比で、0.0001倍量以上添加することが好ましい。
【0057】
また、前記被膜形成用塗布剤には、前記ポリアクリル酸類、前記バインダー成分以外の成分として、本発明の目的を阻害しない範囲で、光重合開始剤、熱重合開始剤、界面活性剤、架橋剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、難燃剤、加水分解防止剤、防黴剤等の他の成分を添加しても良い。
【0058】
前記他の成分が水酸基、カルボニル基、アミノ基、カルボキシル基、スルホ基等を有する成分であると、前記ポリアクリル酸類由来の成分による吸水効果に加え、該成分の親水性により前記吸水効果が促進されるため好ましい。
【0059】
前記被膜形成用塗布剤を塗布する工程において、例えば、ディップコート、フローコート、スピンコート、ロールコート、スプレーコート、スクリーン印刷、フレキソ印刷、手塗り法、インクジェット法等の公知の塗布手段で、前記被膜形成用塗布剤を、基材表面に形成された前記プライマー層の上に塗布することができる。
【0060】
前記被膜形成用塗布剤の塗膜の硬化方法としては、熱硬化、光硬化等で硬化することができる。熱硬化の場合、加熱温度は50〜200℃、より好ましくは80〜150℃が好ましい。50℃未満では硬化速度が遅く、硬化に時間が掛かるため好ましくない。また200℃超ではポリアクリル酸類が劣化しやすいため好ましくない。光硬化させる場合は、一般的なラジカル重合開始剤、もしくはカチオン性重合開始剤を用い、光照射の方法はとくに限定されず、高圧水銀灯やキセノンランプ等を用いることができる。
【0061】
また、前記被膜の十分な吸水性の機能を得るために被膜の膜厚を5μm以上とすることが好ましい。膜厚を厚くする程、被膜の吸水容量は大きくなるが、厚くしすぎると光学的な歪が生じやすくなることや、生産性が低下するので、100μm以下とすることが好ましい。
【実施例】
【0062】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、本実施例および比較例で得られた防曇性物品は、以下に示す方法により品質評価を行った。
【0063】
[被膜の単位体積の吸水量測定]
温度80℃の乾燥炉で2時間保持した後の防曇性物品の質量(a)を測定し、被膜に35℃飽和水蒸気を暴露面全面が曇るまで接触させ、その後、すぐに被膜表面の水滴を払拭した後に防曇性物品の質量(b)を測定した。単位体積の吸水量は{(b−a)/(蒸気暴露面積×膜厚)}の計算式で得られた値を単位体積の吸水量とした。尚、ここでの(a)値は、被膜が吸水していない状態のものに相当する。前記吸水量が0.05〜3mg/mmであるサンプルを(○)、該範囲から外れるサンプルを(×)とした。
【0064】
[膜厚測定]
触針式表面粗さ計(小坂研究所製、サーフコーダーET−4000A)を用いて、基材上に形成した被膜の膜厚を測定した。
【0065】
[35℃水蒸気防曇性試験]
35℃飽和水蒸気で満たされた槽の上部に、被膜面を前記槽に向けてサンプルを設置し、曇りが生じるまでの時間を測定し、30秒以上のものを(○)、30秒未満のもの、または外観上不具合が発生したものを(×)とした。
【0066】
[実車想定防曇性試験]
図1に示すように二室型環境試験機(タバイエスペック社製、型式TBL−2HW2P1A/TBU−2HW0P2A)を用いて二室の間にサンプルを設置し、二室の温湿度を実使用に近い下記条件とし結露が発生するまでの時間を測定し、10分以上のものを(○)、10分未満のものを(×)とした。
条件1:梅雨を想定
車外想定恒温室温度20℃、車内想定恒温室温度25℃、車内想定恒温室湿度95%
条件2:冬場を想定
車外想定恒温室温度0℃、車内想定恒温室温度25℃、車内想定恒温室湿度60%
【0067】
[耐熱性試験]
100℃で保持された恒温槽で200時間サンプルを保持し、外観に不具合がなかったもの及び防曇性(35℃水蒸気防曇性、実車想定防曇性)試験に合格したものを(○)、外観に不具合があったものや、防曇性が不合格となったものを(×)とした。
【0068】
[密着性評価]
40℃温水に防曇性物品を24hr浸漬させた後、クロスカット試験を行い、剥離が生じなかったものを(○)、剥離が生じたものを(×)とした。
【0069】
実施例1
[基材の準備]
基材としては、厚さ3mm、100mm四方のフロートガラスを使用した。基材ガラス表面をセリア微粒子で研磨し、ブラッシング洗浄を行い乾燥した。
【0070】
[プライマー層の形成]
ケイ素化合物Aとして3−アミノプロピルトリエトキシシラン(KBM−903、信越シリコーン製)を1g、変性アルコール(エキネン F−1、キシダ化学製)を98g混合した液に1N硝酸(試薬、キシダ化学製)を1g加えて、プライマー塗布液を調製した。このプライマー塗布液をセルロース繊維からなるワイパー(商品名「ベンコット」、型式M−1、50mm×50mm、小津産業製)に湿らせ、フロートガラス基板表面に塗布し乾燥後、乾拭きしてプライマーを塗布した基材を作製した。
【0071】
[防曇性の被膜形成用塗布剤の調合]
メチルアルコール41.53g、イオン交換水10.14g、分子量25,000のポリアクリル酸(和光純薬工業製)10gを加え、溶解するまで攪拌混合した。その後、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(以下、GPTMSと記載する)(信越シリコーン製、商品名:KBE−403)12.72g、メチルトリエトキシシラン(以下、MTESと記載する)(信越シリコーン製、商品名:KBE−13)15.48g、1N硝酸を10.14g添加し、23℃で16時間攪拌し、耐熱性防曇膜形成用塗布剤100gを得た。
【0072】
[防曇性の被膜の形成]
前記塗布剤を、前記基材ガラスのプライマー層上にスピンコーティング法により塗布した。塗布剤が塗布された基材ガラスを100℃に保持された電気炉に16時間入れ、硬化させることにより防曇性の被膜を形成させて防曇性物品を得た。品質評価結果を表1に示す。この防曇性物品の被膜において、膜厚は35μmで、被膜の単位体積の吸水量が0.7mg/mmで○であり、35℃水蒸気防曇性は120秒で○、実車想定防曇性試験は条件1で60分以上となり○、条件2では21分で○、密着性は剥離が生じず○、耐熱試験後も外観・防曇性に変化はなく○であった。
【0073】
【表1】

【0074】
実施例2
実施例1のケイ素化合物Aを3−アミノプロピルトリエトキシシランから3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(KBM−803、信越シリコーン製)とした以外は実施例1と同様の操作で防曇性物品を得た。この防曇性物品の被膜において、膜厚は35μmで、被膜の単位体積の吸水量が0.7mg/mmで○であり、35℃水蒸気防曇性は120秒で○、実車想定防曇性試験は条件1で60分以上となり○、条件2では21分で○、密着性は剥離が生じず○、耐熱試験後も外観・防曇性に変化はなく○であった。
【0075】
実施例3
実施例1の[防曇性の被膜形成用塗布剤の調合]にて、MTES15.48gの代わりにテトラエトキシシラン(以下、TEOSと記載する)20.78gとした以外は実施例1と同様の操作で防曇性物品を得た。この防曇性物品の被膜において、膜厚は35μmで、被膜の単位体積の吸水量が0.2mg/mmで○であり、35℃水蒸気防曇性は40秒で○、実車想定防曇性試験は条件1で45分となり○、条件2では15分で○、密着性は剥離が生じず○、耐熱試験後も外観・防曇性に変化はなく○であった。
【0076】
比較例1
実施例1にて、プライマー層を形成しなかった以外は実施例1と同様の操作で防曇性物品を得た。この防曇性物品の被膜において、膜厚は35μmで、被膜の単位体積の吸水量が0.7mg/mmで○であり、35℃水蒸気防曇性は120秒で○、実車想定防曇性試験は条件1で60分以上となり○、条件2では21分で○、密着性は剥離が生じ×、耐熱試験後は外観・防曇性に変化はなく○であった。
【0077】
比較例2
実施例1の[防曇性の被膜形成用塗布剤の調合]にてポリアクリル酸10gの代わりに、分子量2,000のポリビニルアルコール(キシダ化学製)10gを使用した以外は実施例1と同様の操作で防曇性物品を得た。この防曇性物品の被膜において、膜厚は35μmで、被膜の単位体積の吸水量が1.0mg/mmで○であり、35℃水蒸気防曇性は150秒で○、実車想定防曇性試験は条件1で60分以上となり○、条件2では30分で○、密着性は剥離が生じず○、耐熱試験後は膜が黄変し×であった。
【0078】
比較例3
アセタール化度9%のポリビニルアセタール(KX−1、固形分9%、積水化学製)を防曇膜形成用塗布剤とした以外は実施例1と同様の操作で防曇性物品を得た。この防曇性物品の被膜において、膜厚は10μmで、被膜の単位体積の吸水量が1.5mg/mmで○であり、35℃水蒸気防曇性は60秒で○、実車想定防曇性試験は条件1で50分となり○、条件2では18分で○、密着性は剥離が生じず○、耐熱試験後は膜が黄変し×であった。
【符号の説明】
【0079】
1 車外想定恒温室(温度制御)
2 車内想定恒温室(温度・湿度制御)
3 車外側と車内側を仕切る壁材
4 防曇性物品
5 基材
6 被膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、バインダー成分とポリアクリル酸類の共重合体を含有する被膜と、該基材と被膜との間にプライマー層を有することを特徴とする防曇性物品。
【請求項2】
前記プライマー層が、下記一般式[1]で表されるケイ素化合物Aの加水分解生成物からなることを特徴とする請求項1に記載の防曇性物品。
SiX4−m [1]
(式[1]中、Rはアミノ基、グリシドキシ基、メルカプト基からなる群から選ばれる少なくとも1つの基を含む有機基であり、Xは、炭素数が1〜18のアルコキシ基であり、mは1〜3の整数である。)
【請求項3】
前記バインダー成分が、下記一般式[2]で表されるケイ素化合物B、前記ケイ素化合物Bが一部縮合した化合物C、または前記のBとCを混合したものであることを特徴とする請求項1または2に記載の防曇性物品。
SiY4−n [2]
(式[2]中、Rは炭素数が1〜18の炭化水素基、または、前記炭化水素基の一部の水素原子をエポキシ基、グリシドキシ基、アミノ基からなる群から選ばれる少なくとも1つの基で置換した有機基である。また、Yはアルコキシ基、クロロ基、イソシアネート基、ヒドロキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1つの基であり、nは0〜3の整数である。)
【請求項4】
前記ポリアクリル酸類の分子量が、1,000〜250,000であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の防曇性物品。
【請求項5】
前記ポリアクリル酸類が、
ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸エステル、もしくはポリメタクリル酸エステル、及び、
ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸エステル、もしくはポリメタクリル酸エステルのメチレン鎖の水素原子の一部がエポキシ基、グリシドキシ基、もしくはアミノ基と反応性を有する置換基に置換された化合物からなる群から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の防曇性物品。
【請求項6】
前記のバインダー成分、及び、ポリアクリル酸類の総量に対して、ポリアクリル酸類が5〜60質量%であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の防曇性物品。
【請求項7】
100℃以下の熱に対して耐熱性を有することを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の防曇性物品。
【請求項8】
前記被膜の吸水を、該被膜中に存在するポリアクリル酸類由来の成分によって行い、該被膜の吸水飽和時の単位体積の吸水量が0.05〜3mg/mmであることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の防曇性物品。
【請求項9】
少なくとも以下の工程を経て作製することを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の防曇性物品の形成方法。
(1)基材表面に前記ケイ素化合物Aの加水分解生成物からなるプライマー層を形成する工程
(2)バインダー成分、ポリアクリル酸類を含有する被膜形成用塗布剤を調製する工程
(3)前記被膜形成用塗布剤を塗布する工程、及び
(4)塗膜を硬化する工程

【図1】
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【公開番号】特開2012−17220(P2012−17220A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−155231(P2010−155231)
【出願日】平成22年7月7日(2010.7.7)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】