説明

防汚性靴

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、塗装業,FRP成形作業,塗料又は接着剤製造業の作業者はそれらの取扱い物が飛散し、身体の一部に付着する場合が多いので、作業形態に応じて、保護メガネ,マスク,手袋,腕カバー,前掛け等を着用しているが、靴に関しては特別な考慮は払われておらず、市販のゴム長靴,ポリ塩化ビニル製長靴,布靴,革靴等を使用しており、専用の防汚性靴がないのが現状である。
【0002】又、最近、布靴の甲被表面を弗素樹脂で処理した防汚性靴が上市されているが、付着物が特殊な塗料,接着剤,FRP成形用樹脂等に対しては効果がなく、靴甲被に付着しても容易に取り除くことができないのが現状である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】前記塗装作業,塗料,接着剤製造業では、ウレタン樹脂,エポキシ樹脂,アルキド樹脂,アミノアルキド樹脂,酢酸ビニル樹脂等が取り扱われており、そのうちでも、FRP成形作業では主に不飽和ポリエステル樹脂が取り扱われている。この様な作業に履用される靴は、それらの樹脂が靴に付着した場合、乾燥又は硬化すると靴甲被に強固に接着し、除去することができず、それらの付着物が蓄積していくと見た目にも悪いが、靴甲被の屈曲部が曲げにくくなり、靴としての履用が困難となる。
【0004】樹脂の付着頻度の高いFRP作業場の一部では、靴の甲被にガムテープや布入テープ等のカバーを貼り付け、それらの樹脂が付着する度に貼り替えを行っており、カバーの貼り替えに手間がかかるという問題をかかえていた。本発明は、前記問題点を一挙に解決し、塗装作業,塗料,接着剤製造業にも幅広く使用できる防汚性靴を提供しようとするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は、熱可塑性ポリウレタンと室温硬化型シリコーンゴムとを必須成分とする混合物よりなる薄層が、靴甲被の表面に形成されている防汚性靴を特徴とする。
【0006】
【実施の形態】前記混合物は、熱可塑性ポリウレタンと室温硬化型シリコーンゴムの混合比率が、60〜20重量%の熱可塑性ポリウレタンと40〜80重量%の室温硬化型シリコーンゴムよりなる。
【0007】又、前記混合物において、熱可塑性ポリウレタンを架橋させる為のポリイソシアネートが加えられている。
【0008】又、前記室温硬化型シリコーンゴムがオルガノポリシロキサンを主成分とする一液型室温硬化型シリコーンゴムである。
【0009】本発明に使用する室温硬化型シリコーンゴム(略してRTVシリコーンゴム)は、一液型RTVシリコーンゴムと二液型RTVシリコーンゴムに分類される。一液型RTVシリコーンゴムのベースコンパウンドは、分子鎖両末端に水酸基を有する鎖状ジオルガノポリシロキサンに補強剤として微粉末シリカなどを混練したもので、これに種々のタイプの橋かけ剤を配合し、さらに硬化調節剤,接着向上剤,着色剤などの添加剤を必要に応じて添加し製品とする。橋かけ剤を混入した製品は水分に敏感で、空気中に直接さらすことができないのでカートリッジやチューブに充填して保存される。一液型RTVシリコーンゴムは硬化機構で分類すると縮合型と付加型に大別される。
【0010】縮合型はさらに硬化機構の違いにより、酢酸型,オキシム型,アセトン型,アルコール型,アミン型,ヒドロキシルアミン型等に分類される。これに使用する硬化剤は有機ケイ素単量体が使用され、空気中に出されると湿気と反応し、酢酸ブタンオキシム,アセトン,メタノール等のガスを放出し硬化しゴム状となっていく。そのため縮合型RTVシリコーンゴムは表面から深部に向かって硬化が進行し、硬化速度は温度,湿度等の硬化環境により変化する。硬化時間は硬化速度の速いアセトン型であっても深部まで硬化するには数時間から数日の時間を必要とする。
【0011】次に付加型は、縮合型と異なりヒドロシリル化反応により硬化する為、副生物の生成がなく、収縮も殆どなく、熱により深部まで短時間で硬化できるという特徴がある。何れにしても一液型RTVシリコーンゴムは、シリコーンゴムに近似した化学組成のガラス,ホウロウ,タイル等には優れた接着性を示す。しかし、金属,プラスチック,石材,木材等の被着体の場合にはプライマーを併用することが望ましい。
【0012】二液型RTVシリコーンゴムは、一般にペースト状のベースコンパウンドとカタリストの二液の形で提供されるもので、使用直前に両者を混合して使用する。硬化の機構は一液型と同様に縮合型と付加型があり、何れにしても硬化してゴム状となり、ゴムとしての一般の特性を備えた弾性体になる。先に述べた一液型RTVシリコーンゴムと異なる点は、一液型RTVシリコーンゴムが硬化のとき接触している材質に接着性を示し、主として接着剤として使用されるのに対し、二液型RTVシリコーンゴムは一般的には接着性を示さない点であり、この特性を利用して型取り母型として利用される他、一般電気絶縁用充填剤、その他の用途にも広く利用されている。
【0013】本発明に使用する熱可塑性ポリウレタンは、靴、履物用の接着剤に用いられるタイプのものであり、ジイソシアネートと二官能以上のポリエステル又はポリエーテルとの反応によって作られる末端がOH基の高分子量直鎖状ポリマーである。熱可塑性ポリウレタンは凝集力が大きいので、普通はポリイソシアネートの添加を必要としないが、分子量によって併用することができる。
【0014】ポリイソシアネートは、脂肪族ジイソシアネート又は脂環族ジイソシアネートが知られており、脂肪族ジイソシアネートとしてヘキサメチレンジイソシアネートを使用することができ、脂環族ジイソシアネートとしてイソホロンジイソシアネート,4・4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートを使用することができる。
【0015】熱可塑性ポリウレタンにポリイソシアネートを添加すると、熱可塑性ポリウレタンと反応して熱軟化点が高くなり、甲被に塗布すると甲被との接着性を高め、ポリウレタンの耐加水分解性を向上することができる。ポリイソシアネートの配合割合は熱可塑性ポリウレタンに対して固形分比で2〜8%が適当である。
【0016】本発明の靴甲被の表面に形成される薄層は、熱可塑性ポリウレタンと室温硬化型シリコーンゴムを必須成分とする混合物よりなり、前記混合物の混合割合は熱可塑性ポリウレタンが40〜80重量部に対して、室温硬化型シリコーンゴムが20〜60重量部であることが必要である。熱可塑性ポリウレタンは靴甲被との密着をアップするのに寄与し、室温硬化型シリコーンゴムは靴甲被に付着する塗料や接着剤やFRP成形用樹脂等の各種樹脂に対して離型性(即ち防汚性)を付与するのに寄与する。
【0017】混合物の必須成分であるポリウレタン樹脂が60重量部を超えると、各種樹脂に対する離型性(即ち防汚性)が急激に低下し、各種樹脂が除去しにくくなる。又、室温硬化型シリコーンゴムが80重量部を超えると離型性は変わらないが、薄層と靴甲被の密着力が低下し、薄層が剥がれ易くなり、耐久性がなくなる。
【0018】本発明に使用する靴甲被は、特に限定されることなく、綿,スフ,アクリル繊維,ポリエステル繊維,ナイロン繊維及び各繊維の混紡,混繊の織布,編布,不織布,人工皮革,合成皮革,天然皮革等が使用される。
【0019】
【実施例】実施例に使用する熱可塑性ポリウレタンは組成がポリカプロラクトン(分子量2000),ポリカプロラクトン(分子量1000),1,4−ブタンジオール,イソホロンジイソシアネート,水素添加4,4’−ジフエニルメタンジアミンよりなるポリエステル系ポリウレタンである。
【0020】室温硬化型シリコーンゴムは、鎖状ジオルガノポリシロキサンを主成分として、これに補強剤として微粉末シリカなどを混練したもので、橋かけ剤にアセトンオキシムを配合し、さらに硬化調整剤,接着向上剤を必要に応じて添加した縮合型一液型RTVシリコーンゴムである。
【0021】上記熱可塑性ポリウレタンと一液型RTVシリコーンゴムを配合した表1に示す実施例の混合物溶液を、ポリウレタン製の人工皮革及び同素材を甲被に有する靴の甲被表に、塗布量の固形分が50〜100g/m2 となるように塗布し、乾燥後、室温にて2日間硬化させ甲被材と靴を得た。
【0022】
【比較例1】実施例と同様に表1に示す比較例1の混合物溶液を、ポリウレタン製の人工皮革及び同素材を甲被に有する靴の甲被表に、塗布量の固形分が50〜100g/m2 となるように塗布し、乾燥後、室温にて2日間硬化させ、甲被材と靴を得た。
【0023】
【比較例2】実施例と同様に表1に示す比較例2の混合物溶液をポリウレタン製の人工皮革に、塗布量の固形分が50〜100g/m2 となるように塗布し、乾燥後、室温にて2日間硬化させ、甲被材を得た。
【0024】
【比較例3】防汚性試験を行うための皮革として、防汚処理しない甲被材としてポリウレタン製の人工皮革を準備した。
【0025】
【比較例4】比較例3と同目的に使用する防汚処理しない甲被材として、綿布を準備した。
【0026】
【比較例5】比較例3と同目的に使用する防汚処理しない甲被材として、塩化ビニル製合皮皮革を準備した。
【0027】
【防汚性比較試験】前記実施例及び比較例1〜5の甲被材に対して表2に示す9種類の付着物をほぼ等量ずつ塗布し、乾燥又は硬化後、付着物が粘着テープにより容易に除去できる否かを基準にして評価試験を行った結果を表3にまとめたものである。評価基準としては◎は粘着テープでも完全に除去できる、○は粘着テープでは完全に除去できず一部残留する、×は粘着テープでは全く除去できないものとした。表3の結果を見れば、実施例と比較例1の甲被材は殆どの被着物に対して優れた離型性(即ち防汚性)を有することがわかる。
【0028】
【塗膜の密着強度比較試験】前述の防汚性比較試験にて、良好な結果が得られた実施例と比較例1の甲被材について塗膜密着強度を比較した。供試試料は2ケを一組とする矩形状のポリウレタン系人工皮革の表面に実施例と比較例1の混合物溶液をそれぞれ塗布し、固形分の総量がが200〜250g/m2 となるように塗布し、熱活性後、塗布面同士を重ね合わせ40℃にて2日間硬化させ、JIS K6256法により剥離試験を行い、塗膜と甲被材の密着強度を測定した。その結果は表4に示す通り、比較例1は塗膜の密着強度が低く、靴甲被として実用性に程遠いものであった。一方実施例は、塗膜密着強度は十分なものであった。
【0029】又、実施例の靴と比較例1の靴をプラスチック成形工場で履用した所、比較例1の靴は1カ月間で塗膜の剥離が発生した。一方実施例の靴は、3カ月間履用しても全く異常がなく、耐久性のあるものであった。
【0030】
【効果】本発明によると、熱可塑性ポリウレタンと室温硬化型シリコーンゴムを必須成分とする混合物よりなる薄層が、靴甲被の表面に形成されているので、塗料,接着剤,FRP成形用樹脂等が甲被に付着しても容易に取り除くことができる。又、この薄層は靴甲被との密着性に優れるので、作業靴として履用した場合、薄層の損傷,剥離もなく、長期間履用することができる。
【表1】


【表2】


【表3】


【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】 熱可塑性ポリウレタンと室温硬化型シリコーンゴムとを必須成分とする混合物よりなる薄層が、靴甲被の表面に形成されている防汚性靴。
【請求項2】 前記混合物において、熱可塑性ポリウレタンと室温硬化型シリコーンゴムとの混合比率が、60〜20重量%の熱可塑性ポリウレタンと40〜80重量%の室温硬化型シリコーンゴムである請求項1記載の防汚性靴。
【請求項3】 前記混合物において、熱可塑性ポリウレタンを架橋させる為のポリイソシアネートが加えられている請求項1又は2記載の防汚性靴。
【請求項4】 前記室温硬化型シリコーンゴムがオルガノポリシロキサンを主成分とする一液型室温硬化型シリコーンゴムである請求項1〜3記載のうちの何れか一つである防汚性靴。

【特許番号】特許第3192584号(P3192584)
【登録日】平成13年5月25日(2001.5.25)
【発行日】平成13年7月30日(2001.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平7−349313
【出願日】平成7年12月19日(1995.12.19)
【公開番号】特開平9−168401
【公開日】平成9年6月30日(1997.6.30)
【審査請求日】平成11年9月16日(1999.9.16)
【出願人】(000002989)月星化成株式会社 (10)
【参考文献】
【文献】特開 平4−8302(JP,A)
【文献】特開 昭62−60502(JP,A)
【文献】実開 平4−12902(JP,U)
【文献】実開 昭54−10334(JP,U)
【文献】特公 昭38−24982(JP,B1)