説明

防汚塗膜およびそれで被覆された防汚性を有する家電筐体および便座

【課題】基材がポリプロピレン(以下、PPと記載)の場合、PPは反応点を有しないため、従来の防汚塗料では密着性が悪いという課題があった。
【解決手段】ポリプロピレン1の表面上はプライマー層3とトップコート層6との2層の塗膜で構成され、プライマー層3は非結晶性ポリプロピレンを変性させた変性ポリプロピレン分子4を含有し、トップコート層6には少なくともシリコーン成分9を含有する防汚塗膜とするもので、変性ポリプロピレン(以下、変性PPと記載)はPPの一部にマレイン酸やオレイン酸などのカルボン酸を導入したもので、反応性を有するカルボキシル基を持つため、防汚性を有するトップコート層と反応することで強固な密着を作り、一方、非結晶性変性PPの一部が基材となるPPと相溶するため、プライマー層と基材とも強固な密着を作ることで防汚性を付与したPP製の家電筐体や便座を実現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリプロピレン製の家電筐体や便座表面を保護するとともに防汚性を付与することができる防汚塗膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来は、自動車用防汚塗料や、船舶、港湾施設、パイプライン、橋梁などの水中構造物は、その防汚塗料として、シリコーン成分を含むポリウレタン塗料などを用いて、防汚性を有する塗膜を形成させていた。また、ポリプロピレン製の便座では、ポリプロピレン樹脂に混練によりシリコーン成分を含有させたり、ポリプロピレン樹脂表面にフッ素樹脂のような低表面エネルギーの樹脂フィルムを張り付けたりし、防汚性を付与していた。
【0003】
また、特許文献1によると、湿気硬化性シリコーンオリゴマーと酸化触媒とを含有するコーティング剤を用いて、鉛筆硬度4H以上の硬度の塗膜を形成させることを開示している。
【0004】
また、特許文献2によると、シリコーン成分を含有するウレタン系塗料を用いて、水中構造物表面に防汚塗膜を形成する方法を開示している。そして、この中で、ウレタン系塗料を塗布する前にエポキシ系の下塗りプライマー塗膜を設けることを推奨している。
【0005】
また、特許文献3によると、シリコーン樹脂やフッ素樹脂などの低表面エネルギー層(フィルム)を便座表面へ設けることで防汚性を高めた便座を実現している。
【特許文献1】特開2007−70606号公報
【特許文献2】特開2006−45339号公報
【特許文献3】特許第3838371号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来技術において、水中構造物は金属、金属酸化物、反応点を有する樹脂などであるため、プライマー層がなくても塗膜と基材とが化学反応で結合するので密着性に問題がなく、また自動車用塗料ではホイールなどの金属面へ塗装した塗膜の密着性に問題はないが、ポリプロピレン製バンパーへの塗膜など、基材がポリプロピレン(以下、PPと記載)となると、PPは反応点を有しないため、従来の防汚塗料では密着性が悪いという課題があった。そして、同様にエポキシ系プライマーとPPとの密着性も悪いため、エポキシ系プライマーを用いても課題解決にはつながらなかった。
【0007】
また、特許文献3のように樹脂フィルムを基材と一体成型することで得られた防汚塗膜は、基材がPPの場合、樹脂フィルムがPPである場合を除いては密着性が弱く、特に、切り傷があるとその箇所から剥がれてしまうという課題があった。そして、樹脂フィルムがフッ素樹脂フィルムの場合、油性成分が染み込んでしまい、長期間放置すると黄ばみ汚れの原因となるという課題もあった。
【0008】
上記従来の技術の課題に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、基材となるポリプロピレンとの密着性が高く、かつ汚れの付きにくい防汚塗膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、このような課題を解決するものであり、ポリプロピレン表面上にプライマー層とトップコート層との2層の塗膜で構成され、前記プライマー層は非結晶性ポリプロピ
レンを変性させた変性ポリプロピレンを含有し、前記トップコート層には少なくともシリコーン成分を含有する防汚塗膜とするもので、変性ポリプロピレン(以下、変性PPと記載)はPPの一部にマレイン酸やオレイン酸などのカルボン酸を導入したもので、反応性を有するカルボキシル基を持つため、防汚性を有するトップコート層と反応することで強固な密着を作り、一方、変性PPの一部が基材となるPPと相溶し、特に変性PPの結晶性が小さいほど基材となるPPに侵入しやすいため、プライマー層と基材とも強固な密着を作ることでPPとの密着性が高い防汚塗膜を実現でき、さらにそれを用いて防汚性を付与したPP製の家電筐体や便座を実現することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の防汚塗膜は、PPに密着性の高い、そして汚れの付きにくい防汚性塗膜を形成することができる。
【0011】
また、この形成した塗膜により表面への傷突きを防止することができる。さらには、PPに光沢感やツヤを付与することで意匠性を向上させることができる。請求項9記載の発明によると、PP製の筐体に防汚性を付与することができ、コーヒー、お茶、味噌汁など食品由来の汚れが付きにくく、また付いても除去しやすい防汚性の高い炊飯器、電気湯沸かし器などを実現することができる。請求項10記載の発明によると、PP製の便座に防汚性を付与することができ、防汚性の高い便座を実現することができる。特に、便座の裏には尿などの跳ね返りが飛散するが、乾いたトイレットペーパーで簡単に汚れを取り除くことができ、掃除の手間を省けるという効果がある。また、便座裏に付着した尿などに気付かずに放置され、それが乾燥してしまった汚れに対しても、軽い力で簡単に取り除くことができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
第1の発明は、ポリプロピレン表面上にプライマー層とトップコート層との2層の塗膜で構成され、前記プライマー層は非結晶性ポリプロピレンを変性させた変性ポリプロピレンを含有し、前記トップコート層には少なくともシリコーン成分を含有する防汚塗膜とするものである。
【0013】
これにより、変性ポリプロピレン(以下、変性PPと記載)はPPの一部にマレイン酸やオレイン酸などのカルボン酸を導入したもので、反応性を有するカルボキシル基を持つため、防汚性を有するトップコート層と反応することで強固な密着を作り、一方、変性PPの一部が基材となるPPと相溶し、特に変性PPの結晶性が小さいほど基材となるPPに侵入しやすいため、プライマー層と基材とも強固な密着を作ることでPPとの密着性が高い防汚塗膜を実現でき、さらにそれを用いて防汚性を付与したPP製の家電筐体や便座を実現することができる。
【0014】
第2の発明は、特に、第1の発明のトップコート層はシリコーン成分を含有するアクリル系塗料もしくはウレタン系塗料もしくはそれらの混合塗料から形成されるもので、アクリルやウレタンはプライマー層のカルボキシル基と強固に結合を作り、一方、シリコーン成分をトップ層表面にブリードさせることができるため、高い防汚性と密着性とを両立させた防汚塗膜を実現することができる。
【0015】
第3の発明は、特に、第1の発明または第2の発明のトップコート層はフッ素成分を含有するもので、トップコート層を擦り続けると表面にブリードしたシリコーン成分が剥がれ防汚性が悪化するが、フッ素成分を含有させることにより摺動性を向上させることができ、トップコート層の防汚性における耐摩耗性を向上させた防汚塗膜を実現することができる。
【0016】
第4の発明は、特に、第3の発明のフッ素成分はフッ素樹脂の粒子であるので、簡便かつ低コストでトップコート層の防汚性の耐摩耗性を向上させた防汚塗膜を実現することができる。
【0017】
第5の発明は、特に、第4の発明のフッ素樹脂は4フッ化ポリエチレンであるので、4フッ化ポリエチレン(以下、PTFEと記載)はフッ素樹脂の中で最も防汚性が高く、トップコート層の摺動性を向上させると同時にPTFEも高い防汚性を有するため、防汚性が高くかつ耐摩耗性の高い防汚塗膜を実現することができる。
【0018】
第6の発明は、特に、第4の発明のフッ素樹脂の粒子の代表径はトップコートの膜厚より大きいとするもので、フッ素樹脂の粒子はトップコート層表面から食み出しており、布などでトップコート層を擦った場合、布がブリードしたシリコーン成分に接触することが少なくなるため剥がれにくくなり、トップコート層の防汚性の耐摩耗性を向上させた防汚塗膜を実現することができる。
【0019】
第7の発明は、特に、第1の発明のプライマー層は可視光線を50%以上透過するもので、基材であるPPの色や模様などを反映させた防汚塗膜を実現することができる。
【0020】
第8の発明は、特に、第1の発明の変性ポリプロピレンは少なくとも完全非結晶性ポリプロピレンを変性させた変性ポリプロピレンを含むもので、変性PPの一部が基材となるPPと相溶し、特に変性PPの結晶性が小さいほど基材となるPPに侵入しやすいため、プライマー層と基材とも強固な密着を作ることができるのだが、これまでは完全非結晶性ポリプロピレンを作ることができなかったが、近年メタロセン触媒の実用化が進み完全非結晶性のポリプロピレンを作ることができるようになったため、それをプライマー層とすることで、さらにPPとの密着性が高い防汚塗膜を実現できる。
【0021】
第9の発明は、特に、第1〜第3のいずれか1つの発明または第6の発明のトップコート層に抗菌剤を含むもので、防汚性に加えて抗菌性を付与することができ、特に便座などへ応用した場合に抗菌性と防汚性をあわせ持つクリーンな便座を実現することができる。
【0022】
第10の発明は、第1〜第9のいずれか1つの発明に記載の防汚塗膜に被覆された防汚性を有する家電筐体とするもので、PP製の筐体に防汚性を付与することができ、防汚性の高い炊飯器、電気湯沸かし器などを実現することができる。
【0023】
第11の発明は、特に、第1〜第9のいずれか1つの発明に記載の防汚塗膜に被覆された防汚性を有する便座とするもので、PP製の便座に防汚性を付与することができ、防汚性の高い便座を実現することができる。
【0024】
本発明の目的は、第1の発明から第11の発明を実施の形態の要部とすることにより達成できるので、各請求項に対応する実施の形態の詳細を、以下に図面を参照しながら説明し、本発明を実施するための最良の形態の説明とする。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0025】
(実施の形態1)
図1は、本発明の第1の実施の形態における防汚塗膜の模式断面図である。基材となるポリプロピレン(以下、PPと記載)1は、PP分子2からなり、その表面上にプライマー層3が塗膜してある。プライマー層3は、塩素化PPあるいはPPの一部にマレイン酸やオレイン酸などのカルボン酸を導入した変性PPからなるが、塩素化PPを用いた場合、塩素が脱離し遊離してしまい、周りの金属などを腐食させる可能性があるので、変性PPからなるものが望ましい。
【0026】
したがって、プライマー層3は変性PP分子4からなり、その一部がPP表面5からPP1内部へ侵入し、PP分子2と絡み合うことで密着性を発揮する。よって、変性PPは結晶部分が少ない変性PPの方がPP1内部へ侵入しやすいため、非結晶性PPを使うことが望ましい。
【0027】
また、これまでの非結晶性PPは、チグラー・ナッタ触媒を用いて作るアタクチックPPであったが、結晶部分が残ってしまい完全非結晶のPPを実現することができなかった。しかしながら、変性PPの基になるPPを、メタロセン触媒を用いて作製したものは、分子構造の制御がしやすく、結晶部分のない完全非結晶性のPPを作製することができる。この完全非結晶性PPをカルボン酸変性させることで得られる変性PPは、結晶部分がないため、PP1内部へ侵入することがさらに容易で、非常に強力な密着性が得られる。
【0028】
また、トップコート層6はシリコーン成分9を含むアクリル樹脂あるいはウレタン樹脂からなり、例えばアクリル分子8がプライマー層表面7で変性PPの極性基と化学反応により結合し、高い密着性を維持している。なお、比較的多くのシリコーン成分9がトップコート層6の表面近傍にブリードしているが、トップコート層6内部に残っているシリコーン成分9もある。
【0029】
上記防汚塗膜の作製方法について記載する。PP製の基材1に、トルエン、メチルシクロヘキサン、酢酸エチルなどの有機溶剤に、非結晶性の変性PPあるいは塩素化PPを溶かした一般にプライマーと称される塗料を塗り、有機溶剤を蒸発乾燥させ、プライマー層を作製することができる。厳密には、プライマー層に含まれる変性PPの分子量や変性率、変性させるために用いたカルボン酸の種類、変性前のPPの違いなどによって、PPとの密着性やトップコート層との密着性が変わってくる。
【0030】
変性前のPPの結晶性の低い方が基材のPP1との密着性が向上し、また変性率の高い方がトップコート層6との密着性が向上する。また、焼成温度や時間などによって密着性が変化する。プライマー層の塗布後、常温から40℃程度で数分間乾燥させ、その後トップコート層6を塗布することが望ましい。また、プライマー層3の種類によってはウェットオンウェットが可能なものもある。
【0031】
プライマー層3をPP1の表面上に塗布すると、変性PPを溶かした有機溶剤の一部がPP1に染み込み、有機溶剤が乾燥すると、上述したように変性PP分子4がPP分子2に絡み合い、PP1とプライマー層3とが密着した状態となる。塗布方法は、ディップ、スプレー、スピンコーター、スクリーン印刷、ローラー塗り、ハケ塗りなどが可能で、特に限定されるものではない。膜厚も特に限定されるものではないが、1μm〜20μm程度が望ましい。薄すぎても厚すぎても、密着力が低下する原因となる。
【0032】
次に、トップコート層6を形成するために、アクリルシリコーン系塗料あるいはウレタンシリコーン系塗料など、防汚性をもつシリコーン成分を含有し、かつ変性PP分子4の極性基と反応する樹脂成分を含有する塗料を用いる。本実施の形態1では、アクリルシリコーン系塗料を用いた。プライマー層3の上から、アクリルシリコーン系塗料を塗布し、有機溶剤を蒸発乾燥させる。その後、シリコーン成分9をトップコート層6の表面にブリードさせるためにエージングさせる。
【0033】
エージング条件は、アクリルシリコーン系塗料によっても違うが、100℃程度の温度で1〜2時間程度が望ましい。このとき、プライマー層3の焼成も同時に行われ、PP1との密着性も向上する。また、アクリル分子8と変性PP分子4との反応も進み、プライマー層3とトップコート層6との密着力が向上する。
【0034】
塗布方法は、ディップ、スプレー、スピンコーター、スクリーン印刷、ローラー塗り、ハケ塗りなどが可能で、特に限定されるものではない。膜厚も特に限定されるものではないが、1μm〜30μm程度が望ましい。これもプライマー層3同様に、薄すぎても厚すぎても密着力が低下することとなる。
【0035】
防汚性について説明する。本発明で示す防汚とは、水やアルコールあるいは油や有機溶剤などに固形物が溶解もしくは分散している汚れを付着しにくくする、もしくは付着した汚れを除去しやすくする、もしくは液体が乾燥することで溶解または分散していた固形物が析出した乾燥汚れを除去しやすくするというものである。このような汚れとしては、コーヒー、お茶、味噌汁、油、醤油、ドレッシング、野菜汁、果汁などの食品由来の汚れやマジック、ペンキなどの汚れ、あるいは糞便や尿の汚れなどが挙げられ、本発明の防汚塗膜はこれらの汚れに対して高い防汚効果を示し、特に乾燥汚れを乾拭きで拭き取る場合に高い効果を発揮する。
【0036】
防汚の原理は、シリコーン成分やフッ素成分の撥水性、撥油性を利用したものである。撥水・撥油性を有しており、水やアルコールあるいは油や有機溶剤などをはじくため汚れは付着しにくくなり、また付着した汚れも除去しやすい。また、汚れの液体が乾燥し溶解もしくは分散していた固形分が汚れとして付着したものは、固形分が無機物の場合、撥水性であると結合力が小さくなり、固形分が有機物の場合、撥油性であると結合力が小さくなり除去しやすくなる。フッ素成分は、撥水性と同時に撥油性も有しているので、フッ素成分を添加することで様々な汚れに対して防汚性を発揮できる。
【0037】
このようにして作製した防汚塗膜は、PPとの密着性が高く、コーヒー、お茶、味噌汁など食品由来の汚れやマジック、ペンキなどの汚れ、あるいは糞便や尿の汚れなどを付きにくくし、また付いて乾燥しても除去しやすくするなどの高い防汚効果を有し、炊飯器やジャーポットなどの筐体、あるいは便座などPP製で防汚効果が求められる様々な製品や部品に用いることができる。
【0038】
なお、上記実施の形態では塗布したプライマー層3及びトップコート層6は、それぞれ強制的に乾燥させる形態としたが、常温による自然乾燥の形態でも、乾燥時間が長くなることを除き、実質的に本実施の形態と同等の作用効果を期待できるものである。
【0039】
(実施の形態2)
図2は、本発明の第2の実施の形態における防汚塗膜の模式断面図である。基材のPP11、プライマー層12は実施の形態1の発明と同様であり、またトップコート層13とプライマー層12との密着原理、シリコーン成分14の一部がトップコート層13表面にブリードしている状態も実施の形態1の発明と同様である。したがって、図1に示すPP分子2、変性PP分子4、アクリル分子8についても図2では図示するのを省略している。また、本実施の形態における防汚塗膜の作製方法は、上記した実施の形態1の発明における防汚塗膜の作製方法と同様なので詳細な説明を省略する。
【0040】
トップコート層13には、その膜厚より大きな代表径のフッ素樹脂の粒子15を含有させている。フッ素樹脂の種類は、PTFE、4フッ化ポリエチレン−パーフルオロビニルエーテル共重合体(以下、PFAと記載)、4フッ化ポリエチレン−6フッ化ポリプロピレン共重合体(以下、FEPと記載)、4フッ化ポリエチレン−ポリエチレン共重合体(以下、ETFEと記載)、ポリビニリデンフルオライド(以下、PVDFと記載)などが使用でき、表面自由エネルギーが小さいPTFEを用いることが望ましい。
【0041】
これは表面自由エネルギーが小さいほど、撥水性・撥油性が大きくなるからである。添
加量としては、トップコート層13の1〜20wt%が望ましく、少ないと耐摩耗性の向上が小さく、多いとトップコート層13が白濁するため、基材となるPP11の色や模様を反映させることができない。また、フッ素樹脂含有量が多いと、密着力が低下する原因ともなる。特に、基材となるPP11の色や模様を反映させようとする場合、5wt%以下の添加量が望ましい。
【0042】
なお、フッ素樹脂の粒子の形状は、球状に限定されるものではない。また、トップコート層13の厚みより、さらに微細なフッ素樹脂の粒子やフッ素オイル、フッ素成分のモノマーあるいはオリゴマーのような形でもフッ素成分を添加することが可能で、これにより防汚性を向上させることもできるが、耐摩耗性は、トップコート層13の厚みより大きな代表径のフッ素樹脂の粒子を添加したほどの効果はない。
【0043】
トップコート層13には、抗菌剤16を添加している。抗菌剤は、ワサビなどの有機系のものや、銀・亜鉛・銅などの無機系のものがあるが、有機系のものは防汚塗膜成形時に有機溶剤で変質してしまう可能性あるので本発明では無機系のものが望ましい。無機系の抗菌剤としては、東亞合成社製の銀系無機抗菌剤である商品名、「ノバロン」やシナネンゼオミック社製の向き抗菌剤である商品名、「ゼオミック」などが挙げられ、これらは防カビ効果も期待できる。なお、抗菌剤はこれらに限定されるものではなく、トップコート層13に分散し、抗菌効果が発揮できるものであればよい。
【0044】
次に耐摩耗性について説明する。汚れが防汚塗膜に付着した場合、布、雑巾、タオル、紙などの拭き取り物で拭き取るが、汚れと拭き取り物との両方とも乾燥している場合、拭き取り物がトップコート層13表面の汚れが付着していない箇所も擦ることになり、シリコーン成分14が剥ぎ取られることとなる。
【0045】
しかしながら、本実施の形態では図2のようにトップコート層13表面の多くの場所でフッ素樹脂の粒子15が食み出している場合、拭き取り物で擦っても摺動性の高いフッ素樹脂の粒子15にあたり、汚れが付着していないシリコーン成分14にはあたりにくくなり、剥がれにくい。したがって、耐摩耗性が向上することとなる。
【0046】
このようにして作製した防汚塗膜は、PPとの密着性が高く、コーヒー、お茶、味噌汁などの食品由来の汚れやマジック、ペンキなどの汚れ、あるいは糞便や尿の汚れなどを付きにくくし、また付いて乾燥しても除去しやすくするなどの高い防汚効果を有し、かつ耐摩耗性が高く、家庭用の電気炊飯器や電気ジャーポットなどの筐体、あるいは便座などPP製で防汚効果が求められる様々な製品や部品に用いることができる。
【0047】
(実施の形態3)
図3は、本発明の第3の実施の形態における洋式トイレの外観模式図である。洋式トイレは、使用者が座るための便座21が便器22の上部に設置され、開閉できる便蓋23等から構成されている。なお、便器22上部に設置される便座21は、用便後の人体の局部に温水の洗浄水をノズルから噴射して洗う洗浄機能、前記洗浄後の濡れた局部を乾燥させる乾燥機能、トイレ室等の匂いを吸引して清浄化する脱臭機能等を有する温水洗浄便座であっても良い。その場合、水道から洗浄水の供給を受けるための給水配管(図示せず)および壁面のコンセントから電源供給を受けるための電気ケーブル(図示せず)が備えてある。
【0048】
便座21は、座る人の荷重に耐えたり、酸・アルカリ・アルコール等を含むトイレ用洗剤に耐えたりできるよう、PP製であることが多い。
【0049】
PPは一般的に防汚性に優れるが、油脂成分をよく染み込んでしまうという欠点がある
。よって、便座21、特に裏側の普段目立たないところに尿や便等が付着すると、その油脂成分が染み込み、黄ばみ汚れの原因となる。また、それら汚れが乾いてしまうと、乾拭きでは除去しにくいという問題もある。
【0050】
本実施の形態では、予めデザインした形に成形されたPP製の便座21の表面(全体の外面)に、実施の形態1の発明で説明した防汚塗膜を塗膜する。したがって、実施の形態1の図1を利用して防汚塗膜を形成する説明を行う。すなわち、PP製の便座21の表面に完全非結晶性PPに無水マレイン酸を2%変性させた変性PP分子4を主成分とするプライマー層3となる塗料をスプレーで塗布し、常温で10分間乾燥後、トップコート層6となるシリコーン成分9を含むアクリル樹脂あるいはウレタン樹脂からなり、例えばアクリル分子8がプライマー層表面7で変性PPの極性基と化学反応により結合し、高い密着性を維持する2液型のアクリルシリコーン系塗料を塗り、100℃で60分間乾燥、エージングを行い、防汚塗膜を形成させた。なお、便座21は曲面や出っ張り部分などがあるため、塗布方法はスプレーもしくはディップが望ましく、これらの方法により均一に斑なく塗布することができる。
【0051】
次に、防汚性について記述する。使用者が便座21に座り、小便あるいは大便を行うと、その跳ね返りが便座21の裏に付着する。また、温水洗浄便座の場合、大便の後お尻を洗浄することにより便を含んだ温水が便座21の裏に付着する。また、シリコーン成分は撥水性であるため、これら汚れを着きにくくし、あるいは付いても汚れが濡れ広がらない。
【0052】
したがって、この状態ではトイレットペーパーで容易に拭き取ることが可能となる。また、便座21の裏側は見えにくく、このような汚れが放置されて乾燥し、便座21に固着してしまうことがある。このような場合でも、油脂成分の染み込みがなく、シリコーン成分と汚れとの結合力が小さいため、トイレットペーパーによる乾拭きや濡れ雑巾等で簡単に取り除くことができる。
【0053】
さらには、トップコート層6はシリコーン成分9を含み、硬度がPPより硬いため、便座21の傷付きを防ぐことができる。特に、便座21の表面は、使用者が使用前にトイレットペーパーで拭いたり、ベルトなどが当たったりするため傷が付きやすいが、本発明の防汚塗膜により、これを回避することができる。そのため、傷に汚れが入り込むことがなく、汚れを付きにくくし、また付いても除去しやすくする。
【0054】
なお、本実施の形態ではトップコート層6にシリコーン成分のみを含んでいるものについて記載したが、フッ素樹脂を含有させることにより、実施の形態2で記載したようにさらに耐摩耗性の高い便座も実現できる。また、トップコート層6に抗菌剤を含有させることにより、抗菌性と防汚性をあわせ持つ便座を実現できる。
【0055】
また、本実施の形態では洋式トイレの便座においてのみ防汚性について記述したが、基材がPPであれば特に限定するものではなく、便器22の後部上面に横長に載せ、かつ便座21、便蓋23の後端部を取り付け開閉自在にした細横長のケーシング内に上記した洗浄機能、乾燥機能、脱臭機能の構成部品を内蔵した温水洗浄便座本体24、便器22、便蓋23、温水洗浄便座を制御するリモコン(図示なし)、洗浄水を噴射するノズル(図示なし)などにも適用可能で、特に人為的なメンテナンスを行うことが困難な洗浄水を噴射するノズルに適用した場合、使用後毎回ノズルに付着した汚れを少ない水流により洗浄することが可能となり、清潔性を高めたノズルを実現できる。
【0056】
このようにして作製した洋式トイレの便座は、糞便や尿の汚れなどを付きにくくし、また付いて乾燥しても除去しやすくするなどの高い防汚効果を有する。なお、本実施の形態
では、便座に実施の形態1で説明した防汚塗膜を被覆した例について説明したが、同じように実施の形態2で説明した防汚塗膜も便座、そして温水洗浄便座本体24、便器22、便蓋23、温水洗浄便座を制御するリモコン、洗浄水を噴出するノズルなどにも適用でき、本実施の形態と同等の作用効果を期待できるものである。
【実施例】
【0057】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明のさらなる詳細を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0058】
(実施例1)
プライムポリマー社製の高結晶グレードのPPを射出成型で長さ10cm、幅5cm、厚さ3mmの板を作製し、基材として用いた。次に、酸価55mgKOH/gのカルボン酸変性PPを固形分濃度5〜9wt%でトルエンに溶解させたプライマー塗料をPPにハケ塗り後、40℃で30分間乾燥させた。さらに、トップコートとして落書防止塗料として販売されている2液型のアクリルシリコーン系塗料をプライマーの上にハケ塗りし、100℃で60分間乾燥・焼成させた。プライマー層は、約10μmで、トップコート層は約20μmであった。
【0059】
(実施例2)
プライムポリマー社製の高結晶グレードのPPを射出成型で長さ10cm、幅5cm、厚さ3mmの板を作製し、基材として用いた。次に、塩素含有率24.5%の塩素化PPを固形分濃度10wt%でメチルシクロヘキサンとトルエンに溶解させたプライマー塗料をPPにハケ塗り後、40℃で30分間乾燥させた。さらに、トップコート層として落書防止塗料として販売されている2液型のアクリルシリコーン系塗料をプライマーの上にハケ塗りし、100℃で60分間乾燥・焼成させた。プライマー層は、約10μmで、トップコート層は約20μmであった。
【0060】
(実施例3)
プライムポリマー社製の高結晶グレードのPPを射出成型で長さ10cm、幅5cm、厚さ3mmの板を作製し、基材として用いた。次に、酸価55mgKOH/gのカルボン酸変性PPを固形分濃度5〜9wt%でトルエンに溶解させたプライマー塗料をPPにハケ塗り後、40℃で30分間乾燥させた。さらに、トップコート層として落書防止塗料として販売されている2液型のアクリルシリコーン系塗料に、平均粒子径が30μmのPTFE粒子を塗料固形分の5wt%添加し、均一分散させたものをプライマーの上にハケ塗りし、100℃で60分間乾燥・焼成させた。プライマー層は、約10μmで、トップコート層は約20μmであった。
【0061】
(実施例4)
プライムポリマー社製の高結晶グレードのPPを射出成型で長さ10cm、幅5cm、厚さ3mmの板を作製し、基材として用いた。次に、酸価55mgKOH/gのカルボン酸変性PPを固形分濃度5〜9wt%でトルエンに溶解させたプライマー塗料をPPにハケ塗り後、40℃で30分間乾燥させた。さらに、トップコート層として落書防止塗料として販売されている2液型のアクリルシリコーン系塗料に、平均粒子径が10μmのPTFE粒子を塗料固形分の5wt%添加し、均一分散させたものをプライマー層の上にハケ塗りし、100℃で60分間乾燥・焼成させた。プライマー層は、約10μmで、トップコート層は約20μmであった。
【0062】
(実施例5)
プライムポリマー社製の高結晶グレードのPPを射出成型で長さ10cm、幅5cm、厚さ3mmの板を作製し、基材として用いた。次に、酸価55mgKOH/gのカルボン
酸変性PPを固形分濃度5〜9wt%でトルエンに溶解させたプライマー塗料をPPにハケ塗り後、40℃で30分間乾燥させた。さらに、トップコート層として落書防止塗料として販売されている2液型のアクリルシリコーン系塗料に、平均粒子径が30μmのPTFE粒子を塗料固形分の30wt%添加し、均一分散させたものをプライマー層の上にハケ塗りし、100℃で60分間乾燥・焼成させた。プライマー層は、約10μmで、トップコート層は約20μmであった。
【0063】
(比較例1)
プライムポリマー社製の高結晶グレードのPPを射出成型で長さ10cm、幅5cm、厚さ3mmの板を作製し、サンプルとした。
【0064】
(比較例2)
プライムポリマー社製の高結晶グレードのPPを射出成型で長さ10cm、幅5cm、厚さ3mmの板を作製し、基材として用いた。トップコート層として落書防止塗料として販売されている2液型のアクリルシリコーン系塗料をプライマーの上にハケ塗りし、100℃で60分間乾燥・焼成させた。トップコート層は約20μmであった。
【0065】
実施例1、実施例2、実施例3、実施例4、実施例5、比較例1、比較例2について、2つの防汚性試験および密着性試験および耐摩耗試験を行った。防汚性試験1の手順は下記のとおりである。
(1)、市販のコーヒー粉末1gを水500gに分散させ、各種サンプルにスポイトで1滴ずつ垂らし、40℃で60分間乾燥させ、汚れを作製した。
(2)、市販のトイレットペーパーを用いて、1kgの荷重で汚れの上を往復運動させ、10回以内に完全除去できたものを「○」、10〜30回で完全除去できたものを「△」、完全除去するために30回以上のものを「×」とした。
【0066】
防汚性試験2の手順は下記のとおりである。
(1)、市販の油性マジックを用いて、各種サンプルの中央に長さ3cmの直線を引いた。
(2)、市販のティッシュペーパーを用いて拭き取りを行った。完全除去できるものを「○」、完全除去もできないものを「×」とした。
【0067】
密着性試験の手順は下記のとおりである。
(1)、各種サンプルにカッターを用いて1mm間隔の格子を100個作製した。
(2)、市販の薄い粘着テープを格子の上から貼り付け、素早く引き剥がした。塗膜の残っている格子の数を結果として示した。
【0068】
耐摩耗試験の手順は以下のとおりである。市販のトイレットペーパーを用いて、600gの荷重で防汚塗膜上を往復運動させ、市販の油性マジックがはじかなくなる回数を結果として示した。
【0069】
以上の結果を表1に示す。
【0070】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0071】
以上のように、本発明にかかる防汚塗膜はPPに密着性の高い防汚性塗膜を形成することができ、この形成した塗膜により表面への傷突きを防止することができるため、防汚性の高い炊飯器、電気湯沸かし器、便座などを実現することができる。また、家電以外でもバンパーなどの自動車用部品や船舶、港湾施設、パイプライン、橋梁などの水中構造物に防汚性を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の第1の実施の形態における防汚塗膜の模式断面図
【図2】本発明の第2の実施の形態における防汚塗膜の模式断面図
【図3】本発明の第3の実施の形態における洋式トイレの外観模式図
【符号の説明】
【0073】
1 ポリプロピレン
2 ポリプロピレン分子
3 プライマー層
4 変性ポリプロピレン分子
5 ポリプロピレン表面
6 トップコート層
7 プライマー層表面
8 アクリル分子
9 シリコーン成分
11 ポリプロピレン
12 プライマー層
13 トップコート層
14 シリコーン成分
15 フッ素樹脂の粒子
16 抗菌剤
21 便座
22 便器
23 便蓋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン表面上にプライマー層とトップコート層との2層の塗膜で構成され、前記プライマー層は非結晶性ポリプロピレンを変性させた変性ポリプロピレンを含有し、前記トップコート層には少なくともシリコーン成分を含有する防汚塗膜。
【請求項2】
トップコート層は、シリコーン成分を含有するアクリル系塗料もしくはウレタン系塗料もしくはそれらの混合塗料から形成される請求項1記載の防汚塗膜。
【請求項3】
トップコート層は、フッ素成分を含有する請求項1または2に記載の防汚塗膜。
【請求項4】
フッ素成分は、フッ素樹脂の粒子である請求項3記載の防汚塗膜。
【請求項5】
フッ素樹脂は、4フッ化ポリエチレンである請求項4記載の防汚塗膜。
【請求項6】
フッ素樹脂の粒子の代表径はトップコート層の膜厚より大きい請求項4に記載の防汚塗膜。
【請求項7】
プライマー層は、可視光線を50%以上透過する請求項1記載の防汚塗膜。
【請求項8】
変性ポリプロピレンは、少なくとも完全非結晶性ポリプロピレンを変性させた変性ポリプロピレンを含む請求項1記載の防汚塗膜。
【請求項9】
トップコート層に抗菌剤を含む請求項1〜3のいずれか1項または請求項6に記載の防汚塗膜。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の防汚塗膜に被覆された防汚性を有する家電筐体。
【請求項11】
請求項1〜9いずれか1項に記載の防汚塗膜に被覆された防汚性を有する便座。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−19066(P2009−19066A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−180613(P2007−180613)
【出願日】平成19年7月10日(2007.7.10)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】