防汚塗料組成物並びに該塗料組成物が塗布された漁網、漁網用具及び水中構築物
【課題】フジツボやセルプラ等の動物類やヒドロ虫等の腔腸動物の活性が強い海域においても、長期間防汚効果を発揮することができる防汚塗料組成物を提供する。
【解決手段】(A)二価の銅を含む銅ガラス100重量部、(B)金属ピリチオン類1〜300重量部、及び(C)酸化チタン1〜500重量部を含有する防汚塗料組成物を用いて、漁網、漁網用具及び水中構築物の表面に防汚皮膜を形成する。
【解決手段】(A)二価の銅を含む銅ガラス100重量部、(B)金属ピリチオン類1〜300重量部、及び(C)酸化チタン1〜500重量部を含有する防汚塗料組成物を用いて、漁網、漁網用具及び水中構築物の表面に防汚皮膜を形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、養殖用または定置網用の漁網、これらに使用される浮き子やロープなどの漁網用具(以下、これらを併せて魚網類という場合がある)および発電所の冷却水導管などの水中構築物などに水棲汚損生物が付着するのを長期にわたって防止するための防汚塗料組成物並びに該防汚塗料組成物が塗布された漁網類および水中構築物に関する。
【背景技術】
【0002】
漁網類及び水中構築物などは、海中に長期間設置されるため、防汚塗料組成物を塗布せずに使用すると、海藻類、フジツボ、セルプラ、コケムシ、軟体動物類などの種々の水棲汚損生物が付着する。これにより、漁網の内側と外側間での海水の往来が悪くなり、酸素欠乏により養殖魚が大量に死んだり、伝染病が発生して出荷できなくなったりするなどの大きな損害が生じる。また、養殖網や定置網などに付着生物が付着すると網が重くなり、網の沈下により魚が逃げたり、網自体が流出したりという問題もある。そのため頻繁に網替えが要求され、それらの保守に多大の労力と費用を費やさなければならないという問題がある。
【0003】
これらの水棲汚損生物の付着防止等を目的として、漁網類及び水中構築物には、種々の防汚塗料組成物の塗布が広く行われてきた。それらの防汚塗料組成物の中でも、特に、亜酸化銅、銅ガラス及び銅ピリチオンなどの銅系薬剤を含有した防汚塗料組成物が、イガイ等の貝類、フジツボおよびセルプラなどの付着防止に一定の効果を示すため、広く用いられてきた。
【0004】
例えば、フジツボやセルプラ等の動物類やヒドロ虫等の腔腸動物に対して優れた防汚塗料組成物として、亜酸化銅と特定のポリエーテル変性シリコーンオイルを配合した防汚剤組成物が提案されている(特許文献1)。また、亜酸化銅と特定のポリエーテル変性シリコーンオイルに加え、銅ピリチオン配合した防汚塗料組成物も提案されている(特許文献2)。
【0005】
しかしながら、これらの防汚塗料組成物に用いられている亜酸化銅は、水に溶けにくく、イオン化しにくいため、水棲汚損生物に対する十分な忌避効果を発揮できず、十分な防汚効果を発揮するものではなかった。
【0006】
また、亜酸化銅の代わりに一価の銅を含む溶解性銅ガラスを用い、金属ピリチオン類と併用することを特徴とする防汚塗料組成物が提案されている(特許文献3)。しかし、この防汚塗料組成物に用いられる一価の銅を含む溶解性銅ガラスは、亜酸化銅に比べると銅イオンの溶出量は高いものの未だ水棲汚損生物に対する十分な忌避効果を発揮するものではなく、市場が満足するものではなかった。
【0007】
さらに、2価の銅を含む銅ガラスを含有する防汚塗料組成物の提案もされている(特許文献4)。しかし、該防汚塗料組成物は、水棲汚損生物に対する忌避効果が未だ十分ではなかった。
【0008】
そのため、塗膜物性が良く漁網塗布時の作業性に優れ、フジツボやセルプラ等の動物類やヒドロ虫等の腔腸動物の活性が強い海域において、長期間防汚効果を発揮できる漁網用防汚塗料組成物の開発が切望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平8−252533号公報
【特許文献2】特開2002−265849号公報
【特許文献3】特開2000−264804号公報
【特許文献4】特開2004−203774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、フジツボやセルプラ等の動物類やヒドロ虫等の腔腸動物の活性が強い海域においても、長期間防汚効果を発揮することができる防汚塗料組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、(A)二価の銅を含む銅ガラス、(B)金属ピリチオン類、及び(C)酸化チタンを含有する防汚塗料組成物が提供される。
【0012】
本発明者らは、長期間防汚効果を発揮することができる防汚塗料組成物を開発すべく鋭意検討を行っていたところ、防汚塗料組成物が(A)二価の銅を含む銅ガラス、(B)金属ピリチオン類、及び(C)酸化チタンの三成分を含有する場合、極めて優れた長期防汚性を発揮することを見出し、本発明の完成に到った。
【0013】
本発明の防汚塗料組成物が優れた長期防汚性を発揮する作用については明らかではないが、実験的には、二価の銅を含む銅ガラスのみを含むものや、二価の銅を含む銅ガラスと金属ピリチオン類を含むものは、防汚効果が長期間持続せず、上記三成分を含む場合に初めて優れた長期防汚性が発揮されることが分かった。防汚効果をもたらす有効成分は銅ガラスと金属ピリチオン類であることから、酸化チタンは銅ガラスと金属ピリチオン類の溶出速度を適度にコントロールして、長期間に渡ってこれらの有効成分を安定した速度で溶出させる役割を果たしていると推測される。
【0014】
なお、一価の銅を含む銅ガラスと金属ピリチオン類と酸化チタンの三成分を含有する塗料組成物や、亜酸化銅と金属ピリチオン類と酸化チタンの三成分を含有する塗料組成物の長期防汚性についても調べたが、何れも、本発明と比較すると長期防汚性が劣っていた。このことから、本発明によって発揮される極めて優れた長期防汚性は、防汚塗料組成物が(A)二価の銅を含む銅ガラス、(B)金属ピリチオン類、及び(C)酸化チタンの三成分を含有することによって初めて発揮されるものであることが明らかになり、本発明の完成に到った。
【発明の効果】
【0015】
本発明の防汚塗料組成物によれば、フジツボやセルプラ等の動物類やヒドロ虫等の腔腸動物の活性が強い海域においても、長期間防汚効果を発揮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の防汚塗料組成物は、(A)二価の銅を含む銅ガラス、(B)金属ピリチオン類、及び(C)酸化チタンを含有する。
【0017】
<銅ガラス(A)>
本発明に用いられる銅ガラス(A)は、二価の銅を含むガラスである。ガラスの組成は、適度な速度で溶解して銅を溶出させることができるものであれば、特に限定されないが、リン酸塩ガラス(P2O5を主体とするガラス)が好ましく、P2O5−Na2O−CuO系ガラスがさらに好ましい。リン酸塩ガラスは、シリカガラスに比べてガラスの溶解量に対する銅の溶出量を多くすることができ、かつ、安定した溶出性能が得やすい。従って、二価の銅を含むリン酸塩ガラスを用いて塗料組成物を作製した場合に、本発明の効果はよりよく発揮される。また、Na2Oはリン酸のリンと酸素の結合を分断する性質を有しているので、Na2Oを含有させることにより、ガラス成分が水に溶解しやすい溶解性ガラスとなる。P2O5、Na2O、及びCuOの含有量は特に限定されない。CuOの含有量は、25〜40モル%であることが好ましく、30〜40モル%であることがさらに好ましい。この程度の含有量の場合に、Cuが安定して適度に溶出されやすいからである。P2O5とNa2Oのモル比率は、実質的に同じ(つまり、P2O5/Na2O=0.8〜1.2)であってもよく、異なっていてもよい。ガラスの具体的な組成(モル比)は、例えば、P2O5/Na2O/CuO=35/35/30又はP2O5/Na2O/CuO=30/30/40である。
【0018】
前記銅ガラス(A)は、リン酸ナトリウム、酸化銅(II)などの組成原料を調合、混合して、1000〜1200℃で30分〜2時間溶融し、その溶融したガラスを鉄板上に流し出し、放冷後、遊星ボールミルなどで、にて1〜100μm程度に粉砕することにより製造できる。
【0019】
前記銅ガラスAの含有量は、特に限定されないが、固形分換算で、本発明の組成物の固形分中、通常0.1〜40質量%、好ましくは1〜20質量%である。
【0020】
<金属ピリチオン類(B)>
本発明に用いられる金属ピリチオン類(B)としては、ビス(2−スルフィドピリジン−1−オラト)銅(銅ピリチオン)、ビス(2−スルフィドピリジン−1−オラト)亜鉛(亜鉛ピリチオン)、(2−スルフィドピリジン−1−オラト)ナトリウム(ナトリウムピリチオン)などが挙げられ、このうち、金属ビスピリチオン類(銅ピリチオン、亜鉛ピリチオンなどの二価の金属のピリチオン)が好ましく、銅ピリチオンが特に好ましい。金属ピリチオン類は、市販品を用いることができる。市販品としては、例えば、Copper Omadine Powder、Zinc Omadine Powder(いずれもアーチ・ケミカル・ジャパン(株)製)などが挙げられる。
【0021】
前記金属ピリチオン類(B)の含有量は、特に限定されないが、固形分換算で、前記銅ガラス(A)100質量部に対して、前記金属ビスピリチオン類を1〜300質量部、好ましくは25〜150質量部である。このような範囲にあると、フジツボやセルプラ等の動物類やヒドロ虫等の腔腸動物などへの防汚効果が特に優れる。
【0022】
<酸化チタン(C)>
本発明に用いられる酸化チタン(C)とは、ルチル型、アナターゼ型又はブルカイト型などの酸化チタンが挙げられ、これらの酸化チタンは、単独で用いてもよく、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
前記酸化チタンの中では、いわゆるチョーキング現象(塗装表面が暴露状態の際に、紫外線、熱、水分、風等により塗装面の表面樹脂が劣化し、塗料の色成分の顔料がチョークのような粉状になって顕れる現象や状態をいう)を起こしにくいという点で、ルチル型の酸化チタンを用いるのが特に好ましい。
本発明の酸化チタンとしては、平均粒子径が0.001μm〜10μmのものが好ましく、特に0.1〜3μmのものが好ましい。
【0024】
なお、前記酸化チタンの平均粒子径は、レーザー回析・散乱法により測定される体積平均径から算出されたメジアン径(50%累計粒子径)の値をいう。具体的には、日機装(株)製のレーザー回析・散乱法粒度分析計、光学装置MT3300を用いて、粒子径測定用分散媒としてメタノールを用い、測定温度25℃で測定した値をいう。
【0025】
本発明の酸化チタンとしては、吸油量が1ml/100g〜1000ml/100gのものが好ましく、特に3ml/100g〜50ml/100gのものが好ましい。
【0026】
本発明の酸化チタンは、表面処理されていてもよく、例えば、Al、Si、Zr、Sb、CrおよびTiの1種以上の元素の酸化物や有機ケイ素化合物からなる被膜で表面処理されたものが使用できる。
酸化チタンとしては、市販品を用いることができる。市販品としては、例えば、「FR−41」(古河ケミカルズ(株)製)、「R−5N」(堺化学工業(株)製)、「R−820」「R−830」(石原産業(株)製)などが挙げられる。
【0027】
前記酸化チタン(C)の含有量は、特に限定されないが、固形分換算で、前記銅ガラス(A)100質量部に対して、前記酸化チタン(C)を1〜500質量部、好ましくは50〜300質量部である。このような範囲にある場合に、本発明の効果がより良く発揮される。
【0028】
<その他の添加成分>
本発明に用いられる防汚塗料組成物は、溶出助剤、展着樹脂、他の防汚薬剤、沈降防止剤、タレ止め剤、可塑剤、界面活性剤、消泡剤、染料、顔料、有機溶剤及び水等を、本発明の目的を損なわない範囲内で任意に、任意の配合割合で含有することができる。
【0029】
(溶出助剤)
溶出助剤としては、シリコーンオイル、エチレン・α−オレフィン共重合体、ポリブテン類、パラフィン類、ワセリン類、ジアルキルスルフィド化合物などが挙げられ、該溶出助剤を含有させることにより、塗膜の溶出速度を好適に抑制することができ、長期間、防汚効果を発揮させることができる。
溶出助剤の含有量は、特に限定されないが、固形分換算で、本発明の組成物の固形分中、通常0.1〜35質量%、好ましくは1〜30質量%である。
【0030】
前記シリコーンオイルとしては、例えば、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、メチルフェニルシロキサン−ジメチルシロキサン共重合体、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ポリエーテル変性ポリアルキル(メチル)シロキサン、ポリエステル変性ポリジメチルシロキサン、長鎖アルキル変性ポリジメチルシロキサン、アラルキル変性ポリジメチルシロキサン、ポリエーテル長鎖アルキルアラルキル変性ジメチルシリコーンオイル、フロロシリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、その他各種官能基による変性シリコーンオイル等が挙げられる。特に、親水親油バランス(HLB値)が0.5〜9のポリエーテル変性シリコーンオイルが好ましく、具体的には0.5〜9のポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン又はポリエーテル長鎖アルキルアラルキル変性ジメチルシリコーンオイルが望ましい。さらに好ましいものとして、親水親油バランス(HLB値)が1〜5の範囲にあるポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン又はポリエーテル長鎖アルキルアラルキル変性ジメチルシリコーンオイルが挙げられる。
本発明では、これらのシリコーンオイルを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
シリコーンオイルの粘度は、塗工性能および塗膜物性の観点から、1000ポイズ以下が好ましく、100ポイズ以下がより好ましい。
【0031】
前記エチレン・α−オレフィン共重合体としては、例えば、一般式(I):
【化1】
(式中、R1は炭素数1〜10の直鎖もしくは分枝鎖状のアルキル基を示し、x、yおよびpはそれぞれ同一又は異なって1以上の整数を示す)で表されるエチレン・α−オレフィン共重合体が挙げられる。
R1で表される炭素数1〜10の直鎖もしくは分枝鎖状のアルキル基としては、特に、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基等の炭素原子数1〜4のアルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0032】
一般式(I)で表されるエチレン・α−オレフィン共重合体は、エチレンとα−オレフィンとを共重合させることにより得られる共重合体である。前記エチレン・α−オレフィン共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体又はグラフト共重合体のいずれであってもよい。
前記エチレン・α−オレフィン共重合体としては市販品を用いることができる。市販品としては、例えば、ルーカントHC−10、ルーカントHC−20、ルーカントHC−40、ルーカントHC−100、ルーカントHC−150、ルーカントHC−600、ルーカントHC−2000(いずれも登録商標、三井化学(株)製)等が挙げられる。これらのエチレン・α−オレフィン共重合体は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
前記エチレン・α−オレフィン共重合体の数平均分子量(Mn)は、塗工性能および塗膜物性の観点から、10,000以下が好ましく、1,000〜3,000がより好ましい。前記エチレン・α−オレフィン共重合体は、0℃における粘度が20,000PaS以下のものが好ましく、500PaS以下のものがより好ましい。
【0034】
前記ポリブテン類としては、ポリブテン、ポリイソブテン等が挙げられる。ポリブテン類としては、市販品を用いることができる。市販品としては、例えば、ポリブテンLV−7、ポリブテンLV−10、ポリブテンLV−25、ポリブテンLV−50、ポリブテンLV−100、ポリブテンHV−35、ポリブテンHV−100、ポリブテンHV−300、ポリブテンHV−1900(いずれも日本石油化学(株)製);ポリブテン0H、ポリブテン5H、ポリブテン10H、ポリブテン300H、ポリブテン2000H、ポリブテン0R、ポリブテン15R、ポリブテン35R、ポリブテン100R、ポリブテン350R(いずれも出光石油化学株式会社製);ポリブテン0N、ポリブテン06N、ポリブテン3N、ポリブテン10SH、ポリブテン200N(いずれも日油(株)製)などが挙げられる。
【0035】
前記パラフィン類としては、例えば、n−パラフィン、固形パラフィン、流動パラフィン、塩素化パラフィン等が挙げられる。
【0036】
前記ワセリン類としては、例えば、白色ワセリン、黄色ワセリン等が挙げられる。
【0037】
前記ジアルキルスルフィド化合物としては、ジ−tert−ブチルデカスルフィド、ジペンチルテトラスルフィド、ジペンチルペンタスルフィド、ジペンチルデカスルフィド、ジオクチルテトラスルフィド、ジオクチルペンタスルフィド、ジノニルテトラスルフィド、ジノニルペンタスルフィド、ジ−tert−ノニルテトラスルフィド、ジ−tert−ノニルペンタスルフィド、ジデシルテトラスルフィド、ジドデシルテトラスルフィド、ジオクタデシルテトラスルフィド、ジノナデシルテトラスルフィド等が挙げられる。
【0038】
(展着樹脂)
展着樹脂としては、合成樹脂および天然樹脂が用いられ、展着樹脂を含有させることにより、塗膜形成における作業性が向上する。また、被塗膜形成物との密着性に優れた塗膜を形成することができる。
前期合成樹脂としては、例えば、ビニル樹脂、アルキッド樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、合成ゴム、塩素化ポリエチレン等を使用できる。前記ビニル樹脂としては、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−アルキルビニルエーテル共重合体、塩化ビニル樹脂等を例示できる。
【0039】
また、前記天然樹脂としては、例えば、ウッドロジン、ガムロジン、変性ロジン等が挙げられる。
【0040】
前記展着樹脂としては、特に、アクリル樹脂を含有することが好ましい。
前記展着樹脂のガラス転移温度(Tg)は、−100〜100℃が好ましく、−50〜80℃がより好ましい。前記展着樹脂の重量平均分子量(Mw)は、5,000〜1,000,000が好ましく、10,000〜500,000がより好ましい。前記展着樹脂の含有量は、特に限定されないが、固形分換算で、本発明の組成物の固形分中、通常0.1〜80質量%、好ましくは1〜45質量%である。
【0041】
(他の防汚薬剤)
本発明に用いられる二価の銅を含む銅ガラス(A)や金属ピリチオン類(B)以外の防汚薬剤として、以下の防汚薬剤を含有させることができる。これにより、形成した塗膜がさらに好適な防汚効果を発揮させることができる。
【0042】
他の防汚薬剤としては、例えば、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド等のテトラアルキルチウラムジスルフィド化合物等が挙げられる。その他、クロロメチル−n−オクチルジスルフィド、N,N−ジメチルジクロロフェニル尿素、N−(フルオロジクロロメチルチオ)フタルイミド、N,N'−ジメチル−N'−フェニル−(N−フルオロジクロロメチルチオ)スルファミド、N,N'−ジメチル−N'−トリル−(N−フルオロジクロロメチルチオ)スルファミド、4,5−ジクロロ−2n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2,3−ジクロロ−N−(2,6−ジエチルフェニル)マレイミド、2,3−ジクロロ−N−(2'−エチル、6'−メチルフェニル)マレイミド、3−ベンゾ[b]チエン−2−イル−5,6−ジヒドロ−1,4,2−オキサチアジン−4−オキサイド、2−(p−クロロフェニル)−3−シアノ−4−ブロモ−5−トリフルオロメチルピロール、テトラクロロイソフタロニトリル等を使用することもできる。
【0043】
前記銅ガラス(A)や金属ピリチオン類(B)と併用する他の防汚薬剤として、特に、4,5−ジクロロ−2n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オンが好ましい。
【0044】
前記他の防汚薬剤の含有量は、特に限定されないが、特に限定されないが、固形分換算で、本発明の組成物の固形分中、通常0.1〜80質量%、好ましくは1〜50質量%である。
【0045】
(沈降防止剤・タレ止め剤)
沈降防止剤・タレ止め剤としては、例えば、ポリエチレンワックス、水添ひまし油ワックス系、ポリアマイドワックス系、アマイドワックス系、酸化ポリエチレン系ワックスなど挙げられ、好ましくは、水添ひまし油ワックス系、ポリアマイドワックス系、アマイドワックス系、酸化ポリエチレン系ワックスである。これら沈降防止剤・タレ止め剤は、単独で用いてもよく、あるいは2種以上の組み合わせて用いてもよい。
【0046】
(可塑剤)
可塑剤としては、例えば、フタル酸エステル、アジピン酸エステル、リン酸エステルなどが挙げられる。前記フタル酸エステルとしては、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジ2−エチルヘキシルが挙げられ、前記アジピン酸エステルとしては、アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸2−エチルヘキシルが挙げられ、前記リン酸エステルとしては、リン酸トリクレジル、リン酸トリオクチルなどが挙げられる。 これらの可塑剤は、単独で用いてもよく、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
(有機溶剤)
有機溶剤としては、例えば、キシレン、トルエン、ソルベッソ100、ソルベッソ150(いずれも登録商標、エクソンモービル製)等の芳香族系溶剤;イソブチルメチルケトン(MIBK)、ジイソブチルケトン(DIBK)等のケトン系溶剤;酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸イソアミル等のエステル系溶剤が使用できる。
また、低毒・低臭・低環境負荷を考慮した有機溶剤も使用することができ、例えば、ペガソールAN45、ペガソールAS100(いずれも登録商標、エクソンモービル製)、LAWS、HAWS(いずれもシェルケミカルズ製)等の芳香族・脂環式・脂肪族炭化水素混合溶剤;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のグリコール系エステル溶剤;エチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、リカソルブ(登録商標)900(C9芳香族水添体)、リカソルブ(登録商標)1000(C10芳香族水添体)等の脂環式炭化水素系溶剤;シェルゾールD40(登録商標、シェルケミカルズ製)、エクソールD30、エクソールD40(いずれも登録商標、エクソンモービル製)等の脂環式・脂肪族炭化水素混合溶剤;アイソパーG、アイソパーH(いずれも登録商標、エクソンモービル製)等の脂肪族炭化水素混合溶剤なども使用することができる。
これら有機溶剤は、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0048】
本発明の組成物は、種々の漁業具、水中構造物等の防汚塗膜の形成に使用できる。特に、本発明の組成物は、漁網用防汚塗料組成物として好適に使用できる。
【0049】
本発明の漁網防汚塗料組成物は、上記[A]〜[C]成分、ならびに必要に応じて上記各成分を混合することにより調製できる。混合する際の各成分の添加量については、上記配合量および含有量となるよう適宜調整すればよい。各成分を混合する順序については特に制限されない。混合方法については、撹拌装置を用いて混合する等、公知の方法を採用すればよい。
【0050】
漁網防汚塗膜の形成方法、防汚塗膜、および塗装物
本発明の漁網防汚塗膜の形成方法は、上記漁網防汚塗料組成物を用いて被塗膜形成物の表面に防汚塗膜を形成することを特徴とする。本発明の形成方法により得られる防汚塗膜は、表面から徐々に溶解し塗膜表面が常に更新されることにより、水棲汚損生物の付着防止を図ることができる。また、塗膜を溶解させた後、上記組成物を上塗りすることにより、継続的に防汚効果を発揮することができる。
【0051】
被塗膜形成物としては、例えば、漁業具、水中構造物等が挙げられる。漁業具としては、例えば、養殖用又は定置用の漁網、該漁網に使用される浮き子、ロープ等の漁網付属具等が挙げられる。水中構造物としては、例えば、発電所導水管、橋梁、港湾設備等が挙げられる。
【0052】
本発明の漁網防汚塗膜は、上記漁網防汚塗料組成物を被塗膜形成物の表面(全体又は一部)に塗布することにより形成できる。
【0053】
塗布方法としては、例えば、ハケ塗り法、スプレー法、ディッピング法、フローコート法、スピンコート法等が挙げられる。これらは、1種又は2種以上を併用して行ってもよい。例えば、本発明の漁網防汚塗料組成物を漁網に塗布する場合、塗布方法としてはディッピング法を採用することが好ましい。
【0054】
塗布後、乾燥させる。乾燥温度は、室温でよい。乾燥時間は、漁網防汚塗料の付着量に応じて適宜設定すればよい。
【0055】
前記漁網防汚塗料の付着量は、被塗膜形成物の種類等に応じて適宜設定すればよい。例えば、被塗膜形成物が漁網の場合、乾燥塗膜の付着量が漁網100質量部に対し、好ましくは1〜35質量部、さらに好ましくは4〜20質量部である。
【0056】
本発明の塗装物は、前記防汚塗膜を表面に有する。本発明の塗装物は、前記防汚塗膜を表面の全体に有していてもよく、一部に有していてもよい。
【実施例】
【0057】
以下に、実施例等を示し本発明の特徴とするところをより一層明確とする。ただし、本発明はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0058】
比較製造例1(1価の銅を含む銅ガラスH−1の製造)
下記組成比のガラス成分材料と銅化合物とを均一に混合し、1100〜1300℃のガス炉を用いて60分間溶融した後、急冷して一価の銅を含有する溶解性ガラスを製造し、その後、前記溶解性ガラスをボールミルで粉砕して、1価の銅を含む銅ガラス粉末を得た。
【0059】
<組成>
SiO2:7.7質量部
Al2O3:0.1質量部
Na2O:5.9質量部
B2O3:28.8質量部
Cu2O:53.3質量部
ZnO:4.2質量部
【0060】
実施例1〜6及び比較例1〜8
表1記載の配合成分を表1記載の割合(質量%)で混合することにより、防汚塗料組成物を得た。
【0061】
商品名「PNU-40」:2価の銅を含む銅ガラス(P2O5/Na2O/CuO=30/30/40(モル%)、平均粒子径3μ、東洋ガラス(株)製)
商品名「PNU-30」:2価の銅を含む銅ガラス(P2O5/Na2O/CuO=35/35/30(モル%)、平均粒子径3μ、東洋ガラス(株)製)
商品名「NC−301」:亜酸化銅(日新ケムコ(株)製)
商品名「Copper Omadine Powder」:ビス(2―スルフィドピリジン−1―オラト)銅(アーチ・ケミカル・ジャパン(株)製)
商品名「Zinc Omadine Powder」:ビス(2―スルフィドピリジン−1―オラト)亜鉛(アーチ・ケミカル・ジャパン(株)製)
商品名「FR−41」:酸化チタン(ルチル型酸化チタン、古河ケミカルズ(株)製)
商品名「酸化亜鉛 2種」:酸化亜鉛(正同化学工業(株)製)
商品名「チヌビンP」:2−(5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール(長瀬産業(株)製)
商品名「ニットールHN」:アクリル樹脂キシレン溶液(固形分40%、Tg=約20℃、Mw=約230000、日東化成(株)製)
商品名「KF−6020」:ポリエーテル変性ジメチルシリコーンオイル(信越化学工業(株)製)
商品名「X−22−2516」:ポリエーテル長鎖アルキルアラルキル変性ジメチルシリコーンオイル(信越化学工業(株)製)
商品名「ルーカントHC−40」:エチレン・α−オレフィン共重合体(三井化学(株)製)
商品名「ポリブテン0N」:ポリブテン(日本油指(株)製)
商品名「ディスパロン4200−20」:酸化ポリエチレン系ワックス(固形分20%、楠本化成(株)製)
商品名「デシスパロンA630−20X」:ポリアマイド系ワックス(固形分20%、楠本化成(株)製)
キシレン:キシダ化学(株)製、1級試薬
【0062】
【表1】
【0063】
試験例1(防汚効果確認試験)
ポリエチレン製の漁網(400デニール、40本、8節)を、実施例1〜6及び比較例1〜8で得られた各防汚塗料組成物に、乾燥塗膜の付着量が漁網100質量部に対し、15質量部になるように浸漬塗布し乾燥させた。塗膜を形成した漁網を40×60cmSUSの枠に固定し、水棲汚損生物の活性の強い海域である三重県尾鷲の筏にて喫水部に浸漬し、その防汚評価を12ヶ月間にわたって定期的に観察した。
【0064】
評価は以下の方法で行った。なお、水棲生物の付着面積(%)は、試験期間(2、4、6、8、10又は12ヶ月)後に上から漁網の写真を撮影し、漁網における水棲生物の占有面積を目視で評価した。
◎:水棲生物の付着面積が0%
○:水棲生物の付着面積が0超10%未満
△:水棲生物の付着面積が10以上50%未満
×:水棲生物の付着面積が50%以上
結果を表2に示す。
【0065】
【表2】
【0066】
表2から、本発明の実施例1〜6の防汚塗料組成物は、比較例1〜8の防汚塗料組成物の何れよりも長期防汚性に優れていることが分かる。
実施例1〜6は、二価の銅を含む銅ガラス、金属ピリチオン類、及び酸化チタンの三成分を含有するものである。これに対し、比較例1は、二価の銅を含む銅ガラスのみを含有し、比較例2及び3は、二価の銅を含む銅ガラスと金属ピリチオン類のみを含有し、比較例4は、二価の銅を含む銅ガラスと酸化チタンを含有するものであるが、比較例1〜4の長期防汚性は、実施例1〜6よりもはるかに低かった。この結果は、防汚塗料組成物が優れた長期防汚性を発揮するために上記三成分を全て含有することが必須であり、三成分のうちの一つでも欠けると長期防汚性が極端に低下することが分かった。
また、比較例5〜8では、一価の銅を含む銅ガラス、金属ピリチオン類、及び酸化チタンの三成分、又は亜酸化銅、金属ピリチオン類、及び酸化チタンの三成分を含有する防汚塗料組成物の長期防汚性を調べたが、比較例5〜8の何れにおいても、長期防汚性は、実施例1〜6よりもはるかに低かった。これにより、金属ピリチオン類及び酸化チタンの添加によって長期防汚性が大きく向上するという効果は、二価の銅を含む銅ガラスに特有のものであって、一価の銅を含む銅ガラスや亜酸化銅を用いた場合には、同様の結果が得られないということが分かった。
さらに、銅ピリチオンを含有する実施例1、2及び5は、亜鉛ピリチオンを含有する実施例3,4及び6よりも長期防汚性が優れていることが分かった。
【技術分野】
【0001】
本発明は、養殖用または定置網用の漁網、これらに使用される浮き子やロープなどの漁網用具(以下、これらを併せて魚網類という場合がある)および発電所の冷却水導管などの水中構築物などに水棲汚損生物が付着するのを長期にわたって防止するための防汚塗料組成物並びに該防汚塗料組成物が塗布された漁網類および水中構築物に関する。
【背景技術】
【0002】
漁網類及び水中構築物などは、海中に長期間設置されるため、防汚塗料組成物を塗布せずに使用すると、海藻類、フジツボ、セルプラ、コケムシ、軟体動物類などの種々の水棲汚損生物が付着する。これにより、漁網の内側と外側間での海水の往来が悪くなり、酸素欠乏により養殖魚が大量に死んだり、伝染病が発生して出荷できなくなったりするなどの大きな損害が生じる。また、養殖網や定置網などに付着生物が付着すると網が重くなり、網の沈下により魚が逃げたり、網自体が流出したりという問題もある。そのため頻繁に網替えが要求され、それらの保守に多大の労力と費用を費やさなければならないという問題がある。
【0003】
これらの水棲汚損生物の付着防止等を目的として、漁網類及び水中構築物には、種々の防汚塗料組成物の塗布が広く行われてきた。それらの防汚塗料組成物の中でも、特に、亜酸化銅、銅ガラス及び銅ピリチオンなどの銅系薬剤を含有した防汚塗料組成物が、イガイ等の貝類、フジツボおよびセルプラなどの付着防止に一定の効果を示すため、広く用いられてきた。
【0004】
例えば、フジツボやセルプラ等の動物類やヒドロ虫等の腔腸動物に対して優れた防汚塗料組成物として、亜酸化銅と特定のポリエーテル変性シリコーンオイルを配合した防汚剤組成物が提案されている(特許文献1)。また、亜酸化銅と特定のポリエーテル変性シリコーンオイルに加え、銅ピリチオン配合した防汚塗料組成物も提案されている(特許文献2)。
【0005】
しかしながら、これらの防汚塗料組成物に用いられている亜酸化銅は、水に溶けにくく、イオン化しにくいため、水棲汚損生物に対する十分な忌避効果を発揮できず、十分な防汚効果を発揮するものではなかった。
【0006】
また、亜酸化銅の代わりに一価の銅を含む溶解性銅ガラスを用い、金属ピリチオン類と併用することを特徴とする防汚塗料組成物が提案されている(特許文献3)。しかし、この防汚塗料組成物に用いられる一価の銅を含む溶解性銅ガラスは、亜酸化銅に比べると銅イオンの溶出量は高いものの未だ水棲汚損生物に対する十分な忌避効果を発揮するものではなく、市場が満足するものではなかった。
【0007】
さらに、2価の銅を含む銅ガラスを含有する防汚塗料組成物の提案もされている(特許文献4)。しかし、該防汚塗料組成物は、水棲汚損生物に対する忌避効果が未だ十分ではなかった。
【0008】
そのため、塗膜物性が良く漁網塗布時の作業性に優れ、フジツボやセルプラ等の動物類やヒドロ虫等の腔腸動物の活性が強い海域において、長期間防汚効果を発揮できる漁網用防汚塗料組成物の開発が切望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平8−252533号公報
【特許文献2】特開2002−265849号公報
【特許文献3】特開2000−264804号公報
【特許文献4】特開2004−203774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、フジツボやセルプラ等の動物類やヒドロ虫等の腔腸動物の活性が強い海域においても、長期間防汚効果を発揮することができる防汚塗料組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、(A)二価の銅を含む銅ガラス、(B)金属ピリチオン類、及び(C)酸化チタンを含有する防汚塗料組成物が提供される。
【0012】
本発明者らは、長期間防汚効果を発揮することができる防汚塗料組成物を開発すべく鋭意検討を行っていたところ、防汚塗料組成物が(A)二価の銅を含む銅ガラス、(B)金属ピリチオン類、及び(C)酸化チタンの三成分を含有する場合、極めて優れた長期防汚性を発揮することを見出し、本発明の完成に到った。
【0013】
本発明の防汚塗料組成物が優れた長期防汚性を発揮する作用については明らかではないが、実験的には、二価の銅を含む銅ガラスのみを含むものや、二価の銅を含む銅ガラスと金属ピリチオン類を含むものは、防汚効果が長期間持続せず、上記三成分を含む場合に初めて優れた長期防汚性が発揮されることが分かった。防汚効果をもたらす有効成分は銅ガラスと金属ピリチオン類であることから、酸化チタンは銅ガラスと金属ピリチオン類の溶出速度を適度にコントロールして、長期間に渡ってこれらの有効成分を安定した速度で溶出させる役割を果たしていると推測される。
【0014】
なお、一価の銅を含む銅ガラスと金属ピリチオン類と酸化チタンの三成分を含有する塗料組成物や、亜酸化銅と金属ピリチオン類と酸化チタンの三成分を含有する塗料組成物の長期防汚性についても調べたが、何れも、本発明と比較すると長期防汚性が劣っていた。このことから、本発明によって発揮される極めて優れた長期防汚性は、防汚塗料組成物が(A)二価の銅を含む銅ガラス、(B)金属ピリチオン類、及び(C)酸化チタンの三成分を含有することによって初めて発揮されるものであることが明らかになり、本発明の完成に到った。
【発明の効果】
【0015】
本発明の防汚塗料組成物によれば、フジツボやセルプラ等の動物類やヒドロ虫等の腔腸動物の活性が強い海域においても、長期間防汚効果を発揮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の防汚塗料組成物は、(A)二価の銅を含む銅ガラス、(B)金属ピリチオン類、及び(C)酸化チタンを含有する。
【0017】
<銅ガラス(A)>
本発明に用いられる銅ガラス(A)は、二価の銅を含むガラスである。ガラスの組成は、適度な速度で溶解して銅を溶出させることができるものであれば、特に限定されないが、リン酸塩ガラス(P2O5を主体とするガラス)が好ましく、P2O5−Na2O−CuO系ガラスがさらに好ましい。リン酸塩ガラスは、シリカガラスに比べてガラスの溶解量に対する銅の溶出量を多くすることができ、かつ、安定した溶出性能が得やすい。従って、二価の銅を含むリン酸塩ガラスを用いて塗料組成物を作製した場合に、本発明の効果はよりよく発揮される。また、Na2Oはリン酸のリンと酸素の結合を分断する性質を有しているので、Na2Oを含有させることにより、ガラス成分が水に溶解しやすい溶解性ガラスとなる。P2O5、Na2O、及びCuOの含有量は特に限定されない。CuOの含有量は、25〜40モル%であることが好ましく、30〜40モル%であることがさらに好ましい。この程度の含有量の場合に、Cuが安定して適度に溶出されやすいからである。P2O5とNa2Oのモル比率は、実質的に同じ(つまり、P2O5/Na2O=0.8〜1.2)であってもよく、異なっていてもよい。ガラスの具体的な組成(モル比)は、例えば、P2O5/Na2O/CuO=35/35/30又はP2O5/Na2O/CuO=30/30/40である。
【0018】
前記銅ガラス(A)は、リン酸ナトリウム、酸化銅(II)などの組成原料を調合、混合して、1000〜1200℃で30分〜2時間溶融し、その溶融したガラスを鉄板上に流し出し、放冷後、遊星ボールミルなどで、にて1〜100μm程度に粉砕することにより製造できる。
【0019】
前記銅ガラスAの含有量は、特に限定されないが、固形分換算で、本発明の組成物の固形分中、通常0.1〜40質量%、好ましくは1〜20質量%である。
【0020】
<金属ピリチオン類(B)>
本発明に用いられる金属ピリチオン類(B)としては、ビス(2−スルフィドピリジン−1−オラト)銅(銅ピリチオン)、ビス(2−スルフィドピリジン−1−オラト)亜鉛(亜鉛ピリチオン)、(2−スルフィドピリジン−1−オラト)ナトリウム(ナトリウムピリチオン)などが挙げられ、このうち、金属ビスピリチオン類(銅ピリチオン、亜鉛ピリチオンなどの二価の金属のピリチオン)が好ましく、銅ピリチオンが特に好ましい。金属ピリチオン類は、市販品を用いることができる。市販品としては、例えば、Copper Omadine Powder、Zinc Omadine Powder(いずれもアーチ・ケミカル・ジャパン(株)製)などが挙げられる。
【0021】
前記金属ピリチオン類(B)の含有量は、特に限定されないが、固形分換算で、前記銅ガラス(A)100質量部に対して、前記金属ビスピリチオン類を1〜300質量部、好ましくは25〜150質量部である。このような範囲にあると、フジツボやセルプラ等の動物類やヒドロ虫等の腔腸動物などへの防汚効果が特に優れる。
【0022】
<酸化チタン(C)>
本発明に用いられる酸化チタン(C)とは、ルチル型、アナターゼ型又はブルカイト型などの酸化チタンが挙げられ、これらの酸化チタンは、単独で用いてもよく、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
前記酸化チタンの中では、いわゆるチョーキング現象(塗装表面が暴露状態の際に、紫外線、熱、水分、風等により塗装面の表面樹脂が劣化し、塗料の色成分の顔料がチョークのような粉状になって顕れる現象や状態をいう)を起こしにくいという点で、ルチル型の酸化チタンを用いるのが特に好ましい。
本発明の酸化チタンとしては、平均粒子径が0.001μm〜10μmのものが好ましく、特に0.1〜3μmのものが好ましい。
【0024】
なお、前記酸化チタンの平均粒子径は、レーザー回析・散乱法により測定される体積平均径から算出されたメジアン径(50%累計粒子径)の値をいう。具体的には、日機装(株)製のレーザー回析・散乱法粒度分析計、光学装置MT3300を用いて、粒子径測定用分散媒としてメタノールを用い、測定温度25℃で測定した値をいう。
【0025】
本発明の酸化チタンとしては、吸油量が1ml/100g〜1000ml/100gのものが好ましく、特に3ml/100g〜50ml/100gのものが好ましい。
【0026】
本発明の酸化チタンは、表面処理されていてもよく、例えば、Al、Si、Zr、Sb、CrおよびTiの1種以上の元素の酸化物や有機ケイ素化合物からなる被膜で表面処理されたものが使用できる。
酸化チタンとしては、市販品を用いることができる。市販品としては、例えば、「FR−41」(古河ケミカルズ(株)製)、「R−5N」(堺化学工業(株)製)、「R−820」「R−830」(石原産業(株)製)などが挙げられる。
【0027】
前記酸化チタン(C)の含有量は、特に限定されないが、固形分換算で、前記銅ガラス(A)100質量部に対して、前記酸化チタン(C)を1〜500質量部、好ましくは50〜300質量部である。このような範囲にある場合に、本発明の効果がより良く発揮される。
【0028】
<その他の添加成分>
本発明に用いられる防汚塗料組成物は、溶出助剤、展着樹脂、他の防汚薬剤、沈降防止剤、タレ止め剤、可塑剤、界面活性剤、消泡剤、染料、顔料、有機溶剤及び水等を、本発明の目的を損なわない範囲内で任意に、任意の配合割合で含有することができる。
【0029】
(溶出助剤)
溶出助剤としては、シリコーンオイル、エチレン・α−オレフィン共重合体、ポリブテン類、パラフィン類、ワセリン類、ジアルキルスルフィド化合物などが挙げられ、該溶出助剤を含有させることにより、塗膜の溶出速度を好適に抑制することができ、長期間、防汚効果を発揮させることができる。
溶出助剤の含有量は、特に限定されないが、固形分換算で、本発明の組成物の固形分中、通常0.1〜35質量%、好ましくは1〜30質量%である。
【0030】
前記シリコーンオイルとしては、例えば、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、メチルフェニルシロキサン−ジメチルシロキサン共重合体、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ポリエーテル変性ポリアルキル(メチル)シロキサン、ポリエステル変性ポリジメチルシロキサン、長鎖アルキル変性ポリジメチルシロキサン、アラルキル変性ポリジメチルシロキサン、ポリエーテル長鎖アルキルアラルキル変性ジメチルシリコーンオイル、フロロシリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、その他各種官能基による変性シリコーンオイル等が挙げられる。特に、親水親油バランス(HLB値)が0.5〜9のポリエーテル変性シリコーンオイルが好ましく、具体的には0.5〜9のポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン又はポリエーテル長鎖アルキルアラルキル変性ジメチルシリコーンオイルが望ましい。さらに好ましいものとして、親水親油バランス(HLB値)が1〜5の範囲にあるポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン又はポリエーテル長鎖アルキルアラルキル変性ジメチルシリコーンオイルが挙げられる。
本発明では、これらのシリコーンオイルを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
シリコーンオイルの粘度は、塗工性能および塗膜物性の観点から、1000ポイズ以下が好ましく、100ポイズ以下がより好ましい。
【0031】
前記エチレン・α−オレフィン共重合体としては、例えば、一般式(I):
【化1】
(式中、R1は炭素数1〜10の直鎖もしくは分枝鎖状のアルキル基を示し、x、yおよびpはそれぞれ同一又は異なって1以上の整数を示す)で表されるエチレン・α−オレフィン共重合体が挙げられる。
R1で表される炭素数1〜10の直鎖もしくは分枝鎖状のアルキル基としては、特に、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基等の炭素原子数1〜4のアルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0032】
一般式(I)で表されるエチレン・α−オレフィン共重合体は、エチレンとα−オレフィンとを共重合させることにより得られる共重合体である。前記エチレン・α−オレフィン共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体又はグラフト共重合体のいずれであってもよい。
前記エチレン・α−オレフィン共重合体としては市販品を用いることができる。市販品としては、例えば、ルーカントHC−10、ルーカントHC−20、ルーカントHC−40、ルーカントHC−100、ルーカントHC−150、ルーカントHC−600、ルーカントHC−2000(いずれも登録商標、三井化学(株)製)等が挙げられる。これらのエチレン・α−オレフィン共重合体は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
前記エチレン・α−オレフィン共重合体の数平均分子量(Mn)は、塗工性能および塗膜物性の観点から、10,000以下が好ましく、1,000〜3,000がより好ましい。前記エチレン・α−オレフィン共重合体は、0℃における粘度が20,000PaS以下のものが好ましく、500PaS以下のものがより好ましい。
【0034】
前記ポリブテン類としては、ポリブテン、ポリイソブテン等が挙げられる。ポリブテン類としては、市販品を用いることができる。市販品としては、例えば、ポリブテンLV−7、ポリブテンLV−10、ポリブテンLV−25、ポリブテンLV−50、ポリブテンLV−100、ポリブテンHV−35、ポリブテンHV−100、ポリブテンHV−300、ポリブテンHV−1900(いずれも日本石油化学(株)製);ポリブテン0H、ポリブテン5H、ポリブテン10H、ポリブテン300H、ポリブテン2000H、ポリブテン0R、ポリブテン15R、ポリブテン35R、ポリブテン100R、ポリブテン350R(いずれも出光石油化学株式会社製);ポリブテン0N、ポリブテン06N、ポリブテン3N、ポリブテン10SH、ポリブテン200N(いずれも日油(株)製)などが挙げられる。
【0035】
前記パラフィン類としては、例えば、n−パラフィン、固形パラフィン、流動パラフィン、塩素化パラフィン等が挙げられる。
【0036】
前記ワセリン類としては、例えば、白色ワセリン、黄色ワセリン等が挙げられる。
【0037】
前記ジアルキルスルフィド化合物としては、ジ−tert−ブチルデカスルフィド、ジペンチルテトラスルフィド、ジペンチルペンタスルフィド、ジペンチルデカスルフィド、ジオクチルテトラスルフィド、ジオクチルペンタスルフィド、ジノニルテトラスルフィド、ジノニルペンタスルフィド、ジ−tert−ノニルテトラスルフィド、ジ−tert−ノニルペンタスルフィド、ジデシルテトラスルフィド、ジドデシルテトラスルフィド、ジオクタデシルテトラスルフィド、ジノナデシルテトラスルフィド等が挙げられる。
【0038】
(展着樹脂)
展着樹脂としては、合成樹脂および天然樹脂が用いられ、展着樹脂を含有させることにより、塗膜形成における作業性が向上する。また、被塗膜形成物との密着性に優れた塗膜を形成することができる。
前期合成樹脂としては、例えば、ビニル樹脂、アルキッド樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、合成ゴム、塩素化ポリエチレン等を使用できる。前記ビニル樹脂としては、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−アルキルビニルエーテル共重合体、塩化ビニル樹脂等を例示できる。
【0039】
また、前記天然樹脂としては、例えば、ウッドロジン、ガムロジン、変性ロジン等が挙げられる。
【0040】
前記展着樹脂としては、特に、アクリル樹脂を含有することが好ましい。
前記展着樹脂のガラス転移温度(Tg)は、−100〜100℃が好ましく、−50〜80℃がより好ましい。前記展着樹脂の重量平均分子量(Mw)は、5,000〜1,000,000が好ましく、10,000〜500,000がより好ましい。前記展着樹脂の含有量は、特に限定されないが、固形分換算で、本発明の組成物の固形分中、通常0.1〜80質量%、好ましくは1〜45質量%である。
【0041】
(他の防汚薬剤)
本発明に用いられる二価の銅を含む銅ガラス(A)や金属ピリチオン類(B)以外の防汚薬剤として、以下の防汚薬剤を含有させることができる。これにより、形成した塗膜がさらに好適な防汚効果を発揮させることができる。
【0042】
他の防汚薬剤としては、例えば、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド等のテトラアルキルチウラムジスルフィド化合物等が挙げられる。その他、クロロメチル−n−オクチルジスルフィド、N,N−ジメチルジクロロフェニル尿素、N−(フルオロジクロロメチルチオ)フタルイミド、N,N'−ジメチル−N'−フェニル−(N−フルオロジクロロメチルチオ)スルファミド、N,N'−ジメチル−N'−トリル−(N−フルオロジクロロメチルチオ)スルファミド、4,5−ジクロロ−2n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2,3−ジクロロ−N−(2,6−ジエチルフェニル)マレイミド、2,3−ジクロロ−N−(2'−エチル、6'−メチルフェニル)マレイミド、3−ベンゾ[b]チエン−2−イル−5,6−ジヒドロ−1,4,2−オキサチアジン−4−オキサイド、2−(p−クロロフェニル)−3−シアノ−4−ブロモ−5−トリフルオロメチルピロール、テトラクロロイソフタロニトリル等を使用することもできる。
【0043】
前記銅ガラス(A)や金属ピリチオン類(B)と併用する他の防汚薬剤として、特に、4,5−ジクロロ−2n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オンが好ましい。
【0044】
前記他の防汚薬剤の含有量は、特に限定されないが、特に限定されないが、固形分換算で、本発明の組成物の固形分中、通常0.1〜80質量%、好ましくは1〜50質量%である。
【0045】
(沈降防止剤・タレ止め剤)
沈降防止剤・タレ止め剤としては、例えば、ポリエチレンワックス、水添ひまし油ワックス系、ポリアマイドワックス系、アマイドワックス系、酸化ポリエチレン系ワックスなど挙げられ、好ましくは、水添ひまし油ワックス系、ポリアマイドワックス系、アマイドワックス系、酸化ポリエチレン系ワックスである。これら沈降防止剤・タレ止め剤は、単独で用いてもよく、あるいは2種以上の組み合わせて用いてもよい。
【0046】
(可塑剤)
可塑剤としては、例えば、フタル酸エステル、アジピン酸エステル、リン酸エステルなどが挙げられる。前記フタル酸エステルとしては、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジ2−エチルヘキシルが挙げられ、前記アジピン酸エステルとしては、アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸2−エチルヘキシルが挙げられ、前記リン酸エステルとしては、リン酸トリクレジル、リン酸トリオクチルなどが挙げられる。 これらの可塑剤は、単独で用いてもよく、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
(有機溶剤)
有機溶剤としては、例えば、キシレン、トルエン、ソルベッソ100、ソルベッソ150(いずれも登録商標、エクソンモービル製)等の芳香族系溶剤;イソブチルメチルケトン(MIBK)、ジイソブチルケトン(DIBK)等のケトン系溶剤;酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸イソアミル等のエステル系溶剤が使用できる。
また、低毒・低臭・低環境負荷を考慮した有機溶剤も使用することができ、例えば、ペガソールAN45、ペガソールAS100(いずれも登録商標、エクソンモービル製)、LAWS、HAWS(いずれもシェルケミカルズ製)等の芳香族・脂環式・脂肪族炭化水素混合溶剤;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のグリコール系エステル溶剤;エチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、リカソルブ(登録商標)900(C9芳香族水添体)、リカソルブ(登録商標)1000(C10芳香族水添体)等の脂環式炭化水素系溶剤;シェルゾールD40(登録商標、シェルケミカルズ製)、エクソールD30、エクソールD40(いずれも登録商標、エクソンモービル製)等の脂環式・脂肪族炭化水素混合溶剤;アイソパーG、アイソパーH(いずれも登録商標、エクソンモービル製)等の脂肪族炭化水素混合溶剤なども使用することができる。
これら有機溶剤は、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0048】
本発明の組成物は、種々の漁業具、水中構造物等の防汚塗膜の形成に使用できる。特に、本発明の組成物は、漁網用防汚塗料組成物として好適に使用できる。
【0049】
本発明の漁網防汚塗料組成物は、上記[A]〜[C]成分、ならびに必要に応じて上記各成分を混合することにより調製できる。混合する際の各成分の添加量については、上記配合量および含有量となるよう適宜調整すればよい。各成分を混合する順序については特に制限されない。混合方法については、撹拌装置を用いて混合する等、公知の方法を採用すればよい。
【0050】
漁網防汚塗膜の形成方法、防汚塗膜、および塗装物
本発明の漁網防汚塗膜の形成方法は、上記漁網防汚塗料組成物を用いて被塗膜形成物の表面に防汚塗膜を形成することを特徴とする。本発明の形成方法により得られる防汚塗膜は、表面から徐々に溶解し塗膜表面が常に更新されることにより、水棲汚損生物の付着防止を図ることができる。また、塗膜を溶解させた後、上記組成物を上塗りすることにより、継続的に防汚効果を発揮することができる。
【0051】
被塗膜形成物としては、例えば、漁業具、水中構造物等が挙げられる。漁業具としては、例えば、養殖用又は定置用の漁網、該漁網に使用される浮き子、ロープ等の漁網付属具等が挙げられる。水中構造物としては、例えば、発電所導水管、橋梁、港湾設備等が挙げられる。
【0052】
本発明の漁網防汚塗膜は、上記漁網防汚塗料組成物を被塗膜形成物の表面(全体又は一部)に塗布することにより形成できる。
【0053】
塗布方法としては、例えば、ハケ塗り法、スプレー法、ディッピング法、フローコート法、スピンコート法等が挙げられる。これらは、1種又は2種以上を併用して行ってもよい。例えば、本発明の漁網防汚塗料組成物を漁網に塗布する場合、塗布方法としてはディッピング法を採用することが好ましい。
【0054】
塗布後、乾燥させる。乾燥温度は、室温でよい。乾燥時間は、漁網防汚塗料の付着量に応じて適宜設定すればよい。
【0055】
前記漁網防汚塗料の付着量は、被塗膜形成物の種類等に応じて適宜設定すればよい。例えば、被塗膜形成物が漁網の場合、乾燥塗膜の付着量が漁網100質量部に対し、好ましくは1〜35質量部、さらに好ましくは4〜20質量部である。
【0056】
本発明の塗装物は、前記防汚塗膜を表面に有する。本発明の塗装物は、前記防汚塗膜を表面の全体に有していてもよく、一部に有していてもよい。
【実施例】
【0057】
以下に、実施例等を示し本発明の特徴とするところをより一層明確とする。ただし、本発明はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0058】
比較製造例1(1価の銅を含む銅ガラスH−1の製造)
下記組成比のガラス成分材料と銅化合物とを均一に混合し、1100〜1300℃のガス炉を用いて60分間溶融した後、急冷して一価の銅を含有する溶解性ガラスを製造し、その後、前記溶解性ガラスをボールミルで粉砕して、1価の銅を含む銅ガラス粉末を得た。
【0059】
<組成>
SiO2:7.7質量部
Al2O3:0.1質量部
Na2O:5.9質量部
B2O3:28.8質量部
Cu2O:53.3質量部
ZnO:4.2質量部
【0060】
実施例1〜6及び比較例1〜8
表1記載の配合成分を表1記載の割合(質量%)で混合することにより、防汚塗料組成物を得た。
【0061】
商品名「PNU-40」:2価の銅を含む銅ガラス(P2O5/Na2O/CuO=30/30/40(モル%)、平均粒子径3μ、東洋ガラス(株)製)
商品名「PNU-30」:2価の銅を含む銅ガラス(P2O5/Na2O/CuO=35/35/30(モル%)、平均粒子径3μ、東洋ガラス(株)製)
商品名「NC−301」:亜酸化銅(日新ケムコ(株)製)
商品名「Copper Omadine Powder」:ビス(2―スルフィドピリジン−1―オラト)銅(アーチ・ケミカル・ジャパン(株)製)
商品名「Zinc Omadine Powder」:ビス(2―スルフィドピリジン−1―オラト)亜鉛(アーチ・ケミカル・ジャパン(株)製)
商品名「FR−41」:酸化チタン(ルチル型酸化チタン、古河ケミカルズ(株)製)
商品名「酸化亜鉛 2種」:酸化亜鉛(正同化学工業(株)製)
商品名「チヌビンP」:2−(5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール(長瀬産業(株)製)
商品名「ニットールHN」:アクリル樹脂キシレン溶液(固形分40%、Tg=約20℃、Mw=約230000、日東化成(株)製)
商品名「KF−6020」:ポリエーテル変性ジメチルシリコーンオイル(信越化学工業(株)製)
商品名「X−22−2516」:ポリエーテル長鎖アルキルアラルキル変性ジメチルシリコーンオイル(信越化学工業(株)製)
商品名「ルーカントHC−40」:エチレン・α−オレフィン共重合体(三井化学(株)製)
商品名「ポリブテン0N」:ポリブテン(日本油指(株)製)
商品名「ディスパロン4200−20」:酸化ポリエチレン系ワックス(固形分20%、楠本化成(株)製)
商品名「デシスパロンA630−20X」:ポリアマイド系ワックス(固形分20%、楠本化成(株)製)
キシレン:キシダ化学(株)製、1級試薬
【0062】
【表1】
【0063】
試験例1(防汚効果確認試験)
ポリエチレン製の漁網(400デニール、40本、8節)を、実施例1〜6及び比較例1〜8で得られた各防汚塗料組成物に、乾燥塗膜の付着量が漁網100質量部に対し、15質量部になるように浸漬塗布し乾燥させた。塗膜を形成した漁網を40×60cmSUSの枠に固定し、水棲汚損生物の活性の強い海域である三重県尾鷲の筏にて喫水部に浸漬し、その防汚評価を12ヶ月間にわたって定期的に観察した。
【0064】
評価は以下の方法で行った。なお、水棲生物の付着面積(%)は、試験期間(2、4、6、8、10又は12ヶ月)後に上から漁網の写真を撮影し、漁網における水棲生物の占有面積を目視で評価した。
◎:水棲生物の付着面積が0%
○:水棲生物の付着面積が0超10%未満
△:水棲生物の付着面積が10以上50%未満
×:水棲生物の付着面積が50%以上
結果を表2に示す。
【0065】
【表2】
【0066】
表2から、本発明の実施例1〜6の防汚塗料組成物は、比較例1〜8の防汚塗料組成物の何れよりも長期防汚性に優れていることが分かる。
実施例1〜6は、二価の銅を含む銅ガラス、金属ピリチオン類、及び酸化チタンの三成分を含有するものである。これに対し、比較例1は、二価の銅を含む銅ガラスのみを含有し、比較例2及び3は、二価の銅を含む銅ガラスと金属ピリチオン類のみを含有し、比較例4は、二価の銅を含む銅ガラスと酸化チタンを含有するものであるが、比較例1〜4の長期防汚性は、実施例1〜6よりもはるかに低かった。この結果は、防汚塗料組成物が優れた長期防汚性を発揮するために上記三成分を全て含有することが必須であり、三成分のうちの一つでも欠けると長期防汚性が極端に低下することが分かった。
また、比較例5〜8では、一価の銅を含む銅ガラス、金属ピリチオン類、及び酸化チタンの三成分、又は亜酸化銅、金属ピリチオン類、及び酸化チタンの三成分を含有する防汚塗料組成物の長期防汚性を調べたが、比較例5〜8の何れにおいても、長期防汚性は、実施例1〜6よりもはるかに低かった。これにより、金属ピリチオン類及び酸化チタンの添加によって長期防汚性が大きく向上するという効果は、二価の銅を含む銅ガラスに特有のものであって、一価の銅を含む銅ガラスや亜酸化銅を用いた場合には、同様の結果が得られないということが分かった。
さらに、銅ピリチオンを含有する実施例1、2及び5は、亜鉛ピリチオンを含有する実施例3,4及び6よりも長期防汚性が優れていることが分かった。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)二価の銅を含む銅ガラス、(B)金属ピリチオン類、及び(C)酸化チタンを含有する防汚塗料組成物。
【請求項2】
前記金属ピリチオンは、金属ビスピリチオン類であり、
前記銅ガラス100質量部に対して、前記金属ビスピリチオン類を1〜300質量部含み、かつ、前記銅ガラス100質量部に対して、前記酸化チタンを1〜500質量部含む、請求項1に記載の防汚塗料組成物。
【請求項3】
前記金属ビスピリチオン類の金属が、銅又は亜鉛である請求項2に記載の防汚塗料組成物。
【請求項4】
前記酸化チタンが、ルチル型である請求項1〜3の何れか1つに記載の防汚塗料組成物。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1つに記載の防汚塗料組成物を用いて形成される防汚塗膜を表面に有する漁網、漁網用具及び水中構築物。
【請求項1】
(A)二価の銅を含む銅ガラス、(B)金属ピリチオン類、及び(C)酸化チタンを含有する防汚塗料組成物。
【請求項2】
前記金属ピリチオンは、金属ビスピリチオン類であり、
前記銅ガラス100質量部に対して、前記金属ビスピリチオン類を1〜300質量部含み、かつ、前記銅ガラス100質量部に対して、前記酸化チタンを1〜500質量部含む、請求項1に記載の防汚塗料組成物。
【請求項3】
前記金属ビスピリチオン類の金属が、銅又は亜鉛である請求項2に記載の防汚塗料組成物。
【請求項4】
前記酸化チタンが、ルチル型である請求項1〜3の何れか1つに記載の防汚塗料組成物。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1つに記載の防汚塗料組成物を用いて形成される防汚塗膜を表面に有する漁網、漁網用具及び水中構築物。
【公開番号】特開2012−102233(P2012−102233A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−251848(P2010−251848)
【出願日】平成22年11月10日(2010.11.10)
【特許番号】特許第4812895号(P4812895)
【特許公報発行日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(000227342)日東化成株式会社 (28)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月10日(2010.11.10)
【特許番号】特許第4812895号(P4812895)
【特許公報発行日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(000227342)日東化成株式会社 (28)
【Fターム(参考)】
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