説明

防汚層の形成方法

【課題】 各種光学部材などの被処理基材の表面を前処理を行うことによって、耐防汚性、耐擦傷性、耐溶剤性等に優れた防汚層を短時間に形成することが叫ばれており、この課題の解決を目的とする。
【解決手段】 被処理基材上の少なくとも片面に、防汚剤を用いて防汚層を形成する方法であって、前記防汚層を形成する前に、前記被処理基材上の少なくとも片面を前処理し、この前処理した表面に防汚層を成膜する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防汚性を必要とする各種の被処理基材の表面に、防汚層を形成する方法に関するものである。さらに詳しくは、各種の被処理基材上に防汚層を速やかに定着させる方法である。
【背景技術】
【0002】
従来、光学レンズ、眼鏡レンズ、カメラや双眼鏡などのレンズには、光の反射を減らし、光の透過性を高めるために、通常、その表面に反射防止処理が施されている。これらの光学部材を人が使用することによって、指紋、皮脂、汗、化粧品などの汚れが付着する場合が多い。
【0003】
一般に、反射防止膜の表面エネルギーは約60J/mと大きいために、そのような汚れが付着しやすく、かつ、微細な凹凸があるため除去することが容易ではない。また、そのような汚れが付着した部分だけ高反射となり、汚れが目立つため問題があった。
【0004】
そこで、これら汚れの問題を解決する手段として、汚れが付着しにくく、付着しても拭き取りやすい性能を持つ防汚層を設ける工夫が考案されている。
【0005】
例えば、特開昭64−86101号公報には、基材の表面に、主として二酸化珪素からなる反射防止膜を設け、更にその表面に有機珪素置換基を含む化合物で処理した耐汚染性、耐擦傷性の反射防止膜物品が提案されている。
【0006】
特開平4−338901号公報には、同様に基材表面に末端シラノール有機ポリシロキサンを被膜した耐汚染性、耐擦傷性のCRTフィルターが提案されている。
【0007】
また、特公平6−29332号公報には、プラスチック表面にポリフルオロアルキル基を含むモノおよびジシラン化合物およびハロゲン、アルキルまたはアルコキシのシラン化合物とからなる反射防止膜を有する低反射率および防汚性のプラスチックが提案されている。
【0008】
更に、特開平7−16940号公報には、パーフルオロアルキル(メタ)アクリレートとアルコキシシラン基を有する単量体との共重合体を二酸化珪素を主とする光学薄膜上に形成した光学物品が提案されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の防汚層の形成技術において、防汚層を成膜後、その耐防汚性、耐摩耗性、耐溶剤性等を最大限にするまで数時間、場合によっては数日という長時間を要し、その間では汚れや傷が入りやすく、また、他の物品と接触すると、防汚層の一部が転写し、防汚層が剥離してしまうという問題があった。
【0010】
本発明は、前述のような従来技術の課題を解決しようとするものであり、本発明の目的は、各種光学部材などの被処理基材の表面を前処理を行うことによって、耐防汚性、耐擦傷性、耐溶剤性等に優れた防汚層を短時間に形成することができ防汚層の形成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するため請求項1の発明は、被処理基材上の少なくとも片面に、防汚剤を用いて防汚層を形成する方法であって、前記防汚層を形成する前に、前記被処理基材上の少なくとも片面を前処理し、この前処理した表面に防汚層を成膜することを特徴とする防汚層の形成方法である。
【0012】
請求項2の発明は、前処理が、高周波放電プラズマ法、電子ビーム法、イオンビーム法、蒸着法、スパッタリング法、アルカリ処理法、酸処理法、コロナ処理法、大気圧グロー放電プラズマ法の何れかであることを特徴とする請求項1記載の防汚層の形成方法である。
【0013】
請求項3の発明は、前記被処理基材が、光学部材であることを特徴とする請求項1または2記載の防汚層の形成方法である。
【0014】
請求項4の発明は、光学部材が、光学レンズ、眼鏡レンズ、カメラや双眼鏡、または他の光学装置のレンズ、ビーム・スプリッタ、プリズム、鏡、窓ガラス、反射防止膜、光学フィルターのうち何れかであることを特徴とする請求項3記載の防汚層の形成方法である。
【0015】
請求項5の発明は、前記防汚剤としては、パーフルオロポリエーテル基を含有する有機シラン化合物であることを特徴する請求項1〜4何れか記載の防汚層の形成方法である。
【0016】
請求項6の発明は、前記防汚剤が一般式(1)で示される有機シラン化合物からなることを特徴とする請求項1〜5何れか記載の防汚層の形成方法。
である。
−(OC−O−(CF−(CH−O−(CH−Si(R)・・・(1)
(但し、Rは炭素数1〜16の直鎖状または分岐状パーフルオロアルキル基、nは1〜50の整数、mは0〜3の整数、lは0〜3の整数、sは0〜6の整数、但し、6≧m+l>0、Rは加水分解基を示す。)
【0017】
請求項7の発明は、前記防汚剤を1Pa以下の圧力において、加熱し、蒸発させ、被処理基材上に成膜することを特徴とする請求項1〜6何れか記載の防汚層の形成方法である。
【0018】
請求項8の発明は、前記防汚剤を蒸発させる為の加熱方法としては、抵抗加熱法、電子線加熱法、光加熱法、イオンビーム加熱法、高周波加熱法であることを特徴とする請求項1〜7何れか記載の防汚層の形成方法である。
【0019】
請求項9の発明は、請求項3〜8何れか記載の方法により防汚層を形成する事を特徴とする防汚層付き光学部材の製造方法である。
【0020】
請求項10の発明は、光学部材材上の少なくとも片面が前処理した表面である事を特徴とする防汚層付き光学部材である。
【0021】
請求項11の発明は、光学部材が、光学レンズ、眼鏡レンズ、カメラや双眼鏡、または他の光学装置のレンズ、ビーム・スプリッタ、プリズム、鏡、窓ガラス、反射防止膜、光学フィルターのうち何れかであることを特徴とする請求項10記載の防汚層付き光学部材である。
【0022】
請求項12の発明は、前記防汚剤としては、パーフルオロポリエーテル基を含有する有機シラン化合物であることを特徴する請求項10〜11何れか記載の防汚層付き光学部材である。
【0023】
請求項13の発明は、前記防汚剤が一般式(1)で示される有機シラン化合物からなることを特徴とする請求項10〜12何れか記載の防汚層付き光学部材である。
−(OC−O−(CF−(CH−O−(CH−Si(R)・・・(1)
(但し、Rは炭素数1〜16の直鎖状または分岐状パーフルオロアルキル基、nは1〜50の整数、mは0〜3の整数、lは0〜3の整数、sは0〜6の整数、但し、6≧m+l>0、Rは加水分解基を示す。)
【発明の効果】
【0024】
本発明の方法によれば、各種光学部材(光学レンズ、眼鏡レンズ、カメラや双眼鏡、または他の光学装置のレンズ、ビーム・スプリッタ、プリズム、鏡、窓ガラス、反射防止膜、光学フィルターなど)の表面に、各種光学特性を損なわせることがなく、指紋、皮脂、汗、化粧品などの汚れが付着しにくく、付着しても拭き取りやすい性能を持ち、また、定着性の高く、耐久性のある防汚層を形成することが可能になる。
また、金属層を含む導電性機能層の有する機能が長期間持続される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明を詳細に説明する。
防汚層を被処理基材上に成膜する場合、パーフルオロポリエーテル基を含有する有機シラン化合物からなる防汚剤が使用される。
前記有機シラン化合物は、下記一般式(1)で表される化合物またはその重合体が好適である。
−(OC−O−(CF−(CH−O−(CH−Si(R)・・・(1)
【0026】
一般式(1)において、Rは炭素数1〜16の直鎖状または分岐状パーフルオロアルキル基であり、特に、CF−、C−、C−が好ましい。Rは加水分解基であり、−Cl、−Br、−I、−OR、−OOCR、−OC(R)C=C(R、−ON=C(R、−ON=CR、−N(R、−RNOCR等が好ましい。
【0027】
但し、Rはアルキル基等の炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、またはフェニル基等の炭素数6〜20の芳香族炭化水素基、Rは水素原子またはアルキル基等の炭素数1〜5の脂肪族炭化水素基、Rはアルキリデン基等の炭素数3〜6の二価の脂肪族炭化水素基である。
【0028】
上記の有機シラン化合物中の加水分解基は、1種類のみならず、2種類以上の混合系として用いることも可能である。特に、−OCH、−OC、−OOCCH、−NHが好ましい。また、nは1〜50の整数、mは0〜3の整数、lは0〜3の整数、sは0〜6の整数、但し、6≧m+l>0である。
【0029】
作業環境や、膜厚の制御の点から、防汚層形成時には希釈溶媒を用いないPVD法によることが好ましく、特に真空蒸着法によることが好ましい。該方法では、前記防汚剤を1Pa以下の圧力において加熱し、蒸発させ、被処理基材上に形成する。
【0030】
加熱方法としては抵抗加熱法、電子線加熱法、光加熱法、イオンビーム加熱法、高周波加熱法のような方法が有効である。PVD法によると、従来困難であった防汚層の膜厚をオングストロームオーダーで正確に制御することができる。
【0031】
前記有機シラン化合物を含有する防汚剤は、被処理基材表面のOH基と有機シラン化合物の加水分解可能な基が反応して加水分解を起こし、化学結合を形成すると考えられている。しかし、一般的に防汚層と被処理基材表面との間の加水分解反応は遅く、防汚層が完全に定着し、最大限の耐防汚性、耐擦傷性、耐溶剤性等が生じるまでに数時間から数十日という時間を要する。
【0032】
一方、本発明の前処理方法である高周波放電プラズマ法、電子ビーム法、イオンビーム法、蒸着法、スパッタリング法、アルカリ処理法、酸処理法、コロナ処理法、大気圧グロー放電プラズマ法等は、被処理基材表面をクリーニングするだけではなく、表面の分子同士の結合を切り離し、活性な表面を作り出すことができるため、有機シラン化合物を含有する防汚剤からなる防汚層が容易に定着しやすい被処理基材表面を作り出すことができる。
【0033】
被処理基材は、光学レンズ、眼鏡レンズ、カメラや双眼鏡、または他の光学装置のレンズ、ビーム・スプリッタ、プリズム、鏡、窓ガラス、反射防止膜、光学フィルターなどの光学部材に対して特に有効である。
【実施例】
【0034】
以下、本発明の実施例を説明するが、これらに限定されるものではない。
【0035】
<実施例1>
反射防止膜を平行平板型高周波放電装置内に設置し、該装置内を1.0×10−3Paにまで排気した。該装置内に水素ガスを10sccm/min.の流量で導入して圧力を1.0×10−1Paに調節した。該装置内に高周波(周波数=13.56MHz)を印可し、発生された100Wのプラズマに該反射防止膜を1分間さらすことにより該反射防止膜の表面の前処理を行った。
【0036】
次に、一般式(2)で表される有機シラン化合物をモリブデンボート上に入れ、真空蒸着法(抵抗加熱法)により、該反射防止膜上に防汚層を作製した。真空蒸着機内を1.0×10−3Pa以下に排気した後、ボートを400℃に加熱し、該有機シラン化合物を蒸発させた。
CF−(OC24−O−(CF−(CH−O−CH−Si(OCH・・・(2)
【0037】
<実施例2>
反射防止膜の表面を大気圧中で発生された50W/m・min.のコロナ放電にさらすことにより前処理を行った。次に、実施例1と同様にして前記反射防止膜上に防汚層を形成した。
【0038】
<比較例1>
前記有機シラン化合物を用いて実施例1と同様にして前処理を行っていない反射防止膜上に防汚層を形成した。上記の実施例1及び2並びに比較例において、各種物性評価方法と結果を(表1)を以下に示す。
【0039】
(a)接触角測定:
接触角計[CA−X型:協和界面科学(株)製]を用いて、乾燥状態(20℃−65%RH)で直径1.0mmの液滴を針先に作り、これを基材(固体)の表面に接触させて液滴を作った。接触角とは、固体液体が接する点における液体表面に対する接線と固体表面がなす角で、液体を含む方の角度で定義した。液体には蒸留水を使用した。
【0040】
(b)耐摩耗性:基材表面をセルロース製不織布[ベンコットM−3:旭化成(株)製]で荷重500gf/mで100回こすった後に前記物性評価を行った。
【0041】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の光学部材を示す断面図である。
【符号の説明】
【0043】
1 透明基材
2 防汚層
3 処理面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理基材上の少なくとも片面に、防汚剤を用いて防汚層を形成する方法であって、前記防汚層を形成する前に、前記被処理基材上の少なくとも片面を前処理し、この前処理した表面に防汚層を成膜することを特徴とする防汚層の形成方法。
【請求項2】
前処理が、高周波放電プラズマ法、電子ビーム法、イオンビーム法、蒸着法、スパッタリング法、アルカリ処理法、酸処理法、コロナ処理法、大気圧グロー放電プラズマ法の何れかであることを特徴とする請求項1記載の防汚層の形成方法。
【請求項3】
前記被処理基材が、光学部材であることを特徴とする請求項1または2記載の防汚層の形成方法。
【請求項4】
光学部材が、光学レンズ、眼鏡レンズ、カメラや双眼鏡、または他の光学装置のレンズ、ビーム・スプリッタ、プリズム、鏡、窓ガラス、反射防止膜、光学フィルターのうち何れかであることを特徴とする請求項3記載の防汚層の形成方法。
【請求項5】
前記防汚剤としては、パーフルオロポリエーテル基を含有する有機シラン化合物であることを特徴する請求項1〜4何れか記載の防汚層の形成方法。
【請求項6】
前記防汚剤が一般式(1)で示される有機シラン化合物からなることを特徴とする請求項1〜5何れか記載の防汚層の形成方法。
−(OC−O−(CF−(CH−O−(CH−Si(R)・・・(1)
(但し、Rは炭素数1〜16の直鎖状または分岐状パーフルオロアルキル基、nは1〜50の整数、mは0〜3の整数、lは0〜3の整数、sは0〜6の整数、但し、6≧m+l>0、Rは加水分解基を示す。)
【請求項7】
前記防汚剤を1Pa以下の圧力において、加熱し、蒸発させ、被処理基材上に成膜することを特徴とする請求項1〜6何れか記載の防汚層の形成方法。
【請求項8】
前記防汚剤を蒸発させる為の加熱方法としては、抵抗加熱法、電子線加熱法、光加熱法、イオンビーム加熱法、高周波加熱法であることを特徴とする請求項1〜7何れか記載の防汚層の形成方法。
【請求項9】
請求項3〜8何れか記載の方法により防汚層を形成する事を特徴とする防汚層付き光学部材の製造方法。
【請求項10】
光学部材材上の少なくとも片面が前処理した表面である事を特徴とする防汚層付き光学部材。
【請求項11】
光学部材が、光学レンズ、眼鏡レンズ、カメラや双眼鏡、または他の光学装置のレンズ、ビーム・スプリッタ、プリズム、鏡、窓ガラス、反射防止膜、光学フィルターのうち何れかであることを特徴とする請求項10記載の防汚層付き光学部材。
【請求項12】
前記防汚剤としては、パーフルオロポリエーテル基を含有する有機シラン化合物であることを特徴する請求項10〜11何れか記載の防汚層付き光学部材。
【請求項13】
前記防汚剤が一般式(1)で示される有機シラン化合物からなることを特徴とする請求項10〜12何れか記載の防汚層付き光学部材。
−(OC−O−(CF−(CH−O−(CH−Si(R)・・・(1)
(但し、Rは炭素数1〜16の直鎖状または分岐状パーフルオロアルキル基、nは1〜50の整数、mは0〜3の整数、lは0〜3の整数、sは0〜6の整数、但し、6≧m+l>0、Rは加水分解基を示す。)

【図1】
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【公開番号】特開2006−175438(P2006−175438A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−369437(P2005−369437)
【出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【分割の表示】特願平11−118824の分割
【原出願日】平成11年4月26日(1999.4.26)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】