説明

防汚組成物用の担持ゲル粒子

本発明は、エーロゲルまたはエーロモシル(aeromosil)粒子などのゲル粒子に封入されたロジンまたは他の水分解性ポリマーを含む、船舶用防汚塗料用の研磨制御成分を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、船舶および定置式の海上建造物用の、防汚組成物および防汚塗料の研磨制御成分、または同様の制御された浸出系の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
海水に晒された船の表面は動物および植物が定着しがちである。汚損と呼ばれるこの生物学的プロセスは、分厚く硬い外層の形成を生じさせることがあり、これは外洋航行船のメンテナンス、燃料消費量および操作可能性に関していくつかの問題を引き起こす。汚損を回避する様々な方法が試みられてきたが、現在は、海水に殺生物剤をゆっくりと放出するいわゆる防汚塗料の使用によって汚損に対抗している。
【0003】
商業用の船/船舶に対する汚損制御に使用される現代の塗料において、研磨は、表面における殺生物剤濃度が経時的に十分であること、およびバイオフィルム/マクロ汚損を最小化することを確実にする本質的な特徴である。大部分の塗料において、バインダー系は、汚損を効果的に減少させるのに必要な速度よりも研磨が遅い。所望の研磨速度は、塗料に顔料および増量剤/フィラーを導入することによって実現される。商業的防汚塗料においては、研磨制御を強化するために酸化第一銅Cu2Oおよび/または酸化亜鉛ZnOが使用される。Cuが環境に対する恒久的な殺生物剤負荷を構成し、Znが生体蓄積性であることから、塗料における殺生物剤の使用に対する規則は、CuおよびZnの使用に圧力を加えている。したがって、同一の好ましい研磨速度を与え得る、CuおよびZn化合物の好適な代替物を発見することが関心の対象である。
【発明の概要】
【0004】
汚損制御に使用される塗料において研磨プロセスを制御するために使用される公知の組成物の上記制限を克服するために、本発明は、少なくとも1種の成分が封入されたゲルを含む組成物を提供する。本出願においてこの担持ゲル粒子を「S」と呼ぶ。「S」は、加水分解および/または好適な機械特性のいずれかによる制御された様式で研磨を強化することができ、封入された少なくとも1種の成分の制御された浸出をもたらす。
【0005】
塗料は概して、塗料の塗膜形成成分であるバインダーと、すべての顔料/粒子をバインダー系で湿潤させるための限界であるCPVCとも呼ばれる臨界顔料体積濃度までの量の異なる種類(顔料および/またはフィラー)の粒子とを含有する。塗料の研磨速度は、塗料成分の除去速度と考えることができる。
【0006】
したがって、塗料をゲル粒子Sで充填することは、ゲル粒子Sと調合物に含まれる他の粒子とが一緒に物理的に接触し始める限界まで可能である。したがってバインダーは、S粒子が荒く充填されている状態での空隙を充填する。この状況におけるバインダーとSとの間の比はSの臨界濃度である。
【0007】
S粒子がより速やかに研磨する、すなわち、バインダーよりも速やかに塗料の表面から除去される場合、消失するS粒子は、塗料の表面内に溝を作り出し、それによって表面より下の特定の深さまでの塗料に対する侵蝕を可能にし、したがって、十分な研磨速度およびそれによる十分な放出速度、または活性化合物/殺生物剤の浸出を確実にする。
【0008】
より大きな表面を実現する別の方法は、表面において粒子の膨潤を可能にすることである。
【0009】
上記で論じたように溝を作り出すことによってより大きな表面を実現するには、S粒子が水溶性/水分解性のポリマーまたはバインダーを含有すれば有利でありうる。
【0010】
出願人らは、ロジン、水素化ロジンまたはその水溶性/水分解性重合誘導体がこの機能に使用可能であることをここで発見した。
【0011】
ロジンは、ダイオウマツ(Pinus palustris Miller)、およびピヌス リナエ(Pinus linnae)などの他の種から得られる天然で不揮発性の樹脂塊である。それはポリマーではないが、別個の三環式ジテルペンカルボン酸(アビエチン酸、ピマル酸、およびアビエチン酸の構造異性体、図1参照)と少量の非酸性成分との混合物を主に含有する。
【0012】
ロジンは約90%の「ロジン酸」を含有する(図1)。ロジン酸はモノカルボン酸であり、典型的な分子式C20H30O2を有する。顕著なロジン酸としては、共役二重結合を有するアビエチン酸(およびその異性形態)、ならびに非共役二重結合を有するピマル酸が挙げられる。ロジン酸分子は、2つの化学的に活性な中心、すなわち二重結合およびカルボキシル基を所有する。
【0013】
ロジン酸の二重結合を重合することによって、例えばアビエチン酸について図2に示すロジン二量体を形成することができる。
【0014】
また、ロジン酸分子の二重結合を水素化することによって、エステル形成に適したカルボン酸基を依然として含有するが二重結合を含有しない、テトラヒドロアビエチン酸としても知られる水素化ロジンを形成することができる。
【0015】
また、ロジン酸(水素化ロジンを含む)分子のカルボン酸基をリンカーと反応させることによって、新しい重合可能なロジン誘導体を形成することができる。図3において、エポキシ基を一端に、アクリレート基を他端に有する1〜3個の炭素原子の長さのリンカーがどのようにして水素化ロジン酸のカルボキシル基と反応して、重合可能なアクリレート基が結合したロジン誘導体を形成しうるかが示される。類似の誘導体をロジンそれ自体、すなわちアビエチン酸およびその異性体から形成することができる。
【0016】
このロジン誘導体をゲルにおいてインサイチューで重合し、それによりグラフト化ロジン部分を有するアクリレート骨格を形成することができる。重合度はゲル内では確認困難であるが、形成されるアクリレート骨格はおそらく約10,000〜100,000個の繰り返しロジンエステル単位を含有する。
【0017】
このようにして固定化されるロジンは、非水性媒体中のゲル内に固定化される。しかし、pH 8.2の海水に晒されると、エステル結合はゆっくりと加水分解され、ロジンを放出する。ゲルの担持は、最大95重量パーセントのロジンアクリレート含有量によって実現することができる。
【0018】
ロジンは、その低い水溶解度が理由で、多年にわたって防汚塗料中でバインダー系の一部として使用されている。溶媒に対するその良好な溶解度が理由で塗料中に通常使用されるロジンは、最終的には塗膜形成におけるバインダー相の不可欠な一部となり、それによって塗膜の研磨速度に対して著しい影響を示す。
【0019】
しかし、本発明によれば、ロジンまたは上記で論じたその重合誘導体を用いて前記ゲル粒子Sの充填または担持を行うことによって、ロジンをバインダー系の一部としてだけでなく塗料の固体粒子相の一部としても導入することができる。ロジンはいくつかの異なる手段、例えば酸触媒作用、加熱、紫外線またはフリーラジカル開始重合によって重合することができる。
【0020】
担持粒子が海水に晒されると、ゲル粒子それ自体が研磨挙動に影響しうるだけでなく、ゲル粒子内のロジンまたは水溶性/水分解性ポリマーも研磨プロセスに関与しうる。
【0021】
出願人らはPCT出願WO 2009062975において、エーロゲルを加える場合の塗料の特性に対する有利な影響を既に記述している。これらのゲルは活性化合物の様々な混合物を封入することができる。WO 2009062975において、典型的な活性成分/活性化合物が大きすぎるため、その放出がゲル網目の分解によって主に決定されるということが特定された。そのような化合物の典型的なサイズは1〜2nmである。
【0022】
ロジンが分子量約300ダルトンの、したがってWO 2009062975で論じた封入成分および化合物よりもはるかに小さい寸法の天然物質であることから、本発明の条件は非常に異なる。
【0023】
塗料調合物中での異なる成分に対する親和性に応じて、ロジン、ロジンポリマーまたは水分解性ポリマーは一般に湿潤ゲル構造から浸出しうる。そのようなポリマーの封入を制御するために、本発明の焦点である種々の方法を使用することができる。重合ロジンまたはロジン誘導体を使用することによって、最終乾燥ゲル粒子Sの細孔は、ゲル構造それ自体が十分に研磨されてゲル粒子の新しい層を露出させるまで「目詰まりし」、これによって任意の微量の非重合材料が漏れることが防止される。
【0024】
したがって、第1の局面では、本発明は、ロジンまたは1種もしくは複数種のロジン誘導体から調製される1種もしくは複数種の水溶性または水分解性ポリマーをホストゲル構造に組み込むことによって、防汚塗料中の研磨制御用のポリマー担持ゲル粒子を生成する方法であって、以下の工程を含む方法に関する:
a. 好適な乾燥ゲルを調製し、次に適切な溶融ポリマーまたは該ポリマーの濃縮溶液にゲル粒子を浸漬させることによって該1種もしくは複数種の水溶性または水分解性ポリマーをゲルに吸収させる工程、あるいは
b. 好適な乾燥ゲルを調製し、次に該1種もしくは複数種の水溶性または水分解性ポリマーを生成するために必要な1種もしくは複数種の適切な単量体の溶液にゲル粒子を浸漬させ、次にインサイチューで重合を行う工程、あるいは
c. 好適な湿潤ゲル(アルコゲル)を調製し、湿潤ゲル中の母液と該1種もしくは複数種の水溶性または水分解性ポリマーの飽和溶液とを交換する工程、あるいは
d. 塗料の生成中に、塗料のバインダー相に溶解している例えば該水溶性または水分解性ポリマーなどの塗料成分でゲルが部分的に充填されることを確実にする、バランスのとれた疎水性/親水性を有するゲルを調製する工程、
続いて任意で、上記工程a〜dのいずれかによって得られたポリマー担持ゲル粒子を、塗料調合物への添加前または塗料のさらなる加工中のいずれかに、より微細な粒子に粉砕する工程。
【0025】
本発明の一態様では、ホストゲルは湿潤形態でありうる。異なる態様では、ホストゲルはキセロゲル、エーロゲル、クリオゲルまたはエーロモシル(aeromosil)などの乾燥形態でありうる。
【0026】
本発明はまた、ホストゲル構造の調製と1種もしくは複数種の水溶性または水分解性ポリマーの組み込みとの両方が、未臨界または超臨界条件での高圧容器中のワンポット合成として行われ、続いて担持ゲル粒子の単離前に超臨界条件または気相中で反応容器から溶媒および副生成物が排出されることを可能にする。
【0027】
本発明はまた、上記で論じた本発明の方法によって得られるポリマー担持ゲル粒子に関し、かつ、調製方法が、超臨界条件下にて二酸化炭素の存在下で行われる1つもしくは複数の工程を包含する、ポリマー担持ゲル粒子に関する。
【0028】
上記方法のいずれかによってロジンまたは1種もしくは複数種の水溶性/水分解性ポリマーをゲル中に担持させることは、最終塗料の研磨特性および表面膨潤に対して著しい効果を示す。
【0029】
ゲルは、問題となる塗料の要件に応じて、エーロゲル、クリオゲル、キセロゲルまたはエーロモシルでありうる。
【0030】
ここでポリマー担持粒子は、塗料中で組み合わせ顔料/バインダー成分として、所望の研磨速度を得る濃度で使用することができる。他の塗料成分と混合する前に、上記方法のいずれかによって得られたゲル粒子を、塗料調合物への添加前または塗料のさらなる加工中のいずれかに、より微細な粒子に粉砕することができる。
【0031】
水分解性ポリマーが水中にゆっくりと加水分解されることから、ゲル粒子は、上記で論じた表面中への水の浸透のための手段を提供する。ゲル構造は、水分解性ポリマーの最適表面領域への水の浸透を制御することができ、これにより該ポリマーの溶解速度の制御が可能になる。
【0032】
使用される水溶性/水分解性ポリマーを、例えばEconea(商標)、Sea-Nine(商標)または可溶性ピリチオンなどの、許容される殺生物剤のリストにある、好適な有機殺生物剤と混合することができる。これによって、殺生物剤の放出速度は、塗料中での水溶性/水分解性ポリマーの溶解およびゲル粒子の分配に結びつけられる。さらに、ゲルそれ自体を許容される殺生物剤で部分的に充填し、それによって殺生物効果を強化することができる。
【0033】
したがって本発明はまた、本発明の方法によって得られるポリマー担持ゲル粒子の、防汚塗料中の研磨制御用成分としての使用に関する。
【0034】
別の局面では、本発明はまた、防汚塗料中で研磨制御を実現するための方法であって、塗料の加工中に、本発明の方法によって得られるポリマー担持ゲル粒子を適切な塗料調合物に加える工程を含む方法に関する。
【0035】
さらに別の局面では、本発明はまた、防汚塗料の研磨速度を向上させるための方法であって、塗料の加工中に、本発明の方法によって得られるポリマー担持ゲル粒子を適切な塗料調合物に加える工程を含む方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】モノカルボン酸であり、典型的な分子式C20H30O2を有する、いわゆる「ロジン酸」を示す。顕著なものとしては、共役二重結合を有するアビエチン酸、および非共役二重結合を有するピマル酸が挙げられる。ロジン酸はロジンの主成分である。
【図2】アビエチン酸の2個の分子が二量体に変換される重合反応を示す。
【図3】エポキシ基を一端に、アクリレート基を他端に有する1〜3個の炭素原子の長さのリンカーがどのようにして水素化ロジン酸(テトラヒドロアビエチン酸)のカルボキシル基と反応して、重合可能なアクリレート基が結合したロジン誘導体(単量体)を形成しうるかを示す。図3は、どのようにしてこのロジン誘導体を重合し、それによりグラフト化ロジン部分を有するアクリレート骨格を形成することができるかをさらに示す。重合度はゲル内では確認困難であるが、形成されるアクリレート骨格はおそらく約10,000〜100,000個の繰り返しロジンエステル単位を含有する。
【発明を実施するための形態】
【0037】
定義
本明細書において使用する「ゾル」という用語は、加水分解および濃縮反応を経る様々な反応物質の溶液を意味する。生成される酸化物種の分子量は連続的に増加する。これらの種は成長するに従って、三次元網目内で一緒に連結し始めることがある。
【0038】
本明細書において使用する「アルコゲル」という用語は、その本来の容器から取り出し可能であり、それ自体が自立可能である、湿潤ゲルを意味する。アルコゲルは2つの部分、すなわち固体部分および液体部分からなる。固体部分は、連結した酸化物粒子の三次元網目によって形成される。液体部分(ゾルの本来の溶媒)は、固体部分を取り囲む自由空間を満たす。アルコゲルの液体部分および固体部分は同一の見かけの体積を占める。
【0039】
本明細書において使用する「超臨界流体」という用語は、その臨界圧および臨界温度を上回る物質を意味する。超臨界流体は、液体と共通するいくつかの特性(密度、熱伝導率)、および気体と共通するいくつかの特性(その容器を満たす、表面張力を有さない)を所有する。
【0040】
本明細書において使用する「エーロゲル」という用語は、固体部分を損なわずにアルコゲルの液体部分を除去する際に残るものを意味する。液体部分の除去は、例えば超臨界抽出によって実現することができる。適正に作製すれば、エーロゲルはアルコゲルの本来の形状、およびアルコゲルの体積の少なくとも50%(典型的には85%超)を保持する。
【0041】
本明細書において使用する「キセロゲル」という用語は、蒸発または同様の方法によってアルコゲルの液体部分を除去する際に残るものを意味する。キセロゲルはそれらの本来の形状を保持しうるが、しばしばひび割れる。いくつかのキセロゲルでは、乾燥中の収縮は非常に頻繁(約90%)である。
【0042】
本明細書において使用する「クリオゲル」という用語は、アルコゲルを凍結させ、アルコゲルをずっと凍結したまま保ちながら、アルコゲルの以前は液体であった部分を蒸発除去する際に残るものを意味する。クリオゲルはそれらの本来の形状を保持しうるが、しばしばひび割れる。いくつかのクリオゲルでは、乾燥中にかなり収縮しうる。アルコゲル中での好適な界面活性剤の添加はこの問題を軽減することがある。
【0043】
本明細書において使用する「エーロモシル」という用語は、シリケートエーロゲル構造をポリジメチルシロキサン(PDMS)などの屈曲性有機含有ポリマーで修飾することによって得ることができる有機改質シリケートエーロゲルを意味する。
【0044】
概して本発明の空のゲルは0.05〜0.8g/cm3の範囲の密度を有する。ゲルに担持させる場合、密度は、担持される化合物の量および特性に従って上昇する。典型的には、担持ゲルの密度は2.0g/cm3未満である。
【0045】
エーロゲル中でのロジンおよび他の化合物の吸収により、ゲルは純粋なエーロゲルよりも著しく高密度になるが、それらは、同一の出発ゲルから完全崩壊によって調製可能な高密度ガラス膜とは明確に区別される。というのも、そのような膜は対応するガラスと同様の密度、すなわち2.2〜4.8g/cm3を有するためである。
【0046】
本明細書において使用する「ロジン」という用語は、アビエチン酸およびその異性体から主になる材料、または、精製飽和(すなわち水素化)反応生成物である水素化ロジンを含む。本発明において、ロジンをカルボン酸基上で官能化することによって、アビエチン酸およびその異性体のエステルおよびアミドを含む重合可能な単量体を得ることもできる。
【0047】
本明細書において使用する「水分解性ポリマー」という用語は、水との接触時に経時的に加水分解されうる化学基を含有するポリアクリレートおよびポリメタクリレートなどのポリマーを意味する。典型的な化学基としてはエステル基およびアミド基が挙げられる。
【0048】
本明細書において使用する「研磨速度」という用語は、塗装面が海水に晒される際の塗料成分の除去速度と考えることができる。
【0049】
防汚塗料の理想的な研磨速度は、製品が目的とする船舶またはプレジャーボートの種類によって決定される。したがって、通常、連続航行する船には低い研磨速度が望ましく、ヨット市場にはより高い研磨速度が望ましい。本発明によれば、最終防汚塗料において非常に広い範囲の研磨速度を可能にし、したがって、汚損を防止すべき広範な船、ヨット、ボート、船舶、ブイ、オフショア構造物および任意の他の没水体、ならびに定置式と非定置式との両方の海上建造物の要件に対応する、ポリマー担持ゲル粒子を生成することができる。
【0050】
発明の詳細な説明
本発明によれば、ロジン、水素化ロジン、水分解性ロジン誘導体および/もしくはその水分解性ポリマー、または他の水分解性ポリマーなどの特定の分子を、エーロゲルまたはエーロモシル粒子などのゲル粒子に封入することができる。
【0051】
得られたゲル粒子を塗料などの防汚組成物に加えることによって、該組成物の研磨速度を制御することができる。他の成分、例えば、ゲル粒子を含有して生成される最終塗料の特性に有利な影響を示しうる殺生物剤および/または金属粒子を、本発明のゲル粒子に封入することができる。
【0052】
好ましい態様では、研磨制御を行うために、本発明のゲル粒子を防汚塗料に使用する。
【0053】
したがって、第1の局面では、本発明は、ロジンまたは1種もしくは複数種のロジン誘導体から調製される1種もしくは複数種の水溶性または水分解性ポリマーをホストゲル構造に組み込むことによって、防汚塗料中の研磨制御用のポリマー担持ゲル粒子を生成する方法であって、以下の工程を含む方法に関する:
a. 好適な乾燥ゲルを調製し、次に適切な溶融ポリマーまたは該ポリマーの濃縮溶液にゲル粒子を浸漬させることによって該1種もしくは複数種の水溶性または水分解性ポリマーをゲルに吸収させる工程、あるいは
b. 好適な乾燥ゲルを調製し、次に該水溶性または水分解性ポリマーを生成するために必要な1種もしくは複数種の適切な重合可能な単量体の溶液にゲル粒子を浸漬させ、次にインサイチューで重合を行う工程、あるいは
c. 好適な湿潤ゲル(アルコゲル)を調製し、湿潤ゲル中の母液と該1種もしくは複数種の水溶性または水分解性ポリマーの飽和溶液とを交換する工程、あるいは
d. 塗料の生成中に、塗料のバインダー相に溶解している例えば該水溶性または水分解性ポリマーなどの塗料成分でゲルが部分的に充填されることを確実にする、バランスのとれた疎水性/親水性を有するゲルを調製する工程、
続いて任意で、上記工程a〜dのいずれかによって得られたポリマー担持ゲル粒子を、塗料調合物への添加前または塗料のさらなる加工中のいずれかに、より微細な粒子に粉砕する工程。
【0054】
本発明の特定の態様では、好適な乾燥ゲルを調製し、次に溶融ポリマーまたは該ポリマーの濃縮溶液にゲルを浸漬させることで適切な1種もしくは複数種の水溶性または水分解性ポリマーをゲルに吸収させることによって、封入が行われる。
【0055】
本発明の好ましい態様では、1種もしくは複数種の水溶性または水分解性ポリマーはポリアクリレートまたはポリメタクリレート骨格を有する。
【0056】
本発明の別の特定の態様では、好適な乾燥ゲルを調製し、続いて該1種もしくは複数種の水溶性または水分解性ポリマーを生成するために必要な適切な1種もしくは複数種の単量体の溶液に該ゲルを浸漬させ、次に吸着された単量体のインサイチューでの重合を行うことによって、封入が行われる。
【0057】
本発明の別の態様では、既に調製された湿潤ゲル(アルコゲル)中の母液と適切な1種もしくは複数種の水溶性または水分解性ポリマーの飽和溶液とを交換することによって、封入が行われる。
【0058】
本発明のさらなる態様では、塗料の生成中に、塗料のバインダー相に溶解している適切な1種もしくは複数種の水溶性または水分解性ポリマーでゲルが部分的に充填されることを確実にする、バランスのとれた疎水性/親水性を有するゲルを調製することによって、封入が行われる。
【0059】
特定の態様では、本発明は、ホストゲル構造の調製と1種もしくは複数種の水溶性または水分解性ポリマーの組み込みとの両方が、未臨界または超臨界条件での高圧容器中のワンポット合成として行われ、続いて担持ゲル粒子の単離前に超臨界条件または気相中で反応容器から溶媒および副生成物が排出されることを可能にする。
【0060】
本発明の好ましい態様では、前記水溶性または水分解性ポリマーを生成するために必要な1種もしくは複数種の適切な単量体は、ロジン、水素化ロジンなどのロジン誘導体、またはアビエチン酸およびアビエチン酸の異性体から選択される。
【0061】
本発明のさらなる好ましい態様では、前記水溶性または水分解性ポリマーを生成するために必要な1種もしくは複数種の適切な単量体は、重合可能なアクリレートまたはメタクリレート官能基または基を含有する。
【0062】
本発明の一態様では、適切な単量体の1つはロジンである。異なる態様では、適切な単量体の1つは水素化ロジンである。異なる態様では、適切な単量体の1つは、重合可能なアクリレートまたはメタクリレート基が結合したリンカーを含有するようにカルボキシ基上で誘導体化された水素化ロジンである。異なる態様では、適切な単量体の1つはアビエチン酸およびアビエチン酸の異性体から選択される。
【0063】
さらなる態様では、適切な単量体は、エステルまたはアミドなどの加水分解性基を含有するロジン系生成物または誘導体である。
【0064】
本発明の一態様では、水溶性または水分解性ポリマーが、1種もしくは複数種の適切な単量体からインサイチューでの重合によって作り出される。
【0065】
別の局面では、本発明はまた、上記で論じた本発明の方法によって得られるポリマー担持ゲル粒子に関し、かつ、調製方法が、超臨界条件下にて二酸化炭素の存在下で行われる1つもしくは複数の工程を包含する、ポリマー担持ゲル粒子に関する。
【0066】
本発明の一態様では、ポリマー担持ゲル粒子は、例えばEconea(商標)、Sea-Nine(商標)または可溶性ピリチオンなどの1種もしくは複数種の殺生物剤をさらに含む。
【0067】
本発明の別の態様では、ポリマー担持ゲル粒子は、Agおよび/またはCuの粒子などの金属粒子をさらに含む。
【0068】
別の局面では、本発明はまた、本発明の方法によって得られるポリマー担持ゲル粒子の、防汚塗料中の研磨制御用成分としての使用に関する。
【0069】
特定の態様では、本発明の方法によって得られるポリマー担持ゲル粒子は、ヨットおよび他の種類の個人船舶用の防汚塗料中の研磨制御用成分として使用される。
【0070】
別の特定の態様では、本発明の方法によって得られるポリマー担持ゲル粒子は、商用船および商用船舶用の防汚塗料中の研磨制御用成分として使用される。
【0071】
別の特定の態様では、本発明の方法によって得られるポリマー担持ゲル粒子は、ブイ、オフショア構造物および任意の他の没水体用の防汚塗料中の研磨制御用成分として使用される。
【0072】
別の特定の態様では、本発明の方法によって得られるポリマー担持ゲル粒子は、海水に晒されるかまたは没する他の種類の定置式と非定置式との両方の海上建造物用の防汚塗料中の研磨制御用成分として使用される。
【0073】
別の特定の態様では、本発明の方法によって得られるポリマー担持ゲル粒子は、発電所からの冷却水、廃水、下水などの非飲用水を輸送またはポンプ注入するように設計された、パイプ、ならびにポンプおよび貯蔵タンクを含む他の設備において使用される防汚塗料中の研磨制御用成分として使用される。
【0074】
別の局面では、本発明はまた、防汚塗料中で研磨制御を実現するための方法であって、塗料の加工中に、本発明の方法によって得られるポリマー担持ゲル粒子を適切な塗料調合物に加える工程を含む方法に関する。
【0075】
さらに別の局面では、本発明はまた、防汚塗料の研磨速度を向上させるための方法であって、塗料の加工中に、本発明の方法によって得られるポリマー担持ゲル粒子を適切な塗料調合物に加える工程を含む方法に関する。
【0076】
以下、本発明を以下の非限定的実施例によって例示する。
【実施例】
【0077】
実施例1
重合可能なロジン誘導体の調製
水素化ロジン20.25gを乾燥メチルエチルケトン(MEK)100mlに溶解させ、ヒドロキノン72mgおよび臭化テトラメチルアンモニウム360mgを加えた。グリシジルメタクリレート11.6gの溶液を乾燥MEK 10mlに溶解させ、反応混合物に室温でゆっくりと加える。反応混合物を窒素雰囲気下に放置する。15分間攪拌後、温度を80℃に上昇させ、反応混合物を24時間放置する。
【0078】
冷却後、MEKを減圧留去する。ワックス状の帯黄色材料を塩化メチレンに再溶解させ、水酸化ナトリウムの5%水溶液で洗浄した後、飽和食塩水、最後に水で洗浄する。塩化メチレン溶液を硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を減圧留去する。収率は82%である。
【0079】
実施例2
下記のようにTMOSから調製されるエーロゲル
TMOS(オルトケイ酸テトラメチル、テトラメトキシシラン)86.5mlをMeOH 400mlとマグネチックスターラー上で15分間混合し、0.5%アンモニア溶液50mlを加えた。2分間激しく攪拌した後、ゲルを攪拌されないままにし、さらに15分以内にゲル化した。
【0080】
調製したゲル300gを細かく切断し、500ml高圧流動容器に入れた。水分を除去するためにMeOH約1/2ml/分を数日間ゆっくりと流した後、温度を40℃に上昇させ、容器をMeOHによって3バール/分の速度で徐々に100バールに加圧した。
【0081】
圧力100バールおよび温度40℃にて、反応器にCO2を流量6〜7g CO2/分で9時間流した。この後、CO2ガスを数時間にわたりゆっくりと排出して、乾燥親水性シリカエーロゲルを容器からの回収のために残した。
【0082】
より疎水性の高いエーロゲルの調製のために、上記と同一の手順を使用し、MTMS(メチルトリメトキシシラン)をTMOSの代替物として部分的に使用することができる。
【0083】
実施例3
実施例2において生成した材料を破砕して1cm3未満の小さな塊を生成し、ロジン単量体および重合開始剤としての数パーセントAIBNのジクロロメタン溶液に浸漬した。溶媒の蒸発後、キシレンを加え、懸濁した材料を85℃に加熱した。重合を約15分間行った。材料を冷却し、キシレンで数回洗浄して未反応ロジン単量体を除去し、必要であれば使用前に減圧乾燥させた。
【0084】
実施例4
実施例2に記載のようにTMOSから調製されるエーロゲルを調製した。材料を破砕して1cm3未満の小さな塊を生成し、ロジンおよびロジン系単量体のアセトン溶液を有する容器に入れた。ロジンのアセトン溶液を得ることができる60℃に容器を加熱した。容器を60〜80℃の温度に4時間を越えない時間維持した。担持ゲルをロジンから分離し、必要であれば使用前に減圧乾燥させた。
【0085】
実施例5a
実施例2に記載のようにTMOSから調製されるエーロゲルを調製した。材料を破砕して1cm3未満の小さな塊を生成し、ロジン系単量体とEconea(商標)(有機殺生物剤)との過剰の混合物を有する容器に入れた。充填ゲルを溶融ロジンから分離した。充填ゲルを有する容器を140℃に加熱し、この温度に4時間を越えない時間維持した。
【0086】
実施例5b
Sea-Nine(商標)を殺生物剤として実施例4aの手順を行った。
【0087】
実施例6a
実施例2に記載のようにTMOSから調製されるエーロゲルを調製した。材料を破砕して1cm3未満の小さな塊を生成し、ロジン系単量体およびEconea(商標)(有機殺生物剤)のアセトン溶液を有する容器に入れた。ロジンおよびEconea(商標)のアセトン溶液が得られる約52℃に容器を加熱した。容器をこの温度に約4時間維持した。充填ゲルをロジンの溶液から分離し、使用前に減圧乾燥させた。
【0088】
実施例6b
Sea-Nine(商標)を殺生物剤として実施例5aの手順を行った。
【0089】
実施例7
実施例5aと同様に行い、但し、溶媒としての未臨界または超臨界条件の二酸化炭素によって容器を加圧した。溶媒および可能な共溶媒を、好ましくは容器の冷却後に気体として排出した。
【0090】
実施例8
参考文献1(Jespersen H.T. et al, J. of Supercritical Fluids 46 (2008) 178-184)の詳細な説明に従ってエーロモシルを調製したが、Pd-ジイミネートの代わりにロジン系単量体および殺生物剤を加えた。すべての反応成分を表1に記載の量で直接10ml高圧反応容器中にて攪拌磁石によって一緒に混合した。反応器を40℃に加熱し、CO2を圧力約500バールで適用した。
【0091】
反応を全部で48時間続けた。圧力を数時間にわたりゆっくりと放出することによって未反応成分および副生成物を除去し、わずかに酸性のエーロモシルを収容するロジン含有マトリックスを反応器から回収することができた。
(表1)
TMOS: 1.79g
ギ酸: 2.14g
PDMS-S14: 0.71g
ロジン: 0〜5g
殺生物剤: 0〜5g

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロジンまたは1種もしくは複数種のロジン誘導体から調製される1種もしくは複数種の水溶性または水分解性ポリマーをホストゲル構造に組み込むことによって、防汚塗料中の研磨制御用のポリマー担持ゲル粒子を生成する方法であって、以下の工程を含む、方法:
a. 好適な乾燥ゲルを調製し、次に適切な溶融ポリマーまたは該ポリマーの濃縮溶液にゲル粒子を浸漬させることによって該1種もしくは複数種の水溶性または水分解性ポリマーをゲルに吸収させる工程、あるいは
b. 好適な乾燥ゲルを調製し、次に該水溶性または水分解性ポリマーを生成するために必要な1種もしくは複数種の適切な単量体の溶液にゲル粒子を浸漬させ、次にインサイチューで重合を行う工程、あるいは
c. 好適な湿潤ゲル(アルコゲル)を調製し、湿潤ゲル中の母液と該1種もしくは複数種の水溶性または水分解性ポリマーの飽和溶液とを交換する工程、あるいは
d. 塗料の生成中に、塗料のバインダー相に溶解している例えば該水溶性または水分解性ポリマーなどの塗料成分でゲルが部分的に充填されることを確実にする、バランスのとれた疎水性/親水性を有するゲルを調製する工程、
続いて任意で、上記工程a〜dのいずれかによって得られたポリマー担持ゲル粒子を、塗料調合物への添加前または塗料のさらなる加工中のいずれかに、より微細な粒子に粉砕する工程。
【請求項2】
ホストゲルが乾燥キセロゲル、エーロゲル、クリオゲルまたはエーロモシル(aeromosil)である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ホストゲルが、既に調製された湿潤ゲル(アルコゲル)中の母液と、ロジンまたは1種もしくは複数種のロジン誘導体から調製される前記1種もしくは複数種の水溶性または水分解性ポリマーの飽和溶液とを交換することによって調製される湿潤ゲルである、請求項1記載の方法。
【請求項4】
ホストゲル構造の調製と1種もしくは複数種の水溶性または水分解性ポリマーの組み込みとの両方が、未臨界または超臨界条件での高圧容器中のワンポット合成として行われ、続いて担持ゲル粒子の単離前に超臨界条件または気相中で反応容器から溶媒および副生成物が排出される、請求項1記載の方法。
【請求項5】
1種もしくは複数種の水溶性または水分解性ポリマーが、適切な単量体からインサイチューで重合によって作り出される、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
前記水溶性または水分解性ポリマーを生成するために必要な1種もしくは複数種の適切な単量体が、ロジン、水素化ロジンなどのロジン誘導体、またはアビエチン酸およびアビエチン酸の異性体から選択される、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
ポリマー担持ゲル粒子が1種もしくは複数種の殺生物剤をさらに含む、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
殺生物剤がEconea(商標)、Sea-Nine(商標)もしくは可溶性ピリチオン、またはその混合物から選択される、請求項6記載の方法。
【請求項9】
ポリマー担持ゲル粒子が金属粒子をさらに含む、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
金属粒子が、AgもしくはCuの粒子、またはその混合物から選択される、請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記請求項のいずれか一項記載の方法によって得られるポリマー担持ゲル粒子。
【請求項12】
調製方法が、超臨界条件下にて二酸化炭素の存在下で行われる1つもしくは複数の工程を包含する、請求項11記載のポリマー担持ゲル粒子。
【請求項13】
前記請求項のいずれか一項記載の方法によって得られるポリマー担持ゲル粒子の、防汚塗料中の研磨制御用成分としての使用。
【請求項14】
防汚塗料中で研磨制御を実現するための方法であって、塗料の加工中に、請求項1〜10のいずれか一項記載の方法によって得られるポリマー担持ゲル粒子を適切な塗料調合物に加える工程を含む、方法。
【請求項15】
防汚塗料の研磨速度を向上させるための方法であって、塗料の加工中に、請求項1〜10のいずれか一項記載の方法によって得られるポリマー担持ゲル粒子を適切な塗料調合物に加える工程を含む、方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公表番号】特表2013−521365(P2013−521365A)
【公表日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−555416(P2012−555416)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【国際出願番号】PCT/EP2011/053130
【国際公開番号】WO2011/107521
【国際公開日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(512227650)
【出願人】(512227661)
【Fターム(参考)】