説明

防汚性部材

【課題】 充分な膜強度を有し、かつ長期にわたり安定的に汚れを付着しにくく、菌の繁殖も有効に防止しうる防汚性部材を提供すること。
【解決手段】 基材表面に無機質の親水性物質と光触媒機能を有する親水性物質からなる層が形成されている、あるいは基材表面に、光触媒機能を有する無機質の親水性物質からなる層が形成されていることを特徴とする防汚性部材。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、水のある環境下で使用される部材(水により洗浄可能な基材を含む)すなわち、浴槽、洗面器、流し台、便器、外装用建材等およびその一部として、好適に使用できる防汚性部材に関する。
【0002】
【従来の技術】従来より、水のある環境下で使用される部材には、ステンレス等の金属材料、FRPやABS等のプラスチック材料、ホーロー、タイル、衛生陶器等の無機材料などが使用されている。また、水のある環境下で使用される場合の汚れ成分は、油脂、タンパク質等の疎水性成分からなるので、基材表面が疎水性だと、汚れ成分が表面に強固に付着しやすく、水をはじきやすいために、水では汚れを落としにくい。
【0003】ステンレス等の金属材料、FRPやABS等のプラスチック材料の多くは、疎水性物質からなる。そこで、近年、汚れ成分が強固に付着するのを防止すべく、撥水性樹脂の使用が提案されている。撥水性樹脂の場合は表面エネルギーが小さいので全ての成分が付着しにくい。すなわち汚れ成分も水もはじくので、防汚性が向上するのである。
【0004】しかし、フッ素樹脂等の撥水性樹脂は、一般に、柔らかく傷がつきやすい。そして一度傷が付くと、そこを起点として汚れが付きやすく、しかもその部分をさらに数日放置すると、菌の繁殖等により汚れが強固に付着してしまう傾向がみられた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】それに対し、水のある環境下で使用される場合、基材表面が親水性だと、水になじみやすく、汚れになじみにくいため、疎水性の汚れ成分が表面に付着しにくい。またたとえ付着しても水により汚れを落としやすい。
【0006】しかしながら、一般に広く知られている親水性高分子であるポリアミド、ポリフッ化ビニリデン等は柔らかく、膜形成したときに膜強度が弱いという欠点があった。
【0007】また、ホーロー、施釉タイル等の無機ガラス質材料は、一般に親水性を有し、膜強度も強い。そして製造時には、水に対する接触角で5〜20°程度と良好な親水性を示す。しかし、この場合、汚れ成分にプロピオン酸等の極性成分があると、表面に極性成分が徐々に吸着し、時間の経過とともに表面が疎水化されてしまう(「ガラス表面設計」、近代編集社(1983))ので、次第に汚れが付きやすくなってしまう。
【0008】本発明では、以上の事情に鑑み、充分な膜強度を有し、かつ長期にわたり安定的に汚れを付着しにくく、菌の繁殖も有効に防止しうる防汚性部材を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明では上記課題を解決すべく、基材表面に、無機質の親水性物質と光触媒機能を有する親水性物質からなる層が形成されていることを特徴とする防汚性部材、あるいは基材表面に、光触媒機能を有する無機質の親水性物質からなる層が形成されていることを特徴とする防汚性部材を提供する。本発明の好ましい態様においては、前記光触媒機能を有する物質は、前記層中にわたり0.3μmを超える厚さで存在し、より好ましくは0.6μm以上で存在するようにする。
【0010】
【作用】水のある環境下で使用される部材において、基材表面に無機質の親水性物質と光触媒機能を有する親水性物質からなる層が形成されている、あるいは基材表面に、光触媒機能を有する無機質の親水性物質からなる層が形成されているようにすることにより、充分な膜強度を有し、かつ長期にわたり安定的に汚れを付着しにくく、菌の繁殖も有効に防止できるようになる。また光を照射することにより表面に極性成分が吸着してもそれらを光触媒機能により分解するとともに、表面の親水性が回復する。
【0011】基材表面が親水性物質で形成されていることにより、疎水性の汚れ成分が表面に付着しにくい。加えて、基材表面に光触媒機能を有する物質が存在することにより、汚れ成分にプロピオン酸等の極性成分がある場合でも、かかる吸着成分が時間の経過とともに、光触媒により分解されるので、表面の疎水化を有効に防止できる。また、光触媒により生成される活性酸素の働きにより、菌の繁殖も有効に防止できる。
【0012】基材表面が無機質の材料で形成されていることにより、充分な膜強度を有する親水性物質からなる層を実現できる。光触媒機能を有する物質は、前記層中にわたり0.3μmを超える厚さで存在するようにすると、吸着成分の分解が充分になされるようになる。
【0013】
【実施例】本発明の具体的な実施例について以下に図に基づいて説明する。図1は本発明の実施態様を示す図であり、基材表面に、無機質の親水性物質と光触媒機能を有する親水性物質からなる層が形成されている。図2は本発明の他の実施態様を示す図であり、基材表面に、光触媒機能を有する無機質の親水性物質からなる層が形成されている。
【0014】ここで基材の材質は、セラミック、陶磁器材料、金属、ガラス、プラスチック、化粧合板、ケイ酸カルシウム、モルタルあるいはそれらの複合物等基本的に何でもよい。基材の形状もどのようなものでもよく、例えば、タイル、壁材、床材等の板状物や、球状物、円柱状物、円筒状物、棒状物、角柱状物、中空の角柱状物などの単純形状のものでも、衛生陶器、洗面台、浴槽、流し台等およびその付属品などの複雑形状のものでもよい。
【0015】ここで親水性物質とは、汚れが付着しにくい程度に親水性を示す物質であり、水に対する接触角が30°未満の物質をいう。以下に具体的に説明する。図3R>3は種々の樹脂を用い、水に対する接触角と汚れの付き易さとの関係を調べた図である。ここで水に対する接触角は接触角測定器により、汚れの付き易さについては、図4に示すように試料を人工浴槽水(人の排出する垢とラードと石鹸を混合したぬるま湯)に3時間浸漬し、浸漬前後の水位面付近の比光沢度を求め、評価の指標とした。ここで比光沢度とは、浸漬前の初期の光沢度を1としたときの、浸漬後の光沢度のことである。図3より水に対する接触角が70°付近で比光沢度は最も低下し、汚れが付着しやすくなった。そして水に対する接触角が小さくなると比光沢度は接触角を大きくする場合より向上し、30°未満になるとほとんど変化しなくなった。 以上のことから水に対する接触角が30°未満であれば、汚れが付着しにくい程度に親水性を示すということがいえる。
【0016】無機質の親水性物質は、基本的に無機酸化物であれば結晶質アルミナ、部分安定化ジルコニア、酸化チタン、酸化亜鉛、チタン酸ストロンチウム、三酸化タングステン、酸化第二鉄、三酸化二ビスマス、酸化スズ等の結晶質材料でも、釉薬、シリコーン等のガラス質でもよい。また無機非酸化物でも窒化ケイ素、シラザン等のように親水性を示す材料であれば使用できる。ただし、図1に示す実施例の場合において、紫外線を吸収する性質を有する無機酸化物または無機非酸化物を使用する場合には光触媒機能を有する物質を補助させるために、電子捕捉効果を有する金属を添加することが望ましい。これらの無機質の親水性物質は、複数併用しても構わない。
【0017】光触媒機能を有する物質とは、一定波長以下の光の照射により電子と正孔を生成し、その結果として活性酸素を生じ得る物質をいう。このような物質のうち親水性を有する物質としては、酸化チタン、酸化亜鉛、チタン酸ストロンチウム、三酸化タングステン、酸化第二鉄、三酸化二ビスマス、酸化スズ等が挙げられる。これらの光触媒機能を有する物質は、複数併用しても構わない。
【0018】光触媒機能を有する物質には、光触媒機能をより高めるために電子捕捉効果を有する金属を添加することが望ましい。電子捕捉効果を有する金属とは、Pt、Pd、Au、Ag、Cu、Ni、Fe、Co、Zn等のイオン化傾向の小さく、自身が還元されやすい金属をいう。これらの金属は、複数併用しても構わない。
【0019】基材表面に、バインダー層を介して、無機質の親水性物質と光触媒機能を有する親水性物質からなる層、あるいは光触媒機能を有する無機質の親水性物質からなる層を形成してもよい。バインダー層を介することにより、より充分な膜強度を有する防汚性部材となる。ここで、バインダーには、釉薬、シリコーン等の無機質のバインダー、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等の有機質のバインダーの双方が利用できる。
【0020】図1、2に示す防汚性部材の製法について略記する。まず、図1に示すように、基材表面に、無機質の親水性物質と光触媒機能を有する親水性物質からなる層が形成されている防汚性部材の製法について、基材が無釉タイル、無機質の親水性物質が釉薬、光触媒機能を有する親水性物質がアナターゼ型酸化チタンであり、それに電子捕捉効果を有する物質として銅が添加されている場合を例にとり説明する。
【0021】この場合、アナターゼ型酸化チタンゾル懸濁液と銅イオンを含む溶液を混合する混合液を調製する工程、調整した混合液に、フリット状の低融点釉薬を添加し、混合することによる塗布液を調製する工程、塗布液を無釉タイル基材表面に塗布する工程、焼成する工程を順次行うことによる。
【0022】次に図2に示す基材表面に、光触媒機能を有する無機質の親水性物質からなる層が形成されている防汚性部材の製法について、基材が施釉タイル、光触媒機能を有する親水性物質がアナターゼ型酸化チタンであり、それに電子捕捉効果を有する物質として銅が添加されている場合を例にとり説明する。
【0023】この場合は、アナターゼ型酸化チタンゾル懸濁液と銅イオンを含む溶液を混合する塗布液を調製する工程、塗布液を施釉タイル基材表面に塗布する工程、焼成する工程を順次行う方法がある。他の方法としては、アナターゼ型酸化チタンゾル懸濁液を施釉タイル基材表面に塗布する工程、焼成する工程、銅イオンを含む溶液を塗布する工程、紫外線を含む光を照射する工程を順次行う方法がある。
【0024】ここでアナターゼ型酸化チタンゾルは懸濁液中に充分に分散されているのが望ましい。そのためにはアナターゼ型酸化チタンの等電点はpH6.5なので、酸性またはアルカリ性で分散させる。この際、分散性を向上させるために表面活性剤や分散剤(解膠剤)若しくは表面処理剤を添加してもよい。アナターゼ型酸化チタンゾルを分散させるための溶媒は、水やエタノールが毒性がなく好ましい。
【0025】銅イオンを含む溶液には、酢酸第二銅、硫酸第二銅等の可溶性の銅化合物の溶液が好適に利用できる。銅以外の電子捕捉効果を有する金属の場合にも、硝酸銀、硫酸銀、乳酸銀、酢酸銀等の可溶性の溶液が、混合処理が簡便であることから好ましい。また銅イオンを含む溶液に使用する溶媒としては、水、エタノール、プロパノール等使用できるが、なるべくアナターゼ型酸化チタンゾル懸濁液と同じ種類を用いるのが好ましい。
【0026】アナターゼ型酸化チタンゾル懸濁液に銅イオンを含む溶液を混合する工程では銅イオンを含む溶液のpHは、アナターゼ型酸化チタンゾル懸濁液のpHとほぼ等しく調整しておくほうがよい。アナターゼ型酸化チタンゾル懸濁液のpHの変化が小さく、懸濁液中のアナターゼ型酸化チタンゾルの分散性を著しく損なうことがないからである。
【0027】アナターゼ型酸化チタンゾル懸濁液に銅イオンを含む溶液を混合した後、この溶液に紫外線を含む光を照射してもよい。このようにすると、アナターゼ型酸化チタン粒子に銅を光還元固定させることができるので、光触媒機能を向上させることができる。
【0028】紫外線を含む光とは、銅イオン等の電子捕捉効果を有する金属イオンを還元させるのに充分なエネルギーを有する光のことである。塗布液を基材に塗布する方法は、基本的にどのような方法でもよい。例えば、スプレー・コーティング法、ロール・コーティング法、ディップ・コーティング法が使用できる。
【0029】以下に具体的な評価実験に基づき、上記実施例の効果について説明する。
(評価実験1)平均粒径0.01μmのアンモニア解膠型アナターゼ型酸化チタンゾル懸濁液を、15cm角の施釉タイル基材表面にスプレー・コーティング法により塗布し、880℃で焼成して、親水性のアナターゼ型酸化チタン層を形成した。その後、5重量%酢酸銅水溶液を塗布し、BLBランプにより紫外線を含む光を照射して、厚さ0.9μmのアナターゼ型酸化チタン層有する試料を得た。この試料について水に対する接触角、光照射による水に対する接触角の回復性、汚れの付着しやすさ、抗菌性、耐摩耗性について評価した。
【0030】汚れの付着しやすさは、図4に示すように、試料を人工浴槽水(人の排出するアカとラードと石鹸を混合したぬるま湯)に3時間浸漬し、浸漬前後の水位面付近の比光沢度を求め、評価の指標とした(比光沢度が小さいことは、汚れ易いことを示している)。
【0031】光照射による水に対する接触角の回復性は、暗所で極性成分(カルボン酸等)に1週間さらした試料を5日間BLBランプに照射した後の水に対する接触角の回復性により評価した。
【0032】抗菌性は、大腸菌(Escherichia Coli W3110株)を用いて評価した。予め70%エタノールで殺菌した試料の最表面に、菌液0.15ml(10000〜50000CFU)を滴下したガラス板(100×100)を密着させ、白色灯(3500ルクス)を30分間照射後、菌液を滅菌ガーゼで拭いて生理食塩水10mlに回収し、菌の生存率を求め、評価の指標とした。評価指標を下記に示す。
+++:大腸菌の生存率10%未満++ :大腸菌の生存率10%以上30%未満+ :大腸菌の生存率30%以上70%未満− :大腸菌の生存率70%以上
【0033】耐摩耗性試験は、プラスチック消しゴムを用いた摺動摩耗を行い、外観の変化を比較し、評価した。評価基準を下記に示す。
◎:40回往復に対して変化なし○:10回以上40回未満の摺動で傷が入り、親水性膜が剥離△:5回以上10回未満の摺動で傷が入り、親水性膜が剥 離×:5回未満の摺動で傷が入り、親水性膜が剥離
【0034】その結果、水に対する接触角は9°と充分な親水性を示し、汚れの付着しやすさにおいては、光沢度の変化は0.95とほとんど生じなかった。また、光照射による水に対する接触角の回復性は、暗所に放置した状態では30°まで上昇したのに対し、7°まで回復した。比較のため板ガラスについて同様の試験を試みたが、暗所に放置した状態では40°だったのが、光照射しても50°と親水性の状態には全く回復しなかった。その他、抗菌性については実施試料において+++、耐摩耗性は◎とそれぞれ良好な結果を示した。
【0035】(評価実験2)平均粒径0.01μmのアンモニア解膠型アナターゼ型酸化チタンゾル懸濁液を、15cm角の施釉タイル基材表面にスプレー・コーティング法により塗布し、880℃で焼成して、親水性のアナターゼ型酸化チタン層を形成した。その後、5重量%酢酸銅水溶液を塗布し、BLBランプにより紫外線を含む光を照射して、種々の厚みのアナターゼ型酸化チタン層を有する試料を得た。この試料について、菌と疎水性の汚れ成分及び極性のある汚れ成分の全てにさらされると考えられる社員寮の公衆浴場の床面に設置し、100日程度暴露した。なお、本試験では公衆浴場の床面は清掃員により適宜清掃されている。
【0036】結果は図5に示すように、アナターゼ型酸化チタン層の厚みが0.3μmでは施釉タイルと比較して大きな効果が得られないが、0.6μm、0.9μmでは光沢度は100日経過しても初期の値に対してほとんど変化なく、優れた防汚性を示すことが判明した。
【0037】
【発明の効果】水のある環境下で使用される部材において、基材表面に無機質の親水性物質と光触媒機能を有する親水性物質からなる層が形成されている、あるいは基材表面に、光触媒機能を有する無機質の親水性物質からなる層が形成されているようにすることにより、充分な膜強度を有し、かつ長期にわたり安定的に汚れを付着しにくく、菌の繁殖も有効に防止しうるようになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施態様を示す図。
【図2】本発明の他の実施態様を示す図。
【図3】水に対する接触角と汚れの付き易さとの関係を示す図。
【図4】防汚性の評価装置を示す図。
【図5】公衆浴場暴露試験における比光沢度を示す図。
【符号の説明】
1 基材
2 光触媒機能を有する無機質の親水性物質
3 無機質の親水性物質
4 垢
5 人工浴槽水
6 試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】 基材表面に、無機質の親水性物質と光触媒機能を有する親水性物質からなる層が形成されていることを特徴とする防汚性部材。
【請求項2】 基材表面に、光触媒機能を有する無機質の親水性物質からなる層が形成されていることを特徴とする防汚性部材。
【請求項3】 前記光触媒機能を有する物質は、前記層中にわたって0.3μmを超える厚さで存在することを特徴とする請求項1、2に記載の防汚性部材。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【図4】
image rotate


【図5】
image rotate


【公開番号】特開2001−121643(P2001−121643A)
【公開日】平成13年5月8日(2001.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−247607(P2000−247607)
【分割の表示】特願平7−109915の分割
【出願日】平成7年3月30日(1995.3.30)
【出願人】(000010087)東陶機器株式会社 (3,889)