説明

防汚加工製品及びその製造方法

【課題】焦げ付き防止効果に優れ、焦げ付き防止効果が長期間にわたって持続し、かつ付着した焦げ付きを容易に取り除くことができる防汚コーティング膜を備えた防汚加工製品、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】金属基体と、前記金属基体の表面に形成された防汚コーティング膜と、を含み、金属基体は、アルミニウムまたは亜鉛を形成材料とし、防汚コーティング膜は、金属基体上に形成され珪酸アルカリを含む第1層と、第1層上に形成されるとともにジルコニウム酸化物、イットリウム酸化物、ハフニウム酸化物および希土類酸化物から選ばれた少なくとも1種を含む第2層と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防汚加工製品及びその製造方法に関し、特に、基体がアルミニウムまたは亜鉛であり、焦げ付き防止効果、焦げ付き防止効果の持続性に優れ、また焦げ付きが製品基体表面に固着しても容易に取り除くことが可能であり、また耐食性、高温耐久性に優れた防汚加工製品及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム等の汚れの清掃性を改善する方法としては親水性のコーティング処理が有効であった。例えば特許文献1には、珪素成分およびジルコニウム成分と水とを含有する親水性膜形成用塗料を基材に塗布し、これを水和反応で硬化させて皮膜とする親水性膜の形成方法が記載されており、この皮膜に珪酸イオンなどを含む水溶液を塗布すると水和反応がさらに促進され、硬化が促進されると記載されている。
【0003】
また、高温で使用されるオーブンの内壁には焦げ付き防止コーティング膜が形成されていた。焦げ付き防止コーティング膜としては、例えば、フッ素系やシリコーン系の撥水性樹脂膜が用いられ、さらに、高温や傷に対応する必要がある場合にはホーロー処理が採用されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第03/080744号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の背景技術に係る焦げ付き防止コーティング膜にあっては、次のような問題点があった。
例えば、オーブンの内壁をアルミニウムまたは亜鉛にすると、その金属光沢による熱反射によってオーブンの熱効率が好転する。しかし、無垢のアルミニウムまたは亜鉛では、アルカリ洗剤などの薬品に弱いため美観が損失しやすく、食物が焦げ付いた場合にはなかなか除去し難いという問題があった。
【0006】
特許文献1に開示された親水性のコーティング処理では、最外層が珪酸イオンを含む層であるために、オーブンの内壁のような焦げ付きの発生する部分に使用した場合、この珪酸イオンが食物の焦げ付きと強固に結合し、焦げ付きの除去が出来なくなるという問題が発生していた。
また、オーブン内壁に撥水性樹脂を塗布すると、アルミニウムまたは亜鉛の金属光沢による熱反射が阻害される。さらに、撥水性樹脂自身が傷つきやすい上、300℃以上の高温に耐えられないという問題があった。
一方、ホーロー処理の場合は、耐熱性と傷つきにくさにおいては問題ないが、焦げ付きが落ち難く、アルミニウムまたは亜鉛の金属光沢による熱反射を阻害するという問題があった。
このように、アルミニウムまたは亜鉛の熱反射を損なわず、かつ傷つき難く、酸アルカリによる劣化を抑え、食物等の被加熱物を焦げ付きにくくする方法は未だなかった。
【0007】
本発明は、上記の背景技術が有する問題点に鑑みてなされたものであり、基体がアルミニウムまたは亜鉛であり、焦げ付き防止効果に優れ、焦げ付き防止効果が長期間にわたって持続し、かつ付着した焦げ付きを容易に取り除くことができ、耐食性、高温耐久性に優れる防汚コーティング膜を備えた防汚加工製品及びその製造方法を提供することを目的の一つとしている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の防汚加工製品は、上記課題を解決するために、金属基体と、前記金属基体の表面に形成された防汚コーティング膜と、を含み、前記金属基体は、アルミニウムまたは亜鉛を形成材料とし、前記防汚コーティング膜は、前記金属基体上に形成され珪酸アルカリを含む第1層と、前記第1層上に形成されるとともにジルコニウム酸化物、イットリウム酸化物、ハフニウム酸化物および希土類酸化物から選ばれた少なくとも1種を含む第2層と、を有することを特徴とする。
【0009】
また、前記第2層には、ジルコニウム酸化物、イットリウム酸化物、ハフニウム酸化物および希土類酸化物から選ばれた少なくとも1種が70質量%以上含まれることが好ましい。
【0010】
本発明の防汚加工製品の製造方法は、アルミニウムまたは亜鉛を形成材料とする金属基体の表面上に、珪酸アルカリを含む塗布液を塗布し、熱処理を施して、その熱処理生成物からなる第1層を形成する工程と、前記第1層上に、ジルコニウム、イットリウム、ハフニウムおよび希土類元素から選ばれた少なくとも1種の成分のゾル、アルコキシド及びその部分加水分解生成物、並びに塩から選ばれた少なくとも1種を含む塗布液を塗布し、熱処理を施して、その熱処理生成物からなる第2層を形成する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の防汚加工製品は、優れた焦げ付き防止効果を有し、優れた焦げ付き防止効果が長期間にわたって持続し、焦げ付きを簡単な操作で容易に取り除くことができる。このため固着した焦げ付きを取り除くために強い薬品や、研磨剤は不要であり、労力を削減し、環境への負荷も小さいという効用を有する。
さらに、本発明の防汚加工製品をオーブン等に使用した場合、アルミニウムまたは亜鉛を形成材料とする金属基体の反射を損なわず、オーブン等の熱効率の向上させることができ、かつ傷つき難く、酸アルカリによる劣化を抑え、美観を損なわないという効果を有する。また、熱伝導性が優れるというアルミニウム、亜鉛の特性を活かすことが出来る。
また、本発明の防汚加工製品の製造方法は、上記の効果を奏する防汚加工製品を簡便にかつ効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施形態に係る防汚加工製品の断面構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0014】
「防汚加工製品」
まず、防汚加工製品の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態である防汚加工製品10の断面構造を示す図である。
図1に示すように、本実施形態の防汚加工製品10の特徴は、アルミニウム製または亜鉛製の製品基体11の表面上に形成された第1層21と、この第1層21上に形成された第2層22とからなる2層構造の防汚コーティング膜20を有していることにある。
【0015】
さらに具体的に、第1層21は、珪酸アルカリ(アルカリ金属の珪酸塩)を含む被膜形成物質からなり、第2層22は、ジルコニウム酸化物、イットリウム酸化物、ハフニウム酸化物および希土類酸化物の中から選ばれた少なくとも1種の成分を含む被膜形成物質からなるものである。
また、アルミニウムまたは亜鉛製の製品基体11には、格別の制限はなく、アルミニウム、アルミニウム合金、アルマイト、亜鉛、亜鉛めっき鋼板等のアルミニウムまたは亜鉛製品を包含する。また、製品基体11の形状も特に制限されず、バルク状の成形体であってもよく、板状や線状のものであってもよい。また、防汚加工製品10とは、例えば、フライパン、鍋類、オーブン、グリル用トレイ、調理器具の部品を包含するものとする。
【0016】
第1層21は、珪酸アルカリを含む膜である。第1層21の膜中の珪酸アルカリの含有量は、珪素成分として二酸化珪素(SiO)換算で60質量%以上95質量%以下であることが好ましい。より好ましくは70質量%以上95質量%以下の範囲である。珪素成分の含有量が二酸化珪素換算で60質量%未満の場合、第1層21が水蒸気によって溶解する虞があり、95質量%を超える場合、膜に亀裂が発生しやすくなる虞がある。
【0017】
アルカリ成分の含有量は酸化物換算で5質量%以上40質量%以下であることが好ましい。より好ましくは10質量%以上25質量%以下の範囲である。アルカリ成分の含有量が酸化物換算で5質量%未満である場合、膜に亀裂が発生しやすくなる虞があり、40質量%を超える場合、水蒸気によって溶解する虞がある。
【0018】
アルカリ成分としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウムのアルカリ金属成分が用いられる。中でも、ナトリウム、リチウムが好ましく、さらには、ナトリウムとリチウムを併用することが好ましい。
【0019】
アルカリ成分として、ナトリウムおよびリチウムを含む場合、第1層21の膜中での珪酸アルカリは、珪素成分が、SiO換算で、70質量%以上95質量%以下、ナトリウム成分が、NaO換算で4.5質量%以上20質量%以下、リチウム成分が、LiO換算で、0.5質量%以上10質量%以下の範囲が好適である。なお、上記範囲においてナトリウム成分およびリチウム成分を合計したアルカリ成分の含有量は酸化物換算で5質量%以上30質量%以下が好ましい。
【0020】
珪素成分が、SiO換算で70質量%未満であると、コーティングの耐蒸気性が不足し、95質量%を超えると塗装性が悪化する。
ナトリウム成分が、NaO換算で20質量%を超えるとコーティングの耐アルカリ性、耐酸性が不足し、2質量%未満であると塗装性が悪化する。
リチウム成分が、LiO換算で10%を超えるとコーティングの耐アルカリ性が悪化し、0.5%未満であるとコーティングの耐酸性が悪化する。
【0021】
第2層22は、ジルコニウム酸化物、イットリウム酸化物、ハフニウム酸化物および希土類酸化物の中から選ばれた少なくとも1種の金属酸化物を含む。第2層22の膜中におけるこれらの金属酸化物からなる成分の合計が、70質量%以上であることが好ましい。
これらの成分の含有量が70質量%未満である場合、防汚コーティング膜20において十分な焦げ付き防止効果が得られず、また防汚加工製品10の熱反射性が低下する傾向がある。
【0022】
ジルコニウム酸化物、イットリウム酸化物、ハフニウム酸化物および希土類酸化物から選ばれる2種以上の金属酸化物を含む組成とする場合には、ジルコニウム酸化物を含む組成とすることが好ましい。この場合に、ジルコニウム酸化物と他の酸化物(イットリウム酸化物、ハフニウム酸化物および希土類酸化物)との含有割合は、これら金属酸化物の合計のうち、ジルコニウム酸化物を30質量%以上100質量%以下の範囲で含むことが好ましい。さらにジルコニウム酸化物を50質量%以上100質量%以下の範囲で含むことが好ましい。ジルコニウム酸化物の含有量が30質量%未満である場合、膜の強度が弱くなる虞がある。
これらの金属酸化物以外の成分について特に制限するものではないが、第2層22はシリカ(シリコン酸化物)を含まない組成とすることが好ましい。
【0023】
各層の役割は以下の通りである。
まず、最外層の第2層22から述べる。第2層22の役割は食物の焦げ付きの防止と反射低下の防止である。ここで、第2層22にシリカ成分が含まれていると、食物が焦げ付きやすくなるため、第2層22におけるシリカ成分の含有量は極力少なくする必要があり、実質的にシリカを含まない被膜とすることが好ましい。第2層22の構成材料として好適な材料は、先に記載のように、ジルコニウム酸化物、イットリウム酸化物、ハフニウム酸化物および希土類酸化物である。これら成分は、焦げ付きにくいだけでなく、シリカよりも屈折率が大きいため光線を反射しやすく、オーブンの内壁材として好適に用いることができる防汚加工製品10とすることができる。
【0024】
次に、第1層21の役割は、アルミニウムまたは亜鉛からなる製品基体11の傷つき防止と、酸、アルカリ、熱水による劣化防止である。珪酸アルカリを含む酸化物の層は硬く、しかも、アルミニウムイオンまたは亜鉛イオンと反応して緻密な保護膜を形成する。しかし、このような第1層21は焦げ付きやすいため、本実施形態の防汚コーティング膜20では第2層22によって表面を被覆している。
【0025】
防汚コーティング膜20における各層の厚さとしては、第1層21を100nm以上1000nm以下、第2層22を10nm以上200nm以下とするのが好ましい。
第1層21が100nmを下回ると十分な傷つき防止効果と腐食防止効果が得られず、1000nmを超えると亀裂が生じやすくなる。また、第2層22が10nmを下回ると所望の焦げ付き防止効果が得られず、200nmを超えると亀裂が生じやすくなる。防汚コーティング膜20において亀裂が生じると、コーティングの透明さが損なわれ、熱反射性も損なわれる。
【0026】
「防汚加工製品の製造方法」
次に、本発明の防汚加工製品10の製造方法の一実施形態について説明する。
本実施形態の防汚加工製品10の製造方法は、製品基体11(アルミニウムまたは亜鉛基体)の表面上に、珪酸アルカリを含む塗布液を塗布し、熱処理して、その熱処理生成物からなる第1層21を形成する工程と、さらに、第1層21上に、ジルコニウム、イットリウム、ハフニウムおよび希土類元素から選ばれた少なくとも1種の成分のゾル、アルコキシド及びその部分加水分解生成物、並びに塩から選ばれた少なくとも1種を含む塗布液を塗布し、これを熱処理して、その熱処理生成物からなる第2層22を形成する工程と、を含んで構成されている。ここでは、第2層22の形成材料である塗布液として、ジルコニウムを含むものとして説明する。
【0027】
第1層21を形成する塗布液中に含まれる珪酸アルカリとしては、特に制限されるものではなく、アルカリ金属を含む珪酸アルカリを用いることができる。その中でも、珪酸ナトリウム、珪酸リチウムを用いるのが好ましく、さらに珪酸ナトリウムと珪酸リチウムの両方を含んだ塗布液を用いることが好ましい。
溶媒としては、水が好ましく、塗布方法に応じて固形分1%以上20%以下の範囲で調整するのが好ましい。
【0028】
第2層22を形成する塗布液中に含まれるジルコニウムのゾルとしては、特に制限されるものではないが、粒子径5nm以下のジルコニア微粒子を用いることが、焼結性からみて好ましい。例えば、住友大阪セメント社製のジルコニアゾル「ナノジルコニア分散液」を好適に使用することができる。
【0029】
また、ジルコニウムのアルコキシドとしては、これの加水分解物あるいはキレート化合物も用いることができる。上記のジルコニウムアルコキシドとしては、特に制限されるものではないが、例えば、ジルコニウムテトラノルマルブトキシド、ジルコニウムテトラプロポキシドを例示することができる。これらジルコニウムテトラノルマルブトキシドやジルコニウムテトラプロポキシドは、適度な加水分解速度を有し、しかも、取り扱い易いので膜質が均一な薄膜を形成することができる。
【0030】
さらに、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物としては、特に制限されるものではないが、例えば、ジルコニウムテトラノルマルブトキシドの加水分解物、ジルコニウムテトラプロポキシドの加水分解物を例示することができる。この加水分解物の加水分解率としては、特に制限はなく、0モル%超〜100モル%の範囲内のものを使用することができる。
【0031】
ところで、これらジルコニウムアルコキシドやジルコニウムアルコキシドの加水分解物は、吸湿性が高く不安定であり、貯蔵安定性も充分でないので、取り扱う際には、非常に注意を要する。
そこで、さらに取り扱いの容易さの点では、これらジルコニウムアルコキシドやジルコニウムアルコキシドの加水分解物をキレート化したジルコニウムアルコキシドのキレート化合物、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物のキレート化合物が好ましい。
【0032】
ジルコニウムアルコキシドのキレート化合物としては、ジルコニウムアルコキシドと、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のエタノールアミン、アセチルアセトン等のβ−ジケトン、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、マロン酸ジエチル、フェノキシ酢酸エチル等のβ−ケト酸エステル、酢酸、乳酸、クエン酸、安息香酸、リンゴ酸等のカルボン酸の群から選択される1種または2種以上の加水分解抑制剤(化合物)との反応生成物を例示することができる。
ここで、加水分解抑制剤とは、ジルコニウムアルコキシドとキレート化合物を形成し、このキレート化合物の加水分解反応を抑制する作用を有する化合物のことである。
【0033】
また、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物のキレート化合物としては、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物と、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のエタノールアミン、アセチルアセトン等のβ−ジケトン、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、マロン酸ジエチル、フェノキシ酢酸エチル等のβ−ケト酸エステル、酢酸、乳酸、クエン酸、安息香酸、リンゴ酸等のカルボン酸の群から選択される1種または2種以上の加水分解抑制剤(化合物)との反応生成物を例示することができる。
加水分解抑制剤の定義は、上述した通りである。
【0034】
この加水分解抑制剤の、ジルコニウムアルコキシドまたはジルコニウムアルコキシドの加水分解物に対する割合は、このジルコニウムアルコキシドまたはジルコニウムアルコキシドの加水分解物に含まれるジルコニウムの0.5モル倍以上4モル倍以下が好ましく、より好ましくは1モル倍以上3モル倍以下の範囲である。
【0035】
加水分解抑制剤の上記ジルコニウム量に対する割合が0.5モル倍よりも少ないと、塗布液の安定性が不充分なものとなる。一方、加水分解抑制剤の上記割合が4モル倍を超えると、熱処理を施した後においても加水分解抑制剤が薄膜中に残留し、その結果、薄膜の硬度が低下することになる。
【0036】
これらジルコニウムアルコキシドのキレート化合物、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物のキレート化合物としては、ジルコニウムアルコキシドまたはジルコニウムアルコキシドの加水分解物を溶媒中に溶解し、さらに加水分解抑制剤を添加し、得られた溶媒中にてキレート化反応を生じさせたものであってもよい。
【0037】
さらに、第2層22の形成に用いる塗布液を構成しうるジルコニウム塩としては、硝酸塩、塩化物、酢酸塩等を用いることができる。
これらが含まれる塗布液の溶媒としては、有機溶剤もしくは水を用いることができ、有機溶剤としては、アルコール類、ケトン類、エステル類等を用いることができる。
塗布液は、塗布方法に応じて固形分1%以上20%以下の範囲で調整するのが好ましい。
【0038】
以下、本実施形態の防汚加工製品10の製造手順をより詳細に説明する。
まず、第1層形成用塗布液を製品基体11(アルミニウムまたは亜鉛基体)の表面に塗布する。塗布方法としては、公知のスプレー法、ディップ法、ロール法などが適用可能であり、特に制限はない。
その後、塗布膜を乾燥し、熱処理する。熱処理温度は、200℃以上500℃以下とするのが好ましい。200℃未満では、硬度や腐食防止性が不十分であり、500℃以上では、アルミニウムまたは亜鉛が溶融する虞がある。
【0039】
次いで、第2層形成用塗布液を第1層21の表面に塗布する。塗布方法としては、第1層21を形成する工程と同様である。
そして、上記の塗布膜を乾燥し、熱処理する。熱処理温度は、200℃以上500℃以下とするのが好ましい。
このようにして、本実施形態の防汚加工製品10を製造することができる。
【0040】
以上のような構成の防汚加工製品10によれば、優れた焦げ付き防止効果を有し、優れた焦げ付き防止効果が長期間にわたって持続し、焦げ付きを簡単な操作で容易に取り除くことができる。このため固着した焦げ付きを取り除くために強い薬品や、研磨剤は不要であり、労力を削減し、環境への負荷も小さいという効用を有する。
さらに、本発明の防汚加工製品をオーブン等に使用した場合、アルミニウムまたは亜鉛を形成材料とする金属基体の反射を損なわず、オーブン等の熱効率の向上させることができ、かつ傷つき難く、酸アルカリによる劣化を抑え、美観を損なわないという効果を有する。また、熱伝導性が優れるというアルミニウム、亜鉛の特性を活かすことが出来る。
また、以上のような防汚加工製品10の製造方法によれば、上記の効果を奏する防汚加工製品10を簡便にかつ効率よく製造することができる。
【実施例】
【0041】
次に、本発明を実施例と比較例とにより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0042】
(実施例1)
まず、珪酸ナトリウムと珪酸リチウムと水を混合して、酸化物換算値でSiO:11%、NaO:2%、LiO:0.5%、HO:86.5%の第1層形成用の塗布液を調製した。
次に、ジルコニウムテトラブトキシド6重量部、アセト酢酸エチル3重量部、2−プロパノール91重量部を25℃で30分間混合し、ジルコニウムテトラブトキシドとアセト酢酸エチルとのキレート化合物を形成し、第2層形成用の塗布液を調製した。この塗布液の固形分は2%であった。
また、基体として純アルミニウム製シートを用意した。
【0043】
以上の塗布液及び基体を用意した後、ロールコーターを用いて、純アルミニウム製シートの表面に第1層形成用の塗布液を塗布し、250℃で10分間熱処理を施した後、冷却することで第1層を形成した。
次いで第1層上に第2層形成用の塗布液をロールコーター塗布し、250℃で10分間熱処理した後、冷却することで第2層を形成した。
ここで、第1層目の厚さは400nm、第2層目の厚さは50nmであった。
このようにして純アルミニウム製シートの表面に二層構造の防汚コーティング膜を形成し、実施例1の本発明の防汚加工製品を作製した。
【0044】
(比較例1)
実施例1において第1層目を塗布しないものを比較例1とした。
【0045】
(比較例2)
実施例1において第2層目を塗布しないものを比較例2とした。
【0046】
(実施例2)
実施例1において第2層形成用の塗布液を、ナノジルコニア(平均粒子径3nm:住友大阪セメント株式会社製)を水に分散させ固形分を2%としたものを用いた。その他は実施例と同じとし、実施例2の本発明の防汚加工製品を作製した。
【0047】
実施例1、2と比較例1、2の各サンプルについて下記に示す評価を行った。
また、防汚コーティング膜を形成しない無垢の純アルミニウム製シートについても同様の評価を行った。
【0048】
・耐クエン酸性 :クエン酸飽和水溶液に各サンプルを24時間浸漬し、その後に表面を目視観察することにより防汚コーティング膜の表面状態の変化を評価した。
・耐アルカリ性 :5%水酸化ナトリウム水溶液に各サンプルを24時間浸漬し、その後に表面を目視観察することにより防汚コーティング膜の表面状態の変化を評価した。
・耐蒸気性 :各サンプルを100℃の水蒸気に24時間暴露し、その後に表面を目視観察することで防汚コーティング膜の表面状態の変化を評価した。
・鉛筆9H傷 :JIS−K5600に準拠して行った。
・醤油焦げ落とし:各サンプルの防汚コーティング膜の表面に醤油10mLを付着させ、大気中、250℃で1時間加熱し、その後、100℃の水蒸気に20分間暴露して醤油を焦げ付かせた。その後、この焦げ付き汚れを、水を含ませた布を用いて水拭きし、除去の容易さを評価した。
【0049】
【表1】

【0050】
表1に示すように、純アルミニウムシートの表面に二層構造の防汚コーティング膜を形成した本発明に係る防汚加工製品は、耐酸性、耐アルカリ性、耐蒸気性、引っかき耐性、焦げ付き除去の容易さのいずれについても良好な結果を示した。
【0051】
(実施例3)
実施例3では、珪酸ナトリウムと珪酸リチウムと水を混合して、酸化物換算値でSiO:5%、NaO:1%、LiO:0.1%、HO:93.9%に調整し、第1層形成用の塗布液を調製した。
また、ハフニウムテトラブトキシド、イットリウムテトラブトキシド、ランタトリブトキシド、およびセリウムテトラブトキシドから選ばれた1種を1.5重量部、ジルコニウムイソプロポキシド1.5重量部、アセト酢酸エチル1.5重量部、2−プロパノール95.5重量部を25℃で30分間混合し、各成分とアセト酢酸エチルとのキレート化合物を形成し、第2層形成用の塗布液を調製した。この塗布液の固形分は1質量%であった。
また、固形分中のジルコニウムの含有量はZrO換算で50質量%であった。
【0052】
次に、上記の第1〜第2層形成用の塗布液(第2層形成用の塗布液は4種類)を用いてスプレー塗装でアルマイト製鍋(アルミニウム基体)に対してコーティング処理を施した。
すなわち、実施例3のサンプルとして、第2層にハフニウムを含むサンプル、イットリウムを含むサンプル、ランタンを含むサンプル、セリウムを含むサンプルの4種類のサンプルを作製した。
【0053】
なお、上記コーティング処理において、第1層の形成工程では、塗布膜を250℃で30分間熱処理し、第2層の形成工程では、塗布膜を250℃で30分間熱処理した。
また本実施例での防汚コーティング膜の厚さは、第1層が200nm、第2層が10nmであった。
【0054】
実施例3の各サンプルについて、先の実施例1〜2と同様の評価を行った。また、防汚コーティング膜を形成しないアルマイト製鍋についても同様の評価を行った。
【0055】
【表2】

【0056】
表2に示すように、ジルコニア以外にもハフニア、イットリアおよびランタン、セリウムといった希土類元素の酸化物を含む第2層を形成した防汚コーティング膜は、焦げ落とし性が良好であった。
【0057】
(実施例4)
まず、珪酸ナトリウムと珪酸リチウムと水を混合して、酸化物換算値でSiO:11%、NaO:2%、LiO:0.5%、HO:86.5%の第1層形成用の塗布液を調製した。
次に、ジルコニウムテトラブトキシド6重量部、アセト酢酸エチル3重量部、2−プロパノール91重量部を25℃で30分間混合し、ジルコニウムテトラブトキシドとアセト酢酸エチルとのキレート化合物を形成し、第2層形成用の塗布液を調製した。この塗布液の固形分は2%であった。
また、基体として亜鉛めっき鋼板シートを用意した。
【0058】
以上の塗布液及び基体を用意した後、ロールコーターを用いて、亜鉛めっき鋼板シートの表面に第1層形成用の塗布液を塗布し、250℃で10分間熱処理を施した後、冷却することで第1層を形成した。
次いで第1層上に第2層形成用の塗布液をロールコーター塗布し、250℃で10分間熱処理した後、冷却することで第2層を形成した。
ここで、第1層目の厚さは400nm、第2層目の厚さは50nmであった。
このようにして亜鉛めっき鋼板シートの表面に二層構造の防汚コーティング膜を形成し、実施例4の本発明の防汚加工製品を作製した。
【0059】
実施例4のサンプルについて、先の実施例1〜3と同様の評価を行った。また、防汚コーティング膜を形成しない亜鉛めっき鋼板シートについても同様の評価を行った。
【0060】
【表3】

【0061】
表3に示すように、純亜鉛めっき鋼板シートの表面に二層構造の防汚コーティング膜を形成した本発明に係る防汚加工製品は、耐酸性、耐アルカリ性、耐蒸気性、引っかき耐性、焦げ付き除去の容易さのいずれについても良好な結果を示した。
【0062】
以上の結果より、本発明の有用性が確かめられた。
【符号の説明】
【0063】
10…防汚加工製品、20…防汚コーティング膜、21…第1層、22…第2層、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基体と、前記金属基体の表面に形成された防汚コーティング膜と、を含み、
前記金属基体は、アルミニウムまたは亜鉛を形成材料とし、
前記防汚コーティング膜は、
前記金属基体上に形成され珪酸アルカリを含む第1層と、
前記第1層上に形成されるとともにジルコニウム酸化物、イットリウム酸化物、ハフニウム酸化物および希土類酸化物から選ばれた少なくとも1種を含む第2層と、
を有することを特徴とする防汚加工製品。
【請求項2】
前記第2層には、ジルコニウム酸化物、イットリウム酸化物、ハフニウム酸化物および希土類酸化物から選ばれた少なくとも1種が70質量%以上含まれることを特徴とする請求項1記載の防汚加工製品。
【請求項3】
アルミニウムまたは亜鉛を形成材料とする金属基体の表面上に、珪酸アルカリを含む塗布液を塗布し、熱処理を施して、その熱処理生成物からなる第1層を形成する工程と、
前記第1層上に、ジルコニウム、イットリウム、ハフニウムおよび希土類元素から選ばれた少なくとも1種の成分のゾル、アルコキシド及びその部分加水分解生成物、並びに塩から選ばれた少なくとも1種を含む塗布液を塗布し、熱処理を施して、その熱処理生成物からなる第2層を形成する工程と、
を有することを特徴とする防汚加工製品の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−202084(P2011−202084A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−72376(P2010−72376)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】