説明

防汚塗料用加水分解型ポリエステル樹脂及び防汚塗料組成物

【課題】海水に対する耐水性及び溶解性に優れた防汚塗料用加水分解型ポリエステル樹脂を提供する。また、塗膜の硬化、脆化、白化、クラック、はがれを生じることなく、かつ有機金属を含有せず、安定した加水分解性を有し、加水分解性速度の調整が可能で、長期の防汚効果に優れた防汚塗料組成物を提供する。
【解決手段】ジカルボン酸成分(A)とグリコール成分(B)を含む防汚塗料用加水分解型ポリエステル樹脂であって、前記ジカルボン酸成分(A)がフタル酸、イソフタル酸及びテレフタル酸のうちの少なくとも1種を含み、前記グリコール成分(B)が下記一般式(I)


[式(I)中、Rは水素又はメチル基であり、nは2〜5の整数である。]
で表されるグリコールを含むことを特徴とする防汚塗料用加水分解型ポリエステル樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は防汚塗料用加水分解型ポリエステル樹脂及び防汚塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
海中に浸漬されている船底部、ブイ、漁網(養殖網、定置網等)や冷却のための各種吸排水管等の海中構造物、海洋土木工事の防泥拡散防止膜等の海中物体の表面には、フジツボ、セルプラ、イガイ、藻類等の生物の付着によって種々の問題が起こる。具体的には、船舶の航行抵抗の増大、作業効率の低下、資材の強度低下及び損傷等が挙げられる。また原子力発電所の冷却水用海水の取入れ配管の内壁等の各種工業プラントの配管や取排水設備においては、藻類や貝類が付着することにより、波浪、潮流抵抗の増大による損傷、取排水能力の低下等の問題を引き起こす。
【0003】
これらの生物が付着することによる問題を防止するため、海中物体の表面には、生物の付着を防止するいわゆる防汚塗料が塗布されている。従来の防汚塗料は、塗膜を形成する樹脂は海水中へは溶出せず、防汚剤だけが海水中へ溶出することによって、海中生物の付着を防止する防汚塗料が主であった。この防汚塗料は、初期の防汚効果はよいが、防汚剤が溶出した後には防汚効果のほとんどない塗膜が残るため長期的には防汚効果が不足していく欠点があった。
【0004】
例えば、特許文献1には、ポリテトラメチレングリコール及び/又はイソフタル酸を共重合成分とするポリブチレンテレフタレート共重合体に防汚剤を配合してなる防汚防藻用ポリエステル系樹脂組成物に関する発明が開示されている。このポリブチレンテレフタレート共重合体は、耐磨耗性、耐久性に優れている。しかしながら、このポリブチレンテレフタレート共重合体は、後述するいわゆる加水分解性自己研磨型の防汚塗料用樹脂ではないため、初期の防汚効果はよいが、防汚剤が溶出した後には防汚効果のほとんどない塗膜が残るため長期的には防汚効果が不足していく課題があった。
【0005】
近年、上記の防汚塗料に替わり、塗膜を形成する樹脂及び防汚剤のいずれもが海水中に溶出する、いわゆる加水分解性自己研磨型の防汚塗料が使用されてきている。この防汚塗料は、塗膜表面が溶出するため、常に活性な防汚塗膜表面が維持されることになり、防汚効果の持続性が得られ易い。
【0006】
特許文献2及び特許文献3には、ポリエステル主鎖中に金属−エステル結合が多数組み入れられた防汚塗料用加水分解型ポリエステル樹脂に関する発明が開示されている。この加水分解型のポリエステル樹脂は海水中等のアルカリ性条件下で容易に金属−エステル部が加水分解を起して分子量の小さなセグメントに分解されることにより溶出する。しかしながら、樹脂の分子量が小さいために造膜性が悪く、塗膜のクラック、はがれ等を生じ易くなる点に課題があった。また、有機金属を含有するため、安全衛生上及び環境保全上の課題があった。
【0007】
また、特許文献4及び特許文献5には、樹脂の側鎖にオルガノシリルエステル基やヘミアセタールエステル基を加水分解性基として有する樹脂を含有する塗料組成物に関する発明が開示されている。しかしながら、これらオルガノシリルエステル基やヘミアセタールエステル基を有する樹脂を含有する塗料組成物では、樹脂中のオルガノシリルエステル基、ヘミアセタールエステル基が加水分解することにより、塗膜表面の樹脂の側鎖にカルボキシル基が生じる。そのため樹脂自体のTgが上昇することにより、塗膜の硬化、脆化が起こり易く、また、塗膜の白化、クラック、はがれ等が生じ易くなる点に課題があった。
【0008】
また、特許文献6には、自己研磨型防汚塗料用の加水分解型樹脂に関する発明として、無機金属化合物とカルボキシル基含有ラジカル重合性単量体の反応物である金属含有モノマー混合物と、その他のラジカル重合性不飽和単量体とを、少なくともアルコール系溶剤を含む有機溶剤と水の存在下で共重合して得られる金属含有樹脂組成物に関する発明が開示されている。しかしながら、金属含有樹脂組成物から形成される塗膜は、海水中において塗膜表面のみならず塗膜内部も溶解するため塗膜の溶出が不均一となる。またこの塗膜は、共存する亜酸化銅等の無機化合物系防汚剤との相互作用により塗膜の溶解性が経時で低下する恐れがある。それらのことから、長期防汚効果の点で必ずしも満足できるものではなかった。
【0009】
また、特許文献7には、オキシ酸及び/又はその縮合物、ヒドロキシル基を含まない多価カルボン酸及び/又はその酸無水物、並びに多価アルコールを反応させて得られる加水分解型ポリエステル樹脂をビヒクル成分とすることを特徴とする防汚塗料組成物に関する発明が開示されている。この加水分解型ポリエステル樹脂は、加水分解速度の調節が可能なものの、耐水性が十分ではなく、塗膜が白化する点に課題があった。
【0010】
【特許文献1】特開昭57−128742号公報
【特許文献2】特開昭58−67767号公報
【特許文献3】特開昭60−88033号公報
【特許文献4】特開昭63−215780号公報
【特許文献5】特開平4−103671号公報
【特許文献6】特開2002−12630号公報
【特許文献7】特開平6−16972号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、海水に対する耐水性及び溶解性に優れた防汚塗料用加水分解型ポリエステル樹脂を提供することにある。また本発明の目的は、塗膜の硬化、脆化、白化、クラック、はがれを生じることなく、かつ有機金属を含有せず、安定した加水分解性を有し、加水分解性速度の調整が可能で、長期の防汚効果に優れた防汚塗料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、防汚塗料用加水分解型ポリエステル樹脂を、特定のジカルボン酸成分と特定のグリコール成分を含んでなる防汚塗料用加水分解型ポリエステル樹脂とすることにより、上記課題を解決できることを見出し本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち本発明は、
1.ジカルボン酸成分(A)とグリコール成分(B)とを主な構成成分とする防汚塗料用加水分解型ポリエステル樹脂であって、前記ジカルボン酸成分(A)がフタル酸成分、イソフタル酸成分及びテレフタル酸成分のうちの少なくとも1種を含み、前記グリコール成分(B)が下記一般式(I)
【0014】
【化1】

【0015】
[式(I)中、Rは水素又はメチル基であり、nは2〜5の整数である。]
で表されるグリコールを含むことを特徴とする防汚塗料用加水分解型ポリエステル樹脂、
2.前記ジカルボン酸成分(A)及び前記グリコール成分(B)の合計が、防汚塗料用加水分解型ポリエステル樹脂の構成成分の80モル%以上である1項に記載の防汚塗料用加水分解型ポリエステル樹脂、
3.前記フタル酸成分、イソフタル酸成分及びテレフタル酸成分の合計が、前記ジカルボン酸成分(A)の50モル%以上を構成する1又は2項に記載の防汚塗料用加水分解型ポリエステル樹脂。
4.前記一般式(I)で表されるグリコールが、前記グリコール成分(B)の50モル%以上を構成する1〜3項のいずれか1項に記載の防汚塗料用加水分解型ポリエステル樹脂。
5.酸価が0〜100mgKOH/gである1〜4項のいずれか1項に記載の防汚塗料用加水分解型ポリエステル樹脂、
6.1〜5項のいずれか1項に記載の防汚塗料用加水分解型ポリエステル樹脂及び防汚剤を含有する防汚塗料組成物、
に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、防汚塗料用加水分解型ポリエステル樹脂の構成成分として、ジカルボン酸成分としてフタル酸成分、イソフタル酸成分及びテレフタル酸成分のうちの少なくとも1種と、グリコール成分として前記一般式(I)で表されるグリコールを併用することにより、海水に対する耐水性及び溶解性に優れた防汚塗料用加水分解型ポリエステル樹脂を得ることができる。また本発明の防汚塗料用加水分解型ポリエステル樹脂を用いることにより塗膜の硬化、脆化、白化、クラック、はがれを生じることなく、かつ有機金属を含有せず、安定した加水分解性を有し、加水分解性速度の調整が可能で、長期の防汚効果に優れた防汚塗料組成物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
防汚塗料用加水分解型ポリエステル樹脂
本発明の防汚塗料用加水分解型ポリエステル樹脂の構成成分であるジカルボン酸成分(A)は、フタル酸成分、イソフタル酸成分及びテレフタル酸成分のうちの少なくとも1種を含む。なかでも、イソフタル酸成分及び/又はテレフタル酸成分を含むことが、海水に対する溶解性、加水分解性、及び加水分解速度の調節が可能である点から好ましい。
【0018】
前記フタル酸成分としては、フタル酸、フタル酸モノアルキルエステル、フタル酸ジアルキルエステル、フタル酸無水物、及びフタル酸ハロゲン化物等が挙げられる。前記イソフタル酸成分としては、イソフタル酸、イソフタル酸モノアルキルエステル、イソフタル酸ジアルキルエステル、及びイソフタル酸ハロゲン化物等が挙げられる。前記テレフタル酸成分としては、テレフタル酸、テレフタル酸モノアルキルエステル、テレフタル酸ジアルキルエステル、及びテレフタル酸ハロゲン化物等が挙げられる。
【0019】
前記ジカルボン酸成分(A)は、前記フタル酸成分、イソフタル酸成分及びテレフタル酸成分の合計が、前記ジカルボン酸成分(A)の50モル%以上を構成することが好ましい。より好ましくは75モル%以上であり、特に好ましくは90モル%以上100モル%以下である。これら範囲は海水に対する溶解性、加水分解性、及び加水分解速度の調節が可能である点で意義がある。
【0020】
フタル酸成分、イソフタル酸成分、テレフタル酸成分以外の前記ジカルボン酸成分(A)としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、マレイン酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、テトラブロムフタル酸、並びにこれらのモノアルキルエステル、ジアルキルエステル、及びハロゲン化物等が挙げられる。
【0021】
本発明の防汚塗料用加水分解型ポリエステル樹脂の構成成分であるグリコール成分(B)は、下記一般式(I)
【0022】
【化2】

【0023】
[式(I)中、Rは水素又はメチル基であり、nは2〜5の整数である。]
で表されるグリコールを含む。該グリコール成分としては、具体的には、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、ジ−1,2−プロピレングリコール、トリ−1,2−プロピレングリコール等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。なかでも、ジエチレングリコールが海水に対する溶解性、加水分解性、及び加水分解速度の調節が可能である点から好ましい。
【0024】
前記グリコール成分(B)は、前記一般式(I)で表されるグリコールが、前記グリコール成分(B)の50モル%以上を構成することが好ましい。より好ましくは75モル%以上であり、特に好ましくは80モル%以上100モル%以下である。これら範囲は海水に対する溶解性、加水分解性、及び加水分解速度の調節が可能である点で意義がある。
【0025】
前記一般式(I)で表されるグリコール以外の前記グリコール成分(B)としては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0026】
なかでも、海水に対する溶解性、加水分解性、及び加水分解速度の調節が可能である点から、前記一般式(I)で表されるグリコール以外の前記グリコール成分(B)としては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコールが好ましく、エチレングリコールが特に好ましい。これらエチレングリコール及び/又は1,2−プロピレングリコールの含有量は、前記グリコール成分(B)のうち50モル%以下であることが好ましく、より好ましくは25モル%以下であり、特に好ましくは20モル%以下である。
【0027】
本発明の防汚塗料用加水分解型ポリエステル樹脂は、前記ジカルボン酸成分(A)及び前記グリコール成分(B)が、構成成分の80モル%以上であることが好ましく、より好ましくは90モル%以上、特に好ましくは95モル%以上100モル%以下である。これら範囲は、海水に対する溶解性、加水分解性、及び加水分解速度の調節が可能である点で意義がある。
【0028】
本発明の防汚塗料用加水分解型ポリエステル樹脂は、前記ジカルボン酸成分(A)及び前記グリコール成分(B)以外に1価のカルボン酸成分及び/又は1価のアルコール成分を含んでいてもよい。1価のカルボン酸成分としては、一般にモノカルボン酸として知られているものが挙げられる。例えば、安息香酸、ナフタレンカルボン酸、サリチル酸、4−メチル安息香酸、3−メチル安息香酸、フェノキシ酢酸、ビフェニルカルボン酸等の芳香族系モノカルボン酸;酢酸、プロピオン酸、酪酸、オクタン酸、デカン酸、ドデカン酸、ステアリン酸等の脂肪族系モノカルボン酸が挙げられる。1価のアルコール成分としては、一般に1官能アルコールとして知られているものが挙げられる。例えば、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、n−ヘキサノール、n−オクタノール、ラウリルアルコール、2−エチルヘキサノール、デカノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール、ドデシルアルコール等が挙げられる。
【0029】
本発明の防汚塗料用加水分解型ポリエステル樹脂は、前記ジカルボン酸成分(A)及び前記グリコール成分(B)以外に3価以上の多価カルボン酸成分及び/又は3価以上の多価アルコール成分を含んでいてもよい。これら成分としては、トリメリット酸、ピロメリット酸、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0030】
本発明の防汚塗料用加水分解型ポリエステル樹脂は、酸価が0〜100mgKOH/gであることが好ましく、より好ましくは0〜40mgKOH/g、特に好ましくは0〜10mgKOH/gである。これら範囲は耐水性の点で意義がある。
【0031】
本発明の防汚塗料用加水分解型ポリエステル樹脂は、水酸基価が0〜200mgKOH/gであることが好ましく、より好ましくは0〜100mgKOH/g、特に好ましくは1〜60mgKOH/gである。これら範囲は耐水性の点で意義がある。
【0032】
本発明の防汚塗料用加水分解型ポリエステル樹脂は、重量平均分子量が1,000〜50,000であることが好ましく、より好ましくは3,000〜30,000であり、特に好ましくは5,000〜20,000である。これら範囲は塗膜物性の点で意義がある。
【0033】
本明細書において、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(東ソー(株)社製、「HLC8120GPC」)で測定した重量平均分子量をポリスチレンの重量平均分子量を基準にして換算した値である。カラムは、「TSKgel G−4000H×L」、「TSKgel G−3000H×L」、「TSKgel G−2500H×L」、「TSKgel G−2000H×L」(いずれも東ソー(株)社製、商品名)の4本を用い、移動相;テトラヒドロフラン、測定温度;40℃、流速;1ml/分、検出器;RIの条件で行ったものである。
【0034】
本発明の防汚塗料用加水分解型ポリエステル樹脂の製造方法は、従来のポリエステル樹脂を製造する方法を用いることができ特に限定されるものではない。例えば、前記ジカルボン酸成分(A)に相当するジカルボン酸、ジカルボン酸モノアルキルエステル、ジカルボン酸ジアルキルエステル又はジカルボン酸ハロゲン化物と、前記グリコール成分(B)に相当するグリコール、及び必要に応じて触媒を一括又は任意の順に、攪拌器、還流冷却器、温度計、滴下ロートを備えた反応器に仕込み、150〜250℃に加熱してエステル化反応又はエステル交換反応させ、任意の時点で反応を終了させることにより行うことができる。該触媒としては、例えば酢酸鉄、ホウ酸亜鉛、塩化亜鉛、酢酸亜鉛、硫酸亜鉛、ホウ酸鉛、酢酸鉛、酢酸マンガン、酢酸アルミニウム、塩化アルミニウム、ジブチル錫オキサイド、テトラブチルチタネ−ト、三酸化アンチモン等が使用できる。
【0035】
防汚塗料組成物
本発明の防汚塗料組成物は、前記防汚塗料用加水分解型ポリエステル樹脂及び防汚剤を含有する。
【0036】
防汚剤としては、例えば、亜酸化銅、チオシアン銅、銅粉末等の銅系防汚剤;ジンクピリチオン、銅ピリチオン等のピリチオン系化合物;トリフェニルボロンピリジン塩等のトリアルキルボロン系化合物;4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン等のイソチアゾリン系化合物;その他にも、エチレンビス(ジチオカルバミン酸)亜鉛やテトラメチルチウラムジスルファイド等の含窒素硫黄系防汚剤、テトラクロロイソフタロニトリル等のニトリル系化合物、ベンゾチアゾ−ル系化合物、トリアジン系化合物、尿素系化合物、マレイミド系化合物、N−ハロアルキルチオ系化合物、テトラサイクリン系化合物、テトラクロロメチルスルフォニルピリジン等の殺菌剤及び酸化亜鉛等が挙げられる。これらのうち、前記防汚塗料用加水分解型ポリエステル樹脂の海水に対する溶解性を妨げないものを適宜選択して使用することが望ましい。
【0037】
前記防汚剤の配合量は、特に限定されるものではない。好ましくは、本発明の防汚塗料用加水分解型ポリエステル樹脂の固形分100質量部に対して10〜300質量部の範囲内である。配合量が10質量部以上の場合、汚損の激しい海域でも十分な防汚性を得ることができ、300質量部以下の場合、海水浸漬後の塗膜物性が良好となる。
【0038】
本発明の防汚塗料組成物は、さらに必要に応じて、本発明の目的に反しない範囲で、塗膜形成成分として、本発明の防汚塗料用加水分解型ポリエステル樹脂以外の樹脂を含有してもよい。このような樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、有機シリルエステル樹脂、フッ素樹脂、ポリブテン樹脂、シリコーンゴム、ウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル系共重合樹脂、塩素化オレフィン樹脂、スチレン・ブタジエン共重合樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、塩化ビニル樹脂、アルキッド樹脂、クマロン樹脂、石油樹脂等が挙げられる。
【0039】
本発明の防汚塗料組成物は、さらに必要に応じて、顔料類、可塑剤、溶剤、その他防汚塗料に使用される通常の添加剤等を含有してもよい。
【0040】
本発明の防汚塗料組成物を用いて塗膜を形成する方法としては、特に制限されるものではなく従来公知の方法を用いることができる。具体的には、水中構造物(例えば、発電施設、船舶、港湾施設、ブイ、パイプライン、橋梁、海底基地、養殖網、定置網等)等の基材表面に直接、又はウォッシュプライマー、ジンクエポキシ系ショッププライマー等のプライマー類;ビニルタール系、油性サビ止め、塩化ゴム系、エポキシ系等の下塗りプライマー類;塩化ゴム系、エポキシ系等の中塗り塗料類をそれぞれ塗布して形成させた単層塗膜、プライマー及び下塗りプライマーの塗料を塗布して形成させた複層塗膜、若しくはプライマー、下塗りプライマー、中塗り塗料を順次塗装して形成させた複層塗膜を設けた基材表面に、刷毛塗り、吹付け塗り、ローラー塗り、浸漬等の手段で塗布することができる。その塗布量は、一般的に乾燥膜厚として40〜500μm、好ましくは80〜300μmの範囲内が適当である。塗膜の乾燥は室温で行なうことができるが、必要に応じて約100℃までの温度で加熱乾燥を行なってもよい。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。尚、「部」及び「%」は、別記しない限り「質量部」及び「質量%」を示す。
【0042】
実施例1
攪拌器、還流冷却器、温度計、滴下ロートを備えた反応器にイソフタル酸483部及びジエチレングリコール321部を仕込み170℃に昇温した。次いで触媒としてジブチル錫オキサイド0.35部を加え、5時間かけて230℃に昇温した。その後でキシレン100部を滴下しながら230℃で2時間加熱還流し、酸価0.3mgKOH/g、重量平均分子量16,000のポリエステル樹脂No.1を製造した。得られたポリエステル樹脂No.1に、メチルエチルケトン700部を滴下し冷却することで、固形分50%のポリエステル樹脂No.1溶液を得た。得られたポリエステル樹脂No.1について、吸水性試験及び溶解性試験を行った。評価結果を表1に示す。
【0043】
実施例2〜17、比較例1〜4
実施例1において、ジカルボン酸成分、グリコール成分、触媒及び溶剤を表1に示す配合とする以外は実施例1と同様にして固形分50%の各ポリエステル樹脂No.2〜21溶液を得た。得られたポリエステル樹脂について、吸水性試験及び溶解性試験を行った。評価結果を表1に示す。なお、評価結果の「-」は、ポリエステル樹脂の結晶性が高く塗膜形成ができなかったことから、試験を行うことができなかったことを示す。
【0044】
【表1】

【0045】
吸水性試験
各ポリエステル樹脂溶液を大きさ10×15×2mmのガラス板に乾燥膜厚100μmとなるように塗装し、80℃で3時間乾燥させ試験塗板を作成した。試験塗板を20℃の海水中に3ヶ月間浸漬試験を行い、試験後の吸水率を下記式に従って求め、吸水性を下記基準に従って評価した。
吸水率(%)=[(W1−W2)/(W2−W0)]×100
W0:ガラス板の質量
W1:試験後に付着している余分な水分をろ紙で軽く拭った後の試験塗板(ガラス板含む)の質量
W2:試験後に100℃で1時間乾燥させた後の試験塗板(ガラス板含む)の質量
◎:吸水率が2.0%未満
○:吸水率が2.0%以上5.0%未満
×:吸水率が5.0%以上
【0046】
溶解性試験
各ポリエステル樹脂溶液を大きさ10×15×2mmのガラス板に乾燥膜厚100μmとなるように塗装し、80℃で3時間乾燥させ試験塗板を作成した。次いで炭酸水素ナトリウム水溶液と炭酸ナトリウム水溶液で調整したpH=10の水溶液中に温度を20℃に保ち撹拌を行いながら3ヶ月間浸漬試験を行い、試験後の溶出率を下記式に従って求め、溶解性を下記基準に従って評価した。
溶出率(%)=[(W3−W4)/(W3−W0)]×100
W0:ガラス板の質量
W3:試験前の試験塗板(ガラス板含む)の質量
W4:試験後に100℃で1時間乾燥させた後の試験塗板(ガラス板含む)の質量
◎:溶出率が10.0%以上
○:溶出率が2.0%以上10.0%未満
×:溶出率が2.0%未満
【0047】
実施例18
実施例1で得られた固形分50%のポリエステル樹脂No.1溶液50部(固形分25部)、亜酸化銅40部、ベンガラ2部、塩素化パラフィン3部、エロジル#200(商品名、デグサ社製、シリカ粉末)1部、及びキシレン5部を、ペイントコンディショナ−にて混合分散して防汚塗料組成物を得た。得られた防汚塗料組成物について、下記各種試験に供した。評価結果を表3に示した。
【0048】
実施例19〜39及び比較例5〜8
実施例18において、表2に示す配合とする以外は実施例18と同様にして、各防汚塗料組成物を得た。得られた防汚塗料組成物について、下記各種試験に供した。評価結果を表3に示した。
【0049】
【表2】

【0050】
【表3】

【0051】
塗膜消耗試験
各防汚塗料組成物を、裏面に防食塗装を施した大きさ100x100x1mmの鋼板の表面に乾燥膜厚が200μmとなるようにスプレー塗装し、温度20℃の室内にて1週間乾燥させて、試験塗板を作成した。直径50cmの円筒形ドラムの外面に、試験塗板を固定したのち、兵庫県洲本市由良湾の水深1mの海中に浸漬して、ドラムの周速が16ノットとなるようにモーターで回転させた。消耗した塗装膜厚(塗膜消耗膜厚)を6ヶ月毎に18ヶ月間測定した。また18ヶ月経過時の塗膜消耗膜厚に基づき平均消耗速度(μm/月)を算出した。
【0052】
防汚性能試験
各防汚塗料組成物を、ビニルタ−ル系塗料により防食塗装を施した大きさ100×300×3.2mmの試験板に、乾燥膜厚が200μmとなるように塗装し、乾燥して試験塗板を作成した。試験塗板を静岡県静岡市清水湾の水深2mの海中に浸漬し、6ヶ月毎に18ヶ月間の防汚性能を生物汚損面積比率(%)で評価した。
【0053】
耐クラック試験
防汚性能試験と同様に、試験塗板を作成し、同様に清水湾に、水面上に試験塗板が半分出るように浸漬し、その喫水部におけるクラックの発生の有無を6ヶ月毎に18ヶ月間、目視観察を行った。クラックの無いものを○(合格)、あるものを×(不合格)とした。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸成分(A)とグリコール成分(B)とを主な構成成分とする防汚塗料用加水分解型ポリエステル樹脂であって、前記ジカルボン酸成分(A)がフタル酸成分、イソフタル酸成分及びテレフタル酸成分のうちの少なくとも1種を含み、前記グリコール成分(B)が下記一般式(I)
【化1】

[式(I)中、Rは水素又はメチル基であり、nは2〜5の整数である。]
で表されるグリコールを含むことを特徴とする防汚塗料用加水分解型ポリエステル樹脂。
【請求項2】
前記ジカルボン酸成分(A)及び前記グリコール成分(B)の合計が、防汚塗料用加水分解型ポリエステル樹脂の構成成分の80モル%以上である請求項1に記載の防汚塗料用加水分解型ポリエステル樹脂。
【請求項3】
前記フタル酸成分、イソフタル酸成分及びテレフタル酸成分の合計が、前記ジカルボン酸成分(A)の50モル%以上を構成する請求項1又は2に記載の防汚塗料用加水分解型ポリエステル樹脂。
【請求項4】
前記一般式(I)で表されるグリコールが、前記グリコール成分(B)の50モル%以上を構成する請求項1〜3のいずれか1項に記載の防汚塗料用加水分解型ポリエステル樹脂。
【請求項5】
酸価が0〜100mgKOH/gである請求項1〜4のいずれか1項に記載の防汚塗料用加水分解型ポリエステル樹脂。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の防汚塗料用加水分解型ポリエステル樹脂及び防汚剤を含有する防汚塗料組成物。

【公開番号】特開2010−95585(P2010−95585A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−266178(P2008−266178)
【出願日】平成20年10月15日(2008.10.15)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】