説明

防汚性ハードコート膜及びその形成方法

【課題】 油が熱により変質してなる油熱変質物を容易に除去することができると共に、鉛筆硬度9H以上の硬度を有する防汚性ハードコート膜、及び前記防汚性ハードコート膜を形成することのできる防汚性ハードコート膜の形成方法を提供すること。
【解決手段】 基材の表面に形成された、ハフニア及び/又はジルコニアとフッ素化合物との複合物の硬化体であり、前記硬化体は前記硬化体の全質量に対して7質量%以上40質量%以下の前記フッ素化合物を含有する防汚性ハードコート膜、及び、ハフニア及び/又はジルコニア100質量部に対して、固形分で7質量部以上40質量部以下のフッ素化合物を含有する複合ゾルを基材の表面に塗布し、硬化処理をすることにより複合物の硬化体を形成する防汚性ハードコート膜の形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、防汚性ハードコート膜及びその形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現代の生活空間に用いられる器材は、快適で清潔な生活を満喫するために、汚れが付着し難く、また汚れが付着しても容易にその汚れが除去できること(防汚性)が要求される。例えば、最近調理機器としてIHクッキングヒータが用いられるようになり、調理が快適に行なわれるようになった。しかし、逆にそのトッププレートの汚れが目立つようになっている。特に、その鍋から吹きこぼれた汁や油がこびりついた汚れは、布巾等では容易に取れ難く不快であるばかりではなく、汚れが逆に目立つようになっている。また、情報技術の発達により携帯電話やタッチパネルで操作できる情報端末等が普及し、快適で便利な生活が楽しめるようになった。しかし、携帯電話での会話後にはディスプレイ部に顔の皮脂や化粧等が汚れとして付着したり、タッチパネルには指の皮脂が付着したりする。
【0003】
防汚性を有する器材として、フッ素化合物等の被膜でコーティングした器材が知られている。例えば、特許文献1には、アルミニウム箔にアクリル系フッ素樹脂にイソシアネートを配合してなる硬化被膜を被覆して、レンジ用油汚れ防止形成品が記載されている。また、特許文献2には、防汚性の熱線反射膜として、金属基材あるいは金属薄膜をコーティングした基材上にラダー型シリコーンの骨格と少なくとも一種以上の金属酸化物の骨格とフッ素化合物とによって構成されており、膜厚が1μm以下の防汚性反射体が開示されており、熱線を反射することが必要な調理機器や暖房機器への搭載が記載されている。特許文献3には、電離放射線硬化型材料とフッ素系表面調整剤あるいはシリコーン系表面調整剤と溶媒とを含むハードコート塗液が開示され、それを基材上にコーティングすることにより、防汚性に優れたハードコート膜を形成することが開示されている。
【0004】
上記のように、防汚性を改良する発明が提案されているが、防汚性は充分であるとは言い難く一段の改良が必要である。特にIHクッキングヒーターのトッププレートにこびりついた汚れは布巾などの拭き取りでは取れにくく、ディスプレイの皮脂汚れもまた取れにくい。さらに、フッ素化合物の硬度は一般的に低く、高硬度が必要とされる器材では、改良が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3817658号公報
【特許文献2】特開2001−139886号公報
【特許文献3】特開2009−286981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明は、油が熱により変質してなる油熱変質物を容易に除去することができると共に、鉛筆硬度9H以上の硬度を有する防汚性ハードコート膜、及び前記防汚性ハードコート膜を形成することのできる防汚性ハードコート膜の形成方法を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための手段は、
(1) 基材の表面に形成された、ハフニア及び/又はジルコニアとフッ素化合物との複合物の硬化体であり、
前記硬化体は、前記硬化体の全質量に対して7質量%以上40質量%以下の前記フッ素化合物を含有することを特徴とする防汚性ハードコート膜であり、
前記(1)の好ましい態様は、
(2) 前記フッ素化合物が有機フッ素化合物であり、
(3) 前記フッ素化合物が、炭素とフッ素とを備える主鎖とスルホン酸基を備える側鎖とを有する重合体、及び/又はフッ素樹脂である。
【0008】
前記他の課題を解決するための手段は、
(4) ハフニアゾル及び/又はジルコニアゾルとフッ素化合物との複合ゾルを基材の表面に塗布し、硬化処理をすることにより、ハフニア及び/又はジルコニアとフッ素化合物との複合物の硬化体を形成し、
前記複合ゾルは、ハフニア及び/又はジルコニア100質量部に対して、固形分で7質量部以上40質量部以下のフッ素化合物を含有することを特徴とする防汚性ハードコート膜の形成方法であり、
前記(4)の好ましい態様は、
(5) 前記フッ素化合物が有機フッ素化合物であり、
(6) 前記フッ素化合物が、炭素とフッ素とを備える主鎖とスルホン酸基を備える側鎖とを有する重合体、及び/又はフッ素樹脂である。
【発明の効果】
【0009】
この発明に係る防汚性ハードコート膜は、基材の表面に形成された、ハフニア及び/又はジルコニアとフッ素化合物との複合物の硬化体であり、前記硬化体は特定量のフッ素化合物を含有するので、油が熱により変質してなる油熱変質物を容易に除去することができると共に、鉛筆硬度9H以上の硬度を有する防汚性ハードコート膜を提供することができる。
【0010】
また、この発明に係る防汚性ハードコート膜の形成方法は、ハフニアゾル及び/又はジルコニアゾルとフッ素化合物との複合ゾルを基材の表面に塗布し、硬化処理をすることにより複合物の硬化体を形成し、前記複合ゾルは、ハフニア及び/又はジルコニアとフッ素化合物とを特定の配合割合で含有するので、良好な塗布性を有すると共に、前記防汚性ハードコート膜を容易に形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
この発明の防汚性ハードコート膜は、基材の表面に形成された、ハフニア及び/又はジルコニアとフッ素化合物との複合物の硬化体である。
【0012】
この発明におけるフッ素化合物としては、撥油性のあるフッ素化合物、特に有機フッ素化合物が好ましい。有機フッ素化合物としては、フッ素樹脂等を挙げることができる。
【0013】
前記フッ素樹脂としては、フルオロオレフィンを含む重合体及び共重合体、炭素とフッ素とを備える主鎖とスルホン酸基を備える側鎖とを有する共重合体等を挙げることができ、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロ[2−(フルオロサルフォニルエトキシ)プロピルビニルエーテル]共重合体(ナフィオン:登録商標)等を挙げることができる。これらの中でも、ポリテトラフルオロエチレン及びナフィオンが好ましい。
【0014】
前記硬化体は、前記硬化体の全質量に対して7質量%以上40質量%以下のフッ素化合物を含有し、7質量%以上30質量%以下のフッ素化合物を含有するのが好ましい。また、前記硬化体は、前記硬化体の全質量に対して、60質量%以上93質量%以下のハフニア及び/又はジルコニアを含有するのが好ましく、70質量%以上93質量%以下のハフニア及び/又はジルコニアを含有するのが特に好ましい。ハフニア及び/又はジルコニアとフッ素化合物との含有割合が前記範囲内であると油熱変質物を容易に除去することができると共に、高硬度の防汚性ハードコート膜を得ることができる。
【0015】
前記硬化体は、この発明の課題を達成することができる範囲内で、その他の添加剤及び不可避不純物を含有してもよい。添加剤としては、例えば、帯電防止剤、屈折率調整剤、表面調整剤等を挙げることができる。ただし、前記複合ゾルは、ラダー型シリコーンを含有しない。前記硬化体は、ハフニア及び/又はジルコニアとフッ素化合物と、所望により前述した添加剤とその他の金属化合物等の不可避不純物との合計が100質量%になるように含有される。
【0016】
前記硬化体中に含まれるハフニア、ジルコニア及びフッ素化合物の含有割合は、蛍光X線分析法及びX線光電子分光法等により測定することができる。
【0017】
前記複合物の硬化体は、ハフニアゾル及び/又はジルコニアゾルとフッ素化合物との複合ゾルを基材の表面に塗布し、硬化処理をすることにより形成される。
【0018】
ハフニアゾルは、HfOXで表される酸化ハフニウムのゾルである。HfOX中のXは、2以下の整数または小数である。また、ジルコニアゾルは、ZrOXで表される酸化ジルコニウムのゾルである。ZrOX中のXは、2以下の整数または小数である。
【0019】
前記ハフニアゾルまたはジルコニアゾルの第1の好ましい調整方法は、まず、ハフニウムアルコキシド、ハフニウム塩等のハフニウム化合物またはジルコニウムアルコキシド、ジルコニウム塩等のジルコニウム化合物を水、アルコール等の溶媒に溶解して溶液とする。次いで水を添加して必要なら加熱することにより、ゾルを調製する。このとき、ゾル化反応を促進するために酸又は塩基を加えることが好ましい。
【0020】
前記ハフニアゾルまたはジルコニアゾルの第2の好ましい調製方法は、前記溶液にアンモニア水またはアミン化合物を加えて、水酸化物の沈殿を生成させる。このとき、必要により、加熱してもよい。このアミン化合物は、アミン化合物を溶解する溶媒例えば水、アルコール等の水性溶媒に溶解した溶液の形態で前記溶液に加えることができる。続いて、生成した沈殿をろ別する。ろ別された沈殿は水またはアルコールで洗浄することが好ましい。このようにして得た沈殿に水、アルコール等の溶媒を加え、無機酸または有機酸を添加し、必要により加熱して調製することができる。
【0021】
前記ハフニウムアルコキシド及び前記ジルコニウムアルコキシドに特に制限はないが、炭素数5以下のアルコキシド、具体的には、メトキシド、エトキシド、プロポキシド、ブトキシド、ペントキシドが好ましい。また、前記ハフニウム塩及び前記ジルコニウム塩としては、ハロゲン化物塩、酢酸塩、硫酸塩、炭酸塩、硝酸塩等を挙げることができ、好適な塩はハロゲン化物塩である。
【0022】
前記ハフニウム塩としては、例えばハフニウムハロゲン化物塩を用いることができ、四塩化ハフニウム、四フッ化ハフニウム、四臭化ハフニウム、四ヨウ化ハフニウムを挙げることができる。中でも、四塩化ハフニウムが好ましい。前記ジルコニウム塩としては、例えばジルコニウムハロゲン化物塩を用いることができ、四塩化ジルコニウム、塩化酸化ジルコニウム八水和物等、ハフニウムハロゲン化物に準じたハロゲン化物塩を挙げることができる。
【0023】
前記溶媒としては、前記ハフニウム化合物及び前記ジルコニウム化合物を溶解することのできる物質であれば良く、例えば、水、メタノール、エタノール、ブタノール、イソプロパノール、ビニルアルコール等のアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、ジオキサン等のケトン、アミン、アミド等を挙げることができ、好ましく用いられる溶媒は、水性溶媒例えば水またはアルコールである。
【0024】
前記酸としては、ゾル化反応を促進させることのできるプロトン酸であれば良く、有機酸及び無機酸を挙げることができる。無機酸として、塩酸、硝酸および硫酸等を挙げることができ、好適な無機酸は、硝酸および硫酸である。また、有機酸としては、炭素数3以下の有機酸が好ましく、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、乳酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸等を挙げることができる。中でも、ギ酸、シュウ酸およびグリコール酸が特に好ましい。
【0025】
また、前記アミン化合物としては、ハフニウム及びジルコニウムの水酸化物の沈殿を生成させることのできるアミン化合物であれば良く、例えば、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン、及び第1〜3級アミンの塩類等を挙げることができる。第1級アミンとして、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、アミルアミン、ヘキシルアミン、2−プロペニルアミン、2−メチル−2−プロペニルアミン、2−プロペロイロキシエチルアミン、2−(2−メチルプロペロイロキシ)エチルアミン等を、第2級アミンとしては、ジメチルアミン、メチルエチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジ(2−プロペニル)アミン、ジ(2−メチル−2−プロペニル)アミン、2−プロペニルアミン、2−メチル−2−プロペニルアミン、2−プロペロイロキシエチルアミン、2−(2−メチルプロペロイロキシ)エチルアミンタクリレート)等を、第3級アミンとしては、トリメチルアミン、ジメチルエチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、N,N−ジメチル−2−プロペロイロキシエチルアミン、N,N−ジメチル−2−(2−メチルプロペロイロキシ)エチルアミン、N,N−ジエチル−2−プロペロイロキシエチルアミン、N,N−ジエチル−2−(2−メチルプロペロイロキシ)エチルアミン、N,N−ジメチル−3−プロペロイロキシプロピルアミン、N,N−ジメチル−3−(2−メチルプロペロイロキシ)プロピルアミン、N,N−ジエチル−3−プロペロイロキシプロピルアミンN,N−ジエチル−3−(2−メチルプロペロイロキシ)プロピルアミン、N,N−ジメチル−3−(プロペロイルアミノ)プロピルアミン、N,N−ジメチル−3−(2−メチルプロペロイルアミノ)プロピルアミン、N,N−ジエチル−3−(プロペロイルアミノ)プロピルアミン、N,N−ジエチル−3−(2−メチルプロペロイルアミノ)プロピルアミン等を挙げることができる。
【0026】
さらに前記アミン化合物として、ヨウ化テトラアルキルアンモニウム、水酸化テトラアルキルアンモニウム、ヨウ化テトラアリールアンモニウム、水酸化テトラテトラアリールアンモニウム等の第4級アンモニウム化合物をも使用することができる。このようなアミン類は、そのまま使用してもよく、アミン化合物を含有した水溶液として使用してもよい。
【0027】
前記ハフニウムアルコキシド溶液及び前記ジルコニウムアルコキシド溶液、又は、前記ハフニウム塩溶液及び前記ジルコニウム塩溶液の濃度には、特別な限定はないが、質量基準で1%以上70%以下、好ましくは、1%以上50%以下である。1%未満では、ゾル濃度が低く、塗布性が劣ったり、生成する水酸化物が微粒子となったりしてろ過が困難となるおそれがある。70%を超えると、ゾル化反応が進行しなくなったり、水酸化物の凝集が顕著となったりして、ろ過が困難となることがある。
【0028】
前記ハフニアゾルまたはジルコニアゾルの第1の調整方法は、例えば以下の通りである。前記ハフニウムアルコキシド溶液及びジルコニウムアルコキシド溶液は、前記アルコキシドとアルコール等の前記有機溶媒とを混合することにより、また、前記ハフニウム塩溶液及び前記ジルコニウム塩溶液は、前記ハフニウム塩及びジルコニウム塩とアルコール等の前記有機溶媒とを混合することにより、容易に調整することができる。続いて、この溶液に前記無機酸及び/又は前記有機酸を加え、さらに水を加え、加熱する。ハフニウム化合物及び/又はジルコニウム化合物に対する有機溶媒量に特別の制限はなく、これらの化合物に対し質量基準で5倍以上200倍以下、好ましくは、5倍以上100倍以下である。酸の添加量は特別の制限はなく、ゾルの全量を100質量部としたとき、無機酸及び/又は有機酸を0.1質量部以上50質量部以下、好ましくは、0.1質量部以上20質量部以下とする。加熱温度及び加熱時間は、ゾルが形成される温度と時間であれば良く、温度は、10℃以上90℃以下の範囲内にあるのが好ましく、30℃以上70℃以下の範囲内にあるのが特に好ましく、加熱時間は10分以上7時間以下の範囲であるのが好ましく、10分以上5時間以下であるのが特に好ましい。
【0029】
前記ハフニアゾルまたはジルコニアゾルの第2の調整方法は、例えば以下の通りである。前記ハフニウムアルコキシド溶液及び前記ジルコニウムアルコキシド溶液は、前記アルコキシドと水又はアルコール等の前記溶媒とを混合することにより、また、前記ハフニウム塩溶液及び前記ジルコニウム塩溶液は、前記塩と水又はアルコール等の前記溶媒とを混合することにより、容易に調製することができる。続いて、これら溶液にアンモニア水、アミン化合物又は水とアミン化合物との溶液を添加してハフニウム又はジルコニウムの水酸化物を得る。アンモニア水は、そのアンモニアの好適な濃度が、通常は1質量%以上29質量%以下の範囲内である。水とアミン化合物との溶液を調製するときの条件についても制限はないが、通常は、0℃以上90℃以下の温度範囲内、好ましくは10℃以上50℃以下の温度範囲内に加熱しつつ、攪拌、混合して調製される。アミン化合物を含有する溶液におけるアミン化合物の濃度は任意である。
【0030】
このようにして得られたハフニウム及び/又はジルコニウムの水酸化物を濾別し、この水酸化物と水及び/又はアルコール、並びに無機酸及び/又は有機酸とを混合し、加熱することによって、ハフニアゾル又はジルコニアゾルが形成される。この場合、これらの混合順序には特別な制限はない。例えば、前記水酸化物と水及び/又はアルコール、並びに無機酸及び/又は有機酸とを一挙に混合してもよく、前記水酸化物と水及び/又はアルコールとを混合し、次いで、無機酸及び/又は有機酸を混合してもよい。また、前記水酸化物と無機酸及び/又は有機酸とを混合し、次いで、水及び/又はアルコールを混合してもよい。
【0031】
前記水酸化物と混合する水及び/又はアルコール、並びに無機酸及び/又は有機酸の量は、この水酸化物を解膠するに足る量であればよく、前記水酸化物に対し、通常は、質量基準で1倍以上100倍以下、好ましくは、1倍以上50倍以下である。1倍未満では、ハフニウムイオン又はジルコニウムイオンの濃度が高くなって、解膠が困難となり、100倍を超えると、ゾル中のハフニウムイオン又はジルコニウムイオンの濃度が低くなり好ましくない。加熱温度及び時間は、ゾルが形成される温度と時間であれば良く、温度は、40℃以上90℃以下、好ましくは40℃以上70℃以下、時間は10分以上7時間以下、好ましくは10分以上5時間以下である。
【0032】
ここにおいて用いられるアルコールには特に制限はないが、炭素数5以下のアルコールが好ましい。具体的には、メタノール、エタノール、n-プロパノール、2−プロパノール、n-ブタノール、2−メチルプロパノール、2−ブタノール、2−メチル−2−プロパノール等を挙げることができる。
【0033】
水及び/又はアルコール、並びに無機酸及び/又は有機酸における配合割合に特別の制限はなく、ゾルの全量を100質量部としたとき、無機酸及び/又は有機酸を、0.1質量部以上50質量部以下、好ましくは、0.1質量部以上20質量部以下とする。前記配合割合が0.1質量部未満では、水酸化物が解膠しないことがあり、50質量部を超えると、用いる無機酸及び/又は有機酸により、基材表面が損傷することがあるので好ましくない。また、多量の無機酸及び/又は有機酸を用いると、複合ゾルを基材に塗布したとき、それら酸の蒸発によって、環境に悪影響を与えることもあるので好ましくない。
【0034】
このようにして、ハフニアゾルまたはジルコニアゾルが調製されるが、場合によっては、前記水酸化物と水及び/又はアルコール、並びに無機酸及び/又は有機酸とを混合する前に、前記水酸化物を水又はアルコールにより洗浄することが好ましい。
【0035】
この洗浄に用いるアルコールとしては、炭素数5以下のアルコールが好ましく、具体的には、メタノール、エタノール、n-プロパノール、2−プロパノール、n-ブタノール、2−メチルプロパノール、2−ブタノール、2−メチル−2−プロパノール等を挙げることができる。この洗浄は、前記水酸化物のpHを調整すると共に、水酸化物に付着または含有した夾雑物や不純物を除去するためである。
【0036】
前記複合ゾルは、前記ハフニアゾル及び/又は前記ジルコニアゾルと前記フッ素化合物とにより得られる。前記ハフニアゾル及び/又は前記ジルコニアゾルと前記フッ素化合物とを室温にて十分に撹拌して混合し、複合ゾルとするのがよい。
【0037】
前記複合ゾルは、ハフニア及び/又はジルコニア100質量部に対して固形分で7質量部以上40質量部以下のフッ素化合物を含有し、7質量部以上30質量部以下のフッ素化合物を含有するのが好ましい。前記ハフニア及び/又はジルコニアと前記フッ素化合物との割合が前記範囲内にあると、基材に対する複合ゾルの塗布性が良好となり、基材表面に複合ゾルを均一に塗布することができる。また、油熱変質物をさらに容易に除去することができると共に、高硬度の防汚性ハードコート膜を得ることができる。
【0038】
前記複合ゾルにおける前記ハフニア及び/又はジルコニアと前記フッ素化合物との合計含有割合は、1質量%以上70質量%以下であるのがよい。
したがって、前記複合ゾルは、固形分で1質量%以上50質量%以下のハフニア及び/又はジルコニアと、0.07質量%以上20質量%以下のフッ素化合物とを含有するのが好ましく、1質量%以上30質量%以下のハフニア及び/又はジルコニアと、0.07質量%以上12質量%以下のフッ素化合物とを含有するのが特に好ましい。
【0039】
前記複合ゾルは、この発明の課題を達成することができる範囲内で、その他の添加剤を含有してもよい。添加剤としては、例えば、帯電防止剤、屈折率調整剤、表面調整剤等を挙げることができる。ただし、前記複合ゾルは、ラダー型シリコーンを含有しない。
【0040】
前記複合ゾルは、前記ハフニアゾル及び/又は前記ジルコニアゾルと前記フッ素化合物とを含有し、必要に応じてその他の添加剤を含有する。これらの各化合物は、前述した各化合物の配合割合で、これらの化合物とその他の金属化合物等の不可避不純物との合計が100質量%になるように含有される。不可避不純物の含有量は少ない方が好ましいが、この発明の課題を達成することができる範囲内で含有していてもよい。
【0041】
この発明の防汚性ハードコート膜の形成方法によると、ハフニアゾル及び/又はジルコニアゾルとフッ素化合物とから得られる複合ゾルを基材の表面に塗布し、複合ゾルを基材に塗布して得られる塗布膜に、基材に損傷を与えない範囲で紫外線照射処理及び/又は加熱処理等の硬化処理をすることにより、ハフニア及び/又はジルコニアとフッ素化合物との複合物である硬化体を形成して、防汚性ハードコート膜を得ることができる。
【0042】
前記複合ゾルを塗布する基材には制限はなく、様々な素材を採用することができる。例えば、合成樹脂から形成された基材、複合材料から形成された基材、金属材料から形成された基材、無機材料から形成された基材などが挙げられる。その他の基材としては、紙、布、皮革、木材をも挙げることができる。合成樹脂、木材、金属及びセラミック等の表面に塗料が塗工された塗工表面も挙げることができる。合成樹脂から形成された基材としては、アクリル系樹脂、ポリスチレン、ポリオレフィン系樹脂、ナイロン、ABS樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリカーボネート及びポリエチレンテレフタレートなどが挙げられる。複合材料から形成された基材としては、繊維強化プラスチック、グラスライニング及びセラミックスコーティングのいずれかによって被覆した基材などが挙げられる。金属材料から形成された基材としては、普通鋼、構造用低合金鋼、高張力鋼、耐熱鋼、高クロム系耐熱鋼、高ニッケル−クロム系耐熱鋼をはじめとする合金鋼及びステンレス鋼等の鉄鋼材料、工業用純アルミニウム、5000系のアルミニウム合金、Al−Mg系アルミニウム合金及び6000系アルミニウム合金をはじめとするアルミニウム合金、銀入銅、錫入銅、クロム銅、クロム・ジルコニウム銅及びジルコニウム銅をはじめとする各種銅合金、純チタン、抗力チタン合金及び耐食性チタン合金をはじめとするチタン合金などを挙げることができる。無機材料から形成された基材としては、結晶化ガラス等のガラス、アパタイト、ムライト磁器、アルミナ磁器、ジルコン磁器、コーディエライト磁器及びステアタイト磁器などを挙げることができる。
【0043】
具体的な基材となる物品の例としては、IHクッキングヒータ、炊飯器、電子レンジ等の調理機器、及び携帯電話機、映像機器、音響機器、キーボード等の電子機器、建物の内装、外壁、ドアノブやスイッチ等の家具などを挙げることができる。
【0044】
基材の表面に複合ゾルを塗工する方法は特に限定されないが、例えば、複合ゾル中に基材を浸漬し、これを引き上げて基材表面に複合ゾルを付着させるディップ法、固定された基材表面上に複合ゾルを流延する流延法、複合ゾルの貯留された槽の一端から複合ゾルに基材を浸漬し、槽の他端から基材を取り出す連続法、回転する基材上に複合ゾルを滴下し、基材に作用する遠心力によって複合ゾルを基材上に流延するスピンナー法、基材の表面に複合ゾルを吹き付けるスプレー法及びフローコート法を挙げることができる。複合ゾルの塗工量は、複合ゾルの粘度その他の条件により異なる。1回の塗工では、目的の厚さの薄膜が得られない場合は、数回の塗工を繰り返すこともできる。得られる硬質膜の厚さは、適用対象物に応じて適宜、決定すればよいが、通常、10〜1000nmとなるように複合ゾルを塗付すればよい。
【0045】
基材表面が汚れている場合は洗浄してから複合ゾルを塗付することが好ましい。特に、表面が金属である場合など油性の膜が存在していることがあり、脱脂剤を用いて金属表面を脱脂処理した後、前記複合ゾルを塗工することが好ましい。この脱脂剤としては、エタノールなどのアルコール又はアルカリ洗剤を挙げることができ、アルカリ洗剤としては、例えば、水酸化ナトリウム等のアルカリ水酸化物、オルトケイ酸ナトリウムにけん化剤や界面活性剤を配合した脱脂剤を用いることができる。脱脂処理の方法に特別な制限はなく、例えば、金属基材表面をアルコールで拭き払う手段を採用することができ、また、金属基材を脱脂剤中に浸漬し、1〜5分間、好ましくは30〜60℃に加熱して、撹拌することによって脱脂処理することができる。脱脂処理した後、場合によっては水洗し、乾燥すればよい。
【0046】
また、脱脂処理に続いて電解処理を施すこともできる。これらの処理により、金属基材に対する複合ゾルの塗工性を一層、向上させることができる。電解処理は、脱脂液に基材を浸漬したままで基材にプラス又はマイナスの電極を設置し、対電極として基材に設置したものとは反対の電極を設置する。これに任意の時間通電することにより電解処理を行う。このときの電圧は任意でよいが好ましくは1〜200Vであり、通電時間は任意でよいが、好ましくは0.1〜60分であり、液の温度は任意でよいが、好ましくは0〜80℃である。
【0047】
基材に塗工された前記複合ゾルは、複合ゾル内の溶媒が蒸発又は揮発等により除去されてゲル膜となる。この発明の防汚性ハードコート膜の形成方法によると該ゲル膜を硬化処理することにより防汚性ハードコート膜を得ることができる。
【0048】
前記硬化処理としては、加熱処理及び/又は紫外線照射処理を挙げることができる。加熱処理は、基材に損傷を与えず、フッ素化合物が昇華及び/又は変質等を生じない温度で前記塗布膜を加熱することにより行う。また、フッ素化合物にスルホン酸が含まれる場合には、スルホン酸が除去される温度で加熱するのがよい。紫外線照射処理は、前記塗布膜に高圧水銀灯等で紫外線を照射することにより行う。
【0049】
加熱処理の条件は、フッ素化合物が昇華及び/又は変質しない範囲で決定されることが好ましく、加熱温度は200℃以上450℃以下であるのが好ましい。加熱時間は1分以上5時間以下であるのが好ましく、1分以上3時間以下であるのが特に好ましい。加熱手段に制限はなく、電気炉を用いる手段、熱風を吹き付ける手段、加熱気体内に据置する手段等が採用できる。
【0050】
紫外線照射処理で用いる紫外線発生装置は、高圧水銀灯の他に低圧水銀灯、エキシマレーザー、Nd:YAGレーザー等を使用することができる。照射時間は、1分以上3時間以下であるのが好ましい。照射する紫外線の強度は任意であるが、例えば、合成樹脂基材を用いる場合は基材が黄変、変質又は変形することがない範囲が好ましい。
【0051】
基材表面に形成された硬化体の硬度は、以下に示す鉛筆硬度によって評価することができる。鉛筆硬度は、複合ゾルにおけるハフニア及び/又はジルコニアとフッ素化合物との含有割合、フッ素化合物の種類、硬化処理の条件を変化させることにより調整することができる。
(鉛筆硬度)
硬化体の硬度は、引掻き塗膜硬さ試験機P−TYPE(株式会社東洋精機製作所)を用いて、JIS K 5600−5−4に準拠して測定することができる。すなわち、6Bから9Hの硬さの鉛筆を薄膜に対して角度45°、荷重750gで押し付けて、7mmの距離を0.1〜5mm/secの速度で少なくとも3本走査する。そして肉眼で薄膜表面を検査(目視検査)し、3mm以上の傷跡が2本生じるまで、硬度を上げて試験を繰り返す。傷跡を生じなかった最も硬い鉛筆の硬度を、その薄膜の鉛筆硬度とする。
【0052】
基材表面に形成された硬化体の防汚性は、例えば、油が熱により変質して成る油熱変質物の付着し難さ、油熱変質物の取り除き易さ、及び皮脂汚れの取り除き易さによって評価することができる。硬化体の防汚性の程度は、複合ゾルにおけるハフニア及び/又はジルコニアとフッ素化合物との含有割合、フッ素化合物の種類、硬化処理の条件を変化させることにより調整することができる。
【0053】
この発明の防汚性ハードコート膜は、基材の表面に形成された、ハフニア及び/又はジルコニアとフッ素化合物との複合物の硬化体であるので、油熱変質物がこびりつき難く、また油熱変質物がこびりついたとしても容易に除去することができ、鉛筆硬度が9H以上という高硬度を有する。したがって、この発明の防汚性ハードコート膜は、油が付着し易く高温環境下で使用される調理機器等の表面層として好適に使用される。また、この防汚性ハードコート膜の形成方法によると、ハフニアゾル及び/又はジルコニアゾルとフッ素化合物との複合ゾルを基材表面に塗布するので、複合ゾルが基材表面で弾かれてしまうことがなく、均一に塗布することができるといった良好な塗布性を有する。また、この発明の方法で形成された防汚性ハードコート膜は、高硬度で防汚性に優れた膜である。
【0054】
この発明に係る防汚性ハードコート膜は、前記実施の形態に限定されるものではなく、この発明の課題を達成することができる限り種々の変更が可能である。
【実施例】
【0055】
以下に、実施例を挙げてこの発明をさらに詳細に説明するが、これら実施例によってこの発明はなんら限定されるものではない。
【0056】
実施例1
(ハフニアゾルIの製造)
窒素雰囲気下で四塩化ハフニウム(HfCl) 2.00gを99.5%エタノール(COH) 15mLに溶解した。この溶液に水 0.51g、60%硝酸(HNO) 3.38gを添加した。この混合溶液を、50±3℃で3時間、加熱撹拌して、ハフニアゾルIを作製した。
(ハフニア−PTFE複合ゾルの製造)
作製したハフニアゾル 2.0g(ハフニア0.15g)に4フッ化エチレン樹脂(PTFE)分散液(株式会社喜多村製 KD−810AS:PTFE固形分 10%) 0.15gを添加して、室温で20分間撹拌して、ハフニア−PTFE複合ゾルを作製した。
(ハフニア−PTFE硬化体の製造)
作製したハフニア−PTFE複合ゾルを結晶化ガラス基板上に、スピンナー法(500rpmで5秒間、その後2000rpmで30秒間)により塗布した。結晶化ガラス基板上に塗布された塗布膜を電気炉にて400℃で30分間焼成して、ハフニア−PTFE硬化体Aを作製した。
【0057】
実施例2
ハフニアゾルI 2.0g(ハフニア0.15g)を、1.5g(ハフニア0.11g)とした以外は実施例1と同様にしてハフニア−PTFE硬化体Bを作製した。
【0058】
実施例3
焼成温度400℃を、350℃とした以外は実施例1と同様にしてハフニア−PTFE硬化体Cを作製した。
【0059】
実施例4
4フッ化エチレン樹脂(PTFE)分散液 0.15gを、0.3gとした以外は実施例1と同様にしてハフニア−PTFE硬化体Dを作製した。
【0060】
実施例5
4フッ化エチレン樹脂(PTFE)分散液(株式会社喜多村製 KD−810AS:PTFE固形分 10%) 0.15gを、4フッ化エチレン樹脂(PTFE)分散液(株式会社喜多村製 KD−800AS:PTFE固形分 10%) 0.4gとした以外は実施例1と同様にしてハフニア−PTFE硬化体Eを作製した。
【0061】
実施例6
ハフニアゾルI 2.0g(ハフニア0.15g)を以下のように作製したジルコニアゾルI 7.0g(ジルコニア0.16g)とした以外は実施例1と同様にしてジルコニア−PTFE硬化体Fを作製した。
【0062】
(ジルコニアゾルIの製造)
酸化塩化ジルコニウム・八水和物(ZrOCl・8HO) 4.0gを99.5%エタノール(COH) 55mLに溶解した。この溶液に水 2.23g、99%酢酸(CHCOOH) 1.49g、60%硝酸(HNO) 3.91gを添加した。この混合溶液を、40℃で2時間加熱撹拌して、ジルコニアゾルIを作製した。
【0063】
実施例7
ハフニアゾルI 2.0g(ハフニア0.15g)をジルコニアゾル(マツモトファインケミカル株式会社製、オルガチックスZA−40) 0.5g(ジルコニア0.15g)とした以外は実施例1と同様にしてジルコニア−PTFE硬化体Gを作製した。
【0064】
実施例8
実施例1おいて、4フッ化エチレン樹脂(PTFE)分散液をナフィオンに変えて、以下のようにハフニア−ナフィオン硬化体Hを作製した。
(ハフニア−ナフィオン複合ゾルの製造)
実施例1で作製したハフニアゾルI 2.0g(ハフニア0.15g)にナフィオン(和光純薬工業株式会社製 DE2021CS) 0.15gを添加して、室温で20分間撹拌して、ハフニア−ナフィオン複合ゾルを作製した。
(ハフニア−ナフィオン硬化体の製造)
作製したハフニア−ナフィオン複合ゾルを無アルカリガラス基板(AF−45 ショット)上に、スピンナー法(500rpmで5秒間、その後2000rpmで30秒間)により塗布した。無アルカリガラス基板上に塗布された塗布膜を電気炉にて220℃で30分間加熱して、ハフニア−ナフィオン硬化体Gを作製した。
【0065】
実施例9
実施例8において、ハフニアゾルI 2.0g(ハフニア0.15g)を実施例6で作製したジルコニアゾルI 7.0g(ジルコニア0.16g)とした以外は実施例8と同様にしてジルコニア−ナフィオン硬化体Jを作製した。
【0066】
実施例10
実施例1のハフニアゾルIに変えて、以下のようにハフニアゾルIIを作製し、ハフニア−ナフィオン硬化体Kを作製した。
(ハフニアゾルIIの製造)
窒素雰囲気下で四塩化ハフニウム(HfCl) 5.44gを純水 32gに溶解した。この溶液に29%アンモニア水 9.0mlを添加して、生成された白色沈殿物(水酸化ハフニウム)をろ過した。ろ液がpH7になるまで純水で洗浄後、白色沈殿物に純水を32g添加し、次いで98%ギ酸を15.0ml加え、その後、80〜90℃で3時間、加熱撹拌して、ハフニアゾルIIを作製した。
(ハフニア−ナフィオン複合ゾルIIの製造)
作製したハフニアゾルII 3.5g(ハフニア0.15g)にナフィオン(和光純薬工業株式会社製 DE2021CS) 0.15gを添加して、室温で20分間撹拌して、ハフニア−ナフィオン複合ゾルIIを作製した。
(ハフニア−ナフィオン硬化体の製造)
作製したハフニア−ナフィオン複合ゾルIIを無アルカリガラス基板(ショット社製 AF−45)上に、スピンナー法(500rpmで5秒間、その後2000rpmで30秒間)により塗布した。無アルカリガラス基板上に塗布された塗布膜に高圧水銀灯(東芝ライテック株式会社製 H1000L)を用いて紫外線を10分間照射し、次いで電気炉にて220℃で30分間加熱して、ハフニア−ナフィオン硬化体Jを作製した。
【0067】
比較例1
4フッ化エチレン樹脂(PTFE)分散液 0.15gを0.05gとした以外は実施例1と同様にしてハフニア−PTFE硬化体Lを作製した。
【0068】
比較例2
実施例6のジルコニアゾル 7.0g(ジルコニア0.16g)にナフィオン DE2021CS 0.04gを添加したこと以外は実施例8と同様にしてジルコニア−ナフィオン硬化体Mを作製した。
【0069】
(評価方法)
上記の通りに製造された硬化体A〜Lについて、以下のように油汚れ除去試験、皮脂汚れ除去試験、及び鉛筆硬度試験を行い、防汚性及び硬度の評価をした。結果を表2に示す。
【0070】
<硬化体中に含まれる化合物の含有量の測定>
作製した硬化体中に含まれるハフニア、ジルコニア、フッ素化合物の含有量を蛍光X線分析法にて測定した。
【0071】
<油汚れ除去試験>
サラダ油 0.02gを製造した硬化体A〜Lの表面に滴下し、電気炉にて350℃で30分間焼成した。サラダ油は黒色に変化して、硬化体の表面にこびりついていた。この油熱変質物をスパチュラでとり、その程度を以下の基準で評価した。

ランク 基準
1 油熱変質物がこびりついて取れない。
2 油熱変質物は力を入れると取ることができるが、一部の油熱変質物は残る。
3 油熱変質物は力を入れると取ることができる。
4 油熱変質物は少しの力で取ることができる。
5 油熱変質物は容易に取ることができる。
【0072】
<皮脂汚れ除去試験>
製造した硬化体A〜Lの表面に皮脂を付けた。水を染み込ませた布巾で皮脂汚れを拭き取り、その程度を以下の基準で評価した。

ランク 基準
1 皮脂を20回以上拭き取っても除去できない。
2 皮脂を15〜19回拭き取ると除去できる。
3 皮脂を10〜14回拭き取ると除去できる。
4 皮脂を5〜9回拭き取ると除去できる。
5 4回以下の皮脂の拭き取りで容易に除去できる。
【0073】
<鉛筆硬度試験>
製造した硬化体A〜Lの硬度を、引掻き塗膜硬さ試験機P−TYPE(株式会社東洋精機製作所)を用いて、JIS K 5600−5−4に準拠して測定した。すなわち、6Bから9Hの硬さの鉛筆を薄膜に対して角度45°、荷重750gで押し付けて、7mmの距離を0.1〜5mm/secの速度で少なくとも3本走査した。そして肉眼で薄膜表面を検査(目視検査)し、3mm以上の傷跡が2本生じるまで、硬度を上げて試験を繰り返した。傷跡を生じなかった最も硬い鉛筆の硬度を、その薄膜の鉛筆硬度とした。
【0074】
【表1】

※ 固形分(g)
【0075】
【表2】

【0076】
本願発明の範囲内にある実施例1〜10の硬化体の油汚れ除去試験、皮脂汚れ除去試験及び鉛筆高度試験の結果は、いずれも良好であった。
一方、本願発明の範囲外にある比較例1及び2の硬化体は、油汚れ除去試験及び皮脂汚れ除去試験の少なくとも1つの特性が劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に形成された、ハフニア及び/又はジルコニアとフッ素化合物との複合物の硬化体であり、
前記硬化体は、前記硬化体の全質量に対して7質量%以上40質量%以下の前記フッ素化合物を含有することを特徴とする防汚性ハードコート膜。
【請求項2】
前記フッ素化合物が有機フッ素化合物であることを特徴とする請求項1に記載の防汚性ハードコート膜。
【請求項3】
前記フッ素化合物が、炭素とフッ素とを備える主鎖とスルホン酸基を備える側鎖とを有する重合体、及び/又はフッ素樹脂である請求項1又は2に記載の防汚性ハードコート膜。
【請求項4】
ハフニアゾル及び/又はジルコニアゾルとフッ素化合物との複合ゾルを基材の表面に塗布し、硬化処理をすることにより、ハフニア及び/又はジルコニアとフッ素化合物との複合物の硬化体を形成し、
前記複合ゾルは、ハフニア及び/又はジルコニア100質量部に対して、固形分で7質量部以上40質量部以下のフッ素化合物を含有することを特徴とする防汚性ハードコート膜の形成方法。
【請求項5】
前記フッ素化合物が有機フッ素化合物であることを特徴とする請求項4に記載の防汚性ハードコート膜の形成方法。
【請求項6】
前記フッ素化合物が、炭素とフッ素とを備える主鎖とスルホン酸基を備える側鎖とを有する重合体、及び/又はフッ素樹脂である請求項4又は5に記載の防汚性ハードコート膜の形成方法。

【公開番号】特開2011−255266(P2011−255266A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−129887(P2010−129887)
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】