説明

防曇防汚性物品

【課題】自動車、鉄道、船舶、および飛行機等の輸送機器用の窓に好適であり、乗員の視界阻害等を防止できる、優れた防曇性能および防汚性能を有する防曇防汚性物品を提供すること。
【解決手段】基体と該基体表面に設けられた吸水性樹脂膜とを有する防曇防汚性物品であって、前記吸水性樹脂膜の飽和吸水量が60mg/cm以上であり、かつ、飽和吸水時における前記吸水性樹脂膜の表面の水接触角が40〜90°であることを特徴とする防曇防汚性物品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防曇性および防汚性を有する物品に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラスやプラスチックなどの透明基体は、基体表面の温度と、それに接する雰囲気温度との差が大きくなった場合に、雰囲気中の水分が微細な水滴として基体の表面に付着し、結露する。結露が発生すると、微細な水滴が透過光の散乱を起こし、いわゆる「曇り」の状態が発生する。
基体が輸送機器用の窓(特に自動車のフロントガラスやリアガラスなど)である場合は、車内雰囲気温度と車外雰囲気温度との差が大きくなりやすく、また車内の雰囲気温度が高くなりやすい雨の日や雪の日などに、ガラスの車内側の表面に水滴が結露し曇りを生じることが多く、運転者や同乗者の視界を妨げ、安全性や快適性の妨げになることがある。よって、曇りを防ぐ手段が種々検討されており、たとえば以下の提案がなされてきた。
【0003】
(1)基体表面に界面活性剤を塗布する方法(たとえば特許文献1参照)、
(2)基体表面に親水性樹脂や親水性無機化合物等を処理し、基体表面を親水性にする方法(たとえば特許文献2、3参照)、
(3)基体表面に、吸水性樹脂からなる被膜、多孔質の無機材料化合物からなる被膜等の吸水性被膜を形成し、基体表面に吸水性能を付与する方法(たとえば特許文献4〜7参照)、
(4)基体にヒーター等を設置して加温することにより、基体表面を露点温度以上に維持する方法、
(5)デフロスターもしくはデフォッガーとよばれる装置によってエアコンディショナーの温風または除湿された風を基体表面に吹き付け、結露した水を蒸発させる方法、
(6)基体表面に撥水性化合物を処理して基体表面に微小水滴を付着させない方法。
【0004】
しかし、(1)の方法では、界面活性剤を基体表面に固定することが難しく、長期間にわたり低い表面張力を維持することが難しい。(2)の方法は無機系の汚れを吸着固定しやすく、長期間親水性を維持することが難しい。また、水滴が親水性表面に継続的に付着すると水膜の厚みが増大し、仮に水膜が均一な厚みで増大したとしても多少の透視像の歪みは避けられない。基体が輸送機器用窓部材である場合は、透視像の歪みは運転に支障や危険を生じる場合があり、好ましくない。さらに、透視像の歪みは急激に発生するものではなく徐々に進行するため、運転者が危険を認識してデフロスターを作動させたとしても水膜が既に相当な厚みとなっている場合が多く、水膜が蒸発するのに時間を要するため、視界はすぐには改善されない。
【0005】
(4)の方法では、防曇性能を半永久的に維持できるが、通電に伴うエネルギーを常に必要とするため非常に高コストである。(5)の方法は、エンジンの駆動によって発生した熱を一部利用する場合が多く、特に冬期間でエンジンが冷えている状態では十分な効果を得るまでに時間を要する場合がある。また電気を使うことによる燃費への悪影響も避けられない。(6)の方法では、直径1nm以下の極微小な水滴も滑落できるまたは付着させない撥水性が必要とされるが、現状そのような技術は存在しない。
したがって、優れた防曇効果が得られ、その効果を長期間に渡って、容易にかつ低コストで持続できるのが(3)の方法である。
【0006】
一方、基体が自動車等の輸送機器用の窓として用いられる場合、車内の内装材として使用される樹脂から発生する可塑剤や、乗員が吸うタバコの煙などで基体の車内面側が汚染され、乗員の視界が阻害されたり、乗員が不快感を感じたりすることがある。よって、基体が防汚性を有することも求められている。
【0007】
【特許文献1】特開2003−238207号公報
【特許文献2】特開2003−226842号公報
【特許文献3】特開2001−356201号公報
【特許文献4】特開2005−187276号公報
【特許文献5】特開2002−53792号公報
【特許文献6】特開2004−269851号公報
【特許文献7】特開平11−335142号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
良好な防曇効果を得るためには、前記のように基体表面に吸水性能を付与することが有効である。しかし、吸水性樹脂からなる被膜、多孔質の無機材料からなる被膜等の吸水性の被膜は汚れを吸着しやすい場合があり、乗員の視界が阻害されたり、乗員が不快感を感じたりするおそれがあった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は前記の課題を解決すべくなされた発明であり、以下の発明を提供する。
[1]基体と該基体表面に設けられた吸水性樹脂膜とを有する防曇防汚性物品であって、前記吸水性樹脂膜の飽和吸水量が60mg/cm以上であり、かつ、飽和吸水時における前記吸水性樹脂膜の表面の水接触角が40〜90°であることを特徴とする防曇防汚性物品。
[2]前記吸水性樹脂膜が、膜形成材料を基体表面で反応させることにより形成された樹脂膜である[1]に記載の防曇防汚性物品。
【0010】
[3]前記膜形成材料が、架橋性樹脂と架橋剤とを含む膜形成材料である[2]に記載の防曇防汚性物品。
[4]前記膜形成材料が、さらに架橋性樹脂と架橋剤との合計量に対して1質量%以下のシリコーンを含む[2]または[3]に記載の防曇防汚性物品。
[5]防曇防汚性物品が自動車窓用ガラス板である[1]〜[4]のいずれかに記載の防曇防汚性物品。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、防曇効果と防汚効果を同時に発現する防曇防汚性物品が得られる。この防曇防汚性物品を輸送機器用窓ガラス(特に自動車用窓ガラス)に用いることにより、恒常的に良好な視界が確保できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明で言う防曇効果とは、曇りを全く発生させないものではなく、曇り難くさせる、例えば曇りの発生を遅延させるような効果のことを言う。また、本発明で言う防汚効果とは、付着した汚れを分解するものではなく、また汚れを全く付着させないものでもなく、通常のガラスに比べ汚れの付着量を低減する効果のことを言う。
【0013】
本発明の防曇防汚性物品は、基体と該基体表面に設けられた吸水性樹脂膜とを有する。
【0014】
基体としては、ガラス、プラスチック、金属、セラミックス、またはこれらの組み合わせ(複合材料、積層材料等)からなる基体であることが好ましく、ガラスまたはプラスチックからなる透明基体であることが特に好ましい。
基体の形状は平板でもよく、全面または一部に曲率を有していてもよい。基体の厚さは防曇防汚性物品の用途により適宜選択され、一般には1〜10mmが好ましい。
【0015】
基体は、表面に反応性基を有することが好ましい。反応性基としては親水性基が好ましく、親水性基としては水酸基が好ましい。また、基体に酸素プラズマ処理、コロナ放電処理、オゾン処理等を施し、表面に付着した有機物を分解除去したり、表面に微細な凹凸構造を形成したりすることにより、表面を親水性化してもよい。ガラスや金属酸化物は通常、表面に水酸基を有する。
【0016】
また、基体と吸水性樹脂膜との密着性を高める等の目的で、基体表面にはシリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア等の金属酸化物薄膜や有機基含有金属酸化物薄膜が設けられていてもよい。金属酸化物薄膜は加水分解性基を有する金属化合物を用いてゾルゲル法で形成することができる。この金属化合物としてはテトラアルコキシシランやそのオリゴマー、テトライソシアネートシランやそのオリゴマー等が好ましい。有機基含有金属酸化物薄膜は有機金属系カップリング剤で基体表面を処理して得られる薄膜である。有機金属系カップリング剤としては、シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤等が使用でき、特にシラン系カップリング剤が好ましい。
【0017】
本発明における吸水性樹脂膜は、前記基体表面に設けられた吸水性樹脂からなる。該吸水性樹脂は、その飽和吸水量が60mg/cm以上であり、かつ、飽和吸水時における前記吸水性樹脂膜の表面の水接触角が40〜90°である樹脂である。吸水性樹脂が、前記の飽和吸水量および水接触角の条件を満たす場合、防曇性と防汚性の両立が可能である。さらに吸水性樹脂膜の耐久性も向上するので好ましい。
【0018】
なお、飽和吸水量は以下の手順によって算出した値である。防曇防汚性物品を室温相対湿度50%の環境下に1時間放置し、つぎに吸水性樹脂膜の面を40℃の温水蒸気に曝露し、吸水性樹脂膜の表面上に曇りまたは水膜による歪みが生じた直後に微量水分計を用いて防曇防汚性物品全体の水分量(A)を測定する。別途、吸水性樹脂膜が形成されていない基体そのものの水分量(B)を同様の手順で測定し、水分量(A)から水分量(B)を引いた値を吸水性樹脂の体積で除した値を飽和吸水量とした。
微量水分計による水分量の測定は、試験サンプルを120℃で加熱し、サンプルから放出された水分を微量水分計内のモレキュラーシーブスに吸着させ、モレキュラーシーブスの重量変化を水分量とした。なお、測定の終点は、1分間あたりの重量変化の変化量が0.02mg以下になったときとする。
【0019】
飽和吸水時の水接触角は、飽和吸水時において、吸水性樹脂膜の面に2μLの水を付着させて自動接触角測定機(CRUSS社製)を用いて測定した値である。なお、本発明における「飽和吸水時」とは以下の状態を指す。
防曇防汚性物品を水(水道水、蒸留水等)に完全に浸漬させ、10分間放置する。つぎに、防曇防汚性物品を取り出し、吸水性樹脂の表面に付着した水をブローによって除去する。つぎに防曇性能評価装置によって評価し、すぐ曇ることを確認し、その状態を飽和吸水時とする。なお、防曇性能の評価は実施例中に詳述する。
【0020】
飽和吸水量は、防曇性能と耐久性(耐磨耗性、耐水性、耐熱性、耐湿性、耐水拭き性等)との両立が可能である点から75〜185mg/cmであることが好ましく、90〜155μg/cmであることが特に好ましい。
【0021】
飽和吸水時の水接触角としては、40〜90°であり、60〜80°であることが好ましい。水接触角が40〜90°であれば、本発明の防曇防汚性物品を輸送機器用窓部材に使用する場合に、水膜発生による視界阻害やフラッシングの発生を抑制する効果がある。飽和吸水時における一般的な吸水性樹脂膜の表面の水接触角は、最大でも110°程度であるので、飽和吸水時において水滴は基体表面にとどまった状態となる。そこで水接触角が90°より大きいと(90°より大きく、110°程度よりも小さいと)、透過光の散乱が顕著になりフラッシングが発生し、視界が低下する場合がある。基体の車内面側はワイパー等の水滴をのぞくための装置がないため、多少でもフラッシングが発生すると、すぐに視界に対する影響が発生しうる。飽和吸水時の水接触角の上限値が90°であることによって少しのフラッシングも充分抑制できる。また、飽和吸水時の水接触角が40°より小さいと、樹脂膜が吸水しきれなかった水によって水膜が形成されることによる透視歪みが発生するおそれがある。
【0022】
このような吸水性樹脂としては特に限定されず、たとえば以下に示す樹脂のうち、前記のおよび飽和吸水量および接触角の条件を満たしている樹脂が使用できる。
デンプン−アクリロニトリルグラフト重合体加水分解物、デンプン−アクリル酸グラフト重合体等の複合体等のデンプン系樹脂;セルロース−アクリロニトリルグラフト重合体、カルボキシメチルセルロースの架橋体等のセルロース系樹脂;ポリビニルアルコール架橋重合体等のポリビニルアルコール系樹脂;ポリアクリル酸ナトリウム架橋体、ポリアクリル酸エステル架橋体等のアクリル系樹脂;ポリエチレングリコール・ジアクリレート架橋重合体、ポリアルキレンオキシド−ポリカルボン酸架橋体等のポリエーテル系樹脂;ポリエーテルポリオールやポリエステルポリオールとポリイソシアネートとの反応物である架橋ポリウレタン等。
【0023】
なお、本発明における吸水性樹脂膜としては、JIS R 3212に従って実施した耐摩耗性試験による試験前後のヘイズ値の変化が20%以下であることが好ましい。
【0024】
本発明における吸水性樹脂としては、線状の重合体であってもよく、3次元網目構造を有する非線状の重合体であってもよく、耐久性が良好なことから後者が好ましい。後者としては、線状重合体鎖同士が結合して3次元網目構造を形成しているものが好ましい。
【0025】
基体表面に吸水性樹脂膜を設ける方法としては、(1)膜形成材料を基体表面で反応させる方法、(2)膜形成材料を用いて吸水性樹脂を得て、該吸水性樹脂をフィルム状に成形し、該フィルムを基体と貼り合わせる方法、および(3)吸水性樹脂を基体表面に塗布する方法等が挙げられる。これらの方法のうち、(1)および(2)の方法が好ましく、基体との密着性に優れ耐久性が良好である点、大面積の基体表面に吸水性樹脂層を設ける場合や、工業的量産の際に良好な外観を維持できる点、により(1)の方法が特に好ましい。
【0026】
以下、(1)の方法により、3次元網目構造を有する非線状の重合体である吸水性樹脂膜を基体表面に設ける方法について説明する。なお、これ以降、3次元網目構造を有する非線状の重合体を「架橋樹脂」と呼ぶ。
【0027】
膜形成材料は、吸水性樹脂膜を得るための材料であり、架橋性樹脂と架橋剤とを必須成分とする組成物である。膜形成材料は、さらには基体表面と架橋樹脂との密着性を向上させるためのカップリング剤、および、塗布作業性向上のための溶剤を含んでいることが好ましい。よって、基体表面に吸水性樹脂膜(吸水性の架橋樹脂層)を設ける方法としては、架橋性樹脂と架橋剤とカップリング剤と溶剤とを含む液状の組成物を基体表面に塗布し、乾燥、反応させる方法が特に好ましい。その他に、溶剤中で架橋性樹脂と架橋剤とを反応させた後、カップリング剤を添加することによって得られる液状組成物を基体表面に塗布し、乾燥、さらに反応させる方法;架橋性樹脂と架橋剤とカップリング剤を含む溶液中で反応させて得られる液状組成物を基体表面に塗布し、乾燥、さらに反応させる方法も好ましい。
【0028】
本発明における架橋性樹脂とは、架橋性基を有する重合体であって、架橋剤と反応して架橋樹脂となりうるものであれば特に制限はない。架橋性基を有する重合体は線状の重合体であることが好ましい。架橋性基としては、ビニル基、エポキシ基、スチリル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、アミノ基、ウレイド基、クロロ基、チオール基、スルフィド基、水酸基、カルボキシル基、酸無水物基等が挙げられ、カルボキシル基、エポキシ基、および水酸基等が好ましく、カルボキシル基が特に好ましい。架橋性樹脂が有する架橋性基の数は、本発明において必要とされる防曇性能および耐久性を満足する限り何個でもよく、通常は架橋性樹脂1gあたり0.1〜3.0ミリモルであることが好ましい。
【0029】
このような架橋性樹脂としては、上記のような架橋性基を有するビニルポリマー(以下、架橋性ビニルポリマーという)が好ましい。本発明において架橋性ビニルポリマーとは、炭素−炭素二重結合を含む重合性部位を有するモノマーが重合することによって形成される主鎖を有する重合体をいう。架橋性ビニルポリマーは線状重合体であることが好ましい。また、架橋性ビニルポリマーは親水性の基や親水性の重合体鎖を有することが、吸水性の高い架橋樹脂が得られる点で好ましい。
【0030】
架橋性ビニルポリマーとしては、カチオン性基と架橋性基とを有する架橋性ビニルポリマーであることが好ましい。よって、本発明における架橋樹脂としては、カチオン性基と架橋性基とを有する架橋性ビニルポリマーと架橋剤との反応により得られる架橋樹脂であることが好ましい。カチオン性基としては、4級アンモニウム構造を有する基が好ましい。架橋性基としては、架橋剤が有する反応性基と反応し、3次元網目構造を形成できる基であれば特に限定されない。架橋性基としては、前記の架橋性基が挙げられ、カルボキシル基、エポキシ基、水酸基等が好ましく、カルボキシル基が特に好ましい。
【0031】
架橋性ビニルポリマーの分子量は、特に限定されるものではないが、数平均分子量として、500〜50000が好ましく、1000〜20000が特に好ましい。分子量が500未満の場合は、防曇防汚性能が低下するおそれがある。また、分子量が50000を超えると、基体と架橋樹脂との密着性が低下するおそれがある。
【0032】
また、架橋性ビニルポリマー中のカチオン性基の割合はポリマー1g当たり0.4〜2.0ミリモルが好ましく、特に0.5〜1.5ミリモルが好ましい。さらに架橋性基の割合はポリマー1g当たり0.1〜3.0ミリモルが好ましく、1.0〜3.0ミリモルが特に好ましく、1.5〜2.5ミリモルがとりわけ好ましい。
【0033】
上記架橋性ビニルポリマーはカチオン性基を有するモノマー単位と架橋性基を有するモノマー単位を含む。また、通常はさらにこれらモノマー単位以外の他のモノマー単位を含む。他のモノマー単位は架橋性ビニルポリマー中のカチオン性基と架橋性基の量を調節するとともに架橋性ビニルポリマーやそれが架橋した架橋樹脂の物理的特性や化学的特性を調節するために使用される。
【0034】
カチオン性基を有するモノマー単位としては、カチオン性基として4級アンモニウム構造を有するモノマー単位が好ましく、4級アンモニウム構造を有する不飽和カルボン酸エステル系モノマーのモノマー単位(U1)であることが特に好ましい。
【0035】
他のモノマー単位としては、炭化水素基を有するモノマー単位であることが好ましく、炭化水素基を有する不飽和カルボン酸エステル系モノマーのモノマー単位(U2)であることが特に好ましい。
【0036】
架橋性基を有するモノマー単位としては、架橋性基としてカルボキシル基を有するモノマー単位であることが好まく、不飽和カルボン酸系モノマーのモノマー単位(U3)であることが特に好ましい。
【0037】
なお、架橋性ビニルポリマーにおけるモノマー単位とは、モノマーの重合により形成された単位をいい、具体的モノマー単位は「(モノマー名)のモノマー単位」と表すか、単に「「具体的モノマー名」単位」と表す。また、モノマー単位は、モノマーの重合により直接形成されるモノマー単位(不飽和二重結合部分以外の化学構造がモノマーと同一)を意味するが、本発明ではさらに、重合後にポリマーを化学的変換した場合にモノマー単位部分が化学的に変化しても化学的変換前にモノマー単位であった部分の単位もモノマー単位という。例えば、不飽和カルボン酸エステルをモノマーとしてポリマーを形成した後そのモノマー単位を加水分解してカルボキシル基を有するモノマー単位とすることができる。同様に、不飽和カルボン酸をモノマーとしてポリマーを形成した後そのモノマー単位のカルボキシル基をアルキルエステル化してアルキル基(炭化水素基の1種)を有するモノマー単位とすることができる。また、モノマー単位をもたらした元のモノマーを単に「モノマー単位のモノマー」という。
【0038】
各モノマー単位(U1)〜(U3)のモノマーをそれぞれ以下モノマー(M1)〜(M3)という。モノマー(M3)の不飽和カルボン酸としては、不飽和脂肪族カルボン酸が好ましく、アクリル酸およびメタクリル酸が特に好ましい。モノマー(M1)、(M2)の不飽和カルボン酸エステルとしては、不飽和脂肪族カルボン酸エステルが好ましく、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルが特に好ましい。
【0039】
架橋性ビニルポリマー中のモノマー単位(U1)の含有量は、架橋性ビニルポリマーを構成する全モノマー単位に対して5モル%以上であることが好ましく、15〜50モル%であることが特に好ましい。モノマー単位(U2)の含有量は、全モノマー単位に対して10モル%以上であることが好ましく、20〜80モル%であることが特に好ましい。モノマー単位(U3)の含有量は、全モノマー単位に対して1〜20モル%であることが好ましく、10〜20モル%であることが特に好ましい。
【0040】
架橋性ビニルポリマーはモノマー(M1)〜(M3)を含むモノマーを共重合させることにより得ることができる。共重合体としては、ブロック共重合体およびランダム共重合体のいずれであってもよい。架橋性ビニルポリマーを得るための重合反応は、熱重合反応によることが好ましい。熱重合反応を行う際は、アゾビスイソブチロニトリル等の重合触媒を用いることが好ましい。
【0041】
モノマー単位(U1)としては、下式(1)で表されるモノマーのモノマー単位であることが好ましい。すなわち、モノマー(M1)としては、下式(1)で表されるモノマーが好ましい。
CH=CR−COO−(CH−N・・・(1)
式(1)においてRは水素原子またはメチル基であり、得られる吸水性の架橋樹脂の耐水性向上に効果的であるのでメチル基であることが好ましい。
、R、およびRはそれぞれ独立に水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜9のアルキル基である。R、R、およびRが後者の基である場合、直鎖構造であっても分岐構造であってもよく、直鎖構造であることが好ましい。また、非置換の基であることが好ましい。置換基を有する場合、置換基としては、アルコキシ基、アリール基、またはハロゲン原子であることが好ましい。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基が好ましい。アリール基としてはフェニル基が好ましい。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子が好ましい。なお、「炭素数1〜9」は置換基部分を除いたアルキル基部分の炭素数が1〜9であることを意味する。
【0042】
、R、およびRとしては、それぞれ独立に水素原子、メチル基、またはエチル基であることが好ましい。また、これらの基は同一の基であっても異なる基であってもよい。R、R、およびRとしては、全てがメチル基であること、および、これらのうちの1つが水素原子であり、他の2つがメチル基であることが好ましい。
【0043】
は1価アニオンであり、F、Cl、Br、I、およびp−CHSOが挙げられ、吸水性を支配する架橋樹脂層内部に水を保持する空間を確保しやすいため、FおよびClが好ましい。
mは1〜10の整数であり、防曇防汚性能と耐久性との両立が容易である点から2〜5が好ましい。
【0044】
モノマー(M1)としては、以下に示すモノマーが好ましい。
CH=CH−COO−(CH−NH(CHCl・・・(1A)、
CH=C(CH)−COO−(CH−NH(CHCl・・・(1B)、
CH=CH−COO−(CH−N(CHCl・・・(1C)、
CH=C(CH)−COO−(CH−N(CHCl・・・(1D)。
【0045】
モノマー単位(U2)としては、下式(2)で表されるモノマーのモノマー単位であることが好ましい。すなわち、モノマー(M2)としては、下式(2)で表されるモノマーが好ましい。
CH=CR−COOR・・・(2)
ただし、式中の記号は以下の意味を示す。
:水素原子またはメチル基。
:炭素数1〜30のアルキル基、炭素数2〜8のアルコキシアルキル基、アリール基、またはアリールアルキル基。
【0046】
としては、得られる吸水性の架橋樹脂の耐水性向上に効果的であるのでメチル基であることが好ましい。Rが炭素数1〜30のアルキル基である場合、直鎖構造であっても分岐構造であってもよく、直鎖構造であることが好ましい。炭素数1〜30のアルキル基としては、炭素数1〜20のアルキル基が好ましく、炭素数1〜10のアルキル基が特に好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基がとりわけ好ましい。Rが炭素数2〜8のアルコキシアルキル基である場合、アルキル基部分の炭素数が1〜4であり、該アルキル基に置換するアルコキシ基部分の炭素数が1〜4であることが好ましい。Rが炭素数2〜8のアルコキシアルキル基である場合、メトキシメチル基、エトキシメチル基、プロポキシメチル基、メトキシエチル基、エトキシエチル基、およびメトキシプロピル基が好ましく使用できる。
がアリール基である場合、フェニル基、トリル基が好ましい。Rがアリールアルキル基である場合、ベンジル基が好ましい。
【0047】
モノマー(M2)としては、以下に示すモノマーが好ましい。
CH=CH−COOCH・・・(2A)
CH=C(CH)−COOCH・・・(2B)
CH=CH−COO−(CH−OCH・・・(2C)
CH=C(CH)−COO−(CH−OCH・・・(2D)。
【0048】
モノマー単位(U3)としては、下式(3)で表されるモノマーのモノマー単位が挙げられる。
CH=CR−COOH・・・(3)
ただし、式中のRは水素原子またはメチル基を示し、水素原子であることが好ましい。Rが水素原子であると、架橋性ビニルポリマーを得るための重合反応が速やかに進行し、重合反応の収率も良好である。このことは、重合反応に関与する部位の立体障害が小さくなるためと考えられる。
【0049】
モノマー(M3)としては前記式(3)で表されるモノマー以外に、不飽和ジカルボン酸および不飽和ジカルボン酸の無水物も使用できる。不飽和ジカルボン酸としては、マレイン酸およびフマル酸等が挙げられる。不飽和ジカルボン酸の無水物としては、無水マレイン酸等が挙げられる。モノマー(M3)としては、式(3)で表されるモノマーが好ましい。
【0050】
本発明における架橋剤は、前記架橋性樹脂と反応し、3次元網目構造の架橋樹脂を形成する化合物であり、前記架橋性樹脂が有する架橋性基と反応しうる反応性基を有する化合物である。架橋剤を用いることにより、架橋剤が有する反応性基が、基体表面に存在する反応性基および架橋樹脂が有する架橋性基と反応し、基体表面に強固な架橋樹脂層を形成することができる。場合によっては架橋剤が架橋樹脂に吸水性を付与してもよい。
【0051】
架橋剤の反応性基はその架橋剤と組み合わせる架橋性樹脂の架橋性基の種類に応じ、それと反応できる反応性基から選択される。該反応性基としては、ビニル基、エポキシ基、スチリル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、アミノ基、ウレイド基、クロロプロピル基、メルカプト基、スルフィド基、イソシアネート基、水酸基、カルボキシル基、酸無水物基等が挙げられる。例えば、架橋性樹脂の架橋性基がカルボキシル基の場合は、エポキシ基やアミノ基が好ましく、エポキシ基が特に好ましい。架橋性基が水酸基の場合はエポキシ基やイソシアネート基が好ましく、架橋性基がエポキシ基の場合はカルボキシル基、アミノ基、酸無水物基、水酸基が好ましい。また、架橋剤1分子が有する反応性基の数は平均して1.5個以上であり、2〜8個であることが好ましい。反応性基の数が前記の範囲であると、防曇性、防汚性、耐摩耗性とのバランスに優れた吸水性の架橋樹脂を得ることができる。
【0052】
架橋剤は2種以上を併用することができる。例えば、主たる架橋剤とともに第2の架橋剤を併用できる。この第2の架橋剤は架橋性樹脂の架橋性基と反応する反応性基(主たる架橋剤と同じ反応性基であってもよく異なる反応性基であってもよい)であるばかりでなく、主たる架橋剤の反応性基に反応する反応性基を有する化合物であってもよい。主たる架橋剤に反応する第2の架橋剤は主たる架橋剤を介して架橋性樹脂と結合する。このような第2の架橋剤を併用することにより、架橋性樹脂と主たる架橋剤とによる架橋樹脂の形成を促進することができる。例えば、カルボキシル基を有する架橋性樹脂とエポキシ基を有する架橋剤との組み合わせにおいて、さらにアミノ基を有する第2の架橋剤や酸無水物基を有する第2の架橋剤を併用することにより、架橋樹脂の形成が促進される。また、この第2の架橋剤は架橋性樹脂を架橋する機能よりは架橋樹脂の物性を調節する成分として機能させることができる。例えば、第2の架橋剤によって架橋樹脂の吸水性を高めることもできる。
【0053】
本発明における架橋剤としては、ポリオール系化合物、ポリアミン系化合物、ポリカルボン酸系化合物(ポリカルボン酸無水物を含む)、ポリイソシアネート系化合物、ポリエポキシ系化合物等が挙げられる。これら架橋剤は架橋性樹脂の架橋性基に応じて選択される。カルボキシル基を有する架橋性樹脂の架橋に使用する架橋剤としては、特にポリエポキシ系化合物が好ましい。また、ポリエポキシ系化合物とともに第2の架橋剤としてポリアミン系化合物やポリカルボン酸無水物等を併用することも好ましい。
【0054】
ポリエポキシ系化合物としては、脂肪族ポリグリシジル化合物が好ましい。具体的には、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールポリグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールポリグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのうち、特に防曇防汚性能の良好な架橋樹脂が得られることから、グリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル等の3個以上の水酸基を有する脂肪族ポリオールのポリグリシジルエーテル(1分子あたり平均のグリシジル基の数が2を超えるもの)が好ましい。
【0055】
ポリアミン系化合物としては、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、メンセンジアミン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン等が好ましく、ポリカルボン酸系化合物としては、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸等が好ましい。ポリオール系化合物としては、多価アルコール−エチレンオキシド付加物、多価アルコール−プロピレンオキシド付加物、ポリエステルポリオール等が好ましく、ポリイソシアネート系化合物としてはヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等が好ましい。
【0056】
架橋性樹脂に対する架橋剤の割合は、架橋性基と反応性基の数がほぼ等しくなる割合が適当であり、その架橋性基に対する反応性基の当量比は0.8〜1.2程度が好ましい。ただし、第2の架橋剤やそれ以外のこの架橋反応系に共存する反応性化合物(例えば、アミノ基を有するシランカップリング剤)が存在する場合はこれらを含めた相互に反応する反応性の基の当量比は0.8〜1.2程度が適当である。また、たとえ架橋樹脂中に残存しても差し支えない架橋性基や反応性基であれば、他の反応性の基に対するその反応性の基の割合はさらに多くてもよい。
【0057】
前記のように、第2の架橋剤は架橋性樹脂を架橋する機能のほかに架橋樹脂の物性調整のために使用することができる。例えば架橋剤であるエポキシ系化合物と反応するアミン類を使用して、エポキシ基とアミノ基が反応した親水性の結合を架橋樹脂にもたらすことができる。この場合、第2の架橋剤の1つの反応性基のみ反応した場合であっても機能が発揮される。また、架橋樹脂の物性調整の機能を発揮するものであれば、架橋性樹脂や架橋剤に結合しうる反応性の基を1個有する化合物であってもよい。この反応性の基を1個有する化合物は架橋機能を有しない化合物である。以下このような架橋樹脂の機能を調整する目的で使用する第2の架橋剤や架橋機能を有しない反応性の化合物を硬化剤という。なお、主たる架橋剤もまた架橋樹脂の機能に影響を与えるものであり、その点で第2の架橋剤との間に本質的な区別はない。
架橋剤に加えて硬化剤を使用する場合は、硬化剤の使用量は架橋剤に対して等質量以下が好ましく、0.01〜0.5倍質量が好ましい。
【0058】
本発明において、架橋性樹脂と架橋剤とを基体表面で反応させる際にカップリング剤を共存させておくことによって基体表面と架橋樹脂との密着性を向上させることができる。また、前記のように基体表面をあらかじめカップリング剤で処理しておくことによっても同様に基体表面と架橋樹脂との密着性を向上させることができる。架橋樹脂を形成するための架橋性樹脂と架橋剤を含む塗布用組成物にカップリング剤を配合することは必須ではないが、たとえあらかじめカップリング剤で処理した基体を使用する場合であっても架橋性樹脂と架橋剤を含む塗布用組成物にはカップリング剤を存在させておくことが好ましい。カップリング剤が架橋性樹脂または架橋剤との反応性の基を有している場合は、前記硬化剤と同様に架橋樹脂と基体との密着性向上に加えて架橋樹脂の機能を調整する目的で使用することもできる。
【0059】
カップリング剤としては、シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤、およびアルミニウム系カップリング剤等が挙げられ、シラン系カップリング剤が好ましい。これらカップリング剤は、架橋性樹脂の架橋性基や架橋剤の反応性基と反応しうる反応性の基を有することが好ましい。
【0060】
シラン系カップリング剤としては、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。これらのうち、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン系シランカップリング剤が好ましい。
【0061】
架橋性樹脂と架橋剤を含む塗布用組成物におけるカップリング剤の使用量は、それが必須の成分でないことよりその使用量の下限は限定されない。しかし、カップリング剤配合の効果を発揮させるためには、架橋性樹脂と架橋剤とカップリング剤の合計に対するカップリング剤の割合は0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましい。カップリング剤の使用量の上限は、カップリング剤の物性や機能によって制限される。架橋性樹脂と架橋剤とカップリング剤の合計に対するカップリング剤の割合は10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。カップリング剤によってまたは架橋剤とカップリング剤によって架橋樹脂の吸水性や表面の水接触角などの物性を調整する場合は比較的多量のカップリング剤を使用することがある。その場合、架橋性樹脂と架橋剤とカップリング剤の合計に対するカップリング剤の割合は15質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。カップリング剤の使用量が過剰の場合、高温に曝された場合に酸化等により架橋樹脂が着色しやすくなるなどの問題が生じるおそれがある。
【0062】
溶剤としては、架橋性樹脂や架橋剤等の成分の溶解性が良好であり、かつこれらの成分に対して不活性である溶剤であれば特に限定されず、アルコール類、酢酸エステル類、エーテル類、および水等が挙げられ、アルコール類および水が好ましい。アルコール類としては、エタノールおよびイソプロピルアルコールが好ましい。溶剤は1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
また、架橋性樹脂や架橋剤等の成分は溶剤との混合物として使用される場合がある。この場合には、該混合物中に含まれる溶剤を液状組成物における溶剤としてもよく、さらに他の溶剤を加えて液状組成物としてもよい。
【0063】
架橋樹脂層を架橋性樹脂、架橋剤、シランカップリング剤および溶剤を含む液状組成物を使用して形成する場合、それらは適宜選択して使用することができ、たとえば以下に示す組み合わせ(溶剤の記載は省略)を採用することができる。さらに、液状組成物は、必要に応じて前記硬化剤を含むことも好ましい。
【0064】
(1)架橋性基としてカルボキシル基を有する架橋性樹脂、エポキシ基を有する架橋剤、およびアミノ基を有するシランカップリング剤の組み合わせ、
(2)架橋性基としてカルボキシル基を有する架橋性樹脂、アミノ基を有する架橋剤、およびイソシアネート基やエポキシ基を有するシランカップリング剤の組み合わせ。
【0065】
本発明における膜形成材料は、架橋性樹脂と架橋剤とを含む膜形成材料であり、さらにカップリング剤と溶剤とを含む膜形成材料であることが好ましい。膜形成材料に含まれる架橋性樹脂としては、架橋性ビニルポリマーであることが好ましく、前記のカチオン性基を有する不飽和カルボン酸エステル系モノマーのモノマー単位(U1)、炭化水素基を有する不飽和カルボン酸エステル系モノマーのモノマー単位(U2)、および不飽和カルボン酸系モノマーのモノマー単位(U3)を含む架橋性ビニルポリマーであることが特に好ましい。
【0066】
この膜形成材料において、架橋性ビニルポリマーは、架橋性ビニルポリマー、架橋剤、およびカップリング剤の合計に対して、2〜20モル%含まれることが好ましい。架橋剤は、架橋性ビニルポリマー、架橋剤、およびカップリング剤の合計に対して、10〜90モル%含まれることが好ましい。カップリング剤は、架橋性ビニルポリマー、架橋剤、およびカップリング剤の合計に対して、10〜90モル%含まれることが好ましい。また、溶剤の量は、架橋性ビニルポリマー、架橋剤、およびカップリングの合計量に対して0.5〜9倍量であることが好ましい。
【0067】
本発明において防曇防汚性物品は、前記の膜形成材料を基体表面に塗布し、乾燥し、さらに反応させることによって得られる。ここで「乾燥」とは、基体に塗布した前記液状組成物中の溶剤を揮発させて除去することを意味する。乾燥条件は、液状組成物中に含まれる溶剤の種類、塗膜の厚さ等により適宜設定され、たとえば、前記液状組成物を塗布した基体を、20〜100℃で1分間〜20時間保持することにより実施できる。
また、「反応」とは、組成物中に含まれる架橋性樹脂と架橋剤との反応による架橋樹脂の形成を行うことを意味する。この際、基体表面との結合形成反応を伴っていてもよく、防曇防汚性物品の耐久性が良好になることから、基体表面との結合形成反応を伴っていることが好ましい。「反応」は、たとえば、乾燥後の基体を80〜200℃で1分間〜1時間保持することにより実施できる。
【0068】
組成物の基体表面への塗布方法としては、スピンコート、ディップコート、スプレーコート、フローコート、およびダイコート等が挙げられ、スプレーコート、フローコート、およびダイコートが好ましい。
液状組成物を基体表面に塗布して得られる組成物層の厚さは10〜80μmであることが好ましく、乾燥後の膜厚は5〜40μmであることが好ましく、反応後に得られる架橋樹脂層の厚さは5〜30μmであることが好ましい。
【0069】
本発明における膜形成材料を基体に塗布する際、膜形成材料の濡れ性によって塗膜の厚さが不均一になり、透視歪みを生じる場合がある。塗膜の厚さを均一にするためには、膜形成材料にレベリング剤を添加することが好ましい。レベリング剤としては、シリコーン系レベリング剤、フッ素系レベリング剤、および界面活性剤等が挙げられ、シリコーン系レベリング剤が好ましい。シリコーン系レベリング剤としては、アミノ変性シリコーン、カルボニル変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、およびアルコキシ変性シリコーン等が挙げられ、アミノ変性シリコーンおよびポリエーテル変性シリコーンが好ましい。
【0070】
その他に、膜形成材料に親水性を付与でき、防曇性能を向上させることができる点から、オキシエチレン鎖、オキシプロピレン鎖等のオキシアルキレン鎖を有するシリコーン系レベリング剤も好ましい。
【0071】
これらのシリコーン系レベリング剤は、反応性基を有していても、有していなくてもよいが、吸水性樹脂膜の構造の一部となり、防曇性に寄与することが可能であることから反応性基を有しているシリコーンであることが好ましい。具体的には、少なくとも1つの反応基を持つ反応性ジメチルシリコーンオイルが好ましく、ポリオキシアルキレンアミノ変性ジメチルポリシロキサンコポリマー(日本ユニカー社製、商品番号:FZ−3789)等が挙げられる。
さらに、これらのシリコーンを添加することにより、吸水性樹脂膜の表面に潤滑性を持たせることができる。その結果、布や固形物による摩耗が原因となる膜劣化が小さくなる効果も得られる。
【0072】
シリコーン系レベリング剤の添加量は、架橋性樹脂と架橋剤との合計量に対して1質量%以下とすることで濡れ性を改善でき、塗膜の厚さを均一にすることができる。シリコーン系レベリング剤の添加量が多くなりすぎると、塗膜が白濁する場合があるため、0.02〜0.30質量%が好ましく、0.02〜0.10質量%が特に好ましい。
【0073】
本発明における膜形成材料は、さらに硬化剤を含むことが好ましい。硬化剤を含むことにより、膜形成材料中に含まれる架橋性樹脂と架橋剤との反応が促進され、架橋樹脂の架橋密度が高くなる。よって、架橋樹脂の耐摩耗性や耐水性などの耐久性を改善できて好ましい。また、架橋性樹脂や架橋剤のみでは付与できない機能や特性を架橋樹脂に付与するために、また、架橋性樹脂や架橋剤のみでは充分ではない架橋樹脂の機能や特性を向上するために、硬化剤を使用することもできる。硬化剤は、架橋性樹脂や架橋剤等の成分によって適宜選択され、架橋性樹脂がカルボキシル基を有する樹脂で架橋剤がエポキシ基を有する架橋剤である場合、ジアミン類および酸無水物が好ましい。
【0074】
本発明の防曇防汚性物品は、基体表面に設けられた吸水性樹脂膜が、飽和吸水量が60mg/cmであり、かつ、飽和吸水時における水接触角が40〜90°であることによって、良好な防曇性能と防汚性能を同時に発揮でき、かつ耐久性にも優れる。また、本発明の防曇防汚性物品は、基体表面に設けられた吸水性樹脂が、カチオン性基と架橋性基とを有する架橋性ビニルポリマーと架橋剤との反応によって得られる架橋樹脂であることによって、良好な防曇防汚性能を有し、かつ耐久性にも優れる。さらに、本発明の防曇防汚性物品を構成する吸水性樹脂が、前記の水接触角および飽和吸水量の条件を満たし、かつ、架橋性ビニルポリマーと架橋剤との反応によって得られる架橋樹脂であると、防曇性能および防汚性能がさらに良好であり、耐久性もさらに向上させることができる。
【0075】
本発明の防曇防汚性物品としては、輸送機器(自動車、鉄道、船舶、飛行機等)用窓ガラス、冷蔵ショーケース、洗面化粧台用鏡、浴室用鏡、光学機器等が挙げられる。また、本発明における膜形成材料は、良好な防曇防汚性能を有し、かつ耐久性にも優れるため、前記の防曇防汚性物品を得るために有用である。
【実施例】
【0076】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されない。
【0077】
[1]膜形成材料の調製
撹拌機、温度計がセットされたガラス容器に、架橋性ビニルポリマーと溶剤の混合物(日本純薬社製、商品名:ジュリマーSPO−601)(36.0g)、平均エポキシ官能基数2.3のグリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製、商品名:デナコールEX−314)(10.8g)、およびイソホロンジアミン(東京化成工業製)(2.76g)を入れて、25℃にて1時間撹拌した。次いで、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン(信越化学工業社製、商品名:KBM602)(2.0g)を加えてさらに30分間撹拌した。つぎに、ケイ酸テトラエチル(純正化学製)(0.4g)、およびエタノール(純正化学製)(92.8g)を添加して、さらに30分間撹拌した。つぎに、ポリオキシアルキレンアミノ変性ジメチルポリシロキサンコポリマー(日本ユニカー社製、商品番号:FZ−3789)(0.043g)を加えてさらに30分間撹拌して膜形成材料を得た。なお、ジュリマーSPO−601は、メタクリル酸エチルトリメチルアンモニウムクロリド、メトキシエチルアクリレート、メチルメタクリレート、およびアクリル酸を溶剤中で熱重合することによって得られると考えられる。
【0078】
[2]防曇防汚性物品の作製および評価
[2−1]防曇防汚性物品の作製
[1]で得た膜形成材料をノズルフローコートにより自動車用フロントガラスの車内面の運転席側半面に塗布し、平置きの状態で110℃にて60分間加熱し、半面のみ吸水性樹脂膜が形成された自動車用フロントガラスを得た。そのフロントガラスを自動車に取り付けた。
【0079】
[2−2]防汚性能の評価
[2−1]に記載の自動車を、通常自動車が使用される条件にて8ヶ月間使用した。使用期間中(8ヶ月間)は、フロントガラスの車内面は拭くなどの処置を一切していない。8ヶ月後、目視にてフロントガラス車内面の汚れの付着や白濁の度合いを評価した。吸水性樹脂膜が形成された部分には汚れの付着や白濁が無かったが、吸水性樹脂膜が形成されていない部分には汚れが付着し、ガラスが薄く白濁していた。また、フロントガラスの車内面側を白い清潔な紙ウエスで水拭きしたところ、吸水性樹脂膜が形成された部分では紙ウエスに付着物は無かったが、吸水性樹脂膜が形成されていない部分では濃灰色の汚れが付着した。
【0080】
[2−3]防曇性能の評価
[2−1]に記載の自動車に4名が乗車し、気温0℃の冬季にエアコンを切った状態で走行したところ、吸水性樹脂膜が形成されていない部分は約5分で全面が曇ったのに対し、吸水性樹脂膜が形成された部分は20分まで曇りが発生しなかった。また、[2−1]と同様の方法で作製した防曇防汚性物品を、室温相対湿度50%の環境下に1時間放置した後、吸水性樹脂膜の表面を40℃の温水浴上に翳し、曇りや水膜による歪みが認められるまでの防曇時間を測定したところ、防曇時間は50秒間(0.83分)であった。なお、通常のガラスは0.01〜0.08分で曇りを生じた。
【0081】
[3]防曇防汚性物品の飽和吸水時における接触角および飽和吸水量の評価
[3−1]飽和吸水時の接触角の評価
[1]で得た膜形成材料を平板状のソーダライムガラス(30cm×30cm)にフローコート法によって塗布、乾燥、焼成した。そのガラスの中央部から10cm×10cmのサンプルを切り出した。サンプルを常温の水道水に10分間浸漬した後、水から取り出し、吸水性樹脂表面に残っている水滴をエアガンにて飛ばし、すぐに2μLの水滴を吸水性樹脂の表面に滴下し、水滴の接触角を測定した。測定は5点行い、その平均値は87.2°であった。なお、接触角測定の際に「飽和吸水時」となっていることは、同様の手順で別途作製したサンプルに前記と同様の処理(水道水への浸漬〜エアブロー)を行い、以下に示す防曇性能評価装置を用いて評価し、確認した。
【0082】
<防曇性能評価装置>
図1は、防曇性能評価装置である。本装置は、防曇防汚性物品1、高湿槽2、ウォーターバス4(柴田化学器械工業株式会社製WK−40)、CCDカメラ6(株式会社キーエンス社製CV−070)及びディスプレイ7(キーエンス社製CV−M10)から構成されている。
【0083】
高湿槽2は上面と下面がなく側面のみであり、厚さ2mmのポリカーボネート材料で構成されている。サイズは70×70×70mmである。高湿槽2とウォーターバス4との間は、中心部に20×20mmの孔が設けられた厚さ3.5mmのソーダライムガラスで構成される間仕切り3により仕切られている。ウォーターバス4で発生した水蒸気は、間仕切り3の孔を通って高湿槽2に入り込む。ウォーターバス4の水面から間仕切り3までの距離を15mmとし、水温は35℃に設定した。これらの条件は、車両に乗車している乗員及び衣服などから蒸発する水蒸気が36℃程度であり、その水蒸気が徐々に車室空間を満たしていく現象を考慮して決定した。高湿槽2の上に、水道水に10分間浸漬し、表面の水滴を飛ばした防曇防汚性物品1を配置し、防曇防汚性物品1がすぐに曇ることをもって飽和吸水時とした。
【0084】
[3−2]飽和吸水量の評価
以下の手順で測定した飽和吸水量は、106.7mg/cmであった。
<飽和吸水量の評価手順>
防曇防汚性物品を室温相対湿度50%の環境下に1時間放置し、つぎに吸水性樹脂膜の面を40℃の温水蒸気に曝露し、吸水性樹脂膜の表面に曇りまたは水膜による歪みが生じた直後に微量水分計を用いて防曇防汚性物品全体の水分量(A)を測定する。別途、吸水性樹脂膜が形成されていない基体そのものの水分量(B)を同様の手順で測定し、水分量(A)から水分量(B)を引いた値を吸水性樹脂膜の体積で除した値を飽和吸水量とした。水分量は、微量水分計(株式会社ケット科学研究所製、商品番号:FM−300)によって測定した。試験サンプルを120℃で加熱し、サンプルから放出された水分を微量水分計内のモレキュラーシーブスに吸着させ、モレキュラーシーブスの重量変化を水分量とした。なお、測定の終点は、1分間あたりの重量変化の変化量が0.02mg以下になったときとした。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の防曇防汚性物品は、優れた防曇防汚性を有し、かつ耐久性も備えているため、輸送機器(自動車、鉄道、船舶、飛行機等)用窓ガラス、冷蔵ショーケース、洗面化粧台用鏡、浴室用鏡、光学機器等に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】防曇性能評価装置の概略図。
【符号の説明】
【0087】
1:防曇防汚性物品
2:高湿槽
3:間仕切り
4:ウォーターバス
5:CCDカメラの入射角
6:CCDカメラ
7:ディスプレイ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と該基体表面に設けられた吸水性樹脂膜とを有する防曇防汚性物品であって、前記吸水性樹脂膜の飽和吸水量が60mg/cm以上であり、かつ、飽和吸水時における前記吸水性樹脂膜の表面の水接触角が40〜90°であることを特徴とする防曇防汚性物品。
【請求項2】
前記吸水性樹脂膜が、膜形成材料を基体表面で反応させることにより形成された樹脂膜である請求項1に記載の防曇防汚性物品。
【請求項3】
前記膜形成材料が、架橋性樹脂と架橋剤とを含む膜形成材料である請求項2に記載の防曇防汚性物品。
【請求項4】
前記膜形成材料が、さらに架橋性樹脂と架橋剤との合計量に対して1質量%以下のシリコーンを含む請求項2または3に記載の防曇防汚性物品。
【請求項5】
防曇防汚性物品が自動車窓用ガラス板である請求項1〜4のいずれかに記載の防曇防汚性物品。

【図1】
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【公開番号】特開2007−177196(P2007−177196A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−56321(P2006−56321)
【出願日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】