説明

防汚塗料組成物およびそれを施工された漁網具

【課題】塗料中の沈殿物がほぐれやすく粘度上昇が少ない長期安定性に優れた防汚塗料組成物を提供する。
【解決手段】ビヒクルとして合成樹脂および/または天然樹脂を用い、防汚剤として(A)ビス(ジメチルジチオカルバモイル)エチレンビスジチオカルバミン酸亜鉛及び(B)金属が銅あるいは亜鉛であるビス(2−ピリジンチオール−1−オキシド)金属塩を含有し、以下の成分(a)〜(e)を含有しない防汚塗料組成物。
(a)ピリジン−トリフェニルボラン
(b)樹脂側鎖に-(X)n-C(=O)-O-M-A基を少なくとも1つ有するアクリル樹脂
(c)金属を含有する重合性不飽和単量体(a1)と、金属を含有しないラジカル重合性不飽和単量体(a2)とを共重合してなる金属含有共重合体と4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン
(d)金属を含有する重合性不飽和単量体(a1)と、金属を含有しないラジカル重合性不飽和単量体(a2)とを共重合してなる金属含有共重合体
(e)下記式[I]:(R1)(R5)Si-O-[(R5)2Si-O]−[(R5)(R3)Si-O]Si(R5)(R2)
で表されるオキシアルキレン基含有オルガノポリシロキサン

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶、海洋構造物、養殖用又は定置用の漁網及びこれらに使用される浮き子、ロープなどの漁網付属具に対して、藻類および腔腸動物類のいずれの海棲汚損生物に対して良好な忌避効果を示し安定性の良好な低公害性の防汚塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶や海洋構造物、養殖用又は定置用の漁網などは海中に長期保存されるために、珪藻類、アオサ、アオノリ、イギスなどの海藻類、ヒドロ虫、フジツボ、セルプラ、コケムシ、軟体動物類などの海棲汚損生物の付着が激しく、その結果、本来の機能が損なわれることがある。さらに海棲動植物の他にそれらの生物の排泄物、死骸等の有機汚物およびいわゆるスライム等の付着によっても機能が損なわれることがある。例えば船舶などでは、前述海棲生物の付着により海水中での摩擦抵抗が増加し燃費が悪化する。また発電所では、冷却水として海水を用いる際、海棲生物が付着すことによって熱交換を著しく阻害する。また漁網の場合、養殖網や定置網などに付着生物が付着すると網が重くなり、沈下により魚が逃げ、また網自体が流失する恐れがある。そのため頻繁に取替えを要することが多く、それらの保守に多大の労力と費用をかけているのが現状である。
【0003】
このような海棲生物の付着防止等を目的として防汚塗料の塗布が船舶、海洋構造物、漁具・漁網に広く行われている。かかる目的で用いられる防汚剤の中でも、有機防汚薬剤であるビス(ジメチルジチオカルバモイル)エチレンビスジチオカルバミン酸亜鉛を含有した水中防汚剤は、環境汚染、安全衛生の問題が低く、ヒドロ虫、オベリア等の腔腸動物の付着防止に効果を示すため広く用いられている。
【0004】
例えば、特許文献1には、種々のジチオカルバミン酸塩が水中防汚剤として有用であることが記載されている。
【0005】
特許文献2には、水不溶ジチオカルバミン酸金属塩とジアルキルポリスルフィッド誘導体、ポリブテン、パラフィン類、およびワセリンから選ばれるいずれか少なくとも1種を用いた塗料が腔腸動物に有効であることが記載されている。
【0006】
特許文献3には、カルバミン酸塩のなかでもビス(ジメチルジチオカルバモイル)エチレンビスジチオカルバミン酸亜鉛を有効成分とし、溶出助剤としてジ第3級ノニルペンタスルフィッド、ポリブテン、パラフィン類、およびワセリンから選ばれたいずれか少なくとも1種を用いた塗料が腔腸動物(ヒドロ、オベリア等)に有用であることが記載されている。
【0007】
一方で、腔腸動物への有効性は認められるものの、他の生物への効果が劣るため、特許文献4にジチオカルバミン酸類の不溶性塩とテトラクロロイソフタロニトリルとの混合物などが記載されている。
【0008】
また、特許文献5でジチオカルバミン酸類の不溶性塩と銅または銅化合物とが含有されている防汚塗料が記載されている。銅化合物としては、亜酸化銅や銅ニッケル合金、溶融銅ガラス、チオシアン化第一銅、銅粉、ナフテン酸銅などがあげられている。しかしながら、腔腸動物(ヒドロ類、オベリア類、ヒドロゾアなど)に有効ではあっても藻類などの付着に対しては、依然満足の行くものではなかった。
【0009】
一方でビス(2−ピリジンチオール−1−オキシド)金属塩は、藻類などに特に優れた防汚効果を示すことから、水中防汚塗料に広く用いられている。例えば特許文献6には、ハロボレート類とハロシリケート類から選ばれる化合物と組み合わされたN−ヒドロキシピリジンチオンの金属誘導体からなる組成物が、細菌と真菌植物と藻類を防除することを開示している。
【0010】
また、特許文献7には、ビス(2−ピリジンチオ−1−オキシド)金属塩が、防汚塗料として藻類に対して優れた防汚効果を示すことが記載されている。
【0011】
また、特許文献8および特許文献9では、亜酸化銅と2−ピリジンチオール−1−オキシド銅塩が安定性と防汚性に優れた防汚塗料として記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特公昭39−9681
【特許文献2】特開平6−157219
【特許文献3】特開平8−319203
【特許文献4】特公昭64−11603
【特許文献5】特開平8−252533
【特許文献6】特開昭49−52836
【特許文献7】特開昭54−15939
【特許文献8】米国特許5185033
【特許文献9】特開平6−25560
【0013】
しかしながらこれら2−ピリジンチオール−1−オキシド金属塩は、藻類などには、良好な防汚性を示しながら、腔腸動物に対しての効果が低いと言う欠点を有していた。
【0014】
さらに、安定性に関して、2−ピリジンチオール−1−オキシド亜鉛塩および2−ピリジンチオール−1−オキシド銅塩を含む塗料組成物が長期間容器中に保存されると塗料粘度が上昇し、塗料中で沈殿物が生じ再攪拌しても、均一な状況に戻りにくいと言う欠点を有していた。また、ビス(ジメチルジチオカルバモイル)エチレンビスジチオカルバミン酸亜鉛を含む塗料も同様に長期間容器中に保存されると塗料粘度が上昇し、塗料中で沈殿物が生じ再攪拌しても、均一な状況に戻りにくいと言う欠点を有していた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上記従来技術の状況に鑑みてなされたものであり、特に従来技術では到達できなかった、(1)金属が銅あるいは亜鉛であるビス(2−ピリジンチオール−1−オキシド)金属塩にビス(ジメチルジチオカルバモイル)エチレンビスジチオカルバミン酸亜鉛を併用することにより塗料中の沈殿物がほぐれやすく粘度上昇が少ない長期安定性に優れた防汚塗料組成物、(2)藻類と腔腸動物のいずれに対しても良好な防汚性を示す防汚塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前述のビス(ジメチルジチオカルバモイル)エチレンビスジチオカルバミン酸亜鉛を有効成分とする防汚塗料組成物が、腔腸動物に対して良好な忌避効果を発揮しながら藻類に対して効果が低いと言う欠点と、ビス(2−ピリジンチオ−1−オキシド)金属塩を用いた防汚塗料組成物が藻に対して良好な防汚効果を示しながら、腔腸動物に対して防汚効果が低いと言う欠点を、本発明者らは、鋭意検討した結果(A)ビス(ジメチルジチオカルバモイル)エチレンビスジチオカルバミン酸亜鉛と(B)金属が銅または、亜鉛であるビス(2−ピリジンチオール−1−オキシド)金属塩を混合することにより、腔腸動物、藻類ともに良好な防汚性を発揮することができる防汚組成物を見出すに至った。また、(A)ビス(ジメチルジチオカルバモイル)エチレンビスジチオカルバミン酸亜鉛と(B)金属が銅または、亜鉛であるビス(2−ピリジンチオール−1−オキシド)金属塩を(A)が100質量部に対して(B)が0.01質量部〜10000質量部の範囲の比率に配合することにより、塗料中の沈殿物がほぐれやすく粘度上昇が少ない長期安定性に優れ、かつ腔腸動物に強い塗料組成物から藻類に強い塗料組成物まで様々な塗料組成物を得るに至った。
【0017】
さらに、前述の(A)ビス(ジメチルジチオカルバモイル)エチレンビスジチオカルバミン酸亜鉛と(B)金属が銅または、亜鉛であるビス(2−ピリジンチオール−1−オキシド)金属塩に、(C)シリコーンオイル、ポリブテン類、パラフィン類、ワセリン類およびジアルキルポリスルフィド化合物よりなる群から選ばれた少なくとも1種を併用するとさらに防汚性を向上させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0018】
すなわち、請求項1に係る発明は、 ビヒクルとして合成樹脂および/または天然樹脂を用い、防汚剤として(A)ビス(ジメチルジチオカルバモイル)エチレンビスジチオカルバミン酸亜鉛及び(B)金属が銅あるいは亜鉛であるビス(2−ピリジンチオール−1−オキシド)金属塩を含有し、以下の成分(a)〜(e)を含有しない防汚塗料組成物。
(a)ピリジン−トリフェニルボラン
(b)樹脂側鎖に-(X)n-C(=O)-O-M-A(式中、Xは-O-C(=O)-Y-で表される基、nは0もしくは1、Yは炭化水素、Mは2価金属、Aは一塩基酸の有機酸残基を表す。)で表される基を少なくとも1つ有するアクリル樹脂
(c)金属を含有する重合性不飽和単量体(a1)と、金属を含有しないラジカル重合性不飽和単量体(a2)とを共重合してなる金属含有共重合体と4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン
(d)金属を含有する重合性不飽和単量体(a1)と、金属を含有しないラジカル重合性不飽和単量体(a2)とを共重合してなる金属含有共重合体
(e)下記式[I]:(R1)(R5)Si-O-[(R5)2Si-O]−[(R5)(R3)Si-O]Si(R5)(R2)
[式[I]中、R5はアルキル基またはフェニル基を示し、R1、R2およびR3は、それぞれ独立にアルキル基、フェニル基またはX:「(CH2pO(C24O)q(C36O)r4(R4は、水素原子またはそれぞれ炭素数が1〜15のアルキル基、アリール基、アラルキル基またはアシル基を示し、pは0〜5の数を示し、qおよびrはそれぞれ独立に1〜50の数を示す。)」を示し、mは1〜1000の数を示し、nは0〜50の数を示す。但し、nが0のとき、R1および/またはR2は上記Xである。]で表されるオキシアルキレン基含有オルガノポリシロキサン
【0019】
請求項2に係る発明は、(A)ビス(ジメチルジチオカルバモイル)エチレンビスジチオカルバミン酸亜鉛と(B)金属が銅あるいは亜鉛であるビス(2−ピリジンチオール−1−オキシド)金属塩の混合比率が(A)が100質量部に対して(B)が0.01質量部〜10000質量部の範囲である防汚塗料組成物に関する。
【0020】
請求項3に係る発明は、請求項1または2記載の(A)ビス(ジメチルジチオカルバモイル)エチレンビスジチオカルバミン酸亜鉛と、(B)金属が銅あるいは亜鉛であるビス(2−ピリジンチオール−1−オキシド)金属塩と、(C)シリコーンオイル、ポリブテン類、パラフィン類、ワセリン類、および一般式(I):
−(S)n−R (I)
(式中、R、Rは炭素数1〜20の直鎖または分岐状のアルキル基を、nは1〜20の整数を示す)で表されるジアルキルポリサルファイド化合物よりなる群から選ばれる1種または2種以上とを含有することを特徴とする防汚塗料組成物に関する。
【0021】
また、請求項4に係る発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の防汚塗料組成物が漁網具防汚塗料であるものに関する。
【0022】
さらに、請求項5に係る発明は、本発明の防汚塗料組成物を施工された漁網具に関する。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の防汚塗料組成物において使用する必須の有効成分は、(A)ビス(ジメチルジチオカルバモイル)エチレンビスジチオカルバミン酸亜鉛と、(B)金属が銅あるいは亜鉛であるビス(2−ピリジンチオール−1−オキシド)金属塩である。
【0024】
本発明においては、有効成分として、(A)ビス(ジメチルジチオカルバモイル)エチレンビスジチオカルバミン酸亜鉛と、(B)金属が銅あるいは亜鉛であるビス(2−ピリジンチオール−1−オキシド)金属塩のみを用いてもよいが、(C)シリコーンオイル、ポリブテン類、パラフィン類、ワセリン類、および一般式(I):
−(S)n−R (I)
(式中、R、Rは炭素数1〜20の直鎖または分岐状のアルキル基を、nは1〜20の整数を示す)で表されるジアルキルポリサルファイド化合物よりなる群から選ばれる1種または2種以上とを併用することにより防汚効果が飛躍的に向上する。
【0025】
本発明に用いられるビス(ジメチルジチオカルバモイル)エチレンビスジチオカルバミン酸亜鉛は、通称ポリカーバメート(商品名:ビスダイセン(ダウ・アグロサイエンス社登録商標)等)として市販されており、通常平均粒径が0.01〜20μmで、好ましくは0.05〜5μmのものが用いられる。
本発明に用いられる金属が銅あるいは亜鉛であるビス(2−ピリジンチオール−1−オキシド)金属塩は、通常平均粒径が0.01〜20μmで、好ましくは0.05〜5μmのものが用いられる。
【0026】
本発明に用いられるシリコーンオイルとしては、たとえばポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、メチルフェニルシロキサン−ジメチルシロキサン、ポリエーテル変成ポリジメチルシロキサン、ポリエーテル変成ポリアルキル(メチル)シロキサン、ポリエステル変成ポリジメチルシロキサン、フロロシリコーンオイル、アミノ変成シリコーンオイル、その他各種官能基による変成シリコーンオイルなどがあげられるが、これらに限られるものではない。これらのシリコーンオイルのうちでとくに好ましいものは、親水性親油性バランス(HLB)が2から12の範囲にある、ポリジメチルシロキサン、メチルフェニルシロキサン−ジメチルシロキサン共重合体、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンである。これらのシリコーンオイルは、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また本発明に用いるシリコーンオイルは、防汚塗料組成物の塗工性能、塗膜物性の点から、粘度が1〜1万ポイズ、なかんづく50〜500ポイズの範囲のものが好ましい。
【0027】
本発明に用いられるポリブテン類としては、たとえば、日本石油化学(株)製のポリブテンLV−7、ポリブテンLV−10、ポリブテンLV−25、ポリブテンLV−50、ポリブテンLV−100、ポリブテンHV−35、ポリブテンHV−100、ポリブテンHV−300、ポリブテンHV−1900、出光石油化学(株)製のポリブテン0H、ポリブテン5H、ポリブテン10H、ポリブテン300H、ポリブテン2000H、ポリブテン0R、ポリブテン15R、ポリブテン35R、ポリブテン100R、ポリブテン350R、日本油脂(株)製のポリビスOSH、三井化学(株)製のルーカントHC−20、ルーカントHC−150、ルーカントHC−600、ルーカントHC−2000などがあげられる。
【0028】
本発明に用いられるパラフィン類としては、たとえば、n−パラフィン(日本石油化学(株)製など)、固形パラフィン(日本精蝋(株)製など)、流動パラフィン(松村石油(株)製のスモイルP−100、スモイルP−150など)、塩素化パラフィン(東ソー(株)製のA−40、A−50、A−70、A−145、A−150、A−265、A−270など)などがあげられる。
本発明に用いられるワセリン類としては、たとえば、白色ワセリン、黄色ワセリン(安藤パラケミー(株)製など)があげられる。
【0029】
本発明に用いられる一般式(I)で表されるジアルキルスルフィド化合物には、nが1であるジアルキルモノスルフィド化合物と、nが2〜20の整数であるジアルキルポリスルフィド化合物が含まれる。一般式(I)において、RおよびRで示される炭素数1〜20の直鎖または分枝状のアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、tert−ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、ノニル、デシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、オクタデシルなどがあげられる。一般式(I)において、nは1〜20の整数であるが、防汚塗料組成物の塗工性能、塗膜物性の点から、nが1〜10、なかんずく4〜10であることが好ましい。これらジアルキルスルフィド化合物は単独で用いてもよく、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。防汚塗料組成物の塗工性能、塗膜物性の点から好ましいジアルキルスルフィド化合物としては、ジ−tert−ブチルデカスルフィド、ジペンチルテトラスルフィド、ジペンチルペンタスルフィド、ジペンチルデカスルフィド、ジオクチルテトラスルフィド、ジオクチルペンタスルフィド、ジノニルテトラスルフィド、ジノニルペンタスルフィド、ジ−tert−ノニルテトラスルフィド、ジ−tert−ノニルペンタスルフィド、ジデシルテトラスルフィド、ジドデシルテトラスルフィド、ジオクタデシルテトラスルフィド、ジノナデシルテトラスルフィドなどがあげられるが、これに限定されるものではない。
【0030】
本発明の防汚塗料組成物には、ビヒクルとして合成樹脂および/または天然樹脂が用いられる。合成樹脂系ビヒクルとしては、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル/アルキルビニルエーテル共重合体、塩化ビニル樹脂などのビニル樹脂系、アルキッド樹脂系、アクリル樹脂系、ウレタン樹脂系、ポリエステル樹脂系、合成ゴム系、塩素化ポリオレフィンなどがあげられる。また、天然樹脂としては、ウッドロジン、ガムロジン、変性ロジンなどがあげられる。ビヒクルに用いられる樹脂としては、特にアクリル樹脂が好ましい。
【0031】
また、本発明の防汚塗料組成物には、通常溶剤が含まれる。溶剤としては、特に限定されるものではなく種々の溶剤が使用でき、たとえばベンゼン、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼンなどの芳香族系炭化水素溶剤、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノールなどのアルコール系溶剤、アセトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤などがあげられる。これらの溶剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
本発明の防汚塗料組成物において、(A)ビスジメチルジチオカルバモイルエチレンビスジチオカルバミン酸亜鉛と、(B)金属が銅あるいは亜鉛であるビス(2−ピリジンチオール−1−オキシド)金属塩を有効成分として用いる場合その使用量は、特に制限されるものではないが、塗料組成分中の不揮発分量に対して、その合計重量%は、通常0.1〜80重量%であり、好ましくは、1〜50重量%である。
【0033】
本発明の防汚塗料組成物において(A)ビスジメチルジチオカルバモイルエチレンビスジチオカルバミン酸亜鉛と(B)金属が銅あるいは亜鉛であるビス(2−ピリジンチオール−1−オキシド)金属塩の混合比率が(A)が100質量部に対して(B)が0.01質量部〜100質量部の範囲で用いた場合、腔腸動物の繁殖に対して藻類の繁殖が比較的少ない海域において良好な防汚塗料組成物を得ることができる。
【0034】
また、(A)が100質量部に対して(B)が100質量部〜10000質量部の範囲で用いた場合は、腔腸動物の繁殖に対して藻類の繁殖が比較的多い海域において良好な防汚塗料組成物を得ることができる。
【0035】
上述のように(A)ビスジメチルジチオカルバモイルエチレンビスジチオカルバミン酸亜鉛と(B)金属が銅あるいは亜鉛であるビス(2−ピリジンチオール−1−オキシド)金属塩の混合比率が(A)が100質量部に対して(B)が0.01質量部〜10000質量部の範囲で腔腸動物と藻類への防汚性をコントロールすることができる。
【0036】
さらに、本発明の防汚塗料組成物において、(A)ビスジメチルジチオカルバモイルエチレンビスジチオカルバミン酸亜鉛と、(B)金属が銅あるいは亜鉛であるビス(2−ピリジンチオール−1−オキシド)金属塩に、(C)シリコーンオイル、ポリブテン類、パラフィン類、ワセリン類およびジアルキルスルフィド化合物よりなる群から選ばれる1種または2種以上を併用する場合、これらの配合比は特に制限されるものではないが、((A)成分+(B)成分)/(C)成分の重量比は通常1/99〜99/1の範囲であり、好ましくは10/90〜90/10の範囲である。また、防汚剤中の不揮発分量に対する(A)成分(B)成分および(C)成分の合計配合量は特に制限されるものではないが、通常0.1〜80重量%であり、好ましくは1〜50重量%の範囲である。合計配合量が前記範囲未満では防汚性が充分でなく、一方前記範囲を超えると防汚塗料組成物としての塗工性能、塗膜物性が劣化する傾向がある。
【0037】
本発明の防汚塗料組成物には、他の防汚剤を添加してもよい。これらの防汚剤としては、たとえば亜酸化銅、ロダン銅などの銅化合物、銀、ジチオカーバート系防汚剤、カーバメート系防汚剤、マレイミド系防汚剤、イソチアゾロン系防汚剤、テトラクロロイソフタロニトリルなどが挙げられる。また、本発明の防汚塗料組成物には、フタル酸エステル、アジピン酸エステル、トリクレジルフォスフェートなどの可塑剤も加えることができる。さらに、本発明の防汚塗料組成物には、顔料、その他の添加剤、たとえばポリアマイド燐酸系、ポリアマイド系、不飽和ポリカルボン酸系などの分散剤、消泡剤、タレ止め剤、界面活性剤などを添加することができる。本発明の防汚塗料組成物においては、他の防汚剤、可塑剤、顔料、その他の添加剤は、本発明の目的を損なわない範囲で任意の配合割合で含有させることができる。
【0038】
本発明の防汚塗料組成物は、前記した成分を混合し、必要に応じて各種添加剤を配合し、混合することにより製造することができる。各成分の混合方法および各種添加剤の添加方法は、特に制限されるものではなく、種々の方法により行うことができ、混合順序および添加順序も種々の方法で行うことができる。
【0039】
本発明は、本発明の防汚塗料組成物を、漁網具等に塗布することにより、水棲汚損生物の付着を防止し、優れた防汚性を発揮させる漁網具等の防汚方法も提供することができる。防汚塗料組成物の漁網具等への塗布方法は、たとえば浸漬塗装、吹きつけ塗装などの種々の塗装方法を適用することができるが、浸漬塗装が好ましい。付着量は漁網の場合、漁網重量の1〜20重量%の範囲が好ましい。
【実施例】
【0040】
(実施例1〜15、比較例1〜10)
表1〜3に記載の配合成分を添加攪拌して実施例1〜15の塗料組成物を得た。また、表6〜7に記載の配合成分を添加攪拌して比較例1〜10の塗料組成物を得た。
【0041】
試験例1(防汚性試験1)
実施例1〜15および比較例1〜10で得られた塗料組成物を、テトロン製の漁網(250デニール、84本、目合75mm)に浸漬塗装し乾燥した。このように塗料組成物を塗布した漁網を40cm×60cmの鉄棒の枠に固定し、北海道斜里郡斜里町の定置網にて水深約10mに垂下浸漬し、その防汚性能を4ヶ月にわたって定期的に観測した。結果を表8に示す。表中の数字は海棲生物の付着面積(%)を表す。
【0042】
試験例2(防汚性試験2)
(実施例16〜25、比較例1〜10)
表4〜5に記載の配合成分を添加攪拌し、実施例16〜25の塗料組成物を得た。また、表6〜7に記載の配合成分を添加攪拌して、比較例1〜10の塗料組成物を得た。この塗料組成物を、テトロン製の漁網(250デニール、84本、目合75mm)に浸漬塗装し乾燥した。塗料組成物を塗布した漁網を40cm×60cmの鉄棒の枠に固定し、岩手県大船渡市の定置網にて水深約0.5mに垂下浸漬し、その防汚性能を3ヶ月にわたって観測した。結果を表9に示す。表中の数字は海棲生物の付着面積(%)を表す。
【0043】
試験例3(安定性試験)
上述試験例で得られた、実施例2、3、12および比較例6〜10の塗料組成物を直ちに20℃に調整しイワタカップで粘度測定した。その後塗料組成物を2つの容器に移し変え、一方は室温で30日間放置し、一方は40℃で40日間放置した。放置後塗料中の沈殿状態確認し20℃に調整しイワタカップにて粘度を測定した。
【0044】
表8、表9の結果から明らかな様に、本発明の防汚塗料組成物は水棲汚損生物の付着を効果的に防止することができる。また表10、表11より本発明の防汚塗料組成物は、良好な安定性を示す。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
【表3】

【0048】
【表4】

【0049】
【表5】

【0050】
【表6】

【0051】
【表7】

【0052】
※1アクリル樹脂溶液(固形分 50重量%)
※2シリコーンーポリエーテル共重合体(東芝シリコーン(株)製)
※3ポリジメチルシロキサン(信越化学工業(株)製)
※4エーテル変性シリコーンオイル(信越化学工業(株)製)
※5液状ポリブテン(日本油脂(株)製)
※6流動パラフィン(松村石油研究所(株)製)
※7塩素化ポリオレフィン樹脂(日本製紙ケミカル(株)製)
※8テトラエチルチウラムジスルフィド(大内新興化学(株)製)
【0053】
【表8】

【0054】
【表9】

【0055】
【表10】

【0056】
【表11】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビヒクルとして合成樹脂および/または天然樹脂を用い、防汚剤として(A)ビス(ジメチルジチオカルバモイル)エチレンビスジチオカルバミン酸亜鉛及び(B)金属が銅あるいは亜鉛であるビス(2−ピリジンチオール−1−オキシド)金属塩を含有し、以下の成分(a)〜(e)を含有しない防汚塗料組成物。
(a)ピリジン−トリフェニルボラン
(b)樹脂側鎖に-(X)n-C(=O)-O-M-A(式中、Xは-O-C(=O)-Y-で表される基、nは0もしくは1、Yは炭化水素、Mは2価金属、Aは一塩基酸の有機酸残基を表す。)で表される基を少なくとも1つ有するアクリル樹脂
(c)金属を含有する重合性不飽和単量体(a1)と、金属を含有しないラジカル重合性不飽和単量体(a2)とを共重合してなる金属含有共重合体と4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン
(d)金属を含有する重合性不飽和単量体(a1)と、金属を含有しないラジカル重合性不飽和単量体(a2)とを共重合してなる金属含有共重合体
(e)下記式[I]:(R1)(R5)Si-O-[(R5)2Si-O]−[(R5)(R3)Si-O]Si(R5)(R2)
[式[I]中、R5はアルキル基またはフェニル基を示し、R1、R2およびR3は、それぞれ独立にアルキル基、フェニル基またはX:「(CH2pO(C24O)q(C36O)r4(R4は、水素原子またはそれぞれ炭素数が1〜15のアルキル基、アリール基、アラルキル基またはアシル基を示し、pは0〜5の数を示し、qおよびrはそれぞれ独立に1〜50の数を示す。)」を示し、mは1〜1000の数を示し、nは0〜50の数を示す。但し、nが0のとき、R1および/またはR2は上記Xである。]で表されるオキシアルキレン基含有オルガノポリシロキサン
【請求項2】
(A)ビス(ジメチルジチオカルバモイル)エチレンビスジチオカルバミン酸亜鉛と(B)金属が銅あるいは亜鉛であるビス(2−ピリジンチオール−1−オキシド)金属塩の混合比率が(A)が100質量部に対して(B)が0.01質量部〜10000質量部の範囲である、請求項1記載の防汚塗料組成物。
【請求項3】
(A)ビス(ジメチルジチオカルバモイル)エチレンビスジチオカルバミン酸亜鉛と、(B)金属が銅あるいは亜鉛であるビス(2−ピリジンチオール−1−オキシド)金属塩と、(C)シリコーンオイル、ポリブテン類、パラフィン類、ワセリン類、および下記一般式(I):
(一般式I)
−(S)n−R (I)
(式中、R、Rは炭素数1〜20の直鎖または分岐状のアルキル基を、nは1〜20の整数を示す)で表されるジアルキルポリサルファイド化合物よりなる群から選ばれる1種または2種以上とを含有することを特徴とする、請求項1または2記載の防汚塗料組成物。
【請求項4】
漁網具用途に使用される、請求項1〜3のいずれかに記載の防汚塗料組成物。
【請求項5】
請求項4記載の防汚塗料組成物を施工された漁網具。

【公開番号】特開2012−184427(P2012−184427A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−96127(P2012−96127)
【出願日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【分割の表示】特願2005−294072(P2005−294072)の分割
【原出願日】平成17年10月6日(2005.10.6)
【出願人】(501481724)NKMコーティングス株式会社 (7)
【Fターム(参考)】