説明

防汚性塗料組成物および該組成物を含む防汚性塗料液

【課題】環境負荷が小さく、しかも防汚性や機械的強度に優れ、かつ、水中においても優れた耐久性を持続可能な防汚性塗膜を形成することが可能な防汚性塗料組成物を提供する。
【解決手段】(A)固形油脂:1〜20重量%および(B)ポリオール樹脂:80〜99重量%を含有することを特徴とする防汚性塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防汚性塗料組成物およびそれを含む防汚性塗料液に関する。さらに詳しくは、高い防汚性能と低環境負荷を両立した耐水棲生物用の防汚性塗膜を作製することができる防汚性塗料組成物および該組成物を溶剤に分散した防汚性塗料液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水中に長期間使用される水中構造物、配水管、漁網、船舶の船底の表面には海藻、貝類、微生物類などの水棲生物が付着し、繁殖するという問題がある。特に船舶において、このような水棲生物が繁殖すると、船底表面の抵抗が増加して、船舶の燃料使用効率の低下を引き起こす。また、このような水棲生物を船底から除去するには、多大な労力が必要となるため、船舶のメンテナンスコストを増大させる一因となっている。また、養殖網や定置網等の魚網に水棲生物が付着し、繁殖すると網目の閉塞による漁獲生物の酸欠致死等の問題を生じるおそれがあり、火力、原子力発電所や大型化学プラント等の海水の給排水管に水棲生物が付着し、繁殖すると冷却水の給排水循環に支障を来し冷却効率が低下するという問題があった。
【0003】
このような被害を抑制する方法として、上記の水棲生物の付着、繁殖を防止する防汚塗料を使用することが行われてきた。従来、このような防汚塗料、特に船舶用の防汚塗料として有機錫等の有機化合物を含む防汚剤として含有する防汚塗料が用いられていた(例えば、特許文献1)。このような防汚塗料は、水棲生物に対する毒性を有する有機化合物を放出して防汚効果を発揮するのみならず、塗料自体も水中に徐々に溶解するため、船底表面を常に清浄に保つことができる。しかしながら、このような毒性を有する有機化合物は人体や生体系へ悪影響を及ぼすため、近年、特に環境負荷の小さい船舶用防汚塗料が検討されている。
【0004】
環境負荷の小さい船舶用防汚塗料等の防汚塗料としては、シリルエステル系防汚塗料組成物((例えば、特許文献2)が提案されている。また、ハロゲン含有アクリレート化合物単量体とメチルメタクリレートのような不飽和単量体の共重合体に酸化銅等の従来から使用されているビヒクルを含有する防汚性塗料組成物(例えば、特許文献3)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭60−94471号公報
【特許文献2】特開平4-264170号公報
【特許文献3】特開2008−1896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2で開示されたシリルエステル系防汚塗料組成物は、有機錫を防汚剤として含む防汚塗料と比較して防汚性能が劣り、また、塗膜の安定性が不十分であるため塗膜が脆弱化しやすく、クラックや剥離が生じるおそれがある。
また、特許文献3で開示された防汚塗料に含まれる銅化合物系防汚剤等のビヒクルは、上記のように従来の有機錫などと比較して毒性が低いものの、大型タンカーなどで多量に使用される場合には、やはり生体系へ悪影響を避けることはできない。
【0007】
このように、これまでの防汚塗料から形成された防汚性塗膜には、防汚性能と、低環境負荷の両方を満足するものが存在しないのが実状である。
かかる状況下、本発明の目的は、環境負荷が小さく、しかも防汚性や機械的強度に優れ、かつ、水中においても優れた耐久性を持続可能な防汚性塗膜を形成することができる防汚性塗料組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、水棲生物の繁殖を防汚剤によって抑制することより、むしろ塗膜への水棲生物の付着を抑制することの方が上記課題の解決に有効であると考え、固形油脂の表面付着抑制性に注目して検討を行った。
元来、固形油脂は、水との親和性が低いため、水棲生物の付着を抑制する作用があるが、水中での耐久性や硬度が不足するため、水中用防汚塗膜としては使用されていない。
一方、特定のポリオール樹脂は、耐久性や機械強度に優れる塗膜が形成できるものの、親水性の性質を有するため、水生生物が付着しやすく水中での防汚性が不十分である。
また、固形油脂は疎水性であり、ポリオール樹脂は親水性であるため、両者を均一に混合することは極めて困難とされていた。
しかしながら、本発明者らの鋭意研究を重ねた結果、固形油脂と、ポリオール樹脂との相溶性は高くないため両者は分離しやすいものの、両者の混合比を好適な一定範囲内とし、均一組成の塗料組成物を得ることができ、該塗料組成物からなる塗膜は、水棲生物の付着を好適に抑制し、かつ、長期間水中で優れた耐久性を持続可能という性質を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> (A)固形油脂:1〜20重量%および(B)ポリオール樹脂:80〜99重量%を含有する防汚性塗料組成物。
<2> (A)固形油脂が、パラフィンワックスである前記<1>記載の防汚性塗料組成物。
<3> (B)ポリオール樹脂が、アクリル系ポリオール樹脂である前記<1>記載の防汚性塗料組成物。
<4> アクリル系ポリオール樹脂が、シリコン変性アクリル系ポリオール樹脂である前記<3>記載の防汚性塗料組成物。
<5> (A)固形油脂と(B)ポリオール樹脂の合計100重量部に対し、さらに(C)天然樹脂:1〜5重量部を含む前記<1>記載の防汚性塗料組成物。
<6> (C)天然樹脂が、ロジンである前記<5>記載の防汚性塗料組成物。
<7> 前記<1>から<6>のいずれかに記載した防汚性塗料組成物を、溶剤に分散してなる防汚性塗料液。
<8> 防汚性塗料組成物と溶剤の比率が55〜70/30〜45(重量比)である前記<7>記載の防汚性塗料液。
<9> 前記溶剤が、炭化水素系溶剤およびエステル系溶剤を含んでなる前記<7>記載の防汚性塗料液。
<10> 前記炭化水素系溶剤が、炭素数6から8の脂肪族又は芳香族系溶剤である前記<9>記載の防汚性塗料液。
<11> 前記炭化水素系溶剤が、ヘキサンを主成分とする溶剤である前記<10>記載の防汚性塗料液。
<12> 前記エステル系溶剤が、酢酸ブチルである前記<9>記載の防汚性塗料液。
<13> 前記<1>から<6>のいずれかに記載した防汚性塗料組成物を含んでなる船舶用防汚性塗膜。
<14> 前記<1>から<6>のいずれかに記載した防汚性塗料組成物を含んでなる原子力発電用導水管
<15> 前記<1>から<6>のいずれかに記載した防汚性塗料組成物を含んでなる海洋構造物用汚性塗膜。
<16> 前記<1>から<6>のいずれかに記載した防汚性塗料組成物を含んでなる養殖用網。
【発明の効果】
【0010】
本発明の防汚性塗料組成物は、環境負荷が小さく、しかも防汚性や機械的強度に優れ、かつ、水中においても優れた耐久性を持続可能な防汚性塗膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】海水暴露試験(1年後)の試料基板3(一部防汚性塗膜なし)の写真である。
【図2】図1の一部拡大写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明は、(A)固形油脂:1〜20重量%および(B)ポリオール樹脂:80〜99重量%を含有する防汚性塗料組成物(以下、単に「本発明の塗料組成物」と呼ぶ場合がある。)に係るものである。
本発明の防汚性塗料組成物の特徴は、水棲生物の付着を抑制する作用を有する(A)固形油脂と、塗膜の耐久性を向上させる作用がある(B)ポリオール樹脂とを含有することにあり、両者を特定の組成で含むことによって、水棲生物の付着を好適に抑制し、かつ、長期間水中で優れた耐久性を持続可能という性質を得ることができる。
また、詳しくは後述するが、該組成物にさらに特定の天然樹脂を添加すると下地基材との密着性が向上し、特に塗膜の剥離を抑制することが可能になる。
以下、本発明の塗料組成物の構成成分を詳細に説明する。
【0014】
[(A)固形油脂]
本発明に用いられる固形油脂(以下、成分(A)と称す。)は、常温において固体あるいは半固体の固形油脂(ワックス)であり、いわゆるパラフィンワックスやマイクロワックスなどの石油系ワックス、天然ワックス、合成ワックスのいずれを用いてもよいが、水中組成物の付着防止に好適な効果が得られ、かつ、入手が容易であるという点でパラフィンワックスが好適である。
パラフィンワックスは、炭素数18〜30程度の直鎖状パラフィン系炭化水素を主成分とする常温において固体あるいは半固体の固形油脂(ワックス)であり、一般に、石油の減圧蒸留留出油から分離精製して製造される。
パラフィンワックスは、通常、その融点で区別され、JIS K 2235では120パラフィン(融点:48.9℃〜51.7℃)から155パラフィン(融点:68.3℃〜71.0℃)まで8種類が規定されている。これらは融点が高温であるほど柔軟性が低下する傾向があり、用途によって、適当な融点を有するものが使用される。例えば、常温で溶融せずに適度な柔軟性を有する船底塗料の場合などは、135パラフィンが好適であり、発電所の排水用導水管など比較的高温環境となる用途では、155パラフィンが好適に使用される。それぞれ市販品としては、日本精蝋株式会社製「PARAFFINWAX−135」、「PARAFFINWAX−155」を好適な一例に挙げることができる。
【0015】
[(B)ポリオール樹脂]
本発明で使用されるポリオール樹脂(以下、成分(B)と称す。)とは、一般にポリウレタン樹脂の主成分として使用される樹脂であり、ポリエーテルポリオール樹脂、ポリエステルポリオール樹脂、アクリルポリオール樹脂、エポキシポリオール樹脂等が挙げられる。このなかでも、アクリルポリオール樹脂、例えば、官能基が2から3のアクリルポリオール樹脂が好適に使用できる。更に、アクリルポリオール樹脂をシリコンで変性したシリコン変性アクリル系ポリオール樹脂が好適に使用される。
【0016】
本発明に好適に用いられるシリコン変性アクリル系ポリオール樹脂としては、
(I)アルコキシシリル基含有オルガノポリシロキサンと水酸基含有アクリル樹脂とを脱アルコール反応させてなる縮重合体、
(II)オルガノポリシロキサン鎖と重合性不飽和基を有するポリシロキサンマクロモノマーと他の重合性不飽和単量体との共重合体、
などを挙げることができる。
【0017】
シリコン変性アクリルポリオールは、水酸基価が20〜100mgKOH/gの範囲内にあり、数平均分子量が10,000〜50,000の範囲内にあることが好適である。
シリコン変性アクリルポリオールとしては、市販品として、ケシゾー(主剤)(川上塗料株式会社製)を好適な一例に挙げることができる。
【0018】
なお、上記ポリオール樹脂は、本塗料組成物からなる塗膜に柔軟性、機械的強度および耐久性を付与するものであるが、この塗膜の柔軟性(硬度)を調整するために次の方法を必要に応じ追加することができる。
(1)ポリオール樹脂と反応しウレタン結合を形成するイソシアネート成分を添加する。
この方法により、塗膜の硬度を上げることができる。
(2)可塑剤を添加する。
この方法により、塗膜の硬度を下げることができる。
【0019】
上記(1)のイソシアネート成分は、(B)ポリオール樹脂の硬化剤として働くものであり、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート類;水素添加キシリレンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)などの環状脂肪族ジイソシアネート類;トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネ−ト、ジフェニルメタンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート類などが挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を組合せて使用することができる。
【0020】
イソシアネート成分の添加量は、本発明の塗料組成物に含まれる(B)ポリオール樹脂の種類や量により、また、防汚性塗膜の目的とする硬度によって、適宜選択されるが、通常、(B)ポリオール樹脂100重量部に対して、1〜30重量部程度である。
【0021】
上記可塑剤としては、本発明の塗料組成物に相溶性があるものであれば特に制限がなく、シリコーン系エラストマー、DOA(ジオクチルアジペート)やDOP(ジオクチルフタレート)などを挙げることができる。可塑剤の添加量は、(B)ポリオール樹脂100重量部に対し、通常、0.5〜20重量部、好ましくは1〜10重量部である。
【0022】
本発明における防汚性塗料組成物中の(A)固形油脂と(B)ポリオール樹脂との組成比率は、(A)固形油脂:1〜20重量%および(B)ポリオール樹脂:80〜99重量%、好ましくは、(A)固形油脂:1〜10重量%および(B)ポリオール樹脂:90〜99重量%である。固形油脂が1重量%未満では水中生物の付着抑制性が不十分となり、一方固形油脂が20重量%を超えると両者が分離して均一に混合することができない。
【0023】
さらに、本発明の塗料組成物には、下地基材との密着性を高めるため、(C)天然樹脂(以下、成分(C)という。)を添加することができる。
成分(C)は、塗料の結合剤としての機能を有し、また、基材との密着性を高めると作用を持つ。特に、成分(C)を添加することによって、本発明の塗料組成物をアルミやステンレスなど、特に金属からなる基材に対して直接形成した場合における密着性を高めることができる。
【0024】
成分(C)として、具体的には、クマロン・インデン系樹脂、テルペン系樹脂、テルペン・フェノール系樹脂、芳香族炭化水素変性テルペン系樹脂、テルペン系水素添加系樹脂、テルペン・フェノール系水素添加系樹脂、ロジン系樹脂、水素添加ロジンエステル系樹脂、ロジン変性フェノール系樹脂、アルキルフェノール系樹脂などが挙げられる。
この中でも、他の成分との相溶性がよく、塗膜が硬化した後に適度な硬度を有することができることから、少なくとも構成成分にロジンを含有する、ロジン系樹脂、水素添加ロジンエステル系樹脂、ロジン変性フェノール系樹脂が好適に使用される。
【0025】
成分(C)を溶解する溶媒は、成分(C)を溶解できればよく特に限定はなく、例えば、酢酸ブチルを好適な一例として挙げることができる。
【0026】
本発明の防汚性塗料組成物に用いられる固形油脂(成分(A))、ポリオール樹脂(成分(B))及び天然樹脂(成分(C))の含有量としては、成分(A)と成分(B)の合計量を100重量部としたとき、成分(C)の含有量が1〜5重量部(好ましくは、2〜4重量部)である。
【0027】
本発明の防汚性塗料組成物は、溶媒中あるいは溶媒非存在下で攪拌することにより合成することができるが、通常、溶媒に分散して船舶用防汚性塗料液(以下、「防汚性塗料液」あるいは、単に「塗料液」と呼ぶ場合もある。)として使用される。
【0028】
溶媒としては、本発明の防汚性塗料組成物を分散できる溶媒であればよく、具体的には、酢酸、プロピオン酸、酪酸等のカルボン酸類;
メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−エチルヘキサノール、シクロヘキサノール、1−ヘキサノール、2−ヘキサノール、1−オクタノール、2−オクタノール、3−オクタノール等のアルコール類;ジグライム、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、ジアリルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン等のエーテル類;
N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;
シクロヘキサノン等のケトン類;トルエン、キシレン、ドデシルベンゼン等の芳香族炭化水素類;
ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素類;
酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸アミル、蟻酸エチル、プロピオン酸ブチル、メトキシプロピルアセテート、γ−ブチロラクトン、ジ(n−オクチル)フタレイト等のエステル類;
エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等を挙げることができ、これらは1種あるいは2種以上を混合して用いることができる。
この中でも、本発明の防汚性塗料組成物の安定性を高め、塗装作業性や塗膜乾燥性が好適になるという観点からは、脂肪族炭化水素類およびエステル類を含むことが望ましい。脂肪族炭化水素類としては、ヘキサンが好適であり、エステル類としては、酢酸ブチルが好適である。
【0029】
本発明の防汚性塗料組成物は、公知の方法で製造することができる。製造する際の各成分の配合順序は任意である。
【0030】
本発明では上記の成分(A)、(B)及び(C)のほかに、必要に応じて従来公知の他の付加的成分を添加してもよい。
例えば、成分(A)、(B)及び(C)に対する相溶化剤、水棲生物への殺傷力を持つ防汚剤、顔料、湿潤剤、反応促進剤、沈澱防止剤などが挙げられる。
これらの含有量には、本発明の目的を損なわない範囲において、特に制限はないが、通常、30重量部以下であり、好ましくは10重量部以下であり、特に好適には3重量部以下である。30重量部より多量に含有すると、塗膜の防汚性能が著しく低下したり、塗膜にワレ、ハガレを生じたりする傾向がある。
【0031】
成分(A)、(B)及び(C)に対する相溶化剤として、石鹸などの界面活性剤を添加することが好ましい。界面活性剤としての石鹸には、直鎖飽和脂肪酸または直鎖不飽和脂肪酸から選ばれた1種以上の脂肪酸およびこれらの塩を含み、直鎖飽和脂肪酸としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸等が挙げられる。直鎖不飽和脂肪酸としては、ゾーマリン酸,オレイン酸,エライジン酸,ガドレイン酸,エルカ酸,リノール酸,リノレン酸,リシノール酸等が挙げられる。また、相溶化剤として、上記の直鎖飽和脂肪酸または直鎖不飽和脂肪酸から選ばれた1種以上を直接添加することもできる。
【0032】
また、水棲生物への殺傷力を持つ防汚剤としては、公知のものを使用することができるが、これらは、塗膜の防汚性能を高める一方、多く添加しすぎると環境負荷が大きくなるため、できるだけ使用を避けることが望ましい。
【0033】
また、顔料としては、体質顔料、防錆顔料、着色顔料があり、具体的には、タルク、クレー、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化ジルコニウム、亜鉛華、ベンガラ、カーボンブラック、シリカ粉、シアニン系着色顔料、酸化クロム、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸カルシウム、リン酸アルミニウム、メタホウ酸バリウム等が挙げられ、目的に応じて1種又は2種以上の混合物として使用する。
【0034】
本発明の塗料液を塗布する下地基材としては、特に限定はなく、金属、樹脂、無機材料などいずれの材料でもよい。
特に船底として利用される下地基材としては、例えば、リン酸亜鉛処理したダル鋼板、亜鉛めっき鋼板が挙げられる。なお、金属性下地基材には、さび止め等の目的で、公知の下塗塗料からなる塗膜を形成してもよい。
【0035】
本発明の防汚性塗料液の下地基材への塗布方法は特に限定されず、従来公知の塗布方法で行うことができる。例えば、スプレー塗装法、ロール塗装法、刷毛塗り塗装法、バーコーター塗装法などを適宜採用することができる。
【0036】
本発明の防汚性塗料液を下地基材に塗布した後の塗膜の乾燥時間は、防汚性塗料液における組成および塗布量で変化するが、少なくとも塗布後20分以上60分以下にすることが可能である。乾燥時間を20分以上にすることで、塗膜の流動性が十分な時間保たれ、特別なレベリング処理をしなくとも平坦で均一な膜厚の連続膜を形成できる。乾燥時間を60分以下にすることで、液だれなどの問題を防ぐことができる。
【0037】
塗膜の硬化時間は、防汚性塗料液における組成および塗布量で変化するが、通常、常温下においては1日程度で硬化する。
【0038】
本発明の防汚性塗膜の膜厚は、本発明の効果を得ることができれば特に限定されるものではなく、通常、1〜200μm程度、平滑な塗膜を形成するという観点からは、好ましくは10〜100μm程度の厚みが挙げられる。
本発明の防汚性塗膜は、防汚性塗料組成物の組成や乾燥時間などにもよるが、1B程度の硬度を有する。そのため、水中においても傷つきづらく、塗膜が剥離しにくい。
【0039】
本発明の塗膜は、従来公知の剥離剤を用いて簡単に剥離することができる。
そのため、何からの理由で施工が失敗し、塗膜にひび割れ、白濁などが生じた場合や使用後に塗膜を剥離し、再施工することができる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。なお実施例中「部」、「%」は重量を基準として示す。
【0041】
実施例に使用した材料は、以下のとおりである。

成分(A):固形油脂(パラフィン)
日本精蝋株式会社製「PARAFFINWAX−135」
成分(B):ポリオール樹脂
川上塗料株式会社製「ケシゾー(主剤)」
(固形分62%、酢酸ブチル34%、添加剤4%)
成分(C):天然樹脂
ハリマ化成株式会社「ロジン」
成分(D):脂肪酸・脂肪酸塩混合物
ロケット石鹸株式会社「サンロケット」
溶媒(a):炭化水素系溶剤
新日本石油化学株式会社製 「ノルマルヘキサン」
(ノルマルヘキサン60%、メチルペンタン8%、 メチルシクロペンタン30%、他の炭化水素2%)
溶媒(b):エステル系溶剤
酢酸ブチル
【0042】
以下の実施例および比較例に記載の特性の測定方法としては次のような条件にて測定した。
<塗膜と基材との密着性>
JIS K5600−5−6(1991)に準拠して、各防汚性塗膜の接着力を測定した。
【0043】
<塗膜表面の剥離性>
JISZ0237(2000)に準拠して測定した。
【0044】
<耐候性>
JIS K5600−7−7(1991)に準拠して測定した。
【0045】
<耐海水性試験>(耐中性塩水噴霧性)
JIS Z 2371(促進試験:1000h)に準拠して測定した。
【0046】
「実施例1」
(1)塗料液1の作製
20Lの溶媒(a)を入れた混合用容器に、上記成分(A)500gを入れて、室温で十分に混合して混合液を得た。次いで、混合液を濾過し、濾液を回収した。
この濾液100gに対して、成分(B)300g及び溶媒(b)30gを入れ、室温で均一になるまで混合することによって、塗料液1を得た。
【0047】
(2)試料基板1の作製
50×120×1.2mmの鋼板に、刷毛塗りで防錆用下地塗料(大信ペイント株式会社製、品名エポンマイルド)を下塗りし、1日間程度室温で乾燥し下地塗膜を形成した。
下地塗膜が形成された鋼板に、塗料液1を乾燥膜厚が20〜30μmとなるよう刷毛塗りで塗料液1を塗布し、1日間室温で乾燥後することで試料基板1を得た。
試料基板1に対して、塗膜と基材との密着性、塗膜表面の剥離性及び耐候性を評価した結果を表1に示す。
【0048】
「実施例2」
(1)塗料液2の作製
20Lの溶媒(a)を入れた混合用容器に、上記成分(A)500gと、成分(D)60gとを入れ、室温で十分に混合して混合液を得た。次いで、混合液を濾過し、濾液を回収した。
この濾液100gに対して、成分(B)300g及び溶媒(b)30gを入れ、室温で均一になるまで混合することによって、塗料液2を得た。
【0049】
(2)試料基板2の作製
実施例1と同様の下地塗膜が形成された鋼板に、塗料液2を乾燥膜厚が20〜30μmとなるよう刷毛塗りで塗料液2を塗布し、1日間室温で乾燥後することで試料基板2を得た。
試料基板2に対して、塗膜と基材との密着性、塗膜表面の剥離性及び耐候性を評価した結果を表1に併せて示す。
【0050】
「実施例3」
(1)塗料液3の作製
20Lの溶媒(a)を入れた混合用容器に、上記成分(A)500gと、成分(D)60gとを入れ、室温で十分に混合して混合液を得た。次いで、混合液を濾過し、濾液を回収した。
この濾液100gに対して、成分(B)300g及び溶媒(b)30gに溶解した成分(C)10gを入れ、室温で均一になるまで混合することによって塗料液3を得た。
【0051】
(2)試料基板3の作製
実施例1と同様の下地塗膜が形成された鋼板に、塗料液3を乾燥膜厚が20〜30μmとなるよう刷毛塗りで塗料液3を塗布し、1日間室温で乾燥後することで試料基板3を得た。
試料基板3に対して、塗膜と基材との密着性、塗膜表面の剥離性及び耐候性を評価した結果を表1に併せて示す。また、耐海水性試験(耐中性塩水噴霧性)の結果、塗料表面に錆の発生はほとんど確認できなかった。
【0052】
「比較例1」
(1)塗料液4の作製
20Lの溶媒(a)を入れた混合用容器に、上記成分(A)500gを入れて、室温で十分に混合して混合液を得た。次いで、混合液を濾過し、濾液を回収した。
この濾液100gに対して、溶媒(b)30gを入れ、室温で均一になるまで混合することによって、塗料液4を得た。
【0053】
(2)試料基板4の作製
実施例1と同様の下地塗膜が形成された鋼板に、塗料液4を乾燥膜厚が20〜30μmとなるよう刷毛塗りで塗料液4を塗布し、1日間室温で乾燥後することで試料基板4を得た。
試料基板4に対して、塗膜と基材との密着性、塗膜表面の剥離性及び耐候性を評価した結果を表1に併せて示す。
【0054】
「比較例2」
(1)塗料液5の作製
20Lの溶媒(a)を入れた混合用容器に、上記成分(A)500gと、成分(D)60gとを入れ、室温で十分に混合して混合液を得た。次いで、混合液を濾過し、濾液を回収した。
この濾液100gに対して、溶媒(b)30gを入れ、室温で均一になるまで混合することによって、塗料液5を得た。
【0055】
(2)試料基板5の作製
実施例1と同様の下地塗膜が形成された鋼板に、塗料液5を乾燥膜厚が20〜30μmとなるよう刷毛塗りで塗料液5を塗布し、1日間室温で乾燥後することで試料基板5を得た。
試料基板5に対して、塗膜と基材との密着性、塗膜表面の剥離性及び耐候性を評価した結果を表1に併せて示す。
【0056】
【表1】

【0057】
<海水暴露試験>
試料基板3を使用して海水暴露試験を行い、防汚性塗料組成物の防汚性の評価を行った。
10枚の試料基板3を、潮の満ち引きを利用して、海水中に12時間/1日浸漬、それ以外は大気暴露する条件で海水を暴露し、1年間における生物の付着状況を目視観察した。図1に海水暴露試験(1年後)の試料基板3(一部防汚性塗膜なし)の写真を示す。また、図2に図1の一部拡大写真を示す。
【0058】
その結果、防汚性塗膜が形成された部分では、海水暴露1年間の何れの時点においても、塗膜表面への水棲生物の付着は確認できなかった。一方、防汚性塗膜が形成されていない部分(下地塗膜なし、下地塗膜のみの部分)では、海水暴露1ヶ月程度からフジツボなどの水棲生物の付着が確認された。また、下地塗膜なしの部分では錆が発生した。
【0059】
「実施例4」
(1)塗料液2の作製
上記実施例2と同様の手順で、塗料液2を得た。
【0060】
(2)試料基板6の作製
実施例2における鋼板(下地塗料あり)の代わりに、50×120×2mmのアルミ基板(下地塗料なし)を使用した以外は実施例2と同様にして、試料基板6を得た。
試料基板6に対して、塗膜と基材との密着性、塗膜表面の剥離性及び耐候性を評価した結果を表2に示す。
【0061】
「実施例5」
(1)塗料液3の作製
上記実施例3と同様の手順で、塗料液3を得た。
【0062】
(2)試料基板7の作製
実施例3における鋼板(下地塗料あり)の代わりに、50×120×2mmのアルミ基板(下地塗料なし)を使用した以外は実施例3と同様にして、試料基板7を得た。
試料基板7に対して、塗膜と基材との密着性、塗膜表面の剥離性及び耐候性を評価した結果を表2に併せて示す。
【0063】
「比較例3」
(1)塗料液5の作製
上記比較例2と同様の手順で、塗料液5を得た。
【0064】
(2)試料基板8の作製
比較例2における鋼板(下地塗料あり)の代わりに、50×120×2mmのアルミ基板(下地塗料なし)を使用した以外は比較例2と同様にして、試料基板8を得た。
試料基板8に対して、塗膜と基材との密着性、塗膜表面の剥離性及び耐候性を評価した結果を表2に併せて示す。
【0065】
【表2】





【0066】
「実施例6」
成分(A)と成分(B)との混合比率を変化させ、溶液の混合性および形成した塗膜の性質を評価した。
上記成分(A)と成分(B)とを、成分(A)の固形油脂と成分(B)における固形成分との合計が100重量%とした場合に、成分(A)の固形油脂の量が0.5、1、5、10、15、20、30(重量%)となるように、溶媒(a):溶媒(b)=1:1を混合した溶剤に添加し、混合した。その結果、固形油脂量が、20重量%までは、溶液は均等に混合することができたが、20重量%を超えると両成分が分離した。
また、成分(A)の固形油脂の量が0.5〜20重量%で均一厚みの塗膜が形成できたが、固形油脂の量が0.5重量%の塗膜は、塗膜表面の剥離性が不十分であった。また、固形油脂の量が10重量%までは塗膜は十分な硬度を有していたが、10重量%を超えると塗膜が軟化した。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の防汚性塗料組成物からなる防汚性塗膜は、基板との密着性および塗膜表面の剥離性が高く、長期にわたり水棲生物の付着、繁殖を抑制することができるので、工業的に極めて有望である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)固形油脂:1〜20重量%および(B)ポリオール樹脂:80〜99重量%を含有することを特徴とする防汚性塗料組成物。
【請求項2】
(A)固形油脂が、パラフィンワックスである請求項1記載の防汚性塗料組成物。
【請求項3】
(B)ポリオール樹脂が、アクリル系ポリオール樹脂である請求項1記載の防汚性塗料組成物。
【請求項4】
アクリル系ポリオール樹脂が、シリコン変性アクリル系ポリオール樹脂である請求項3記載の防汚性塗料組成物。
【請求項5】
(A)固形油脂と(B)ポリオール樹脂の合計100重量部に対し、さらに(C)天然樹脂:1〜5重量部を含む請求項1記載の防汚性塗料組成物。
【請求項6】
(C)天然樹脂が、ロジンである請求項5記載の防汚性塗料組成物。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載した防汚性塗料組成物を、溶剤に分散してなることを特徴とする防汚性塗料液。
【請求項8】
防汚性塗料組成物と溶剤の比率が55〜70/30〜45(重量比)である請求項7記載の防汚性塗料液。
【請求項9】
前記溶剤が、炭化水素系溶剤およびエステル系溶剤を含んでなる請求項7記載の防汚性塗料液。
【請求項10】
前記炭化水素系溶剤が、炭素数6から8の脂肪族又は芳香族系溶剤である請求項9記載の防汚性塗料液。
【請求項11】
前記炭化水素系溶剤が、ヘキサンを主成分とする溶剤である請求項10記載の防汚性塗料液。
【請求項12】
前記エステル系溶剤が、酢酸ブチルである請求項9記載の防汚性塗料液。
【請求項13】
請求項1から6のいずれかに記載した防汚性塗料組成物を含んでなる船舶用防汚性塗膜。
【請求項14】
請求項1から6のいずれかに記載した防汚性塗料組成物を含んでなる原子力発電用導水管。
【請求項15】
請求項1から6のいずれかに記載した防汚性塗料組成物を含んでなる海洋構造物用汚性塗膜。
【請求項16】
請求項1から6のいずれかに記載した防汚性塗料組成物を含んでなる養殖用網。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−111785(P2012−111785A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−46500(P2009−46500)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(597033982)
【Fターム(参考)】