説明

防水シート診断方法および診断装置

【課題】 診断対象を変質させない非破壊検査で診断できて、現場で簡便に実施でき、かつ劣化度を高精度に定量的に評価できるようにする。
【解決手段】 原画像のデータを処理し、防水シートの劣化に伴って現れる要素として定められた画像の複数種類の特徴量抽出する。この抽出した各種類の特徴量を、重回帰分析によって解析し、防水シートの破断時の伸び率の保持率である残存品質を求める。画像処理では、クラック領域と非クラック領域とに2値化処理によって領域分割する。前記複数種類の特徴量として、クラックの大きさに係る特徴量である、クラック領域の占める面積比率、距離変換で得る平均幅を用い、さらに局所的最大値による特徴量、および隣接ピクセルを比較することによって得られる特徴量を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、建物の屋根やバルコニー床等に用いられる防水シートの劣化の程度を、非破壊検査で診断する防水シート診断方法および診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
日本では高度経済成長やバブル期に多くの建物が建設されたが、現在それらの多くが老朽化してきている。一方で、近年の経済状況の悪化や環境意識の高まりなどから、コストや環境負荷の大きい建て替えではなく、改修で建物を長く使おうとする機運が高まっている。
建物の高耐久化は、地球環境保全の意味から強く叫ばれている。建物を永く使用していくにあたって、防水シートの劣化診断は、建物の価値を判断する上で重要なファクターになり得る。防水シートは経年するに従い、紫外線・熱・オゾン・雨水・湿気や繰返し疲労などの劣化外力の影響を受けて徐々に劣化する。そして、いずれは補修・張り替えなどの対応が必要な時期が訪れる。その時期を的確に判断するためには、個々の建物における防水シートの劣化度を確認することが必要である。
【0003】
防水シートの劣化度を評価する指標として、一般に引張強度試験での破断時伸び保持率が用いられている。しかし、破断時伸び保持率は実験室での評価法としては適しているが、防水シートを切断および採取して測定する必要があり、現存する建物の現場での劣化診断法としては適さない。そこで、実際に対象とする建物の一部を破壊することなく、何らかの方法で検査し、防水シートの残存強度を測定する必要性が生じる。
【0004】
非破壊または略非破壊で診断する従来技術として、シート防水材の硬度計による劣化判定方法(特許文献1)や、シート防水材の亀裂写真による劣化判定方法(特許文献2)、合成樹脂製シートの劣化評価方法・劣化評価用スケール(特許文献3)などが提案されている。また、繊維を樹脂で被覆した膜材の強度劣化の判定に関して、パーソナルコンピュータ接続型マイクロスコープを用いた、色分析や、クラック領域の面積和の形態分析等による判定装置,判定システム,判定方法等(特許文献4)が提案されている。
【0005】
また、画像処理を用いた劣化材料の残存強度の推定に関する既往研究として柳室氏(非特許文献1)は、より客観的で有効な非破壊検査の一つとして、画像解析・画像認識技術を用いて膜材料表面のデジタル画像の色彩特徴や形態特徴などから残存強度を推定する手法を提案している。辻本氏ら(非特許文献2)は、「ポリ塩化ビニル系ルーフィングシートの簡易劣化診断法の提案」の一つとして、表面クラックの程度を画像処理によって定量化する手法を提案している。ただし、前処理として、表面に付着している粉塵などをエタノールを用いて除去し、さらにクラック部分を際立たせるためにカーボンブラックを混入したシリコーングリースをこすりつけるなどしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−27010号公報
【特許文献2】特開平6−27046号公報
【特許文献3】特開2003−254893号公報
【特許文献4】特開2008−190880号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】柳室純,具源龍,瀧澤重志,加藤直樹,豊田宏,藤原淳,小田憲史:画像解析・画像認識による膜材料劣化状況の自動診断技術の開発,膜構造研究論文集2006,pp.71-82,2007.
【非特許文献2】辻本吉寛,須藤哲也,大羽伸和,ポリ塩化ビニル系ルーフィングシートの簡易劣化診断法の提案.日本建築学会構造系論文集,No.489,pp.17-24,1996.
【非特許文献3】建設大臣官房技術調査室監修,国土開発技術研究センター建築物耐久性向上技術普及委員会編,建築防水の耐久性向上技術.技報堂出版,1987.
【非特許文献4】Vincent Luc ,Pierre Soille ,Watersheds in Digital Spaces: AnE.cient Algorithm Based on Immersion Simulations.IEEE Transactions on Pattern Analysis and Machine Intelligence,Vol.13,No.6,pp.583-598,1991.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記シート防水材の硬度計による劣化判定方法(特許文献1)では、シートに針で穴を明ける必要がある。この穴は検査後に補修するが問題がある。
前記シート防水材の亀裂写真による劣化判定方法(特許文献2)では、クラックを撮影するために着色が必要であり、かつ検証サンプルが少なく精度が低い。フィルムカメラを用いることからも、精度の良い判定が難しい。
前記合成樹脂製シートの劣化評価方法等(特許文献3)では、防水シートに色が付くという問題が有り、また劣化評価する対象が水平面に限定される。
前記色分析や、クラック領域の面積和の形態分析等による判定手法(特許文献4)は、今一つ精度の良い診断が行えない。また、同文献の手法による判定対象は、繊維を樹脂で被覆した膜材であって、塩ビ系防水シート等では、精度の良い診断が困難である。
【0009】
また、上記各既往研究(非特許文献1,2)は、いずれも、劣化度を高精度に定量的に評価できるに至っておらず、あるいは付随した前処理等が必要で、間便に短時間で診断を行うことが困難である。
【0010】
この発明の目的は、防水シートの劣化診断を、診断対象の性質を変化させない非破壊検査で行うことができて、現場で実施でき、また簡便で、かつ短い所要時間で行え、劣化度を高精度に定量的に評価することができる防水シート診断方法および診断装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明の防水シート劣化診断方法は、
判定対象となる防水シートの表面の一部を撮影したデジタル画像からなる原画像のデータを原画像記憶手段に記憶させる入力処理過程と、
前記原画像のデータを原画像記憶手段に記憶させる入力処理過程と、前記原画像記憶手段に記憶された原画像のデータを処理し、防水シートの劣化に伴って現れる要素として定められた画像の複数種類の特徴量をそれぞれ抽出する画像処理・特徴量抽出過程と、
この抽出した各種類の特徴量を定められた規則に従って解析して、防水シートの破断時の伸び率の保持率である残存品質を求める残存品質演算過程とを含む。
前記画像処理・特徴量抽出過程は、原画像の各ピクセルを、クラック領域を示すピクセルと非クラック領域を示すピクセルとに2値化処理によって領域分割する領域分割過程と、この領域分割された2値画像から特徴量を抽出する特徴量抽出過程とを含む。
前記特徴量抽出過程で抽出する前記複数種類の特徴量として、クラックの大きさに係る特徴量である、前記2値画像のうち、クラック領域の占める面積比率、およびクラック領域の平均幅のいずれか一方または両方の特徴量と、距離変換を用いた重み付けによって得られるクラックの幅に係る特徴量とを用いる。
前記距離変換による重み付けは、クラック領域の各ピクセルから非クラック領域のピクセルまでの最短距離がそのピクセルの距離値であるとしてクラック領域の各ピクセルの値を前記距離値で重み付けした画像を生成する処理であり、この重み付けされた画像における各ピクセルの値の合計、中央値、最大値、および標準偏差の少なくとも一つを前記クラック領域の幅に関する特徴量として用いる。
【0012】
この劣化診断方法によると、判定対象となる防水シートの表面の一部を撮影し、画像処理して特徴量を抽出し、その特徴量から残存品質を求めるため、防水シートの劣化診断を、診断対象の性質を変化させない非破壊検査で行うことができて、現場で実施でき、また簡便で、かつ短い所要時間で行える。
この場合に、画像の特徴量として、クラックの大きさに係る特徴量である、クラック領域の占める面積比率、およびクラック領域の平均幅のいずれか一方または両方の特徴量と、距離変換を用いた重み付けによって得られるクラックの幅に係る特徴量とを用いるため、劣化度を高精度に定量的に評価することができる。
防水シートは陸屋根など使用されることが多いが、その場合、防水シートは、紫外線、熱、水分などの影響により劣化進行すると考えられる。塩ビ系防水シート等では紫外線による劣化が最も大きく、太陽光による紫外線照射が表面側からの分子量低下に繋がり、この現象が表面のクラックの発生などの外観変化に現れる。そこで、防水シートの劣化過程の画像サンプルを観察した。その結果、残存品質(防水シートの破断時の伸び率の保持率)の劣化の進行に伴ってクラックの幅が広くなり、クラックの領域が広がっていることがわかった。クラック領域の面積和だけでも、劣化の進行をある程度は診断できるが、精度の良い診断には不十分である。これに対し、この発明は、劣化の進行を顕著に現すクラックの幅を、劣化度の診断の特徴量として用いるため、劣化度を高精度に定量的に評価することができる。クラックの幅は、距離変換による重み付けによって得るようにしたため、画像から精度良く求めることができる。また、この発明は、診断に用いる画像の特徴量として、クラックの幅の他に、クラック領域の占める面積比率、およびクラック領域の平均幅のいずれか一方または両方を用い、複数の画像特徴量を組み合わせて診断するため、診断対象を変化させない完全な非破壊検査にもかかわらず、非常に高いに精度で残存品質を求めることができる。
【0013】
この発明方法において、前記特徴量抽出過程で抽出する特徴量として、前記クラックの大きさに係る特徴量、およびクラックの幅に係る特徴量の他に、次の局所的最大値から得られる特徴量を用いても良い。この局所的最大値から得られる特徴量は、前記距離値で重み付けした画像から、個々のクラック領域におけるピクセルの値の最大値である局所的最大値を抽出し、距離変換の値が小さい順または大きい順にソートし、n(n:2以上の自然数)水準に等分割したヒストグラムを作成し、各水準i(1≦i≦n)の度数を、前記局所的最大値から得られる特徴量とする。
前記局所的最大値は、細いクラックが多いのか、太いクラックが多いのかを示す値である。太いクラックが多ければ、劣化が進行していると考えられる。このため、局所的最大値を診断のための画像特徴量として加えることで、より一層高い精度で残存品質を求めることができる。
【0014】
この発明方法において、前記特徴量抽出過程で抽出する特徴量として、前記クラックの大きさに係る特徴量、およびクラックの幅に係る特徴量の他に、隣接ピクセルを比較することによる特徴量として、一つのピクセルについて、その距離がi(iは自然数)ピクセルだけ離れた帯状の近傍に含まれるピクセルの集合について、全てがクラックのピクセルであるときのみ、その近傍を連続したクラック領域として定め、クラック領域のピクセルの近傍距離別にクラック領域が分布しているかを示す値と、クラック領域の各ピクセルにつきどの範囲まで連続したクラック領域が広がっているかを示す値とを用いても良い。
これらのクラック領域のピクセルの近傍距離別にクラック領域が分布しているかを示す値と、クラック領域の各ピクセルにつきどの範囲まで連続したクラック領域が広がっているかを示す値も、劣化の進行を顕著に現す。そのため、これらの隣接ピクセルを比較することによる特徴量を劣化診断のための画像特徴量として加えることで、多くの種類の画像特徴量を組み合わせて診断することができ、より一層高い精度で残存品質を求めることができる。
【0015】
この発明において、画像処理・特徴量抽出過程として、前記2値化処理によって領域分割する領域分割過程およびこの領域分割された2値画像から特徴量を抽出する特徴量抽出過程と共に、前記原画像記憶手段に記憶された原画像の各ピクセルが持つスカラー値を地形の標高とみなし、各盆地を区切る分水嶺を境界として、仕切る領域分割過程と、この分割されたクラスター毎に、そこに分類されるピクセルの明度の中央値、標準偏差、最小値、および最大値のうちの少なくとも一つを計算し、計算結果を昇順または降順に並べ替え、値に関して均等に複数分割してバケット化し、各バケット内のデータの平均値を特徴量として求める特徴量抽出過程とを用い、残存品質演算過程では、前記2値化処理を経て行う領域分割過程を経て得た特徴量と、前記分水嶺を境界として仕切る領域分割過程を経て得た特徴量との両方を、残存品質の解析に用いても良い。
原画像をクラックに関して領域分割する手法として、2値化処理の他に、分水嶺処理による手法も効果的であり、異なる手法でクラックに関する領域分割を行って画像特徴量を抽出することで、より多くの種類の画像特徴量を組み合わせ診断することができ、これにより、さらに高い精度で残存品質を求めることができる。
【0016】
この発明において、前記残存品質演算過程は、抽出された各種類の特徴量を定められた規則に従って解析して残存品質を求めれば良いが、その定められた規則として、画像処理・特徴量抽出過程で抽出した各種類の特徴量から、回帰分析によって前記残存品質を求める規則が好ましい。
劣化診断の精度は、劣化を現す特徴量としてどのような特徴量を抽出して用いるかと、その抽出した特徴量を如何にするかによって定まる。回帰分析によると、実測値を用いてより精度良く残存品質を求めることができる。
【0017】
前記回帰分析として、重回帰分析が好ましい。すなわち、前記残存品質演算過程では、前記画像処理・特徴量抽出過程で抽出した各種類の特徴量の全て、またはこれらの特徴量のうち、定められた基準によって選択したものを説明変数とし、前記残存品質を目的変数として、重回帰分析により残存品質を求めるのが良い。重回帰分析によると、推定モデルを状況に応じて再学習でき、今後増えて来る劣化防水シートの実験結果を取り込んで、より多数のサンプルにより信頼性の高いモデルを容易に作ることができ、さらに精度良く残存品質を求めることができる。
【0018】
重回帰分析を行う場合に、前記残存品質演算過程では、前記画像処理・特徴量抽出過程で抽出した各種類の特徴量のうち任意の2つの特徴量を掛け合わせた交互作用項を作成し、前記各特徴量と前記各交互作用項を説明変数とし、これらの説明変数から、定められた判定基準に従って説明変数を選択し、選択された説明変数を用いて重回帰分析により残存品質を求めるのが良い。
豊富に容易された画像特徴量と、それから有意義な変数を効果的に導く変数選択手法により、推定モデルを状況に応じて再学習でき、今後増えて来る劣化防水シートの実験結果を取り込んで、より多数のサンプルにより信頼性の高いモデルを容易に作ることができる。そのため、さらに精度良く残存品質を求めることができる。
【0019】
この発明の防水シート劣化診断装置(1)は、
判定対象となる防水シートの表面の一部を撮影したデジタル画像からなる原画像のデータを原画像記憶手段(6)に記憶させる入力処理手段(5)と、
前記原画像記憶手段(6)に記憶された原画像のデータを処理し、防水シートの劣化に伴って現れる要素として定められた画像の複数種類の特徴量をそれぞれ抽出する画像処理・特徴量抽出手段(7)と、
この抽出した各種類の特徴量を解析して、防水シートの破断時の伸び率の保持率である残存品質を求める残存品質演算手段(8)とを備える。
前記画像処理・特徴量抽出手段(7)は、原画像の各ピクセルを、クラック領域を示すピクセルと非クラック領域を示すピクセルとに2値化処理によって領域分割する領域分割部(10)と、この領域分割された2値画像から特徴量を抽出する特徴量抽出部(11)とを有する。
前記特徴量抽出手段(11)は、抽出する前記複数種類の特徴量として、クラックの大きさに係る特徴量である、前記2値画像のうち、クラック領域の占める面積比率、およびクラック領域の平均幅のいずれか一方または両方の特徴量と、距離変換を用いた重み付けによって得られるクラックの幅に係る特徴量とを用いる。
前記距離変換による重み付けは、クラック領域の各ピクセルから非クラック領域のピクセルまでの最短距離がそのピクセルの距離値であるとしてクラック領域の各ピクセルの値を前記距離値で重み付けした画像を生成する処理であり、この重み付けされた画像における各ピクセルの値の合計、中央値、最大値、および標準偏差の少なくとも一つを前記クラック領域の幅に関する特徴量として用いる。
【0020】
この発明の防水シート劣化診断装置(1)によると、この発明の防水シート劣化診断方法につき前述したと同様に、防水シートの劣化診断を、診断対象の性質を変化させない非破壊検査で行うことができて、現場で実施でき、また簡便で、かつ短い所要時間で行え、劣化度を高精度に定量的に評価することができる。
【0021】
この発明装置において、前記特徴量抽出手部(11)で抽出する特徴量として、前記クラックの大きさに係る特徴量、およびクラックの幅に係る特徴量の他に、次の局所的最大値から得られる特徴量を用い、この局所的最大値から得られる特徴量は、前記距離値で重み付けした画像から、個々のクラック領域におけるピクセルの値の最大値である局所的最大値を抽出し、距離変換の値が小さい順または大きい順にソートし、n(n:2以上の自然数)水準に等分割したヒストグラムを作成し、各水準i(1≦i≦n)の度数を、前記局所的最大値から得られる特徴量としても良い。
【0022】
この発明装置において、前記特徴量抽出部(11)で抽出する特徴量として、前記クラックの大きさに係る特徴量、およびクラックの幅に係る特徴量の他に、隣接ピクセルを比較することによる特徴量として、一つのピクセルについて、その距離がi(iは自然数)ピクセルだけ離れた帯状の近傍に含まれるピクセルの集合について、全てがクラックのピクセルであるときのみ、その近傍を連続したクラック領域として定め、クラック領域のピクセルの近傍距離別にクラック領域が分布しているかを示す値と、クラック領域の各ピクセルにつきどの範囲まで連続したクラック領域が広がっているかを示す値とを用いても良い。
【0023】
この発明装置において、画像処理・特徴量抽出手段(7)として、前記2値化処理によって領域分割する領域分割部(10)およびこの領域分割された2値画像から特徴量を抽出する特徴量抽出部(11)の他に、前記原画像記憶手段(6)に記憶された原画像の各ピクセルが持つスカラー値を地形の標高とみなし、各盆地を区切る分水嶺を境界として、仕切る第2の領域分割部(12)と、この分割されたクラスター毎に、そこに分類されるピクセルの明度の中央値、標準偏差、最小値、および最大値のうちの少なくとも一つを計算し、計算結果を昇順または降順に並べ替え、値に関して均等に複数分割してバケット化し、各バケット内のデータの平均値を特徴量として求める第2の特徴量抽出部(13)とを設け、前記残存品質演算手段(8)では、前記2値化処理を経て行う領域分割部(10)を経て得た特徴量と、前記分水嶺を境界として仕切る領域分割部(12)を経て得た特徴量との両方を、残存品質の解析に用いても良い。
【0024】
この発明装置において、前記残存品質演算手段(8)では、画像処理・特徴量抽出手段(7)で抽出した各種類の特徴量から、回帰分析によって前記残存品質を求めるようにしても良い。
この場合に、前記前記残存品質演算手段(7)は、前記画像処理・特徴量抽出手段(7)で抽出した各種類の特徴量の全て、またはこれらの特徴量のうち、定められた基準によって選択したものを説明変数とし、前記残存品質を目的変数として、重回帰分析により残存品質を求めるようにしても良い。
【0025】
重回帰分析を行うものとする場合に、前記前記残存品質演算手段(8)は、前記画像処理・特徴量抽出手段(7)で抽出した各種類の特徴量のうち任意の2つの特徴量を掛け合わせた交互作用項を作成し、前記各特徴量と前記各交互作用項を説明変数とし、これらの説明変数から、定められた判定基準に従って説明変数を選択し、選択された説明変数を用いて重回帰分析により残存品質を求めるようにしても良い。
【0026】
この発明の防水シート劣化診断システムは、この発明の上記いずれかの構成の防水シート劣化診断装置と、この防水シート劣化診断装置における入力処理手段に入力する原画像のデータを得る撮影装置を備え、前記撮影装置が、開口端を防水シートに接触させるカップ状の照明カバーと、この照明カバー内の前記開口端の近傍に、開口中央部回りに複数設けられて開口中央部に向けて照明光を照射する発光ダイオードからなる複数の光源と、前記照明カバー内に先端が位置し前記開口端に接する防水シートの一部の画像を拡大してデジタル画像として撮影する撮影機能付きのマイクロコープとを有することを特徴とする。 前記撮影装置として、照明カバー内の開口端の近傍に、開口中央部に向けて照明光を照射する複数の発光ダイオードが設けられていると、照明光が防水シートの表面に略平行に照射されることになり、防水シートの表面に生じているクラックが影となる。そのため、クラックを明確に示す原画像を得ることができ、この発明の防水シート劣化診断によって残存品質をより精度良く求めることができる。
【0027】
この発明の防水シート撮影装置は、この発明の上記いずれかの構成の防水シート劣化診断装置における入力処理手段に入力する原画像のデータを得る撮影装置であって、開口端を防水シートに接触させるカップ状の照明カバーと、この照明カバー内の前記開口端の近傍に、開口中央部回りに複数設けられて開口中央部に向けて照明光を照射する発光ダイオードからなる複数の光源と、前記照明カバー内に先端が位置し前記開口端に接する防水シートの一部の画像を拡大してデジタル画像として撮影する撮影機能付きのマイクロコープとを備えることを特徴とする。
この防水シート撮影装置によると、上記のように、クラックを明確に示す原画像を得ることができる。
【発明の効果】
【0028】
この発明の防水シート劣化診断方法は、判定対象となる防水シートの表面の一部を撮影したデジタル画像からなる原画像のデータを原画像記憶手段に記憶させる入力処理過程と、前記原画像記憶手段に記憶された原画像のデータを処理し、防水シートの劣化に伴って現れる要素として定められた画像の複数種類の特徴量をそれぞれ抽出する画像処理・特徴量抽出過程と、この抽出した各種類の特徴量を定められた規則に従って解析して、防水シートの破断時の伸び率の保持率である残存品質を求める残存品質演算過程とを含み、前記画像処理・特徴量抽出過程は、原画像の各ピクセルを、クラック領域を示すピクセルと非クラック領域を示すピクセルとに2値化処理によって領域分割する領域分割過程と、この領域分割された2値画像から特徴量を抽出する特徴量抽出過程とを含み、前記特徴量抽出過程で抽出する前記複数種類の特徴量として、クラックの大きさに係る特徴量である、前記2値画像のうち、クラック領域の占める面積比率、およびクラック領域の平均幅のいずれか一方または両方の特徴量と、距離変換を用いた重み付けによって得られるクラックの幅に係る特徴量とを用い、前記距離変換による重み付けは、クラック領域の各ピクセルから非クラック領域のピクセルまでの最短距離がそのピクセルの距離値であるとしてクラック領域の各ピクセルの値を前記距離値で重み付けした画像を生成する処理であり、この重み付けされた画像における各ピクセルの値の合計、中央値、最大値、および標準偏差の少なくとも一つを前記クラック領域の幅に関する特徴量として用いるため、防水シートの劣化診断を、診断対象の性質を変化させない非破壊検査で行うことができて、現場で実施でき、また簡便で、かつ短い所要時間で行え、劣化度を高精度に定量的に評価することができる。
【0029】
特に、前記特徴量抽出過程で抽出する特徴量として、前記クラックの大きさに係る特徴量、およびクラックの幅に係る特徴量の他に、前記局所的最大値から得られる特徴量や、隣接ピクセルを比較することによる特徴量、分水嶺を境界として領域分割して得られる特徴量を用いる場合は、診断対象を変化させない完全な非破壊検査にも係わらず、多数の画像特徴量を組み合わせることで、非常に高い精度で残存品質を求めることができる。
【0030】
また、上記のように豊富に容易された画像特徴量を用いると共に、それから有意義な変数を効率的に導き出す変数選択手法を用いる場合は、推定モデルを状況に応じて再学習できて、今後増えて来る劣化防水シートの実験結果を取り込んで、より多数のサンプルにより信頼性の高いモデルを容易に作ることができ、さらに高い精度で残存品質を求めることができる。
【0031】
この発明の防水シート劣化診断装置は、判定対象となる防水シートの表面の一部を撮影したデジタル画像からなる原画像のデータを原画像記憶手段に記憶させる入力処理手段と、前記原画像記憶手段に記憶された原画像のデータを処理し、防水シートの劣化に伴って現れる要素として定められた画像の複数種類の特徴量をそれぞれ抽出する画像処理・特徴量抽出手段と、この抽出した各種類の特徴量を定められた規則に従って解析して、防水シートの破断時の伸び率の保持率である残存品質を求める残存品質演算手段とを備え、前記画像処理・特徴量抽出手段は、原画像の各ピクセルを、クラック領域を示すピクセルと非クラック領域を示すピクセルとに2値化処理によって領域分割する領域分割部と、この領域分割された2値画像から特徴量を抽出する特徴量抽出部とを有し、前記特徴量抽出手段は、抽出する前記複数種類の特徴量として、クラックの大きさに係る特徴量である、前記2値画像のうち、クラック領域の占める面積比率、およびクラック領域の平均幅のいずれか一方または両方の特徴量と、距離変換を用いた重み付けによって得られるクラックの幅に係る特徴量とを用い、前記距離変換による重み付けは、クラック領域の各ピクセルから非クラック領域のピクセルまでの最短距離がそのピクセルの距離値であるとしてクラック領域の各ピクセルの値を前記距離値で重み付けした画像を生成する処理であり、この重み付けされた画像における各ピクセルの値の合計、中央値、最大値、および標準偏差の少なくとも一つを前記クラック領域の幅に関する特徴量として用いるため、防水シートの劣化診断を、診断対象の性質を変化させない非破壊検査で行うことができて、現場で実施でき、また簡便で、かつ短い所要時間で行え、劣化度を高精度に定量的に評価することができる。
【0032】
この発明の防水シート撮影装置は、この発明の防水シート撮影装置は、この発明の上記いずれかの構成の防水シート劣化診断装置における入力処理手段に入力する原画像のデータを得る撮影装置であって、開口端を防水シートに接触させるカップ状の照明カバーと、この照明カバー内の前記開口端の近傍に、開口中央部回りに複数設けられて開口中央部に向けて照明光を照射する発光ダイオードからなる複数の光源と、前記照明カバー内に先端が位置し前記開口端に接する防水シートの一部の画像を拡大してデジタル画像として撮影する撮影機能付きのマイクロコープとを備えるため、防水シートのクラックを明確に示す原画像を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】この発明の一実施形態に係る防水シート劣化診断方法の各過程を示す流れ図である。
【図2】この発明の一実施形態に係る防水シート劣化診断装置の概念構成を示すブロック図である。
【図3】同防水シート劣化診断方法で用いる原画像を撮影する防水シート撮影装置の一部省略断面図である。
【図4】(A)は同防水シート撮影装置の下面図、(B)は同防水シート撮影装置を固定基盤取外し状態で示す下面図である。
【図5】同防水シート撮影装置の外観斜視図である。
【図6】同防水シート撮影装置による防水シートの撮影例を示す写真である。
【図7】同防水シート撮影装置の作用説明図である。
【図8】(A)は、防水シートの劣化の典型例および劣化の例外的な例を示す図、(B)は、劣化に伴う防水シート表面の変化を示す図である。
【図9】サンプルの残存品質と劣化度の分布を表す図である。
【図10】防水シートの画像サンプルを表す図である。
【図11】(A)はトリミング前の画像を表す図、(B)はトリミング後の画像を表す図である。
【図12】(A)はトリミング前の明度値を表す図、(B)はトリミング後の明度値を表す図である。
【図13】2値化画像の例を示す図である。
【図14】3×3のメディアン・フィルタの例を示す図である。
【図15】正六角形グリッドにおける分水嶺処理の例を示す図である。
【図16】分水嶺処理による領域分割の例を示す図である。
【図17】(A)は原画像を示す図、(B)は2値画像を示す図、(C)は細線化画像を示す図である。
【図18】距離変換の例を示す図である。
【図19】距離変換による重み付けの例を示す図である。
【図20】距離変換によって得た値を3次元プロットした図である。
【図21】注目ピクセルに対する近傍を示す図である。
【図22】各特徴量(横軸)と残存品質(縦軸)の散布図(その1)である。
【図23】各特徴量(横軸)と残存品質(縦軸)の散布図(その2)である。
【図24】各特徴量(横軸)と残存品質(縦軸)の散布図(その3)である。
【図25】各特徴量(横軸)と残存品質(縦軸)の散布図(その4)である。
【図26】交互作用項(横軸)と残存強度(縦軸)の散布図である。
【図27】変換選択のアルゴリズムを表す図である。
【図28】交差検証法の概念図である。
【図29】交互作用項を含まない残存強度推定モデルの交差検証の精度を示す図である。
【図30】交互作用項を含む残存強度推定モデルの交差検証の精度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
この発明の一実施形態に係る防水シート劣化診断方法、診断装置、診断システム、および防水シート撮影装置につき、図1ないし図30と共に説明する。診断対象となる防水シートは、例えば、塩ビ系防水シート、特に全面接着型の塩ビ系防水シートであり、建物の陸屋根や、バルコニーの床部等に用いられたものである。概要を説明すると、この防水シート劣化診断方法は、マイクロスコープ等により撮影された防水シート表面のデジタル画像から、画像解析技術を用いて残存品質を推定する方法である。すなわち、劣化した防水シート表面を撮影した画像から、劣化に伴って現れる特徴量を抽出し、説明変数とする。そして得られた説明変数を用いて回帰分析などを行い、残存品質を目的変数として出力する。
【0035】
図1は、この防水シート劣化診断方法の流れ図を示す。この方法は、処理の過程を大別すると、画像解析・画像認識技術を用いて画像特徴量を抽出する画像処理・特徴抽出過程(S1)と、これら特徴量からデータ解析により残存品質を精度よく導く残存品質演算過程(S2)とに分けられる。画像処理・特徴抽出過程(S1)においては、防水シートにおいて、劣化に伴って現れる要素であるクラックに着目し、形態特徴を画像特徴量として抽出する。残存品質演算過程(S2)においては、交互作用項の作成、説明変数の選択を経て、代表的なデータ解析手法である重回帰分析を用いて残存強度予測モデルを構築し、残存品質を求める。この他に、入力処理過程(S0)を含む。
【0036】
入力処理過程(S0)は、原画像のデータを入力する過程(R1)からなる。入力する原画像のデータは、防水シート表面のカラーのデジタル画像であり、ピクセルが縦横に並んだ画像のデータである。
画像処理・特徴抽出過程(S1)は、原画像のトリミング等を行う前処理過程(R1)と、カラーのデジタル画像からなる原画像をグレイ・スケール変換する過程(R2)と、2つの系列の領域分割・特徴量抽出過程(S1a,S1b)とでなる。第1の領域分割・特徴量抽出過程(S1a)は、2値化によりクラック領域と非クラック領域とに分割する領域分割過程(R4)と、その2値画像から画像の特徴量を抽出する過程(R5)とでなる。第2の領域分割・特徴量抽出過程(S1b)は、分水嶺処理(Watershed 処理) による領域分割過程R6と、その領域分割内容から画像の特徴量を抽出する特徴量抽出過程(R7)とでなる。これら2つの系列の領域分割・特徴量抽出過程(S1a,S1b)は、並行して行っても、いずれか一方を先に行っても良いが、2つの系列の領域分割・特徴量抽出過程(S1a,S1b)の両方が行われてから、残存品質演算過程(S2)に進む。
【0037】
残存品質演算過程(S2)は、交互作用項を作成する過程(R8)と、説明変数を選択する過程(R9)と、データ解析過程(R10)と、残存品質の診断結果である予測値を出力する過程(R11)とでなる。
上記各過程R1〜R11は、後に詳しく説明する。
【0038】
画像処理・特徴抽出過程(S1)および残存品質演算過程(S2)には、コンピュータを用いた図2の防水シート劣化診断装置1を用い、また原画像の撮影にはマイクロスコープ形式の防水シート撮影装置2を用いる。
【0039】
図2の防水シート劣化診断装置1は、パーソナルコンピュータ等のコンピュータと、そのオペレーションシステムと、このコンピュータに実行されるアプリケーションプログラムである防水シート劣化診断プログラムとでなり、これらによって同図に示した各機能達成手段が構成されたものである。上記コンピュータは、キーボード、マウス、通信回線の接続用インターフェイス、および記憶媒体のドライバ等の入力機器3と、画像を表示する液晶表示装置やプリンタ等の出力機器4が付随して設けられ、または接続される。
【0040】
この防水シート劣化診断装置1は、上記機能達成手段として、入力処理手段5、原画像記憶手段6、画像処理・特徴量抽出手段7、残存品質演算手段8、および出力処理手段18を有する。入力処理手段5は、判定対象となる防水シートの表面の一部を撮影したデジタル画像からなる原画像のデータの入力を受け付けて、原画像記憶手段6に記憶させる手段である。原画像のデータの入力の受け付けは、防水シート撮影装置2から配線や通信ネットワークを介して行うようにしても良く、また防水シート撮影装置2で撮影されて記憶媒体に記憶された原画像のデータを、記憶媒体から読み出すようにしても良い。原画像記憶手段6は、コンピュータの備えるメモリやその他の記憶媒体からなる。
【0041】
画像処理・特徴量抽出手段7は、原画像記憶手段6に記憶された原画像のデータを処理し、防水シートの劣化に伴って現れる要素として定められた画像の複数種類の特徴量をそれぞれ抽出する手段である。画像処理・特徴量抽出手段7は、前処理等処理部9と、第1の領域分割部10と、第1の特徴量抽出部11と、第2の領域分割部12と、第2の特徴量抽出部13とを備える。前処理等処理部9は、図1の前処理過程(R2)、グレイ・スケール変換過程(R3)を実行する手段である。
【0042】
第1の領域分割部10は、原画像の各ピクセルを、クラック領域を示すピクセルと非クラック領域を示すピクセルとに2値化処理によって領域分割する手段である。第1の特徴量抽出手段11は、領域分割された2値画像から特徴量を抽出する手段である。第1の領域分割部10および第1の特徴量抽出手段11は、それぞれ図1の第1の領域分割過程(R4)および第1の特徴量抽出過程(R5)を実行する手段である。
【0043】
図2において、第2の領域分割部12は、分水嶺処理(Watershed 処理) により領域分割する手段である。第2の特徴量抽出部13は、その領域分割内容から画像の特徴量を抽出する手段である。これら第2の領域分割部12および第2の特徴量抽出部13は、図1の第2の領域分割過程(R6)および第1の特徴量抽出過程(R7)を実行する手段である。
【0044】
図2において、残存品質演算手段8は、画像処理・特徴量抽出手段7によって抽出された各種類の特徴量を定められた規則に従って解析して、防水シートの破断時の伸び率の保持率である残存品質を求める手段である。この残存品質は、残存強度とも呼ばれる。残存品質演算手段8は、交互作用項作成部14、説明変数選択部15、データ解析部16、および実測値等記憶部17を有する。
交互作用項作成部14は、画像処理・特徴量抽出手段7で抽出した各種類の特徴量のうち任意の2つの特徴量を掛け合わせた交互作用項を作成する手段である。説明変数選択部15は、画像処理・特徴量抽出手段7で抽出した各種類の特徴量のうち、解析に用いる説明変数を定められた基準によって選択する手段である。データ解析部16は、説明変数選択部15で 選択された説明変数を用いて重回帰分析により残存品質を求める手段である。実測値等記憶部17は、データ解析部16による重回帰分析に用いるデータを記憶しておく手段であり、記憶内容は逐次更新される。
交互作用項作成部14、説明変数選択部15、およびデータ解析部16は、図1の交互作用項の作成過程(R8)、説明変数選択の過程(R9)、データ解析過程(R10)を実行する手段である。
【0045】
図2の出力処理手段18は、残存品質演算手段8で求められた残存品質を出力機器4に出力する手段である。
【0046】
図2の防水シート劣化診断装置1を構成する各手段の具体的な構成、および図1の流れ図における各過程で行う処理の内容を、以下の各検討内容の説明と共に述べる。
【0047】
(対象資料、画像の撮影、前処理について)
・対象とする防水シート
この実施形態および各試験では、塩ビ系防水シート(全面接着型)を対象とする。
・評価方法と劣化度判定基準
従来の防水シートの劣化状況の診断には、引張試験機を用いて行われ、防水シートの破断時の伸び率の保持率で評価される。
【0048】
【数1】

【0049】
引張試験機を用いて行われる防水シートの劣化度の判定基準には、表1に示されるように、伸び保持率によって劣化度 Iから IIIまでに判定する。劣化度 Iは初期値比60%以
上を保ち、劣化度 II は初期値比30%以上60%未満、劣化度 IIIは初期値比30%未満で、それぞれ部分補修、大規模または部分補修、大規模改修が必要である。
【0050】
【表1】

【0051】
・劣化過程
塩ビ系防水シートは陸屋根で使用されることが多く、防水シートが屋外に完全に暴露された状態で使用されている。そのような場合、防水シートは紫外線、熱、水分などの影響により劣化が進行すると考えられる。世良氏ら(非特許文献3)によると、塩ビ樹脂は紫外線による劣化が最も大きく、太陽光による紫外線照射が表面側からの分子量低下に繋がり、この現象が表面クラックの発生など外観変化に現れているとしている。このように、防水シートにおいて劣化に伴って現れる要素はクラックであり、クラックの形状が劣化に伴って変化すると仮定した上で研究を進める。図8(A)左はそのような典型例であり、同図右は人の歩行などで表面が摩耗したと考えられる例外的なものである。また、図8(B)の画像サンプルからは、残存強度が100%,62%,28%,4 %と劣化の進行に伴ってクラックの幅が広くなり、クラックの領域が広がっていることがわかる。
【0052】
・防水シートサンプル
引っ張り試験を行った防水シートサンプルの代表的な劣化パタンを示した46枚のサンプルについて、残存品質は図9のような分布となっている。
・画像の撮影
この実施形態では、案出したマイクロスコープ型の防水シート撮影装置2(図3〜図5)によって、防水シート表面の撮影を行う。
正方形サイズで、資料的な意味も考慮してできるだけ高い解像度で撮影し、24ビットカラーのjpg (高品質)で保存する。ただし画像解析にはそのような高解像度は不要なので、撮影画像を640 ×640 ピクセルに縮小したものを用いる。図10に、防水シートの画像サンプルを示す。撮影範囲は縦横約2mmである。
【0053】
・画像のトリミング
撮影された画像サンプルは、カメラのレンズの周辺光量の問題等から、中央部が明るく周辺部が暗くなる。また、中心部に焦点を合わせると、周辺部のピントがやや甘くなりやすい。今回使用したサンプルは水平面で撮影したものであるが、防水シートは湾曲した場所で使用されることもあり、上記の問題がより顕著に表れると考えられる。これらの光学的な補正は難しいので、照明むらやピント外れの影響が小さいと思われる、画像の中心部240 ×240 ピクセルを切り抜いて、分析対象とする(図11)。図1の前処理過程(R2)および図2の前処理等処理部9では、上記の画像のトリミングを行う。
【0054】
参考までに、トリミング前後の画像をマンセル表色系のHSVの表色系に分解し、その明度値(V)の画素毎のグラフを、それぞれ図12(A),(B)に示す。トリミング前には周辺部で低い値となっていた明度値が、トリミング後には均一の近い状態になっている。
【0055】
(画像解析を用いた特徴抽出)
・特徴抽出の概要
劣化に伴う防水シートの変化の考察から、防水シート表面に現れるクラックに着目し、それに対する特徴量を抽出する。
【0056】
・グレイ・スケール変換
撮影した24bit のカラー画像から、領域分割の前処理として、n階調のグレイ・スケール変換を行う。このグレイ・スケール変換を、図1のグレイ・スケール変換の過程(R3)、図2の前処理等処理部9で行う。この実施形態では、2値化処理用には、一般に用いられる256階調のグレイ・スケール画像に変換する。一方、分水稜処理(Wartershed処理)では、ピクセルの階調が細かすぎるとノイズを拾いやすく適切な分割がなされないので、64階調のやや荒いグレイ・スケール変換を行う。
【0057】
・領域分割
クラック部分と非クラック部分を領域分割することを試みる。多数の領域分割手法があるが、ここでは、元画像を2値化処理する方法と、分水稜法(Watershed )と呼ばれる方法とを用いる。図1の第1の領域分割の過程(R1)、図2の第1の領域分割部10では、次の2値化処理による領域分割を行う。図1の第2の領域分割の過程(R6)、図2の第2の領域分割部12では、次の分水稜法(Watershed )による領域分割を行う。
【0058】
・2値化処理による領域分割
2値化処理により、サンプル画像からクラック領域と非クラック領域とに画像を分類する。以下では取り出したいクラックを黒(0)、それ以外を白(1)として2値化処理を行う。
2値化処理手法として、代表的なp-タイル法と判別分析法を検討した。p-タイル法は、2値化したい領域が全画像の領域に占める割合を指定して2値化する方法である。一方、判別分析法は、2値化した際に、各領域に関するクラス内分散とクラス間分散の分散比が最大になるように閾値を自動的に決定する方法である。いずれを用いても良いが、ここでは、サンプルを用いて実験を行った結果、分割精度の高かった判別分析法を採用した。さらに、判別分析法によって2値化した画像に対して、メディアン・フィルタをかけて、細かなノイズ除去を施す。
図8(B)の62%,28%,4 %の画像サンプルから得た2値画像を図13に示す。
【0059】
判別分析法とメディアン・フィルタの概要を以下に示す。
a)判別分析法
画像の濃度値ヒストグラムにおける濃度値の分布を、閾値をtで2つのクラス(t以上とt未満)に分割したとき、2つのクラスがもっともよく分離するようにtを決める方法が判別分析法による閾値選択法である。分離性の尺度としては、2つのクラスの平均値の分散(クラス間分散)と各クラスの分散(クラス内分散)の比(判別比)が用いられ、この判別比が最大となるようにtが選択される。tの求め方を以下に示す。
【0060】
与えられた画像がLレベルの濃度値(1,2, …, L) をもつものとする。ここで、閾値がt以上の濃度値をもつ画素と、それより小さな値をもつ画素の2つのクラスに分け、それぞれクラス1,クラス2とする。クラスi(i=1,2)の画素数をWi,分散をσi2とおき、全画素の平均濃度値をMrとおくと、クラス内分散は、
【0061】
【数2】

となる。
【0062】
全分散σT 2 はtとは無関係な定数となるので、判別比を最大にするにはσB 2 を最大にすればよいことがわかる。すなわち、tを変化させてσB 2 を最大にするtの値を求めればよい。
【0063】
b)メディアン・フィルタ
メディアン・フィルタとは、n×nの局所領域における濃度値を小さい順に並べ、中央値を領域中央の画素の出力濃度とすることでノイズを除去し、雑音の性質が画像の内容とは無関係でランダムな白色雑音の場合に特に効果的である。n=3の局所領域でメディアン・フィルタを考えるとき、元画像が図14の場合、注目する中央の画素の8近傍の濃度値を小さい順に並べたとき、{1, 1, 2, 2, 2, 2, 3, 3, 8 }となり、注目画素の8をこの中央値である2 に入れ替えることとなる.このような処理を画像の全画素に対して行うことで、ゴマ塩状のノイズを除去することができる。
【0064】
・分水稜処理(Watershed 処理)による領域分割
分水稜処理(Watershed 処理)とは、画像の各ピクセルが持つスカラー値を地形の標高と見なし、各盆地を区切る分水嶺を領域の境界とする領域分割手法である。図15のように、2つの局所的な標高の最小値が存在する条件下で水が高い位置から低い位置へと流れていく際に、そのどちらかに流れ込むかの境界となる部分を分水稜(Watershed )と呼び、分水稜の部分で領域分割を行う。この実施形態では、画像の256段階のグレイ・スケールの明度値を標高とし、正方形グリッドによる分水稜を用いて領域分割を行う。その例を図16に示す。
【0065】
・特徴抽出
次に領域分割された各領域の特徴を示す特徴量を抽出する。2値画像では分割されたクラック領域に関する各種特徴量を計算する。このクラック領域に関する特徴量を計算は、図1の第1の特徴量抽出過程(R5)および図2の第1の特徴量抽出部11で行う。分水稜(Watershed )処理画像では、分割された各領域の明度分布に関して特徴量を計算する。この明度分布に関する特徴量の計算は、図2の第2の特徴量抽出過程(R7)および図2の第2の特徴量抽出部13で行う。
【0066】
・2値画像からの特徴抽出
a)クラックの大きさ
劣化の進行に伴って表面クラックの幅が広がりクラックの領域が大きくなると考えられることから、クラック領域の占める面積比率(CrackRatio)、クラック領域の平均幅(CrackWidth)を以下の式で計算する。
【0067】
【数3】

【0068】
ここで、CAはクラック領域のピクセル数、TAは画像のピクセル数(=240×240 )、CLはクラックの長さとし、それらの計測単位は1 ピクセルとする。なおここでのクラックの長さは、2値化画像(図17(B))においてクラック領域の中心の線分だけを残す細線化処理(図17(C))を行い残ったピクセルの個数とする。
【0069】
b)距離変換
劣化の進行に伴って表面クラックの幅が広がっていくと考えられる。そこで、この劣化に伴うクラックの形態特徴を抽出するため距離変換を用いた重み付けを行う。
距離変換では、図形の各画素から非クラック画素までの最短距離がその画素における距離値となり、図形の中心にいくほど大きな値をとるように各画素の値が変換される。
2値化処理によって0と1からなる2値画像に対して、値が0のピクセルとその最近傍の値が1のピクセル間の距離を計算し、距離による画像を作成する。この実施形態では、2つの画素x=(i,j)とy=(k,l)に対して、
【0070】
【数4】

と表されるユークリッド距離を用いて距離を測定することとする。図18に3×3ピクセルで構成される2値画像の距離変換の例を示す。
【0071】
距離変換により重み付けを行うと、図19のように細いクラックで構成された画像と太いクラックで構成された画像の違いを表現することができる。これらの2つの例は共にクラックの面積は同じであるが、それぞれを距離変換することによって得た値の合計は細いクラックの場合は15となり、太いクラックの場合は20となる。このように劣化が進行していると考えられる太いクラックで構成される画像だと、クラックの面積比率は細いクラックで構成されるものと同程度であっても、より大きな値として得られる。このように2値画像を距離変換して得られた画像から、その合計をDsum,中央値をDmedian 、最大値をDmax、標準偏差をDstdとして、特徴量として抽出する。
【0072】
c)局所的最大値
前述の距離変換によって得た値を3次元プロットしたものが図20である。この山の部分が2値画像におけるクラック部分に相当しており、距離変換の性質より、高い山ほどクラックの幅が広いことを意味している。この山の各頂点はクラックの最も幅の広い部分、すなわちクラックの中心であり、この局所的最大値から特徴量を抽出する。
まず、距離変換により得た画像から局所的最大値のみを抽出し、距離変換の値が小さい順にソートしてヒストグラムを作成する。検討の結果、局所的最大値を10水準に等分割してヒストグラムを作成することとし、各水準i(1≦i≦10) の度数をMaximaiとして特徴量とする。この指標は、画像全体で小さい山(細いクラック)が多いのか、大きい山(太いクラック)が多いのかを表す。すなわち、Maxima1 方向の度数が大きいヒストグラムであれば細いクラックが多く、逆に、Maxima10方向の度数が大きければ太いクラックが多い、つまり劣化が進行しているシートであると考えられる。
【0073】
d)隣接ピクセル
2値画像のピクセルxに関して、その値をv(x)={0,1}と表す。今、v(x)=0すなわちクラックに分類されるピクセル集合を
【数5】

とし、そこから距離がiピクセルだけ離れた帯状の近傍(図21)に含まれるピクセルの集合を
【数6】

とする。
【0074】
【数7】

【0075】
・分水稜(Watershed )処理画像からの特徴抽出
次に、分水稜処理によって分割されたクラスターごとに、そこに分類されるピクセルの明度の平均値、中央値、標準偏差、最小値、および最大値を計算する。これらを昇順に並べ替え、値に関して均等にI分割してバケット化し、水準iのバケット内のデータの平均値を、それぞれ、meani ,mediani ,stdi,mini,maxiとし、特徴量として抽出する。検討の結果、ここではI=9分割とした。
【0076】
次に、残存品質演算過程(S2)(図1)につき説明する。図1の交互作用項の作成過程(R8)および図2の残存品質演算手段8における交互作用項作成出14では、次のように交互作用項を作成する。
(相関分析)
・各特徴量と残存品質
各特徴量と残存品質との相関係数を表2に、散布図を図22〜図25に示す。散布図は一部のみを図示し、他は図示を省略した。画像特徴量とは別に、サンプルの強度実験を行った際の使用年数をYearとして追加している。
【表2】

【0077】
・交互作用項と残存強度
交互作用項の説明は5.1でなされるが、簡単に説明すると、単独の属性を掛け合わせて新たな属性を作る操作である。この実施形態の場合、83個の属性から新たに3403個の交互作用項が作られる。これらすべてについて、残存強度との関係を示すことは煩雑なので、5.6.2に示したモデルに使われている交互作用項についてのみ、残存強度との相関を表3に、散布図を図26に示す。なお図中の交互作用項の記号は、平均値を除いた略記となっている。
【0078】
【表3】

【0079】
残存強度予測モデルの構築
この実施形態では、交互作用項を含めて非線形性を考慮した多変量解析により、残存品質(伸びの保持率)の回帰分析を行う。この回帰分析は、図1のデータ解析の過程(R10)、図2のデータ解析部16で行うが、その際の説明変数の選択を、図1の説明変数選択過程(R9)、図17の説明変数選択部15で行う。
回帰分析モデルには、近年注目が集まっているサポートベクターマシン回帰等の新しい手法を用いても良いが、この実施形態では、予測精度や計算速度等の点から、オーソドックスな重回帰分析を採用した。以下に、モデルの構築手順と検証結果を示す。
【0080】
・交互作用項の作成
前述の手法によって抽出された特徴量に加えて、交互作用項を作成する。交互作用項とは二つの異なる説明変数を掛け合わせたものとして定義される。ただし、交互作用項の作成では、主効果の変数と交互作用項の変数の相関が高くなってしまうことを避けるために、変数の中心化を行う。変数の中心化とはもとの変数の値から、該当変数の平均値を引く操作である。なお、交互作用により生成された変数は、“変数1 _変数2 ”のように二つの変数名をアンダーバーで結んで表記する。まとめると交互作用項は以下のように計算される。
変数1 と変数2 の交互作用項=( 変数1 −変数1 の平均) ×( 変数2 −変数2 の平均)
【0081】
・重回帰分析
【数8】

【0082】
上記の重回帰分析に用いる実測値Yi は、図2の実測値等記憶手段17に、入力機器3からの入力によって記憶させておく。同図の入力処理手段は、上記の原画像を記憶させる処理の他に、実測値Yi を記憶させる処理機能を持つ。なお、データ解析部16は、重回帰分析の過程で得た未知係数aと切片bを記憶しておく。
【0083】
・変数選択
重回帰分析では、多数の説明変数を扱う際には多重共線性の問題が生じやすい。また、モデルの汎化性を高めるためにも、できるだけ説明変数を絞り込む必要がある。変数選択方法には多数の方法があるが、ここでは、モデルの説明変数の有意度(P値)を判定基準として、変数を逐次追加もしくは削除するステップワイズ法と呼ばれる方法で変数を選択する。その具体的手順を図27に示す。
【0084】
なお、交互作用項については、それを組み合わせる前の変数と交互作用項の計3つの変数がすべて有意の時に限り導入する。また、この実施形態では、Pi= Po=0.25としている。
【0085】
・精度評価方法
【数9】

【0086】
・交差検証法
この実施形態では46枚の画像を用いてモデル構築を行うが、全てのデータに関して重回帰モデルを適用し、それに対して精度が高いモデルを構築することは、説明変数を増やしていけば難しいことではない。しかし、説明変数を増やせば多重共線性や汎化性の低下が生じ、未知データに対する予測精度が低下していく。
未知データに対する予測精度を近似的に把握する為に、交差検証法と呼ばれる方法で精度評価を行う。これは図28に示したように、データをv 分割し、v-1 組のデータを学習用に、残りの1 組のデータをテスト用に用い、この組み合わせをv 回変えて行うことで、未知データに対する近似的な予測精度を得ようとするものである。なおこの方法では、6.4 の精度評価指標(a,b )は、各テスト用データでの平均値となる。また、v は10回程度が一般に用いられることが多く、この実施形態でもv=10回とした。
【0087】
残存強度推定モデルの構築
a)交互作用項を含まないモデル
まず、交互作用項を含めず、表2に示した基本的な83個の特徴量を説明変数として、変数選択を行いモデルを構築した。その結果、表4に示すモデルが構築された。またこの説明変数の組み合わせで10回の交差検証を行った場合の予測精度を図29に示す。
median2 を除いて有意確率5%で有意な変数となっており、多重共線性も発生していない。交差検証の精度は比較的良好であり、これでも実用的には大きな問題が無いモデルとなっている。
【0088】
【表4】

【0089】
b)交互作用項を含むモデル
次に83個の説明変数から2 次までの交互作用項を作成し、1次(83個)2次(3,403 個)の説明変数から,変数選択を行い表5に示す残存強度推定モデルを得た。そして、この変数の組み合わせで、10回の交差検証を行い、予測精度を求めた結果を図30に示
す。
モデルの各変数のP値は非常に小さく、学習精度もきわめて高い。さらに、交差検証の精度も非常に高く、未知のシートについても良好な推定結果が期待できる。
【0090】
【表5】

【0091】
この実施形態に係る防水シート劣化診断方法および診断装置1は、上記のように各処理を行うため、以下の特徴を有する。
・対象を変化させない完全な非破壊検査にもかかわらず、複数の画像特徴量を組み合わせることで、非常に高い精度で残存強度を推定できる。
・豊富に用意された画像特徴量と、それらから有意な変数を効率的に導き出す変数選択手法により、推定モデルを状況に応じて再学習でき、今後増えてくる劣化防水シートの実験結果を取り込んで、より多数のサンプルにより信頼性の高いモデルを容易に作ることができる。
【0092】
図3〜図7と共に、防水シート撮影装置2の具体例を説明する。この防水シート撮影装置2は、この防水シート劣化診断方法,装置に用いる原画像を得るための装置であって、図5に示すように、マイクロスコープ21と、このマイクロスコープ21の上端に取付けられて作業者が手で持つ把手等となる治具22と、照明カバー23とを備える。図3に示すように、照明カバー23は、開口端を防水シートに接触させる上下逆向きのカップ状であり、天井面部付きの円筒形状とされている。照明カバー23の開口端となる周縁には、防水シートに押し付けて隙間を塞ぐOリング等の弾性密封材24が設けられている。
【0093】
照明カバー23内の開口端の近傍には、開口中央部回りに、開口中央部に向けて照明光を照射する光源25が、図4(A)のように複数個(図示の例では4個)等配して設けられている。光源25は、発光ダイオードからなり、固定基盤26に取付けられていて、照射面25aが開口中央部側に向いている。固定基盤26が中央開口を有しかつ円周方向の一部に切欠部26aを有する円板状であり、照明カバー23内のフレーム27の下端に取付けられている。フレーム27には、バッテリーケース部27aが設けられ、単4乾電池等からなるバッテリー28が収容されている。固定基盤26の前記切欠部26aに、バッテリーケース蓋29が開閉可能に設けられている。また、フレーム27には発光ダイオードからなる光源25を駆動する光源駆動用電源基盤30が設けられている。照明カバー23の上面に、照明オンオフ用のスイッチ31が設けられている。
【0094】
マイクロスコープ21は、画像拡大用の光学系と固体撮像素子等の撮像素子(いずれも図示せず)を内蔵しており、照明カバー23に対し、先端が照明カバー23内の位置するように固定され、照明カバー23の開口縁に接する防水シートの一部を拡大してカラーのデジタル画像として撮影する機能を備える。マイクロスコープ21には、ピント調整用のつまみ32を有し、かつ撮影した画像を記録する記憶媒体(図示せず)を内蔵する。
【0095】
この構成の防水シート撮影装置2によると、照明カバー23内の開口端の近傍に、開口中央部に向けて照明光を照射する複数の光源25が設けられているため、図7のように、照明光が防水シートWの表面に略平行に照射されることになり、防水シートWの表面に生じているクラックWaが影となる。そのため、クラックWaを明確に示す原画像を得ることができ、防水シート劣化診断によって残存品質をより精度良く求めることができる。なお、図6は、この防水シート撮影装置2で撮影した防水シート表面の画像例を示す。
【符号の説明】
【0096】
1…防水シート劣化診断装置
2…防水シート撮影装置
5…入力処理手段
6…原画像記憶手段
7…画像処理・特徴量抽出手段
8…残存品質演算手段
9…前処理等処理部
10…第1の領域分割部
11…第1の特徴量抽出部
12…第2の領域分割部
13…第2の特徴量抽出部
14…交互作用項作成部
15…説明変数選択部
16…データ解析部
17…実測値等記憶部
21…マイクロスコープ
22…治具
23…照明カバー
25…光源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
判定対象となる防水シートの表面の一部を撮影したデジタル画像からなる原画像のデータを原画像記憶手段に記憶させる入力処理過程と、
前記原画像記憶手段に記憶された原画像のデータを処理し、防水シートの劣化に伴って現れる要素として定められた画像の複数種類の特徴量をそれぞれ抽出する画像処理・特徴量抽出過程と、
この抽出した各種類の特徴量を定められた規則に従って解析して、防水シートの破断時の伸び率の保持率である残存品質を求める残存品質演算過程とを含み、
前記画像処理・特徴量抽出過程は、原画像の各ピクセルを、クラック領域を示すピクセルと非クラック領域を示すピクセルとに2値化処理によって領域分割する領域分割過程と、この領域分割された2値画像から特徴量を抽出する特徴量抽出過程とを含み、
前記特徴量抽出過程で抽出する前記複数種類の特徴量として、クラックの大きさに係る特徴量である、前記2値画像のうち、クラック領域の占める面積比率、およびクラック領域の平均幅のいずれか一方または両方の特徴量と、距離変換を用いた重み付けによって得られるクラックの幅に係る特徴量とを用い、
前記距離変換による重み付けは、クラック領域の各ピクセルから非クラック領域のピクセルまでの最短距離がそのピクセルの距離値であるとしてクラック領域の各ピクセルの値を前記距離値で重み付けした画像を生成する処理であり、この重み付けされた画像における各ピクセルの値の合計、中央値、最大値、および標準偏差の少なくとも一つを前記クラック領域の幅に関する特徴量として用いる、
ことを特徴とする防水シート劣化診断方法。
【請求項2】
請求項1において、前記特徴量抽出過程で抽出する特徴量として、前記クラックの大きさに係る特徴量、およびクラックの幅に係る特徴量の他に、次の局所的最大値から得られる特徴量を用い、
この局所的最大値から得られる特徴量は、前記距離値で重み付けした画像から、個々のクラック領域におけるピクセルの値の最大値である局所的最大値を抽出し、距離変換の値が小さい順または大きい順にソートし、n(n:2以上の自然数)水準に等分割したヒストグラムを作成し、各水準i(1≦i≦n)の度数を、前記局所的最大値から得られる特徴量とする防水シート劣化診断方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記特徴量抽出過程で抽出する特徴量として、前記クラックの大きさに係る特徴量、およびクラックの幅に係る特徴量の他に、隣接ピクセルを比較することによる特徴量として、一つのピクセルについて、その距離がi(iは自然数)ピクセルだけ離れた帯状の近傍に含まれるピクセルの集合について、全てがクラックのピクセルであるときのみ、その近傍を連続したクラック領域として定め、クラック領域のピクセルの近傍距離別にクラック領域が分布しているかを示す値と、クラック領域の各ピクセルにつきどの範囲まで連続したクラック領域が広がっているかを示す値とを用いる防水シート劣化診断方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、画像処理・特徴量抽出過程として、前記2値化処理によって領域分割する領域分割過程およびこの領域分割された2値画像から特徴量を抽出する特徴量抽出過程と共に、前記原画像記憶手段に記憶された原画像の各ピクセルが持つスカラー値を地形の標高とみなし、各盆地を区切る分水嶺を境界として、仕切る領域分割過程と、この分割されたクラスター毎に、そこに分類されるピクセルの明度の中央値、標準偏差、最小値、および最大値のうちの少なくとも一つを計算し、計算結果を昇順または降順に並べ替え、値に関して均等に複数分割してバケット化し、各バケット内のデータの平均値を特徴量として求める特徴量抽出過程とを用い、前記残存品質演算過程では、前記2値化処理後の領域分割過程を経て得た特徴量と、前記分水嶺を境界として仕切る領域分割過程を経て得た特徴量との両方を、残存品質の解析に用いる防水シート劣化診断方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記残存品質演算過程では、画像処理・特徴量抽出過程で抽出した各種類の特徴量から、回帰分析によって前記残存品質を求める防水シート劣化診断方法。
【請求項6】
請求項5において、前記残存品質演算過程では、前記画像処理・特徴量抽出過程で抽出した各種類の特徴量のうち、定められた基準によって選択したものを説明変数とし、前記残存品質を目的変数として、重回帰分析により残存品質を求める防水シート劣化診断方法。
【請求項7】
請求項6において、前記残存品質演算過程では、前記画像処理・特徴量抽出過程で抽出した各種類の特徴量のうち任意の2つの特徴量を掛け合わせた交互作用項を作成し、前記各特徴量と前記各交互作用項を説明変数とし、これらの説明変数から、定められた判定基準に従って説明変数を選択し、選択された説明変数を用いて重回帰分析により残存品質を求める防水シート劣化診断方法。
【請求項8】
判定対象となる防水シートの表面の一部を撮影したデジタル画像からなる原画像のデータを原画像記憶手段に記憶させる入力処理手段と、
前記原画像記憶手段に記憶された原画像のデータを処理し、防水シートの劣化に伴って現れる要素として定められた画像の複数種類の特徴量をそれぞれ抽出する画像処理・特徴量抽出手段と、
この抽出した各種類の特徴量を定められた規則に従って解析して、防水シートの破断時の伸び率の保持率である残存品質を求める残存品質演算手段とを備え、
前記画像処理・特徴量抽出手段は、原画像の各ピクセルを、クラック領域を示すピクセルと非クラック領域を示すピクセルとに2値化処理によって領域分割する領域分割部と、この領域分割された2値画像から特徴量を抽出する特徴量抽出部とを有し、
前記特徴量抽出部は、抽出する前記複数種類の特徴量として、クラックの大きさに係る特徴量である、前記2値画像のうち、クラック領域の占める面積比率、およびクラック領域の平均幅のいずれか一方または両方の特徴量と、距離変換を用いた重み付けによって得られるクラックの幅に係る特徴量とを用い、
前記距離変換による重み付けは、クラック領域の各ピクセルから非クラック領域のピクセルまでの最短距離がそのピクセルの距離値であるとしてクラック領域の各ピクセルの値を前記距離値で重み付けした画像を生成する処理であり、この重み付けされた画像における各ピクセルの値の合計、中央値、最大値、および標準偏差の少なくとも一つを前記クラック領域の幅に関する特徴量として用いる、
ことを特徴とする防水シート劣化診断装置。
【請求項9】
請求項8において、前記特徴量抽出部で抽出する特徴量として、前記クラックの大きさに係る特徴量、およびクラックの幅に係る特徴量の他に、次の局所的最大値から得られる特徴量を用い、
この局所的最大値から得られる特徴量は、前記距離値で重み付けした画像から、個々のクラック領域におけるピクセルの値の最大値である局所的最大値を抽出し、距離変換の値が小さい順または大きい順にソートし、n(n:2以上の自然数)水準に等分割したヒストグラムを作成し、各水準i(1≦i≦n)の度数を、前記局所的最大値から得られる特徴量とする防水シート劣化診断装置。
【請求項10】
請求項8または請求項9において、前記特徴量抽出部で抽出する特徴量として、前記クラックの大きさに係る特徴量、およびクラックの幅に係る特徴量の他に、隣接ピクセルを比較することによる特徴量として、一つのピクセルについて、その距離がi(iは自然数)ピクセルだけ離れた帯状の近傍に含まれるピクセルの集合について、全てがクラックのピクセルであるときのみ、その近傍を連続したクラック領域として定め、クラック領域のピクセルの近傍距離別にクラック領域が分布しているかを示す値と、クラック領域の各ピクセルにつきどの範囲まで連続したクラック領域が広がっているかを示す値とを用いる防水シート劣化診断装置。
【請求項11】
請求項8ないし請求項10のいずれか1項において、画像処理・特徴量抽出手段として、前記2値化処理によって領域分割する領域分割部およびこの領域分割された2値画像から特徴量を抽出する特徴量抽出部の他に、前記原画像記憶手段に記憶された原画像の各ピクセルが持つスカラー値を地形の標高とみなし、各盆地を区切る分水嶺を境界として、仕切る第2の領域分割部と、この分割されたクラスター毎に、そこに分類されるピクセルの明度の中央値、標準偏差、最小値、および最大値のうちの少なくとも一つを計算し、計算結果を昇順または降順に並べ替え、値に関して均等に複数分割してバケット化し、各バケット内のデータの平均値を特徴量として求める第2の特徴量抽出部とを設け、前記残存品質演算手段では、前記2値化処理を経て行う領域分割部を経て得た特徴量と、前記分水嶺を境界として仕切る領域分割部を経て得た特徴量との両方を、残存品質の解析に用いる防水シート劣化診断装置。
【請求項12】
請求項8ないし請求項11のいずれか1項において、前記残存品質演算手段では、画像処理・特徴量抽出手段で抽出した各種類の特徴量から、回帰分析によって前記残存品質を求める防水シート劣化診断装置。
【請求項13】
請求項12において、前記残存品質演算手段は、前記画像処理・特徴量抽出手段で抽出した各種類の特徴量のうち、定められた基準によって選択したものを説明変数とし、前記残存品質を目的変数として、重回帰分析により残存品質を求める防水シート劣化診断装置。
【請求項14】
請求項13において、前記残存品質演算手段は、前記画像処理・特徴量抽出手段で抽出した各種類の特徴量のうち任意の2つの特徴量を掛け合わせた交互作用項を作成し、前記各特徴量と前記各交互作用項を説明変数とし、これらの説明変数から、定められた判定基準に従って説明変数を選択し、選択された説明変数を用いて重回帰分析により残存品質を求める防水シート劣化診断装置。
【請求項15】
請求項8ないし請求項14のいずれか1項に記載の防水シート劣化診断装置と、この防水シート劣化診断装置における入力処理手段に入力する原画像のデータを得る撮影装置とを備え、
前記撮影装置が、開口端を防水シートに接触させるカップ状の照明カバーと、この照明カバー内の前記開口端の近傍に、開口中央部回りに複数設けられて開口中央部に向けて照明光を照射する発光ダイオードからなる複数の光源と、前記照明カバー内に先端が位置し前記開口端に接する防水シートの一部の画像を拡大してデジタル画像として撮影する撮影機能付きのマイクロコープとを備えることを特徴とする防水シート劣化診断システム。
【請求項16】
請求項8ないし請求項14のいずれか1項に記載の防水シート劣化診断装置における入力処理手段に入力する原画像のデータを得る撮影装置であって、
開口端を防水シートに接触させるカップ状の照明カバーと、この照明カバー内の前記開口端の近傍に、開口中央部回りに複数設けられて開口中央部に向けて照明光を照射する発光ダイオードからなる複数の光源と、前記照明カバー内に先端が位置し前記開口端に接する防水シートの一部の画像を拡大してデジタル画像として撮影する撮影機能付きのマイクロコープとを備えることを特徴とする防水シート撮影装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【公開番号】特開2011−180120(P2011−180120A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−269969(P2010−269969)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【出願人】(390037154)大和ハウス工業株式会社 (946)
【出願人】(000010010)ロンシール工業株式会社 (84)
【Fターム(参考)】