説明

防曇性用光硬化型樹脂組成物

【課題】
本発明の目的は、水浸漬後も優れた防曇性能を維持でき、透明性が良く、しかも実用的な塗膜強度を有し、かつ防曇性を付与しようとする基材との密着性が良好である防曇膜が得られる防曇性光硬化型樹脂組成物と、それからなる塗料を提供することにある。
【解決手段】
式(1)で表されるアミノ基を含有するラジカル重合可能な単量体(a)と、カルボン酸基、リン酸基、スルホン酸基から選択される1種以上の酸性基を含有するラジカル重合可能な単量体(b)とを含有し質量平均分子量が1000以上で10万以下の重合体(P)と、ラジカル重合性化合物(M)、及び光開始剤(D)を含むことを特徴とする光硬化型樹脂組成物。
【化1】




【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線、電子線、放射線等で硬化可能な光硬化型樹脂組成物に関するもので、さらに詳しくは、親水性と耐水性とを両立させることができる防曇性用光硬化型樹脂組成物であり、それを含有する塗料である。
【背景技術】
【0002】
一般に、透明な基材は、露点以下の温度になると表面に結露を生じて透明度が低下する。このような透明基材の曇りを防止する方法として、従来から幾つかの提案がなされている。
ブロック共重合体、光共重合性化合物、極性溶剤、及び光開始剤からなる紫外線硬化型防曇剤組成物が開示されている(例えば、特許文献1。)。この開示におけるブロック共重合体とは、(メタ)アクリルアミド誘導体と(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルから選ばれた親水性単量体の親水性重合体部分と、疎水性単量体の疎水性重合体部分からなるブロック共重合体である。このような親・疎水性ブロック共重合体は、他化合物との相溶性に乏しく、塗膜の透明性を発現するためには使用できる光共重合性化合物の種類が限定され、使用可能な溶剤種も親・疎水性の両者に良溶剤であるアルコールエーテル系溶剤に限定されていた。このアルコールエーテル系溶剤は、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等であるが、これらは一般的に変異原性等の毒性があるため、その使用を控えるべき溶剤である。
【0003】
また、N−置換(メタ)アクリルアミド単量体と、界面活性能を有する化合物、及び光開始剤を成分とする、光重合性組成物が開示されている(例えば、特許文献2。)。これは親水性を付与する成分が単量体と界面活性剤であり、光硬化で十分な架橋反応を生じさせないと、水浸漬で親水成分が抽出され、耐水後の防曇性が失われてしまう問題があった。そのため、光照射時間を長く必要とし、複雑な形状の成型物に適用する場合には、立ち面等の照射量の少ない部分の耐水性が低下してしまうという問題があった。
さらに、4級アンモニウム塩を有する単量体と、N−ビニルホルムアミド、及びその他の単量体からなる、活性エネルギー線硬化型プラスチック用コーティング剤が開示されている(例えば、特許文献3。)。4級アンモニウム塩基を有する単量体は非常に親水性が強いが、やはり光硬化で十分な架橋反応を生じさせないと、水浸漬後の防曇性が失われてしまう問題があった。またその強い親水性のために相溶性できる化合物が限定され、配合できるその他の単量体や溶剤等が極めて限定されてしまうという問題があった。
また、N−ビニルアミド単位を有する重合体と、光開始剤、及び非ラジカル重合性架橋剤からなる、光硬化型樹脂組成物が開示されている(例えば、特許文献4。)。この開示では親水性を有する重合体を非ラジカル性架橋剤で硬化させ耐水性を付与しているが、非ラジカル性架橋剤は一般的に光硬化するものでなく、水浸漬後の防曇性の低下や、水浸漬による塗膜硬度の低下が問題であった。
【特許文献1】特開平4−211461号公報
【特許文献2】特開平3−200815号公報
【特許文献3】特開平9−268260号公報
【特許文献4】特開2003−238845号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、水浸漬後も優れた防曇性能を維持でき、透明性が良く、しかも実用的な塗膜強度を有し、かつ防曇性を付与しようとする基材との密着性が良好である防曇膜が得られる、光硬化型樹脂組成物と、それからなる塗料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の問題を解決すべく鋭意検討した結果、式(1)で表されるアミノ基を含有するラジカル重合可能な単量体(a)と、カルボン酸基、リン酸基、スルホン酸基から選択される1種以上の酸性基を含有するラジカル重合可能な単量体(b)とを含有する重合体(P)と、ラジカル重合性化合物(M)、及び光開始剤(D)を含むことを特徴とする防曇性用光硬化型樹脂組成物が、
【0006】
【化1】

【0007】
(式(1)において、Rは炭素数1〜10の脂肪族、脂環族又は芳香族炭化水素基(分岐または置換基を有していてもよい。)を、R1、R2は水素又は炭素数1〜10の脂肪族、脂環族又は芳香族炭化水素基(分岐または置換基を有していてもよい。)を意味する。)
水浸漬後も優れた防曇性能を維持でき、透明性が良く、しかも実用的な塗膜強度を有し、かつ防曇性を付与しようとする基材との密着性が良好である防曇膜が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
また、重合体(P)が、式(1)で表されるアミノ基を含有するラジカル重合可能な単量体(a)5〜95質量部、酸性基を含有するラジカル重合可能な単量体(b)5〜95質量部、及びその他のラジカル重合可能な単量体(c)0〜85質量部からなる重合体が好ましい。更に、重合体(P)10〜89.9質量部、ラジカル重合性化合物(M)10〜89.9質量部、及び光開始剤(D)0.1〜15質量部を含むことが好ましい。
また、上記のような防曇性用光硬化型樹脂組成物を含む塗料であり、それを塗布し硬化させて得られた硬化物である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の防曇性用光硬化型樹脂組成物により、水浸漬後も優れた防曇性能を維持でき、透明性が良く、しかも実用的な塗膜強度を有し、かつ防曇性を付与しようとする基材との密着性が良好である防曇膜を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明について以下、詳細に説明する。
【0011】
[重合体(P)]
重合体(P)は、式(1)で表されるアミノ基を含有するラジカル重合可能な単量体(a)とカルボン酸基、リン酸基、スルホン酸基から選択される1種以上の酸性基を含有するラジカル重合可能な単量体(b)、及びその他のラジカル重合可能な単量体(c)の共重合体として得ることができる。
【0012】
【化1】

【0013】
(式(1)において、Rは炭素数1〜10の脂肪族、脂環族又は芳香族炭化水素基(分岐または置換基を有していてもよい)を、R1、R2は水素又は炭素数1〜10の脂肪族、脂環族又は芳香族炭化水素基(分岐または置換基を有していてもよい)を意味する。)
尚、メチル(メタ)アクリレートのような記載は、メチルアクリレート及び/又はメチルメタアクリレートを示し、以下(メタ)とは同様の意味である。
【0014】
式(1)で表されるアミノ基を含有するラジカル重合可能な単量体(a)としては、例えば、N、N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N、N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N、N−ジプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、N、N−ジブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N、N−ジヒドロキシエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノアルキル(メタ)アクリレート類が挙げられる。
【0015】
酸性基を含有するラジカル重合可能な単量体(b)としては、カルボン酸基を含有する単量体(b−1)と、スルホン酸基を含有する単量体(b−2)、及びリン酸基を含有する単量体(b−3)が挙げられる。カルボン酸基を含有する単量体(b−1)としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、及びこれらの無水物等の不飽和カルボン酸類が、また、スルホン酸基を有する単量体(b−2)としては、例えば、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸ソーダ、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等の不飽和スルホン酸類が、更にリン酸基を有する単量体(b−3)としては、例えば、モノ(2−メタクリロイロキシエチル)アシッドホスフェート、モノ(2−アクリロイロキシエチル)アシッドホスフェート等の不飽和リン酸類等が挙げられる。この中でカルボン酸基を含有する単量体(b−1)が、防曇性と耐水性に優れたものが得られるため好ましい。
【0016】
さらに、その他のラジカル重合可能な単量体(c)としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルメタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、等のアルキル(メタ)アクリレート類;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有ビニル類;スチレン、2−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、クロルスチレン、ビニルアニソール、ビニルナフタレン、ジビニルベンゼン等の芳香族ビニル類;アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、マレイン酸アミド等のアミド類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン類;2−メトキシエチルアクリレート、2−エトキシエチルアクリレート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタアクリレート、アリルグリシジルエーテル、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル、塩化ビニル、エチレン、プロピレン、イソプレン、ブタジエン、クロロプレン、ビニルピロリドン、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル(メタ)アクリレート、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル(メタ)アクリレート、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロイルオキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール等が挙げられる。
これらの中で耐水性に優れたものを得るため、スチレン、アルキル(メタ)アクリレート類を使用することが好ましい。
【0017】
本発明における重合体(P)の質量平均分子量は、水浸漬後の防曇性能の維持から1000以上であり、防曇性塗料組成物とした場合の塗料粘度を塗装可能な範囲にするためには、10万以下、好ましくは5万以下、より好ましくは2万以下である。
【0018】
重合体(P)は、式(1)で表されるアミノ基を含有する単量体(a)10〜95質量部、酸性基を含有する単量体(b)5〜95質量部、及びその他の単量体(c)0〜85質量部から構成された重合体であることが好ましい。より好ましくは単量体(a)20〜95質量部、単量体(b)5〜50質量部、単量体(c)0〜75質量部であり、さらに好ましくは単量体(a)40〜95質量部、単量体(b)5〜30質量部、単量体(c)0〜55質量部である。重合体(P)を構成する単量体の比率がこの範囲であると、防曇性に優れた光硬化型樹脂組成物を得ることができる。
【0019】
[ラジカル重合性化合物(M)]
本発明のラジカル重合性化合物(M)としてはアクリル基を有する化合物であり、例えば2エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−へキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール変性トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビス((メタ)アクリロキシエチル)ビスフェノールA、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパンジトリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性グリセリントリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性グリセリントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、これら(メタ)アクリレートの一部をアルキル基やε−カプロラクトンで置換した多官能(メタ)アクリレート、その他活性二重結合を持つアクリロイルモルホリン、トリエチレングリコールジビニルエーテル、ヒドロキシエチルジビニルエーテル、スチレン、ジビニルベンゼン等が挙げられる。
【0020】
さらには、フタル酸、アジピン酸等の多塩基酸と、エチレングリコール、ブタジオール等の多価アルコールと、(メタ)アクリル酸化合物との反応で得られるポリエステルポリ(メタ)アクリレート;エポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸化合物との反応で得られるエポキシポリ(メタ)アクリレート;ポリシロキサンと(メタ)アクリル酸化合物との反応によって得られるポリシロキサンポリ(メタ)アクリレート;ポリアミドと(メタ)アクリル酸化合物との反応によって得られるポリアミドポリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。本発明においては、防曇性と耐水性及び所望とする塗膜の硬度に合わせて上記ラジカル重合性化合物を1種以上適用するが、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパンジトリ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートが好ましく用いられる。
【0021】
[光開始剤(D)]
本発明の光開始剤(D)とは、紫外線、電子線、放射線等でラジカルを発生することが可能な化合物であり、具体例としては、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、アセトイン、ブチロイン、トルオイン、ベンジル、ベンゾフェノン、p−メトキシベンゾフェノン、ジエトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、メチルフェニルグリオキシレート、エチルフェニルグリオキシレート、4,4−ビス(ジメチルアミノベンゾフェノン)、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン等のカルボニル化合物;テトラメチルチウラムジスルフィド等の硫黄化合物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル等のアゾ化合物;2−エチルアントラキノン等のアントラキノン類;ベンゾイルパーオキシド、ジターシャリーブチルパーオキシド等のパーオキシド化合物;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド化合物を挙げることができる。
【0022】
好ましい開始剤の例としては、ベンゾフェノン、メチルフェニルグリオキシレート、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイドであり、これらを単独で使用、または、2種以上併用してもよい。
【0023】
本発明の重合体(P)とラジカル重合性化合物(M)、及び光開始剤(D)の割合は、防曇性と耐水性に優れたものを得るため、通常重合体(P)10〜89.9質量部、ラジカル重合性化合物(M)10〜89.9質量部、及び光開始剤(D)0.1〜15質量部、好ましくは、重合体(P)25〜89質量部、ラジカル重合性化合物(M)10〜75質量部、及び光開始剤(D)1〜10であり、更に好ましくは、重合体(P)40〜89質量部、ラジカル重合性化合物(M)10〜60質量部、及び光開始剤(D)1〜8質量部である。
【0024】
さらに本発明の防曇性用光硬化型樹脂組成物に、有機溶剤、重合禁止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、黄変防止剤、染料、顔料、レベリング剤、消泡剤、増粘剤、沈降防止剤、帯電防止剤、防曇剤、はじき防止剤、湿潤剤、分散剤、だれ防止剤、カップリング剤等の各種添加剤を含有させ塗料化することができる。
【0025】
このような防曇性塗料組成物を基材に塗布する方法に限定はなく、ハケ塗り、スプレーコート、ディップコート、スピンコート、カーテンコートなどの常法によって行われる。十分な耐摩耗性と被膜にクラックを発生させず良好なる基材との密着性を発現させるためには、塗布量として、硬化被膜の膜厚が3〜30μmであることが好ましい。
【0026】
基材に塗布された被膜を硬化させる手段としては、紫外線、電子線、放射線等の活性エネルギー線を照射する公知の方法を用いることができ、紫外線発生源としては実用的、経済性の面から紫外線ランプが一般に用いられている。具体的には、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、キセノンランプ、ガリウムランプ、メタルハライドランプ、太陽光等の紫外線などが挙げられる。照射雰囲気は空気でもよいし、窒素、アルゴン等の不活性ガスでもよい。本発明の被覆組成物を塗布した後、紫外線放射エネルギーにて硬化させる前に、硬化被膜の基材に対する密着性向上を目的として、赤外線または熱風乾燥炉を用いて、20〜120℃で1〜60分間の熱処理を行ってもよい。
【0027】
基材としては、ガラス等の無機材料や各種の合成樹脂成形品が挙げられ、本発明はこれらの表面に適用できる。合成樹脂成形品の具体例は、ポリメチルメタクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリオレフィン樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリメタクリルイミド樹脂、ポリアリルジグリコールカーボネート樹脂などが挙げられる。特に、透明性が必要とされる用途に使用されるポリメチルメタクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリオレフィン樹脂が、本発明の光硬化型樹脂組成物の基材として用いるのに有効である。また合成樹脂成形品とは、これらの樹脂からなるシート状成形品、フィルム状成形品、各種射出成形品などである。
【0028】
本発明の光硬化型樹脂組成物を含む塗料によって得られた塗膜は、水浸漬後も優れた防曇性能を維持でき、透明性が良く、しかも実用的な塗膜強度を有し、かつ防曇性を付与しようとする基材との密着性が良好であるため、特にPCやPMMA、PET等の透明性プラスチック基材を使用する自動車部品、建築材料、光学用フィルム、レンズ、容器などの表面に防曇性を有するハードコート膜を形成するものである。
【実施例】
【0029】
以下に、本発明の実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
[実施例1]
<組成物の調製>
ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)85g、メタクリル酸(MAc)15g、n−ブタノール95g、アゾビスイソブチロニトリル3gの混合溶液を、トルエン50g、n−ブタノール50gとを仕込んだ反応容器に、空気気流下で100℃で4時間かけて滴下した。さらに100℃を維持し、重合を完結させるためにアゾビスイソブチロニトリル1gを1時間ごとに2回添加した。滴下終了から3時間後に冷却し、不揮発分35%の重合体溶液を得た。さらに、この重合体溶液200g(重合体70g)にペンタエリスルトールトリアクリレート(PE−3A)30g、イルガキュア184(チバスペシャリティ社製の光開始剤)3gを混合し、光硬化型樹脂組成物を得た。相溶性は良好で透明な光硬化型樹脂組成物が得られた。
【0030】
[実施例2、3、4,5]
重合体を構成する単量体種、及び重合体とPE−3Aの混合比率を表1に示すように変更し、実施例1と同様な操作により光硬化型樹脂組成物を得た。
【0031】
[比較例1、2]
重合体を構成する単量体種を表1に示す単量体に変更した以外は実施例1と同様な操作により光硬化型樹脂組成物を得た。ただし比較例1,2ともにトルエンとn−ブタノールの混合溶剤では相溶性が不良で重合中に重合体が析出したため、メチルセロソルブを溶剤として重合を行った。
【0032】
[評価方法]
上記で得られた光硬化型ウレタン樹脂に対し、以下に示す方法で試験を行った。その結果を表1に示す。
<溶剤との相溶性>
重合体を調製する時に、トルエンとnーブタノールの混合溶剤で重合体が析出しなかったものを○とし、析出や白濁したものを×とした。
<分子量>
重合体の分子量をGPC(Shodex GPC SYSTEM−11:昭和電工製)でRI検出器により、質量平均分子量を測定した。
<紫外線硬化>
合成した光硬化型樹脂組成物を所定の基材にアプリケーターで25μm塗装し、100w/cmの高圧水銀灯を3灯有する紫外線照射装置で照射距離10cm、ライン速度10m/minで紫外線を照射した。これで得られた同試験片を、以降の透明性、密着性、耐擦傷性の試験に供した。
<透明性>
ASTM D−1003に準拠し、ヘーズメータを用いて曇価を測定した。
○…透明で硬化被膜に濁りなし(曇価0〜0.2%)
△…硬化被膜に少し濁りあり(曇価0.3〜0.6%)
×…硬化被膜の濁りがはっきり判別できる(曇価0.7%以上)
<防曇性>
容量200mlビーカーに約100mlの40℃温水を入れ、ビーカー上面ポリカーボネート(PC)板に塗布した試験板の塗工面を温水側にしてかぶせ、以下のような基準で評価した。
○・・・曇りが発生せず透明であり、ビーカー内部が見える。
△・・・曇りは発生するが、ビーカー内部が一部見える。
×・・・曇りが発生して透明性が失われ、ビーカー内部が全く見えない。
<水浸漬後の防曇性>
ポリカーボネート(PC)板に塗布した試験板を、40℃の温水に24時間浸漬したのち、常温で乾燥させ、上記の防曇性の試験を行った。
<密着性>
ポリカーボネート(PC)板とポリエチレンテレフタレート(PET)板にそれぞれ塗布して、密着性を碁盤目試験(JIS K5600−5−6)によって評価した。
○・・・剥離がない。
△・・・剥離の数が1〜50個
×・・・剥離の数が51〜100個
<2次密着性>
ポリカーボネート(PC)板とポリエチレンテレフタレート(PET)板に塗布した試験板を、40℃の温水に24時間浸漬したのち、常温で乾燥させ、上記の密着性の試験を行った。
[評価結果]
【0033】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、紫外線や放射線、電子線等で硬化させる光硬化型塗料の原料樹脂として好適に使用できる。このような光硬化型塗料は、塗料、接着剤、建築材料、成型材料等に好適であり、特にプラスチックのフィルムや成型体に適用される塗料に優れた特性を発揮するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表されるアミノ基を含有するラジカル重合可能な単量体(a)と、カルボン酸基、リン酸基、スルホン酸基から選択される1種以上の酸性基を含有するラジカル重合可能な単量体(b)とを含有する重合体(P)と、ラジカル重合性化合物(M)、及び光開始剤(D)を含むことを特徴とする防曇性用光硬化型樹脂組成物。
【化1】



【請求項2】
前記重合体(P)が、式(1)で表されるアミノ基を含有するラジカル重合可能な単量体(a)5〜95質量部、酸性基を含有するラジカル重合可能な単量体(b)5〜95質量部、及びその他のラジカル重合可能な単量体(c)0〜85質量部からなる重合体であることを特徴とする、請求項1記載の防曇性用光硬化型樹脂組成物。
【請求項3】
重合体(P)10〜89.9質量部、ラジカル重合性化合物(M)10〜89.9質量部、及び光開始剤(D)0.1〜15質量部を含むこと特徴とする、請求項1又は2記載の防曇性用光硬化型樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の防曇性用光硬化型樹脂組成物を含む塗料。
【請求項5】
請求項4に記載の塗料を硬化させて得られた硬化物。

【公開番号】特開2006−36805(P2006−36805A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−214201(P2004−214201)
【出願日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】