説明

防水ハーネスの製造方法、ハーネス用防水剤、および防水ハーネス

【課題】
電気的に接続した電線端末の接続処理部における防水性能が高められた防水ハーネスの製造方法等を提供する。
【解決手段】
防水ハーネス10aの製造方法において、複数本の導体素線113,123,133からなる芯線111,121,131と、この芯線を取り巻く絶縁被覆112,122,132とを有する複数本の電線11,12,13を有し、この複数本の電線それぞれの芯線のうち絶縁被覆の一端から露出した露出端111a,121a,131aが互いに接続されたワイヤハーネス10を用意する準備工程と、露出端と、絶縁被覆の上記一端近傍の部分とからなる端末部102を、熱収縮性の保護チューブ19内に挿入した状態、かつ、端末部における上記導体素線間の隙間内に嫌気性固着剤18を浸透させた状態で、保護チューブ19を加熱収縮させる防水処理工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハーネスに関し、特に防水ハーネスの製造方法、ハーネス用防水剤、および防水ハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体や電気機器等の機器内部を引き回されているハーネスには、機器の各装置に分配配線される電線同士を分岐接続した電線接続部が数多く設けられている。電線接続部では、複数の電線それぞれの絶縁被覆の端から露出した芯線同士が接続されている。電線接続部において、芯線を外部に対し絶縁および防水するため、例えば、保護チューブで覆うことが行われている。
【0003】
しかしながら、電線が、複数の導体素線からなる芯線を絶縁被覆したタイプのものである場合、導体素線間には隙間が存在している。この導体素線間の隙間は、保護チューブに覆われた部分でも絶縁被覆内と同様に存在している。このため、電線接続部で分岐した電線のうち一部が、例えば自動車のエンジンルームのように水を被りやすい場所に引き回され、その場所で水を被ると、この水が絶縁被覆内を毛管現象によって伝い電線接続部まで浸入してくる。電線接続部まで浸入してきた水は、保護チューブ内を経由してさらに分岐接続された他の電線に浸入し、他の場所に配置された装置まで伝ってしまう。
【0004】
この問題に対し、例えば、特許文献1には、複数の電線端末における芯線束同士を電気的に接続した後、シアノ系接着剤中に浸漬し、次いで、電線端末を保護チューブに挿入する電線の接続方法が開示されている。硬化前のシアノ系接着剤は低粘度であるため、導体素線間の隙間に充填される。したがって、特許文献1の方法では、電線接続部の外部に対する防水でだけでなく、電線接続部における電線間での防水が図られている。
【特許文献1】特開平9−55278号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1に開示された方法において充填されるシアノ系接着剤は、粘度が低く浸入がし易いものの、硬化後に加水分解する性質を有している。このため、シアノ系接着剤が、電線を伝って浸入してくる水分に触れているうちに変質し、せっかくの防水性能が劣化するおそれがある。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑み、電気的に接続した電線端末の接続処理部における防水性能が高められた防水ハーネスの製造方法、ハーネス用防水剤、および防水ハーネスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明の第1の防水ハーネスの製造方法は、
複数本の導体素線からなる芯線と、この芯線を取り巻く絶縁被覆とを有する複数本の電線を有し、この複数本の電線それぞれのこの芯線のうちこの絶縁被覆の一端から露出した露出端が互いに接続されたワイヤハーネスを用意する準備工程と、
上記露出端と、上記絶縁被覆の上記一端近傍の部分とからなる端末部を、熱収縮性の保護チューブ内に挿入した状態、かつ、この端末部における上記導体素線間の隙間内に嫌気性固着剤を浸透させた状態で、この保護チューブを加熱収縮させる防水処理工程とを有することを特徴とする。
【0008】
ここで、防水ハーネスおよびワイヤハーネスは、芯線の外周を絶縁被覆した複数の電線を有するものを意味し、接続された複数の電線からなる簡単な構成のものだけでなく、接続された複数の電線を複数系統備えたものや、接続部分を持たない別系統の電線が組み合わされたものも含む概念であり、さらに、コネクタ等の電気部品が備えられたものも含む概念である。また、嫌気性固着材とは、空気との接触が遮断されると硬化を開始する固着剤を意味する。
【0009】
本発明の第1の防水ハーネスの製造方法では、導体素線間の隙間内に嫌気性固着剤を浸透させた状態で保護チューブを加熱収縮させると、内部の空気が追い出されることによって嫌気性固着剤が硬化する。固化した嫌気性固着剤は、導体素線の隙間を埋めた状態であるため、一部の電線内を伝ってきた水が他の電線内に浸入することを防ぐ。硬化前の嫌気性固着剤は、シアノ系接着剤と同様に粘度が低いため導体素線間に良好に浸透する。さらに、硬化後の嫌気性固着剤は加水分解することがないため、電線を伝ってきた水分によって変質しない。したがって、本発明の第1の防水ハーネスの製造方法によれば、従来のシアノ系接着剤を用いた方法に比べハーネスの防水性能が高められる。
【0010】
ここで、上記本発明の第1の防水ハーネスの製造方法において、上記防水処理工程が、
上記端末部を上記嫌気性固着剤中に浸漬してこの嫌気性固着剤を上記導体素線間の隙間内に浸透させる浸漬工程と、
上記嫌気性固着剤中に浸漬した後の上記端末部を熱収縮性の保護チューブ内に挿入する挿入工程と、
上記端末部が挿入された状態の上記保護チューブを加熱することにより、この保護チューブを収縮させるとともに上記嫌気性固着剤を硬化させる加熱工程とを有する工程であってよい。
【0011】
嫌気性固着剤は、例えば、シアノ系接着剤とは異なり、空気中の水分によって硬化することがないため、蓋の無い容器に入れ空気に曝していても低粘度性が劣化し難い。このため、電線を嫌気性固着剤中に浸漬する浸漬工程を一般的な作業環境で行うことができ、固着剤の管理が容易である。
【0012】
また、上記本発明の第1の防水ハーネスの製造方法において、上記嫌気性固着剤が、メタクリル酸エステル系固着剤であることが好ましい。
【0013】
メタクリル酸エステル系固着剤は、金属と接触することによって硬化が加速するため、金属製の導体素線の隙間で硬化をより確実にさせることができる。
【0014】
また、上記目的を達成する本発明の第1のハーネス用防水剤は、複数本の導体素線からなる芯線と、この芯線を取り巻く絶縁被覆とを有する複数本の電線を有し、この複数本の電線それぞれのこの芯線のうちこの絶縁被覆の一端から露出した露出端が互いに接続されたワイヤハーネスの、上記露出端と、上記絶縁被覆の上記一端近傍の部分とからなり保護チューブで覆われる端末部を防水加工するハーネス用防水剤であって、嫌気性固着剤からなることを特徴とする。
【0015】
嫌気性固着剤からなるハーネス用防水剤は水に接触しても加水分解しないため、ハーネスの端末部に高い防水性能を付与することができる。
【0016】
ここで、上記第1のハーネス用防水剤においても、上記嫌気性固着剤が、メタクリル酸エステル系固着剤であることが好ましい。
【0017】
また、上記目的を達成する本発明の第1の防水ハーネスは、複数本の導体素線からなる芯線と、この芯線を取り巻く絶縁被覆とを有する複数本の電線を有し、この複数本の電線それぞれのこの芯線のうちこの絶縁被覆の一端から露出した露出端が互いに接続されたワイヤハーネスであって、
上記露出端と、上記絶縁被覆の上記一端近傍の部分とからなる端末部を覆う保護チューブと、
上記端末部における上記導体素線間の隙間内に充填された嫌気性固着剤とを備えたことを特徴とする。
【0018】
本発明の第1の防水ハーネスでは、芯線間の隙間内に充填された嫌気性固着剤が加水分解しないため、防水性能が高い。
【0019】
ここで、上記第1の防水ハーネスにおいても、上記嫌気性固着剤が、メタクリル酸エステル系固着剤であることが好ましい。
【0020】
また、上記目的を達成する本発明の第2の防水ハーネスの製造方法は、
複数本の導体素線からなる芯線と、この芯線を取り巻く絶縁被覆とを有し、この芯線に、この絶縁被覆の途中から露出する露出部が形成された電線を備えたワイヤハーネスを用意する準備工程と、
上記露出部と、上記絶縁被覆のこの露出部近傍の部分とからなる堰止部を、熱収縮性の保護チューブ内に挿入した状態、かつ、この堰止部における上記導体素線間の隙間内に嫌気性固着剤を浸透させた状態で、この保護チューブを加熱収縮させる防水処理工程とを有することを特徴とする。
【0021】
本発明の第2の防水ハーネスの製造方法は、嫌気性固着剤を浸透させる場所が、上記第1の防水ハーネスの製造方法と異なる。第2の防水ハーネスの製造方法では、ハーネスを構成する電線の途中に設けられた堰止部において、絶縁被覆から露出した芯線に嫌気性固着剤を浸透させる。堰止部において導体素線間の隙間内に嫌気性固着剤を浸透させた状態でこの堰止部が挿入された保護チューブを加熱収縮させると、内部の空気が追い出されることによって嫌気性固着剤が硬化する。固化した嫌気性固着剤は、導体素線の隙間を埋めた状態であるため、電線内を一方から伝ってきた水が堰止部において堰き止められ、他方に浸入することを防ぐ。硬化後の嫌気性固着剤は加水分解することがないため、電線を伝ってきた水分によって変質しない。したがって、本発明の第2の防水ハーネスの製造方法によれば、従来のシアノ系接着剤を用いた方法に比べハーネスの防水性能が高められる。
【0022】
ここで、上記本発明の第2の防水ハーネスの製造方法においても、上記防水処理工程が、
上記堰止部を上記嫌気性固着剤中に浸漬してこの嫌気性固着剤を上記導体素線間の隙間内に浸透させる浸漬工程と、
上記嫌気性固着剤中に浸漬した後の上記堰止部を熱収縮性の保護チューブ内に挿入する挿入工程と、
上記堰止部が挿入された状態の上記保護チューブを加熱することにより、この保護チューブを収縮させるとともに上記嫌気性固着剤を硬化させる加熱工程とを有することであってよい。
【0023】
上記本発明の第2の防水ハーネスの製造方法においても、上記嫌気性固着剤が、メタクリル酸エステル系固着剤であることが好ましい。
【0024】
また、上記目的を達成する本発明の第2の防水ハーネス用防水剤は、複数本の導体素線からなる芯線と、この芯線を取り巻く絶縁被覆とを有し、この芯線に、この絶縁被覆の途中から露出する露出部が形成された電線を備えたワイヤハーネスの、上記露出部と、上記絶縁被覆のこの露出部近傍の部分とからなり保護チューブで覆われる堰止部を防水加工するハーネス用防水剤であって、嫌気性固着剤からなることを特徴とする。
【0025】
嫌気性固着剤からなるハーネス用防水剤は水に接触しても加水分解しないため、ハーネスの堰止部に高い防水性能を付与することができる。
【0026】
ここで、上記本発明の第2の防水ハーネス用防水剤においても、上記嫌気性固着剤が、メタクリル酸エステル系固着剤であることが好ましい。
【0027】
また、上記目的を達成する本発明の第2の防水ハーネスは、複数本の導体素線からなる芯線と、この芯線を取り巻く絶縁被覆とを有し、この芯線に、この絶縁被覆の途中から露出する露出部が形成された電線を備えたワイヤハーネスであって、
上記露出部と、上記絶縁被覆のこの露出部近傍の部分とからなる堰止部を覆う保護チューブと、
上記堰止部における上記導体素線間の隙間内に充填された嫌気性固着剤とを備えたことを特徴とする。
【0028】
本発明の第2の防水ハーネスでは、電線の途中に設けられた堰止部で芯線間の隙間内に充填された嫌気性固着剤が加水分解しないため、防水性能が高い。
【0029】
ここで、上記本発明の第2の防水ハーネスにおいても、上記嫌気性固着剤が、メタクリル酸エステル系固着剤であることが好ましい。
【発明の効果】
【0030】
以上説明したように、本発明によれば、接続処理部における防水性能が高められた防水ハーネスの製造方法、ハーネス用防水剤、および防水ハーネスが実現する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0032】
図1、図2、図4、および図5は、本発明の一実施形態である防水ハーネスを製造する工程のうち、準備工程、浸漬工程、挿入工程、および加熱工程をそれぞれ示す図である。
【0033】
本実施形態における防水ハーネスの製造方法では、図1に示す準備工程、図2に示す浸漬工程、図4に示す挿入工程、および図5に示す加熱工程が順に実施される。各工程を順を追って説明する。
【0034】
まず、図1に示す準備工程では、電気的に接続された複数本の電線11,12,13からなるワイヤハーネス10を準備する。図1の例では、3本の電線11,12,13からなるワイヤハーネス10が示されている。3本の電線11,12,13は、それぞれ複数本の導体素線からなる芯線111,121,131と、この芯線111,121,131を取り巻く絶縁被覆112,122,132とを有している。芯線111,121,131を構成する導体素線は銅等の金属材料からなり、絶縁被覆112,122,132は合成樹脂からなる。芯線111,121,131のそれぞれのうち、露出端111a,121a,131aは絶縁被覆112,122,132の一端112a,122a,132aから露出している。芯線111,121,131は、この露出端111a,121a,131aの先端部分である接続部101で1つに束ねられた状態で互いに電気的に接続している。芯線111,121,131は圧着、溶接等により互いに接続されている。
【0035】
図1に示すワイヤハーネス10の準備工程では、まず、芯線111,121,131および絶縁被覆112,122,132からなる3本の電線11,12,13を用意する。次に、絶縁被覆112,122,132の端部を剥ぎ取って112a,122a,132aから芯線111,121,131を露出させる。露出した部分が露出端111a,121a,131aとなる。次に、露出端111a,121a,131aの先端が揃うように電線11,12,13をほぼ同一方向に沿わせる。次に、露出端111a,121a,131aの先端部分を、例えば密接した状態で電流を供給して加熱・溶着して接続部101を形成する。このようにして、絶縁被覆112,122,132の端から露出した芯線111,121,131の露出端111a,121a,131aが接続されたワイヤハーネス10を得る。
【0036】
ここで、電線11,12,13において、芯線111,121,131の露出端111a,121a,131aと、絶縁被覆112,122,132の一端112a,122a,132a近傍の部分とを端末部102と称する。
【0037】
次に、図2に示す浸漬工程では、図1に示す電線11,12,13のうち、端末部102をハーネス防水材としての嫌気性固着剤18に浸漬する。
【0038】
嫌気性固着剤18は、空気との接触が遮断されると硬化を開始する固着剤であり、より詳細には、空気中の酸素を遮断することで硬化を開始する固着剤である。嫌気性固着剤18は、硬化前は低粘度であるため、芯線111,121,131を構成する導体素線間の隙間内に隙間無く浸透する。図2に示すように端末部102が嫌気性固着剤18中に浸漬された状態では、嫌気性固着剤18は、芯線111,121,131の露出端111a,121a,131aだけでなく、露出端111a,121a,131a近傍の絶縁被覆112,122,132内部も含めた端末部102において、導体素線間の隙間内に浸透する。
【0039】
図3は、図2に示す浸漬工程における電線の内部構造を示す部分断面図である。
【0040】
図3には、電線11,12,13の代表として電線11の一部が模式的に示されている。
【0041】
図3に示すように、嫌気性固着剤18は、芯線111を構成する導体素線113を取り巻き、導体素線113間の隙間に浸透している。また、嫌気性固着剤18は、導体素線113と絶縁被覆112との隙間にも浸透している。
【0042】
図2に示す浸漬工程で使用するハーネス防水材としては、硬化前の粘度が30mPa・s(ミリパスカル秒)(=30cp(センチポアズ))以下のものであれば、浸漬工程で導体素線113間の隙間にむら無く浸透する。嫌気性固着剤18は、硬化前の粘度が30mPa・s(30cp)以下であり、導体素線113間の隙間にむら無く浸透する。嫌気性固着剤18としては、例えば、アクリルモノマーを主成分とし、過酸化物および嫌気性触媒を含有したメタクリル酸エステル系固着剤を採用することができる。過酸化物および嫌気性触媒として、例えば、有機過酸化物並びに三級アミンおよびサッカリンを含有したものを採用することができる。メタクリル酸エステル系固着剤は、主成分のアクリルモノマーが、空気遮断および金属との接触によるラジカル反応によって迅速に重合することで硬化する固着剤であり、硬化前の粘度が常温で10mPa・s(10cp)程度以下と低い。このため、メタクリル酸エステル系固着剤からなる嫌気性固着剤18は、浸漬工程で導体素線113間の隙間に完全に充填される。また、嫌気性固着剤18は、シアノ系接着剤とは異なり、空気中の水分によって硬化することがないため、浸漬工程において蓋のない容器に入れて空気に曝しても低粘度性が劣化し難い性質を有しており、また、シアノ系接着剤とは異なり、硬化すると、水分と接触しても分解しない性質を有している。
【0043】
次に、図4に示す挿入工程では、嫌気性固着剤中に浸漬した後の電線11,12,13の端末部102を保護チューブ19内に挿入する。図4に示す保護チューブ19は、いわゆる袋状熱収縮チューブであり、一端がすぼまった円筒形状を有している。保護チューブ19は、特に円筒の径方向に収縮する熱収縮性の樹脂からなる外側層191と、この外側層191の内側に配置された熱可塑性のホットメルト樹脂からなる内側層192とによる2層構造を有している。
【0044】
次に、図5に示す加熱工程では、図4の挿入工程電線で11,12,13の端末部102を保護チューブ19に挿入した状態、かつ、図2の浸漬工程で端末部102における導体素線間の隙間内に嫌気性固着剤を浸透させた状態で、保護チューブ19を、電線11,12,13の端末部102ごと加熱する。加熱工程では、保護チューブ19の外側層191が収縮し、内側層192のホットメルト樹脂が溶融する温度、例えば130℃程度まで加熱する。
【0045】
この加熱工程によって、保護チューブ19が収縮し、電線11,12,13の端末部102を覆い、保護チューブ19内部の空気を外部に追い出す。さらに、保護チューブ19の内側のホットメルト樹脂が溶融した状態で、電線11,12,13の端末部102外側を覆うため、保護チューブ19内部の空気が効率よく外部に追い出される。保護チューブ19内部の嫌気性固着剤18は、空気が遮断されることによって硬化する。嫌気性固着剤18の硬化は、芯線111,121,131を構成する金属との接触により加速する。また、嫌気性固着剤18の硬化は、加熱によっても加速する。
【0046】
嫌気性固着剤18が硬化した後、保護チューブ19および電線11,12,13を冷却することでホットメルト樹脂を硬化することによって、図5に示す防水ハーネス10aを得る。ここで、図2に示す浸漬工程、図4に示す挿入工程、および図5に示す加熱工程の組み合わせが、本発明にいう防水処理工程の一例に相当する。
【0047】
続いて、上述した防水ハーネスの製造方法によって製造された、本発明の一実施形態である防水ハーネスを、図5を流用して説明する。
【0048】
図5に示す防水ハーネス10aは、3本の電線11,12,13と、電線11,12,13を覆う保護チューブ19aと、保護チューブ19a内のハーネス防水材としての、硬化した嫌気性固着剤18a(図6参照)とを有している。電線11,12,13は、複数本の導体素線からなる芯線111,121,131と、この芯線111,121,131を取り巻く絶縁被覆112,122,132とを有しており、絶縁被覆112,122,132から露出した露出端111a,121a,131aの一部が(芯線121、露出端121aは図1参照)が電気的に接続されている。保護チューブ19aは、熱収縮性の保護チューブ19(図4参照)が加熱収縮したものであり、芯線111,121,131のうち露出端111a,121a,131aと、この露出端111a,121a,131a近傍の絶縁被覆112,122,132とからなる端末部102を覆っている。
【0049】
図6は、図5に示す防水ハーネスの概略断面構造を示す断面図である。図6のパート(a)は、図5に示す防水ハーネスのA−A線断面を示し、図6のパート(b)は、図5に示す防水ハーネスのB−B線断面を示す。
【0050】
図6のパート(a)に示すように、芯線111,121,131のうち絶縁被覆112,122,132から露出した部分では、芯線111,121,131が、保護チューブ19aのうちホットメルト樹脂からなる内側層192に覆われ、この外側がさらに、保護チューブ19aの外側層191によって覆われている。芯線111,121,131は、それぞれ複数本の導体素線113,123,133からなり、複数本の導体素線113,123,133の隙間には、硬化した嫌気性固着剤18aがむら無く充填されている。
【0051】
図6のパート(b)に示すように、芯線111,121,131のうち、端末部102(図5参照)における絶縁被覆112,122,132内の部分では、絶縁被覆112,122,132内の導体素線113,123,133間に硬化した嫌気性固着剤18aが充填されている。
【0052】
内側層192を構成するホットメルト樹脂の粘度は、図5の加熱工程によって加熱されても、導体素線113,123,133の隙間に浸透する程低くならない。しかし、上述した浸漬工程において、粘度が低い硬化前の嫌気性固着剤が導体素線113,123,133の隙間に浸透し、そして、上述した加熱工程によって硬化するため、導体素線113,123,133の間に完全に充填された状態となっている。したがって、防水ハーネス10a(図5参照)では、例えば、1本の電線11の絶縁被覆112中を水等の液体が浸入してきても、保護チューブ19a内の端末部102で堰き止められ、他の電線12,13の絶縁被覆122,132内には浸入しない。また、硬化した嫌気性硬化剤18aは加水分解しないため、長期使用しても防水性が劣化しない。また、水等の液体が、電線11,12,13と保護チューブ19aの隙間から浸入することもない。
【0053】
上述した実施形態では、防水ハーネス10aが接続された3本の電線を1組有している例を説明したが、続いて、接続されない電線を含む、本発明の第2の実施形態を説明する。
【0054】
図7は、本発明の第2の実施形態である防水ハーネスの一部を示す外観図である。
【0055】
図7に示す防水ハーネス200は、例えば自動車の車体を引き回され、車体の各部に配置された装置間を接続するものであり、保護チューブ29内部で接続された電線21,22,23の他に、保護チューブ29内部で接続されない電線24,25も有している。
【0056】
また、上述した実施形態では、接続される電線が同じ向きに配置されているものとして説明したが、続いて、接続される電線の向きが異なる第3の実施形態を説明する。
【0057】
図8は、本発明の第3の実施形態である防水ハーネスの製造工程を示す図である。
【0058】
図8には、第3の実施形態である防水ハーネスを製造する工程のうち、上述した加熱工程の前の状態での概略構造が示されている。
【0059】
図8に示す防水ハーネス300を構成する2本の電線31,32は、芯線311,321が露出した端側を互いに反対に向けた姿勢で溶接等により接続されており、芯線311,321を構成する導体素線間の隙間には、嫌気性固着材からなる図示しないハーネス防水剤が浸透している。なお、ハーネス防水剤は、接続された状態の電線31,32を、この電線31と電線32との間でU字状に撓ませた状態でハーネス防水剤中に浸漬することによって、導体素線の間に浸透させることができる。2本の電線31,32の端末部302は、図8に示すように、円筒状の保護チューブ39に挿入されている。保護チューブ39が、図8に示す状態で加熱されると収縮して接続部分を覆う。この結果、直線状に連続した電線からなる、いわゆる中間ジョイントハーネス型の防水ハーネスが得られる。
【0060】
第3の実施形態では、異なる向きに1本ずつ配置された電線が接続されているが、続いて、異なる向きにそれぞれ複数の電線が配置された第4の実施形態を説明する。
【0061】
図9は、本発明の第4の実施形態である防水ハーネスの製造工程を示す図である。
【0062】
図9に示す防水ハーネス400では、合計6本の電線41,42,43,44,45,46が接続されている。6本の電線41〜46のうち、3本の電線41〜43と、残りの3本の電線44〜46とは、芯線411,421,431,441,451,461が露出した端側を互いに反対に向けた姿勢で溶接等により接続されており、芯線411〜461を構成する導体素線間の隙間には、嫌気性固着材からなる図示しないハーネス防水剤が浸透している。6本の電線44〜46の端末部402は、図9に示すように、円筒状の保護チューブ49に挿入されている。保護チューブ49が、図8に示す状態で加熱されると収縮して接続部分を覆う。この結果6本の電線が接続された、いわゆる中間ジョイントハーネス型の防水ハーネスが得られる。
【0063】
上述した実施形態では、複数の電線の芯線同士が溶接等により接続されている例を説明したが、続いて芯線同士を圧着により接続した第5の実施形態を説明する。
【0064】
図10は、本発明の第5の実施形態である防水ハーネスの製造工程を示す図である。
【0065】
図10に示す防水ハーネス500では、3本の電線51,52,53の芯線511,521,531からなる芯線の束に、板状の接続金具501が巻き付けられている。接続金具501は加締められ芯線511,521,531に圧着されている。また、芯線511〜531を構成する導体素線間の隙間には、嫌気性固着材からなる図示しないハーネス防水剤が浸透している。電線51〜53の端末部502は、円筒状の保護チューブ59に挿入されている。保護チューブ59が、図9に示す状態で加熱されると収縮して接続部分を覆う。この結果3本の電線が接続された、いわゆる中間ジョイントハーネス型の防水ハーネスが得られる。
【0066】
上述した実施形態では、複数の電線同士が接続される部分の防水処理を説明したが、続いて、1本の電線内で液体が一方から他方へ伝うのを防ぐ第6の実施形態を説明する。
【0067】
図11は、本発明の第6の実施形態である防水ハーネスの製造工程を示す図である。
【0068】
図11には、構造の見易さから、第6の実施形態である防水ハーネスを製造する工程のうち、上述した図5に示す加熱工程の前の状態が示されている。
【0069】
図11に示す防水ハーネス600を構成する電線61は、複数本の導体素線からなる芯線611と、芯線611を取り巻く絶縁被覆612とを有している。絶縁被覆612は電線61の途中で一部分が取り除かれており、芯線611には絶縁被覆612の途中から露出した露出部611aが形成されている。露出部611aと絶縁被覆612の露出部611a近傍の部分とからなる堰止部602において、導体素線間の隙間にはハーネス防水剤が浸透している。また、電線61の堰止部602は、図11に示すように、円筒状の保護チューブ69に挿入されている。
【0070】
図11に示す状態は、上述した第1の実施形態と同様に、図1に示す準備工程、図2に示す浸漬工程、図4に示す挿入工程を経ることによって得られる。ただし、図11に示す防水ハーネス600の準備工程は、1本の電線の途中の部分で絶縁被覆612を取り除くことによって、芯線611に露出部611aを形成する点が、図1に示す準備工程と異なる。また、防水ハーネス600の浸漬工程は、電線61を、露出部611a部分でU字状に撓ませた状態でハーネス防水剤中に浸漬する点が、図2に示す浸漬工程と異なる。準備工程、浸漬工程、および挿入工程におけるその他の点は、図1から図4を参照して説明したものと同様である。
【0071】
図11に示す状態の保護チューブ69は、次に加熱工程で加熱されると収縮して堰止部602を覆う。保護チューブ69内部の嫌気性固着剤は、空気が遮断されることによって硬化する。
【0072】
加熱工程の後、冷却工程を経て得られる防水ハーネス600は、電線61の堰止部602で、導体素線間の隙間に硬化した嫌気性固着剤が充填された状態となる。したがって、電線61内を一方の端から液体が浸入してきても、堰止部602で堰き止められ、電線61内の他方の端へ浸入しない。また、硬化した嫌気性硬化剤は加水分解しないため、長期使用しても防水性が劣化しない。
【0073】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、これに限られるものではない。上述した実施形態では、防水ハーネスがそれぞれ1本から6本の電線を有しているものとして説明したが、本発明はこれに限られるものではなく、接続される電線の本数は7本以上あってもよい。ただし、電線の本数は10本以下が望ましい。また、本発明の防水ハーネスは、コネクタ等の電子部品が接続されたものであってもよい。
【0074】
また、上述した実施形態では、準備工程として、接続されていない複数の電線を用意し、その被覆を剥ぎ取って、露出した芯線同士を接続することとして説明したが、本発明の準備工程はこれに限られるものではなく、例えば、予め被覆が剥ぎ取られ、露出した芯線同士が接続された電線を用意するものであってもよい。
【0075】
また、上述した実施形態では、本発明にいう防水処理工程の一例に相当する工程として、浸漬工程と、挿入工程と、加熱工程とがこの順で行われる処理を説明したが、本発明の防水処理工程はこれに限られるものではない。例えば、防水処理工程は、上述した浸漬工程を省略し、挿入工程において、嫌気性固着材が封入された熱溶解性のカプセルを保護チューブに入れ、加熱工程において、カプセルを溶融させて嫌気性固着材を浸透させるようにするものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の一実施形態である防水ハーネスを製造する工程のうち準備工程を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態である防水ハーネスを製造する工程のうち浸漬工程を示す図である。
【図3】図2に示す浸漬工程における電線の内部構造を示す部分断面図である。
【図4】本発明の一実施形態である防水ハーネスを製造する工程のうち挿入工程を示す図である。
【図5】本発明の一実施形態である防水ハーネスを製造する工程のうち加熱工程を示す図である。
【図6】図5に示す防水ハーネスの断面構造を示す断面図である。
【図7】本発明の第2の実施形態である防水ハーネスの一部を示す外観図である。
【図8】本発明の第3の実施形態である防水ハーネスの製造工程を示す図である。
【図9】本発明の第4の実施形態である防水ハーネスの製造工程を示す図である。
【図10】発明の第5の実施形態である防水ハーネスの製造工程を示す図である。
【図11】本発明の第6の実施形態である防水ハーネスの製造工程を示す図である。
【符号の説明】
【0077】
10 ワイヤハーネス
10a,200,300,400,500,600 防水ハーネス
11,12,13,21,22,23,31,32,
41,42,43,44,45,46,51,52,53,62 電線
111,121,131,311,321,411,421,431,
441,451,461,511,521,531,611 芯線
111a,121a,131a 露出端
611a 露出部
113,123,133 導体素線
112,122,132,612 絶縁被覆
112a,122a,132a 一端
102,302,402,502 端末部
602 堰止部
18,18a 嫌気性固着剤(ハーネス防水剤)
19,19a,29,39,49,59,69 保護チューブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の導体素線からなる芯線と、該芯線を取り巻く絶縁被覆とを有する複数本の電線を有し、該複数本の電線それぞれの該芯線のうち該絶縁被覆の一端から露出した露出端が互いに接続されたワイヤハーネスを用意する準備工程と、
前記露出端と、前記絶縁被覆の前記一端近傍の部分とからなる端末部を、熱収縮性の保護チューブ内に挿入した状態、かつ、該端末部における前記導体素線間の隙間内に嫌気性固着剤を浸透させた状態で、該保護チューブを加熱収縮させる防水処理工程とを有することを特徴とする防水ハーネスの製造方法。
【請求項2】
前記防水処理工程が、
前記端末部を前記嫌気性固着剤中に浸漬して該嫌気性固着剤を前記導体素線間の隙間内に浸透させる浸漬工程と、
前記嫌気性固着剤中に浸漬した後の前記端末部を熱収縮性の保護チューブ内に挿入する挿入工程と、
前記端末部が挿入された状態の前記保護チューブを加熱することにより、該保護チューブを収縮させるとともに前記嫌気性固着剤を硬化させる加熱工程とを有することを特徴とする請求項1記載の防水ハーネスの製造方法。
【請求項3】
前記嫌気性固着剤が、メタクリル酸エステル系固着剤であることを特徴とする請求項1記載の防水ハーネスの製造方法。
【請求項4】
複数本の導体素線からなる芯線と、該芯線を取り巻く絶縁被覆とを有する複数本の電線を有し、該複数本の電線それぞれの該芯線のうち該絶縁被覆の一端から露出した露出端が互いに接続されたワイヤハーネスの、前記露出端と、前記絶縁被覆の前記一端近傍の部分とからなり保護チューブで覆われる端末部を防水加工するハーネス用防水剤であって、嫌気性固着剤からなることを特徴とするハーネス用防水剤。
【請求項5】
前記嫌気性固着剤が、メタクリル酸エステル系固着剤であることを特徴とする請求項4記載のハーネス用防水剤。
【請求項6】
複数本の導体素線からなる芯線と、該芯線を取り巻く絶縁被覆とを有する複数本の電線を有し、該複数本の電線それぞれの該芯線のうち該絶縁被覆の一端から露出した露出端が互いに接続されたワイヤハーネスであって、
前記露出端と、前記絶縁被覆の前記一端近傍の部分とからなる端末部を覆う保護チューブと、
前記端末部における前記導体素線間の隙間内に充填された嫌気性固着剤とを備えたことを特徴とする防水ハーネス。
【請求項7】
前記嫌気性固着剤が、メタクリル酸エステル系固着剤であることを特徴とする請求項6記載の防水ハーネス。
【請求項8】
複数本の導体素線からなる芯線と、該芯線を取り巻く絶縁被覆とを有し、該芯線に、該絶縁被覆の途中から露出する露出部が形成された電線を備えたワイヤハーネスを用意する準備工程と、
前記露出部と、前記絶縁被覆の該露出部近傍の部分とからなる堰止部を、熱収縮性の保護チューブ内に挿入した状態、かつ、該堰止部における前記導体素線間の隙間内に嫌気性固着剤を浸透させた状態で、該保護チューブを加熱収縮させる防水処理工程とを有することを特徴とする防水ハーネスの製造方法。
【請求項9】
前記防水処理工程が、
前記堰止部を前記嫌気性固着剤中に浸漬して該嫌気性固着剤を前記導体素線間の隙間内に浸透させる浸漬工程と、
前記嫌気性固着剤中に浸漬した後の前記堰止部を熱収縮性の保護チューブ内に挿入する挿入工程と、
前記堰止部が挿入された状態の前記保護チューブを加熱することにより、該保護チューブを収縮させるとともに前記嫌気性固着剤を硬化させる加熱工程とを有することを特徴とする請求項8記載の防水ハーネスの製造方法。
【請求項10】
前記嫌気性固着剤が、メタクリル酸エステル系固着剤であることを特徴とする請求項8記載の防水ハーネスの製造方法。
【請求項11】
複数本の導体素線からなる芯線と、該芯線を取り巻く絶縁被覆とを有し、該芯線に、該絶縁被覆の途中から露出する露出部が形成された電線を備えたワイヤハーネスの、前記露出部と、前記絶縁被覆の該露出部近傍の部分とからなり保護チューブで覆われる堰止部を防水加工するハーネス用防水剤であって、嫌気性固着剤からなることを特徴とするハーネス用防水剤。
【請求項12】
前記嫌気性固着剤が、メタクリル酸エステル系固着剤であることを特徴とする請求項11記載のハーネス用防水剤。
【請求項13】
複数本の導体素線からなる芯線と、該芯線を取り巻く絶縁被覆とを有し、該芯線に、該絶縁被覆の途中から露出する露出部が形成された電線を備えたワイヤハーネスであって、
前記露出部と、前記絶縁被覆の該露出部近傍の部分とからなる堰止部を覆う保護チューブと、
前記堰止部における前記導体素線間の隙間内に充填された嫌気性固着剤とを備えたことを特徴とする防水ハーネス。
【請求項14】
前記嫌気性固着剤が、メタクリル酸エステル系固着剤であることを特徴とする請求項13記載の防水ハーネス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−204644(P2008−204644A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−36434(P2007−36434)
【出願日】平成19年2月16日(2007.2.16)
【出願人】(000227995)タイコエレクトロニクスアンプ株式会社 (340)
【Fターム(参考)】