説明

防汚性物品及びその製造方法、並びに防汚層形成用塗布剤

【課題】水等の蒸気にさらされても、表面にドット状やスジ状の白濁が浮き出ないような、パーフルオロポリエーテル基含有シランが縮合した層から成る防汚層を具備した、蒸気下で使用する防汚性物品及びその製造方法、並びに該防汚層形成用塗布剤を提供することを課題とする。
【解決手段】表面張力が20.0mN/m以下で、沸点が95〜200℃である有機溶剤で、一般式[1]で表されるパーフルオロポリエーテル基含有シランを溶解してなる、蒸気下で使用される防汚性物品の防汚層形成用塗布剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚染物質が付着しにくく、また付着した汚染物質を除去しやすく、かつ水等
の蒸気にさらされた時にドット状やスジ状に白濁が浮き出た外観にならない防汚層を形成するための塗布剤、及び該塗布剤を用いて防汚層を形成した物品とその製
法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属、ガラス、プラスチック、陶磁器等の基材は、自動車部品、家庭用品、家電製品、OA機器として汎用されている。これらの基材表面には、雨などによる水滴や水垢、浮遊するゴミやたばこのヤニなどの油状物質、人の手による指紋や皮脂などが付着して汚れることが多いため、これらの汚れを付着し難く、さらには、一旦付着した汚れを容易に除去できるような防汚性の機能が求められている。
【0003】
そのような防汚機能を発現するために、これまでに多くの方法が提案されてきた。特許文献1には、パーフルオロアルキルエーテル基を有する化合物からなる防汚剤組成物が開示されている。特許文献2では、撥水性、防汚性および耐久性に優れるパーフルオロポリエーテル基を持つアルコキシシラン化合物を主成分とする処理膜が基材上に形成された撥水処理ガラスが開示されている。特許文献3では、油状の汚染物質に対する防汚性に優れ、特に指紋に対する防汚性に優れた含フッ素ポリマーと該ポリマー層を基材表面に形成した防汚性基材が開示されている。特許文献4では、耐久性、防汚性、特に指紋拭き取り性に優れたパーフルオロポリ変性シラン、およびこれを主成分とする表面処理剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−234071号公報
【特許文献2】特開平11−092177号公報
【特許文献3】国際公開第98/49218号
【特許文献4】特開2003−238577号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の特許文献に示したように、基材表面に防汚性の機能を発現する層(以下、防汚層と記載する)を形成させる場合、該防汚層を構成する材料として、撥水撥油性の高い含フッ素化合物を用いる場合が多い。このような含フッ素化合物の防汚層を基材表面に設けるには、該防汚層の原料を、フッ素系溶剤、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、ケトン系溶剤、炭化水素系溶剤などに溶解または分散した液を塗布する方法が一般に用いられてきた。防汚層の原料を希釈する溶剤として、例えば、特許文献1では、ヘキサフルオロベンゼンが、特許文献2では、イソプロパノールが、特許文献3では、パーフルオロヘキサン等が、特許文献4では、パーフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)が用いられている。
【0006】
しかしながら、適切な溶剤で防汚層原料を希釈した液を基材表面に塗布しなければ、前記液の凝集作用により、液面が盛り上がった部分(以下、「液だまり」と記載する)とそうでない部分が基材表面に混在した状態となりやすい。または、開放系において基材に塗布を行う場合、前記溶剤の蒸発に伴い、基材表面に充分に塗布液が行き渡らない結果、塗布ムラが生じやすい傾向や、塗布作業が難しい傾向がある。また、連続して多数の基材に塗布を行う場合、塗布剤の濃度が変化することにより防汚層の外観や防汚性が基材ごとに安定しなかったりする傾向がある。また、適切な塗布方法で塗布しなければ、塗布ムラが発生しやすい傾向がある。乾燥後に得られる防汚層の表面を払拭等すれば、目視観察でムラのない防汚層を得ることは出来るが、該防汚層表面が水等の蒸気にさらされると、前記液だまりや塗布ムラのあった箇所に選択的に液滴が付着することにより、防汚層表面にドット状やスジ状の白濁が浮き出てしまう問題がある。
【0007】
上記の問題に鑑み、本発明は、水等の蒸気にさらされる機会が多くても表面にドット状やスジ状の白濁が浮き出ない防汚層を形成するための塗布剤、及び該塗布剤からなる防汚層を具備した防汚性物品とその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究の結果、特定の有機溶剤でパーフルオロポリエーテル基含有シランを溶解した塗布剤を用い、該パーフルオロポリエーテル基含有シランが縮合した塗膜層を形成すると、該塗膜層は、防汚機能を発揮し、且つ、水等の蒸気にさらされても表面にドット状やスジ状の白濁が浮き出ない外観を有する防汚層として機能することを見出し、本発明に至った。
【0009】
本発明は、表面張力が20.0mN/m以下で、沸点が95〜200℃である有機溶剤で、下記一般式[1]で表されるパーフルオロポリエーテル基含有シランを溶解してなる、蒸気下で使用される防汚性物品の防汚層形成用塗布剤である。
【化1】

【0010】
(式中、Wはフッ素原子又は下記式の構造で表される置換基を表し、
【化2】

【0011】
Xは、式:−(O)−(CF−(CH−(ここで、g、hおよびiはそれぞれ独立して、0〜50の整数を表し、かつ、gとhの和は1以上であり、括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である。)で示される基を表す。Yは水素原子又は炭素数1〜5の低級アルキル基を表し、Zはメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基、クロロ基、及びイソシアネート基からなる群から選ばれる少なくとも1つの加水分解可能な官能基を表し、Rは炭素数が1〜10のアルキル基を表す。aは0〜50の整数を表し、bは1〜200の整数を表し、cは1〜3の整数を表し、dは1〜10の整数を表し、eおよびfはそれぞれ独立して、0〜5の整数を表し、mおよびnはそれぞれ独立して、0〜50の整数であり、かつ、mとnの和は1以上である。)
また、前記有機溶剤100質量%中にフッ素系溶剤が60〜100質量%含有されることが好ましい。
【0012】
また、前記フッ素系溶剤が、ハイドロフルオロカーボン、パーフルオロカーボン、ハイドロフルオロエーテル、及びハイドロクロロフルオロカーボンからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0013】
また、前記フッ素系溶剤が、パーフルオロカーボン、ハイドロフルオロエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0014】
また、上記の防汚層形成用塗布剤100質量%中に前記一般式[1]で表されるパーフルオロポリエーテル基含有シランが0.01〜5質量%含有されることが好ましい。
【0015】
さらに、本発明は、上記の防汚層形成用塗布剤を用いる、蒸気下で使用される防汚性物品(以降、「蒸気下で使用する防汚性物品」を単に「防汚性物品」とも記載する)の製造方法であって、
(1)前記塗布剤を保持した保持部材を基材表面に接触させて、該保持部材を基材表面上で特定の一方向に往復させて全面に塗布する塗布A、次いで保持部材を再度基材表面に接触させて、該保持部材を基材表面上で前記塗布Aでの塗布方向とは異なる一方向に往復させて塗布剤を全面になじませる塗布B、最後に基材の端部に沿って塗布する塗布Cを有する工程、
(2)前記塗布された塗布剤を乾燥する工程
を含むことを特徴とする、蒸気下で使用される防汚性物品の製造方法である。
【0016】
また、上記の製造方法によって得られる防汚性物品である。
【発明の効果】
【0017】
本発明により得られる防汚性物品は、優れた防汚性能と耐摩耗性を有するとともに、該防汚性物品の防汚層表面が水等の蒸気にさらされても、該表面にドット状やスジ状の白濁が発生することがなく、外観や意匠性が損なわれない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の防汚層形成用塗布剤の好適な塗布方法の一例を表す概略図。
【図2】水蒸気にさらされてドット状の白濁が発生した防汚層表面の図面代用外観写真。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、表面張力が20.0mN/m以下で、沸点が95〜200℃である有機溶剤で、下記一般式[1]で表されるパーフルオロポリエーテル基含有シランを溶解してなる、防汚層形成用塗布剤である。
【化3】

【0020】
(式中、Wはフッ素原子又は下記式の構造で表される置換基を表し、
【化4】

【0021】
Xは、式:−(O)−(CF−(CH−(ここで、g、hおよびiはそれぞれ独立して、0〜50の整数を表し、かつ、gとhの和は1以上であり、括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である。)で示される基を表す。Yは水素原子又は炭素数1〜5の低級アルキル基を表し、Zはメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基、クロロ基、及びイソシアネート基からなる群から選ばれる少なくとも1つの加水分解可能な官能基を表し、Rは炭素数が1〜10のアルキル基を表す。aは0〜50の整数を表し、bは1〜200の整数を表し、cは1〜3の整数を表し、dは1〜10の整数を表し、eおよびfはそれぞれ独立して、0〜5の整数を表し、mおよびnはそれぞれ独立して、0〜50の整数であり、かつ、mとnの和は1以上である。)
前記式[1]において、−[CF−、−[C2mOC2n−、[−(O)−(CF−(CH−]、−[CH−及び、−[CH−で表される部位により、得られる防汚層に優れた防汚性能及び耐摩耗性を付与することができる。従って、上記のようなパーフルオロポリエーテル基含有シランが縮合して形成された防汚層は、優れた防汚性能と耐摩耗性を両立できるため好ましい。
【0022】
また、前記式[1]において、Zで表される、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基、クロロ基、及びイソシアネート基からなる群から選ばれる少なくとも1つの加水分解可能な官能基が縮合して形成された防汚層であることから、該防汚層と基材表面との間に優れた接着性を付与することができる。
【0023】
前記式[1]において、官能基Zの反応性が高すぎると、塗布剤を調合する時の取り扱いが難しくなるだけでなく、塗布剤のポットライフが短くなる。一方、反応性が低すぎると、加水分解反応が十分に進行しなくなり、生成するシラノール基の量が十分でなくなるため、該シラノール基と基材表面の活性種との間で形成される結合(例えば、シロキサン結合をはじめとするメタロキサン結合など)や相互作用(例えば、ファンデルワールス力や静電的相互作用など)が十分でなくなり、該防汚層と基材表面との間に十分な接着性を付与することができなかったり、防汚層の耐久性が低くなったりする。上記を考慮して、官能基Zとしては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基、クロロ基、及びイソシアネート基からなる群から選ばれる少なくとも1つが好ましい。これらの中でも、加水分解可能な官能基の取り扱いの容易さ、塗布剤のポットライフ、得られる防汚層の耐久性を考慮すると、加水分解可能な官能基としてはアルコキシ基が好ましく、中でもメトキシ基、エトキシ基が特に好ましい。
【0024】
前記一般式[1]で表されるパーフルオロポリエーテル基含有シランは、Si−Z部位のZで表される官能基が加水分解することで、基材表面とSi−O−結合すると考えられるが、該パーフルオロポリエーテル基含有シラン中の結合可能部位(Si基含有部位)に含まれるケイ素1モルに対して、該パーフルオロポリエーテル基含有シラン中のフッ素のモル数が20〜200程度であると、基材に良好な撥水性能を付与することが出来るため好ましい。
【0025】
前記一般式[1]で表されるパーフルオロポリエーテル基含有シランでも、下記一般式[2]や、
【化5】

【0026】
(式中、Rfは炭素数が1〜100の直鎖状のパーフルオロアルキル基を表し、pは1〜100の整数、qは0〜2の整数を表す。Y、R、dは一般式[1]と同じである。)
一般式[3]で表される構造を有するパーフルオロポリエーテル基含有シラン
【化6】

【0027】
(式中、Rfは、式:−(C2tO)−(tは1〜6の整数である。)で表される単位を含み、分岐を有しない直鎖状のパーフルオロアルキレンエーテル構造を有する二価の基、または−C2u−(uは1〜8の整数である。)で表される単位を含むパーフルオロアルキル構造で有り、r及びr′はそれぞれ1〜5の整数、s及びs′はそれぞれ0〜2の整数を表す。R、Z、cは一般式[1]と同じである。)
は好ましい化合物であり、このような化合物を含有する市販品としては、ダイキン工業製オプツールDSXやオプツールAES4などのオプツールAESシリーズ、信越化学工業製KY130やKY108、フロロテクノロジー製フロロサーフFG−5020などが挙げられる。なお、前記市販品を用いて本発明の塗布剤を調製する場合、該市販品に含まれる溶剤は、本発明で調製される塗布剤中の溶剤の一部として含まれるものである。
【0028】
本発明の塗布剤中の有機溶剤は、表面張力が20.0mN/m以下である。前記有機溶剤が、20.0mN/m超の表面張力である溶剤であると、前記塗布剤を基材に塗布した際に塗布剤の凝集作用により、液だまり部分と液だまり以外の部分が混在した状態となりやすい。乾燥後に得られる防汚層の表面を払拭して余分な防汚層を取り除き、目視観察でムラのない防汚層を得ることは出来るが、該防汚層表面が水等の蒸気にさらされると、前記液だまりのあった箇所に選択的に液滴が付着することにより、防汚層表面にドット状の白濁が発生し易いため好ましくない。より好ましい有機溶剤は、表面張力が19.5mN/m以下の溶剤であり、さらに好ましくは、表面張力が19.3mN/m以下の溶剤である。なお、液体の表面張力は、例えば、プレート法で測定することができる。
【0029】
また、前記有機溶剤の沸点は、95〜200℃である。95℃未満であると、薬液塗布後の乾燥速度が速すぎ、塗布ムラを生じたり、塗布途中で薬液が揮発することで基材表面に完全に塗り広げられない傾向がある。また、開放系において連続して多数の基材に塗布を行う場合、該有機溶剤の蒸発に伴い、塗布剤中の前記パーフルオロポリエーテル基含有シランの濃度が高くなることにより防汚層の外観や防汚性が基材ごとに安定しない傾向がある。沸点が200℃を超える場合、乾燥させるのに高温もしくは長時間必要になり、産業上デメリットが大きくなる傾向がある。前記有機溶剤の沸点は、より好ましくは105〜180℃である。
【0030】
前記有機溶剤中にフッ素系溶剤が60〜100質量%含有されることが好ましい。有機溶剤中のフッ素系溶剤の濃度が60質量%未満では、前記パーフルオロポリエーテル基含有シランが充分に溶解されなかったり、防汚層表面にドット状やスジ状の白濁が発生し易かったりするため好ましくない。また、開放系において連続して多数の基材に塗布を行う場合、有機溶剤の蒸発に伴う、塗布剤中のパーフルオロポリエーテル基含有シランの濃度変化の影響を受け易くなり防汚層の外観や防汚性が基材ごとに安定し難い傾向がある。有機溶剤中のフッ素系溶剤のより好ましい濃度は70〜100質量%であり、さらに好ましくは80〜100質量%である。
【0031】
前記フッ素系溶剤は、ハイドロフルオロカーボン、パーフルオロカーボン、パーフルオロエーテル、ハイドロフルオロエーテル、及びハイドロクロロフルオロカーボンからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。適切な表面張力、及び適切な沸点を考慮して、より好ましいのはパーフルオロカーボン、ハイドロフルオロエーテルである。環境負荷を考慮すると、前記フッ素系溶剤としては、温暖化係数のより小さいハイドロフルオロエーテルが特に好ましい。
【0032】
前記有機溶剤として1種の有機溶剤を用いる場合、表面張力が20.0mN/m以下で、かつ、沸点が95〜200℃であるフッ素系溶剤を用いることができる。例えば、パーフルオロノナンやパーフルオロデカン、フッ素系不活性液体(例えば、住友3M製「フロリナートFC40」、「フロリナートFC43」、「フロリナートFC3283」)等のパーフルオロカーボンや、1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロ−4−(1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロプロポキシ)−ペンタン(住友3M製「Novec7600」)等のハイドロフルオロエーテルを用いることができる。また、前記有機溶剤として複数種の有機溶剤を用いる場合、混合後の有機溶剤の表面張力が20.0mN/m以下で、かつ、沸点が95〜200℃であればよく、上記のフッ素系溶剤の混合液を用いることができる。また、上記のフッ素系溶剤及びその混合液に、1,1,2,2,3,3,4,4−オクタフルオロブタン、1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、ヘプタフルオロシクロペンタン(日本ゼオン製「ゼオローラH」)、2H,3H−デカフルオロペンタン(デュポン製「バートレルXF」)、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロパノール等のハイドロフルオロカーボン、パーフルオロヘキサン、パーフルオロヘプタン、パーフルオロオクタン(それぞれ、住友3M製「フロリナートPF5060」、「フロリナートPF5070」、「フロリナートPF5080」)、などのC2n+2で表されるパーフルオロアルカン類ヘキサフルオロベンゼン、パーフルオロ−1,3−ジメチルシクロヘキサン、フッ素系不活性液体(住友3M製「フロリナートFCシリーズ」)等のパーフルオロカーボン、パーフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)等のパーフルオロエーテル、メチルパーフルオロブチルエーテル(住友3M製「Novec7100」)、ノナフロロブチルエチルエーテル(住友3M製「Novec7200」)、メチルパーフルオロヘキシルエーテル(住友3M製「Novec7300」)等のハイドロフルオロエーテル、1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン、3,3−ジクロロ−1,1,1,2,2−ペンタフルオロプロパン(旭硝子製「HCFC−225」)等のハイドロクロロフルオロカーボン、及び、ブタン、ヘキサン、2−メチルペンタン、2,2−ジメチルブタン、2,3−ジメチルブタン、2−メチルヘキサン等の炭化水素系溶剤を混合した混合液を用いることができる。
【0033】
前記パーフルオロポリエーテル基含有シランの濃度は、0.01〜5質量%であることが好ましい。該濃度が0.01質量%未満では、基材表面に充分な防汚性能を発現できなかったり、防汚層が不均一になったりするため好ましくない。該濃度が5質量%超では、防汚層の余剰分を取り除くのが困難であったり、取り除く余剰分が多くなり高コストになったりするため好ましくない。防汚性能、余剰分の除去性、コストの観点から、より好ましい濃度範囲は、0.05〜1質量%であり、さらに好ましい濃度範囲は、0.1〜0.4質量%である。
【0034】
また、前記防汚層形成用塗布剤には、前記一般式[1]で表されるパーフルオロポリエーテル基含有シランの加水分解反応、縮合反応を促進する目的で、触媒が添加されてもよい。該触媒としては、例えば、ジブチル錫ジメトキシド、ジラウリル酸ジブチル錫などの有機錫化合物、テトラn−ブチルチタネートなどの有機チタン化合物、酢酸、メタンスルホン酸などの有機酸、塩酸、硫酸などの無機酸が挙げられる。特に酢酸、テトラn−ブチルチタネート、ジラウリル酸ジブチル錫などが好ましい。添加量は、パーフルオロポリエーテル基含有シランの重量に対して0.01〜5重量%、特に0.05〜1重量%が好ましい。
【0035】
また、前記防汚層形成用塗布剤には、本発明の目的を阻害しない範囲で、界面活性剤、架橋剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、難燃剤、加水分解防止剤、防黴剤等を添加しても良い。
【0036】
本発明の防汚性物品は、前記防汚層形成用塗布剤を用いて、少なくとも以下の工程を経て作製される。
【0037】
(1)前記塗布剤を保持した保持部材を基材表面に接触させて、該保持部材を基材表面上で特定の一方向に往復させて全面に塗布する塗布A、次いで保持部材を再度基材表面に接触させて、該保持部材を基材表面上で前記塗布Aでの塗布方向とは異なる一方向に往復させて塗布剤を全面になじませる塗布B、最後に基材の端部に沿って塗布する塗布Cを有する工程。
【0038】
(2)前記塗布された塗布剤を乾燥する工程。
【0039】
本発明において、基材は特に限定されるものではない。例えば、建築物用窓ガラスに使用されているフロート板ガラス、又はロールアウト法で製造されたソーダ石灰ガラス等無機質の透明性がある板ガラスを使用できる。これら板ガラスを用いて形成されるディスプレイ、タッチパネル、ショーケースなどのガラスウィンドウ、パチンコ台など遊技機の前面板などのガラス基材、鏡等の反射性基材、擦りガラス、模様が刻まれたガラス等の半透明または不透明のガラス基材を使用することができる。
【0040】
前記ガラス製基材の他にタイル、瓦、衛生陶器、食器等に使用されるセラミックス材料よりなる基材、ガラス窓等の枠体、調理器、メス、注射針等の医療器具、流し、自動車のボディ等に使用されるステンレス鋼、アルミニウム、鉄鋼等の金属材料、プラスチック製の基材、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリメチルメタアクリレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、その他のプラスチック基材を使用することができる。
【0041】
上記の基材には、平板、曲げ板等各種の成形体を使用でき、大きさや厚さは特に制限されない。基材表面への前記防汚層の形成は、基材面の全面でも一部分であってもよい。
【0042】
また、防汚性物品の耐久性をより向上させるために、基材と防汚層との接着強度を向上させる処理を基材表面に予め行うこともできる。前記の処理としては、各種研磨液による研磨・洗浄・乾燥、酸性溶液または塩基性溶液による表面改質処理、プライマー処理、プラズマ照射、コロナ放電、高圧水銀灯照射等により、基材表面に活性基を発生させることが挙げられる。該活性種と、前記式[1]において、Zで表される加水分解可能な官能基またはそれが加水分解して生成したシラノール基との間で形成される結合(例えば、シロキサン結合をはじめとするメタロキサン結合など)や相互作用(例えば、ファンデルワールス力や静電的相互作用など)によって、防汚層と基材表面との間に十分な接着性を付与することができる。
【0043】
前記塗布剤を基材表面に塗布する工程(1)において、塗布Aにより、基材の全表面に塗布剤を行き渡らせることができる。次いで塗布Bにより、塗膜表面を均一にレベリングさせることができる。塗布Bの前記部材の往復方向は特に限定されないが、塗布Aの前記部材の往復方向と塗布Bの前記部材の往復方向とのなす角θ(θは0°以上、180°未満の範囲で表記する)は、20〜160°の角度となる方向であるとより均一に塗布できるため好ましい。さらに好ましくは45〜135°の角度となる方向である。最後に塗布Cより、塗り忘れや塗布剤の不足が発生しやすい端部に確実に塗布剤を塗布することができる。
【0044】
前記塗布剤を保持するための部材としては、パルプ、アクリル、PET、PP、ナイロン、レーヨンなどを原料とした不織布があるが、特に強度と吸液性の観点からパルプとPPの複合材料が好ましい。
【0045】
防汚層形成用塗布剤を基材表面に塗布する方法としては、刷毛塗り、手塗り、ロボット塗り、及びそれらの併用等各種被膜の塗布方法が可能である。なお、前記塗布剤を保持するための部材を固定した状態で該部材に基材表面を接触させて、該基材を移動することにより塗布することもできる。好ましくは手塗りである。
【0046】
塗布剤を基材に塗布した後の乾燥工程では、前記パーフルオロポリエーテル基含有シランを縮合させることにより、防汚層を形成せしめるとともに、前記パーフルオロポリエーテル基含有シランから生成したシラノール基と基材表面の活性種との間で形成される結合や相互作用により、該防汚層と基材表面との間に十分な接着性を発現せしめる。前記乾燥工程は50〜250℃で行うことが好ましく、より好ましくは100〜200℃であり、常圧下、加圧下、減圧下、不活性雰囲気下で行っても良い。また、マイクロ波加熱も有効である。
【0047】
前記乾燥工程後に得られる防汚層表面に余剰分が存在する場合、該余剰分を払拭し除去する。有機溶剤で湿らした紙タオルや布および/または乾いた紙タオルや布で払拭することにより表面が均一な防汚層が得られる。特に、紙タオルやティッシュペーパーなどの使い捨てすることもできるペーパー類で拭き取ることが好ましい。
【0048】
また、前記防汚層表面が水等の蒸気にさらされて液滴が付着しても、防汚層表面にドット状やスジ状に白濁が浮き出た外観とならないことが好ましい。蒸気等で防汚層表面に液滴が付着しても、防汚性物品が外観や意匠性を損ねることがないためであり、或は、汚れの落ち方に差が生じ外観や意匠性を損ねることがないためである。
【0049】
本発明の製造方法によって得られた防汚性物品のフッ素カウント(フッ素濃度)は、使用する塗布剤の組成や塗布条件等によって異なるが、通常はフッ素カウントが0.2μg/cm以上であれば充分な防汚性能が得られ、より好ましくは0.4μg/cm以上である。また、得られた防汚性物品はその任意の部分におけるフッ素カウントにバラツキが少ないほど、防汚層表面に浮き出るドット状やスジ状の白濁を防ぐことができる。通常はフッ素カウントのバラツキ(最大値と最小値の差)が1.6μg/cm以下であれば、水等の蒸気にさらされて液滴が付着した際に該防汚性物品の外観や意匠は損なわれることはなく、より好ましくは1.3μg/cm以下である。
【0050】
本発明の製造方法によって得られた防汚性物品は、防汚性が求められる環境での使用に適するが、特に蒸気下で使用されることが好ましい。蒸気下とは、蒸気にさらされることの多い環境下のことであり、例えば水蒸気が多量に発生する浴室や洗面台、水、油等の蒸気にさらされるキッチン周り等が挙げられる。よって、蒸気下で使用される防汚性物品は、例えば浴室の水栓金具、鏡、壁、間仕切り、窓、ドアや洗面台の鏡、キャビネット、洗面ボール、水栓金具、カウンターやキッチン周りのパーテーション、キッチンフード、換気扇、調理レンジ、流し周辺やコンビニの保温ケース等に用いることができ、中でも浴室用鏡、洗面台用鏡、キッチンや洗面台などの水周りのパーティーションに適している。
【実施例】
【0051】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。尚、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0052】
本実施例及び比較例では、防汚層形成用塗布剤を調製し、基材上に塗布して、防汚性物品を製造した。塗布剤の調製方法及び防汚性物品の製造方法は後述の通りである。また、塗布剤に用いた有機溶剤の表面張力、得られた防汚性物品の防汚層について、以下に示す方法により品質評価を行った。
【0053】
〔有機溶剤の表面張力〕
協和界面科学株式会社製の自動表面張力計CBVP−Z型によるプレート法にて測定した。プレートの材質は白金とし、測定温度は25±2℃とした。
【0054】
〔耐汚染性〕
防汚層表面に模擬的な汚染としてサインペン(商品名:マッキーケア黒、ゼブラ社製)で線を引き、該サインペンのインクのはじき具合を観察し、紙タオルでインクをふき取り、外観を目視観察し、以下の基準により評価した。
【0055】
○:防汚層表面がインクをはじき、ふき取れる
△:防汚層表面がインクをはじくが、ふき取れない
×:防汚層表面がインクをはじかない
〔耐水垢性〕
防汚層表面に工業用水を噴霧し、50℃3hr乾燥させることにより水垢を付着させ、該表面を紙タオルでふき取り、外観を目視観察し、以下の基準により評価した。
【0056】
○:防汚層表面から水垢をふき取れる
△:防汚層表面から水垢をほぼふき取れるが、一部拭き取れない箇所がある
×:防汚層表面から水垢をふき取れない
〔耐摩耗性(耐研磨性)〕
ガラス用研磨剤ミレークA(T)(三井金属鉱業株式会社製)を水道水に分散させたセリア懸濁液(10質量%)を染み込ませた綿布で、防汚層表面を約1.5kg/cm2の強さで研磨した。研磨領域の70%が親水化するまでの研磨回数(往復)を評価した。ここでは、50回未満を不合格(表1で×と表記)、50回以上を合格(表1で○と表記)、80回以上を良(表1で◎と表記)とした。
【0057】
〔曇ったときの外観〕
室温に保持した防汚性物品の防汚層表面にスチーマーで水蒸気を当てて曇らせ、外観を目視観察し、以下の基準により評価した。
【0058】
○:曇った時にドット状やスジ状の白濁が確認されない
×:曇った時にドット状やスジ状の白濁が確認される
〔連続生産性〕
同一条件で、連続で100枚の基材表面に防汚層を形成し、以下の基準により評価した。
【0059】
◎:100枚すべてにおいて性能(耐汚染性、耐水垢性、耐摩耗性)と曇ったときの外観に問題なく、滞りなく生産できる
○:50枚までのすべてにおいて性能(耐汚染性、耐水垢性、耐摩耗性)と曇ったときの外観に問題なく、滞りなく生産できる
×:50枚までの中で品質や外観にNG品が発生する
〔塗布のし易さ〕
10mlの防汚層形成用塗布剤を用いて、300mm×300mmサイズのフロートガラス基板の表面を塗布できた枚数を評価した。
【0060】
〔フッ素カウント〕
蛍光X線分析装置ZSX PrimusII((株)リガク製)で、フッ素濃度を5点測定し、バラツキ(最大値と最小値の差)を評価した。
【0061】
実施例1
(I)防汚層形成用塗布剤の調製
オプツールDSX(ダイキン工業製:パーフルオロポリエーテル基含有シランのパーフルオロヘキサン溶液(固形分濃度20質量%)であり、推定構造は一般式[2]である。)0.75gを表面張力が17.7mN/m、沸点が131℃であるNovec7600(住友3M製:1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロ−4−(1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロプロポキシ)ペンタン)50.0gに溶解し、30分室温で攪拌し、パーフルオロポリエーテル基含有シランの濃度が0.3質量%の塗布剤を得た。
【0062】
(II)基材(ガラス基板)の準備
300mm×300mm×2mm厚サイズのフロートガラス基板の表面を、研磨液を用いて研磨し、水洗及び乾燥した。なお、前記研磨液としてガラス研磨剤ミレークA(T)(三井金属工業製)を水に混合した2質量%のセリア懸濁液を用いた。
【0063】
(III)防汚層の形成
上記(I)で調製した塗布剤1.0mlを保持した綿布(商品名:ベンコット)をガラス基板上に接触させて、図1に示すように、塗布Aとして特定の一方向(図1中では横方向)に往復させて全面に塗布し、次いで、塗布Bとして塗布Aの塗布方向に対して約90°となる方向(図1中では縦方向)に往復させて全面に塗布し、最後に、塗布Cとして端部に沿って塗布した(表1中で「手塗りによる好適塗布(90°)」と記載する)後、該ガラス基板を電気炉に入れ12分間乾燥した。この時、ガラスの最高到達温度(乾燥温度)は150℃であった。最後に、目視で白くまだらに残留している余剰な成分をイソプロピルアルコールで湿らせた紙タオルで拭き上げて、目視観察で表面が均一な透明なサンプルを得た。得られた防汚性物品の防汚層は、耐汚染性が○、耐水垢性が○、耐摩耗性が◎、曇った時の外観が○であり、優れた防汚性能、耐摩耗性を有するとともに、該防汚性物品の防汚層表面が水等の蒸気にさらされても、該表面にドット状やスジ状の白濁が発生することがなかった。また、連続で100枚生産しても問題なかった。また、10mlの防汚層形成用塗布剤を用いて、300mm×300mmサイズのフロートガラス基板の表面を10枚塗布することができた。また、フッ素カウントのバラツキが0.2μg/cmであった。品質評価結果を表1に示す。
【表1】

【0064】
実施例2〜7
実施例1のパーフルオロポリエーテル基含有シランの種類、濃度、有機溶剤の種類、有機溶剤中のフッ素系溶剤の濃度、塗布方法を適宜変更して、目視観察で表面が均一な透明なサンプルを得た。該サンプルの品質評価結果を表1に示す。表1中の「KY130」とは、信越化学工業製のパーフルオロポリエーテル基含有シランのメタキシレンヘキサフロライド溶液(固形分濃度20質量%)であり、推定構造は一般式[3]である。
【0065】
実施例8
希釈溶媒をNovec7600とヘキサンを同量混合した溶媒(表1中で「Novec7600/ヘキサン=9/1」と記載する)とした以外は、すべて実施例1と同じとし目視観察で表面が均一な透明なサンプルを得た。得られた防汚性物品の防汚層は、耐汚染性が△、耐水垢性が△、耐磨耗性が○、曇ったときの外観が〇であり、優れた防汚性能、耐摩耗性を有すると共に、該防汚性物品の防汚層表面が水等の上記にさらされても、該表面にドット状やスジ状の白濁が発生することはなかった。また、連続で100枚生産しても問題なかった。10mlの防汚層形成用塗布剤を用いて、300mm×300mmサイズのフロートガラス基板の表面を10枚塗布することができた。また、フッ素カウントのバラツキが0.2μg/cmであった。品質評価結果を表1に示す。
【0066】
実施例9
乾燥温度を100℃とし、刷毛塗りした(表1中で「刷毛塗りによる好適塗布(90°)」と記載する)以外は、すべて実施例1と同じとし目視観察で表面が均一な透明なサンプルを得た。得られた防汚性物品の防汚層は、耐汚染性が○、耐水垢性が○、耐摩耗性が◎、曇った時の外観が○であり、優れた防汚性能、耐摩耗性を有するとともに、該防汚性物品の防汚層表面が水等の蒸気にさらされても、該表面にドット状やスジ状の白濁が発生することがなかった。また、連続で100枚生産しても問題なかった。また、10mlの防汚層形成用塗布剤を用いて、300mm×300mmサイズのフロートガラス基板の表面を10枚塗布することができた。また、フッ素カウントのバラツキが0.2μg/cmであった。品質評価結果を表1に示す。
【0067】
実施例10
塗布Bとして塗布Aの塗布方向に対して約45°となる方向に往復させて全面に塗布した(表1中で「手塗りによる好適塗布(45°)」と記載する)以外は、すべて実施例1と同じとし目視観察で表面が均一な透明なサンプルを得た。得られた防汚性物品の防汚層は、耐汚染性が○、耐水垢性が○、耐摩耗性が◎、曇った時の外観が○であり、優れた防汚性能、耐摩耗性を有するとともに、該防汚性物品の防汚層表面が水等の蒸気にさらされても、該表面にドット状やスジ状の白濁が発生することがなかった。また、連続で100枚生産しても問題なかった。また、10mlの防汚層形成用塗布剤を用いて、300mm×300mmサイズのフロートガラス基板の表面を10枚塗布することができた。また、フッ素カウントのバラツキが0.1μg/cmであった。品質評価結果を表1に示す。
【0068】
実施例11
塗布Bとして塗布Aの塗布方向に対して約35°となる方向に往復させて全面に塗布した(表1中で「手塗りによる好適塗布(35°)」と記載する)以外は、すべて実施例1と同じとし目視観察で表面が均一な透明なサンプルを得た。得られた防汚性物品の防汚層は、耐汚染性が〇、耐水垢性が〇、耐摩耗性が◎、曇った時の外観が○であり、防汚性能、耐摩耗性を有するとともに、該防汚性物品の防汚層表面が水等の蒸気にさらされても、該表面にドット状やスジ状の白濁が発生することがなかった。また、連続で100枚生産しても問題なかった。また、10mlの防汚層形成用塗布剤を用いて、300mm×300mmサイズのフロートガラス基板の表面を10枚塗布することができた。また、フッ素カウントのバラツキが0.2μg/cmであった。品質評価結果を表1に示す。
【0069】
比較例1
有機溶剤を表面張力が21.7mN/m、沸点が82℃であるイソプロピルアルコールとした以外は、すべて実施例1と同じとした。調製した塗布剤は白濁した液体であったが、目視観察で表面が均一なサンプルが得られた。得られたサンプルの防汚層は、耐汚染性が×、耐水垢性が×、耐摩耗性が×、曇った時の外観は図2に示すようにドット状の白濁が発生し×であった。また、フッ素カウントのバラツキが1.7μg/cmであった。品質評価結果を表2に示す。
【表2】

【0070】
比較例2
塗布方法として、5mm/秒の引き上げ速度でガラス基板にディップコーティングを行ったのみ(表1中で「ディップコーティングのみ」と記載する)で、そのまま乾燥工程に移ったこと以外は、すべて比較例1と同じとした。調製した塗布剤は白濁した液体であったが、目視観察で表面が均一なサンプルが得られた。得られたサンプルの防汚層は、耐汚染性が×、耐水垢性が×、耐摩耗性が×、曇った時の外観はドット状およびスジ状の白濁が発生し×であった。また、フッ素カウントのバラツキが2.0μg/cmであった。品質評価結果を表2に示す。
【0071】
比較例3
有機溶剤を表面張力が20.3mN/m、沸点が83℃であるゼオローラH(日本ゼオン製:ヘプタフルオロシクロペンタン)とした以外は、すべて実施例1と同じとし、目視観察で表面が均一な透明なサンプルを得た。得られたサンプルの防汚層は、耐汚染性が○、耐水垢性が○、耐摩耗性が◎、曇った時の外観はドット状の白濁が発生し×であった。また、フッ素カウントのバラツキが2.0μg/cmであった。品質評価結果を表2に示す。
【0072】
比較例4
塗布方法として、メイヤーバー法によりガラス基板に塗布を行ったのみ(表1中で「メイヤーバー法のみ」と記載する)で、そのまま乾燥工程に移ったこと以外は、すべて比較例3と同じとし、目視観察で表面が均一な透明なサンプルを得た。得られたサンプルの防汚層は、耐汚染性が〇、耐水垢性が〇、耐摩耗性が〇、曇った時の外観はドット状およびスジ状の白濁が発生し×であった。また、フッ素カウントのバラツキが2.1μg/cmであった。品質評価結果を表2に示す。
【0073】
比較例5
有機溶剤を表面張力が11.7mN/m、沸点が57℃であるPF5060(住友3M製:パーフルオロヘキサン)とした以外は、すべて実施例1と同じとし、目視観察で表面が均一な透明なサンプルを得た。得られたサンプルの防汚層は、耐汚染性が○、耐水垢性が○、耐摩耗性が○、曇った時の外観は〇であった。しかし、連続で50枚までの生産において、溶媒が揮発して塗布剤の固形分濃度が高くなった結果、均一に塗布することができなくなり、防汚層の外観や防汚性が基板ごとに安定しなくなった。従って、生産性は×である。また、10mlの防汚層形成用塗布剤を用いて、300mm×300mmサイズのフロートガラス基板の表面を2枚塗布することができた。また、フッ素カウントのバラツキが0.2μg/cmであった。品質評価結果を表2に示す。
【0074】
比較例6
有機溶剤を表面張力が11.7mN/m、沸点が57℃であるPF5060(住友3M製:パーフルオロヘキサン)とし、塗布方法として、フローコート法を使用し(表1中で「フローコート法のみ」と記載する)、そのまま乾燥工程に移ったこと以外は、すべて実施例1と同じとし、目視観察で表面が均一な透明なサンプルを得た。得られたサンプルの防汚層は、耐汚染性が〇、耐水垢性が〇、耐摩耗性が〇、曇った時の外観は〇であった。しかし、連続で50枚までの生産において、溶媒が揮発して塗布剤の固形分濃度が高くなった結果、均一に塗布することができなくなり、防汚層の外観や防汚性が基板ごとに安定しなくなった。従って、生産性は×である。また、10mlの防汚層形成用塗布剤を用いて、300mm×300mmサイズのフロートガラス基板の表面を2枚塗布することができた。また、フッ素カウントのバラツキが0.8μg/cmであった。品質評価結果を表2に示す。
【0075】
比較例7
有機溶剤を表面張力が20.7mN/m、沸点が115℃である1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンとした以外は、すべて実施例1と同じとし、目視観察で表面が均一な透明なサンプルを得た。得られたサンプルの防汚層は、耐汚染性が○、耐水垢性が○、耐摩耗性が◎、曇った時の外観はドット状の白濁が発生し×であった。また、フッ素カウントのバラツキが2.2μg/cmであった。品質評価結果を表2に示す。
【0076】
比較例8
実施例5における有機溶剤をNovec7300とヘキサンの混合液とした。該混合液中のフッ素系溶剤の濃度は50質量%である。なお、該混合液の表面張力は約16.7mN/m、沸点は約84℃である。その結果、目視観察で表面が均一な透明なサンプルを得た。得られた防汚性物品の防汚層は、耐汚染性が△、耐水垢性が△、耐摩耗性が〇、曇った時の外観はドット状の白濁が発生し×であった。また、フッ素カウントのバラツキが1.7μg/cmであった。品質評価結果を表2に示す。
【符号の説明】
【0077】
1 ガラス基板
2 塗布剤を保持した部材
3 塗布剤を保持した部材をガラス基板に接触させて塗布剤を塗布する方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面張力が20.0mN/m以下で、沸点が95〜200℃である有機溶剤で、下記一般式[1]で表されるパーフルオロポリエーテル基含有シランを溶解してなる、蒸気下で使用される防汚性物品の防汚層形成用塗布剤。
【化1】

(式中、Wはフッ素原子又は下記式の構造で表される置換基を表し、
【化2】

Xは、式:−(O)−(CF−(CH−(ここで、g、hおよびiはそれぞれ独立して、0〜50の整数を表し、かつ、gとhの和は1以上であり、括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である。)で示される基を表す。Yは水素原子又は炭素数1〜5の低級アルキル基を表し、Zはメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基、クロロ基、及びイソシアネート基からなる群から選ばれる少なくとも1つの加水分解可能な官能基を表し、Rは炭素数が1〜10のアルキル基を表す。aは0〜50の整数を表し、bは1〜200の整数を表し、cは1〜3の整数を表し、dは1〜10の整数を表し、eおよびfはそれぞれ独立して、0〜5の整数を表し、mおよびnはそれぞれ独立して、0〜50の整数であり、かつ、mとnの和は1以上である。)
【請求項2】
前記有機溶剤100質量%中にフッ素系溶剤が60〜100質量%含有されることを特徴とする、請求項1に記載の前記防汚層形成用塗布剤。
【請求項3】
前記フッ素系溶剤が、ハイドロフルオロカーボン、パーフルオロカーボン、ハイドロフルオロエーテル、及びハイドロクロロフルオロカーボンからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の前記防汚層形成用塗布剤。
【請求項4】
前記フッ素系溶剤が、パーフルオロカーボン、ハイドロフルオロエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の前記防汚層形成用塗布剤。
【請求項5】
前記防汚層形成用塗布剤100質量%中に前記一般式[1]で表されるパーフルオロポリエーテル基含有シランが0.01〜5質量%含有されることを特徴とする、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の前記防汚層形成用塗布剤。
【請求項6】
請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の防汚層形成用塗布剤を用いる蒸気下で使用される防汚性物品の製造方法であって、
(1)前記塗布剤を保持した保持部材を基材表面に接触させて、該保持部材を基材表面上で特定の一方向に往復させて全面に塗布する塗布A、次いで前記保持部材を再度基材表面に接触させて、該保持部材を基材表面上で前記塗布Aでの塗布方向とは異なる一方向に往復させて塗布剤を全面になじませる塗布B、最後に基材の端部に沿って塗布する塗布Cを有する工程、
(2)前記塗布された塗布剤を乾燥する工程を含むことを特徴とする、蒸気下で使用される防汚性物品の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の製造方法によって製造方法によって製造され、蒸気下で使用される防汚性物品。
【請求項8】
前記防汚性物品が、浴室用もしくは洗面化粧用の防汚性鏡、又は、キッチンや洗面台などの水周りのパーティーションのいずれかであることを特徴とする請求項1乃至請求項5に記載の防汚層形成塗布剤。
【請求項9】
前記防汚性物品が、浴室用もしくは洗面化粧用の防汚性鏡、又は、キッチンや洗面台などの水周りのパーティーションのいずれかであることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記防汚性物品が、浴室用もしくは洗面化粧用の防汚性鏡、又は、キッチンや洗面台などの水周りのパーティーションのいずれかである請求項7に記載の防汚性物品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−144695(P2012−144695A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192997(P2011−192997)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】