説明

防汚コート剤組成物

【課題】壁紙等に容易に、優れた防汚性を付与することができる防汚コート剤組成物を提供する。
【解決手段】本発明の防汚コート剤組成物は、下記成分(1)の水分散体、及び下記成分(2)を含有することを特徴とする。
成分(1):ビニル系重合体鎖部およびウレタン系重合体鎖部を有し、且つビニル系重合体鎖部とウレタン系重合体鎖部とが、珪素原子と酸素原子との結合を有する連結部を介して結合しているビニル系−ウレタン系共重合体
成分(2):ワックス系エマルジョン、シリコーン系エマルジョン、フッ素系エマルジョンから選択される1種以上の化合物

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、壁紙等に防汚性を付与する防汚コート剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、住宅の壁や天井の表面にはポリ塩化ビニル製の壁紙が多く使用されていた。ポリ塩化ビニル製の壁紙は、加工特性、耐水性、防汚性、施工性等に優れ、意匠性の豊富さや安価なことから優位性を保ってきた。しかしながら、ポリ塩化ビニル製壁紙に含まれるフタル酸エステル系可塑剤が居住空間へ揮発すること等により引き起こされるシックハウス症候群の問題や、燃焼時に塩化化合物が発生することが問題であった。
【0003】
上記問題を解決する方法として、特許文献1には、塩化ビニル樹脂を使用しないで、コットン繊維を主材とした壁装材を、加熱したエンボスロールを通して表面に凹凸模様を施すと共に、表面を撥水処理して、防汚性、耐水性、耐湿摩擦性を向上させた壁装材が開示されている。撥水処理は、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、アクリル系樹脂、オレフィン系樹脂、ワックス等を塗布することにより行なわれることが記載されているが、複数のコート剤を複数回塗布するので工程の煩雑さ、コストの点で問題があった。
【0004】
特許文献2には、アクリル系重合体、ワックス及びシリカを含有する壁紙用防汚コート剤組成物が記載されている。しかしながら、この壁紙用防汚コート剤組成物は、防汚性の点で十分に満足できるものではなかった。すなわち、壁紙等に、十分に満足できる防汚性を容易に付与することができる方法が未だ見いだされていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−155699号公報
【特許文献2】特開2006−096796号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、壁紙等に容易に、優れた防汚性を付与することができる防汚コート剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、ビニル系−ウレタン系共重合体の水分散体とワックス系エマルジョン、シリコーン系エマルジョン、フッ素系エマルジョンから選択される1種以上の化合物を含有する組成物によって形成される皮膜は、優れた防汚効果を発揮することができることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0008】
すなわち、本発明は、下記成分(1)の水分散体、及び下記成分(2)を含有することを特徴とする防汚コート剤組成物を提供する。
成分(1):ビニル系重合体鎖部およびウレタン系重合体鎖部を有し、且つビニル系重合体鎖部とウレタン系重合体鎖部とが、珪素原子と酸素原子との結合を有する連結部を介して結合しているビニル系−ウレタン系共重合体
成分(2):ワックス系エマルジョン、シリコーン系エマルジョン、フッ素系エマルジョンから選択される1種以上の化合物
【0009】
前記防汚コート剤組成物としては、二酸化珪素含有量が成分(1)100質量部に対して20質量部以下であることが好ましい。
【0010】
ビニル系−ウレタン系共重合体としては、下記の工程(X)〜(Y)を経て合成されるビニル系−ウレタン系共重合体であることが好ましい。
工程(X):加水分解性珪素原子含有基を有するウレタン系ポリマー(A)の水分散液又は水溶液を調製する工程
工程(Y):加水分解性珪素原子含有基を有するウレタン系ポリマー(A)の水分散液又は水溶液中で、エチレン性不飽和単量体(B)を重合させ、且つ、前記重合の反応前、前記重合の反応中、および前記重合の反応後の何れか1以上の時点で、アルコキシシリル基を有し且つエチレン性不飽和結合含有基に対する反応性官能基を有する化合物(C)を用いて、ビニル系−ウレタン系共重合体を調製する工程
【0011】
加水分解性珪素原子含有基を有するウレタン系ポリマー(A)としては、親水性基含有アルコキシシリル化ウレタン系ポリマー(A1)が好ましく、なかでも、親水性基非含有ポリオール化合物(A1-a)、親水性基含有ポリオール化合物(A1-b)、ポリイソシアネート化合物(A1-c)、およびイソシアネート反応性基含有アルコキシシラン化合物(A1-d)を反応して得られる親水性基含有アルコキシシリル基末端ウレタン系ポリマーが好ましく、特に、親水性基含有ウレタン系ポリマーの末端のイソシアネート基が少なくとも部分的にアルコキシシリル化されて得られる末端アルコキシシリル化親水性基含有ウレタン系ポリマーが好ましい。
【0012】
エチレン性不飽和単量体(B)としては、アクリル系単量体を含むことが好ましい。
【0013】
また、ビニル系−ウレタン系共重合体における珪素原子と酸素原子との結合を有する連結部は、シリコーン系重合体鎖部であることが好ましい。
【0014】
成分(2)としては、少なくともワックス系エマルジョンを含有することが好ましい。
【0015】
本発明は、また、前記防汚コート剤組成物を含む壁紙用防汚コート剤組成物を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る防汚コート剤組成物は、ビニル系重合体鎖部およびウレタン系重合体鎖部を有し、且つビニル系重合体鎖部とウレタン系重合体鎖部とが、珪素原子と酸素原子との結合を有する連結部を介して結合しているビニル系−ウレタン系共重合体を含有するため、水性であっても、優れた耐熱水性、耐水性、耐熱性および耐候性を有する硬化物を形成することができる。また、硬化に際しては、優れた接着性も発揮される。さらに、ビニル系重合体鎖部と、シリコーン系重合体鎖部とは、相互溶解性が低いにもかかわらず、優れた透明性を有する硬化物(皮膜など)を形成することができる。これは、ビニル系重合体鎖部とシリコーン系重合体鎖部とが結合しており、しかも、珪素原子と酸素原子との結合を有する連結部を介して結合している形態を有しているためであると思われる。
【0017】
また、本発明に係る防汚コート剤組成物は、上記のような特定の構造を有するビニル系−ウレタン系共重合体と共にワックス系エマルジョン、シリコーン系エマルジョン、フッ素系エマルジョンから選択される1種以上の化合物を含有するため、ビニル系−ウレタン系共重合体を硬化して得られる硬化物の耐熱水性、耐水性をさらに増強することができる。そのため、本発明に係る防汚コート剤組成物を被着体表面に薄く塗布、乾燥することにより、優れた防汚性を発揮する皮膜を形成することができる。
【0018】
さらにまた、本発明に係る防汚コート剤組成物は、二酸化珪素含有量をビニル系−ウレタン系共重合体100質量部に対して20質量部以下にすると、被着体等に極めて薄く塗布することでも優れた防汚性を発揮することができる緻密な塗布層(皮膜)を形成することができる。そのため、塗布層(皮膜)の形成に際して養生に要する時間が短く、作業時間を大幅に短縮することができる。また、被着体に、その風合いを維持しつつ、優れた防汚効果を付与することができる。本発明に係る防汚コート剤組成物は、上記効果を有するため、壁紙用防汚コート剤組成物として好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[防汚コート剤組成物]
本発明に係る防汚コート剤組成物は、下記成分(1)の水分散体、及び下記成分(2)を含有することを特徴とする。
成分(1):ビニル系重合体鎖部およびウレタン系重合体鎖部を有し、且つビニル系重合体鎖部とウレタン系重合体鎖部とが、珪素原子と酸素原子との結合を有する連結部を介して結合しているビニル系−ウレタン系共重合体
成分(2):ワックス系エマルジョン、シリコーン系エマルジョン、フッ素系エマルジョンから選択される1種以上の化合物
【0020】
[成分(1)]
本発明におけるビニル系−ウレタン系共重合体は、ビニル系重合体鎖部およびウレタン系重合体鎖部を有し、且つビニル系重合体鎖部とウレタン系重合体鎖部とが、珪素原子と酸素原子との結合(シロキサン結合;Si−O結合)を有する連結部(「Si−O結合含有連結部」と称する場合がある)を介して結合している。
【0021】
本発明におけるビニル系−ウレタン系共重合体は、例えば、下記の工程(X)〜(Y)を経て合成することができる。
工程(X):加水分解性珪素原子含有基を有するウレタン系ポリマー(A)の水分散液又は水溶液を調製する工程
工程(Y):加水分解性珪素原子含有基を有するウレタン系ポリマー(A)の水分散液又は水溶液中で、エチレン性不飽和単量体(B)を重合させ、且つ、前記重合の反応前、前記重合の反応中、および前記重合の反応後の何れか1以上の時点で、加水分解性珪素原子含有基に対する反応性官能基であるアルコキシシリル基を有し且つエチレン性不飽和結合含有基に対する反応性官能基を有する化合物(C)を用いて、ビニル系−ウレタン系共重合体を調製する工程
【0022】
前記ビニル系−ウレタン系共重合体におけるSi−O結合含有連結部は、Si−O結合を有していれば、低分子量(又は低分子タイプ)のSi−O結合含有連結部であってもよく、高分子量(又は高分子タイプ)のSi−O結合含有連結部であってもよい。また、Si−O結合含有連結部(特に、高分子量のSi−O結合含有連結部)は、網目状の構造を有していてもよい。また、Si−O結合含有連結部が高分子量のSi−O結合含有連結部(シリコーン系重合体鎖部)となっている場合、1つのシリコーン系重合体鎖部に、複数のウレタン系重合体鎖部、及び/又は、複数のビニル系重合体鎖部が結合していてもよい。さらにまた、逆に、複数のシリコーン系重合体鎖部が、1つのウレタン系重合体鎖部や、1つのビニル系重合体鎖部に結合していてもよい。
【0023】
本発明におけるビニル系−ウレタン系共重合体におけるSi−O結合含有連結部としては、なかでも、皮膜に柔軟性を付与し、被着体に対する密着性を向上させることができる点で、高分子量のSi−O結合含有連結部(シリコーン系重合体鎖部)であることが好ましい。
【0024】
高分子量のSi−O結合含有連結部(シリコーン系重合体鎖部)を有するビニル系−ウレタン系共重合体は、例えば、加水分解性珪素原子含有基を有するウレタン系ポリマー(A)の水分散液又は水溶液中で、アルコキシシリル基を有し且つエチレン性不飽和結合含有基に対する反応性官能基を有する化合物(C)におけるアルコキシシリル基を利用した反応を行った後、さらに、エチレン性不飽和単量体(B)を重合させるとともに、前記化合物(C)におけるエチレン性不飽和結合含有基に対する反応性官能基を利用した反応を行い、これらの反応に並行して、アルコキシシリル基を有し且つエチレン性不飽和結合含有基に対する反応性官能基を有する化合物(C)の加水分解又は縮合反応を行うことによって合成することができる。
【0025】
[ウレタン系ポリマー(A)]
本発明におけるウレタン系ポリマー(A)は、加水分解性珪素原子含有基を有するウレタン系ポリマーである。前記加水分解性珪素原子含有基としては、加水分解性シリル基が好ましい。
【0026】
前記加水分解性シリル基としては、特にアルコキシシリル基が好ましく、該アルコキシシリル基は、1つの珪素原子に、通常、1〜3個(好ましくは2又は3個)のアルコキシ基を有することが好ましい。前記アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブチルオキシ基、s−ブチルオキシ基、t−ブチルオキシ基等のC1-4アルコキシ基(なかでも、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、特にメトキシ基、エトキシ基が好ましい)等を挙げることができる。1つの珪素原子にアルコキシ基を2個以上有する場合、1種のアルコキシ基を有していてもよく、2種以上を組み合わせて有していてもよい。
【0027】
また、ウレタン系ポリマー(A)は、水に対して分散性又は溶解性を有していることが好ましい。そのため、ウレタン系ポリマー(A)は、水に対する分散性又は溶解性を付与することが可能な基を有していることが好ましく、特に、親水性基(アニオン性基、カチオン性基、ノニオン性基等)を有することが好ましい。
【0028】
従って、本発明におけるウレタン系ポリマー(A)としては、親水性基含有アルコキシシリル化ウレタン系ポリマー(A1)を好適に用いることができる。
【0029】
前記親水性基含有アルコキシシリル化ウレタン系ポリマー(A1)は、例えば、親水性基非含有ポリオール化合物(A1-a)、親水性基含有ポリオール化合物(A1-b)、ポリイソシアネート化合物(A1-c)、およびイソシアネート反応性基含有アルコキシシラン化合物(A1-d)を反応することにより合成することができる。
【0030】
(親水性基非含有ポリオール化合物(A1-a))
親水性基非含有ポリオール化合物(A1-a)としては、分子内に親水性基(アニオン性基、カチオン性基やノニオン性基等の親水性基)を有しておらず、かつ分子内に少なくとも2つのヒドロキシル基を有する化合物であれば特に制限されない。
【0031】
親水性基非含有ポリオール化合物(A1-a)としては、例えば、多価アルコール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリオレフィンポリオール、ポリアクリルポリオール、ヒマシ油等を挙げることができる。本発明における親水性基非含有ポリオール化合物(A1-a)としては、なかでも、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオールを好適に用いることができる。
【0032】
前記ポリエーテルポリオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等のポリアルキレングリコールの他、エチレンオキシド−プロピレンオキシド共重合体等のモノマー成分として複数のアルキレンオキシドを含む(アルキレンオキサイド−他のアルキレンオキサイド)共重合体等を挙げることができる。
【0033】
前記ポリエステルポリオールとしては、例えば、多価アルコールと多価カルボン酸との縮合重合物;環状エステル(ラクトン)の開環重合物;多価アルコール、多価カルボン酸及び環状エステルの3種類の成分による反応物等を用いることができる。多価アルコールと多価カルボン酸との縮合重合物における多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−テトラメチレンジオール、1,3−テトラメチレンジオール、2−メチル−1,3−トリメチレンジオール、1,5−ペンタメチレンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサメチレンジオール、3−メチル−1,5−ペンタメチレンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタメチレンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、シクロヘキサンジオール類(1,4−シクロヘキサンジオール等)、ビスフェノール類(ビスフェノールA等)、糖アルコール類(キシリトールやソルビトール等)等を挙げることができる。一方、多価カルボン酸としては、例えば、マロン酸、マレイン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸等の脂肪族ジカルボン酸;1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、パラフェニレンジカルボン酸、トリメリット酸等の芳香族ジカルボン酸等を挙げることができる。また、環状エステルの開環重合物において、環状エステルとしては、例えば、プロピオラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン等を挙げることができる。3種類の成分による反応物において、多価アルコール、多価カルボン酸、環状エステルとしては、前記例示のものを用いることができる。
【0034】
前記ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、多価アルコールとホスゲンとの反応物;環状炭酸エステル(アルキレンカーボネート等)の開環重合物等を挙げることができる。多価アルコールとホスゲンとの反応物における多価アルコールとしては、前記例示の多価アルコールを用いることができる。また、環状炭酸エステルの開環重合物におけるアルキレンカーボネートとしては、例えば、エチレンカーボネート、トリメチレンカーボネート、テトラメチレンカーボネート、ヘキサメチレンカーボネート等を挙げることができる。なお、ポリカーボネートポリオールは、分子内にカーボネート結合を有し、末端がヒドロキシル基である化合物であればよく、カーボネート結合とともにエステル結合を有していてもよい。
【0035】
親水性基非含有ポリオール化合物(A1-a)の分子量は、特に制限されず、低分子量化合物、高分子量化合物のいずれであってもよい。
【0036】
(親水性基含有ポリオール化合物(A1-b))
親水性基含有ポリオール化合物(A1-b)としては、分子内に少なくとも1つの親水性基(アニオン性基、カチオン性基、又はノニオン性基)を有しており、かつ分子内に少なくとも2つのヒドロキシル基を有する化合物であれば特に制限されない。
【0037】
親水性基含有ポリオール化合物(A1-b)における親水性基としては、アニオン性基(例えば、カルボキシル基、スルホ基等)、カチオン性基(例えば、第3級アミノ基(ジ置換アミノ基)等)やノニオン性基(例えば、ポリオキシエチレン鎖、ポリオキシプロピレン鎖、オキシエチレン−オキシプロピレンコポリマー鎖等のポリオキシアルキレン鎖を含有する基等)等を挙げることができる。本発明における親水性基としては、なかでも、カルボキシル基、スルホ基等のアニオン性基が好ましく、特に、カルボキシル基が好ましい。
【0038】
以上より、本発明における親水性基含有ポリオール化合物(A1-b)としては、親水性基がアニオン性基であるアニオン性基含有ポリオール化合物が好ましく、特に、親水性基がカルボキシル基であるカルボキシル基含有ポリオール化合物が好ましい。
【0039】
前記カルボキシル基含有ポリオール化合物としては、カルボキシル基を有する低分子量のポリオールが好ましく、特に、下記式(3)
(HO)aL(COOH)b (3)
(式中、Lは炭素数1〜12の炭化水素部位を示す。aは2以上の整数であり、bは1以上の整数である)
で表されるポリヒドロキシカルボン酸を好適に用いることができる。
【0040】
前記式(3)において、Lの炭化水素部位としては直鎖状又は分岐鎖状の脂肪族炭化水素部位が好ましい。また、a、bは同一であってもよく、異なっていてもよい。2つ以上のヒドロキシル基は、同一の炭素原子に結合していてもよく、異なる炭素原子に結合していてもよい。さらに、bが2以上である場合、2つ以上のカルボキシル基は、同一の炭素原子に結合していてもよく、異なる炭素原子に結合していてもよい。
【0041】
式(3)で表されるポリヒドロキシカルボン酸としては、ジメチロールアルカン酸(なかでも、2,2−ジメチロールアルカン酸)が好ましい。ジメチロールアルカン酸としては、例えば、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸、2,2−ジメチロールペンタン酸、2,2−ジメチロールヘキサン酸、2,2−ジメチロールヘプタン酸、2,2−ジメチロールオクタン酸、2,2−ジメチロールノナン酸、2,2−ジメチロールデカン酸等を挙げることができる。
【0042】
(ポリイソシアネート化合物(A1-c))
ポリイソシアネート化合物(A1-c)は、分子内に少なくとも2つのイソシアネート基を有する化合物であれば特に制限されることがなく、例えば、脂肪族ポリイソシアネート、脂環式ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネート等を挙げることができる。これらは単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0043】
脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、1,3−トリメチレンジイソシアネート、1,4−テトラメチレンジイソシアネ−ト、1,3−ペンタメチレンジイソシアネート、1,5−ペンタメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネ−ト、1,2−プロピレンジイソシアネート、1,2−ブチレンジイソシアネート、2,3−ブチレンジイソシアネート、1,3−ブチレンジイソシアネート、2−メチル−1,5−ペンタメチレンジイソシアネート、3−メチル−1,5−ペンタメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチル−1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、2,6−ジイソシアネートメチルカプロエート、リジンジイソシアネ−ト等の脂肪族ジイソシアネート等を挙げることができる。
【0044】
脂環式ポリイソシアネートとしては、例えば、1,3−シクロペンタンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、1,3−シクロヘキサンジイソシアネート、3−イソシアネートメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチル−2,4−シクロヘキサンジイソシアネート、メチル−2,6−シクロヘキサンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、イソホロンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネート等を挙げることができる。
【0045】
芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、m−フェニレンジイソシアネ−ト、p−フェニレンジイソシアネ−ト、2,4−トリレンジイソシアネ−ト、2,6−トリレンジイソシアネ−ト、ナフチレン−1,4−ジイソシアネ−ト、ナフチレン−1,5−ジイソシアネ−ト、4,4’−ジフェニルジイソシアネ−ト、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネ−ト、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネ−ト、4,4’−ジフェニルエ−テルジイソシアネ−ト、2−ニトロジフェニル−4,4’−ジイソシアネ−ト、2,2’−ジフェニルプロパン−4,4’−ジイソシアネ−ト、3,3’−ジメチルジフェニルメタン−4,4’−ジイソシネ−ト、4,4’−ジフェニルプロパンジイソシアネ−ト、3,3’−ジメトキシジフェニル−4,4’−ジイソシアネ−ト等の芳香族ジイソシアネート等を挙げることができる。
【0046】
芳香脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、1,3−キシリレンジイソシアネ−ト、1,4−キシリレンジイソシアネ−ト、ω,ω’−ジイソシアネート−1,4−ジエチルベンゼン、1,3−ビス(1−イソシアネート−1−メチルエチル)ベンゼン、1,4−ビス(1−イソシアネート−1−メチルエチル)ベンゼン、1,3−ビス(α,α−ジメチルイソシアネートメチル)ベンゼン等の芳香脂肪族ジイソシアネート等を挙げることができる。
【0047】
また、ポリイソシアネート化合物(A1-c)としては、前記例示の脂肪族ポリイソシアネ−ト、脂環式ポリイソシアネ−ト、芳香族ポリイソシアネ−ト、芳香脂肪族ポリイソシアネ−トによる二量体や三量体、反応生成物又は重合物(例えば、ジフェニルメタンジイソシアネートの二量体や三量体、トリメチロールプロパンとトリレンジイソシアネートとの反応生成物、トリメチロールプロパンとヘキサメチレンジイソシアネートとの反応生成物、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート、ポリエーテルポリイソシアネート、ポリエステルポリイソシアネート等)等も用いることができる。また、本発明では、ポリイソシアネート化合物(A1-c)とともに、ジイソチオシアネート系化合物(例えば、フェニルジイソチオシアネート等)を併用することができる。
【0048】
本発明におけるポリイソシアネート化合物(A1-c)としては、なかでも、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネ−ト、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、イソホロンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネ−ト、2,6−トリレンジイソシアネ−ト、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネ−ト、1,3−キシリレンジイソシアネ−ト、1,4−キシリレンジイソシアネ−ト、ノルボルナンジイソシアネート、1,3−ビス(α,α−ジメチルイソシアネートメチル)ベンゼンを好適に用いることができる。なお、ポリイソシアネート化合物(A1-c)として、脂肪族ポリイソシアネート、脂環式ポリイソシアネートや芳香脂肪族ポリイソシアネートを用いると、変色の少ない樹脂を得ることができる点で好ましい。
【0049】
(イソシアネート反応性基含有アルコキシシラン化合物(A1-d))
イソシアネート反応性基含有アルコキシシラン化合物(A1-d)としては、分子内に少なくとも1つのイソシアネート反応性基を有しており、且つ分子内に少なくとも1つのアルコキシ基を有するシラン化合物であれば特に制限されない。
【0050】
イソシアネート反応性基としては、イソシアネート基に対して反応性を有している基であれば特に制限されず、例えば、第1級アミノ基(無置換アミノ基)、第2級アミノ基(モノ置換アミノ基)、メルカプト基、ヒドロキシル基等を挙げることができる、本発明においては、なかでも第1級又は第2級アミノ基、メルカプト基が好ましい。従って、本発明におけるイソシアネート反応性基含有アルコキシシラン化合物(A1-d)としては、第1級又は第2級アミノ基含有アルコキシシラン化合物(A1-d1)、メルカプト基含有アルコキシシラン化合物(A1-d2)が好ましい。
【0051】
前記第1級又は第2級アミノ基含有アルコキシシラン化合物(A1-d1)としては、分子内に少なくとも1つの第1級又は第2級アミノ基を有しており、且つ分子内に少なくとも1つのアルコキシ基を有するシラン化合物であれば特に制限されない。第1級又は第2級アミノ基含有アルコキシシラン(A1-d1)は、第3級アミノ基を含有していてもよい。
【0052】
さらに、第1級又は第2級アミノ基は珪素原子に直接結合していてもよいが、2価の基を介して結合していることが好ましい。このような2価の基としては、例えば、アルキレン基、アリレン基、アルキレン−アリレン基、アルキレン−アリレン−アルキレン基等の炭化水素基のみにより構成される2価の炭化水素基;アルキレン−オキシ−アルキレン基、アルキレン−カルボニル−オキシ−アルキレン基、アルキレン−オキシ−カルボニル−アルキレン基、アルキレン−ポリ(オキシアルキレン)基等の炭化水素基と他の基(オキシ基、カルボニル−オキシ基等)との種々の組み合わせにより構成される各種の2価の基等を挙げることができる。
【0053】
本発明における第1級又は第2級アミノ基含有アルコキシシラン化合物(A1-d1)としては、下記式(1a)、(1b)、(1c)
【化1】

(式中、R1、R2は、同一又は異なって、置換基を有していてもよいアルキル基を示し、R3、R4は、同一又は異なって、置換基を有していてもよいアルキレン基を示し、R5は置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアルキル基又は置換基を有していてもよいシクロアルキル基を示す。また、mは1〜3の整数である。mが1である場合、2個のR2は同一であってもよく、異なっていてもよい。mが2以上の整数である場合、2個以上のR1O−基は同一であってもよく、異なっていてもよい)
で表される化合物を使用することが好ましい。
【0054】
上記式(1a)、(1b)、(1c)中のR1、R2、R5におけるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基等の炭素数1〜4程度のアルキル基等を挙げることができる。R3、R4におけるアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基等の炭素数1〜3程度のアルキレン基等を挙げることができる。R5におけるアリール基としては、例えば、フェニル基等を挙げることができ、シクロアルキル基としては、例えば、シクロヘキシル基等を挙げることができる。
【0055】
また、R1〜R5が有していてもよい置換基としては、例えば、フェニル基等のアリール基;メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基等を挙げることができる。また、該炭化水素基は、さらに他の置換基(例えば、アルコキシ基、アリールオキシ基、シクロアルキルオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、シクロアルキルオキシカルボニル基、アシル基、アミノ基等)を有していてもよい。
【0056】
式(1a)で表されるイソシアネート反応性基として第1級アミノ基のみを有しているアミノ基含有アルコキシシランとしては、例えば、アミノメチルトリメトキシシラン、アミノメチルトリエトキシシラン、β−アミノエチルトリメトキシシラン、β−アミノエチルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリプロポキシシラン、γ−アミノプロピルトリイソプロポキシシラン、γ−アミノプロピルトリブトキシシラン等のアミノアルキルトリアルコキシシラン;β−アミノエチルメチルジメトキシシラン、β−アミノエチルメチルジエトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジプロポキシシラン等の(アミノアルキル)アルキルジアルコキシシランやこれらに対応するアミノアルキルジアルキル(モノ)アルコキシシラン等を挙げることができる。
【0057】
式(1b)で表されるイソシアネート反応性基として第1級アミノ基及び第2級アミノ基を有しているアミノ基含有アルコキシシランとしては、例えば、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等のN−(アミノアルキル)アミノアルキルトリアルコキシシラン;N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン等のN−(アミノアルキル)アミノアルキルアルキルジアルコキシシラン等を挙げることができる。
【0058】
式(1c)で表されるイソシアネート反応性基として第2級アミノ基のみを有しているアミノ基含有アルコキシシランとしては、例えば、N−フェニル−β−アミノエチルトリメトキシシラン、N−フェニル−β−アミノエチルトリエトキシシラン等のN−フェニル−β−アミノエチルトリアルコキシシラン;N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリプロポキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリブトキシシラン等のN−フェニル−γ−アミノプロピルトリアルコキシシランや、これらに対応するN−フェニルアミノアルキル(モノ又はジ)アルキル(ジ又はモノ)アルコキシシラン;N−メチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−エチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−n−プロピル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−n−ブチル−アミノメチルトリメトキシシラン、N−n−ブチル−2−アミノエチルトリメトキシシラン、N−n−ブチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−n−ブチル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−n−ブチル−3−アミノプロピルトリプロポキシシラン等)や、N−アルキルアミノアルキル(モノ又はジ)アルキル(ジ又はモノ)アルコキシシラン等のN−アルキルアミノアルキルトリアルコキシシラン等を挙げることができる。
【0059】
前記メルカプト基含有アルコキシシラン化合物(A1-d2)としては、分子内に少なくとも1つのメルカプト基を有しており、かつ分子内に少なくとも1つのアルコキシ基を有するシラン化合物であれば特に制限されない。
【0060】
さらに、メルカプト基は珪素原子に直接結合していてもよいが、2価の基を介して結合していることが好ましい。このような2価の基としては、第1級又は第2級アミノ基含有アルコキシシラン(A1-d1)において第1級又は第2級アミノ基と珪素原子が介して結合していてもよい2価の基と同様の例を挙げることができる。
【0061】
本発明におけるメルカプト基含有アルコキシシラン化合物(A1-d2)としては、特に、下記式(2a)
【化2】

(式中、R1、R2、R3、mは前記に同じ)
で表される化合物を使用することが好ましい。
【0062】
式(2a)で表されるイソシアネート反応性基としてメルカプト基を有しているアルコキシシランとしては、例えば、メルカプトメチルトリメトキシシラン、メルカプトメチルトリエトキシシラン、β−メルカプトエチルトリメトキシシラン、β−メルカプトエチルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリプロポキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリイソプロポキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリブトキシシラン等のメルカプトアルキルトリアルコキシシラン;β−メルカプトエチルメチルジメトキシシラン、β−メルカプトエチルメチルジエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジプロポキシシラン等の(メルカプトアルキル)アルキルジアルコキシシランやこれらに対応するメルカプトアルキルジアルキル(モノ)アルコキシシラン等を挙げることができる。
【0063】
本発明におけるイソシアネート反応性基含有アルコキシシラン化合物(A1-d)としては、反応がし易く、広く市販され入手がし易い点等から、第1級又は第2級アミノ基含有アルコキシシラン化合物(A1-d1)が好ましい。
【0064】
第1級又は第2級アミノ基含有アルコキシシラン化合物(A1-d1)には、商品名「KBM602」、「KBM6063」、同「X−12−896」、同「KBM576」、同「X−12−565」、同「X−12−580」、同「X−12−5263」、同「X−12−666」、同「KBM6123」、同「X−12−575」、同「X−12−577」、同「X−12−563B」、同「X−12−730」、同「X−12−562」、同「X−12−5202」、同「X−12−5204」、同「KBE9703」(以上、信越化学工業社製)等の市販品を使用してもよい。
【0065】
さらにまた、本発明におけるイソシアネート反応性基含有アルコキシシラン化合物(A1-d)としては、第1級又は第2級アミノ基含有アルコキシシラン化合物(A1-d1)に、不飽和カルボン酸エステル(A3)を反応させて得られる、少なくともイソシアネート反応性基として第2級アミノ基を含有するエステル変成アミノ基含有アルコキシシラン(A1-d3)を使用してもよい。
【0066】
前記不飽和カルボン酸エステル(A3)としては、カルボン酸基(カルボキシル基)のうち少なくとも1つ(好ましくは全て)がエステルの形態となっている化合物であれば特に制限されることがなく、不飽和1価カルボン酸エステルであってもよく、不飽和多価カルボン酸エステルであってもよい。
【0067】
本発明における不飽和カルボン酸エステル(A3)としては、下記式(3)
【化3】

(式中、R6、R8は、同一又は異なって、水素原子又はアルキル基を示す。R7はアルキル基、アリール基、シクロアルキル基から選択された基を示す。R9は水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、シクロアルキルオキシカルボニル基から選択された基を示す)
で表される化合物が好ましい。
【0068】
式(3)中、R6におけるアルキル基としては、例えば、メチル、エチル基等の炭素数1〜2程度のアルキル基等を挙げることができる。
【0069】
7におけるアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、イソブチル、t−ブチル、ヘキシル、オクチル、2−エチルヘキシル基等の炭素数1〜20程度のアルキル基を挙げることができる。R7におけるアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられ、R7におけるシクロアルキル基としては、例えば、シクロヘキシル基等を挙げることができる。
【0070】
8におけるアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、イソブチル、t−ブチル、ヘキシル基等の炭素数1〜6程度のアルキル基を挙げることができる。
【0071】
9におけるアルキル基としては、例えば、メチル、エチル基等の炭素数1〜2程度のアルキル基等を挙げることができ、アリール基としては、例えば、フェニル基を挙げることができ、また、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、シクロアルキルオキシカルボニル基のアルキル基部位、アリール基部位、シクロアルキル基部位としては、前記R7で例示のアルキル基、アリール基、シクロアルキル基と同様の例を挙げることができる。
【0072】
上記式(3)で表される化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル、クロトン酸エステル、イソクロトン酸エステル、2−ブテン酸エステル、3−メチル−2−ブテン酸エステル、2−ペンテン酸エステル、2−オクテン酸エステル等の他、桂皮酸エステル等の不飽和1価カルボン酸エステル;マレイン酸エステル(モノ又はジエステル)、フマル酸エステル(モノ又はジエステル)、イタコン酸エステル(モノ又はジエステル)等の不飽和2価カルボン酸のエステル等を挙げることができる。本発明においては、なかでも(メタ)アクリル酸エステル、マレイン酸ジエステルが好ましい。
【0073】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル等を挙げることができる。また、マレイン酸ジエステルとしては、例えば、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル、マレイン酸ジヘキシル、マレイン酸ジオクチル、マレイン酸ジ(2−エチルヘキシル)、マレイン酸ジドデシル、マレイン酸ジオクタデシル等のマレイン酸ジアルキルエステル等を挙げることができる。
【0074】
本発明におけるエステル変成アミノ基含有アルコキシシラン(A1-d3)としては、第1級アミノ基含有アルコキシシランにおけるアミノ基の窒素原子が、不飽和カルボン酸エステル(A3)の不飽和結合(炭素−炭素二重結合)に対してマイケル付加反応を行うことにより得られる化合物であって、不飽和カルボン酸エステル(A3)の炭素−炭素二重結合におけるβ位の炭素原子が、第1級アミノ基含有アルコキシシランにおけるアミノ基の窒素原子に結合した化合物であることが好ましい。
【0075】
第1級アミノ基含有アルコキシシランが前記式(1a)で表される化合物であるエステル変成アミノ基含有アルコキシシラン(A1-d3)としては、下記式(3a)
【化4】

(式中、R1〜R3、R6〜R9及びmは前記に同じ)
で表される化合物が好ましい。
【0076】
また、第1級アミノ基含有アルコキシシランが前記式(1b)で表される化合物であるエステル変成アミノ基含有アルコキシシラン(A1-d3)としては、下記式(3b)又は下記式(3c)
【化5】

(式(3b)及び(3c)中、R1〜R4、R6〜R9及びmは前記に同じ)
で表される化合物が好ましい。
【0077】
本発明における親水性基含有アルコキシシリル化ウレタン系ポリマー(A1)は、前述のように、親水性基非含有ポリオール化合物(A1-a)、親水性基含有ポリオール化合物(A1-b)、ポリイソシアネート化合物(A1-c)、イソシアネート反応性基含有アルコキシシラン(A1-d)の反応生成物であり、分子内に親水性基含有ポリオール化合物(A1-b)に由来する親水性基(特に、アニオン性基)と、分子内に(特に主鎖の末端に)イソシアネート反応性基含有アルコキシシラン(A1-d)に由来するアルコキシシリル基とを有するウレタンプレポリマーであることが好ましく、なかでも、親水性基非含有ポリオール化合物(A1-a)、親水性基含有ポリオール化合物(A1-b)、およびポリイソシアネート化合物(A1-c)の反応により得られる親水性基含有ウレタンプレポリマーと、イソシアネート反応性基含有アルコキシシラン(A1-d)との反応により、前記親水性基含有ウレタンプレポリマーの末端のイソシアネート基が少なくとも部分的にアルコキシシリル化されて得られる末端アルコキシシリル化親水性基含有ウレタンプレポリマーであることが好ましい。
【0078】
親水性基非含有ポリオール化合物(A1-a)、親水性基含有ポリオール化合物(A1-b)、およびポリイソシアネート化合物(A1-c)の反応は、ポリオール化合物とポリイソシアネート化合物とを反応させてウレタンプレポリマーを調製する公知乃至慣用の方法に準じて行うことができる。この反応には、反応促進のために重合触媒を用いることができる。
【0079】
また、親水性基含有ウレタンプレポリマーと、イソシアネート反応性基含有アルコキシシラン(A1-d)との反応は、両者を混合し、必要に応じて加熱することにより行うことができる。このような親水性基含有ウレタンプレポリマーと、イソシアネート反応性基含有アルコキシシラン(A1-d)との反応により、前記親水性基含有ウレタンプレポリマーの末端のイソシアネート基が少なくとも部分的にアルコキシシリル化されて、末端アルコキシシリル化親水性基含有ウレタンプレポリマーを調製することができる。この反応には、反応促進のために重合触媒を用いることができる。
【0080】
前記重合触媒としては、例えば、有機錫化合物、金属錯体、アミン化合物等の塩基性化合物、有機燐酸化合物等を使用することができる。有機錫化合物としては、例えば、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫マレート、ジブチル錫フタレート、オクチル酸第一錫、ジブチル錫メトキシド、ジブチル錫ジアセチルアセテート、ジブチル錫ジバーサテート等を挙げることができる。また、金属錯体としては、テトラブチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、トリエタノールアミンチタネート等のチタネート化合物類;オクチル酸鉛、ナフテン酸鉛、ナフテン酸ニッケル、ナフテン酸コバルト等のカルボン酸金属塩;アルミニウムアセチルアセトナート錯体、バナジウムアセチルアセトナート錯体等の金属アセチルアセトナート錯体等を挙げることができる。さらに、アミン化合物等の塩基性化合物としては、例えば、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノシラン類;テトラメチルアンモニウムクロライド、ベンザルコニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩類;三共エアプロダクツ社製の商品名「DABCO」シリーズや「DABCO BL」シリーズ、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセ−7−エン等の複数の窒素原子を含む直鎖或いは環状の第三級アミン又は第四級アンモニウム塩等を挙げることができる。さらにまた、有機燐酸化合物としては、例えば、モノメチル燐酸、ジ−n−ブチル燐酸、燐酸トリフェニル等を挙げることができる。
【0081】
親水性基含有アルコキシシリル化ウレタン系ポリマー(A1)における親水性基非含有ポリオール化合物(A1-a)、親水性基含有ポリオール化合物(A1-b)、ポリイソシアネート化合物(A1-c)、イソシアネート反応性基含有アルコキシシラン(A1-d)の各成分の割合は特に制限されることがなく、例えば、ポリイソシアネート化合物(A1-c)と、親水性基非含有ポリオール化合物(A1-a)および親水性基含有ポリオール化合物(A1-b)との割合としては、ポリイソシアネート化合物(A1-c)におけるイソシアネート基/親水性基非含有ポリオール化合物(A1-a)および親水性基含有ポリオール化合物(A1-b)におけるヒドロキシル基(NCO/OH)(当量比)が、1.0より大きく2.0以下(好ましくは1.02〜1.50、さらに好ましくは1.05〜1.40)となるような範囲から選択することができる。該NCO/OHの比が大きすぎると(例えば、2.0(当量比)を越えると)、分散性が低下する傾向がある。一方、該NCO/OHの比が小さすぎると(例えば、1以下(当量比)であると)、シリル基導入が充分にできなくなり、防汚性が低下する傾向がある。
【0082】
また、ポリイソシアネート化合物(A1-c)は、親水性基含有アルコキシシリル化ウレタン系ポリマー(A1)中のイソシアネート基の含有量が、0.3〜7.0質量%(好ましくは0.4〜4.0質量%、さらに好ましくは0.5〜3.0質量%)となるような割合で含まれていることが好ましい。イソシアネート基の含有量は、多すぎると(例えば、7.0質量%を越えると)、分散性が低下する傾向がある。一方、イソシアネート基の含有量が、少なすぎると(例えば、0.3質量%未満であると)、反応時間が非常に長くなり、さらに、シリル基導入が充分にできなくなり、防汚性が低下する傾向がある。
【0083】
さらにまた、親水性基含有ポリオール化合物(A1-b)は、親水性基がアニオン性基である場合、親水性基含有アルコキシシリル化ウレタン系ポリマー(A1)[すなわち、アニオン性基含有アルコキシシリル化ウレタン系ポリマー]中のアニオン性基の含有量が、0.4meq/g以上(例えば、0.4〜0.7meq/g、好ましくは0.4〜0.6meq/g)となるような割合で含まれていることが好ましい。該アニオン性基の含有量が多すぎると、防汚性が低下する傾向がある。一方、該アニオン性基の含有量が少なすぎると(例えば、0.4meq/g未満であると)、分散安定性が低下する傾向がある。
【0084】
また、イソシアネート反応性基含有アルコキシシラン(A1-d)は、親水性基含有アルコキシシリル化ウレタン系ポリマー(A1)中の珪素原子の含有量が、例えば、0.02〜10質量%(好ましくは0.03〜3質量%、さらに好ましくは0.05〜2質量%)となるような割合で含まれていることが好ましい。該珪素原子の含有量が多すぎると(例えば、10質量%を超えると)、得られた組成物の安定性が低下する傾向がある。一方、少なすぎると(例えば、0.02質量%未満であると)、効率的に2元、もしくは3元共重合体が形成されず、防汚性が低下する傾向がある。
【0085】
なお、不飽和カルボン酸エステル(A3)が用いられている場合、その使用量は、エステル変成アミノ基含有アルコキシシラン(A1-d3)が、少なくとも第2級アミノ基を1つ残す量であることが好ましい。例えば、第1級アミノ基含有アルコキシシランにおける第1級アミノ基1モルに対して0.8〜2.0モル程度の範囲から選択することができる。
【0086】
ウレタン系ポリマー(A)の調製には溶媒を使用してもよく、使用しなくともよい。溶媒としては、特に制限されず、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;N−メチルピロリドン等のピロリドン類等の有機溶媒を用いることができる。このように、溶媒として、有機溶媒を用いた場合、ウレタン系ポリマー(A)を調製した後に、公知の除去方法(例えば、減圧蒸留方法等の蒸留方法等)により、有機溶媒を反応混合物から除去することができる。
【0087】
[エチレン性不飽和単量体(B)]
本発明におけるエチレン性不飽和単量体(B)は、分子中にエチレン性不飽和結合含有基を少なくとも1つ含有している単量体であれば特に制限されない。エチレン性不飽和単量体(B)は単独で又は2種以上組み合わせて有していてもよい。
【0088】
エチレン性不飽和結合含有基としては、例えば、ビニル基や、1−メチルビニル基(イソプロペニル基)、1−エチルビニル基等の1−アルキルビニル基等(なかでも、ビニル基やイソプロペニル基が好ましく、特にビニル基が好ましい)を挙げることができる。
【0089】
本発明におけるエチレン性不飽和単量体(B)としては、例えば、アクリル系単量体、カルボキシル基含有単量体、酸無水物基含有単量体、ヒドロキシル基含有単量体、エポキシ基含有単量体、アミノ基含有単量体、シアノ基含有単量体、スチレン系単量体、オレフィン系単量体、ビニルエステル類、ビニルエーテル類、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキル系単量体、(N−置換)アクリルアミド系単量体、N−ビニルラクタム類、複素環含有ビニル系単量体、(メタ)アクリル酸アルキレングリコール系単量体、スルホン酸基含有ビニル系単量体、リン酸基含有ビニル系単量体、ハロゲン原子含有ビニル系単量体や、多官能系単量体等各種のエチレン性不飽和単量体(重合性不飽和単量体)から適宜選択して用いることができる。本発明におけるエチレン性不飽和単量体(B)としては、なかでも、耐水性、耐熱性、及び耐候性に優れた皮膜を形成することができる点で、少なくともアクリル系単量体が含まれていることが好ましい。
【0090】
アクリル系単量体としては、アクリル酸エステルやメタクリル酸エステル[(メタ)アクリル酸エステル]等を挙げることができる。該(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル、(メタ)アクリル酸アリールエステル等が含まれる。
【0091】
前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸s−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル、(メタ)アクリル酸ペンタデシル、(メタ)アクリル酸ヘキサデシル、(メタ)アクリル酸ヘプタデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸ノナデシル、(メタ)アクリル酸エイコシル等の(メタ)アクリル酸C1-20アルキルエステル[好ましくは(メタ)アクリル酸C1-6アルキルエステル、さらに好ましくは(メタ)アクリル酸C1-4アルキルエステル]等を挙げることができる。
【0092】
また、(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等が含まれる。(メタ)アクリル酸アリールエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸フェニルエステル等を挙げることができる。
【0093】
本発明におけるエチレン性不飽和単量体(B)としては、上記アクリル系単量体とともに、アクリル系単量体と共重合が可能なエチレン性不飽和単量体(共重合性不飽和単量体)を用いることが望ましい。このような共重合性不飽和単量体としては、公知乃至慣用の共重合性不飽和単量体を用いることができる。共重合性不飽和単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸の他、カルボキシアルキル(メタ)アクリレート(カルボキシエチルアクリレート等)等のカルボキシル基含有単量体;無水マレイン酸、無水イコタン酸等の酸無水物基含有単量体;(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシオクチル等のヒドロキシル基含有単量体;(メタ)アクリル酸グリシジル等のエポキシ基含有単量体;(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸t−ブチルアミノエチル等のアミノ基含有単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアノ基含有単量体;スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン系単量体;エチレン、プロピレン、イソプレン、ブタジエン、イソブチレン等のオレフィン系単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル等の(メタ)アクリル酸アルコキシアルキル系単量体;(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−メチロールプロパン(メタ)アクリルアミド等の(N−置換)アクリルアミド系単量体;N−ビニルカルボン酸アミド類;N−ビニルカプロラクタム等のN−ビニルラクタム類;N−ビニルピリジン、N−ビニルピリミジン、N−ビニルピラジン、N−ビニルピロール、N−ビニルイミダゾール、N−ビニルピロリドン、N−(1−メチルビニル)ピロリドン、N−ビニルピペリドン、N−ビニルピペラジン、N−ビニルオキサゾール、N−ビニルモルホリン等の複素環含有ビニル系単量体;(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコール、(メタ)アクリル酸メトキシエチレングリコール、(メタ)アクリル酸メトキシポリプロピレングリコール等の(メタ)アクリル酸アルキレングリコール系単量体;スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸等のスルホン酸基含有ビニル系単量体;2−ヒドロキシエチルアクリロイルホスフェート等のリン酸基含有ビニル系単量体;塩化ビニル等のハロゲン原子含有ビニル系単量体等を挙げることができる。これらは単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0094】
また、共重合性不飽和単量体としては、例えば、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、ウレタンアクリレート、ジビニルベンゼン、ブチルジ(メタ)アクリレート、ヘキシルジ(メタ)アクリレート等の各種多官能系単量体も適宜選択して用いることができる。これらは単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0095】
[化合物(C)]
化合物(C)としては、エチレン性不飽和結合含有基に対する反応性官能基(「不飽和結合反応性基」と称する場合がある)を分子中に少なくとも1つ有し、且つ、加水分解性珪素原子含有基に対する反応性官能基としてアルコキシシリル基を分子中に少なくとも1つ有する化合物が好ましい。化合物(C)は単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0096】
化合物(C)における不飽和結合反応性基としては、エチレン性不飽和結合を含有する基に対して反応性を有する官能基であれば特に制限されることがなく、例えば、エチレン性不飽和結合含有基、メルカプト基等を挙げることができる。
【0097】
不飽和結合反応性基としてのエチレン性不飽和結合含有基としては、エチレン性不飽和結合を含有する基であれば特に制限されることがなく、例えば、ビニル基や、1−メチルビニル基(イソプロペニル基)、1−エチルビニル基等の1−アルキルビニル基等を挙げることができ、ビニル基やイソプロペニル基(特にビニル基)が好ましい。
【0098】
アルコキシシリル基におけるアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブチルオキシ基、s−ブチルオキシ基、t−ブチルオキシ基等のC1-4アルコキシ基が好ましく、特にメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基(なかでもメトキシ基、エトキシ基)が好ましい。
【0099】
このようなアルコキシ基は、1つの珪素原子に、通常、1〜3個(好ましくは2又は3個)結合していることが好ましく、アルコキシ基を2個以上有する場合、1種のアルコキシ基を有していてもよく、2種以上を組み合わせて有していてもよい。
【0100】
アルコキシシリル基としては、具体的には、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、トリプロポキシシリル基、トリイソプロポキシシリル基、トリブトキシシリル基、トリイソブトキシシリル基、トリs−ブトキシシリル基、トリt−ブトキシシリル基等のトリアルコキシシリル基;メチルジメトキシシリル基、メチルジエトキシシリル基、メチルジプロポキシシリル基、メチルジブトキシシリル基、エチルジメトキシシリル基、エチルジエトキシシリル基、エチルジプロポキシシリル基、エチルジブトキシシリル基、プロピルジメトキシシリル基、プロピルジエトキシシリル基、プロピルジプロポキシシリル基、プロピルジブトキシシリル基等のアルキルジアルコキシシリル基やこれらに対応するジアルキル(モノ)アルコキシシリル基等を挙げることができる。また、これらのアルキルジアルコキシシリル基やジアルキル(モノ)アルコキシシリル基のアルキル基が水素原子となっているものに相当するジアルコキシシリル基やアルコキシシリル基等を挙げることができる。さらにまた、前記トリアルコキシシリル基、アルキルジアルコキシシリル基やジアルキル(モノ)アルコキシシリル基が加水分解されて、少なくとも1つのアルコキシル基がヒドロキシル基となっているものに相当するヒドロキシル基含有シリル基等を挙げることができる。
【0101】
本発明における化合物(C)としては、前記不飽和結合反応性基とアルコキシシリル基とが2価の有機基を介して又は介さずに結合している化合物を挙げることができる。前記2価の有機基としては、例えば、アルキレン基、アリレン基、アルキレン−アリレン基、アルキレン−アリレン−アルキレン基等の炭化水素基のみにより構成される2価の炭化水素基;2価の炭化水素基と2価の他の基[例えば、オキシ基、カルボニル基、カルボニル−オキシ基、オキシ−カルボニル基、オキシ−カルボニル−オキシ基、チオオキシ基、チオカルボニル基、チオカルボニル−オキシ基、カルボニル−チオオキシ基、オキシ−チオカルボニル−オキシ基、チオオキシ−カルボニル−チオオキシ基、アミド結合含有基(−NHCO−基や−CONH−基等)、イミド結合含有基(−CONHCO−基)、ウレタン結合含有基(−NHCOO−基や−OCONH−基等)、ウレア結合含有基(−NHCONH−基;尿素結合含有基)等]との種々の組み合わせにより構成される各種の2価の有機基(例えば、アルキレン−オキシ−アルキレン基、アルキレン−カルボニル−オキシ−アルキレン基、アルキレン−オキシ−カルボニル−アルキレン基、オキシ−アルキレン基、カルボニル−オキシ−アルキレン基、オキシ−カルボニル−アルキレン基、オキシ−アリレン基、カルボニル−オキシ−アリレン基、オキシ−カルボニル−アリレン基、アルキレン−オキシ−カルボニル−アリレン−カルボニル−オキシ−アルキレン基等)等を挙げることができる。
【0102】
本発明における不飽和結合反応性基がエチレン性不飽和結合含有基(特に、ビニル基)である場合の化合物(C)の具体例としては、ビニル基が、直接アルコキシシリル基における珪素原子に結合している場合、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリプロポキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリブトキシシラン等のビニルトリアルコキシシラン;ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルメチルジプロポキシシラン、ビニルメチルジイソプロポキシシラン、ビニルメチルジブトキシシラン、ビニルエチルジメトキシシラン、ビニルエチルジエトキシシラン、ビニルエチルジプロポキシシラン、ビニルエチルジイソプロポキシシラン、ビニルエチルジブトキシシラン、ビニルプロピルジメトキシシラン、ビニルプロピルジエトキシシラン、ビニルプロピルジプロポキシシラン、ビニルプロピルジイソプロポキシシラン、ビニルプロピルジブトキシシラン等の(ビニル)アルキルジアルコキシシランや、これらに対応する(ビニル)ジアルキル(モノ)アルコキシシラン等を挙げることができる。
【0103】
また、ビニル基がアルキレン基を介して、アルコキシシリル基における珪素原子に結合している場合、ビニルメチルトリメトキシシラン、ビニルメチルトリエトキシシラン、β−ビニルエチルトリメトキシシラン、β−ビニルエチルトリエトキシシラン、β−ビニルエチルトリプロポキシシラン、β−ビニルエチルトリイソプロポキシシラン、β−ビニルエチルトリブトキシシラン、γ−ビニルプロピルトリメトキシシラン、γ−ビニルプロピルトリエトキシシラン、γ−ビニルプロピルトリプロポキシシラン、γ−ビニルプロピルトリイソプロポキシシラン、γ−ビニルプロピルトリブトキシシラン等のビニルアルキルトリアルコキシシラン;β−ビニルエチルメチルジメトキシシラン、β−ビニルエチルメチルジエトキシシラン、γ−ビニルプロピルメチルジメトキシシラン、γ−ビニルプロピルメチルジエトキシシラン、γ−ビニルプロピルメチルジプロポキシシラン、γ−ビニルプロピルメチルジイソプロポキシシラン、γ−ビニルプロピルメチルジブトキシシラン、γ−ビニルプロピルエチルジメトキシシラン、γ−ビニルプロピルエチルジエトキシシラン、γ−ビニルプロピルエチルジプロポキシシラン、γ−ビニルプロピルエチルジイソプロポキシシラン、γ−ビニルプロピルエチルジブトキシシラン等の(ビニルアルキル)アルキルジアルコキシシランや、これらに対応する(ビニルアルキル)ジアルキル(モノ)アルコキシシラン等を挙げることができる。
【0104】
さらにまた、ビニル基がカルボニルオキシアルキレン基を介して、アルコキシシリル基における珪素原子に結合している場合、(メタ)アクリロイルオキシメチル−トリメトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシメチル−トリエトキシシラン、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−トリメトキシシラン、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−トリエトキシシラン、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−トリプロポキシシラン、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−トリイソプロポキシシシラン、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−トリブトキシシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−トリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−トリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−トリプロポキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−トリイソプロポキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−トリブトキシシラン等の(メタ)アクリロイルオキシアルキル−トリアルコキシシラン;(メタ)アクリロイルオキシメチル−メチルジメトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシメチル−メチルジエトキシシラン、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−メチルジメトキシシラン、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−メチルジエトキシシラン、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−メチルジプロポキシシラン、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−メチルジイソプロポキシシラン、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−メチルジブトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−メチルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−メチルジエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−メチルジプロポキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−メチルジイソプロポキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−メチルジブトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−エチルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−エチルジエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−エチルジプロポキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−エチルジイソプロポキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−エチルジブトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−プロピルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−プロピルジエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−プロピルジプロポキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−プロピルジイソプロポキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル−プロピルジブトキシシラン等の(メタ)アクリロイルオキシアルキル−アルキルジアルコキシシランや、これらに対応する(メタ)アクリロイルオキシアルキル−ジアルキル(モノ)アルコキシシラン等を挙げることができる。
【0105】
また、不飽和結合反応性基がメルカプト基である場合の化合物(C)の具体例としては、メルカプトメチルトリメトキシシラン、メルカプトメチルトリエトキシシラン、β−メルカプトエチルトリメトキシシラン、β−メルカプトエチルトリエトキシシラン、β−メルカプトエチルトリプロポキシシラン、β−メルカプトエチルトリイソプロポキシシラン、β−メルカプトエチルトリブトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリプロポキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリイソプロポキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリブトキシシラン等のメルカプトアルキルトリアルコキシシラン;β−メルカプトエチルメチルジメトキシシラン、β−メルカプトエチルメチルジエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジプロポキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジイソプロポキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジブトキシシラン、γ−メルカプトプロピルエチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルエチルジエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルエチルジプロポキシシラン、γ−メルカプトプロピルエチルジイソプロポキシシラン、γ−メルカプトプロピルエチルジブトキシシラン等の(メルカプトアルキル)アルキルジアルコキシシランや、これらに対応する(メルカプトアルキル)ジアルキル(モノ)アルコキシシラン等を挙げることができる。
【0106】
ビニル系−ウレタン系共重合体において、ウレタン系ポリマー(A)、エチレン性不飽和単量体(B)、および化合物(C)の各成分の割合としては、特に制限されることがなく用途に応じて適宜調整することができ、例えば、ウレタン系ポリマー(A)と、化合物(C)との割合としては、ウレタン系ポリマー(A)における加水分解性珪素原子含有基/化合物(C)におけるアルコキシシリル基(当量比)が、0.01より大きく20以下(好ましくは0.05〜10)となるような範囲から選択することができる。加水分解性珪素原子含有基/アルコキシシリル基が0.01以下であると、化合物(C)由来のアルコキシシリル基同士の縮合により系の安定性が低下する傾向がある。一方、加水分解性珪素原子含有基/アルコキシシリル基が20を超えると、効率的に共重合体が形成されず、期待される防汚効果が得られにくくなる傾向がある。
【0107】
また、エチレン性不飽和単量体(B)と、化合物(C)との割合としては、エチレン性不飽和単量体(B)におけるエチレン性不飽和結合/化合物(C)における不飽和結合反応性基(C=C不飽和基/C=C不飽和反応性基)(当量比)が、0.2〜2500(好ましくは0.6〜500、さらに好ましくは1〜100)となるような範囲から選択することができる。C=C不飽和基/C=C不飽和反応性基が0.2未満であると、化合物(C)由来の加水分解性珪素原子同士の縮合により系の安定性が低下する傾向がある。一方、C=C不飽和基/C=C不飽和反応性基が2500を超えると、効率的に共重合体が形成されず、期待される防汚効果が得られにくくなる傾向がある。
【0108】
[成分(2)]
成分(2)は、ワックス系エマルジョン、シリコーン系エマルジョン、フッ素系エマルジョンから選択される1種以上の化合物であり、これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0109】
本発明における上記ワックス系エマルジョンは、少なくとも、離型性及び/又は撥水性を有する化合物の水分散体であればよい。このようなワックス系エマルジョンとして、例えば、商品名「AQUACER 498」、「AQUACER 537」、「AQUACER 539」、「CERAFLOUR 990」、「CERAFLOUR 991」、「CERAFLOUR 996」、「CERAFLOUR 997」、「CERAFLOUR 998」(以上、ビックケミー・ジャパン(株)社)等の市販品を使用してもよい。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0110】
本発明における上記シリコーン系エマルジョンは、少なくとも、離型性及び/又は撥水性を有する化合物の水分散体であればよい。このようなシリコーン系エマルジョンとして、例えば、商品名「KM-780」、「KM-782」、「KM-785」、「KM-797」(以上、信越化学工業(株)製)、「BY 22-736EX」、「BY 22-749SR」(以上、東レ・ダウコーニング(株)製)等の市販品を使用してもよい。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0111】
本発明における上記フッ素系エマルジョンは、少なくとも、離型性及び/又は撥水性を有する化合物の水分散体であればよい。このようなフッ素系エマルジョンとして、例えば、商品名「アサヒガード AG-7105」、「アサヒガード AG-950」、「アサヒガード AG-7600」、「アサヒガード AG-1100」(以上、旭硝子(株)製)、「ユニダイン TG-5521」、「ユニダイン TG-5601」、「ユニダイン TG-8711」、「ユニダイン TG-470B」、「ユニダイン TG-500S」、「ユニダイン TG-580」、「ユニダイン TG-581」(以上、ダイキン工業(株)製)等の市販品を使用してもよい。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0112】
本発明における成分(2)としては、少なくともワックス系エマルジョンを含有することが好ましく、特に、ワックス系エマルジョンとシリコーン系エマルジョンを組み合わせて使用することが、より優れた防汚効果を発揮することができ、さらに耐ブロッキング性を発揮することができる点で好ましい。
【0113】
成分(2)としてワックス系エマルジョンとシリコーン系エマルジョンを組み合わせて使用する場合、その混合割合[前者:後者(質量%比)]としては、例えば、10/90〜90/10、好ましくは20/80〜80/20程度である。混合割合を上記範囲に調整することにより、極めて高い防汚効果を付与することができる。
【0114】
本発明に係る防汚コート剤組成物は、上記成分(1)及び成分(2)を含有することを特徴する。また、本発明に係る防汚コート剤組成物は、二酸化珪素含有量を上記成分(1)100質量部に対して20質量部以下(好ましくは、15質量部以下)とすることが好ましい。それにより、防汚性をさらに向上させることができ、被着体表面等に塗布、乾燥することにより得られる皮膜について、極めて薄い皮膜であっても優れた防汚効果を発揮することができるため、被着体表面への塗布量を低減することができ、コストを削減することができるからである。また、皮膜の形成に際して養生に要する時間が短く、作業時間を大幅に短縮することができる。尚、二酸化珪素含有量の下限は0である。二酸化珪素含有量が上記範囲を上回ると、上記成分(1)により形成される皮膜に亀裂が入り易くなるためか、又は二酸化珪素による吸着作用のためか、防汚効果が低下する傾向がある。
【0115】
本発明に係る防汚コート剤組成物は、例えば、上記成分(1)及び成分(2)を溶剤又は分散媒中で混合することにより調製することができ、混合の順序は特に制限されない。
【0116】
防汚コート剤組成物中の成分(1):ビニル系−ウレタン系共重合体の含有量としては、防汚コート剤組成物の用途により適宜調整することができ、例えば、防汚コート剤組成物全量の10〜60質量%程度、好ましくは20〜50質量%程度である。ビニル系−ウレタン系共重合体の含有量が上記範囲を下回ると、被着体に対する密着性が低下する傾向があり、防汚効果が低下する傾向がある。一方、ビニル系−ウレタン系共重合体の含有量が上記範囲を上回ると、防汚効果が低下する傾向があり、粘度が高くなり過ぎて、塗布が困難となる傾向がある。
【0117】
防汚コート剤組成物中の成分(2)の総含有量としては、防汚コート剤組成物の用途により適宜調整することができ、例えば、防汚コート剤組成物全量の0.5〜50質量%程度、好ましくは1〜50質量%程度である。成分(2)の使用量が上記範囲を下回ると、防汚効果が低下する傾向があり、一方、成分(2)の使用量が上記範囲を上回ると、被着体に対する密着性が低下する傾向がある。
【0118】
成分(1)と成分(2)を混合する溶剤又は分散媒としては、成分(1)、成分(2)と相溶性が良いものであれば特に制限されることがなく、例えば水や有機溶剤等を使用することができるが、シックハウス症候群等を引き起こす恐れのない水を使用することが好ましい。水としては、イオン交換水(脱イオン水)や純水等を用いることができる。
【0119】
溶剤又は分散媒の含有量としては、防汚コート剤組成物の用途により適宜調整することができ、例えば、防汚コート剤組成物全量の90〜40質量%程度、好ましくは80〜50質量%程度である。溶剤又は分散媒の含有量が上記範囲を下回ると、粘度が高くなり過ぎて塗布が困難となる傾向があり、一方、溶剤又は分散媒の含有量が上記範囲を上回ると、乾燥に時間がかかり過ぎて作業効率が低下する傾向がある。
【0120】
さらに、本発明に係る防汚コート剤組成物には、上記成分の他に、本発明の効果を損なわない範囲内で他の成分を添加してもよい。他の成分としては、例えば、充填材、可塑剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、熱安定剤、着色剤(顔料や染料等)、防かび剤、濡れ促進剤、粘性改良剤、香料、各種タッキファイヤー(エマルジョンタッキファイヤー等)、カップリング剤(チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤等)、光硬化触媒、乳化剤、界面活性剤、エマルジョンやラテックス、架橋剤等の各種添加剤等を挙げることができる。
【0121】
充填材としては、例えば、炭酸カルシウムや各種処理が施された炭酸カルシウム、クレー、タルク、各種バルーン、カオリン、ケイ酸アルミニウム等を挙げることができる。また、可塑剤としては、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート等のフタル酸エステル類;アジピン酸ジオクチル、セバシン酸ジブチル等の脂肪族カルボン酸エステル等を挙げることができる。タッキファイヤーとしては、例えば、安定化ロジンエステル、重合ロジンエステル、テルペンフェノール、石油系樹脂等のエマルジョンタッキファイヤー等を挙げることができる。架橋剤としては、例えば、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、アジリジン系架橋剤、ポリエチレンイミン系架橋剤、メラミン系架橋剤、コロイダルシリカ等を挙げることができる。
【0122】
本発明の防汚コート剤組成物は、例えば、スプレー、刷毛、ローラー、グラビア印刷等の方法により被着体表面に塗布することができる。被着体表面に塗布後は、溶剤又は分散媒を蒸発させることよって、優れた防汚効果(特に、水性系の汚れに対する優れた防汚効果)を発揮する皮膜を形成することができる。
【0123】
本発明に係る防汚コート剤組成物の塗布量としては、用途に応じて適宜調整することができるが、例えば、1〜100g/m2程度(好ましくは、5〜100g/m2程度)の塗布量でも被着体に優れた防汚性を付与することができる。
【0124】
上記方法により形成された皮膜は、極めて高い防汚効果を発揮することができる。さらに、柔軟性を有するため幅広い基材に対して優れた密着性を発揮することができる。前記基材としては、例えば、各種プラスチック材料[例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)等のα−オレフィンをモノマー成分とするオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタラート(PBT)等のポリエステル系樹脂;ポリ塩化ビニル(PVC);酢酸ビニル系樹脂;ポリフェニレンスルフィド(PPS);ポリアミド(ナイロン)、全芳香族ポリアミド(アラミド)等のアミド系樹脂;ポリイミド系樹脂;ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等]、ゴム材料(例えば、天然ゴム、合成ゴム、シリコンゴム等)、金属材料(例えば、アルミニウム、銅、鉄、ステンレス等)、紙質材料(例えば、紙、紙類似物質等)、木質材料(例えば、木材、MDF等の木質ボード、合板等)、繊維材料(例えば、不織布、織布等)、革材料、無機材料(例えば、石、コンクリート等)、ガラス材料、磁器材料等の各種の素材を挙げることができる。
【0125】
本発明に係る防汚コート剤組成物は、特に、壁紙用、カーテン、テーブルクロス等の繊維材料用、タイル用等(特に、壁紙用)として有用である。
【0126】
[壁紙用防汚コート剤組成物]
本発明に係る壁紙用防汚コート剤組成物は、上記防汚コート剤組成物を含むことを特徴とする。また、性能を損なわない範囲内で、多の成分(例えば、ヌレ剤、粘度調整剤、防腐剤、消泡剤等)を含有してもよい。
【0127】
壁紙用防汚コート剤組成物を適用する壁紙の素材としては特に制限されることがなく、上記基材として挙げられる各種素材を使用することができる。また、これらの素材は単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0128】
本発明に係る壁紙用防汚コート剤組成物は、壁紙表面に塗布し、乾燥させることにより、壁紙に優れた防汚性(特に、水性系の汚れに対する防汚性)を付与することができる。乾燥する際には加熱してもよく、加熱しなくともよい。また、予めエンボス加工等を施した壁紙に塗布してもよく、本発明に係る壁紙用防汚コート剤組成物を壁紙表面に塗布後、加熱処理(例えば、120〜250℃程度の温度による加熱処理)を施して、壁紙基材を発泡させることによりエンボス加工を施してもよい
【0129】
本発明に係る壁紙用防汚コート剤組成物により表面をコーティングした壁紙は、優れた防汚効果を発揮することができ、汚れが付着しても水拭きすることにより容易に、且つ、きれいに汚れを落とすことができる。また、壁紙の防汚効果は水拭きすることによって低下することが無く、高い防汚効果を長期に亘り維持することができる。
【実施例】
【0130】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。以下、特に断りのない場合、「部」は「質量部」を意味する。
【0131】
調製例1
N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン 1モルに対して、2−エチルヘキシルアクリレート 2モルの割合で混合して、50℃で7日間反応させてエステル変性アミノ基含有アルコキシシランを得た。
【0132】
調製例2
撹拌装置、窒素導入管、温度計およびコンデンサーをつけた4つ口セパラブルフラスコに、商品名「PTMG2000」[ポリテトラメチレンエーテルグリコール、数平均分子量:2000、水酸基価:56.1mg−KOH/g、三菱化学工業(株)製]150部、イソホロンジイソシアネート[イソシアネート含有率(NCO含有率):37.8%]83.2部、2,2−ジメチロールブタン酸 25部、1,4−ブタンジオール 6部、及びメチルメタクリレート 160部を配合し、75〜80℃の温度で窒素気流下3時間反応を行い、残存イソシアネート基が1.2%のカルボキシル基含有イソシアネート基末端ポリマーを含む反応混合物を得た。
このカルボキシル基含有イソシアネート基末端ポリマーの反応混合物全量に、調製例1で得られたエステル変性アミノ基含有アルコキシシラン 74.3部を配合して混合させた後、75〜80℃の温度で窒素気流下1時間反応を行い、カルボキシル基含有アルコキシシリル化ウレタンポリマーを含む反応混合物を得た。
次に、カルボキシル基含有アルコキシシリル化ウレタンポリマーを含む反応混合物のカルボキシル基をトリエチルアミン 17部で中和した後、40℃まで冷却し、脱イオン水 1200部を高速撹拌下配合して加水分解性シリル化ウレタン系ポリマーの分散液(有効成分:30重量%)を得た。
【0133】
調製例3
ブチルアクリレート(BA)80部、ブチルメタクリレート(BMA)140部、メチルメタアクリレート(MMA)140部、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン 10部をそれぞれ秤量し、これらを乳化剤として商品名「アデカリアソープSR−10」((株)ADEKA製)10部を使って水 250部中で乳化させてモノマー乳化液を得た。
撹拌装置、窒素導入管、温度計および還流冷却管をつけた4つ口セパラブルフラスコに、調製例2で得られた加水分解性シリル化ウレタン系ポリマーの分散液 200部、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン 15部、水 300部を仕込み、窒素雰囲気下で撹拌しながら40℃まで昇温、同温度を保ちながら1時間反応させ、シリコーン系−ウレタン系共重合体を得た。
次に、セパラブルフラスコの液温を80℃に昇温した後、前述のモノマー乳化液と、重合開始剤として2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(商品名「ABN−V」、(株)日本ファインケム製)2部を別々の投入口から2時間かけて連続的に滴下し、ビニル系−シリコーン系−ウレタン系共重合体の水分散体(最終有効成分:39.7重量%)を得た。
【0134】
調製例4
ブチルアクリレート(BA)80部、ブチルメタクリレート(BMA)140部、メチルメタアクリレート(MMA)140部、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン 10部をそれぞれ秤量し、これらを乳化剤として商品名「アデカリアソープSR−10」((株)ADEKA製)10部を使って水 250部中で乳化させてモノマー乳化液を得た。
撹拌装置、窒素導入管、温度計および還流冷却管をつけた4つ口セパラブルフラスコに、調製例2で得られた加水分解性シリル化ウレタン系ポリマーの分散液 200部、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン 15部、水 300部を仕込み、窒素雰囲気下で撹拌しながら40℃まで昇温、同温度を保ちながら1時間反応させ、シリコーン系−ウレタン系共重合体を得た。
次に、セパラブルフラスコの液温を80℃に昇温した後、前述のモノマー乳化液と、重合開始剤として2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(商品名「ABN−V」、(株)日本ファインケム製)2部を別々の投入口から2時間かけて連続的に滴下し、続けてコロイダルシリカ(商品名「アデライトAT50」、(株)ADEKA製)150部を反応させ、アクリル系−シリコーン系−ウレタン系共重合体とシリカをハイブリッド化させた「有機無機ハイブリッド材料」の水分散体(最終有効成分:43.4重量%、アクリル系−シリコーン系−ウレタン系共重合体に対するシリカ含有量:14.1重量%)を得た。
【0135】
実施例1
調製例3で得られたアクリル系−シリコーン系−ウレタン系共重合体の水分散体 100部(成分(1)として39.7部)、シリコーン系エマルジョン(商品名「KM780」、信越化学工業(株)製)3部、ワックス系エマルジョン(商品名「AQUACER498」、ビックケミー・ジャパン(株)社)10部を混合して防汚コート剤組成物(1)(成分(1)含有量:35.1重量%)を得た。
【0136】
実施例2
調製例3で得られたアクリル系−シリコーン系−ウレタン系共重合体の水分散体に代えて、調製例4で得られた「有機無機ハイブリッド材料」の水分散体 100部(成分(1)として43.4部)を使用した以外は実施例1と同様にして防汚コート剤組成物(2)(成分(1)含有量:38.4重量%)を得た。
【0137】
比較例1
調製例3で得られたアクリル系−シリコーン系−ウレタン系共重合体の水分散体に代えて、商品名「ボンドCC200」(アクリル樹脂系壁紙撥水コート剤、コニシ(株)製)100部(アクリル樹脂50部)を使用した以外は実施例1と同様にして防汚コート剤組成物(3)を得た。
【0138】
比較例2
シリコーン系エマルジョン(商品名「KM780」、信越化学工業(株)製)及びワックス系エマルジョン(商品名「AQUACER498」、ビックケミー・ジャパン(株)社)を使用しなかった以外は実施例1と同様にして防汚コート剤組成物(4)を得た。
【0139】
比較例3
シリコーン系エマルジョン(商品名「KM780」、信越化学工業(株)製)及びワックス系エマルジョン(商品名「AQUACER498」、ビックケミー・ジャパン(株)社)を使用しなかった以外は実施例2と同様にして防汚コート剤組成物(5)を得た。
【0140】
実施例1、2及び比較例1〜3で得られた防汚コート剤組成物(1)〜(5)について、下記方法により防汚性を評価した。
<試験方法>
紙(商品名「書道半紙5号」、呉竹社製)に、防汚コート剤組成物(1)〜(5)を、それぞれ乾燥後の紙重量がプラス3g/m2となるようにバーコーターで塗布し、170℃で30秒間乾燥して試験体を得た。
<防汚性試験>
得られた試験体に、熱湯 100gにリプトン紅茶 1パック(茶葉:2g)を10分間浸漬して得られた溶液を一面に垂らし、23℃、50%RHの条件下で1時間静置し、その後、ぬらした紙製拭き布(商品名「キムワイプ(登録商標)」、日本製紙クレシア(株)製)で試験体表面の水分を完全に拭き取り、色彩色差計(商品名「CR−310」、ミノルタ(株)製)を用いて、防汚性試験前後の色差を測定した。
【0141】
上記結果を下記表にまとめて示す。
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(1)の水分散体、及び下記成分(2)を含有することを特徴とする防汚コート剤組成物。
成分(1):ビニル系重合体鎖部およびウレタン系重合体鎖部を有し、且つビニル系重合体鎖部とウレタン系重合体鎖部とが、珪素原子と酸素原子との結合を有する連結部を介して結合しているビニル系−ウレタン系共重合体
成分(2):ワックス系エマルジョン、シリコーン系エマルジョン、フッ素系エマルジョンから選択される1種以上の化合物
【請求項2】
二酸化珪素含有量が成分(1)100質量部に対して20質量部以下である請求項1に記載の防汚コート剤組成物。
【請求項3】
ビニル系−ウレタン系共重合体が、下記の工程(X)〜(Y)を経て合成されるビニル系−ウレタン系共重合体である請求項1又は2に記載の防汚コート剤組成物。
工程(X):加水分解性珪素原子含有基を有するウレタン系ポリマー(A)の水分散液又は水溶液を調製する工程
工程(Y):加水分解性珪素原子含有基を有するウレタン系ポリマー(A)の水分散液又は水溶液中で、エチレン性不飽和単量体(B)を重合させ、且つ、前記重合の反応前、前記重合の反応中、および前記重合の反応後の何れか1以上の時点で、アルコキシシリル基を有し且つエチレン性不飽和結合含有基に対する反応性官能基を有する化合物(C)を用いて、ビニル系−ウレタン系共重合体を調製する工程
【請求項4】
加水分解性珪素原子含有基を有するウレタン系ポリマー(A)が、親水性基含有アルコキシシリル化ウレタン系ポリマー(A1)である請求項3に記載の防汚コート剤組成物。
【請求項5】
親水性基含有アルコキシシリル化ウレタン系ポリマー(A1)が、親水性基非含有ポリオール化合物(A1-a)、親水性基含有ポリオール化合物(A1-b)、ポリイソシアネート化合物(A1-c)、およびイソシアネート反応性基含有アルコキシシラン化合物(A1-d)を反応して得られる親水性基含有アルコキシシリル基末端ウレタン系ポリマーである請求項4に記載の防汚コート剤組成物。
【請求項6】
親水性基含有アルコキシシリル化ウレタン系ポリマー(A1)が、親水性基含有ウレタン系ポリマーの末端のイソシアネート基が少なくとも部分的にアルコキシシリル化されて得られる末端アルコキシシリル化親水性基含有ウレタン系ポリマーである請求項4又は5に記載の防汚コート剤組成物。
【請求項7】
エチレン性不飽和単量体(B)がアクリル系単量体を含む請求項3〜6の何れかの項に記載の防汚コート剤組成物。
【請求項8】
ビニル系−ウレタン系共重合体における珪素原子と酸素原子との結合を有する連結部がシリコーン系重合体鎖部である請求項1〜7の何れかの項に記載の防汚コート剤組成物。
【請求項9】
成分(2)として、少なくともワックス系エマルジョンを含有する請求項1〜8の何れかの項に記載の防汚コート剤組成物。
【請求項10】
請求項1〜9の何れかの項に記載の防汚コート剤組成物を含む壁紙用防汚コート剤組成物。

【公開番号】特開2011−219679(P2011−219679A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−92319(P2010−92319)
【出願日】平成22年4月13日(2010.4.13)
【出願人】(000105648)コニシ株式会社 (217)
【Fターム(参考)】