説明

防汚塗膜形成用コーティング剤組成物

【課題】物品に付着した指紋汚れと皮脂汚れを短時間で目立たないようにすることができる塗膜を形成する防汚塗膜形成用コーティング剤組成物を提供する。
【解決手段】ポリオキシアルキレンポリオール(a1)および水酸基含有(メタ)アクリル樹脂(a2)で構成される成分(a)ならびにポリイソシアネート成分(b)からなる防汚塗膜形成用コーティング剤組成物であって、(a1)のアルキレン基が炭素数3〜6の直鎖状アルキレン基および炭素数3〜6の分岐状アルキレン基からなる群より選択される少なくとも1種を有し、かつ数平均分子量が400〜8000であり、(a2)の水酸基価が10〜100mgKOH/gで、かつガラス転移温度が60〜120℃であり、(b)が脂肪族および/または脂環式ポリイソシアネートである防汚塗膜形成用コーティング剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防汚塗膜形成用コーティング剤組成物に関する。特に、日常生活において手で触れる物品、詳しくは、家電機器、携帯・モバイル機器、タッチパネル、ショーケース、日用品、家具等において、付着した指紋汚れと皮脂汚れを目立たないようにすることができ、また、実用上問題のない塗膜硬度を有する塗膜を形成し得る防汚塗膜形成用コーティング剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
鏡面仕上げされた金属プレート、ショーウインドー、ショーケース、自動車の開口部材、反射防止膜、光学フィルタ、光学レンズ、液晶ディスプレー、CRTディスプレー、プロジェクションテレビ、プラズマディスプレー、ELディスプレー、光ディスク、家電機器、携帯・モバイル機器、タッチパネル、日用品、家具等は、その使用環境によって指紋、皮脂、汗、化粧品等の脂性の汚れが付着する場合が多い。特に、指紋や手垢などの人間の手の接触に伴う汚染物が付着すると、美観が大きく損なわれて見苦しくなる。
【0003】
このような問題点の解決を目指し、数多くの試みが成されている。例えば、コーティング膜の表面を低エネルギー性にし、指紋や皮脂をはじいて付着しにくくすることにより、このような汚れに対する耐性を高める方法がある。その方法を大きく分けると、以下の3つに分けられる。(1)パーフルオロアルキル基を導入し、表面を撥水・撥油化する方法(例えば、特許文献1参照)。(2)ポリジメチルシロキサン基のような撥水性シリコーン樹脂骨格を導入し、表面を撥水・撥油化する方法(例えば、特許文献2参照)。(3)表面に微細凹凸をつけ、撥水・撥油性をさらに高めるとともに、接触面積も減らし、より汚れをつきにくくする方法(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
しかしながら、これらの従来の方法では、携帯電話のように顔の皮脂に直接接触する用途、あるいはタッチパネルのように繰り返し指が接触する用途では、依然として付着しやすく、かつ撥水・撥油性のため、付着した汚れをはじき、かえって汚れが目立ってしまう、という問題があった。
【0005】
一方、上記の方法とは異なる発想に基づく技術的流れとして、以下のような方法が行われている。(4)表面の超親水化により、耐汚れ性を向上させる方法(例えば、特許文献4参照)。(5)撥水・撥油基とともに特定の親水基を組み合わせ、汚れのふき取り性を改良する方法(例えば、特許文献5〜7参照)。(6)表面を撥水・親油化することにより、指紋・皮脂成分とのなじみを良くし、付着しても目立たなくする方法(例えば、特許文献8参照)。(7)塗膜中に極性の高い水酸基あるいは水酸基誘導体を多く存在させ、塗膜表面エネルギーを高くすることにより、皮脂の代表的成分であるオレイン酸の接触角を15度以下にして、指紋を大きく濡れ広がらせて目立たないようにする方法(例えば、特許文献9参照)。
【0006】
特に最後の方法では、塗膜表面エネルギーを高くして塗膜表面のオレイン酸接触角を15度以下にすることにより、付着した指紋を濡れ広がらせて、指紋が目立たないようにすることができるようになった。しかしながら、この方法は、指で軽く触れる程度で付着した指紋には効果があるが、指で押しつけられるようにして付着した一般的な指紋に対しては効果が見られない。また、膜のべたつき感が出る等の不具合が生じやすく、指紋汚れの拭き取り性に問題があり、さらに、実用レベルの塗膜硬度を得ることができない。
【特許文献1】特開平10−104403号公報
【特許文献2】特開平10−7986号公報
【特許文献3】特開平10−310455号公報
【特許文献4】特開平9−268280号公報
【特許文献5】特開2000−290535号公報
【特許文献6】特開2001−98190号公報
【特許文献7】特開2001−98188号公報
【特許文献8】特開2001−353808号公報
【特許文献9】特開2007−314608号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、日常生活において手で触れる物品に対して、その物品に付着した指紋汚れと皮脂汚れを短時間で目立たないようにすることができ、また、実用上問題ない塗膜硬度を有する塗膜を形成することができる新規な防汚塗膜形成用コーティング剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、ポリオキシアルキレンポリオールおよび水酸基含有(メタ)アクリル樹脂で構成される成分(a)ならびにポリイソシアネート成分(b)からなるコーティング剤組成物であって、上記ポリオキシアルキレンポリオールのアルキレン基が炭素数3〜6の直鎖状アルキレン基および炭素数3〜6の分岐状アルキレン基からなる群より選択される少なくとも1種を有し、かつ上記ポリオキシアルキレンポリオールの数平均分子量が400〜8000であり、上記水酸基含有(メタ)アクリル樹脂の水酸基価が10〜100mgKOH/gで、かつ上記水酸基含有(メタ)アクリル樹脂のガラス転移温度が60〜120℃であり、ポリイソシアネート成分(b)が脂肪族および/または脂環式ポリイソシアネートであるコーティング剤組成物が、付着した指紋汚れと皮脂汚れを短時間で目立たないようにすることができ、また、実用上問題ない塗膜硬度を有する塗膜を形成し得ることを見出した。さらに、HLBが8〜18である非イオン系界面活性剤を上記成分(a)に対して1〜30重量%添加することによって、非常に優れた防汚性能を発揮することを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、下記に示すとおりの防汚塗膜形成用コーティング剤組成物を提供するものである。
項1. ポリオキシアルキレンポリオール(a1)および水酸基含有(メタ)アクリル樹脂(a2)で構成される成分(a)ならびにポリイソシアネート成分(b)からなる防汚塗膜形成用コーティング剤組成物であって、ポリオキシアルキレンポリオール(a1)のアルキレン基が炭素数3〜6の直鎖状アルキレン基および炭素数3〜6の分岐状アルキレン基からなる群より選択される少なくとも1種を有し、かつポリオキシアルキレンポリオール(a1)の数平均分子量が400〜8000であり、水酸基含有(メタ)アクリル樹脂(a2)の水酸基価が10〜100mgKOH/gで、かつ水酸基含有(メタ)アクリル樹脂(a2)のガラス転移温度が60〜120℃であり、ポリイソシアネート成分(b)が脂肪族および/または脂環式ポリイソシアネートである防汚塗膜形成用コーティング剤組成物。
項2. ポリオキシアルキレンポリオール(a1)が、数平均分子量2000〜8000の末端エチレンオキサイド付加されたポリプロピレントリオールである項1に記載の防汚塗膜形成用コーティング剤組成物。
項3. ポリオキシアルキレンポリオール(a1)が、数平均分子量400〜2000のポリテトラメチレングリコールである項1に記載の防汚塗膜形成用コーティング剤組成物。
項4. ポリオキシアルキレンポリオール(a1)が、数平均分子量400〜2000のポリブチレングリコールである項1に記載の防汚塗膜形成用コーティング剤組成物。
項5. ポリオキシアルキレンポリオール(a1)が、数平均分子量400〜2000のポリプロピレングリコールである項1に記載の防汚塗膜形成用コーティング剤組成物。
項6. ポリプロピレングリコールが、末端エチレンオキサイド付加されている項5に記載の防汚塗膜形成用コーティング剤組成物。
項7. 成分(a)において、ポリオキシアルキレンポリオール(a1)に対する水酸基含有(メタ)アクリル樹脂(a2)の重量比が0.5〜10.0である項1〜6のいずれか1項に記載の防汚塗膜形成用コーティング剤組成物。
項8. ポリオキシアルキレンポリオール(a1)および水酸基含有(メタ)アクリル樹脂(a2)の総水酸基数に対するポリイソシアネート成分(b)の総イソシアネート基数の比が0.6〜2.0である項1〜7のいずれか1項に記載の防汚塗膜形成用コーティング剤組成物。
項9. さらに、HLBが8〜18である非イオン系界面活性剤を成分(a)に対して1〜30重量%含有する項1〜8のいずれか1項に記載の防汚塗膜形成用コーティング剤組成物。
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明の耐指紋汚れ性と耐皮脂汚れ性に優れる防汚塗膜形成用コーティング剤組成物は、成分(a)とポリイソシアネート成分(b)からなるコーティング剤組成物である。
【0012】
本発明における成分(a)は、ポリオキシアルキレンポリオール(a1)および水酸基含有(メタ)アクリル樹脂(a2)を構成成分とする。
【0013】
ポリオキシアルキレンポリオール(a1)は、ポリオキシアルキレンポリオール(a1)のアルキレン基が炭素数3〜6の直鎖状アルキレン基および炭素数3〜6の分岐状アルキレン基からなる群より選択される少なくとも1種を有し、かつ数平均分子量が400〜8000である。炭素数3〜6のアルキレン基としては、プロピレン基、ブチレン基、テトラメチレン基などが挙げられる。ポリオキシアルキレンポリオール(a1)は、公知の単量体(モノマー)との共重合体でも良いが、その公知の単量体(モノマー)の量は40重量%以下であるのが好ましく、20%重量以下であるのがより好ましい。このようなポリオキシアルキレンポリオール(a1)により、優れた耐指紋汚れ性と耐皮脂汚れ性が得られる。
【0014】
ポリオキシアルキレンポリオール(a1)として、末端エチレンオキサイド付加されたポリプロピレントリオールを用いる場合は、数平均分子量が2000〜8000であるのが好ましい。ポリオキシアルキレンポリオール(a1)として、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールを用いる場合は、数平均分子量が400〜2000であるのが好ましい。これらの数平均分子量の範囲であれば、コーティング剤組成物から得られる塗膜の防汚性が十分であり、かつ塗膜の硬化性も十分となる。
【0015】
このようなポリオキシアルキレンポリオール(a1)として、ポリプロピレングリコールあるいはトリオール、ポリプロピレングリコールの末端にエチレンオキサイドを付加重合させたいわゆるプルロニックタイプのポリプロピレングリコールあるいはトリオール、ポリオキシプロピレンポリオキシエチレンコポリマージオールあるいはトリオール、ポリオキシプロピレンポリオキシエチレンブロックポリマージオールあるいはトリオール、ポリテトラメチレングリコールあるいはトリオール、ポリオキシジメチルプロピレンポリオキシブチレンコポリマージオールあるいはトリオール、ポリオキシジメチルプロピレンポリオキシブチレンブロックポリマージオールあるいはトリオールなどが挙げられる。特に、ポリプロピレングリコールあるいはトリオール、ポリプロピレングリコールの末端にエチレンオキサイドを付加重合させたいわゆるプルロニックタイプのポリプロピレングリコールあるいはトリオールは、反応性が優れているために好ましい。具体的には、ポリオキシアルキレンポリオールとしては、エクセノール837(旭硝子株式会社製、ポリプロピレントリオール〔末端エチレンオキサイド付加〕、数平均分子量6000)、PTG1000(保土谷化学工業株式会社製、ポリテトラメチレングリコール、数平均分子量1000)、ニューポールPP1000(三洋化成工業株式会社製、ポリプロピレングリコール、数平均分子量1000)、ユニオールPB700(日油株式会社製、ポリブチレングリコール、数平均分子量700)などが挙げられる。
【0016】
ポリオキシアルキレンポリオール(a1)の製造方法としては、多価アルコール、多価フェノール、ポリアミン、アルカノールアミン等、具体的には、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ビスフェノールA等の2価アルコール、グリセリン、トリメチロールプロパン等の3価アルコール、エチレンジアミン等のジアミンの単独または混合物に、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等の水酸化物、アルコラート、アルキルアミン等の強塩基性触媒、金属ポルフィリン、複合金属シアン化合物錯体、金属と3座配位以上のキレート化剤との錯体、ヘキサシアノコバルト酸亜鉛錯体等の複合金属錯体を使用して、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、シクロヘキセンオキサイド、必要に応じて、エチレンオキサイド、スチレンオキサイド等のアルキレンオキサイドの単独または混合物を付加して得る方法や、多価アルコールを脱水縮合して得る方法等の公知の重合法が挙げられる。
【0017】
次に、本発明に用いる水酸基含有(メタ)アクリル樹脂(a2)は、例えば、水酸基含有不飽和モノマー、酸基含有不飽和モノマーおよびその他の不飽和モノマーから選択された不飽和モノマーの混合物を、重合させて得ることができる。
【0018】
上記水酸基含有不飽和モノマーとしては、特に限定されず、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、プラクセルFM−1(ダイセル化学社製、ε−カプロラクトン変性ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。上記酸基含有不飽和モノマーとしては、特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸等のカルボン酸等を挙げることができる。上記その他の不飽和モノマーとしては、特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル酸のメチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシル、エチルヘキシル、ラウリル等のエステルであるエステル基含有(メタ)アクリル系単量体;ビニルアルコールと酢酸、プロピオン酸等のカルボン酸とのビニルアルコールエステル系単量体;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン、ブタジエン、イソプレン等の不飽和炭化水素系単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル系単量体;(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド等のアクリルアミド系単量体等を挙げることができる。
【0019】
水酸基含有(メタ)アクリル樹脂(a2)の水酸基価は、10〜100mgKOH/gであり、20〜80mgKOH/gであるのが好ましく、20〜50mgKOH/gであるのがより好ましい。水酸基含有(メタ)アクリル樹脂(a2)の水酸基価が10mgKOH/g以上であれば、充分な架橋密度でウレタン結合が形成され、塗膜の耐薬品性等が向上する。水酸基含有(メタ)アクリル樹脂(a2)の水酸基価が100mgKOH/g以下であれば、ウレタン結合の架橋密度が高くなりすぎることなく、塗膜の過剰な硬化収縮が抑えられ、塗膜の密着性が良好となる。
【0020】
水酸基価は、試料中の水酸基(−OH)をアセチル化して、アセチル化に要した酢酸を中和するのに要する水酸化カリウムの量を、試料1.0gに対するmg数で表したもので、試料中の水酸基の含有量を示す尺度である。アセチル化には、各種の試薬が用いられるが、通常、ピリジンおよび無水酢酸(3.1:1.0)が用いられ、アセチル化前後の酸濃度の差を滴定することによって測定される。
【0021】
水酸基含有(メタ)アクリル樹脂(a2)のガラス転移温度は、60℃以上であり、70℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましい。水酸基含有(メタ)アクリル樹脂(a2)のガラス転移温度が60℃以上であれば、充分な硬度および強度を有する塗膜が形成される。充分な硬度および強度を有する塗膜が、べたつき感が出る等の不具合を改善し、指紋のふき取り性を向上させる。水酸基含有(メタ)アクリル樹脂(a2)のガラス転移温度の上限は、120℃である。この温度を超えた場合、塗膜の可とう性が失われて塗膜欠陥を引き起こし、また、ポリオキシアルキレンポリオール(a1)との相溶性が低下する。
【0022】
水酸基含有(メタ)アクリル樹脂(a2)のガラス転移温度(Tg)は、単量体a,b,c・・・からなる共重合体の場合は、以下の式(FOXの式)で求められる。
1/Tg=m/Tg+m/Tg+m/Tg+・・・
:単量体aの質量分率、Tg:単量体aから得られる単独重合体のTg[K]、
:単量体bの質量分率、Tg:単量体bから得られる単独重合体のTg[K]、
:単量体cの質量分率、Tg:単量体cから得られる単独重合体のTg[K]。
【0023】
水酸基含有(メタ)アクリル樹脂(a2)は、公知の重合法によって製造でき、生産効率の点から、溶液重合法が好ましい。溶液重合法としては、単量体成分を有機溶媒に溶解し、撹拌しながら、重合開始剤の存在下に、窒素雰囲気下で60〜180℃の温度で加熱する方法が挙げられる。重合時間は、通常、1〜10時間である。有機溶媒としては、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、炭化水素系溶媒等が挙げられる。重合開始剤としては、過酸化ベンゾイル、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート等の過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスジメチルバレロニトリル等のアゾ化合物等が挙げられる。
【0024】
また、水酸基含有(メタ)アクリル樹脂(a2)としては、各種変性された水酸基を有する(メタ)アクリル樹脂を用いても良い。例えば、ポリエステル変性アクリルポリオール、ポリエーテル変性アクリルポリオール、ポリカーボネート変性アクリルポリオール、シリコーン変性アクリルポリオール等が挙げられる。
【0025】
成分(a)において、ポリオキシアルキレンポリオール(a1)と水酸基含有(メタ)アクリル樹脂(a2)との割合は、(a1)に対して(a2)が重量比(a2/a1)で0.5〜10.0であるのが好ましく、1.0〜5.0であるのがより好ましい。重量比が0.5未満の場合は、塗膜のべたつき感が出る等の不具合が生じる恐れがある。また、重量比が10.0を超える場合は、防汚性が低下する恐れがある。
【0026】
次に、本発明に用いるポリイソシアネート成分(b)は、脂肪族および/または脂環式ポリイソシアネートであり、脂肪族ジイソシアネートおよび/または脂環式ジイソシアネートから構成される。上記ポリイソシアネートの骨格としては、特に限定されず、例えば、イソシアヌレート基、ウレトジオン基、ウレタン基、アロファネート基、ビウレット基および/またはオキサジアジン基等からなるポリイソシアネートを挙げることができる。中でも、ヘキサメチレンジイソシアネートから構成されるビウレット構造またはイソシアヌレート構造を有するポリイソシアネートが、耐候性、耐薬品性、耐熱性があり、特に耐候性に優れているので、好ましい。
【0027】
成分(a)とポリイソシアネート成分(b)との割合は、ポリオキシアルキレンポリオール(a1)および水酸基含有(メタ)アクリル樹脂(a2)の総水酸基数に対するポリイソシアネート成分(b)の総イソシアネート基数の比(b/(a1+a2))が0.6〜2.0であるのが好ましく、1.0〜1.3であるのがより好ましい。比が0.6未満の場合には、コーティング剤組成物の硬化性が悪化するとともに、形成された塗膜にべたつき感が出る等の不具合が生じやすくなる恐れがある。一方、2.0を超える場合には、過剰硬化が生じやすくなり、塗膜の密着性が低下する恐れがある。
【0028】
さらに、HLBが8〜18である非イオン系界面活性剤を、ポリオキシアルキレンポリオール(a1)および水酸基含有(メタ)アクリル樹脂(a2)で構成される成分(a)に対する重量比率で1〜30%添加することにより、さらに優れた耐指紋汚れ性と耐皮脂汚れ性が得られる。このような非イオン系界面活性剤を含有する本発明のコーティング剤組成物で形成した塗膜は、親水性が顕著に向上する。指紋は汗を含むため、水分の付着性や濡れ性も耐指紋汚れ性を左右するものであり、指紋を濡れ広がらせることによって指紋による汚れが目立たなくなる効果を発現させるには、塗膜の表面は親水性が高い方がより望ましい。非イオン系界面活性剤のHLBが8未満の場合には、非イオン系界面活性剤は極性成分が小さいために、親水性を向上させる効果を十分に得ることができない恐れがある。HLBが18を超える場合には、形成される塗膜の耐水性が著しく低下する恐れがある。非イオン系界面活性剤の添加量は、成分(a)に対して、重量比率で1%以上であるのが好ましい。非イオン系界面活性剤の重量比率が1%未満の場合には、上記のような親水性を十分に発現させることができない恐れがある。非イオン系界面活性剤の添加量の上限は、重量比率で30%であるのが好ましい。30%を超える量を添加すると、塗膜硬度の低下や塗膜にべたつき感が出る等の不具合が生じやすくなる恐れがある。
【0029】
このようなHLBが8〜18である非イオン系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン誘導体、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセライド、ポリオキシアルキレン脂肪酸モノグリセライド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などが挙げられる。
【0030】
本発明の防汚塗膜形成用コーティング剤組成物は、必要に応じて公知の有機溶剤を含んで良い。有機溶剤としては、特に限定されないが、例えば、トルエン、キシレン、ソルベッソ#100(エクソン社製)、ソルベッソ#150(エクソン社製)等の芳香族炭化水素類、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン等の脂肪族炭化水素類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸アミル、蟻酸エチル、プロピオン酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、2−ヒドロキシイソ酪酸メチル、メトキシプロピルアセテート等のエステル類、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、2−エチルヘキサノール、エチレングリコール、メトキシプロパノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、ジオキサン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類、セロソルブアセテート、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のセロソルブ類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類などが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、また2種以上を併用してもよい。
【0031】
また、本発明の防汚塗膜形成用コーティング剤組成物は、ポリオキシアルキレンポリオール(a1)および水酸基含有(メタ)アクリル樹脂(a2)で構成される成分(a)、ポリイソシアネート成分(b)およびHLBが8〜18である非イオン系界面活性剤の他に、必要により上記有機溶剤、さらに必要により紫外線吸収剤、レベリング剤、レオロジーコントロール剤、硬化触媒(ウレタン反応触媒)、酸化防止剤、分散剤、染料、顔料等の慣用の各種添加剤を配合することができる。特に硬化触媒は、塗装条件によって必要な場合に、ジブチルチンジラウレートやジブチルチンジオクトエート等の有機錫系触媒、オクタン酸鉛等の有機鉛系触媒、あるいはトリエチルアミン、ジメチルオクチルアミン、ジアザビシクロウンデセン等の3級アミン系化合物の触媒を使用することができる。また、本発明の効果を妨げない範囲内であれば、必要に応じて相溶性のある樹脂によって変性することも可能である。
【0032】
本発明の防汚塗膜形成用コーティング剤組成物の製造方法は、特に限定されるものではないが、使用上の実用的な観点から、成分(a)、必要に応じてHLBが8〜18である非イオン系界面活性剤、有機溶剤および各種添加剤から構成される混合物Aと、成分(b)および必要に応じて有機溶剤から構成される混合物Bとを、別々に調製し、コーティングする直前にAとBとを混合することが好ましい。
【0033】
混合物Bに使用する有機溶剤としては、イソシアネート基と反応する活性水素基を有しない有機溶剤を、1種単独あるいは2種以上を混合して用いることができる。このような有機溶剤の具体的な例としては、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂肪族系溶剤、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶剤等が挙げられる。貯蔵安定性、塗装時の乾燥性およびコーティングする基材への影響の観点から、有機溶剤の沸点は、60℃〜180℃であるのが好ましい。
【0034】
次に、本発明のコーティング剤組成物を基材にコーティングする方法は、特に制限なく、ハケ塗り、スプレーコート、ディップコート、スピンコート、カーテンコート等の公知の方法が挙げられる。十分な耐指紋汚れ性、耐皮脂汚れ性、および塗膜にクラック等の欠陥を発生させずに基材との良好な密着性を発現させるためには、塗膜の乾燥膜厚が5〜30μmとなるような塗布量が好ましい。
【0035】
また、上記塗膜を硬化させる方法としては、特に制限はなく、例えば、自然乾燥やオーブンを用いた公知の方法によって硬化させることができる。硬化の際の条件としては、特に制限されないが、常温(約20℃)〜100℃の温度で硬化させることが好ましい。高温で長時間乾燥・硬化する(例えば、乾燥温度200℃、乾燥時間30分)と、塗膜性能の低下や塗膜に黄変を生じる場合がある。
【発明の効果】
【0036】
本発明の防汚塗膜形成用コーティング剤組成物によって形成された塗膜は、良好な塗膜硬度を有し、付着した指紋汚れや皮脂汚れを短時間で目立たないようにすることができ、さらに指紋汚れの拭き取り性に優れるので、指紋汚れや皮脂汚れで汚染されやすい環境で使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例により何等制限されるものではない。なお、実施例および比較例において、「部」は「重量部」を意味する。
【0038】
実施例1〜18および比較例1〜4
表1、表2および表3に示す成分組成により、コーティング剤組成物を調製した。
【0039】
すなわち、実施例については、ポリオキシアルキレンポリオール(a1)、水酸基含有(メタ)アクリル樹脂(a2)、ウレタン反応触媒(*2)、メチルイソブチルケトンを除く有機溶剤(*3)および必要に応じて界面活性剤(実施例14〜18)を混合した後に、卓上撹拌機にて均一になるまで撹拌して混合物Aを調製した。比較例については、水酸基含有(メタ)アクリル樹脂(a2)、比較成分(*1)、ウレタン反応触媒(*2)、メチルイソブチルケトンを除く有機溶剤(*3)を混合した後に、卓上撹拌機にて均一になるまで撹拌して混合物Aを調製した。
【0040】
また、実施例および比較例について、ポリイソシアネート成分(b)およびメチルイソブチルケトン(*3)を混合した後に、上記と同様に均一になるまで撹拌して混合物Bを調製した。
【0041】
上記のようにして調製した混合物Aおよび混合物Bを混合し、10分間静置してコーティング剤組成物を得た。
【0042】
表1、表2および表3における略号および商品名を以下に説明する。
*1:比較成分、
*2:ウレタン反応触媒、
*3:有機溶剤、
ニューポールPP1000:ポリオキシプロピレングリコール(数平均分子量1000、官能基数2、エチレンオキサイド付加無、三洋化成工業株式会社製)、
ニューポールPP400:ポリオキシプロピレングリコール(数平均分子量400、官能基数2、エチレンオキサイド付加無、三洋化成工業株式会社製)、
ニューポールPP2000:ポリオキシプロピレングリコール(数平均分子量2000、官能基数2、エチレンオキサイド付加無、三洋化成工業株式会社製)、
ニューポールPP3000:ポリオキシプロピレングリコール(数平均分子量3000、官能基数2、エチレンオキサイド付加無、三洋化成工業株式会社製)、
エクセノール230:ポリプロピレントリオール(数平均分子量3000、官能基数3、エチレンオキサイド付加有、旭硝子株式会社製)、
エクセノール837:ポリプロピレントリオール(数平均分子量6000、官能基数3、エチレンオキサイド付加有、旭硝子株式会社製)、
エクセノール1030:ポリプロピレントリオール(数平均分子量1000、官能基数3、エチレンオキサイド付加無、旭硝子株式会社製)、
エクセノール5030:ポリプロピレントリオール(数平均分子量5100、官能基数3、エチレンオキサイド付加無、旭硝子株式会社製)、
エクセノール450ED:4官能ポリエーテルポリオール(数平均分子量500、官能基数4、エチレンオキサイド付加有、旭硝子株式会社製)、
エクセノール385SO:6官能ポリエーテルポリオール(数平均分子量500、官能基数6、エチレンオキサイド付加無、旭硝子株式会社製)、
PTG1000:ポリテトラメチレングリコール(数平均分子量1000、保土ヶ谷化学株式会社製)、
ユニオールPB−700:ポリブチレングリコール(数平均分子量700、日油株式会社)、
6BT−307:アクリル樹脂(固形分45%、ガラス転移温度76℃、水酸基価20mgKOH/g、大成ファインケミカル株式会社製)、
TPA−100:ヘキサメチレンジイソシアネートのポリイソシアネート(旭化成ケミカルズ株式会社製)、
界面活性剤A:モノオレイン酸ジグリセリル(HLB=8.0、日本エマルジョン株式会社製、製品名:エマレックスMOG−2)、
界面活性剤B:ポリオキシエチレン(n=4)オレイルエーテル(HLB=8.8、花王株式会社、製品名:エマルゲン404)、
界面活性剤C:ポリオキシエチレン(n=5)アルキルエーテル(HLB=10.5、花王株式会社製、製品名:エマルゲン705)、
界面活性剤D:ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(HLB=9.0、日本エマルジョン株式会社、製品名:エマレックスHC20)、
界面活性剤E:ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(HLB=15.0、日本エマルジョン株式会社、製品名:エマレックスHC80)、
KP366:ポリジメチルシロキサン系添加剤(信越化学工業株式会社製)、
PM400:オレイン酸(ミヨシ油脂株式会社)、
PEG400:ポリエチレングリコール(数平均分子量400、三洋化成工業株式会社製)。
【0043】
[特性の評価]
実施例1〜18および比較例1〜4で得たコーティング剤組成物を、ABS[黒色]樹脂板(JIS K 6873)に、乾燥膜厚が15μmとなるようにエアスプレー塗装機を用いて塗装し、熱風送風型の乾燥炉にて70℃で30分間乾燥し、さらに室温にて7日間保管したものを試験片とした。
【0044】
次に、このようにして得られたそれぞれの試験片について、下記に示す評価方法に従って特性および耐指紋性を評価した。
【0045】
〔付着性〕
JIS K 5600−5−6に準じて塗膜の剥離を目視で評価した。
○:全く剥離が認められない。
△:クロスカット部の交差点に小さな剥離が認められる。
×:大きな剥離が認められる。
【0046】
〔耐温水性〕
試験片を40℃温水に168時間浸漬した後、常温乾燥した試験片の外観を目視で評価した。
○:全く変化がない。
△:薄い白化が生じている。
×:白化や剥離等の塗膜欠陥を生じている。
【0047】
〔耐指紋性〕
試験片の表面に指をゆっくりと押し当てて指紋を付着させた後に、経過時間ごとに試験片の外観を目視で評価した。
◎:白色蛍光灯を光源とする光を指紋跡にあてても、指紋跡が確認できない。
○:白色蛍光灯を光源とする光を指紋跡にあてると、わずかに指紋跡が確認できる。
△○:指紋跡がわずかに確認できる。
△:指紋跡が確認できる。
×:著しい指紋跡が確認できる。
××:極めて著しい指紋跡が確認できる。
【0048】
〔指紋拭き取り性〕
試験片の表面に指をゆっくりと押し当てて指紋を付着させた後に、綿を指先に巻き、5回軽く拭き、目視観察によって拭き取り性を評価した。
○:拭き跡が残らなかった。
△:拭き跡がわずかに残った。
×:拭き跡が残った。
【0049】
〔鉛筆硬度〕
JIS−K5600−5−4に規定される方法に従って、各試験片の鉛筆硬度を測定した。鉛筆硬度とは、前記方法によって生じる傷跡またはその他の欠陥に対する塗膜の抵抗性を表すものであり、傷跡が生じなかった鉛筆の中で最も硬い鉛筆の硬度をいう。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオキシアルキレンポリオール(a1)および水酸基含有(メタ)アクリル樹脂(a2)で構成される成分(a)ならびにポリイソシアネート成分(b)からなる防汚塗膜形成用コーティング剤組成物であって、ポリオキシアルキレンポリオール(a1)のアルキレン基が炭素数3〜6の直鎖状アルキレン基および炭素数3〜6の分岐状アルキレン基からなる群より選択される少なくとも1種を有し、かつポリオキシアルキレンポリオール(a1)の数平均分子量が400〜8000であり、水酸基含有(メタ)アクリル樹脂(a2)の水酸基価が10〜100mgKOH/gで、かつ水酸基含有(メタ)アクリル樹脂(a2)のガラス転移温度が60〜120℃であり、ポリイソシアネート成分(b)が脂肪族および/または脂環式ポリイソシアネートである防汚塗膜形成用コーティング剤組成物。
【請求項2】
ポリオキシアルキレンポリオール(a1)が、数平均分子量2000〜8000の末端エチレンオキサイド付加されたポリプロピレントリオールである請求項1に記載の防汚塗膜形成用コーティング剤組成物。
【請求項3】
ポリオキシアルキレンポリオール(a1)が、数平均分子量400〜2000のポリテトラメチレングリコールである請求項1に記載の防汚塗膜形成用コーティング剤組成物。
【請求項4】
ポリオキシアルキレンポリオール(a1)が、数平均分子量400〜2000のポリブチレングリコールである請求項1に記載の防汚塗膜形成用コーティング剤組成物。
【請求項5】
ポリオキシアルキレンポリオール(a1)が、数平均分子量400〜2000のポリプロピレングリコールである請求項1に記載の防汚塗膜形成用コーティング剤組成物。
【請求項6】
ポリプロピレングリコールが、末端エチレンオキサイド付加されている請求項5に記載の防汚塗膜形成用コーティング剤組成物。
【請求項7】
成分(a)において、ポリオキシアルキレンポリオール(a1)に対する水酸基含有(メタ)アクリル樹脂(a2)の重量比が0.5〜10.0である請求項1〜6のいずれか1項に記載の防汚塗膜形成用コーティング剤組成物。
【請求項8】
ポリオキシアルキレンポリオール(a1)および水酸基含有(メタ)アクリル樹脂(a2)の総水酸基数に対するポリイソシアネート成分(b)の総イソシアネート基数の比が0.6〜2.0である請求項1〜7のいずれか1項に記載の防汚塗膜形成用コーティング剤組成物。
【請求項9】
さらに、HLBが8〜18である非イオン系界面活性剤を成分(a)に対して1〜30重量%含有する請求項1〜8のいずれか1項に記載の防汚塗膜形成用コーティング剤組成物。

【公開番号】特開2010−90235(P2010−90235A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−260644(P2008−260644)
【出願日】平成20年10月7日(2008.10.7)
【出願人】(591240124)カナヱ塗料株式会社 (5)
【Fターム(参考)】