説明

防汚性マット調表面を有した衛生陶器

【課題】 従来マット調表面を形成することが一般的ではなかった衛生陶器の表面において、マット調でありながら、優れた防汚性を示す表面を実現する。
【解決手段】 衛生陶器において、最表面に形成された釉薬層の表面性状が、JIS B0601(2001)で規定される平均高さ(Rc)が2.5μm以下であり、且つ、前記平均高さ(Rc)を平均長さ(RSm)で割った値(Rc/RSm)が、9×10−3より大とすることで、マット調でありながら、優れた防汚性を示す表面を有する衛生陶器が実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は便器、洗面器などの衛生陶器に関し、さらに詳しくはマット調でありながら、優れた防汚性を示す表面を有する衛生陶器に関する。
【背景技術】
【0002】
便器、洗面器などの衛生陶器には、汚れが付着しにくい衛生的な表面を確保するために、また外観意匠性を確保するために、釉薬層がその最表面に形成されている。汚れが付着しにくいことは、使用者に不快な思いをさせないとともに、使用者の清掃負荷を軽減できる。従って、汚れが付着しにくい表面を有する衛生陶器の提案が種々、なされている。
【0003】
一方で、陶磁器の外観意匠性を確保するためには、色彩、光沢、マット調などを釉薬の種類によって設定することが行われている。そのうち、マット調(艶消し調)の表面は、光沢に比べ、落ち着いた雰囲気であることから、高級感のある表面になる。しかしながら、マット調表面は、表面に微細の凹凸ができているために、汚れが付着しやすく、また凹部に入り込んだ汚れが取り除き難いものとなってしまう。従って、マット調の表面はタイルにおいてよく良く利用されているが、衛生陶器にマット調表面を形成することは一般的には行われていない。
【0004】
マット調の表目の表面を形成する手法としては、例えば、マット材となる原料を釉薬に乳濁させる方法(例えば、特開平6−211541号公報(特許文献1))、焼成時に結晶を析出させる方法(特開平2−229736号公報(特許文献2))がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−211541号公報
【特許文献2】特開平2−229736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、今般、マット調の表面でありながら、汚れが付着しにくい表面を見出し、これを衛生陶器に適用すれば、衛生的な表面を確保しながら、落ち着いた、高級感のある衛生陶器が実現できる、との知見を得た。本発明はかかる知見に基づくものである。
【0007】
従って、本発明は、マット調でありながら、優れた防汚性を示す表面を有する衛生陶器の提供をその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そして、本発明による衛生陶器は、最表面に形成された釉薬層の表面性状が、JIS B0601(2001)で規定される平均高さ(Rc)が2.5μm以下であり、且つ、前記平均高さ(Rc)を平均長さ(RSm)で割った値(Rc/RSm)が、9×10−3より大であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明による衛生陶器は、マット調の表面でありながら、汚れが付着しにくい性質を有し、その結果、衛生的な表面を確保しながら、落ち着いた、高級感のある、従って商品価値の高い衛生陶器の提供が可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0010】
定義
本発明において、「衛生陶器」とは、トイレおよび洗面所周りで用いられる陶器製品を意味し、具体的には大便器、小便器、便器のサナ、便器タンク、洗面台の洗面器、手洗い器などを意味する。また、「陶器」とは、陶磁器のうち、素地の焼き締まりがやや吸水性のある程度で、かつ表面に釉薬を施したものを意味する
【0011】
表面性状
本発明による衛生陶器は、最表面に形成された釉薬層の表面性状が、JIS B0601(2001)で規定される平均高さ(Rc)が2.5μm以下、好ましくは0.5μm以上2.5μm以下である。また、同時に、本発明による衛生陶器は、JISB0601(2001)で規定される平均高さ(Rc)を平均長さ(RSm)で割った値(Rc/RSm)が、9×10−3より大、好ましくは12×10−3より大である。このような性状を有する表面は、マット調(艶消し調)でありながら、汚れが付着しにくく、また付着しても容易に除去できるものである。マット調の表面は、落ち着いた、高級感のある雰囲気をもつものであり、これを従来、マット調の表面を形成していなかった衛生陶器に形成することで、これまでになかった商品価値のある衛生陶器の提供が可能となった。
【0012】
本発明による衛生陶器が有する、マット調でありながら、汚れが付着しにくく、また付着しても容易に除去できるとの性質は、マット調は汚れが付着しやすく、また除去し難い、という当業者が有するこれまでの常識に反するものであり、意外性をもって受け入れられるものである。このような効果は、後記する実施例により具体的に明らかにされている。表面の性状、とりわけ平滑または粗さの程度を表わす指標は多数存在する。例えば、JISには、Ra(算術平均粗さ(中心線平均値))、Rsk(非対称度)、Run(突鋭度(とがり))、Rz(最大高さ)、Rc(平均凹凸高さ)、RSm(凹凸の平均波長)などが規定されている。これら多数の中で、上述の値Rcと、値(Rc/RSm)とが一定に範囲内にあることで、マット調と、汚れが付着しにくく、また付着しても容易に除去できる性質が両立しえた。後記する実施例が示す通り、値Rcと、値(Rc/RSm)とが一定に範囲内にある場合に実現でき、そのいずれかの値がわずかに外れるだけでも、本発明による効果は得られない。
【0013】
なお、本発明においてマット調とは、値Rcと、値(Rc/RSm)とが、上記範囲にあることで実現される表面状態を意味するが、本発明の好ましい態様によれば、さらに60°光沢度が約40以下、好ましくは30以下の表面をいうものとする。
【0014】
本発明の好ましい態様によれば、前記釉薬層の表面には結晶粒子が散在しており、その結晶粒子は焼成工程において析出するものであることが好ましい。すなわち、釉薬に含まれる結晶粒子がそのまま釉薬層に残るのはなく、焼成時に結晶粒子は全て融解し、その後に結晶粒子が生成することが好ましい。そして、本発明による好ましい態様にあっては、釉薬層中における前記結晶粒子の体積率が、20vol%〜30vol%とされる。
【0015】
また、本発明の好ましい態様によれば、上記結晶粒子が二価のアルカリ土類元素の化合物の結晶であり、例えば、ジオプサイド(CaO−MgO−2SiO)またはアノーサイト(CaO−Al−SiO)であることが好ましい。
【0016】
本発明による衛生陶器は、上記性状の表面を、衛生陶器の全ての表面に形成してもよいが、好ましくは、大便器および小便器のボール面は、本発明とは異なる防汚性の表面とされ、ボール面以外、具体的には、袴部、リム上面、タンク胴部、タンク蓋部などに上記表面性状の釉薬層を形成することが好ましい。
【0017】
釉薬
本発明による釉薬層を生成する釉薬は、上記した表面性状が実現できる限り、その組成は限定されない。本発明において、一般的には釉薬原料とは、珪砂、長石、石灰石等の天然鉱物粒子の混合物と定義する。また顔料とは、例えば、コバルト化合物、鉄化合物等であり、乳濁剤とは、例えば、珪酸ジルコニウム、酸化錫等である。非晶質釉薬とは、上記のような天然鉱物粒子等の混合物からなる釉薬原料を高温で溶融した後、急冷してガラス化させた釉薬をいい、例えば、フリット釉薬が好適に利用可能である。
【0018】
本発明の好ましい態様によれば、好ましい釉薬組成は、例えば、長石が10wt%〜30wt%、珪砂が15wt%〜40wt%、炭酸カルシウムが10wt%〜25wt%、コランダム、タルク、ドロマイト、亜鉛華が、それぞれ10wt%以下、乳濁剤および顔料が合計15wt%以下のものである。
【0019】
衛生陶器素地
本発明による衛生陶器の 陶器素地は、特に限定されず、通常の衛生陶器素地であってよい。また、最表層の上記表面性状を有した釉薬層の下に、中間層となる釉薬層が設けられていてもよい。
【0020】
製造方法
本発明による衛生陶器は、以下のような方法により好ましく製造することができる。すなわち、まず、陶器素地を、ケイ砂、長石、粘土等を原料として調製した衛生陶器素地泥漿を、吸水性の型を利用した鋳込み成形を用いて、適宜形状に成形する。その後、乾燥させた成形体表面に、上記釉薬原料をスプレーコーティング、ディップコーティング、スピンコーティング、ロールコーティング等の一般的な方法を適宜選択して塗布する。得られた表面釉薬層の前駆層が形成された成形体を、次に焼成する。焼成温度は、陶器素地が焼結し、かつ釉薬が軟化する1,000℃以上1,300℃以下の温度が好ましい。
【実施例】
【0021】
本発明を以下の例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0022】
例1〜15
下記表1の組成からなる天然鉱物粒子2kgと水1kg及び球石4kgを、容積6リットルの陶器製ポットに入れ、ボールミルにより約24時間粉砕し釉薬スラリーを得た。次に、ケイ砂、長石、粘土等を原料として調製した衛生陶器素地泥漿を用いて、70×70mmの板状試験片を作製した。この板状試験片上に、釉薬を濡れ吹き法によるスプレーコーティングで厚み0.5mmになるように塗布し、その後、1100〜1200℃で焼成することで試料を得た。以上のようにして、衛生陶器の例1〜13を得た。
【0023】
また、例14として、市販されている衛生陶器(色品番#N11、TOTO株式会社製)、例15として過去に市販されていた衛生陶器(色品番#N5M、TOTO株式会社製)の釉薬を利用して、例1〜13と同様の板状試験片を用意し、衛生陶器の例14および15とした。
【0024】
【表1】

【0025】
RcおよびRSmの測定
例1〜15の試料について、JIS B0601(2001年)による定義と表示に従い、JIS B0601(1996年)に準拠した触針式表面粗さ測定装置(株式会社ミツトヨ製SV−624)により測定した。
【0026】
光沢度の測定
例1〜15の試料について、その60°光沢度を、JIS Z8741に基づき、光沢計(コニカミノルタ社製GM−268)により測定した。
【0027】
防汚性の評価
以下の方法によって、例1〜15の表面の防汚性を評価した。
(1)サンプル表面のa*を色差計で測定し、その値をa0*とした。なお、以下も含めて、a*の測定時には、5mm幅の白いマスクを線上に被せて、にじみによる測定バラツキを防止した。
(2)赤クレパスでサンプル上に3mm幅の線を書き、線上のa*を色差計で測定し、その値をa1*とした。
(3)市販のトイレ掃除シート(商品名:トイレクイックル)を用いて、線と垂直な方向に25g/cmの荷重をかけた状態で、30往復拭き取った。
(4)摺動後のサンプルのクレパスの線上の色を、色差計で測定し、その値をa2*とした。
(5)汚れ除去性を下記の式から算出した。
汚れ除去性(%)=(a1*−a2*)/(a1*−a0*)
90%以上の汚れ除去性は、除去性が良好と判断できる。
【0028】
結果
以上の結果は、以下の表2に示される通りであった。
【表2】





【特許請求の範囲】
【請求項1】
最表面に形成された釉薬層の表面性状が、JIS B0601(2001)で規定される平均高さ(Rc)が2.5μm以下であり、且つ、前記平均高さ(Rc)を平均長さ(RSm)で割った値(Rc/RSm)が、9×10−3より大であることを特徴とする、衛生陶器。
【請求項2】
前記Rcが、0.5μm以上2.5μm以下である、請求項1に記載の衛生陶器。
【請求項3】
前記Rc/RSmが、10×10−3より大である、請求項1に記載の衛生陶器。
【請求項4】
前記釉薬層の60°光沢度が約40以下である、請求項1に記載の衛生陶器。
【請求項5】
前記釉薬層の表面に、焼成工程において析出する結晶粒子が散在している、請求項1に記載の衛生陶器。
【請求項6】
前記釉薬層が結晶粒子を含んでなり、前記釉薬層中における前記結晶粒子の体積率が、20vol%〜30vol%である、請求項1に記載の衛生陶器。
【請求項7】
前記結晶粒子が、二価のアルカリ土類元素の化合物の結晶である、請求項4または5に記載の衛生陶器。
【請求項8】
前記結晶が、ジオプサイド(CaO−MgO−2SiO)またはアノーサイト(CaO−Al−SiO)である、請求項6に記載の衛生陶器。


【公開番号】特開2012−46364(P2012−46364A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−187923(P2010−187923)
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】