説明

防水型視覚センサ

【課題】シリカゲル等の吸湿剤に頼ったり、高度の気密性を要求することなく、撮影用窓にはめ込まれた透明窓板の結露を確実に防止できる機能を備えた防水型視覚センサを提供すること。
【解決手段】撮影用窓に透明窓板が嵌め込まれた防水型ケース内に、パワー素子や電源部等の発熱体を収容してなり、透明窓板と発熱体との間にあって、透明窓板に近接した位置のケース適所にはケース内外を連通する適宜個数の細孔が明けられており、かつそれら細孔は液体の水分子の通過を阻止する一方、水蒸気の通過は許容する機能を有する通気性フィルムにて塞がれている、ことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、撮影用窓に透明窓板がはめ込まれた防水型ケース内に、パワー素子や電源部等の発熱体を収容してなる防水型視覚センサに関する。
【背景技術】
【0002】
カメラとして機能するセンサヘッド部と、センサヘッド部から得られる画像に基づいて各種の外観検査を行うアンプ部とを備えたアンプ分離型の視覚センサは従来より知られている(例えば、特許文献1参照)。この種の視覚センサは、工業製品や各種食品の外観検査等に広く応用されている。中でも、ヨーロッパの食品業界においては、視覚センサを多用して食品の外観検査を行っており、業種の性質から、1日の作業が終了するたびに、視覚センサを含む食品搬送ラインの設備を、放水により洗浄して、清潔に保つことが通常行われている。
【0003】
そのため、この種の食品製造ラインに使用される視覚センサにあっては、撮影用窓に透明窓板がはめ込まれた防水ケース内に、パワー素子や電源部等の発熱体を収容してなる防水型センサヘッド部が適用される。
【0004】
ところで、この種の防水型視覚センサにあっては、防水構造が適用されているとはいえ、その内部に収容されたパワー素子や電源部等の発熱体に起因して、内部の空気は膨張収縮を繰り返し、いわゆる呼吸作用を行うことから、いかに防水構造を適切に行ったとしても、ケーブルやケースの継ぎ目等から湿気(水分子)の浸入を防ぐことはできない。そのため、低温環境下におかれた防水型視覚センサにあっては、ケース内の温められた空気に溶け込んだ水蒸気が、撮影用窓にはめ込まれた透明窓板と接することによって急激に冷やされ、透明窓板の内面に水滴となって付着して、いわゆる結露により透明窓板に曇りを生ずるという問題点が指摘されている。
【0005】
ところで、結露が生じがちな防水カメラにおいて、光学的に結露を防止するための手段としては、第1の透明部材と第2の透明部材との間に密閉された空間を形成するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。また、別の方法としては、カメラケース内にシリカゲル等の吸湿剤を収容するものも知られている。
【特許文献1】特開2002−277945号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した特許文献1に記載の構造にあっては、なおも完全密閉構造を維持することは必ずしも容易ではなく、そのため十分なる解決策を提供するには至っていない。
【0007】
また、シリカゲル等の吸湿剤を収容するものにあっても、吸湿剤の能力には限りがあるため、いずれは吸湿性能を失ってしまい、頻繁な交換が必要となるといった問題点が指摘されている。
【0008】
この発明は、従来の結露防止対策における上述の問題点に着目してなされたものであり、その目的とするところは、シリカゲル等の吸湿剤に頼ったり、高度の気密性を要求することなく、撮影用窓にはめ込まれた透明窓板の結露を確実に防止できる機能を備えた防水型視覚センサを提供することにある。
【0009】
この発明のさらに他の目的並びに作用効果については、明細書の以下の記述を参照することにより、当業者であれば容易に理解されるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明の防水型視覚センサは、撮影用窓に透明窓板がはめ込まれた防水型ケース内に、パワー素子や電源部等の発熱体を収容してなるものである。ここで、防水型ケースはカメラとして機能するものでもあるから、撮影用の光学系や2次元撮像素子等の撮影用光学部品が収容されていることは勿論である。
【0011】
加えて、透明窓板と発熱体との間にあって、透明窓板に近接した位置のケース適所には、ケース内外を連通する適宜個数の細孔が開けられており、かつそれら細孔は液体の水分子の通過を阻止する一方、水蒸気の通過は許容する機能を有する通気性フィルムにて塞がれている。
【0012】
このような構成によれば、防水型ケースの内外、特に透明窓板付近には、液体の水分子の通過は阻止する一方、水蒸気の通過は許容する機能を有する通気性フィルムを介して、通気性が確保されることとなるため、透明窓板を挟んでその内外の温度差が解消され、これにより透明窓板内面の結露が防止される。
【0013】
このように、本発明にあっては、防水型ケース内外の気密性を上げるのではなく、通気性は確保しつつも、液体の水分子の浸入は阻止することによって、ケース内外の温度差、特に透明窓板を挟んでその内外の温度差をできるだけなくして、透明窓板内面への結露を防止するものである。このとき、空気の流通を許容する細孔がもしもパワー素子や電源部等の発熱体の近くのケースに開けられていれば、流入した外気も直ちに温められてしまうため、透明窓板付近の内部温度を十分に低下させることができないが、この発明ではできるだけ透明窓板に近い部分のケースに細孔を開けて、流入した空気により透明窓板の内面付近の空気が冷やされるように配慮したため、一層有効に結露を防止できることになる。
【0014】
好ましい実施の形態においては、防水型ケースが、アンプ分離型視覚センサのセンサヘッド部のケースとしてもよい。このような構成によれば、センサヘッド部のケースを光軸方向へ細長い断面筒状とすることによって、透明窓板とパワー素子や電源部等の発熱体との距離を離すことが容易となり、細孔から流入した空気が発熱体で温められる割合を軽減し、透明窓板内面をより有効に冷却して、透明窓板内面への結露を効果的に防止することができる。
【0015】
好ましい実施の形態においては、適宜個数の細孔は、透明窓板に近接したケース側面に開けられていてもよい。このような構成によれば、特にケースの断面形状を透明窓板とほぼ同形としたような場合にも、空気流通のための細孔を容易に確保することができる。
【0016】
好ましい実施の形態においては、通気性フィルムが細孔を覆うようにしてケースの内面に貼付されるようにしてもよい。このような構成によれば、通気性フィルムの素材はケースの内面に収容され外からは見えないため、外観を損ねることがない。
【0017】
好ましい実施の形態においては、通気性フィルムが、細孔を覆うようにしてケースの外面に貼付されていてもよい。このような構成によれば、放水洗浄などを受けた際にも、外部からの水圧に強いという利点がある。
【0018】
好ましい実施の形態においては、通気性フィルムが、ポリテトラフルオロエチレン樹脂多孔質膜であってもよい。ここで、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂多孔質膜は、1cm2当たり数億個以上の微細孔をもち、防水・防塵性と通気性を同時に発揮すると共に、撥水性、耐熱性、耐薬品性、耐候性、電気的特性等の優れた特徴を有する。そのため、気体透過性、水蒸気透過性、防水性の機能を十分に発揮させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、透明窓板と発熱体との間にあって、透明窓板に近接した位置のケース適所に、ケース内外を連通する適宜個数の細孔を開けると共に、それら細孔には水分子の通過を阻止する一方、水蒸気の通過は許容する機能を有する通気性フィルムにて塞いだものであるから、低温環境下に当該防水型視覚センサが配置された場合にも、透明窓板の内側付近においては内外における気体の流通が確保され、これにより透明窓板を挟む両側の内外温度差が解消されて、透明窓板内面に対する結露が確実に防止される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に、この発明の好適な実施の一形態を添付図面に従って詳細に説明する。
【0021】
本発明が適用された視覚センサ全体の外観斜視図が図1に示されている。同図に示されるように、この視覚センサの全体は、アンプ部1とセンサヘッド部2とを備えている。アンプ部1は矩形状のケース11を有する。ケース11の表面(正面)には、液晶デバイスで構成された画像表示器12と操作部カバー13とが設けられている。操作部カバー13はヒンジ結合されて開閉自在とされ、これが開かれると、その内部には各種の操作キーが現れる。ケース11の背面(裏面)にはDINレール取付溝14が、また上面にはレセプタクル15が、さらに下面には電気コード16が引き出されている。ケース11の両側面には連接コネクタカバー17が設けられている。この連接コネクタカバー17はスライド自在に開閉し、これが開かれると内部にはアンプ部1を互いに隣接して連装するための連接コネクタが現れる。
【0022】
センサヘッド部2は防水型の密閉状ケース21を有する。このケース21は光軸方向へ細長い断面正方形状を有する。ケース21は本体部ケース21aと先端部ケース21bとを有する。本体部ケース21a内には、電子回路基板が装着されており、この基板上には図示しないが、CCD等の2次元撮像素子の他に、電源や通信用のパワートランジスタ等の発熱体も搭載されている。一方、先端部ケース21bはその前面の撮影用窓22を透明窓板22aで塞がれており、この先端部ケース22内には、撮影用レンズ等の光学系を収容する鏡胴先端部Mと、その周囲を取りまくようにして、照明用の8個の発光ダイオードD1〜D8が収容されている。
【0023】
尚、図においては、撮影用窓22にはめ込まれた透明窓板22aは取り外されている。すなわち、ケース21の前面側には撮影用窓22が、また後面からは電気コード23が引き出されており、この電気コード23の先端部コネクタはアンプ部1のレセプタクル15と結合し、これにより電気コード23を介してアンプ部1とセンサヘッド部2との間におけるデータ伝送が可能となる。
【0024】
次に、本発明の要部である結露防止構造について説明する。図3に示されるように、先端部ケース21aの内周面31を構成する4つの面の1つには、凹陥部32が設けられる。この凹陥部32内には、図4に拡大して示すように、5個の細孔37a〜37eが開けられている。図では、中心に細孔37aが、これを取りまくようにして90°間隔で4個の細孔37b〜37eが開けられている。細孔の径は1.0mm〜1.5mm程度に設定されている。凹陥部32は、内周面31を僅かにへこませたものであって、その形状は前方後円状とされている。この凹陥部32には、図3に示されるように、通気性フィルム33が、細孔37a〜37eを塞ぐようにして貼り付けられる。通気性フィルム33としては、この例としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂多孔質膜が採用されている。このPTFE樹脂多孔質膜は、1cm2当たり数億個以上の微細孔をもち、防水・防塵性と通気性を同時に発揮する。さらに、このPTFE樹脂多孔質膜は、撥水性、耐熱性、耐薬品性、耐候性、電気特性等の優れた特徴を有し、気体透過性、水蒸気透過性、防水性を発揮するには非常に好適なものである。具体的には、例えばNITTO DENKO社製のミクロテックス(登録商標)を採用することができる。
【0025】
通気性フィルムの別の貼付態様の一例が図5及び図6に示されている。この例にあっては、先端部ケース21aの外周面34に円形の凹陥部35が設けられ、この凹陥部35内に図6に示されるように、先ほどと同様な5個の細孔38a〜38eが開けられている。そして、この凹陥部35内の各細孔38aから38eを塞ぐようにして、その上に通気性フィルム36が貼付される。
【0026】
図3及び図4に示される通気性フィルム33を内周面31に貼付する方法にあっては、通気性フィルム33はケース21aの内部に隠れた外からは見えないため、外観を損ねることがない利点がある。これに対して、図5及び図6に示されるケース21aの外周面34に通気性フィルム36を貼付するものにあっては、若干の外観は損ねるものの、食品製造ラインにおいて放水洗浄を受けた場合にも、それらの水圧は通気性フィルム36をケース外周面34に押し付ける方向に作用するため、通気性フィルム36が剥がれにくいという利点がある。特に、図6に示される例にあっては、凹陥部35は円形とされ、通気性フィルム36はしっかりとその内部にはめ込まれるため、一層放水洗浄によっても剥がれにくいという利点がある。
【0027】
本発明は以上の構成であるから、図7に示されるように、通気性フィルム33,36は、透明窓板22aと発熱体Hとの間にあって、透明窓板22aに近接する位置に配置されているため、これを流入空気A1及び流出空気A2は自由に通過することによって、透明窓板22a内面の気体の温度は徐々に低下して、いずれは内外温度差が解消されて、透明窓板22aの内面に水滴W1,W2が付着して、いわゆる結露が生ずることを未然に防止することができる。尚、図7では透明窓板22aの内面に水滴W1,W2が結露しているように見えるが、このような結露がないのが本発明の作用効果である。
【0028】
本発明は、以上のような構成並びに作用効果を有するものであるから、特に1日の作業終了と共に、放水洗浄される、ヨーロッパの食品業界の慣行下にあっても、十分な防水性を維持しつつ、しかも透明窓板の結露を防止できるから、透明窓板の結露や曇りを理由とする撮影画像の不鮮明さにより、計測誤差や計測不能に至るといった問題点が解消され、常に鮮明な画像を取得できることから、この種の視覚センサの耐久性乃至信頼性を著しく向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明が適用された視覚センサ全体の外観斜視図である。
【図2】センサヘッド部の斜め前方から見た斜視図である。
【図3】通気性フィルムの貼付態様の説明図(その1)である。
【図4】凹陥部内の細孔の拡大図(その1)である。
【図5】通気性フィルムの貼付態様の説明図(その2)である。
【図6】凹陥部内の細孔の拡大図(その2)である。
【図7】本発明の作用説明図である。
【符号の説明】
【0030】
1 アンプ部
2 センサヘッド部
11 ケース
12 画像表示器
13 操作部カバー
14 DINレール取付溝
15 レセプタクル
16 電気コード
17 連接コネクタカバー
21 ケース
21a 本体部ケース
21b 先端部ケース
22 撮影用窓
22a 透明窓板
23 電気コード
31 内周面
32 凹陥部
33 通気性フィルム
34 外周面
35 凹陥部
36 通気性フィルム
37a〜37e 細孔
38a〜38e 細孔
A1 流入空気
A2 流出空気
D1〜D8 発光ダイオード
H 発熱体
M 鏡胴先端
W1,W2 水滴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮影用窓に透明窓板が嵌め込まれた防水型ケース内に、パワー素子や電源部等の発熱体を収容してなり、
透明窓板と発熱体との間にあって、透明窓板に近接した位置のケース適所にはケース内外を連通する適宜個数の細孔が明けられており、かつそれら細孔は液体の水分子の通過を阻止する一方、水蒸気の通過は許容する機能を有する通気性フィルムにて塞がれている、ことを特徴とする防水型視覚センサ。
【請求項2】
防水型ケースが、アンプ分離型視覚センサのセンサヘッド部のケースである、ことを特徴とする請求項1に記載の防水型視覚センサ。
【請求項3】
適宜個数の細孔が、透明窓板に近接したケース側面に明けられている、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の防水型視覚センサ。
【請求項4】
通気性フィルムが、細孔を覆うようにしてケースの内面に貼付されている、ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の防水型視覚センサ。
【請求項5】
通気性フィルムが、細孔を覆うようにしてケースの外面に貼付されている、ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の防水型視覚センサ。
【請求項6】
通気性フィルムが、ポリテトラフルオロエチレン樹脂多孔質膜である、ことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の防水型視覚センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−19894(P2006−19894A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−193791(P2004−193791)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】