説明

防水扉装置及び防水扉装置の施工方法

【課題】 ネジ締め等の調整作業を必要とせず、簡易な構造で倒伏位置の防水扉を安定して支持できる防水扉装置を提供する。
【解決手段】 床面に凹設配置したケース1内の複数箇所に、倒伏して収容した防水扉2の重量を支持するための支持部材14を配置した。支持部材14は、ケース1の底部に配置した台座6に着脱可能に設置したベースに窪み部を設けて形成し、窪み部に硬化剤を充填し、その上に当接板を被せて形成し、防水扉2を倒伏して荷重を印加した状態で硬化剤を硬化させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物や駐車場などの出入口に設置され、水害時に水の浸入を防止する防水扉装置に関し、特に倒伏状態の防水扉を安定して保持する防水扉装置及びその施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地下駐車場の出入口など、自動車等の重量物が通過する場所に設置される防水扉装置は、倒伏時における防水扉表面のモルタルや石貼りの破損防止対策を講ずる必要がある。
このような従来の破損防止対策として、例えば特許文献1に記載された構成の防水扉装置がある。これは、防水扉を収容するケースと防水扉との間に、ケースに設けた支持本体と防水扉に設けた操作孔と防水扉に螺合されたネジ部材を有する調整機構とから成る複数の支持装置を設置し、防水扉が倒伏位置にある状態で操作孔からネジ部材を操作してネジ部材の先端を支持本体に当接させ、防水扉とケースとの隙間を無くして防水扉を安定して支持するようにし、自動車等の通過による防水扉の撓みを抑えていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−106560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1の構成の場合、ネジ部材を操作して隙間調整するため、調整作業が面倒であったし、構造も複雑でありコスト増を招いていた。
【0005】
そこで、本発明はこのような問題点に鑑み、ネジ締め等の調整作業を必要とせず、簡易な構造で倒伏位置の防水扉を安定して支持できる防水扉装置及び防水扉装置の施工方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する為に、請求項1の発明は、出入口の床面に凹設配置したケースに防水扉を収容して、前記防水扉を前記ケースの開口した上面を閉塞する倒伏状態から前記出入口を閉塞する起立状態に回動させることで前記出入口からの水の浸入を防止する防水扉装置であって、倒伏した前記防水扉は、背面が前記ケース内に配置された複数の支持部材で支持されて倒伏状態を維持し、前記支持部材は所定時間で硬化する硬化剤を支持要素として具備し、前記防水扉を倒伏した状態で前記硬化剤を硬化させたことを特徴とする。
この構成によれば、硬化剤が硬化する前に防水扉を倒伏させて支持部材を加圧することで、硬化剤の変形、その後の硬化により倒伏位置の防水扉と支持部材の間の隙間の発生を無くすことができる。そのため、別途隙間を無くすための調整作業が必要無くなり、簡易な作業で収納した防水扉のがたつきのない安定した支持が可能となる。また、ネジ等の調整部材が必要ないため構造を簡素化できる。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載の構成において、前記支持部材は前記防水扉に当接する当接板を有し、前記硬化剤は前記当接板と支持部材を配置したベースとで挟持されてなることを特徴とする。
この構成によれば、硬化剤は当接板とベースにより挟まれるため、支持部材は防水扉の厚みばらつきに対して良好に対応できるし、自動車等の重量物の通過に対しても当接板により重量を分散でき、安定して支持できる。
【0008】
請求項3の発明は、請求項2に記載の構成において、前記ベース上には、充填した前記硬化剤を保持するための窪み部が形成されて成ることを特徴とする。
この構成によれば、硬化剤の粘性が低くても容易に施工できる。
【0009】
請求項4の発明は、請求項1乃至3の何れかに記載の構成において、前記支持部材は、前記ケースに対して着脱可能であることを特徴とする。
この構成によれば、経年変化等で硬化剤が劣化しても、硬化剤の交換を容易に実施できる。
【0010】
請求項5の発明は、出入口の床面に凹設配置したケースに防水扉を収容して、前記防水扉を前記ケースの開口した上面を閉塞する倒伏状態から前記出入口を閉塞する起立状態に回動させることで前記出入口からの水の浸入を防止する防水扉装置の施工方法であって、倒伏した前記防水扉を支持する支持部材を前記ケース内に複数配置し、前記支持部材が所定時間で硬化する硬化剤を支持要素として具備し、前記硬化剤を所定部位に充填する工程と、所定部位に充填した前記硬化剤が硬化する前に前記防水扉を倒伏して前記硬化剤を硬化させる工程と、を有して施工することを特徴とする。
この施工方法によれば、硬化剤が硬化する前に防水扉を倒伏させて支持部材を加圧することで、硬化剤の変形、その後の硬化により倒伏位置の防水扉と支持部材の間の隙間の発生を無くすことができる。そのため、別途隙間を無くすための調整作業が必要無くなり、簡易な作業で収納した防水扉のがたつきのない安定した支持が可能となる。また、ネジ等の調整部材が必要ないため構造を簡素化できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、硬化剤が硬化する前に防水扉を倒伏させて支持部材を加圧することで、硬化剤の変形、その後の硬化により倒伏位置の防水扉と支持部材の間の隙間の発生を無くすことができる。そのため、別途隙間を無くすための調整作業が必要無くなり、簡易な作業で収納した防水扉のがたつきのない安定した支持が可能となる。また、ネジ等の調整部材が必要ないため構造を簡素化できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る防水扉装置の一例を示し、防水扉を起立させた状態の平面図である。
【図2】図1のX−X線断面図である。
【図3】図1のY−Y線断面図である。
【図4】図1のZ−Z線断面図である。
【図5】防水扉を倒伏した状態のZ−Z線断面図である。
【図6】図5のV−V線断面説明図である。
【図7】図6のW−W線断面説明図である。
【図8】図7のA矢視図であり、支持部材形成部の平面説明図である。
【図9】支持部材形成部の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を具体化した実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。図1〜図4は防水扉を起立させた状態の防水扉装置を示し、図1は平面図、図2はX−X線断面図、図3はY−Y線断面図、図4はZ−Z線断面図である。
【0014】
防水扉装置は、建物や駐車場或いは地下街等の出入口の通路床面に設置され、床面に凹設配置したケース1と、ケース1に収容した防水扉2とを有している。防水扉2は、基部がケース1内に軸着され、手動操作でケース1の開口部を閉塞する倒伏位置から出入口を閉塞する起立位置に回動して使用される。尚、Qは床面、Rは出入口を設けた建屋の壁部を示している。
【0015】
ケース1は、出入口の横幅と略同一或いはそれより大きな幅を有する上部が開放された矩形の箱体であり、コンクリートや金属枠で形成される。また、図示しない配管が下部に接続されて、ケース1内に浸入した水が排水されるよう形成されている。
そして、開放された上部は、通常倒伏状態にある防水扉2により閉塞され、周囲床面Qと面一な状態を維持する。この閉塞状態では、自動車や歩行者がケース1上を(倒伏した防水扉2上を)通行することができる。
【0016】
ケース1内部には、防水扉2を回動可能に支持するヒンジ装置(詳述せず)11、防水扉2を起立位置に向けて付勢する起立補助装置(詳述せず)12、起立した防水扉2を支持する突っ張りアーム13、そして倒伏した防水扉2を載置してその荷重を支持する支持部材14等が組み付けられている。
【0017】
また、ケース1の一方側左右端部となる建物或いは駐車場の出入口壁部Rには、起立した防水扉2を密着させて外部からの水の浸入を防止するための扉枠3が一体に形成されている。この扉枠3の防水扉2当接部、及び起立した防水扉2が当接するケース1の前方側の内壁にはシール部材(図示せず)が帯状に装着され、水の浸入を防止するよう構成されている。
【0018】
防水扉2は四角形の板状体であり、ケース1開口部を閉塞する幅を有している。前面(倒伏時は上面)は、平坦な金属製防水板21の上をモルタルや石貼り等の表層部材22で覆設して形成されている。防水板21の裏面(倒伏時は背面)は、自動車等の大きな荷重が加わっても防水板21が変形しないよう梁23が設けられている。梁23は、防水扉2の高さ方向に延設され、幅方向に複数設けられている。
【0019】
また、防水板21の裏面には一端がケース1内底部に固定された一対の突っ張りアーム13の他端が連結されているし、起立補助装置12の他端が組み付けられている。尚、この実施形態では起立補助装置12が左右に1対ずつ設置されているが、起立補助装置12の個数は防水扉2の大きさに応じて適宜変更される。
【0020】
支持部材14は、図1に示すように防水扉2の梁23の位置に合わせてケース1内に複数設置されている。以下、この支持部材14について説明する。図5は防水扉2を倒伏した状態の図1のZ−Z線断面図、図6は図5のV−V線断面説明図、図7は図6のW−W線断面説明図、図8は図7のA矢視説明図を示し、これらの図を参照して説明する。
図に示すように、ケース1内には支持部材14を配置するための台座6が設置され、この台座6に支持部材14を形成するベース15が設置されている。ベース15はボルト7により台座6に固定され、着脱可能となっている。そして支持部材14は、このベース15上に形成され、防水扉2の梁23の位置に合わせて適宜個数設置されている。
【0021】
ベース15は防水扉2の梁23に合わせて前後方向に長く形成され、支持部材14は1つのベース15上に一対形成されている。図9は支持部材14を形成したベース15の斜視図である。但し、図9においてボルト7は省略してある。この図9に示すように、支持部材14はベース15の前後両端部に形成されている。
ベース15は上方に折り曲げて形成した側壁15aを左右に具備し、支持部材14はこのベース15内に一対の流れ防止片16を前後に配置して形成した窪み部K上に形成されている。流れ防止片16は、弾性部材(例えばスポンジゴム)で形成され、容易に変形するよう構成されている。
【0022】
具体的に、窪み部Kに硬化剤と主剤を所定の比率で混合した混合硬化剤(例えば、株式会社ITWパフォーマンスポリマー&フィルズジャパン製の“デブコンA(登録商標)”)を充填し、その上に防水扉2の梁23が当接する金属製の当接板17を配置して形成されている。側壁15aは、窪み部Kの構成要素でもあるし、この当接板17のズレを防止する位置決め手段でもある。
尚、硬化剤と主剤を混合した混合硬化剤をここでは硬化剤18と称して説明する。
【0023】
ここで、商品名“デブコン(登録商標)A”を硬化剤として使用した場合の実験結果を示すと、最大想定荷重時において、7mmの施工厚(厚い方が弱い)の時、梁23の変位量は最大でも0.35mm以下であった。変位量が0.35mm以下であれば表層部材22のモルタルや石貼りの破損は見られないため、この厚み以下であれば支持部材14の構成部材として良好に使用できる。
【0024】
上記構成の支持部材14の施工及び支持作用は次のようである。先ず防水扉2を起立位置に移動させ、台座6に取り付けたベース15に流れ防止片16を装着して硬化剤18を所定量充填する。その後、当接板17を被せれば支持部材14は完成する。その後、防水扉2を傾倒して倒伏状態とし、防水扉2の全重量を支持部材14に加え、この状態を維持して例えば16時間かけて硬化剤18を硬化させる。
このとき、防水扉2の梁23が当接板17に接触して支持部材14を加圧するが、ベース15は梁23に合わせて設置されており、図6に示すように梁23はベース15の略中央部に沿って帯状に接触する。そのため、ベース15の側壁15aに梁23が接触することはない。一方、流れ防止片16に対しては、梁23に交差するため接触する可能性があるが、流れ防止片16は弾性部材で形成されているため変形し易く、梁23が接触してもその応力を無理なく吸収する。
【0025】
この結果、支持部材14の硬化剤18は梁23の加圧により変形して周囲にはみ出したりするが、全ての支持部材14は梁23に密着した状態を維持し、所定時間経過後は硬化剤が硬化し、梁23の突出量にばらつきがあっても個々の支持部材14は梁23に良好に密着し、倒伏位置の防水扉2を支持する。
【0026】
このように、硬化剤18が硬化する前に防水扉2を倒伏させて支持部材14を加圧することで、硬化剤18の変形、その後の硬化により倒伏した防水扉2と支持部材14の間の隙間を無くすことができる。そのため、別途隙間を無くすための調整作業が必要無くなり、簡易な作業で収納した防水扉2のがたつきのない安定した支持が可能となる。また、ネジ等の調整部材が必要ないため構造を簡素化できる。
更に、硬化剤18は当接板17とベース15により挟まれるため、支持部材14は防水扉2の厚みばらつきに対して良好に対応できるし、自動車等の重量物の通過に対しても当接板17により重量を分散でき、安定して支持できる。
また、硬化剤18は窪み部Kに充填されるため、硬化剤18の粘性が低くても良好に充填できるし、支持部材14は取り外しできるため、経年変化等で劣化した場合に硬化剤18の交換を容易に実施できる。
また、防水扉2の荷重により硬化剤18が変形しても流れ防止片16がそれを吸収するし、流れ防止片16に防水扉2が接触しても、変形して応力を吸収することができる。
【0027】
尚、上記実施形態ではベース15を台座6に取り付けた状態で、支持部材14を施工するが、支持部材14を収容したベース15は着脱が可能であるため、ベース15を台座6に取り付ける前にベース15の所定部位に予め硬化剤Kを充填し、硬化する前に台座6に取り付けるようにしてもよい。
また、硬化剤18を充填するための窪み部Kを設けているが、硬化剤18の粘度が比較的高い場合は窪み部Kを設けなくても良い。
【符号の説明】
【0028】
1・・ケース、2・・防水扉、6・・台座、7・・ボルト、14・・支持部材、15・・ベース(壁部材)、15a・・側壁(壁部)、16・・流れ防止片(壁部)、17・・当接板、18・・硬化剤、K・・窪み部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
出入口の床面に凹設配置したケースに防水扉を収容して、前記防水扉を前記ケースの開口した上面を閉塞する倒伏状態から前記出入口を閉塞する起立状態に回動させることで前記出入口からの水の浸入を防止する防水扉装置であって、
倒伏した前記防水扉は、背面が前記ケース内に配置された複数の支持部材で支持されて倒伏状態を維持し、
前記支持部材は、所定時間で硬化する硬化剤を支持要素として具備し、前記防水扉を倒伏した状態で前記硬化剤を硬化させたことを特徴とする防水扉装置。
【請求項2】
前記支持部材は前記防水扉に当接する当接板を具備し、前記硬化剤は前記当接板と支持部材を配置したベースとで挟持されてなることを特徴とする請求項1記載の防水扉装置。
【請求項3】
前記ベース上には、充填した前記硬化剤を保持するための窪み部が形成されて成ることを特徴とする請求項2記載の防水扉装置。
【請求項4】
前記支持部材は、前記ケースに対して着脱可能であることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の防水扉装置。
【請求項5】
出入口の床面に凹設配置したケースに防水扉を収容して、前記防水扉を前記ケースの開口した上面を閉塞する倒伏状態から前記出入口を閉塞する起立状態に回動させることで前記出入口からの水の浸入を防止する防水扉装置の施工方法であって、
倒伏した前記防水扉を支持する支持部材を前記ケース内に複数配置し、前記支持部材が所定時間で硬化する硬化剤を支持要素として具備し、前記硬化剤を所定部位に充填する工程と、所定部位に充填した前記硬化剤が硬化する前に前記防水扉を倒伏して前記硬化剤を硬化させる工程と、を有して施工することを特徴とする防水扉装置の施工方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2013−108305(P2013−108305A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−255204(P2011−255204)
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【出願人】(000241588)豊和工業株式会社 (230)
【Fターム(参考)】