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防汚層の防汚性評価方法および擦傷試験装置
説明

防汚層の防汚性評価方法および擦傷試験装置

【課題】光学レンズの表面に形成された撥水性および撥油性を有する防汚層の防汚性評価方法、および擦傷試験装置を提供する。
【解決手段】表面に防汚層が形成された光学レンズLを保持固定した載置台112が、レール111の凹部111Aの側壁に案内されて、Y軸方向に沿った所定距離間を往復移動する移動機構部11と、アーム122を介して保持軸123に取り付けられた当接具13が光学レンズLのレンズ凸面Lbに当接する支持機構部12と、を備えた擦傷試験装置1を用いて、弾性体で弾力性が付与された払拭布を当接面とする当接具13を、30g/cm2〜35g/cm2の弾性力で光学レンズLのレンズ凸面Lbに当接しながら、載置台112を矢印αで示すY軸方向に沿って往復移動してレンズ凸面Lbを擦った後、油性マーカーの弾き性および拭き取り性の変化から防汚性能を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズの最表面に設けられた防汚層の防汚性評価方法および擦傷試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光学レンズには、通常、光の反射を抑制し、光の透過性を高めるために、その表面に反射防止膜などが形成されている。
特に、眼鏡レンズ分野においては、従来より、その使用に際し、雨や水を弾いたり、水ヤケを防止したりするために、反射防止膜の表面(最表面)に撥水層(撥水コート)が設けられている。また、近年では、手垢、指紋、汗、化粧料などの汚れが付着し難く、且つその汚れを拭き取り易くするために、撥水性能に加えて撥油性能を有する防汚層を設けることが行われている。そして、防汚性能のより高い防汚層形成用の組成物やそれを用いた光学レンズが広く利用されるようになっている。
【0003】
こうした撥水性と撥油性とを有する防汚層として、レンズ基材を水酸基または加水分解性基のいずれをも有しないオルガノポリシロキサンと酸触媒からなる組成物と、フッ素化された有機基を有する一官能有機シラン化合物と、一般式〔RfR2Si〕2NHで表されるシラザン化合物からなる撥水剤で処理することによって、非硬化物質からなり、接触角が80°以上の撥水層を形成したレンズが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平10−26703号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1にも示されるように、こうした防汚層の撥水性と撥油性とを有する防汚性能、および撥水層の撥水性の性能評価(性能確認)は、一般的に防汚層および撥水層共に、接触角計を用いた液滴法による接触角の測定値に基づいて行われている。
しかしながら、接触角に基づいて撥水性の性能評価を行うことは可能であるが、撥水性と撥油性を含めた防汚層の性能評価には新たな評価方法が求められている。このことは防汚層形成用化合物の高性能化の進展によって、益々必要性を増している。また、撥水層と防汚層における接触角の差は余りにも少なく、製造工程などでの取り違いや混入による不具合などに対応することもできないと言う課題を有する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]
本適用例に係る防汚層の防汚性評価方法は、光学レンズの表面に形成された撥水性および撥油性を有する防汚層の防汚性評価方法であって、前記光学レンズの表面に弾性体で押圧された払拭布を備えた当接具を当接し、前記光学レンズまたは前記当接具の一方を他方に対して交差する方向に往復移動させて、前記光学レンズの表面を擦った後、油性マーカーの弾き性および拭き取り性の変化から防汚性能を評価することを特徴とする。
【0008】
これによれば、光学レンズの表面に弾性体で押圧された払拭布を備えた当接具を当接し、光学レンズまたは当接具の一方を他方に対して交差する方向に往復移動させて、光学レンズの表面を擦った後、油性マーカーの弾き性および拭き取り性の変化から防汚性能を評価することによって、光学レンズの表面に形成された撥水性および撥油性を有する防汚層の防汚性能を的確に評価することができる。
【0009】
[適用例2]
上記適用例に係る防汚層の防汚性評価方法は、前記当接具が前記光学レンズの表面に当接する弾性力が30g/cm2〜35g/cm2であるのが好ましい。
これによれば、光学レンズの表面に弾性体で押圧された払拭布を備えた当接具が、撥水性および撥油性を有する防汚層が形成された光学レンズの表面に当接する弾性力が30g/cm2〜35g/cm2であることによって、人間の指が払拭する際に相当する弾性力が得られ、光学レンズの使用実態に即した防汚層の防汚性評価を行うことができる。
【0010】
[適用例3]
上記適用例に係る防汚層の防汚性評価方法は、前記払拭布を押圧する前記弾性体が、内部に液体が封入されたゴム製袋体であるのが好ましい。
これによれば、払拭布を押圧する弾性体が、内部に液体が封入されたゴム製袋体であることで、所望とする弾性力を容易に得ることができる。すなわち、所望とする弾性力を備えた当接具を容易に得ることができる。
【0011】
[適用例4]
本適用例に係る擦傷試験装置は、光学レンズの表面に形成された機能コートの機能性評価に用いる擦傷試験装置であって、弾性体で押圧された払拭布を前記光学レンズの表面に当接する当接具と、前記当接具を保持し、前記当接具を前記光学レンズのレンズ面に対して鉛直方向に移動可能に構成された支持機構部と、前記光学レンズを保持固定し、前記当接具と交差する方向に往復移動する移動機構部とを備え、前記当接具を30g/cm2〜35g/cm2の弾性力で前記光学レンズの表面を擦ることを特徴とする。
【0012】
これによれば、光学レンズの表面に形成された機能コートの機能性評価に用いる擦傷試験装置が、30g/cm2〜35g/cm2の弾性力を有する弾性体で押圧された払拭布を光学レンズの表面に当接する当接具と、当接具を保持し、当接具を光学レンズのレンズ面に対して鉛直方向に移動可能に構成された支持機構部と、光学レンズを保持固定し、当接具と交差する方向に往復移動する移動機構部とを備え、当接具が光学レンズの表面を擦ることによって、当接具が光学レンズのレンズ面の表面形状に沿って追従して、機能コートの機能性能を的確に評価することができる。また、光学レンズの表面に当接する弾性体の弾性力が30g/cm2〜35g/cm2であることによって、人間の指が払拭する際に相当する弾性力が得られ、光学レンズの使用実態に即した機能コートの機能性評価を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本実施形態に係る防汚層の防汚性評価方法を図面に基づいて説明する。
本実施形態に係る防汚層の防汚性評価(防汚性能確認)は、擦傷試験装置を用いて、レンズ表面に防汚層が形成された光学レンズの擦傷試験によって行われる。
【0014】
図1は、擦傷試験装置の概構造を示す模式図である。なお、図1には、主要構成部材のみを図示する。また、防汚性評価される光学レンズLがセットされた態様で示す。
先ず、擦傷試験装置の構造を説明する。
図1において、擦傷試験装置1は、筐体の一部を構成するテーブル10と、移動機構部11と、支持機構部12とを備えている。
【0015】
移動機構部11は、レール111と、載置台112と、図示しない駆動部を備えている。この移動機構部11は、防汚性評価を行う光学レンズLを保持固定すると共に、保持固定された光学レンズLを支持機構部12に対してY軸方向に沿った所定距離間を往復移動する機能を有する(図中に矢印αで示す)。
【0016】
レール111は、Y軸方向に延伸する凹部111Aを有し、テーブル10のテーブル面上に固定されている。
載置台112は、光学レンズLを保持固定するための一対のチャック112Aを備え、レール111の凹部111Aの側壁に案内されて、凹部111A内に載置されている。この載置台112は、図示しない駆動部の作動によって、凹部111Aの側壁に沿ってY軸方向に沿った所定距離間を往復移動する。すなわち、後述する支持機構部12に対してY軸方向方向に沿った所定距離間を往復移動する。
【0017】
一対のチャック112Aは、相対する側壁が光学レンズLの周縁形状に相似した平面視、円弧状の形状を成しており、光学レンズLの凹面側を載置台112側にして載置台112の台面上に載置されたレンズ周縁部を、両側から挟み込んで保持固定する。
【0018】
支持機構部12は、支持軸121と、支持軸121の上端部に係合してテーブル10のテーブル面に略平行に延伸するアーム122と、アーム122に固着された保持軸123と、テーブル10内に配設された昇降装置(図示せず)を備えている。また、保持軸123には、当接具13および加重錘14が取り付けられている。
この支持機構部12は、アーム122を介して保持軸123に取り付けられた当接具13を、載置台112のチャック112Aに保持固定された光学レンズLのレンズ凸面に当接する機能を有する。
【0019】
支持軸121は、先端部にT型継ぎ手121Aを備え、テーブル10のテーブル面を貫通して、テーブル面に立直するように設けられている。そのT型継ぎ手121Aにアーム122が係合している。また、支持軸121は、図示しない昇降装置により、鉛直方向に昇降することができる。
【0020】
アーム122は、テーブル10のテーブル面に略平行に延伸する平面視、矩形状を成した板状部材であり、先端部にアーム122を貫通して立直する保持軸123が固着されている。この保持軸123は、板状のアーム122がテーブル面に略平行な状態において、保持軸123の軸中心が、載置台112のチャック112Aに保持固定された光学レンズLのレンズ面の略中心に向かう位置に固着されている。
【0021】
この保持軸123の載置台112側の一方端に当接具13が取り付けられている。また、アーム122の上面から上方に延伸する保持軸123には、加重錘14が嵌挿されてアーム122の上面に載置されている。
こうしたアーム122は、支持軸121の先端部に設けられたT型継ぎ手121Aに係合されて、支持軸121を支点として上下動(図中に矢印βで示す)が可能に構成されている。
【0022】
なお、擦傷試験装置1には、これらの他に、移動機構部11の載置台112が往復移動する移動速度、移動距離(ストローク)および往復回数などを設定したり表示したりする操作盤や表示器、あるいは支持機構部12の支持軸121を昇降操作するスイッチなどが配設されている(いずれも図示せず)。
【0023】
図2(a)は当接具の正面図であり、図2(b)は同図(a)のA−A断面における当接具の断面図である。なお、図2(a)に示す正面図には一部を断面した状態で示す。
図2(a),(b)において、当接具13は、保持具130と、弾性体15と、当接面13Aを形成する払拭布16と、払拭布16を保持具130に固定するための締結ひも17と、を具備している。
【0024】
保持具130は、軸部131と、軸部131の一方端に長方形の四角体より成る箱形状の収納部132と、軸部131の他方端にネジが刻設された固定部133が一体に構成されて、断面視、T字状の形状を成している。
収納部132は、長方形の四角体の底面が開口した箱形状の凹部132Aが設けられており、この凹部132A内に、後述する弾性体15が収納されている。凹部132Aの大きさは、例えば、長方形の横幅laが37mm、縦幅lbが17mm、深さlcが10mm程度である。
【0025】
弾性体15は、当接面13Aが光学レンズLのレンズ面に当接する際に、当接面13Aを形成する払拭布16に弾力性を付与するための部材である。
弾性体15は、弾力性を付与する媒体であれば限定されないが、例えば、ゴム製袋体としてのゴム製の指サックを用いて構成することもできる。
【0026】
それは、ゴム製の指サック内に液体、例えば水151を注入した後、指サックの開口部から2cm程度の位置で指サック自身を丸めて縛り、それを収納部132の凹部132Aに収納して弾性体15として用いることができる。
具体的には、指サックとしてパール工業用指サック(商品名、船堀ゴム(株)製、巻指サック大(1−A))を用い、指サック内に7cc±0.5cc程度の液体(水)を注入すれば良い。
【0027】
これを弾性体15として、凹部132Aに収納した場合、弾性体表面152の位置が、収納部132の凹部132Aの縁面から2mm〜3mm程度飛び出た形態を成している。
弾性体表面152における弾性力は、30g/cm2〜35g/cm2程度であるのが望ましい。この範囲の値は、人間の指がレンズ凸面Lb(図3参照)を払拭する際に生じる弾性力に略相当する。
【0028】
払拭布16は、例えば、綿100%の天竺布(糸の太さ20番手、縦糸および横糸の本数が(60本×60本)/1inch2))を2枚重ねしたものを用いる。この払拭布16は、当接具13が光学レンズLのレンズ凸面Lbに当接する当接面13Aを形成する。
払拭布16は、天竺布の縦糸または横糸が、収納部132の長方形の辺に沿うようにして、収納部132の凹部132A内に収納された弾性体15を含む収納部132全体を包み込んで、軸部131に締結ひも17で固定されている。
【0029】
そして、当接具13は、ネジが刻設された固定部133が、保持軸123(図中に二点鎖線で示す)の載置台112側の一方端に螺合して、収納部132の長方形の長辺が、載置台112が往復移動するY軸方向(図1参照)に対して略直角に交差するように固定されている。
【0030】
加重錘14は、中心部に板厚方向に貫通する貫通孔を有する円盤状を成した、所定の重量から成る錘であり、保持軸123の他方端に嵌挿されて、アーム122の上面に載置されている。この加重錘14の荷重は、アーム122を介して保持軸123の一方端に取り付けられた当接具13の弾性体15および払拭布16を介して光学レンズLのレンズ面に印加される。
【0031】
次に、このように構成された擦傷試験装置1の動作を説明する。
先ず、防汚層の防汚性評価を行う光学レンズLを、レンズ凹面La側を載置台112側にして載置台112の台面上に載置し、チャック112Aでレンズ周縁部を両側から挟み込んで載置台112に保持固定する(後述する図4参照)。
【0032】
そして、昇降装置を作動して支持機構部12の支持軸121を下降させて、アーム122の先端に固着された保持軸123に取り付けられた当接具13の当接面13Aを、光学レンズLのレンズ凸面Lbに当接する。この時、アーム122の上面がテーブル10のテーブル面に略平行になるように支持軸121の停止位置を調節する。
これにより、保持軸123および当接具13の略中心軸が光学レンズLのレンズ凸面Lbの略中心に位置して、当接具13の当接面13Aの長方形の長辺が、載置台112が往復移動するY軸方向に対して略直角に交差するように固定されて、当接面13Aの払拭布16が光学レンズLのレンズ凸面Lbに当接する。
【0033】
そして、保持軸123の他方端に所定重量の加重錘14を嵌挿してアーム122の上面に載置する。この加重錘14の荷重は、保持軸123の一方端に取り付けられた当接具13の弾性体15を介して、払拭布16で形成された当接面13Aから光学レンズLのレンズ凸面Lbに印加される。
【0034】
そして、移動機構部11の駆動部が作動すると、光学レンズLが保持固定された載置台112が、レール111の凹部111Aの側壁に案内されて、Y軸方向に沿った所定の距離間を往復移動する(図1中に示す矢印α、参照)。すなわち、光学レンズLが当接具13に対して交差する方向に往復移動する。これにより、光学レンズLのレンズ凸面Lbが当接具13の当接面13A(払拭布16)で擦られる。
【0035】
この時、載置台112の往復移動に合わせて、アーム122が、支持軸121の先端部に設けられたT型継ぎ手121Aによって、支持軸121を支点として上下動(図1中に示す矢印β、参照)して、当接具13の当接面13Aが、光学レンズLのレンズ凸面の表面形状に沿って追従する(後述する図4中に示す矢印γ、参照)ことができる。
【0036】
このように擦傷試験装置1を用いて、光学レンズLのレンズ面を擦る擦傷試験を行うことによって、光学レンズLのレンズ面に形成された防汚層の防汚性能評価(防汚性能確認)することができる。以下、擦傷試験に基づく防汚性能評価方法について具体的に説明する。
なお、擦傷試験を行う光学レンズLとしてプラスチック眼鏡レンズ(以後、眼鏡レンズLと表す)を用いた場合で説明する。また、眼鏡レンズLとして、レンズの最表面に防汚層が形成したものと、レンズの最表面に撥水層が形成したものとの2種類について行った。
【0037】
図3は、防汚層または撥水層が形成される眼鏡レンズの断面模式図である。なお、図3中には、反射防止層22の表面に形成される防汚層または撥水層を、二点鎖線で示し、共に同一符号の防汚層23、撥水層23と表記している。
【0038】
図3において、眼鏡レンズLは、レンズ面の一方の面が凹面La、他方の面が凸面Lbからなるメニスカスレンズである。なお、眼鏡レンズLは、眼鏡フレームに枠入れする枠入れ加工(いわゆる玉摺り加工)される前のレンズであり、平面が70mm程度の円形形状を成している。この眼鏡レンズLには、レンズ基材20の表面(レンズ凹面20aおよびレンズ凸面20b)にハードコート層21が設けられ、このハードコート層21の表面に反射防止層22が設けられている。
【0039】
レンズ基材20としては、特に限定されない。例えば、(メタ)アクリル樹脂、スチレン樹脂、カーボネート樹脂、アリル樹脂、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂(CR−39)などのアリルカーボネート樹脂、ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、イソシアネート化合物とジエチレングリコールなどのヒドロキシ化合物との反応で得られたウレタン樹脂、イソシアネート化合物とポリチオール化合物とを反応させたチオウレタン樹脂、分子内に1つ以上のジスルフィド結合を有する(チオ)エポキシ化合物を含有する重合性組成物を硬化して得られる透明樹脂などが挙げられる。
【0040】
本実施形態においては、これらの内、イソシアネート化合物とポリチオール化合物を含有する重合性組成物を重合硬化して得られるチオウレタン樹脂より成るレンズ基材20を用いた。この具体例としては、セイコースーパーソブリン(商品名、セイコーエプソン株式会社製、屈折率1.67)が例示される。
【0041】
ハードコート層21は、シリコーン系またはアクリル系材料が2μm程度の厚さで成膜されている。このハードコート層21は、レンズ基材20に耐擦傷性を付与すると共に、レンズ基材20と反射防止層22の間に介在させることで、反射防止層22の密着性を良好にして、剥離を防止する機能を有する。
【0042】
反射防止層22は、下層に形成されたハードコート層21、およびレンズ基材20よりも低屈折率の単層または多層の無機被膜、あるいは有機被膜で形成されている。この反射防止層22は、眼鏡レンズLの表面反射を抑制する機能を有する。
【0043】
このようにレンズ基材20の表面にハードコート層21と反射防止層22が設けられた最表面に、防汚層23または撥水層23を形成する。以後、眼鏡レンズLの最表面に防汚層23を形成したものをレンズA、撥水層23を形成したものをレンズBと呼称する。
【0044】
[レンズA]
レンズAは、含フッ素シラン化合物を有機溶剤で溶解し、所定の濃度に調整した防汚性処理液を眼鏡レンズLの表面全体に塗布した後、アニール処理して防汚層23を形成した。
防汚性処理液に用いられる含フッ素シラン化合物としては、次の一般式(1)で表される化合物を用いた。この具体例としては、オプツールDSX(商品名、ダイキン工業株式会社製)が例示される。
【0045】
【化1】

但し、一般式(1)中、Rf2は「−(Ck2k)O−」の単位式で表される単位を含み、分岐を有しない直鎖状のパーフルオロポリアルキレンエーテル構造を有する2価の基を表す。なお、単位式「−(Ck2k)O−」におけるkは1〜6の整数である。R3は炭素原子数1〜8の1価炭化水素基であり、Wは加水分解性基またはハロゲン原子を表す。pは0、1または2を表す。nは1〜5の整数を表す。mおよびrは2または3を表す。
【0046】
その含フッ素シラン化合物を有機溶剤で希釈して、濃度が0.1wt%の防汚性処理液を得た。有機溶剤として、非極性溶媒でパーフルオロ基を有し炭素数が4以上の有機化合物を用いた。具体例として、エチルパーフルオロブチルエーテル(商品名:ノベックHFE−7200、住友スリーエム株式会社製)を用いた。
【0047】
そして、レンズ面にハードコート層21と反射防止層22が設けられた眼鏡レンズLの周縁側面を含む表面全体に、ディッピング法を用いて防汚性処理液を塗布した。塗布方法は、処理槽内に収容された防汚性処理液中に2分間程度浸漬した後、処理液中から200mm/分程度の引き上げ速度で引き上げた。形成された塗膜の厚みは、0.01μm程度である。
【0048】
そして、防汚性処理液の塗膜が形成された眼鏡レンズLは、常温環境下に10時間程度放置するアニール処理を行った。
アニール処理を行うことによって、防汚性成分(含フッ素シラン化合物)と眼鏡レンズLとの化学結合を促進して含フッ素シラン化合物をレンズ面に固定すると共に、防汚性能の耐久性を増加させることができる。これにより、眼鏡レンズLの最表面に防汚層23が形成されたレンズAが完成する。
【0049】
[レンズB]
レンズBは、下記の一般式(2)で表される有機シラザン化合物を眼鏡レンズLの表面全体に塗布して撥水層を形成した。
p2p+1CH2CH2Si(NH)1.5…(2)
但し、一般式(2)中のpは、正の整数を表す。
この有機シラザン化合物の具体例としては、ヘキサメチルジシラザンが挙げられる。
【0050】
そして、レンズ面にハードコート層21と反射防止層22が設けられた眼鏡レンズLの表面全体に、ディッピング法を用いてヘキサメチルジシラザン溶液を塗布した。
塗布方法は、防汚層の場合と同様に、処理槽内に収容されたヘキサメチルジシラザン溶液中に2分間程度浸漬した後、溶液中から200mm/分程度の引き上げ速度で引き上げた。
【0051】
そして、ヘキサメチルジシラザン溶液の塗膜が形成された眼鏡レンズLを、温度が65°程度の恒温槽中に、30分程度投入して加熱硬化を行った。これにより、眼鏡レンズLの最表面に撥水層23が形成されたレンズBが完成する。なお、有機シラザン化合物よりなる撥水層は、一般的に水ヤケ防止コートと呼ばれている。
【0052】
次に、このようにしてレンズ基材20の表面にハードコート層21と反射防止層22が設けられた最表面に、防汚層23が形成されたレンズA、および撥水層23が形成されたレンズBを、擦傷試験装置1を用いて擦傷試験を行った。
なお、擦傷試験する眼鏡レンズL(レンズAまたはレンズB)は、防汚層23および撥水層23の形成処理後、24時間以上経過したものを用いる。
【0053】
図4(a)は、当接具が眼鏡レンズのレンズ面を擦る態様を示す部分平面図であり、図4(b)は、図4(a)に示す当接具が眼鏡レンズのレンズ面を擦る態様を矢印B方向から矢視した部分断面図である。
【0054】
擦傷試験に先立って、予め眼鏡レンズLに擦傷性能確認のための準備作業を行う。この準備作業について図4(a)を参照しながら説明する。
準備作業は、眼鏡レンズLのレンズ凹面Laに防汚性能評価のための接触角測定位置のマーキングを行う。接触角測定位置のマーキングは、レンズメータを用いてレンズ凸面Lbの中心および中心から距離eの中心両側の中心線上に印点を打つ。そして、その3個の印点上にダイヤモンドペンを用いて、例えば×(バツ)印18を描く。距離eは、例えば3mmである。
【0055】
こうした準備作業は、防汚層が形成されたレンズAおよび撥水層を形成したレンズBについてそれぞれ2個ずつ行った。
そして、それぞれの眼鏡レンズLは、接触角測定と、弾き性および拭き取り性の初期性能確認をした後、眼鏡レンズLのレンズ凸面Lbを擦る擦傷試験を行った。なお、図4(a)中に二点鎖線で囲まれたドットで示す領域Mは、弾き性および拭き取り性の確認を行う際に用いるマーキングであり、そのマーキングの説明を含めて、接触角測定、弾き性および拭き取り性の確認方法、初期性能については後述する。
【0056】
図4(a)において、マーキングされた眼鏡レンズLを、レンズ凸面Lbを上面側にして擦傷試験装置1の載置台112の台面上に載置し、チャック112Aでレンズ周縁部を両側から挟み込んで載置台112に保持固定する。
【0057】
そして、昇降装置を作動して支持機構部12の支持軸121を下降させて、アーム122の先端に固着された保持軸123に取り付けられた当接具13の当接面13Aを、眼鏡レンズLのレンズ凸面Lbに当接させる。この時、アーム122の上面がテーブル10のテーブル面に略平行になるように支持軸121の停止位置を調節する。そして、保持軸123の他方端に重量200gの加重錘14を嵌挿してアーム122の上面に載置する(いずれも図1参照)。
【0058】
これにより、当接具13の略中心がレンズ凸面Lbの略中心に位置して、当接具13の当接面13Aの長方形の長辺が、載置台112が往復移動する矢印αに対して略直角に交差するようにして、当接面13A(払拭布16)が加重錘14の重量200gの荷重が印加されてレンズ凸面Lbに当接する。
【0059】
当接具13の当接面13Aがレンズ凸面Lbに当接する弾性力は、当接面13Aにおける長方形の面積が(横幅la:37mm×縦幅lb:17mm)であることから、略32g/cm2である。なお、弾性力は、加重錘14の重量または当接具13の当接面13Aの面積などを調節して、人間の指が払拭する際に生じる弾性力に略相当する30g/cm2〜35g/cm2程度の範囲に適宜設定することができる。これにより眼鏡レンズLの使用実態に即した評価を行うことができる。
【0060】
そして、移動機構部11の駆動部を作動して、眼鏡レンズLが保持固定された載置台112が、レール111の凹部111Aの側壁に案内されて、Y軸方向に沿った所定の距離間を往復移動する(矢印α)。往復移動する距離は、眼鏡レンズLの略中心点を中心として30mm、往復移動速度を38往復/分に設定して行った。
これにより、眼鏡レンズLのレンズ凸面Lbが当接具13の当接面13A(払拭布16)で擦られる。
【0061】
この時、図4(b)に示すように、載置台112の往復移動に合わせて、アーム122が、支持軸121の先端部に設けられたT型継ぎ手121Aによって、支持軸121を支点として上下動(矢印β)して、当接具13の当接面13Aが、眼鏡レンズLのレンズ凸面Lbの表面形状に沿って追従する(矢印γ)。
【0062】
こうした眼鏡レンズLのレンズ凸面Lbに、当接具13の当接面13A(払拭布16)を当接して擦る擦傷試験を、往復移動回数が500回、1000回、2000回、5000回経過する毎に、眼鏡レンズL(レンズAまたはレンズB)を擦傷試験装置1の載置台112から取り外して、接触角測定、弾き性および拭き取り性の確認をした。
【0063】
以上の擦傷試験において当接具13の往復移動回数の経過毎に行った防汚性能の確認方法と、その評価方法について説明する。
【0064】
(1)接触角測定
接触角測定は、接触角計(協和界面科学(株)製の全自動接触角計DM700)を用いた液滴法により測定した。
眼鏡レンズLのレンズ凸面Lbにマーキングした×印18上に、液滴径1.2mm〜1.5mmの純水を滴下して、CCDカメラにより撮影された液滴の画像から接触角を測定した。なお、各眼鏡レンズLにおける接触角の測定値は、2個の眼鏡レンズLの3個の×印18位置における総平均値とした。
【0065】
(2)弾き性
弾き性の確認は、眼鏡レンズLのレンズ凸面Lbをアセトン拭きした後、レンズ凸面Lbに油性マーカーを用いてマーキングして、そのマーキングの弾き性を評価した。
【0066】
油性マーカーとして、ゼブラ(株)製のハイマッキー黒色の太字側マーカーを用いてマーキングした。マーキングは、前記図4(a)中に二点鎖線で囲まれたドットで示す領域Mであり、接触角測定用としてマーキングされた3個の×印18を結ぶ中心線から距離aの位置に、中心線と平行に長さcのマーキングをした。
【0067】
マーキングした領域Mの寸法は、距離a:略5mm、長さc:略4cm、距離d:略2cmであり、太字側マーカーのマーキング幅bは6mmである。また4cm/秒程度の速度でマーキングした。
なお、用いる油性マーカーは、マーキングする前にアセトン拭きしたモニター用ガラス上などにマーキングを行い、マーキングされたインクの濃淡を濃淡基準などと比較して、使用可否の確認をするの望ましい。
【0068】
図5は、弾き性の評価に用いた標準サンプル画像を示す。
弾き性の評価は、図5に示すA〜Dの4水準の標準サンプル画像と対比して評価した。この標準サンプル画像に基づく弾き性の言語表現を以下に示す。
A:マーカー線が弾いて玉状になる。
B:マーカー線が縦方向(当接具13で擦った方向)の線状になる。
C(C−1、C−2):マーカー線の縦方向の線状中に弾く部分がある。
D:はっきりマーカー線が引ける。
【0069】
(3)拭き取り性
拭き取り性は、油性マーカーをマーキングして弾き性の確認を行った後のマーキングを、ワイプ紙(商品名:ケイドライ、(株)クレシア製)によって拭き取り、その拭き取り具合を、下記に示すA〜Dの4水準で評価した。
拭き取り方法は、上皿はかりの上皿にゴムシートを敷き、そのゴムシート上に弾き性の確認を行うレンズ凸面Lbを上側にして載置し、ワイプ紙を2.0kg〜2.5kgの荷重で押し付けて、油性マーカーのマーキングを拭き取る。
A:往復1回〜5回以下の拭き取りで完全に除去できる。
B:往復6回〜10回以下の拭き取りで完全に除去できる。
C:往復11回〜20回以下の拭き取りで完全に除去できる。
D:21回以上の拭き取り後も除去できない部分が残存する。
【0070】
こうした擦傷試験における接触角測定、弾き性および拭き取り性の確認結果および評価結果を表1に示す。
【0071】
【表1】

表1には、防汚層23が形成されたレンズAおよび撥水層23が形成されたレンズBの、擦傷試験初期、当接具13の往復移動回数が500回、1000回、2000回、5000回時点における接触角、弾き性および拭き取り性の確認結果および評価結果を示す。
【0072】
表1の結果から、防汚層23が形成されたレンズAは、当接具13の往復移動回数の増加による接触角および拭き取り性の変化は見られないが、弾き性は往復移動回数が増加するに従って共に若干低下する。一方、撥水層23が形成されたレンズBについては、接触角の変化は見られないが、弾き性は初期の段階から低く、しかも拭き取り性は2000回あたりから急激に低下する傾向を示す。
【0073】
すなわち、防汚層23が形成されたレンズAと撥水層23が形成されたレンズBとは、接触角における差は見られないが、弾き性および拭き取り性、特に拭き取り性において顕著な差がみられる。したがって、一般的に用いられている接触角計を用いた液滴法による接触角の測定値のみによる確認で防汚層23の防汚性能を評価するのは困難さを有している。
【0074】
こうしたことから、当接具13を備えた擦傷試験装置1を用いて、眼鏡レンズLのレンズ面を擦った後、油性マーカーの弾き性および拭き取り性の変化から防汚性能を評価する擦傷試験を行うことによって、眼鏡レンズLのレンズ面に形成された防汚層23の防汚性能評価(防汚性能確認)を的確に行うことができる。このことは、益々高性能化した新たな防汚層の防汚性能評価に対応することができる。また、こうした擦傷試験を、製造工程における抜き取り品などの品質確認項目に採用することによって、形成する組成物の取り違いや、混入などに対処することができる。
【0075】
以上の実施形態において、光学レンズとしてプラスチック眼鏡レンズLを用いた場合で説明したが、プラスチック眼鏡レンズLの他に、例えば、デジタルスチルカメラ、ビデオカメラ、望遠鏡、双眼鏡などの各種光学レンズに適用することができる。
また、レンズ基材20の材質は、特に限定されず、無機ガラス、プラスチックの何れであっても良い。さらに、光学レンズとしての眼鏡レンズLは、レンズ基材20の表面にハードコート層21、反射防止層22が設けられた場合で説明したが、ハードコート層21が形成されていない場合、あるいはハードコート層21と反射防止層22が形成されていない場合など、防汚層23の下層の膜構成は、どんな構成であっても良い。
【0076】
また、本実施形態において、防汚層23の形成方法に湿式プロセスのディッピング法を用いた場合で説明したが、スピンコート法、スプレー法、フロー法、ドクターブレード法、刷毛塗り法などの湿式プロセス、あるいは真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、CVD法などの乾式プロセスを用いた場合であっても良い。
【0077】
本実施形態の擦傷試験装置1は、眼鏡レンズLのレンズ面に形成された撥水性および撥油性を有する防汚層の防汚性評価を行う場合で説明したが、ハードコート層21および反射防止層22を含み、眼鏡レンズLのレンズ面に形成されてレンズ面に機能性を付与する機能性コートの機能性評価にも利用することができる。
【0078】
また、擦傷試験装置1は、眼鏡レンズLが保持固定された載置台112(移動機構部11)が、Y軸方向に沿った所定の距離間を往復移動する場合で説明したが、載置台112(移動機構部11)がテーブル10のテーブル面に固定され、支持機構部12の当接具13を眼鏡レンズLのレンズ凸面Lbに当接して、Y軸方向に沿った所定の距離間を往復移動すると共に、眼鏡レンズLのレンズ凸面Lbに対して上下動する構成で有っても良い。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本実施形態に係る擦傷試験装置の概構造を示す模式図。
【図2】(a)は当接具の正面図であり、(b)は(a)のA−A断面における当接具の断面図。
【図3】防汚層または撥水層が形成される眼鏡レンズの断面模式図。
【図4】(a)は当接具が眼鏡レンズのレンズ面を擦る態様を示す部分平面図であり、(b)は(a)に示す当接具が眼鏡レンズのレンズ面を擦る態様を矢印B方向から矢視した部分断面図。
【図5】弾き性の評価に用いた4水準の標準サンプル画像。
【符号の説明】
【0080】
1…擦傷試験装置、10…テーブル、11…移動機構部、12…支持機構部、13…当接具、13A…当接面、14…加重錘、15…弾性体、16…払拭布、20…レンズ基材、21…ハードコート層、22…反射防止層、23…防汚層または撥水層、111…レール、111A…凹部、112…載置台、112A…チャック、121…支持軸、122…アーム、123…保持軸、130…保持具、131…軸部、132…収納部、132A…凹部、133…固定部、L…光学レンズとしての眼鏡レンズ、La…レンズ凹面、Lb…レンズ凸面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学レンズの表面に形成された撥水性および撥油性を有する防汚層の防汚性評価方法であって、
前記光学レンズの表面に弾性体で押圧された払拭布を備えた当接具を当接し、前記光学レンズまたは前記当接具の一方を他方に対して交差する方向に往復移動させて、前記光学レンズの表面を擦った後、
油性マーカーの弾き性および拭き取り性の変化から防汚性能を評価することを特徴とする防汚層の防汚性評価方法。
【請求項2】
請求項1に記載の防汚層の防汚性評価方法であって、
前記当接具が前記光学レンズの表面に当接する弾性力が30g/cm2〜35g/cm2であることを特徴とする防汚層の防汚性評価方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の防汚層の防汚性評価方法であって、
前記払拭布を押圧する前記弾性体が、内部に液体が封入されたゴム製袋体であることを特徴とする防汚層の防汚性評価方法。
【請求項4】
光学レンズの表面に形成された機能性コートの機能性評価に用いる擦傷試験装置であって、
弾性体で押圧された払拭布を前記光学レンズの表面に当接する当接具と、
前記当接具を保持し、前記当接具を前記光学レンズのレンズ面に対して鉛直方向に移動可能に構成された支持機構部と、
前記光学レンズを保持固定し、前記当接具と交差する方向に往復移動する移動機構部とを備え、
前記当接具を30g/cm2〜35g/cm2の弾性力で前記光学レンズの表面を擦ることを特徴とする擦傷試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−229649(P2009−229649A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−73069(P2008−73069)
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】