説明

防汚構造、及びその動作方法

【課題】被対象物の表面の汚れに対する防汚機能が低下するのを防ぐことができる防汚構造、及びその動作方法を提供する。
【解決手段】太陽電池(被対象物)1の表面1aの汚れを除去する防汚構造4において、太陽電池1の表面1aに設けられた第1の電極5及び第2の電極6と、第1及び第2の電極5、6に電圧を印加する電源と、第1及び第2の電極を覆うように設けられた撥水性誘電体層7を備え、撥水性誘電体層7上に存在する水(極性液体)10の当該撥水性誘電体層7に対する接触角が小さくなるように、電源から第1及び第2の電極5、6に対して、電圧を印加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部に曝露される構造物(被対象物)の表面の汚れを除去する防汚構造、及びその動作方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽電池などの屋外設置機器や家屋などの屋外設置物または自動車などの屋外走行する車両等の構造物において、外部に曝露される表面に対し、当該表面に付着する塵などの汚染物等の汚れを除去する防汚構造を適用することが行われてきている。
【0003】
具体的にいえば、第1の従来例の防汚構造として、例えば下記特許文献1に記載されているように、表面の親水性による耐汚染性機能を有する表面防汚性複合樹脂フィルムを、被対象物としての太陽電池の表面に貼着することが提案されている。すなわち、この第1の従来例の防汚構造では、少なくとも1μm以上の厚みを有する樹脂フィルムをベースフィルムとするとともに、最表面の層として、シリコン化合物の縮合物をバインダー成分とし、かつ、表面水滴接触角が40°以下のコーティング乾燥被膜が用いられている。そして、この第1の従来例の防汚構造では、最表面の層が上述のような親水性であるので、汚れが付着し難く、付着した汚れも雨水などで容易に洗い流すことが可能とされていた。
【0004】
また、第2の従来例の防汚構造として、例えば下記特許文献2に記載されているように、基材フィルム上に、撥水性および撥油性を持つ防汚層を設けた表面保護フィルムを、被対象物としての太陽電池の表面に貼着することが提案されている。そして、この第2の従来例の防汚構造では、防汚層によって、太陽電池の表面に汚れが付着することを防止し、また付着・蓄積した大気中の水性または油性の塵埃等の汚れが雨等によって容易に洗い流され除去可能とされていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−142161号公報
【特許文献2】特開2002−83989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のような従来の防汚構造では、太陽パネル(被対象物)の表面の汚れに対する防汚機能が低下するという問題点があった。
【0007】
具体的にいえば、上記のような第1の従来例の防汚構造では、最表面の層が親水性とされていたので、汚れの組成や成分などによっては、汚れを表面に引きつけ易く、特に極性の強い汚れと最表面の層が結合し易いという問題点があった。また、このように汚れと結合してしまうと、当該汚れによって表面が被覆されてしまい、防汚機能が著しく低下するという問題点を生じた。
【0008】
また、上記のような第2の従来例の防汚構造では、撥水性を有する防汚層を設けていたので、その表面に対して水滴などが一旦付着して蒸発・乾燥すると、その水滴に含まれたカルキ成分などが表面上に残り、汚れとして逆に目立ったり、防汚機能が著しく低下したりするという問題点を生じた。
【0009】
さらに、この第2の従来例の防汚構造では、防汚層での撥水コーティングはその表面抵抗が高いものであり、親水性の表面を有する、上記第1の従来例の防汚構造に比べて、耐電し易いものであった。それ故、第2の従来例の防汚構造では、表面が帯電したときに、その帯電によって表面に汚れを引きつけ易くなり、防汚機能の低下を招くという問題点もあった。
【0010】
上記の課題を鑑み、本発明は、被対象物の表面の汚れに対する防汚機能が低下するのを防ぐことができる防汚構造、及びその動作方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明にかかる防汚構造は、被対象物の表面の汚れを除去する防汚構造であって、
前記被対象物の表面に設けられた第1の電極及び第2の電極と、
前記第1及び第2の電極に電圧を印加する電源と、
前記第1及び第2の電極の少なくとも一方の電極を覆うように設けられた撥水性誘電体層を備え、
前記撥水性誘電体層上に存在する極性液体の当該撥水性誘電体層に対する接触角が小さくなるように、前記電源から前記第1及び第2の電極に対して、電圧を印加することを特徴とするものである。
【0012】
上記のように構成された防汚構造では、第1及び第2の電極が被対象物の表面に設けられているとともに、これらの第1及び第2の電極の少なくとも一方の電極を覆うように撥水性誘電体層が設けられている。また、防汚構造では、撥水性誘電体層上に存在する極性液体の当該撥水性誘電体層に対する接触角が小さくなるように、電源から第1及び第2の電極に対して、電圧が印加される。これにより、エレクトロウェッティング現象によって、撥水性誘電体層を相対的に親水化し、極性液体の撥水性誘電体層に対する濡れ性を大きくして、当該極性液体により、被対象物の表面の汚れを除去することができる。また、上記従来例と異なり、電圧の印加を行うことによって、被対象物の(曝露)表面となる、撥水性誘電体層を親水性とすることができる。すなわち、防汚構造では、上記従来例と異なり、被対象物の表面の汚れに対して、当該表面の状態を能動的に撥水性から親水性に適宜変化することができ、被対象物の表面の汚れに対する防汚機能が低下するのを防ぐことができる。
【0013】
また、上記防汚構造において、前記第1及び第2の電極の少なくとも一方の電極として、互いに平行に設けられた複数の電極部分を有する櫛歯状電極が用いられていることが好ましい。
【0014】
この場合、撥水性誘電体層上に存在する極性液体に対して、電圧の印加を確実に行うことができ、被対象物の表面の汚れに対する防汚機能が低下するのも確実に防ぐことができる。
【0015】
また、上記防汚構造において、前記第1及び第2の電極の一方の電極として、前記被対象物の表面側に設けられた金属が用いられてもよい。
【0016】
この場合、設置済みの被対象物に対して、防汚構造を容易に適用することができるとともに、部品点数が少なく構造簡単な防汚構造を簡単に構成することができる。
【0017】
また、上記防汚構造において、前記撥水性誘電体層の誘電率よりも高い誘電率を有するとともに、前記撥水性誘電体層の前記被対象物の表面側で前記第1及び第2の電極の少なくとも一方の電極を覆うように設けられた誘電体層を備えてもよい。
【0018】
この場合、撥水性誘電体層上に存在する極性液体に対して、電圧の印加をより効果的に行うことができ、エレクトロウェッティング現象による当該極性液体の接触角が小さくなる変化をより効率よく生じさせることが可能となって、被対象物の表面の汚れもより効率よく除去することができる。
【0019】
また、上記防汚構造において、前記撥水性誘電体層では、前記電源から前記第1及び第2の電極に対して、電圧が印加されていない場合において、前記撥水性誘電体層上に存在する極性液体の当該撥水性誘電体層に対する接触角が80°〜180°の範囲内の値となるように、設定されていることが好ましい。
【0020】
この場合、被対象物の曝露表面を構成する、上記撥水性誘電体層の表面エネルギーが低く抑えられたものとなり、当該曝露表面に対する汚れの付着を容易に抑制することができる。
【0021】
また、上記防汚構造において、前記電源から前記第1及び第2の電極に対して、電圧を印加したときに、前記撥水性誘電体層上に存在する極性液体の当該撥水性誘電体層に対する接触角を、80°未満とすることが好ましい。
【0022】
この場合、上記極性液体の撥水性誘電体層に対する濡れ性をより適切なものとして、当該極性液体により被対象物の表面の汚れをより確実に除去することができる。
【0023】
また、上記防汚構造において、前記電源と前記第1及び第2の電極の一方の電極との間に接続されたスイッチと、
時間を計測するタイマーと、
前記スイッチでの切換動作を指示する動作指示部を備え、
前記動作指示部は、タイマーの計時結果を基に前記スイッチでの切換動作を指示してもよい。
【0024】
この場合、タイマーの計時結果を用いて、防汚構造を自動的に動作させることができ、被対象物の表面の汚れをより確実に除去することができる。
【0025】
また、上記防汚構造において、前記電源と前記第1及び第2の電極の一方の電極との間に接続されたスイッチと、
前記スイッチでの切換動作を指示する動作指示部を備え、
前記動作指示部は、外部からの外部入力指示信号を用いて、前記スイッチでの切換動作を指示してもよい。
【0026】
この場合、外部に設けられたセンサなどの機器や装置などからの外部入力指示信号を用いて、防汚構造を自動的に動作させることができ、被対象物の表面の汚れを適切なタイミングでより確実に除去することができる。
【0027】
また、上記防汚構造において、時間を計測するタイマーを備えるとともに、
前記動作指示部は、タイマーの計時結果を用いて、前記スイッチでの切換動作を指示してもよい。
【0028】
この場合、上記外部入力指示信号に加えて、タイマーの計時結果を用いて、防汚構造を自動的に動作させることができ、被対象物の表面の汚れをより適切なタイミングでより確実に除去することができる。
【0029】
また、本発明の防汚構造の動作方法は、被対象物の表面に設けられた第1の電極及び第2の電極、及び前記第1及び第2の電極の少なくとも一方の電極を覆うように設けられた撥水性誘電体層を有し、前記被対象物の表面の汚れを除去する防汚構造の動作方法であって、
前記撥水性誘電体層上に存在する極性液体の当該撥水性誘電体層に対する接触角が小さくなるように、前記第1及び第2の電極に対して、電圧を印加する電圧印加工程と、
前記極性液体によって前記被対象物の汚れを除去する汚れ除去工程を備えていることを特徴とするものである。
【0030】
上記のように構成された防汚構造の動作方法では、上記電圧印加工程を行うことにより、エレクトロウェッティング現象によって、被対象物の(曝露)表面となる、撥水性誘電体層を相対的に親水性とすることができ、極性液体の撥水性誘電体層に対する濡れ性を大きくすることができる。そして、汚れ除去工程を行うことにより、極性液体によって被対象物の汚れを除去することができる。それ故、上記従来例と異なり、被対象物の表面の汚れに対して、当該表面の状態を能動的に撥水性から親水性に適宜変化することができ、被対象物の表面の汚れに対する防汚機能が低下するのを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、被対象物の表面の汚れに対する防汚機能が低下するのを防ぐことができる防汚構造、及びその動作方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1は、本発明の第1の実施形態にかかる防汚構造を用いた太陽電池を説明する図である。
【図2】図2は、図1に示した防汚構造の要部構成を示す断面図である。
【図3】図3は、図2に示した第1及び第2の電極を説明する平面図である。
【図4】図4(a)は、上記第1及び第2の電極に対して電圧を印加していない場合における、図2に示した撥水性誘電体層上の水の状態を説明する図であり、図4(b)は、上記第1及び第2の電極に対して電圧を印加した場合における、上記撥水性誘電体層上の水の状態を説明する図である。
【図5】図5は、本発明の第2の実施形態にかかる防汚構造の制御装置の構成を示すブロック図である。
【図6】図6は、本発明の第3の実施形態にかかる防汚構造の要部構成を示す断面図である。
【図7】図7は、図6に示した第1及び第2の電極を説明する平面図である。
【図8】図8は、図6に示した防汚構造の制御装置の構成を示すブロック図である。
【図9】図9(a)は、図6に示した第1及び第2の電極に対して電圧を印加していない場合における、図6に示した撥水性誘電体層上の水の状態を説明する図であり、図9(b)は、図6に示した第1及び第2の電極に対して電圧を印加した場合における、図6に示した撥水性誘電体層上の水の状態を説明する図である。
【図10】図10は、本発明の第4の実施形態にかかる防汚構造の要部構成を示す断面図である。
【図11】図11は、図10に示した防汚構造の制御装置の構成を示すブロック図である。
【図12】図12は、本発明の第5の実施形態にかかる防汚構造の要部構成を示す断面図である。
【図13】図13は、図12に示した防汚構造の制御装置の構成を示すブロック図である。
【図14】図14(a)は、図12に示した第1及び第2の電極に対して電圧を印加していない場合における、図12に示した撥水性誘電体層上の水の状態を説明する図であり、図14(b)は、図12に示した第1及び第2の電極に対して電圧を印加した場合における、図12に示した撥水性誘電体層上の水の状態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の防汚構造、及びその動作方法を示す好ましい実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明では、本発明の防汚構造を太陽電池または自動車(車両)の車体に適用した場合を例示して説明する。また、各図中の構成部材の寸法は、実際の構成部材の寸法及び各構成部材の寸法比率等を忠実に表したものではない。
【0034】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態にかかる防汚構造を用いた太陽電池を説明する図である。図1において、太陽電池1では、その受光面側に、本実施形態の防汚構造4が設置されている。また、この太陽電池1は、互いに交互に配置された帯状の正極の電極2及び帯状の負極の電極3を備えており、太陽電池1は、防汚構造4を透過した光を受光することにより、電極2、3から電力を取り出すことができるようになっている。また、防汚構造4は、後に詳述するように、光透過性を有するものであり、太陽電池1の受光面全面を覆うように設けられている。
【0035】
次に、図2及び図3を参照して、本実施形態の防汚構造4について具体的に説明する。
【0036】
図2は、図1に示した防汚構造の要部構成を示す断面図である。図3は、図2に示した第1及び第2の電極を説明する平面図である。
【0037】
図2に示すように、本実施形態の防汚構造4は、被対象物としての太陽電池1の表面1aに設けられた第1の電極5及び第2の電極6と、これら第1及び第2の電極5、6を覆うように設けられた撥水性誘電体層7を備えている。また、この防汚構造4は、上述したように、太陽電池1の受光面全面を覆うように設けられており、撥水性誘電体層7の表面7aが太陽電池1(被対象物)の外部に曝露する曝露表面を構成するようになっている。
【0038】
第1及び第2の電極5、6には、ITOやIZO等の透明導電膜が用いられている。また、撥水性誘電体層7には、フッ素系樹脂等の透明な合成樹脂などの有機膜や透明な無機膜などの透明な誘電体膜が用いられており、太陽電池1での受光率、ひいては起電率(電力発生効率)が極力低下するのを抑制できるようになっている。
【0039】
また、図3に示すように、第1及び第2の各電極5、6として、互いに平行に設けられた複数の電極部分5a、6aを有する櫛歯状電極が用いられている。すなわち、第1の電極5には、Y方向に平行に設けられた複数、例えば5本の電極部分5aと、X方向に平行に設けられるとともに、5本の電極部分5aの端部側に接続された電極部分5bが設置されている。同様に、第2の電極6には、Y方向に平行に設けられた複数、例えば5本の電極部分6aと、X方向に平行に設けられるとともに、5本の電極部分6aの端部側に接続された電極部分6bが設置されている。また、第1及び第2の電極5、6では、図3に示すように、電極部分5a、6aが互いに交互に配置されている。
【0040】
また、第1及び第2の電極5、6には、手動スイッチ9を介して電源8が接続されており、本実施形態の防汚構造4では、手動スイッチ9がオフ状態からオン状態に切り換えられたときに、電源8から第1及び第2の電極5、6に対して、電圧が印加されるように構成されている。また、本実施形態の防汚構造4では、撥水性誘電体層7上に存在する後述の極性液体(水)の当該撥水性誘電体層7に対する接触角が小さくなるように、電源8から第1及び第2の電極5、6に対して、電圧を印加するようになっている。
【0041】
具体的にいえば、撥水性誘電体層7では、電源8から第1及び第2の電極5、6に対して、電圧が印加されていない場合において、撥水性誘電体層7の表面7a上に存在する水(極性液体)の当該撥水性誘電体層7に対する接触角が80°〜180°の範囲内の値、好ましくは90°〜180°の範囲内の値となるように、設定されている。そして、本実施形態の防汚構造4では、電源8から第1及び第2の電極5、6に対して、電圧を印加したときに、撥水性誘電体層7上に存在する水の当該撥水性誘電体層7に対する接触角を、80°未満、好ましくは60°未満とするようになっている。すなわち、本実施形態の防汚構造4では、電圧印加を行ったときに、エレクトロウェッティング現象によって、撥水性誘電体層7の表面7aを親水化して、当該表面7aの汚れ(すなわち、太陽電池1の表面1aの汚れ)を除去するようになっている(詳細は後述。)。
【0042】
ここで、図4(a)及び図4(b)を参照して、本実施形態の防汚構造4の動作について具体的に説明する。
【0043】
図4(a)は、上記第1及び第2の電極に対して電圧を印加していない場合における、図2に示した撥水性誘電体層上の水の状態を説明する図であり、図4(b)は、上記第1及び第2の電極に対して電圧を印加した場合における、上記撥水性誘電体層上の水の状態を説明する図である。
【0044】
図4(a)において、撥水性誘電体層7の表面7aには、降雨や結露等により、水10が付着している。また、この図4(a)においては、第1及び第2の電極5、6に対し電圧が印加されていないので、エレクトロウェッティング現象は発現しておらず、水10の撥水性誘電体層7に対する接触角θ0の値は、80°〜180°の範囲内の値、好ましくは90°〜180°の範囲内の値となっている。すなわち、図4(a)に示すように、水10は、撥水性誘電体層7に対する濡れ性が小さく、同図に示すように、ほぼ球体の形状で撥水性誘電体層7の表面7aに載っている。
【0045】
次に、本実施形態の防汚構造4では、第1及び第2の電極5、6に対する電圧印加が行われると、図4(b)に示すように、水10の撥水性誘電体層7に対する接触角θ1の値は、上記接触角θ0の値よりも小さく、具体的には80°未満、好ましくは60°未満となっている。すなわち、本実施形態の防汚構造4では、第1及び第2の電極5、6に対する電圧印加が行われると、撥水性誘電体層7の内部に電荷が蓄積されて、エレクトロウェッティング現象が発現し、当該撥水性誘電体層7を相対的に親水化する。この結果、本実施形態の防汚構造4では、水10の撥水性誘電体層7に対する濡れ性が大きくされて、小さい接触角θ1となり、水10は、同図に示すように、濡れ広がる。
【0046】
すなわち、本実施形態の防汚構造4では、まず撥水性誘電体層7上に存在する水(極性液体)の当該撥水性誘電体層7に対する接触角が小さくなるように、第1及び第2の電極5、6に対して、電圧を印加する電圧印加工程が行われる。
【0047】
その後、本実施形態の防汚構造4では、撥水性誘電体層7上で濡れ広がった水10が、撥水性誘電体層7の表面7aを流れることにより、当該表面7aに付着した塵などの汚染物等の汚れを除去する。すなわち、本実施形態の防汚構造4では、上記電圧印加工程に引き続いて、水(極性液体)10によって太陽電池(被対象物)1の汚れを除去する汚れ除去工程が行われる。
【0048】
ここで、電圧印加前後、つまりエレクトロウェッティング現象の発現前後においては、下記(1)に示すLippmann−Youngの式が成立する。
【0049】
γLGcosθ1=γLGcosθ0+1/2CV2 ――― (1)
上記(1)式において、γLGは水(極性液体)10と空気との間の表面(界面)エネルギーであり、Cは、撥水性誘電体層7の静電容量であり、Vは、第1及び第2の電極5、6に印加される電圧である。(1)式より明らかなように、本実施形態の防汚構造4では、電圧印加を行うことにより、撥水性誘電体層7上の水10の接触角を小さくすることができる。すなわち、本実施形態の防汚構造4では、電圧印加を行うことにより、撥水性誘電体層7の親水化を能動的に行って、撥水性誘電体層7上の水10によって汚れ除去を行うことができる。
【0050】
また、上記表面エネルギーγLGは一定であるので、撥水性誘電体層7の静電容量Cと、第1及び第2の電極5、6への印加電圧Vを調整することにより、接触角θ1の変化の大きさを調整することができる。
【0051】
また、撥水性誘電体層7の厚みは、例えば10nm〜10mm、好ましくは10nm〜100μmである。また、この撥水性誘電体層7では、その厚みを小さくすればするほど、エレクトロウェッティング現象による接触角の変化を大きくすることができる。しかしながら、撥水性誘電体層7では、その厚みを上記10nmよりも小さい値にすれば、当該撥水性誘電体層7で絶縁破壊が生じる可能性が高くなる。
【0052】
また、上記電源8は、直流電源及び交流電源のいずれの電源を用いてもよい。但し、撥水性誘電体層7での不要な電荷の蓄積を防ぐために、交流電圧を印加する交流電源の方が好ましい。また、撥水性誘電体層7での誘電分散による誘電率の低下の影響が小さい1kHz以下の周波数を用いることが好ましい。さらに、電源8からの印加電圧Vは、例えば1V〜1000V、好ましく1V〜100Vである。すなわち、この印加電圧Vは、その値が高いほど水10の接触角を小さくできるメリットを奏するが、撥水性誘電体層7の絶縁破壊が生じる可能性や消費電力がアップするというデメリットがある。
【0053】
また、上記第1及び第2の各電極5、6では、その電極幅(電極部分5a、6aのX方向の寸法及び電極部分5b、6bのY方向の寸法)は、例えば1μm〜1000mm、好ましくは1μm〜100mmである。また、これらの各電極幅は、曝露表面(つまり、撥水性誘電体層7の表面7a)全体が濡れる対象(水10)に対しては大きい値ほどよいが、微小な水滴(水10)にエレクトロウェッティング現象の効果を及ぼすためには小さい値の方がよい。
【0054】
さらに、第1及び第2の電極5、6では、電極部分5a、5bと電極部分6a、6bとの間隔(離間距離)は、例えば1μm〜100mm、好ましくは1μm〜1mmである。また、これらの間隔は、広いほど不要な第1及び第2の電極5、6間の静電容量を低減し、効果的にエレクトロウェッティング現象を発現させることができるが、微小な水滴(水10)にエレクトロウェッティング現象の効果を及ぼすためには狭い方がよい。また、これらの間隔は、上記1μmよりも狭いと絶縁破壊を生じるおそれがある。
【0055】
以上のように構成された本実施形態の防汚構造4では、第1及び第2の電極5、6が太陽電池(被対象物)1の表面1aに設けられているとともに、これらの第1及び第2の電極5、6を覆うように撥水性誘電体層7が設けられている。また、本実施形態の防汚構造4では、撥水性誘電体層7上に存在する水(極性液体)10の当該撥水性誘電体層7に対する接触角が小さくなるように、電源8から第1及び第2の電極5、6に対して、電圧が印加される。これにより、本実施形態の防汚構造4では、エレクトロウェッティング現象によって、撥水性誘電体層7を相対的に親水化し、水10の撥水性誘電体層7に対する濡れ性を大きくして、当該水10により、撥水性誘電体層7の表面7a、つまり太陽電池1の表面1aの汚れを除去することができる。すなわち、本実施形態の防汚構造4では、上記従来例と異なり、撥水性誘電体層7の表面7a(太陽電池1の表面1a)の汚れに対して、当該表面7aの状態を能動的に撥水性から親水性に適宜変化することができ、撥水性誘電体層7の表面7aの汚れに対する防汚機能が低下するのを防ぐことができる。
【0056】
また、本実施形態では、第1及び第2の電極5、6として、互いに平行に設けられた複数の電極部分5a、6aを有する櫛歯状電極が用いられているので、撥水性誘電体層7上に存在する水10に対して、電圧の印加を確実に行うことができ、撥水性誘電体層7の表面7aの汚れに対する防汚機能が低下するのも確実に防ぐことができる。
【0057】
また、本実施形態では、撥水性誘電体層7において、電源8から第1及び第2の電極5、6に対して、電圧が印加されていない場合、撥水性誘電体層7上に存在する水10の当該撥水性誘電体層7に対する接触角が80°〜180°の範囲内の値となるように、設定されている。これにより、本実施形態では、太陽電池1の曝露表面を構成する、撥水性誘電体層7の表面エネルギーが低く抑えられたものとなり、当該曝露表面に対する汚れの付着を容易に抑制することができる。
【0058】
また、本実施形態では、電源8から前記第1及び第2の電極5、6に対して、電圧を印加したときに、撥水性誘電体層7上に存在する水10の当該撥水性誘電体層7に対する接触角を、80°未満としている。これにより、本実施形態では、水10の撥水性誘電体層7に対する濡れ性をより適切なものとして、当該水10により表面7aの汚れをより確実に除去することができる。
【0059】
[第2の実施形態]
図5は、本発明の第2の実施形態にかかる防汚構造の制御装置の構成を示すブロック図である。図において、本実施形態と上記第1の実施形態との主な相違点は、防汚構造の駆動制御を行う制御装置を設けるとともに、当該制御装置内にタイマーを設置して、タイマーの計時結果を基に第1及び第2の電極に対し電圧を印加する構成とした点である。なお、上記第1の実施形態と共通する要素については、同じ符号を付して、その重複した説明を省略する。
【0060】
すなわち、図5に示すように、本実施形態の防汚構造では、その駆動制御を行う制御装置11が設けられている。この制御装置11には、電源8と、電源8に接続されたスイッチ12と、時間を計測するタイマー13と、タイマー13の計時結果を基にスイッチ12での切換動作を指示する動作指示部14とが設けられている。スイッチ12には、電気式や電磁式等のスイッチが用いられており、動作指示部14からの指示信号に応じて、オフ状態とオン状態を切り換えるようになっている。また、スイッチ12は、電源8と第1及び第2の電極5、6の一方の電極、例えば第1の電極5との間に接続されている。そして、スイッチ12がオン状態とされた場合、電源8から第1及び第2の電極5、6に対して、電圧印加が行われるようになっている。
【0061】
以上の構成により、本実施形態では、上記第1の実施形態と同様な作用・効果を奏することができる。また、本実施形態では、制御装置11内のタイマー12の計時結果を基に第1及び第2の電極5、6に対し電圧が自動的に印加されるので、撥水性誘電体層7の表面7a(太陽電池1の表面1a)の汚れをより確実に除去することができる。
【0062】
すなわち、電圧無印加時での撥水性誘電体層7の表面7aは、親水化された表面に比べて帯電しやすいことが多く、帯電によって塵埃を引きつけ易い。このため、第1及び第2の電極5、6に対して、長時間電圧印加が行われない場合、不要に汚れを付着させ、親水化だけでは汚れを除去できなくなるおそれを生じる。このおそれを確実に回避するために、本実施形態の防汚構造では、タイマー13によって定期的に電圧を印加して親水化することにより、空気中の水分を曝露表面である表面7aに引き寄せて、帯電除去することが可能となり、塵埃の付着を予防することができるとともに、汚れをより確実に除去することができる。尚、タイマー13による電圧印加の時間間隔として、例えば朝露による水を利用するために、日没後〜日の出前の数時間の間にスイッチ12を動作させることが考えられる。
【0063】
[第3の実施形態]
図6は、本発明の第3の実施形態にかかる防汚構造の要部構成を示す断面図である。図7は、図6に示した第1及び第2の電極を説明する平面図である。図8は、図6に示した防汚構造の制御装置の構成を示すブロック図である。図において、本実施形態と上記第1の実施形態との主な相違点は、撥水性誘電体層の太陽電池の表面側に、当該撥水性誘電体層よりも高い誘電率を有する誘電体層を設けるとともに、日照センサの検出結果を基に第1及び第2の電極に対し電圧を印加する構成とした点である。なお、上記第1の実施形態と共通する要素については、同じ符号を付して、その重複した説明を省略する。
【0064】
すなわち、図6に示すように、本実施形態の防汚構造15では、太陽電池(被対象物)1の表面1a上に、平面上の第2の電極16が設けられている。この第2の電極16は、第1の実施形態での櫛歯状電極に代えて用いられたものであり、表面1a全面を覆うように設置されている。また、本実施形態の防汚構造15では、第2の電極16を覆うように設けられた誘電体層17と、この誘電体層17上に設けられた第1の電極5を覆うように設けられた撥水性誘電体層18とが形成されている。
【0065】
誘電体層17には、例えばパリレンや窒化シリコン、酸化ハフニウム、酸化亜鉛、二酸化チタン、あるいは酸化アルミニウムを含有した透明な誘電体膜が用いられている。また、この誘電体層17には、撥水性誘電体層18よりも高い誘電率を有する誘電膜が用いられており、電圧印加時でのエレクトロウェッティング現象の効果を容易に大きくできるようになっている。
【0066】
また、撥水性誘電体層18には、第1の実施形態と同様に、フッ素系樹脂等の透明な合成樹脂などの有機膜や透明な無機膜などの透明な誘電体膜が用いられており、撥水性誘電体層18の表面18aが太陽電池1(被対象物)の外部に曝露する曝露表面を構成するようになっている。
【0067】
また、図7及び図8に示すように、本実施形態の防汚構造15には、その駆動制御を行う制御装置19と、日照センサ20とが設けられている。制御装置19には、電源8と、電源8に接続されたスイッチ12と、日照センサ20の検出結果を基にスイッチ12での切換動作を指示する動作指示部21とが設けられており、日照センサ20の検出結果を基に第1及び第2の電極5、16に対し電圧を印加するようになっている。すなわち、制御装置19では、日照センサ20の検出結果を外部からの外部入力指示信号として入力するようになっており、動作指示部21は、この外部入力指示信号を用いて、スイッチ12での切換動作を指示するように構成されている。
【0068】
ここで、図9(a)及び図9(b)を参照して、本実施形態の防汚構造4の動作について具体的に説明する。
【0069】
図9(a)は、図6に示した第1及び第2の電極に対して電圧を印加していない場合における、図6に示した撥水性誘電体層上の水の状態を説明する図であり、図9(b)は、図6に示した第1及び第2の電極に対して電圧を印加した場合における、図6に示した撥水性誘電体層上の水の状態を説明する図である。
【0070】
図9(a)において、撥水性誘電体層18の表面18aには、結露等により、水10が付着している。また、この図9(a)においては、第1及び第2の電極5、16に対し電圧が印加されていないので、エレクトロウェッティング現象は発現しておらず、水10の撥水性誘電体層18に対する接触角θ0の値は、80°〜180°の範囲内の値、好ましくは90°〜180°の範囲内の値となっている。すなわち、図9(a)に示すように、水10は、撥水性誘電体層18に対する濡れ性が小さく、同図に示すように、ほぼ球体の形状で撥水性誘電体層18の表面18aに載っている。
【0071】
次に、本実施形態の防汚構造15では、日照センサ20の検出結果を基に第1及び第2の電極5、16に対する電圧印加が行われると、図9(b)に示すように、水10の撥水性誘電体層18に対する接触角θ1の値は、上記接触角θ0の値よりも小さく、具体的には80°未満、好ましくは60°未満となっている。すなわち、本実施形態の防汚構造15では、第1及び第2の電極5、16に対する電圧印加が行われると、撥水性誘電体層18及び誘電体層17の内部に電荷が蓄積されて、エレクトロウェッティング現象が発現し、当該撥水性誘電体層18を相対的に親水化する。この結果、本実施形態の防汚構造15では、水10の撥水性誘電体層18に対する濡れ性が大きくされて、小さい接触角θ1となり、水10は、同図に示すように、濡れ広がり、表面18aの汚れを除去することができる。
【0072】
以上の構成により、本実施形態では、上記第1の実施形態と同様な作用・効果を奏することができる。また、本実施形態では、撥水性誘電体層18の誘電率よりも高い誘電率を有するとともに、撥水性誘電体層18の太陽電池(被対象物)1の表面1a側で第2の電極16を覆うように設けられた誘電体層17を備えている。これにより、本実施形態では、撥水性誘電体層18上に存在する水(極性液体)10に対して、電圧の印加をより効果的に行うことができ、エレクトロウェッティング現象による当該水10の接触角が小さくなる変化をより効率よく生じさせることが可能となって、撥水性誘電体層18の表面18a(太陽電池1の表面1a)の汚れもより効率よく除去することができる。
【0073】
また、本実施形態では、日照センサ20の検出結果(外部入力指示信号)を基に第1及び第2の電極5、16に対する電圧印加が行われるようになっているので、防汚構造15を自動的に動作させることができ、朝露を利用した自己洗浄効果を容易に得ることができる。また、上記の説明以外に、太陽電池1による発電の有無をモニタリングし、それに連動して第1及び第2の電極5、16に電圧印加が行われるようにすることで、太陽電池1を日照センサとして利用することもできる。
【0074】
[第4の実施形態]
図10は、本発明の第4の実施形態にかかる防汚構造の要部構成を示す断面図である。図11は、図10に示した防汚構造の制御装置の構成を示すブロック図である。図において、本実施形態と上記第1の実施形態との主な相違点は、撥水性誘電体層の太陽電池の表面側に、当該撥水性誘電体層よりも高い誘電率を有する誘電体層を設けるとともに、降雨センサの検出結果を基に第1及び第2の電極に対し電圧を印加する構成とした点である。なお、上記第1の実施形態と共通する要素については、同じ符号を付して、その重複した説明を省略する。
【0075】
すなわち、図10に示すように、本実施形態の防汚構造22では、第1の実施形態と同様に、太陽電池(被対象物)1の表面1a上に、櫛歯状電極を用いた第1及び第2の電極5、6が設けられている。また、本実施形態の防汚構造22は、第1及び第2の電極5、6を覆うように設けられた誘電体層23と、誘電体層23を覆うように設けられた撥水性誘電体層24とを備えている。
【0076】
誘電体層23には、第3の実施形態と同様に、例えばパリレンや窒化シリコン、酸化ハフニウム、酸化亜鉛、二酸化チタン、あるいは酸化アルミニウムを含有した透明な誘電体膜が用いられている。また、この誘電体層23には、撥水性誘電体層24よりも高い誘電率を有する誘電膜が用いられており、電圧印加時でのエレクトロウェッティング現象の効果を容易に大きくできるようになっている。
【0077】
また、撥水性誘電体層24には、第1の実施形態と同様に、フッ素系樹脂等の透明な合成樹脂などの有機膜や透明な無機膜などの透明な誘電体膜が用いられており、撥水性誘電体層24の表面24aが太陽電池1(被対象物)の外部に曝露する曝露表面を構成するようになっている。
【0078】
また、図11に示すように、本実施形態の防汚構造22には、その駆動制御を行う制御装置25と、降雨センサ26とが設けられている。制御装置25には、電源8と、電源8に接続されたスイッチ12と、降雨センサ26の検出結果を基にスイッチ12での切換動作を指示する動作指示部27とが設けられており、降雨センサ26の検出結果を基に第1及び第2の電極5、6に対し電圧を印加するようになっている。すなわち、制御装置25では、降雨センサ26の検出結果を外部からの外部入力指示信号として入力するようになっており、動作指示部27は、この外部入力指示信号を用いて、スイッチ12での切換動作を指示するように構成されている。
【0079】
以上の構成により、本実施形態では、上記第1の実施形態と同様な作用・効果を奏することができる。また、本実施形態では、降雨センサ26の検出結果(外部入力指示信号)を基に第1及び第2の電極5、6に対する電圧印加が行われるようになっているので、雨水によって曝露表面、つまり撥水性誘電体層24の表面24a(太陽電池1の表面1a)の汚れを適切なタイミングでより確実に洗い流すことができる。
【0080】
[第5の実施形態]
図12は、本発明の第5の実施形態にかかる防汚構造の要部構成を示す断面図である。図13は、図12に示した防汚構造の制御装置の構成を示すブロック図である。図において、本実施形態と上記第1の実施形態との主な相違点は、被対象物として、自動車を用いるとともに、そのボディを第2の電極として利用した点である。なお、上記第1の実施形態と共通する要素については、同じ符号を付して、その重複した説明を省略する。
【0081】
すなわち、図12において、本実施形態の防汚構造28では、被対象物として、自動車が用いられるとともに、その自動車のボディ29が第2の電極として機能するように構成されている。また、本実施形態の防汚構造28では、ボディ29を覆うように設けられた撥水性誘電体層30と、この撥水性誘電体層30上に形成された第1の電極5とが設けられている。撥水性誘電体層30には、第1の実施形態と同様に、フッ素系樹脂等の透明な合成樹脂などの有機膜や透明な無機膜などの透明な誘電体膜が用いられており、撥水性誘電体層30の表面30aが自動車(被対象物)の外部に曝露する曝露表面を構成するようになっている。
【0082】
また、図13に示すように、本実施形態の防汚構造28には、その駆動制御を行う制御装置31が設けられており、自動車のワイパー32が制御装置31に接続されている。また、制御装置31には、電源8と、電源8に接続されたスイッチ12と、ワイパー32の動作に応じてスイッチ12での切換動作を指示する動作指示部33とが設けられており、ワイパー32が動作したときに第1の電極5と、第2の電極としてのボディ29に対し電圧を印加するようになっている。すなわち、制御装置31では、ワイパー32の動作信号を外部からの外部入力指示信号として入力するようになっており、動作指示部33は、この外部入力指示信号を用いて、スイッチ12での切換動作を指示するように構成されている。
【0083】
ここで、図14(a)及び図14(b)を参照して、本実施形態の防汚構造28の動作について具体的に説明する。
【0084】
図14(a)は、図12に示した第1及び第2の電極に対して電圧を印加していない場合における、図12に示した撥水性誘電体層上の水の状態を説明する図であり、図14(b)は、図12に示した第1及び第2の電極に対して電圧を印加した場合における、図12に示した撥水性誘電体層上の水の状態を説明する図である。
【0085】
図14(a)において、撥水性誘電体層30の表面30aには、降雨等により、水10が付着している。また、この図14(a)においては、第1の電極5及びボディ29に対し電圧が印加されていないので、エレクトロウェッティング現象は発現しておらず、水10の撥水性誘電体層30に対する接触角θ0の値は、80°〜180°の範囲内の値、好ましくは90°〜180°の範囲内の値となっている。すなわち、図14(a)に示すように、水10は、撥水性誘電体層30に対する濡れ性が小さく、同図に示すように、ほぼ球体の形状で撥水性誘電体層18の表面18aに載っている。
【0086】
次に、本実施形態の防汚構造28では、ワイパー32の動作に応じて第1の電極5及びボディ29に対する電圧印加が行われると、図14(b)に示すように、水10の撥水性誘電体層30に対する接触角θ1の値は、上記接触角θ0の値よりも小さく、具体的には80°未満、好ましくは60°未満となっている。すなわち、本実施形態の防汚構造28では、第1の電極5及びボディ29に対する電圧印加が行われると、撥水性誘電体層30の内部に電荷が蓄積されて、エレクトロウェッティング現象が発現し、当該撥水性誘電体層30を相対的に親水化する。この結果、本実施形態の防汚構造28では、水10の撥水性誘電体層30に対する濡れ性が大きくされて、小さい接触角θ1となり、水10は、同図に示すように、濡れ広がり、表面30aの汚れを除去することができる。
【0087】
以上の構成により、本実施形態では、上記第1の実施形態と同様な作用・効果を奏することができる。また、本実施形態では、第2の電極として、自動車(被対象物)の表面側に設けられたボディ(金属)29が用いられている。これにより、本実施形態では、設置済みの被対象物に対して、防汚構造28を容易に適用することができるとともに、部品点数が少なく構造簡単な防汚構造28を簡単に構成することができる。
【0088】
また、本実施形態では、ワイパー32の動作(外部入力指示信号)に応じて第1の電極5及びボディ29に対する電圧印加が行われるようになっている。すなわち、本実施形態では、制御装置31は、ワイパー32の動作を基に降雨を自動的に判断し、この降雨による水10を用いて、曝露表面、つまり撥水性誘電体層30の表面30a(自動車のボディ29)の汚れを確実に洗い流すことができる。
【0089】
尚、上記の説明以外に、撥水性誘電体層30として、自動車のボディ(第2の電極)29の上側に形成された当該自動車の塗装層を用いることもできる。
【0090】
尚、上記の実施形態はすべて例示であって制限的なものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲によって規定され、そこに記載された構成と均等の範囲内のすべての変更も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0091】
例えば、上記の説明では、本発明を太陽電池または自動車(車両)の車体に適用した場合について説明したが、本発明の防汚構造はこれに限定されるものではなく、第1及び第2の電極と撥水性誘電体層を設置可能なものであって、当該撥水性誘電体層上に水(極性液体)が存在可能な構造物を被対象物として適用することができる。具体的にいえば、本発明の防汚構造は、例えば家屋やメンテナンスが難しい高層ビルなどの建物の窓あるいは壁面、メンテナンスフリーが要求される屋外用ディスプレイや屋外用照明器具などの屋外用電気機器の表面、車両等の移動体のガラスや外壁の表面などに適用することができる。
【0092】
また、上記の説明では、極性液体として(雨)水が使用された場合について説明したが、本発明の極性液体はこれに限定されるものではない。具体的にいえば、極性液体には、塩化カリウム、塩化亜鉛、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、アルカリ金属水酸化物、酸化亜鉛、塩化ナトリウム、リチウム塩、リン酸、アルカリ金属炭酸塩、酸素イオン伝導性を有するセラミックスなどの電解質を含んだものを使用することができる。また、溶媒には、水以外に、アルコール、アセトン、ホルムアミド、エチレングリコールなどの有機溶媒を使用することもできる。さらに、本発明の極性液体には、ピリジン系、脂環族アミン系、または脂肪族アミン系などの陽イオンと、フッ化物イオンやトリフラート等のフッ素系などの陰イオンとを含んだイオン液体(常温溶融塩)を使用することもできる。また、本発明の極性液体には、導電性を有する導電性液体と、所定以上の比誘電率、好ましくは15以上の比誘電率を有する高誘電性を有する液体が含まれている。
【0093】
また、上記の説明では、被対象物の曝露表面を構成した撥水性誘電体層上に自然に降った(雨)水や結露した水などを用いた場合について説明したが、本発明の防汚構造はこれに限定されるものではなく、例えば散水装置を設けて、撥水性誘電体層上に人工的に散布した水を用いることもできる。
【0094】
また、上記の説明では、第1及び第2の電極に透明導電膜を用いるとともに、撥水性誘電体層及び誘電体層に透明な誘電体膜を使用した場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、被対象物の用途などに応じて、適宜変更することができる。すなわち、第1及び第2の電極に銅や銀などの不透明な金属を用いたり、撥水性誘電体層及び誘電体層に遮光性を有する誘電体膜を使用したりすることもできる。
【0095】
また、上記第3〜第5の実施形態では、日照センサの検出結果、降雨センサの検出結果、及びワイパーの動作を外部入力指示信号として用いた場合について説明したが、本発明は、外部に設けられたセンサなどの機器や装置などからの外部入力指示信号を用いて、動作指示部が、スイッチでの切換動作を指示するものであればよく、外部入力指示信号は、上記のものに何等限定されない。
【0096】
また、上記の説明以外に、各実施形態を適宜組み合わせた構成でもよい。具体的には、第2及び第3の実施形態を組み合わせた構成でもよい。このように構成した場合では、タイマーの計時結果及び日照センサの検出結果(外部入力指示信号)を用いて、防汚構造を自動的に動作させることができ、被対象物の表面の汚れをより適切なタイミングでより確実に除去することができる点で好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明は、被対象物の表面の汚れに対する防汚機能が低下するのを防ぐことができる防汚構造、及びその動作方法に対して有用である。
【符号の説明】
【0098】
1 太陽電池(被対象物)
1a 表面
4、15、22、28 防汚構造
5 第1の電極
5a 電極部分
6、16 第2の電極
6a 電極部分
7、18、24、30 撥水性誘電体層
10 水(極性液体)
12 スイッチ
13 タイマー
14、21、27、33 動作指示部
17、23 誘電体層
29 (自動車(被対象物)の)ボディ(第2の電極)
θ0、θ1 接触角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被対象物の表面の汚れを除去する防汚構造であって、
前記被対象物の表面に設けられた第1の電極及び第2の電極と、
前記第1及び第2の電極に電圧を印加する電源と、
前記第1及び第2の電極の少なくとも一方の電極を覆うように設けられた撥水性誘電体層を備え、
前記撥水性誘電体層上に存在する極性液体の当該撥水性誘電体層に対する接触角が小さくなるように、前記電源から前記第1及び第2の電極に対して、電圧を印加する、
ことを特徴とする防汚構造。
【請求項2】
前記第1及び第2の電極の少なくとも一方の電極として、互いに平行に設けられた複数の電極部分を有する櫛歯状電極が用いられている請求項1に記載の防汚構造。
【請求項3】
前記第1及び第2の電極の一方の電極として、前記被対象物の表面側に設けられた金属が用いられている請求項1または2に記載の防汚構造。
【請求項4】
前記撥水性誘電体層の誘電率よりも高い誘電率を有するとともに、前記撥水性誘電体層の前記被対象物の表面側で前記第1及び第2の電極の少なくとも一方の電極を覆うように設けられた誘電体層を備えている請求項1〜3のいずれか1項に記載の防汚構造。
【請求項5】
前記撥水性誘電体層では、前記電源から前記第1及び第2の電極に対して、電圧が印加されていない場合において、前記撥水性誘電体層上に存在する極性液体の当該撥水性誘電体層に対する接触角が80°〜180°の範囲内の値となるように、設定されている請求項1〜4のいずれか1項に記載の防汚構造。
【請求項6】
前記電源から前記第1及び第2の電極に対して、電圧を印加したときに、前記撥水性誘電体層上に存在する極性液体の当該撥水性誘電体層に対する接触角を、80°未満とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の防汚構造。
【請求項7】
前記電源と前記第1及び第2の電極の一方の電極との間に接続されたスイッチと、
時間を計測するタイマーと、
前記スイッチでの切換動作を指示する動作指示部を備え、
前記動作指示部は、タイマーの計時結果を基に前記スイッチでの切換動作を指示する請求項1〜6のいずれか1項に記載の防汚構造。
【請求項8】
前記電源と前記第1及び第2の電極の一方の電極との間に接続されたスイッチと、
前記スイッチでの切換動作を指示する動作指示部を備え、
前記動作指示部は、外部からの外部入力指示信号を用いて、前記スイッチでの切換動作を指示する請求項1〜6のいずれか1項に記載の防汚構造。
【請求項9】
時間を計測するタイマーを備えるとともに、
前記動作指示部は、タイマーの計時結果を用いて、前記スイッチでの切換動作を指示する請求項18に記載の防汚構造。
【請求項10】
被対象物の表面に設けられた第1の電極及び第2の電極、及び前記第1及び第2の電極の少なくとも一方の電極を覆うように設けられた撥水性誘電体層を有し、前記被対象物の表面の汚れを除去する防汚構造の動作方法であって、
前記撥水性誘電体層上に存在する極性液体の当該撥水性誘電体層に対する接触角が小さくなるように、前記第1及び第2の電極に対して、電圧を印加する電圧印加工程と、
前記極性液体によって前記被対象物の汚れを除去する汚れ除去工程、
を備えていることを特徴とする防汚構造の動作方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−28072(P2013−28072A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165641(P2011−165641)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】