説明

防汚性物品および防汚性物品の製造方法

【課題】有効成分の脱落による防汚性低下の可能性が低く、優れた防汚性を有する防汚性物品およびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の防汚性物品は、表面に下記式(1)で示される有機基を有することを特徴とする。
【化1】


(式中R、Rは、炭素数1〜4のアルキル基を示し、mは0〜4の整数を示す。)
本発明の防汚性物品は、表面に式(1)で示される有機基を有するので、タンパク質が吸着安定化しにくく、優れた防汚性を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に防汚性が付与された繊維、繊維布帛(織物、編物、不織布含む)、繊維積層体(合成皮革、塩化ビニルレザー含む)、フィルムおよびシート等の防汚性物品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、物品の表面に防汚性を発揮する物質を塗布して、様々な物品に対し防汚性を付与するための技術が種々提案されている。
例えば、酸化チタンが樹脂バインダで固定されてなる繊維布帛が提案されている(特許文献1)。この繊維布帛は、酸化チタンの光触媒作用により高い防汚効果が得られるものである。また、特許文献2にはアルキルシリケートと光触媒とを含有するコーティング剤が示されている。特許文献3には疎水性樹脂と光触媒とを混合して含むコーティング剤とその部材が示され、これらの塗布部材には汚れが付着し難い性質があることが記されている。
【特許文献1】特開平8−74171号公報
【特許文献2】特開平11−76923号公報
【特許文献3】特開2001−88247号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、特許文献1ないし3の技術はいずれも、各種の物品の表面に、光触媒を樹脂バインダで固定するものであるため、樹脂バインダが物品から物理的に脱落すると、有効成分である光触媒も同時に失われ、防汚効果が低下する。
【0004】
そこで、本発明の目的は、上述のような欠点がなく、優れた防汚性を有する防汚性物品およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の防汚性物品は、表面に下記式(1)で示される有機基を有することを特徴とする。
【0006】
【化1】

(式中R、Rは、炭素数1〜4のアルキル基を示し、mは0〜4の整数を示す。)
【0007】
本発明の防汚性物品は、表面に式(1)で示される有機基を有するので、タンパク質が吸着安定化しにくく、優れた防汚性を示す。また、表面に式(1)で示される有機基を有する物品は特に湿潤条件下で高い耐摩耗性を示す。
また、本発明の防汚性物品は、その表面に防汚性を発揮する有機基が化学的に結合しており、従来のように有効成分を樹脂バインダで固定するものではないので、有効成分が物理的に脱落することがなく、防汚性が低下しにくい。
【0008】
本発明の防汚性物品において、前記有機基中のmは、0、1および2のいずれかであることが好ましい。
このような構成によれば、有機基中の両性電解質が安定な5〜7員環を形成することができるので、防汚性物品がより優れた防汚性を示す。
【0009】
本発明の防汚性物品において、該防汚性物品は、繊維、繊維布帛(織物、編物、不織布含む)、繊維積層体(合成皮革、塩化ビニルレザー含む)、フィルムおよびシートのいずれかであることが好ましい。
このような構成によれば、繊維、繊維布帛(織物、編物、不織布含む)、繊維積層体(合成皮革、塩化ビニルレザー含む)、フィルムおよびシートが、その表面に式(1)で示される有機基を有するので、タンパク質が吸着安定化しにくく、優れた防汚性を示す。
なお、本発明の防汚性物品に適用される物品の材質は、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂、ナイロン(ポリアミド)系樹脂、アクリル樹脂、ビニル樹脂等の一般に知られている樹脂が挙げられる。
【0010】
本発明の防汚性物品の製造方法は、下記式(2)で示される化合物と化学的に反応し得る官能基を物品の表面に導入する表面処理工程と、下記式(2)で示される化合物と前記表面処理工程で前記物品の表面に導入された前記官能基とを反応させる防汚処理工程と、を備えることを特徴とする。
【0011】
【化2】

(式中R、Rは、炭素数1〜4のアルキル基を示し、mは0〜4の整数を示す。Mは、水素または一価の金属イオンを示す。)
【0012】
本発明の防汚性物品の製造方法は、式(2)で示される化合物と化学的に反応し得る官能基を物品の表面に導入する表面処理工程と、式(2)で示される化合物と前記物品の表面に導入された前記官能基とを反応させる防汚処理工程と、を有するので、様々な物品の表面に、式(1)で示される有機基を導入することができる。
このような本製造方法により製造された防汚性物品は、表面に式(1)で示される有機基を有するので、タンパク質が吸着安定化しにくく、優れた防汚性を示す。また、本発明の防汚性物品は、その表面に防汚性を発揮する有機基が化学的に結合しており、従来のように有効成分を樹脂バインダで固定するものではないので、有効成分が物理的に脱落することがなく、防汚性が低下しにくい。
【0013】
本発明の防汚性物品の製造方法において、前記表面処理工程は、前記物品の表面にラジカルを発生させるラジカル発生工程と、前記ラジカル発生工程により得られた含ラジカル物品の表面に、前記式(2)で示される化合物と化学的に反応し得る官能基を有する重合性化合物をグラフト重合させる表面重合工程と、を含むことが好ましい。
このような構成によれば、表面処理工程が、物品の表面にラジカルを発生させるラジカル発生工程と、ラジカル発生工程により得られた含ラジカル物品の表面に、式(2)で示される化合物と化学的に反応し得る官能基を有する重合性化合物をグラフト重合させる表面重合工程と、を含むので、式(2)で示される化合物と化学的に反応し得る官能基を様々な物品の表面に容易に導入することができる。
【0014】
本発明の防汚性物品の製造方法において、前記ラジカル発生工程は、プラズマ、光、電子線およびガンマ線のいずれかの照射またはオゾン処理によるものであることが好ましい。
このような構成によれば、ラジカル発生工程が、プラズマ、光、電子線およびガンマ線のいずれかの照射またはオゾン処理によるラジカル発生工程によるものであるから、様々な物品の表面に容易にラジカルを発生させることができる。
【0015】
本発明の防汚性物品の製造方法において、前記重合性化合物は、エポキシ基を有し、前記表面重合工程は、前記含ラジカル物品の表面と前記重合性化合物の前記エポキシ基とを反応させることが好ましい。
このような構成によれば、重合性化合物のエポキシ基が、含ラジカル物品の表面のラジカルと容易に反応するので、表面重合工程において、含ラジカル物品の表面と重合性化合物のエポキシ基とを反応させることで、重合性化合物を効率的にグラフト重合させることができる。これにより、式(2)で示される化合物と化学的に反応し得る官能基を、様々な物品の表面に容易に導入することができる。
【0016】
本発明の防汚性物品の製造方法において、前記重合性化合物は、メタクリル酸グリシジルまたはアクリル酸グリシジルであることが好ましい。
このような構成によれば、メタクリル酸グリシジルおよびアクリル酸グリシジルが、式(2)で示される化合物との反応性を有するので、含ラジカル物品の表面に、メタクリル酸グリシジルまたはアクリル酸グリシジルをグラフト重合させる表面重合工程により、式(2)で示される化合物と化学的に反応し得る官能基を、様々な物品の表面に容易に導入することができる。メタクリル酸グリシジルおよびアクリル酸グリシジルは、入手が容易な材料であるから、製造のコストを低く抑えることができる。
【0017】
本発明の防汚性物品は、上述の防汚性物品の製造方法によって製造される防汚性物品であって、繊維、繊維布帛(織物、編物、不織布含む)、繊維積層体(合成皮革、塩化ビニルレザー含む)、フィルムおよびシートのいずれかであることを特徴とする。
本発明によれば、繊維、繊維布帛(織物、編物、不織布含む)、繊維積層体(合成皮革、塩化ビニルレザー含む)、フィルムおよびシートが、上述の防汚性物品の製造方法により製造されるので、その表面に式(1)で示される有機基を有しており、タンパク質が吸着安定化しにくく、優れた防汚性を示す。
なお、本発明の防汚性物品に適用される物品の材質は、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂、ナイロン(ポリアミド)系樹脂、アクリル樹脂、ビニル樹脂等の一般に知られている樹脂が挙げられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳述する。
本実施形態の防汚性物品は、表面に下記式(1)で示される有機基を有する。
【0019】
【化3】

(式中R、Rは、炭素数1〜4のアルキル基を示し、mは0〜4の整数を示す。)
ここで、有機基中の両性電解質が安定な5〜7員環を形成し、より優れたな防汚性が得られることから、有機基中のmは、0、1および2のいずれかであることが好ましい。特に、m=1であることが、電荷の分布が小さく、構造が安定であるため、より好ましい。
【0020】
本実施形態の防汚性物品は、繊維、繊維布帛(織物、編物、不織布含む)、繊維積層体(合成皮革、塩化ビニルレザー含む)、フィルムおよびシートのいずれかであることが好ましい。
なお、本実施形態の防汚性物品に適用される物品の材質は、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂、ナイロン(ポリアミド)系樹脂、アクリル樹脂、ビニル樹脂等の一般に知られている樹脂が挙げられる。
本発明の防汚性物品は、以下のような防汚性物品の製造方法により得ることができる。
【0021】
[防汚性物品の製造方法]
本実施形態の防汚性物品の製造方法は、下記式(2)で示される化合物と化学的に反応し得る官能基を物品の表面に導入する表面処理工程と、下記式(2)で示される化合物と表面処理工程で物品の表面に導入された官能基とを反応させる防汚処理工程と、を備える。
【0022】
【化4】

(式中R、Rは、炭素数1〜4のアルキル基を示し、mは0〜4の整数を示す。Mは、水素または一価の金属イオンを示す。)
【0023】
(1.表面処理工程)
表面処理工程は、物品の表面にラジカルを発生させるラジカル発生工程と、ラジカル発生工程により得られた含ラジカル物品の表面に、式(2)で示される化合物と化学的に反応し得る官能基を有する重合性化合物をグラフト重合させる表面重合工程と、を含む。
【0024】
(1−1.ラジカル発生工程)
ラジカル発生工程は、プラズマ、光、電子線およびガンマ線のいずれかの照射またはオゾン処理により、物品の表面にラジカルを発生させるものである。
例えば、電子線照射により物品の表面にラジカルを発生させる方法を適用することができる。ここで、電子線は物品の表面にラジカルを発生させる強さがあればよいが、200kGyを超えると、基材である物品の強度が弱くなるので好ましくない。
このようなラジカル発生工程により、様々な物品の表面に容易にラジカルを発生させることができる。
【0025】
(1−2.表面重合工程)
表面重合工程は、上述のラジカル発生工程により得られた含ラジカル物品の表面に、式(2)で示される化合物と化学的に反応し得る官能基を有する重合性化合物をグラフト重合させるものである。
ここで、重合性化合物は、エポキシ基を有するものであり、表面重合工程は、含ラジカル物品の表面と重合性化合物のエポキシ基とを反応させるものである。
重合性化合物のエポキシ基が、含ラジカル物品の表面のラジカルと容易に反応するので、表面重合工程において、含ラジカル物品の表面と重合性化合物のエポキシ基とを反応させることで、重合性化合物を効率的にグラフト重合させることができる。これにより、式(2)で示される化合物と化学的に反応し得る官能基を、様々な物品の表面に容易に導入することができる。
【0026】
表面重合工程に用いる重合性化合物としては、例えば、メタクリル酸グリシジルまたはアクリル酸グリシジルを挙げることができる。メタクリル酸グリシジルおよびアクリル酸グリシジルが、式(2)で示される化合物と化学的に反応し得る官能基を有するので、含ラジカル物品の表面に、メタクリル酸グリシジルまたはアクリル酸グリシジルをグラフト重合させる表面重合工程により、式(2)で示される化合物と化学的に反応し得る官能基を様々な物品の表面に容易に導入することができる。
【0027】
表面重合工程として、例えば、0〜100℃のメタクリル酸グリシジルのアルコール溶液に、含ラジカル物品を1分〜24時間浸漬させる方法が適用できる。ここで、温度が0℃未満では、グラフト重合が進みにくく、100℃を超えると、基材となる物品に悪影響を与えたり反応の制御が困難になるため好ましくない。また、浸漬時間が1分未満では、十分な量のメタクリル酸グリシジルを含ラジカル物品の表面にグラフト重合させることができず、24時間を越えると、生産性が低下するため好ましくない。なお、溶液の温度は、5℃〜80℃であることがより好ましく、20℃〜 60℃であることがさらに好ましい。浸漬時間は、1分〜12時間であることがより好ましく、1分〜2時間であることがさらに好ましい。
表面重合工程により、基材表面積1cm当たり、4.0×10−7g以上のメタクリル酸グリシジルがグラフト重合されることが好ましい。
なお、反応に関与しなかったメタクリル酸グリシジルは、繰り返し使用して再利用することができる。
【0028】
(2.防汚処理工程)
防汚処理工程は、式(2)で示される化合物と、表面処理工程で物品の表面に導入された式(2)で示される化合物と化学的に反応し得る官能基と、を反応させ、防汚性物品を得る工程である。
ここで、防汚性物品の表面に導入される有機基中の両性電解質が安定な5〜7員環を形成し、より優れた防汚性が得られることから、式(2)中のmは、0、1および2のいずれかであることが好ましい。特に、m=1のN,N−ジメチル−γ−アミノブタン酸であることが、電荷の分布が小さく、構造が安定であるため、より好ましい。
【0029】
防汚処理工程としては、例えば、0〜100℃のN,N−ジメチル−γ−アミノブタン酸水溶液に、表面処理工程を施した物品を1分〜48時間浸漬させる方法を用いることができる。ここで、温度が0℃未満では、反応が進みにくく、100℃を超えると、基材となる物品に悪影響を与えるため好ましくない。また、浸漬時間が1分未満では、十分な量のN,N−ジメチル−γ−アミノブタン酸を表面処理物品の表面と反応させることができず、48時間を越えると、生産性が低下するため好ましくない。なお、N,N−ジメチル−γ−アミノブタン酸水溶液の温度は、10℃〜80℃であることがより好ましく、20℃〜80℃であることがさらに好ましい。浸漬時間は、5分〜36時間であることがより好ましく、10分〜24時間であることがさらに好ましい。
【0030】
防汚処理工程により、グラフト重合された重合性化合物に対し、0.1〜100当量のN,N−ジメチル−γ−アミノブタン酸が導入されることが好ましい。ここで、N,N−ジメチル−γ−アミノブタン酸が0.1当量未満であると、物品の表面に導入される式(1)で示される有機基の量が少なく、十分な防汚性を得ることができず、100当量を超えると経済的に非効率となるので好ましくない。
なお、反応に関与しなかったN,N−ジメチル−γ−アミノブタン酸は、繰り返し使用して再利用することができる。
このような製造工程により得られた本実施形態の防汚性物品は、表面に式(1)で示される有機基を有するものとなる。
【0031】
以上説明した本実施形態によれば、次のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態の防汚性物品は、表面に式(1)で示される有機基を有するので、タンパク質が吸着安定化しにくく、優れた防汚性を示す。
(2)本実施形態の防汚性物品は、その表面に防汚性を発揮する有機基が化学的に結合しており、従来のように有効成分を樹脂バインダで固定するものではないので、有効成分が物理的に脱落することがなく、防汚性が低下しにくい。
(3)有機基中のmが、0、1および2のいずれかであるから、有機基中の両性電解質が安定な5〜7員環を形成することができるので、防汚性物品がより優れた防汚性を示す。
(4)本実施形態の防汚性物品の製造方法によれば、様々な物品の表面に、式(1)で示される有機基を導入することができ、得られた防汚性物品は優れた防汚性を示す。
【0032】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、下記式(3)で示されるモノマーを含有するコーティング剤を用いて、防汚性物品に適用される物品の表面にコーティング層を形成することにより、防汚性物品とするものであってもよい。
【0033】
【化5】

(式中R、Rは、炭素数1〜4のアルキル基を示し、mは0〜4の整数を示す。Aは、炭素数1〜10の2価の炭化水素基を示し、骨格に酸素原子を含んでいてもよく、また、アルキル基、アリール基、アルコキシル基、ヒドロキシル基、アミノ基およびチオニル基のいずれか一つまたは複数を含んでいてもよい。Xは、重合性基を示す。)
ここで、式(3)の化合物中の両性電解質が安定な5〜7員環を形成し、より優れた防汚性が得られることから、式(3)の化合物中のmは、0、1および2のいずれかであることが好ましい。特に、m=1であることが、電荷の分布が小さく、構造が安定であるため、より好ましい。
【0034】
重合性基であるXは、式(3)の化合物単独あるいは式(3)の化合物と他のモノマーとの重合により、防汚性物品に適用される物品の表面にコーティング層を形成することができるものであればよく、特に限定されないが、例えば、アクロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、アクリロイルアミノ基、メタクリロイルアミノ基、エポキシ基、グリシジルオキシ基、ビニル基、ビニルオキシ基等を挙げることができる。特に、反応性の高さや得られる重合物の化学的安定性から、Xは、メタクリロイルオキシ基またはメタクリロイルアミノ基であることが好ましい。
【0035】
式(3)の化合物は、例えば、3級アミンを有するカルボン酸をメタクリル酸グリシジル等と反応させる方法、メタクリル酸(ジメチルアミノ)エチルと脱離基を有するカルボン酸を反応させる方法等により容易に得ることができる。
このような製造方法によって形成した防汚性物品は、表面に式(3)の化合物の重合により形成されたコーティング層を有し、このコーティング層が式(1)で示される有機基を有するので、前述の実施形態の防汚性物品と同様の良好な防汚性を得ることができる。
【0036】
次に、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例の記載内容に何ら制限されるものではない。
[表面処理物品の作製]
ポリエチレン製の多孔性中空糸膜5gに、照射線量が200kGyとなるように電子線を照射して含ラジカル物品を得た。この含ラジカル物品を、40℃のメタクリル酸グリシジル(GMA)のメタノール溶液(5vol%、200ml)に25分間浸漬させ、表面処理を施した物品(以下GMA膜とする)を得た。
下記の式(4)により算出したGMA膜のグラフト率Gは144%であった。
G=W/W×100 …(4)
(式中Wは、導入されたメタクリル酸グリシジルの重量を示し、Wは、浸漬前の多孔性中空糸膜の重量を示す。)
【0037】
[実施例1]
上述のようにして得られたGMA膜0.120gを、60℃のN,N−ジメチル−アミノブタン酸(DGABA)水溶液(0.5M、10g)に24時間浸漬させたのち、重量変化がなくなるまで真空乾燥させ、0.139gの防汚性物品(以下DGABA膜とする)を得た。
[比較例1]
N,N−ジメチル−アミノブタン酸の代わりにγアミノブタン酸(GABA)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、0.128gのGABA膜を得た。
【0038】
[比較例2]
N,N−ジメチル−アミノブタン酸の代わりにN,N−ジメチル−グリシン(DGly)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、0.136gのDGly膜を得た。
【0039】
[比較例3]
N,N−ジメチル−アミノブタン酸の代わりにグリシン(Gly)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、0.129gのGly膜を得た。
【0040】
[比較例4]
GMA膜を、80℃の硫酸水溶液(0.5M)に2時間浸漬させ、残存エポキシ基をジオール化した後、NaOH水溶液で中和した。水洗後、重量変化がなくなるまで真空乾燥させて、diol膜を得た。
[比較例5]
未加工のポリエチレン製多孔性中空糸膜である(PE膜とする)。
【0041】
[評価方法]
実施例1および比較例1〜5で得られた各種の膜に、pH9.0、50mMの炭酸緩衝液を用いて調整した0.5g/Lのリゾチーム溶液を、10ml/時の流速で膜の内側から外側に向けて透過させた。透過直後のリゾチーム溶液の濃度が、0.5g/Lになるまでリゾチーム溶液の流通を継続し、供給したリゾチームの重量と透過したリゾチームの重量の差から、膜に吸着されたリゾチームの重量(リゾチーム吸着量W)を求めた。
【0042】
次に、リゾチームが吸着した各種の膜に、pH9.0、50mMの炭酸緩衝液を10ml/時の流速で膜の内側から外側に向けて透過、洗浄した。透過後の炭酸緩衝液にリゾチームが含まれなくなるまで炭酸緩衝液の流通を継続し、透過した全炭酸緩衝液中のリゾチームの重量と、上述の各種の膜へのリゾチーム吸着量Wとの差から、洗浄後に膜に残存するリゾチームの重量(リゾチーム残存量W)を求めた。
下記の式(5)により各種の膜の洗浄率aを算出した。
a=(W−W)/W×100 …(5)
また、下記の式(6)により各種の膜上に吸着したリゾチームの積層数bを算出した。
b=W/W …(6)
(式中、Wは、各種の膜の表面にリゾチームが最密に充填したと仮定した場合の吸着量である理論単層吸着量を示す。)
以上の各種評価の結果を表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
[評価結果]
表1から明らかなように、リゾチーム吸着量の多い比較例1〜5に対し、実施例1のDGABA膜ではリゾチーム吸着量が少なく、優れた防汚性を示すことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、表面に防汚性が付与された繊維、繊維布帛(織物、編物、不織布含む)、繊維積層体(合成皮革、塩化ビニルレザー含む)、フィルムおよびシート等の防汚性物品およびその製造方法として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に下記式(1)で示される有機基を有することを特徴とする防汚性物品。
【化1】

(式中R、Rは、炭素数1〜4のアルキル基を示し、mは0〜4の整数を示す。)
【請求項2】
請求項1に記載の防汚性物品において、
前記有機基中のmは、0、1および2のいずれかであることを特徴とする防汚性物品。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の防汚性物品において、
該防汚性物品は、繊維、繊維布帛、繊維積層体、フィルムおよびシートのいずれかであることを特徴とする防汚性物品。
【請求項4】
下記式(2)で示される化合物と化学的に反応し得る官能基を物品の表面に導入する表面処理工程と、
下記式(2)で示される化合物と前記表面処理工程で前記物品の表面に導入された前記官能基とを反応させる防汚処理工程と、を備えることを特徴とする防汚性物品の製造方法。
【化2】

(式中R、Rは、炭素数1〜4のアルキル基を示し、mは0〜4の整数を示す。Mは、水素または一価の金属イオンを示す。)
【請求項5】
請求項4に記載の防汚性物品の製造方法において、
前記表面処理工程は、
前記物品の表面にラジカルを発生させるラジカル発生工程と、
前記ラジカル発生工程により得られた含ラジカル物品の表面に、前記式(2)で示される化合物と化学的に反応し得る官能基を有する重合性化合物をグラフト重合させる表面重合工程と、を含むことを特徴とする防汚性物品の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の防汚性物品の製造方法において
前記ラジカル発生工程は、プラズマ、光、電子線およびガンマ線のいずれかの照射またはオゾン処理によるものであることを特徴とする防汚性物品の製造方法。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載の防汚性物品の製造方法において、
前記重合性化合物は、エポキシ基を有し、
前記表面重合工程は、前記含ラジカル物品の表面と前記重合性化合物の前記エポキシ基とを反応させることを特徴とする防汚性物品の製造方法。
【請求項8】
請求項5ないし請求項7のいずれかに記載の防汚性物品の製造方法において、
前記重合性化合物は、メタクリル酸グリシジルまたはアクリル酸グリシジルであることを特徴とする防汚性物品の製造方法。
【請求項9】
請求項4ないし請求項8のいずれかに記載の防汚性物品の製造方法によって製造される防汚性物品であって、
繊維、繊維布帛、繊維積層体、フィルムおよびシートのいずれかであることを特徴とする防汚性物品。

【公開番号】特開2008−115204(P2008−115204A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−296926(P2006−296926)
【出願日】平成18年10月31日(2006.10.31)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【出願人】(500242384)出光テクノファイン株式会社 (55)
【Fターム(参考)】