説明

防汚パネル部材およびそれを設置した構造物

【構成】 防汚パネル部材10は、基板20および陽極シート要素22を含み、複数が連結されることによって防汚パネル(12)を形成する。基板20は、絶縁材によって形成される平板部24、平板部24の第1端26および第2端28のそれぞれに形成される第1嵌合部32および第2嵌合部38を含む。陽極シート要素22は、平板部の表面側を覆い、かつ端部が第1嵌合部32および第2嵌合部38まで延びるように基板20に貼り付けられる。防汚パネル部材10では、第1嵌合部32と第2嵌合部38とを嵌合することにより、隣り合う陽極シート要素22の端部同士が基板20によって均一に押し付けられて面接触する。
【効果】 隣り合う陽極シート要素の端部同士が均一に押し付けられて面接触するので、陽極シートの通電性を長期間に亘って安定的に確保できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は防汚パネル部材およびそれを設置した構造物に関し、特にたとえば、海水と接する壁面に取り付けられて、前記海水の電気分解によって酸素を発生させて海生生物の付着を防止する防汚パネルを形成する、防汚パネル部材およびそれを設置した構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
海水と接する構造物の壁面には、イガイやフジツボ等の海生生物が付着するが、このような海生生物の付着が問題となる場合がある。たとえば、発電所などでは海水を冷却水として利用しているが、海水を引き込むための水路(海水路)に海生生物が付着すると、取水流量の低下などの事態を招き、海水路の正常機能が阻害されてしまう。そこで、海水と接する壁面への海生生物の付着を防止するために、多くの技術が提案されている。その中でも、有害な物質を生成することなく海生生物の付着を防止する技術として、海水と接する壁面に張り付けた陽極シートを用いて海水を電気分解することによって、酸素を発生させて有機物を分解して、海生生物の付着を防止する技術が有力視されている。このような技術の一例が特許文献1に開示される。
【0003】
特許文献1には、絶縁材の表面に陽極形成板状体(陽極シート)を装着するとともに、絶縁材の裏面側に取水路の流れ方向に延びる複数の陰極形成帯状体を装着した海生生物付着防止用プレートを取水路内壁面に配設し、陽極形成板状体および陰極形成帯状体を外部直流電源と電気的に接合した、海生生物付着防止装置が開示されている。特許文献1の技術では、海生生物付着防止用プレートは、複数の複合プレート(防汚パネル部材)によって構成される。これら複合プレートの各々は、本体部、上部重合わせ部および下部重合わせ部からなるパネル状チタンプレートと、パネル状チタンプレートの本体部および下部重合わせ部の裏面に配された絶縁材と、パネル状チタンプレートの一端に絶縁材を介して配置された長尺状ステンレス鋼プレートとからなる。そして、長尺状ステンレス鋼プレートは、パネル状チタンプレートの下部重合わせ部より突出した突出部を有し、絶縁材は、固定部に配された絶縁性樹脂とその他の部分に配された発泡材とからなる。
【特許文献1】特許第4256319号公報 [A01M 29/00]
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術では、パネル状チタンプレートの上下の重合わせ部を重ね合わせた状態で、複合プレートの固定部両側端にアンカボルトを打ち込むことによって、取水路内壁面に複合プレートを固定すると同時に、隣り合うパネル状チタンプレート同士(延いては陽極シート全体)の通電性を確保しようとしている。しかしながら、特許文献1の技術では、パネル状チタンプレートの重合わせ部の両側端のみをアンカボルトによって押さえ付けているだけなので、アンカボルトの間の重合わせ部の部分において、浮き或いは隙間が生じ易く、安定した通電性を確保できない恐れがある。たとえば、施工不良などによって、パネル状チタンプレートが撓んでしまったり、上下の重合わせ部同士がしっかりと重なっていなかったりすると、安定した通電性を確保できない。このため、実際の施工においては、安定した通電性を確保するために、上下の重合わせ部同士をスポット溶接する必要が生じる場合がある。さらに、チタンプレート同士を導通させるために導通用チタンバーを用いて、このチタンバーをボルトナット締めしているから、長期間経過すると締め付けが緩んでしまう恐れがある。この場合には、パネル状チタンプレートの重ね合わせ部同士の面接触を適切に維持できない。
【0005】
したがって、特許文献1の技術では、パネル状チタンプレートの上下の重ね合わせ部同士の適切な面接触を長期間に亘って維持することができない、つまり陽極シートの通電性を長期間に亘って安定的に維持できない恐れがある。
【0006】
それゆえに、この発明の主たる目的は、新規な、防汚パネル部材およびそれを設置した構造物を提供することである。
【0007】
この発明の他の目的は、陽極シートの通電性を長期間に亘って安定的に確保できる、防汚パネル部材およびそれを設置した構造物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、上記の課題を解決するために、以下の構成を採用した。なお、括弧内の参照符号および補足説明などは、本発明の理解を助けるために後述する実施の形態との対応関係を示したものであって、この発明を何ら限定するものではない。
【0009】
第1の発明は、海水と接する壁面に取り付けられて、海水の電気分解によって酸素を発生させて海生生物の付着を防止する防汚パネルを形成する防汚パネル部材であって、絶縁材によって形成される基板、および基板に貼り付けられる陽極シート要素を備え、基板は、第1端および第2端を有する平板状に形成される平板部、第1端に形成される第1嵌合部、および第2端に形成されて隣り合う第1嵌合部と嵌合する第2嵌合部を含み、陽極シート要素は、平板部の表面側を覆いかつ端部が第1嵌合部および第2嵌合部の少なくとも一部まで延びるように基板に貼り付けられ、第1嵌合部と第2嵌合部とを嵌合させたときに隣り合う陽極シート要素の端部と面接触して通電可能に接続される、防汚パネル部材である。
【0010】
第1の発明では、防汚パネル部材(10)は、基板(20)および陽極シート要素(22)を備え、海水に接する構造物(102)の壁面に海生生物が付着することを防止する防汚システム(100)に用いられる。防汚パネル部材は、複数が連結されることによって防汚パネル(12)を形成する。基板は、合成樹脂などの絶縁性を有する素材によって形成され、平板状に形成される平板部(24)、平板部の第1端(26)および第2端(28)のそれぞれに形成される第1嵌合部(32,90,94)および第2嵌合部(38,92,96)を含む。また、陽極シート要素は、たとえばチタン製のフィルムであり、平板部の表面側を覆い、かつ端部が嵌合部(第1嵌合部および第2嵌合部)の少なくとも一部まで延びるように基板に貼り付けられる。このような防汚パネル部材では、陽極シート要素が嵌合部まで延びるように基板に貼り付けられるので、嵌合部を嵌合することにより、隣り合う陽極シート要素の端部同士が基板によって均一に押し付けられて面接触し、隣り合う陽極シート要素同士が通電可能に接続される。
【0011】
第1の発明によれば、第1嵌合部と第2嵌合部との嵌合により、隣り合う陽極シート要素の端部同士が基板によって均一に押し付けられて面接触するので、陽極シートの通電性を長期間に亘って安定的に確保できる。
【0012】
第2の発明は、第1の発明に従属し、基板は、第1窪み部、および第1窪み部の底壁に形成される固定具取付部をさらに含み、第1窪み部の上方は、平面部を有する部材によって覆われる。
【0013】
第2の発明では、基板(20)は、第1窪み部(30,74)をさらに含む。第1窪み部の底壁には、アンカ止め用のボルト等の固定具の取り付けに利用される固定具取付部(36)が形成される。第1窪み部は、基本的にはアンカ止めに利用されるが、陰極側導電体(50)や陰極部材(60)の設置にも利用され得る。また、第1窪み部の上方は、平面部を有する部材(10,72)によって平滑に覆われ、連結した防汚パネル部材(10)の表面から固定具が突出しないようにされる。
【0014】
第2の発明によれば、固定具が防汚パネル部材(防汚パネル)の表面から突出しないので、施工後の水の流れの阻害が軽減されると共に、景観も向上する。
【0015】
第3の発明は、第2の発明に従属し、第1窪み部は、第1端に形成され、第1窪み部を覆う平面部を有する部材は、隣り合う防汚パネルであって、第1嵌合部と第2嵌合部とを嵌合させたときに、隣り合う平板部の端部によって第1窪み部の上方が覆われる。
【0016】
第3の発明では、第1窪み部(30)は、第1端(26)に形成される。そして、第1窪み部の上方は、第1嵌合部(32)と第2嵌合部(38)とを嵌合させたときに、隣り合う防汚パネル(10)の平板部(24)の端部によって平滑に覆われる。
【0017】
第3の発明によれば、第1嵌合部と第2嵌合部とを嵌合させるだけで、第1窪み部の上方が覆うことができる。
【0018】
第4の発明は、第2の発明に従属し、第1窪み部は、第1端と第2端との間に形成され、第1窪み部を覆う平面部を有する部材は、絶縁材によって形成される板状部を有する蓋であって、第1窪み部は、蓋を装着するための係り部を有し、陽極シート要素は、端部が係り部の少なくとも一部まで延びるように基板に貼り付けられ、蓋の板状部は、第1窪み部の係り部と嵌合する係止部を有し、当該板状部の表面側を覆いかつ端部が当該係止部の少なくとも一部まで延びるように陽極シート要素が貼り付けられ、当該係り部と当該係止部とを嵌合させたときに、陽極シート要素の端部同士が面接触して通電可能に接続される。
【0019】
第4の発明では、第1窪み部(74)は、第1端(26)と第2端(28)との間に形成され、この第1窪み部の上方は、絶縁材によって形成される板状部(78)を有する蓋(72)によって覆われる。第1窪み部には、係り部(76)が形成され、蓋の板状部には、係り部と嵌合する係止部(80)が形成される。また、平板部(24)の表面側を覆う陽極シート要素(22)は、その端部が係り部の少なくとも一部まで延びるように貼り付けられると共に、蓋の板状部には、その表面側を覆いかつ端部が係止部の少なくとも一部まで延びるように陽極シート要素が貼り付けられる。そして、第1窪み部の係り部と蓋の係止部とを嵌合させたときに、基板(20)および蓋の板状部に貼り付けた陽極シート要素の端部同士が面接触して通電可能に接続される。
【0020】
第4の発明によれば、別体である蓋によって第1窪み部を覆う場合であっても、防汚パネル部材全体として、表面を覆う陽極シート要素の通電性が安定的に確保される。
【0021】
第5の発明は、第2ないし第4のいずれかの発明に従属し、第1窪み部に設けられる陰極部材をさらに備える。
【0022】
第5の発明では、陰極部材(60)をさらに備える。陰極部材は、たとえば棒状に形成されて、海水と接するように第1窪み部(30,74)に取り付けられる。
【0023】
第5の発明によれば、施工時に陰極部材を取り付ける手間を省くことができる。
【0024】
第6の発明は、第2ないし第4のいずれかの発明に従属し、基板は、第1端(26)と第2端(28)との間に形成される第2窪み部をさらに含み、第2窪み部の上方は、平面部を有する部材によって覆われる。
【0025】
第6の発明では、第1窪み部(30,74)に加えて、第2窪み部(74)をさらに備える。第2窪み部は、第1端(26)と第2端(28)との間に形成され、たとえば基板の幅方向の全長に亘って延びる。この第2窪み部は、たとえば陰極側導電体(50)や陰極部材(60)の設置に利用される。また、第2窪み部の上方は、平面部を有する部材(72)によって平滑に覆われる。
【0026】
第6の発明によれば、第1窪み部をアンカ止めに利用し、第2窪み部を陰極側導電体や陰極部材の設置に利用することができる。したがって、防汚パネルを海水と接する壁面に固定した後に、陰極側導電体を設置することもできるので、施工の自由度が増し、施工も容易となる。
【0027】
第7の発明は、第6の発明に従属し、第2窪み部に設けられる陰極部材をさらに備える。
【0028】
第7の発明では、陰極部材(60)をさらに備える。陰極部材は、たとえば棒状に形成されて、海水と接するように第2窪み部(74)に取り付けられる。
【0029】
第7の発明によれば、施工時に陰極部材を取り付ける手間を省くことができる。
【0030】
第8の発明は、第6または7の発明に従属し、第2窪み部を覆う平面部を有する部材は、絶縁材によって形成される板状部を有する蓋であって、第2窪み部は、蓋を装着するための係り部を有し、陽極シート要素は、端部が係り部の少なくとも一部まで延びるように基板に貼り付けられ、蓋の板状部は、第2窪み部の係り部と嵌合する係止部を有し、当該板状部の表面側を覆いかつ端部が当該係止部の少なくとも一部まで延びるように陽極シート要素が貼り付けられ、当該係り部と当該係止部とを嵌合させたときに、陽極シート要素の端部同士が面接触して通電可能に接続される。
【0031】
第8の発明では、第2窪み部(74)の上方は、絶縁材によって形成される板状部(78)を有する蓋(72)によって覆われる。第2窪み部には、係り部(76)が形成され、蓋の板状部には、係り部と嵌合する係止部(80)が形成される。また、平板部(24)の表面を覆う陽極シート要素(22)は、その端部が係り部の少なくとも一部まで延びるように貼り付けられると共に、蓋の板状部には、その表面側を覆いかつ端部が係止部の少なくとも一部まで延びるように陽極シート要素が貼り付けられる。そして、第2窪み部の係り部と蓋の係止部とを嵌合させたときに、基板(20)および蓋の板状部に貼り付けた陽極シート要素の端部同士が面接触して通電可能に接続される。
【0032】
第8の発明によれば、第2窪み部を形成した場合にも、防汚パネル部材全体として、表面を覆う陽極シート要素の通電性が安定的に確保される。
【0033】
第9の発明は、海水と接する壁面に取り付けられて、海水の電気分解によって酸素を発生させて海生生物の付着を防止する防汚パネルを形成する、防汚パネル部材であって、絶縁材によって形成される基板を有する部材本体、および絶縁材によって形成される板状部を有する蓋を備え、部材本体の基板は、第1端および第2端を有する平板状に形成される平板部、第1端に形成される第1窪み部、第2端に形成される第2窪み部、第1窪み部および第2窪み部のそれぞれに形成される係り部、第1窪み部の端部に形成される第1嵌合部、および第2窪み部の端部に形成され、隣り合う第1嵌合部と嵌合する第2嵌合部を含み、蓋の板状部は、部材本体の係り部のそれぞれと嵌合する係止部を含み、部材本体の基板には、平板部の表面側を覆い、かつ端部が係り部のそれぞれの少なくとも一部まで延びるように陽極シート要素が貼り付けられ、蓋の板状部には、板状部の表面側を覆い、かつ端部が係止部の少なくとも一部まで延びるように陽極シート要素が貼り付けられ、係り部と係止部とを嵌合させたときに、蓋の板状部によって第1窪み部および第2窪み部の上方が覆われると共に、蓋の陽極シート要素の端部と、隣り合う部材本体の陽極シート要素の端部のそれぞれとが面接触して通電可能に接続される、防汚パネル部材である。
【0034】
第9の発明では、防汚パネル部材(10)は、部材本体(110)および蓋(112)を備え、海水に接する構造物(102)の壁面に海生生物が付着することを防止する防汚システム(100)に用いられる。防汚パネル部材は、複数が連結されることによって防汚パネル(12)を形成する。部材本体は、基板(114)を備える。基板は、合成樹脂などの絶縁性を有する素材によって形成され、平板状に形成される平板部(120)、平板部の第1端(122)および第2端(124)のそれぞれに形成される第1窪み部(126)および第2窪み部(128)、第1窪み部および第2窪み部のそれぞれに形成される係り部(134,138)、ならびに第1窪み部および第2窪み部の端部のそれぞれに形成される第1嵌合部(130)および第2嵌合部(136)を含む。また、基板には、平板部の表面側を覆い、かつ端部が係り部のそれぞれの少なくとも一部まで延びるように陽極シート要素(116)が貼り付けられる。一方、蓋は、合成樹脂などの絶縁性を有する素材によって形成される板状部(140)を備え、この板状部には、部材本体の係り部のそれぞれと嵌合する係止部(142)が形成される。また、板状部には、その表面側を覆い、かつ端部が係止部の少なくとも一部まで延びるように陽極シート要素(144)が貼り付けられる。
【0035】
部材本体への蓋の装着は、隣り合う部材本体の第1嵌合部と第2嵌合部とを嵌合させて部材本体同士を連結した後、隣り合う部材本体の第1窪み部および第2窪み部の上方を覆うようにして、部材本体の係り部と蓋の係止部とを嵌合させて固定することによって行われる。このような防汚パネル部材では、係り部まで延びるように陽極シート要素が部材本体の基板に貼り付けられ、また係止部まで延びるように陽極シート要素が蓋の板状部に貼り付けられるので、連結した部材本体に蓋を装着することにより、隣り合う陽極シート要素の端部同士が基板および板状部によって均一に押し付けられて面接触し、隣り合う陽極シート要素同士が通電可能に接続される。
【0036】
第9の発明によれば、部材本体の係り部と蓋の係止部とを嵌合することにより、蓋の陽極シート要素の端部と、隣り合う部材本体の陽極シート要素の端部のそれぞれとが、基板および板状部によって均一に押し付けられて面接触するので、陽極シートの通電性を長期間に亘って安定的に確保できる。
【0037】
第10の発明は、海水と接する壁面を有する構造物であって、請求項1ないし9のいずれかに記載の防汚パネル部材を連結して形成した防汚パネルを前記壁面に設置した、構造物である。
【0038】
第10の発明では、構造物(102)は、海水と接する壁面を有し、この壁面には、複数の防汚パネル部材(10)を連結して形成される防汚パネル(12)が取り付けられる。
【0039】
第10の発明によれば、第1ないし第9の発明と同様の作用効果を奏し、壁面に対する海生生物の付着が防止される。
【発明の効果】
【0040】
第1の発明によれば、第1嵌合部と第2嵌合部とを嵌合することにより、隣り合う陽極シート要素の端部同士が基板によって均一に押し付けられて面接触するので、陽極シートの通電性を長期間に亘って安定的に確保できる。
【0041】
第9の発明によれば、部材本体の係り部と蓋の係止部とを嵌合することにより、蓋の陽極シート要素の端部と、隣り合う部材本体の陽極シート要素の端部のそれぞれとが、基板および板状部によって均一に押し付けられて面接触するので、陽極シートの通電性を長期間に亘って安定的に確保できる。
【0042】
この発明の上述の目的、その他の目的、特徴および利点は、図面を参照して行う後述の実施例の詳細な説明から一層明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】この発明の一実施例である防汚パネル部材を用いた防汚システムの構成を概略的に示す図解図である。
【図2】複数の防汚パネル部材を連結して防汚パネルを形成した様子を示す図解図である。
【図3】図1の防汚パネル部材を示す斜視図である。
【図4】図1の防汚パネル部材を示す断面図である。
【図5】防汚パネル部材同士を連結するときの様子を示す図解図であり、(A)は、防汚パネル部材の一方端の端面に対して他の防汚パネル部材の他端の端面を押し当てた状態を示し、(B)は、防汚パネル部材の係合部を他の防汚パネル部材の受部と嵌合させて、チタンシート要素同士を面接触させて通電可能に接続した様子を示す。
【図6】海水路にスタート部材を取り付けた様子を示す図解図である。
【図7】海水路に防汚パネル部材を取り付けて防汚パネルを形成していく様子を示す図解図である。
【図8】防汚パネル部材同士を連結して、海水路に固定した様子を示す断面図である。
【図9】防汚パネル部材の固定に用いるボルトを利用して陰極バーを設置する様子を示す断面図であり、(A)は、陰極バーの設置前の様子を示し、(B)は、陰極バーの設置後の様子を示す。
【図10】この発明の防汚パネル部材の他の実施例を示す図解図である。
【図11】図10の防汚パネル部材が備える部材本体を示す断面図である。
【図12】図10の防汚パネル部材が備える蓋を示す断面図である。
【図13】図10の防汚パネル部材を示す断面図である。
【図14】図10の防汚パネル部材の溝部を利用して陰極側導電体および陰極バーを設置する様子を示す図解図である。
【図15】図10の防汚パネル部材の溝部を利用して陰極側導電体および陰極バーを設置する様子を示す断面図である。
【図16】この発明のさらに他の実施例である防汚パネル部材同士を連結した様子を示す断面図である。
【図17】この発明のさらに他の実施例である防汚パネル部材同士を連結した様子を示す断面図である。
【図18】この発明のさらに他の実施例である防汚パネル部材を示す斜視図である。
【図19】図18の防汚パネル部材が備える部材本体を示す断面図である。
【図20】図18の防汚パネル部材が備える蓋を示す断面図である。
【図21】図18の防汚パネル部材同士を連結するときの様子を示す断面図であり、(A)は、部材本体同士を連結した様子を示し、(B)は、連結した部材本体に蓋を装着して、チタンシート要素同士を面接触させて通電可能に接続した様子を示す。
【発明を実施するための形態】
【0044】
図1および図2を参照して、この発明の一実施例である防汚パネル部材(以下、単に「パネル部材」という。)10は、海水に接する構造物の壁面にイガイやフジツボ等の海生生物が付着することを防止する防汚システム100に用いられる。この実施例では、防汚システム100(パネル部材10)をコンクリート製ボックスカルバート型の海水路102に適用した例を示す。
【0045】
防汚システム100では、海水路102の底面、側面および天面のそれぞれに対して、複数のパネル部材10を連結して構成される防汚パネル12が取り付けられる。そして、防汚パネル12の表面に形成されるチタンシート(陽極シート)14に対して、外部に設置された直流電源装置16の正極を接続して微弱電気を流すことによって、海水を電気分解して酸素を発生させる。発生した酸素は、バクテリアの栄養素となる有機物を分解するので、防汚システム100では、バクテリアの繁殖を抑制でき、バクテリアの繁殖によるスライム層の形成、それに伴う藻類の付着および海生生物の付着を防止できる。
【0046】
以下、図3および図4を参照して、パネル部材10の構成について説明する。図3および4に示すように、パネル部材10は、基板20およびそれに貼り付けられる陽極シート要素22を備え、たとえば海水路102の管軸方向(流水方向)に連結されて防汚パネル12を形成する。また、陽極シート要素22同士が通電可能に接続されることにより、チタンシート14を形成する。
【0047】
パネル部材10の連結方向の長さは、たとえば30cmに設定される。また、パネル部材10の幅方向の長さは、海水路102の底面および天面の幅、或いは側面の高さに合わせて設定され、たとえば100−400cmに設定される。つまり、海水路102の底面、側面および天面のそれぞれは、管軸方向に1列に連結されたパネル部材10によって覆われる。
【0048】
基板20は、絶縁性を有する材質、たとえば塩化ビニル樹脂やポリオレフィン樹脂等の合成樹脂によって形成され、押し出し成形や射出成形などを利用して製作される。基板20の肉厚は、たとえば5mmに設定される。基板20は、平板状に形成される平板部24を含み、平板部24の連結方向の一方端(第1端)26および他端(第2端)28は、互いに平行して、幅方向に対して直線状に延びる。平板部24の一方端26には、窪み部(第1窪み部)30および係合部(第1嵌合部)32が幅方向の全長に亘って形成される。
【0049】
窪み部30は、略J字状の断面形状を有しており、平板部24の一方端26裏面側から他端28の反対方向に向かって突出して、その先端部分は上方へ向かって湾曲する。また、窪み部30の先端には、係り部34が形成され、窪み部30の底壁には、複数の貫通孔(固定具取付部)36が幅方向に所定の間隔を隔てて設けられる。ただし、貫通孔36は、施工時に穿孔されてもよい。この貫通孔36は、パネル部材10を海水路102の壁面にアンカ止めする際に利用される。また、係合部32は、窪み部30の根元部分から他端28の反対方向に向かって突出するように形成され、略三角形状の断面形状を有する。
【0050】
一方、平板部24の他端28には、受部(第2嵌合部)38が幅方向の全長に亘って形成される。受部38は、平板部24の他端28と一体となって、横向きに開口する略U字状の断面形状を有するように形成される。また、受部38よりも一方端26側の平板部24の裏面には、平板部24からほぼ直角に突出する係止部40が形成される。係止部40の先端には、係り部42が形成される。
【0051】
また、平板部24の裏面には、複数の突起部44が所定の間隔毎に幅方向の全長に亘って設けられる。突起部44は、略T字状や略L字状などの断面形状を有し、係止部40と窪み部30との間に設けられる。この突起部44は、必ずしも必要ではないが、突起部44を形成することによって平板部24を補強できる。また、突起部44は、たとえば海水路102の各壁面と防汚パネル12との間にモルタル等の充填材を注入する場合には、充填材に嵌まって投錨効果を示し、海水路102の各壁面と防汚パネル12とを強固に一体化させる機能を有する。
【0052】
このような基板20の表面側には、エポキシ樹脂などを主成分とする絶縁性の接着剤を用いて陽極シート要素22が貼り付けられる。陽極シート要素22は、チタンによって薄膜状に形成されるシート、フィルム或いは板であって、その厚みは、たとえば0.3mmである(以下、「チタンシート要素22」と言う)。具体的には、チタンシート要素22は、平板部24の表面全体を覆い、かつその端部が係合部32の上面および受部28の内面まで延びるように基板20に貼り付けられる。つまり、チタンシート要素22は、平板部24の表面全体を覆うだけでなく、係合部32と受部38とを嵌合させたときに圧接する部分である、平板部24の一方端26および他端28の端面全体、係合部32の上面全体、および受部38の内面上部全体も覆うように基板20に貼り付けられる。
【0053】
なお、チタンシート要素22の表面は、白金や白金ルテニウム合金などの白金族金属の電気的触媒(図示せず)で被覆しておくことが好ましい。電気的触媒でチタンシート要素22の表面を被覆することによって、塩素の発生を抑制しながら、酸素を効率よく発生させることができる。
【0054】
上述のような構成のパネル部材10同士を連結するときには、図5に示すように、窪み部30の上方を平板部24の他端28側の部分によって覆うようにして、隣り合うパネル部材10の係合部32と受部38とを嵌合させる。すなわち、先行するパネル部材10(平板部24)の一方端26の端面に対して、後続するパネル部材10の他端28の端面を押し当てる。そして、上から下に押し込むようにして、先行パネル部材10の係合部32を後続パネル部材10の受部38に挿入して嵌合させ、先行パネル部材10の係り部34と後続パネル部材10の係り部42とを係止させる。このとき、先行パネル部材10の一方端26の端面および係合部32の上面を覆うチタンシート要素22と、後続パネル部材10の他端28の端面および受部38の内面上部を覆うチタンシート要素22とは、互いに押し合うようにして面接触する。つまり、隣り合うチタンシート要素22同士は、その端部全体が剛性を有する基板20によって均一に押し付けられて(圧接して)面接触するので、隣り合うチタンシート要素22間(延いてはチタンシート14)の通電性は、安定的に確保される。このように、パネル部材10では、係合部32と受部38とを嵌合させるだけで、隣り合うチタンシート要素22同士が通電可能に接続される。しかも、チタンシート要素22の端部全体が基板20によって均一に押し付けられて面接触するので、アンカボルト等で一部分のみを押さえ付けることと比較して、形成されたチタンシート14は、長期間に亘って安定的に通電性を確保できる。
【0055】
続いて、防汚システム100(パネル部材10)の海水路102への設置方法について説明する。海水路102の壁面へのパネル部材10の取り付けは、海水路102の底面、側面および天面のいずれから開始しても構わないが、図6および7では、海水路102の底面にパネル部材10を取り付ける様子を示している。
【0056】
図6に示すように、先ず、ステンレス製の帯状板などによって形成される陰極側導電体(陰極側の配線)50を海水路102の管軸方向に対して設置し、その後、海水路102の底面にスタート部材52を取り付ける。スタート部材52は、上述の基板20から窪み部30を含む一方端26側の部分のみを切り離したものである。スタート部材52を取り付けるときには、先ず、スタート部材52の取り付け位置に埋め込みアンカ54(図8参照)を施工する。そして、スタート部材52に形成された各貫通孔を介して、埋め込みアンカ54にボルト56を取り付けることによって、スタート部材52を海水路102の底面に固定する。なお、スタート部材52およびそれに続くパネル部材10を海水路102の各壁面に取り付ける際には、ゴム等によって形成されるスペーサ58(図8参照)を介して取り付けるようにしてもよい。このスペーサ58は、たとえば海水路102の各壁面と防汚パネル12との間に充填材を注入する場合に、充填材の通り道となる空間を確保する。
【0057】
続いて、図5に示した連結方法と同様にして、スタート部材52に対してパネル部材10を連結すると共に、パネル部材10の窪み部30の底壁を埋め込みアンカ54およびボルト56によってアンカ止めして、パネル部材10を海水路102の底面に固定する。その後、図7に示すように、順次、パネル部材10を連結してアンカ止めしていくことによって、施工部分の全域に亘って防汚パネル12を形成していく。この際、ボルト56の頭部は、図8に示すように、パネル部材10の窪み部30および平板部24の他端28側の部分によって形成される空間内に収容される。つまり、パネル部材10の表面からアンカ止め用のボルト56が突出しないので、表面が平滑な防汚パネル12が形成される。また、上述のように、パネル部材10同士を連結するだけで、隣り合うチタンシート要素22同士が通電可能に接続され、防汚パネル12の表面全体を覆うチタンシート14が形成される。
【0058】
また、防汚パネル12を形成する際には、2枚のパネル部材10に対して1つ程度の割合で、ステンレス等によって棒状に形成される陰極バー(陰極部材)60を設置する。この実施例では、陰極バー60の設置には、窪み部30およびアンカ止め用のステンレス製のボルト56を利用する。すなわち、図9(A)に示すように、陰極バー60を設置しようとする位置にあるボルト56の頭部に対して、予めねじ穴62を形成しておくと共に、その上を覆う平板部24には、貫通孔64を形成しておく。また、パネル部材10をアンカ止めする際には、ステンレス製の帯状板などによって形成される陰極側導電体50を同時に設置しておく(図2参照)。この陰極側導電体50は、海水路102の管軸方向に対して予め設置しておいた陰極側導電体50と接続される。そして、図9(B)に示すように、パネル部材10(防汚パネル12)の取り付け終了後の適宜なときに、ボルト56のねじ穴62を利用して陰極バー60を設置する。この際には、陰極バー60の先端は、海水を効率よく電気分解できるように、パネル部材10の表面から数cm程度突出するようにされる。ただし、陰極バー60は、必ずしもパネル部材10の表面から突出させる必要はなく、また、必ずしも設ける必要もない。
【0059】
海水路102の底面へのパネル部材10(防汚パネル12)の取り付けが終わると、同様にして、海水路102の側面および天面にもパネル部材10を取り付ける。その後、必要に応じて、海水路102の各壁面と防汚パネル12との間にモルタル等の充填材を注入し、海水路102の各壁面と防汚パネル12とを強固に一体化させる。また、防汚パネル12の表面に形成されたチタンシート12には、外部に設置された直流電源装置16の正極を接続し、陰極側導電体50には、直流電源装置16の負極を接続する。
【0060】
この実施例によれば、チタンシート要素22が嵌合部(係合部32および受部38)まで延びるように基板20に貼り付けられるので、嵌合部を嵌合することにより、隣り合うチタンシート要素22の端部同士が基板20によって均一に押し付けられて面接触する。したがって、隣り合うチタンシート要素22間(延いてはチタンシート14)の通電性が、長期間に亘って安定的に確保される。また、隣り合うチタンシート要素22間の安定した通電性を確保するために、スポット溶接を行う必要性が生じないので、取り付け作業が容易になると共に施工工数が低減され、コストダウンを図ることができる。
【0061】
また、アンカ止めに使用するボルト56の頭部が、形成した防汚パネル12の表面から突出しないので、施工後の水の流れの阻害が軽減されると共に、景観も向上する。
【0062】
次に、図10−図13を参照して、この発明の他の実施例であるパネル部材10の構成について説明する。なお、図10に示すパネル部材10は、図3に示すパネル部材10の平板部24に対して溝部を形成し、この溝部に蓋を装着するものである。これ以外の部分に関しては、図3に示すパネル部材10と基本的構成がほぼ同じであるので、共通する部分については同じ番号を付し、重複する説明は省略または簡略化する。
【0063】
図10−図13に示すように、この実施例のパネル部材10は、部材本体70および蓋72を含む。部材本体70は、図3に示すパネル部材10とほぼ同じであるが、部材本体70の基板20には、第1窪み部として機能する窪み部30の他に、第2窪み部として機能する溝部74が平板部24に対して形成される。溝部74は、一方端26から他端28の間の任意の位置で平板部24の幅方向の全長に亘って延び、平板部24よりも窪む略U字状に形成される。溝部74の側壁内面のそれぞれには、係り部76が形成される。また、部材本体70に貼り付けられるチタンシート要素22は、2つに分割されている。その1つは、一方端26側の平板部24の表面全体を覆い、かつその端部が係合部32の上面および係り部76の上面まで延びるように基板20に貼り付けられる。また他の1つは、他端28側の平板部24の表面全体を覆い、かつその端部が受部28の内面および係り部76の上面まで延びるように基板20に貼り付けられる。
【0064】
蓋72は、部材本体70の溝部74の上方全体を覆って、パネル部材10の表面の平滑性および通電性を保つものである。蓋72は、矩形平板状の板状部78を含む。板状部78の裏面には、斜め方向に立ち上がる2つの突片が形成され、これらの突片と板状部78の端部とが一体となって、横方向に開口する2つの係止部80が形成される。また、板状部78の表面には、チタンシート要素22が貼り付けられ、チタンシート要素22の端部は、板状部78の連結方向の端部裏面、つまり係止部80まで延びる。
【0065】
図13に示すように、部材本体70に蓋72を装着するときには、部材本体70の係り部76と蓋72の係止部80とを嵌合させて固定する。すると、部材本体70の2つのチタンシート要素22と蓋72のチタンシート要素22とは、その端部同士が互いに押し合うようにして面接触する。これによって、パネル部材10全体として、表面を覆うチタンシート要素22の通電性が安定的に確保される。
【0066】
図10に示すパネル部材10を海水路102へ取り付けるときは、図3に示すパネル部材10と同様にして、部材本体70を海水路102の壁面に固定する。すなわち、窪み部30の上方を平板部24の他端28側の部分によって覆うようにして、隣り合う部材本体70の係合部32と受部38とを嵌合させて連結し、窪み部30においてアンカ止めする。蓋72は、適宜なときに装着するとよい。
【0067】
図10に示すパネル部材10においても同様に、隣り合うパネル部材10の係合部32および受部38の嵌合によって、隣り合うチタンシート要素22の端部同士が均一に押し付けられて面接触するので、隣り合うチタンシート要素22間(延いてはチタンシート14)の通電性が、長期間に亘って安定的に確保される。また、アンカ止めに使用するボルト56の頭部が、形成した防汚パネル12の表面から突出しないので、施工後の水の流れの阻害が軽減されると共に、景観も向上する。
【0068】
ただし、図10に示すパネル部材10では、陰極側導電体50および陰極バー60の設置の仕方が、図3に示すパネル部材10と異なる。すなわち、図10に示すパネル部材10では、図14および15に示すように、部材本体70の溝部74を利用して陰極側導電体50および陰極バー60を設置する。たとえば、蓋72には、陰極バー60を突出させるための貫通孔82を形成しておく。また、棒状の陰極バー60には、陰極側導電体50を押さえるための鍔部84を形成すると共に、下部に雄ねじ86を形成しておく。そして、鍔部84と雄ねじ86に取り付けたナット88とを用いて、溝部74に配置した陰極側導電体50および溝部74の底部を挟み込むようにして、溝部74に陰極バー60を固定するとよい。ただし、陰極バー60の形状および固定方法は、これに限定されるものでない。たとえば、陰極バー60の下部に雄ねじを形成しておき、2つのナットで挟みこむようにして溝部74に陰極バー60を固定するようにしてもよい。また、たとえば、溝部74の底壁自体にねじ孔(穴)を形成しておき、そのねじ孔を利用して溝部74に陰極バー60を固定するようにしてもよい。
【0069】
なお、溝部74への陰極側導電体50および陰極バー60の設置は、部材本体70を海水路102に取り付ける前、取り付けるとき、或いは取り付けた後のいずれに行ってもよい。たとえば、溝部74に予め陰極バー60を固定しておき、複数の部材本体70を海水路102に取り付けた後に、溝部74を通る陰極側導電体50を陰極バー60に対して接続するようにしてもよい。また、たとえば、溝部74に陰極側導電体50および陰極バー60の双方を予め固定しておき、その部材本体70を海水路102に取り付けていくようにしてもよい。さらに、たとえば、複数の部材本体70を海水路102に取り付けた後に、溝部74に陰極側導電体50および陰極バー60を固定するようにしてもよい。
【0070】
このように、図10に示すパネル部材10によれば、部材本体70の溝部74を利用して陰極側導電体50および陰極バー60を設置できる。この場合には、複数の部材本体70(防汚パネル12)を海水路102に取り付けた後に、陰極側導電体50を設置することもできるので、施工の自由度が増し、施工も容易となる。
【0071】
なお、図10に示すパネル部材10は、単独で使用することもできるが、図3に示すパネル部材10と組み合わせて使用することもできる。上述のように、陰極バー60は、2枚のパネル部材10に対して1つ程度の割合で設置されるので、たとえば、図3に示すパネル部材10と図10に示すパネル部材10とを交互に配置して、図10に示すパネル部材10の溝部74を利用して陰極側導電体50および陰極バー60を設置するようにするとよい。
【0072】
なお、上述の各実施例では、平板部24の一方端26に形成した窪み部30においてアンカ止めするようにしたが、パネル部材10の固定方法はこれに限定されない。また、平板部24の一方端26および他端28に形成される嵌合部(図3および図10に示す実施例では係合部32および受部38)の嵌合構造も、これに限定されない。
【0073】
たとえば、図16に示す実施例のように、平板部24の一方端には、裏面から横方向に延びる挿入部(第1嵌合部)90を形成し、平板部24の他端には、平板部24の端部と一体となって横向きに開口する略U字状の受部(第2嵌合部)92を形成する。そして、これら挿入部90と受部92との嵌合によって、隣り合うチタンシート要素22の端部同士を面接触させて通電可能に接続することもできる。この場合には、平板部24の適宜な位置においてアンカ止めすることによってパネル部材10を海水路102に固定し、陰極側導電体50は、平板部24の裏面側の空間を通るように設置するとよい。
【0074】
また、たとえば、図17に示す実施例のように、平板部24の一方端の端面に鋸刃状の突起部(第1嵌合部)94を形成し、平板部24の他端の端面にそれに対応する受部(第2嵌合部)96を形成する。そして、これら突起部94と受部96との嵌合によって、隣り合うチタンシート要素22の端部同士を面接触させて通電可能に接続することもできる。この場合には、たとえば平板部24の裏面側に溝部98を形成しておき、その溝部98を通るように陰極側導電体50を設置するとよい。また、平板部24の適宜な位置においてアンカ止めすることによってパネル部材10を海水路102に固定するとよい。
【0075】
なお、図示は省略するが、図16および図17に示すような嵌合構造を有するパネル部材10においても、図10に示すパネル部材10と同様に、平板部24に対して溝部74を形成し、この溝部74を蓋72で覆うようにしてもよい。この場合には、溝部74は第1窪み部として機能し、溝部74を陰極側導電体50および陰極バー60の設置やアンカ止めに利用できる。また、平板部24に対して2列の溝部74を形成するようにし、2列の溝部74のそれぞれに対して蓋72を装着するようにしてもよい。この場合には、たとえば、一方の溝部74をアンカ止めに利用し、他方の溝部74を陰極側導電体50および陰極バー60の設置に利用することができる。つまり、一方の溝部74が第1窪み部として機能し、他方の溝部74が第2窪み部として機能する。
【0076】
なお、上述の各実施例では、窪み部30および溝部74(第1窪み部および第2窪み部)を基板20の幅方向の全長に亘って形成するようにしたが、これに限定されず、幅方向に部分的に形成することもできる。
【0077】
また、上述の各実施例では、嵌合部の嵌合によって隣り合うチタンシート要素22の端部同士を面接触させて通電可能に接続するようにしたが、この際には、チタンシート要素22の端部表面(つまり接触部分)に対して、通電性接着剤を塗布するようにしてもよい。これによって、隣り合うチタンシート要素22の端部同士は、より強固に接続され、腐食にも強くなるので、より長期に亘って確実にチタンシート14の通電性を保つことができる。このことは、溝部74の上方を蓋72で覆う場合も同様であり、チタンシート要素22の端部表面に対して通電性接着剤を塗布するとよい。
【0078】
さらに、上述の各実施例では、基板20が有する第1嵌合部および第2嵌合部(係合部32および受部38など)を嵌合することによって、隣り合うチタンシート要素22の端部同士を通電させるようにしたが、これに限定されず、図18−21に示すパネル部材10のように、蓋を介して、隣り合うパネル部材10のチタンシート要素の端部同士を通電させることもできる。
【0079】
以下、図18−図21を参照して、この発明の他の実施例であるパネル部材10の構成について説明する。なお、図18に示すパネル部材10は、隣り合うパネル部材10のチタンシート要素の端部同士を蓋を介して通電させる以外の部分に関しては、図3や図10に示すパネル部材10と基本的構成およびその作用効果が共通するので、重複する説明は省略または簡略化する。
【0080】
図18に示すように、この実施例のパネル部材10は、部材本体110および蓋112を備える。また、部材本体110は、図19に示すように、絶縁性を有する材質によって形成される基板114、およびそれに貼り付けられるチタンシート要素116を備える。
【0081】
基板114は、平板状に形成される平板部120を含む。平板部120の連結方向の一方端(第1端)122および他端(第2端)124は、互いに平行して、幅方向に対して直線状に延びる。平板部120の一方端122および他端124のそれぞれには、窪み部126,128が幅方向の全長に亘って形成される。
【0082】
一方端122に形成される窪み部(第1窪み部)126は、略J字状の断面形状を有しており、平板部120の一方端122裏面側から他端124の反対方向に向かって突出して、その先端部分は上方へ向かって湾曲する。ただし、窪み部126(後述する窪み部128も同様)の形状はこれに限定されず、たとえば先端部分が上方に湾曲しない形状(略L字状)に形成されてもよい。窪み部126の先端には、受部(第1嵌合部)130が幅方向の全長に亘って形成される。受部130は、窪み部126の先端部と一体となって、横向きに開口する略U字状の断面形状を有するように形成される。また、窪み部126の底壁には、複数の貫通孔132が幅方向に所定の間隔を隔てて設けられる。この貫通孔132は、パネル部材10を海水路102の壁面にアンカ止めする際に利用される。さらに、窪み部126の根元部分には、略三角形状の断面形状を有する係り部134が幅方向の全長に亘って形成される。
【0083】
一方、他端124に形成される窪み部(第2窪み部)128は、略J字状の断面形状を有しており、平板部120の一方端124裏面側から一方端122の反対方向に向かって突出して、その先端部分は上方へ向かって湾曲する。窪み部128の先端には、受部130と嵌合する係合部(第2嵌合部)136が形成される。係合部136は、窪み部128の先端から一方端122の反対方向に向かって延びるように形成される。なお、これら受部130および係合部136は、主として、パネル部材10同士を連結する際の位置決めに利用されるので、厳密に密着して嵌り合う必要はなく、その嵌合構造も特に限定されない。たとえば、受部130および係合部136は、互いに当接するものでもよい。窪み部128の根元部分には、略三角形状の断面形状を有する係り部138が幅方向の全長に亘って形成される。
【0084】
また、チタンシート要素116は、平板部120の表面全体を覆い、かつその端部が各係り部134,138の上面まで延びるように基板114に貼り付けられる。つまり、チタンシート要素116は、平板部120の表面全体を覆うだけでなく、係り部134,138と後述する蓋112の係止部142とを嵌合させたときに圧接する部分である、平板部120の一方端122および他端124の端面全体、および係り部134,138の上面全体も覆うように基板114に貼り付けられる。
【0085】
蓋112は、部材本体110同士を連結した後に、各窪み部126,128の上方全体を覆って、形成した防汚パネル12の表面の平滑性および通電性を保つものである。図20に示すように、蓋112は、矩形平板状の板状部140を含む。板状部140の裏面には、斜め方向に立ち上がる2つの突片が形成され、これらの突片と板状部140の端部とが一体となって、横方向に開口する2つの係止部142が形成される。また、板状部140の表面には、チタンシート要素144が貼り付けられ、チタンシート要素144の端部は、板状部140の連結方向の端部裏面、つまり係止部142まで延びる。さらに、蓋112には、陰極バーを突出させるための貫通孔(図示せず)が適宜形成される。
【0086】
図18に示すパネル部材10同士を連結して海水路に取り付ける際には、図21(A)に示すように、先ず、部材本体110同士を順次連結して固定していく。つまり、先行する部材本体110を海水路に固定した後、隣り合う部材本体110の受部130と係合部136とを嵌合させることによって、後続する部材本体110を位置決めする。そして、位置決めした状態で、窪み部126の貫通孔132を利用して、後続する部材本体110をアンカ止めする。この際には、適宜、窪み部128を利用して陰極側導電体および陰極バーを設置するとよい。ただし、窪み部126を陰極側導電体および陰極バーの設置に利用し、窪み部128をアンカ止めに利用することもできる。
【0087】
そして、アンカ止めや陰極側導電体および陰極バーの設置を行った後の適宜なときに、図21(B)に示すように、連結した部材本体110に蓋112を装着する。すなわち、隣り合う部材本体110の窪み部126,128の上方を覆うようにして、部材本体110の係り部134,138と蓋112の係止部142とを嵌合させて固定する。このとき、隣り合うチタンシート要素116,144同士は、その端部全体が剛性を有する基板114および板状部140によって均一に押し付けられて面接触するので、隣り合うチタンシート要素116,144間(延いてはチタンシート14)の通電性は、安定的に確保される。なお、チタンシート要素116,144の端部表面に対して通電性接着剤を塗布すれば、より安定的に通電性を確保できる。
【0088】
このように、図18に示すパネル部材10によれば、連結した部材本体110に蓋112を装着するだけで、蓋112のチタンシート要素144の端部と、隣り合う部材本体110のチタンシート要素116の端部のそれぞれとが通電可能に接続される。しかも、チタンシート要素116,144の端部全体が、基板114および板状部140によって均一に押し付けられて面接触するので、形成されたチタンシート14は、長期間に亘って安定的に通電性を確保できる。また、図18に示すパネル部材10によれば、複数の部材本体110を海水路に取り付けた後に、陰極側導電体などを設置することもできるので、施工の自由度が増し、施工も容易となる。
【0089】
なお、上述の各実施例では、海水路102の管軸方向(流水方向)にパネル部材10を連結して防汚パネル12を形成するようにしたが、海水路102の周方向にパネル部材10を連結することもできる。また、パネル部材10(防汚システム100)は、海水と接する壁面であればどこに適用してもよく、たとえば、上方が解放された溝型の海水路(開水路)に適用することもできるし、橋脚や海岸壁に適用することもできる。さらに、適用する壁面が湾曲面であれば、その曲率に対応した曲板状にパネル部材10を形成することもできる。
【0090】
また、上述の各実施例では、陽極シート要素22(陽極シート14)の材質としてチタンを採用し、陰極側導電体50および陰極バー60の材質としてステンレスを採用したが、海水を電気分解して酸素を発生できるならば、これらの材質は適宜変更しても構わない。ただし、腐食に対する耐性を有することが好ましい。
【0091】
さらに、上で挙げた寸法などの具体的数値はいずれも単なる一例であり、製品の仕様などの必要に応じて適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0092】
10 …防汚パネル部材
12 …防汚パネル
14 …チタンシート(陽極シート)
16 …直流電源装置
20 …基板
22 …チタンシート要素(陽極シート要素)
24 …平板部
26 …平板部の連結方向の一方端(第1端)
28 …平板部の連結方向の他端(第2端)
30 …窪み部(第1窪み部)
32 …係合部(第1嵌合部)
36 …貫通孔(固定具取付部)
38 …受部(第2嵌合部)
50 …陰極側導電体
60 …陰極バー(陰極部材)
72 …蓋
74 …溝部(第1窪み部,第2窪み部)
100 …防汚システム
102 …海水路
110 …部材本体
112 …蓋
114 …部材本体の基板
116 …部材本体のチタンシート要素(陽極シート要素)
134,138 …部材本体の係り部
140 …蓋の板状部
142 …蓋の係止部
144 …蓋のチタンシート要素(陽極シート要素)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海水と接する壁面に取り付けられて、前記海水の電気分解によって酸素を発生させて海生生物の付着を防止する防汚パネルを形成する、防汚パネル部材であって、
絶縁材によって形成される基板、および
前記基板に貼り付けられる陽極シート要素を備え、
前記基板は、
第1端および第2端を有する平板状に形成される平板部、
前記第1端に形成される第1嵌合部、および
前記第2端に形成され、隣り合う前記第1嵌合部と嵌合する第2嵌合部を含み、
前記陽極シート要素は、
前記平板部の表面側を覆い、かつ端部が前記第1嵌合部および前記第2嵌合部の少なくとも一部まで延びるように前記基板に貼り付けられ、前記第1嵌合部と前記第2嵌合部とを嵌合させたときに、隣り合う前記陽極シート要素の端部と面接触して通電可能に接続される、防汚パネル部材。
【請求項2】
前記基板は、
第1窪み部、および
前記第1窪み部の底壁に形成される固定具取付部をさらに含み、
前記第1窪み部の上方は、平面部を有する部材によって覆われる、請求項1記載の防汚パネル部材。
【請求項3】
前記第1窪み部は、前記第1端に形成され、
前記第1窪み部を覆う平面部を有する部材は、隣り合う防汚パネルであって、
前記第1嵌合部と前記第2嵌合部とを嵌合させたときに、隣り合う前記平板部の端部によって前記第1窪み部の上方が覆われる、請求項2記載の防汚パネル部材。
【請求項4】
前記第1窪み部は、前記第1端と前記第2端との間に形成され、
前記第1窪み部を覆う平面部を有する部材は、絶縁材によって形成される板状部を有する蓋であって、
前記第1窪み部は、前記蓋を装着するための係り部を有し、
前記陽極シート要素は、端部が前記係り部の少なくとも一部まで延びるように前記基板に貼り付けられ、
前記蓋の前記板状部は、前記第1窪み部の係り部と嵌合する係止部を有し、当該板状部の表面側を覆いかつ端部が当該係止部の少なくとも一部まで延びるように陽極シート要素が貼り付けられ、当該係り部と当該係止部とを嵌合させたときに、陽極シート要素の端部同士が面接触して通電可能に接続される、請求項2記載の防汚パネル部材。
【請求項5】
前記第1窪み部に設けられる陰極部材をさらに備える、請求項2ないし4のいずれかに記載の防汚パネル部材。
【請求項6】
前記基板は、前記第1端と前記第2端との間に形成される第2窪み部をさらに含み、
前記第2窪み部の上方は、平面部を有する部材によって覆われる、請求項2ないし4のいずれかに記載の防汚パネル部材。
【請求項7】
前記第2窪み部に設けられる陰極部材をさらに備える、請求項6記載の防汚パネル部材。
【請求項8】
前記第2窪み部を覆う平面部を有する部材は、絶縁材によって形成される板状部を有する蓋であって、
前記第2窪み部は、前記蓋を装着するための係り部を有し、
前記陽極シート要素は、端部が前記係り部の少なくとも一部まで延びるように前記基板に貼り付けられ、
前記蓋の前記板状部は、前記第2窪み部の係り部と嵌合する係止部を有し、当該板状部の表面側を覆いかつ端部が当該係止部の少なくとも一部まで延びるように陽極シート要素が貼り付けられ、当該係り部と当該記係止部とを嵌合させたときに、陽極シート要素の端部同士が面接触して通電可能に接続される、請求項6または7記載の防汚パネル部材。
【請求項9】
海水と接する壁面に取り付けられて、前記海水の電気分解によって酸素を発生させて海生生物の付着を防止する防汚パネルを形成する、防汚パネル部材であって、
絶縁材によって形成される基板を有する部材本体、および絶縁材によって形成される板状部を有する蓋を備え、
前記部材本体の基板は、
第1端および第2端を有する平板状に形成される平板部、
前記第1端に形成される第1窪み部、
前記第2端に形成される第2窪み部、
前記第1窪み部および前記第2窪み部のそれぞれに形成される係り部、
前記第1窪み部の端部に形成される第1嵌合部、および
前記第2窪み部の端部に形成され、隣り合う前記第1嵌合部と嵌合する第2嵌合部を含み、
前記蓋の板状部は、
前記部材本体の前記係り部のそれぞれと嵌合する係止部を含み、
前記部材本体の基板には、前記平板部の表面側を覆い、かつ端部が前記係り部のそれぞれの少なくとも一部まで延びるように陽極シート要素が貼り付けられ、
前記蓋の板状部には、当該板状部の表面側を覆い、かつ端部が前記係止部の少なくとも一部まで延びるように陽極シート要素が貼り付けられ、
前記係り部と前記係止部とを嵌合させたときに、前記蓋の板状部によって前記第1窪み部および前記第2窪み部の上方が覆われると共に、前記蓋の陽極シート要素の端部と、隣り合う前記部材本体の陽極シート要素の端部のそれぞれとが面接触して通電可能に接続される、防汚パネル部材。
【請求項10】
海水と接する壁面を有する構造物であって、
請求項1ないし9のいずれかに記載の防汚パネル部材を連結して形成した防汚パネルを前記壁面に設置した、構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2012−184599(P2012−184599A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−48851(P2011−48851)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(505142964)クボタシーアイ株式会社 (192)
【出願人】(000211891)株式会社ナカボーテック (42)