説明

防汚・抗菌剤、防汚・抗菌剤組成物および防汚・抗菌処理方法

【課題】環境に配慮し、優れた防汚・抗菌効果をもたらす新規な防汚・抗菌剤、防汚・抗菌性塗装材および防汚処理方法を提供すること。
【解決手段】防汚・抗菌性を有する第4級アンモニウム塩および重合体の存在下に、フリーラジカル発生剤を加熱分解させて得られた生成物を含有することを特徴とする防汚・抗菌剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防汚、抗菌、殺菌、防カビ性(以下「防汚・抗菌性」と総称する。)を有する防汚・抗菌剤、該防汚・抗菌剤を含む組成物および基材の防汚・抗菌処理方法に関する。
【0002】
さらに詳しくは、防汚・抗菌性を有する第4級アンモニウム塩および重合体の存在下、フリーラジカル発生剤を加熱分解させることで得られた生成物を含有する防汚・抗菌剤、防汚・抗菌剤組成物および基材の防汚・抗菌処理方法に関する。
【背景技術】
【0003】
海水中にはフジツボ類、コケムシ類、セルブラ類、ほや類など非常に多くの水棲生物植物や海藻類が生息している。これら水棲生物類が船舶の航行中や停泊中、補修中に船底面や船側面に固着し、水との摩擦抵抗によって航行速度の低下や燃料の消費も増し、また、補修の頻度も増え、経済的にも多大な損失を被るなどの色々な弊害をもたらしている。また、海洋魚類の養殖場においても隔離網に同様に海洋生物が付着し、網の開口部の減少による新鮮な海水の流入などが妨げられ、養殖魚の生育に弊害となっている。
【0004】
これら水棲生物類の付着を防止するための船底防汚塗料として錫化合物や銅化合物を含む塗料が使用されてきた。しかしながら、それらの錫化合物や銅化合物は海水中に溶出し、環境の汚染や魚、貝、海藻などへの汚染をもたらし、それらを食料とする人達にも汚染が広がり、健康を阻害するなどの大きな社会問題になってきている。
【0005】
また、日常の社会生活環境においても病院、公共施設や公衆便所などや居住環境、特に台所、風呂、便所などの建造物や住宅などの水周り個所に発生するカビなどの生物的汚れに対する抗菌性塗布材料として、また、衛生性の維持のための抗菌処理や殺菌処理のために多くの無機系および有機系の抗菌剤が使用されている。
【0006】
しかしながら、従来から使用されている金属イオン系の抗菌剤は少なからず毒性を有し、大量使用による金属の蓄積に起因する生態系などの環境への影響が問題になっている。また、有機系としてカチオン系やノニオン系の界面活性剤、特に第4級アンモニウム塩系のカチオン界面活性剤も用いられているが、水溶性塩であり、消毒液としては使用されるものの、耐水性のある持続型の防汚・抗菌剤としては使用できない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って本発明の目的は、環境への汚染や人の健康を阻害しない難溶性の有機物質を使用し、十分な持続性を有する防汚・抗菌剤の提供およびそれらの含む防汚・抗菌剤組成物および基材の防汚・抗菌処理方法などを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記問題点を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、防汚・抗菌性を有する第4級アンモニウム塩および重合体の存在下、フリーラジカル発生剤を加熱分解させることで得られた生成物を含有する塗膜から、水中で防汚・抗菌性成分が溶出し、防汚・抗菌性を長期間にわたって持続する効果を見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、防汚・抗菌性を有する第4級アンモニウム塩および重合体の存在下に、フリーラジカル発生剤を加熱分解させて得られた生成物を含有することを特徴とする防汚・抗菌剤を提供する。
なお、本発明においては、「防汚・抗菌」または「「防汚性・抗菌性」とは、「防汚性、抗菌性、殺菌性および防カビ性」を意味する。
【0010】
上記本発明においては、前記アンモニウム塩が、テトラ(C1〜C30)アンモニウム塩、トリ(C1〜C30)−フェニルアンモニウム塩、トリ(C1〜C30)−ベンジルアンモニウム塩および(C1〜C30)−ピリジニウム塩からなる群から選ばれるアンモニウム塩であること;前記重合体が、ハロゲン基および/または酸無水物基を有する単量体単位を有する重合体であること;前記重合体が、クロルメチルスチレン、γ−クロロ−β−ヒドロオキシ−n−プロピル(メタ)アクリレート、無水マレイン酸および/または無水イタコン酸単位を有する重合体であることが好ましい、
なお、上記において「(C1〜C30)基」は、炭素数が1〜30である同一あるいは異なる脂肪族炭化水素基および脂環式炭化水素基を示す。また、フェニル基、ベンジル基、ピリジニウム基は置換基を有する基を含む。以下においても同様である。
【0011】
また、本発明は、前記本発明の防汚・抗菌剤に希釈媒体および/または塗膜形成材料を配合してなることを特徴とする防汚・抗菌性組成物を提供する。ここで、前記塗膜形成材料が、反応性基を有してもよい単量体、オリゴマー、重合体および/または架橋剤を含有する皮膜形成材料であることが好ましい。
【0012】
また、本発明は、前記本発明の防汚・抗菌剤あるいは前記本発明の防汚・抗菌性組成物を基材に塗布、噴霧または含浸し、必要によりさらに網状化処理することを特徴とする基材の防汚・抗菌処理方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
従来、防汚塗料や抗菌、殺菌処理剤などに使用されてきた重金属イオン系の防汚剤や抗菌剤は少なからず毒性を有して生態系への影響が問題になっている。また、水溶性の第4級アンモニウム塩は耐水性のある持続型の防汚剤や抗菌剤としては使用できない。
【0014】
それに対して本発明の防汚・抗菌剤は、防汚・抗菌性を有する第4級アンモニウム塩および重合体の存在下、フリーラジカル発生剤を加熱分解させることで得られた生成物を含有するものを防汚・抗菌剤にしたものであり、水中に浸漬されていても第4級アンモニウムカチオンが結合状態で、あるいは徐々に放出されることによって、長期間にわたって有効に水棲生物の忌避作用をもたらし、水棲生物の着生を減少させるものと思われる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に発明を実施するための最良の形態を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。本発明で使用される第4級アンモニウム化合物カチオンとしては、自身防汚・抗菌性を有するアンモニウムカチオン、あるいは防汚・抗菌性基が直接あるいは連結基を介してアンモニウム窒素に結合しているアンモニウムカチオンが挙げられる。
【0016】
アンモニウムカチオンの例としては、テトラ(C1〜C30)−アンモニウムカチオン、例えば、トリ(C1〜C3)モノ(C4〜C30)アンモニウムカチオン、ジ(C1〜C3)ジ(C4〜C30)アンモニウムカチオン、モノ(C1〜C3)トリ(C4〜C30)アンモニウムカチオン、テトラ(C4〜C30)アンモニウムカチオンなど;トリ(C1〜C30)−フェニルアンモニウムカチオン、例えば、ジ(C1〜C3)モノ(C4〜C30)フェニルアンモニウムカチオン、モノ(C1〜C3)ジ(C4〜C30)フェニルアンモニウムカチオン、トリ(C4〜C30)−フェニルアンモニウムカチオンなどからなる群が挙げられる。
【0017】
さらに、トリ(C1〜C30)−ベンジルアンモニウムカチオン、例えば、ジ(C1〜C3)モノ(C4〜C30)ベンジルアンモニウムカチオン、モノ(C1〜C3)ジ(C4〜C30)ベンジルアンモニウムカチオン、トリ(C4〜C30)ベンジルアンモニウムカチオンなど;ピリジニウムカチオン、例えば、ジ(C1〜C30)ピリジニウムカチオン、モノ(C1〜C30)ベンジルピリジニウムカチオンなどからなる群が挙げられ、上記群と合わせた群から選ばれる第4級アンモニウムカチオンなどが挙げられる。
【0018】
なお、上記において(C1〜C30)、(C1〜C3)、(C4〜C30)は、それぞれ炭素数が1〜30、1〜3あるいは4〜30である脂肪族炭化水素基、炭素数4以上の場合はさらに脂環式炭化水素基、炭素数6以上の場合はさらに芳香族炭化水素基を含む。また、「テトラ−、トリ−、ジ−」の炭素数は同一でも、また異なってもよい。フェニル基、ベンジル基およびピリジニウム基はアルキル基、ハロゲン基、ニトロ基などの誘導基を有してもよい。特に断らない限り、以下においても同様である。上記の中でも、炭化水素基として炭素数が12、14、16のアルキル基を有するアンモニウムカチオンが好ましく、また、それにベンジル基を併せ有するアンモニウムカチオンも好ましい。
【0019】
本発明に使用される重合体としては、反応性ハロゲンを有する単量体単位および/または酸無水物基を有する単量体単位を有する重合体が挙げられる。具体的には、クロルメチルスチレン、γ−クロロ−β−ヒドロオキシ−n−プロピル(メタ)アクリレートなどの単量体単位を有する重合体であり、また、無水マレイン酸、無水イタコン酸などの単量体単位を有する重合体が挙げられる。
【0020】
本発明に使用される重合体の重合方法としては、公知の重合方法、例えば、溶液重合、乳化重合、懸濁重合、ソープフリー重合がすべて使用できる。重合媒体も有機溶剤、水−有機溶剤混合溶媒、水が選ばれる。
【0021】
本発明の第4級アンモニウム塩および重合体の存在下、フリーラジカル発生剤を反応させる方法としては、重合体の溶液あるいは分散液中に第4級アンモニウム塩を溶解させ、フリーラジカル発生剤を溶解させ、次いでフリーラジカル発生剤の分解温度に加熱しつつ反応させる方法である。反応媒体は、有機溶剤、水−有機溶剤混合溶媒、水などに適切に選択される。反応の際に、重合体、第4級アンモニウム塩あるいはフリーラジカル発生剤は全量添加でも分割添加でも、あるいは長時間をかけて滴下して添加する方法も使用される。
【0022】
反応温度は使用されるフリーラジカル発生剤の分解温度に依存するが、通常のラジカル重合に使用される反応温度である60〜90℃位が反応条件、特に反応媒体の選定あるいは反応の温度制御などの面から好ましい。
【0023】
本発明に使用されるフリーラジカル発生剤としては、公知のアゾ系フリーラジカル発生剤および過酸化物系フリーラジカル発生剤が挙げられる。アゾ系フリーラジカル発生剤としては、具体的には2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、ジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタノイックアシッド)などが挙げられる。
【0024】
過酸化物フリーラジカル発生剤としては、具体的には、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、p−クロルベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロルベンゾイルパーオキサイドなどのジアシルパーオキサイド系、t−ブチルパーイソブチレート、t−ブチルパー2−エチルヘキサノエートなどのパーエステル系、1,1−ジ−t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ジ−t−ブチルパーオキシ−シクロヘキサンなどのジアルキルパーオキサイド系などの過酸化物が挙げられる。
【0025】
本発明の第4級アンモニウム塩と重合体の共存下でのフリーラジカル発生剤による反応生成物の生成メカニズムの解析は難しいが、フリーラジカル発生剤の作用としては、フリーラジカルがアンモニウム塩および重合体に作用し、脱塩素反応、水素引抜き反応、メチル基の離脱反応などによりアンモニウム塩および重合体にフリーラジカルが形成され、さらにそれらのラジカルの再結合反応によりアンモニウム塩と重合体との結合が形成されるものと推測される。さらに並行して起こり得る反応として、第4級アンモニウム塩の触媒作用として反応性ハロゲン基を有する重合体に対して脱ハロゲン反応も推測される。また、酸無水物が開環し、カルボン酸基を生成した場合には該カルボン酸基は第4級アンモニウムカチオンと水不溶性ないし難溶性の塩を形成する。
【0026】
本発明の防汚・抗菌剤を構成するアンモニウム塩と重合体との反応生成物において、アンモニウム塩の含有量は反応が達成されるように設計すべきで、必要以上に上げる必要はないが、防汚・抗菌剤効果の持続性の観点からはアンモニウム塩の含有量の高い方が望ましい。また、コーティング剤などの組成物中の含有量は皮膜形成材料との対比、塗膜厚などによってもコントロールできるので、防汚・抗菌剤中のアンモニウム塩の含有量は高い方が望ましい。
【0027】
アンモニウム塩と重合体との反応生成物は、溶解する溶剤に溶解させて使用することが好ましい。溶剤溶液あるいは溶剤−水混合溶媒溶液、特にアルコール系溶媒、水−アルコール系の混合溶剤に溶解して塗装液の溶剤あるいは混合溶剤として使用し、単独にか、必要に応じて非反応性重合体、網状構造を形成し得る反応性重合体および/または架橋剤からなる塗膜形成材料を配合して塗装液とする。反応型の塗装液は基材に塗布して後、網状化させることが好ましい。
【0028】
単独であるいは架橋剤の作用により網状化をもたらす反応性共単量体として、メチロール(メタ)アクリルアミド、アルコキシ(C1〜C4)メチル(メタ)アクリルアミド、グリシジル(メタ)アクリレート、マレイン酸無水物など;架橋剤の作用により網状化をもたらす反応性単量体として、ヒドロキシアルキル(C2〜C6)(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸、マレイン酸など公知の反応性単量体が挙げられる。
【0029】
架橋剤としては、従来公知の架橋剤、例えば、ヘキサメチロールメラミン、ヘキサメトキシメチルメラミンなどのアミノ樹脂初期縮合物、トリメチロールプロパン−トリ(トリレンジイソシアネート)アダクト、トリメチロールプロパン−トリ(イソホロンジイソシアネート)アダクトなどのポリイソシアネート化合物、モノ〜ポリアルキレン(C2〜C6)グリコールジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、ビスフェノールA−ジグリシジルエーテル、それらのオリゴマーなどのポリエポキシ化合物などが使用される。
【0030】
本発明の防汚・抗菌性組成物(塗装材)は、防汚・抗菌剤が塗膜表面に露出する状態を形成する塗料として使用することが好ましい。例えば、防汚・抗菌剤を塗膜形成材料中に高濃度に添加すること、防汚・抗菌剤が相溶しないようにして塗膜中で相分離させて高濃度の膜部分をつくること、防汚・抗菌剤が微粒子の場合は粒径を比較的大きくすることなどが挙げられる。船底防汚塗料などでは塗膜形成材料として徐々に表面から溶解していく自己研磨(セルフ・ポリシング)型の樹脂系を使用すると、塗膜中の防汚・抗菌剤を順次表面に露出させることができるので好ましい。
【0031】
本発明の防汚・抗菌剤を構成する塗膜形成材料としては、公知の樹脂材料が使用できる。樹脂の分類からは、例えば、合成ゴム樹脂、アクリル樹脂、ビニル樹脂、塩化ゴム樹脂、アルキッド樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ系樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂などの塗膜形成材料および紫外線硬化性樹脂系、電子線硬化性樹脂系などのエネルギー線硬化性塗膜形成材料などが挙げられる。上記した防汚・抗菌性塗装材において、防汚・抗菌剤(A)のみの使用を含め、防汚・抗菌剤(A)と塗膜形成材料(B)との配合質量比は、A:B=100:0〜5:95であり、防汚・抗菌剤が塗膜表面に高密度に露出させることが好ましい。
【0032】
本発明の防汚・抗菌剤を基材に塗布、噴霧または含浸し、あるいは基材に混練または内添することにより基材を抗菌処理し、防汚・抗菌処理基材が得られる。本発明の防汚・抗菌剤は従来の防汚塗料と同様の用途、例えば、海洋航行船舶の海水中に没する船底面や船側面の塗装に、また、海洋魚類の養殖場においても隔離網などの広範な用途で使用できる。
【0033】
さらに、病院、公共施設や公衆便所など、居住環境、特に台所、風呂、便所などの建造物や住宅などの水周り個所の防汚・抗菌性塗布材料として、エアコンディショナー、空気浄化装置などの電気機器や台所用品などの日常生活の衛生性維持のための防汚・抗菌処理や殺菌などの広範な用途で使用できる。また、日常生活で、不特定多数の人の触れるいろいろな物品、例えば、書籍、雑誌類、ノート、パンフレット、記録用紙、印刷や加工される前の紙類の防汚・抗菌処理、表紙への密着カバーフィルムや被覆カバー類など、また、食材や食品などの細菌類の汚染が懸念される食料品などの包装材やラップ類などの保存用軟包装材などに対する防汚・抗菌処理用や殺菌処理用としても使用できる。
【0034】
防汚・抗菌処理をする素材および物品は、特に限定されるものではなく、例えば、合成樹脂成型品、金属製品、木材製品、ガラス製品、スレートボード、繊維、不織布紙などが挙げられる。合成樹脂素材としてはポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、合成ゴム、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、ナイロン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂などの公知の樹脂が挙げられる。合成繊維素材としては、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリアクリロニトリル繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維などの公知の繊維が挙げられる。
【実施例】
【0035】
次に実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、文中、「部」または「%」とあるのは質量基準である。
[合成例1]
(1)加熱装置としてのウオーターバス、撹拌機、液滴下装置および逆流冷却器を備えた反応装置を準備し、反応容器に無水マレイン酸24.52g、クロルメチルスチレン38.16gおよび酢酸ブチル259.5gを仕込み、攪拌し、溶解した。反応溶液を70℃に加温し、アゾビスイソブチロニトリル1.0gを添加し、攪拌して8時間重合反応させた。
【0036】
(2)別に、テトラデシルジメチルベンザルコニウム塩酸塩26.7をアセトン106.8gに溶解させた。上記(1)で得られた重合体溶液を100g分取し、上記ベンザルコニウム塩のアセトン溶液を添加し、攪拌しながら徐々に70℃に加熱し、アゾビスイソブチロニトリル1.0gを添加し、攪拌して1晩反応させた。反応後酢酸ブチルを主体とする反応溶剤を溜去、乾燥させた後、メタノールに再溶解し、水中に滴下して樹脂分を析出させ、濾過、水洗した。含水樹脂分を70℃で1晩乾燥し、「アンモニウム塩結合重合体−1」を得た。
【0037】
[合成例2]
合成例1(1)で得られた重合体溶液を100g分取し、反応容器に仕込んだ。別に、テトラデシルジメチルベンザルコニウム塩酸塩26.7をアセトン106.8gに溶解させ、また、過酸化ベンゾイル9.23gを酢酸ブチル175.37gに溶解させた。上記ベンザルコニウム塩のアセトン溶液を添加し、攪拌した。次いで0℃に冷却し、過酸化ベンゾイル溶液を0℃にて6時間かけて滴下、添加し、さらに一晩攪拌を継続した。反応後、酢酸ブチルを主体とする反応溶剤を溜去し、乾燥させて後、メタノールに再溶解し、水中に滴下して樹脂分を析出させ、濾過、水洗した。含水樹脂分を70℃で1晩乾燥し、「アンモニウム塩結合重合体−2」を得た。
【0038】
[実施例1](防汚性塗装板の調製)
合成例で得られたアンモニウム塩結合重合体の海洋水棲生物防汚剤としての性能を評価するために防汚性塗装板を調製する。合成例1で得られたアンモニウム塩結合重合体−1の50gを酢酸ブチル100gに溶解させ、下記の固着用塩化ビニル−ビニルイソブチルエーテル共重合体(BASF社製、商品名ラロフレックスMP35)25g/ロジン25g(荒川化学工業社製、商品名ロジンWW)混合樹脂の酢酸ブチル溶液100g(固形分50%)と混合(固形分質量比;1:1)した。そこへ酢酸ブチル83gを加え、固形分30%に調整し、防汚塗料を調製した。
【0039】
防錆処理を施した試験用鋼板の周囲の上下左右および中央に境界を作り、それぞれ約1cmの幅でエポキシ系下塗り塗料を塗布し、保護面と境界を作った。その下半分に上記の防汚塗料を厚く塗布して常温下で10日間乾燥した。塗膜の厚みはほぼ110〜130μmであった。上半分は下記比較例1で示すように比較用の塩化ビニル−ビニルイソブチルエーテル共重合体/ロジン樹脂を塗布した。得られた塗板は、以下防汚性塗装板−1と称する。
【0040】
また、上記の試験用鋼板はテストパネル社製の中目両面サンドプラスト鋼板(幅×長さ×厚さ:70×150×1mm)にタールエポキシ系の下塗り塗料を乾燥後で約150μmで塗布し、風乾して準備した。
【0041】
[比較例1]
実施例1で調製した各塗板上の区分した上半分に、防汚性能の比較のために実施例1に記載の塩化ビニル−ビニルイソブチルエーテル共重合体/ロジン樹脂塗料を塗布し、常温下で10日間乾燥した。塗膜の厚みはほぼ110〜130μmであった。実施例2においても同様に上下に分けて塗布し、比較した。
【0042】
[実施例2](防汚性塗装板の調製)
実施例1で述べた塗料の調製方法および塗装方法に従い、合成例2で得られたアンモニウム塩結合重合体−2を使用し、固着用塩化ビニル−ビニルイソブチルエーテル共重合体/ロジン樹脂(固形分質量比;1:1)とを組み合わせた塗料を作成して下半分に塗装し、上半分には比較例1の塗料を塗布して、防汚性塗装板−2を調製した。膜厚はほぼ110〜130μmであった。
【0043】
[試験方法および塗装鋼板浸漬試験結果]
(1)試験方法
試験用塗装鋼板の海水浸漬試験は内湾の比較的海水流の少ない、幼魚の成育場に隣接する場所で、魚の餌が投与されることから栄養分の多い環境である。水温は凡そ25〜28℃、COD濃度は4〜10mg/Lを示した。COD濃度については瀬戸内海の比較的海水のきれいなところで1〜2mg/L、港の中など水の色が緑から黄色に見えるところでは3〜5mg/Lと言われている。実施例1および2、および比較例1で調製した塗装した試験用鋼板をポリ塩化ビニル製の枠に上下固定して吊るした。ポリ塩化ビニル製枠を海面より1〜2mの深さに浸漬した。6週間にわたって1週間ごとに試験用鋼板を上げて試験用鋼板の上半分、下半分のフジツボの付着状態を観察し、状態の変化を評価した。
【0044】
(2)状態観察の結果および評価
アンモニウム塩結合重合体を使用していない塗板がフジツボの付着は時間と共に進み塗板に強固に付着して脱落しなかったのに対し、防汚性塗装板−1および防汚性塗装板−2のいずれもフジツボの付着が著しく遅くなることが認められ、徐放性防汚塗料としての機能を有していると判断された。
【0045】
[実施例3]
ガラスシャーレを150℃で24時間加熱処置した後、紫外線ランプを点灯させたクリーンベンチ内で保管した。ガラスシャーレの底面に幅5mmのテープで、50mm角の正方形にマスキングした。このマスキングした内側に上記合成例1(2)で得られたアンモニウム塩結合重合体−1の30%酢酸ブチル溶液を流し込んでキャスト膜(50mm角)を作製した。別に、比較のために上記合成例1(1)で得られたベンザルコニウム塩を反応させていない重合体溶液を使用して同様にキャスト膜を調製した。キャスト膜の乾燥はクリーンベンチ内で行い、紫外線ランプを照射し続けた。膜が乾燥した後、JIS Z 2801に従って抗菌試験を行った。
【0046】
ベンザルコニウム塩を反応させていないキャスト膜は大腸菌のコロニーが多数確認できるが、アンモニウム塩結合重合体−1のキャスト膜には、全く観察されなかった。
【0047】
[実施例2]
実施例1と同様にして、ガラスシャーレの底面に50mm角の正方形にマスキングした内側に上記合成例2で得られたアンモニウム塩結合重合体−2の酢酸ブチル溶液を流し込んでキャスト膜(50mm角)を作製した。キャスト膜はクリーンベンチ内で紫外線ランプを照射し、乾燥した。乾燥した膜を、JIS Z 2801に従って抗菌試験を行った。アンモニウム塩結合重合体−2のキャスト膜には、合成例1の重合体膜と同様に全く観察されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
従来から防汚塗料に使用されてきた錫化合物や銅化合物の忌避作用は、それらのイオンが徐々に溶出して水棲生物に作用し、忌避あるいは死滅させる作用である。本発明の防汚・抗菌剤は、第4級アンモニウム塩および重合体の存在下、フリーラジカル発生剤を加熱分解させることで得られた生成物を含有する新規な防汚・抗菌剤である。
【0049】
本発明の防汚・抗菌剤は、従来の防汚塗料と同様の用途、例えば、海洋航行船舶の海水中に没する船底面や船側面の塗装や海洋魚類の養殖場においても隔離網などの防汚塗料の用途に使用できる。
【0050】
また、本発明の防汚・抗菌剤は、病院、公共施設や公衆便所などの多くに人が利用する社会生活上の衛生環境の管理、維持のため、また、建造物や住宅などで洗濯場、洗い場、流し、洗面所、風呂場などの水周り個所などの居住環境におけるカビなどの生物的汚れに適用される。また、日常生活で、不特定多数の人の触れるいろいろな物品の衛生処理として、例えば、書籍、ノート、パンフレット、記録用紙などに直接防汚・抗菌処理、それに加工される前の紙類の防汚・抗菌処理、表紙への密着カバーフィルムや被覆カバー類など、また、食材や食品などの細菌類の汚染が懸念される食料品などの包装材やラップ類などの保存用軟包装材などに対する防汚・抗菌処理用や殺菌処理用としても使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
防汚・抗菌性を有する第4級アンモニウム塩および重合体の存在下に、フリーラジカル発生剤を加熱分解させて得られた生成物を含有することを特徴とする防汚・抗菌剤。
【請求項2】
前記アンモニウム塩が、テトラ(C1〜C30)アンモニウム塩、トリ(C1〜C30)−フェニルアンモニウム塩、トリ(C1〜C30)−ベンジルアンモニウム塩および(C1〜C30)−ピリジニウム塩からなる群から選ばれるアンモニウム塩である請求項1に記載の防汚・抗菌剤。
【請求項3】
前記重合体が、ハロゲン基および/または酸無水物基を有する単量体単位を有する重合体である請求項2に記載の防汚・抗菌剤。
【請求項4】
前記重合体が、クロルメチルスチレン、γ−クロロ−β−ヒドロオキシ−n−プロピル(メタ)アクリレート、無水マレイン酸および/または無水イタコン酸単位を有する重合体である請求項3に記載の防汚・抗菌剤。
【請求項5】
請求項1に記載の防汚・抗菌剤に希釈媒体および/または塗膜形成材料を配合してなることを特徴とする防汚・抗菌性組成物。
【請求項6】
前記塗膜形成材料が、反応性基を有してもよい単量体、オリゴマー、重合体および/または架橋剤を含有する皮膜形成材料である請求項5に記載の防汚・抗菌性組成物。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の防汚・抗菌剤あるいは請求項5または6に記載の防汚・抗菌性組成物を基材に塗布、噴霧または含浸し、必要によりさらに網状化処理することを特徴とする基材の防汚・抗菌処理方法。

【公開番号】特開2009−102315(P2009−102315A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−259831(P2008−259831)
【出願日】平成20年10月6日(2008.10.6)
【出願人】(591039425)高知県 (51)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【Fターム(参考)】