説明

防汚塗膜システムおよびそれを備えた便座装置

【課題】さらさらした触感と防汚性を兼ね備えた防汚塗膜システムを提供することを目的とする。
【解決手段】基材1と、基材1表面に、吸湿性を有する粒子4とシリコーン成分3とを含むアクリル系塗料もしくはウレタン系塗料もしくはそれらの混合塗料の塗膜で形成される防汚塗膜2と、防汚塗膜2を加熱する加熱する加熱手段6とを備え、吸湿性を有する粒子4の代表径が前記塗膜の膜厚より大きいことを特徴とすることにより、シリコーン成分3が防汚性を付与することができ、また吸湿性を有する粒子が水分を吸収するのでさらさらした感じを与えることができ、加熱手段を稼動させることにより吸収した水分を放出させることができるため、さらさらした触感を半永久的に持続させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材表面を保護するとともに防汚性とさらさらした触感とを付与することができる防汚塗膜システムとそれを備えた便座装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来は、基材にさらさらした触感を付与する手段として特許文献1のような方法をとっていた。特許文献1によると、基材上に下塗りシリコーンゲル弾性層と上塗り弾性層とを形成してなることを特徴とする表面平均摩擦係数の平均偏差0.0025〜0.0100の好触感塗装体とするものである。
【0003】
一方で、基材に防汚性を付与する手段として、自動車用防汚塗料や、船舶、港湾施設、パイプライン、橋梁などの水中構造物の防汚塗料としてシリコーン成分を含むポリウレタン塗料などを用いて防汚性を有する塗膜を形成させていた。また、基材がポリプロピレン製の便座では、ポリプロピレン樹脂に混練によりシリコーン成分を含有させたり、ポリプロピレン樹脂表面にフッ素樹脂のような低表面エネルギーの樹脂フィルムを張り付けたりし、防汚性を付与していた。特許文献2によると、湿気硬化性シリコーンオリゴマーと酸化触媒とを含有するコーティング剤を用いて、鉛筆硬度4H以上の硬度の塗膜を形成させることを開示している。特許文献3によると、シリコーン成分を含有するウレタン系塗料を用いて、水中構造物表面に防汚塗膜を形成する方法を開示している。また、特許文献4によると、シリコーン樹脂やフッ素樹脂などの低表面エネルギー層(フィルム)を便座表面へ設けることで防汚性を高めた便座を実現している。
【特許文献1】特開2005−296697号公報
【特許文献2】特開2007−70606号公報
【特許文献3】特開2006−45339号公報
【特許文献4】特許第3838371号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術では、基材にさらさらした触感の付与と防汚性を両立させることはできなかった。特許文献1のシリコーンゲルはシリコーン成分を含んでいるものの、エラストマー化あるいはゴム化させるときに添加剤を添加させるため、その添加剤の影響で防汚性を低下させてしまい、さらさらした触感は付与できるものの防汚性を付与することはできなかった。
【0005】
一方、特許文献2や3によると、防汚性を付与できるものの、表面が滑らかな塗料であるので、その表面に触れた場合、塗料との接触面積が大きくなり、さらさらした触感を感じることはなかった。また、特許文献4のように樹脂フィルムを用いた場合も同様にさらさらした触感を感じることはなかった。さらには、樹脂フィルムがフッ素樹脂フィルムの場合、汚れが油性であった場合、油性成分が染み込んでしまい、長期間放置すると黄ばみ汚れの原因となるという課題もあった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、このような課題を解決するものであり、基材と、前記基材表面に、吸湿性を有する粒子とシリコーン成分とを含むアクリル系塗料もしくはウレタン系塗料もしくはそれらの混合塗料の塗膜で形成される防汚塗膜と、前記防汚塗膜を加熱する加熱する加熱手段とを備え、前記吸湿性を有する粒子の代表径が前記塗膜の膜厚より大きいことを特徴とする防汚塗膜システムである。
【0007】
これによって、シリコーン成分が撥水性であるため汚れを付きにくくし、かつ付いても取れやすくするので非常に高い防汚性を付与することができ、また吸湿性を有する物質の粒子が塗膜の厚さより大きいので皮膚が塗膜に触れたときの接触面積が小さくなるため皮膚を塗膜から離す際のベタツキが小さくなり、加えて水分を吸収するのでさらにさらさらした感じを与えることができ、さらさらした触感の防汚塗膜を実現できる。また、加熱手段を稼動させることにより吸湿した吸湿性の物質から水分を脱着させることができるため、さらさらした触感を半永久的に持続させることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の防汚塗膜システムは、さらさらとした触感の防汚塗膜を実現でき、その効果を半永久的に持続させることができる。また、この形成した防汚塗膜により基材表面への傷突きを防止する効果がある。さらには、基材に光沢感やツヤを付与することで意匠性を向上させる効果がある。
【0009】
さらに、便座装置に実施した場合、便座に座ったとき夏場でもベタツキ感がなくさらさらした感じを与えることができるとともに、防汚性の高い便座を実現することができる。特に、便座の裏には尿などの跳ね返りが飛散するが、乾いたトイレットペーパーで簡単に汚れを取り除くことができ、掃除の手間を省けるという効果がある。また、便座裏に付着した尿などに気付かずに放置され、それが乾燥してしまった汚れに対しても、軽い力で簡単に取り除くことができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
第1の発明は、基材と、前記基材表面に、吸湿性を有する粒子とシリコーン成分とを含むアクリル系塗料もしくはウレタン系塗料もしくはそれらの混合塗料の塗膜で形成される防汚塗膜と、前記防汚塗膜を加熱する加熱手段を備え、前記吸湿性を有する粒子の代表径が前記塗膜の膜厚より大きいことを特徴とする防汚塗膜システムとすることにより、シリコーン成分が撥水性であるため汚れを付きにくくし、かつ付いても取れやすくするので非常に高い防汚性を付与することができ、また吸湿性を有する粒子が塗膜の厚さより大きいので皮膚が塗膜に触れたときの接触面積が小さくなるため皮膚を塗膜から離す際のベタツキが小さくなり、加えて水分を吸収するのでさらにさらさらした感じを与えることができ、さらさらした触感の防汚塗膜を実現できる。また、加熱手段を稼動させることにより吸湿した吸湿性の物質から水分を放出させることができるため、さらさらした触感を半永久的に持続させることができる。
【0011】
第2の発明は、特に第1の発明の吸湿性を有する粒子を、シリカゲルもしくはゼオライトもしくは吸水性高分子のいずれかもしくはそれらの混合物とすることにより、これらの物質は安価かつ容易に入手することができ、人体に対しても安全であるため、安いコストでさらさらした感触を付与した防汚性の高い防汚塗膜を実現できる。
【0012】
第3の発明は、特に第1または第2の発明の加熱手段を線状ヒーターとすることにより、基材表面あるいは基材裏面に容易に貼り付けることができ、また基材に埋め込むこともできるので、効率良く防汚塗膜を加熱することで吸湿性の物質から水分を効率良く放出させることができる。
【0013】
第4の発明は、特に第1から3のいずれか1つの発明において、防汚塗膜が抗菌剤を含むことにより、さらさらした触感と防汚性に加えて抗菌性を付与することができ、特に便座装置などへ応用した場合に抗菌性と防汚性をあわせ持つクリーン便座を実現することができる。
【0014】
第5の発明は、特に第1〜4のいずれか1つの発明の防汚塗膜システムを、少なくとも便座に備えた便座装置とすることにより、便座に座ったとき夏場でもベタツキ感がなく、さらさらした感じを与えることができるとともに、防汚性の高い便座を実現することができる。
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0016】
(実施の形態1)
図1は本発明の第1の実施の形態における防汚塗膜システムの断面を示す模式図である。
【0017】
図1に示すように、基材1の表面に、アクリル系塗料とウレタン系塗料を混合した混合塗料をベース塗料とし、前記ベース塗料にシリコーン成分3と吸湿性を有する粒子4と抗菌剤5とを含む防汚塗膜2が形成されている。基材1の裏面に防汚塗膜2を加熱する加熱手段として線状ヒーター6が貼り付けられている。
【0018】
基材1は金属、樹脂、セラミックスを問わないが、ポリプロピレンやポリエチレンなどの非極性分子からなる樹脂である場合、基材表面に直接防汚塗膜2を形成することは難しく、基材1表面にプライマーを形成させ、その上に防汚塗膜2を形成させる必要がある。その場合のプライマーは、塩素化ポリプロピレンあるいはポリプロピレンの一部にマレイン酸やオレイン酸などのカルボン酸を導入した変性ポリプロピレンを用いるが、塩素化ポリプロピレンを用いた場合、塩素が脱離し遊離してしまい、周りの金属などを腐食させる可能性があるので、変性ポリプロピレンからなるものが望ましい。
【0019】
ベース塗料としてアクリル系塗料とウレタン系塗料を混合した混合塗料を使用したが、これに限るものではなく、アクリル系塗料またはウレタン系塗料の単独塗料でもよい。
【0020】
防汚塗膜2には吸湿性を有する粒子以外の成分で形成される膜厚より大きな代表径の吸湿性を有する粒子4を含有させている。吸湿性を有する物質としては、無機系であればシリカゲル、ゼオライト、セピオライトなどが安価で容易に入手可能であり、有機であれば吸水性高分子が入手しやすい。吸水性高分子はセルロース系、ポリアクリル酸系、ポリビニルアルコール系のものなどがあるが、いずれを用いても良い。添加量としては、防汚塗膜の1〜20wt%が望ましく、少ないとさらさらとした触感が感じにくくなり、多すぎると防汚性が悪くなってしまう。なお、吸湿性を有する物質の粒子4の形状は球状に限定されるものではない。
【0021】
次に抗菌剤5について説明する。抗菌剤はワサビなどの有機系のものや、銀・亜鉛・銅などの無機系のものがあるが、有機系のものは防汚塗膜成形時に有機溶剤で変質してしまう可能性あるので本発明では無機系のものが望ましい。無機系の抗菌剤としては、東亞合成社製の銀系無機抗菌剤「ノバロン」(登録商標)やシナネンゼオミック社製の無機抗菌剤「ゼオミック」(登録商標)や富士ケミカル社製の無機抗菌剤「バクテキラー」(登録商標)などが挙げられ、これらは防カビ効果も期待できる。無機抗菌剤を用いる場合、いずれも0.3%〜3%程度の添加が望ましい。なお、抗菌剤はこれらに限定されるものではなく、防汚塗膜2に分散し、抗菌効果が発揮できるものであればよい。また、その形状も球状に限定されるものではない。
【0022】
加熱手段である線状ヒーター6について説明する。防汚塗膜2を加熱する手段として、本実施の形態1では線状ヒーター6を用いた。加熱手段としては、その他、ランプヒーター、面状ヒーター、ハロゲンヒーターなど防汚塗膜2を加熱する、すなわち防汚塗膜2に
含まれる水分を吸収した吸湿性を有する物質の粒子4を加熱することができれば特に限定されるものではないが、加熱効率やコスト、安全性などを考慮すると線状ヒーターが望ましい。また、設置箇所も本実施の形態1では、防汚塗膜2の設置面とは反対の基材1の裏面に貼り付けているが、基材1表面に貼り付け、その上に防汚塗膜2を形成しても良いし、基材1に埋め込んでも、防汚塗膜2に埋め込んでも良い。
【0023】
次に、上記防汚塗膜2の作製方法について記載する。防汚塗膜2の形成は、アクリルシリコーン系塗料あるいはウレタンシリコーン系塗料など、防汚性をもつシリコーン成分を含有する塗料を用いる。またこれらの塗料に変性シリコーンオイルなどのシリコーン成分をさらに添加することでさらに防汚性や耐摩耗性を高めることができる。本実施の形態1では、アクリルシリコーン系塗料に片末端ジオール変性シリコーンオイルを5%添加したものを用いた。
【0024】
アルコールやアセトンなどで脱脂を行った基材1表面に、片末端ジオール変性シリコーンオイルを5%添加したアクリルシリコーン系塗料を塗布し、塗料に含まれる有機溶剤(通常塗料に使用される有機溶剤は、トルエン、キシレン、メチルシクロヘキサン、酢酸エチル、酢酸ブチルなど)を蒸発乾燥させる。その後、シリコーン成分3を防汚塗膜2の表面にブリードさせるためにエージングさせる。エージング条件はアクリルシリコーン系塗料により異なっているが、一般的な条件では100℃程度の温度で1〜2時間程度が望ましい。塗布方法は、ディップ、スプレー、スピンコーター、スクリーン印刷、ローラー塗り、ハケ塗りなどが可能で、特に限定されるものではない。膜厚も特に限定されるものではないが、1μm〜30μm程度が望ましい。薄すぎても厚すぎても、密着力が低下する原因となる。なお、吸湿性を有する物質の粒子4や抗菌剤5は、予め塗料に混ぜておくことが望ましい。
【0025】
防汚性について説明する。本発明で示す防汚とは、水やアルコールあるいは油や有機溶剤などに固形物が溶解もしくは分散している汚れを付着しにくくする、もしくは付着した汚れを除去しやすくする、もしくは液体が乾燥することで溶解または分散していた固形物が析出した乾燥汚れを除去しやすくするというものである。このような汚れとしては、コーヒー、お茶、味噌汁、油、醤油、ドレッシング、野菜汁、果汁などの食品由来の汚れやマジック、ペンキなどの汚れ、あるいは糞便や尿の汚れなどが挙げられ、本発明の防汚塗膜2はこれらの汚れに対して高い防汚効果を示し、特に乾燥汚れを乾拭きで拭き取る場合に高い効果を発揮する。防汚の原理は、シリコーン成分やフッ素成分の撥水性、撥油性を利用したものである。撥水・撥油性を有しており、水やアルコールあるいは油や有機溶剤などをはじくため汚れは付着しにくくなり、また付着した汚れも除去しやすい。
【0026】
また、汚れの液体が乾燥し溶解もしくは分散していた固形分が汚れとして付着したものは、固形分が無機物の場合、撥水性であると結合力が小さくなり、固形分が有機物の場合、撥油性であると結合力が小さくなり除去しやすくなる。フッ素成分は撥水性と同時に撥油性も有しているので、フッ素成分を添加することで様々な汚れに対して防汚性を発揮できる。
【0027】
次にさらさらした触感について説明する。皮膚が基材1に触れる場合、接触面積が大きいと皮膚が基材1から離れる際にベタツキを感じやすくなる。特に夏場などの気温が高い場合、発汗により出た汗が皮膚と基材1との間に入り込み、よりベタツキ感が増幅される。しかしながら、本発明によると防汚塗膜2表面から吸湿性を有する物質の粒子4が出ているため表面が凹凸しており、皮膚が触れた場合、まずは吸湿性を有する粒子4に接触し、防汚塗膜2に触れる面積は小さくなる。したがって、皮膚が離れる際にはそれほどベタツキを感じることはない。また、発生した汗は吸湿性を有する物質の粒子4に吸収されるため、さらにベタツキを感じにくくなる。
【0028】
また、吸湿性を有する粒子4が水分を吸収すると同時に、または十分に水分を吸収した後に、加熱手段である線状ヒーター6を作動させることにより、吸湿性を有する粒子4から水分を脱着させ、元の状態に戻すことができる。そうすることで、吸湿性を有する物質の粒子4は再度水分を吸収できるようになる。
【0029】
水分を放出させるための温度は吸湿性を有する物質の種類によって変わるが、防汚塗膜が有機物であることを考慮すると最大でも100℃程度、便座装置等の人体が接触する機器に応用する場合などは安全性を考え50℃程度までである。なお、基材1や防汚塗膜2にサーミスタ(図示せず)を配置し、それと連動させることにより温度制御できるようになり、また異常な温度になるのを防ぐことができる。
【0030】
このようにして作製した防汚塗膜は、コーヒー、お茶、味噌汁などの食品由来の汚れやマジック、ペンキなどの汚れ、あるいは糞便や尿の汚れなどを付きにくくし、また付いて乾燥しても除去しやすくするなどの高い防汚効果を有し、また耐摩耗性が高く、さらに皮膚が触れたときにさらさらとした触感を与えることができ、便座装置などに応用することができる。
【0031】
(実施の形態2)
図2は本発明の第2の実施の形態における便座装置の外観を示す斜視図である。
【0032】
便座装置20は、便器21の上面に設置される本体22と、前記本体22に回動自在に枢支し使用者が座るための便座23と、前記便器21と便座23を隠蔽する便蓋24を備えている。なお、便座装置は使用者の局部を洗浄する衛生洗浄機能付きのものであっても良い。その場合、水道から洗浄水の供給を受けるための給水配管(図示せず)が備えてある。
【0033】
便座23は、座る人の荷重に耐えたり、酸・アルカリ・アルコール等を含むトイレ用洗剤に耐えたりできるよう、ポリプロピレン製であることが多い。ポリプロピレンは一般的に防汚性に優れるが、油脂成分をよく染み込んでしまうという欠点がある。よって、便座21、特に裏側の普段目立たないところに尿や便等が付着すると、その油脂成分が染み込み、黄ばみ汚れの原因となる。また、それら汚れが乾いてしまうと、乾拭きでは除去しにくいという問題もある。
【0034】
本実施の形態2では、防汚塗膜システムの基材であるポリプロピレン製の便座23の表面に、完全非結晶性ポリプロピレンに無水マレイン酸を2%変性させた変性ポリプロピレンを主成分とするプライマー塗料にスプレーで塗布し常温で10分間乾燥後、片末端ジオール変性シリコーンオイルを5%添加した2液型のアクリルシリコーン系塗料に、シリカゲル5wt%、無機抗菌剤「ノバロン」1wt%を添加、攪拌したものを塗り、100℃で60分間乾燥、エージングを行い、防汚塗膜を形成させた。なお、便座23は曲面や出っ張り部分などがあるため、塗布方法はスプレーもしくはディップが望ましく、これらの方法により均一に斑なく塗布することができる。
【0035】
また、便座23の裏面には冬場など気温の低いときに便座を暖めることを主目的として加熱手段として線状ヒーター(図示せず)を貼り付けてある。これにより、使用者が便座23に座ったときに暖かく感じることができる。
【0036】
通常の便座の場合、梅雨時期から夏場にかけて湿度が高い、あるいは気温が高い場合、長時間便座に座っていると臀部より汗が出て、臀部が非常に不快に感じるようになる。また長時間座っていた便座から立ち上がるときにはベタツキ感が出て、さらに不快な感じを
受ける。
【0037】
しかしながら、本発明の便座では吸湿性を有する粒子としてシリカゲルが添加された塗料が塗布されており、その粒子の代表径がシリカゲル以外の成分で形成される塗膜の膜厚より大きいので、便座に長時間座り汗が出た場合も吸湿性を有する物質がその汗を吸収しベタツキ感を抑制してさらさらした触感を与えることができ、さらには臀部と防汚塗膜との接触面積が減っているため、便座から立ち上がる際にもベタツキを感じにくくなる。
【0038】
また、着座中の便座は加熱手段である線状ヒーターで加熱されるため、吸湿性を有する粒子に吸収された水分は着座中に放出され、さらさらした触感を維持することができる。
【0039】
また、夏季の高温時において着座時に便座の線状ヒーターに通電しない場合は、防汚塗膜に含まれる吸湿性を有する物質が汗などの水分を吸収し、飽和状態になった場合、便座裏に貼り付けてある線状ヒーターを作動させることで、水分を放出させ吸湿していない状態に戻すことができる。特に、便座の場合、使用者が座っていない時間が長く、十分に水分を脱着させる時間を取ることができる。
【0040】
なお、水分を放出させるときの温度は、誤って水分を放出中に使用者が便座に座った場合でも臀部が火傷しないよう50℃以下が望ましい。また便座装置20の本体22あるいはトイレの壁などに人体検知センサー(図示せず)を設置し、人体感知時に線状ヒーターの作動を制御することで、さらに安全に使用することができるようになる。
【0041】
次に、防汚性について記述する。使用者が便座23に座り、小便あるいは大便を行うと、その跳ね返りが便座23の裏に付着する。また、使用者の局部を洗浄する衛生洗浄機能付きの便座装置20の場合、大便の後お尻を洗浄することにより便を含んだ温水が便座21の裏に付着する。まだ、シリコーン成分は撥水性であるため、これら汚れを着きにくくし、あるいは付いても汚れが濡れ広がらない。したがって、この状態ではトイレットペーパーで容易に拭き取ることが可能となる。
【0042】
また、便座23の裏側は見えにくく、このような汚れが放置されて乾燥し便座21に固着してしまうことがある。このような場合でも、油脂成分の染み込みがなく、シリコーン成分と汚れとの結合力が小さいため、トイレットペーパーによる乾拭きや濡れゾウキン等で簡単に取り除くことができる。
【0043】
さらには、防汚塗膜はシリコーン成分を含み、硬度がポリプロピレンより硬いため、便座23の傷付きを防ぐことができる。特に便座23の表面は、使用者が使用前にトイレットペーパーで拭いたり、ベルトなどが当たったりするため傷が付きやすいが、本発明の防汚塗膜によりこれを回避することができる。そのため、傷に汚れが入り込むことがなく、汚れを付きにくくし、また付いても除去しやすくする。
【0044】
なお、本実施の形態では防汚塗膜にシリコーン成分のみを含んでいるものについて記載したが、フッ素成分を含有させることにより滑り性が向上し、さらに耐摩耗性の高い便座も実現できる。また、防汚塗膜に抗菌剤を含有させることにより、抗菌性と防汚性をあわせ持つ便座を実現できる。
【0045】
また、本実施の形態では主には便座装置20の便座23においてのみ防汚性、抗菌性について記述したが、便座装置20の本体22、便器22、便蓋23、温水洗浄便座を制御するリモコン(図示なし)、洗浄水を噴射するノズル(図示なし)などにも適用可能で、特に人為的なメンテナンスを行うことが困難な洗浄水を噴射するノズルに適用した場合、使用後毎回ノズルに付着した汚れを少ない水流により洗浄することが可能となり、清潔性
を高めたノズルを実現できる。
【0046】
このようにして作製した便座装置の便座は、糞便や尿の汚れなどを付きにくくし、また付いて乾燥しても除去しやすくするなどの高い防汚効果を有し、さらには使用者にベタツキ感を与えにくいものである。
【実施例】
【0047】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明の防汚塗膜システムについて更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0048】
(実施例1)
以下の手順で、防汚塗膜を製造した。まず、シリカゲルとシリコーン成分を含むアクリル系塗料との調合を行った(調合工程)。ここで、シリカゲルとしては富士シリシア化学社製のシリカゲル「商品名:サイロスフェア(品番:C1510)」(平均粒径10μm)を用いた。また、シリコーン成分を含むアクリル系塗料としては川上塗料社製の落書き防止塗料「商品名:ケシゾー」を用いた。具体的には、シリカゲルとシリコーン成分を含むアクリル系塗料とを混合し、シリカゲルがシリコーン成分を含むアクリル系塗料中に十分に拡散するよう、拡販機を用いて撹拌を行った。
【0049】
このとき、シリカゲルの添加量はシリコーン成分を含むアクリル系塗料中のシリカゲルの割合が0.5質量%となるように調節した。
【0050】
次に、調合工程で得られたシリカゲルを含有したシリコーン成分を含むアクリル系塗料を塗布する基材として、市販の厚さ2mmのアルミ合金板を15cm角で切り出したものを用意した。
【0051】
この基材表面に、調合工程で得られたシリカゲルを含有したシリコーン成分を含むアクリル系塗料をスプレーガンを用いて塗布し、常温で10分間放置し、乾燥させた(塗料塗布・乾燥工程)。
【0052】
次に、塗料を塗布した基材について、熱処理を行った(熱処理工程)。具体的には、100℃の恒温槽の中に当該基材を入れ、60分間保持し、厚さ8μmの防汚塗膜を形成させた。
【0053】
さらに、基材の防汚塗膜が形成されている面と逆の面に、ヒータ線を絶縁物で被覆した線状ヒータを貼り付け、防汚塗膜システムを完成させた。
【0054】
(実施例2)
シリカゲルの添加量を、シリコーン成分を含むアクリル系塗料中のシリカゲルの割合が1質量%となるように調節したこと以外は、実施例1と同様の手順および条件で防汚塗膜システムを作製した。
【0055】
(実施例3)
シリカゲルの添加量を、シリコーン成分を含むアクリル系塗料中のシリカゲルの割合が5質量%となるように調節したこと以外は、実施例1と同様の手順および条件で防汚塗膜システムを作製した。
【0056】
(実施例4)
シリカゲルの添加量を、シリコーン成分を含むアクリル系塗料中のシリカゲルの割合が20質量%となるように調節したこと以外は、実施例1と同様の手順および条件で防汚塗
膜システムを作製した。
【0057】
(実施例5)
シリカゲルの添加量を、シリコーン成分を含むアクリル系塗料中のシリカゲルの割合が30質量%となるように調節したこと以外は、実施例1と同様の手順および条件で防汚塗膜システムを作製した。
【0058】
(比較例1)
シリカゲルを添加しなかったこと以外は、実施例1と同様の手順および条件で防汚塗膜システムを作製した。
【0059】
(比較例2)
シリカゲルに富士シリシア化学社製のシリカゲル「商品名:サイロスフェア(品番:C1504)」(平均粒径4μm)を用いたことおよびシリカゲルの添加量をシリコーン成分を含むアクリル系塗料中のシリカゲルの割合が5質量%となるように調節したこと以外は、実施例1と同様の手順および条件で防汚塗膜システムを作製した。
【0060】
(比較例3)
市販の厚さ2mmのアルミ合金板を15cm角で切り出したものを基材として用意し、基材表面には防汚塗膜を形成させなかった。次に、基材の片方の面にヒータ線を絶縁物で被覆した線状ヒータを貼り付けた。
【0061】
[さらさら感評価試験1]
以下の手順によりさらさら感評価試験を行い、実施例1〜5、比較例1および2の防汚塗膜システムにおける防汚塗膜のさらさら感を評価した。さらさら感は防汚塗膜に手で触れ、官能3段階評価にて判定した。
3:非常にさらさら感がある。
2:さらさら感がある。
1:さらさら感に欠ける。
これらの結果を表1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
表1に示した結果から明らかなように、本発明に係る実施例1〜4の防汚塗膜システムは、比較例1、2の防汚塗膜システムよりも優れたさらさら感を有していることが確認された。
【0064】
特に、シリコーン成分を含むアクリル系塗料中のシリカゲルの割合が1質量%以上の実
施例2〜5の防汚塗膜システムは更にさらさら感を有することが確認された。また、実施例1の防汚塗膜システムの結果から、防汚塗膜の膜厚より大きな代表径のシリカゲルを僅かにでも防汚塗膜に含有させることが極めて有効であることが確認された。
【0065】
[防汚性試験1]
以下の手順により防汚性試験を行い、実施例1〜5、比較例1および2の防汚塗膜システムと、比較例3の防汚塗膜のないシステムの防汚性を評価した。
【0066】
まず、各種防汚塗膜システムの防汚塗膜表面に、寺西化学工業社製の黒色の油性マジック「商品名:マジックインキ(品番:No.500)」で線を描き、そのはじき具合を目視観察した。次に、室温雰囲気下に1分間放置することで乾燥させ、ティッシュペーパーを用いて拭き取りを行い、拭き取り具合を目視観察した。なお、拭き取る際にかける荷重は1kgとした。
【0067】
そして、防汚性結果は、油性マジックをはじかず、拭き取りも不可能な場合は「0」、油性マジックをはじき、拭き取りがほぼ可能な場合は「1」、油性マジックをはじき、完全に拭き取り可能な場合は「2」とした。
これらの結果を表2に示す。
【0068】
【表2】

【0069】
表2に示した結果から明らかなように、基材にシリカゲルを含有するシリコーン成分を含むアクリル系塗料を用いて形成した防汚塗膜を有する本発明に係る実施例1の防汚塗膜システムは、優れた防汚性を有することが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の実施の形態1における防汚塗膜システムの断面を示す模式図
【図2】本発明の実施の形態2における便座装置の外観を示す斜視図
【符号の説明】
【0071】
1 基材
2 防汚塗膜
3 シリコーン成分
4 吸湿性を有する粒子
5 抗菌剤
6 線状ヒーター(加熱手段)
20 便座装置
23 便座

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材表面に、吸湿性を有する粒子とシリコーン成分とを含むアクリル系塗料もしくはウレタン系塗料もしくはそれらの混合塗料の塗膜で形成される防汚塗膜と、前記防汚塗膜を加熱する加熱手段とを備え、前記吸湿性を有する粒子の代表径が前記塗膜の膜厚より大きいことを特徴とする防汚塗膜システム。
【請求項2】
吸湿性を有する粒子は、シリカゲルもしくはゼオライトもしくは吸水性高分子のいずれかもしくはそれらの混合物である請求項1に記載の防汚塗膜システム。
【請求項3】
加熱手段は線状ヒーターである請求項1記載の防汚塗膜システム。
【請求項4】
防汚塗膜は抗菌剤を含む請求項1から3いずれか1項に記載の防汚塗膜システム。
【請求項5】
請求項1から4いずれか1項に記載の防汚塗膜システムを、少なくとも便座に備えた便座装置。

【図2】
image rotate

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−255044(P2009−255044A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−326936(P2008−326936)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】