説明

防汚塗料組成物、該組成物の製造方法、該組成物を用いて形成される防汚塗膜、該塗膜を表面に有する塗装物、及び該塗膜を形成する防汚処理方法

【課題】本発明は、海水中において、初期から安定した溶解性と良好な防汚効果を発揮し、耐水性に優れ、長期間にわたり防汚効果を効果的に発揮できる塗膜を形成でき、更に、大気中に飛散する揮発性有機化合物(VOC)が少なく環境安全性の高い防汚塗料組成物を提供する。
【解決手段】
(A)重合性不飽和カルボン酸トリオルガノシリルを重合させてなる、数平均分子量が1,000〜20,000である重合体と、
(B) ロジン亜鉛塩及びロジン誘導体の亜鉛塩から選ばれる少なくとも1種の亜鉛塩
とを含有する防汚塗料組成物であって、
(1)該重合体(A)の含有量と該亜鉛塩(B)の含有量との重量比((A)/(B))が、45/55〜10/90であり、
(2)不揮発分含有量が75重量%以上であり、
(3)遊離のカルボキシル基を有するロジン及びロジン誘導体を実質的に含まない、
防汚塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防汚塗料組成物、該組成物の製造方法、該組成物を用いて形成される防汚塗膜、該塗膜を表面に有する塗装物、及び該塗膜を形成する防汚処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フジツボ、セルプラ、ムラサキイガイ、フサコケムシ、ホヤ、アオノリ、アオサ、スライム等の水棲汚損生物が、船舶(特に船底部分)や漁網類、漁網付属具等の漁業具や発電所導水管等の水中構造物に付着することにより、それら船舶等の機能が害される、外観が損なわれる等の問題がある。
【0003】
従来より、有機錫含有共重合体を含む防汚塗料を船舶、漁業具及び水中構造物の表面に塗布することにより、水棲汚損生物の付着の防止を図っている。例えば、トリブチル錫基を有する重合体を含む防汚塗料を塗布して形成された塗膜は、該重合体成分が海水中に除々に溶出し、塗膜表面が常に更新されることにより、塗膜に対する水棲汚損生物の付着防止を図ることができる。また、溶解後、塗膜を上塗りすることにより、継続的に防汚性能を発揮することができる。しかし、前記防汚塗料の使用は、海洋汚染の問題から中止されている。
【0004】
近年、有機錫含有共重合体に替わる加水分解性共重合体として、有機スズ基に比べて毒性が低く環境への負荷が少ないトリオルガノシリル基を有するトリオルガノシリルエステル基含有共重合体が開発され使用されてきた。(文献1〜12)
しかし、トリオルガノシリルエステル含有共重合体を含む塗膜は、トリn−ブチルシリル基のようなアルキル基が直鎖のトリオルガノシリルエステル含有単量体を共重合してなる共重合体を用いる場合、塗膜の加水分解速度が速いため、塗膜の溶解速度が徐々に大きくなり長期間経過すると、塗膜の溶解速度が大きくなりすぎてしまい、また、耐水性も悪く、膨潤やクラックを生じ、長期使用が困難であるという問題がある。
【0005】
そのため、全てのオルガノ基が分岐アルキル基を有するトリオルガノシリルエステル含有共重合体が検討されるようになった(特許文献6〜12)。しかし、分岐アルキル基のみを有するトリオルガノシリルエステル含有共重合体は、耐水性は改良されるが、塗膜の加水分解速度が遅いため、塗膜が溶解し始めるまでに時間がかかり、初期の防汚効果が悪く、汚損生物の活性な海域や低海水温海域では、初期のうちに水棲汚損生物が付着してしまう問題があった。
【0006】
これらの問題を解決するため、トリオルガノシリルエステル含有共重合体を、ロジン(又はロジン誘導体)と併用して用いることにより、塗膜溶解速度を調整する試みがされてきた(特許文献2〜10)。
【0007】
しかし、ロジン(又はロジン誘導体)を使用する場合、その一部は塗料製造時に塗料組成物中に含まれる金属化合物と反応して金属塩となるものの、その反応性は十分ではないため遊離のカルボン酸を持つロジン(又はロジン誘導体)が塗料組成物に残る。特にロジン量を多く使用した場合は、前記ロジン(又はロジン誘導体)が塗料組成物に残る割合が多くなる傾向が見られる。前記ロジン(又はロジン誘導体)は、親水性が高いため、塗膜の耐水性を低下させ、その結果、塗膜にブリスターやクラック等の異常が生じる傾向がある。
【0008】
そこで、過剰の金属化合物とロジンをプレミックスする方法も提案されている(特許文献9、10)。しかし、かかる方法では、金属化合物を過剰に使用しても、前記金属化合物とロジンとが十分に反応しないため、遊離のカルボン酸を持つロジン(又はロジン誘導体)を完全に排除することは困難である。
【0009】
また、近年環境問題から、溶剤型の塗料は、多くの有機溶剤を空気中に揮散させることから、世界的に規制されてきており、有機溶剤の含有量を減少させる試みもされてきた(特許文献11、12)が、これらの方法では、良好な塗膜物性と防汚性能を兼ね備えた防汚塗料を得ることは困難である。
【0010】
また、新造船の場合、ドックを効率よく利用するため、船体をドック内で建造し、該船体の船底を塗装した後、ドック外の海上に船体を浮かべて該船体の内装等を行い、その後、再度入渠し仕上げ塗装を行う場合がある。しかしながら、前記海上に船体を浮かべて内装等を行うのに約3ヶ月間かかるため、この間に塗膜表面に生物が付着し、あるいは、生物の付着を防止できたとしても、スライムが付着することがある。この生物やスライムは水洗等でも十分に除去できない。生物やスライムが付着した状態で仕上げ塗装を行った場合、航行時に塗膜にクラック、ハガレ等が生じることがあり、問題となっていた。
【特許文献1】特開平10−30071号公報
【特許文献2】特開平11−116857公報
【特許文献3】特開平11−116858公報
【特許文献4】特開2000−248228公報
【特許文献5】特開2000−265107公報
【特許文献6】特開2000−265107公報
【特許文献7】特開2002−53796公報
【特許文献8】特開2002−53797公報
【特許文献9】特開2002−97406公報
【特許文献10】特開2003−261816公報
【特許文献11】WO 2005/005516 A1
【特許文献12】特開2005−082725公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、海水中において、初期から安定した溶解性と良好な防汚効果を発揮し、耐水性に優れ、長期間にわたり防汚効果を効果的に発揮できる塗膜を形成でき、更に、大気中に飛散する揮発性有機化合物(VOC)が少なく環境安全性の高い防汚塗料組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の構成の組成物が、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、下記の防汚塗料組成物、該組成物の製造方法、該組成物を用いて形成される防汚塗膜、該塗膜を表面に有する塗装物、及び該塗膜を形成する防汚処理方法に係る。
1. (A)重合性不飽和カルボン酸トリオルガノシリルを重合させてなる、数平均分子量が1,000〜20,000である重合体と、
(B)ロジン亜鉛塩及びロジン誘導体の亜鉛塩から選ばれる少なくとも1種の亜鉛塩
とを含有する防汚塗料組成物であって、
(1)該重合体(A)の含有量と該亜鉛塩(B)の含有量との重量比((A)/(B))が、45/55〜10/90であり、
(2)不揮発分含有量が75重量%以上であり、
(3)遊離のカルボキシル基を有するロジン及びロジン誘導体を実質的に含まない、
防汚塗料組成物。
2. 前記重合体(A)の数平均分子量が2,000〜15,000であり、分子量の分散度が2.5未満
である、上記項1に記載の防汚塗料組成物。
3. 前記重合体(A)のガラス転移温度が20〜70℃である、上記項1又は2に記載の防汚塗料組成物。
4. 前記重合体(A)が、(メタ)アクリル酸トリイソプロピルシリル共重合体である、上記項1〜3のいずれかに記載の防汚塗料組成物。
5. 前記(メタ)アクリル酸トリイソプロピルシリル共重合体が、(a)(メタ)アクリル酸トリイソプロピルシリル30〜60重量%、(b)メタクリル酸メチル10〜50重量%、並びに(c)(a)及び(b)以外の(メタ)アクリル酸エステル0〜60重量%を共重合してなるものである、上記項1〜4のいずれかに記載の防汚塗料組成物。
6. ロジン亜鉛塩が、ガムロジン亜鉛塩、ウッドロジン亜鉛塩及びトール油ロジン亜鉛塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の亜鉛塩であり、ロジン誘導体の亜鉛塩が、水添ロジン亜鉛塩及び不均化ロジン亜鉛塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の亜鉛塩である上記項1〜5に記載の防汚塗料組成物。
7. 不揮発成分含有量が80重量%以上であり、且つ、ストーマー粘度計を用いて測定される25℃における粘度が80〜100KUである、上記項1〜6に記載の防汚塗料組成物。
8. 揮発性有機化合物の含有量が400g/L未満である、上記項1〜7のいずれかに記載の防汚塗料組成物。
9. 更に、酸化亜鉛を前記重合体(A)及び前記亜鉛塩(B)の合計量100重量部に対して10〜100重量部含む、上記項1〜8のいずれかに記載の防汚塗料組成物。
10. 更に、亜酸化銅を前記重合体(A)及び前記亜鉛塩(B)の合計量100重量部に対して100〜400重量部含む、上記項1〜9に記載の防汚塗料組成物。
11. 前記亜酸化銅が、平均粒径8〜20μmの亜酸化銅である上記項10に記載の防汚塗料組成物。
12. 更に、有機系防汚薬剤を前記重合体(A)及び前記亜鉛塩(B)の合計量100重量部に対して1〜100重量部含む、上記項1〜11に記載の防汚塗料組成物。
13. 更に、可塑剤を前記重合体(A)及び前記亜鉛塩(B)の合計量100重量部に対して1〜50重量部含む、上記項1〜12に記載の防汚塗料組成物。
14. 前記可塑剤がエポキシ化油脂類である、上記項13に記載の防汚塗料組成物。
15. 更に、除水剤を前記重合体(A)及び前記亜鉛塩(B)の合計量100重量部に対して1〜50重量部含む、上記項1〜14に記載の防汚塗料組成物。
16. 前記除水剤が、アルコキシシラン類及びオルト蟻酸アルキルエステルから選ばれる少なくとも1種の水結合剤である、上記項15に記載の防汚塗料組成物。
17. 更に、脂肪酸アマイド系分散剤を前記重合体(A)及び前記亜鉛塩(B)の合計量100重量部に対して1〜50重量部含む、上記項1〜16に記載の防汚塗料組成物。
18. 上記項1〜17に記載の防汚塗料組成物を用いて被塗膜形成物の表面に防汚塗膜を形成する防汚処理方法。
19. 上記項1〜17に記載の防汚塗料組成物を用いて形成される防汚塗膜。
20. 上記項19に記載の防汚塗膜を表面に有する塗装物。
21. 防汚塗料組成物の製造方法であって、
(A)重合性不飽和カルボン酸トリオルガノシリルを重合させてなる、数平均分子量が1,000〜20,000である重合体と、
(B)ロジン亜鉛塩及びロジン誘導体の亜鉛塩から選ばれる少なくとも1種の亜鉛塩
とを混合する、
(1)該重合体(A)の含有量と該亜鉛塩(B)の含有量との重量比((A)/(B))が、45/55〜10/90であり、
(2)不揮発分含有量が75重量%以上であり、
(3)遊離のカルボキシル基を有するロジン及びロジン誘導体を実質的に含まない、
防汚塗料組成物を製造する方法。
22. 前記重合体(A)及び前記亜鉛塩(B)に加え、さらに、平均粒径が3〜10μmの亜酸化銅を混合した後、得られた混合物を分散機を用いて混合分散する、上記項21に記載の防汚塗料組成物の製造方法。
23. 前記重合体(A)と前記亜鉛塩(B)とを混合することにより得られた混合物を分散機を用いて混合分散した後、平均粒径が10〜20μmの亜酸化銅を添加し混合する、上記項21に記載の防汚塗料組成物の製造方法。
【0014】
防汚塗料組成物
本発明の防汚塗料組成物は、
(A)重合性不飽和カルボン酸トリオルガノシリルを重合させてなる、数平均分子量が1,000〜20,000である重合体(重合体(A))と、
(B)ロジン亜鉛塩及びロジン誘導体の亜鉛塩から選ばれる少なくとも1種の亜鉛塩(亜鉛塩(B))
とを含有する防汚塗料組成物であって、
(1)該重合体(A)の含有量と該亜鉛塩(B)の含有量との重量比((A)/(B))が、45/55〜10/90であり、
(2)不揮発分含有量が75重量%以上であり、
(3)遊離のカルボキシル基を有するロジン及びロジン誘導体を実質的に含まない。
【0015】
<重合体(A)>
本発明の防汚塗料組成物は、重合性不飽和カルボン酸トリオルガノシリルを重合させてなる重合体(重合性不飽和カルボン酸トリオルガノシリル単位含有重合体)であって、数平均分子量(Mn)が1,000〜20,000、好ましくは2,000〜15,000である重合体を含有する。
【0016】
前記重合体(A)を含有することにより、防汚性能を効果的に発揮し、水棲汚損生物の付着を好適に防止できる塗膜を形成できる。
【0017】
前記重合体(A)のMnが1,000〜20,000の場合、形成される塗膜は、塗膜物性(塗膜の硬度・強靱性)が良好であるため、クラックやハガレが生じにくく、結果、長期間防汚効果を保つことができる。Mnが1,000未満の場合、塗膜溶解量が大きくなるが、塗膜が脆弱になりクラックを生じやすくなる。Mnが20,000を超える場合、塗膜による防汚効果を長期間保つことができない。具体的に、Mnが20,000を超える場合、塗膜は強靭となるが、塗膜溶解性が悪くなり徐々に防汚効果が低下するおそれがある。また、Mnが20,000を超える場合、前記重合体(A)の粘度が高いため、前記重合体(A)を含む塗料組成物自体の粘度が高くなりすぎてしまう。そのような塗料組成物を塗料として使用する際、多量の有機溶剤(シンナー)を必要とするため、環境上問題があり、また、経済性も悪い。
【0018】
Mnの測定方法としては、例えばゲルパミェーションクロマトグラフィー(GPC)が挙げられる。GPCによってMnを測定する場合、Mnは、ポリスチレンを標準物質として検量線を作成して測定することにより求めた値(ポリスチレン換算値)として表示される。
【0019】
前記重合体(A)の分子量の分散度は3.0未満であることが好ましい。分子量の分散度が3.0未満である場合、塗料組成物の粘度を好適に下げることができ、塗料として使用する際の溶剤の使用量を効果的に削減することができる。また、塗膜物性が良好で長期間防汚効果を効果的に発揮できる防汚塗料を得ることができる。
【0020】
特に、前記重合体(A)としては、Mnが2,000〜15,000であり、分子量の分散度が2.5未満である重合体が好ましく、Mnが5,000〜10,000であり、分子量の分散度が2.0〜1.0である重合体がより好ましい。
【0021】
前記重合体(A)のガラス転移温度(Tg)は20〜70℃が好ましく、30〜60℃がより好ましい。Tgが20〜70℃の場合、水温や気温にあまり影響されずに、長期間、適度な硬度と強靭性を保持することができる。Tgが20℃未満の場合、軟弱な塗膜が得られる。そのため、水温や気温が高くなるに従い、塗膜が軟らかくなりすぎてしまい、コールドフロー等の異常を起こし易くなる。Tgが60℃を超える場合、塗膜が硬すぎるため、塗膜にクラックやハガレが生じる原因となりやすい。
【0022】
前記重合体(A)は、少なくとも、下記一般式(I)で表されるトリオルガノシリル基含有単量体を(共)重合して得られるものである。
【0023】
【化1】

【0024】
一般式(I)中、Rとしては、重合性不飽和二重結合を有する炭化水素基であればよく特に限定されるものではないが、
【0025】
【化2】

【0026】
が好ましく、CH=C(CH)−、又は、CH=CH−がより好ましい。
【0027】
としては、炭素数が1〜8の直鎖又は分枝鎖状のアルキル基、シクロアルキル基、不飽和アルキル基、アラルキル基等が挙げられる。
【0028】
炭素数が1〜8の直鎖又は分枝鎖状のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、2−メチルブチル基、2−エチルブチル基、ペンチル基、3−メチルペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等が挙げられる。
【0029】
シクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等が挙げられる。
【0030】
不飽和アルキル基としては、2−プロペニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、2−ペンテニル基、3−ペンテニル基、4−ペンテニル基等が挙げられる。
【0031】
アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基等が挙げられる。
【0032】
なお、前記アルキル基、シクロアルキル基、不飽和アルキル基、アラルキル基等は置換基を有していてもよい。置換基としては、アルコキシ基、アシル基等が挙げられる。置換基の数及び置換位置等については、本発明の効果を妨げない範囲であればよく特に限定されるものではない。
【0033】
〜Rはそれぞれ同一又は異なって炭素数3〜8の分岐アルキル基又はフェニル基を示す。炭素数3〜8の分岐アルキル基としては、例えば、イソプロピル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、2−メチルブチル基、イソペンチル基、2−エチルブチル基、3−メチルペンチル基等が挙げられる。特に、R〜Rとしては、イソプロピル基、s−ブチル基、t−ブチル基及びフェニル基が好ましく、イソプロピル基がより好ましい。
【0034】
一般式(I)中、R〜Rは、それぞれ同一又は異なって炭素数3〜8の分岐アルキル基又はフェニル基であることが好ましい。炭素数3〜8の分岐アルキル基としては、R〜Rにて例示したアルキル基と同様である。特に、R〜Rとしては、イソプロピル基、s−ブチル基、t−ブチル基及びフェニル基が好ましく、イソプロピル基がより好ましい。
【0035】
一般式(I)で表されるトリオルガノシリル基含有単量体としては、例えば、トリイソプロピルシリル基含有単量体、トリイソブチルシリル基含有単量体、トリs−ブチルシリル基含有単量体、トリイソペンチルシリル基含有単量体、トリフェニルシリル基含有単量体、ジイソプロピルイソブチルシリル基含有単量体、ジイソプロピルs−ブチルシリル基含有単量体、ジイソプロピルイソペンチルシリル基含有単量体、ジイソプロピルフェニルシリル基含有単量体、イソプロピルジイソブチルシリル基含有単量体、イソプロピルジs−ブチルシリル基含有単量体、t−ブチルジイソブチルシリル基含有単量体、t−ブチルジイソペンチルシリル基含有単量体、t−ブチルジフェニルシリル基含有単量体などが挙げられる。これらのトリオルガノシリル基含有単量体は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。この中でも特に、トリイソプロピルシリル基含有単量体、トリs−ブチルシリル基含有単量体及びt−ブチルジフェニルシリル基含有単量体が好ましく、トリイソプロピルシリル基含有単量体がより好ましい。特に、製造工程、製造コスト、原料入手容易性及び環境安全性の観点から、トリオルガノシリル基含有単量体としては、R〜R全てがイソプロピル基であるトリイソプロピルシリル基含有単量体が好ましい。
【0036】
トリイソプロピルシリル基含有単量体としては、具体的には、(メタ)アクリル酸トリイソプロピルシリル、4−ペンテン酸トリイソプロピルシリル、マレイン酸ビス(トリイソプロピルシリル)、マレイン酸メチルトリイソプロピルシリル、マレイン酸エチルトリイソプロピルシリル、マレイン酸n−ブチルトリイソプロピルシリル、マレイン酸イソブチルトリイソプロピルシリル、マレイン酸t−ブチルトリイソプロピルシリル、マレイン酸n−ペンチルトリイソプロピルシリル、マレイン酸イソペンチルトリイソプロピルシリル、マレイン酸2−エチルヘキシルトリイソプロピルシリル、マレイン酸シクロヘキシルトリイソプロピルシリル、フマル酸ビス(トリイソプロピルシリル)、フマル酸メチルトリイソプロピルシリル、フマル酸エチルトリイソプロピルシリル、フマル酸n−ブチルトリイソプロピルシリル、フマル酸イソブチルトリイソプロピルシリル、フマル酸n−ペンチルトリイソプロピルシリル、フマル酸イソペンチルトリイソプロピルシリル、フマル酸2−エチルヘキシルトリイソプロピルシリル、フマル酸シクロヘキシルトリイソプロピルシリル等が挙げられる。これらは単独又は二種以上で使用できる。特に、トリイソプロピルシリル基含有単量体としては、(メタ)アクリル酸トリイソプロピルシリルが好ましい。
【0037】
なお、(メタ)アクリル酸トリイソプロピルシリルとは、アクリル酸トリイソプロピルシリル又はメタクリル酸トリイソプロピルシリルを意味する。
【0038】
前記重合体(A)としては、(メタ)アクリル酸トリイソプロピルシリル共重合体(共重合体(A))が好ましい。特に、前記共重合体(A)としては、(a)(メタ)アクリル酸トリイソプロピルシリル30〜60重量%、好ましくは30〜50重量%、(b)メタクリル酸メチル10〜50重量%、好ましくは10〜40重量%、並びに(c)(a)及び(b)以外の(メタ)アクリル酸エステル0〜60重量%、好ましくは0〜50重量%を共重合してなるものが望ましい。
【0039】
なお、前記「重量%」は、共重合させる単量体の合計量を100重量%とした場合における各単量体の使用割合を示す。
【0040】
前記単量体(a)の使用割合が30〜60重量%の場合、形成される塗膜が、所望の防汚効果を有効に発揮できる。また、塗膜の加水分解速度を好適に抑制でき、長期間、防汚効果を発揮することができる。更に、塗膜の耐水性及び強靱性を向上させることができる。
【0041】
前記単量体(a)の使用割合が30重量%未満の場合、塗膜溶解性が悪いため、塗膜が長期間防汚効果を発揮することが困難になる。前記単量体(a)の使用割合が60重量%を超える場合、塗膜溶解性が大きくなりすぎてしまい、塗膜設計が難しくなる。また、十分な耐水性及び強靱性を塗膜に付与することができない。
【0042】
前記単量体(b)の使用割合が10〜50重量%の場合、得られる塗膜は、適度な硬度と強靭性を長期間保つことができる。前記単量体(b)の使用割合が10重量%未満の場合、塗膜が軟弱になりコールドフロー等の異常を起こし易くなる。前記単量体(b)の使用割合が50重量%を超える場合、塗膜の強靭性は向上するものの硬くなりすぎてしまい、クラックやハガレが生じるおそれがある。
【0043】
前記単量体(c)の「他の(メタ)アクリル酸エステル」とは、メタクリル酸メチル以外のアクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルを意味する。例えば、アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸i−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸2一エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル等の(メタ)アクリル酸アルキル類;(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−メトキシブチル、(メタ)アクリル酸2−エトキエチル等の(メタ)アクリル酸アルコキシアルキル類;(メタ)アクリル酸エチレングリコールモノメチル、(メタ)アクリル酸プロピレングリコールモノメチル等の(メタ)アクリル酸アルキレングリコールモノメチル類;(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル類;(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル等の(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノエチル類;(メタ)アクリル酸トリn−ブチルシリル、(メタ)アクリル酸トリイソブチルシリル、(メタ)アクリル酸トリs−ブチルシリル、(メタ)アクリル酸トリフェニルシリル、(メタ)アクリル酸t−ブチルジフェニルシリル等の上記単量体(a)以外の(メタ)アクリル酸トリオルガノシリル類等が挙げられる。その他、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェニル等も挙げられる。前記例示の単量体(c)は、前記共重合体(1)の単量体成分として単独又は二種以上で使用できる。特に、単量体(c)としては、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−メトキシプロピル等がより好ましい。
【0044】
前記共重合体(A)の合成に際して、特に耐水性や塗膜溶解性に影響しない程度の少量であれば、上記単量体(a)(b)(c)以外の単量体を更に併用することもできる。
【0045】
前記併用可能な単量体としては、例えば、官能基を有するビニル化合物、芳香族化合物、アクリル酸及びメタクリル酸が挙げられる。官能基を有するビニル化合物としては、塩化ビニル、塩化ビニリデン、(メタ)アクリロニトリル、酢酸ビニル、ブチルビニルエーテル、ラウリルビニルエーテル、N−ビニルピロリドン等を例示できる。芳香族化合物としては、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等を例示できる。
【0046】
特に、前記共重合体(A)としては、(メタ)アクリル酸トリイソプロピルシリル(単量体(a))、メタクリル酸メチル(単量体(b))、並びに(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、及び(メタ)アクリル酸2−メトキシプロピルからなる群から選ばれる少なくとも1種の単量体(単量体(c))との共重合体が好ましい。
【0047】
前記重合体(A)は、ランダム共重合体、交互共重合体、周期的共重合体、又はブロック共重合体のいずれの共重合体であってもよい。
【0048】
前記重合体(A)は、例えば、重合開始剤の存在下、前記単量体(a)、単量体(b)及び単量体(c)を重合させることにより得られる。
【0049】
前記重合反応において使用される重合開始剤としては、例えば、2,2′−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2′−アゾビス−2−メチルブチロニトリル、ジメチル−2,2′−アゾビスイソブチレート等のアゾ化合物類、及びジベンゾイルパーオキサイド、ジ(3−メチルベンゾイル)パーオキサイド、ベンゾイル(3−メチルベンゾイル)パーオキサイド、ジラウリルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド化合物類、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルパーオクトエート等のt−ブチルパーオキサイド化合物類、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−アミルパーオキシアセテート、t−アミルパーオキシイソノナノエート、t−アミルパーオキシベンゾエート、t−アミルパーオキシアセテート、ジ(t−アミルパーオキサイド)、1,1−ジ(t−アミルパーオキシ)シクロヘキサン等のt−アミルパーオキサイド化合物類、及びt−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、t−ヘキシルパーオキシ−イソプロピルモノカーボネート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート等のt−ヘキシルパーオキサイド化合物類が挙げられる。これら重合開始剤は、単独又は2種以上を組み合わせて使用できる。前記重合開始剤としては、ジアシルパーオキサイド化合物類、t−ブチルパーオキサイド化合物類、t−アミルパーオキサイド化合物類及びt−ヘキシルパーオキサイド化合物類が好ましく、t−アミルパーオキサイド化合物類及びt−ヘキシルパーオキサイド化合物類がより好ましい。t−アミルパーオキサイド化合物類及びt−ヘキシルパーオキサイド化合物類を重合開始剤として用いることにより、他の重合開始剤を用いた場合より更に、分子量分布が狭く粘度が低い重合体を得ることが出来る。
【0050】
重合開始剤の使用量を適宜設定することにより、前記重合体(A)の分子量を調整することができる。
【0051】
重合方法としては、例えば、溶液重合、塊状重合、乳化重合、懸濁重合等が挙げられる。この中でも特に、簡便に、且つ、精度良く、前記重合体(A)を合成できる点で、溶液重合が好ましい。
【0052】
前記重合反応においては、必要に応じて有機溶媒を用いてもよい。有機溶剤としては、例えば、キシレン、トルエン等の芳香族炭化水素系溶剤;ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸メトキシプロピル等のエステル系溶剤;イソプロピルアルコール、ブチルアルコール等のアルコール系溶剤;ジオキサン、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤等が挙げられる。この中でも特に、芳香族炭化水素系溶剤が好ましく、キシレンがより好ましい。これら溶媒については、単独あるいは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0053】
重合反応における反応温度は、重合開始剤の種類等に応じて適宜設定すればよく、通常70〜140℃、好ましくは80〜120℃である。重合反応における反応時間は、反応温度等に応じて適宜設定すればよく、通常4〜8時間程度である。
【0054】
重合反応は、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下で行われることが好ましい。
【0055】
<亜鉛塩(B)>
本発明の防汚塗料組成物は、ロジン亜鉛塩及びロジン誘導体の亜鉛塩から選ばれる少なくとも1種の亜鉛塩(亜鉛塩(B))を含有する。前記亜鉛塩は、前記重合体(A)との相溶性が高いため、塗膜中において安定して存在することができる。そのため、本発明の組成物は、長期貯蔵性に優れる。
【0056】
ロジン(又はロジン誘導体)の金属塩として前記亜鉛塩以外のナトリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等を用いる場合、遊離のカルボキシル基を有するロジン(又はロジン誘導体)ほどではないが、前記ナトリウム塩等の親水性が高すぎるため、塗膜の耐水性が低下するおそれがある。
【0057】
ロジン亜鉛塩としては、例えば、ガムロジン亜鉛塩、ウッドロジン亜鉛塩、トール油ロジン亜鉛塩等が挙げられる。これらは1種又は2種以上で用いることができる。
【0058】
ロジン誘導体の亜鉛塩としては、例えば、マレイン化ロジン亜鉛塩、フォルミル化ロジン亜鉛塩、重合ロジン亜鉛塩、水添ロジン亜鉛塩、不均化ロジン亜鉛塩等が挙げられる。これらは1種又は2種以上で用いることができる。
【0059】
本発明においては、ロジン亜鉛塩が、ガムロジン亜鉛塩、ウッドロジン亜鉛塩及びトール油ロジン亜鉛塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の亜鉛塩であり、ロジン誘導体の亜鉛塩が、水添ロジン亜鉛塩及び不均化ロジン亜鉛塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の亜鉛塩であることが好ましい。
【0060】
前記ロジン塩及びロジン誘導体の塩には、市販品を用いることができる。また、前記ロジン塩及びロジン誘導体の塩は、公知の方法により製造することもできる。例えば、ロジン(又はロジン誘導体)の亜鉛塩は、遊離のカルボキシル基(COO基)を有するロジン(又はロジン誘導体)を溶液中で加熱しながら酸化亜鉛と反応させることにより合成できる。
【0061】
本発明の組成物は、比較的多量の前記亜鉛塩(B)を含有することを特徴とする。前記重合体(A)の含有量と前記亜鉛塩(B)の含有量との重量比((A)/(B))は、45/55〜10/90が好ましく、40/60〜20/80がより好ましい。前記重量比が45/55〜10/90の場合、塗膜の硬度及び強靱性が良好であるため、塗膜の溶解量を好適に抑制でき、塗膜が長期間防汚効果を発揮することができる。
【0062】
また、ロジン亜鉛塩及びロジン誘導体の亜鉛塩は、銅塩等の他の金属塩や前記重合体(A)に比べて粘度が低い。そのため、ロジン亜鉛塩及びロジン誘導体の亜鉛塩を、上記重量比の範囲となるよう多量に使用することにより、塗料組成物の粘度を下げることができる。この場合、得られる塗料組成物の粘度が低いので、該組成物を塗料として使用する際、溶剤の使用を抑制することができ、結果として不揮発分含有量の多い、すなわち揮発性有機化合物(VOC)の含有量が少ない防汚塗料(低VOC防汚塗料)を好適に得ることができる。
【0063】
本発明の組成物は、遊離のカルボキシル基を有するロジン及びロジン誘導体を実質的に含まない。具体的に、本発明の組成物中の前記ロジン及びロジン誘導体の含有量は、1重量%以下が好ましく、0〜0.1重量%がより好ましい。遊離のカルボキシル基を有するロジン及びロジン誘導体は、親水性が高い。そのため、前記塗膜が前記ロジン及びロジン誘導体を含む場合、塗膜の耐水性が低下するため、塗膜にブリスターやクラック等の異常が生じるおそれがある。
【0064】
<亜酸化銅>
本発明の防汚塗料組成物は、更に、亜酸化銅を含有することが好ましい。前記亜酸化銅は、防汚薬剤としての役割を果たすことができる。亜酸化銅を含有することにより、形成される塗膜は、防汚効果を有効に発揮できる。
【0065】
亜酸化銅の形状については、本発明の効果を妨げない範囲であればよく特に限定されない。例えば、亜酸化銅として、粒子状のものを使用できる。
【0066】
粒子状の亜酸化銅の平均粒径は3〜20μmが好ましく、8〜20μmがより好ましい。亜酸化銅の平均粒径が3〜20μmである場合、塗膜溶解速度を好適に抑制でき、結果、長期間防汚効果を発揮することができる。また、亜酸化銅の平均粒径が8〜20μmである場合、本発明の塗料組成物の粘度を更に下げることができ、結果として低VOC防汚塗料を好適に得ることができる。
【0067】
前記亜酸化銅としては、周囲をコーティング剤によってコーティングされたものが好ましい。例えば前記亜酸化銅として粒子状のものを使用する場合、粒子一つ一つの表面をコーティング剤によってコーティングすることが好ましい。コーティング剤によってコーティングすることにより、前記亜酸化銅の酸化を好適に防止できる。
【0068】
前記コーティング剤としては、例えば、ステアリン酸、ラウリン酸、グリセリン、ショ糖、レシチン等が挙げられる。これらコーティング剤については、一種単独又は二種以上を混合して使用できる。
【0069】
本発明の組成物は、前記亜酸化銅を、前記重合体(A)及び前記亜鉛塩(B)の合計量100重量部に対して100〜400重量部含むことが好ましく、200〜300重量部含むことがより好ましい。前記亜酸化銅の含有量が前記重合体(A)及び前記亜鉛塩の合計量100重量部に対して100〜400重量部である場合、前記塗膜は防汚効果を好適に発揮できる。
【0070】
前記組成物中の亜酸化銅は、前記重合体(A)、前記亜鉛塩(B)、後記有機溶剤等で覆われていることが望ましい。前記亜酸化銅が前記重合体(A)等で十分に覆われていない場合、前記組成物中で前記亜酸化銅が十分に分散できず凝集するおそれがある。前記亜酸化銅が凝集すると、形成される塗膜にクラックや剥離が生じやすくなる。
【0071】
本発明の組成物は、防汚効果の発揮を阻害しない範囲であれば、前記亜酸化銅以外の他の無機系防汚薬剤を更に含有してもよい。前記無機系防汚薬剤としては、例えば、チオシアン酸銅(一般名:ロダン銅)、キュプロニッケル、銅粉等が挙げられる。これらは、単独又は二種以上で使用できる。
【0072】
<顔料>
本発明の防汚塗料組成物には、各種顔料を含有させてもよい。顔料を含有させることにより、塗膜の強度、耐候性及び耐水性、並びに塗膜の溶解性を向上させることができる。
【0073】
特に、本発明の組成物は、更に、酸化亜鉛を含有することが好ましい。酸化亜鉛を含有することにより、形成される塗膜の海水への溶解が促進され、防汚効果を有効に発揮できる。酸化亜鉛の形状は、特に限定されない。例えば、酸化亜鉛として、粒子状のものを使用できる。
【0074】
粒子状の酸化亜鉛を用いる場合、その粒径は本発明の効果を妨げない範囲であればよく特に限定されない。
【0075】
本発明の組成物中における前記酸化亜鉛の含有量は、前記重合体(A)及び前記亜鉛塩(B)の合計量100重量部に対して10〜100重量部が好ましく、20〜50重量部がより好ましい。前記酸化亜鉛の含有量が前記重合体(A)及び前記亜鉛塩(B)の合計量100重量部に対して10〜100重量部である場合、塗膜の溶解速度を好適に調整できる。前記酸化亜鉛の含有量が、前記重合体(A)及び前記亜鉛塩(B)の合計量100重量部に対して10重量部未満の場合、塗膜の海水への溶解を十分に促進させることができない。前記酸化亜鉛の含有量が前記重合体(A)及び前記亜鉛塩(B)の合計量100重量部に対して100重量部を超える場合、塗膜溶解性が大きくなり過ぎてしまい、塗膜の溶解速度の調整が困難になる。
【0076】
上記酸化亜鉛以外にも、顔料として公知の水溶性顔料と水不溶性顔料を添加してもよい。
【0077】
水溶性顔料としては、例えば亜酸化銅、酸化銅、チオシアン酸銅、炭酸亜鉛、硫化亜鉛、リン酸水素カルシウム、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、炭酸鉄、鉄カルボニル、水酸化マグネシウム及び炭酸マグネシウム等が挙げられる。これらは、一種単独で又は二種以上を組み合わせて使用できる。特に、水溶性顔料として、亜酸化銅及びチオシアン酸銅から選ばれる少なくとも一種の水溶性顔料を用いることが好ましい。
【0078】
なお、水溶性顔料として例示した亜酸化銅は、上記<亜酸化銅>の項で説明した亜酸化銅と同一のものであっても異なるものであってもよい。
【0079】
水不溶性顔料としては、酸化チタン、酸化鉄、タルク、炭酸カルシウム、シリカ、カオリン、パーライト、雲母、硫酸バリウム、黒鉛及びカーボンブラック等が挙げられる。これらは、一種単独で又は二種以上を組み合わせて使用できる。特に、水不溶性顔料として、酸化チタン、酸化鉄、タルク、炭酸カルシウム、シリカ、カオリン及び硫酸バリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の水不溶性顔料を用いることが好ましい。
【0080】
前記水溶性顔料には、塗膜の海水への溶解性を向上させる効果がある。上記酸化亜鉛は、水溶性顔料に属する化合物である。また、前記水不溶性顔料には、塗膜の海水への溶解性を抑制する効果がある。従って、前記水溶性顔料及び前記水不溶性顔料の種類とこれら顔料の使用量とを適宜設定することにより、塗膜物性と塗膜の溶解性を好適に調整できる。
【0081】
本発明の組成物中の顔料の含有量は、特に限定されないが、形成される塗膜中の顔料体積濃度(PVC)が20〜50%、好ましくは25〜45%となるように調整されることが望ましい。
【0082】
PVCが20%未満の塗膜は、軟弱で強度が不十分である。PVCが50%を超える塗膜は、脆くクラックが生じやすい。
【0083】
なお、PVCは、以下の式で計算できる。
【0084】
PVC(%)=顔料(溶剤に溶解していない顔料を含む)の体積(ml)の合計量÷全固形分の体積(ml)の合計量×100
前記式中、「全固形分の体積」とは、前記顔料、前記重合体(A)、前記亜鉛塩(B)等の合計体積を意味する。本発明の組成物が上記<亜酸化銅>の項にて説明した亜酸化銅、後記有機系防汚薬剤、可塑剤、除水剤、分散剤等を含む場合はこれらの体積も前記「全固形分の体積」に含まれる。
【0085】
前記組成物中の顔料は、上記亜酸化銅と同様、前記重合体(A)等で覆われていることが望ましい。前記顔料が前記重合体(A)等で十分に覆われている場合、形成される塗膜におけるクラックや剥離の発生を効果的に防止できる。
【0086】
<有機系防汚薬剤>
本発明の防汚塗料組成物は、更に、有機系防汚薬剤を含んでいてもよい。
【0087】
前記有機系防汚薬剤としては、海棲汚損生物に対して殺傷又は忌避作用を有する物質であればよく、特に限定されない。例えば、2−メルカプトピリジン−N−オキシド銅(一般名:カッパーピリチオン)等の有機銅化合物、2−メルカプトピリジン−N−オキシド亜鉛(一般名:ジンクピリチオン)、ジンクエチレンビスジチオカーバメート(一般名:ジネブ)、ビス(ジメチルジチオカルバミン酸)亜鉛(一般名:ジラム)、ビス(ジメチルジチオカルバメート)エチレンビス(ジチオカーバメート)二亜鉛(一般名:ポリカーバメート)等の有機亜鉛化合物;ピリジン・トリフェニルボラン、4−イソプロピルピリジル−ジフェニルメチルボラン、4−フェニルピリジル−ジフェニルボラン、トリフェニルボロン−n−オクタデシルアミン、トリフェニル[3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン]ボロン等の有機ボロン化合物;2,4,6−トリクロロマレイミド、N−(2,6ジエチルフェニル)2,3−ジクロロマレイミド等のマレイミド系化合物;その他、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−3−イソチアゾロン(一般名:シーナイン211)、3,4−ジクロロフェニル−N−N−ジメチルウレア(一般名:ジウロン)、2−メチルチオ−4−t−ブチルアミノ−6−シクロプロピルアミノ−s−トリアジン(一般名:イルガロール1051)、2,4,5,6−テトラクロロイソフタロニトリル(一般名:クロロタロニル)、Nージクロロフルオロメチルチオ−N’,N’−ジメチル−N―p−トリルスルファミド(一般名:トリフルアニド)、Nージクロロメチルチオ−N’,N’−ジメチル−N−フェニルスルファミド(一般名:ジクロフルアニド)、2−(4−チアゾリル)ベンズイミダゾ−ル(一般名:チアベンダゾール)、3−(ベンゾ〔b〕チエン−2−イル)−5,6−ジヒドロ−1,4,2−オキサチアジン−4−オキシド(一般名:ベトキサジン)、2−(p−クロロフェニル)−3−シアノー4−ブロモー5−トリフルオロメチル ピロール(一般名:エコニア028)等が挙げられる。この中でも特に、ジンクピリチオン、カッパーピリチオン、ピリジン・トリフェニルボラン、4−イソプロピルピリジル−ジフェニルメチルボラン、ベトキサジン、ジネブ、シーナイン211及びイルガロール1051が好ましく、カッパーピリチオン、ジンクピリチオン、ピリジン・トリフェニルボラン及びベトキサジンがより好ましい。これらの有機系防汚薬剤は単独で又は2種以上を併用して使用できる。
【0088】
本発明の組成物中における前記有機系防汚薬剤の含有量は、前記重合体(A)及び前記亜鉛塩(B)の合計量100重量部に対して1〜50重量部が好ましく、10〜30重量部がより好ましい。有機系防汚薬剤の含有量が、前記重合体(A)及び前記亜鉛塩(B)の合計量100重量部に対して1重量部未満の場合、前記有機系防汚薬剤による防汚効果を十分に発揮できない。有機系防汚薬剤の含有量が、前記重合体(A)及び前記亜鉛塩(B)の合計量100重量部に対して50重量部を超える場合、前記有機系防汚薬剤の含有量を増加させることによる防汚効果の向上がみられず、経済的にムダである。
【0089】
<可塑剤>
本発明の防汚塗料組成物は、更に、可塑剤を含んでいてもよい。可塑剤を含有させることにより、前記組成物の可塑性を向上させることができ、結果、強靱な塗膜を好適に形成できる。また、被塗膜形成物に対する塗膜の接着性を向上させることができる。
【0090】
前記可塑剤としては、例えば、トリクレジルフォスフェート、トリオクチルフォスフェート、トリフェニルフォスフェート等の燐酸エステル類;ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート等のフタル酸エステル類;ジブチルアジペート、ジオクチルアジペート等のアジピン酸エステル類;ジブチルセバケート、ジオクチルセバケート等のセバシン酸エステル類;エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油等のエポキシ化油脂類;メチルビニルエーテル重合体、エチルビニルエーテル重合体等のアルキルビニルエーテル重合体;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;その他、t−ノニルペンタスルフィド、ワセリン、ポリブテン、トリメリット酸トリス(2−エチルヘキシル)、シリコーンオイル、流動パラフィン、塩素化パラフィン、Tgが−20℃以下のエチレン性不飽和カルボン酸エステル重合体等が挙げられる。これらは単独又は2種以上で使用できる。
【0091】
本発明においては、前記可塑剤としては、燐酸エステル類、エポキシ化油脂類及びTgが−20℃以下のエチレン性不飽和カルボン酸エステル重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種の可塑剤であることが好ましく、エポキシ化油脂類がより好ましい。
【0092】
本発明の組成物中における前記可塑剤の含有量は、前記組成物中における前記ロジン亜鉛塩及び/又はロジン誘導体の亜鉛塩の含有量にもよるが、前記重合体(A)及び前記亜鉛塩(B)の合計量100重量部に対して1〜50重量部が好ましく、5〜30重量部がより好ましい。前記可塑剤の含有量が前記重合体(A)及び前記亜鉛塩(B)の合計量100重量部に対して1重量部未満の場合、物性(強靱性、接着性等)の改良の効果が十分に発現しない。前記可塑剤の含有量が前記重合体(A)及び前記亜鉛塩(B)の合計量100重量部に対して50重量部を超える場合、形成される塗膜が軟弱で実用に耐えないという問題が生じやすい。
【0093】
<除水剤>
本発明の防汚塗料組成物は、更に、除水剤を含むことが好ましい。前記除水剤は、前記組成物中の水を除去するための薬剤である。除水剤としては、水結合剤及び脱水剤が挙げられる。水結合剤及び脱水剤については、それぞれ単独で使用してもよいし、両者を併用して使用してもよい。
【0094】
前記水結合剤とは、水と反応することにより塗料組成物中の水を除く性質を持つ化合物である。例えば、オルト蟻酸メチル、オルト蟻酸エチル等のオルト蟻酸アルキルエステル類;テトラエトキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラフェノキシシラン、テトラキス(2−エトキシブトキシ)シラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン等のアルコキシシラン類;無水マレイン酸、無水フタル酸等の酸無水物等が挙げられる。
【0095】
前記脱水剤とは、水を結晶水として取り込むことにより前記組成物中の水を除く性質を持つ化合物である。例えば、無水石膏、モレキュラーシーブ、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム等が挙げられる。
前記除水剤としては、特に、水結合剤が好ましく、アルコキシシラン類及びオルト蟻酸アルキルエステル類からなる群から選ばれる少なくとも1種の水結合剤がより好ましく、テトラエトキシシランが最も好ましい。
【0096】
本発明の組成物中における前記除水剤の含有量は、特に限定されないが、前記重合体(A)及び前記亜鉛塩(B)の合計量100重量部に対して1〜50重量部が好ましく、2〜30重量部がより好ましい。除水剤の含有量が前記重合体(A)及び前記亜鉛塩(B)の合計量100重量部に対して1重量部未満の場合、十分な貯蔵安定性が得られないおそれがある。除水剤の含有量が前記重合体(A)及び前記亜鉛塩(B)の合計量100重量部に対して50重量部を超える場合、塗膜が脆弱になるおそれがある。特に、水結合剤は、空気中に揮発しやすい。そのため、環境問題等の観点から、除水剤として水結合剤を使用する場合、その使用量は前記重合体(A)及び前記亜鉛塩(B)の合計量100重量部に対して30重量部以下とすることが好ましい。
【0097】
<分散剤>
本発明の組成物は、更に、分散剤(沈降防止剤)を含むことが好ましい。分散剤を含有させることにより、本発明の組成物の貯蔵中に、該組成物中の成分(例えば顔料、亜酸化銅、酸化亜鉛、酸化チタン、弁柄、タルク等)が沈降しハードケーキ(固い沈殿物)となるのを効果的に防止できる。また、本発明の組成物を用いて被塗膜形成物の表面に塗膜を形成する際、前記組成物(塗料)が垂れるという問題を有効に解決することができる。
【0098】
前記分散剤として、例えば、酸化ポリエチレン系分散剤、脂肪酸アマイド系分散剤、脂肪酸エステル系分散剤、水添ひまし油系分散剤、植物重合油系分散剤、ポリエーテル・エステル型界面活性剤、硫酸エステル型アニオン系界面活性剤、ポリカルボン酸アミン塩系分散剤、ポリカルボン酸系分散剤、高分子ポリエーテル系分散剤、アクリル重合物系分散剤、特殊シリコン系分散剤、タルク系分散剤、ベントナイト系分散剤、カオリナイト系分散剤、シリカゲル系分散剤等が挙げられる。これら分散剤については単独で又は二種以上を併用して使用できる。本発明の組成物は、前記分散剤として、脂肪酸アマイド系分散剤を含むことが好ましい。本発明の組成物は、例えば、上記重合体(A)等を含む混合液を調製した後、該混合液を混合分散する工程を経て製造される。前記混合液が前記脂肪酸アマイド系分散剤を含有する場合、該混合液の保存安定性を向上させることができ、より簡便且つ確実に本発明の組成物を得ることができる。
【0099】
前記分散剤には、市販のものを使用できる。例えば、脂肪酸アマイド系分散剤としては、例えば、ディスパロンA603−10X(又は20X)、ディスパロン6900−10X(又は20X)、ディスパロン6810−10X(又は20X)(いずれも楠本化成株式会社製)、ターレン7500−20、フローノンSP−1000(いずれも共栄社化学株式会社製)等を使用できる。
【0100】
前記分散剤は、キシレン等の有機溶媒に分散させて使用することもできる。
本発明の組成物中における前記分散剤の含有量は、特に制限されないが、前記重合体(A)及び前記亜鉛塩(B)の合計量100重量部に対して1〜50重量部が好ましく、2〜30重量部がより好ましい。前記分散剤の含有量が前記重合体(A)及び前記亜鉛塩(B)の合計量100重量部に対して1重量部未満の場合、分散剤使用による効果(すなわち、ハードケーキ生成を抑制する効果)が十分に発揮されないおそれがある。すなわち、本発明の組成物の貯蔵安定性が不十分になるおそれがある。前記分散剤の含有量が前記重合体(A)及び前記亜鉛塩(B)の合計量100重量部に対して50重量部を超える場合、前記組成物の粘度が高くなり過ぎてしまい、塗装が困難になるおそれがある。また、前記分散剤の含有量を増加させることによるハードケーキ生成を抑制する効果の向上がみられず、経済的にもムダである。
【0101】
<その他の添加剤等>
本発明の組成物は、さらに、染料、色別れ防止剤、消泡剤等を含んでいてもよい。
【0102】
本発明の組成物は、通常、有機溶剤に溶解乃至分散させておく。これにより、塗料として好適に用いることができる。有機溶剤としては、例えば、キシレン、トルエン、ミネラルスピリット、MIBK、酢酸ブチル等が挙げられる。この中でも特に、キシレン又はMIBKが好ましい。これら有機溶剤は、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0103】
特に、本発明の組成物を用いる場合、前記有機溶剤の使用を抑えることができる。これは、本発明の組成物は粘度が低いためである。このような組成物を用いた塗料を当業界では「ハイソリッド塗料」と称することがある。
【0104】
すなわち、本発明の組成物は、低VOC防汚塗料組成物として用いることができる。本発明の組成物を用いた塗料は、揮発性有機化合物の大気への飛散が少ないため、環境への負荷を低減することができる。
【0105】
本発明の組成物のVOC含有量は、400g/L未満が好ましく、300〜350g/Lがより好ましい。
【0106】
本発明の組成物の不揮発成分含有量は75重量%以上、好ましくは80重量%以上、さらに好ましくは85重量%以上である。
【0107】
本発明の組成物は、ストーマー粘度計を用いて測定される25℃における粘度が70〜100KUであるであることが好ましく、80〜100KUであることがより好ましい。ストーマー粘度計を用いて測定される25℃における粘度が70〜100KUである場合、溶剤の使用量が少量であっても、容易に本発明の塗料組成物を用いて厚い塗膜を形成できる。また、本発明の組成物中の成分(例えば顔料、亜酸化銅、酸化亜鉛、酸化チタン、弁柄、タルク等)が沈降するのを効果的に防止しつつ長期間保存できる。
【0108】
前記粘度の測定は、JIS−5400(又は、ASTM D562−01)の規定に従って行うことができる。ストーマー粘度計としては、市販のものを用いればよい。
【0109】
本発明の組成物は、貯蔵安定性に優れており、長期間保存しても、ゲル化・固化することがほとんどない。
【0110】
防汚塗料組成物の製造方法
本発明の防汚塗料組成物の製造方法は、
(A)重合性不飽和カルボン酸トリオルガノシリルを重合させてなる、数平均分子量が1,000〜20,000である重合体(重合体(A))と、
(B)ロジン亜鉛塩及びロジン誘導体の亜鉛塩から選ばれる少なくとも1種の亜鉛塩(亜鉛塩(B))
とを混合する、
(1)該重合体(A)の含有量と該亜鉛塩(B)の含有量との重量比((A)/(B))が、45/55〜10/90であり、
(2)不揮発分含有量が75重量%以上であり、
(3)遊離のカルボキシル基を有するロジン及びロジン誘導体を実質的に含まない、
防汚塗料組成物を製造する方法である。
【0111】
本発明の製造方法によれば、上記本発明の防汚塗料組成物を好適に製造することができる。
【0112】
前記重合体(A)及び前記亜鉛塩(B)としては、上記<重合体(A)>及び<亜鉛塩(B)>の項に記載の重合体(A)及び亜鉛塩(B)を用いればよい。また、必要に応じて、上記顔料、上記亜酸化銅、上記有機防汚薬剤、上記除水剤、上記分散剤等の各種添加剤を混合してもよい。
【0113】
前記重合体(A)、前記亜鉛塩(B)等の使用量については、それぞれ上記防汚塗料組成物中の上記重合体(A)、上記亜鉛塩(B)等の含有量となるように適宜調整すればよい。
【0114】
混合する際、前記重合体(A)等の各種材料を溶媒に溶解乃至分散させることが好ましい。例えば、前記重合体(A)及び前記亜鉛塩(B)については、それぞれ溶媒に溶解乃至分散させた状態で他の材料(上記有機防汚薬剤等)とともに混合してもよい。前記溶媒としては、例えば、キシレン、トルエン、ミネラルスピリット、MIBK、酢酸ブチル等が挙げられる。この中でも特にキシレンが好ましい。これら溶媒は単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0115】
本発明の防汚塗料組成物を製造する際に亜酸化銅を用いる場合、亜酸化銅の平均粒径に応じて、下記製造方法1及び製造方法2を採用することが好ましい。
【0116】
具体的に、亜酸化銅として、平均粒径3〜10μm、好ましくは3〜8μmの亜酸化銅を用いる場合、下記製造方法1を採用することが好ましい。
【0117】
<製造方法1>
前記重合体(A)及び前記亜鉛塩(B)に加え、さらに、平均粒径が3〜10μm、好ましくは3〜8μmの亜酸化銅を混合した後、得られた混合物を分散機を用いて混合分散する。
【0118】
平均粒径が3〜10μmの亜酸化銅は、二次凝集を起こしやすい。そのため、亜酸化銅を含む各材料を混合するだけでは、得られた組成物中にダマが生じ、結果、形成した塗膜にクラック等が生じるおそれがある。前記製造方法1によれば、平均粒径が3〜10μmの亜酸化銅を含有する混合物を分散機を用いて混合し、該混合物中の亜酸化銅等を分散させることにより、二次凝集した亜酸化銅を破壊しつつ、前記亜酸化銅が好適に分散した防汚塗料組成物を得ることができる。
【0119】
製造方法1によれば、上記重合体(A)、上記亜鉛塩(B)、前記平均粒径が3μm〜10μmの亜酸化銅を含む混合物を分散機を用いて混合分散することにより上記防汚塗料組成物を製造することができる。
前記混合物には、必要に応じて、上記顔料、上記有機防汚薬剤、上記除水剤、上記分散剤等の各種添加剤を含有させてもよい。
【0120】
前記混合物中における上記重合体(A)、上記亜鉛塩(B)、上記亜酸化銅等の含有量は、それぞれ上記防汚塗料組成物中の上記重合体(A)、上記亜鉛塩(B)、上記亜酸化銅等の含有量となるように適宜調整すればよい。
【0121】
前記混合物は、上記重合体(A)等の各種材料を溶媒に溶解乃至分散させたものであることが好ましい。例えば、前記混合物を調製する際、上記重合体(A)及び上記亜鉛塩(B)については、それぞれ溶媒に溶解乃至分散させた状態で他の材料(上記有機防汚薬剤等)とともに混合してもよい。前記溶媒としては、上記した溶媒と同様のものを使用できる。
【0122】
前記分散機としては、例えば、微粉砕機として使用できるものを好適に用いることができる。例えば、ミルやディゾルバーが挙げられる。
【0123】
前記ミルとしては、例えば、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、パールミル、ダイノーミル、カウレスミル、バスケットミル、アトライター等の一般的に塗料の混合分散用として用いられるミルを使用できる。
【0124】
前記ディゾルバーは、回転羽根式のグラインダーを備えた分散機であり、該グラインダーを回転させることにより前記混合液を混合分散できる。前記分散機としてディゾルバーを使用する際、前記ディゾルバーのグラインダーを高速回転させることが好ましい。前記グラインダーを高速回転させることにより、二次凝集した亜酸化銅を好適に破壊することができる。
【0125】
なお、前記ディゾルバーは、ディスパーと呼ばれることもある。
【0126】
亜酸化銅として、平均粒径が10〜20μm、好ましくは13〜20μmの亜酸化銅を用いる場合、下記製造方法2を採用することが好ましい。
【0127】
<製造方法2>
前記重合体(A)と前記亜鉛塩(B)とを混合することにより得られた混合物を分散機を用いて混合分散した後、平均粒径が10〜20μm、好ましくは13〜20μmの亜酸化銅を添加し混合する。
【0128】
平均粒径が10〜20μmの亜酸化銅は、比較的二次凝集しにくい。そのため、上記重合体(A)及び上記亜鉛塩(B)を含有する混合物を分散機を用いて混合分散した後、得られた混合分散物に前記亜酸化銅を添加し、亜酸化銅粒子を出来る限り粉砕しないように、混合装置を用いて混合することにより本発明の組成物を製造できる。この方法によれば、前記亜酸化銅をほとんど粉砕することがないので、得られる組成物中の前記亜酸化銅の表面積を比較的小さい範囲にとどめることができる。例えば、前記亜酸化銅の表面積を1.3×10−3mm以下、好ましくは、3.0×10−4〜1.3×10−3mmにとどめることができる。
【0129】
上記の通り、前記組成物中の亜酸化銅は、前記重合体(A)等で十分に覆われていることが望ましい。
【0130】
前記亜酸化銅の表面積が小さいと、亜酸化銅の表面を覆うために必要な前記重合体(A)、前記亜鉛塩(B)、有機溶剤等の使用量を減らすことができ、その結果、低VOC防汚塗料を好適に得ることができる。
【0131】
また、防汚塗膜においても、前記亜酸化銅の表面積が小さいと、海水の温度が高い場合、具体的には、海水の温度が30℃以上の場合であっても、塗膜の溶解速度を効果的に抑えることができる。また、前記製造方法2によれば、前記分散機による処理時間を短縮でき、本発明の組成物の製造コストを抑えることができる。
【0132】
前記混合物は、前記亜酸化銅を含有しない以外は、上記製造方法1の混合物と同様である。
【0133】
前記亜酸化銅の添加量は、上記防汚塗料組成物中の亜酸化銅の含有量となるように適宜調整すればよい。
【0134】
前記分散機としては、上記製造方法1にて使用する分散機と同様のものを使用できる。
【0135】
前記混合装置としては、特に限定されず、公知の混合装置を用いることができる。例えば、上記ディゾルバーを使用することもできる。上記ディゾルバーを使用する際、上記グラインダーを中速又は低速回転させることが好ましい。中速又は低速回転させることにより、前記亜酸化銅の粉砕を効果的に防止できる。
【0136】
防汚処理方法、防汚塗膜、及び塗装物
本発明の防汚処理方法は、上記防汚塗料組成物を用いて被塗膜形成物の表面に防汚塗膜を形成することを特徴とする。本発明の防汚処理方法によれば、前記防汚塗膜が表面から徐々に溶解し塗膜表面が常に更新されることにより、水棲汚損生物の付着防止を図ることができる。また、塗膜を溶解させた後、上記組成物を上塗りすることにより、継続的に防汚効果を発揮することができる。
【0137】
被塗膜形成物としては、例えば、船舶(特に船底)、漁業具、水中構造物等が挙げられる。漁業具としては、例えば、養殖用又は定置用の漁網、該漁網に使用される浮き子、ロープ等の漁網付属具等が挙げられる。水中構造物としては、例えば、発電所導水管、橋梁、港湾設備等が挙げられる。
【0138】
本発明の防汚塗膜は、上記防汚塗料組成物を被塗膜形成物の表面(全体又は一部)に塗布することにより形成できる。
【0139】
塗布方法としては、例えば、ハケ塗り法、スプレー法、ディッピング法、フローコート法、スピンコート法等が挙げられる。これらは、1種又は2種以上を併用して行ってもよい。
【0140】
塗布後、乾燥させる。乾燥温度は、室温でよい。乾燥時間は、塗膜の厚み等に応じて適宜設定すればよい。
前記防汚塗膜の厚みは、被塗膜形成物の種類、船舶の航行速度、海水温度等に応じて適宜設定すればよい。例えば、被塗膜形成物が船舶の船底の場合、防汚塗膜の厚みは通常50〜500μm、好ましくは100〜400μmである。
【0141】
本発明の防汚塗膜は、1)塗膜が海水中に長期間安定して溶解し、常に塗膜表面が更新するため、防汚効果が良く、長期間海中にあっても塗膜表面に海棲生物が付着しない。2)塗膜の耐水性が良く、塗膜が長期間海中にあっても、塗膜表面にブリスター、膨潤、クラック等の塗膜異常を生じない3)塗膜が適度な硬さを有するため、コールドフロー等の塗膜異常を起こしにくい、且つ、4)被塗膜形成物に対する接着性が高く施工が容易であるという利点を有する。
【0142】
本発明の塗装物は、前記防汚塗膜を表面に有する。本発明の塗装物は、前記防汚塗膜を表面の全体に有していてもよく、一部に有していてもよい。
【0143】
本発明の塗装物は、上記1)〜4)の利点を有する防汚塗膜を備えているため、上記船舶(特に船底)、漁業具、水中構造物等として好適に使用できる。
【0144】
例えば、船舶の船底表面に上記防汚塗膜を形成した場合、前記防汚塗膜が表面から徐々に溶解し塗膜表面が常に更新されることにより、水棲汚損生物の付着防止を図ることができる。
【0145】
しかも、前記防汚塗膜は、海水中における加水分解速度が好適に抑制されている。そのため、該船舶は、防汚性能を長期間維持でき、例えば、停泊中、艤装期間中等の静止状態においても、水棲汚損生物の付着・蓄積がほとんどなく、長期間、防汚効果を発揮できる。
【0146】
また、長時間経過後においても、表面の防汚塗膜には、基本的にクラックやハガレが生じない。そのため、塗膜を完全に除去した後あらためて塗膜を形成する等の作業を行う必要がない。よって、上記防汚塗膜組成物を直接上塗りすることにより好適に防汚塗膜を形成できる。これにより、簡便にかつ低コストでの継続的な防汚性能の維持が可能になる。
【発明の効果】
【0147】
本発明の防汚塗料組成物によれば、塗料中における揮発性有機化合物(有機溶剤等)の含有量を抑えることができるため、必要な膜厚の防汚塗膜を形成するにあたって、空気中に飛散する有機化合物が少なく環境に対する負荷が少ない。
【0148】
また、本発明の組成物は、長期保存性に優れている。すなわち、本発明の組成物は、長期間保存しても、増粘したり、ゲル化・固化することがほとんどない。さらに、本発明の防汚塗料組成物は、環境安全性が高く、海水中に溶解しても、海洋汚染の問題がほとんどない。
【0149】
本発明の防汚塗料組成物を用いて形成される防汚塗膜は、1)塗膜が海水中に長期間安定して溶解し、常に塗膜表面が更新するため、防汚効果が良く、長期間海中にあっても塗膜表面に海棲生物が付着しない。2)塗膜の耐水性が良く、塗膜が長期間海中にあっても、塗膜表面にブリスター、膨潤、クラック等の塗膜異常を生じない3)塗膜が適度な硬さを有するため、コールドフロー等の塗膜異常を起こしにくい、且つ、4)被塗膜形成物に対する接着性が高く施工が容易であるという利点を有する。
【0150】
本発明の塗装物は、上記1)〜4)の利点を有する防汚塗膜を備えているため、上記船舶(特に船底)、漁業具、水中構造物等として好適に使用できる。例えば、船舶の船底表面に上記防汚塗膜を形成した場合、前記防汚塗膜が表面から徐々に溶解し塗膜表面が常に更新されることにより、水棲汚損生物の付着防止を図ることができる。
【0151】
しかも、前記防汚塗膜は、適度な溶解性を有する。そのため、該船舶は、停泊中、艤装期間中等の静止状態においても、水棲汚損生物の付着・蓄積がほとんどなく、長期間、防汚効果を発揮できる。これにより、船舶の摩擦抵抗が減少し、航行時における燃料の節約が期待できる。
【0152】
また、表面の防汚塗膜には、長時間経過後においても、基本的に塗膜欠陥が発生しない。そのため、前記塗装物を一定期間使用後、上記防汚塗膜組成物を直接上塗りすることにより好適に防汚塗膜を形成できる。これにより、簡便にかつ低コストでの継続的な防汚性能の維持が可能になる。
【実施例】
【0153】
以下に、実施例等を示し本発明の特徴とするところをより一層明確にする。ただし、本発明は実施例等に限定されるものではない。
【0154】
各製造例、比較製造例、実施例及び比較例中の%は重量%を示す。
【0155】
共重合体(A)溶液の粘度は、25℃での測定値であり、B形粘度計により求めた値である。
【0156】
加熱残分は、JIS K5601−1−2(又は、ISO3251)の規定に従って、125℃で1時間加熱して求めた値である。
【0157】
数平均分子量(Mn)は、GPCにより測定した値(ポリスチレン換算値)である。
【0158】
GPCの条件は下記の通りである。
装置:HLC−8220GPC(東ソー株式会社製)
カラム:TSKgel SuperHZM−M 2本
流量:0.35 mL/min
検出器:RI
カラム恒温槽温度:40℃
遊離液:THF
分子量の分散度は、上記のGPCにより求めた重量平均分子量(Mw)をMnで除することにより求めた値である。
【0159】
共重合体のガラス転移温度(Tg)は、JIS K 7121の規定に従って、Seiko Instruments SSC/5200の示差走査熱量計を用いて測定した値である。
【0160】
塗料組成物の粘度は、JISK 5400の規定に従って、ストーマー粘度計を用いて25℃で測定した値である。測定条件は以下の通りである。
ストーマー粘度計:コーティングテスター工業製ストーマー粘度計NO.453
測定温度:25±0.5℃
サンプル量:500ml(500mlの試料缶の標線まで入れる)
おもり:75〜1000g
測定法:回転翼が100回転するまでの時間を測定する。おもりを変えて測定し、100回転するまでの時間が27〜33秒の範囲で、30秒に最も近い値を選択し、100回転するまでの時間の秒数と使用したおもりの質量からKU換算表を用いて、KU値を求めた。
【0161】
また、表1中の各成分の配合量の単位はgである。
【0162】
製造例1(共重合体(A)溶液の製造)
温度計、還流冷却器、撹拌機及び滴下ロートを備えた1000mlのフラスコに、キシレン330gを仕込んだ後、窒素雰囲気下、115〜120℃で攪拌しながら、該フラスコに、アクリル酸トリイソプロピルシリル150g、メタクリル酸メチル150g、アクリル酸n−ブチル50g、メタクリル酸2−メトキシエチル150g及びt−ブチルパーオクトエート5gの混合液を3時間かけて滴下した。滴下後、115〜120℃で2時間重合反応を行った。次いで、得られた反応液にt−ブチルパーオクトエート2g(追加)を添加し115〜120℃で更に2時間重合反応を行い、共重合体(A)溶液S−1を得た。S−1の粘度、加熱残分、数平均分子量(Mn)、分子量の分散度(Mw/Mn)、ガラス転移温度(Tg)を表1に示す。
【0163】
製造例2〜6(共重合体(A)溶液の製造)
表1に示す溶剤、単量体及び重合開始剤を用いて、製造例1と同様の操作で重合反応を行うことにより、共重合体(A)溶液S−2〜S−6を得た。得られた各共重合体溶液の粘度、加熱残分、数平均分子量(Mn)、分子量の分散度(Mw/Mn)、ガラス転移温度(Tg)を表1に示す。
【0164】
比較製造例1(共重合体溶液H−1の製造)
表1に示す有機溶剤、単量体、重合開始剤及び反応温度を用いて、製造例1と同様の操作で重合反応を行うことにより、共重合体溶液H−1を得た。得られた各共重合体溶液の粘度、加熱残分、数平均分子量(Mn)、分子量の分散度(Mw/Mn)、ガラス転移温度(Tg)を表1に示す。
【0165】
比較製造例2(共重合体溶液H−2の製造)
温度計、還流冷却器、撹拌機及び滴下ロートを備えた1000mlのフラスコに、キシレン330gを仕込んだ後、窒素雰囲気下、90〜100℃で攪拌しながら、該フラスコに、メタクリル酸トリイソプロピルシリル150g、メタクリル酸メチル150g、アクリル酸n−ブチル50g、メタクリル酸n−ブチル100g、メタクリル酸2−メトキシエチル50g及びt−ブチルパーオクトエート1gの混合液を2時間かけて滴下した。滴下後、90〜100℃で2時間重合反応を行った。次いで、得られた反応液にt−ブチルパーオクトエート2g(追加)を添加し90〜100℃で更に2時間重合反応を行い、共重合体溶液H−2を得た。H−2の粘度、加熱残分、数平均分子量(Mn)、分子量の分散度(Mw/Mn)、ガラス転移温度(Tg)を表1に示す。
【0166】
【表1】

【0167】
実施例1〜2及び比較例1〜5(塗料組成物の製造)
共重合体として製造例1〜6で得た共重合体(A)溶液S−1〜S−6(固形分約60%)又は比較製造例1〜2で得た共重合体溶液H−1〜H−2(固形分約60%)を、ロジン亜鉛塩としてガムロジン亜鉛塩のキシレン溶液(固形分約60%)又は水添ロジン亜鉛塩のキシレン溶液(固形分約60%)を、ロジンとしてガムロジンのキシレン溶液(固形分約60%)又は水添ロジンのキシレン溶液固形分(約60%)を、亜酸化銅として平均粒径3μm又は6μmの亜酸化銅を、更に、表2に記載の有機系防汚薬剤、顔料、添加物、溶剤を、表2に示す割合(重量%)で配合し、実験用の小型卓上サンドミル(直径1.5〜2.5mmのガラスビーズを使用)で混合分散することにより塗料組成物を製造した。得られた塗料組成物の不揮発分含有量、VOC含有量、PVC及び塗料粘度を表2に示す。
【0168】
実施例3〜8(塗料組成物の製造)
共重合体として製造例3〜6で得た共童合体(1)溶液S−3〜S−6を、ロジン亜鉛塩としてガムロジン亜鉛塩のキシレン溶液(固形分約60%)又は水添ロジン亜鉛塩のキシレン溶液(固形分約60%)を、更に、表2に記載の防汚薬剤、顔料、添加物、溶剤を、表2に示す割合(重量%)で配合し、実験用の小型卓上サンドミル(直径1.5〜2.5mmのガラスビーズを使用)で混合分散し、得られた混合物を取り出した。次いで、前記混合物に平均粒径13μm又は19μmの亜酸化銅を添加し攪拌羽にてゆっくりと攪拌することにより塗料組成物を調製した。得られた塗料組成物の不揮発分含有量、VOC含有量、PVC及び塗料粘度を表2に示す。
【0169】
【表2】

【0170】
試験例1(スプレー塗装性)
実施例1〜8及び比較例1〜5で得られた塗料組成物をブラスト仕上げをしたブリキ板(75×150mm)に、乾燥塗膜としての厚みが約100μmとなるようスプレー塗装した。スプレー塗装可能な場合を◎、不可能な場合を×と評価した。
【0171】
試験例2(塗料の安定性試験)
実施例1〜8及び比較例1〜5で得られた塗料組成物を、100mlの広口ブリキ缶に入れ密封し40℃の恒温器に1ヶ月間保存した後、該塗料組成物の粘度をB形粘度計で測定した。
【0172】
塗料の粘度変化が500mPa・s/25℃未満のもの(塗料状態が殆ど変化しなかったもの)を◎、塗料の粘度変化が500〜5000mPa・s/25℃のものを(わずかに増粘したもの)を○、塗料の粘度変化が5000〜100000mPa・s/25℃のもの(大きく増粘したもの)を△、塗料粘度が測定不能まで変化したもの(ゲル状になったもの又は固化したもの)を×とした。
【0173】
結果を表3に示す。
【0174】
表3から、遊離のカルボキシル基を有するロジン(又はロジン誘導体)を配合した組成物(比較例2、3)、は、長期安定性に欠けることがわかる。
【0175】
試験例3(塗膜硬度)
実施例1〜8及び比較例1〜5で得られた防汚塗料組成物を、乾燥塗膜としての厚みが約100μmとなるよう透明ガラス板(75×150×1mm)上に塗布し、40℃で1日間乾燥させた。得られた乾燥塗膜の塗膜硬度を、25℃下、振り子式硬度計(ペンジュラム硬度計)を用いて測定した。結果(カウント数)を表3に示す。カウント数20〜50が実用上好ましい。
【0176】
表3から、本発明の塗料組成物(実施例1〜8)を用いて形成された塗膜は、適度な硬さを有することが
わかる。
【0177】
試験例4(塗膜の付着性試験)
JIS K−5600−5−6の規定に従って、塗膜の付着性試験を行った。具体的には、以下の方法に従って試験を行った。まず、実施例1〜8及び比較例1〜5で得られた塗料組成物を、ブラスト仕上げをした繊維強化プラスチック板(FRP板)(75×150×2mm) 及びブリキ板(75×150×2mm)上に、乾燥塗膜としての厚みが約100μmとなるよう塗布した。次いで、40℃で1日間乾燥させることにより厚みが約100μmの乾燥塗膜を作製した。前記乾燥塗膜に対して付着性試験を行った(2mm×2mm、マス目数=100個)。
【0178】
剥離しなかったごばん目の数が70〜100個の場合を◎、剥離しなかったごばん目の数が40〜69個の場合を○、剥離しなかったごばん目の数が20〜39個の場合を△、及び剥離しなかったごばん目の数が0〜19の場合を×とした。
【0179】
結果を表3に示す。
【0180】
表3から、本発明の塗料組成物(実施例1〜8)を用いて形成された塗膜は、FRP板及びブリキ板のいずれに形成された場合であっても、強固に接着することがわかる。
【0181】
試験例5(塗膜の屈曲性試験)
実施例1〜8及び比較例1〜5で得られた塗料組成物を、ブラスト仕上げをしたブリキ板(75×150mm)に、乾燥塗膜としての厚みが約100μmとなるよう塗布した。次いで、得られた塗布物を40℃で1日間乾燥させることにより厚みが約100μmの乾燥塗膜を作製した。乾燥塗膜の形成されたブリキ板を90度に折り曲げ塗膜の状態を肉眼観察により確認した。
【0182】
殆どクラックが生じなかったものを◎、微細なクラックが生じたものを○、大きなクラックが生じたものを△、及び塗膜の一部が容易に剥離したものを×とした。
【0183】
結果を表3に示す。
【0184】
表3から、本発明の塗膜組成物(実施例1〜8)を用いて形成された塗膜は、脆弱でない強靱な塗膜であることがわかる。
【0185】
試験例6(塗膜の耐水性試験)
すりガラス板(75×150×1mm)上に、防錆塗料(ビニル系A/C)を乾燥後の厚みが約50μmとなるよう塗布し、乾燥させることにより防錆塗膜を形成した。その後、実施例1〜8及び比較例1〜5で得られた塗料組成物を、前記防錆塗膜の上に、乾燥塗膜としての膜厚が約100μmとなるよう塗布した。得られた塗布物を40℃で1日間乾燥させることにより厚みが約100μmの乾燥塗膜を有する試験片を作製した。試験片を35℃の天然海水中に3ヶ月間、浸漬した後、塗膜の状態を肉眼観察により確認した。
【0186】
塗膜に変化がないものを◎、わずかに変色したものを○、わずかにブリスターが生じたものを△、及びクラック、膨潤、剥離等の異常が確認できるものを×とした。
【0187】
結果を表3に示す。
【0188】
表3から、本発明の塗膜組成物(実施例1〜8)を用いて形成された塗膜は、耐水性に優れていることがわかる。
【0189】
【表3】

【0190】
試験例7(塗膜の溶解性試験(ロータリー試験))
水槽の中央に直径515mm及び高さ440mmの回転ドラムを取付け、これをモーターで回転できるようにした。また、海水の温度を一定に保つための冷却装置、及び海水のpHを一定に保つためのpH自動コントローラーを取付けた。
【0191】
試験板を下記の方法に従って2つ作製した。
【0192】
まず、硬質塩ビ板(75×150×1mm)上に、防錆塗料(ビニル系A/C)を乾燥後の厚みが約50μmとなるよう塗布し乾燥させることにより防錆塗膜を形成した。その後、実施例1〜8及び比較例1〜5で得られた防汚塗料組成物を、前記防錆塗膜の上に、乾燥後の厚みが約300μmとなるよう塗布した。得られた塗布物を40℃で3日間乾燥させることにより、厚みが約300μmの乾燥塗膜を有する試験板を作製した。
【0193】
作製した試験板のうちの一枚を上記装置の回転装置の回転ドラムに海水と接触するように固定して、20ノットの速度で回転ドラムを回転させた。その間、海水の温度を25℃、pHを8.0〜8.2に保ち、一週間毎に海水を入れ換えた。
【0194】
各試験板の初期の膜厚と1ヶ月後、3ヵ月後及び6ケ月後の残存膜厚をレーザーフォーカス変位計で測定し、その差から溶解した塗膜厚を計算することにより初期6ヶ月間の塗膜溶解量を求めた。
【0195】
塗膜溶解量については、その期間内の塗膜の全溶解量(μm)で表した。結果を表4に示す。
【0196】
表4から、本発明の塗料組成物(実施例1〜8)を用いて形成された塗膜は、初期から塗膜溶解が十分に大きく、初期の防汚効果が良いことがわかる。
【0197】
比較例1〜5の塗料組成物を用いて形成された塗膜は、初期は海水中で溶解しにくく、防汚効果を有効に発揮できないことがわかる。比較例2、3の塗料組成物を用いて形成された塗膜は、耐水性が低いため、途中で、クラック・ハガレが生じた。
【0198】
【表4】

【0199】
試験例8(スライム付着試験)
実施例1〜8及び比較例1〜5で得られた塗料組成物を、硬質塩ビ板(100×200×2mm)の両面に乾燥後の厚みが約100μmとなるよう塗布した。得られた塗布物を室温(25℃)で3日間乾燥させることにより、厚みが約100μmの乾燥塗膜を有する試験板を作製した。この試験板を和歌山県串本市の海面下1.5mに浸漬し、浸漬して1ヶ月後、2ヶ月後及び3ヶ月後の試験板へのスライムの付着状況を肉眼観察により確認した。
【0200】
結果を表5に示す。
【0201】
なお、表中の数字はスライムの付着の程度を表す。スライムを殆ど確認できないものを0、わずかにスライムが付着しているものを1、全面に厚くスライムが付着しているが刷毛で取れやすいものを2、全面に厚くスライムが付着し、刷毛で取れ難いものを3とした。
【0202】
表5から、比較例1〜5の塗膜組成物を用いて形成された塗膜に比べ、本発明の塗料組成物(実施例1〜8)を用いて形成された塗膜には、ほとんどスライムが付着しないことがわかる。これは、本発明の塗料組成物を用いて形成された塗膜は、初期から必要十分な塗膜溶解があるためである。
【0203】
試験例9(上塗り試験)
試験例8のスライム性試験を行った試験板にイオン交換水をかけて洗浄し、室温(25℃)で1日間乾燥させた。その後、実施例1〜8及び比較例1〜5で得られた塗料組成物を、それぞれの試験板の片面に乾燥塗膜としての厚みが約100μmとなるよう塗布した。得られた塗布物を室温(25℃)で3日間乾燥させることにより、旧塗膜上に厚みが約100μmの新しい塗膜を上塗りした試験板を作製した。これらの試験板に対し、JIS K−5600−5−6に従って、塗膜の付着性試験を行った(2mm×2mm、マス目数=100個)。
【0204】
剥離しなかったごばん目の数が70〜100個の場合を◎、剥離しなかったごばん目の数が40〜69個の場合を○、剥離しなかったごばん目の数が20〜39個の場合を△、及び剥離しなかったごばん目の数が0〜19の場合を×とした。
【0205】
結果を表5に示す。
【0206】
表5から、比較例1〜5の塗膜組成物を用いて形成された塗膜に比べ、本発明の塗料組成物(実施例1〜8)を用いて形成された塗膜には、新しい塗膜が旧塗膜上に十分付着していることがわかる。これは、比較例1〜5の塗膜組成物を用いて形成された塗膜は、初期の塗膜溶解性が良くないため、短期間でスライムが付着するが、本発明の塗料組成物を用いて形成された塗膜は、初期から十分な塗膜溶解があり、塗膜表面が更新され、スライムが殆ど付着しないためである。
【0207】
【表5】

【0208】
試験例10(防汚試験)
実施例1〜8及び比較例1〜5で得られた塗料組成物を、硬質塩ビ板(100×200×2mm)の両面に乾燥塗膜としての厚みが約200μmとなるよう塗布した。得られた塗布物を室温(25℃)で3日間乾燥させることにより、厚みが約200μmの乾燥塗膜を有する試験板を作製した。この試験板を三重県尾鷲市の海面下1.5mに浸漬して付着物による試験板の汚損を24ケ月観察した。
【0209】
結果を表6に示す。
【0210】
なお、表中の数字は汚損生物の付着面積(%)を表す。
【0211】
表6から、比較例1〜5の塗膜組成物を用いて形成された塗膜に比べ、本発明の塗料組成物(実施例1〜8)を用いて形成された塗膜には、ほとんど水棲汚損生物が付着していないことがわかる。これは、本発明の塗料組成物を用いて形成された塗膜は、加水分解速度がある程度抑制されており、一定の速度で長期間安定して溶解するためである。
【0212】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)重合性不飽和カルボン酸トリオルガノシリルを重合させてなる、数平均分子量が1,000〜20,000である重合体と、
(B)ロジン亜鉛塩及びロジン誘導体の亜鉛塩から選ばれる少なくとも1種の亜鉛塩
とを含有する防汚塗料組成物であって、
(1)該重合体(A)の含有量と該亜鉛塩(B)の含有量との重量比((A)/(B))が、45/55〜10/90であり、
(2)不揮発分含有量が75重量%以上であり、
(3)遊離のカルボキシル基を有するロジン及びロジン誘導体を実質的に含まない、
防汚塗料組成物。
【請求項2】
前記重合体(A)の数平均分子量が2,000〜15,000であり、分子量の分散度が2.5未満である、請求項1に記載の防汚塗料組成物。
【請求項3】
前記重合体(A)のガラス転移温度が20〜70℃である、請求項1又は2に記載の防汚塗料組成物。
【請求項4】
前記重合体(A)が、(メタ)アクリル酸トリイソプロピルシリル共重合体である、請求項1〜3のいずれかに記載の防汚塗料組成物。
【請求項5】
前記(メタ)アクリル酸トリイソプロピルシリル共重合体が、(a)(メタ)アクリル酸トリイソプロピルシリル30〜60重量%、(b)メタクリル酸メチル10〜50重量%、並びに(c)(a)及び(b)以外の(メタ)アクリル酸エステル0〜60重量%を共重合してなるものである、請求項1〜4のいずれかに記載の防汚塗料組成物。
【請求項6】
ロジン亜鉛塩が、ガムロジン亜鉛塩、ウッドロジン亜鉛塩及びトール油ロジン亜鉛塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の亜鉛塩であり、ロジン誘導体の亜鉛塩が、水添ロジン亜鉛塩及び不均化ロジン亜鉛塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の亜鉛塩である請求項1〜5に記載の防汚塗料組成物。
【請求項7】
不揮発成分含有量が80重量%以上であり、且つ、ストーマー粘度計を用いて測定される25℃における粘度が80〜100KUである、請求項1〜6に記載の防汚塗料組成物。
【請求項8】
揮発性有機化合物の含有量が400g/L未満である、請求項1〜7のいずれかに記載の防汚塗料組成物。
【請求項9】
更に、酸化亜鉛を前記重合体(A)及び前記亜鉛塩(B)の合計量100重量部に対して10〜100重量部含む、請求項1〜8のいずれかに記載の防汚塗料組成物。
【請求項10】
更に、亜酸化銅を前記重合体(A)及び前記亜鉛塩(B)の合計量100重量部に対して100〜400重量部含む、請求項1〜9に記載の防汚塗料組成物。
【請求項11】
前記亜酸化銅が、平均粒径8〜20μmの亜酸化銅である請求項10に記載の防汚塗料組成物。
【請求項12】
更に、有機系防汚薬剤を前記重合体(A)及び前記亜鉛塩(B)の合計量100重量部に対して1〜100重量部含む、請求項1〜11に記載の防汚塗料組成物。
【請求項13】
更に、可塑剤を前記重合体(A)及び前記亜鉛塩(B)の合計量100重量部に対して1〜50重量部含む、請求項1〜12に記載の防汚塗料組成物。
【請求項14】
前記可塑剤がエポキシ化油脂類である、請求項13に記載の防汚塗料組成物。
【請求項15】
更に、除水剤を前記重合体(A)及び前記亜鉛塩(B)の合計量100重量部に対して1〜50重量部含む、請求項1〜14に記載の防汚塗料組成物。
【請求項16】
前記除水剤が、アルコキシシラン類及びオルト蟻酸アルキルエステルから選ばれる少なくとも1種の水結合剤である、請求項15に記載の防汚塗料組成物。
【請求項17】
更に、脂肪酸アマイド系分散剤を前記重合体(A)及び前記亜鉛塩(B)の合計量100重量部に対して1〜50重量部含む、請求項1〜16に記載の防汚塗料組成物。
【請求項18】
請求項1〜17に記載の防汚塗料組成物を用いて被塗膜形成物の表面に防汚塗膜を形成する防汚処理方法。
【請求項19】
請求項1〜17に記載の防汚塗料組成物を用いて形成される防汚塗膜。
【請求項20】
請求項19に記載の防汚塗膜を表面に有する塗装物。
【請求項21】
防汚塗料組成物の製造方法であって、
(A)重合性不飽和カルボン酸トリオルガノシリルを重合させてなる、数平均分子量が1,000〜20,000である重合体と、
(B)ロジン亜鉛塩及びロジン誘導体の亜鉛塩から選ばれる少なくとも1種の亜鉛塩
とを混合する、
(1)該重合体(A)の含有量と該亜鉛塩(B)の含有量との重量比((A)/(B))が、45/55〜10/90であり、
(2)不揮発分含有量が75重量%以上であり、
(3)遊離のカルボキシル基を有するロジン及びロジン誘導体を実質的に含まない、
防汚塗料組成物を製造する方法。
【請求項22】
前記重合体(A)及び前記亜鉛塩(B)に加え、さらに、平均粒径が3〜10μmの亜酸化銅を混合した後、得られた混合物を分散機を用いて混合分散する、請求項21に記載の防汚塗料組成物の製造方法。
【請求項23】
前記重合体(A)と前記亜鉛塩(B)とを混合することにより得られた混合物を分散機を用いて混合分散した後、平均粒径が10〜20μmの亜酸化銅を添加し混合する、請求項21に記載の防汚塗料組成物の製造方法。

【公開番号】特開2011−26357(P2011−26357A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−301779(P2007−301779)
【出願日】平成19年11月21日(2007.11.21)
【出願人】(000227342)日東化成株式会社 (28)
【Fターム(参考)】