説明

防汚塗膜の形成方法

【課題】塗装中の塗膜が所定の膜厚に達したかどうかを極めて容易に判定することができ、これにより、所定の乾燥膜厚を有する均一な防汚塗膜を、より正確にかつより簡便に形成することができる方法を提供する。
【解決手段】[1]所定のSi含有加水分解性樹脂および着色顔料を含む着色防汚塗料であって、目標乾燥塗膜を有する塗膜が被塗物の表面を完全に隠蔽し;目標乾燥膜厚を有する塗膜と、乾燥膜厚が0.8Tである塗膜との色差ΔE1が2.0以上;好ましくは目標乾燥膜厚を有する塗膜と、乾燥膜厚が1.2Tである塗膜との色差ΔE2が1未満である着色防汚塗料を調製する工程と、[2]被塗物表面が着色防汚塗料からなる塗膜によって完全に隠蔽されるまで、着色防汚塗料を被塗物表面に塗工する工程を含む防汚塗膜の形成方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶、発電プラント等の被塗物に防汚塗膜を形成する方法に関し、より詳しくは、所定の乾燥膜厚を有する防汚塗膜をほぼ均一に、かつ、簡便に形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶、発電プラント等の水中構造物の表面には、フジツボ、イガイ、藻類等の水棲生物の付着を防止するために、防汚塗料が塗装される。防汚塗料が塗装される水中構造物は通常、大型であるため、防汚塗料の塗装は、クレーン車などを利用して行なわれることが多いが、大面積の水中構造物の表面全体に、均一にかつ所定の膜厚で防汚塗料を塗装することは容易ではない。
【0003】
防汚塗料には、初期の塗膜性能(防汚性能など)を発揮するために必要な所定の乾燥塗膜厚範囲(特に最低塗膜厚)があり、たとえば、所定の最低塗膜厚を下回ると、たとえ膜厚不足箇所が表面全体の一部であっても、初期の防汚性能を水中構造物に付与することができず、有効防汚期間が事実上短縮されてしまう。
【0004】
このような課題に対して、たとえば、特許文献1(特許第4111473号明細書)には、膜厚判定防汚塗料と被塗物との色差、目標乾燥膜厚の完全隠蔽塗膜と(目標乾燥膜厚−50)μm未満の乾燥膜厚の塗膜との色差、および目標乾燥膜厚の完全隠蔽塗膜と(目標乾燥膜厚+50)μm超の乾燥膜厚の塗膜との色差が所定の範囲内であり、かつ防汚剤および着色顔料の含有量が所定値以下である膜厚判定防汚塗料を用いて防汚塗膜を形成する方法が開示されている。かかる膜厚判定防汚塗料によれば、塗膜が所定の膜厚に達したかどうかを、塗装中の塗膜と被塗物との色差の変化を目視観察することにより判定できるため、塗膜厚の過不足なくほぼ均一に、かつ簡便に防汚塗料の塗装を行なうことが可能となる。
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載の膜厚判定防汚塗料は、目標乾燥膜厚の塗膜と目標乾燥膜厚直前の塗膜との色差が比較的小さいために、塗装作業者による目視観察によって、塗装中の塗膜が所定の膜厚に達したかどうかを判定しにくいことがあり、改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4111473号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、塗装中の塗膜が所定の膜厚に達したかどうかを極めて容易に判定することができ、これにより、所定の乾燥膜厚を有する均一な防汚塗膜を、より正確にかつより簡便に形成することができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、被塗物の表面に防汚塗膜を形成する方法であり、下記工程[1]および[2]を含むことを特徴とする。
[1]加水分解性樹脂および着色顔料を含む着色防汚塗料であって、下記条件(a)〜(c):
(a)目標乾燥膜厚Tを有する着色防汚塗料から形成される塗膜が、被塗物の表面を完全に隠蔽する、
(b)目標乾燥膜厚Tを有する着色防汚塗料から形成される塗膜と、乾燥膜厚が0.8Tである着色防汚塗料から形成される塗膜との色差ΔE1が2.0以上である、
(c)上記加水分解性樹脂が、加水分解性樹脂(i)および/または加水分解性樹脂(ii)を含む、
を満たす着色防汚塗料を調製する工程、および、
[2]被塗物の表面が着色防汚塗料からなる塗膜によって完全に隠蔽されるまで、着色防汚塗料を被塗物の表面に塗工する工程。
【0009】
ここで、上記加水分解性樹脂(i)は、下記一般式(I):
【0010】
【化1】

【0011】
[上記一般式(I)中、aおよびbは、それぞれ独立して2〜5の整数を表し、mは0〜50の整数、nは3〜80の整数を表す。R1〜R5は、それぞれ独立してアルキル基、アルコキシ基、フェニル基、置換フェニル基、フェノキシ基または置換フェノキシ基を表す。]
で示される基、下記一般式(II):
【0012】
【化2】

【0013】
[上記一般式(II)中、cおよびdは、それぞれ独立して2〜5の整数を表し、pは0〜50の整数を表す。R6、R7およびR8は、それぞれ独立してアルキル基、RaまたはRbを表す。
【0014】
ここで、Raは、
【0015】
【化3】

【0016】
(式中、xは0〜20の整数を表す。R23〜R27は、同一または異なって、アルキル基を表す。)であり、
bは、
【0017】
【化4】

【0018】
(式中、yは1〜20の整数を表す。R28およびR29は、同一または異なって、アルキル基を表す。)である。]
で示される基、下記一般式(III):
【0019】
【化5】

【0020】
[上記一般式(III)中、e、f、gおよびhは、それぞれ独立して2〜5の整数を表し、qおよびsは、それぞれ独立して0〜50の整数を表し、rは3〜80の整数を表す。R9〜R12は、それぞれ独立してアルキル基、アルコキシ基、フェニル基、置換フェニル基、フェノキシ基または置換フェノキシ基を表す。]
で示される基、および、下記一般式(IV):
【0021】
【化6】

【0022】
[上記一般式(IV)中、i、j、kおよびlは、それぞれ独立して2〜5の整数を表し、tおよびuは、それぞれ独立して0〜50の整数を表し、vおよびwは、それぞれ独立して0〜20の整数を表す。R13〜R22は、同一または異なって、アルキル基を表す。]
で示される基からなる群から選択される少なくとも1種のシリコン含有基と、2価の金属原子Mを含有する金属原子含有基とを有する加水分解性樹脂である。
【0023】
また、上記加水分解性樹脂(ii)は、上記一般式(I)、(II)、(III)および(IV)で示される基からなる群から選択される少なくとも1種のシリコン含有基と、下記一般式(V):
【0024】
【化7】

【0025】
[上記一般式(V)中、R40、R41およびR42は、同一または異なって、炭素数1〜20の炭化水素残基を表す。]
で示されるトリオルガノシリルオキシカルボニル基とを有する加水分解性樹脂である。
【0026】
上記色差ΔE1は2.5以上であることが好ましい。また、上記着色防汚塗料は、下記条件(d):
(d)目標乾燥膜厚Tを有する着色防汚塗料から形成される塗膜と、乾燥膜厚が1.2Tである着色防汚塗料から形成される塗膜との色差ΔE2が1未満である、
を満たすことが好ましい。色差ΔE2はより好ましくは0.5以下である。
【0027】
本発明の防汚塗膜の形成方法において、被塗物の表面が完全に隠蔽されたか否かの判定は、好ましくは目視観察によってなされる。
【0028】
上記加水分解性樹脂の含有量は、塗料固形分中、30〜97質量%であることが好ましい。
【0029】
上記加水分解性樹脂(i)が有する前記金属原子含有基は、下記一般式(VI)および(VII)で示される基からなる群から選択される少なくとも1種の基であることが好ましい。
【0030】
【化8】

【0031】
ここで、上記一般式(VI)中、Mは2価の金属原子を表し、R30は有機酸残基またはアルコール残基を表す。
【0032】
【化9】

【0033】
ここで、上記一般式(VII)中、Mは2価の金属原子を表す。
上記加水分解性樹脂(i)は、下記一般式(I’)で示される単量体(a1)、下記一般式(II’)で示される単量体(a2)、下記一般式(III’)で示される単量体(a3)および下記一般式(IV’)で示される単量体(a4)からなる群から選択される少なくとも1種のシリコン含有重合性単量体(a)から誘導される構成単位と、2価の金属原子Mを含有する金属原子含有重合性単量体(b)から誘導される構成単位とを含む樹脂であることが好ましい。
【0034】
【化10】

【0035】
ここで、上記一般式(I’)中、R31は水素原子またはメチル基を表し、a、b、m、nおよびR1〜R5は、上記と同じ意味を表す。
【0036】
【化11】

【0037】
ここで、上記一般式(II’)中、R32は水素原子またはメチル基を表し、c、d、pおよびR6〜R8は、上記と同じ意味を表す。
【0038】
【化12】

【0039】
ここで、上記一般式(III’)中、R33およびR34は水素原子またはメチル基を表し、e、f、g、h、q、r、sおよびR9〜R12は、上記と同じ意味を表す。
【0040】
【化13】

【0041】
ここで、上記一般式(IV’)中、R35およびR36は水素原子またはメチル基を表し、i、j、k、l、t、u、v、wおよびR13〜R22は、上記と同じ意味を表す。
【0042】
上記2価の金属原子Mを含有する金属原子含有重合性単量体(b)は、下記一般式(VI’)で示される単量体(b1)および(VII’)で示される単量体(b2)からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0043】
【化14】

【0044】
ここで、上記一般式(VI’)中、R37は水素原子またはメチル基を表し、MおよびR30は、上記と同じ意味を表す。
【0045】
【化15】

【0046】
ここで、上記一般式(VII’)中、R38およびR39は水素原子またはメチル基を表し、Mは、上記と同じ意味を表す。
【0047】
上記加水分解性樹脂(ii)は、上記一般式(VI)および(VII)で示される基からなる群から選択される少なくとも1種の金属原子含有基をさらに有することが好ましい。
【0048】
上記記加水分解性樹脂(ii)は、上記一般式(I’)で示される単量体(a1)、上記一般式(II’)で示される単量体(a2)、上記一般式(III’)で示される単量体(a3)および上記一般式(IV’)で示される単量体(a4)からなる群から選択される少なくとも1種のシリコン含有重合性単量体(a)から誘導される構成単位と、下記一般式(V’)で示されるトリオルガノシリル(メタ)アクリレート(c)から誘導される構成単位とを含む樹脂であることが好ましい。
【0049】
【化16】

【0050】
ここで、上記一般式(V’)中、R43は水素原子またはメチル基を表し、R40〜R42は、上記と同じ意味を表す。
【0051】
上記加水分解性樹脂(ii)は、上記一般式(VI’)で示される単量体(b1)および(VII’)で示される単量体(b2)からなる群から選択される少なくとも1種の金属原子含有重合性単量体(b)から誘導される構成単位をさらに含むことが好ましい。
【0052】
上記着色防汚塗料は、防汚剤をさらに含有することができる。この場合、防汚剤の含有量は、塗料固形分中、好ましくは10質量%以下である。
【0053】
また、上記着色防汚塗料は、熱可塑性樹脂および/または可塑剤をさらに含有することができる。この場合、熱可塑性樹脂および可塑剤の合計含有量は、上記加水分解性樹脂100質量部に対して3〜100質量部であることが好ましい。
【0054】
上記熱可塑性樹脂は、塩素化パラフィン、ポリビニルエーテル、ロジンおよび塩化ビニル−イソブチルビニルエーテル共重合体からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0055】
また、上記可塑剤は、フタル酸エステル系可塑剤およびリン酸エステル系可塑剤からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0056】
上記着色防汚塗料は、上記条件(a)〜(c)を具備するが、互いに着色顔料の含有量が異なる2種以上の防汚塗料を混合することによって調製することもできる。
【0057】
上記着色防汚塗料が塗工される被塗物は、その表面に、防食塗料または防汚塗料から形成された下塗り塗膜を有するものであってもよい。この場合、当該下塗り塗膜表面上に、着色防汚塗料が塗工される。被塗物としては、鋼材、プラスチックまたはコンクリート製の構造物、特には水中構造物であることができる。
【発明の効果】
【0058】
本発明により、目標乾燥膜厚の塗膜と目標乾燥膜厚直前の塗膜との色差が従来と比較して大きい、膜厚判定機能を有する着色防汚塗料が提供される。当該着色防汚塗料を用いた本発明の方法によれば、塗装中の塗膜が所定の膜厚に達したかどうかを容易に判定することができるため、所定の乾燥膜厚を有する均一な防汚塗膜を、正確に形成することができる。これにより、従来しばしば発生した膜厚不足による水棲生物の付着などを防止することができる。また、過剰な膜厚を防止することもできるので、塗料の節約を図ることもできる。また、本発明の方法によれば、長期防汚性および耐クラック性に優れた防汚塗膜を形成することが可能となる。
【0059】
さらに、本発明の方法によれば、逐次、塗膜厚の測定を行なって所定の膜厚に達したかどうかを確認するという煩雑な作業を回避できるため、塗装作業の大幅な効率化を図ることができるとともに、塗装作業者の大幅な負担軽減を図ることができる。
【0060】
本発明の方法は、各種構造物(特には水中構造物)の防汚塗装に適用することができる。本発明の方法によれば、船舶等のような大型構造物の外面に防汚塗装を施す場合など、塗装が困難な構造物またはその部位に対しても、所定の乾燥膜厚を有する均一な防汚塗膜を、正確かつ簡便に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】実施例および比較例で調製した塗料3〜15における、乾燥膜厚と各乾燥膜厚を有する上塗り防汚塗膜と、目標乾燥膜厚を有する上塗り防汚塗膜との色差ΔEとの関係を示す図である。
【図2】図1の一部(目標乾燥膜厚125μm近傍)を拡大して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0062】
以下、本発明について詳細に説明する。
<着色防汚塗料>
本発明の防汚塗膜の形成方法においては、防汚塗膜を形成する塗料として所定の加水分解性樹脂と着色顔料とを含む着色防汚塗料が用いられる。この着色防汚塗料は、後で詳細を示すように、塗装中の塗膜と被塗物表面との色差の変化を観察することにより、所定の膜厚に達したかどうか判定できる「膜厚判定機能」を有する防汚塗料である。以下、本発明において用いられる着色防汚塗料について詳細に説明する。
【0063】
(A)加水分解性樹脂
着色防汚塗料は、加水分解性樹脂(i)あるいは加水分解性樹脂(ii)、またはこれらの双方をビヒクル成分として含む。加水分解性樹脂(i)および(ii)は、樹脂透明性に優れており、着色顔料による鮮明な色味が樹脂の色味によって妨害されることがないため、着色顔料の色相に応じた各種の鮮明な色相を防汚塗料に付与することが可能となる。これにより、着色防汚塗料と被塗物表面との色差を大きくすることができるとともに、塗膜色相の膜厚依存性、とりわけ、目標乾燥膜厚T直前(0.8T程度)から目標乾燥膜厚Tにかけての塗膜色相の膜厚依存性を大きくすることができ、着色防汚塗料に優れた膜厚判定機能が付与される。また、各種の鮮明な色相を防汚塗料に付与することが可能になる(防汚塗料の多色化が可能になる)ことから、本発明の方法を適用できる被塗物表面の色の自由度が広がり、実質的に被塗物表面がどのような色であっても、本発明の方法を適用することができる。
【0064】
さらに、加水分解性樹脂(i)および(ii)はそれ自身、その加水分解性およびシリコン含有基に基づく良好な防汚性能を有しているため、加水分解性樹脂(i)および/または(ii)を含む着色防汚塗料によれば、別途の防汚剤を含有しないか、またはその配合量が少ない場合であっても、高い防汚性能を長期間にわたって安定して発揮する(長期防汚性に優れる)防汚塗膜を形成することができる。別途の防汚剤を不含有にできること、またはその配合量を少なくできることは、着色顔料による鮮明な色味が防汚剤によって妨害されにくくすることができることを意味しており、これにより、着色防汚塗料の鮮明化、多色化および膜厚判定機能をさらに向上させることができる。
【0065】
〔加水分解性樹脂(i)〕
着色防汚塗料に含有され得る加水分解性樹脂(i)は、上記一般式(I)、(II)、(III)および(IV)で示される基からなる群から選択される少なくとも1種のシリコン含有基と、2価の金属原子Mを含有する少なくとも1種の金属原子含有基とを有する。このような特定のシリコン含有基および金属原子含有基を有する加水分解性樹脂(i)は、金属原子含有基の加水分解性に起因して、水中(特には海水中)において徐々に加水分解する性質を示す。したがって、加水分解性樹脂(i)をビヒクルとする着色防汚塗料から形成された防汚塗膜は、水中浸漬によりその表面が自己研磨され、これにより、塗膜表面の更新性が得られるため、生物が付着しにくくなるとともに、金属原子含有基が加水分解されることによる防汚性効果およびシリコン含有基が示す防汚性効果も相俟って、完全に消耗されるまでの間、防汚剤を含有しない場合においても、優れた防汚性能を示すこととなる。
【0066】
上記一般式(I)中、aおよびbは、それぞれ独立して2〜5の整数を表し、mは0〜50の整数、nは3〜80の整数を表す。R1〜R5は、それぞれ独立してアルキル基、アルコキシ基、フェニル基、置換フェニル基、フェノキシ基または置換フェノキシ基を表す。
【0067】
上記一般式(II)中、cおよびdは、それぞれ独立して2〜5の整数を表し、pは0〜50の整数を表す。R6、R7およびR8は、それぞれ独立してアルキル基、RaまたはRbを表す。RaおよびRbについては、上述のとおりである。
【0068】
上記一般式(III)中、e、f、gおよびhは、それぞれ独立して2〜5の整数を表し、qおよびsは、それぞれ独立して0〜50の整数を表し、rは3〜80の整数を表す。R9〜R12は、それぞれ独立してアルキル基、アルコキシ基、フェニル基、置換フェニル基、フェノキシ基または置換フェノキシ基を表す。
【0069】
また、上記一般式(IV)中、i、j、kおよびlは、それぞれ独立して2〜5の整数を表し、tおよびuは、それぞれ独立して0〜50の整数を表し、vおよびwは、それぞれ独立して0〜20の整数を表す。R13〜R22は、同一または異なって、アルキル基を表す。
【0070】
加水分解性樹脂(i)は、上記一般式(I)、(II)、(III)および(IV)で示される基からなる群から選択される2種以上のシリコン含有基を有していてもよい。この場合、上記一般式(I)で示される基を2種以上、上記一般式(II)で示される基を2種以上、上記一般式(III)で示される基を2種以上、および/または、上記一般式(IV)で示される基を2種以上有していてもよい。
【0071】
加水分解性樹脂(i)が有する2価の金属原子Mを含有する金属原子含有基は、塗膜の自己研磨性を長期間安定して維持でき、これにより長期防汚性に優れるとともに、耐クラック性や下地との密着性にも優れる塗膜を形成できることから、上記一般式(VI)および(VII)で示される基からなる群から選択される少なくとも1種の基であることが好ましい。上記一般式(VI)および(VII)中、Mは2価の金属原子を表し、R30は有機酸残基またはアルコール残基を表す。加水分解性樹脂(i)は、上記一般式(VI)および(VII)で示される基の双方を有していてもよい。2価の金属原子Mとしては、Mg、ZnおよびCuなどを挙げることができ、好ましくは、ZnまたはCuである。
【0072】
加水分解性樹脂(i)としては、上記シリコン含有基および金属原子含有基を有する限り特に限定されないが、上記一般式(I’)で示される単量体(a1)、上記一般式(II’)で示される単量体(a2)、上記一般式(III’)で示される単量体(a3)および上記一般式(IV’)で示される単量体(a4)からなる群から選択される少なくとも1種のシリコン含有重合性単量体(a)から誘導される構成単位と、2価の金属原子Mを含有する金属原子含有重合性単量体(b)から誘導される構成単位とを含むアクリル系樹脂を好適に用いることができる。
【0073】
ここで、上記一般式(I’)中、R31は水素原子またはメチル基を表し、a、b、m、nおよびR1〜R5は、上記と同じ意味を表す。上記一般式(II’)中、R32は水素原子またはメチル基を表し、c、d、pおよびR6〜R8は、上記と同じ意味を表す。上記一般式(III’)中、R33およびR34は水素原子またはメチル基を表し、e、f、g、h、q、r、sおよびR9〜R12は、上記と同じ意味を表す。上記一般式(IV’)中、R35およびR36は水素原子またはメチル基を表し、i、j、k、l、t、u、v、wおよびR13〜R22は、上記と同じ意味を表す。
【0074】
上記一般式(I’)で示される単量体(a1)、一般式(II’)で示される単量体(a2)、一般式(III’)で示される単量体(a3)および一般式(IV’)で示される単量体(a4)はそれぞれ、上記一般式(I)、(II)、(III)および(IV)で示されるシリコン含有基を有するシリコン含有重合性単量体である。
【0075】
また、上記2価の金属原子Mを含有する金属原子含有重合性単量体(b)は、塗膜の自己研磨性を長期間安定して維持でき、これにより長期防汚性に優れるとともに、耐クラック性や下地との密着性にも優れる塗膜を形成できることから、上記一般式(VI’)で示される単量体(b1)および(VII’)で示される単量体(b2)からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。上記一般式(VI’)中、R37は水素原子またはメチル基を表し、MおよびR30は、上記と同じ意味を表す。また、上記一般式(VII’)中、R38およびR39は水素原子またはメチル基を表し、Mは、上記と同じ意味を表す。
【0076】
上記一般式(VI’)で示される単量体(b1)および(VII’)で示される単量体(b2)はそれぞれ、上記一般式(VI)および(VII)で示される金属原子含有基を有する金属原子含有重合性単量体である。
【0077】
〔1〕シリコン含有重合性単量体(a)
加水分解性樹脂(i)を構成し得るシリコン含有重合性単量体(a1)は、上記一般式(I’)で示され、式中、aおよびbは、それぞれ独立して2〜5の整数を表し、mは0〜50の整数、nは3〜80の整数を表す。R1〜R5は、それぞれ独立してアルキル基、アルコキシ基、フェニル基、置換フェニル基、フェノキシ基または置換フェノキシ基を表し、R31は水素原子またはメチル基を表す。シリコン含有重合性単量体(a)として、シリコン含有重合性単量体(a1)を用いることにより、上記一般式(I)で示されるシリコン含有基を側鎖に有するアクリル系樹脂である加水分解性樹脂(i)が得られる。
【0078】
上記一般式(I’)(上記一般式(I)についても同様、以下同じ。)中のmは、ポリエーテル構造の平均重合度で、0でもよいが、旧塗膜とのリコート性が良好となる傾向にあることから、0より大きいことが好ましい。また、塗膜の耐水性が良好となる傾向にあることから、mは50以下であり、旧塗膜とのリコート性が良好となる傾向にあることから、30以下であることが好ましい。より好ましくは3〜25の範囲であり、さらに好ましくは5〜20の範囲である。
【0079】
上記一般式(I’)中のaは、好ましくは2または3であり、aが2であるものと3であるものとを併用してもよい。bは、好ましくは2または3である。
【0080】
上記一般式(I’)中のnは、シリコン含有構造の平均重合度を示し、3〜80の範囲の整数である。nを3以上とすることにより、より高い防汚効果を発現させることができる。また、nを80以下とすることにより、他の重合性単量体に対して良好な相溶性を示すようになり、また、得られる加水分解性樹脂(i)の一般的な有機溶剤に対する溶解性を向上させることができる。nは、好ましくは5〜50の範囲であり、より好ましくは、8〜40の範囲である。
【0081】
上記一般式(I’)中のR1〜R5は、炭素数1〜18のアルキル基であることが好ましく、メチル基またはエチル基がより好ましく、メチル基がさらに好ましい。
【0082】
上記一般式(I’)で示されるシリコン含有重合性単量体(a1)の具体例としては、たとえば、mが0のものとして、チッソ(株)製の「FM−0711」、「FM−0721」、「FM−0725」(以上、商品名)、信越化学(株)製の「X−24−8201」、「X−22−174DX」、「X−22−2426」(以上、商品名)などが挙げられる。また、mが0より大きいものとしては、日本ユニカー(株)製の「F2−254−04」、「F2−254−14」(以上、商品名)などが挙げられる。なお、シリコン含有重合性単量体(a1)の具体例として、日本ユニカー(株)製の商品をその商品名で記載したが、日本ユニカー(株)におけるシリコーン事業は、2004年に東レ・ダウコーニング株式会社に譲渡されており、現在では、当該譲渡先から相当品を入手可能である。以下に示す日本ユニカー(株)製の商品についても同様である。
【0083】
加水分解性樹脂(i)は、シリコン含有重合性単量体(a)として、2種以上のシリコン含有重合性単量体(a1)から誘導される構成単位を含んでいてもよい。
【0084】
加水分解性樹脂(i)を構成し得るシリコン含有重合性単量体(a2)は、上記一般式(II’)で示され、式中、cおよびdは、それぞれ独立して2〜5の整数を表し、pは0〜50の整数を表す。R6、R7およびR8は、それぞれ独立してアルキル基、RaまたはRbを表し、R32は水素原子またはメチル基を表す。RaおよびRbについては上記のとおりである。シリコン含有重合性単量体(a)として、シリコン含有重合性単量体(a2)を用いることにより、上記一般式(II)で示されるシリコン含有基を側鎖に有するアクリル系樹脂である加水分解性樹脂(i)が得られる。
【0085】
上記一般式(II’)(上記一般式(II)についても同様、以下同じ。)中のpは、ポリエーテル構造の平均重合度で、0でもよいが、旧塗膜とのリコート性が良好となる傾向にあることから、0より大きいことが好ましい。また、塗膜の耐水性が良好となる傾向にあることから、pは50以下であり、旧塗膜とのリコート性が良好となる傾向にあることから、30以下であることが好ましい。より好ましくは3〜25の範囲であり、さらに好ましくは5〜20の範囲である。
【0086】
上記一般式(II’)中のcは、好ましくは2または3であり、cが2であるものと3であるものとを併用してもよい。dは、好ましくは2または3である。
【0087】
上記一般式(II’)中のxおよびyは、側鎖に導入されたシリコン含有構造またはポリエーテル構造の平均重合度を示し、それぞれ0〜20の範囲の整数、1〜20の範囲の整数である。xおよびyを20以下とすることにより、他の重合性単量体に対して良好な相溶性を示すようになり、また、得られる加水分解性樹脂(i)の一般的な有機溶剤に対する溶解性を向上させることができる。xおよびyは、好ましくは10以下の範囲であり、より好ましくは、5以下の範囲である。
【0088】
上記一般式(II’)中のR6〜R8およびR23〜R29で選択され得るアルキル基としては、たとえば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基等が挙げられる。メチル基またはエチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0089】
上記一般式(II’)で示されるシリコン含有重合性単量体(a2)の具体例としては、たとえば、pが0のものとして、チッソ(株)製の「TM−0701」(商品名)、信越化学(株)製の「X−22−2404」(商品名)、日本ユニカー(株)製の「F2−250−01」、「F2−302−01」(商品名)などが挙げられる。また、pが0より大きいものとしては、日本ユニカー(株)製の「F2−302−04」(以上、商品名)などが挙げられる。
【0090】
加水分解性樹脂(i)は、シリコン含有重合性単量体(a)として、2種以上のシリコン含有重合性単量体(a2)から誘導される構成単位を含んでいてもよい。
【0091】
加水分解性樹脂(i)を構成し得るシリコン含有重合性単量体(a3)は、上記一般式(III’)で示され、式中、e、f、gおよびhは、それぞれ独立して2〜5の整数を表し、qおよびsは、それぞれ独立して0〜50の整数を表し、rは3〜80の整数を表す。R9〜R12は、それぞれ独立してアルキル基、アルコキシ基、フェニル基、置換フェニル基、フェノキシ基または置換フェノキシ基を表し、R33およびR34は水素原子またはメチル基を表す。シリコン含有重合性単量体(a)として、シリコン含有重合性単量体(a3)を用いることにより、上記一般式(III)で示されるシリコン含有基(このシリコン含有基は、ポリマー主鎖間を架橋する架橋基である。)を有するアクリル系樹脂である加水分解性樹脂(i)が得られる。
【0092】
上記一般式(III’)(上記一般式(III)についても同様、以下同じ。)中のqおよびsは、ポリエーテル構造の平均重合度で、0でもよいが、旧塗膜とのリコート性が良好となる傾向にあることから、0より大きいことが好ましい。また、塗膜の耐水性が良好となる傾向にあることから、qおよびsは50以下であり、旧塗膜とのリコート性が良好となる傾向にあることから、30以下であることが好ましい。より好ましくは3〜25の範囲であり、さらに好ましくは5〜20の範囲である。
【0093】
上記一般式(III’)中のeおよびhは、好ましくは2または3であり、eおよびhが2であるものと3であるものとを併用してもよい。fおよびgは、好ましくは2または3である。
【0094】
上記一般式(III’)中のrは、シリコン含有構造の平均重合度を示し、3〜80の範囲の整数である。rを3以上とすることにより、より高い防汚効果を発現させることができる。また、rを80以下とすることにより、他の重合性単量体に対して良好な相溶性を示すようになり、また、得られる加水分解性樹脂(i)の一般的な有機溶剤に対する溶解性を向上させることができる。rは、好ましくは5〜50の範囲であり、より好ましくは、8〜40の範囲である。
【0095】
上記一般式(III’)中のR9〜R12は、炭素数1〜18のアルキル基であることが好ましく、メチル基またはエチル基がより好ましく、メチル基がさらに好ましい。
【0096】
上記一般式(III’)で示されるシリコン含有重合性単量体(a3)の具体例としては、たとえば、qおよびsが0のものとして、チッソ(株)製の「FM−7711」、「FM−7721」、「FM−7725」(以上、商品名)、日本ユニカー(株)製の「F2−311−02」(商品名)などが挙げられる。また、qおよびsが0より大きいものとして、日本ユニカー(株)製の「F2−354−04」(商品名)などが挙げられる。
【0097】
加水分解性樹脂(i)は、シリコン含有重合性単量体(a)として、2種以上のシリコン含有重合性単量体(a3)から誘導される構成単位を含んでいてもよい。
【0098】
加水分解性樹脂(i)を構成し得るシリコン含有重合性単量体(a4)は、上記一般式(IV’)で示され、式中、i、j、kおよびlは、それぞれ独立して2〜5の整数を表し、tおよびuは、それぞれ独立して0〜50の整数を表し、vおよびwは、それぞれ独立して0〜20の整数を表す。R13〜R22は、同一または異なって、アルキル基を表し、R35およびR36は水素原子またはメチル基を表す。シリコン含有重合性単量体(a)として、シリコン含有重合性単量体(a4)を用いることにより、上記一般式(IV)で示されるシリコン含有基(このシリコン含有基は、ポリマー主鎖間を架橋する架橋基である。)を有するアクリル系樹脂である加水分解性樹脂(i)が得られる。
【0099】
上記一般式(IV’)(上記一般式(IV)についても同様、以下同じ。)中のtおよびuは、ポリエーテル構造の平均重合度で、0でもよいが、旧塗膜とのリコート性が良好となる傾向にあることから、0より大きいことが好ましい。また、塗膜の耐水性が良好となる傾向にあることから、tおよびuは50以下であり、旧塗膜とのリコート性が良好となる傾向にあることから、30以下であることが好ましい。より好ましくは3〜25の範囲であり、さらに好ましくは5〜20の範囲である。
【0100】
上記一般式(IV’)中のiおよびlは、好ましくは2または3であり、iおよびlが2であるものと3であるものとを併用してもよい。jおよびkは、好ましくは2または3である。
【0101】
上記一般式(IV’)中のvおよびwは、側鎖に導入されたシリコン含有構造の平均重合度を示し、0〜20の範囲の整数である。vおよびwを20以下とすることにより、他の重合性単量体に対して良好な相溶性を示すようになり、また、得られる加水分解性樹脂(i)の一般的な有機溶剤に対する溶解性を向上させることができる。vおよびwは、好ましくは10以下の範囲であり、より好ましくは、5以下の範囲である。
【0102】
上記一般式(IV’)中のR13〜R22で選択され得るアルキル基としては、たとえば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基等が挙げられる。メチル基またはエチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0103】
上記一般式(IV’)で示されるシリコン含有重合性単量体(a4)の具体例としては、たとえば、tおよびuが0のものとして、日本ユニカー(株)製の「F2−312−01」(商品名)などが挙げられる。また、tおよびuが0より大きいものとしては、日本ユニカー(株)製の「F2−312−04」(商品名)などが挙げられる。
【0104】
加水分解性樹脂(i)は、シリコン含有重合性単量体(a)として、2種以上のシリコン含有重合性単量体(a4)から誘導される構成単位を含んでいてもよい。
【0105】
また、加水分解性樹脂(i)は、シリコン含有重合性単量体(a1)、(a2)、(a3)および(a4)から選択される2種以上のシリコン含有重合性単量体から誘導される構成単位を含んでいてもよい。なかでも、好ましい実施形態の1つとして、片末端(メタ)アクリル変性シリコン含有重合性単量体〔シリコン含有重合性単量体(a1)および/または(a2)〕と、両末端(メタ)アクリル変性シリコン含有重合性単量体〔シリコン含有重合性単量体(a3)および/または(a4)〕とを併用する形態を挙げることができる。
【0106】
加水分解性樹脂(i)を構成する全構成単位中、シリコン含有重合性単量体(a)から誘導される構成単位の含有量は、1〜60質量%であることが好ましく、5〜50質量%であることがより好ましく、10〜40質量%であることがさらに好ましい。1質量%以上とすることにより、防汚剤を別途に含有させない場合においても防汚効果を発現する傾向があり、60質量%以下とすることにより、長期の防汚性と、下地との密着性との良好なバランスが得られる傾向がある。
【0107】
〔2〕金属原子含有重合性単量体(b)
金属原子含有重合性単量体(b)は、加水分解性樹脂(i)に2価の金属原子Mを含有する金属原子含有基を導入するために用いられる単量体である。金属原子含有基を有しない場合には、得られる樹脂の加水分解性が十分でない結果、塗膜の良好な自己研磨性が得られず、高い防汚性を示す塗膜を得ることが困難である。また、金属原子含有基を有しない場合、塗膜の下地との密着性および耐クラック性が不良となる傾向にある。2価の金属原子Mとしては、Mg、ZnおよびCuなどを挙げることができ、好ましくは、ZnまたはCuである。
【0108】
加水分解性樹脂(i)を構成し得る金属原子含有重合性単量体(b1)は、上記一般式(VI’)で示され、式中、R37は水素原子またはメチル基を表し、Mは2価の金属原子を表し、R30は有機酸残基またはアルコール残基を表す。金属原子含有重合性単量体(b)として、金属原子含有重合性単量体(b1)を用いることにより、上記一般式(VI)で示される金属原子含有基を有するアクリル系樹脂である加水分解性樹脂(i)が得られる。
【0109】
30において、有機酸残基を構成する有機酸としては、たとえば、酢酸、モノクロル酢酸、モノフルオロ酢酸、プロピオン酸、カプロン酸、カプリル酸、2−エチルヘキシル酸、カプリン酸、バーサチック酸、イソステアリン酸、パルミチン酸、クレソチン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、ステアロール酸、リシノール酸、リシノエライジン酸、ブラシジン酸、エルカ酸、α−ナフトエ酸、β−ナフトエ酸、安息香酸、2,4,5−トリクロロフェノキシ酢酸、2,4−ジクロロフェノキシ酢酸、キノリンカルボン酸、ニトロ安息香酸、ニトロナフタレンカルボン酸、プルビン酸等の一塩基有機酸が挙げられる。なかでも、有機酸残基が脂肪酸系のものを使用すると、長期にわたりクラックや剥離のない塗膜を維持することができる傾向にあり好ましい。特に、金属原子含有重合性単量体(b1)として、可塑性の高いオレイン酸亜鉛(メタ)アクリレートやバーサチック酸亜鉛(メタ)アクリレートが好ましく用いられる。
【0110】
また、他の好ましい有機酸として、芳香族有機酸以外の一塩基環状有機酸を挙げることができる。一塩基環状有機酸としては、たとえば、ナフテン酸等のシクロアルキル基を有するもののほか、三環式樹脂酸等の樹脂酸およびこれらの塩等を挙げることができる。三環式樹脂酸としては、たとえば、ジテルペン系炭化水素骨格を有する一塩基酸等を挙げることができ、このようなものとしては、たとえば、アビエタン、ピマラン、イソピマラン、ラブダン骨格を有する化合物を挙げることができる。より具体的には、たとえば、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、デヒドロアビエチン酸、水添アビエチン酸、パラストリン酸、ピマル酸、イソピマル酸、レボピマル酸、デキストロピマル酸、サンダラコピマル酸、およびこれらの塩等を挙げることができる。これらのうち、加水分解が適度に行なわれるので長期防汚性に優れるほか、塗膜の耐クラック性、入手容易性にも優れることから、アビエチン酸、水添アビエチン酸、およびこれらの塩が好ましい。
【0111】
また、上記一塩基環状有機酸は、高度に精製されたものである必要はなく、たとえば、松脂、松の樹脂酸等を使用することもできる。このようなものとしては、たとえば、ロジン類、水添ロジン類、不均化ロジン類等やナフテン酸を挙げることができる。ここでいうロジン類とは、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン等である。ロジン類、水添ロジン類および不均化ロジン類は、廉価で入手しやすく、取り扱い性に優れ、長期防汚性を発揮する点で好ましい。
【0112】
上記一塩基環状有機酸の酸価は、100mgKOH/g以上、220mgKOH/g以下であることが好ましく、120mgKOH/g以上、190mgKOH/g以下であることがより好ましく、140mgKOH/g以上、185mgKOH/g以下であることがさらに好ましい。R30を形成する一塩基環状有機酸として、上記範囲内の酸価を有するものを使用すると、加水分解性樹脂(i)の加水分解速度が適度なものとなり、その結果、塗膜の自己研磨性を長期間安定して維持できるようになるため、防汚効果をより長期間維持することができる。
【0113】
金属原子含有重合性単量体(b1)が有する有機酸残基は、1種のみの有機酸から構成されていてもよく、2種以上の有機酸から構成されていてもよい。
【0114】
30として有機酸残基を有する金属原子含有重合性単量体(b1)の製造方法としては、たとえば、無機金属化合物と、(メタ)アクリル酸のようなカルボキシル基含有ラジカル重合性単量体と、非重合性有機酸(上記の有機酸残基を構成する有機酸)とを、アルコール系化合物を含有する有機溶剤中で反応させる方法を挙げることができる。また、金属原子含有重合性単量体(b1)から誘導される構成単位は、(メタ)アクリル酸のようなカルボキシル基含有ラジカル重合性単量体を含む単量体混合物を重合させることにより得られる樹脂と、金属化合物と、非重合性有機酸(上記の有機酸残基を構成する有機酸)とを反応させる方法によっても形成することができる。
【0115】
加水分解性樹脂(i)を構成し得る金属原子含有重合性単量体(b2)は、上記一般式(VII’)で示され、式中、R38およびR39は水素原子またはメチル基を表し、Mは2価の金属原子を表す。金属原子含有重合性単量体(b)として、金属原子含有重合性単量体(b2)を用いることにより、上記一般式(VII)で示される金属原子含有基(この金属原子含有基は、ポリマー主鎖間を架橋する架橋基である。)を有するアクリル系樹脂である加水分解性樹脂(i)が得られる。
【0116】
金属原子含有重合性単量体(b2)の具体例としては、たとえば、アクリル酸マグネシウム[(CH2=CHCOO)2Mg]、メタクリル酸マグネシウム[(CH2=C(CH3)COO)2Mg]、アクリル酸亜鉛[(CH2=CHCOO)2Zn]、メタクリル酸亜鉛[(CH2=C(CH3)COO)2Zn]、アクリル酸銅[(CH2=CHCOO)2Cu]、メタクリル酸銅[(CH2=C(CH3)COO)2Cu]等を挙げることができる。これらは、1種または2種以上を必要に応じて適宜選択して用いることができる。
【0117】
金属原子含有重合性単量体(b2)の製造方法としては、たとえば、(メタ)アクリル酸のような重合性不飽和有機酸と、金属化合物とをアルコール系化合物を含有する有機溶剤中で水とともに反応させる方法を挙げることができる。この場合、反応物中の水の含有量を0.01〜30質量%の範囲に調整することが好ましい。
【0118】
加水分解性樹脂(i)は、金属原子含有重合性単量体(b1)から誘導される構成単位および金属原子含有重合性単量体(b2)から誘導される構成単位の双方を含んでいてもよい。加水分解性樹脂(i)を構成する単量体として金属原子含有重合性単量体(b1)と、金属原子含有重合性単量体(b2)とを併用する場合、金属原子含有重合性単量体(b1)から誘導される構成単位と金属原子含有重合性単量体(b2)から誘導される構成単位との加水分解性樹脂(i)における含有量の比率は、20/80〜80/20(モル比)の範囲とすることが好ましく、30/70〜70/30(モル比)の範囲とすることがより好ましい。含有量の比率をこの範囲に調整することにより、防汚剤を含有しないか、または配合量が少ない場合であっても、長期間にわたって高い防汚性を発揮するとともに、耐クラック性および下地との密着性にも優れる防汚塗膜が得られやすい傾向にある。
【0119】
加水分解性樹脂(i)を構成する全構成単位中、金属原子含有重合性単量体(b)から誘導される構成単位の含有量は、5〜30質量%であることが好ましく、10〜20質量%であることがより好ましい。5質量%以上とすることにより、下地との密着性が向上するとともに、形成される塗膜の自己研磨性がより長期間安定的に維持される傾向があり、30質量%以下とすることにより、長期の自己研磨性と、海水浸漬後の耐クラック性や下地に対する密着性とのバランスを向上させる効果が顕著となり、長期の自己研磨性を維持し、塗膜物性が向上する傾向がある。
【0120】
加水分解性樹脂(i)において、シリコン含有重合性単量体(a)から誘導される構成単位と、金属原子含有重合性単量体(b)から誘導される構成単位との含有量の比は、質量比で、30/70〜90/10の範囲内であることが好ましく、45/55〜85/15の範囲内であることがより好ましい。当該比を30/70以上とすることにより、防汚剤を別途に含有させない場合においても防汚効果を発現する傾向がある。当該比が30/70未満である場合、得られる塗膜の可撓性が損なわれたり、塗膜の自己研磨性が高すぎる場合がある。また、当該比を90/10以下とすることにより、長期の防汚性と、下地との密着性との良好なバランスが得られる傾向がある。当該比が90/10を超える場合、得られる塗膜の加水分解が損なわれる場合があるために塗膜の自己研磨性が損なわれる可能性がある。
【0121】
〔3〕その他の単量体成分(d)
加水分解性樹脂(i)は、上記シリコン含有重合性単量体(a)および金属原子含有重合性単量体(b)以外のその他の単量体成分(d)から誘導される構成単位を含んでいてもよい。
【0122】
その他の単量体成分(d)としては、上記シリコン含有重合性単量体(a)および金属原子含有重合性単量体(b)と共重合可能な不飽和単量体である限り特に限定されず、たとえば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2−(2−エチルヘキサオキシ)エチル(メタ)アクリレート、1−メチル−2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、3−メトキシブチル(メタ)アクリレート、3−メチル−3−メトキシブチル(メタ)アクリレート、m−メトキシフェニル(メタ)アクリレート、p−メトキシフェニル(メタ)アクリレート、o−メトキシフェニルエチル(メタ)アクリレート、m−メトキシフェニルエチル(メタ)アクリレート、p−メトキシフェニルエチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル単量体;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有単量体;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、γ−ブチロラクトンまたはε−カプロラクトン等との付加物;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の二量体または三量体;グリセロール(メタ)アクリレート等の水酸基を複数有する単量体;ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド等の第一級および第二級アミノ基含有ビニル単量体;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノブチル(メタ)アクリレート、ジブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等の第三級アミノ基含有ビニル単量体;ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルカルバゾール等の複素環族系塩基性単量体;スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、(メタ)アクリロニトリル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニル系単量体を挙げることができる。
【0123】
上記その他の単量体成分(d)から誘導される構成単位の含有量は、加水分解性樹脂(i)を構成する全構成単位中、0.1〜89質量%であることが好ましく、7〜75質量%であることがより好ましく、10〜70質量%であることがさらに好ましい。0.1質量%以上とすることにより、得られる防汚塗料組成物の諸特性のバランスを整えることが可能となり、89質量%以下とすることにより、形成される塗膜に長期に亘る良好な加水分解性が付与され、防汚剤を使用しない場合でも優れた防汚性を発現し、下地に対する塗膜の密着性とのバランスが良好となる傾向がある。
【0124】
上記加水分解性樹脂(i)の製造方法は、特に限定されるものではないが、たとえば、上記した単量体を混合した単量体混合物をラジカル開始剤の存在下に60〜180℃の反応温度で5〜14時間反応させることによって製造することができる。ラジカル開始剤としては、たとえば、2,2−アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、過酸化ベンゾイル、クメンヒドロペルオキシド、ラウリルパーオキシド、ジ−t−ブチルパーオキシド、t−ブチルパーオキ−2−エチルヘキサノエート等が挙げられる。重合方法は、有機溶剤中で行なう溶液重合法のほか、乳化重合法、懸濁重合法等を採用できるが、トルエン、キシレン、メチルイソブチルケトン、酢酸n−ブチル等の一般の有機溶剤を用いる溶液重合方法が、加水分解性樹脂(i)の生産性や性能の観点から有利である。
【0125】
また、金属原子含有重合性単量体(b2)を使用する場合、防汚塗料のハイソリッド化や生産性の向上、および重合時のカレットの生成抑制のために、連鎖移動剤を使用することが好ましい。連鎖移動剤としては、金属原子含有重合性単量体(b)との相溶性の観点から、メルカプタン以外の連鎖移動剤が好ましく、スチレンダイマー等が好ましい。
【0126】
加水分解性樹脂(i)の重量平均分子量は、重合条件によっても異なるが、通常、1000〜3000000の範囲内であり、3000〜100000の範囲内であることが好ましく、5000〜50000の範囲内であることがより好ましい。重量平均分子量が1000以上であると、塗膜を形成したときに防汚性が発現できる傾向にあり、重量平均分子量が3000000以下であると、加水分解性樹脂(i)が塗料組成物に均一に分散しやすい傾向にある。なお、ここでいう重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトクロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0127】
加水分解性樹脂(i)が上記一般式(I)〜(IV)で示される1種以上のシリコン含有基を含む樹脂であること(または、シリコン含有重合性単量体(a1)〜(a4)の1種以上から誘導される構成単位を含む樹脂であること)は、たとえば、1H−NMR、ICP発光分析等を用いて確認することができる。加水分解性樹脂(i)が上記一般式(VI)〜(VII)で示される1種以上の金属原子含有基を含む樹脂であること(金属原子含有重合性単量体(b1)〜(b2)の1種以上から誘導される構成単位を含む樹脂であること)は、たとえば、原子吸光分析等を用いて確認することができる。
【0128】
〔加水分解性樹脂(ii)〕
着色防汚塗料に含有され得る加水分解性樹脂(ii)は、上記一般式(I)、(II)、(III)および(IV)で示される基からなる群から選択される少なくとも1種のシリコン含有基と、上記一般式(V)で示されるトリオルガノシリルオキシカルボニル基とを有する。このような特定のシリコン含有基およびトリオルガノシリルオキシカルボニル基を有する加水分解性樹脂(ii)は、トリオルガノシリルオキシカルボニル基の加水分解性に起因して、水中(特には海水中)において徐々に加水分解する性質を示す。したがって、加水分解性樹脂(ii)をビヒクルとする着色防汚塗料から形成された防汚塗膜は、水中浸漬によりその表面が自己研磨され、これにより、塗膜表面の更新性が得られるため、生物が付着しにくくなるとともに、トリオルガノシリルオキシカルボニル基が加水分解されることによる防汚性効果およびシリコン含有基が示す防汚性効果も相俟って、完全に消耗されるまでの間、防汚剤を含有しない場合においても、優れた防汚性能を示すこととなる。また、加水分解性樹脂(ii)を含有する着色防汚塗料から形成される防汚塗料は、耐クラック性にも優れている。
【0129】
上記一般式(I)、(II)、(III)および(IV)で示されるシリコン含有基の詳細については、加水分解性樹脂(i)で述べたとおりである。
【0130】
上記一般式(V)において、R40、R41およびR42は、同一または異なって、炭素数1〜20の炭化水素残基を表す。加水分解性樹脂(ii)は、上記一般式(V)で示されるトリオルガノシリルオキシカルボニル基を2種以上有していてもよい。炭素数1〜20の炭化水素残基の具体例を挙げれば、たとえば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基等の炭素数が20以下の直鎖状または分岐状のアルキル基;シクロヘキシル基、置換シクロヘキシル基等の環状アルキル基;アリール基、置換アリール基等が挙げられる。置換アリール基としては、ハロゲン、炭素数18程度までのアルキル基、アシル基、ニトロ基またはアミノ基等で置換されたアリール基等を挙げることができる。なかでも、安定したポリッシングレート(研磨速度)を示す塗膜が得られ、防汚性能を長期間安定して維持することができることから、上記一般式(V)で示されるトリオルガノシリルオキシカルボニル基は、炭化水素残基としてイソプロピル基を含むことが好ましく、R40、R41およびR42のすべてがイソプロピル基であることがより好ましい。
【0131】
また、塗膜の自己研磨性を長期間安定して維持でき、これにより長期防汚性により優れるとともに、耐クラック性や下地との密着性により優れる塗膜を形成できる傾向にあることから、加水分解性樹脂(ii)は、上記一般式(VI)および(VII)で示される基からなる群から選択される少なくとも1種の金属原子含有基をさらに有することが好ましい。上記一般式(VI)および(VII)中、Mは2価の金属原子を表し、R30は有機酸残基またはアルコール残基を表す。加水分解性樹脂(ii)は、上記一般式(VI)および(VII)の双方を有していてもよい。2価の金属原子Mとしては、Mg、ZnおよびCuなどを挙げることができ、好ましくは、ZnまたはCuである。
【0132】
上記加水分解性樹脂(ii)としては、上記シリコン含有基およびトリオルガノシリルオキシカルボニル基を有する限り特に限定されないが、上記一般式(I’)で示される単量体(a1)、上記一般式(II’)で示される単量体(a2)、上記一般式(III’)で示される単量体(a3)および上記一般式(IV’)で示される単量体(a4)からなる群から選択される少なくとも1種のシリコン含有重合性単量体(a)から誘導される構成単位と、上記一般式(V’)で示されるトリオルガノシリル(メタ)アクリレート(c)から誘導される構成単位とを含むアクリル系樹脂を好適に用いることができる。単量体(a1)〜(a4)の詳細については、加水分解性樹脂(i)で述べたとおりである。上記一般式(V’)で示されるトリオルガノシリル(メタ)アクリレート(c)は、上記一般式(V)で示されるトリオルガノシリルオキシカルボニル基を有する重合性単量体である。
【0133】
上記一般式(V’)で示されるトリオルガノシリル(メタ)アクリレート(c)は、加水分解性樹脂(ii)に上記一般式(V)で示されるトリオルガノシリルオキシカルボニル基を導入するために用いられる単量体である。上記シリコン含有基に加えて、トリオルガノシリルオキシカルボニル基が導入されることにより、塗膜の良好な自己研磨性が得られ、長期防汚性に優れた塗膜を得ることが可能となる。上記一般式(V’)におけるR40、R41およびR42は、上記一般式(V)におけるR40、R41およびR42と同じ意味を表す。
【0134】
加水分解性樹脂(ii)を構成する全構成単位中、上記シリコン含有重合性単量体(a)およびトリオルガノシリル(メタ)アクリレート(c)から誘導される構成単位の合計含有量は、5〜90質量%であることが好ましく、15〜80質量%であることがより好ましい。5質量%以上とすることで、樹脂の良好な加水分解性を確保できる傾向にあり、90質量%以下とすることにより、塗膜の十分な硬度を確保できる傾向にある。
【0135】
また、上記シリコン含有重合性単量体(a)から誘導される構成単位とトリオルガノシリル(メタ)アクリレート(b)から誘導される構成単位との加水分解性樹脂(ii)における含有量の比率は、20/80〜80/20(質量比)の範囲とすることが好ましく、30/70〜70/30(質量比)の範囲とすることがより好ましい。
【0136】
加水分解性樹脂(ii)は、塗膜の自己研磨性を長期間安定して維持でき、これにより長期防汚性により優れるとともに、耐クラック性や下地との密着性により優れる塗膜を形成できる傾向にあることから、上記一般式(VI’)で示される単量体(b1)および(VII’)で示される単量体(b2)からなる群から選択される少なくとも1種の金属原子含有重合性単量体(b)から誘導される構成単位をさらに含むことが好ましい。上記一般式(VI’)で示される単量体(b1)および(VII’)で示される単量体(b2)はそれぞれ、上記一般式(VI)および(VII)で示される金属原子含有基を有する金属原子含有重合性単量体である。単量体(b1)および(b2)の詳細については、加水分解性樹脂(i)で述べたとおりである。
【0137】
加水分解性樹脂(ii)は、金属原子含有重合性単量体(b1)から誘導される構成単位および金属原子含有重合性単量体(b2)から誘導される構成単位の双方を含んでいてもよい。
【0138】
加水分解性樹脂(ii)を構成する全構成単位中、金属原子含有重合性単量体(b)から誘導される構成単位の含有量は、10〜60質量%であることが好ましく、15〜50質量%であることがより好ましい。10質量%以上とすることにより、樹脂の良好な加水分解性を確保できる傾向にあり、60質量%以下とすることにより、良好な塗膜の可撓性を確保できる傾向にある。
【0139】
また、上記シリコン含有重合性単量体(a)およびトリオルガノシリル(メタ)アクリレート(c)から誘導される構成単位の合計含有量と、金属原子含有重合性単量体(b)から誘導される構成単位との加水分解性樹脂(ii)における含有量の比率は、10/90〜90/10(質量比)の範囲とすることが好ましい。
【0140】
加水分解性樹脂(ii)は、加水分解性樹脂(i)と同様、上記シリコン含有重合性単量体(a)、トリオルガノシリル(メタ)アクリレート(c)および金属原子含有重合性単量体(b)以外のその他の単量体成分(d)から誘導される構成単位を含んでいてもよい。その他の単量体成分(d)の詳細については、加水分解性樹脂(i)で述べたとおりである。
【0141】
加水分解性樹脂(ii)は、加水分解性樹脂(i)について示した方法と同様の方法によって製造することができる。
【0142】
加水分解性樹脂の含有量(加水分解性樹脂(i)および(ii)の合計含有量)は、着色防汚塗料に含有される固形分(以下、塗料固形分という)中、30〜97質量%であることが好ましい。30質量%未満である場合、下地に対する塗膜の密着性が低下し、防汚効果が十分に発揮できない傾向がある。また、97質量%を超える場合には、塗膜の耐クラック性が低下する傾向にある。
【0143】
(B)着色顔料
着色防汚塗料に含有させる着色顔料としては、従来公知の各種の着色顔料を用いることができ、着色顔料の選択により、各種色相の着色防汚塗料を実現することができる(着色防汚塗料の多色化が可能となる)。本発明で用いられる着色防汚塗料は、防汚剤を不含有とすることができるか、またはその添加量を大幅に削減できるとともに、加水分解性樹脂の透明性が高いため、着色顔料に由来する鮮明な色相がほとんどそのまま付与されたものとなっており、上述のように、これにより、着色防汚塗料と被塗物表面との色差を大きくすることができるとともに、膜厚判定機能が向上する。
【0144】
着色防汚塗料の多色化は、本発明の方法を適用できる被塗物表面の色の自由度を広げる。着色防汚塗料の色相によっては、ある特定の被塗物について、着色防汚塗料と被塗物表面との色差ΔE3があまり大きくならず、本発明の方法に適さない場合があるが、このような場合であっても、この着色防汚塗料は、着色防汚塗料と被塗物表面との色差ΔE3が十分に大きな表面色を有する他の被塗物に適用できる。換言すれば、着色防汚塗料に添加する着色顔料の種類(着色防汚塗料の色相)は、被塗物の表面色に応じて選択することができる。上述のように、本発明で用いられる着色防汚塗料は多色化が可能であるので、実質的に被塗物表面がどのような色であっても、被塗物表面との色差ΔE3が十分に大きい着色防汚塗料を調製することが可能である。
【0145】
着色顔料の具体例を挙げれば、たとえば、酸化チタン、酸化ジルコン、塩基性硫酸鉛、酸化スズ、カーボンブラック、白鉛、黒鉛、硫化亜鉛、酸化亜鉛、酸化クロム、黄色ニッケルチタン、黄色クロムチタン、黄色酸化鉄、赤色酸化鉄、黒色酸化鉄、アゾ系赤・黄色顔料、クロムイエロー、フタロシアニングリーン、フタロシアニンブルー、ウルトラマリンブルー、キナクリドン等の着色顔料などである。これらの着色顔料は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0146】
着色顔料の含有量は、たとえば塗料固形分中0.3質量%以上とすることができる。着色顔料の含有量は特に限定されないが、たとえば30質量%以下である。
【0147】
(C)防汚剤
上記着色防汚塗料より得られる防汚塗膜は、上記加水分解性樹脂(i)および/または加水分解性樹脂(ii)に基づく防汚効果により、良好な防汚性能を発揮するものであるが、より防汚性能を高めるため、あるいは防汚性の長期持続性をより高めるために、着色防汚塗料に、必要に応じて防汚剤を配合してもよい。防汚剤としては特に限定されず、公知のものを使用することができ、たとえば、無機化合物、金属を含む有機化合物および金属を含まない有機化合物等を挙げることができる。
【0148】
上記防汚剤の具体例を挙げれば、たとえば、酸化亜鉛;亜酸化銅;マンガニーズエチレンビスジチオカーバメート;ジンクジメチルジチオカーバメート;2−メチルチオ−4−t−ブチルアミノ−6−シクロプロピルアミノ−s−トリアジン;2,4,5,6−テトラクロロイソフタロニトリル;N,N−ジメチルジクロロフェニル尿素;ジンクエチレンビスジチオカーバーメート;ロダン銅(チオシアン酸第一銅);4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン(4,5,−ジクロロ−2−n−オクチル−3(2H)イソチアゾロン);N−(フルオロジクロロメチルチオ)フタルイミド;N,N’−ジメチル−N’−フェニル−(N−フルオロジクロロメチルチオ)スルファミド;2−ピリジンチオール−1−オキシド亜鉛塩(ジンクピリチオン)および銅塩(銅ピリチオン)等の金属塩;テトラメチルチウラムジサルファイド;2,4,6−トリクロロフェニルマレイミド;2,3,5,6−テトラクロロ−4−(メチルスルホニル)ピリジン;3−ヨード−2−プロピルブチルカーバーメート;ジヨードメチルパラトリスルホン;フェニル(ビスピリジル)ビスマスジクロライド;2−(4−チアゾリル)−ベンズイミダゾール;トリフェニルボロンピリジン塩;ステアリルアミン−トリフェニルボロン;ラウリルアミン−トリフェニルボロン;ビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメート;1,1−ジクロロ−N−[(ジメチルアミノ)スルホニル]−1−フルオロ−N−フェニルメタンスルフェンアミド;1,1−ジクロロ−N−[(ジメチルアミノ)スルホニル]−1−フルオロ−N−(4−メチルフェニル)メタンスルフェンアミド;N’−(3,4−ジクロロフェニル)−N,N’−ジメチル尿素;N’−tert−ブチル−N−シクロプロピル−6−(メチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2,4−ジアミン;および、4−ブロモ−2−(4−クロロフェニル)−5−(トリフルオロメチル)−1H−ピロール−3−カルボニトリル等を挙げることができる。これらの防汚剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0149】
防汚剤の含有量は、塗料固形分中、10質量%以下であることが好ましく、8質量%以下であることがより好ましい。防汚剤の含有量が10質量%を超えると、防汚塗膜にクラック、剥離等の欠陥が生じることがある。上述のように、本発明で用いられる着色防汚塗料においては、加水分解性樹脂(i)および(ii)自身がその加水分解性およびシリコン含有基に基づく良好な防汚性能を有しているため、別途の防汚剤の配合量を低減または不含有とすることができる。これにより、鮮明化、多色化および膜厚判定機能がさらに向上された着色防汚塗料を実現することが可能となる。
【0150】
(D)熱可塑性樹脂および/または可塑剤
上記着色防汚塗料は、熱可塑性樹脂および/または可塑剤を含有してもよい。熱可塑性樹脂および/または可塑剤を含有させることにより、塗膜の耐クラック性を向上させることができる。また、塗膜のポリッシングレート(研磨速度)を適度な速度に制御することが可能になるため、塗膜の長期防汚性の点においても有利である。特に、加水分解性樹脂の主成分として、加水分解性樹脂(i)を用いる場合には、熱可塑性樹脂および/または可塑剤を併用することが好ましい。たとえば、被塗物が船舶等である場合、防汚塗膜は、長期間水中(海水など)に浸漬され、また、一定期間水中に浸漬された後、陸揚げされるというサイクルに繰り返し曝されることとなるため、防汚塗膜には、かかる条件下にも耐え得る可とう性が要求される。したがって、耐クラック性は、塗膜に要求される重要な特性である。
【0151】
上記熱可塑性樹脂としては、たとえば、塩素化パラフィン;塩化ゴム、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等の塩素化ポリオレフィン;ポリビニルエーテル;ポリプロピレンセバケート;部分水添ターフェニル;ポリ酢酸ビニル;(メタ)アクリル酸メチル系共重合体、(メタ)アクリル酸エチル系共重合体、(メタ)アクリル酸プロピル系共重合体、(メタ)アクリル酸ブチル系共重合体、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル系共重合体等のポリ(メタ)アクリル酸アルキルエステル;ポリエーテルポリオール;アルキド樹脂;ポリエステル樹脂;塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−プロピオン酸ビニル共重合体、塩化ビニル−イソブチルビニルエーテル共重合体、塩化ビニル−イソプロピルビニルエーテル共重合体、塩化ビニル−エチルビニルエーテル共重合体等の塩化ビニル系樹脂;シリコンオイル;ワックス;ワセリン;流動パラフィン;ロジン、水添ロジン、ナフテン酸、脂肪酸およびこれらの2価金属塩;などを挙げることができる。これらの熱可塑性樹脂は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0152】
上記のなかでも、塩素化パラフィン、ポリビニルエーテル、ポリエーテルポリオール、ロジン、塩化ビニル−イソブチルビニルエーテル共重合体が好ましく、特に、塩素化パラフィン、ポリビニルエーテル、ロジンおよび塩化ビニル−イソブチルビニルエーテル共重合体は、塗膜の可塑性および塗膜消耗量の調整に好適であることから、より好ましく用いることができる。
【0153】
また、可塑剤としては、たとえば、ジオクチルフタレート(DOP)、ジメチルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート、ジイソデシルフタレート(DIDP)等のフタル酸エステル系可塑剤;アジピン酸イソブチル、セバシン酸ジブチル等の脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤;ジエチレングリコールジベンゾエート、ペンタエリスリトールアルキルエステル等のグリコールエステル系可塑剤;トリクレジルリン酸(トリクレジルホスフェート)、トリアリールリン酸(トリアリールホスフェート)、トリクロロエチルリン酸等のリン酸エステル系可塑剤;エポキシ大豆油、エポキシステアリン酸オクチル等のエポキシ系可塑剤;ジオクチルスズラウリレート、ジブチルスズラウリレート等の有機スズ系可塑剤;トリメリット酸トリオクチル、トリアセチレン等を挙げることができる。これらの可塑剤は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0154】
上記のなかでも、ジオクチルフタレート(DOP)、ジメチルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート、ジイソデシルフタレート(DIDP)等のフタル酸エステル系可塑剤およびトリクレジルリン酸(トリクレジルホスフェート)、トリアリールリン酸(トリアリールホスフェート)、トリクロロエチルリン酸等のリン酸エステル系可塑剤は、上記加水分解性樹脂および上記熱可塑性樹脂との相溶性に特に優れており、塗膜全体にわたって均質的に耐クラック性を向上させることができることから、好ましく用いることができる。
【0155】
上記着色防汚塗料は、熱可塑性樹脂のみを含有していてもよいし、可塑剤のみを含有していてもよいし、熱可塑性樹脂および可塑剤の双方を含有していてもよい。熱可塑性樹脂および可塑剤の併用は、強靭性および可塑性により優れる塗膜が得られ得ることから、好ましい。
【0156】
熱可塑性樹脂および可塑剤の含有量は特に制限されないが、それぞれ、上記加水分解性樹脂100質量部に対して、たとえば0〜100質量部とすることができ、好ましくは5〜50質量部である。
【0157】
また、熱可塑性樹脂および可塑剤の合計含有量は、上記加水分解性樹脂100質量部に対して3〜100質量部の範囲内とすることが好ましく、より好ましくは5〜50質量部である。熱可塑性樹脂および可塑剤の合計含有量が加水分解性樹脂100質量部に対して3質量部未満であると、熱可塑性樹脂および/または可塑剤の添加による耐クラック性の改善効果が認められない傾向にあり、また、熱可塑性樹脂および可塑剤の合計含有量が極端に少ないか、熱可塑性樹脂および可塑剤が含有されない場合には、適度なポリッシングレート(研磨速度)が得られず、長期防汚性が付与されないことがある。また、熱可塑性樹脂および可塑剤の合計含有量が加水分解性樹脂100質量部に対して100質量部を超えると、下地に対する塗膜の密着性が低下し、防汚性が低下する傾向にある。
【0158】
(E)その他の添加剤
着色防汚塗料は、体質顔料、溶剤、水結合剤、タレ止め剤、色分かれ防止剤、沈降防止剤、消泡剤、塗膜消耗調整剤、紫外線吸収剤、表面調整剤、粘度調整剤、レベリング剤、顔料分散剤、防汚剤溶出調整剤などの他の添加剤を含有していてもよい。これら他の添加剤の含有量は、着色顔料による鮮明な色相や下地隠蔽性を阻害せず、着色防汚塗料の膜厚判定機能を低下させない程度とすることが好ましい。
【0159】
上記体質顔料としては、たとえば、硫酸バリウム、タルク、クレー、白亜、シリカホワイト、アルミナホワイト、ベントナイト、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸、ケイ酸塩、酸化アルミニウム水和物、硫酸カルシウムなどを挙げることができる。これらの体質顔料は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0160】
溶剤としては、たとえば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、シクロペンタン、オクタン、ヘプタン、シクロヘキサン、ホワイトスピリット等の炭化水素類;ジオキサン、テトラヒドロフラン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類;酢酸ブチル、酢酸プロピル、酢酸ベンジル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエステル類;エチルイソブチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;n−ブタノール、プロピルアルコール等のアルコールなどを挙げることができる。これらの溶剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0161】
なお、上記着色防汚塗料は、上記加水分解性樹脂(i)、(ii)以外の他のビヒクル成分を含有していてもよい。ただし、その含有量は最小限にとどめることが好ましい。
【0162】
上記着色防汚塗料は、たとえば、上記加水分解性樹脂またはこれを含有する樹脂組成物に、着色顔料、ならびに必要に応じて、防汚剤、熱可塑性樹脂および/または可塑剤、その他の添加剤を添加し、ボールミル、ペブルミル、ロールミル、サンドグラインドミル、高速ディスパー等の混合機を用いて混合することにより、調製することができる。
【0163】
<着色防汚塗料の膜厚判定機能>
本発明において用いられる着色防汚塗料は、下記条件(a)および(b)を少なくとも満たし、好ましくはさらに下記条件(d)を満たす、膜厚判定機能に優れた防汚塗料である。
(a)目標乾燥膜厚Tを有する着色防汚塗料から形成される塗膜が、被塗物の表面を完全に隠蔽する、
(b)目標乾燥膜厚Tを有する着色防汚塗料から形成される塗膜と、乾燥膜厚が0.8Tである着色防汚塗料から形成される塗膜との色差ΔE1が2.0以上である、
(d)目標乾燥膜厚Tを有する着色防汚塗料から形成される塗膜と、乾燥膜厚が1.2Tである着色防汚塗料から形成される塗膜との色差ΔE2が1未満である。
【0164】
色差ΔE1およびΔE2ならびに後述するΔE3は、三刺激値色彩計SMカラーメーター(型式SM−T45、スガ試験機(株)製、規格JIS Z 8722)等の色差計(色彩計)を使用して、一般に認められた方法により測定することができる。色差ΔE1、ΔE2およびΔE3は、いずれも絶対値である。
【0165】
上記条件(a)は、着色防汚塗料から形成される塗膜(ここでいう塗膜は乾燥塗膜であるが、ウェットの塗膜と乾燥塗膜の下地隠蔽性はほぼ同じである。)の被塗物表面の隠蔽性を規定するものである。着色防汚塗料を被塗物表面に塗工していくと、その塗膜厚が大きくなるに従って、被塗物表面の「透け」の程度が小さくなる。被塗物表面の色相が消失し、塗工面の色相が、着色防汚塗料からなる塗膜の色相と同じになったとき、着色防汚塗料から形成される塗膜が、被塗物の表面を完全に隠蔽したと判断される。本発明で用いる着色防汚塗料は、このような被塗物表面の完全隠蔽を、目標乾燥膜厚T以上の乾燥塗膜を形成するとき達成できるものである。
【0166】
上記条件(b)は、着色防汚塗料から形成される乾燥塗膜において、その膜厚が目標乾燥膜厚Tであるときと、0.8Tであるときとの色差ΔE1を規定するものである。乾燥塗膜厚が0.8Tである塗膜は、塗装完了直前の塗膜である。したがって、色差ΔE1が2.0以上と大きいことにより、塗装完了間際(目標乾燥膜厚T直前(0.8T)から目標乾燥膜厚Tにかけて)における塗膜色相の膜厚依存性が大きくなるため、目標乾燥膜厚Tを有する乾燥塗膜を極めて正確に形成することができ、わずかな膜厚不足も解消することができる。色差ΔE1は、好ましくは2.5以上である。ただし、色差ΔE1があまりに大きすぎると、わずかな膜厚の差で色ムラが生じやすくなることから、色差ΔE1は好ましくは10以下、より好ましくは5以下である。色差ΔE1「2.0以上」、さらには「2.5以上」は、加水分解性樹脂として加水分解性樹脂(i)および/または(ii)を用いることによって実現されたものであり、従来の加水分解性樹脂では達成することができなかった。
【0167】
なお、目標乾燥膜厚Tは、被塗物に要求される防汚性などを考慮して適宜選択することができ、特に限定されるものではないが、たとえば、1コート(本発明の方法を適用して形成される防汚塗膜1層)の乾燥膜厚で、30μm以上300μm以下程度であることができる。
【0168】
上記条件(d)は、着色防汚塗料から形成される乾燥塗膜において、その膜厚が目標乾燥膜厚Tであるときと、1.2Tであるときとの色差ΔE2を規定するものである。乾燥塗膜厚が1.2Tである塗膜は、塗装完了直後の塗膜である。色差ΔE2が1以上になると、目標乾燥膜厚Tを有する塗膜と目標乾燥膜厚Tを超える塗膜との間の色差が大きくなり、色ムラが生じやすくなる。色差ΔE2は、好ましくは0.5以下、より好ましくは0.4以下である。
【0169】
着色防汚塗料自身と被塗物表面との色差ΔE3は、0より大きいことが好ましく、5以上であることがより好ましい。色差ΔE3が大きいほど、塗装中の塗膜厚が目標とする膜厚に近づくにつれて被塗物との色差が変化する様子を目視で確認することが容易となる。すなわち、色差ΔE3があまり低いと、塗膜によって被塗物表面が完全に隠蔽されたどうかを確認することが困難となり、目標乾燥膜厚Tを有する塗膜が得られにくくなる。本発明では、加水分解性樹脂(i)および/または(ii)をビヒクルとして用いているため、色差ΔE3が大きい着色防汚塗料を容易に得ることができる。
【0170】
上記条件を満たす着色防汚塗料は、ビヒクルとして加水分解性樹脂(i)および/または(ii)を用いることを前提として、着色顔料の種類(色相)の選択およびその含有量の調整により得ることができる。着色顔料の含有量に応じて、その着色防汚塗料の目標乾燥膜厚Tを調整することができる。すなわち、基本的には、着色顔料の含有量をより小さくすることにより、その着色防汚塗料の目標乾燥膜厚Tをより大きくすることができる。換言すれば、目標乾燥膜厚Tは、その塗膜に要求される防汚性能、耐クラック性などの塗膜特性や被塗物の種類などから決まってくるため、当該所定の目標乾燥膜厚Tに応じて着色顔料の含有量が調整される。
【0171】
また、異なる目標乾燥膜厚Tを有する(異なる着色顔料含有量である)2種以上の着色防汚塗料(上記条件(a)〜(c)、好ましくはさらに(d)を具備する本発明に係る防汚塗料)を混合することにより、本発明に用いる着色防汚塗料を調製してもよい。このような調製方法により、混合される着色防汚塗料の目標乾燥膜厚とは異なる目標乾燥膜厚の着色防汚塗料を容易に得ることができる。この方法においては、混合される着色防汚塗料の混合比によって、得られる着色防汚塗料の目標乾燥膜厚Tを調整することができる。
【0172】
<防汚塗膜の形成方法>
本発明の方法では、塗装中の塗膜と被塗物表面との色差の変化を観察しながら、上記着色防汚塗料を被塗物表面に塗工していく。「塗装中の塗膜と被塗物表面との色差の変化を観察する」とは、典型的には、塗工面に被塗物表面の「透け」が生じるかどうか、すなわち、塗装中の塗膜(ウェットの塗膜)が被塗物表面をどの程度隠蔽しているかを観察することであり、本発明では、塗工面の色相が、着色防汚塗料からなる塗膜の色相と同じになるまで、すなわち、被塗物表面が着色防汚塗料からなる塗膜によって完全に隠蔽されるまで塗工を行なう。ウェットの塗膜の下地隠蔽性は、乾燥塗膜の下地隠蔽性はほぼ同じであるので、完全に隠蔽されたときのウェットの塗膜厚は、目標乾燥膜厚に対応する膜厚である。この際、本発明で用いる着色防汚塗料は、上記条件(b)を満たすものであることから、塗装完了直前の塗膜と目標乾燥塗膜に相当するウェット塗膜の膜厚との色差が大きいため、目標乾燥膜厚を有する乾燥塗膜を極めて正確に形成することができる。被塗物表面が着色防汚塗料からなる塗膜によって完全に隠蔽されたかどうかの確認は、目視で容易に行なうことができる。
【0173】
以上に示すような本発明の防汚塗膜の形成方法によれば、所定の乾燥膜厚を有する均一な防汚塗膜を、従来と比較して、より正確に形成することができる。
【0174】
防汚塗膜は、上記着色防汚塗料を、常法に従って被塗物の表面に塗工した後、必要に応じて常温下または加熱下で溶剤を揮散除去することによって形成することができる。塗工方法としては特に限定されず、たとえば、浸漬法、スプレー法、ハケ塗り、ローラー、静電塗装、電着塗装等の従来公知の方法を挙げることができる。
【0175】
被塗物としては、特に限定されず、たとえば、非処理鋼材、ブラスト処理鋼材、酸処理鋼材、亜鉛メッキ鋼材、ステンレス鋼材等の鋼材;アルミニウム(合金)材、銅(合金)材等の非鉄金属材;コンクリート;プラスチック等からなる各種構造物、特には水中構造物が挙げられる。これらの鋼材および非鉄金属材には溶接線があってもよい。被塗物の具体例を挙げれば、たとえば、船舶;港湾施設;発電所等の取水設備;冷却用導水管等の配管;橋梁;浮標;工業用水系施設;海底基地等の水中構造物を挙げることができる。
【0176】
被塗物の着色防汚塗料が塗工される表面は、必要に応じて前処理されたものであってもよく、また、防食塗料、他の防汚塗料、または着色防汚塗料から形成される塗膜の密着性を向上させるためのバインダー塗料などから形成された下塗り塗膜を有していてもよい。下塗り塗膜を形成する塗料は、使用に供された旧い塗膜であってもよい。この場合、本発明の方法は、旧塗膜の補修のために適用されてもよい。上記他の防汚塗料としては、従来公知の防汚塗料のほか、塗工される着色防汚塗料とは異色の、本発明に係る着色防汚塗料であってもよい。また、下塗り塗膜を形成する防汚塗料は、下塗り塗膜の色相がこの上に形成される着色防汚塗料と十分に大きな色差(上記ΔE3に相当する色差)を生じる限り、当該着色防汚塗料と同じ色相であってもよい。被塗物表面に下塗り塗膜が形成される場合、上記条件(a)における「被塗物の表面」とは、下塗り塗膜の表面を意味する。
【実施例】
【0177】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0178】
〔1〕金属原子含有重合性単量体(b)の調製
(製造例M1:金属原子含有重合性単量体混合物M1の調製)
冷却器、温度計、滴下ロートおよび攪拌機を備えた四つ口フラスコに、PGM(プロピレングリコールメチルエーテル)85.4質量部および酸化亜鉛40.7質量部を仕込み、撹拌しながら75℃に昇温した。ついで、滴下ロートからメタクリル酸43.1質量部、アクリル酸36.1質量部および水5質量部からなる混合物を3時間で等速滴下した。さらに2時間撹拌した後、PGMを36質量部添加して、透明な金属原子含有重合性単量体混合物M1を得た。固形分は44.8質量%であった。この金属原子含有重合性単量体混合物M1は、金属原子含有重合性単量体(b)として、単量体(b2)である(メタ)アクリル酸亜鉛を含む。
【0179】
(製造例M2:金属原子含有重合性単量体混合物M2の調製)
冷却器、温度計、滴下ロートおよび攪拌機を備えた四つ口フラスコに、PGM 72.4質量部および酸化亜鉛40.7質量部を仕込み、撹拌しながら75℃に昇温した。ついで、滴下ロートからメタクリル酸30.1質量部、アクリル酸25.2質量部およびバーサチック酸51.6質量部からなる混合物を3時間で等速滴下した。さらに2時間撹拌した後、PGMを11質量部添加して、透明な金属原子含有重合性単量体混合物M2を得た。固形分は59.6質量%であった。この金属原子含有重合性単量体混合物M2は、金属原子含有重合性単量体(b)として、上記一般式(VI’)で示される単量体(b1)である亜鉛(メタ)アクリレート(R30はバーサチック酸残基である)、ならびに単量体(b2)である(メタ)アクリル酸亜鉛を含む。
【0180】
(製造例M3:金属原子含有重合性単量体混合物M3の調製)
冷却器、温度計、滴下ロートおよび攪拌機を備えた四つ口フラスコに、キシレン60質量部、PGM 13質量部および酸化亜鉛40.7質量部を仕込み、撹拌しながら75℃に昇温した。ついで、滴下ロートからメタクリル酸32.3質量部、アクリル酸27質量部、オレイン酸37.7質量部、酢酸2.3質量部およびプロピオン酸5.8質量部からなる混合物を3時間で等速滴下した。さらに2時間撹拌した後、キシレン77質量部およびPGMを46質量部添加して、透明な金属原子含有重合性単量体混合物M3を得た。固形分は39.6質量%であった。この金属原子含有重合性単量体混合物M3は、金属原子含有重合性単量体(b)として、上記一般式(VI’)で示される単量体(b1)である亜鉛(メタ)アクリレート(R30はオレイン酸残基、酢酸残基、プロピオン酸残基の1種以上である)、ならびに単量体(b2)である(メタ)アクリル酸亜鉛を含む。
【0181】
〔2〕加水分解性樹脂(i)の調製
(製造例S1:加水分解性樹脂組成物S1の調製)
冷却器、温度計、滴下ロートおよび攪拌機を備えた四つ口フラスコに、PGM 15質量部、キシレン65質量部およびエチルアクリレート4質量部を仕込み、撹拌しながら100℃に昇温した。ついで、滴下ロートからメチルメタクリレート32.3質量部、エチルアクリレート43.9質量部、「FM−0721」(チッソ(株)製)10質量部、上記製造例M1の金属原子含有重合性単量体混合物M1 21.7質量部、キシレン10質量部、連鎖移動剤(α−メチルスチレンダイマー)1.2質量部、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)2.5質量部およびアゾビスメチルブチロニトリル(AMBN)3質量部からなる混合物を6時間で等速滴下した。滴下終了後、t−ブチルパーオクトエート0.5質量部とキシレン10質量部を30分で滴下し、さらに1時間30分撹拌した後、キシレンを10.1質量部添加して、加水分解性樹脂組成物S1を得た。
【0182】
得られた加水分解性樹脂組成物S1をGPC(東ソー社製「HLC−8220GPC」、溶離液:ジメチルホルムアミド)にて分析したところ、加水分解性樹脂組成物S1に含まれる加水分解性樹脂の重量平均分子量はポリスチレン換算値で6800であった。また、得られた加水分解性樹脂組成物S1からメタノール再沈殿により単離した加水分解性樹脂を白金るつぼに採取し、硫酸を加えた後、加圧分解容器に入れ加熱した。硫酸を揮発させた後、加水分解性樹脂を完全に灰化させた。この灰化物を放冷後アルカリ融解させ、ICP発光分析装置(セイコーインスツル社製「SPS5100」)で分析したところ、Si原子が確認された。また、加水分解性樹脂を原子吸光分光光度計(島津製作所社製「AA6300」)により分析したところ、Zn原子由来のシグナルが確認された。
【0183】
(製造例S2:加水分解性樹脂組成物S2の調製)
冷却器、温度計、滴下ロートおよび攪拌機を備えた四つ口フラスコに、PGM 15質量部、キシレン65質量部およびエチルアクリレート4質量部を仕込み、撹拌しながら100℃に昇温した。ついで、滴下ロートからメチルメタクリレート32.3質量部、エチルアクリレート13.9質量部、「FM−0711」(チッソ(株)製)40質量部、上記製造例M1の金属原子含有重合性単量体混合物M1 21.7質量部、キシレン10質量部、連鎖移動剤(α−メチルスチレンダイマー)1.2質量部、AIBN 2.5質量部およびAMBN 0.8質量部からなる混合物を6時間で等速滴下した。滴下終了後、t−ブチルパーオクトエート0.5質量部とキシレン10質量部を30分で滴下し、さらに1時間30分撹拌した後、キシレンを10.1質量部添加して、加水分解性樹脂組成物S2を得た。
【0184】
得られた加水分解性樹脂組成物S2をGPC(東ソー社製「HLC−8220GPC」、溶離液:ジメチルホルムアミド)にて分析したところ、加水分解性樹脂組成物S2に含まれる加水分解性樹脂の重量平均分子量はポリスチレン換算値で8800であった。
【0185】
(製造例S3:加水分解性樹脂組成物S3の調製)
冷却器、温度計、滴下ロートおよび攪拌機を備えた四つ口フラスコに、PGM 15質量部およびキシレン61質量部を仕込み、撹拌しながら100℃に昇温した。ついで、滴下ロートからメチルメタクリレート18質量部、エチルアクリレート25質量部、「X−24−8201」(信越化学(株)製)40質量部、上記製造例M2の金属原子含有重合性単量体混合物M2 28.4質量部、PGM 20質量部、AIBN 2.5質量部およびAMBN 1質量部からなる混合物を4時間で等速滴下した。滴下終了後、t−ブチルパーオクトエート0.5質量部とキシレン10質量部を30分で滴下し、さらに1時間30分撹拌した後、キシレンを4.6質量部添加して、加水分解性樹脂組成物S3を得た。
【0186】
得られた加水分解性樹脂組成物S3をGPC(東ソー社製「HLC−8220GPC」、溶離液:ジメチルホルムアミド)にて分析したところ、加水分解性樹脂組成物S3に含まれる加水分解性樹脂の重量平均分子量はポリスチレン換算値で8200であった。
【0187】
(製造例S4:加水分解性樹脂組成物S4の調製)
冷却器、温度計、滴下ロートおよび攪拌機を備えた四つ口フラスコに、PGM 35質量部およびキシレン41質量部を仕込み、撹拌しながら100℃に昇温した。ついで、滴下ロートからメチルメタクリレート18質量部、エチルアクリレート15質量部、「X−24−8201」(信越化学(株)製)50質量部、上記製造例M3の金属原子含有重合性単量体混合物M3 42.5質量部、PGM 5質量部、AIBN 2.5質量部およびAMBN 1質量部からなる混合物を6時間で等速滴下した。滴下終了後、t−ブチルパーオクトエート0.5質量部とキシレン10質量部を30分で滴下し、さらに1時間30分撹拌した後、キシレンを5.5質量部添加して、加水分解性樹脂組成物S4を得た。
【0188】
得られた加水分解性樹脂組成物S4をGPC(東ソー社製「HLC−8220GPC」、溶離液:ジメチルホルムアミド)にて分析したところ、加水分解性樹脂組成物S4に含まれる加水分解性樹脂の重量平均分子量はポリスチレン換算値で7200であった。
【0189】
(製造例S5:加水分解性樹脂組成物S5の調製)
冷却器、温度計、滴下ロートおよび攪拌機を備えた四つ口フラスコに、PGM 15質量部、キシレン59質量部およびエチルアクリレート4質量部を仕込み、撹拌しながら100℃に昇温した。ついで、滴下ロートからメチルメタクリレート26.4質量部、エチルアクリレート25.5質量部、シリコン含有モノマーA 30質量部、上記製造例M1の金属原子含有重合性単量体混合物M1 31.3質量部、キシレン10質量部、連鎖移動剤(α−メチルスチレンダイマー)1.5質量部、AIBN 2.5質量部およびAMBN 4質量部からなる混合物を6時間で等速滴下した。滴下終了後、t−ブチルパーオクトエート0.5質量部とキシレン10質量部を30分で滴下し、さらに1時間30分撹拌した後、キシレンを10.8質量部添加して、加水分解性樹脂組成物S5を得た。
【0190】
得られた加水分解性樹脂組成物S5をGPC(東ソー社製「HLC−8220GPC」、溶離液:ジメチルホルムアミド)にて分析したところ、加水分解性樹脂組成物S5に含まれる加水分解性樹脂の重量平均分子量はポリスチレン換算値で6400であった。
【0191】
(製造例S6:加水分解性樹脂組成物S6の調製)
冷却器、温度計、滴下ロートおよび攪拌機を備えた四つ口フラスコに、PGM 15質量部、キシレン59質量部およびエチルアクリレート4質量部を仕込み、撹拌しながら100℃に昇温した。ついで、滴下ロートからメチルメタクリレート21.4質量部、エチルアクリレート25.5質量部、スチレン5質量部、シリコン含有モノマーB 30質量部、上記製造例M1の金属原子含有重合性単量体混合物M1 31.3質量部、キシレン10質量部、連鎖移動剤(α−メチルスチレンダイマー)1.5質量部、AIBN 2.5質量部およびAMBN 2.5質量部からなる混合物を6時間で等速滴下した。滴下終了後、t−ブチルパーオクトエート0.5質量部とキシレン10質量部を30分で滴下し、さらに1時間30分撹拌した後、キシレンを10.8質量部添加して、加水分解性樹脂組成物S6を得た。
【0192】
得られた加水分解性樹脂組成物S6をGPC(東ソー社製「HLC−8220GPC」、溶離液:ジメチルホルムアミド)にて分析したところ、加水分解性樹脂組成物S6に含まれる加水分解性樹脂の重量平均分子量はポリスチレン換算値で6900であった。
【0193】
(製造例S7:加水分解性樹脂組成物S7の調製)
冷却器、温度計、滴下ロートおよび攪拌機を備えた四つ口フラスコに、PGM 15質量部、キシレン59質量部およびエチルアクリレート4質量部を仕込み、撹拌しながら100℃に昇温した。ついで、滴下ロートからメチルメタクリレート26.4質量部、エチルアクリレート14.5質量部、2−メトキシエチルアクリレート5質量部、「FM−0711」(チッソ(株)製)20質量部、「TM−0701」(チッソ(株)製)20質量部、上記製造例M1の金属原子含有重合性単量体混合物M1 31.3質量部、キシレン10質量部、連鎖移動剤(α−メチルスチレンダイマー)1.5質量部、AIBN 2.5質量部およびAMBN 2.5質量部からなる混合物を6時間で等速滴下した。滴下終了後、t−ブチルパーオクトエート0.5質量部とキシレン10質量部を30分で滴下し、さらに1時間30分撹拌した後、キシレンを10.8質量部添加して、加水分解性樹脂組成物S7を得た。
【0194】
得られた加水分解性樹脂組成物S7をGPC(東ソー社製「HLC−8220GPC」、溶離液:ジメチルホルムアミド)にて分析したところ、加水分解性樹脂組成物S7に含まれる加水分解性樹脂の重量平均分子量はポリスチレン換算値で7000であった。
【0195】
(製造例S8:加水分解性樹脂組成物S8の調製)
冷却器、温度計、滴下ロートおよび攪拌機を備えた四つ口フラスコに、PGM 15質量部およびキシレン61質量部を仕込み、撹拌しながら100℃に昇温した。ついで、滴下ロートからメチルメタクリレート18質量部、エチルアクリレート35質量部、シリコン含有モノマーC 30質量部、上記製造例M2の金属原子含有重合性単量体混合物M2 28.4質量部、PGM 20質量部、AIBN 2.5質量部およびAMBN 2質量部からなる混合物を4時間で等速滴下した。滴下終了後、t−ブチルパーオクトエート0.5質量部とキシレン10質量部を30分で滴下し、さらに1時間30分撹拌した後、キシレンを4.6質量部添加して、加水分解性樹脂組成物S8を得た。
【0196】
得られた加水分解性樹脂組成物S8をGPC(東ソー社製「HLC−8220GPC」、溶離液:ジメチルホルムアミド)にて分析したところ、加水分解性樹脂組成物S8に含まれる加水分解性樹脂の重量平均分子量はポリスチレン換算値で7700であった。
【0197】
(製造例S9:加水分解性樹脂組成物S9の調製)
冷却器、温度計、滴下ロートおよび攪拌機を備えた四つ口フラスコに、PGM 15質量部、キシレン59質量部およびエチルアクリレート4質量部を仕込み、撹拌しながら100℃に昇温した。ついで、滴下ロートからメチルメタクリレート26.4質量部、エチルアクリレート35.5質量部、シリコン含有モノマーD 20質量部、上記製造例M1の金属原子含有重合性単量体混合物M1 31.3質量部、キシレン10質量部、連鎖移動剤(α−メチルスチレンダイマー)1.5質量部、AIBN 2.5質量部およびAMBN 5.5質量部からなる混合物を6時間で等速滴下した。滴下終了後、t−ブチルパーオクトエート0.5質量部とキシレン10質量部を30分で滴下し、さらに1時間30分撹拌した後、キシレンを10.8質量部添加して、加水分解性樹脂組成物S9を得た。
【0198】
得られた加水分解性樹脂組成物S9をGPC(東ソー社製「HLC−8220GPC」、溶離液:ジメチルホルムアミド)にて分析したところ、加水分解性樹脂組成物S9に含まれる加水分解性樹脂の重量平均分子量はポリスチレン換算値で6000であった。
【0199】
(製造例S10:加水分解性樹脂組成物S10の調製)
冷却器、温度計、滴下ロートおよび攪拌機を備えた四つ口フラスコに、PGM 15質量部、キシレン65質量部およびエチルアクリレート4質量部を仕込み、撹拌しながら100℃に昇温した。ついで、滴下ロートからメチルメタクリレート32.3質量部、エチルアクリレート43.9質量部、「FM−7711」(チッソ(株)製)10質量部、上記製造例M1の金属原子含有重合性単量体混合物M1 21.7質量部、キシレン10質量部、連鎖移動剤(α−メチルスチレンダイマー)2質量部、AIBN 2.5質量部およびAMBN 7.5質量部からなる混合物を6時間で等速滴下した。滴下終了後、t−ブチルパーオクトエート0.5質量部とキシレン10質量部を30分で滴下し、さらに1時間30分撹拌した後、キシレンを10.1質量部添加して、加水分解性樹脂組成物S10を得た。
【0200】
得られた加水分解性樹脂組成物S10をGPC(東ソー社製「HLC−8220GPC」、溶離液:ジメチルホルムアミド)にて分析したところ、加水分解性樹脂組成物S10に含まれる加水分解性樹脂の重量平均分子量はポリスチレン換算値で5400であった。また、得られた加水分解性樹脂組成物S10からメタノール再沈殿により単離した加水分解性樹脂を白金るつぼに採取し、硫酸を加えた後、加圧分解容器に入れ加熱した。硫酸を揮発させた後、加水分解性樹脂を完全に灰化させた。この灰化物を放冷後アルカリ融解させ、ICP発光分析装置(セイコーインスツル社製「SPS5100」)で分析したところ、Si原子が確認された。また、加水分解性樹脂を原子吸光分光光度計(島津製作所社製「AA6300」)により分析したところ、Zn原子由来のシグナルが確認された。
【0201】
(製造例S11:加水分解性樹脂組成物S11の調製)
冷却器、温度計、滴下ロートおよび攪拌機を備えた四つ口フラスコに、PGM 15質量部、キシレン65質量部およびエチルアクリレート4質量部を仕込み、撹拌しながら100℃に昇温した。ついで、滴下ロートからメチルメタクリレート32.3質量部、エチルアクリレート33.9質量部、「FM−7721」(チッソ(株)製)20質量部、上記製造例M1の金属原子含有重合性単量体混合物M1 21.7質量部、キシレン10質量部、連鎖移動剤(α−メチルスチレンダイマー)1.5質量部、AIBN 2.5質量部およびAMBN 5質量部からなる混合物を6時間で等速滴下した。滴下終了後、t−ブチルパーオクトエート0.5質量部とキシレン10質量部を30分で滴下し、さらに1時間30分撹拌した後、キシレンを10.1質量部添加して、加水分解性樹脂組成物S11を得た。
【0202】
得られた加水分解性樹脂組成物S11をGPC(東ソー社製「HLC−8220GPC」、溶離液:ジメチルホルムアミド)にて分析したところ、加水分解性樹脂組成物S11に含まれる加水分解性樹脂の重量平均分子量はポリスチレン換算値で6200であった。
【0203】
(製造例S12:加水分解性樹脂組成物S12の調製)
冷却器、温度計、滴下ロートおよび攪拌機を備えた四つ口フラスコに、PGM 15質量部、キシレン59質量部およびエチルアクリレート4質量部を仕込み、撹拌しながら100℃に昇温した。ついで、滴下ロートからメチルメタクリレート26.4質量部、エチルアクリレート40.5質量部、シリコン含有モノマーE 15質量部、上記製造例M1の金属原子含有重合性単量体混合物M1 31.3質量部、キシレン10質量部、連鎖移動剤(α−メチルスチレンダイマー)2質量部、AIBN 2.5質量部およびAMBN 8質量部からなる混合物を6時間で等速滴下した。滴下終了後、t−ブチルパーオクトエート0.5質量部とキシレン10質量部を30分で滴下し、さらに1時間30分撹拌した後、キシレンを10.8質量部添加して、加水分解性樹脂組成物S12を得た。
【0204】
得られた加水分解性樹脂組成物S12をGPC(東ソー社製「HLC−8220GPC」、溶離液:ジメチルホルムアミド)にて分析したところ、加水分解性樹脂組成物S12に含まれる加水分解性樹脂の重量平均分子量はポリスチレン換算値で5600であった。
【0205】
(製造例S13:加水分解性樹脂組成物S13の調製)
冷却器、温度計、滴下ロートおよび攪拌機を備えた四つ口フラスコに、PGM 15質量部、キシレン59質量部およびエチルアクリレート4質量部を仕込み、撹拌しながら100℃に昇温した。ついで、滴下ロートからメチルメタクリレート26.4質量部、エチルアクリレート35.5質量部、シリコン含有モノマーF 20質量部、上記製造例M1の金属原子含有重合性単量体混合物M1 31.3質量部、キシレン10質量部、連鎖移動剤(α−メチルスチレンダイマー)1.5質量部、AIBN 2.5質量部およびAMBN 7.5質量部からなる混合物を6時間で等速滴下した。滴下終了後、t−ブチルパーオクトエート0.5質量部とキシレン10質量部を30分で滴下し、さらに1時間30分撹拌した後、キシレンを10.8質量部添加して、加水分解性樹脂組成物S13を得た。
【0206】
得られた加水分解性樹脂組成物S13をGPC(東ソー社製「HLC−8220GPC」、溶離液:ジメチルホルムアミド)にて分析したところ、加水分解性樹脂組成物S13に含まれる加水分解性樹脂の重量平均分子量はポリスチレン換算値で5500であった。
【0207】
(製造例S14:加水分解性樹脂組成物S14の調製)
冷却器、温度計、滴下ロートおよび攪拌機を備えた四つ口フラスコに、PGM 15質量部、キシレン65質量部およびエチルアクリレート4質量部を仕込み、撹拌しながら100℃に昇温した。ついで、滴下ロートからメチルメタクリレート32.3質量部、エチルアクリレート13.9質量部、「FM−7711」(チッソ(株)製)5質量部、「FM−0711」(チッソ(株)製)35質量部、上記製造例M1の金属原子含有重合性単量体混合物M1 21.7質量部、キシレン10質量部、連鎖移動剤(α−メチルスチレンダイマー)1.2質量部、AIBN 2.5質量部およびAMBN 4質量部からなる混合物を6時間で等速滴下した。滴下終了後、t−ブチルパーオクトエート0.5質量部とキシレン10質量部を30分で滴下し、さらに1時間30分撹拌した後、キシレンを10.1質量部添加して、加水分解性樹脂組成物S14を得た。
【0208】
得られた加水分解性樹脂組成物S14をGPC(東ソー社製「HLC−8220GPC」、溶離液:ジメチルホルムアミド)にて分析したところ、加水分解性樹脂組成物S14に含まれる加水分解性樹脂の重量平均分子量はポリスチレン換算値で9000であった。
【0209】
(製造例S15:加水分解性樹脂組成物S15の調製)
冷却器、温度計、滴下ロートおよび攪拌機を備えた四つ口フラスコに、PGM 35質量部およびキシレン31質量部を仕込み、撹拌しながら100℃に昇温した。ついで、滴下ロートからメチルメタクリレート18質量部、エチルアクリレート25質量部、「FM−7721」(チッソ(株)製)10質量部、「X−24−8201」(信越化学(株)製)30質量部、上記製造例M2の金属原子含有重合性単量体混合物M2 28.4質量部、キシレン30質量部、AIBN 2.5質量部およびAMBN 2.5質量部からなる混合物を4時間で等速滴下した。滴下終了後、t−ブチルパーオクトエート0.5質量部とキシレン10質量部を30分で滴下し、さらに1時間30分撹拌した後、キシレンを4.6質量部添加して、加水分解性樹脂組成物S15を得た。
【0210】
得られた加水分解性樹脂組成物S15をGPC(東ソー社製「HLC−8220GPC」、溶離液:ジメチルホルムアミド)にて分析したところ、加水分解性樹脂組成物S15に含まれる加水分解性樹脂の重量平均分子量はポリスチレン換算値で7200であった。
【0211】
(製造例S16:加水分解性樹脂組成物S16の調製)
冷却器、温度計、滴下ロートおよび攪拌機を備えた四つ口フラスコに、PGM 40質量部およびキシレン31質量部を仕込み、撹拌しながら100℃に昇温した。ついで、滴下ロートからメチルメタクリレート18質量部、エチルアクリレート15質量部、「FM−7711」(チッソ(株)製)10質量部、「FM−7721」(チッソ(株)製)10質量部、「FM−0711」(チッソ(株)製)30質量部、上記製造例M3の金属原子含有重合性単量体混合物M3 42.5質量部、キシレン10質量部、AIBN 2.5質量部およびAMBN 4.5質量部からなる混合物を6時間で等速滴下した。滴下終了後、t−ブチルパーオクトエート0.5質量部とキシレン10質量部を30分で滴下し、さらに1時間30分撹拌した後、キシレンを5.5質量部添加して、加水分解性樹脂組成物S16を得た。
【0212】
得られた加水分解性樹脂組成物S16をGPC(東ソー社製「HLC−8220GPC」、溶離液:ジメチルホルムアミド)にて分析したところ、加水分解性樹脂組成物S16に含まれる加水分解性樹脂の重量平均分子量はポリスチレン換算値で6400であった。
【0213】
(製造例S17:加水分解性樹脂組成物S17の調製)
冷却器、温度計、滴下ロートおよび攪拌機を備えた四つ口フラスコに、PGM 15質量部、キシレン59質量部およびエチルアクリレート4質量部を仕込み、撹拌しながら100℃に昇温した。ついで、滴下ロートからメチルメタクリレート26.4質量部、エチルアクリレート15.5質量部、シリコン含有モノマーG 2質量部、シリコン含有モノマーD 38質量部、上記製造例M1の金属原子含有重合性単量体混合物M1 31.3質量部、キシレン10質量部、連鎖移動剤(α−メチルスチレンダイマー)1.2質量部、AIBN 2.5質量部およびAMBN 5.5質量部からなる混合物を6時間で等速滴下した。滴下終了後、t−ブチルパーオクトエート0.5質量部とキシレン10質量部を30分で滴下し、さらに1時間30分撹拌した後、キシレンを10.8質量部添加して、加水分解性樹脂組成物S17を得た。
【0214】
得られた加水分解性樹脂組成物S17をGPC(東ソー社製「HLC−8220GPC」、溶離液:ジメチルホルムアミド)にて分析したところ、加水分解性樹脂組成物S17に含まれる加水分解性樹脂の重量平均分子量はポリスチレン換算値で5600であった。
【0215】
(製造例S18:加水分解性樹脂組成物S18の調製)
冷却器、温度計、滴下ロートおよび攪拌機を備えた四つ口フラスコに、PGM 35質量部およびキシレン31質量部を仕込み、撹拌しながら100℃に昇温した。ついで、滴下ロートからメチルメタクリレート18質量部、エチルアクリレート45質量部、シリコン含有モノマーG 10質量部、「TM−0701」(チッソ(株)製)10質量部、上記製造例M2の金属原子含有重合性単量体混合物M2 28.4質量部、キシレン30質量部、AIBN 2.5質量部、AMBN 5質量部からなる混合物を4時間で等速滴下した。滴下終了後、t−ブチルパーオクトエート0.5質量部とキシレン10質量部を30分で滴下し、さらに1時間30分撹拌した後、キシレンを4.6質量部添加して、加水分解性樹脂組成物S18を得た。
【0216】
得られた加水分解性樹脂組成物S18をGPC(東ソー社製「HLC−8220GPC」、溶離液:ジメチルホルムアミド)にて分析したところ、加水分解性樹脂組成物S18に含まれる加水分解性樹脂の重量平均分子量はポリスチレン換算値で6000であった。
【0217】
表1および表2に、上記加水分解性樹脂組成物S1〜S18の調製に用いた各原料の仕込み量(質量部)、加水分解性樹脂組成物S1〜S18のガードナー粘度(ガードナー泡粘度計を用いて、25℃にて測定)および固形分(質量%)、ならびに組成物中に含まれる加水分解性樹脂の重量平均分子量をまとめた。
【0218】
【表1】

【0219】
【表2】

【0220】
表1および表2に示される商品名および略号は下記のとおりである。
(1)FM−0711(商品名、チッソ(株)品):上記一般式(I’)中、m=0、b=3、n=10、R1〜R5およびR31がメチル基であるシリコン含有重合性単量体。
(2)FM−0721(商品名、チッソ(株)品):上記一般式(I’)中、m=0、b=3、n=65、R1〜R5およびR31がメチル基であるシリコン含有重合性単量体。
(3)X−24−8201(商品名、信越化学(株)品):上記一般式(I’)中、m=0、b=3、n=25、R1〜R5およびR31がメチル基であるシリコン含有重合性単量体。
(4)シリコン含有モノマーA:上記一般式(I’)中、m=10、b=3、n=10、R1〜R5およびR31がメチル基であるシリコン含有重合性単量体であって、aが2であるものと3であるものとの1:1(モル比)混合物(このモノマーは、商品名「F2−254−04」で日本ユニカー(株)より販売されていたものである)。
(5)シリコン含有モノマーB:上記一般式(I’)中、m=4、b=3、n=10、R1〜R5およびR31がメチル基であるシリコン含有重合性単量体であって、aが2であるものと3であるものとの1:1(モル比)混合物(このモノマーは、商品名「F2−254−14」で日本ユニカー(株)より販売されていたものである)。
(6)TM−0701(商品名、チッソ(株)品):上記一般式(II’)中、p=0、d=3、R6〜R8およびR32がメチル基であるシリコン含有重合性単量体。
(7)シリコン含有モノマーC:上記一般式(II’)中、p=0、d=3、R6〜R7およびR32がメチル基、R8がRa(x=3、R23〜R27はメチル基)であるシリコン含有重合性単量体(このモノマーは、商品名「F2−302−01」で日本ユニカー(株)より販売されていたものである)。
(8)シリコン含有モノマーD:上記一般式(II’)中、p=10、d=3、R6〜R7およびR32がメチル基、R8がRa(x=3、R23〜R27はメチル基)であるシリコン含有重合性単量体であって、cが2であるものと3であるものとの1:1(モル比)混合物(このモノマーは、商品名「F2−302−04」で日本ユニカー(株)より販売されていたものである)。
(9)FM−7711(商品名、チッソ(株)品):上記一般式(III’)中、qおよびs=0、fおよびg=3、r=10、R9〜R12、R33およびR34がメチル基であるシリコン含有重合性単量体。
(10)FM−7721(商品名、チッソ(株)品):上記一般式(III’)中、qおよびs=0、fおよびg=3、r=65、R9〜R12、R33およびR34がメチル基であるシリコン含有重合性単量体。
(11)シリコン含有モノマーE:上記一般式(III’)中、qおよびs=10、fおよびg=3、r=10、R9〜R12、R33およびR34がメチル基であるシリコン含有重合性単量体であって、eおよびhが2であるものと3であるものとの1:1(モル比)混合物(このモノマーは、商品名「F2−354−04」で日本ユニカー(株)より販売されていたものである)。
(12)シリコン含有モノマーF:上記一般式(IV’)中、tおよびu=0、jおよびk=3、vおよびw=3、R13〜R22、R35およびR36がメチル基であるシリコン含有重合性単量体(このモノマーは、商品名「F2−312−01」で日本ユニカー(株)より販売されていたものである)。
(13)シリコン含有モノマーG:上記一般式(IV’)中、tおよびu=10、jおよびk=3、vおよびw=3、R13〜R22、R35およびR36がメチル基であるシリコン含有重合性単量体であって、iおよびlが2であるものと3であるものとの1:1(モル比)混合物(このモノマーは、商品名「F2−312−04」で日本ユニカー(株)より販売されていたものである)。
(14)MMA:メチルメタクリレート。
(15)EA:エチルアクリレート。
(16)2−MTA:2−メトキシエチルアクリレート。
(17)ST:スチレン。
(18)AIBN:アゾビスイソブチロニトリル。
(19)AMBN:アゾビスメチルブチロニトリル。
【0221】
〔3〕加水分解性樹脂(ii)の調製
(製造例S19:加水分解性樹脂組成物S19の調製)
攪拌機、冷却機、温度制御装置、窒素導入管、滴下ロートを備えた4つ口フラスコに、キシレン70質量部を加え100℃に保った。この溶液中に表3の配合(質量部)に従ったモノマーおよびt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート2質量部からなる混合液を3時間にわたり等速滴下し、滴下終了後30分間保温した。その後、キシレン30質量部およびt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.2質量部からなる混合液を30分間にわたり等速滴下し、滴下終了後1.5時間保温することにより、ワニスAを得た。得られたワニスA中の固形分は50.1質量%であり、粘度は27ポイズであった。また、ワニスAに含まれる加水分解性樹脂の数平均分子量(GPC、ポリスチレン換算、以下同じ)は15000であった。以下の実施例では、このワニスAをそのまま加水分解性樹脂組成物S19として用いた。
【0222】
(製造例S20:加水分解性樹脂組成物S20の調製)
上記製造例S19と同様の反応容器に、キシロール80質量部を加え100℃に保った。この溶液中に表3の配合(質量部)に従ったモノマーおよびt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート1質量部からなる混合液を3時間にわたり等速滴下し、滴下終了後30分間保温した。その後、キシレン20質量部およびt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.2質量部からなる混合液を30分間にわたり等速滴下し、滴下終了後1.5時間保温することにより、ワニスBを得た。得られたワニスB中の固形分は49.7質量%であり、粘度は15ポイズであった。また、ワニスBに含まれる加水分解性樹脂の数平均分子量は10000であった。以下の実施例では、このワニスBをそのまま加水分解性樹脂組成物S20として用いた。
【0223】
(製造例S21:加水分解性樹脂組成物S21の調製)
上記製造例S19と同様の反応容器に、キシロール64質量部およびn−ブタノール16質量部を加え100℃に保った。この溶液中に表3の配合(質量部)に従ったモノマーおよびt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート2質量部からなる混合液を3時間にわたり等速滴下し、滴下終了後30分間保温した。その後、キシレン16質量部、n−ブタノール4質量部およびt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.2質量部からなる混合液を30分間にわたり等速滴下し、滴下終了後1.5時間保温することにより、ワニスCを得た。得られたワニスC中の固形分は51.2質量%であり、粘度は10ポイズであった。また、ワニスCに含まれる樹脂の数平均分子量は10000であり、酸価は70mgKOH/gであった。
【0224】
ついで、同様の反応容器に、ワニスC 100質量部、酢酸銅12.9質量部、水素添加ロジン(ハイペールCH、酸価160mgKOH/g、荒川化学工業社製)21.9質量部およびキシレン60質量部を加えてリフラックス温度まで昇温し、留出する酢酸、水および溶剤の混合液を除去しつつ、同量のキシロールを補充しながら、反応を18時間継続した。反応の終点は、留出した溶剤中の酢酸量を定量することにより決定した。反応液を冷却後、n−ブタノールおよびキシレンを加え、固形分が50.6質量%の加水分解性樹脂組成物S21を得た。
【0225】
(製造例S22:加水分解性樹脂組成物S22の調製)
上記製造例S19と同様の反応容器に、キシロール40質量部およびn−ブタノール20質量部を加え105℃に保った。この溶液中に表3の配合(質量部)に従ったモノマーおよびt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート1質量部からなる混合液を3時間にわたり等速滴下し、滴下終了後30分間保温した。その後、キシレン30質量部、n−ブタノール10質量部およびt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.2質量部からなる混合液を30分間にわたり等速滴下し、滴下終了後1時間保温することにより、ワニスDを得た。得られたワニスD中の固形分は50.5質量%であり、粘度は7ポイズであった。また、ワニスDに含まれる樹脂の数平均分子量は8000であり、酸価は70mgKOH/gであった。
【0226】
ついで、同様の反応容器に、ワニスD 100質量部、酢酸銅12.9質量部、WWロジン(WWロジン、酸価160mgKOH/g、荒川化学工業社製)21.9質量部およびキシレン60質量部を用いること以外は、上記製造例S21と同様にして反応を行ない、固形分が52.5質量%の加水分解性樹脂組成物S22を得た。
【0227】
(製造例S23:加水分解性樹脂組成物S23の調製)
上記製造例S19と同様の反応容器に、キシロール70質量部およびn−ブタノール20質量部を加え110℃に保った。この溶液中に表3の配合(質量部)に従ったモノマーおよびt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート2質量部からなる混合液を3時間にわたり等速滴下し、滴下終了後1時間保温した。その後、キシロール10質量部を追加し、ワニスEを得た。得られたワニスE中の固形分は49.8質量%であり、粘度は6ポイズであった。また、ワニスEに含まれる樹脂の数平均分子量は8000であり、酸価は30mgKOH/gであった。
【0228】
ついで、同様の反応容器に、ワニスE 100質量部、酢酸亜鉛5.9質量部、ナフテン酸(NA−200、酸価200mgKOH/g、大和油脂工業社製)7.5質量部およびキシレン60質量部を加えてリフラックス温度まで昇温し、留出する酢酸、水および溶剤の混合液を除去しつつ、同量のキシロール/n−ブタノール混合液を補充しながら、反応を18時間継続した。反応の終点は、留出した溶剤中の酢酸量を定量することにより決定した。反応液を冷却後、n−ブタノールおよびキシレンを加え、固形分が53.8質量%の加水分解性樹脂組成物S23を得た。
【0229】
(製造例S24:加水分解性樹脂組成物S24の調製)
上記製造例S19と同様の反応容器に、キシロール40質量部およびn−ブタノール40質量部を加え110℃に保った。この溶液中に表3の配合(質量部)に従ったモノマーおよびt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート2質量部からなる混合液を3時間にわたり等速滴下し、滴下終了後1時間保温した。その後、キシレン10質量部、n−ブタノール10質量部およびt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.2質量部からなる混合液を30分間にわたり等速滴下し、滴下終了後1時間保温することにより、ワニスFを得た。得られたワニスF中の固形分は50.0質量%であり、粘度は11ポイズであった。また、ワニスFに含まれる樹脂の数平均分子量は8000であり、酸価は130mgKOH/gであった。
【0230】
ついで、同様の反応容器に、ワニスF 100質量部、酢酸亜鉛23.1質量部、ナフテン酸(NA−165、酸価165mgKOH/g、大和油脂工業社製)39.4質量部およびキシレン60質量部を用いること以外は、上記製造例S23と同様にして反応を行ない、固形分が47.3質量%の加水分解性樹脂組成物S24を得た。
【0231】
(製造例S25:加水分解性樹脂組成物S25の調製)
上記製造例S19と同様の反応容器に、キシロール70質量部およびn−ブタノール30質量部を加え105℃に保った。この溶液中に表3の配合(質量部)に従ったモノマーおよびアゾビスイソブチロニトリル2質量部からなる混合液を3時間にわたり等速滴下し、滴下終了後1時間保温することにより、ワニスGを得た。得られたワニスG中の固形分は50.0質量%であり、粘度は18ポイズであった。また、ワニスGに含まれる樹脂の数平均分子量は15000であり、酸価は50mgKOH/gであった。
【0232】
ついで、同様の反応容器に、ワニスG 100質量部、酢酸銅9.3質量部、ナフテン酸(NA−200、酸価200mgKOH/g、大和油脂工業社製)12.5質量部およびキシレン60質量部を用いること以外は、上記製造例S21と同様にして反応を行ない、固形分が51.8質量%の加水分解性樹脂組成物S25を得た。
【0233】
(製造例S26:加水分解性樹脂組成物S26の調製)
上記製造例S19と同様の反応容器に、キシロール90質量部を加え105℃に保った。この溶液中に表3の配合(質量部)に従ったモノマーおよびt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート3質量部からなる混合液を3時間にわたり等速滴下し、滴下終了後30分間保温した。その後、キシレン10質量部、n−ブタノール10質量部およびt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.2質量部からなる混合液を30分間にわたり等速滴下し、滴下終了後1.5時間保温することにより、ワニスHを得た。得られたワニスH中の固形分は50.8質量%であり、粘度は10ポイズであった。また、ワニスHに含まれる樹脂の数平均分子量は12000であり、酸価は30mgKOH/gであった。
【0234】
ついで、同様の反応容器に、ワニスH 100質量部、酢酸銅5.6質量部、水素添加ロジン(ハイペールCH、酸価160mgKOH/g、荒川化学工業社製)9.4質量部およびキシレン60質量部を用いること以外は、上記製造例S21と同様にして反応を行ない、固形分が55.1質量%の加水分解性樹脂組成物S26を得た。
【0235】
(製造例S27:加水分解性樹脂組成物S27の調製)
上記製造例S19と同様の反応容器に、キシロール64質量部およびn−ブタノール16質量部を加え115℃に保った。この溶液中に表3の配合(質量部)に従ったモノマーおよびt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート2質量部からなる混合液を3時間にわたり等速滴下し、滴下終了後1時間保温した。その後、キシレン16質量部、n−ブタノール4質量部およびt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.2質量部からなる混合液を30分間にわたり等速滴下し、滴下終了後1時間保温することにより、ワニスIを得た。得られたワニスI中の固形分は49.5質量%であり、粘度は12ポイズであった。また、ワニスIに含まれる樹脂の数平均分子量は10000であり、酸価は110mgKOH/gであった。
【0236】
ついで、同様の反応容器に、ワニスI 100質量部、酢酸亜鉛21.5質量部、ナフテン酸(NA−165、酸価165mgKOH/g、大和油脂工業社製)33.3質量部およびキシレン60質量部を用いること以外は、上記製造例S23と同様にして反応を行ない、固形分が45.6質量%の加水分解性樹脂組成物S27を得た。
【0237】
表3に、ワニスA〜Iの調製に用いたモノマーの使用量(仕込み量)、ワニスの固形分および粘度をまとめた。
【0238】
【表3】

【0239】
表3に示される商品名および略号は下記のとおりである(下記以外の商品名および略号については、表1および表2と同様である)。
(1)X−22−174DX(商品名、信越化学(株)品):上記一般式(I’)中、m=0、b=3、R1〜R4およびR31がメチル基であり、R5がメチル基またはn−ブチル基であるシリコン含有重合性単量体(官能基当量4600g/mol)。
(2)X−22−2404(商品名、信越化学(株)品):上記一般式(II’)中、p=0、d=3、R6〜R8およびR32がメチル基であるシリコン含有重合性単量体(官能基当量420g/mol)。
(3)X−22−164A(商品名、信越化学(株)品):上記一般式(III’)中、qおよびs=0、fおよびg=3、R9〜R12、R33およびR34がメチル基であるシリコン含有重合性単量体(官能基当量860g/mol)。
(4)X−22−164C(商品名、信越化学(株)品):上記一般式(III’)中、qおよびs=0、fおよびg=3、R9〜R12、R33およびR34がメチル基であるシリコン含有重合性単量体(官能基当量2370g/mol)。
(5)シリコン含有モノマーH:上記一般式(IV’)中、tおよびu=0、jおよびk=3、vおよびw=3、R13〜R22、R35およびR36がメチル基であるシリコン含有重合性単量体(このモノマーは、商品名「F2−312−01」で日本ユニカー(株)より販売されていたものである)。
(6)AA:アクリル酸。
(7)TIPSA:アクリル酸トリイソプロピルシリル。
(8)EHMA:メタクリル酸2−エチルヘキシル。
(9)CHMA:メタクリル酸シクロヘキシル。
(10)M−90G:メタクリル酸メトキシポリエチレングリコールエステル(NKエステルM−90G、新中村化学社製)。
【0240】
〔4〕比較用樹脂組成物の調製
(製造例T1:樹脂組成物T1の調製)
冷却器、温度計、滴下ロートおよび攪拌機を備えた四つ口フラスコに、PGM 15質量部およびキシレン70質量部を仕込み、撹拌しながら110℃に昇温した。ついで、滴下ロートからメチルメタクリレート42.1質量部、エチルアクリレート17.9質量部、「FM−7711」(チッソ(株)製)10質量部、「FM−0711」(チッソ(株)製)30質量部、キシレン10質量部、PGM 11.9質量部、連鎖移動剤(α−メチルスチレンダイマー)3質量部、AIBN 2.5質量部およびAMBN 7質量部からなる混合物を6時間で等速滴下した。滴下終了後、t−ブチルパーオクトエート0.5質量部とキシレン10質量部を30分で滴下し、さらに1時間30分撹拌した後、キシレンを5.1質量部添加して、樹脂組成物T1を得た。樹脂組成物T1の固形分は45.5質量%、ガードナー粘度は+Eであった。
【0241】
得られた樹脂組成物T1をGPC(東ソー社製「HLC−8220GPC」、溶離液:ジメチルホルムアミド)にて分析したところ、樹脂組成物T1に含まれる樹脂の重量平均分子量はポリスチレン換算値で8600であった。
【0242】
(製造例T2:樹脂組成物T2の調製)
攪拌機、冷却機、温度制御装置、窒素導入管、滴下ロートを備えた4つ口フラスコにキシレン64質量部、n-ブタノール16質量部を加え100℃に保った。この溶液中に、エチルアクリレート(EA)58.3質量部、メタクリル酸シクロヘキシル(CHMA)15質量部、メタクリル酸メトキシポリエチレングリコールエステル(M−90G)10質量部、アクリル酸(AA)16.7質量部およびt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(化華アクゾ社製「カヤエステルO」)2質量部からなる混合液を3時間にわたり等速滴下し、滴下終了後30分間保温した。その後、キシレン16質量部、n-ブタノール4質量部およびt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(化華アクゾ社製「カヤエステルO」)0.2質量部からなる混合液30分間にわたり等速滴下し、滴下終了後1時間30分間保温することにより樹脂ワニスを得た。得られた樹脂ワニス中の固形分は49.8質量%であり、当該樹脂ワニス中の樹脂の酸価は130であった。
【0243】
次に、同様の反応容器に、上記樹脂ワニス100質量部、酢酸亜鉛25.4質量部、ナフテン酸(NA−165,酸価165mgKOH/g、大和油脂工業社製)39.2質量部、キシレン110質量部を加えて130℃に加熱し、溶剤とともに酢酸を除去することにより、固形分が41.5質量%、ガードナー粘度W−Xの樹脂組成物T2を得た。
【0244】
得られた樹脂組成物T2をGPC(東ソー社製「HLC−8220GPC」、溶離液:ジメチルホルムアミド)にて分析したところ、樹脂組成物T2に含まれる樹脂の重量平均分子量はポリスチレン換算値で8000であった。
【0245】
(製造例T3:樹脂組成物T3の調製)
攪拌機、冷却機、温度制御装置、窒素導入管、滴下ロートを備えた4つ口フラスコに、キシレン64質量部、n-ブタノール16質量部を加え115℃に保った。この溶液中に、メチルメタクリレート(MMA)11.17質量部、エチルアクリレート(EA)16.3質量部、メタクリル酸シクロヘキシル(CHMA)15質量部、アクリル酸シクロヘキシル(CHA)15質量部、メタクリル酸メトキシポリエチレングリコールエステル(M−90G)30質量部、アクリル酸(AA)10.27質量部、メタクリル酸(MAA)12.26質量部およびt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(化華アクゾ社製「カヤエステルO」)3質量部からなる混合液を3時間にわたり等速滴下し、滴下終了後30分間保温した。その後、キシレン16質量部、n-ブタノール4質量部およびt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(化華アクゾ社製「カヤエステルO」)0.2質量部からなる混合液を30分間にわたり等速滴下し、滴下終了後、1時間30分保温することにより、樹脂ワニスを得た。得られた樹脂ワニス中の固形分は49.7質量%であり、当該樹脂ワニス中の樹脂の酸価は160であった。
【0246】
次に、同様の反応容器に、上記樹脂ワニス100質量部、酢酸銅29.6質量部、ピバリン酸(酸価:550mgKOH/g)14.5質量部を用いること以外は、上記製造例T2と同様にして反応を行ない、固形分が45.2質量%、ガードナー粘度Z2−Z3の樹脂組成物T3を得た。
【0247】
得られた樹脂組成物T3をGPC(東ソー社製「HLC−8220GPC」、溶離液:ジメチルホルムアミド)にて分析したところ、樹脂組成物T3に含まれる樹脂の重量平均分子量はポリスチレン換算値で6500であった。
【0248】
(製造例T4:樹脂組成物T4の調製)
上記製造例S19と同様の反応容器に、キシロール80質量部を加え100℃に保った。この溶液中に、アクリル酸トリイソプロピルシリル(TIPSA)65.0質量部、メチルメタクリレート(MMA)35.0質量部、およびt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート2質量部からなる混合液を3時間にわたり等速滴下し、滴下終了後1時間保温した。その後、キシレン20質量部およびt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.2質量部からなる混合液を30分間にわたり等速滴下し、滴下終了後1.5時間保温することにより、樹脂組成物T4を得た。得られた樹脂組成物T4中の固形分は50.0質量%であり、粘度は8ポイズであった。また、樹脂組成物T4に含まれる樹脂の数平均分子量は10000であった。
【0249】
(製造例T5:樹脂組成物T5の調製)
上記製造例S19と同様の反応容器に、キシロール64質量部およびn−ブタノール16質量部を加え115℃に保った。この溶液中に、アクリル酸トリイソプロピルシリル(TIPSA)40.0質量部、アクリル酸(AA)9.0質量部、エチルアクリレート(EA)26.0質量部、メタクリル酸シクロヘキシル(CHMA)15.0質量部、メタクリル酸メトキシポリエチレングリコールエステル(M−90G)10.0質量部、およびt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート2質量部からなる混合液を3時間にわたり等速滴下し、滴下終了後30分間保温した。その後、キシレン16質量部、n−ブタノール4質量部およびt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.2質量部からなる混合液を30分間にわたり等速滴下し、滴下終了後1時間保温することにより樹脂ワニスを得た。得られた樹脂ワニス中の固形分は49.7質量%であり、粘度は5ポイズであった。また、この樹脂ワニスに含まれる樹脂の数平均分子量は6000であり、酸価は70mgKOH/gであった。
【0250】
ついで、同様の反応容器に、上記樹脂ワニス 100質量部、酢酸銅12.9質量部、水素添加ロジン(ハイペールCH、酸価160mgKOH/g、荒川化学工業社製)21.9質量部およびキシレン60質量部を用いること以外は、上記製造例S21と同様にして反応を行ない、固形分が51.3質量%の樹脂組成物T5を得た。
【0251】
〔5〕加水分解性樹脂組成物S1〜S27および樹脂組成物T1〜T5の隠蔽性評価
得られた加水分解性樹脂組成物S1〜S27または樹脂組成物T1〜T5を、横120mm×縦120mm×厚さ0.3mmのJIS K 5600−4−1 4.1.2に準拠した隠蔽率測定板上に、乾燥膜厚が150μmになるようにアプリケーターを用いて塗布し、1昼夜室内に放置することにより乾燥させて、防汚塗膜を有する試験板を得た。得られた試験板について、下記の基準に従って、塗膜の隠蔽性を目視にて評価した。
A:完全に透けており、隠蔽率測定板の白黒の境界を容易に識別できる。
B:僅かに透けており、隠蔽率測定板の白黒の境界をやや識別できる。
C:完全に隠蔽しており、隠蔽率測定板の白黒の境界を識別できない。
【0252】
上記隠蔽性評価試験の結果、加水分解性樹脂組成物S1〜S27および樹脂組成物T1〜T5から形成された塗膜は、いずれも透明性が高く、樹脂自体は隠蔽性を有しないことが確認された。
【0253】
<実施例1〜13、比較例1〜2>
〔6〕着色防汚塗料の調製
表4の配合(質量部)に従い、各配合成分を高速ディスパーにて混合することにより、着色防汚塗料(塗料1〜15)を調製した。なお、実施例3の塗料3は、塗料1および2を表4に記載の配合比で混合することにより調製した。
【0254】
【表4】

【0255】
表4に記載の各成分の詳細は以下のとおりである。
(1)亜酸化銅:NCテック(株)製「NC−301」。
(2)防汚剤1:ZPT(ジンクピリチオン)(アーチケミカル社製「ジンクオマジン」)。
(3)防汚剤2:CuPT(銅ピリチオン)(アーチケミカル社製「カッパーオマジン」)。
(4)防汚剤3:1,1−ジクロロ−N−[(ジメチルアミノ)スルホニル]−1−フルオロ−N−(4−メチルフェニル)メタンスルフェンアミド(ランクセス社製「プリベントール A5S」)。
(5)防汚剤4:4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン(4,5−ジクロロ−2−nオクチル−3(2H)イソチアゾロン)(ロームアンドハース社製「シーナイン211」)。
(6)防汚剤5:4−ブロモ−2−(4−クロロフェニル)−5−(トリフルオロメチル)−1H−ピロール−3−カルボニトリル(ヤンセンPMP社製「エコネア」)。
(7)酸化チタン:デュポン(株)製「TI−PURE R−900」。
(8)アゾ系黄顔料:大日精化工業(株)製「セイカファーストイエロー 2054C」。
(9)アゾ系赤顔料:富士色素(株)製「FUJI FAST RED 2305A」。
(10)フタロシアニンブルー:山陽色素(株)製「CYANINE BLUE G−105」。
(11)カーボンブラック:旭カーボン(株)製「SUNBLACK X15」。
(12)熱可塑性樹脂1:塩素化パラフィン(東ソー(株)製「トヨパラックス A50」)。
(13)熱可塑性樹脂2:ポリビニルエーテル(BASF JAPAN(株)製「ルトナール A25」)。
(14)熱可塑性樹脂3:ロジン(荒川化学工業(株)製「WWロジン」)。
(15)熱可塑性樹脂4:塩化ビニル−イソブチルビニルエーテル共重合体(BASF JAPAN(株)製「ラロフレックスMP25」)。
(16)可塑剤1:DOP(ジオクチルフタレート)(三菱ガス化学(株)製「DOP」)。
(17)可塑剤2:DIDP(ジイソデシルフタレート)(チッソ(株)製「DIDP」)。
(18)可塑剤3:TCP(トリクレジルホスフェート)(大八化学工業(株)製「TCP」)。
(19)可塑剤4:トリアリールホスフェート(味の素(株)製「レオフォス65」)。
(20)硫酸バリウム:内外タルク(株)製「バライトパウダーFBA」。
(21)沈降防止剤:楠本化成(株)製「ディスパロン A600−20X」。
【0256】
〔7〕塗料1〜15を用いた防汚塗膜の形成および塗料1〜15の膜厚判定機能の評価
あらかじめ防錆塗料が塗布されたブラスト板に、下塗り塗料として塗料a〜lのいずれかをブラスト板表面が完全に隠蔽されるまで塗布し、2昼夜室内に放置することにより乾燥させて、下塗り塗膜を有する試験板を得た。下塗り塗料a〜lの詳細は以下のとおりである(括弧内は、各下塗り塗料のL*/a*/b*表示系に従う色相である)。当該試験板の下塗り塗膜表面の色相を表5〜8に示した。
(a)塗料a:日本ペイントマリン(株)製 防汚塗料「エコロフレックス SPC 250 HyB チェリーV」(L*/a*/b*=31/23/8)。
(b)塗料b:日本ペイントマリン(株)製 防汚塗料「エコロフレックス SPC 200 レッドブラウン」(L*/a*/b*=32/17/6)。
(c)塗料c:日本ペイントマリン(株)製 防汚塗料「うなぎ塗料一番あざやか 特上レッドA」(L*/a*/b*=36/50/13)。
(d)塗料d:日本ペイントマリン(株)製 防食塗料「ユニプライム 100 赤錆」(L*/a*/b*=27/27/15)。
(e)塗料e:日本ペイントマリン(株)製 防汚塗料「エコロフレックス SPC 150 HyB ブラウン」(L*/a*/b*=33/21/10)。
(f)塗料f:日本ペイントマリン(株)製 防食塗料「ラバコート 一号塗料 ライトブラウン」(L*/a*/b*=54/6/4)。
(g)塗料g:日本ペイントマリン(株)製 防汚塗料「ハイソル 100 ブルーA」(L*/a*/b*=31/7/−43)。
(h)塗料h:日本ペイントマリン(株)製 防汚塗料「エコロフレックス SPC ビートルブラック」(L*/a*/b*=21/0/−1)。
(i)塗料i:日本ペイントマリン(株)製 防食塗料「ニッポン V−マリン A/C TF シルバー」(L*/a*/b*=58/−1/−1)。
(j)塗料j:日本ペイントマリン(株)製 防食塗料「NOA A/C II グレー」(L*/a*/b*=60/−1/0)。
(k)塗料k:日本ペイントマリン(株)製 防食塗料「NOA 10F バフ250」(L*/a*/b*=66/1/31)。
(l)塗料l:日本ペイントマリン(株)製 防食塗料「ニッポン E−マリン プライマー ガルバ ホワイト」(L*/a*/b*=87/−1/3)。
【0257】
次に、得られた下塗り塗膜を有する試験板の下塗り塗膜表面に、エアレススプレー法により、各実施例および比較例で得られた上塗り塗料としての着色防汚塗料(塗料1〜15のいずれか)を塗装し、2昼夜室内に放置することにより乾燥させて、表5〜8に示される乾燥膜厚を有する防汚塗膜を形成した。上塗り塗料の乾燥塗膜の膜厚は、実施例1において25、40、50、60μm、実施例2において、25、50、75、100、125、150、180μm、実施例3〜13および比較例1〜2において、25、50、75、100、125、150μmである。乾燥膜厚は、「MiniTest 3100」(ElektroPhysik社製)を用いて測定した。
【0258】
得られた各乾燥膜厚を有する上塗り防汚塗膜について、JIS K 5600−4−5に準拠した、三刺激値色彩計SMカラーメーター(型式SM−T45、スガ試験機(株)製、規格JIS Z 8722)による測定およびJIS K 5600−4−6に準拠した計算により、各乾燥膜厚を有する上塗り防汚塗膜と、各塗料の目標乾燥膜厚T(各塗料の目標乾燥膜厚Tは、表4および表5〜8に示されるとおりである)を有する上塗り防汚塗膜との色差ΔEを求めた。また、各乾燥膜厚を有する上塗り防汚塗膜の下地隠蔽性(上塗り防汚塗膜による下塗り塗膜の隠蔽性)を目視観察し、下記判定基準に基づいて評価した。結果を併せて表5〜8に示す。
A:全体的に透けている。
B:かなり透けが目立つ。
C:透けが目立つ。
D:ほぼ隠蔽しているが、僅かに透けがある。
E:完全に隠蔽している。
【0259】
なお、表5〜8における乾燥膜厚0μmでのΔEとは、各塗料と下塗り塗膜表面との色差ΔE3を指している。また、下塗り塗料の欄における「塗膜色相」とは、下塗り塗料の色相自体ではなく、下塗り塗膜表面の色相を示している。
【0260】
【表5】

【0261】
【表6】

【0262】
【表7】

【0263】
【表8】

【0264】
上記表5〜8に示される結果に基づいて算出される実施例1〜13および比較例1〜2の着色防汚塗料(塗料1〜15)のΔE1(目標乾燥膜厚Tを有する着色防汚塗料から形成される塗膜と、乾燥膜厚が0.8Tである着色防汚塗料から形成される塗膜との色差)、ΔE2(目標乾燥膜厚Tを有する着色防汚塗料から形成される塗膜と、乾燥膜厚が1.2Tである着色防汚塗料から形成される塗膜との色差)、および色差ΔE3(着色防汚塗料と下塗り塗膜との色差)を表9にまとめた。また、図1は、表7および8に示される塗料3〜15についての、乾燥膜厚とΔE(各乾燥膜厚を有する上塗り防汚塗膜と、目標乾燥膜厚を有する上塗り防汚塗膜との色差)との関係をグラフ化したものであり、図2は、図1の一部(目標乾燥膜厚125μm近傍)を拡大して示す図である。
【0265】
【表9】

【0266】
以上に示されるとおり、実施例1〜13の塗料1〜13は、上記条件(a)〜(b)および(d)を満たす、膜厚判定機能に優れた着色防汚塗料であることがわかる。特に、ΔE1が2.0以上と大きいことから、塗装完了間際における塗膜色相の膜厚依存性が大きくなるため、塗装完了間際での隠蔽性の変化を目視で判断すること容易となる。かかる膜厚判定機能に優れた着色防汚塗料を用いた本発明の防汚塗膜の形成方法によれば、目標乾燥膜厚を有する乾燥塗膜を極めて正確に形成することができ、わずかな膜厚不足も解消することができる。一方、比較例1の塗料14は、ΔE1が1.3と小さいため、塗装完了間際での隠蔽性の変化を目視で判断することが、塗料1〜13と比べて困難となっている。比較例2の塗料15は、膜厚判定機能をほとんど有していない。
【0267】
<参考例1〜59、比較参考例1〜7>
表10〜13の配合(質量部)に従い、上記製造例S1〜S27で得られた加水分解性樹脂(i)〔加水分解性樹脂組成物S1〜S18〕もしくは(ii)〔加水分解性樹脂組成物S19〜S27〕または製造例T1〜T5で得られた樹脂組成物T1〜T5、ならびに表10〜13に示すその他の成分を使用して、高速ディスパーにて混合することにより、防汚塗料を調製した。
【0268】
【表10】

【0269】
【表11】

【0270】
【表12】

【0271】
【表13】

【0272】
表10〜13に記載の各成分の詳細は以下のとおりである(下記以外の商品名および略号については、表4と同様である)。
(1)亜鉛華:堺化学工業(株)製「酸化亜鉛2種」。
【0273】
得られた上記各防汚塗料から形成される防汚塗膜について、下記評価方法に従って長期防汚性、下地との密着性、耐クラック性およびポリッシング性を評価した。評価結果を表14〜17に示す。
【0274】
(1)長期防汚性
得られた防汚塗料を、あらかじめ防錆塗料が塗布されたブラスト板に乾燥膜厚が300μmとなるように塗布し、2昼夜室内に放置することにより乾燥させて、防汚塗膜を有する試験板を得た。得られた試験板を、岡山県玉野市にある日本ペイントマリン社臨海研究所設置の実験用筏で生物付着試験を行ない、防汚性を評価した。表中の月数は筏浸漬期間を示す。また、表中の数値は、生物付着面積の塗膜面積に占める割合(%)(目視判定)を示しており、15%以下を合格とした。
【0275】
(2)下地との密着性(碁盤目付着試験)
得られた防汚塗料を、あらかじめ防錆塗料が塗布されたブラスト板に乾燥膜厚が150μmとなるように塗布し、2昼夜室内に放置することにより乾燥させて得られた試験板A;および、試験板Aを滅菌濾過海水中に3ヶ月間浸漬した後、1昼夜室内に放置することにより乾燥させて得られた基板の塗膜表面に、該塗膜の形成に用いたのと同じ防汚塗料を乾燥膜厚が150μmとなるように塗布し、2昼夜室内に放置することにより乾燥させて得られた試験板Bを用い、JIS K 5600.5.6に準拠して碁盤目付着試験を行なった(隙間間隔2mm、マス目数25)。表中の数値は、試験結果を下記の基準で評点化したものである。
評価点数10:切り傷1本ごとが、細くて両側が滑らかで、切り傷の交点と正方形の一目一目に剥がれがない。
評価点数8:切り傷の交点にわずかな剥がれがあって、正方形の一目一目に剥がれがなく、欠損部の面積が全正方形面積の5%以内。
評価点数6:切り傷の両側と交点とに剥がれがあって、欠損部の面積が全正方形面積の5〜15%。
評価点数4:切り傷による剥がれの幅が広く、欠損部の面積が全正方形面積の15〜35%。
評価点数2:切り傷による剥がれの幅は4点よりも広く、欠損部の面積が全正方形面積の35〜65%。
評価点数0:剥がれの面積が、全正方形面積の65%以上。
【0276】
(3)耐クラック性
(a)海水浸漬に対する耐クラック性(海水浸漬後の塗膜状態の評価)
上記長期防汚性試験における筏浸漬期間6ヶ月の試験板の塗膜状態を目視およびラビングで観察し、評価した。クラックが確認されなかったものをAとし、クラックが確認されたものをBとした。
【0277】
(b)乾湿繰り返しに対する耐クラック性(乾湿交番試験)
得られた防汚塗料を、あらかじめ防錆塗料が塗布されたブラスト板に乾燥膜厚が300μmとなるように塗布し、2昼夜室内に放置することにより乾燥させて、防汚塗膜を有する試験板を得た。得られた試験板を、40℃の海水に1週間浸漬した後、1週間室内乾燥を行ない、これを1サイクルとした乾湿交番試験を最大20サイクルまで実施した。途中で塗膜にクラックが発生した場合は、クラックが発生した時点で試験を終了し、その時点でのサイクル数を表に記載した。20サイクル行なってもクラック発生がないものをAとした。
【0278】
(4)ポリッシング性(塗膜消耗量(研磨速度)試験)
得られた防汚塗料を、あらかじめ防錆塗料が塗布されたブラスト板に乾燥膜厚が300μmとなるように塗布し、2昼夜室内に放置することにより乾燥させて、防汚塗膜を有する試験板を得た。この試験板を直径750mm、長さ1200mmの円筒側面に貼り付け、海水中、周速15ノットで24ヶ月間連続回転させ、3ヶ月毎の試験板の塗膜消耗量(塗膜厚みの累積減少量[μm])を測定した。
【0279】
【表14】

【0280】
【表15】

【0281】
【表16】

【0282】
【表17】

【0283】
表14〜17に示されるように、加水分解性樹脂(i)または(ii)を含む参考例の防汚塗料から得られる防汚塗膜は長期防汚性、下地との密着性および耐クラック性に優れている。一方、比較参考例の防汚塗料から得られる防汚塗膜は、長期防汚性が十分でなく、耐クラック性や下地との密着性に欠ける場合もあった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗物の表面に防汚塗膜を形成する方法であって、
[1]加水分解性樹脂および着色顔料を含む着色防汚塗料であって、下記条件(a)〜(c):
(a)目標乾燥膜厚Tを有する前記着色防汚塗料から形成される塗膜が、前記被塗物の表面を完全に隠蔽する、
(b)目標乾燥膜厚Tを有する前記着色防汚塗料から形成される塗膜と、乾燥膜厚が0.8Tである前記着色防汚塗料から形成される塗膜との色差ΔE1が2.0以上である、
(c)前記加水分解性樹脂が、加水分解性樹脂(i)および/または加水分解性樹脂(ii)を含む、
を満たす着色防汚塗料を調製する工程と、
[2]前記被塗物の表面が前記着色防汚塗料からなる塗膜によって完全に隠蔽されるまで、前記着色防汚塗料を前記被塗物の表面に塗工する工程、
を含み、
前記加水分解性樹脂(i)は、下記一般式(I):
【化1】

[前記一般式(I)中、aおよびbは、それぞれ独立して2〜5の整数を表し、mは0〜50の整数、nは3〜80の整数を表す。R1〜R5は、それぞれ独立してアルキル基、アルコキシ基、フェニル基、置換フェニル基、フェノキシ基または置換フェノキシ基を表す。]
で示される基、下記一般式(II):
【化2】

[前記一般式(II)中、cおよびdは、それぞれ独立して2〜5の整数を表し、pは0〜50の整数を表す。R6、R7およびR8は、それぞれ独立してアルキル基、RaまたはRbを表す。
ここで、Raは、
【化3】

(式中、xは0〜20の整数を表す。R23〜R27は、同一または異なって、アルキル基を表す。)であり、
bは、
【化4】

(式中、yは1〜20の整数を表す。R28およびR29は、同一または異なって、アルキル基を表す。)である。]
で示される基、下記一般式(III):
【化5】

[前記一般式(III)中、e、f、gおよびhは、それぞれ独立して2〜5の整数を表し、qおよびsは、それぞれ独立して0〜50の整数を表し、rは3〜80の整数を表す。R9〜R12は、それぞれ独立してアルキル基、アルコキシ基、フェニル基、置換フェニル基、フェノキシ基または置換フェノキシ基を表す。]
で示される基、および、下記一般式(IV):
【化6】

[前記一般式(IV)中、i、j、kおよびlは、それぞれ独立して2〜5の整数を表し、tおよびuは、それぞれ独立して0〜50の整数を表し、vおよびwは、それぞれ独立して0〜20の整数を表す。R13〜R22は、同一または異なって、アルキル基を表す。]
で示される基からなる群から選択される少なくとも1種のシリコン含有基と、2価の金属原子Mを含有する金属原子含有基とを有する加水分解性樹脂であり、
前記加水分解性樹脂(ii)は、前記一般式(I)、(II)、(III)および(IV)で示される基からなる群から選択される少なくとも1種のシリコン含有基と、下記一般式(V):
【化7】

[前記一般式(V)中、R40、R41およびR42は、同一または異なって、炭素数1〜20の炭化水素残基を表す。]
で示されるトリオルガノシリルオキシカルボニル基とを有する加水分解性樹脂である、防汚塗膜の形成方法。
【請求項2】
前記色差ΔE1が2.5以上である、請求項1に記載の防汚塗膜の形成方法。
【請求項3】
前記着色防汚塗料は、下記条件(d):
(d)目標乾燥膜厚Tを有する前記着色防汚塗料から形成される塗膜と、乾燥膜厚が1.2Tである前記着色防汚塗料から形成される塗膜との色差ΔE2が1未満である、
を満たす、請求項1に記載の防汚塗膜の形成方法。
【請求項4】
前記色差ΔE2が0.5以下である、請求項3に記載の防汚塗膜の形成方法。
【請求項5】
前記加水分解性樹脂(i)が有する前記金属原子含有基は、下記一般式(VI)および(VII)で示される基からなる群から選択される少なくとも1種の基である、請求項1に記載の防汚塗膜の形成方法。
【化8】

[前記一般式(VI)中、Mは2価の金属原子を表し、R30は有機酸残基またはアルコール残基を表す。]
【化9】

[前記一般式(VII)中、Mは2価の金属原子を表す。]
【請求項6】
前記加水分解性樹脂(i)は、下記一般式(I’)で示される単量体(a1)、下記一般式(II’)で示される単量体(a2)、下記一般式(III’)で示される単量体(a3)および下記一般式(IV’)で示される単量体(a4)からなる群から選択される少なくとも1種のシリコン含有重合性単量体(a)から誘導される構成単位と、2価の金属原子Mを含有する金属原子含有重合性単量体(b)から誘導される構成単位とを含む請求項1に記載の防汚塗膜の形成方法。
【化10】

[前記一般式(I’)中、R31は水素原子またはメチル基を表し、a、b、m、nおよびR1〜R5は、前記と同じ意味を表す。]
【化11】

[前記一般式(II’)中、R32は水素原子またはメチル基を表し、c、d、pおよびR6〜R8は、前記と同じ意味を表す。]
【化12】

[前記一般式(III’)中、R33およびR34は水素原子またはメチル基を表し、e、f、g、h、q、r、sおよびR9〜R12は、前記と同じ意味を表す。]
【化13】

[前記一般式(IV’)中、R35およびR36は水素原子またはメチル基を表し、i、j、k、l、t、u、v、wおよびR13〜R22は、前記と同じ意味を表す。]
【請求項7】
前記金属原子含有重合性単量体(b)は、下記一般式(VI’)で示される単量体(b1)および(VII’)で示される単量体(b2)からなる群から選択される少なくとも1種を含む請求項6に記載の防汚塗膜の形成方法。
【化14】

[前記一般式(VI’)中、R37は水素原子またはメチル基を表し、MおよびR30は、前記と同じ意味を表す。]
【化15】

[前記一般式(VII’)中、R38およびR39は水素原子またはメチル基を表し、Mは、前記と同じ意味を表す。]
【請求項8】
前記加水分解性樹脂(ii)は、下記一般式(VI)および(VII)で示される基からなる群から選択される少なくとも1種の金属原子含有基をさらに有する請求項1に記載の防汚塗膜の形成方法。
【化16】

[前記一般式(VI)中、Mは2価の金属原子を表し、R30は有機酸残基またはアルコール残基を表す。]
【化17】

[前記一般式(VII)中、Mは2価の金属原子を表す。]
【請求項9】
前記加水分解性樹脂(ii)は、下記一般式(I’)で示される単量体(a1)、下記一般式(II’)で示される単量体(a2)、下記一般式(III’)で示される単量体(a3)および下記一般式(IV’)で示される単量体(a4)からなる群から選択される少なくとも1種のシリコン含有重合性単量体(a)から誘導される構成単位と、下記一般式(V’)で示されるトリオルガノシリル(メタ)アクリレート(c)から誘導される構成単位とを含む請求項1に記載の防汚塗膜の形成方法。
【化18】

[前記一般式(I’)中、R31は水素原子またはメチル基を表し、a、b、m、nおよびR1〜R5は、前記と同じ意味を表す。]
【化19】

[前記一般式(II’)中、R32は水素原子またはメチル基を表し、c、d、pおよびR6〜R8は、前記と同じ意味を表す。]
【化20】

[前記一般式(III’)中、R33およびR34は水素原子またはメチル基を表し、e、f、g、h、q、r、sおよびR9〜R12は、前記と同じ意味を表す。]
【化21】

[前記一般式(IV’)中、R35およびR36は水素原子またはメチル基を表し、i、j、k、l、t、u、v、wおよびR13〜R22は、前記と同じ意味を表す。]
【化22】

[前記一般式(V’)中、R43は水素原子またはメチル基を表し、R40〜R42は、前記と同じ意味を表す。]
【請求項10】
前記加水分解性樹脂(ii)は、下記一般式(VI’)で示される単量体(b1)および(VII’)で示される単量体(b2)からなる群から選択される少なくとも1種の金属原子含有重合性単量体(b)から誘導される構成単位をさらに含む請求項9に記載の防汚塗膜の形成方法。
【化23】

[前記一般式(VI’)中、R37は水素原子またはメチル基を表し、MおよびR30は、前記と同じ意味を表す。]
【化24】

[前記一般式(VII’)中、R38およびR39は水素原子またはメチル基を表し、Mは、前記と同じ意味を表す。]
【請求項11】
前記着色防汚塗料は、防汚剤をさらに含有し、
前記防汚剤の含有量は、塗料固形分中、10質量%以下である、請求項1に記載の防汚塗膜の形成方法。
【請求項12】
前記着色防汚塗料は、熱可塑性樹脂および/または可塑剤をさらに含有し、
前記熱可塑性樹脂および前記可塑剤の合計含有量は、前記加水分解性樹脂100質量部に対して3〜100質量部である、請求項1に記載の防汚塗膜の形成方法。
【請求項13】
前記着色防汚塗料は、前記条件(a)〜(c)を具備する2種以上の防汚塗料を混合することによって調製され、
前記2種以上の防汚塗料は、互いに着色顔料の含有量が異なるものである、請求項1に記載の防汚塗膜の形成方法。
【請求項14】
前記被塗物は、その表面に、防食塗料または防汚塗料から形成された下塗り塗膜を有し、前記下塗り塗膜表面上に、前記着色防汚塗料が塗工される、請求項1に記載の防汚塗膜の形成方法。
【請求項15】
前記被塗物は、鋼材、プラスチックまたはコンクリート製である、請求項1に記載の防汚塗膜の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−5934(P2012−5934A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−142566(P2010−142566)
【出願日】平成22年6月23日(2010.6.23)
【出願人】(597091890)日本ペイントマリン株式会社 (8)
【Fターム(参考)】