説明

防汚性ポリエステル布帛およびその製造方法および繊維製品

【課題】ポリエステルフィラメント糸を含むポリエステル布帛であって、水性汚れに対する防汚性、油性汚れに対する防汚性、および粉塵などのドライソイルに対する防汚性を有する防汚性ポリエステル布帛およびその製造方法および繊維製品を提供する。
【解決手段】ポリエステルフィラメント糸を含むポリエステル布帛であって、親水性基を含有しないフルオロアルキルアクリレート共重合体Aと、親水性基を含有するフルオロアルキルアクリレート共重合体Bとが付着している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルフィラメント糸を含むポリエステル布帛であって、水性汚れに対する防汚性、油性汚れに対する防汚性、および粉塵などのドライソイルに対する防汚性を有する防汚性ポリエステル布帛およびその製造方法および繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィラメント糸を含むポリエステル布帛は衣料だけでなく、カーシート地、椅子張り、ソファーなどの用途にも使用されている。また、かかる用途に使用されるポリエステル布帛布帛は、洗濯することが難しいため、高度な防汚性を有することが要求されている。
【0003】
他方、防汚には、水性汚れに対する防汚、油性汚れに対する防汚、粉塵などのドライソイルに対する防汚があり、各汚れに対応した防汚剤を適切に選定する必要がある。例えば、水性汚れおよび油性汚れに対してはフッ素系またはシリコーン系の撥水撥油剤(「ソイルガード剤」、「SG剤」ということもある。)を用いることが知られている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)。一方、粉塵などのドライソイルに対しては、親水基を有するフッ素系加工剤(「ソイルリリース剤」、「SR剤」ということもある。)を用いることが知られている(例えば、特許文献4、特許文献5参照)。
【0004】
しかしながら、水性汚れに対する防汚性、油性汚れに対する防汚性、および粉塵などのドライソイルに対する防汚性を有する防汚性ポリエステル布帛はこれまであまり提案されていない。
【0005】
また、最近では単繊維径が小さい極細ポリエステル繊維を用いたポリエステル布帛が提案されているが(例えば、特許文献6参照)、かかる極細ポリエステル繊維を用いたポリエステル布帛では、濃色に染まりにくいため汚れが目立ちやすく、防汚性の付与が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−75196号公報
【特許文献2】特開2009−1933号公報
【特許文献3】特開2007−270374号公報
【特許文献4】特開平5−59669号公報
【特許文献5】特開2008−189826号公報
【特許文献6】特開2007−291567号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、ポリエステルフィラメント糸を含むポリエステル布帛であって、水性汚れに対する防汚性、油性汚れに対する防汚性、および粉塵などのドライソイルに対する防汚性を有する防汚性ポリエステル布帛およびその製造方法および繊維製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、ポリエステル繊維はプラス電荷に帯電しやすいためドライソイル汚れが付着しやすいが、親水性基を有するフッ素系加工剤で処理すると、ドライソイル汚れが付着しにくくなること、また、フッ素系撥水撥油剤を併用すると、水性汚れに対する防汚性および油性汚れに対する防汚性も同時に得られることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。
【0009】
かくして、本発明によれば「ポリエステルフィラメント糸を含むポリエステル布帛であって、該ポリエステル布帛に、親水性基を含有しないフルオロアルキルアクリレート共重合体Aと、親水性基を含有するフルオロアルキルアクリレート共重合体Bとが付着してなることを特徴とする防汚性ポリエステル布帛」が提供される。
【0010】
その際、前記親水性基が水酸基またはカルボキシル基であることが好ましい。また、前記親水性基を含有しないフルオロアルキルアクリレート共重合体Aと、親水性基を含有するフルオロアルキルアクリレート共重合体Bとの重量比が90:10〜10:90の範囲内であることが好ましい。また、前記親水性基を含有しないフルオロアルキルアクリレート共重合体Aと、親水性基を含有するフルオロアルキルアクリレート共重合体Bの合計重量が、布帛の面積あたり、0.4〜3.0g/mの範囲内であることが好ましい。また、前記ポリエステルフィラメント糸の単繊維径が10〜1000nmの範囲内であることが好ましい。その際、前記ポリエステルフィラメント糸Aが、海成分とポリエステルからなりその径が10〜1000nmである島成分とで形成される海島型複合繊維の海成分をアルカリ水溶液で溶解除去してなるフィラメント糸であることが好ましい。
【0011】
また、本発明によれば、ポリエステルフィラメント糸を含むポリエステル布帛に、親水性基を含有しないフルオロアルキルアクリレート共重合体Aと、親水性基を含有するフルオロアルキルアクリレート共重合体Bとを含む組成物を、浸漬処理またはスプレー処理にて付与することを特徴とする、前記の防汚性ポリエステル布帛の製造方法が提供される。
また、本発明によれば、前記の防汚性ポリエステル布帛を用いてなる、カーシート地、椅子張り、およびソファーからなる群より選択されるいずれかの繊維製品が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ポリエステルフィラメント糸を含むポリエステル布帛であって、水性汚れに対する防汚性、油性汚れに対する防汚性、および粉塵などのドライソイルに対する防汚性を有する防汚性ポリエステル布帛およびその製造方法および繊維製品が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明のポリエステル布帛は、ポリエステルフィラメント糸を含むポリエステル布帛であって、親水性基を含有しないフルオロアルキルアクリレート共重合体A(以下、単に「共重合体A」ということもある。)と、親水性基を含有するフルオロアルキルアクリレート共重合体B(以下、単に「共重合体B」ということもある。)とが付着している。
【0014】
ここで、親水性基としては、水酸基またはカルボキシル基であることが好ましい。すなわち、親水性基を含有しないフルオロアルキルアクリレート共重合体Aとしては、水酸基およびカルボキシル基を含有しないフルオロアルキルアクリレート共重合体が好ましい。一方、親水性基を含有するフルオロアルキルアクリレート共重合体Bとしては、水酸基およびカルボキシル基を含有しないフルオロアルキルアクリレート共重合体が好ましい。
【0015】
本発明のポリエステル布帛において、親水性基を含有しないフルオロアルキルアクリレート共重合体Aは、水性汚れに対する防汚性、および油性汚れに対する防汚性に寄与するものである。かかる共重合体Aは、特開2009−1933号公報などに記載されたものや、撥水撥油剤として市販されているものでよく、例えば、旭硝子社製の「アサヒガードAG−730」(商品名)、「アサヒガードAG−950」(商品名)、「アサヒガードAGE−082」(商品名)などが例示される。
【0016】
一方、親水性基を含有するフルオロアルキルアクリレート共重合体Bは粉塵などのドライソイルに対する防汚性に寄与するものである。かかる共重合体Bとしては、特開2007−9337号公報や特開2008−189826号公報に記載されたものや、市販されているものでは、旭硝子社製「アサヒガードAG−ST20S」(商品名)、「アサヒガードAG−1100」(商品名)、ダイキン工業社製「ユニダインTG−9011」(商品名)、「ユニダインTG−9031」(商品名)、クラリアントジャパン社製「Nuva−4200」(商品名)などがあげられる。
【0017】
前記共重合体Aと共重合体Bとの重量比としては、10:90〜90:10(より好ましくは20:80〜80:20)の範囲内であることが好ましい。前記共重合体Aの重量比が該範囲よりも小さいと、水性汚れに対する防汚性および油性汚れに対する防汚性が低下するおそれがある。逆に、前記共重合体Bの重量比が該範囲よりも小さいと、粉塵などのドライソイルに対する防汚性が低下するおそれがある。
【0018】
また、前記共重合体Aと共重合体Bの合計重量としては、布帛の面積あたり、0.4〜3.0g/mの範囲内であることが好ましい。該合計重量が0.4g/mよりも小さいと、十分な防汚効果が得られないおそれがある。逆に、該合計重量が3.0g/mよりも大きいと布帛の風合いが硬くなるおそれがある。
【0019】
前記共重合体Aと共重合体Bをポリエステル布帛に付与する方法としては、公知の方法でよく、例えば、前記共重合体Aと共重合体Bを含む組成物を、浸漬処理またはスプレー処理にてポリエステル布帛に付与することが好ましい。特に、スプレー処理が好ましい。
【0020】
また、本発明に用いるポリエステル布帛としては、ポリエステルフィラメント糸を含む布帛であれば制限はないが、ポリエステルフィラメント糸の単繊維径が小さいほど濃色に染まりにくく汚れが目立ちやすいので、本発明の効果がより一層発現され好ましい。
【0021】
その際、前記ポリエステルフィラメント糸において、その単繊維径(単繊維の直径)が10〜1000nm(好ましくは100〜800nm、特に好ましくは550〜800nm)の範囲内であることが肝要である。かかる単繊維径を単繊維繊度に換算すると、0.000001〜0.01dtexに相当する。該単繊維径が10nmよりも小さい場合は繊維強度が低下するため実用上好ましくない。ここで、単繊維の断面形状が丸断面以外の異型断面である場合には、外接円の直径を単繊維径とする。なお、単繊維径は、透過型電子顕微鏡で繊維の横断面を撮影することにより測定が可能である。
【0022】
前記ポリエステルフィラメント糸において、フィラメント数は特に限定されないが、極細繊維特有の風合いを得る上で500本以上(より好ましくは2000〜10000本)であることが好ましい。また、ポリエステルフィラメント糸の総繊度(単繊維繊度とフィラメント数との積)としては、5〜150dtexの範囲内であることが好ましい。
【0023】
前記ポリエステルフィラメント糸の繊維形態は特に限定されないが、揚柳調の布帛を得る上で長繊維(マルチフィラメント糸)であることが好ましい。単繊維の断面形状も特に限定されず、丸、三角、扁平、中空など公知の断面形状でよい。また、通常の空気加工、仮撚捲縮加工が施されていてもさしつかえない。
【0024】
前記ポリエステルフィラメント糸を形成するポリマーの種類としてはポリエステル系ポリマーであれば特に限定されず、ポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ステレオコンプレックスポリ乳酸、第3成分を共重合させたポリエステルなどが好ましく例示される。かかるポリエステルとしては、マテリアルリサイクルまたはケミカルリサイクルされたポリエステルであってもよい。さらには、特開2004−270097号公報や特開2004−211268号公報に記載されているような、特定のリン化合物およびチタン化合物を含む触媒を用いて得られたポリエステルでもよい。該ポリマー中には、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、微細孔形成剤、カチオン染料可染剤、着色防止剤、熱安定剤、蛍光増白剤、艶消し剤、着色剤、吸湿剤、無機微粒子が1種または2種以上含まれていてもよい。なお、ポリエステル以外のポリアミドなどのポリマーでは、布帛の耐光性や耐摩耗性が損われるため好ましくない。
【0025】
前記ポリエステルフィラメント糸は、特開2007−2364号公報に開示されたような、海成分とポリエステルからなりその径が10〜1000nmである島成分とで形成される海島型複合繊維の海成分をアルカリ水溶液で溶解除去してなるフィラメント糸であることが好ましい。
【0026】
すなわち、海成分ポリマーとして、繊維形成性の良好なポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリエチレンなどを用意する。例えば、アルカリ水溶液易溶解性ポリマーとしては、ポリ乳酸、超高分子量ポリアルキレンオキサイド縮合系ポリマー、ポリエチレングルコール系化合物共重合ポリエステル、ポリエチレングリコール系化合物と5−ナトリウムスルホン酸イソフタル酸の共重合ポリエステルが好適である。なかでも、5−ナトリウムスルホイソフタル酸6〜12モル%と分子量4000〜12000のポリエチレングルコールを3〜10重量%共重合させた固有粘度が0.4〜0.6のポリエチレンテレフタレート系共重合ポリエステルが好ましい。
【0027】
一方、島成分ポリマーとして、繊維形成性のポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、第3成分を共重合させたポリエステルなどのポリエステルを用意する。該ポリマー中には、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、微細孔形成剤、カチオン染料可染剤、着色防止剤、熱安定剤、蛍光増白剤、艶消し剤、着色剤、吸湿剤、無機微粒子が1種または2種以上含まれていてもよい。
上記の海成分ポリマーと島成分ポリマーとにおいて、溶融紡糸時における海成分の溶融粘度が島成分ポリマーの溶融粘度よりも大きいことが好ましい。
【0028】
次いで、前記の海成分ポリマーと島成分ポリマーとを用い溶融紡糸する。溶融紡糸に用いられる紡糸口金としては、島成分を形成するための中空ピン群や微細孔群を有するものなど任意のものを用いることができる。その際、島成分の径は、10〜1000nmの範囲とする必要がある。なお、該径が真円でない場合は外接円の直径を求める。また、海島複合重量比率(海:島)は、40:60〜5:95の範囲が好ましく、特に30:70〜10:90の範囲が好ましい。
【0029】
吐出された海島型複合繊維は、冷却風によって固化され、好ましくは400〜6000m/分で溶融紡糸された後に巻き取られる。得られた未延伸糸は、別途延伸工程をとおして所望の強度・伸度・熱収縮特性を有する複合繊維とするか、あるいは、一旦巻き取ることなく一定速度でローラーに引き取り、引き続いて延伸工程をとおした後に巻き取る方法のいずれでも構わない。そして、必要に応じて撚糸を施す。
【0030】
かくして得られた海島型複合繊維において、単糸繊維繊度、フィラメント数、総繊度としてはそれぞれ単糸繊維繊度0.5〜10.0dtex、フィラメント数5〜75本、総繊30〜170dtexの範囲内であることが好ましい。
【0031】
次いで、前記海島型複合繊維を用いて布帛を常法により製編織する。その際、また、布帛の組織は特に限定されず通常の織物または編物でよい。例えば、織物であれば、平織、斜文織、サテン織物等の三原組織、変化組織、変化斜文織等の変化組織、たて二重織、よこ二重織等の片二重組織、たてビロードなどが例示される。層数も特に限定されず単層でもよいし2層以上の多層構造を有する布帛でもよい。
【0032】
また、前記布帛に、本発明の主目的が阻害されない範囲内であれば、常法の染色加工、裏面バックコーテイング、撥水加工、さらには、紫外線遮蔽あるいは制電剤、抗菌剤、消臭剤、防虫剤、蓄光剤、再帰反射剤、マイナスイオン発生剤等の機能を付与する各種加工を付加適用してもよい。
【0033】
本発明のポリエステル布帛には、親水性基を含有しないフルオロアルキルアクリレート共重合体Aと、親水性基を含有するフルオロアルキルアクリレート共重合体Bとが付着しているので、水性汚れに対する防汚性、油性汚れに対する防汚性、および粉塵などのドライソイルに対する防汚性を有する。
【0034】
その際、撥水撥油性としては、JIS L 1092 スプレー試験で測定して3級以上であることが好ましい。また、ドライソイル防汚性としては下記の方法で測定して3級以上であることが好ましい。すなわち、JISL 0849 学振形試験機を用い、所定の汚粉100.1gを塗布して綿布にて600回の擦り付けを行う。その時の荷重は200gとする。汚粉の内訳は、関東ローム層粉20g、コンクリート粉末80g、カーボンブラック0.1gとする。試験後、試験片を取り出し、汚れの程度を汚染用グレースケールにて判定する。
【0035】
次に、本発明の繊維製品は、前記のポリエステル布帛を用いてなる、カーシート地、椅子張り、およびソファーからなる群より選択されるいずれかの繊維製品である。かかる繊維製品は前記のポリエステル布帛を用いているので、水性汚れに対する防汚性、油性汚れに対する防汚性、および粉塵などのドライソイルに対する防汚性を有する。
【実施例】
【0036】
次に本発明の実施例及び比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例中の各測定項目は下記の方法で測定した。
<溶解速度>海・島ポリマーの各々0.3φ−0.6L×24Hの口金にて1000〜2000m/分の紡糸速度で糸を巻き取りし、さらに残留伸度が30〜60%の範囲になるように延伸して、84dtex/24filのマルチフィラメントを作製した。これを各溶剤にて溶解しようとする温度で浴比100にて溶解時間と溶解量から、減量速度を算出した。
<目付け>
JIS L 1096 8.4.2より目付けを測定した。
<単繊維径>
布帛を電子顕微鏡で写真撮影した後、n数5で単繊維径を測定しその平均値を求めた。
<撥水撥油性>
JIS L 1092 スプレー試験を行い、3以上を合格とした。
<ドライソイル防汚性>
JIS L 0849 学振形試験機を用い、所定の汚粉100.1gを塗布して綿布にて600回の擦り付けを行なった。その時の荷重は200gであった。汚粉の内訳は、関東ローム層粉20g、コンクリート粉末80g、カーボンブラック0.1gであった。試験後、試験片を取り出し、汚れの程度を汚染用グレースケールにて判定し、3級以上を合格とした。
【0037】
[実施例1]
島成分としてポリエチレンテレフタレート、海成分として5−ナトリウムスルホイソフタル酸6モル%と数平均分子量4000のポリエチレングリコール6重量%を共重合したポリエチレンテレフタレートを用い(溶解速度比(海/島)=230)、海:島=30:70、島数=836の海島型複合未延伸繊維を、紡糸温度280℃、紡糸速度1500m/分で溶融紡糸して一旦巻き取った。得られた未延伸糸を、延伸温度80℃、延伸倍率2.5倍でローラー延伸し、次いで150℃で熱セットしてポリエステルフィラメント糸A用海島型複合延伸糸として巻き取った。得られた海島型複合延伸糸は56dtex/10filであり、透過型電子顕微鏡TEMによる繊維横断面を観察したところ、島の形状は丸形状でかつ島の径は700nmであった。
【0038】
次いで、該延伸糸を4本引きそろえて撚糸糸条(Z方向、250T/m)とし、スナール対策として温度70℃、時間30分の熱セットを行い経糸とした。
一方、他の繊維としてポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸(総繊度167dtex/48fil、帝人ファイバー社製、捲縮率35%)を用意し、緯糸とした。
次いで、前記経糸と緯糸を使用して、常法により経密度162本/2.54cm、緯密度90本/2.54cmで平組織織物を製織した。
【0039】
次いで、織り上がった生機を、50g/リットルの NaOH水溶液で80℃×20分で30%の減量加工を行うことにより、前記海島型複合延伸糸を単繊維径700nmのポリエステルフィラメント糸とした。
次いで、該織物を染色した後、乾燥し、150℃で熱セットを行った。該織物において、経糸は単繊維径700nmのポリエステルフィラメント糸だけで構成され、緯糸はポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸(単繊維径18μm)だけで構成されていた。また、目付は200g/mであった。
【0040】
次いで、親水性基を含有しないフルオロアルキルアクリレート共重合体Aとして、旭硝子社製「AGE−082」(商品名)を2重量%、親水性基を含有するフルオロアルキルアクリレート共重合体Bとして、ダイキン工業社製「ユニダインTG−9031」(商品名)を4重量%配合した水溶液を作製した後、該水溶液を前記織物にスプレー塗布した。スプレー塗布としては、鈴木産業株式会社製「ハイローターS」を用いて、布帛にウェット状態で80g/mとなるように塗布し、その後、150℃で2分間乾燥をした。
【0041】
かくして得られた布帛において、前記親水性基を含有しないフルオロアルキルアクリレート共重合体Aと、親水性基を含有するフルオロアルキルアクリレート共重合体Bとの重量比は(前者:後者)21:79であった。また、前記親水性基を含有しないフルオロアルキルアクリレート共重合体Aと、親水性基を含有するフルオロアルキルアクリレート共重合体Bの合計重量が、布帛の面積あたり1.52g/mであった。また、撥水撥油性能は3、ドライソイル性能は4級であり、水性汚れに対する防汚性、油性汚れに対する防汚性、および粉塵などのドライソイルに対する防汚性に優れるものであった。
次いで、該布帛を用いてカーシート地を得て使用したところ、水性汚れに対する防汚性、油性汚れに対する防汚性、および粉塵などのドライソイルに対する防汚性に優れるものであった。
【0042】
[実施例2]
実施例1において、親水性基を含有しないフルオロアルキルアクリレート共重合体Aとして、旭硝子社製「AGE−082」(商品名)を6重量%、親水性基を含有するフルオロアルキルアクリレート共重合体Bとして、ダイキン工業社製「ユニダインTG−9031」(商品名)を2重量%配合した水溶液を用いること以外は実施例1と同様にした。
【0043】
かくして得られた布帛において、前記親水性基を含有しないフルオロアルキルアクリレート共重合体Aと、親水性基を含有するフルオロアルキルアクリレート共重合体Bとの重量比は(前者:後者)62:38であった。また、前記親水性基を含有しないフルオロアルキルアクリレート共重合体Aと、親水性基を含有するフルオロアルキルアクリレート共重合体Bの合計重量が、布帛の面積あたり1.04g/mであった。また、撥水撥油性能は3.5、ドライソイル性能は3.5級であり、水性汚れに対する防汚性、油性汚れに対する防汚性、および粉塵などのドライソイルに対する防汚性に優れるものであった。
次いで、該布帛を用いてカーシート地を得て使用したところ、水性汚れに対する防汚性、油性汚れに対する防汚性、および粉塵などのドライソイルに対する防汚性に優れるものであった。
【0044】
[比較例1]
実施例1において、親水性基を含有しないフルオロアルキルアクリレート共重合体Aを含まず、親水性基を含有するフルオロアルキルアクリレート共重合体Bとして、ダイキン工業社製「ユニダインTG−9031」(商品名)を6重量%配合した水溶液を用いること以外は実施例1と同様にした。
かくして得られた布帛において、撥水撥油性能は2、ドライソイル性能は3.5級であり、水性汚れに対する防汚性と油性汚れに対する防汚性に劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によれば、ポリエステルフィラメント糸を含むポリエステル布帛であって、水性汚れに対する防汚性、油性汚れに対する防汚性、および粉塵などのドライソイルに対する防汚性を有する防汚性ポリエステル布帛およびその製造方法および繊維製品が提供され、その工業的価値は極めて大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルフィラメント糸を含むポリエステル布帛であって、該ポリエステル布帛に、親水性基を含有しないフルオロアルキルアクリレート共重合体Aと、親水性基を含有するフルオロアルキルアクリレート共重合体Bとが付着してなることを特徴とする防汚性ポリエステル布帛。
【請求項2】
前記親水性基が水酸基またはカルボキシル基である、請求項1に記載の防汚性ポリエステル布帛。
【請求項3】
前記親水性基を含有しないフルオロアルキルアクリレート共重合体Aと、親水性基を含有するフルオロアルキルアクリレート共重合体Bとの重量比が90:10〜10:90の範囲内である、請求項1または請求項2に記載の防汚性ポリエステル布帛。
【請求項4】
前記親水性基を含有しないフルオロアルキルアクリレート共重合体Aと、親水性基を含有するフルオロアルキルアクリレート共重合体Bの合計重量が、布帛の面積あたり、0.4〜3.0g/mの範囲内である、請求項1〜3のいずれかに記載の防汚性ポリエステル布帛。
【請求項5】
前記ポリエステルフィラメント糸の単繊維径が10〜1000nmの範囲内である、請求項1〜4のいずれかに記載の防汚性ポリエステル布帛。
【請求項6】
前記ポリエステルフィラメント糸Aが、海成分とポリエステルからなりその径が10〜1000nmである島成分とで形成される海島型複合繊維の海成分をアルカリ水溶液で溶解除去してなるフィラメント糸である、請求項5に記載の防汚性ポリエステル布帛。
【請求項7】
ポリエステルフィラメント糸を含むポリエステル布帛に、親水性基を含有しないフルオロアルキルアクリレート共重合体Aと、親水性基を含有するフルオロアルキルアクリレート共重合体Bとを含む組成物を、浸漬処理またはスプレー処理にて付与することを特徴とする、請求項1に記載の防汚性ポリエステル布帛の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載された防汚性ポリエステル布帛を用いてなる、カーシート地、椅子張り、およびソファーからなる群より選択されるいずれかの繊維製品。

【公開番号】特開2010−255143(P2010−255143A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−107772(P2009−107772)
【出願日】平成21年4月27日(2009.4.27)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】