説明

防汚塗料組成物

【課題】防汚効果を長期間持続させることができる防汚塗料組成物を提供する。
【解決手段】本発明の防汚塗料組成物は、〔A〕ジメチルシリコーンオイルの側鎖のメチル基の一部が1種又は2種以上の有機基で置換されている変性シリコーンオイル(a−1)の1種又は2種以上を含む溶出コントロール剤と、〔B〕展着樹脂と、〔C〕亜酸化銅、銅粉、2−メルカプトピリジンN−オキシド銅、2−メルカプトピリジンN−オキシド亜鉛、ビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメート、ピリジン・トリフェニルボロンからなる群から選ばれる1種又は2種以上を含む防汚薬剤を含み、前記変性シリコーンオイル(a−1)は、前記展着樹脂〔B〕100重量部に対して0.5〜50重量部含まれ、前記防汚薬剤〔C〕は、前記展着樹脂〔B〕100重量部に対して1〜200重量部含まれ、前記有機基は、アラルキル基と炭素原子数が6以上のアルキル基の少なくとも一方を含み且つポリエーテル基を任意的に含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、養殖用または定置網用の漁網およびこれらに使用される浮き子、ロープなどの漁網用具(以下、これらを併せて魚網類という場合がある)、および発電所の冷却水導管などの水中構築物などに水棲汚損生物が付着するのを長期にわたって防止するための防汚塗料組成物、該防汚塗料組成物剤から形成された防汚塗膜、該防汚塗料組成物が塗布された漁網類および水中(例:海中)構築物、および該防汚塗料組成物を漁網類または水中構築物に塗布する防汚処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
漁網、漁網用具及び水中構築物などは、水中(例:海中)に長期間設置されるため、漁網用の防汚塗料での処理をせず使用すると、海藻類、フジツボ、セルプラ、コケムシ、軟体動物類などの種々の水棲汚損生物が付着し、海水の流れが悪くなり酸素欠乏で養殖魚が大量に死んだり、伝染病が発生し出荷できなくなったりし、大きな損害を受けることがある。
【0003】
これらの水棲汚損生物の付着を防止するために、従来は有機錫化合物を用いた漁網用防汚塗料組成物が広く使用されてきたが、環境に対する配慮などから使用できなくなった。
【0004】
そこで、有機錫化合物に替わる漁網用防汚塗料組成物として、種々の研究、提案がなされ、無機化合物や有機化合物を防汚薬剤として用い、これを天然樹脂系または合成樹脂系展着樹脂に配合した漁網用防汚塗料組成物が使用されてきた。しかし、これらは塗膜物性が悪く、防汚期間が短い等の問題があった。それらの問題を解決すべく、展着樹脂に薬剤の溶出コントロール剤として特定のポリエーテル変性シリコーンオイルを配合した漁網用防汚塗料組成物が提案された(特許文献1〜4、8)。
【0005】
これらの提案により、塗膜物性が良くなり多くの海域では防汚性能が改良されたが、フジツボやセルプラ等の動物類の付着生物の活性の強い海域や、ヒドロ虫等の腔腸動物の活性が強い海域では効果が十分ではなかった。
【0006】
また、ヒドロ虫等の腔腸動物に対して優れた防汚剤として、ビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメートと特定のポリエーテル変性シリコーンオイルを配合した水中防汚剤組成物が提案された(特許文献5)。また、フジツボやセルプラ等の動物類やヒドロ虫等の腔腸動物に対して優れた防汚剤として、亜酸化銅と特定のポリエーテル変性シリコーンオイルを配合した水中防汚剤組成物が提案された(特許文献6)。更に、腔腸動物、フジツボ、海草に優れた防汚剤として、特定量のエチレンオキシ基と特定量のプロピレンオキシ基の両方を含有し、オキシアルキレン基含有オルガノポリシロキサン(ポリエーテル変性シリコーン)を配合した水中防汚剤が提案された(特許文献7)。
【0007】
しかし、これらの発明は、ビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメートはヒドロ虫等の腔腸動物に対して、亜酸化銅はフジツボやセルプラ等の動物類に対して、それぞれ優れた防汚効果を発揮するが、これらの発明に使用されている分子構造のシリコーンオイルの場合は、ポリエーテル変性シリコーンオイルを使用すると、初期の効果は良くなるものの薬剤が早期に溶出し、長期間防汚効果を維持することが出来なかった。
【0008】
そのため、塗膜物性が良く漁網塗布時の作業性に優れ、フジツボやセルプラ等の動物類やヒドロ虫等の腔腸動物の活性が強い海域において、設計通りに長期間防汚効果を発揮できる漁網防汚剤の開発が切望されていた。
【特許文献1】特開平3−20370号公報
【特許文献2】特開平4−142373号公報
【特許文献3】特開平5−263022号公報
【特許文献4】特開平5−320538号公報
【特許文献5】特開平9−176576号公報
【特許文献6】特開平9−176577号公報
【特許文献7】特開2001−19848号公報
【特許文献8】特開2002−265849号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、防汚効果を長期間持続させることができる防汚塗料組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0010】
本発明の防汚塗料組成物は、〔A〕ジメチルシリコーンオイルの側鎖のメチル基の一部が1種又は2種以上の有機基で置換されている変性シリコーンオイル(a−1)の1種又は2種以上を含む溶出コントロール剤と、〔B〕展着樹脂と、〔C〕亜酸化銅、銅粉、2−メルカプトピリジンN−オキシド銅、2−メルカプトピリジンN−オキシド亜鉛、ビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメート、ピリジン・トリフェニルボロンからなる群から選ばれる1種又は2種以上を含む防汚薬剤を含み、前記変性シリコーンオイル(a−1)は、前記展着樹脂〔B〕100重量部に対して0.5〜50重量部含まれ、前記防汚薬剤〔C〕は、前記展着樹脂〔B〕100重量部に対して1〜200重量部含まれ、前記有機基は、アラルキル基と炭素原子数が6以上のアルキル基の少なくとも一方を含み且つポリエーテル基を任意的に含むことを特徴とする。
【0011】
本発明者らは、鋭意検討を行ったところ、溶出コントロール剤と、展着樹脂と、防汚薬剤とを含む防汚塗料組成物において、上記構成の変性シリコーンオイルを溶出コントロール剤として用いることによって、フジツボやセルプラ等の動物類やヒドロ虫等の腔腸動物の活性の強い海域において優れた防汚効果を長期間発揮することができる防汚塗料組成物が得られることを見出し、本発明の完成に到った。
【0012】
本発明の防汚塗料組成物が長期間の防汚効果を発揮する作用は必ずしも明らかではないが、変性シリコーンオイルの側鎖にアラルキル基又は炭素原子数が6以上のアルキル基が存在していることが関係していると考えられる。
【0013】
また、本発明によれば、HLBが2未満の場合であっても防汚薬剤が適度に溶出して防汚効果が発揮される。従来技術では、変性シリコーンオイルの親水性親油性バランス(HLB)が2未満である場合には防汚薬剤の溶出速度が非常に小さくなって防汚効果が発揮されなかったので、本発明においてHLBが2未満の場合であっても防汚効果が発揮されることは驚くべき結果である。
以下、本発明の種々の実施形態等を例示する。
【0014】
前記有機基は、アラルキル基、炭素原子数が6以上のアルキル基、アラルキル基と炭素原子数が6以上のアルキル基の両方、又はアラルキル基と炭素原子数が6以上のアルキル基とポリエーテル基の全部からなってもよい。
前記変性シリコーンオイル(a−1)の親水性親油性バランス(HLB)が0以上2未満であってもよい。
前記溶出コントロール剤〔A〕として、ポリオレフィン類(a−2)の1種又は2種以上をさらに含み、前記ポリオレフィン類(a−2)は、前記変性シリコーンオイル(a−1)100重量部に対して1〜1000重量部含まれてもよい。
前記ポリオレフィン類(a−2)が、ポリブテン類、エチレン−α−オレフィン類の群から選ばれる1種又は2種以上であってもよい。
前記展着樹脂〔B〕が、ガラス転移温度−40〜40℃の(メタ)アクリル酸エステル共重合体であってもよい。
また、本発明は、上記記載の防汚塗料組成物を用いて被塗膜形成物の表面に防汚塗膜を形成する防汚処理方法も提供する。
また、本発明は、上記記載の防汚塗料組成物を用いて形成される防汚塗膜も提供する。
また、本発明は、上記記載の防汚塗膜を表面に有する漁網、漁網用具及び水中構築物も提供する。
ここで例示した種々の実施形態等は、互いに組み合わせ可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下,本発明の一実施形態を図面を用いて説明する。図面や以下の記述中で示す内容は,例示であって,本発明の範囲は,図面や以下の記述中で示すものに限定されない。
【0016】
本発明の一実施形態の防汚塗料組成物は、〔A〕ジメチルシリコーンオイルの側鎖のメチル基の一部が1種又は2種以上の有機基で置換されている変性シリコーンオイル(a−1)の1種又は2種以上を含む溶出コントロール剤と、〔B〕展着樹脂と、〔C〕亜酸化銅、銅粉、2−メルカプトピリジンN−オキシド銅、2−メルカプトピリジンN−オキシド亜鉛、ビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメート、ピリジン・トリフェニルボロンからなる群から選ばれる1種又は2種以上を含む防汚薬剤を含み、前記変性シリコーンオイル(a−1)は、前記展着樹脂〔B〕100重量部に対して0.5〜50重量部含まれ、前記防汚薬剤〔C〕は、前記展着樹脂〔B〕100重量部に対して1〜200重量部含まれ、前記有機基は、アラルキル基と炭素原子数が6以上のアルキル基の少なくとも一方を含み且つポリエーテル基を任意的に含むことを特徴とする。
以下、各構成要素について説明する。
【0017】
1.溶出コントロール剤〔A〕
本発明の溶出コントロール剤〔A〕は、変性シリコーンオイル(a−1)の1種又は2種以上を含む。また、溶出コントロール剤〔A〕は、1種又は2種以上のポリオレフィン類(a−2)等の別の成分を含んでもよい。
以下、変性シリコーンオイル(a−1)と、ポリオレフィン類(a−2)について説明する。
【0018】
1−1.変性シリコーンオイル(a−1)
変性シリコーンオイル(a−1)は、ジメチルシリコーンオイルの側鎖のメチル基の一部が1種又は2種以上の有機基で置換されており、前記有機基は、アラルキル基と炭素原子数が6以上のアルキル基(以下、「長鎖アルキル基」とも称する。)の少なくとも一方を含み且つポリエーテル基を任意的に含むものであり、下記一般式(I)で表される。
【0019】
【化1】

[ 式中、lは、1以上の整数であり、m,n,oは全て0以上の整数であり、且つ(m+n)は1以上の整数である。また、R1はアラルキル基、R2は長鎖アルキル基、R3はポリエーテル基である。〕
【0020】
1−1−1.繰返し単位
一般式(I)において、側鎖のメチル基が無置換の繰返し単位を無置換繰返し単位と呼び、側鎖のメチル基の一方がアラルキル基,長鎖アルキル基又はポリエーテル基で置換された繰返し単位をそれぞれアラルキル基置換繰返し単位、長鎖アルキル基置換繰返し単位、ポリエーテル基置換繰返し単位と呼ぶ。一般式(I)において、上記4種類の繰返し単位が並ぶ順序は、特に限定されず、ランダム、交互または連続のいずれでであってもよい。
以下、各繰返し単位について説明する。
【0021】
(1)無置換繰返し単位
一般式(I)中のlは、無置換繰返し単位の数を示し、1以上の整数であり、例えば1
〜100の整数である。lは、具体的には例えば1,10,20,30,40,50,60,70,80,90,100である。lは、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0022】
(2)アラルキル基置換繰返し単位
一般式(I)中のmは、アラルキル基置換繰返し単位の数を示し、0以上の整数であり
、例えば0〜100の整数である。mは、具体的には例えば0,1,10,20,30,40,50,60,70,80,90,100である。mは、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0023】
アラルキル基は、アルキル基の水素1原子がアリール基で置換された基である。アラルキル基中のアルキル基は、例えば炭素原子数が1〜4のもの(直鎖状又は分岐鎖状)であり、具体的には例えばメチル基,エチル基,プロピル基である。アラルキル基中のアリール基は、例えば、フェニル基である。
【0024】
アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、1-フェニルエチル基、2-フェニルエチル基、2-メチル-2-フェニルエチル基等が挙げられ、2-メチル-2-フェニルエチル基が好ましい。
【0025】
(3)長鎖アルキル基置換繰返し単位
一般式(I)中のnは、長鎖アルキル基置換繰返し単位の数を示し、0以上の整数であ
り、例えば0〜100の整数である。nは、具体的には例えば0,1,10,20,30,40,50,60,70,80,90,100である。nは、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0026】
長鎖アルキル基は、炭素原子数が6以上のアルキル基である。長鎖アルキル基の炭素原子数は、例えば6〜18であり、具体的には例えば6,8,10,12,14,16,18である。この炭素原子数は、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。長鎖アルキル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。
【0027】
長鎖アルキル基としては、例えば、ヘキシル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ラウリル基、ステアリル基等が挙げられ、好ましくはオクチル基、2-エチルヘキシル基、ラウリル基等の炭素数8以上のアルキル基である。
【0028】
変性シリコーンオイル(a−1)は、アラルキル基置換繰返し単位と長鎖アルキル基置換繰返し単位の少なくとも一方を有しているので、(m+n)は、1以上の整数である。(m+n)は、例えば1〜200であり、具体的には例えば1,10,20,30,40,50,60,70,80,90,100,110,120,130,140,150,160,170,180,190,200である。(m+n)は、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0029】
(4)ポリエーテル基置換繰返し単位
一般式(I)中のoは、ポリエーテル基置換繰返し単位の数を示し、0以上の整数であ
り、例えば0〜100の整数である。oは、具体的には例えば0,1,10,20,30,40,50,60,70,80,90,100である。oは、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0030】
ポリエーテル基は、例えば、一般式(II):
【化2】

(式中、pは1以上の整数、qは0以上の整数である。また、R4は炭素数1〜4のアルキレン基、R5は水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基、pは1以上の整数、qは0以上の整数である)で表される。
【0031】
4は、炭素数1〜4のアルキレン基であり、具体的にはメチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基が挙げられ、エチレン基、プロピレン基が好ましい。
5は、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基であり、具体的にはメチル基、エチル基及びプロピル基が挙げられ、水素原子又はメチル基が好ましい。
【0032】
pは、1以上の整数であり、例えば1〜50の整数である。pは、具体的には例えば1,10,20,30,40,50である。pは、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
qは、0以上の整数であり、例えば0〜10の整数である。qは、具体的には例えば0,1,2,3,4,5,6,7,8,9,10である。qは、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0033】
1−1−2.変性シリコーンオイル(a−1)の具体例
次に、変性シリコーンオイル(a−1)の具体例について説明する。変性シリコーンオイル(a−1)の有機基は、具体的には、例えば、アラルキル基、長鎖アルキル基、アラルキル基と長鎖アルキル基の両方、又はアラルキル基と長鎖アルキル基とポリエーテル基の全部からなる。
【0034】
有機基がアラルキル基である場合(一般式(I)において、mが1以上であり、nとoが0である場合)、変性シリコーンオイル(a−1)は、アラルキル変性シリコーンオイルと呼ばれる。
【0035】
有機基が長鎖アルキル基である場合(一般式(I)において、nが1以上であり、mとoが0である場合)、変性シリコーンオイル(a−1)は、長鎖アルキル変性シリコーンオイルと呼ばれる。
【0036】
有機基がアラルキル基と長鎖アルキル基の両方である場合(一般式(I)において、mとnが1以上であり、oが0である場合)、変性シリコーンオイル(a−1)は、アラルキル−長鎖アルキル変性シリコーンオイルと呼ばれる。
【0037】
有機基がアラルキル基と長鎖アルキル基とポリエーテル基の全部である場合(一般式(I)において、mとnとoが1以上である場合)、変性シリコーンオイル(a−1)は、アラルキル−長鎖アルキル−ポリエーテル変性シリコーンオイルと呼ばれる。
以下、それぞれの場合について説明する。
【0038】
(1)アラルキル変性シリコーンオイル
アラルキル変性シリコーンオイルとしては、例えば、重量平均分子量が7000〜30000であり、25℃において、粘度が450〜1800(mm2/s),比重が0.97〜1.07,屈折率が1.43〜1.53であり且つアラルキル基を側鎖に有するものが挙げられ、具体的には例えば、信越化学(株)のKF−410(HLB=0,重量平均分子量=15016,25℃において粘度=900(mm2/s),比重=1.02,屈折率=1.480)が挙げられる。
【0039】
上記重量平均分子量は、具体的には例えば、7000,10000,12000,14000,16000,18000,20000,25000,30000である。この分子量は、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。なお、本発明において、重量平均分子量とは、以下の条件で測定したものを意味する。
(測定方法、装置、条件等)
測定方法:GPC法
較正曲線:標準ポリスチレンを用いて作成
装置:HLC−8220 (東ソー(株)製)
カラム:TSKgel SuperHZ4000(1本)、TSKgel SuperHZ2000(1本)
移動相:THF
検出器:RI
温度:40℃
流量:0.35ml/min
注入量:3μl
【0040】
上記粘度は、具体的には例えば450,500,600,700,800,900,1000,1100,1200,1500,1800(mm2/s)である。この粘度は、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
上記比重は、具体的には例えば0.97,0.98,0.99,1.00,1.01,1.02,1.03,1.04,1.05,1.06,1.07である。この比重は、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
上記屈折率は、具体的には例えば1.43,1.44,1.45,1.46,1.47,1.48,1.49,1.50,1.51,1.52,1.53である。この屈折率は、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0041】
(2)長鎖アルキル変性シリコーンオイル
長鎖アルキル変性シリコーンオイルとしては、例えば、重量平均分子量が7000〜30000であり、25℃において、粘度が10〜1000(mm2/s),比重が0.88〜0.98,屈折率が1.38〜1.48であり且つ長鎖アルキル基を側鎖に有するものが挙げられ、具体的には例えば、信越化学(株)のKF−414(HLB=0,重量平均分子量=15463,25℃において粘度=100(mm2/s),比重=0.93,屈折率=1.428)が挙げられる。長鎖アルキル変性シリコーンオイルは、信越化学(株)のKF−412、KF−413、KF−415、KF−4003、KF−4701、KF−4917、KF−7235B、X−22−7232(各品のHLB=0)等であってもよい。
【0042】
上記重量平均分子量は、具体的には例えば、7000,10000,12000,14000,16000,18000,20000,25000,30000である。この分子量は、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
上記粘度は、具体的には例えば10,50,60,70,80,90,100,110,120,130,140,150,160,170,180,190,200,500,1000(mm2/s)である。この粘度は、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
上記比重は、具体的には例えば0.88,0.89,0.90,0.91,0.92.0.93,0.94,0.95,0.96,0.97,0.98である。この比重は、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
上記屈折率は、具体的には例えば1.38,1.39,1.40,1.41,1.42,1.43、1.44,1.45,1.46,1.47,1.48である。この屈折率は、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0043】
(3)アラルキル−長鎖アルキル変性シリコーンオイル
アラルキル−長鎖アルキル変性シリコーンオイルとしては、例えば、重量平均分子量が10000〜40000であり、25℃において、粘度が400〜1700(mm2/s),比重が0.87〜0.97,屈折率が1.41〜1.51であり且つアラルキル基及び長鎖アルキル基を側鎖に有するものが挙げられ、具体的には例えば、信越化学(株)のX−22−1877(HLB=0,重量平均分子量=22130,25℃において粘度=850(mm2/s),比重=0.92,屈折率=1.466)が挙げられる。
【0044】
上記重量平均分子量は、具体的には例えば、10000,15000,16000,18000,20000,22000,24000,25000,26000,28000,30000,40000である。この分子量は、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
上記粘度は、具体的には例えば400,500,600,700,800,900,1000,1100,1200,1300,1400,1500,1600,1700(mm2/s)である。この粘度は、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
上記比重は、具体的には例えば0.87,0.88,0.89,0.90,0.91,0.92.0.93,0.94,0.95,0.96,0.97である。この比重は、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
上記屈折率は、具体的には例えば1.41,1.42,1.43、1.44,1.45,1.46,1.47,1.48,1.49,1.50,1.51である。この屈折率は、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0045】
(4)アラルキル−長鎖アルキル−ポリエーテル変性シリコーンオイル
アラルキル−長鎖アルキル−ポリエーテル変性シリコーンオイルとしては、例えば、重量平均分子量が2500〜10000であり、25℃において、粘度が35〜140(mm2/s),比重が0.91〜1.01,屈折率が1.37〜1.47であり且つアラルキル基、長鎖アルキル基及びポリエーテル基を側鎖に有するものが挙げられ、具体的には例えば、信越化学(株)のX−22−2516(HLB=1,重量平均分子量=5424,25℃において粘度=70(mm2/s),比重=0.96,屈折率=1.424)が挙げられる。また、この種の変性シリコーンオイルとしては、東レダウコーニング(株)のSF8419(HLB=1)も利用可能である。
【0046】
上記重量平均分子量は、具体的には例えば、2500,3000,4000,5000,6000,7000,8000,9000,10000である。この分子量は、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
上記粘度は、具体的には例えば35,40,50,60,70,80,90,100,110,120,130,140(mm2/s)である。この粘度は、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
上記比重は、具体的には例えば0.91,0.92.0.93,0.94,0.95,0.96,0.97,0.98,0.99,1.00,1.01である。この比重は、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
上記屈折率は、具体的には例えば1.37,1.38,1.39,1.40,1.41,1.42,1.43,1.44,1.45,1.46,1.47である。この屈折率は、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
変性シリコーンオイル(a−1)としては、防汚効果の持続性の観点からアラルキル−長鎖アルキル−ポリエーテル変性シリコーンオイルが最も好ましいことが実験的に明らかになった。
【0047】
1−1−3.変性シリコーンオイル(a−1)の親水性親油性バランス(HLB)
変性シリコーンオイル(a−1)のHLBは、特に限定されないが、防汚効果を長期間維持させる観点から0以上2未満の範囲内が好ましい。変性シリコーンオイル(a−1)のHLBは、具体的には例えば、0,0.5,1,1.1,1.2,1.3,1.4,1.5,1.6,1.7,1.8.1.9である。このHLBは、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0048】
本発明において、HLBは、以下の式で計算され、HLBの数値が大きいほど親水性が大きいことを表す。HLBは0〜20の範囲内で表される。
HLB= 変性シリコンオイル中のポリエーテル基の重量%÷5
【0049】
1−1−4.変性シリコーンオイル(a−1)の使用量
本発明の防汚塗料組成物において、変性シリコーンオイル(a−1)の使用量は、防汚剤中の展着樹脂 [B]100重量部に対して、0.5〜50重量部であり、好ましくは、0.5〜20重量部であり、さらに好ましくは、1〜10重量部である。0.5重量部未満の場合は、防汚薬剤の溶出量が少なく防汚効果が弱くなり汚損生物が付着しやすくなり、50重量部を超えると防汚薬剤の溶出量が多くなり防汚効果が長期間維持することが出来ない場合があるためである。変性シリコーンオイル(a−1)の使用量は、防汚剤中の展着樹脂 [B]100重量部に対して、具体的には例えば0.5,1,5,10,15,20,30,40,50重量部である。この使用量は、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0050】
1−2.ポリオレフィン類(a−2)
ポリオレフィン類(a−2)としては、ポリブテン類、一般式(III):
【化3】

(式中、R6はアルキル基、r、s及びzは全て1以上の整数)で表わされるエチレン・α−オレフィン共重合体等が挙げられる。
【0051】
ポリブテン類としては、たとえば、日本石油化学(株)製のポリブテンLV−7、ポリブテンLV−10、ポリブテンLV−25、ポリブテンLV−50、ポリブテンLV−100、ポリブテンHV−35、ポリブテンHV−100、ポリブテンHV−300、ポリブテンHV−1900、出光石油化学(株)製のポリブテン0N、ポリブテン0H、ポリブテン5H、ポリブテン10H、ポリブテン300H、ポリブテン2000H、ポリブテン0R、ポリブテン15R、ポリブテン35R、ポリブテン100R、ポリブテン350R、日本油脂(株)製のポリビスOSH、などが挙げられ、好ましくは、ポリブテン0N、ポリブテン0H、ポリビスOSHである。これらのポリブテン類は、1種又は2種以上で用いられる。
【0052】
一般式(III)で表わされるエチレン・α−オレフィン共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体のいずれであってもよい。
【0053】
6は、アルキル基であり、具体的には、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチルなどが挙げられ、炭素原子数1〜4のアルキル基が好ましく、メチル基がさらに好ましい。
【0054】
rは、1以上の整数であり、好ましくは1〜100の整数である。
sは、1以上の整数であり、好ましくは1〜100の整数である。
zは、1以上の整数であり、好ましくは1〜1000の整数である。
【0055】
一般式(III)で表わされるエチレン・α−オレフィン共重合体の具体例としては、例えば、三井化学(株)製のルーカントHC−10、ルーカントHC−20、ルーカントHC−40、ルーカントHC−100、ルーカントHC−150、ルーカントHC−600、ルーカントHC−2000などがあげられる。
【0056】
これらエチレン・α−オレフィン共重合体は、1種又は2種以上で用いられる。また、これらのエチレン・α−オレフィン共重合体は、単独で用いてもよいし、ポリブテン類と組み合わせて用いてもよい。
【0057】
本発明の防汚塗料組成物において、ポリオレフィン類の使用量は、防汚塗料組成物中の変性シリコーンオイル(a−1)100重量部に対して、1〜1000重量部であり、好ましくは、1〜500重量部であり、さらに好ましくは、50〜300重量部である。ポリオレフィン類の使用量が1000重量部を超えると、塗膜が軟弱となり実用に耐えなくなることがある。ポリオレフィン類の使用量は、変性シリコーンオイル(a−1)100重量部に対して、具体的には例えば1,10,50,100,200,300,400,500,1000重量部である。この使用量は、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0058】
2.展着樹脂[B]
本発明に用いられる展着樹脂[B]としては、合成樹脂および/または天然樹脂が用いられる。合成樹脂系展着樹脂としては、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル/アルキルビニルエーテル共重合体、塩化ビニル樹脂などのビニル樹脂系、アルキッド樹脂系、(メタ)アクリル樹脂系、ウレタン樹脂系、ポリエステル樹脂系、合成ゴム系、塩素化ポリエチレンなどがあげられる。また、天然樹脂としては、ウッドロジン、ガムロジン、変性ロジン、ロジン金属塩及びロジンエステルなどがあげられる。展着樹脂に用いられる樹脂としては、特に(メタ)アクリル樹脂が好ましい。
【0059】
また、展着樹脂[B]としては、ガラス転移温度が、−60℃〜+60℃の樹脂が好ましく、更に好ましくは−40℃〜+40℃である。ガラス転移温度が、−60℃未満であると塗膜が軟弱で使用に耐えられず、+60℃超であると塗膜が脆く剥がれ易くなるからである。
【0060】
更に、展着樹脂[B]としては、数平均分子量は1,000〜100,000が好ましく、更に好ましくは10,000〜50,000である。数平均分子量が1,000未満であると防汚塗料組成物の粘度が上がらないため、漁網への付着率が少なくなり、その結果防汚効果が長期間持続出来なくなり、100,000超であると防汚塗料組成物の粘度が高くなり過ぎ、取り扱いが困難となるからである。
【0061】
これらの展着樹脂は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明に用いられる展着樹脂は、防汚塗料組成物中に1〜50重量%使用され、好ましくは、5〜30重量%である。1重量%未満では、漁網への付着力が弱く、長期間防汚効果を維持することが出来ない。また、50重量%超では、漁網への付着力は強くなるが、展着樹脂が多すぎるため、防汚薬剤の溶出量が少なく防汚効果が悪くなってしまうからである。防汚塗料組成物中での展着樹脂の含有量は、例えば1,5,10,20,30,40,50重量%である。この含有量は、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0062】
3.防汚薬剤[C]
本発明に使用される防汚薬剤としては、亜酸化銅、銅粉、2−メルカプトピリジンN―オキシド銅、2−メルカプトピリジンN―オキシド亜鉛、ビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメート、ピリジン・トリフェニルボロンが挙げられる。
【0063】
また、前記防汚薬剤に、チオシアン酸銅、キュプロニッケル、ジンクエチレンビスジチオカーバメート、ビス(ジメチルジチオカルバミン酸)亜鉛、3,4−ジクロロフェニル−N−N−ジメチルウレア、2−メチルチオ−4−t−ブチルアミノ−6−シクロプロピルアミノ−s−トリアジンなどの溶剤に対して実質的不溶性な防汚薬剤を1種または2種以上併用してもよい。
【0064】
これらの防汚薬剤は、分散性の問題から平均粒径が10μm以下が好ましく、特に3μm以下が最も好ましい。これらの平均粒径は、日機装(株)社製粒度分布計、機種マイクロトラックMT3300EXII(測定原理レーザー回析・散乱法)により測定することができる。
【0065】
本発明の防汚塗料組成物において、防汚薬剤の合計使用量は、展着樹脂100重量部に対して、1〜200重量部であり、好ましくは、1〜100重量部であり、さらに好ましくは、10〜50重量部である。防汚薬剤の使用量が前記範囲未満では防汚性が充分でなく、一方前記範囲を超えると塗工性能、塗膜物性が劣化する傾向がある。防汚薬剤の合計使用量は、展着樹脂100重量部に対して、具体的には例えば1,5,10,20,30,40,50,60,70,80,90,100,150,200重量部である。この使用量は、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0066】
4.その他の成分
本発明の防汚塗料組成物は、沈降防止剤、タレ止め剤、可塑剤、界面活性剤、染料、顔料、有機溶剤、水等を、本発明の目的を損なわない範囲で任意の配合割合で含有させることができる。
【0067】
本発明に任意に用いられる有機溶剤としては、キシレン、トルエン、イソブタノール、メチルイソブチルケトン、酢酸ブチル、ブチルセルソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等が挙げられる。
【0068】
本発明に任意に用いられる沈降防止剤・タレ止め剤としては、例えば、ポリエチレンワックス、水添ひまし油ワックス系、ポリアマイドワックス系、アマイドワックス系、酸化ポリエチレン系ワックスなどが挙げられ、好ましくは、水添ひまし油ワックス、ポリアマイドワックス、アマイドワックス、酸化ポリエチレン系ワックスである。これらの沈降防止剤・タレ止め剤は、単独で用いてもよく、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
本発明に任意に用いられる可塑剤としては、例えば、フタル酸エステル、アジピン酸エステル、リン酸エステル、パラフィン類、ワセリン類、ジアルキルスルフィド化合物などが挙げられる。
【0070】
フタル酸エステルとしては、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジ2−エチルヘキシル、アジピン酸エステルとしては、アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ジ2−エチルヘキシル、リン酸エステルとしては、リン酸トリクレジル、リン酸トリオクチルなどが挙げられる。
【0071】
パラフィン類としては、たとえば、n−パラフィン(日本石油化学(株)製など)、固形パラフィン(日本精蝋(株)製など)、流動パラフィン(松村石油(株)製のスモイルP−100、スモイルP−150など)、塩素化パラフィン(東ソー(株)製のA−40、A−50、A−70、A−145、A−150、A−265、A−270など)などが挙げられる。
【0072】
ワセリン類としては、たとえば、白色ワセリン、黄色ワセリン(安藤パラケミー(株)製など)が挙げられる。
【0073】
ジアルキルスルフィド化合物としては、ジ−tert−ブチルデカスルフィド、ジペンチルテトラスルフィド、ジペンチルペンタスルフィド、ジペンチルデカスルフィド、ジオクチルテトラスルフィド、ジオクチルペンタスルフィド、ジノニルテトラスルフィド、ジノニルペンタスルフィド、ジ−tert−ノニルテトラスルフィド、ジ−tert−ノニルペンタスルフィド、ジデシルテトラスルフィド、ジドデシルテトラスルフィド、ジオクタデシルテトラスルフィド、ジノナデシルテトラスルフィドなどが挙げられる。
【0074】
好ましい可塑剤としては、リン酸トリクレジル、黄色ワセリン及びジ−tert−ノニルペンタスルフィドである。
【0075】
これらの可塑剤は、単独で用いてもよく、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0076】
本発明の防汚塗料組成物は、溶出コントロール剤、展着樹脂、防汚薬剤やその他添加物を有機溶剤又は水に溶解又は混合分散して製造することができる。各成分の混合方法および各種添加剤の添加方法は、特に制限されるものではなく、種々の方法により行うことができ、混合順序および添加順序も種々の方法で行うことができる。
【0077】
5.防汚処理方法、
本発明は、本発明の防汚塗料組成物を、漁網具等に塗布することにより、水棲汚損生物の付着を防止し、優れた防汚性を発揮させる漁網具等の防汚処理方法も提供することができる。防汚塗料組成物の漁網具等への塗布方法は、たとえば浸漬塗装、吹きつけ塗装などの種々の塗装方法を適用することができるが、浸漬塗装が好ましい。付着量は、漁網の場合、漁網重量の1〜20重量%の範囲が好ましい。
【実施例】
【0078】
次に実施例をあげて本発明を詳細に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0079】
実施例1〜15及び比較例1〜6
表1及び表2に記載の配合成分を混合して、実施例1〜15及び比較例1〜6の防汚組成物を得た。表1及び表2における各成分の配合量は重量部数で示す。得られた防汚組成物について、つぎの試験を行った。
【0080】
【表1】

【0081】
【表2】

【0082】
1.試験例1(動物性汚損生物への防汚効果確認試験)
1−1.ヒドロ虫活性海域浸漬試験(福井県小浜)
表1記載の実施例1〜8及び比較例1〜3で得られた各防汚組成物を、ポリエチレン製の漁網(400デニール、40本、8節)に、浸漬塗布し2日間室温で乾燥した。このように防汚組成物を塗布し乾燥させた漁網を40×60cmSUSの枠に固定し、ヒドロ虫等の腔腸動物の活性の強い海域である福井県小浜の筏にて海中から水深約1mに垂下浸漬し、その防汚性能を8ヶ月間にわたって定期的に観測した。その結果を表3に示す。表中の数字は水棲汚損生物汚損生物の付着面積(%)を表す。
【0083】
【表3】

【0084】
【表4】

【0085】
1−2.フジツボ・セルプラ活性海域浸漬試験(広島県地御前)
表2記載の実施例9〜15及び比較例4〜6で得られた各漁網用防汚組成物を、ポリエチレン製の漁網(400デニール、40本、8節)に、浸漬塗布し2日間室温で乾燥した。このように漁網用防汚組成物を塗布し乾燥させた漁網を40×60cmSUSの枠に固定し、フジツボやセルプラ等の動物類の活性の強い海域である広島県地御前、の筏にて海中から水深約1mに垂下浸漬し、その防汚性能を8ヶ月間にわたって定期的に観測した。その結果を表4に示す。表中の数字は水棲汚損生物汚損生物の付着面積(%)を表す。
【0086】
表3と表4から明らかなように、本発明の変性シリコーンオイルを用いた実施例1〜15の防汚組成物と他のシリコーンオイルを使用した比較例1〜6の防汚組成物とでは、動物性汚損生物に対する防汚性能の比較で効果持続時間に差があり、本発明の変性シリコーンオイルを使用した防汚組成物が長期間にわたり優れた防汚効果を発揮していることが分かる。
また、表3と表4を参照すると、実施例1〜2,6〜10,14〜15では、8ヶ月経過後も動物性汚損生物が付着しなかったことが分かる。実施例1〜2,6〜10,14〜15は、何れも、変性シリコーンオイルとして、アラルキル−長鎖アルキル−ポリエーテル変性シリコーンオイルを用いたものであり、表3と表4の結果は、変性シリコーンオイルとしてはアラルキル−長鎖アルキル−ポリエーテル変性シリコーンオイルが最も好ましいことを示している。
【0087】
【表5】

【0088】
【表6】

【0089】
2.試験例2(防汚薬剤残存量確認試験)
実施例1〜15および比較例1〜6で得られた各防汚組成物を、2×2目にカットしたポリエチレン製の漁網(400デニール、40本、8節)に浸漬塗布した後、室温で24時間以上乾燥した。これを4セット作成した。このように防汚組成物を塗布した漁網を一定期間人工海水中に浸漬(エージング)し、2ヵ月後および4ヵ月後の各漁網について防汚薬剤の残存率(%)を機器分析により定量し、確認した。その結果を表5と表6に示す。
【0090】
2−1.エージング方法
樹脂製(ポリエチレンまたはポリプロピレン製)の60L容器に人工海水、八洲薬品(株)製「アクアマリン」をイオン交換水で調整し、PH8.1±2.0、塩分濃度30〜35‰、温度25±2℃の条件になるように管理した。また人工海水中に溶出した防汚薬剤が人工海水中で飽和状態にならないように活性炭カートリッジフィルターで吸着除去を行った。除去循環は1時間に容器内の人工海水が6〜8回入れ替わる流速で循環を行う。人工海水および活性炭カートリッジフィルターの交換は、少なくとも1ヶ月に1回行い各漁網の浸漬(エージング)を行った。
【0091】
2−2.防汚薬剤の残存率測定法
(1)2−メルカプトピリジンN−オキシド亜鉛の残存量測定
表1の実施例1〜5、7および比較例1〜3で得られた各防汚組成物を塗布した各漁網を人工海水中から引き上げ水洗いし、乾燥させた各漁網を100mlマヨネーズ瓶に入れ、ジクロロメタンを加え、超音波洗浄器にて残存塗膜を溶解させた後、アセトニトリルで所定濃度に希釈し、HPLCにて2−メルカプトピリジンN−オキシド亜鉛の残存量を測定し残存率(%)を算出した。
【0092】
(2)ビスジメチルジチオカルバモイルエチレンビスジチオカーバメートの残存量測定
表1の実施例1〜7および比較例1〜3で得られた各防汚組成物を塗布した各漁網を人工海水中から引き上げ水洗いし、乾燥させた各漁網を100mlマヨネーズ瓶に入れ、アセトンを加え超音波洗浄器にて残存塗膜を溶解し、更に35%塩酸を加え湿式分解させた後、下層部を1規定塩酸で所定濃度に希釈し原子吸光フレーム分析を行い、全残存亜鉛量を求めた。全残存亜鉛量から上記で得られた2−メルカプトピリジンN−オキシド亜鉛の残存亜鉛量を差し引き、亜鉛量の算出からビスジメチルジチオカルバモイルエチレンビスジチオカーバメートの残存率(%)を算出した。
【0093】
(3)ピリジン・トリフェニルボロンの残存量測定
表1の実施例8で得られた防汚組成物を塗布した漁網を人工海水中から引き上げ水洗いし、乾燥させた漁網を100mlマヨネーズ瓶に入れ、そこに一定量のキシレンを添加し超音波洗浄器にて残存塗膜を溶解させた。その溶液を、メタノール/水=70/30(wt/wt)、0.1wt%エタノールアミン含有のHPLC移動相で所定濃度に希釈し、HPLC絶対検量線法にて分析を行い、漁網当たりのピリジン・トリフェニルボロンの残存率(%)を算出した。
【0094】
(4)2−メルカプトピリジンN−オキシド銅の残存量測定
表2の実施例9〜13、15および比較例4〜6で得られた各防汚組成物を塗布した各漁網を人工海水中から引き上げ水洗いし、乾燥させた各漁網を100mlマヨネーズ瓶に入れ、ジクロロメタンを加え、超音波洗浄器にて残存塗膜を溶解させた後、アセトニトリルで所定濃度に希釈しHPLCにて2−メルカプトピリジンN−オキシド銅の残存量を測定し残存率(%)を算出した。
【0095】
(5)亜酸化銅(銅粉)の残存量測定
表2の実施例9〜15および比較例4〜6で得られた各防汚組成物を塗布した各漁網を人工海水中から引き上げ水洗いし、乾燥させた各漁網を100mlマヨネーズ瓶に入れ、キシレンを加え超音波洗浄器にて残存塗膜を溶解し、更に35%硝酸を加え湿式分解させた下層部を0.1mol/L硝酸で所定濃度に希釈し原子吸光フレーム分析を行い各漁網当りの全残存銅量を求める。全残存銅量から上記で得られた2−メルカプトピリジンN−オキシド銅の銅量を差し引き、銅量のから亜酸化銅残存(%)を算出した。
なお、実施例14および15については、全残存銅量から上記で得られた2−メルカプトピリジンN−オキシド銅の銅量を差し引いた銅量を、亜酸化銅と銅粉の合計残存量として扱い、その残存(%)を算出した。
【0096】
表5と表6から明らかなように、本発明の変性シリコーンオイルを用いた実施例1〜15の防汚組成物と、他のシリコーンオイルを使用した比較例1〜6の防汚組成物とでは、防汚薬剤の残存率(%)の値に顕著な差があることがわかり、本発明の変性シリコーンオイルを使用した防汚組成物において、防汚薬剤の溶出コントロールが良好に行われ、設計通りに長期間防汚効果を発揮できていることが分かる。
また、実施例1と実施例6、実施例2と実施例7、実施例9と実施例14、実施例10と実施例15をそれぞれ比較すると、ポリオレフィン類を含む前者では、ポリオレフィン類を含まない後者よりも防汚薬剤の残存率が高いことが分かる。この結果は、ポリオレフィン類を含ませることによって防汚効果の持続期間を延ばすことができることを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
〔A〕ジメチルシリコーンオイルの側鎖のメチル基の一部が1種又は2種以上の有機基で置換されている変性シリコーンオイル(a−1)の1種又は2種以上を含む溶出コントロール剤と、
〔B〕展着樹脂と、
〔C〕亜酸化銅、銅粉、2−メルカプトピリジンN−オキシド銅、2−メルカプトピリジンN−オキシド亜鉛、ビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメート、ピリジン・トリフェニルボロンからなる群から選ばれる1種又は2種以上を含む防汚薬剤を含み、
前記変性シリコーンオイル(a−1)は、前記展着樹脂〔B〕100重量部に対して0.5〜50重量部含まれ、前記防汚薬剤〔C〕は、前記展着樹脂〔B〕100重量部に対して1〜200重量部含まれ、
前記有機基は、アラルキル基と炭素原子数が6以上のアルキル基の少なくとも一方を含み且つポリエーテル基を任意的に含むことを特徴とする防汚塗料組成物。
【請求項2】
前記有機基は、アラルキル基、炭素原子数が6以上のアルキル基、アラルキル基と炭素原子数が6以上のアルキル基の両方、又はアラルキル基と炭素原子数が6以上のアルキル基とポリエーテル基の全部からなる請求項1に記載の防汚塗料組成物。
【請求項3】
前記変性シリコーンオイル(a−1)の親水性親油性バランス(HLB)が0以上2未満である請求項1又は2に記載の防汚塗料組成物。
【請求項4】
前記溶出コントロール剤〔A〕として、ポリオレフィン類(a−2)の1種又は2種以上をさらに含み、前記ポリオレフィン類(a−2)は、前記変性シリコーンオイル(a−1)100重量部に対して1〜1000重量部含まれる請求項1〜3の何れか1つに記載の防汚塗料組成物。
【請求項5】
前記ポリオレフィン類(a−2)が、ポリブテン類、エチレン−α−オレフィン類の群から選ばれる1種又は2種以上である請求項1〜4の何れか1つに記載の防汚塗料組成物。
【請求項6】
前記展着樹脂〔B〕が、ガラス転移温度−40〜40℃の(メタ)アクリル酸エステル共重合体である請求項1〜5の何れか1つに記載の防汚塗料組成物。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1つに記載の防汚塗料組成物を用いて被塗膜形成物の表面に防汚塗膜を形成する防汚処理方法。
【請求項8】
請求項1〜6の何れか1つに記載の防汚塗料組成物を用いて形成される防汚塗膜。
【請求項9】
請求項8に記載の防汚塗膜を表面に有する漁網、漁網用具及び水中構築物。

【公開番号】特開2009−203342(P2009−203342A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−46632(P2008−46632)
【出願日】平成20年2月27日(2008.2.27)
【出願人】(591240124)カナヱ塗料株式会社 (5)
【出願人】(000227342)日東化成株式会社 (28)
【Fターム(参考)】