説明

防水透湿性布帛、防水透湿性布帛の製造方法及び防水透湿性布帛を用いた雨着

【課題】 ヤッケやレインコート等のアウトドア用途の雨着やその生地としては、最も軽量で、かつ引っ張り強度が高く伸縮性も有する防水透湿性布帛、防水透湿性布帛の製造方法及び防水透湿性布帛を用いた雨着を提供する。
【解決手段】 多孔質の樹脂フィルム2の一方の面2aに表生地3が配され、前記樹脂フィルム2の他方の面2bに六角形が連続した編目からなる裏生地4が配される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヤッケやレインコート等のアウトドア用途の雨着としては、最も軽量で、かつ引っ張り強度が高く伸縮性も有する防水透湿性布帛、防水透湿性布帛の製造方法及び防水透湿性布帛を用いた雨着に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ヤッケやレインコート等のアウトドア用途の雨着については、防水性に加えて透湿性や通気性が要求されることから、そのような防水透湿性布帛として、耐久高分子フィルムを防水透湿性フィルムとして使用して、その表面に表生地を積層し、その裏面に裏生地を積層したものが知られている(特許文献1)。しかし、ヤッケやレインコート等のアウトドア用途の雨着には防水透湿性に加えて軽量化の要求が高く、織物の表生地とトリコット編みの裏生地とが積層されたものが開発され(特許文献2)、そこには22デシテックスのトリコット編地を表生地に接着することが記載されている。
【特許文献1】特許第4015434号公報
【特許文献2】特開2002−227011号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、ヤッケやレインコート等のアウトドア用途の雨着やその生地については、さらなる軽量性が要求されると共に、これらの雨着には、全方位的にかかる引っ張る力に対して高い強度を発揮することが要求される。そのうえ、高い伸縮性を発揮することや着心地も良いものが望まれる。
【0004】
しかしながら、特許文献2のいわゆるトリコット布では、その編み方の方向においては伸縮性を発揮するものの全方位的にかかる引っ張る力に対しては強度が十分でなく、伸縮性も発揮されないという問題を有していた。ゴルフウエアやレジャーウエアとしては、軽量化が高く要求されるところであるが、従来のような製品では軽量化の点でそれ以上の軽量化が図ることができないと言われるほどになっているのが実情である。
【0005】
一方、ヤッケやレインコート等のアウトドア用途の雨着やその生地について、さらなる軽量化を図ろうとすると、その製造方法、すなわち材料の選定やその施し方、さらには樹脂加工の仕方にも工夫を施さなければ、さらなる軽量化、つまり軽くて丈夫なアウトドア用途の雨着やその生地を製造することが不可能である。
【0006】
そこで本発明の目的は、ヤッケやレインコート等のアウトドア用途の雨着やその生地としては、軽量で、かつ引っ張り強度が高く伸縮性も有する防水透湿性布帛、防水透湿性布帛の製造方法及び防水透湿性布帛を用いた雨着を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の防水透湿性布帛は、多孔質の樹脂フィルムの一方の面に表生地が配され、前記樹脂フィルムの他方の面に多角形が連続した編目からなる裏生地が配されることを特徴とする。前記多角形が連続した編目の裏生地としては、三角形、四角形、六角形や、八角形と四角形との組み合わせが適用可能である。
【0008】
本発明によれば、多孔質の樹脂フィルムの一方の面に表生地が配され、前記樹脂フィルムの他方の面に多角形が連続した編目の裏生地が配されていることから、従来のいわゆるトリコット布地よりも、軽量化が図られるとともに引っ張り力に対しても従来のトリコット布地よりも高い引っ張り力を発揮し、伸縮性が高く、着心地も良い。また、雨着の製造方法のひとつとして、目止めテープを接着する製造方法があるが、目止めテープを接着する接着面となる裏生地の開口率が高いので目止めテープのシール性が向上する利点も有する。
【0009】
本発明としては、前記裏生地は、六角形が連続した編目からなり、ポリエステルを主成分とする樹脂液にて硬化されてから配されることを特徴とする。三角形や四角形や六角形は、八角形や円形等の編み方と比較して、同一の形状を隙間なく敷き詰められる形をしており、丈夫な構造とすることができるが、なかでも六角形が連続した編目(ハニカム構造とも呼ばれる)は、製造の際に必要な材料が最も少なくなるとともに、全方位的な引っ張り力に対して高い強度を発揮する。前記六角形が連続した編目が、ポリエステルを主成分とする樹脂液にて硬化されてから配されることで、前記六角形の編地に適度な強度を付与させるとともに、前記裏生地の寸法安定性が高くなる。
【0010】
本発明としては、前記六角形の一辺の長さがほぼ等しく、それら一辺の長さが0.5mm〜5.0mmであって、前記六角形を構成する糸の繊度が44デシテックス以下であることを特徴とする。さらには、前記六角形の一辺の長さが約1mmであって、前記六角形を構成する糸の繊度が22デシテックス以下であることが好ましい。
【0011】
これら本発明によれば、雨着として必要な引っ張り強度を維持しつつ、軽量の布帛とすることができる。
【0012】
一方、本発明の防水透湿性布帛の製造方法は、多孔質の樹脂フィルムの一方の面に接着剤を塗布して表生地を貼着した後、多角形が連続した編目からなる裏生地を上記多孔質の樹脂フィルムの他方の面に貼着して、一枚の布帛とすることを特徴とする。
【0013】
多角形が連続した編目の裏地は開口率が高く、この裏地に接着剤をローラや刷毛等により印刷して塗布すると、編目に接着剤が目詰まりしたり、部分的に接着剤が塗布されない不具合が生ずる。また、表生地よりも先に裏生地を多孔質の樹脂フィルムに貼着しようとすると、多孔質の樹脂フィルム及び裏生地が共に軽量で薄いことからお互いに対象が定まらず、位置ずれが生じたりシワが生じたりする。そこで、本発明は上記方法により製造するものである。上記多孔質の樹脂フィルムの他方の面に塗布する接着剤は、多点状に塗布することが好ましい。上記接着剤を多点状に塗布することで、前記裏生地が接着されない箇所に余分な接着剤が塗布されず、さらなる軽量化が図られる。
【0014】
本発明としては、前記裏生地は、六角形が連続した編目からなり、ポリエステルを主成分とする樹脂液にて硬化されてから配されることを特徴とする。前記六角形の編地は、その編み方として、いわゆるチュール編みが適用できる。本発明によれば、ポリエステルを主成分とする樹脂液にて硬化されてから配されることで、前記六角形の編地が適度な硬度となり、上記多孔質の樹脂フィルムの他方の面との貼り合せ時の位置ずれやシワが解消され、均一に貼着することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の防水透湿性布帛によれば、従来のいわゆるトリコット布地よりも、軽量化が図られるとともに引っ張り力に対しても従来のトリコット布地よりも高い引っ張り力を発揮し、伸縮性が高く、着心地もよくなる。六角形が連続した編目からなる裏生地とすることで、裏生地に必要な材料が最も少なくなり、全方位的な引っ張り力に対して高い強度を発揮し、ポリエステルを主成分とする樹脂液にて硬化されることで、前記六角形の編地に適度な強度を付与させる。前記六角形の一辺の長さがほぼ等しく、それらの一辺の長さが0.5mm〜5.0mmであって、前記六角形を構成する糸の繊度が44デシテックス以下であることや、さらには、前記六角形の一辺の長さが約1mmであって、前記六角形を構成する糸の繊度が22デシテックス以下であることで、雨着として必要な引っ張り強度を維持しつつ、軽量の布帛とすることができる。
【0016】
また、本発明の防水透湿性布帛の製造方法によれば、多孔質の樹脂フィルムの一方の面に接着剤を塗布して表生地を貼着した後、多角形が連続した編目からなる裏生地を上記多孔質の樹脂フィルムの他方の面に貼着して、一枚の布帛とすることで、編目に接着剤が目詰まりしたり、部分的に接着剤が塗布されない等の不具合が生ずることなく、均一でシワのない仕上がりの布帛となる。これら本発明によりヤッケやレインコート等のアウトドア用途の雨着やその生地として、軽量で、かつ引っ張り強度が高く伸縮性も有する防水透湿性布帛、防水透湿性布帛の製造方法及び防水透湿性布帛を用いた雨着が実現する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の一実施の形態を図面を参照して詳細に述べる。
【0018】
(第1の実施の形態)
図1(a)は、本実施の形態の布帛の裏面を模式的に示す模式図である。図1(b)は、図1(a)のA−A線断面図である。本実施の形態の防水透湿性布帛1は、多孔質の樹脂フィルム2の一方の面2aに表生地3が配され、前記樹脂フィルム2の他方の面2bに多角形が連続した編目からなる裏生地4が配される。
【0019】
多孔質の樹脂フィルム2は、高分子フィルムであり、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、含フッ素系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂等が挙げられる。
【0020】
表生地3としては、織布や編布が用いられる。表生地の材料は、天然繊維や合成繊維、それらを混合した繊維等である。前記合成繊維としては、ポリアミド系(ナイロン)、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリ塩化ビニリデン系、ポリフルオロカーボン系、ポリアクリル系等の繊維が用いられる。前記天然繊維としては、綿、絹等の繊維が用いられる。なお、表生地に対して、撥水処理、静電防止処理等が施される場合がある。
【0021】
裏生地4としては、多角形の連続した編地4が配されている。前記多角形が連続した編目の裏生地4としては、三角形、四角形、六角形や、八角形と四角形の組み合わせが適用可能である(図2)。多角形の連続した編地4の材質としては、ナイロン、ポリエステル、レーヨン等が用いられる。多角形の連続した編地4は、織布等と比較して積層布帛を軽量化することが可能で、材料も少なくて済む。ナイロンは耐久性が強く編地4の材質として適している。
【0022】
図2は、多角形の連続した編地4の例を示す図である。図2(a)は、三角形を組み合わせた例であり、図2(b)は、四角形を組み合わせた例であり、図2(c)は、六角形を組み合わせた例である。また、図2(d)は、八角形と四角形を組み合わせた例である。
【0023】
図2(c)に示す六角形は、それらの一辺の長さがほぼ等しく、それらの一辺の長さが0.5mm〜5.0mmであって、それら六角形を構成する糸41の繊度が44デシテックス以下である。さらには、前記六角形の一辺の長さが約1mmであって、それらを構成する糸の繊度が22デシテックス以下であることで、雨着として必要な引っ張り強度を維持しつつ、軽量の布帛とすることができる。
【0024】
(第1の製造方法)
本実施の形態では、六角形の連続した編地4を用いて、この編地4に適宜着色(染色)してから、ポリエステルを主成分とする樹脂液を含浸させて硬化させ裏生地4とした。樹脂液の材料としては、ポリエステル、アクリル、ポリウレタン等が挙げられるが、ポリウレタンは柔らかくて着心地もよくなく、アクリルは硬くて脆い等の理由から好ましくなく、前記六角形の編地4に予めポリエステルを主成分とする樹脂液を含浸させて硬化させることで前記六角形の編地4に適度な硬度が得られ、着心地もよい。
【0025】
上記防水透湿性布帛1の第1の製造方法は、多孔質の樹脂フィルム2の一方の面2aに接着剤5A(5)を塗布して表生地3を貼着した後、上記多孔質の樹脂フィルム2の他方の面2bに接着剤5B(5)を塗布してから多角形が連続した編目の裏生地4を貼着して、乾燥させた後、接着剤を硬化させ、一枚の布帛1とする。上記接着剤5Aと5Bとは異なる材質の接着剤でも問題なく接着できるが、上記接着剤5Aと5Bとを同一の接着剤5とすることで、多孔質の樹脂フィルム2の一方の面2aと他方の面2bに配される接着剤5の熱収縮率が一致するためシワが発生し難くなる。
【0026】
上記接着剤5A,5B(5)としては、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキサイド、ポリウレタン系、水性ビニルウレタン系、カルボキシメチルセルロース等が適用可能である。多孔質の樹脂フィルム2がポリウレタン系樹脂からなる場合には、上記接着剤5にポリウレタン系樹脂を用いることで高い接着力と曲げ追従性能が得られる。
【0027】
接着剤5の塗布方法としては、例えば、多孔質の樹脂フィルム2の他方の面2bにグラビアロールでポリウレタン系接着剤5を塗布し、その上に裏地4を貼り合わせてロールで圧着する方法がある。上記接着剤5を多点状に塗布することで、前記裏生地4が接着されない箇所の余分な接着剤が塗布されず、さらなる軽量化が図られる。なお、多孔質の樹脂フィルム2にウレタン系接着剤5をスプレーし、その上に裏生地4を合わせてロールで圧着する方法等を用いる方法も考えられる。
【0028】
前記樹脂製シート2の他方の面2bに接着剤5を塗布してから六角形状の編地4を貼着し、乾燥させた後、接着剤5を熱硬化させる。このように貼着させると、多孔質の樹脂フィルム2との貼り合せの際の位置ずれやシワを解消でき、均一に貼着することができる。
【0029】
(実施例1)
多孔質のポリウレタンフィルム2を使用し、表生地3はナイロンの糸を使ったリップトップ組織を使用した。表生地3の目付けは、約35g/mである。裏生地4は正六角形が連続したナイロンの編地4を使用した。編地4の正六角形の一辺の長さが約1mmであり、その繊度が22デニールである。この編地4を予め染色してからポリエステルを主成分とする樹脂液を含浸させて硬化させ裏生地4とした。ポリエステルを主成分とする樹脂液を含浸させて硬化させることで、正六角形の編地4に適度な硬度が得られ、貼り合わせの際に均一に貼着することができた。このようにして製造した防水透湿性布帛1の目付けは、74.1g/mとなった。
【0030】
図3は、上記実施例1に示す本発明を適用した防水透湿性布帛1を用いて構成される雨着の例を示す図である。
【0031】
(比較例)
上記実施例1と異なる点は、裏生地4として、ハーフトリコットの編地を使用した点のみである。この場合の目付けは、81.2g/mとなった。
【0032】
そして、上記目付けのほか、透湿度、撥水度、洗濯収縮、引裂強力を測定したものが表1である。
【表1】

【0033】
表1から明らかなように、実施例1は、比較例に比べて目付けが約1割小さくなったが、洗濯収縮、引裂強力に代表される機械的強度は維持できている。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施の形態の防水透湿性布帛の模式図である。
【図2】上記一実施の形態の多角形が連続した編地の例を示す図である。
【図3】上記一実施の形態の防水透湿性布帛を用いて構成される雨着の例を示す図である。
【符号の説明】
【0035】
1 防水透湿性布帛、
2 多孔質の樹脂フィルム、
3 表生地、
4 裏生地(六角形の連続した編地)、
41 糸(六角形を構成する糸)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質の樹脂フィルムの一方の面に表生地が配され、前記樹脂フィルムの他方の面に多角形が連続した編目からなる裏生地が配されることを特徴とする防水透湿性布帛。
【請求項2】
前記裏生地は、六角形が連続した編目からなり、ポリエステルを主成分とする樹脂液にて硬化されてから配されることを特徴とする請求項1記載の防水透湿性布帛。
【請求項3】
前記六角形の一辺の長さがほぼ等しく、それら一辺の長さが0.5mm〜5.0mmであって、前記六角形を構成する糸の繊度が44デシテックス以下であることを特徴とする請求項2記載の防水透湿性布帛。
【請求項4】
前記六角形の一辺の長さが約1mmであって、前記六角形を構成する糸の繊度が22デシテックス以下であることを特徴とする請求項2記載の防水透湿性布帛。
【請求項5】
前記請求項1ないし4のいずれか1項記載の防水透湿性布帛を用いて構成される雨着。
【請求項6】
多孔質の樹脂フィルムの一方の面に接着剤を塗布して表生地を貼着した後、多角形が連続した編目からなる裏生地を上記多孔質の樹脂フィルムの他方の面に貼着して、一枚の布帛とすることを特徴とする防水透湿性布帛の製造方法。
【請求項7】
前記裏生地は、六角形が連続した編目からなり、ポリエステルを主成分とする樹脂液にて硬化されてから配されることを特徴とする請求項6記載の防水透湿性布帛の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−172776(P2009−172776A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−11007(P2008−11007)
【出願日】平成20年1月21日(2008.1.21)
【出願人】(000000147)伊藤忠商事株式会社 (43)
【Fターム(参考)】