説明

防水トンネルの施工方法

【課題】周辺の地下水環境への影響を可及的に低減することができる防水トンネルの施工方法を提供する。
【解決手段】この防水トンネルの施工方法は、地山12を所定長掘削して形成される上部断面掘削領域21に1次覆工22を設けることを数回繰り返す上部1次覆工工程と、上部断面掘削領域21の下部に位置するインバート20を所定長掘削して形成されるインバート断面掘削領域25にインバート1次覆工26を設けてトンネルを閉合するインバート1次覆工工程と、インバート1次覆工26の内面に防水シート14bを敷設し、急結剤28bを含むコンクリートを吹き付けてインバート2次覆工28を設けるインバート2次覆工工程と、インバート2次覆工28を設けたインバート20上部の上部断面掘削領域21の1次覆工22の内面に防水シート14aを敷設し、2次覆工24を設けることで防水トンネル10を施工する上部2次覆工工程を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地山を所定長ずつ掘削したトンネル内面に防水部材を敷設しながら防水トンネルを施工する防水トンネルの施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、軟弱で低強度の地山に対する山岳トンネル等の施工では、地山掘削後にトンネル断面の過大な縮小や、切羽の自立性の低下を生じることがある。そこで、この種の地山の掘削では、上半部(又は上下半部)をトンネル全断面の掘削に先行して施工し、続いて下半部(又はインバート)を施工する方法を採用することがある(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1記載の施工方法は、トンネル断面の上半部を先行して掘削すると共に該上半部に支保工(1次覆工)を設けた後に下半部への掘削を行い、その後、全断面への支保工を行うことにより、トンネルの安定性を確保しようとするものである。
【0003】
ところで、上記のような山岳トンネル等の施工では、地山が多量の地下水を含有していることがある。このため、特許文献1記載の施工方法等を用いた場合には、切羽からトンネル内へと水が漏出することがあり、一般的にはトンネル内に漏出した水を排水しながら掘削及び構造体の施工を行っている。
【0004】
地下水を排水しながらトンネルを施工する場合には、地下水の水位低下を生じるため、周辺の水環境への影響が問題になることがある。そこで、トンネル内部への地下水の漏水を回避するため、掘削したトンネルの内面に防水構造を備えた構造体を設けた防水トンネルが提案されている。
【0005】
一般に、防水トンネルでは、トンネル内面の地山内面に形成する支保構造の1次覆工と、該1次覆工の内面に形成する覆工構造の2次覆工との間に、例えば防水シートを介在させる。この防水トンネルでは、防水シートによって水漏れを防止すると共に、2次覆工で形成されるコンクリート構造物によって水圧を受け止めることができる(例えば、特許文献2、3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−49397号公報
【特許文献2】特許第3923461号公報
【特許文献3】特開2010−24667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記のような軟弱で低強度の地山に防水トンネルを施工する場合には、例えば、上下半部への掘削及び1次覆工に続いて、インバートに対する掘削と1次覆工と防水シートを敷設した2次覆工とを行い、その後、上下半部に対して防水シートを敷設した2次覆工を行う施工方法が考えられる。
【0008】
しかしながら、上記特許文献1〜3に記載されているように、従来のトンネルの施工方法では、上下半部及びインバートに対する2次覆工をコンクリートの打設によって行っている。従って、上下半部の1次覆工に続いてインバートを施工する際には、コンクリートの打設を考慮した十分な施工スペースを確保する必要がある。仮に、インバートに対して掘削と1次覆工と2次覆工とを行う1回の施工長が、10.5m〜12.5m程度としても、移動型枠の設置スペースや打設に要する他の機器等のスペースを含めると、トンネルの掘削方向で30m〜40mのスペースが必要となる。しかも、掘削による飛石等を避けるための退避スペースや、防水シートの張り付け用台車、移動型枠の設置スペース等を考慮すると、インバート施工後の上下半部への2次覆工は、掘削先端の切羽から相当な距離を離れて施工されることになる。
【0009】
このように、トンネル全断面が防水されるまでには、切羽から相当な距離(例えば、100m程度)を必要とする。しかも、打設用のコンクリートには急結剤等の急硬作用を持つ薬剤を混入させることが困難であるため、インバートに打設したコンクリートが硬化するまでに相当な時間(例えば、1月程度)を必要とすることになり、この間、防水されていない支保工部分から漏水が発生し、結局、周辺の水環境に影響を及ぼしてしまう可能性がある。
【0010】
本発明は上記従来の課題を考慮してなされたものであり、周辺の地下水環境への影響を可及的に低減することができる防水トンネルの施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る防水トンネルの施工方法は、地山を所定長ずつ掘削したトンネル内面に防水部材を敷設しながら防水トンネルを施工する防水トンネルの施工方法であって、地山を所定長掘削した後、該掘削によって形成される上部断面掘削領域の地山内面に1次覆工を設ける上部1次覆工工程と、前記1次覆工を設けた上部断面掘削領域の下部に位置するインバートを所定長掘削した後、該掘削によって形成されるインバート断面掘削領域の地山内面にインバート1次覆工を設けてトンネルを閉合するインバート1次覆工工程と、前記インバート1次覆工の内面に防水部材を敷設し、該防水部材の内面に急硬作用を持つ薬剤を含むコンクリートを吹き付けてインバート2次覆工を設けるインバート2次覆工工程と、前記インバート2次覆工を設けたインバート上部の上部断面掘削領域に設けられている1次覆工の内面に防水部材を敷設し、該防水部材の内面に2次覆工を設ける上部2次覆工工程とを有することを特徴とする。
【0012】
このような方法によれば、急硬作用を持つ薬剤、例えば急結剤を含むコンクリートを吹付けてインバート2次覆工を構築することにより、インバート2次覆工をコンクリートの打設によって構築する場合と比べて、迅速にインバートを覆工して工期を短縮することができ、しかも移動型枠等のスペースが不要となることから施工スペースも低減することができる。従って、インバート2次覆工の次工程である上部断面掘削領域への防水シートを敷設した上部2次覆工を、トンネル先端の切羽から比較的近い距離(例えば、50m以内)で、且つ、掘削から所定の短期間(例えば、0.5月〜0.6月)で施工することができる。このため、掘削から早期に防水構造を持った防水トンネルを構築でき、切羽からの地下水の漏出を最小限に抑え、周辺の地下水環境への影響を可及的に低減することができる。
【0013】
前記インバート1次覆工及び前記インバート2次覆工は、前記上部断面掘削領域に対する地山の掘削を停止した状態で施工すると、該掘削の影響がインバートでの施工工程に及ぶことを防止でき、それぞれの工程を円滑に行うことができる。
【0014】
また、前記上部2次覆工における工程の少なくとも一部は、前記上部断面掘削領域に対する地山の掘削中に行われると、全体の工期を一層短縮し、コストを一層削減することができる。
【0015】
前記上部断面掘削領域に対する地山の掘削前に、掘削方向に沿って地山内へと先行する先進ボーリングを行うことにより、掘削方向にある地山の地下水環境を調査し、その調査結果に応じて前記防水トンネルの設計条件を当初計画から再設定する工程を有してもよい。このように防水トンネルの施工中に、地山の地下水環境の状態に応じて設計条件を見直すことにより、当初計画では把握できなかった実際の地山の性状により適した防水トンネルの施工が可能となり、コスト低減や工期短縮が可能となる。
【0016】
前記再設定する工程では、前記インバートの設計条件を再設定することが好ましい。インバートは、防水トンネル施工後、所定の埋め戻しや舗装等が施される部分であることから、所定の耐力(強度や軸力)が確保できれば、その形状等は特に限定されるものではなく、設計変更も比較的柔軟に行うことができるからである。
【0017】
この場合、前記インバートの設計条件として、前記上部2次覆工の断面半径である上部半径と、前記インバート2次覆工の断面半径であるインバート半径との比率を用いると、例えば地下水圧の値によって、インバート半径を変更してその耐圧設計を必要十分なものに変更して、より一層のコスト低減や工期短縮が可能となる。なお、前記インバートの設計条件として、前記インバート2次覆工の圧縮強度を用いてもよい。
【0018】
前記上部断面掘削領域に対する地山の掘削前に、掘削方向に沿って地山内へと先行する先進ボーリングを行うことにより、掘削方向にある地山の地下水環境を調査し、その調査結果に応じて、掘削方向前方の地山に対して透水性を小さくする作用を持つ薬剤を注入する工程を有してもよい。これにより、先進ボーリングによって得られた実際の地山の地下水環境の性状に基づき、掘削や覆工の各工程時での漏水等を一層低減させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、急硬作用を持つ薬剤を含むコンクリートを吹付けてインバート2次覆工を構築することにより、インバート2次覆工をコンクリートの打設によって構築する場合と比べて、迅速にインバートを覆工して工期を短縮することができ、しかも移動型枠等のスペースが不要となることから施工スペースも低減することができる。従って、インバート2次覆工の次工程である上部断面掘削領域への防水シートを敷設した上部2次覆工を、トンネル先端の切羽から比較的近い距離で、且つ、掘削から所定の短期間で施工することが可能となり、切羽からの地下水の漏出を最小限に抑え、周辺の地下水環境への影響を可及的に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る防水トンネルの施工方法によって防水トンネルを施工している状態を示す側面断面図である。
【図2】図2は、図1中のII−II線に沿う断面図である。
【図3】図3は、本発明の一実施形態に係る防水トンネルの施工方法によって防水トンネルを施工する手順の一例の前半部を示す説明図であり、図3(A)は、防水トンネルの所定位置での2次覆工が完了した状態での側面断面図であり、図3(B)は、図3(A)に示す状態から上下半部への掘削及び1次覆工を施工している状態での側面断面図であり、図3(C)は、図3(B)に示す状態からインバートへの掘削及びインバート1次覆工を施工している状態での側面断面図であり、図3(D)は、図3(C)に示す状態からインバート1次覆工の内面に防水シートを敷設し、インバート2次覆工を施工している状態での側面断面図である。
【図4】図4は、図3に示す施工手順の一例の後半部を示す説明図であり、図4(A)は、図3(D)に示す状態から図3(B)から図3(D)の工程をさらに4回繰り返した状態での側面断面図であり、図4(B)は、図4(A)に示す状態から上下半部の1次覆工の内面に防水シートを敷設した後、シート張り台車及び移動型枠を前進させて2次覆工を施工しようとしている状態での側面断面図である。
【図5】図5は、本実施形態に係る防水トンネルの施工方法を適用する場合の施工計画の一例を示す表である。
【図6】図6は、防水トンネルの施工前に行う鉛直ボーリングと施工中に行う先進ボーリングを説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る防水トンネルの施工方法について、この方法によって施工される防水トンネルとの関係で好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0022】
図1は、本発明の一実施形態に係る防水トンネルの施工方法によって防水トンネル10を施工している状態を示す側面断面図である。図2は、図1中のII−II線に沿う断面図であり、地山12の掘削方向(図1では右方向)に直交する方向での断面図である。
【0023】
本実施形態に係る防水トンネルの施工方法(以下、単に「施工方法」ともいう)は、地山12を所定長ずつ掘削したトンネル内面に防水シート(防水部材)14を敷設しながらコンクリート構造物16を所定長ずつ構築することにより、防水トンネル10を施工する工法であり、例えば、軟弱且つ低強度であると共に相当量の地下水を含む地山12に対する山岳トンネルの施工に適用される。勿論、この防水トンネルの施工方法は、軟弱で低強度な地山以外の地山や、山岳トンネル以外のトンネルに対して適用することもできる。
【0024】
図1及び図2に示すように、当該施工方法では、トンネル断面を、上半部18a及び下半部18bからなるアーチ状の上下半部(上部領域)18と、上下半部18の下部であってトンネル底部となるインバート(底部領域)20とに区分し、各区分についてそれぞれ掘削、1次覆工(支保)及び2次覆工を施工することでコンクリート構造物16を構築し、防水トンネル10を施工する。図2中、1点鎖線の水平線で示す境界線S1は上下半部18とインバート20との境界を例示し、境界線S2は上半部18aと下半部18bとの境界を例示している。
【0025】
先ず、本実施形態に係る施工方法の説明に先立ち、この施工方法によって構築されるコンクリート構造物16の構成例について説明する。
【0026】
コンクリート構造物16の上下半部18では、掘削した地山12内面に形成される上部断面掘削領域21に1次覆工(上部1次覆工)22が設けられ、該1次覆工22の内面に防水シート14aを敷設した状態で2次覆工(上部2次覆工)24が設けられる。略同様に、インバート20では、掘削した地山12内面に形成されるインバート断面掘削領域(底部断面掘削領域)25にインバート1次覆工(インバート支保)26が設けられ、該インバート1次覆工26の内面に防水シート14bを敷設した状態でインバート2次覆工(インバート覆工)28が設けられ、インバート2次覆工28の内面(上面)に仮埋戻し土30が設けられる。防水シート14a及び防水シート14bは、それぞれ上下半部18及びインバート20に敷設されると共に、端部同士が接合されることにより、防水トンネル10の断面全周を囲繞する防水シート14を構成する。
【0027】
防水シート14(14a、14b)は、例えば、EVA(エチレン酢酸ビニル共重合体)等の樹脂製材料や不織布等によって形成される厚さ2mm程度の薄いシートであり、十分な防水性と柔軟性を有する。なお、防水トンネル10に防水構造を付与する防水部材としては、防水シート14以外であってもよく、例えば所定の硬化剤等を塗布することによって防水層を形成してもよい。
【0028】
上下半部18において、1次覆工22は、公知のトンネル支保構造と同様に、例えば吹付けコンクリート22a及び鋼製アーチ状支保工(図示せず)で構成され、掘削から2次覆工24の施工完了までの間、上部断面掘削領域21での地山12からの荷重を受け止め、該地山12の崩落や肌落ちを防止するためのものである。1次覆工22は、上下半部18への所定長の掘削後すぐに地山12内面にコンクリートを吹き付け、前記鋼製アーチ状支保工と共に、地山12の内面に密着するように施工される。
【0029】
このような1次覆工22の施工直前、つまり地山12の掘削直後、掘削したトンネル天面周辺の切羽32を長尺鋼管フォアパイリング工等による先受工34で安定させておくと、1時覆工22をより安定して円滑に施工することが可能となる。さらに、1次覆工22の施工後に、トンネル両側部の1次覆工22に対してロックボルト36を複数設置することにより、1次覆工22を一層安定化させてもよい。これら先受工34及びロックボルト36は、トンネル断面の放射方向に延び、周方向に所定間隔で複数配列するとよい。なお、図1では、図面の簡単のため、先受工34及びロックボルト36の図示を省略している。
【0030】
2次覆工24は、上下半部18への掘削先端にある切羽32から所定の距離L(例えば、50m)以内の位置において、公知の覆工構造と同様にコンクリート24aの打設によって構成され、完成した防水トンネル10の内壁面を構成する。本実施形態の場合、2次覆工24は、インバート1次覆工26及びインバート2次覆工28が施工されたインバート20上部に設けられている1次覆工22の内面に対し、防水シート14aを介して打設される。防水シート14aは、例えばシート張り台車38によって1次覆工22内面に敷設され、2次覆工24は、例えば移動型枠40によって防水シート14a内面に打設される。
【0031】
一方、インバート20において、インバート1次覆工26は、掘削した地山12内面に対して所定のコンクリートを吹き付けた吹付けコンクリート26aによって構成され、インバート20の掘削からインバート2次覆工28の施工完了までの間、インバート断面掘削領域25での地山12からの荷重を受け止めるためのものである。勿論、上記の1次覆工22と同様、インバート1次覆工26にも前記鋼製アーチ状支保工等を設けてもよい。
【0032】
インバート20の掘削及びインバート1次覆工26は、上下半部18への掘削及び1次覆工22の施工と交互に行われ、例えば、上下半部18の切羽32から所定の距離La(例えば、5m〜9m)以内で施工される。このインバート1次覆工26は、例えば、上下半部18での地山12の1回の掘削距離を1掘進長(例えば、1.2m)と称すると、2掘進長(例えば、2.4m)の掘削(及び1次覆工22の施工)毎に施工される。従って、インバート1次覆工26の1回の施工距離は、上下半部18の掘進距離(2掘進長)と同程度の距離Lb(例えば、2.4m)となる。
【0033】
インバート2次覆工28は、インバート1次覆工26の施工に続いて行われ、切羽32から距離La以内の位置で、インバート1次覆工26と同様に距離Lbずつ施工される。本実施形態の場合、インバート2次覆工28は、形成したインバート1次覆工26の内面に防水シート14bを敷設した後、該防水シート14bの内面に対し、急硬作用を持つ薬剤、例えば急結剤28bを含ませたコンクリートを吹き付けたインバート吹付けコンクリート28aによって構成される。この吹付け作業は、例えば、図示しないコンクリート吹付け装置の吹出口付近で前記薬剤を混合し、両者をエア等によって同時に吹き付ける方法を挙げることができ、上記した1次覆工22及びインバート1次覆工26についても同様である。
【0034】
インバート2次覆工28を構成するインバート吹付けコンクリート28aとしては、例えば無筋構造の鋼繊維補強高強度コンクリートを用いると、吹き付けであっても十分な強度や耐久性を確保できるため好ましい。また、前記急硬作用を持つ薬剤は、例えば、所望の短時間(例えば10分程度)で吹き付けたコンクリートに対して所望の強度を発現させ得るものであればよく、アルミン酸アルカリ塩、カルシウムアルミネート系、カルシウムサルホアルミネート系等を主成分とした急結剤28bを例示できる。
【0035】
次に、本実施形態に係る防水トンネルの施工方法の一例について、主に図3及び図4を参照して説明する。
【0036】
図3は、本発明の一実施形態に係る防水トンネルの施工方法によって防水トンネル10を施工する手順の一例の前半部を示す説明図であり、図3(A)は、防水トンネル10の所定位置での2次覆工24が完了した状態での側面断面図であり、図3(B)は、図3(A)に示す状態から上下半部18への掘削及び1次覆工22を施工している状態での側面断面図であり、図3(C)は、図3(B)に示す状態からインバート20への掘削及びインバート1次覆工26を施工している状態での側面断面図であり、図3(D)は、図3(C)に示す状態からインバート1次覆工26の内面に防水シート14bを敷設し、インバート2次覆工28を施工している状態での側面断面図である。さらに、図4は、図3に示す施工手順の一例の後半部を示しており、図4(A)は、図3(D)に示す状態から図3(B)から図3(D)の工程をさらに4回繰り返した状態での側面断面図であり、図4(B)は、図4(A)に示す状態から上下半部18の1次覆工22の内面に防水シート14aを敷設した後、シート張り台車38及び移動型枠40を前進させて2次覆工24を施工しようとしている状態での側面断面図であり、図4中に(1)、(2)で示す位置が図3中に(1)、(2)で示す位置と対応している。なお、図面の簡単のため、図3及び図4では、1次覆工22等の断面ハッチングや、継ぎ目等の図示を省略している。
【0037】
先ず、図3(A)に示すように、防水トンネル10の所定位置での2次覆工24が完了した状態から説明する。この場合には、トンネル先端の切羽(上半切羽)32から距離L(例えば、50m)以内となる位置で、シート張り台車38によって1次覆工22内面に防水シート14aを敷設した後、シート張り台車38をインバート20に設けた仮埋め戻し土30上を移動(前進)させ、図示しないトンネル後方から前進させた移動型枠40によって防水シート14a内面に2次覆工24を施工した状態にある。
【0038】
そこで、図3(B)に示すように、上下半部18への掘削及び1次覆工22を行い(第1工程)、これに引き続いて、図3(C)及び図3(D)に示すように、インバート20に対する掘削及びインバート1次覆工26(第2工程)とインバート2次覆工28(第3工程)を行う。
【0039】
第1工程では、既にその後方において1次覆工22が施工されている上下半部18の前方を掘削する。この掘削においては、1掘進長を1.2mとし、1掘進長掘削したら直ちに吹付けコンクリート22aによる1次覆工22を掘削面に吹き付ける。この1掘進長の掘削と吹付けコンクリート22aによる1次覆工22の施工工程を2回繰り返して2掘進長分(距離Lb)掘削する(図3(B)参照)。
【0040】
続いて第2工程では、1次覆工22を施工した上部断面掘削領域21の下部に位置するインバート20を所定長、例えば、上下半部18の掘進長と同じ距離Lbを一度に掘削した後、掘削作業を停止し、形成されたインバート断面掘削領域25の地山12内面に急結剤を混入した吹付けコンクリート26aによるインバート1次覆工26を施工する(図3(C)参照)。これら1次覆工22及びインバート1次覆工26によりトンネル断面が閉合される。
【0041】
上記吹付けコンクリート26aの硬化後引き続いて、第3工程では、インバート1次覆工26の内面に防水シート14bを敷設し、該防水シート14bの内面に急結剤28bと共に所定のコンクリートを吹付けることにより、インバート吹付けコンクリート28aによるインバート2次覆工28を構築する(図3(D)参照)。さらに、インバート吹付けコンクリート28aが硬化したら、引き続いてインバート2次覆工28の上面が図2のように湾曲しているので、該上面を仮埋め戻し土30で埋め戻して平坦にする。これにより、作業者やシート張り台車38、移動型枠40等がトンネル内を円滑に移動できるようになる。
【0042】
インバート1次覆工26及びインバート2次覆工28は、上下半部18での地山12に対する切羽32から所定の距離(例えば、5m〜9m)以内の位置で行うとよい。そうすると、上下半部18の掘削から早期にトンネルを閉合でき、さらに、インバート2次覆工28を迅速に施工して、次の上下半部18での作業(掘削及び1次覆工22)に円滑に戻ることができる。
【0043】
そして、掘削・覆工・仮埋め戻しの工種からなる上記第1工程から第3工程を繰り返すことで、インバート2次覆工28が所定距離Le(例えば、上記1掘進長の10倍、つまり上記Lbの5倍で約12m。この所定距離は後述のLcと同じか近似した長さとし、後方の2次覆工24の施工とその前方でのインバート2次覆工28とが所定範囲の間隔を保つような長さにする。)施工されると(図4(A)参照)、その後方で、上部断面掘削領域21に対する2次覆工24を施工する(第4工程)。
【0044】
なお、第1工程から第3工程の作業日程としては、例えば、1日当たり上下半部18の掘削で4掘進長の掘削を行うと共に、1日当たり2回のインバート20の掘削及び覆工(インバート1次覆工26及びインバート2次覆工28)を行うことにより、1月当たり80掘進長(例えば、96m)の掘削及び覆工ができる(図5も参照)。
【0045】
第4工程では、図4(B)に示すように、2次覆工24の施工前に、先ず、前回の2次覆工24の施工位置(図3(A)参照)から、該2次覆工24の1回の施工距離である1施工長(1スパン長)分の距離Lc(例えば、12.5m)だけ前進した位置にあるシート張り台車38によって、1施工長分の1次覆工22内面に防水シート14aを敷設する。
【0046】
この際、前回の2次覆工24の施工位置に敷設した防水シート14aと今回の防水シート14aとの間の接合、つまり施工スパン間の防水シート14a同士の接合は、例えば、両者の端部同士を高温や高圧によって融着(溶着)し、接合目地のない防水構造を形成する。これにより、接合部からの漏水を確実に防止することができる。同様に、インバート断面掘削領域25に敷設してある防水シート14bと今回の上部断面掘削領域21に敷設される防水シート14aの接合についても、両者の端部同士を高温や高圧によって融着(溶着)し、接合目地のない防水構造を形成するとよい。
【0047】
防水シート14aの敷設作業は、上下半部18の切羽32から十分な間隔である所定の距離Ld(例えば、30m)だけ離間した位置で行われる。このため、上下半部18に対する爆破等による掘削の飛石等が、当該防水シート14aの敷設作業や次の2次覆工24の施工に影響を及ぼすことが回避され、この敷設作業や2次覆工24の施工と同時並行的に上下半部18への掘削等(第1工程から第3工程)を行うことができる(図4(B)中に2点鎖線で示す上部断面掘削領域21及びインバート断面掘削領域25参照)。このように、第4工程を構成する各作業工程の少なくとも一部を、地山12の掘削等の第1工程から第3工程の施工中に行うことにより、全体の工期を一層短縮し、コストを削減することができる。
【0048】
続いて、上下半部18の切羽32から所定の距離L(例えば、50m)以内の位置において、敷設した防水シート14aの内面に2次覆工24を施工する。すなわち、防水シート14aを敷設してシート張り台車38を前進させた後、移動型枠40を前回の施工位置(図4(A)参照)から前進させ、直前に敷設した防水シート14a内面に対応した今回の2次覆工24の施工位置に当該移動型枠40を設置する(図4(B)参照)。そこで、防水シート14aの内側にコンクリート24aを打設する2次覆工24を施工することにより、トンネル断面に防水構造を備えたコンクリート構造物16が構築され、防水トンネル10の1施工長(例えば、12.5m)分の施工が完了する。この場合、上下半部18における1次覆工22及び2次覆工24の合計のコンクリート厚み(覆工厚)は、地下水圧にもよるが、例えば300mm〜600mm程度に設定するとよく、インバート20におけるインバート1次覆工26及びインバート2次覆工28についても同様でよい。
【0049】
なお、第4工程の作業日程としては、上記した第1工程から第3工程の作業日程とも関連するが、例えば、1週間当たり2回(2施工長。例えば、25m)の2次覆工24の施工が行える。また、2次覆工24は、切羽32から距離L(例えば、50m)以内の位置において施工されることにより、上下半部18への掘削から0.5月〜0.6月以内に該掘削位置にコンクリート構造物16が構築されることになる。
【0050】
以下、順次、第1工程から第3工程の繰り返し施工による工事進捗に伴って第4工程が追従して施工されて防水トンネル10の施工が完了する。
【0051】
図5に、本実施形態に係る防水トンネルの施工方法を適用する場合の施工計画(施工日程計画)の一例を示す。図5では、施工計画として、地山等級(CI、CII、DI)毎の1掘進長の距離(m)、図3に距離Lbで示したインバート施工単位(m)、1日当たりのインバート施工回数(回/日)、1日当たりの掘削進行長(m/日)、1月当たりの掘削進行長(m/月)、1週当たりの2次覆工施工回数(回/週)を例示している。この場合、地山等級とは、岩盤の状態を表す指標であり、この地山等級によって日程計画だけでなく、打設又は吹き付けるコンクリートの厚みや、使用される鋼材の種類及び数等が選定される。
【0052】
図5に示すように、本実施形態に係る施工方法では、例えば、地山等級DIの地山に対し、1掘進長が1.2m、1回当たりのインバート20の施工距離Laとなるインバート施工単位が2.4m、1日当たりのインバート施工回数が2回、1日当たりの地山12の掘削進行長が4.8m、1月当たりの掘削進行長が96m、1週当たりの2次覆工24の施工回数が2回と設定するとよく、他の地山等級CI、CIIについても図5に例示する通りに設定するとよい。但し、1掘進長が図5の数値だけに限定されるものではなく、インバート施工単位Lbについても1掘進長を2回繰り返した長さ相当とするのではなく、1掘進長の長さ相当でもよいし、1掘進長の複数回の繰り返しのうち3回以上繰り返した長さ相当としてもよい。
【0053】
以上のように、本実施形態に係る防水トンネルの施工方法によれば、地山12を1掘進長掘削した後、上部断面掘削領域21の地山12内面に1次覆工22を設ける作業を2掘進長繰り返す上部1次覆工工程と、1次覆工22を設けた上部断面掘削領域21の下部に位置するインバート20を所定長(距離La)掘削した後、インバート断面掘削領域25の地山12内面にインバート1次覆工26を設けてトンネルを閉合するインバート1次覆工工程と、インバート1次覆工26の内面に防水シート14bを敷設し、その内面に急結剤28bを含むコンクリートを吹付けてインバート2次覆工28を設けるインバート2次覆工工程と、インバート2次覆工28を設けたインバート20上部の1次覆工22内面に防水シート14aを敷設し、その内面に2次覆工24を設けることで防水トンネル10を施工する上部2次覆工工程とを有する。
【0054】
このように急結剤28bを含むコンクリートの吹き付けによるインバート吹付けコンクリート28aでインバート2次覆工28を構築することにより、インバート2次覆工をコンクリートの打設によって構築する場合と比べて、迅速に且つ簡便にインバート20を覆工して工期を短縮することができ、しかもインバートコンクリート施工用の移動型枠等が不要となるためその施工スペースを低減することができる。従って、インバート2次覆工28の次工程である防水シート14aを介した2次覆工24を、切羽32に比較的近い距離L(例えば、50m)以内で、且つ、上下半部18の掘削から所定の短期間(例えば、0.5月〜0.6月)で施工することができる。これにより、掘削から早期に防水構造(例えば、水圧2.0MPaの耐水圧構造)を持った防水トンネル10を構築でき、切羽32からの地下水の漏出を最小限に抑え、周辺の水環境への影響を可及的に低減することができる。例えば、切羽32から50m以内、掘削後0.5月〜0.6月後に防水トンネル10を構築できるので、周辺の地山12での地下水面の水位低下は数m〜10m程度に抑えられ、1月〜3月後の回復を見込むことができ、地下水環境への影響は一時的なものとなる。
【0055】
これに対して、仮に、従来技術のように、インバート2次覆工28をコンクリートの打設によって構築する場合には、その施工スペースや打設したコンクリートの硬化時間等を考慮すると、防水トンネル10(2次覆工24)の構築が切羽32から100m程度離間した位置となり、掘削後1月程度の時間を要することになる。このため、この長い距離と長い時間の間に、2次覆工24が施工されない部分の切羽32から地下水の漏水が多量に発生する可能性があり、例えば、周辺の地山12では、地下水面の低下が20m程度に達し、回復に6月以上が必要となり、地下水環境への影響が大きくなる可能性がある。
【0056】
また、本実施形態に係る防水トンネルの施工方法では、インバート2次覆工28をコンクリートの吹き付けによって構成する一方、その後工程となる2次覆工24は、コンクリートの打設によって施工する。すなわち、2次覆工24は、防水トンネル10を施工する最終的な工程であることから後工程に対する影響が、インバート2次覆工28の場合と比べて小さく、また、2次覆工24の内面は当該防水トンネル10の内壁面を構成することから、コンクリートの打設によって高精度で美観のよい表面を得ることが望ましい。換言すれば、インバート20は、防水トンネル10のコンクリート構造物16の施工後、所定の埋め戻しや舗装等が施される部分であることから、その表面状態への要求は2次覆工24ほど高くはなく、このため、コンクリートの吹き付けによって要求品質を十分に満たすことができる。一方、上下半部18は、トンネル開通後、人や車両が通行する空間に露出するため、コンクリートの打設によって十分な品質を確保することが望ましい。
【0057】
さらに、防水トンネル10の防水構造は、防水シート14によって構築されることにより、地山12からの荷重等によって経時的にトンネル断面形状が変化したとしても、防水シート14も柔軟に追従させることができ、耐久性と経済性を備えた防水トンネル10を構築できる。
【0058】
ところで、上記のように施工される防水トンネル10は、その全長にわたって防水シート14を備えた防水構造を構成しても勿論よいが、トンネル全長のうち、特に地下水が多量に含まれる可能性のある区間のみを防水構造とし、他の区間については防水構造を持たない構造としてもよい。
【0059】
例えば、図6に示すように、施工前の計画(当初計画)時にトンネル掘削方向に沿った複数個所に鉛直ボーリングB1、B2、B3、B4を行い、この鉛直ボーリングB1〜B4による地下水環境の調査結果に基づき、例えば、区間T1、T2、T3の3区間に分割して施工計画を立てることにより、漏水の可能性が高いと推定される区間T2にのみ防水構造を施工し、他の区間T1、T3については防水構造を施工しないような構成としてもよい。
【0060】
そして、このような当初計画を立てた場合、従来は、例えば、区間T2での防水構造について当初計画での設計条件に基づく一様な構成のトンネル施工を行っており、耐水圧や耐漏水に対する安全値を考慮して、インバートを含めたトンネル断面を区間T2全域で円形に構成するようなことを行っていた。
【0061】
しかしながら、鉛直ボーリングには相当なコストや工期が必要となる。このため、一般的には、図6に示されるように、トンネル掘削方向で数箇所(例えば、B1〜B4)程度の位置にしか鉛直ボーリングを実施することができず、地山12の地下水環境の把握が十分にできず、この場合には、前記区間T2のうちで地下水が含まれていない部分についても、過大な耐水圧の設計・施工を一貫して行っており、コストの増加や工期の長期化を惹起していた。
【0062】
そこで、次に、トンネル施工中に地下水環境を詳細に調査し、当初計画を見直し、設計条件を再設定する設計条件再設定工程について説明する。
【0063】
この設計条件再設定工程では、例えば前記区間T2について、上下半部18への掘削前に、地山12の掘削方向に沿って先行する先進ボーリングBaを行う(図1及び図6参照)。先進ボーリングBaでは、高透水性の多亀裂帯や破砕帯等の透水係数や間隙水圧を試験、測定及び評価する。この先進ボーリングBaは、例えば、切羽32より先行方向で距離Lの倍程度(例えば、100m)の距離、換言すれば、掘削の切羽32からコンクリート構造物16を構築するまでの距離かその倍程度の距離を先行してボーリングするものであり、図5に示す1月当たりの掘削進行長を考慮すると、例えば1月に1回実施される。
【0064】
先進ボーリングBaでの調査結果によって見直す設計条件(設計パラメータ)としては、上下半部18とインバート20でのコンクリート構造物16の断面半径(内径)の比率や、構築するコンクリート構造物16の圧縮強度を挙げることができ、厚肉円筒理論等を用いて設計地下水圧から覆工の必要耐荷力を計算し、これを参考として前記設計条件(設計パラメータ)を再設定して設計する。
【0065】
断面半径の比率としては、2次覆工24の断面半径である上部半径R1と、インバート2次覆工28の断面半径であるインバート半径R3との比率であるR3/R1、を用いるとよい。例えば、図2に示すコンクリート構造物16の場合には、上部半径R1が5600mmであり、インバート半径R3が11500mmであり、比率R3/R1は約2.05となっており、インバート20部分が湾曲した円弧形状となっている。
【0066】
そこで、この比率R3/R1(=2.05)を当初計画での基準として考えると、先進ボーリングBaによって掘削方向での地下水圧が当初計画での推定値よりも高いとの調査結果が得られた場合には、比率R3/R1を小さくする方向に設計条件を再設定(変更)する。すなわち、インバート半径R3を、図2中に2点鎖線で示すインバート半径R31(=8400mm)に変更したインバート2次覆工281を施工することにより、比率R31/R1が1.5となり、防水トンネル10の断面をより真円に近づけて耐水圧性を向上させることができる。
【0067】
同様に、先進ボーリングBaによって掘削方向での地下水圧が当初計画での推定値よりもさらに高いとの調査結果が得られた場合には、比率R3/R1をさらに小さくする方向に設計条件を再設定する。すなわち、インバート半径R3を、図2中に2点鎖線で示すインバート半径R32(=6720mm)に変更したインバート2次覆工282を施工することにより、比率R3/R1が1.2となり、防水トンネル10の断面をより一層真円に近づけて耐水圧性をさらに向上させることができる。
【0068】
勿論、比率R3/R1は、先進ボーリングBaでの地下水環境の調査結果に応じて、例えば1.0〜2.5の間で適宜増減させることができる。また、一度再設定した設計条件は、例えば先進ボーリングBaの施工毎に、換言すれば1乃至2施工長毎に見直すとよい。
【0069】
上記のようにインバート20に対する設計条件を再設定し、具体的にはインバート半径R3(R31、R32)を変更して断面半径の比率を変更することにより、防水トンネル10を施工する地山12の地下水環境に応じて、インバート20でのコンクリート構造物16の断面形状を最適化することができる。すなわち、図2のインバート半径R32のように断面形状を真円に近づけた場合には、耐水圧性を高めることでき、インバート半径R3のように断面形状を平坦に近づけた場合には、インバート20での掘削量やコンクリートの吹付け量等を低減し、コスト低減や工期短縮が可能となる。しかも、インバート20は、上記したように、トンネル施工後、所定の埋め戻しや舗装等が施される部分であることから、所定の耐力(強度や軸力)が確保できれば、その形状等は特に限定される必要がない。一方、上下半部18は、トンネル開通後、人や車両が通行する空間であることから、これらの計算通行量等に応じて当初計画で決定した空間容積等を施工中に変更することは困難であり、このため、インバート20をトンネル施工中に設計変更することにより、防水トンネル10の品質や性能を確保した状態で、工期短縮やコスト低減を図ることができる。
【0070】
次に、コンクリート構造物16の圧縮強度としては、コンクリート構造物16を構成する2次覆工24やインバート2次覆工28を構成するコンクリートの圧縮強度(f’ck)の設計値を再設定するとよい。この圧縮強度の変更により、例えば2次覆工24やインバート2次覆工28のコンクリート厚(覆工厚)は同程度に保持した状態で、防水トンネル10を構成するコンクリート構造物16の耐水圧性や施工コスト等を地下水環境に応じて適宜最適化することができる。この圧縮強度を変更することは2次覆工24に好ましく適用される。
【0071】
勿論、これら断面半径の比率の変更及び圧縮強度の変更は、それぞれ単独で実施してもよいし、両者の関係を最適化しながら同時に実施してもよい。
【0072】
このような設計条件再設定工程は、必ずしも上記した第1工程から第4工程で示した防水トンネルの施工方法と共に行う必要はない。つまり、当該設計条件再設定工程は、インバート2次覆工28にインバート吹付けコンクリート28aを用いず、コンクリートを打設する従来工法に適用しても、コスト低減効果や工期短縮効果は十分に得ることができる。勿論、インバート2次覆工28に吹付けコンクリート28aを用いる工程(第3工程)を備える上記した防水トンネルの施工方法に適用すれば、この施工方法によるコスト低減効果等と相まって、一層のコスト低減や工期短縮が可能となる。
【0073】
先進ボーリングBaによる地下水環境の調査結果は、上記の設計条件再設定工程以外に用いてもよい。
【0074】
例えば、先進ボーリングBaによって地下水環境の詳細な調査結果が得られた場合には、この結果に基づき、その後の掘削や覆工の各工程時での漏水を一層低減させるべく、掘削方向で前方(切羽32前方)の地山12で予定の掘削壁面から外方に向かってトンネル上部内径の約0.3〜0.5倍の長さにわたる範囲(例えば、3m〜5m)に対して、透水性を小さくする作用を持つ薬剤、例えば水ガラス等の止水注入材を高圧注入して地山12の透水係数を小さくする事前注入改良工程を行うのがよい。この事前注入改良工程は、上記した防水トンネルの施工方法を構成する第1工程の前に行うもので、例えば、第4工程の施工中に切羽32に対して先進ボーリングBaに引き続き事前注入改良工程を行うことにより、工期への影響を最小限にすることができる。勿論、この事前注入改良工程は、上記の設計条件再設定工程と同時に実施してもよく、単独で行ってもよい。
【0075】
なお、従来行われている事前注入改良工程は、掘削時に地下水が漏出するのを完全に又は略完全に防止するために行われており、10^(−6)cm/sec程度の透水性を確保しようとするものであり、相当量の薬剤を必要としていた。これに対し、上記実施形態に係る防水トンネルの施工方法では、上記のように地下水の漏出を可及的速やかに低減させるようにしているため、10^(−4)cm/sec程度の透水性が確保できればよく、薬剤の使用量を有効に低減することができ、一層のコスト低減や工期短縮が可能となる。
【0076】
なお、本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で自由に変更できることは勿論である。
【符号の説明】
【0077】
10 防水トンネル
12 地山
14、14a、14b 防水シート
20 インバート
21 上部断面掘削領域
22 1次覆工(上部1次覆工)
24 2次覆工(上部2次覆工)
25 インバート断面掘削領域
26 インバート1次覆工
28 インバート2次覆工
28a インバート吹付けコンクリート
28b 急結剤
32 切羽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地山を所定長ずつ掘削したトンネル内面に防水部材を敷設しながら防水トンネルを施工する防水トンネルの施工方法であって、
地山を所定長掘削した後、該掘削によって形成される上部断面掘削領域の地山内面に1次覆工を設ける上部1次覆工工程と、
前記1次覆工を設けた上部断面掘削領域の下部に位置するインバートを所定長掘削した後、該掘削によって形成されるインバート断面掘削領域の地山内面にインバート1次覆工を設けてトンネルを閉合するインバート1次覆工工程と、
前記インバート1次覆工の内面に防水部材を敷設し、該防水部材の内面に急硬作用を持つ薬剤を含むコンクリートを吹き付けてインバート2次覆工を設けるインバート2次覆工工程と、
前記インバート2次覆工を設けたインバート上部の上部断面掘削領域に設けられている1次覆工の内面に防水部材を敷設し、該防水部材の内面に2次覆工を設ける上部2次覆工工程と、
を有することを特徴とする防水トンネルの施工方法。
【請求項2】
請求項1記載の防水トンネルの施工方法において、
前記インバート1次覆工及び前記インバート2次覆工は、前記上部断面掘削領域に対する地山の掘削を停止した状態で施工することを特徴とする防水トンネルの施工方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の防水トンネルの施工方法において、
前記上部2次覆工における工程の少なくとも一部は、前記上部断面掘削領域に対する地山の掘削中に行われることを特徴とする防水トンネルの施工方法。
【請求項4】
請求項1記載の防水トンネルの施工方法において、
前記上部断面掘削領域に対する地山の掘削前に、掘削方向に沿って地山内へと先行する先進ボーリングを行うことにより、掘削方向にある地山の地下水環境を調査し、その調査結果に応じて前記防水トンネルの設計条件を当初計画から再設定する工程を有することを特徴とする防水トンネルの施工方法。
【請求項5】
請求項4記載の防水トンネルの施工方法において、
前記再設定する工程では、前記インバートの設計条件を再設定することを特徴とする防水トンネルの施工方法。
【請求項6】
請求項5記載の防水トンネルの施工方法において、
前記インバートの設計条件として、前記上部2次覆工の断面半径である上部半径と、前記インバート2次覆工の断面半径であるインバート半径との比率を用いることを特徴とする防水トンネルの施工方法。
【請求項7】
請求項5又は6記載の防水トンネルの施工方法において、
前記インバートの設計条件として、前記インバート2次覆工の圧縮強度を用いることを特徴とする防水トンネルの施工方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の防水トンネルの施工方法において、
前記上部断面掘削領域に対する地山の掘削前に、掘削方向に沿って地山内へと先行する先進ボーリングを行うことにより、掘削方向にある地山の地下水環境を調査し、その調査結果に応じて、掘削方向前方の地山に対して透水性を小さくする作用を持つ薬剤を注入する工程を有することを特徴とする防水トンネルの施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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