説明

防汚基材の製造方法及び防汚性物品

【課題】
撥水撥油性、離型性、防汚性、指紋拭き取り性等に優れ、特に基材との密着性に優れた、防汚層が固着されたハードコート層を有する防汚基材を提供する。また、簡単な方法で光硬化性ハードコート層の表面に防汚層を形成する事を目的とする。
【解決手段】
熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂からなる基材表面に、光硬化性ハードコート剤組成物を塗布して硬化した後、表面にシラノール基が存在している該光硬化性ハードコート層表面を、防汚コーティング剤で処理して防汚基材を製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂からなる基材表面に設けられた光硬化性ハードコート層の表面に、さらに防汚層が付与された防汚基材及び該防汚性基材から成る防汚性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
耐摩耗性が必要とされる種々の物品、例えば、メガネレンズ、サングラス、携帯電話、電子手帳、音楽プレーヤーなどの携帯用電子機器、及び液晶ディスプレー、プラズマディスプレー、ELディスプレー等の各種表示素子の表面、またはCD(Compact Disk)、DVD(Digital Versatile Disk)、ブルーレイディスクなどの光記録媒体には、通常傷つきなどを防止するためのハードコート層が付与されている。
【0003】
また、これらの物品は、指紋、皮脂、汗、化粧品、食品等の汚れが付着することが多い。このような汚れは、メガネレンズの良好な視界を妨げ見栄えを悪くする。また、光記録媒体においては、信号の記録及び再生に障害が発生することがある。タッチパネルや各種電子機器のディスプレイ等の場合には、付着物による視認性の低下が、操作性に悪影響を及ぼす。従って、汚れが付着しにくく、汚れが付着しても容易に除去できるような特性を付与することが望ましく、ハードコート層の上にさらに防汚層を設けることが望まれている。
【0004】
防汚層は通常0.1μm以下の極めて薄い膜であり使用時の摩擦やふき取り等に十分耐えるように、ハードコート層の表面と強固に密着している必要がある。防汚層とハードコート層との密着性を向上させるための試みとしては、次の例を挙げることができる。
【0005】
特許第4215650には、物体表面に、まず硬化性ケイ素化合物(加水分解重合性ケイ素化合物及び/又はその縮合化合物、又はシラザン化合物)を含むハードコート剤組成物を塗布してハードコート剤組成物層を形成し、さらに防汚コーティング剤を塗布して防汚コーティング剤組成物層を形成した後、加熱することにより両組成物層を同時硬化させてハードコート層および防汚層を形成する方法が記載されている。
【0006】
また、特開平9−137117には、ハードコート層の表面にコロナ処理またはプラズマ処理を行い、その処理表面に、防汚コーティング剤として加水分解によりシラノール基となる基を有するシラン化合物を塗布、硬化することによって、樹脂表面に耐久性に優れた防汚層を形成する方法が記載されている。
【0007】
しかし、前者の方法では、ハードコート剤の塗布、防汚コーティング剤の塗布、加熱硬化を連続した工程の中で長時間行わなければならず、応用できる物品の種類が限られる。また、後者の方法では、表面処理に大掛かりな設備が必要になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4215650号公報
【特許文献2】特開平9−137117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、作業性・経済性に優れ、光硬化性ハードコート層に対する密着性に優れた防汚膜の形成が求められている。本発明は、撥水撥油性、離型性、防汚性、指紋拭き取り性等に優れ、特に基材との密着性に優れた、防汚層が固着されたハードコート層を有する防汚基材を提供することを目的とする。また本発明は、簡単な方法で光硬化性ハードコート層の表面に防汚層を形成する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討を行った結果、加水分解性基および/またはOH基を有する化合物を添加した光硬化性ハードコート剤組成物を硬化させることで、表面にシラノール基が存在するハードコート層が形成され、該ハードコート層の表面をさらにフッ素含有シラン化合物で処理することにより、撥水撥油性、離型性、防汚性、指紋拭き取り性等に優れた防汚層を有する防汚基材を提供する事ができる事を見出し、本発明に至った。
【0011】
即ち、本発明は、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂からなる基材表面に、光硬化性ハードコート剤組成物を塗布して硬化した後、表面にシラノール基が存在している該光硬化性ハードコート層表面を、防汚コーティング剤で処理して防汚基材を製造する方法、及び該防汚基材からなる防汚性物品を提供する。本発明は、該光硬化性ハードコート層が、多官能(α置換)アクリル系ハードコート剤に、加水分解性基および/またはOH基を有する(α置換)アクリル基含有化合物を添加したハードコート剤組成物の硬化物からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、光硬化性ハードコート層表面に強固に密着した防汚層を有する防汚基材を形成することができる。該方法は種々な用途に適用することができ、例えば、表面に防汚性を有する物品、特には、タッチパネルディスプレーや、液晶・ELディスプレーのカバーフイルム、及びカバーガラス等に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例で形成したハードコート層表面のSi2Pスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について更に詳しく説明する。
本発明は、添加剤を加えた光硬化性ハードコート剤組成物を基材表面に塗布した後硬化することにより基材表面に光硬化性ハードコート層を形成した後、防汚コーティング剤を該ハードコート層表面に適当な方法で塗布して硬化することによって、ハードコート層表面に防汚層を形成するものである。
【0015】
上記方法で処理される基材は、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂からなる基材であって、具体的には次のものがよい。セルロイド、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、6−ナイロン、6,6−ナイロン、12−ナイロンなどの脂肪族ポリアミド、芳香族ポリアミド、ABS、AS樹脂、ポリスチレン、ポリエチレン(低密度又は高密度)、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどの飽和ポリエステル、芳香族ポリエステル、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、ポリメチルペンテン、アイオノマー、液晶ポリマー、ポリイミド、ポリアミドイミド、フッ素樹脂、ポリフェニレンサルファイド、(変性)ポリフェニレンオキサイド、熱可塑性ポリウレタン等の熱可塑性樹脂、或いは、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル、熱硬化性ポリウレタン、ポリイミド、ジエチレングリコールビスアリルカ−ボネート(通称CR−39)の重合物、(ハロゲン化)ビスフェノールAのジ(メタ)アクリレートの(共)重合物、(ハロゲン化)ビスフェノールAのウレタン変性ジ(メタ)アクリレートの(共)重合物、ジアクリレート化合物やビニルベンジルアルコールと不飽和チオール化合物等との共重合物などの熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0016】
主剤となるハードコート剤としては多官能(α置換)アクリル系ハードコート剤が好適であり、非フッ素系のハードコート剤組成物がさらに好ましい。該非フッ素系のハードコート組成物としては、1つ以上の加水分解性基と1つ以上のラジカル重合性二重結合を有する化合物を混合し、硬化することが可能であれば、いかなるものであってもよい。こうした紫外線や電子線など活性エネルギー線で硬化可能なハードコート剤は各社からさまざまなものが市販されている。例えば、荒川化学工業(株)「ビームセット」、大橋化学工業(株)「ユービック」、オリジン電気(株)「UVコート」、カシュー(株)「カシューUV」、JSR(株)「デソライト」、大日精化工業(株)「セイカビーム」、日本合成化学(株)「紫光」、藤倉化成(株)「フジハード」、三菱レイヨン(株)「ダイヤビーム」、武蔵塗料(株)「ウルトラバイン」、などの商品名が挙げられる。
【0017】
多官能(α置換)アクリル系ハードコート剤としては、(メタ)アクリロイル基を2個以上有する化合物が好ましい。特に、多価アルコールなどの2個以上の水酸基を有する化合物と(メタ)アクリル酸とのエステル化物が好ましい。このような化合物としては次のものが例示される。1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパン−EO付加物のトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパン−PO付加物のトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトール−カプロラクトン付加物のヘキサ(メタ)アクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート−カプロラクトン付加物のトリ(メタ)アクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート−カプロラクトン付加物のトリ(メタ)アクリレート。
【0018】
多官能アクリル系ハードコート剤には、反応性希釈剤として次のような化合物を混合して使用することができる。メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート。
【0019】
上記ハードコート剤に、添加剤として加水分解性基および/またはOH基を有する化合物を加える。該化合物としては、(α置換)アクリル基を含有する化合物が好適である。(α置換)アクリル基含有化合物は、下記式(1)で表わされる基を有する化合物であり、中でも、下記式(2)〜(5)で表わされる基を有することが好ましい。該化合物の添加量は、主剤となるハードコート剤に対して、好ましくは0.05%〜4%、より好ましくは0.1%〜3%である。これにより、防汚剤をハードコート表面に強固に密着させることができる。前記上限値以上を添加しても大幅な密着性の向上は得られない。
【0020】
【化1】

(Xは加水分解性基またはOH基であり、Rは炭素数1〜4のアルキル基またはフェニル基であり、yは1〜5、aは2又は3の整数である。)
【0021】
【化2】

【0022】
加水分解性基を有する(α置換)アクリル基含有化合物としては、下記式のものが例示できる。
【化3】

【0023】
加水分解性基および/またはOH基を有する(α置換)アクリル基含有化合物は、(α置換)アクリル基含有化合物とメチルトリメトキシシラン等を部分加水分解縮合して容易に合成できる。例として、アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メチルアクリロキシプロピルメトキシシランオリゴマーが挙げられる。
【0024】
基材表面に形成されるハードコート層の膜厚は、基材の種類により適宜選定されるが、通常0.1μm〜20μmであり、好ましくは1〜10μmである。ハードコート層の特性を改良するため、或いは屈折率を向上または低下させて所定値にするため、樹脂中に1〜200nmの無機微粒子を含有させてもよい。無機微粒子としては、二酸化ケイ素、酸化チタン、中空シリカが好ましい。
【0025】
ハードコート剤組成物には、通常、硬化させるための光重合開始剤が含まれる。光重合開始剤としては、周知のものを使用できるが、入手が容易な市販のものが好ましく、複数の光重合開始剤を使用してもよい。光重合開始剤としては、アリールケトン系光重合開始剤(たとえば、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、アルキルアミノベンゾフェノン類、ベンジル類、ベンゾイン類、ベンゾインエーテル類、ベンジルジメチルケタール類、ベンゾイルベンゾエート類、α−アシロキシムエステル類など)、含イオウ系光重合開始剤(たとえば、スルフィド類、チオキサントン類など)、アシルホスフィンオキシド系光重合開始剤、その他の光重合開始剤がある。特に、アシルホスフィンオキシド系光重合開始剤が好ましい。また、光重合開始剤はアミン類などの光増感剤と組み合わせて使用することもできる。
【0026】
光重合開始剤としては、たとえば以下のような化合物がある。4−フェノキシジクロロアセトフェノン、4−t−ブチル−ジクロロアセトフェノン、4−t−ブチル−トリクロロアセトフェノン、ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、1−(4−ドデシルフェニル)−2−メチルプロパン−1−オン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−{4−(メチルチオ)フェニル}−2−モルホリノプロパン−1−オン、ベンジル、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、ベンゾイル安息香酸メチル、4−フェニルベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、アクリル化ベンゾフェノン、3,3’−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン、3,3’,4,4’−テトラキス(t−ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、9,10−フェナントレンキノン、カンファーキノン、ジベンゾスベロン、2−エチルアントラキノン、4’,4”−ジエチルイソフタロフェノン、α−アシロキシムエステル、メチルフェニルグリオキシレート、4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルスルフィド、チオキサントン、2−クロルチオキサントン、2−メチルチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,6−ジメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキシド。
【0027】
また、必要に応じて紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、熱重合防止剤などの安定剤、レベリング剤、消泡剤、増粘剤、沈降防止剤、顔料、染料、分散剤、帯電防止剤、防曇剤などの界面活性剤類、酸、アルカリおよび塩類などから選ばれる触媒等を適宜配合して用いてもよい。ハードコート剤組成物は、浸漬法、ハケ塗り、スピンコート法、スプレー塗装、流し塗りなどの方法で基材表面に塗布し、紫外線や電子線、その他のエネルギー線を照射することにより硬化させることができる。
【0028】
硬化後のハードコート層表面にシラノール基が存在していることは、ハードコート層表面をX線光電子分光(XPS)で測定することにより確認することができる。主剤となるハードコート剤にはSiは含まれないため、添加剤がハードコート層表面に存在した状態で硬化していればSi2Pのピークが観測される。添加剤がハードコート層表面に存在することにより添加剤由来のシラノール基がハードコート層表面に現れ、防汚コーティング剤との密着性が向上する。
【0029】
次に、形成したハードコート層表面に防汚コーティング剤を塗布して硬化し、防汚表面層を形成する。防汚コーティング剤としては、フッ素基含有シラン化合物が好適である。該フッ素基含有シランとしては、下記特許文献3〜9に記載のパーフルオロポリエーテル変性シランを使用することができる。
【0030】
【特許文献3】特開2007−197425号公報
【特許文献4】特開2007−297589号公報
【特許文献5】特開2007−297543号公報
【特許文献6】特開2008−088412号公報
【特許文献7】特開2008−144144号公報
【特許文献8】特願2008−196812号公報
【特許文献9】特願2007−311075号公報
【0031】
パーフルオロポリエーテルの繰り返し単位としては、下記のものが例示され、これら2種以上の組み合わせであってもよい。
−CF2O−
−CF2CF2O−
−CF2CF2CF2O−
−CF(CF3)CF2O−
−CF2CF2CF2CF2O−
−CF2CF2CF2CF2CF2CF2O−
−C(CF3)2O−
【0032】
中でも、下記に示す炭素数1〜4のパーフルオロオキシアルキレン基を繰返し単位として含む基が好ましい。
−CF2O−
−CF2CF2O−
−CF2CF2CF2O−
−CF(CF3)CF2O−
【0033】
パーフルオロポリエーテル変性シランは、下記式(6)または(10)で表されるものが密着性と防汚性の観点から好適である。
【0034】
【化4】

[(式中、Rfは1価又は2価のパーフルオロポリエーテル結合を含む基、Qは互いに独立に、酸素原子、窒素原子及びフッ素原子を含んでいてよい炭素数2〜12の2価の連結基、Zはシロキサン結合を有する2〜10価のオルガノポリシロキサン基、Rは炭素数1〜4のアルキル基またはフェニル基、Xは加水分解性基である。aは2又は3、bは2〜10、αは1又は2、βは0又は1、cは1〜5の整数である。)
【0035】
Rfは下記式(7)〜(9)で表される。
Rf− (7)
(Z−Q)−Rf−(Q−Z)− (8)
−Rf−(Q−Z−Q−Rf− (9)
(式中、Rfは、1価または2価のパーフルオロポリエーテル基、Z及びQは上記と同様の基であり、それぞれ同じでも異なってもよい。pは0又は1、qは1〜3の整数である。)]
【0036】
【化5】

[(式中、Rfはパーフルオロポリエーテル基を含む基、Wは下記式(11)で表される基を少なくとも1つ有する2価のオルガノシロキサン残基、Wはフッ素置換されていてよい炭素数1〜300の、アルキル基、アルキレン基、アルキルオキシアルキレン基、アリール基、オルガノシロキサン残基、下記式(11)で表されるアルコキシ基または、これらの組合せから選ばれる1価の基、Qは互いに独立に酸素原子、窒素原子及びフッ素原子を含んでいてよい炭素数2〜12の2価の連結基、及びrは1〜20の整数である。
【0037】
【化6】

(Xは加水分解性基であり、Rは炭素数1〜4のアルキル基またはフェニル基であり、yは1〜5、aは2又は3の整数である)]
【0038】
式(6)〜(10)において、Rfは、下記式(12)〜(15)で示される基から選ばれる。中でも、下記式(15)で示されるパーフルオロポリエーテル含有基であることが、滑り性の点で好ましい。
【化7】

(式中、Yはそれぞれ独立にF又はCF基、eは1〜3の整数、gは2〜6の整数、f、iはそれぞれ0〜100の整数、但しf+iは2〜100であり、hは0〜6の整数であり、各繰り返し単位の配列はランダムであってよい。)
【化8】

(式中、jは1〜100の整数、eは1〜3の整数である。)
【化9】

(式中、YはF又はCF基、eは1〜3の整数、k、lはそれぞれ0〜100の整数、但しk+lは2〜100であり、各繰り返し単位の配列はランダムであってよい。)
【化10】

(式中、m、nはそれぞれ1〜50の整数、但しm+nは2〜60である。)
【0039】
式(6)〜(10)において、Qは炭素数2〜12の2価の連結基であり、アミド、エーテル、エステル、ビニル結合を含む基などである。Qの具体例としては、下記式のものが挙げられる。
【0040】
【化11】

【0041】
式(6)〜(10)において、Zはオルガノポリシロキサンであり、βは1であることが好ましい。Zの具体例としては、下記式のものが挙げられる。
【0042】
【化12】

【0043】
式(10)において、Wは下記式(16)又は(17)で表される2価のオルガノシロキサン残基である。
【0044】
【化13】

(式中、Xは加水分解性基であり、Rは互いに独立に、水素原子又は1価の炭化水素基であり、アルキル基、特にメチル基が好ましい。Rは炭素数1〜4のアルキル基またはフェニル基である。yは1〜5の整数であり、aは2又は3である。nは4〜42の整数であり、好ましくは4〜12の整数である。mは3〜5の整数、kは1〜5の整数である。)
【0045】
式(16)又は(17)で表される基として、下記式(18)〜(22)で表される基を挙げることができ、中でも式(18)又は式(21)で表わされる基が好ましい。
【0046】
【化14】

【0047】
式(10)において、Wは、フッ素置換されていてよい炭素数1〜300のアルキル基、アルキレン基、アルキルオキシアルキレン基、アリール基、オルガノシロキサン残基、アルコキシ基から選ばれる1価の基である。好ましくは、高い撥水撥油性が達成できる点で、フッ素化、より好ましくはパーフロロ化された炭素数1〜200の基である。
【0048】
の具体例としては、下記式のものが挙げられる。
【化15】

【0049】
式(6)及び式(10)において、Xは加水分解性基であり、それぞれ同じでも異なっていてもよい。具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などの炭素数1〜10のアルコキシ基、メトキシメトキシ基、メトキシエトキシ基などの炭素数2〜10のオキシアルコキシ基、アセトキシ基などの炭素数1〜10のアシロキシ基、イソプロペノキシ基などの炭素数2〜10のアルケニルオキシ基、クロル基、ブロモ基、ヨード基などのハロゲン基などが挙げられる。中でもメトキシ基、エトキシ基、イソプロペノキシ基、クロル基が好ましい。
【0050】
式(6)及び式(10)において、Rは、炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基であり、中でもメチル基が好ましい。aは2又は3の整数であり、反応性及び基材への密着性の観点から、3が好ましい。bは2〜10の整数であり、基材への密着性及び防汚性能の観点から2〜5が好ましい。
【0051】
また、防汚コーティング剤は、適当な溶剤で希釈して用いてもよい。このような溶剤としては、フッ素変性脂肪族炭化水素系溶剤(パーフルオロヘプタン、パーフルオロオクタンなど)、フッ素変性芳香族炭化水素系溶剤(m−キシレンヘキサフロライド、ベンゾトリフロライドなど)、フッ素変性エーテル系溶剤(メチルパーフルオロブチルエーテル、パーフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)など)、フッ素変性アルキルアミン系溶剤(パーフルオロトリブチルアミン、パーフルオロトリペンチルアミンなど)、炭化水素系溶剤(石油ベンジン、ミネラルスピリッツ、トルエン、キシレンなど)、ケトン系溶剤(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなど)を例示することができる。中でも、溶解性、濡れ性などの観点より、フッ素変性された溶剤が好ましく、より好ましくは、m−キシレンヘキサフロライド、パーフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)、パーフルオロトリブチルアミンである。
【0052】
溶剤は、1種を単独に用いても2種以上を混合してもよく、上記溶剤を均一に溶解させることが好ましい。なお、この溶剤に溶解させたフッ素含有シラン及び/又はその部分加水分解縮合物の濃度は、0.01〜50重量%、特に0.05〜20重量%であることが好ましい。
【0053】
溶剤に希釈した防汚コーティング剤は、刷毛塗り、ディッピング、スプレー、蒸着処理など公知の方法で処理できる。処理の最適温度は処理方法によって異なるが、例えば、刷毛塗りやディッピングの場合は、室温から120℃の範囲が好ましい。処理湿度は、加湿下で行うことが反応を促進する上で好ましい。
【0054】
なお、防汚コーティング剤の処理条件は、使用するシラン化合物や添加剤によって異なるため、その都度処理条件を最適化することが望ましい。
【0055】
また、防汚コーティング剤は予め加水分解したものを用いることができる。これによって加水分解性基はシラノール基となり、複数分子間で脱水縮合してシロキサン結合を生成する。脱水縮合は速やかに進み、オリゴマーが生成する。脱水縮合が十分に進むように、加水分解後、1〜24時間放置(養生)してもよい。このように予め加水分解、部分縮合したオリゴマーを用いることにより、防汚コーティング剤の密着性を高め、硬化時間を短縮することができる。
【0056】
防汚コーティング剤には、必要に応じて縮合触媒を添加してもよい。縮合触媒としては、テトラブチルチタネート、テトライソプロピルチタネート等の有機チタン酸エステル;ジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)チタン等の有機チタンキレート化合物;アルミニウムトリス(アセチルアセトナート)、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)等の有機アルミニウム化合物;ジルコニウムテトラ(アセチルアセトナート)、ジルコニウムテトラブチレート等の有機ジルコニウム化合物;ジブチルスズジオクトエート、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジ(2−エチルヘキサノエート)、ジオクチルスズジラウレート、ジオクチルスズジアセテート、ジオクチルスズジオクトエート等の有機スズ化合物;ナフテン酸スズ、オレイン酸スズ、ブチル酸スズ、ナフテン酸コバルト、ステアリン酸亜鉛等の有機カルボン酸の金属塩;ヘキシルアミン、燐酸ドデシルアミン等のアミン化合物、およびその塩;ベンジルトリエチルアンモニウムアセテート等の4級アンモニウム塩;酢酸カリウム、硝酸リチウム等のアルカリ金属の低級脂肪酸塩;ジメチルヒドロキシルアミン、ジエチルヒドロキシルアミン等のジアルキルヒドロキシルアミン;テトラメチルグアニジルプロピルトリメトキシシラン等のグアニジル基含有有機ケイ素化合物;有機酸(酢酸、メタンスルホン酸、パーフロロカルボン酸など)、無機酸(塩酸、硫酸など)が使用できる。これらは単独でも2種以上組み合わせて使用してもよく、中でも、酢酸、テトラn−ブチルチタネート、ジブチルスズジアセテートが好ましい。添加量は触媒量であり、フッ素含有シラン及び/又はその部分加水分解縮合物100重量部に対して0.01〜20重量部であり、好ましくは0.1〜10重量部である。
【0057】
各種基材表面に形成される防汚層の膜厚は、基材の種類により適宜選定されるが、通常0.1nm〜5μmであり、1〜100nmであることが好ましい。中でも、光学特性に影響を与えないため、20nm以下であることがより好ましい。
【0058】
本発明の製造方法により形成された防汚基材からなる防汚性物品としては、下記のものが挙げられる。カーナビゲーション、携帯電話、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、PDA、ポータブルオーディオプレーヤー、カーオーディオ、ゲーム機器、眼鏡レンズ、カメラレンズ、レンズフィルター、サングラス、胃カメラ等の医療用器機、複写機、PC、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、プラズマディスプレイ、タッチパネルディスプレイ、保護フイルム、反射防止フイルム、など光学部材の指紋、皮脂付着防止コーティング;浴槽、洗面台のようなサニタリー製品の撥水、防汚コーティング;自動車、電車、航空機などの窓ガラス、ヘッドランプカバー等の防汚コーティング;外壁用建材の撥水、防汚コーティング;台所用建材の油汚れ防止用コーティング;電話ボックスの撥水、防汚及び貼り紙、落書き防止コーティング;美術品などの撥水性、指紋付着防止付与のコーティング;コンパクトディスク、DVDなどの指紋付着防止コーティング;その他、塗料添加剤、樹脂改質剤、無機質充填剤の流動性、分散性を改質、テープ、フィルムなどの潤滑性の向上等。
【実施例】
【0059】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0060】
実施例において使用した試験方法は、以下のとおりである。
【0061】
[撥水撥油性の評価方法]
接触角計(DropMaster、協和界面科学社製)を用いて、硬化皮膜の水接触角及びオレイン酸に対する接触角を測定した。
【0062】
[動摩擦係数]
ベンコット(旭化成社製)に対する動摩擦係数を、新東科学社製の表面性試験機を用いて下記条件で、測定した。
接触面積:35mm x 35mm
荷重:200g
【0063】
[皮脂汚れ拭取り性の評価方法]
7人のパネラーにより、額の皮脂を指で硬化皮膜の表面に転写し、ベンコット(旭化成社製)で拭取りした際の拭取り性を、下記評価基準により評価した。
A :汚れを簡単に拭取れる。
B :汚れを拭取れる。
C :汚れを拭取り後に少し油が残る。
D :汚れを拭取れない。
【0064】
[耐摩耗試験]
往復摩耗試験機(HEIDON 30S、新東科学社製)を用いて、以下の条件で硬化被膜の耐摩耗試験を実施した。
評価環境条件:25℃、湿度40%
擦り材:試料と接触するテスターの先端部(20mm x 30mm)に不織布を8枚重ねて包み、輪ゴムで固定した。
荷重:1kg
擦り距離(片道):40mm
擦り速度:4,800mm/min
往復回数:10,000往復
【0065】
[合成例1]
下記式(23)で示され、両末端に不飽和結合を有するパーフルオロポリエーテル50gと、
【0066】
【化16】

1,3トリフルオロメチルベンゼン75g、塩化白金酸/ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液0.0442g(Pt単体として1.1×10−7モルを含有)を入れて90℃に加熱撹拌した。下記式(24)に示すペンタメチルジシロキサン1.85gを滴下して90℃で2時間熟成し、その後、下記式(25)に示す、テトラメチルジシロキサン(HM)とビニルトリメトキシシラン(VMS)の1:1付加反応物(HM−VMS)7.5gを滴下し、90℃で2時間熟成し、H−NMRで原料のアリル基が消失したのを確認した後、溶剤や未反応のHM−VMSを減圧溜去し、下記式(26)に示す白濁の液体パーフルオロポリエーテル(化合物Iとする)50.5g(比重:1.63 屈折率1.319)を得た。
【0067】
【化17】

【0068】
【化18】

(但し、Yは−CHCH−及び−CH(CH)−が61:39の比率で混在する。)
【0069】
【化19】

(p/q=0.9 p+q≒45)
【0070】
ここでXは、下記式(27)と(28)が38:62の割合で混在する。
【0071】
【化20】

【化21】

(但しYは−CHCH−、及び−CH(CH)−が61:39の比率で混在する。)
【0072】
[ハードコート層の形成]
表1に示す組成の光硬化性ハードコート剤を、イソプロピルアルコールで有効成分40%になるように希釈し、塗工液とした。この塗工液をポリカーボネート板(厚さ2mm、幅50mm、長さ100mmの試験片)にスピンコート(500rpmで10秒回転後、3000rpmで20秒回転)し、80℃で3分間乾燥した後、UVを照射(3200mJ/cm)し硬化させ、比較例2及び3のハードコート層とした。反射率分光法により測定(フィルメトリクス社製、F20使用)した硬化皮膜の膜厚は5.4μmであった。
【0073】
【表1】

【0074】
[実施例1〜5及び比較例1]
実施例1〜5及び比較例1は、上記組成の光硬化性ハードコート剤に、さらにアクリロキシプロピルトリメトキシシラン(加水分解性基を有するアクリレート)を、上記多官能アクリレートに対し、表2に示す添加量で加え、比較例2、3と同様の方法でポリカーボネート板に硬化させた。反射率分光法により測定(フィルメトリクス社製、F20使用)した硬化皮膜の膜厚は5.7μmであった。
【0075】
【表2】

【0076】
硬化後のハードコート層表面にアクリロキシプロピルトリメトキシシランが存在していることをX線光電子分光(XPS)(KRATOS(島津製作所)製 AXIS−ULTRA)により確認した。XPSの測定条件を表3に、Si2Pスペクトルを図1に示す。
【0077】
【表3】

【0078】
XPSの測定結果よりSi2Pスペクトルが観測され、アクリロキシプロピルトリメトキシシランの量が増えると、スペクトルの強度も増大していることが確認された。これにより、アクリロキシプロピルトリメトキシシランがハードコート層表面にブリードした状態で硬化していることを確認した。
【0079】
実施例及び比較例1、2は、下記の方法に基づきハードコート層表面に防汚層を形成した。なお、比較例3は防汚層を形成していない。
[防汚基材の形成]
化合物Iを固形分で0.3wt%になるようにフッ素系溶剤(HFE−7200(3M社製))で希釈した後、表面にハードコート層を形成した試験片を浸漬し、150mm/分の速度で引き上げ、室温にて24時間硬化させ、試験片のハードコート層表面に防汚層を設けた。蛍光X線装置(株式会社リガク製 ZSXmini2)によるF検出量から算出した防汚層の膜厚は約10nmであった。
【0080】
防汚層形成直後の防汚基材表面の評価結果を表4に、耐摩耗試験後の防汚基材表面の評価結果を表5に示す。耐摩耗試験の測定条件は上記のとおりである。
【0081】
【表4】

【0082】
【表5】

【0083】
実施例1〜5は、摩耗試験前後で表面特性の変化が小さく、撥水撥油角が高く、動摩擦係数が小さく、汚れ拭取り性が良好であった。添加剤の量が少ない比較例1は、初期及び摩耗後の表面特性が、実施例1〜5には及ばない。比較例2は、摩耗試験後の撥水撥油角が低く、動摩擦係数、汚れ拭取り性も悪い。比較例3は防汚層を設けていないため、汚れを拭取ることは極めて困難である。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明により、光硬化性ハードコート層の表面に防汚性を付与できるようになった。本発明の製造方法によれば、表面滑り性、汚れ拭取り性に優れ、日常的に汚れ拭取り作業をしても性能の低下が小さい被膜を与えることができる。そのため、携帯電話、PDA、携帯音楽プレーヤー、カーナビ、ATM、メガネレンズ等、従来汚れ付着防止性、汚れ拭取り性が問題となっていた製品に好適に使用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂からなる基材表面に、光硬化性ハードコート剤組成物を塗布して硬化した後、表面にシラノール基が存在している該光硬化性ハードコート層表面を、防汚コーティング剤で処理して防汚基材を製造する方法。
【請求項2】
光硬化性ハードコート剤組成物が、多官能(α置換)アクリル系ハードコート剤と加水分解性基および/またはOH基を有する化合物からなることを特徴とする、請求項1に記載の防汚基材の製造方法。
【請求項3】
前記加水分解性基および/またはOH基を有する化合物が、(α置換)アクリル基含有化合物であることを特徴とする請求項2に記載の防汚基材の製造方法。
【請求項4】
前記(α置換)アクリル基含有化合物が、式(1)および式(2)〜(5)のいずれかで表される基を有する化合物である、請求項3に記載の防汚基材の製造方法。
【化1】

(Xは加水分解性基またはOH基であり、Rは炭素数1〜4のアルキル基またはフェニル基であり、yは1〜5、aは2又は3の整数である。)
【化2】

【請求項5】
防汚コーティング剤がフッ素含有シラン化合物である請求項1〜4のいずれか1項に記載の防汚基材の製造方法。
【請求項6】
フッ素含有シラン化合物が、パーフルオロポリエーテル変性シランである請求項5に記載の防汚基材の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法により形成された防汚基材からなる防汚性物品。

【図1】
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【公開番号】特開2011−93964(P2011−93964A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−247029(P2009−247029)
【出願日】平成21年10月27日(2009.10.27)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】