説明

防汚塗料組成物、該組成物を用いて形成される防汚塗膜、該塗膜を表面に有する塗装物、および該塗膜を形成する防汚処理方法

【課題】本発明は、長期防汚性能および塗膜物性に優れた防汚塗膜を形成でき、かつ、長期保存安定性に優れた防汚塗料組成物を提供する。
【解決手段】一般式(1):


〔式中、Xはアクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、クロトノイルオキシ基またはイソクロトノイルオキシ基を示し、Rは水素原子またはメチル基を示し、Rは炭素数1〜6のアルキル基を示す。〕で表される単量体、及び一般式(2):


〔式中、Rは水素原子またはメチル基を示し、Rは炭素数1〜10のアルキル基または炭素数1〜4のアルコキシ基が結合した炭素数2〜5のアルキル基を示す。〕で表される重合性単量体を共重合させてなる共重合体[A]を含有する防汚塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、船舶、漁網、浮き子、発電所の冷却水導管等の海水中で使用または存在する物に水棲汚損生物が付着するのを長期にわたって防止するための防汚塗料組成物、該防汚塗料組成物を用いて形成される防汚塗膜、該塗膜を表面に有する塗装物、および該塗膜を形成する防汚処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フジツボ、セルプラ、ムラサキイガイ、フサコケムシ、ホヤ、アオノリ、アオサ、スライム等の水棲汚損生物が、船舶(特に船底部分)、漁網類、漁網付属具等の漁業具、発電所導水管等の水中構造物等に付着することにより、船速の低下、水流量の低下等を引き起こし、経済的および資源的に大きな損失をもたらすことが知られている。そこで、従来から水棲汚損生物の付着を防止するため、防汚塗料を塗布することにより上記問題の解消を図る検討がされてきた。
【0003】
そのなかでも、トリブチルスズメタクリレート共重合体および亜酸化銅を主成分とする防汚塗料、いわゆる「有機錫系加水分解型塗料」が広く使用されてきた。前記塗料は、塗膜形成樹脂のうち海水に接する塗膜表面にある部分が、順次加水分解することにより水溶性となり海中に溶出し、同時に薬剤を放出していくという、いわゆるセルフポリッシング型塗料として知られており、優れた防汚効果を発揮するものである。
【0004】
しかしながら、前記有機錫系加水分解型塗料は、加水分解により放出されるトリブチルスズ化合物による海洋汚染が懸念され、使用ができなくなった。
【0005】
そこで、前記有機錫化合物に替わる防汚塗料として種々の研究がなされてきた。
【0006】
例えば、特許文献1には(メタ)アクリル酸アルコキシカルボニルアルキルエステルを重合してなる共重合体を樹脂成分として含有する防汚塗料が提案されている。特許文献1の防汚塗料では、共重合体が加水分解を伴わず溶解することにより防汚効果を発揮する旨が記載されているが、加水分解を伴わないため溶解性が十分ではなく、長期防汚性に問題があった。
【0007】
また、特許文献2には、特許文献1の防汚塗料を改良した防汚塗料、すなわち特許文献1の共重合体にポリオキシアルキレン基を含有させてなる共重合体からなる防汚塗料が提案されている。特許文献1の共重合体にポリオキシアルキレン基を含有させることにより溶解性を高めているが、特許文献1と同様、共重合体は加水分解を伴わず溶解するため、樹脂の長期の溶解性と耐水性などの樹脂物性双方のコントロールが難しいという問題があった。
【0008】
また、特許文献3〜6には、上記有機錫化合物以外の金属含有樹脂を主成分とする加水分解型塗料が提案されている。
【0009】
しかしながら、これらの塗料は、塗膜の減少速度が環境(例えば気温、水温等)により変化しやすく制御が難しいという問題がある。
【0010】
さらに、特許文献7〜10には、上記有機錫化合物を含まない加水分解型塗料として、有機シリル基含有樹脂を主成分とする加水分解型塗料が提案されている。これらの塗料は、防汚性能に優れ、海中での塗膜の耐水性も高いため、広く使用されている。
【0011】
しかしながら、これらの塗料は、塗料を製造するために原材料等に含まれる水分または塗料の製造過程において発生する水により、塗料保存中に樹脂成分が加水分解を起こしやすく、塗料の増粘、ゲル化等を誘引するという問題がある。この問題を解決するために脱水剤等を配合することが提案されている。しかし、脱水剤によって一定の効果はあるものの、完全に解決されるわけではなく、長期保存には増粘、ゲル化等の懸念がある。また、原材料の取り扱いにおいても、水分に対する注意が必要となり、作業効率が悪いという問題があった。
【0012】
よって、長期に亘る防汚性能および塗膜物性に優れた防汚塗膜を形成でき、かつ、長期保存安定性に優れた新たな防汚塗料の開発が切望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特公昭63−61989号公報
【特許文献2】特開2003−119419号公報
【特許文献3】特公平7−64985号公報
【特許文献4】特開平4−80205号公報
【特許文献5】特開平4−80269号公報
【特許文献6】特開平4−80270号公報
【特許文献7】国際公開第84/02195号パンフレット
【特許文献8】EP1127902号公報
【特許文献9】特開平7−102193号公報
【特許文献10】特開平10−30071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、長期防汚性能および塗膜物性に優れた防汚塗膜を形成でき、かつ、長期保存安定性に優れた防汚塗料組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の重合体を含有する組成物が上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明は、下記の防汚塗料組成物、該組成物を用いて形成される防汚塗膜、該塗膜を表面に有する塗装物、および該塗膜を形成する防汚処理方法に係る。
1. 一般式(1):
【0017】
【化1】

〔式中、Xはアクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、クロトノイルオキシ基またはイソクロトノイルオキシ基を示し、Rは水素原子またはメチル基を示し、Rは炭素数1〜6のアルキル基を示す。〕
で表される単量体、及び
一般式(2):
【0018】
【化2】

〔式中、Rは水素原子またはメチル基を示し、Rは炭素数1〜10のアルキル基または炭素数1〜4のアルコキシ基が結合した炭素数2〜5のアルキル基を示す。〕
で表される重合性単量体を共重合させてなる共重合体[A]を含有する防汚塗料組成物。
2. 前記一般式(1)中のRが炭素数1または2のアルキル基であるとき、前記一般式(2)中のRが炭素数3〜10の分岐アルキル基である上記項1に記載の防汚塗料組成物。
3. 前記一般式(1)中のRが炭素数1または2のアルキル基であるとき、前記重合性単量体(2)がイソブチルアクリレートまたはイソブチルメタクリレートである上記項2に記載の防汚塗料組成物。
4. 前記一般式(1)中のRが炭素数3〜6のアルキル基であるとき、該アルキル基が分岐アルキル基である上記項1に記載の防汚塗料組成物。
5. 前記共重合体[A]における、前記単量体(1)の使用量が、単量体重量合計に対し10〜80重量%である、上記項1〜4のいずれかに記載の防汚塗料組成物。
6. 前記共重合体[A]における、前記単量体(2)の使用量が、単量体重量合計に対し20〜90重量%である、上記項1〜5のいずれかに記載の防汚塗料組成物。
7. 更に、防汚薬剤[B]を含有する、上記項1〜6のいずれかに記載の防汚塗料組成物。
8. 前記防汚薬剤[B]が、亜酸化銅である上記項7に記載の防汚塗料組成物。
9. 更に、溶出調整剤[C]を含有する、上記項1〜8のいずれかに記載の防汚塗料組成物。
10.前記溶出調整剤[C]が、ロジン、ロジン誘導体およびこれらの金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種である、上記項9に記載の防汚塗料組成物。
11.更に、可塑剤[D]を含有する、上記項1〜10のいずれかに記載の防汚塗料組成物。
12.上記項1〜11のいずれかに記載の防汚塗料組成物を用いて被塗膜形成物の表面に防汚塗膜を形成する防汚処理方法。
13.上記項1〜11のいずれかに記載の防汚塗料組成物を用いて形成される防汚塗膜。
14.上記項13に記載の防汚塗膜を表面に有する塗装物。
【発明の効果】
【0019】
本発明の防汚塗料組成物は、長期保存性に優れている。すなわち、本発明の組成物は、長期間保存しても、増粘したり、ゲル化・固化することがほとんどない。
【0020】
本発明の防汚塗料組成物を用いて形成される防汚塗膜は、適度な溶解性を有する。そのため、該塗膜を表面に有する塗装物は、防汚性能を長期間維持できる。特に、船舶の船底に本発明の防汚塗膜を形成した場合、停泊中、艤装期間中等の静止状態においても、水棲汚損生物の付着・蓄積がほとんどなく、長期間、防汚効果を発揮できる。これにより、船舶の摩擦抵抗が減少し、航行時における燃料の節約が期待できる。
【0021】
また、表面の防汚塗膜には、長時間経過後においても、基本的に塗膜欠陥が発生しない。そのため、前記塗装物を一定期間使用後、上記防汚塗膜組成物を直接上塗りすることにより好適に防汚塗膜を形成できる。これにより、簡便にかつ低コストでの継続的な防汚性能の維持が可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について詳細を説明する。
【0023】
防汚塗料組成物
本発明の防汚塗料組成物は、一般式(1):
【0024】
【化3】

〔式中、Xはアクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、クロトノイルオキシ基またはイソクロトノイルオキシ基を示し、Rは水素原子またはメチル基を示し、Rは炭素数1〜6のアルキル基を示す。〕
で表される単量体(以下、単に「単量体(1)」ともいう)、及び
一般式(2):
【0025】
【化4】

〔式中、Rは水素原子またはメチル基を示し、Rは炭素数1〜10のアルキル基または炭素数1〜4のアルコキシ基が結合した炭素数2〜5のアルキル基を示す。〕
で表される重合性単量体(以下、単に「単量体(2)」ともいう)を共重合させてなる共重合体[A]を含有する。
【0026】
<共重合体[A]>
共重合体[A]を含有する塗膜は、前述の有機スズ含有樹脂や有機シリル基含有樹脂を含む塗膜と同様、塗膜中の共重合体[A]が加水分解されて海中に溶出することにより、塗膜が更新されながら(セルフポリッシング作用を奏しながら)、塗膜中の防汚薬剤が放出される。その結果、本発明の組成物を用いて形成される防汚塗膜は防汚性能を発揮できる。
【0027】
前記共重合体[A]は、前記単量体(1)及び単量体(2)を共重合させてなる。前記単量体(1)は、下記に示す構造を持つことを特徴とする。
【0028】
【化5】

【0029】
上記構造はエステル結合を含んでおり、このエステル結合部分が適度な加水分解性を有する。そのため、上記構造を有する単量体(1)を重合させた重合体は、海水中において適度な速度で加水分解し、徐々に溶出することにより、長期間優れた防汚性能を発揮できる。
【0030】
前記単量体(1)は、酸性から中性付近では、加水分解速度が有機シリル基含有(メタ)アクリレート等の単量体よりも低いが、弱アルカリ性(pH8〜9)以上のアルカリ性条件では、加水分解速度が有機シリル(メタ)アクリレートに近いという性質を持つ。
【0031】
この単量体(1)の特徴的な性質は、当該単量体を重合させてなる重合体においても認められる。前記重合体は、有機シリル (メタ)アクリレート等と比べると、酸性から中性では加水分解性が小さいため、防汚塗料の製造時または保存時に水分が混入した場合においても、加水分解されにくい。そのため、有機シリル基含有(メタ)アクリレート等を用いた塗料組成物が塗料の貯蔵安定性を高めるために水を除去する成分(脱水剤等)を必要とするのに対し、前記重合体を含む塗料組成物は、たとえ水を除去する成分を含まなくても、高い貯蔵安定性を発揮することができる。
【0032】
そして、前記重合体は、弱アルカリ性(pH8〜9)以上のアルカリ性条件、つまり海水中においては、適度な加水分解速度を発揮し、長期にわたり塗膜が更新される。加水分解型であるため長期に亘る安定した塗膜溶解性が得られ、これにより、長期の防汚性能、および、安定した塗膜更新性による長期の良好な塗膜状態を保つことが可能となる。
【0033】
しかし、単量体(1)を含む重合体は、塗料の溶剤として一般的な溶剤である、芳香族系溶剤、エステル系溶剤、ケトン系溶剤等に対して溶解性が低い傾向がある。
【0034】
特に、防汚塗料組成物の溶剤として最も一般的に使用される溶剤であるキシレンに対する溶解性が、エステル系及びケトン系溶剤に比べ更に低い傾向がある。
【0035】
そこで、単量体(1)を含む重合体の溶剤への溶解性を改善するため、前記共重合体[A]は、前記単量体(1)以外の重合性単量体として、
一般式(2):
【0036】
【化6】

〔式中、Rは水素原子またはメチル基を示し、Rは炭素数1〜10のアルキル基を示す。〕
で表される単量体を必須成分として含む。
【0037】
単量体(1)と共重合させる単量体として、単量体(2)以外の単量体を用いた場合には、共重合体の溶剤への溶解性、塗膜溶解性、塗膜物性などをいずれも満足して長期防汚性能を発揮し得ることは難しい。
【0038】
重合性単量体として、例えば汎用の重合性単量体の一つであるスチレンを用いた場合、得られる共重合体は単量体(1)単独の重合体に比べると溶剤に対する溶解性は改善される。しかし、該共重合体を含んでなる塗料組成物によって形成される塗膜は、塗膜溶解性が低い、クラックを生じやすい、などの問題があり、長期の防汚性能を得ることは難しい。
【0039】
その他の一般的な重合性単量体についても、共重合体の溶剤への溶解性の向上、塗膜溶解性、塗膜物性などをいずれも満足して長期防汚性能を発揮することは難しい。これらのことから、共重合体[A]には、共重合単量体成分として、上記課題を満足し長期防汚性能を発揮し得る、単量体(2)が用いられる。
【0040】
前記単量体(1)について具体的に説明する。
【0041】
一般式(I)中、Xはアクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、クロトノイルオキシ基またはイソクロトノイルオキシ基を示す。
【0042】
特に、前記単量体(1)としては、塗膜溶解性の観点から、一般式(I)のXが、アクリロイルオキシ基であるものが好ましい。
【0043】
一般式(I)中、Rは水素原子またはメチル基を示す。Rがメチル基である場合よりも水素原子である場合の方が、加水分解が速い傾向がある。よって、Rとしては、加水分解性の観点から水素原子が好ましい。
【0044】
一般式(I)中、Rは炭素数1〜6のアルキル基を示す。
【0045】
単量体(1)中のRは炭素数が増加するに従い、共重合体の溶剤への溶解性は向上するが、炭素鎖が長くなりすぎると塗膜硬度低下に伴うブリスターの発生、コールドフロー等塗膜物性の低下が起こりやすくなる。よって、共重合体の溶剤への相溶性、塗膜物性の観点から、単量体(1)のRには、炭素数1〜6程度のアルキル基が採用される。
【0046】
一般式(1)中、Rで示される炭素数1〜6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、2−メチルブチル基、1,2−ジメチルプロピル基、n−ヘキシル基、1−エチルブチル基、2−エチルブチル基、1,2−ジメチルブチル基等が挙げられる。
【0047】
ここで、Rの炭素数が1または2と少ない場合、溶剤との相溶性がより低い傾向がある。これを改善するために、Rがメチル基またはエチル基の場合には、一般式(2)中のRが炭素数3〜10の分岐アルキル基である共重合単量体(2)を使用することが好ましい。
【0048】
一般式(1)中のRで表されるアルキル基の炭素数が3〜6のときには、該アルキル基が分岐アルキル基であることが好ましい。Rが分岐アルキル基である場合、分岐を有さないアルキル基に比べ、共重合体の溶剤への相溶性に優れているので、溶剤、特にキシレンを70〜100%含む溶剤への溶解性改善の効果および塗膜強度などの塗膜物性が向上する。
【0049】
単量体(1)の使用量は、共重合体[A]の溶剤等に対する相溶性の向上、塗膜の適度な加水分解性、良好な塗膜物性等の観点から、単量体重量合計に対し10〜80重量%であることが好ましく、20〜60重量%であることがより好ましい。
【0050】
本発明では、単量体(1)として、例えば、下記のものを好ましく使用できる。
【0051】
【化7】

【0052】
単量体(1)としては、一種単独でまたは二種以上を組み合わせて使用できる。二種以上の単量体(1)を適宜組み合わせて使用することにより、塗膜溶解性およびその他の塗膜物性をより好適に調整することができる。
【0053】
(単量体(1)の製造)
前記単量体(1)は、例えば、α−ハロケトンおよび不飽和カルボン酸またはその金属塩から製造することが可能である。具体的な製造方法としては、例えば、メチルメタクリレートより調製されるメタクリル酸ナトリウム塩等の不飽和カルボン酸のアルカリ金属塩水溶液と、クロロアセトン等のα−ハロケトン(カルボニル基のα位にハロゲン元素が置換されたケトン)とを反応させる方法(米国特許第2376033号)または、トリエチルアミン存在下、メタクリル酸等の不飽和カルボン酸と、クロロアセトン等のα−ハロケトンとを反応させる方法(Journal of Polymer Science:Part A:Polymer Chemistry,Vol.26 2295−2303(1988))等が挙げられる。
【0054】
前記単量体(2)について具体的に説明する。
【0055】
一般式(2)中、Rは、水素原子またはメチル基を示す。
【0056】
一般式(2)中、Rで示される炭素数1〜10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、またはアルコキシ基を含む炭素数1〜10のアルキル基としては、2−メトキシエチル基、2−エトキシエチル基、3−メトキシプロピル基、3−エトキシプロピル基、4−メトキシブチル基等が挙げられる。
【0057】
前記単量体(2)として具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、イソペンチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、3−メトキシプロピル(メタ)アクリレート、4−メトキシブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0058】
ここで、Rが炭素数1または2のアルキル基である場合には、Rが分岐アルキルである単量体(2)を用いることが好ましい。Rが分岐アルキルである単量体(2)として、イソブチルアクリレートまたはイソブチルメタクリレートが好ましい。単量体(1)のRが炭素数1または2のアルキル基である場合、キシレンなどの芳香族系溶剤に対する溶解性がより低い傾向があるため、単量体(2)として上記のようなRに分岐構造を有するものを使用することにより、溶剤、特にキシレンを70〜100%含む溶剤への溶解性が効果的に改善される。
【0059】
単量体(2)は必要に応じ、1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。2種以上を組み合わせることにより、溶剤等への相溶性、塗膜物性をより好適に調整することができる。
【0060】
単量体(2)の使用量は、共重合体[A]の溶剤等に対する相溶性の向上、塗膜の適度な加水分解性、良好な塗膜物性等の観点から、単量体重量合計に対し20〜90重量%であることが好ましく、30〜70重量%であることがより好ましい。
【0061】
また、前記共重合体[A]は単量体成分として、単量体(1)及び単量体(2)以外に、その他の単量体(3)を用いてもよい。
【0062】
その他の単量体(3)としては、例えば、フェニル(メタ)アクリレート、トリル(メタ)アクリレート、キシリル(メタ)アクリレート等のアリール(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレート、フェネチル(メタ)アクリレート等のアラルキル(メタ)アクリレート;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等のエチレン系芳香族モノマー;ジメチルマレート、ジエチルマレート等のマレイン酸ジエステル;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のエチレン性不飽和カルボン酸ヒドロキシアルキルエステル;2−アミノエチル(メタ)アクリレート、3−アミノプロピル(メタ)アクリレート、2−N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、3−N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、3−N,N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等のエチレン性不飽和カルボン酸(アルキル)アミノアルキルエステル;2−アミノエチル(メタ)アクリルアミド、3−アミノプロピル(メタ)アクリルアミド、2−N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、3−N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等のエチレン性不飽和カルボン酸アミノアルキルアミド;酢酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル;シリルエステル基を含有する各種単量体等が挙げられる。
【0063】
単量体(3)を用いる場合、単量体(3)の使用量は、単量体重量合計に対し0.5〜40重量%であることが好ましく、1〜20重量%であることがより好ましい。
【0064】
共重合体[A]の重量平均分子量(Mw)は、1,500〜200,000が好ましく、5,000〜100,000がより好ましい。
【0065】
本発明の共重合体[A]の製造方法としては特に限定されるものではないが、例えば上記単量体(1)と単量体(2)とを混合し、重合開始剤の存在下、60〜180℃程度の温度で重合させる方法が挙げられる。
【0066】
上記重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルペルオキシド、t−ブチルペルオキシドベンゾエート等の過酸化物系ラジカル重合開始剤、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系ラジカル重合開始剤等を使用することができる。これらは、単独でまたは二種以上を併用して使用できる。
【0067】
共重合体[A]を製造するための重合方法としては、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等が挙げられるが、一般的な有機溶剤を用いる溶液重合が、汎用性が高く好ましい。
【0068】
上記溶液重合に用いられる溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤、酢酸n−ブチル等のエステル系溶剤、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤等を使用することができる。溶剤としては、特に、防汚塗料組成物の溶剤として汎用性の高いキシレンが好ましい。これら溶剤については単独でまたは二種以上を組み合わせて使用できる。
【0069】
本発明の防汚塗料組成物中、前記共重合体[A]の含有量は限定されるものではないが、通常3〜50重量%、好ましくは5〜30重量%である。
【0070】
本発明における防汚塗料組成物には、前記共重合体[A]のほかに、必要に応じて、防汚薬剤[B]、溶出調整剤[C]、可塑剤[D]等を配合することができる。これにより、より優れた防汚効果を発揮できる。
【0071】
<防汚薬剤[B]>
前記防汚薬剤[B]としては、海棲汚損生物に対して殺傷または忌避作用を有する物質であればよい。例えば、亜酸化銅、ロダン銅、銅粉、2−メルカプトピリジン−N−オキシド銅等の銅化合物;2−メルカプトピリジン−N−オキシド亜鉛、ビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメート、ジンクジメチルジチオカーバメート等の亜鉛化合物;2,4,5,6−テトラクロロイソフタロニトリル、3,4−ジクロロフェニルジメチル尿素、4,5−ジクロロ−2−N−オクチル−3−(2H)−イソチアゾリン、N,N−ジメチル−N’−フェニル(N−フルオロジクロロメチルチオ)スルファミド、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、3−ヨード−2−プロピニルブチルカーバメート、ピリジントリフェニルボラン、2−(メトキシカルボニルアミノ)ベンズイミダゾール等の金属を含まない化合物等が挙げられる。これらは単独あるいは2種以上を組み合わせて使用できる。特に、防汚薬剤[B]としては、より優れた防汚効果を発揮できる点で、亜酸化銅が好ましい。
【0072】
本発明の組成物中における防汚薬剤[B]の含有量は、特に制限されないが、通常0.1〜75重量%、好ましくは1〜60重量%である。防汚薬剤[B]の含有量が0.1重量%未満の場合、十分な防汚効果が得られないおそれがある。防汚薬剤[B]の含有量が75重量%を超える場合、形成される塗膜が脆弱であり、さらに、被塗膜形成物に対する接着性も弱く、防汚塗膜としての機能を十分に果たせない。
【0073】
<溶出調整剤[C]>
前記溶出調整剤[C]としては、例えば、ロジン、ロジン誘導体およびこれらの金属塩、またはモノカルボン酸およびその塩等が挙げられる。
【0074】
前記ロジンとしては、トール油ロジン、ガムロジン、ウッドロジン等を例示できる。前記ロジン誘導体としては、水添ロジン、マレイン化ロジン、ホルミル化ロジン、重合ロジン等を例示できる。ロジンの金属塩およびロジン誘導体の金属塩としては、金属化合物とロジンとの反応物を使用できる。そのような金属塩としては、例えば、ジンクロジネート、カルシウムロジネート、カッパーロジネート、マグネシウムロジネート等が挙げられる。
【0075】
前記モノカルボン酸としては、例えば、炭素数5〜30程度の脂肪酸、合成脂肪酸、ナフテン酸等が挙げられる。モノカルボン酸の塩としては、銅塩、亜鉛塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等が挙げられる。
【0076】
特に、本発明の組成物は、前記溶出調整剤[C]として、適度な溶出促進性を本発明の組成物に付与できる点で、ロジン、ロジン誘導体およびこれらの金属塩からなる群より選ばれる少なくとも一種を含有することが好ましい。
【0077】
本発明の組成物中における溶出調整剤[C]の含有量は、前記共重合体[A] 100重量部に対して通常1〜80重量部、好ましくは10〜50重量部である。溶出調整剤[C]が1重量部未満の場合、水棲汚損生物付着防止効果、とくに艤装期間における水棲汚損生物付着防止効果をあまり期待できない。溶出調整剤[C]の含有量が80重量部を超える場合、塗膜にクラック、剥離等の欠陥が生じやすく、水棲汚損生物付着防止効果を十分に発揮できなくなるおそれがある。
【0078】
<可塑剤[D]>
本発明の防汚塗料組成物に可塑剤[D]を含有させることにより、前記組成物の可塑性を向上させることができ、その結果、強靱な塗膜を好適に形成できる。
【0079】
前記可塑剤[D]としては、例えば、トリクレジルフォスフェート、トリオクチルフォスフェート、ジオクチルフタレート、塩素化パラフィン、流動パラフィン、エチルビニルエーテルポリマー、ポリブテン等が挙げられる。これらは単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0080】
本発明の組成物中における可塑剤[D]の含有量は、前記共重合体[A] 100重量部に対して通常0.1〜20重量部、好ましくは0.5〜10重量部である。
【0081】
<その他の添加剤>
さらに、本発明の防汚塗料組成物には、必要に応じて、顔料、染料、消泡剤、タレ止め剤、分散剤、沈降防止剤、脱水剤、有機溶媒等を添加することができる。
【0082】
顔料としては、例えば、酸化亜鉛、ベンガラ、タルク、酸化チタン、シリカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム等が挙げられる。これらは単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0083】
染料として、有機溶剤可溶の各種有機染料等が挙げられる。
【0084】
消泡剤として、シリコーン樹脂系消泡剤、アクリル樹脂系消泡剤等が挙げられる。
【0085】
タレ止め剤、分散剤または沈降防止剤として、脂肪酸アマイドワックス、酸化ポリエチレン等が挙げられる。
【0086】
本願発明における塗料組成物では、前記共重合体[A]は水分に対する安定性が高いため、加水分解を抑制するために用いられる脱水剤を必要としないが、塗料中の余剰な水分を除去するために脱水剤を使用してもよい。
【0087】
脱水剤としては、例えば、無水石膏、合成ゼオライト系吸着剤、オルソエステル類、テトラエトキシシラン等のシリケート類やイソシアネート類等が挙げられる。これらは単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0088】
有機溶媒としては、例えば、脂肪族系溶剤、芳香族系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、エーテル系溶剤等の通常、防汚塗料に配合されるものが挙げられる。これらは単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0089】
防汚塗料組成物の製造方法
本発明の防汚塗料組成物は、例えば、前記共重合体[A]等を含有する混合液を分散機を用いて混合分散することにより製造できる。
【0090】
前記混合液中における前記共重合体[A]等の含有量は、それぞれ上記防汚塗料組成物中の上記共重合体[A]等の含有量となるように適宜調整すればよい。
【0091】
前記混合液としては、上記共重合体[A]等の各種材料を溶媒に溶解または分散させたものであることが好ましい。前記溶媒としては、上記有機溶媒と同様のものを使用できる。
【0092】
前記分散機としては、例えば、微粉砕機として使用できるものを好適に用いることができる。例えば、市販のホモミキサー、サンドミル、ビーズミル等を使用することができる。また、撹拌機を備えた容器に混合分散用のガラスビーズ等を加えたものを用い、前記混合液を混合分散してもよい。
【0093】
防汚処理方法、防汚塗膜、および塗装物
本発明の防汚処理方法は、上記防汚塗料組成物を用いて被塗膜形成物の表面に防汚塗膜を形成することを特徴とする。本発明の防汚処理方法によれば、前記防汚塗膜が表面から徐々に溶解し塗膜表面が常に更新されることにより、水棲汚損生物の付着防止を図ることができる。また、塗膜を溶解させた後、上記組成物を上塗りすることにより、継続的に防汚効果を発揮することができる。
【0094】
被塗膜形成物としては、例えば、船舶(特に船底)、漁業具、水中構造物等が挙げられる。漁業具としては、例えば、養殖用または定置用の漁網、該漁網に使用される浮き子、ロープ等の漁網付属具等が挙げられる。水中構造物としては、例えば、発電所導水管、橋梁、港湾設備等が挙げられる。
【0095】
本発明の防汚塗膜は、上記防汚塗料組成物を被塗膜形成物の表面(全体または一部)に塗布することにより形成できる。
【0096】
塗布方法としては、例えば、ハケ塗り法、スプレー法、ディッピング法、フローコート法、スピンコート法等が挙げられる。これらは、1種または2種以上を併用して行ってもよい。
【0097】
塗布後、乾燥させる。乾燥温度は、室温でよい。乾燥時間は、塗膜の厚み等に応じて適宜設定すればよい。
【0098】
前記防汚塗膜の厚みは、被塗膜形成物の種類、船舶の航行速度、海水温度等に応じて適宜設定すればよい。例えば、被塗膜形成物が船舶の船底の場合、防汚塗膜の厚みは通常50〜500μm、好ましくは100〜400μmである。
【0099】
本発明の塗装物は、前記防汚塗膜を表面に有する。本発明の塗装物は、前記防汚塗膜を表面の全体に有していてもよく、一部に有していてもよい。
【0100】
本発明の塗装物は、継続的に防汚効果を発揮できるため、上記船舶(特に船底)、漁業具、水中構造物等として好適に使用できる。
【0101】
例えば、船舶の船底表面に上記防汚塗膜を形成した場合、前記防汚塗膜が表面から徐々に溶解し塗膜表面が常に更新されることにより、水棲汚損生物の付着防止を図ることができる。
【0102】
しかも、前記防汚塗膜は、海水中における加水分解速度が好適に抑制されている。そのため、該船舶は、防汚性能を長期間維持でき、例えば、停泊中、艤装期間中等の静止状態においても、水棲汚損生物の付着・蓄積がほとんどなく、長期間、防汚効果を発揮できる。
【0103】
また、長時間経過後においても、表面の防汚塗膜には、基本的にクラックやハガレが生じない。そのため、塗膜を完全に除去した後あらためて塗膜を形成する等の作業を行う必要がない。よって、上記防汚塗膜組成物を直接上塗りすることにより好適に防汚塗膜を形成できる。これにより、簡便にかつ低コストでの継続的な防汚性能の維持が可能になる。
【実施例】
【0104】
以下に実施例等を示し本発明の特徴とするところをより一層明確にする。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、実施例中、「部」は特に断りがない限り「重量部」を意味する。また、分子量(Mw)はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)によるポリスチレン換算重量平均分子量である。
【0105】
GPCの条件は下記の通りである。
装置・・・東ソー株式会社製 HLC-8220GPC
カラム・・・TSKgel SuperHZM-M 2本
流量・・・0.35 mL/min
検出器・・・RI
カラム恒温槽温度・・・40℃
遊離液・・・THF
【0106】
また、加熱残分とは、共重合体[A]を125℃で1時間加熱した後の、加熱前の重量に対する重量%である。
【0107】
製造例1(共重合体[A−1]の製造)
温度計、還流冷却器、撹拌機および滴下ロートを備えた反応容器に、溶剤(キシレン)100部を仕込んだ後、窒素雰囲気下、110〜115℃に加熱し、撹拌しながら、表1に示した単量体(1−1)45部、メチルメタクリレート(2−1)30部、2−メトキシエチルアクリレート(2−4)25部および重合開始剤アゾビスイソブチロニトリル(1)0.9部の混合液を滴下した。滴下後、得られた反応液にアゾビスイソブチロニトリル(2)0.5部を加え110℃で4時間撹拌し反応を行うことにより、共重合体[A−1]を得た。[A−1]の重量平均分子量(Mw)、加熱残分を表2に示す。
【0108】
製造例2〜27(共重合体[A−2]〜[A−27]の製造)
表1および表2に示す単量体、溶剤および重合開始剤を用いて、製造例1と同様の操作で重合反応を行うことにより、共重合体[A−2]〜[A−27]を得た。得られた共重合体のMwおよび加熱残分を表2に示す。
【0109】
【表1】

【0110】
【表2】

【0111】
実施例1〜18(塗料組成物の製造)
容器に、共重合体[A]として製造例1〜17で得た共重合体[A−1]〜[A−17]を表3に示す割合(重量%)で入れた。そこに、防汚薬剤[B]、溶出調整剤[C]、可塑剤[D]、顔料、タレ止め剤および溶剤として表3に記載の防汚薬剤、溶出調整剤、可塑剤、顔料、タレ止め剤および溶剤を表3に示す割合(重量%)で配合し、更に混合分散用に直径1.5〜2.5mmのガラスビーズを加え、実験用撹拌機により撹拌、混合分散することにより塗膜組成物を調製した。なお、表3中、溶出調整剤[C]は、共重合体[A]の製造に使用した溶剤と同じ溶剤中に、ガムロジンを溶解させた溶液(溶液中のガムロジンの含有量:50重量%)である。
【0112】
【表3】

【0113】
比較製造例1(共重合体[Q−1]の製造)
温度計、還流冷却器、撹拌機および滴下ロートを備えた反応容器に、溶剤(キシレン)100部を仕込んだ後、窒素雰囲気下、110〜115℃に加熱し、撹拌しながら、表1に示した単量体(1−6)60部、スチレン(3−1)40部、および重合開始剤アゾビスイソブチロニトリル(1)0.8部の混合液を滴下した。滴下後、得られた反応液にアゾビスイソブチロニトリル(2)0.5部を加え110℃で4時間撹拌し反応を行うことにより、比較共重合体[Q−1]を得た。[Q−1]の重量平均分子量(Mw)、加熱残分を表2に示す。
【0114】
比較製造例2(共重合体[Q−2]の製造)
温度計、還流冷却器、撹拌機および滴下ロートを備えた反応容器に、溶剤(キシレン)100部を仕込んだ後、窒素雰囲気下、110〜115℃に加熱し、撹拌しながら、表1に示した単量体(1−12)60部、メチルメタクリレート(2−1)40部、および重合開始剤アゾビスイソブチロニトリル(1)0.8部の混合液を滴下した。滴下後、得られた反応液にアゾビスイソブチロニトリル(2)0.5部を加え110℃で4時間撹拌し反応を行うことにより、比較共重合体[Q−2]を得た。[Q−2]の重量平均分子量(Mw)、加熱残分を表2に示す。
【0115】
比較製造例3(共重合体[Q−3]の製造)
温度計、還流冷却器、撹拌機、および滴下ロートを備えた反応容器に、溶剤(キシレン)300部を仕込んだ後、窒素雰囲気下、約100℃に加熱し撹拌しながらメチルメタクリレート140部、エチルアクリレート40部、トリイソプロピルシリルアクリレート220部およびベンゾイルパーオキサイド(1)2部の混合液を滴下した。滴下後、得られた反応液にベンゾイルパーオキサイド(2)2部を加え約100℃で4時間反応を行った後、キシレン100部を加えることにより、比較共重合体[Q−3]を得た。[Q−3]の加熱残分を表4に示す。
【0116】
【表4】

【0117】
比較例1および2(塗料組成物の製造)
容器に、比較共重合体[Q−1]および[Q−2]、防汚薬剤[B]、溶出調整剤[C]、可塑剤[D]、顔料、タレ止め剤および溶剤を、表3に示す割合(重量%)で配合し、更に混合分散用に直径1.5〜2.5mmのガラスビーズを加え、実験用撹拌機により撹拌、混合分散することにより比較塗膜組成物[H−1]および[H−2]を調製した。なお、表3中、溶出調整剤[C]は、比較共重合体の製造に使用した溶剤と同じ溶剤中に、ガムロジンを溶解させた溶液(溶液中のガムロジンの含有量:50重量%)である。
【0118】
比較例3および4(塗料組成物の製造)
容器に、比較共重合体[Q−3]および表5に示す各成分を、表5に示す割合(重量部)で配合し、更に混合分散用に直径1.5〜2.5mmのガラスビーズを加え、実験用撹拌機により撹拌、混合分散することにより比較塗膜組成物[H−3]および[H−4]を調製した。
【0119】
【表5】

【0120】
試験例1(貯蔵安定性試験)
実施例1〜18および比較例1〜4で得られた塗料組成物を、100mlの広口ブリキ缶に入れ密封し50℃の恒温器に2ヶ月間保存した後、該塗料組成物の粘度を測定した。粘度は、25℃で、B形粘度計により測定した値である。
結果を表6に示す。
【0121】
【表6】

【0122】
試験例2(塗膜の溶解性試験)
水槽の中央に直径318mmおよび高さ440mmの回転ドラムを取付け、これをモーターで回転できるようにした。また、海水の温度を一定に保つための加温装置および冷却装置、ならびに海水のpHを一定に保つためのpH自動コントローラーを取付けた。
試験板を下記の方法に従って作製した。
まず、硬質塩ビ板(75×150×1mm)上に、実施例1〜18および比較例1〜3で得られた防汚塗料組成物を、前記防錆塗膜の上に、乾燥後の厚みが約100μmとなるよう塗布した。得られた塗布物を40℃で1日間乾燥させることにより、厚みが約100μmの乾燥塗膜を有する試験板を作製した。
作製した試験板を上記装置の回転装置の回転ドラムに海水と接触するように固定して、37km/hrの速度で12ヶ月間回転ドラムを回転させた。その間、海水の温度を25℃、pHを8.0〜8.2に保ち、一週間毎に海水を入れ換えた。
各試験板の初期の膜厚と3ケ月経過毎の残存膜厚を顕微鏡で測定し、その差から溶解した塗膜厚を計算することにより塗膜溶解量を求めた。
結果を表7に示す。
【0123】
【表7】

【0124】
試験例3(防汚試験)
実施例1〜18および比較例1〜3で得られた塗料組成物を、硬質塩ビ板(100×200×2mm)の両面に乾燥塗膜としての厚みが約200μmとなるよう塗布した。得られた塗布物を40℃で1日間乾燥させることにより、厚みが約200μmの乾燥塗膜を有する試験板を作製した。この試験板を三重県尾鷲市の海面下1.5mに浸漬して付着物による試験板の汚損を18ケ月観察した。
結果を表8に示す。
なお、表中の数字は汚損生物の付着面積(%)を表す。
【0125】
【表8】

【0126】
試験例4(塗膜の物性試験)
試験例2(塗膜の溶解試験)で使用した試験板を用いて、試験例2に記載の条件で回転ドラムを18ヶ月回転させた。試験開始から6ヶ月、12ヶ月、18ヶ月経過時の実施例1〜18および比較例1〜3の各塗膜の状態を観察した。
【0127】
塗膜物性の評価
◎:塗膜に膨潤、ブリスター、クラック、剥がれ等が認められず試験開始時から変化がない。
○:塗膜に膨潤、ブリスター、クラック、剥がれ等が認められない。
△:塗膜に膨潤、ブリスター、クラック、剥がれ等が僅かに認められる。
×:塗膜に明らかな膨潤、ブリスター、クラック、剥がれ等が認められる。
【0128】
結果を表9に示す。
【0129】
【表9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
【化1】

〔式中、Xはアクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、クロトノイルオキシ基またはイソクロトノイルオキシ基を示し、Rは水素原子またはメチル基を示し、Rは炭素数1〜6のアルキル基を示す。〕
で表される単量体、及び
一般式(2):
【化2】

〔式中、Rは水素原子またはメチル基を示し、Rは炭素数1〜10のアルキル基または炭素数1〜4のアルコキシ基が結合した炭素数2〜5のアルキル基を示す。〕
で表される重合性単量体を共重合させてなる共重合体[A]を含有する防汚塗料組成物。
【請求項2】
前記一般式(1)中のRが炭素数1または2のアルキル基であるとき、前記一般式(2)中のRが炭素数3〜10の分岐アルキル基である請求項1に記載の防汚塗料組成物。
【請求項3】
前記一般式(1)中のRが炭素数1または2のアルキル基であるとき、前記重合性単量体(2)がイソブチルアクリレートまたはイソブチルメタクリレートである請求項2に記載の防汚塗料組成物。
【請求項4】
前記一般式(1)中のRが炭素数3〜6のアルキル基であるとき、該アルキル基が分岐アルキル基である請求項1に記載の防汚塗料組成物。
【請求項5】
前記共重合体[A]における、前記単量体(1)の使用量が、単量体重量合計に対し10〜80重量%である、請求項1〜4のいずれかに記載の防汚塗料組成物。
【請求項6】
前記共重合体[A]における、前記単量体(2)の使用量が、単量体重量合計に対し20〜90重量%である、請求項1〜5のいずれかに記載の防汚塗料組成物。
【請求項7】
更に、防汚薬剤[B]を含有する、請求項1〜6のいずれかに記載の防汚塗料組成物。
【請求項8】
前記防汚薬剤[B]が、亜酸化銅である請求項7に記載の防汚塗料組成物。
【請求項9】
更に、溶出調整剤[C]を含有する、請求項1〜8のいずれかに記載の防汚塗料組成物。
【請求項10】
前記溶出調整剤[C]が、ロジン、ロジン誘導体およびこれらの金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項9に記載の防汚塗料組成物。
【請求項11】
更に、可塑剤[D]を含有する、請求項1〜10のいずれかに記載の防汚塗料組成物。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の防汚塗料組成物を用いて被塗膜形成物の表面に防汚塗膜を形成する防汚処理方法。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれかに記載の防汚塗料組成物を用いて形成される防汚塗膜。
【請求項14】
請求項13に記載の防汚塗膜を表面に有する塗装物。

【公開番号】特開2010−280864(P2010−280864A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−137133(P2009−137133)
【出願日】平成21年6月8日(2009.6.8)
【出願人】(000227342)日東化成株式会社 (28)
【Fターム(参考)】