説明

防汚塗料組成物およびそれを用いた防汚方法

【課題】フジツボ等の貝類及び藻類等の水棲生物全般に対して優れた防汚性を示す塗膜を形成すると共に安全性が高く海洋汚染が格段に少ない防汚塗料組成物、ならびにそれを用いた船舶、水中構造物および漁具・魚網の防汚方法を提供する。
【解決手段】防汚塗料組成物中の構成成分として、ラノリン、ラノリン脂肪酸、ラノリンアルコール及びこれらの誘導体から選ばれる1種又は2種以上を含み、実質的に海洋生物付着忌避剤を含有しないことを特徴とする防汚塗料組成物およびそれを用いる防汚方法を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フジツボ等の貝類及び藻類等の水棲生物全般に対して、優れた防汚性を示す塗膜を形成すると共に、安全性が高く海洋汚染が格段に少ない防汚塗料組成物、ならびに該防汚塗料組成物を用いた船舶、水中構造物および漁具・魚網の防汚方法に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶、水中構造物、漁具・魚網などは、水中に長期間さらされることにより、その表面にフジツボ、カキ、イガイ等の動物類、ノリ(海草)等の植物類、あるいはバクテリア類などの各種水棲生物が付着・繁殖すると、外観が損ねられ、その機能が害されることがある。
【0003】
特に船舶にこのような水棲生物が付着・繁殖すると、船全体の表面粗度が増加し、船速の低下、燃費の増大などを招くことがある。また、このような水棲生物を船底から取り除くには、多大な労力、作業時間が必要となる。また、バクテリア類が水中構造物などに付着・繁殖し、さらにそこにスライム(ヘドロ状物)が付着して腐敗を生じ、腐食防止用の塗膜などを損傷すると、その水中構造物の強度や機能が低下し寿命が著しく低下するなどの被害が生ずるおそれがある。
【0004】
この水棲生物の付着を防止する目的で有機スズ化合物を主成分とする防汚塗料が広く使用されてきた。しかしながら、その毒性の強さから環境に与える影響も大きく、有機スズ化合物含有の防汚塗料は、海洋汚染防止のため、近年使用が大幅に制限或いは禁止されている。
【0005】
一方、有機スズ化合物に替わる海中用防汚塗料組成物として、種々の研究そして提案がなされ、亜酸化銅、ロダン銅などの銅化合物、エチレンビスジチオカルバミン酸の亜鉛塩やマンガン酸などのチオカーバメイト化合物、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラクロロイソフタロニトリル、ジメチルクロロジマレイミドなどの有機化合物を有効成分としたものが提案されているが、毒性や生分解性の問題、そして塗膜物性や防汚性の面で満足する化合物は発見されていない。
【0006】
一方、低毒性の防汚塗料組成物として、ラノリンもしくはラノリン誘導体を含むことを特徴とする防汚塗料組成物が提案されている(特許文献1)。しかしながら、この特許発明においては防汚塗料組成物の構成成分として、ラノリンもしくはラノリン誘導体以外に、海棲生物忌避剤を必須として含有するものであり、有機スズ化合物に比較して低毒性とはいえ毒性のある海棲生物忌避剤を含むものであり、必ずしも安全であるとは言い難いかった。
【特許文献1】特開2005−263975
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明は、フジツボ等の貝類及び藻類等の水棲生物全般に対して、優れた防汚性を示す塗膜を形成すると共に安全性が高く海洋汚染が格段に少ない防汚塗料組成物、ならびに該防汚塗料組成物用いた船底、水中構造物、及び漁具・魚網の防汚方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、ラノリン、ラノリン脂肪酸、ラノリンアルコール及びこれらの誘導体から選ばれる1種又は2種以上を含有し、実質的に海洋生物付着忌避剤を含有しない防汚塗料組成物が、フジツボ等の貝類及び藻類等の水棲生物全般に対して優れた防汚性を示すことを見出し、本発明を完成した。すなわち本発明は以下の(1)〜(5)を提供するものである。
(1)防汚塗料組成物の構成成分として、ラノリン、ラノリン脂肪酸、ラノリンアルコール及びこれらの誘導体から選ばれる1種又は2種以上を含み、海洋生物付着忌避剤を実質的に含有しないことを特徴とする防汚塗料組成物。
(2)ラノリン、ラノリン脂肪酸、ラノリンアルコール及びこれらの誘導体から選ばれる1種又は2種以上が5〜100質量%含まれていることを特徴とする請求項1に記載の防汚塗料組成物。
(3)ラノリン、ラノリン脂肪酸、ラノリンアルコール及びこれらの誘導体がラノリン脂肪酸の金属石鹸であることを特徴とする請求項1又は2に記載の防汚塗料組成物。
(4)請求項1〜3のいずれかに記載の防汚塗料組成物によって形成される防汚塗膜で、船舶または水中構造物の表面を被覆することを特徴とする船舶または水中構造物の防汚方法
(5)請求項1〜3のいずれかに記載の防汚塗料組成物によって形成される防汚塗膜で漁具または魚網の表面を被覆することを特徴とする漁具または魚網の防汚方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、海洋への汚染等の環境負荷が少なく優れた防汚性を有し、しかも長期間優れた防汚性能維持できる防汚塗料組成物、ならびに、該防汚塗料組成物によって形成される防汚塗膜で被覆することを特徴とする船舶、水中構造物、漁具・魚網の防汚方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明には、ラノリン、ラノリン脂肪酸、ラノリンアルコール及びこれらの誘導体から選ばれる1種又は2種以上を用いることが必須である。
【0011】
ラノリンとは羊の毛の表面に分泌される羊毛脂をろ過、脱色、脱臭、脱水、溶剤抽出、遠心分離、蒸留などの精製をして得られる物の名称である。本発明に用いられるラノリンとしては、上記のような精製方法により得られる精製度の異なる種々のラノリンの何れも用いることができる。具体的には精製ラノリン、液状ラノリン、硬質ラノリン、非極性ラノリン、極性ラノリン等を用いることができる。
【0012】
本発明に用いられるラノリン誘導体としては、酢酸ラノリン、ポリオキシエチレンラノリン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンラノリン、還元ラノリン、ポリオキシエチレン還元ラノリン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン還元ラノリン等を用いることができる。
【0013】
ラノリン脂肪酸とはラノリンを過水分解して得られる脂肪酸であり、使用するラノリンとしては上記のような精製度の異なる種々のラノリンを用いることができ、過水分解の方法は特に限定されるわけではなく公知の方法を用いることができる。本発明に用いられるラノリン脂肪酸としては、ラノリン脂肪酸、精製ラノリン脂肪酸、軟質ラノリン脂肪酸、硬質ラノリン脂肪酸などを用いることができる。
【0014】
本発明に用いられるラノリン脂肪酸誘導体としては、ラノリン脂肪酸エステル、ラノリン脂肪酸金属石鹸、ラノリン脂肪酸塩等があり、具体的にはラノリン脂肪酸ポリオキシエチレングリコール、ラノリン脂肪酸イソプロピル、ラノリン脂肪酸オクチルドデシル、ラノリン脂肪酸ペンタエリスリトールエステル、ラノリン脂肪酸トリメチロールプロパンエステル、ラノリン脂肪酸グリセリル、ラノリン脂肪酸ジエタノールアミン、ラノリン脂肪酸のアルカリ金属(Li、Na、K)、アルカリ土類金属(Ca、Mg、Ba)、亜鉛、アルミニウム、鉄、アミンなどの塩類などを用いることができる。
【0015】
ラノリンアルコールとは、ラノリンを過水分解して得られるアルコールであり、ラノリン脂肪酸の場合と同様に、精製度の異なる種々のラノリンを用いることができ、過水分解の方法は特に限定されるわけではなく公知の方法を用いる事ができる。本発明に用いられるラノリンアルコールとしては、上記のようなラノリンアルコールの他に、ラノリンアルコールからコレステロールを抽出した残りのアルコールなどを用いることができる。
【0016】
本発明に用いられるラノリンアルコール誘導体としては、ラノリンアルコール脂肪酸エステル、ラノリンアルコールポリエチレングリコールエーテル、ラノリンアルコールポリプロピレングリコールエーテルなどを用いることができる。
【0017】
上記の本発明に用いられるラノリン、ラノリン脂肪酸、ラノリンアルコール及びこれらの誘導体のうち、優れた防汚効果を発揮させるためには、ラノリン脂肪酸ペンタエリスリトールエステル、ラノリン脂肪酸トリメチロールプロパンエステル、ラノリン脂肪酸の金属石鹸を用いることが好ましく、より好ましくは、ラノリン脂肪酸の金属石鹸を用いると良い。さらに、ラノリン脂肪酸の金属石鹸のうちでも、安全性および優れた防汚性の観点から、カルシウム、亜鉛、バリウム石鹸が好ましく、最も好ましくはカルシウム石鹸を用いると良い。また、本発明に用いるラノリン、ラノリン脂肪酸、ラノリンアルコール及びこれらの誘導体は、1種を単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0018】
本発明に用いられるラノリン、ラノリン脂肪酸、ラノリンアルコール及びこれらの誘導体の防汚塗料組成物への配合量は、5質量%から100質量%が好ましく、さらに好ましくは10質量%から80質量%である。本発明に用いられるラノリン、ラノリン脂肪酸、ラノリンアルコール及びこれらの誘導体の性状は粘稠な物から硬い物まで幅広く、これらラノリン系化合物のみでも塗膜の強度、塗膜の付着性を考慮して、防汚塗料を調製することができる。防汚塗料組成物中に配合されるラノリン系化合物が5質量%以下の場合は目的とする防汚効果が弱く、所望の性能を発揮できない。
【0019】
本発明の防汚塗料組成物は実質的に海洋生物付着忌避剤を含有しないものである。海洋生物付着忌避剤について説明すると、海洋生物付着忌避剤として、有機スズ化合物(トリブチルスズ)は1990年以降使用できなくなったが、その後は銅化合物(銅粉、亜酸化銅、ロダン銅、ナフテン酸銅)、ナトリウムピリチオン、亜鉛ピリチオン、銅ピリチオン、ピリジントリフェニルボラン、4.5−ジクロロ−2−n−オクチル−3(2H)−イソチアゾロン、デュウロン(3−(3.4ジクロロフェニル)−1、1−ジメチルウレア)、ビスジメチルジチオカーバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメイト(通称ポリカーバメイト)、ジンクジメチルジチオカーバメイト、ジンクエチレンジチオカーバメイト、マンガニーズエチレンビスジチオカーバメイト、テトラアルキルチウラムジスルフィド、2,4,5,6―テトラクロロイソフタロニトリル、2,3−ジクロロ−N−(2’,6’−ジエチルフェニル)マレイミド、2,3−ジクロロ−N−(2’−エチル−6’−メチルフェニル)マレイミド、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−3(2H)−イソチアゾロン、2−メチルチオ−4−t−ブチルアミノ−6−シクロプロピルアミノ−S−トリアジン、N,N−ジメチルジクロロフェニル尿素、N−(フルオロジクロロメチルチオ)フタルイミド、N,N’−ジメチル−N’−フェニル−(N−フルオロジクロロメチルチオ)スルファミド、N−ジクロロフルオロメチルチオ−N’,N’−ジメチル−N−p−トリルスルファミド等が海洋生物付着忌避剤として使用されている。一般にこれ等の1種もしくは2種以上が防汚塗料に配合されている。海洋生物付着忌避剤の安全性に関する調査結果が発表されているが、完全に安全と言える物は発見されていない(参考文献:日本海洋生物研究所 年報,2004)
【0020】
本発明の防汚塗料組成物は、ラノリン、ラノリン脂肪酸、ラノリンアルコール及びこれらの誘導体の1種又は2種以上を含むことにより、実質的に海洋生物付着忌避剤を含まなくても、優れた防汚効果を発揮することができる。ラノリン、ラノリン脂肪酸、ラノリンアルコール及びこれらの誘導体は化粧品にも使用されるように、非常に安全性に優れたものであるため、実質的に海洋生物付着忌避剤を含まない本発明の防汚塗料組成物は、安全性が高く、海洋汚染が格段に少ないものである。
【0021】
本発明の防汚塗料組成物中には、上記のラノリン、ラノリン脂肪酸、ラノリンアルコール及びこれらの誘導体以外に塗膜を構成する成分として熱可塑性樹脂、親油性界面活性剤、液状油、着色剤、充填剤、添加剤を配合する事ができる。
【0022】
熱可塑性樹脂としては石油樹脂、クマロン樹脂、酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、低分子量ポリエチレン樹脂、アスファルトなどを用いることができ、このうち石油樹脂、クマロン樹脂、アスファルトが好ましい。熱可塑性樹脂は塗膜の強度を強くするのに必要で、その配合量は5〜50質量%程度が適当である。
【0023】
親油性界面活性剤としてはラノリン脂肪酸以外のカルボン酸類、カルボン酸塩類、ラノリンアルコール以外のアルコール類、油溶性スルホネート類、リン酸エステル類、ノニオン活性剤類などを挙げることができる。
このカルボン酸類としては、モノカルボン酸又はジカルボン酸を用いることができる。モノカルボン酸としては、炭素数8〜34のものであれば、特に限定されないが、好ましくは、炭素数12〜32である。モノカルボン酸を例示すると、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、エイコサン酸、ドコサン酸、テトラコサン酸などの直鎖飽和酸、イソドデカン酸、イソトリデカン酸、イソテトラデカン酸、イソペンタデカン酸、イソヘキサデカン酸、イソヘプタデカン酸、イソオクタデカン酸、イソノナデカン酸、イソエイコサン酸、2−エチルヘキサン酸、2−ブチルオクタン酸、2−ヘキシルデカン酸、2−オクチルドデカン酸、2−デシルテトラデカン酸、2−ドデシルヘキサデカン酸、2−テトラデシルオクタデカン酸、2−ヘキサデシルオクタデカン酸などの分岐酸、リンデル酸、ミリストレイン酸、パルミトレン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エライジン酸、ガドレン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、エルカ酸、ブラシジン酸、アラキドン酸などの直鎖不飽和脂肪酸、2−ヒドロキシドデカン酸、2−ヒドロキシトリデカン酸、2−ヒドロキシテトラデカン酸、2−ヒドロキシヘプタデカン酸、2−ヒドロキシヘキサデカン酸、2−ヒドロキシヘプタデカン酸、2−ヒドロキシオクタデカン酸、12−ヒドロキシオクタデカン酸、2−ヒドロキシノナデカン酸、2−ヒドロキシエイコサン酸、2−ヒドロキシドコサン酸、2−ヒドロキシテトラコサン酸、水素添加ロジン、ロジン、アビエチン酸、水素添加アビエチン酸、ブタン安息香酸などの環状酸が挙げられる。さらに、オレンジ油脂肪酸、アボガド油脂肪酸、マカデミアナッツ油脂肪酸、オリーブ油脂肪酸、水素添加大豆油脂肪酸、ホホバ油脂肪酸、ヤシ油脂肪酸、水素添加ヤシ油脂肪酸、パーム核油脂肪酸、ヒマシ油脂肪酸、サフラワー油脂肪酸、綿実油脂肪酸、牛脂脂肪酸、水素添加牛脂脂肪酸、ミンク油脂肪酸、酸化パラフィンワックス脂肪酸、酸化ペトロラタム脂肪酸等の天然由来脂肪酸等も炭素数8〜34のモノカルボン酸を含有するので、本発明で用いることができる。また、ジカルボン酸としては炭素数8〜36のものであれば特に限定されないが、植物油脂肪酸を重合して得られるダイマー酸や水素添加ダイマー酸を例示できる。
カルボン酸塩類としては、上記カルボン酸類のアルカリ金属(Li、Na、K)、アルカリ土類金属(Ca、Mg、Ba)、亜鉛、アルミニウム、鉄、アミンなどの塩類を用いることができる。これらの塩類のうちLi、Ca、Mg、Ba、Zn,Alの塩が好ましい。
アルコール類としては炭素数C10−30の脂肪族又は脂環族アルコール、例えばオレイルアルコール、イソステアリルアルコール、ステアリルアルコール、ロジンアルコールを例示できる。
油溶性スルホネート類としては、石油精製の副産物として得られる天然石油スルホネート、ジアルキルベンゼンやノニルナフタレンをスルホン化して得られる合成スルホネート、これらのスルホネートに炭酸カルシウムや炭酸バリウムを高度に分散させた高塩基性スルホネートを例示できる。これらの油溶性スルホネートの塩としてはナトリウム、カルシウム、マグネシウム、バリウム、アミン類などの塩類が市販されており、いずれも用いることができるがカルシウム塩は安定性、安全性で好ましい。
リン酸エステル類としては、リン酸と炭素数C8−20脂肪族アルコールとのエステルであるモノアルキルリン酸エステル、ジアルキルリン酸エステル、トリアルキルリン酸エステル、およびそれらの金属塩、アミン塩など、およびレシチンなどを例示できる。
ノニオン界面活性剤としては、HLB10以下のより好ましくはHLB8以下のノニオン界面活性剤が用いられる。このようなものとして、上記カルボン酸類と多価アルコールの部分エステルであるエステル型ノニオン界面活性剤(例えばオレイン酸モノグリセライド、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレエート、大豆脂肪酸トリメチロールプロパンエステル等)、ポリオキシアルカノールエーテル型ノニオン界面活性剤(例えばオレイルアルコールEO2モル付加物等)、ヒドロキシ脂肪酸のエステル型ノニオン界面活性剤(例えばステアリル乳酸エステル、オレイルリンゴ酸エステル等)などを例示できる。
上記の親油性界面活性剤の配合量は、適宜選択することができるが目安としての1〜50質量%程度が適当であり、5〜20質量%が好ましい。
【0024】
液状油としては、親油性界面活性剤を溶解あるいは微細に分散させることのできる、撥水性の液状オイルであればよく、炭化水素系のものとして、鉱物油、流動パラフィン、ポリオレフィン油などを、エステル系の液状油としては動植物油、例えば大豆油、菜種油、ホホバオイル、チキンオイル、メンヘーデン油などを例示できる。液状油の配合量は1〜50質量%程度が適当であり、5〜30質量%が好ましい。
【0025】
着色剤としては、従来より公知の有機系、無機系顔料ならびに染料等の各種着色剤を挙げることができる。有機系顔料としては、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、紺青等が例示できる。無機系顔料としては、チタン白、ベンガラ、バライト粉、白亜、酸化鉄粉、亜鉛華、鉛白、鉛丹、亜鉛末、亜酸化鉛等が例示できる。
【0026】
充填剤としては、従来より公知の有機系、無機系充填剤を挙げることができ、無機系充填剤としては、例えば、シリカ、アルミナ、ガラス粉、クレー、タルク、炭酸カルシウム、マイカ粉、二酸化チタン、ウォラスナイト、水酸化マグネシウム等が例示できる。
【0027】
添加剤としては、従来より公知のダレ止め剤、レベリング剤等を挙げる事ができる。ダレ止め剤としては有機ベントナイト、微粉末シリカ、ひまし油誘導体等を例示できる。レベリング剤としてはシリコーン系界面活性剤、シリコーンオイル等が例示できる。
【0028】
本発明の防汚塗料組成物の製造方法は、特に制限はないが、本発明の防汚塗料組成物の構成成分であるラノリン、ラノリン脂肪酸、ラノリンアルコール及びこれらの誘導体、熱可塑性樹脂、親油性界面活性剤、液状油、着色剤、充填剤、溶剤及び添加剤を必要に応じてニーダー等の攪拌機に仕込み、混合撹拌することにより得られる。熱可塑性樹脂など溶解に加温を要するものは、あらかじめ溶剤に溶解したものを用いてもよく、全量の混合撹拌時に加温してもよい。
【0029】
本発明の防汚塗料組成物は、船舶、水中構造物、漁具・魚網等に防汚塗膜を形成して、効果を発揮するが、通常、塗膜形成成分である上記のような防汚塗料組成物を、溶剤に溶解もしくは分散し塗料として使用される。溶剤としては、トルエン、キシレン、ガソリン、石油エーテル、テトラヒドロフラン、アセトン、MEK、MIBK、IPA、イソブタノール、酢酸エチル、水などが例示できる。
【0030】
本発明の防汚塗料組成物は、船舶や海水等の水中に長期間継続して静置される水中構造物(例えば、火力・原子力発電所の給排水路、除塵機、ポンプ類等の水中構造物;湾岸道路、海底トンネル、港湾設備、運河・水路等の海洋土木工事に使用される汚泥拡散防止膜等)、あるいは漁具・魚網(例えば、ロープ、漁網、浮き子、ブイ等)の表面に、常法に従って1回〜複数回塗布すれば、防汚性に優れ、適度の可撓性を有し防錆力に優れた防汚塗膜被覆の船舶、水中構造物、漁具・魚網が得られる。
【0031】
本発明の防汚塗料組成物は、船舶、水中構造物、漁具・魚網に対して塗布するものであるが、塗布される表面の素材に特に制限はなく、コンクリート、FRP、鋼鉄、木、ステンレス、アルミニウム合金などである場合にもこれらの素材表面に適用できる。
【0032】
本発明の防汚塗料組成物は、船舶、水中構造物、漁具・魚網の表面に直接塗布してもよく、または予め防食塗料、プライマー等の適切な下地材を塗布した後、塗布してもよい。さらには、既に従来の防汚塗料による塗装が行われ、あるいは本発明の防汚塗料組成物による塗装が行われている船舶、水中構造物、漁具・魚網、特に水中構造物の表面に、補修用として本発明の防汚塗料組成物を上塗りしてもよい。このようにして船舶、水中構造物、漁具・魚網の表面に形成された防汚塗膜の厚さは特に限定されないが、例えば、10〜2000μm/回程度でよい。
【0033】
本発明の防汚塗料組成物を船舶、水中構造物、漁具・魚網の表面に塗布してなる防汚塗膜は、アオサ、フジツボ、アオノリ、セルプラ、カキ、フサコケムシ等の貝類及び藻類等の水棲生物の付着を防止できるものである。
【実施例】
【0034】
以下、本発明につき実施例を用いてより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものでない。
【0035】
実施例1〜9、比較例1〜2<防汚塗料組成物配合塗料の調製>
表1、表2に示す成分をニーダーに仕込み、110℃まで加熱混合後、室温まで冷却して各防汚塗料組成物を配合した塗料を調製した(実施例1〜9、比較例1〜2)。このようにして得られた各防汚塗料組成物配合塗料は下記方法で鋼板又は魚網に塗布し、防汚性能試験に供した。
【0036】
<防汚塗料組成物の鋼板への塗装>
70×150×3.2mmの黒皮鋼板を海辺のスプラッシュゾーンに暴露し、層状錆、こぶ錆等を発生させた錆鋼板に、スクレーパーを用いて軽く擦って、緩く結合している浮き錆を取り除いた。ついで表面を水道水で掛け洗浄を行い、風乾した。この錆鋼板にエアレススプレーALS−431(アネスト岩田(株)製
)にて各防汚塗料組成物配合塗料をWet500μmの膜厚で塗布を行い、風乾したのち防汚性能試験に供した。
<防汚塗料組成物の魚網への塗装>
各防汚塗料組成物配合塗料にポリエチレン製無結節網(7節、400デニール/50本)を浸漬塗布し、風乾したのち防汚性能試験に供した。
【0037】
<塗膜の防汚性能試験>
鹿児島県指宿市山川漁業港内の海中に上記で作製した鋼板及び魚網を浸漬し、12ヵ月経過後の試験片の海中生物付着面積百分率を目視観察により評価した。
【0038】
その結果を表1、表2に示す。本発明のラノリン系化合物を含む防汚塗料組成物(実施例1〜9)はラノリン化合物を含まない同系統の塗料組成物(比較例1)および塗装なし(比較例3)と比べ、防汚効果が格段に優っていることがわかった。なお、比較例2は錫系防汚塗料であり、本発明の防汚塗料組成物と同等の良好な防汚性を示したが、海洋生物付着忌避剤を含有しており、安全性に問題がある。これらの結果から、ラノリン、ラノリン脂肪酸、ラノリンアルコール及びこれらの誘導体を含み、実質的に海洋生物付着忌避剤を含有しない防汚塗料組成物によって形成される防汚塗膜は、鉄板、魚網に対して、優れた防汚性を発揮し、高い安全性をもつことが示された。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
防汚塗料組成物の構成成分として、ラノリン、ラノリン脂肪酸、ラノリンアルコール及びこれらの誘導体から選ばれる1種又は2種以上を含み、海洋生物付着忌避剤を実質的に含有しないことを特徴とする防汚塗料組成物。
【請求項2】
ラノリン、ラノリン脂肪酸、ラノリンアルコール及びこれらの誘導体から選ばれる1種又は2種以上が5〜100質量%含まれていることを特徴とする請求項1に記載の防汚塗料組成物。
【請求項3】
ラノリン、ラノリン脂肪酸、ラノリンアルコール及びこれらの誘導体がラノリン脂肪酸の金属石鹸であることを特徴とする請求項1又は2に記載の防汚塗料組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の防汚塗料組成物によって形成される防汚塗膜で、船舶または水中構造物の表面を被覆することを特徴とする船舶または水中構造物の防汚方法
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の防汚塗料組成物によって形成される防汚塗膜で、漁具または魚網の表面を被覆することを特徴とする漁具または魚網の防汚方法。


【公開番号】特開2010−90246(P2010−90246A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−260878(P2008−260878)
【出願日】平成20年10月7日(2008.10.7)
【出願人】(000231497)日本精化株式会社 (60)
【出願人】(503413330)マリンクラフト工業株式会社 (2)
【Fターム(参考)】